人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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134話 ハロウィンの悪魔

これは尚紀が見滝原市に出張しに行ってしまった頃の物語である。

 

聖探偵事務所の職員たちが見滝原市に出張した後日の水曜日。

 

業魔殿は魔法少女の悪魔教育現場となった事もあり盛況な毎日を送っている。

 

「ふぅ…こんなにも魔法少女達の相手をする日々が始まるとはな」

 

悪魔授業を行う室内から神浜魔法少女を見送るヴィクトルなのだが、溜息をつく。

 

「悪魔の存在を脅威と判断されたままでは…吾輩の業魔殿とて見つかればタダではすまない」

 

悪魔という存在の誤解を生んだままではいずれ業魔殿にも悪影響を及ぼすと判断する。

 

悪魔を知ってもらう事がみたまの利益にも繋がるとも考え、慣れない教師の役目を果たす日々。

 

「若い娘達が頻繁に訪れるのだ、上のホテルにも若者向けの店を構えると利益になるな…」

 

商売人の血が騒いでいた時、仕事を終えたみたまが研究所の椅子に座っていたのを見つける。

 

その隣には妹のみかげの姿もあったようだが…。

 

「……………」

 

声をかけようと思ったが彼女達の元気の無さを見て止めておく。

 

(まだ…ジャック・フロストを失った心の傷が癒えないのだろうな…)

 

みたまのボディガードとして悪魔を生み出し彼女に進呈したヴィクトル。

 

フロストは思った以上に彼女に気に入られ、絆を生んでしまったようだ。

 

それは妹のみかげも同じであり、短い付き合いとはいえ弟のような存在が出来たのが嬉しかった。

 

なのに出来たばかりの弟のような存在は人修羅によって殺される結果となってしまう。

 

踵を返し、彼女達から遠ざかりながらも何かを考え込む。

 

(…仕方ない。あの姉妹を元気付けるためにフロストの同族悪魔でも生んで与えてやるか)

 

こうして、ヴィクトルの八雲姉妹元気にな~れ計画がスタート。

 

自費を投入して悪魔全書から適当に弱い悪魔を選んで召喚。

 

「たしか…妖精ジャック・フロストの合体材料は…」

 

違う個体でもジャック・フロストの性格は似たり寄ったりなので彼女達も気に入るだろう。

 

業魔殿深部の悪魔合体施設で悪魔合体作業を始めていく。

 

<<ご主人様、うぉれ…いや、私に今すぐ合体スイッチを押させやがれでございます>>

 

妙な言葉遣いを始めるのは業魔殿で働くメイドのイッポンダタラ。

 

みかげにメイドらしくないと怒られ、彼女から丁寧語を習っているのだろう。

 

「うむ、いいぞイッポンダタラ。これで上手く出来るはずだ」

 

<<それでは、悪魔合体を始めてやるでございます>>

 

ボタンをポチっと押す。

 

召喚された二体の悪魔が中央の五芒星結界内で合体していく光景が続くのだが…。

 

「むぅ!?」

 

施設内で警報が鳴り響く。

 

<<これはぁぁぁ合体事故の警報ぉぉぉ!?うぉれのせいじゃねぇぇぇぇ!!!>>

 

粘土の塊がけたたましく蠢き、破裂。

 

「…うむ、忘れておった。今日の月齢は…満月であった」

 

中から表れ出た悪魔とは?

 

<<ウウ…!丸いぞぉ!月がぁ!ウハハ!サツリクの思考がぁ!ウウ…!>>

 

その頃、施設内の警報を聞きつけた八雲姉妹が業魔殿の合体施設に走ってくる。

 

「姉ちゃ!!今の警報ってなに!?」

 

「さっきのはね、悪魔合体の失敗を意味する警報なの。叔父様は研究で何かを生み出してたの?」

 

2人が自動扉を開けたが息を飲む。

 

「あれ!?ヴィクトル叔父さんが倒れてるよ!」

 

「叔父様!?」

 

みたま達は駆け付けて彼を抱き起す。

 

「む…むぅ…どうやら吾輩は、合体事故でいらん悪魔を召喚してしまったようだ…」

 

「いらん…悪魔ですか?」

 

「すまん、勝手にこんな真似をして。2人が元気無さそうに見えてな…フロストを作ろうとした」

 

「またフロスト君をミィ達のために作ろうとしてくれてたんだ…優しいね、ヴィクトル叔父さん」

 

「それで…そのいらん悪魔は何処に?姿が見えないんですけど…」

 

<<あいつは悪戯好きな妖精じゃねぇぇぇ!!外道の類だぁぁぁぁ!!!>>

 

イッポンダタラメイドも慌てて室内に入ってくる。

 

「コラッ!ダタラちゃんダメだよ!!口調が汚くなってきてる!」

 

「ぐっ!?うぉれ…じゃない、私は…あの悪魔を知っているのであります」

 

「ど、どんな悪魔を生み出したの、ダタラちゃん?」

 

「あれは…悪魔の属性的にはDARK‐CHAOSであります。破壊衝動の塊でやがります」

 

「そんな危険な悪魔を生み出してしまったわけ…?」

 

「監視カメラの映像では、その悪魔は秘密のエレベーターを使って地上に逃げやがりました」

 

「不味いわね…街に被害が出たら大変よ。それで、その悪魔の名前は分かる?」

 

「かつてロンドンの街を恐怖に陥れた殺人鬼の犠牲者の怨念や、民衆の妄想が生んだ悪魔…」

 

――ジャック・リパーでございます。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

今日もアリナ捜索に適当に出かけたジャック・ランタンがかりんの家に向けて空から帰宅。

 

「ただいまだホー。窓を開けてくれホー」

 

窓をノックしたら学校から帰ってきていた御園かりんが窓を開けてくれた。

 

「ランタン君…今日はどうだったの?」

 

「まぁ…適当に探してみたけど、今日もダメだったホ」

 

「そう……ごめんね。いつもランタン君にばかり探させてしまってるの…」

 

「気にするなホ。これも善行に繋がるってんなら、俺は協力を惜しまないホー」

 

かりんの部屋に入り込み、定位置ともいえる箪笥の上に座り込む。

 

彼女は漫画を描く机の椅子に座り溜息をついた。

 

「…漫画の練習はしなくていいのかホ?」

 

「うん…頑張るの。デッサンが上手くなったら…アリナ先輩も褒めてくれるし」

 

帰ってきてくれるとばかり信じている彼女の後ろ姿にランタンまで溜息が出る。

 

「世間じゃ死んだことにされちまったから、行方不明者として捜索願も出せないホ」

 

「そうだね…アリナ先輩が生きているって分かるのは魔法少女だけなの」

 

「その…葬式に行ったんだホ?それでいて、替え玉みたいなのが葬式で使われてたと?」

 

