人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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136話 口寄せ神社

旧約聖書の中にはサムエル記と呼ばれる古代ユダヤの歴史書の1つが存在している。

 

その中に登場するサムエルとはユダヤの預言者であり民族指導者だった人物。

 

後にイスラエルの指導者となり初代イスラエル王サウルを選出することとなった。

 

サムエルの死後、サウルはイスラエルの主神である唯一神に従う政治を行う。

 

しかしサウルの心はサムエルを失った深い不安と恐怖で塗り潰されていったのだ。

 

サムエル記上28:3-5

 

サムエルは既に死んでイスラエルの全ての人は彼のために悲しみ、その町ラマに葬った。

 

また先にサウルは口寄せや占い師をその地から追放した。

 

ペリシテ人が集まってきてシュネムに陣を取ったのでサウルはギルボアに陣を取った。

 

サウルはペリシテ人の軍勢を見て恐れ、その心はいたくおののいた。

 

サウルは口寄せや占星術などを行う魔術師達を唯一神の名の元に追放してきている。

 

ペリシテ人に恐れをなしたサウルはあろうことか()()()()()()()()()()()()()()()ようだ。

 

人の魂が天上のどこかで生き続けており死者には意識があるとする信条に人は陥る場合がある。

 

スピリチュアルに陥ったサウルは口寄せ術によって死したサムエルに頼ろうとしたのだ。

 

サムエル記上28:6-7

 

そこでサウルは主に伺いをたてたが主は夢によってもウリムによっても彼に答えられなかった。

 

サウルはしもべ達に言った、わたしのために口寄せの女を捜し出しなさい。

 

わたしは行ってその女に尋ねよう。

 

しもべたちは彼に言った。

 

見よ、エンドルにひとりの口寄せがいます。

 

こうしてサウルは口寄せ術が出来るという1人の女魔術師の元に向かう事となったのであった。

 

……………。

 

これはまだ燃やされていない頃の水名区での出来事である。

 

水名区を歩くのは学校からの帰り道を寄り道して水名神社に向かう2人の女子生徒達のようだ。

 

「水名神社はね、縁結びの神様がいる神社なの!」

 

「縁結び?」

 

「昔、水名の歴史で悲恋の物語があったそうなの。縁結びスタンプラリーは町おこしなの」

 

「アリナは町おこしイベントなんてやるつもりはないんですケド」

 

「アリナ先輩が求めている縁を与えてくれるかもしれないの!」

 

信心深い性格ではないアリナだが今は藁をも掴みたいほど心に余裕がない。

 

半信半疑ではあるが後輩の提案に乗り、水名神社にお参りをしようというのだ。

 

今日は土曜日であり観光客も多く見かける。

 

石段の前では巫女服を着た神社関係者が掃除をしているようなので声を掛けたようだ。

 

「ねぇ、少し質問がしたいんですケド」

 

「あら、いらっしゃい。今日は参拝に来たのかしら?」

 

「アリナは神道をろくに知らないワケ。水名神社はどんなゴッドを祀ってるワケ?」

 

「私は縁結びの神様だって聞いたの」

 

水名神社に興味を持ってくれたのが嬉しかったのか、巫女のお姉さんは笑顔で答えてくれる。

 

「水名神社に祀られた神はね、全国で御祭神として祀られる神様であるスサノオノミコトよ」

 

「スサノオ…?どんな神様なの?」

 

「古事記だとヤマタノオロチ退治で有名な神様であり、アマテラスとは兄妹姉弟なの」

 

「スサノオと水名神社って、どんな関係があったワケ?」

 

「この神浜市は海と隣接した地域。スサノオは水害から守ってくれるご利益があるのよ」

 

「スサノオのご利益はそれだけ?水名の悲恋の歴史物語に関わる縁結びとかはないの?」

 

「縁結びもあるわ。それに厄除け、子孫繁栄、病気平癒などもあるわね」

 

「やったの!アリナ先輩のスランプの病気も治してくれるの!」

 

「そんな簡単にいくわけないんですケド」

 

