人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
これは尚紀が見滝原市に出張しに行ってしまった頃の物語である。
聖探偵事務所の職員達が見滝原市に出張した後日の水曜日。
業魔殿は魔法少女達の悪魔教育現場となった事もあり、盛況な毎日を送る。
「ふぅ…こんなにも魔法少女達の相手をする日々が始まるとはな」
悪魔授業を行う教室から神浜魔法少女達を見送るヴィクトルなのだが疲れが出ている。
「悪魔の存在を脅威だと判断されたままでは…吾輩の業魔殿とて見つかればタダでは済まない」
悪魔の誤解を生んだままでは業魔殿にも悪影響が及ぶと彼は判断している。
悪魔を知ってもらう事はみたまの利益に繋がるとも考え、慣れない教師の役目を果たす。
「若い娘達が頻繁に訪れるのだ、上のホテルにも若者向けの店を構えると利益になるな…」
商売人の血が騒いでいた時、仕事を終えたみたまが研究所の椅子に座っているのを見つける。
その隣には妹のみかげもいるのだが、彼女達は元気もなく落ち込んだ顔をしているようだ。
(まだ…ジャックフロストを失った心の傷が癒えないのだろうな…)
みたまのボディガードとして悪魔を生み出し、彼女に進呈したヴィクトル。
フロストは思った以上に彼女に気に入られた事で絆を生んでしまったようだ。
それはみかげも同じであり、短い付き合いとはいえ弟のような存在が出来た事で喜んでくれる。
なのに出来たばかりの弟のような存在は人修羅によって殺される事態となってしまう。
踵を返して去って行くヴィクトルは何かを考え込む。
(仕方ない…あの姉妹を元気付けるために、フロストの同族悪魔でも生んで与えてやるか)
こうしてヴィクトルの八雲姉妹元気になれ計画がスタートする。
自費を投入し、悪魔全書から適当に弱い悪魔を選んで召喚していく。
「たしか…妖精ジャックフロストの合体材料は…」
違う個体でもジャックフロストの性格は似たり寄ったりなので彼女達も気に入るだろう。
悪魔合体施設で合体作業を始めていく者に対して、イッポンダタラメイドが声をかける。
<<ご主人様、うぉれ…いや、私に今すぐ合体スイッチを押させやがれでございます>>
妙な言葉遣いを始めるのは業魔殿で働くメイドのイッポンダタラ。
みかげにメイドらしくないと怒られた彼は彼女から丁寧語を習っているのだろう。
「うむ、いいぞイッポンダタラ。これで上手く出来るはずだ」
<<それでは、悪魔合体を始めてやるでございます>>
ダタラメイドは合体ボタンをポチッと押す。
召喚された悪魔達が中央の五芒星結界内で合体していく光景が続くのだがトラブルが起きる。
「むぅ!?」
施設内で警報が鳴り響く中、イッポンダタラメイドが声を荒げてくる。
<<これはぁぁぁ合体事故の警報ぉぉぉ!?うぉれのせいじゃねぇぇぇぇ!!>>
粘土の塊がけたたましく蠢きながら破裂する。
「…うむ、忘れておった。今日の月齢は…満月であった」
合体事故が起こった末に現れた悪魔とは一体何なのか?
<<ウウ…!丸いぞぉ!月がぁ!ウハハ!サツリクの思考がぁ!ウウ…!>>
その頃、施設内の警報を聞きつけた八雲姉妹が業魔殿の合体施設に走ってくる。
「姉ちゃ!!今の警報ってなに!?」
「さっきのは悪魔合体の失敗を意味する警報なの。叔父様が何かを生み出していたの…?」
姉妹達が自動扉を開けた時、息を飲み込む光景が広がっている。
「あれ!?ヴィクトル叔父さんが倒れてるよ!」
「叔父様!?」
2人が駆け付けて彼を抱き起すとヴィクトルの頭には大きなタンコブが出来ている。
「む…むぅ…どうやら吾輩は…合体事故でいらん悪魔を召喚してしまったようだ…」
「いらん悪魔ですか…?」
「すまん、こんな真似をして…君達が元気無さそうに見えてな…フロストを作ろうとした…」
「フロスト君をまたミィ達の為に作ろうとしてくれてたんだ…優しいね、ヴィクトル叔父さん」
「それで…そのいらん悪魔は何処に?姿が見えないんですけど…」
<<あいつは悪戯好きな妖精じゃねぇぇぇ!!外道の類だぁぁぁぁ!!>>
イッポンダタラメイドも慌てて室内に入ってくる。
「コラッ!ダタラちゃんダメだよ!口調が汚くなってきてる!」
「ぐっ!?うぉれ…じゃない、私は…あの悪魔を知っているのであります」
「ど、どんな悪魔を生み出したの…ダタラちゃん?」
「あれは…悪魔の属性的にはDARK-CHAOSであります。破壊衝動の塊でやがります」
「そんな危険な悪魔を生み出してしまったわけ…?」
「監視カメラの映像では、その悪魔はエレベーターを使って地上に逃げやがりました」
「不味いわね…街に被害が出たら大変よ。それで、その悪魔の名前は分かる?」
「かつてロンドンの街を恐怖に陥れた殺人鬼の犠牲者の怨念や、民衆の妄想が生んだ悪魔…」
――ジャックリパーでございます。
♦
今日もアリナ捜索に適当に出かけたジャックランタンがかりんの家に帰宅する。
「ただいまだホー、窓を開けてくれホー」
窓をノックしたら学校から帰ってきていた御園かりんが窓を開けてくれたようだ。
「ランタン君…今日はどうだったの?」
「まぁ…適当に探してみたけど、今日もダメだったホ」
「そう……ごめんね。いつもランタン君にばかり探させてしまってるの…」
「気にするなホ。これも善行に繋がるってんなら、俺は協力を惜しまないホー」
かりんの部屋に入り込み、定位置ともいえる箪笥の上に座り込む。
彼女は漫画を描く机の椅子に座り込んだまま顔を俯けた状態が続いてしまう。