「そうなの…あれはアリナ先輩じゃないの。魔法少女は死んだら死体は残らないの」

 

「家まで派手に燃やされたみたいだホ。もしかしたら…殺人鬼に襲われたとか…」

 

「アリナ先輩を襲う殺人鬼?」

 

「殺人鬼ってのは私欲のために人を襲うヤツだホ。有名人なら…名を売る為に襲うホ」

 

「アーティストとして有名人だったアリナ先輩を…襲う殺人鬼……」

 

「…昔、ロンドンを震え上がらせた殺人鬼の伝説を知ってるかホ?」

 

「たしか…切り裂きジャック?」

 

「そいつは娼婦を次々殺し、刻んだ死体をあえて残し続けたヤツだホ。恐怖は宣伝になるホ」

 

「それじゃあ…アリナ先輩を襲った存在は殺人鬼で…替え玉の死体をあえて残した?」

 

「魔法少女は死体が残らんホ。それだと有名人を殺した事にはならないから……」

 

その先を想像させられた彼女は机の上に顔を埋める。

 

「……アリナ先輩が死んで、もう円環のコトワリに逝ってるだなんて…信じないの」

 

「…もし生きているなら、何で家や学校に帰ってこないホ?」

 

辛い現実を語る。

 

彼女はそれ以上口を開かなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜市の市長はテロ騒動の対応に追われた後…辞職した。

 

理由は記者会見の場で市長にあるまじき爆弾発言をしたためだ。

 

自分に捜査のメスが入る前に現場から立ち去り、雲隠れしようという魂胆だろう。

 

彼は落胆しているわけではない。

 

神浜大企業や、日本の財界に有利に働くよう条例の整備を続けてきて民衆搾取を継続出来た。

 

市政を引退しようとも数社の大企業から非常勤役員の椅子が用意され、仕事もせずに金儲け。

 

これは財務省の官僚なども行う天下り手口であった。

 

しかし、地元のテレビ放送に映ってしまった以上は神浜市から去らねばならない。

 

郊外で暮らしつつ、役員として顔を出す時だけ神浜に戻る生活を送る為の準備に追われていた。

 

そんな元市長の元に現れたのは…恐ろしき悪魔の殺人鬼。

 

「がはっ!!!?」

 

風呂から出て髭を剃っていた元市長の首が散髪屋で使われる剃刀で切り裂かれ、血が噴き出す。

 

倒れ込む市長が最後の力を振り絞り、突然背中に飛びついて首を裂いてきた悪魔に視線を向ける。

 

「き………!!!?」

 

肺からの空気が出る音が切り裂かれた喉から出て断末魔の叫びも上げられない。

 

既に市長の家は異界に飲まれており、悪魔結界に囚われた人間だからこそ悪魔の姿が見えた。

 

「現世に戻れたんだ。数千あった俺サマの罪科も、これから数万に増えていくってもんよ」

 

それは小さな殺人鬼。

 

みたまの腰下ぐらいしか身長がなかったジャック・フロストと変わらないほど。

 

黒のスーツパンツ、ベルトが結ばれた黒のトレンチコートに黒のつば広ハット。

 

頭部はまるでカボチャの頭蓋骨を思わせる形をしていた。

 

「さて、死ぬ前に…その絶望の感情エネルギーを頂こうか」

 

黒のトレンチコートから取り出したのは五芒星が描かれたポット。

 

白手袋をした小さな手をかざせば元市長の体から絶望の感情エネルギーが抜き取られていく。

 

緑色に輝く絶望の感情エネルギーであるMAGはポットの中へと収納されていった。

 

「……!!……!……」

 

「用も済んだしおっ死ねよ。まだまだMAGが足りねぇ…家来を召喚するためのMAGがな」

 

自分を殺した小さな悪魔の姿を冥途の土産とし、元市長はこと切れた。

 

「俺サマの名はジャック。この国でいうところの…名無しの権兵衛って意味さ」

 

呼び方が定まらない悪魔は踵を返して去っていく。

 

既に家の中にいた家族は全員首を切り裂かれていた。

 

異界結界も解け、元市長の家は現世の世界へと戻る。

 

元市長一家の死。

 

これは神浜の西側で起こり続ける連続殺人事件の開幕となる惨劇であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

2日が過ぎた金曜日。

 

政令指定都市である神浜市では9日間の市長選の選挙運動が繰り広げられる光景が続く。

 

しかし、民衆は市長選どころの空気ではない。

 

神浜テロの深過ぎる爪痕もさることながら…連続殺人事件が新聞やテレビで報道されたからだ。

 

犠牲となっていた人物が神浜の元市長であることから東側の報復だと憶測ばかりが飛び交う。

 

民衆が殺気だつ新西区の道を帰宅していくのは、暗い表情を浮かべたももこ達であった。

 

「ねぇ…テレビかSNSのニュース記事を見た?」

 

「うん…新西区や参京区、それに栄区でも連続殺人事件があったんだよね…レナちゃん?」

 

「このご時世だ…混乱に乗じて犯罪者が跋扈するようになったのかも…」

 

「魔獣の数だって以前よりも桁外れに増えちゃったし…これからどうなっていくのかしら…」

 

「「……………」」

 

レナの質問に答えることも出来ず、ももことかえでは下を向きながら歩き続けるのだが…。

 

「…もしかしたらさ、その連続殺人事件って…悪魔の仕業じゃないのかな?」

 

それを聞いたレナとかえでが立ち止まり、ももこに振り向く。

 

「数日前に調整屋から連絡がきてな。業魔殿から逃げ出した悪魔がいるって…」

 

「あの悪魔研究所が連続殺人事件に関わってたわけ!?やっぱり…悪魔はレナ達の敵よ!」

 

「待てってレナ!一体の悪魔が悪さしたら、悪魔全体が魔法少女の敵になるって言うのかよ!」

 

「そ、そうだよぉ…。レナちゃんは外国人が犯罪を犯したら、外国人全員が犯罪者になるの?」

 

「そ…それは……」

 

「差別をしたらダメだよぉ…レナちゃん。相手を知る努力をしないから差別が生まれるんだよ?」

 

「短絡的な答えを求めないよう、アタシ達に教育を施してくれてる人達の気持ちも考えろよ」

 

「う…うん。レナが…間違ってたわよ…」

 

しゅんとして項垂れたレナだが、それでも間違いを指摘しただけで怒り出すこともない。

 

ななか達が始めた議論討論教育の成果は確実に出始めていた。

 

「話を戻すけど、魔獣は人間を殺さずに廃人に変える存在。この件には魔獣は関係ないと思う」

 

「だとしたら…業魔殿から逃げた悪魔かなぁ?この短期間で手広くやれるのは悪魔ぐらいしか…」

 

「そこらへんも踏まえて、色々話し合いたいけど…寄り道が禁止されちゃったしなぁ」

 