期待を持てそうにないと感じているアリナは石段を登っていく観光客にも視線を向ける。

 

「今日は人が多いし、アリナ的には鬱陶しいから帰りたいんですケド」

 

「そんなこと言わないの!それにしても、今日は本当に参拝客が多いの…」

 

「知らなかったの?この水名神社の蔵の中からね…ある神仏像が見つかって公開されてるのよ」

 

「ある神仏像…?」

 

興味を持つ態度をしているアリナに顔を向ける巫女のお姉さんは不気味な笑みを浮かべてくる。

 

「その神仏の名は……()()()()よ」

 

その神の名はかつてのボルテクス界に存在していた勢力の主神の一つ。

 

力の思想を掲げてマントラ軍を組織した存在こそが牛頭天王なのだ。

 

シジマ勢力に敗れたマントラ軍の牛頭天王は体が崩壊する最後を迎えることになってしまう。

 

しかし牛頭天王の意思を継ぎ、力の思想を掲げてコトワリを成そうとした女がかつていたのだ。

 

「牛頭天王…?牛の神様なの?」

 

「牛頭天王を知る日本人は今の時代だとほとんどいないわね。よかったら教えてあげるわよ?」

 

牛頭天王の名を聞いたアリナの顔から退屈していた表情が消えていき、興味深そうにしている。

 

「……教えて欲しいんですケド」

 

自分でもなぜ牛頭天王の事が気になるのかは彼女自身分かってはいない。

 

ただ彼女はその名を聞いた瞬間、抑えようもない興味が湧いたのだ。

 

牛頭天王とは明治政府による神仏分離政策が施行される前は広くあまねく信仰された存在。

 

神仏習合の神でありスサノオと同一視される程の神である。

 

「明治維新の神仏分離によって牛頭天王を祀っていた社はスサノオに変えさせられたのよ」

 

「それじゃあ…この水名神社で祀られていた神様は今の時代だとスサノオだけど…」

 

「明治以前は牛頭天王を祀っていたことになるわね。この神様は様々な神と同一視されるの」

 

「スサノオ以外には…どんなゴットと同一視されるワケ?」

 

「…中東の恐ろしい牛頭神とも同一視されるのよ」

 

「中東の恐ろしい牛頭神の名前は…何ていうの?」

 

中東の牛頭神の名を聞いてくる者達に向けて、不気味な笑みを浮かべる巫女が答えてくれる。

 

「その名は()()()()……モロクよ」

 

その神名を聞いた瞬間、アリナの心臓が大きく高鳴っていく。

 

かつての世界ボルテクス界においてシジマに敗れたのが牛頭天王。

 

その思想を継いだ少女は砕けた牛頭天王に残された力を継承させられる者となる。

 

彼女は魔人となり力の思想を掲げる者となったのだ。

 

魔丞という敬称が与えられた彼女が掲げた力の思想の名はヨスガ。

 

その者はミフナシロでマガツヒを大量に手に入れ、自らのコトワリを啓く守護をおろす。

 

守護と融合した魔丞となりし者はバアルの化身であるバアル・アバターという神となる。

 

バアルの化身となった者とは人修羅にされた嘉嶋尚紀の親友だった少女である()()()であった。

 

……………。

 

牛頭神という存在に対して渇望している力の可能性を感じた者が汗ばむ手を握り締めていく。

 

「どんな風に…その中東の牛の神様は恐ろしかったの?」

 

「子供の生贄を要求する神。涙の国の君主、母親の涙と子供達の血に塗れた魔王よ」

 

「そ、そんな恐ろしい神様が…どうして名前を変えたら皆から拝まれるの?」

 

「牛頭天王がバアル神なのかは定かではないの。インドのお寺の守護神としても扱われるのよ」

 

「そっちの方がいいの…。あれ?アリナ先輩は…?」

 

気が付けばアリナの姿はかりんの横にはいない。

 

周囲を探せば彼女は既に石段を登っていたようだ。

 

「ま、待ってなのーっ!アリナせんぱーい!!」

 