「…漫画の練習はしなくていいのかホ?」
「うん…頑張るの。デッサンが上手くなったら…アリナ先輩も褒めてくれるし」
帰ってきてくれるとばかり信じている彼女の後ろ姿に対して、ランタンまで気持ちが沈む。
「世間じゃ死んだことにされちまったから、行方不明者として捜索願いも出せないホ」
「そうだね…アリナ先輩が生きているって分かるのは…魔法少女だけなの…」
「その…葬式に行ったんだホ?それでいて、替え玉みたいなのが葬式で使われてたと?」
「そうなの…あれはアリナ先輩じゃないの。魔法少女は死んだら死体は残らないの」
「家まで派手に燃やされたみたいだホ。もしかしたら…殺人鬼に襲われたとか…」
「アリナ先輩を襲う殺人鬼?」
「殺人鬼ってのは私欲のために人を襲う奴だホ。有名人なら名を売る為に襲うホ」
「アーティストとして有名人だったアリナ先輩を襲う殺人鬼…」
「…昔、ロンドンを震え上がらせた殺人鬼の伝説を知ってるかホ?」
「たしか…切り裂きジャック?」
「そいつは娼婦を次々殺し、刻んだ死体をあえて残し続けた奴だホ。恐怖は宣伝になるホ」
「それじゃあ…アリナ先輩を襲った存在は殺人鬼で…替え玉の死体をあえて残した?」
「魔法少女は死体が残らんホ。それだと有名人を殺した事にはならないから…」
その先を想像させられた彼女は机の上に顔を埋める。
「…アリナ先輩が死んで、もう円環のコトワリに逝ってるだなんて…信じないの」
「…もし生きているなら、何で家や学校に帰ってこないホ?」
辛い現実を語るランタンに対し、彼女はそれ以上口を開かなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
神浜市の市長はテロ騒動の対応に追われた後、辞職する。
理由は記者会見の場で市長にあるまじき爆弾発言をしたためであろう。
自分に捜査のメスが入る前に現場から立ち去り、雲隠れしようという魂胆なのだ。
彼は落胆しているわけではない。
神浜大企業や日本の財界に有利に働くよう条例の整備を続けてきて民衆搾取環境を整える。
市政を引退しようとも数社の大企業から非常勤役員の椅子が用意され、仕事もせずに金儲け。
これは財務省の官僚なども行う天下り手口なのだ。
しかし地元のテレビ放送に映ってしまった以上は神浜市から去らねばならない。
郊外で暮らしつつ役員として顔を出す時だけ神浜に戻る生活を送る為の準備に追われている。
そんな元市長の元に現れたのは恐ろしき悪魔の殺人鬼なのだ。
「がはっ!!?」
風呂から出て髭を剃っていた元市長の首が散髪屋で使われる剃刀で切り裂かれ、血が噴き出す。
倒れ込む市長が最後の力を振り絞り、背中に飛びついて首を裂いてきた悪魔に視線を向ける。
「き……!!?」
肺からの空気が出る音が切り裂かれた喉から出てしまうため断末魔の叫びも上げられない。
既に市長の家は異界に飲まれており、悪魔結界に囚われた人間だからこそ悪魔の姿が見える。
「現世に戻れたんだ。数千あった俺サマの罪科も、これから数万に増えていくってもんよ」
それは小さな殺人鬼。
みたまの腰下ぐらいしか身長がなかったジャックフロストと変わらない程度であろう。
黒のスーツパンツ、ベルトが結ばれた黒のトレンチコートに黒のつば広ハット纏う。
頭部はまるでカボチャの頭蓋骨を思わせる形をしているようだ。
「さて、死ぬ前に…その絶望の感情エネルギーを頂こうか」
黒のトレンチコートから取り出したのは五芒星が描かれたポット。
白手袋をした小さな手をかざせば元市長の体から絶望の感情エネルギーが抜き取られていく。
緑色に輝く絶望の感情エネルギーであるマグネタイトはポットの中へと収納されてしまう。
「……!!……!……」
「用も済んだしおっ
自分を殺した小さな悪魔の姿を冥途の土産とする元市長はこと切れてしまう。
「俺サマの名はジャック。この国でいうところの名無しの権兵衛って意味さ」
呼び方が定まらない悪魔は踵を返して去っていく。
家の中にいた家族は全員首を切り裂かれて死んでいる。
異界も解けた事で元市長の家は現世の世界へと戻る中、悠々と悪魔は去って行く。
元市長一家の死こそ神浜の西側で起こり続ける連続殺人事件の開幕となる惨劇であった。
♦
2日が過ぎた金曜日。
政令指定都市である神浜市では9日間の市長選の選挙運動が繰り広げられる光景が続く。
しかし民衆は市長選どころの空気ではない。
テロの深過ぎる爪痕もさることながら、連続殺人事件が新聞やテレビで報道されるからだろう。
犠牲となっていた人物が神浜の元市長である事から東側の報復だと憶測ばかりが飛び交う。
民衆が殺気だつ新西区の道を帰宅していくのはももこ達のようだ。
「ねぇ…テレビかSNSのニュース記事を見た?」
「うん…新西区や参京区、それに栄区でも連続殺人事件があったんだよね…レナちゃん?」
「このご時世だ…混乱に乗じて犯罪者が跋扈するようになったのかも…」
「魔獣の数だって以前よりも桁外れに増えちゃったし…これからどうなっていくのかしら…」
レナの質問に答えることも出来ず、ももことかえでは下を向きながら歩き続ける。
「…もしかしたらさ、その連続殺人事件って…悪魔の仕業じゃないのかな?」
それを聞いたレナとかえでが立ち止まり、ももこに振り向く。
「数日前に調整屋から連絡がきてな…業魔殿から逃げ出した悪魔がいるって…」
「あの悪魔研究所が連続殺人事件に関わってたわけ!?やっぱり…悪魔はレナ達の敵よ!」
「待てってレナ!