「そうよね…以前みたいにハンバーガー屋でたむろしてたら補導されちゃうし…」

 

「これからは…人気のない路地裏で話すしかないのかなぁ?…不良と出くわしたらどうしよう」

 

路地裏と不良の話題をしていたら彼女たちに近づいてくる不良風の少女が現れるのだ。

 

「…奇遇だね」

 

ももこ達に声をかけてきたのは栄総合学園に復学した雪野かなえである。

 

「俺もいるぞー」

 

かなえの背後から出て来たのはジャック・ランタンであった。

 

「かなえさん?学校からの帰り?」

 

「ん…帰ってた時に、ランタンと出会ったから…念話で色々と話をしながら帰宅してた」

 

「俺とかなえは同じ悪魔同士。同族同士のシンパシーってやつだホー」

 

「ええっと…キミはたしか、かりんちゃんのお供をしている悪魔の…?」

 

「お前らがかりんと組んでた頃からお前ら知ってるホ。俺の影からのアシストを覚えてるかホ?」

 

「アハハ…あれってさぁ、やっぱり悪魔の魔法の力だったんだね?アタシの魔力じゃなかったし」

 

「合体剣と呼ばれる悪魔の魔法技術だホー。これは様々に応用が効いて魔法少女の力になれるホ」

 

「へぇ~、悪魔って便利なもんよね」

 

「ふゆぅ…私の木で作られた魔法の杖には使わないでよぉ~。勢いよく杖が燃えちゃうし…」

 

「さっきの会話…チラッと聞こえた。たまり場に困ってるの?」

 

「そうなんだよ…補導される場所にはもう集まれないし…」

 

「路地裏でよかったら…人気もなくたまり場に使えそうな場所…あたしは知ってるよ」

 

「よくそんな場所を知ってるわよね…?」

 

「…昔とった杵柄。あたし…不良に絡まれて喧嘩三昧だったから…路地裏には詳しいの」

 

人気のない場所に案内され、一同は開けた路地裏につく。

 

放置されていたビール瓶の籠を椅子代わりにして向かい合った。

 

話し合いの話題となったのは、やはり連続殺人事件の話題。

 

「そう……業魔殿から逃げ出した悪魔が、連続殺人事件の犯人かもしれないんだ?」

 

「調整屋の話だと、そこまで強い悪魔というわけじゃないみたいなんだけど…放置は出来ない」

 

「そうよね…人間が襲われている以上は、正義の魔法少女として見過ごす事は出来ないわよ」

 

「で、でも…まだ悪魔の仕業だと決まったわけじゃ…」

 

会話のやり取りを聞いていたランタンが重い口を開く。

 

「…悪魔の仕業で間違いないホ」

 

「えっ!?ランタンには…そういうの分かっちゃうの?」

 

「俺はお前らみたいに学校には通ってないホ。暇な時間の時に騒動の現場に俺は行ってみたホ」

 

「何か…見つけたの…?」

 

「…警察の鑑識班が隠していた死体。どうやら、感情エネルギーが抜かれているみたいだったホ」

 

「決まりだな。感情エネルギー目当てでも魔獣は人を殺さない…でも、悪意を持つ悪魔なら殺す」

 

ももこがレナとかえでに視線を向け、2人は頷く。

 

それを制するかのようにして立ち上がったのはかなえであった。

 

「…この一件は、あたしとメルで何とかする」

 

「ええっ!?どうして…アタシ達は関わったらダメなわけ?」

 

正義に燃える彼女たちを見て、かなえは俯いていく。

 

「気持ちは分かる…でも、どうか命を大事にして欲しい。魔法少女の戦いは…魔獣だけでいい」

 

「レナ達の…身を案じてくれているの?」

 

「正義に燃える魔法少女達はね…簡単に死んでいく。円環の世界には…沢山そんな子がいたんだ」

 

「え、えっと…かなえさんは、円環のコトワリに導かれてたけど…生き返れたんだよね?」

 

「こんなレアケース…尚紀さんがいなかったら絶対に手に入らなかったよ。…本当に感謝してる」

 

「悪魔の領分は、同じ悪魔が対処する。魔法少女だけに命の負担は…させはしないから」

 

「かなえ、俺がいること忘れてないかホ?」

 

「…来てくれるの?」

 

「さっき自分が言った言葉を忘れたのかホ?」

 

「ん……ありがとう。頼りにしてるからね」

 

会話を終えて去っていくかなえとジャックランタン。

 

そんな2人の後ろ姿を見つめていたももこが口を開く。

 

「本当に…今でも信じられないよ」

 

「レナも同じ気持ち。生きてるのよね…あの雪野かなえさんが」

 

「やちよさんとみふゆさん…本当に嬉しかったと思うよぉ。私…まだ尚紀さんは怖いけど…」

 

「うん…レナももう、あの人のことを悪く言うのは…やめておくわ」

 

レナとかえでも、ももこと同じく人修羅と呼ばれる悪魔をもう憎まない。

 

その光景が嬉しかったのか、ももこは2人の肩を抱きしめて満面の笑みを浮かべた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

11月最後の土曜日の夜。

 

人気のない栄区の路地裏にはジャック・リパーの姿が見える。

 

地面に描かれていくのは殺した人間から搾り取った血で描いた五芒星召喚陣。

 

中央に置かれているのは殺した人間から絞り出した感情エネルギーが入ったチャクラポットだ。

 

「よしよし、こんなもんでいいかな」

 

腕を組んで描いた召喚陣を満足そうに見つめる。

 

概念存在である神や悪魔を召喚する区別として、召喚(天使)と喚起(悪魔)がある。

 

召喚は進化樹で人間より上位にある天使や神などに懇願(請願)して地上に来臨を仰ぐ技法。

 

喚起は人間より下層に位置する四大精霊(地・水・風・火)、妖魔、悪魔などに命令して眼前に呼びつける技法をいう。

 

召喚技法には神や悪魔を具現化させる請願召喚と、己に神や悪魔を憑依させる憑依召喚があった。

 

「俺は悪魔としてはそこまで強くねぇ。だからこそ、悪魔の手下が必要になってくる」

 

両腕が開かれ、天に向かって掲げられる。

 

呟かれるのは悪魔を召喚する呪文。

 

――Eko, Eko, Azarak,

 

――Eko, Eko, Zomelak,

 

――Eko, Eko, Cernunnos,

 

――Eko, Eko, Aradia!