2人は鳥居を超えて参道の道を進んでいく。

 

拝殿に向かう参道には大きな橋がかけられており参拝客も多い。

 

拝殿までたどり着いた2人は奥に飾られた牛頭天王の像を発見したようだ。

 

「あれが神仏習合のゴッド…牛頭天王……」

 

「鬼のような頭部が三つ…それに牛の冠のようなモノも被ってるの…」

 

「これがバアルかもしれないゴッド…?アリナを救ってくれる縁結びのゴッド…?」

 

黙して何も語らない牛頭天王の像であるが、アリナは視線を逸らすことが出来ない

 

周りの参拝客の声も遠くなるほど彼女は神仏習合アートの形に見入ってしまった。

 

────────────────────────────────

 

聖書にまつわる絵画の中には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がある。

 

唯一神の命令を裏切り、口寄せを行う女魔術師のところに訪れたサウルと衛兵達の絵だ。

 

それがどれほどの罪であったのかは聖書のレビ記の中で石で打ち殺せと記される程である。

 

唯一神の忠実なる僕となったサウルであるが、それでも己の心には打ち勝てなかったようだ。

 

それほどまでに求めたのが女魔術師が行う口寄せ術である。

 

人間は解決出来ない問題に直面した時には神頼みをせずにはいられないもの。

 

神頼みをするかのようにサウルの前に現れた女魔術師が行った魔術こそが口寄せである。

 

彼の前に現れた存在とは本当に死者であるサムエルの霊であったのか?

 

旧約聖書の伝道の書の中では死者は何事も知らないし生きる者とは関わらないとある。

 

ヨハネの黙示録や福音書いおいては死霊の存在を疑え、()()()()()()()()()()と記されていた。

 

サムエルの霊なのかどうかも分からない存在がサウルに語ったのは自身を含めた親族の破滅。

 

その言葉に恐れおののいたサウルと衛兵を描いたシーンこそがエン・ドルの口寄せの家なのだ。

 

予言は成就してサウルと親族はペリシテ軍に追い詰められた末に剣の上に身を投げて自害した。

 

……………。

 

像に見入っていたアリナであるが我に返り、辺りを見回す。

 

周囲に人の姿はなく、隣にいたかりんの姿さえ見えないようだ。

 

「みんな…何処に消えたワケ…?」

 

魔獣の可能性を考えたが魔獣は結界内に引き込んだ人間の姿を消す存在などではない。

 

何かを感じ取ったのか彼女は後ろを振り返る。

 

そこで見た異界の景色に対してアリナの目は驚くようにして見開いていくのだ。

 

「なに…ここ……?」

 

参道を形成していた橋の道がまるで異次元にでもなったかのような無数の枝分かれしている。

 

橋の手摺には沢山の風車が飾られているようだ。

 

仏教において風車とは輪廻を表す回転であり、死して新たな再生を得る輪廻転生を表す道具だ。

 

「結界世界……でも、魔獣の結界じゃないんですケド……」

 

<<また会ったわね、獣の命を救う者よ>>

 

異次元のように枝分かれした橋の中央部分には先ほど会った巫女が立っている。

 

アリナはその声に誘われるようにして橋の中央部分に進んでいくのだ。

 

風車の数々が死と再生の転生を祝福するかのようにして回転していく中、アリナが口を開く。

 

「アナタが…この結界世界を生み出してるワケ?」

 

「ここは夢と現の狭間であり…私は貴女と出会った事がある者よ」

 

巫女姿が歪んでいき、黒い霧と化していく。

 

その中から現れたのはアリナを占ったことがある女占い師の姿。

 

妖艶なウィザード姿はまるで女魔術師を思わせてくる。

 

「アナタ…夢の中で見た占い師?だとしたら…アリナは立ったまま白昼夢を見てるワケ?」

 

「夢と現実、貴女にとってはどちらでもいいはず。貴女が求めるモノは現実にある?」

 

「……ない」

 

藁をも掴む気持ちとなり、彼女は女魔術師の元へと近づいていく。

 