「そ、そうだよぉ…レナちゃんは外国人が犯罪を犯したら、外国人全員が犯罪者になるの?」
「そ…それは……」
「差別したらダメだよぉ…レナちゃん。相手を知る努力をしないから差別が生まれるんだよ?」
「短絡的な答えを求めないよう、アタシ達に教育を施してくれてる人達の気持ちも考えろよ」
「う…うん…レナが…間違ってたわよ…」
しゅんとして項垂れるレナだが、それでも間違いを指摘しただけで怒り出す事もない。
ななか達が始めた議論討論教育の成果は確実に出始めている光景であろう。
「話を戻すけど魔獣は人間を殺さずに廃人に変える存在だ。魔獣はこの件に関係ないと思う」
「だとしたら業魔殿から逃げた悪魔かなぁ?この短期間で手広くやれるのは悪魔ぐらいしか…」
「そこら辺も踏まえて、色々話し合いたいけど…寄り道が禁止されちゃったしなぁ…」
「そうよね…以前みたいにハンバーガー屋でたむろしてたら補導されちゃうし…」
「これからは人気のない路地裏で話すしかないのかなぁ?不良と出くわしたら…どうしよう」
路地裏と不良の話題をしていたら彼女達に近づいてくる不良風の少女がやってくる。
「…奇遇だね」
ももこ達に声をかけてきたのは栄総合学園に復学した雪野かなえであろう。
「俺もいるぞー」
かなえの背後から出て来たのはジャックランタンのようだ。
「かなえさん?学校からの帰り?」
「ん…帰ってた時にランタンと出会ったから…念話で色々と話をしながら帰宅してた」
「俺とかなえは同じ悪魔同士、同族同士のシンパシーってやつだホー」
「ええっと…キミはたしか、かりんちゃんのお供をしている悪魔の…?」
「お前らがかりんと組んでた頃からお前ら知ってるホ。俺のアシスト魔法を覚えてるかホ?」
「…あれってさぁ、やっぱり悪魔の魔法の力だったんだね?アタシの魔力じゃなかったし」
「合体剣と呼ばれる悪魔の魔法技術だホ。これは様々に応用が効いて魔法少女の力になれるホ」
「へぇ~、悪魔って便利なもんよね」
「ふゆぅ…木で作られた私の魔法の杖には使わないでよぉ~。勢いよく杖が燃えちゃうし…」
「さっきの会話…チラッと聞こえた。たまり場に困ってるの?」
「そうなんだよ…補導される場所にはもう集まれないし…」
「路地裏でよかったら人気もなく、たまり場に使えそうな場所…あたしは知ってるよ」
「よくそんな場所を知ってるわよね…?」
「…昔とった杵柄。あたし…不良に絡まれて喧嘩三昧だったから…路地裏には詳しいの」
人気のない場所に案内される一同は開けた路地裏に辿り着く。
放置されていたビール瓶の籠を椅子代わりにして向かい合う。
話し合いの話題となったのは連続殺人事件の話題のようだ。
「そう…業魔殿から逃げ出した悪魔が、連続殺人事件の犯人かもしれないんだ?」
「調整屋の話だと、そこまで強い悪魔というわけじゃないみたいなんだけど…放置は出来ない」
「そうよね…人間が襲われている以上は正義の魔法少女として見過ごす事は出来ないわよ」
「で、でも…まだ悪魔の仕業だと決まったわけじゃ…」
会話のやり取りを聞いていたランタンは何かを感じたのかこう告げてくる。
「…悪魔の仕業で間違いないホ」
「えっ!?ランタンには…そういうのが分かっちゃうの?」
「俺はお前らみたいに学校には通ってないホ。暇な時間の時に騒動の現場に俺は行ってみたホ」
「何か見つけたの…?」
「警察の鑑識班が隠していた死体…どうやら感情エネルギーが抜かれているみたいだったホ」
「決まりだな。感情エネルギー目当てでも魔獣は人を殺さない…でも悪意を持つ悪魔なら殺す」
ももこがレナとかえでに視線を向けた後、2人は頷く。
それを制するかのようにして立ち上がったのは雪野かなえのようだ。
「…この一件は、あたしとメルで何とかする」
「ええっ!?どうしてアタシ達は関わったらダメなわけ?」
正義に燃える彼女達を見つめるかなえは顔を俯けながらこう告げてくる。
「気持ちは分かる…でも、どうか命を大事にして欲しい。魔法少女の戦いは…魔獣だけでいい」
「レナ達の身を案じてくれているの?」
「正義に燃える魔法少女達は…簡単に死んでいく。円環の世界には…そんな子が沢山いたんだ」
「え、えっと…かなえさんは円環のコトワリに導かれてたけど…生き返れたんだよね?」
「こんなレアケース…尚紀さんがいなかったら絶対に手に入らなかったよ。本当に感謝してる」
「悪魔の領分は同じ悪魔が対処する。魔法少女だけに命の負担は…させはしないから」
「かなえ、俺がいること忘れてないかホ?」
「…来てくれるの?」
「さっき自分が言った言葉を忘れたのかホ?」
「ん…ありがとう。頼りにしてるからね」
去っていくかなえとジャックランタンの背中をももこ達は見送ってくれる。
「本当に…今でも信じられないよ」
「レナも同じ気持ち。生きてるのよね…あの雪野かなえさんが…?」
「やちよさんとみふゆさん…本当に嬉しかったと思うよぉ。私…まだ尚紀さんは怖いけど…」
「うん…レナももう、あの人の事を悪く言うのは…やめておくわ」
レナとかえではももこと同じく人修羅と呼ばれる悪魔を憎まないと言ってくれる。
それが嬉しかったのか、ももこは仲間の肩を抱きしめながら満面の笑みを浮かべるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
11月最後の土曜日の夜、人気のない栄区の路地裏にはジャックリパーがいる。
地面に描かれていくのは殺した人間から搾り取った血で描いた五芒星召喚陣。
中央に置かれているのは殺した人間から絞り出した感情エネルギーが入ったチャクラポットだ。
「よしよし、こんなもんでいいかな」
腕を組んで描いた召喚陣を満足そうに見つめる。
概念存在である神や悪魔を召喚する区別として召喚(天使)と喚起(悪魔)がある。
召喚は進化樹で人間より上位にある天使や神などに請願して地上に来臨を仰ぐ技法。
喚起は人間より下層に位置する四大精霊や妖魔、悪魔などに命令して呼びつける技法だ。
技法には神や悪魔を具現化させる請願召喚と自分に神や悪魔を憑依させる憑依召喚があった。
「俺は悪魔としてはそこまで強くはねぇ…だからこそ、悪魔の手下が必要になってくる」
両腕が開かれながら天に向かって掲げられる。
呟かれるのは魔女の神を召喚する呪文であろう。
――Eko, Eko, Azarak,
――Eko, Eko, Zomelak,
――Eko, Eko, Cernunnos,
――Eko, Eko, Aradia!