 

バスク語に由来するウイッカの典礼聖歌の一つを呪文として唱える。

 

ウイッカとはネオペイガニズムの一派である。

 

欧州古代の多神教的信仰、特に女神崇拝を復活させたとする新宗教。

 

円環のコトワリとなった女神アラディアもまたウイッカ信仰に取り入れられ崇拝対象となった。

 

「……………?」

 

気合を入れて呪文を唱えたのだが何も変化がない。

 

「おい!?どういうことだよ!!」

 

安全圏として描いた足元の魔法陣の中からヒステリーな叫びを上げる召喚者。

 

「手下にするなら可愛い女の子悪魔だよな~って、気合入れてMAGを集めたのに…出て来いよ!」

 

憤慨したリパーが安全圏から飛び出し、召喚陣の中に入り込んで陣をペシペシ叩きつける。

 

「どうせ召喚すんなら、最近生まれたコトワリ神の美少女なアラディア様を期待してたのに~!」

 

神霊規模の女神となったアラディア神をこの世に現界させるにはMAGが足りなさすぎる。

 

うんともすんとも言わない召喚陣に溜息をつき、踵を返して背後を振り向くと…。

 

「うん?こ…こいつは……」

 

リパーの後ろに立っていたのはアラディアの小さな分霊ともいえるピンク色のキュウベぇ。

 

「……………」

 

相変わらず無言を貫く様子なのだが…。

 

「おい、お前みたいな小汚い獣如きが…美少女なコトワリ神のアラディア様とかぬかすなよ?」

 

魔法少女の救済神の分霊を前にして舐め腐った態度を見せる小悪党悪魔。

 

感情が全くないように見えるが、不快を感じたのか顔を上げていき…。

 

「んがっ!!?」

 

突然、顔に唾を吐きかけられた。

 

まるで汚物に対する扱いの如き所業。

 

「テメェーーッッ!!?俺サマに喧嘩売るとは良い度胸しやがってーっ!!!」

 

一目散に逃げていくアラディアの分霊。

 

心優しいまどかを悪魔ほむらに剥ぎ取られた円環のコトワリ神は寛容ではない。

 

「ちくしょう…逃げ足の速過ぎる小汚い獣め…」

 

獲物を逃がしたリパーが召喚陣の元に帰ってきた時、召喚陣から赤い煙が噴き上がる。

 

「おおっ!!遅ればせながらの登場ってわけか!勿体ぶりやがってーっ!!」

 

ポットに入ったMAGを媒介にして、ついに悪魔達が召喚される…のだが。

 

「…あ、あれ……美少女悪魔ちゃんは?」

 

ぞろぞろと現れ出たのは円環のコトワリ神に連なる円環魔法少女達などではない。

 

「ウォマエカァァ!!女神様ニセクハラ行為ヲ企ムゥゥ!!不埒ナ悪魔ハァァァ!!!」

 

「むさくるしい髑髏の男野郎共じゃねーかぁぁーッッ!!?」

 

【トゥルダク】

 

ヒンズー教における閻魔大王ヤマの部下達であり、骸骨の姿をした黄泉の従者。

 

現世に執着する霊を捕らえ、ヤマの元へ送り届けるのが彼らの仕事だ。

 

地獄にて拷問などの執行を行ったりもする存在である。

 

また死期が近い人間の元に現れヤマの元に連れていくなどが彼らの役目であった。

 

「閻魔大王様ノ元ニィィ!円環ノ女神様カラノ通報ガキタァァァ!!」

 

「えぇ~っ!!?こんな短時間で通報されたのかぁぁぁ!!?」

 

「言イ逃レハ出来ンゾォォ助平悪魔ァァ!!ウォマエハァァァ無間地獄逝キィィ!!」

 

「待てって!!美少女悪魔の子分が欲しかっただけだ~!俺サマは断じて助平ではなーいっ!!」

 

「言イ訳ヲ並ベル気カァァ!?地獄ニ堕トス前ニィィ…ヤキ入レテヤルゥゥゥ!!」

 

「ま、待てーっ!!?話せば分かるーっ!!放してくれーーッッ!!!」

 

トゥルダク達に拘束され、小さなエイリアンの両手が掴まれた光景のようにして去っていく。

 

彼らの背後に残った召喚陣内に溜まった残りカスのようなMAGが光を放つ。

 

一瞬だけこの世に現界したのはアルティメットに大きい円環の女神の手。

 

その手がサムズアップのハンドサインを見せた後、静かに消えていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

日曜日の夜。

 

中央区のビルの屋上にはかなえとメル、それにジャック・ランタンが周囲を伺っている。

 

「どう…メル?連続殺人犯の悪魔の居所は視えてきた…?」

 

額に指を当て、目を瞑ったメルが意識を集中しながら先を視ていく。

 

「…視えました。どうやら多数の仲魔を引き連れて、今夜も街で暴れているようですね」

 

「便利な能力だホ。俺は悪魔だけど、高位の悪魔のように未来のタイムラインが視えないホ」

 

「それはあたしも同じ…尚紀の話だと、あたしとメルはマネカタに近い悪魔みたい…」

 

「人間に近い擬人の悪魔だホー。だけど、悪魔の魔法の力は備わってるみたいだホー」

 

「この悪魔の力…今夜試してみたい。詳しい場所は視えてきた…?」

 

「視えてきました。どうやら東地区に近い栄区の街で暴れているようですね」

 

「ここからなら遠くはない。急ごう」

 

跳躍移動を開始した2人と、後ろを飛行しながらついていくジャック・ランタン。

 

現場の街ではリパーを連れて行こうとしたトゥルダク達が暴れている。

 

「腐リ切ッタ差別ノ街ダァァァ!!ウォマエラハァァァ全員地獄逝キィィィ!!!」

 

両手に持つ二刀流の刀を使い、異界に引き摺り込んだ西の差別主義者達を殺戮していく光景。

 

リパーという悪霊を連れて地獄に帰ったのではなかったのだろうか?

 

トゥルダク達の殺戮劇を満足そうに眺めているのは拘束されていたジャック・リパーだ。

 

「ケケケッ!バカ共め…俺サマの混乱魔法であるプリンパに耐性がない奴らで助かったぜ」

 

リパーは図らずとも手下を沢山手に入れることが出来たようである。

 

(…本当なら、美少女悪魔を手下にしたかったんだけどなぁ)

 

ブツブツと愚痴を呟いていたが、接近する悪魔の魔力に気が付く。

 

「ヒィィィーー!!」

 

逃げていた差別主義者の男が追い詰められ、トゥルダクの刃が振り上げられる。

 

「差別主義者メェェェ!!ウォマエハァァァ…焦熱地獄逝キィィィ!!!」

 

邪見(仏教の教えとは相容れない考えを説き、また実践する)を持つ者をヤマの部下は許さない。

 

殺されそうになっていた時、空から鈍器が飛んできた。

 

「ヌゥッ!!?」

 

右手の刀を弾いたのは鉄パイプのような武器。

 

「な、なんだぁ…?」

 

リパーが異界世界のビルを見上げる。

 

そこに立っていたのは栄総合学園制服を着たかなえと、大東学園制服を着たメル。

 