その道が永遠に出る事が出来ない冥界であろうとも、そこにある可能性に触れたい。

 

そのためなら彼女は魔法少女契約をした時と同じく死を懸けてでも飛び降りるだろう。

 

その異常行動はまるで初代イスラエル王サウルのようであった。

 

「……アリナに与えてくれるの?」

 

眼前にまで来たアリナのために謎の女はフードを上げて素顔を見せながら質問してくる。

 

「貴女は何を求めているのかしら?」

 

「……アリナの美のテーマ」

 

「それは死と再生?」

 

アリナは静かに頷きながら悔しい感情と共に語ってくれる。

 

「アリナはね…魔法少女になっても…得られなかった……」

 

「貴女の美も得られないまま無為な魔法少女人生を送ってしまったわけね」

 

「こんなことなら…あのとき野垂れ死にしてたら良かったんですケド」

 

「そんな辛い人生の中でも貴女の美とも言い換えれる存在を目にしなかったの?」

 

「アリナの美と言い換えれる存在…?」

 

「たとえば、後輩の御園かりん」

 

「フールガールが…アリナの美?」

 

「貴女を慕う彼女は貴女から孤独を遠ざけてくれるのではないの?救いにはならない?」

 

少し考え込むが、アリナは首を横に振ってしまう。

 

「一緒にいてくれるのは嬉しくても…ハートは同じじゃないんですケド」

 

「それは彼女が求める真善美の世界と、貴女が求める醜悪美との間に広がる溝のことね?」

 

「ラブとジャスティスが勝利する物語のノリを押し付けられるのは…耐えられない」

 

「貴女は貴女の正しさがあっていい。それが本当の自由であり誰であろうと侵害は許されない」

 

「アリナが求めるのはヒューマンのデス。誰かのデス…アリナのデス…禁忌とされるイメージ」

 

腐った果てに白骨化して焼かれて灰になり、そして蘇る。

 

屋外にうち捨てられた死体が朽ちていく経過、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

夢と現の狭間において彼女は包み隠さず自分の求めるモノを女魔術師に伝えてくれる。

 

それを聞いた女魔術師は満足そうな笑みを浮かべてくれたようだ。

 

「九相図…仏教絵画にもあるわね。貴女は仏教徒のように人の死を禁忌とはしていない」

 

「デスは始まりに過ぎない、そうアリナは考える。仏になるって考える仏教徒と同じだヨネ」

 

「そんな貴女だからこそ東京で起こった1・28事件の時に現れた存在を忘れられないはずよ」

 

「あの事件はアリナにセンセーショナルを巻き起こしてくれた…でも…もう見つからない…」

 

「あの事件動画や画像は世界中の国家から検閲されて処分されてきたものね…仕方ないわ」

 

「アリナは…あの存在をもう一度見てみたい、触れてみたい…」

 

「あの存在に…何を貴女は見出せたの?」

 

真っ直ぐ見つめてくるアリナは恐ろしい言葉を言葉にしてしまう。

 

「並ぶもののないデス。それを撒き散らし…救いを与えてくれると感じられた程の感動…」

 

満足のいく答えを与えてくれた女魔術師は両手を彼女の顔に近づけてくる。

 

「ワッツ…!?」

 

両手を頬に当て、おでこを彼女のおでこにくっつけてくるようだ。

 

「人修羅の本質をたった一度見ただけで言い表せれる貴女だからこそ…見せてあげるわ」

 

その言葉が聞こえた瞬間、アリナの景色は死への門を潜り抜けてしまう。

 

かつての世界の輪廻が断ち切られた死の光景へと誘われたのであった。

 

────────────────────────────────

 

そこは何も無く、在るのは暗闇に包まれた大地のみの世界。

 

<<なに……なにが、おこったワケ?>>

 

意識だけが暗闇の世界を漂うのだが、視線の先で佇む発光した入れ墨を纏う者を見つける。

 

<あぁ……アレ…アレなワケ!!>>

 