バスク語に由来するウイッカの典礼聖歌の一つを呪文として唱えるリパー。
ウイッカとはネオペイガニズムの一派であり、魔女達の宗教である新異教主義。
欧州古代の多神教的信仰、特に女神崇拝を復活させたとする新宗教であろう。
円環のコトワリ神となったアラディアもまたウイッカ信仰に取り入れられ崇拝対象となるのだ。
「あら……?」
気合を入れて呪文を唱えたのだが何も変化が起きない。
「おい!?どういうことだよ!!」
安全圏として描いた足元の魔法陣の中からヒステリーな叫びを上げてくる。
「手下にするなら可愛い女の子悪魔だよな~って、気合入れてMAGを集めたのに出てこいよ!」
憤慨したリパーは安全圏から飛び出し、召喚陣の中に入り込んで陣をペシペシ叩きつける。
「どうせ召喚すんなら最近生まれたコトワリ神の美少女なアラディア様を期待してたのに~!」
神霊規模の女神となったアラディア神をこの世に現界させるにはMAGが足りなさ過ぎる。
うんともすんとも言わない召喚陣に溜息をついた後、背後を振り向くと何かがいる。
「うん?こ…こいつは……」
リパーの後ろに立っていたのはアラディアの小さな分霊ともいえるピンク色のキュウベぇ。
「……………」
相変わらず無言を貫く存在に対し、リパーは怪訝な顔を向けてくる。
「おい、お前みたいな小汚い獣如きが…美少女なコトワリ神のアラディア様とかぬかすなよ?」
魔法少女の救済神の分霊を前にして舐め腐った態度を見せてくる小悪党悪魔。
感情が全くないように見えるが、不快なのか顔を上げていく。
「んがっ!!?」
顔に唾を吐きかけられる光景こそ、汚物悪魔に対するアラディアの扱い方なのだろう。
「テメェーッッ!?俺サマに喧嘩売るとはいい度胸しやがってーっ!!」
一目散に逃げていくアラディアの分霊に対して激おこぷんぷん丸になってしまう。
心優しいまどかを悪魔ほむらに剥ぎ取られた円環のコトワリ神は寛容ではなかったようだ。
「ちくしょう…逃げ足の速過ぎる小汚い獣め…」
獲物を逃がしたリパーが召喚陣の元に帰ってきた時、召喚陣から赤い煙が噴き上がる。
「おおっ!!遅ればせながらの登場ってわけか!勿体ぶりやがってーっ!!」
ポットに入ったMAGを媒介にして、ついに悪魔達が召喚されるのだが様子がおかしい。
「…あ、あれ…美少女悪魔ちゃんは…?」
ぞろぞろと現れ出たのは円環のコトワリ神に連なる円環魔法少女達などではない。
「ウォマエカァァ!!女神様ニセクハラ行為ヲ企ムゥゥ!!不埒ナ悪魔ハァァァ!!」
「むさくるしい髑髏の男野郎共じゃねーかぁぁーっ!!?」
【トゥルダク】
ヒンズー教における閻魔大王ヤマの部下達であり、骸骨の姿をした黄泉の従者。
現世に執着する霊を捕らえ、ヤマの元へ送り届けるのが彼らの仕事である。
地獄にて拷問などの執行を行ったりもする存在だという。
また死期が近い人間の元に現れ、ヤマの元に連れていくなどが彼らの役目であった。
「閻魔大王様ノ元ニィィ!円環ノ女神様カラノ通報ガキタァァァ!!」
「えぇ~っ!?こんな短時間で通報されたのかよぉーーっ!?」
「言イ逃レハ出来ンゾォォ助平悪魔ァァ!!ウォマエハァァァ無間地獄逝キィィ!!」
「待てって!美少女悪魔の子分が欲しかっただけだ~!俺サマは断じて助平ではなーい!!」
「言イ訳ヲ並ベル気カァァ!?地獄ニ堕トス前ニィィ…ヤキ入レテヤルゥゥゥ!!」
「ま、待てーっ!?話せば分かるーっ!!放してくれーーっ!!」
トゥルダク達に拘束され、小さなエイリアンの両手が掴まれる光景になってしまう。
彼らの背後に残った召喚陣に溜まった残りカスのようなMAGが光を放つ。
一瞬だけだがこの世に現界したのはアルティメットに大きい円環の女神の手。
その手がサムズアップのハンドサインを作った後、静かに消えていくのであった。
♦
日曜日の夜。
中央区のビルの屋上にはかなえとメル、それにジャックランタンがいる。
「どう…メル?連続殺人犯の悪魔の居所は視えてきた…?」
額に指を当てながら目を瞑るメルは意識を集中しながら先を見通す。
「…視えました。どうやら多数の仲魔を引き連れて、今夜も街で暴れているようですね」
「便利な能力だホ。俺は悪魔だけど、高位の悪魔のように未来のタイムラインが視えないホ」
「それはあたしも同じ…尚紀の話だと、あたしとメルはマネカタに近い悪魔みたい…」
「人間に近い擬人の悪魔だホー。だけど、悪魔の魔法の力は備わってるみたいだホー」
「この悪魔の力を今夜試してみたい。詳しい場所は視えてきた…?」
「視えてきました。どうやら東地区に近い栄区の街で暴れているようですね」
「ここからなら遠くはない、急ごう」
跳躍移動を開始した2人と後ろを飛行しながらついていくジャックランタン。
現場の街ではリパーを連れて行こうとしたトゥルダク達が暴れている。
「腐リ切ッタ差別ノ街ダァァァ!!ウォマエラハァァァ全員地獄逝キィィィ!!」
両手に持つ二刀流の刀を使い、異界に引き摺り込んだ西側の差別主義者共を殺戮している。
トゥルダク達の殺戮劇を満足そうに眺めているのは拘束されていたはずのリパーのようだ。
「ケケケッ!バカ共め…俺サマの混乱魔法であるプリンパに耐性がない奴らで助かったぜ」
リパーは図らずとも手下を沢山手に入れることが出来たようである。
(…本当なら、美少女悪魔を手下にしたかったんだけどなぁ)
ブツブツと愚痴を呟いていたら接近する悪魔の魔力に気が付く。
「ヒィィィーーッッ!!」
逃げていた差別主義者の男が追い詰められ、トゥルダクの刃が振り上げられる。