「秋は日が短い、もう暗くなってしまった…。…さぁ、覚悟して」

 

「ここからは…ボク達の時間。闇の時間らしいですよ」

 

2人が跳躍して地面に下り、不敵な笑みを見せる。

 

「お…お前ら…魔法少女なのか?いや、違う…この魔力は…俺サマたちと同じ!?」

 

「悪魔同士の戦い…遠慮をするつもりはない」

 

「魔の饗宴を始めさせてもらいますよ」

 

かなえは右手を翳す。

 

現れたのはかつての魔法少女時代に使っていた煙の出る鉄パイプなどではない。

 

ケルト伝承の戦士・ドゥフタハが用いた魔槍であるルーン(アイルランド語で槍)だ。

 

戦闘が近付くと柄から炎を吹き出す槍と言われ、装備者は不意打ちを受けない。

 

その一方で戦いを好み、戦いを招き寄せる呪いをも持つ魔槍という。

 

ドゥフタハは誰からも恐れられたアルスターの戦士であったが、陰険な喋り方をする人物。

 

まるで生前のかなえのように争いの世界でしか生きられない呪われた人生を生きた存在だった。

 

「あたしの中に溶けた英雄の槍…槍術なんて知らないから、悪いけど()()()()()使わせてもらう」

 

槍の柄から炎が噴き出し、彼女の全身を覆う。

 

この槍は持ち手に永遠の戦いを求めさせ、敵の血が流されない場合には血に飢えて持ち主を襲う。

 

炎で焼かれるのは敵であると同時に己をも焼く事にもなる恐ろしさ。

 

そんな魔槍を手に入れ、悪魔に転生したかなえの新しい姿とは?

 

「そ、その槍は…ペルシャ王の毒槍と言われた…ドゥフタハの魔槍!?お前…悪魔なのか!?」

 

業火の中から現れたのは漆黒の貴族衣装を身に纏う雪野かなえ。

 

魔槍ルーンをかつての鈍器武器であった鉄パイプのように右肩に担ぐ姿を見せた。

 

「次はボクの番ですね」

 

メルの右手に持たれているのはトートの書と呼ばれる魔導書。

 

古代エジプトの知恵の神トートが記した魔法書であり、選ばれた者のみがその魔法を学べる。

 

この魔法書の各ページをカード化したものという意味で()()()()()()()がしばしばこう呼ばれる。

 

フランス人作家クール・ド・ジェブランの著作である原始世界においてはこう語られる。

 

タロットがエジプト古代の伝説の魔法書であるというタロット=トートの書説を述べた事に拠る。

 

タロットのエジプト起源説は様々な人物から唱えられていた。

 

「ボクの中に溶けた白いお猿さんの力…使わせてもらいますよ!」

 

彼女の周囲から緑の風が生まれていき、竜巻と化して彼女の体を包み込む。

 

「ゲーッッ!?あれは…トートの書!?つまりお前は…魔法の開祖とも言える悪魔かぁ!」

 

竜巻の中から浮遊して現れたのは黒と紫色のゴスロリ風衣装を纏うメル。

 

周囲には魔法書のページが浮遊し、彼女に様々な魔導の知恵を与えるだろう。

 

「あわ…あわわ……こんな連中が現れるだなんて…聞いてねぇぞーっ!!?」

 

赤い月が浮かぶ悪魔の異界に立つのは、悪魔の瞳である真紅の瞳を持つ転生者達。

 

「円環の鞄持ちとしての力は、悪魔に転生したから失われたけど…」

 

「これはこれで、以前にも増して力が高まった気がしますよね!」

 

「だからこそ、あたし達は戦える。()()()()()()()()()()()()()()に変わったのも何かの縁…」

 

――時期的には過ぎたけど、今宵はハロウィンを行おう。

 

――ハロウィンとは、ドルイド教の悪魔のお祭りです。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「先に行く」

 

「援護します!」

 

黒いブーツが地面を踏み砕き、魔槍を担いだかなえが一気にトゥルダクの群れに飛びかかる。

 

「や、やっちまえお前らーーッッ!!!」

 

リパーに洗脳されたトゥルダク達がかなえを迎え撃つ。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

燃え上る槍の柄を振りかぶり、一気に横に振り抜く。

 

「アヒー!!?炎ハ駄目ダァァァ!!」

 

「ウォレラノォォ弱点属性ーーッッ!!!」

 

「ウォレ達ガァァァ逆ニ血祭リィィィーーーッ!!?」

 

髑髏の体が柄の打ち込みで砕け散り、燃え上りながら滅びていく。

 

槍を振るう余波は後ろから迫りくるトゥルダクの群れまでをも砕け散らせた。

 

魔槍ルーンは離れた相手でも一振り毎に確実に殺し、投じれば一投ごとに9人を倒すと言われる。

 

「カードの原点達!出番だよ!!見せろ…4属性のアルカナ!!」

 

周囲に浮かぶ魔法書のページが周囲を回転しながら横に広がり、4属性の魔法陣を浮かべる。

 

「最強で最悪で極悪な結果をあいつらに!!」

 

同時に放つ魔法とは『炎のアギラオ』『氷のブフーラ』『雷のジオンガ』『疾風のザンマ』。

 

新たなる力によって、メルは悪魔の4属性魔法のスペシャリストとなったようだ。

 

「ヌァンダァァァ!!?属性魔法ガイッパイクルゥゥゥ!!?」

 

「ヌォォォ!!疾風モォォォウォレラノ弱点ーーーッッ!!!」

 

「医者ハ何処ダァァァーーーッッ!!?」

 

悪魔少女達が次々と同じ魔なる者達を屠り続ける魔の饗宴。

 

彼女達は悪魔の血祭りをハロウィンだと表現して楽しんでさえいる。

 

その光景をビルの上から見つめるのはついてきていたジャック・ランタン。

 

「これはこれは……俺、ついてこなくても良かったかもしれんホー」

 

悪魔に転生した魔法少女の実力に驚愕していたが、視線が戦場から少し離れた位置を見つめる。

 

「…しゃーねーホ。俺は大将首に逃げられないよう動いちゃるホ」

 

そう言い残してランタンは浮遊しながら空を移動していく。

 

下の戦場は既に雌雄を決しようとしていた。

 

「うん、読み通り♪これが運命です!」

 

両手を腰に当ててドヤ顔を見せているメルであるが、かなえがたしなめる。

 

「メル、魔力の使い過ぎはダメ。やちよやみふゆの負担になる……」

 

「あ…そうでしたね。ボク達の新しい魔力は感情エネルギー…無駄撃ちは出来ませんでした」

 

「それよりも……上から大きな魔力がくる」

 

「視えてましたよ。あの悪魔は、古代シュメール・メソポタミアの凶鳥…アンズーです!」

 

「フフッ、随分と悪魔について博識になれたんだね…メル」

 