その光る刺青を纏う者の心は既に堕ちている。

 

そして暗闇の世界に木霊するのは大いなる闇の言葉の数々なのだ。

 

<<この声は……?あの喪服姿のチャイルドは……?>>

 

少女の意識は刺青の悪魔と喪服姿の子供と老婆に向けられていく。

 

<<ここが貴女が求めた美のテーマの極致よ>>

 

女魔術師の声だけがアリナの意識の中に響いてくる。

 

<<アリナが求めた…美のテーマ?パワーを尽くして辿り着いた…極致?>>

 

<<かつて在った並行世界。その世界は死という消滅が行われたの>>

 

<<パラレルワールドのデス…?滅亡が…他のワールドで…?>>

 

<<そこでは次の世界の在り方を決める再生の儀式が行われたの>>

 

<<ワールドのデスと…リバースの儀式……>>

 

<<あの者は悪魔となって生き残れた。だけど他の人間達は数名を除いて絶滅したわ>>

 

<<ワールドのデス&リバース……アレは……アレは何者なワケ…?>>

 

<<名は人修羅。死と再生の儀式において全てのコトワリ神を滅ぼし、無限光を破壊した者>>

 

<<人修羅…?コトワリ神…?円環のコトワリみたいなゴッドを全て破壊したデビル…?>>

 

<<世界の輪廻は断ち切られ、世界の死によって生まれるはずだった世界は消えてしまった>>

 

<<待って…それじゃあ…ワールドリバースは…起こらない?>>

 

<<世界は死滅したけれど…ここが貴女の美の極致だと語った意味を深く観察しなさい>>

 

少女の意識は見届けることになるだろう。

 

大いなる神が生んだ最高の闇の力と、大いなる闇と呼ばれた大魔王が生み出した混沌の力を。

 

<<あ……あぁ……>>

 

少女の意識は理解した。

 

一つの宇宙が死滅するという究極の死によって生み出された究極の再生を司る大いなる存在。

 

それこそが混沌を統べる闇の覇王となりし人修羅だったのだと。

 

大いなる闇である大魔王ルシファーと互角の戦いを行えた人修羅は認められる者となる。

 

大魔王の全ての配下である魔神や堕天使達の王として認められた悪魔となった。

 

世界の死という犠牲を払って生み出された偉大なる混沌王誕生の瞬間が祝福されたのだ。

 

<<死と再生を求めし者よ…観えるでしょう?世界の死と引き換えにして生まれた者達を…>>

 

<<観える…アリナには観える!ワールドのデスと引き換えにして生まれたリバースが!!>>

 

混沌王となった人修羅と共に在るのは混沌の闇を統べる悪魔の大軍勢である。

 

<<アリナが求めたかったアートの形は…デビル達の……()()()()()()()()()()()!!>>

 

自分が求めた究極の美に触れた少女の意識が闇の中へと消えていくのだが何かを感じている。

 

それは今まで生きてきた中で最高だった感動と共に伝う涙の感触を感じていたのであった。

 

……………。

 

目を覚ましたアリナであるが、橋の地面に視線を向ける。

 

そこに描かれていたのは自分を取り囲むようにして描かれた赤き六芒星。

 

魔法陣の四方に描かれた血のように赤く光る文字はバアル神が召喚された召喚陣と同じ代物だ。

 

驚愕するアリナに対して離れた位置に立つ女魔術師が右手をかざしてくる。

 

「召喚魔術は降霊術や口寄せと言われててね…場合によっては()()()()とも言われるわ」

 

中世後期の降霊術は一般にネクロマンシー と言われており、死者の口寄せ術という。

 

死者を介した予言を行う目的で利用されてきたのだ。

 

しかし死者など存在しないと考えるのなら、現れるのは死者に擬態した悪魔の類だろう。

 

「アリナに…何をする気なワケ!?」

 

魔法少女に変身して魔法武器であるキューブを生み出すがもう遅過ぎる。

 

既に魔法陣の鼓動は高まっており、赤黒い波動が陣から生み出し続けられているのだ。

 