「差別主義者メェェェ!!ウォマエハァァァ…焦熱地獄逝キィィィ!!」
仏教の教えとは相容れない考えを説き、実践する邪見を持った者達をヤマの部下は許さない。
殺されそうになっていた時、空から飛んできたのは鈍器のようだ。
「ヌゥッ!!?」
右手の刀を弾いたのは鉄パイプのような武器である。
「な、なんだぁ…?」
リパーが異界のビルを見上げる。
そこに立っていたのは栄総合学園制服を着たかなえと大東学園制服を着たメルであろう。
「秋は日が短い、もう暗くなってしまった…さぁ、覚悟して」
「ここからは…ボク達の時間。闇の時間らしいですよ」
2人が跳躍して地面に下りた後、不気味な笑みを浮かべてくる。
「お…お前ら…魔法少女なのか?いや、違う…この魔力は…俺サマ達と同じ!?」
「悪魔同士の戦い…遠慮をするつもりはない」
「魔の饗宴を始めさせてもらいますよ」
かなえの右手に現れたのは魔法少女時代に使っていた煙の出る鉄パイプなどではない。
ケルト伝承の戦士であるドゥフタハが用いた魔槍であるルーンなのだ。
戦闘が近付くと柄から炎を吹き出す槍と言われており、装備者は不意打ちを受けない。
その一方で戦いを好み、戦いを招き寄せる呪いを宿す魔槍だという。
ドゥフタハは誰からも恐れられたアルスターの戦士であったが、陰険な喋り方をする人物。
まるで生前のかなえのように
「あたしの中に溶けた英雄の槍…槍術なんて知らないから、鈍器として使わせてもらう」
槍の柄から炎が噴き出し、彼女の全身を覆う。
この槍は持ち手に永遠の戦いを求めさせ敵の血が流されない場合には血に飢えて持ち主を襲う。
炎で焼かれるのは敵であると同時に自分さえも焼く事にもなる恐ろしさが宿っている。
「そ、その槍は…ペルシャ王の毒槍と言われた…ドゥフタハの魔槍!?お前…悪魔なのか!?」
業火の中から現れたのは漆黒の貴族衣装を身に纏う雪野かなえ。
魔槍ルーンをかつて使っていた魔法武器の鉄パイプのように扱いながら右肩に担ぐ。
「次はボクの番ですね」
メルの右手に持たれているのはトートの書。
古代エジプトの知恵の神トートが記した魔法書であり、選ばれた者のみがその魔法を学べる。
この
フランス人作家クール・ド・ジェブランの著作である原始世界においてはこう語られるようだ。
タロットがエジプト古代の伝説の魔法書であるタロット=トートの書説を述べた事に拠る。
タロットのエジプト起源説は様々な人物から唱えられていたようだ。
「ボクの中に溶けた白いお猿さんの力を…使わせてもらいますよ!」
彼女の周囲から緑の風が生まれていき、竜巻と化して彼女の体を包み込む。
「あれは…トートの書!?つまりお前は…魔法の開祖とも言える悪魔なのかぁ!?」
竜巻の中から浮遊して現れたのは黒と紫色のゴスロリ風衣装を纏うメル。
周囲には魔法書のページが浮遊し、彼女に様々な魔導の知恵を与えるだろう。
「あわ…あわわ…こんな連中が現れるだなんて…聞いてねぇぞーっ!?」
赤い月が浮かぶ悪魔の異界に立つのは悪魔の瞳である真紅の瞳を持つ転生者達。
「円環の鞄持ちとしての力は、悪魔に転生したから失われたけど…」
「これはこれで、以前にも増して力が高まった気がしますよね!」
「だからこそ、あたし達は戦える。ハロウィンの悪魔みたいな仮装に変わったのも何かの縁…」
時期的には過ぎているが今宵はハロウィンを執り行うとかなえは宣言する。
ハロウィンとは
――――――――――――――――――――――――――――――――
「先に行く」
「援護します!」
黒いブーツが地面を踏み砕き、魔槍を担いだかなえがトゥルダクの群れに飛びかかる。
「や、やっちまえ…お前らーーッッ!!」
リパーに洗脳されたトゥルダク達がかなえを迎え撃つ。
「ハァァーーーッッ!!」
燃え上る槍の柄を振りかぶりながら横に振り抜く。
「アヒー!?炎ハ駄目ダァァァ!!」
「ウォレラノォォ弱点属性ーーッッ!!」
「ウォレガ達ガァァァ逆ニ血祭リィィィーーッッ!!?」
髑髏の体が柄の打ち込みで砕け散り、燃え上りながら滅びていく。
槍を振るう余波は後ろから迫りくるトゥルダクの群れまでも砕いてしまう。
魔槍ルーンは離れた相手でも一振り毎に確実に殺し、投じれば一投ごとに9人倒すと言われる。
「カードの原点達、出番だよ!!見せろ…4属性のアルカナ!!」
周囲に浮かぶ魔法書のページが周囲を回転しながら横に広がり、4属性の魔法陣を浮かべる。
「最強で最悪で極悪な結果をあいつらに!!」
同時に放たれた魔法とは炎のアギラオ、氷のブフーラ、雷のジオンガ、疾風のザンマである
新たなる力によってメルは悪魔の4属性魔法のスペシャリストになったようだ。
「ヌァンダァァァ!?属性魔法ガイッパイクルゥゥゥ!?」
「ヌォォォ!!疾風モォォォウォレラノ弱点ーーッッ!!」
「医者ハ何処ダァァァーーッッ!!?」
悪魔少女達が次々と悪魔達を屠り続ける戦場こそ魔の饗宴。
彼女達は悪魔の血祭りをハロウィンだと表現しながら楽しんでさえいる。
その光景をビルの上から見つめるのはジャックランタンのようだ。
「これはこれは……俺、ついてこなくても良かったかもしれんホー」
悪魔に転生した魔法少女の実力に驚愕していたが戦場から少し離れた位置に目を向ける。
「…しゃーねーホ。俺は大将首に逃げられないよう動いちゃるホ」
そう言い残したランタンは浮遊しながら空を移動していく。
下の戦場は既に雌雄を決しようとしているようだ。
「うん、読み通り♪これが運命です!」