「それもこれも、ボクを生み出す悪魔合体の材料になってくれた…白いお猿さんのお陰です♪」

 

空から飛翔して現れてきたのは巨大なライオンのような鳥。

 

「小賢シイ小悪魔ニ召喚サレテミタガ、見タコトモ無イ悪魔ト出クワストハナ!!」

 

【アンズー】

 

獅子の頭を持つ大きな鷲の姿をしたシュメール・メソポタミア伝承の嵐を呼ぶ怪鳥。

 

かつては善良な聖鳥であったが、すべてを支配したいという野心を抱く。

 

最高神エンリルの持つ天命の書板トゥプシマティを盗み出したことで知られる存在。

 

狩猟と戦争の神ニンギルスとの戦いに敗れたアンズーは、ニンギルス神殿の守護獣にさせられた。

 

後の新バビロニア時代の伝承では、ニンギルスと同一視された戦神ニヌルタがアンズーを倒した。

 

「我ガ風ノ刃ヲ受ケヨ!!」

 

巨大な翼を羽ばたかせて放つ魔法は風の魔法である『マハザンマ』である。

 

「かなえさん!」

 

「分かってる!」

 

2人は同時に跳躍移動し、周囲に発生した竜巻を避けながら路地裏に身を隠す。

 

「二手ニ分カレテノ奇襲攻撃カ?チョコザイナ!!」

 

空を旋回移動しながら周囲を探る。

 

「見ツケタゾ!小娘悪魔ァーッッ!!」

 

宙を浮かびながら屋上に佇むメルに対し、風の魔法攻撃の威力に匹敵する羽ばたき攻撃。

 

「くぅ!!」

 

旋風が彼女に襲い掛かり、軽い体重の彼女は吹き飛ばされてしまう。

 

<今です、かなえさん!!>

 

<もう獲物は捉えている、任せて>

 

念話が送られた先はアンズーの死角の位置。

 

屋上に立つかなえは魔槍ルーンを片手で持ち上げ投擲の構えを行っていた。

 

「あたしの新しい力であり…滅びとなるかもしれない槍よ。お前の力を…見せてみろぉ!!」

 

かなえが放つ渾身の一撃とも言える投擲攻撃とは、『鷹円弾』と呼ばれる悪魔の物理攻撃技術。

 

「囮ダッタノカァ!!?」

 

死角から迫りくる槍の一撃がアンズーの胴体を貫通していく。

 

「…この戦いのボスキャラなら、あたしの魔槍からは逃れられない」

 

魔槍ルーンの投擲は投じれば一投ごとに9人を倒す。

 

その9人の内1人は必ず王か王太子か盗賊の頭領格であったという逸話がある。

 

「コノ力ハ…ケルト伝承ノ戦士・ドゥフタハノ力ナノカ…?ヌカッタ…ワ…」

 

空から地面に墜落し、叩きつけられると同時に感情エネルギーを撒き散らして消滅。

 

悪魔の感情エネルギーは宇宙へと引っ張り上げられ宇宙を温める熱となっていった。

 

その光景を不満そうにかなえは眺めてしまう。

 

「悪魔を倒してMAGを回収出来たら…やちよやみふゆの負担なんてなくなるのに…」

 

円環のコトワリとなった鹿目まどかによって改変されてしまった魔獣宇宙。

 

宇宙を温める熱は極めて不足し、現世で生まれる感情エネルギーを大量に必要としていた。

 

「あの光景もまた、大いなる神である唯一神の宇宙延命行為なんですよ」

 

宙を浮きながら現れたメルが地上に降り立ち、かなえの横に並ぶ。

 

「グリーフキューブだけでは…熱が足りない。あたし達悪魔は…光と熱の神に必要とされる」

 

「そうです…これからの世界は、もしかしたら…」

 

――世界を温める、()()()()()()()が…必要とされていくのかも知れませんね。

 

異界の空を見つめていたが元の景色へと変わっていく。

 

2人は悪魔化を解き、元の姿に戻るのだが…周囲を見渡す。

 

「あれ?そういえば…ついてきていたランタン君は何処に行ったんですか?」

 

「…派手にやり過ぎて、見せ場を奪ったかも」

 

「あ~……拗ねて帰っちゃったのかもしれませんね」

 

「久しぶりに暴れたかった気持ちもあったし…あとで謝っておこうか」

 

「それがいいですね。これにて一件落着……?う~ん、何か忘れているような気が…」

 

「フフッ♪もしかしたら、そっちの方をランタンは…行ってくれているのかもね」

 

同じ仲魔の力を信じ、今宵の狩りは終了とする…かと思われたが。

 

「ねぇ、メル。あたし達…悪魔になったんだね」

 

「そうですね、かなえさん。これからのボク達は…悪魔として生きていく」

 

「それでも…あたしの心は人間だ。今までも…そして、これからも…」

 

「魔法少女と悪魔、そして悪魔召喚士…多くの人々とこれから触れ合っていくんですねぇ」

 

踵を返して2人は夜の街へと消えていく。

 

これからの2人の戦う目的は生きていた頃と変わらないだろうが…。

 

それでも戦う相手は大きく変わっていくこととなるであろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァァァ…ちきしょ~…あんな悪魔少女共が現れるだなんて…」

 

息を切らせているのは異界世界からトンズラしてきたジャック・リパーである。

 

「あの強さ…ケルトの英雄ドゥフタハと、エジプトの知恵の神を相手してるようなもんだぜ…」

 

この街にあんな手強い悪魔がいるのは予想外であり、計画を練り直す必要があると考え込む。

 

そんな小悪党の頭上から現れるのはハロウィンカボチャの影。

 

「ヒホホーイ!かなえとメルの強さを思い知ったかホー?」

 

「ゲェッ!?お前は…ジャック・ランタンじゃねーかぁ!?なんでこの街に?」

 

「転生ガチャでハズレ引かされたモンだホ。この街のとある畑で生まれちまったんだホー」

 

「そりゃあ、とんだ災難だったなぁ。それで?お前は…あいつらの仲魔なのか?」

 

「そうだホー。訳有って俺は善行を積んで成仏したいホ。だから…お前を見逃さないホー」

 

「マジかよぉ!!?」

 

右手の白手袋で握るランタンを掲げ、炎魔法を放とうとする。

 

「そんなー!!これから俺サマの現世ハッピーライフが送れると計画してたのにーっ!!?」

 

「どうせロクでもないハッピーライフだホ。それにお前は殺人鬼…取り零すと犠牲が増えるホ」

 

「ま、待て!後生だから見逃してくれー!!お前のためにMAGだって集めてやるからさぁ!」

 

土下座しながら命乞いする同じジャックの名を持つ悪魔を見て、ランタンは大きな溜息。

 