<<美を求める者よ。美しさを求めるのなら力を求めなさい。並ぶ者のない比類なき力を>>

 

アリナの脳に直接響いてきたのは女魔術師とは違う少女の声である。

 

その声を人修羅が聞けば誰なのかは直ぐに分かるだろう人物の声であった。

 

「アナタは……!?」

 

神々しくも恐ろしい声に震えてしまうアリナであるが、女魔術師は容赦しないだろう。

 

「魔法少女になり、肉体という器を捨てた者よ。その捨てた肉体…使()()()()()()()()()

 

召喚陣からバアルを象徴するかの如くゲヘナの炎が噴き上がる。

 

「アァァァーーーーーッッ!!?」

 

まるで体の中に入り込むかのようにして叫ぶ者の口から炎が入り込む地獄が広がっていく。

 

体が痙攣して白目を剥くほどアリナは悶絶していくのだ。

 

「…地獄より蘇りし鬼火。その鬼火とは…()()()()()()()()()()()()()()()よ」

 

内側を焼き尽くす程の炎を飲み込んだアリナが倒れ込み、意識を失ってしまう。

 

見届けたのは女魔術師のフリをしたリリスと、もう一体の悪魔であった。

 

「この娘の外側の器には…かつての世界において力の思想を掲げた者の霊が宿ることとなる」

 

橋の手摺に舞い降りてきたのはアモンと呼ばれる梟の姿をした悪魔であり、口を開いていく。

 

「この子にとっては死を意味することになるだろう存在ね。でも…死は始まりに過ぎないわ」

 

「この娘の哲学通りの末路を吾輩達が用意してやらねばな」

 

「弱き者から生まれ変わり、強き者へと至るには…死と再生が必要なのよ」

 

「その道に至れる至高の器となる事が出来るかどうかは…見物だな」

 

倒れ込んだアリナの左手から転がっている()()()()()()()()()()()()に悪魔達は視線を向ける。

 

「この娘の魔法武器の形状こそ閣下を象徴する金星に至れる者である事を示唆するだろう」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()こそ…金星のルシファーと土星のサタンを表すわ」

 

リリスが衣装のポケットから取り出したのは赤い林檎のようだ。

 

「貴女もまた閣下と同じく知恵を司る事になる。だからこそ、貴女にもこれは相応しいわ」

 

彼女は倒れたアリナの左掌内に林檎をそっと持たせてくれる。

 

踵を返したリリスは異界を後にしていくのだ。

 

「励むがいい、暁の星よ。お前が金星となりし時には…梟である吾輩もまたお前と共に在ろう」

 

翼を羽ばたかせたアモンもまたリリスの頭上を越えながら異界を去っていく。

 

世界が白くホワイトアウトしていく中、アリナの姿も消えていった。

 

────────────────────────────────

 

「……先輩!!……アリナ先輩っ!!!」

 

大きな声に反応した瞼が開いていく。

 

「よかった…気が付いてくれたの!」

 

体を起こして周囲を見回すと神職や巫女が働く社務所のソファーであることに気が付くのだ。

 

「……アリナ、なんでこんな場所で寝てたワケ?」

 

「拝殿に祀られた牛の神様の像を見てたアリナ先輩は…突然倒れたの」

 

「……ソーリー。迷惑かけたみたいなんですケド」

 

「神様に参拝したらご利益があると思ったけど…余計にアリナ先輩を苦しめただけだったの…」

 

深々と頭を下げて謝るかりんを見た彼女は首を横に振ってくれる。

 

「ノー。フールガールのお陰でさ…今のアリナは…死んで生まれ変わったような気分!」

 

勢いよく立ち上がった彼女は大急ぎで社務所から出ていってしまう。

 

「ま、待ってなの!アリナ先輩っ!!」

 

走って帰るアリナを追いかけようとしたかりんだったが置いて行かれてしまったようだ。

 

大切な後輩の姿さえ見えないほど今のアリナの内側は激しい衝動に突き動かされている。

 