両手を腰に当てながらドヤ顔しているメルであるが、かなえがたしなめてくる。
「メル、魔力の使い過ぎはダメ。やちよやみふゆの負担になる…」
「あ…そうでしたね。ボク達の新しい魔力は感情エネルギー…無駄撃ちは出来ませんでした」
「それよりも…上から大きな魔力がくる」
「視えてましたよ。あの悪魔は古代シュメール・メソポタミアの凶鳥…アンズーです!」
「フフッ、随分と悪魔について博識になれたんだね…メル?」
「それもこれも、ボクを生み出す悪魔合体の材料になってくれた白いお猿さんのお陰です♪」
空から飛翔して現れたのは巨大なライオンのような鳥。
「小賢シイ小悪魔ニ召喚サレテミタガ、見タコトモナイ悪魔トデクワストハナ!!」
【アンズー】
獅子の頭を持つ大きな鷲の姿をしたシュメール・メソポタミア伝承の嵐を呼ぶ怪鳥。
かつては善良な聖鳥であったが、全てを支配したいという野心を抱く。
最高神エンリルの持つ天命の書板、トゥプシマティを盗み出した事で知られる存在。
狩猟と戦争の神ニンギルスとの戦いに敗れたアンズーはニンギルス神殿の守護獣にされていた。
「我ガ風ノ刃ヲ受ケヨ!!」
巨大な翼を羽ばたかせて放つ魔法は風魔法である『マハザンマ』であろう。
「かなえさん!」
「分かってる!」
2人は同時に跳躍移動し、周囲に発生した竜巻を避けながら路地裏に身を隠す。
「二手ニ分カレテノ奇襲攻撃カ?チョコザイナ!!」
アンズーは空を旋回しながら周囲を探る。
「見ツケタゾ!!小娘悪魔ーッッ!!」
宙を浮かびながら屋上で佇むメルに対し、風魔法攻撃の威力に匹敵する羽ばたき攻撃を放つ。
「くぅ!!」
旋風が彼女に襲い掛かり、軽い体重の彼女は吹き飛ばされてしまう。
<今です、かなえさん!!>
<もう獲物は捉えている、任せて>
念話が送られた先はアンズーの死角の位置。
屋上に立つかなえは魔槍ルーンを片手で持ち上げながら投擲の構えをしている。
「新しい力であり…滅びとなるかもしれない槍よ。お前の力を…見せてみろぉ!!」
かなえが放つ渾身の一撃とも言える投擲攻撃とは『鷹円弾』と呼ばれる悪魔の物理攻撃技術。
「囮ダッタノカァ!!?」
死角から迫りくる槍の一撃がアンズーの胴体を貫通していく。
「…この戦いのボスキャラなら、あたしの魔槍からは逃れられない」
魔槍ルーンの投擲は投じれば一投ごとに9人を倒す。
その9人の内1人は必ず王か王太子か盗賊の頭領格であったという逸話があるのだ。
「コノチカラハ…ケルト伝承ノ戦士…ドゥフタハノチカラナノカ…?ヌカッタ…ワ…」
空から地面に墜落し、叩きつけられると同時に感情エネルギーを撒き散らして消滅する。
悪魔の感情エネルギーは宇宙へと引っ張り上げられ、宇宙を温める熱となっていくだろう。
その光景を不満そうに眺めるかなえはこう呟いてしまう。
「悪魔を倒してMAGを回収出来たら…やちよやみふゆの負担なんてなくなるのに…」
円環のコトワリとなった鹿目まどかによって改変されてしまった魔獣宇宙。
宇宙を温める熱は極めて不足し、現世で生まれる感情エネルギーを大量に必要としている。
「あの光景もまた、大いなる神である唯一神の宇宙延命行為なんですよ」
宙を浮きながら現れたメルが地上に降り立ち、かなえの横に並ぶ。
「グリーフキューブだけでは熱が足りない。あたし達悪魔は…光と熱の神に必要とされる」
「そうです…これからの世界は…
異界の空を見つめていたが元の景色へと変わっていく。
2人は悪魔化を解き、元の姿に戻りながら周囲を見渡す。
「あれ?そういえば…ついてきていたランタン君は何処に行ったんですか?」
「…派手にやり過ぎて、見せ場を奪ったかも」
「あ~…拗ねて帰っちゃったのかもしれませんね」
「久しぶりに暴れたかった気持ちもあったし…あとで謝っておこうか」
「それがいいですね。これにて一件落着…?う~ん、何か忘れているような気が…」
「フフッ♪もしかしたら、そっちの方をランタンは行ってくれているのかもね」
同じ仲魔の力を信じる彼女達は夜空を見ながら遠い眼差しを浮かべてしまう。
「ねぇ、メル。あたし達…悪魔になったんだね」
「そうですね、かなえさん。これからのボク達は…悪魔として生きていく」
「それでも…あたしの心は人間だ。今までも…そしてこれからも…」
「魔法少女と悪魔、そして悪魔召喚士…多くの人々とこれから触れ合っていくんですねぇ」
踵を返した2人は夜の街へと消えていく。
これからの2人の戦う目的は生きていた頃とさほど変わらないだろう。
それでも戦う相手は大きく変わっていく事になるのであった。
♦
「ハァァァ…ちきしょ~…あんな悪魔共が現れるだなんて…」
息を切らせているのは異界からトンズラしてきたジャックリパーである。
「あの強さ…ケルトの英雄ドゥフタハと、エジプトの知恵の神を相手してるようなもんだぜ…」
この街にあんな手強い悪魔がいるのは予想外であり、計画を練り直す必要があると考え込む。
そんな小悪党の頭上から現れるのはハロウィンカボチャの影なのだ。
「ヒホホーイ!かなえとメルの強さを思い知ったかホー?」
「ゲェッ!?お前は…ジャックランタンじゃねーかぁ!?なんでこの街に?」
「転生ガチャでハズレ引かされたモンだホ。この街のとある畑で生まれちまったんだホー」
「そりゃあ、とんだ災難だったなぁ。それで?お前は…あいつらの仲魔なのか?」
「そうだホー。訳有って俺は善行を積んで成仏したいホ。だから…お前を見逃さないホー」
「マジかよぉ!!?」
右手で握るランタンを掲げながら炎魔法を放とうとする。