「いらんホ。俺は魔法少女からMAGを与えて貰いながら生きてるんで、間に合ってるホー」

 

「魔法少女の家来をしてるのかよ…お前?」

 

「それがどうかしたかホ?」

 

土下座から顔を上げ、腕を組みながら考え込む。

 

良からぬ事を思いつく前に焼きカボチャにしてやろうかと思っていた時、空から何かが近づく。

 

「待って!ランタン君!!」

 

空から現れたのはジャック・ランタンと共生生活を送っている魔法少女である御園かりん。

 

「この子…この見た目…間違いないの!この子もハロウィンの精霊なの!!」

 

「こいつがハロウィン?あんまりハロウィン感無いと思うホー」

 

「そんなことないの!このカボチャの髑髏顔を見るの!」

 

「こいつのしけたカボチャ髑髏顔がどうかしたのかホ?」

 

「髑髏さんもハロウィンの風物詩!季節の飾り物なの!」

 

「俺サマの扱いは飾り物かよ…。お前がもしかして、ジャック・ランタンと共生している奴か?」

 

「私は御園かりん!ハロウィンが生んだ魔法少女なの!だから…その、貴方も…」

 

悪い癖がまた出るのかと察したランタンが止めに入る。

 

「やめとけホ、かりん。こいつなんだホ…最近神浜を騒がせてる…連続殺人鬼は」

 

「えっ…?それじゃあ、貴方は…大勢の人を殺戮したの…?」

 

それを問われたリパーは言い訳も思いつかず、視線を逸らす。

 

「マジカルきりんは正義の味方として悪者を倒す。…そんな()()()()()を目指してるはずだホ」

 

正義のマジカルきりんを目指すマジカルかりん。

 

ならば人類の敵は勧善懲悪作品のように殺さなければならないのだが…。

 

「…ねぇ、名前は何ていうの?」

 

「ロンドンを震え上がらせた切り裂き魔の悪魔…ジャック・リパーだ。それがどうかしたか?」

 

「リパー君…私は漫画の正義の怪盗少女が大好きだけど…あの世界観が全てじゃないと思うの」

 

「正義のヒーローだのヒロインだのが好きなヤツなのに、変わった奴だな?」

 

「悪者だって…罪を悔い改めたらやり直せる。そう信じたいの…」

 

「ケッ!悪人は所詮悪人よ!ムショにぶちこまれてようが、出所したらまた犯罪を犯すぜ!」

 

「そんなこと…ないの。元犯罪者の人達だってきっと…社会でやり直したいはずなの」

 

「……………」

 

「それを許さないのが…社会正義を求める人達。犯罪者をリンチするのが正義だって…酔ってる」

 

「全国でも犯罪者の更生などいらない意見が8割超え。フランス革命前の()()()()()()()()だホ」

 

「スケープゴートの生贄リンチは楽しいぜ。なのにお前は…漫画みたいな正義を求めないのか?」

 

「矛盾してるのは分かってるの。でも、私の大好きな漫画の世界だけが全てとは言いたくないの」

 

「よく分からない奴だなぁ、お前?どうしてそこまで…大人になれたんだ?」

 

それを聞かれた彼女は静かに目を瞑り、神浜で起きた騒動を語っていく。

 

聞かされたリパーは顔を俯けていった。

 

「…そんなことがあったのか。悪者を信じられなくなった奴がもたらした…恐怖政治の惨劇か」

 

「疑うことも大切だけど、信じることも大切だって…尚紀さんが身をもって教えてくれたの」

 

「…人間を大勢殺した俺でも、信じてくれるのか?」

 

「尚紀さんも、大勢の魔法少女を殺戮してしまったの。それでも今…やり直そうとしてくれてる」

 

「その尚紀…いや、俺も聞いたことがあった…あの人修羅と呼ばれた混沌悪魔を…信じるのか?」

 

「みんな…信じようとしてる。神浜の魔法少女達はみんな…()()()()()()()()()と分かったの」

 

――私ね、誰かの心の痛みが分かってあげれる大人に…なりたいの。

 

――罪を憎んで、悪魔を憎まずなの。

 

それを聞いたリパーの体が震えていき、再び土下座を行う。

 

「…姐さん!!すいませんでしたー!!!」

 

「ええっ!!?急に…どうしたの?」

 

「俺は悪魔だけど…心が洗われました!!何処までもついて行かせて下さいーッッ!!」

 

「それって…私の仲魔になりたいで、いいのかな?」

 

「オフコース!!俺は外道のジャック・リパーを改め、正義の怪盗に仕えるリパーになります!」

 

フィクション熱を盛り上げる単語を言ってきた。

 

かりんの目が輝き始める。

 

ジャック・ランタンは嫌な予感しかしない。

 

「今宵より汝は!正義の怪盗マジカルかりんの家来となる!我に永遠の忠誠を尽くすがいい!!」

 

「ははーっ!!俺サマのマイマスター!一生御傍を離れません!!」

 

盛り上がっている光景を前にしてもランタンは後ろに向き、両手をオーバーに上げる。

 

「思いついたの!リパー君の更生計画!」

 

「嫌な予感しかしないホ…」

 

「悪い魔獣や悪魔を一緒に退治して!仲魔の友情を築く展開は燃えるの!」

 

「俺はやるぞ!姐さんとやるぞ!外道人生から転生だー!!」

 

「リパー君の一般人救出作戦なの!ランタン君と同じように善行を積んで…罪を清算するの!」

 

「俺の人斬り包丁が人々を救う!マジカルかりんの懐刀とは俺サマのことだー!!」

 

(……馬鹿と鋏は使いようなのかホー)

 

悪党でも改心すれば世の中の役に立つ。

 

そんな価値観が普及してくれれば、犯罪者の処刑が民衆娯楽でしかない時代から抜け出せる。

 

中世暗黒時代の再来となった現代日本から抜け出せるのだ。

 

そんな時代は…21世紀のいつ訪れるのであろうか?

 

それは誰にも分からなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その後の悪魔達はどうなったのであろうか?