「空っぽだったアリナの中に強い鼓動を感じる!今のアリナなら…アリナの美を描ける!!」

 

舞い上がるほど無邪気になれるぐらい神の御利益を得たアリナの新たな道が始まっていった。

 

…………。

 

その後のアリナは目覚ましい活躍を見せていく。

 

スランプだったのが嘘だったかのように思えるほど様々なアートを形作っていくのだ。

 

アリナのアートとは象徴主義的な絵画である。

 

不変の存在である生命の死と再生という概念に彼女の感性的な形態を纏わせる芸術なのだ。

 

その絵画の数々は観念的であり象徴的であり総合的。

 

彼女の内面的な主観を用いて諸々の形態や記号を総体的に理解される形で描く。

 

アリナの観念に他人が感受可能な形を着せた芸術、それこそが悪魔と呼ばれる概念存在。

 

象徴派は自然主義者とは対照的な形を好む。

 

人の内面部分である魂・霊・精神、この世ならざるスピリチュアルな領域を表現するのだ。

 

禁忌とされながらもそこに美しさを求めずにはいられない表現者や宗教家達が存在している。

 

民衆とて忌み嫌いながらもアリナのアートを見ずにはいられないだろう。

 

死というタブーの先にこそお花畑や輪廻転生という概念を用いた死と再生の美があるのだから。

 

蘇った天才アーティストに対して人々は尊敬と畏怖を込めてこう呼ぶようになっていくだろう。

 

アリナというアーティストを表す異名こそ、()()()()であった。

 

……………。

 

あの日を境にして御園かりんは先輩の言動に違和感を感じる時が度々起きていく。

 

夏の時期、共に海を楽しみに行った時もそうであった。

 

美術室で黙々と絵を描いていくアリナの姿を横から見つめる心配する日々が続くようだ。

 

(アリナ先輩…一緒に水名の神社に行った日から…おかしな事を言い出したの…)

 

それはアリナと思えない言葉を喋るようになったことを表しているようだ。

 

ジロジロ見つめると怒られるから描いている絵画に視線を移していく。

 

そこに描かれていたのは痩せ細った獣が人間の臓腑を生きたまま喰らう絵画であった。

 

「…なんでアリナ先輩は…その…そんな怖い絵を描きたいって思うの?」

 

それを聞いた彼女の手が止まる。

 

「前にも増して死に取り憑かれているような…別人じゃないかと思う時もあるの…」

 

今の彼女を客観的に語った言葉を聞いたアリナは笑みを浮かべてくれる。

 

「アリナはね、何も生み出せない弱いアリナを…死なせることが出来たワケ」

 

「スランプだった頃のアリナ先輩は…弱いアリナ先輩?」

 

「観て、このアートを。これが怖いっていうのは…どういう部分が怖いワケ?」

 

「……人が無残に殺されるシーンを見るのは恐ろしい気分なの」

 

「それはヒューマンしか見ていないカラ。ミートを喰らうビーストを見ても何も感じない?」

 

「……怖いけど、酷く痩せ細っているようには見えるの」

 

「このビーストは食べ物が得られず死にかけていた。そこにヒューマンが迷い込んで来た」

 

「その獣は…お腹が空いていたから…人間を襲う?」

 

「それが恐ろしいと感じる?フールガールだってお腹が空いたらフードを食べたくならない?」

 

「それは…そうだけど……」

 

「このビーストはヒューマンを殺して生き残る権利を得た。運命に選ばれた存在なワケ」

 

「運命に選ばれた存在…?」

 

「それは生命に特別な優越性を与えてくれる。エクスタシーさえ感じさせてくれる」

 

「エクスタシー…?それが選ばれた存在だと考える気持ち…?」

 

「今のアリナはね、エクスタシーに満ちている。アリナは死んで生まれ変わるために選ばれた」

 

「選ばれた人……選民…?」

 

「このエクスタシーをアリナは手に入れたい。アリナのアートを高みに上げるためにもね」

 

「そのためなら…誰かに怖い思いをさせてもいいと考えるの?」

 