「そんなー!!これから俺サマのハッピーライフが送れると計画してたのにーっ!?」
「どうせロクでもないハッピーライフだホ。それにお前は殺人鬼…取り零すと犠牲が増えるホ」
「ま、待て!後生だから見逃してくれー!!お前のためにMAGだって集めてやるからさぁ!」
土下座しながら命乞いする同族悪魔に対してランタンは慈悲無き態度でこう告げる。
「いらんホ。俺は魔法少女からMAGを与えてもらいながら生きてるんで、間に合ってるホー」
「魔法少女の家来をしてるのかよ…お前?」
「それがどうかしたのかホ?」
土下座状態から顔を上げ、腕を組みながら考え込む。
良からぬ事を思いつく前に焼きカボチャにしてやろうかと思っていた時、空から何かが近づく。
「待って、ランタン君!!」
空から現れたのはジャックランタンと共生生活を送っている魔法少女の御園かりんであろう。
「この子…この見た目…間違いないの!この子もハロウィンの精霊なの!!」
「こいつがハロウィン?あんまりハロウィン感無いと思うホー」
「そんなことないの!このカボチャの髑髏顔を見るの!」
「こいつのしけたカボチャ髑髏がどうかしたのかホ?」
「髑髏さんもハロウィンの風物詩!季節の飾り物なの!」
「俺サマの扱いは飾り物かよ…お前がもしかして、ジャックランタンと共生している奴か?」
「わたしは御園かりん!ハロウィンが生んだ魔法少女なの!だから…その、貴方も…」
悪い癖がまた出るのかと察したランタンが止めに入る。
「やめとけホ、かりん。こいつなんだホ、最近の神浜を騒がせてる連続殺人鬼は…」
「えっ…?それじゃあ、貴方は…大勢の人を殺戮したの…?」
それを問われたリパーは言い訳も思いつかずに視線を逸らす。
「マジカルきりんは正義の味方として悪者を倒す…そんな単純キャラを目指してるはずだホ」
正義のマジカルきりんを目指す者なら
「…ねぇ、名前は何ていうの?」
「ロンドンを震え上がらせた切り裂き魔の悪魔…ジャックリパーだ。それがどうかしたか?」
「リパー君…わたしは漫画の怪盗少女が大好きだけど…あの世界観が全てじゃないと思うの」
「正義のヒーローだのヒロインだのが好きな奴なのに…変わった奴だな?」
「悪者だって…罪を悔い改めたらやり直せる。そう信じたいの…」
「ケッ!悪人は所詮悪人よ!ムショにぶちこまれてようが、出所したらまた犯罪を犯すぜ!」
「そんなこと…ないの。元犯罪者の人達だって…きっと…社会でやり直したいはずなの」
「……………」
「それを許さないのが社会正義を求める人達…犯罪者をリンチするのが正義だって…酔ってる」
「全国でも犯罪者の更生はいらない意見が8割超え…フランス革命前の
「スケープゴートのリンチは楽しいもんだ。なのにお前は漫画のような正義を求めないのか?」
「矛盾してるのは分かってる…でも、私の大好きな漫画の世界だけが全てとは言いたくないの」
「よく分からない奴だなぁ、お前?どうしてそこまで…大人になれたんだ?」
それを聞かれた彼女は目を瞑りながら神浜で起きた騒動を語っていき、リパーは顔を俯ける。
「…そんな事があったのか。悪者を信じられなくなった奴がもたらした…恐怖政治の惨劇かよ」
「疑う事も大切だけど、信じる事も大切だって…尚紀さんが身をもって教えてくれたの」
「…人間を大勢殺した俺でも、信じてくれるのか?」
「尚紀さんも大勢の魔法少女を殺戮してしまったの…それでも今…やり直そうとしてくれてる」
「その尚紀…いや、俺も聞いた事があった…あの人修羅と呼ばれた混沌悪魔を…信じるのか?」
「皆が信じようとしてる。神浜の魔法少女達は皆…
――わたしはね、誰かの心の痛みを分かってあげられる大人になりたいの。
「罪を憎んで、悪魔を憎まずなの」
かりんの信念を聞かされたリパーの体が震えていき、再び土下座してくる。
「…姐さん!!すいませんでしたー!!」
「ええっ!?急に…どうしたの?」
「俺は悪魔だけど…心が洗われました!!何処までもついて行かせて下さいーっ!!」
「それって…わたしの仲魔になりたいで、いいのかな?」
「オフコース!!俺は外道のジャックリパーを改め、正義の怪盗に仕えるリパーになります!」
フィクション熱を盛り上げる単語をリパーが言ってくるとかりんの目も輝きだす。
そんな光景に対し、ジャックランタンは悪い予感が巡ってしまう。
「今宵より汝は正義の怪盗マジカルかりんの家来となる!我に永遠の忠誠を尽くすがいい!!」
「ははーっ!!俺サマのマイマスター!一生御傍を離れません!!」
盛り上がっている光景を前にしてもランタンは後ろに向きながらオーバーに両手を上げる。
「思いついたの!リパー君の更生計画!」
「嫌な予感しかしないホ…」
「悪い魔獣や悪魔を一緒に退治して!仲魔の友情を築く展開は燃えるの!」
「俺はやるぞ!姐さんとやるぞ!外道人生から転生だー!!」
「リパー君の一般人救出作戦なの!ランタン君と同じように善行を積んで…罪を清算するの!」
「俺の人斬り包丁が人々を救う!マジカルかりんの懐刀とは俺サマのことだー!!」
(……馬鹿と鋏は使いようなのかホー)
悪党でも改心すれば世の中の役に立つ。
そんな価値観が普及すれば、犯罪者の処刑が民衆娯楽でしかない暗黒時代から抜け出せる。
中世暗黒時代の再来となった現代日本から抜け出せるのだとかりんは信じ込んでいく。
そんな時代は21世紀のいつ訪れるのであろうか?それは誰にも分からなかった。
♦
その後の悪魔達はどうなったのであろうか?