 

一部始終を見てみよう。

 

ところ変わってみかづき荘では…。

 

「そう……魔法少女の長を引退しても、魔法少女はまだ引退しないんだ?」

 

リビングのカウンター席に座って語り合うのはやちよとかなえである。

 

ソファー席にはみふゆの姿もあった。

 

「かなえとメルだけに命の危険を負わせるつもりはないわ。貴女達の命だって…守りたいの」

 

「でも、やちよ…それにみふゆ…」

 

「言いたいことは分かります。たしかに私達の魔力はもう衰える一方…それでも、まだやれます」

 

「二度と…貴女達を失いたくないのよ、かなえ。だからお願い…私とみふゆの我儘を許して」

 

危険を承知で再び共に戦いたいと言ってくれている。

 

そんな彼女達の身を案じる気持ちもあれば、その思いやりが嬉しい気持ちもあった。

 

「…分かった、メルにはあたしが話しておく。また数年前の頃に戻れるね」

 

写真を飾っている壁に視線を向ける。

 

そこにはソファー席に座って笑顔を向け合うやちよとみふゆとかなえの姿があった。

 

幸せだったあの頃は尚紀の力によって再び取り戻されたのだ。

 

「ん?壁の写真が沢山増えたね…。バイク乗りかぁ…あのやちよがねぇ」

 

「意外だったでしょ?私がやっちゃんに勧めたんですよ~♪」

 

「ねぇ、かなえ?もし良かったらさ……」

 

その先の言葉が分かるかなえは微笑みを返す。

 

「うん…あたしもね、昔からバイクに興味があったの。だからさ…あたしも、その…」

 

「勿論よ、かなえ!あぁ…貴女とも一緒にバイクツーリングが出来る日が来るだなんて…」

 

「はいはい!私も来年こそは大学に合格して、バイクの免許を絶対に取りますよー!」

 

「なら、あたしはみふゆに合わせて免許を取りに行くよ。参ったな…バイトを探さないと」

 

「フフッ♪ツーリング仲間の鶴乃も絶対に喜ぶわよ。みんなでかなえのバイクを選びましょう♪」

 

3人は昔に帰れたように仲良く談笑し、やちよが持ってるバイク雑誌を見ながら会話を楽しむ。

 

ふと忘れていた事を思い出したのか、かなえがやちよに向き直る。

 

「そ、その…やちよ。実はね、やちよに頼みがあったから…今日は遊びに来たんだ」

 

「私への頼み事?それは何かしら?」

 

「ちょっと外に来て。メルに作ってもらった物なんだけど…その、ハンカチは持ってた方がいい」

 

怪訝な顔を浮かべながら、やちよとみふゆは指示された通りハンカチを持って外に出る。

 

玄関の隣に置かれているのは妙な壺であった。

 

「か、かなえ…?この妙な壺は何……?」

 

「蓋を厳重に締めてますけど…中は何が入ってるんですか?」

 

「…うちは両親と仲が悪い。行方不明期間も長かったから…余計に険悪な空気なんだ」

 

「もしかして、かなえの訳有り私物を預かってもらいたいの…?」

 

「うん…そ、その…これはね……うん、臭いがね…キツイんだ」

 

厳重に締められた壺の蓋をかなえが開ける。

 

「「ぐぅっ!!?」」

 

悪臭が立ち込め、2人は思わずハンカチを鼻に当てる。

 

やちよとみふゆが恐る恐る壺の中を覗き込むのだが…。

 

「な…なに……この毒々しい見た目の液体は…?」

 

「毒々しいじゃなくて、毒なんだ……コレ」

 

「ええっ!?そんなの勝手に用意したんですか!?しかも…メルさんが作った!?」

 

「メルはね、悪魔化した時に魔導の知恵を手に入れた。あたしの槍を封印するための毒なのさ」

 

「かなえが手にした…新しい魔法武器よね?たしか、魔槍ルーンだったかしら?」

 

「あたしの魔槍は…戦いに飢えている。戦わないとあたしも襲う…呪われた槍なんだよ」

 

「そんな危ない武器をこれから使っていくんですか、かなえさん?」

 

「戦いの前に穂先を毒に漬ける儀式を行い、自分が燃え上がらないようにする御呪いがいるんだ」

 

「ケルト神話の武器の扱いは魔法少女の武器以上にデリケートなのね。でも…でもね…コレ」

 

「うん、凄く臭い…この毒が入った壺。えっと……ダメ?」

 

「や…やっちゃん……いいんですか、コレ置いて?」

 

不快な臭いを我慢しながら考え込んでいたが、みかづき荘の管理人は頷いてくれた。

 

「外に置いておくわ。モデルの仕事に行っている時でも自由に使えるような場所を用意するわね」

 

「感謝する。断られたら…尚紀の家に頼みに行こうかと考えてたよ」

 

「相談事も解決しましたし…家の中に戻りましょう。匂いが服につきそうで…」

 

「ごめん…迷惑をかける…」

 

みかづき荘に戻っていくかつての仲間達。

 

これからはメルも合流して、やちよが失った全てが蘇っていく幸福な人生が出発するのだ。

 

さて、新しい出発を迎えようとしているのは御園かりんも同じ。

 

彼女の元にやってきた新たなる仲魔は何をしているのだろうか?

 

ところ変わって御園家では。

 

「ふんふんふん~♪マジカルきりんは正義の怪盗~♪」

 

お風呂場で体を洗いながら鼻歌を歌うのはかりん。

 

中学生ではあるが成長期であり、乳房の大きさも年々膨らんでいく。

 

そんな成長期真っ盛りな主人のあられもない姿が隠された風呂場の外では…。

 

(おい、ランタン!もっと上に押し上げやがれ!!)

 

(しょうもない事に俺をつき合わせるんじゃねーホ!!)

 

(いいだろ暇してるんだし!姐さんの御背中を流す事は出来ねーが…見守る事は出来る!)

 

(飼い犬みたいに警備したかったら、家の外向いてるだけでいいホ)

 

(馬鹿!分からんのか!!姐さんの風呂場に突然殺人鬼が入り込んでくるかもしれないぞ!)

 

(元殺人鬼のお前が窓から侵入しようとしてるホ…)

 

呆れたランタンが両手を離す。

 

リパーは突然重力を感じ、両手に力を込めるが窓際から手が滑り尻餅をつく。

 

「いてて…突然手を離すことねーだろ!」

 

「殺人鬼から覗き魔に転生した奴には付き合ってられ…!?」

 

カボチャ頭がみるみると青くなっていくランタンに首を傾げる。

 

上を見上げれば…。

 

「……2人とも、なにをしてるの?」

 

涙目で震えながら胸を隠す主人のあられもない姿が窓から見える。

 

その右手には魔力が籠った石鹸が二つ握られていた。

 

「い、いやね…姐さん…」

 

「ち、違うホ…俺は関係ないホ…!!」

 

しらを切って逃げ出す2人の仲魔たちに向けてか弱い少女が叫ぶ。

 

「エッチなのは、ダメなのーーーッッ!!!」

 

放たれたマギア魔法キャンディーデススコールの一撃が迫りくる。

 

「「グエーーッッ!!?」」

 

逃げるジャックブラザーズであったが魔弾と化した石鹸が後頭部を直撃して倒れ込む。

 

勢いよく窓を締め、かりんは浴槽の中に入って体を隠してしまう。

 

「うん、そうだ…。今夜から寝る時はリパー君を柱に括り付けてから寝るの」

 

信じる事も大切だが、疑うことも大切だと尚紀から教わったかりんは独り頷く。

 

彼女の新しい幸福な人生?もまた、始まっていくのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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