「逆の選民主義もある。ヒューマンを救うのを勝手に天命だと感じて選民だと思う思想だヨネ」

 

「私はそっちの選民の方がいいの。私がマジカルきりんのようになれたのは…運命だと思うの」

 

「お互いに脱我的エクスタシーを求め合う者同士ってワケね。もっとも…方向性は違うケド」

 

会話を終えたアリナは作業に没頭していく。

 

痩せ細った飢えた獣を救う者とリリスに言われた事があるアリナ・グレイ。

 

その者はそれを体現することとなるだろう。

 

自分の思想が壊れていた事に気が付いた赤き獣と呼ばれし人修羅との邂逅を果たす時がくる。

 

心が飢えた獣に対して生きる糧を与えることになるのだ。

 

間違いは修正してでも勝ち取るという生きる糧を人修羅に授けたアリナ・グレイ。

 

その光景はまさに()()()()()()()であった。

 

……………。

 

8月に入った頃の東京において成田国際空港の滑走路に旅客機が着陸していく。

 

暫くして長身の外国人がコンコースの通路に現れるのだ。

 

長身痩躯で漆黒の肌を持ち、オールバックにした白髪の額には赤い五芒星のタトゥーを刻む。

 

黒のカソックコートを纏う姿は黒人神父を思わせるのだ。

 

ターミナルビルの外に待たせていた者に対してサングラスを指で押し上げながら視線を向ける。

 

We've been waiting for you. Mr. Sid Davis.(お待ちしてました、シド・デイビス様)

 

深々と頭を下げる黒スーツ姿の男に対してシドと呼ばれた男が口を開く。

 

「英語は必要ありませン。私ハ、日本語を勉強していまス」

 

「失礼いたしました。どうぞお乗りください」

 

後部座席の扉を開けられた後、シドは後部座席に乗り込んでいく。

 

発進していく光景の中、車内ではシドがコートのポケットから写真を取り出すのだ。

 

「この人物ガ…アリナ・グレイと呼ばれる魔法少女…」

 

「彼女は神浜市と呼ばれる街で魔法少女をしている人物だと突き止めております」

 

「もっとモ、魔法少女としてよりハ…アーティストとしての顔の方が有名ですネ」

 

「…イルミナティの金融家達の間でも彼女のアートは評判だと聞いております」

 

「私が日本に訪れた目的とハ、彼女を勧誘することでス」

 

「フリーメイソンに…ですか?」

 

「その使命を私は啓蒙の神より授かっていまス。入団儀礼の場にハ…バアル神もおいで下さル」

 

「モ…モロク様まで!?それほどまでの存在なのですか…?たかが魔法少女だというのに…」

 

「魔法少女の中にはアセンションした者がいまス。魔法少女とは条理を覆す存在なのですヨ」

 

車の進行方向には神浜市が見えてくる。

 

シド・デイビスとの出会いによってアリナ・グレイは死ぬことになるだろう。

 

人間としての人生の死。

 

人の道理の死。

 

魔法少女としての死が約束される。

 

そして彼女は生まれ変わるだろう。

 

選ばれし者として死と再生の美を極める者の道を進んでいくのだ。

 

選民思想とは時に自分を卑下する道だとも言われている。

 

他者よりも多くの責任を負い、自己をより多く犠牲にすると考えることにも繋がるからだろう。

 

それを体現したのが死と再生を象徴する存在の1人であるイエス・キリストなのだ。

 

だがアリナは責任を背負う覚悟を持つ者。

 

責任から逃げようとはしない、他人に流されない強き者なのだ。

 

だからこそ彼女の外側の器には弱い自分を捨て去り、強者として生まれ変わった霊が宿る。

 

ヨスガのコトワリ神となった者、橘千晶の霊はアリナと共に生きる者となってくれた。

 




4章ではシジマを取り扱いましたので、5章ではヨスガを取り扱っていくことになるかと思います(汗)
水名神社シーンは、アニメのマギレコで見た水名神社結界をまんまパクってしまった(汗)
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