「そう…魔法少女の長を引退しても、魔法少女はまだ引退しないんだ?」
みかづき荘のリビングにあるカウンター席で語り合うのはやちよとかなえの姿であろう。
ソファー席にはみふゆもいるようであり、やちよとみふゆの今後を語っていく。
「かなえとメルだけに命の危険を負わせるつもりはないわ。貴女達の命だって…守りたいの」
「でも、やちよ…それにみふゆ…」
「言いたい事は分かります。私達の魔力はもう衰える一方…それでも、まだやれます」
「二度と貴女達を失いたくないのよ、かなえ。だからお願い…私とみふゆの我儘を許して」
危険を承知で共に戦いたいと言ってくれる。
そんな彼女達の身を案じる気持ちもあるが、その思いやりが嬉しい気持ちもあるだろう。
「…分かった、メルにはあたしが話しておく。また…数年前の頃に戻れるね」
写真を飾っている壁に視線を向ける。
そこにはソファー席に座って笑顔を向け合うやちよとみふゆとかなえの姿が今も残っている。
幸せだったあの頃は尚紀の力によって再び取り戻され、これから先も続くだろう。
「ん?壁の写真が沢山増えたね…バイク乗りかぁ…あのやちよがねぇ」
「意外だったでしょ?私がやっちゃんに勧めたんですよ~♪」
「ねぇ、かなえ?もし良かったら……」
その先の言葉が分かるかなえは微笑みを返す。
「うん…あたしもね、昔からバイクには興味あったの。だからさ…あたしも、その…」
「勿論よ、かなえ!あぁ…貴女とも一緒にバイクツーリングが出来る日が来るだなんて…」
「はいはい!私も来年こそは大学に合格して、バイクの免許を絶対に取りますよーっ!」
「なら、あたしはみふゆに合わせて免許を取りに行くよ。参ったな…バイトを探さないと」
「フフッ♪ツーリング仲間の鶴乃も絶対に喜ぶわ。皆でかなえのバイクを選びましょう♪」
3人は昔に帰れたように仲良く談笑し、やちよが持ってるバイク雑誌を見ながら会話を楽しむ。
しかし、ふと忘れていた事を思い出したかなえがやちよに向き直る。
「そ、その…やちよ。実はね、やちよに頼みがあったから…今日は遊びに来たんだ」
「私への頼みごと?それは何かしら?」
「ちょっと外に来て。メルに作ってもらった物なんだけど…ハンカチは持ってた方がいい」
怪訝な顔を浮かべながらやちよとみふゆは指示された通りハンカチを持って外に出る。
玄関の隣に置かれているのは妙な壺であり、やちよは嫌な予感が巡ってくる。
「か…かなえ…?この妙な壺は何なの…?」
「蓋を厳重に締めてますけど…中は何が入ってるんですか…?」
「…うちは両親と仲が悪い。行方不明期間も長かったから…余計に険悪な空気なんだ」
「もしかして、かなえの訳有り私物を預かってもらいたいの…?」
「うん…そ、その…これはね…うん、臭いがね…キツイんだ」
厳重に締められた壺の蓋をかなえが開けるとやちよ達は言葉が詰まる程の悪臭に襲われる。
「「ぐぅっ!!?」」
悪臭が立ち込めた事で2人は思わずハンカチを鼻に当てる。
やちよとみふゆは恐る恐る壺の中を覗き込みながら質問してくるようだ。
「な…なに…この…毒々しい見た目の液体は…?」
「毒々しいじゃなくて、毒なんだ…コレ」
「ええっ!?そんなの勝手に用意したんですか!?しかも…メルさんが作った!?」
「メルは悪魔化してから魔導の知恵を手に入れた。あたしの槍を封印するための毒なのさ」
「かなえが手にした新しい魔法武器よね?たしか、魔槍ルーンだったかしら?」
「あたしの魔槍は戦いに飢えている。あたしが戦わないとあたしも襲う…呪われた槍なんだよ」
「そんな危ない武器をこれから使っていくんですか…かなえさん?」
「戦いの前に矛先を毒に漬ける儀式を行い、自分が燃えないようにするおまじないがいるんだ」
「ケルト神話の武器の扱いは魔法少女の武器以上にデリケートなのね。でも…でもね…コレ…」
「うん、凄く臭い…この毒が入った壺。えっと……ダメ?」
「や…やっちゃん…いいんですか、コレ置いて?」
不快な臭いを我慢しながら考え込んでいたが、みかづき荘の管理人は頷いてくれる。
「外に置いておくわ…モデルの仕事に行っている時でも自由に使えるような開けた場所にね…」
「感謝する。断られたら…尚紀の家に頼みに行こうかと考えてたよ」
「相談事も解決しましたし…家の中に戻りましょう。匂いが服につきそうで…キツイです」
「ごめん…迷惑かける…」
みかづき荘に戻っていくかつての仲間達はメルも合流した事で失った日々が蘇っていくれる。
新しい出発を迎えようとしているのは御園かりんも同じであろう。
「ふんふんふん~♪マジカルきりんは正義の怪盗~♪」
お風呂場で体を洗いながら鼻歌を歌ってるのはかりんの姿である。
中学生ではあるが成長期であり、乳房の大きさも年々膨らんでいく。
そんな成長期真っ盛りな主人のあられもない姿が隠された風呂場の外では悪魔が跋扈している。
(おい、ランタン!もっと上に押し上げやがれ!)
(しょうもない事に俺をつき合わせるんじゃねーホ!!)
(いいだろ暇してるんだし!姐さんの御背中を流す事は出来ねーが…見守る事は出来る!)
(飼い犬みたいに警備したかったら、家の外を向いてるだけでいいホ)
(馬鹿!分からんのか!姐さんの風呂場に突然殺人鬼が入り込んでくるかもしれないぞ!)
(元殺人鬼のお前が窓から侵入しようとしてるホ…)
呆れたランタンが両手を離すとリパーは真っ逆さまに落ちてしまう。
「いてて…突然手を離すことねーだろ!」
「殺人鬼から覗き魔に転生した奴には付き合ってられ…!?」
カボチャ頭がみるみる青くなっていくランタンに対してリパーは首を傾げた後、上を向く。
「……2人とも、なにをしてるの?」
涙目で震えながら胸を片手で隠すのはかりんであり、あられもない姿が窓から見える。
その右手には魔力が籠った石鹸が二つ握られているようだ。
「い、いやね…姐さん…」
「ち、違うホ…俺は関係ないホ…!!」
しらを切ったまま逃げ出す仲魔達に目掛けて、か弱い少女はこう叫ぶだろう。
「エッチなのは、ダメなのーーーッッ!!!」
放たれたマギア魔法こそ、彼女が得意とするキャンディーデススコールである。
「「グエーーッッ!!?」」
逃げるジャックブラザーズであったが、魔弾と化した石鹸が後頭部を直撃して倒れ込む。
勢いよく窓を締めるかりんは浴槽の中に入って体を隠す。
「うん、そうだ…。今夜から寝る時はリパー君を柱に括り付けてから寝るの」
信じる事も大切だが、疑う事も大切だと尚紀から教わったかりんは独りで頷く。
彼女の新しい幸福な人生?もまたこれから始まっていくのであった。
読んで頂き、有難うございます。