人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
オルガンの音色が教会に響く中、佐倉牧師と棺、それに喪主が礼拝堂に入場してくる。
葬儀参列者は児童養護施設関係者や風華と縁のあった外国人信徒の方々が集まってくれる。
「イエスは言われた。私は蘇りです、命です。私を信じる者は死んでも生きるのです」
聖書の一節が朗読されていき、賛美歌の斉唱が行われた後、佐倉牧師の説教が始まっていく。
信徒であるシスター風実風華への弔辞と弔電が紹介され、オルガンの演奏と共に黙祷を捧げる。
「ぐすっ…ふう姉ちゃん…どうして…どうしてぇ……」
佐倉牧師が告別の祈りを捧げた後、献花が始まっていく。
喪服姿の杏子は涙を零し、姉のように思えた人の遺体に生花を添える。
その手には今となっては遺品となってしまった風華のリボンが握り締められている。
モモは幼過ぎて風華が死んだ事を理解出来ず、葬儀には参列していない。
「……安らかに眠れ、風華」
尚紀は無表情のまま風華の顔の横に生花を献花するのみ。
最後に遺族がいない風華の代わりに児童養護施設の職員が最後の挨拶を行い、葬儀は終わる。
火葬場に送られていく風華の棺を尚紀は共について行く事はしなかったようだ。
「あれは外側の存在…本当の風華の成れの果ては…俺のポケットの中にある…」
そのグリーフシードは多くの人達の悲しみや慟哭の感情を吸収して孵化しようとする。
「………こうするしかないよな」
彼は風華のグリーフシードをあろうことか飲み込んでしまう。
「俺の中で生き続けろ……風華」
悪魔の中で感情エネルギーとして吸収される事で風実風華は彼と一心同体となるのであった。
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「ふ……風華ちゃん!?」
雪の降る日、風華の遺体を教会に持って帰ったのは尚紀である。
「俺…ガキだからさ…こいつの遺体を…どうしてやったらいいか…分からない…」
「君は何も言わなくていい!!私が…私が全て手配する!自分を責めるんじゃない!!」
事件性があったため警察への連絡や葬儀のための準備を佐倉牧師が進めてくれる。
遺体の第一発見者として尚紀は警察から事情聴取が行われていくようだ。
「それで?遺体の第一発見者の君は…犯人らしき人物を見かけなかったと?」
「……ああ。俺が見つけた時には…この有様だったんだ…」
魔法少女に殺されたなどとは警察に話せるはずもないため、彼は嘘でごまかしてしまう。
検察の検死があるため葬儀までには時間がかかっていく。
風華の遺骨は佐倉牧師の教会墓地に墓が作られて収められることとなるようだ。
「簡素な墓でも…風華がこの世界に生きた証としては十分だな…お前を決して忘れない…」
その日から彼にとっては空白ともいえる一ヶ月の時間が流れていく。
教会の仕事も手がつかず、食事さえ行わずに毎日彼女の後ろに座り込む。
寒かろうが雪が降ろうが墓の後ろでただただ座り込み続けてしまう。
守る事が出来なかった己の非力さと運命を呪う事しか出来ない彼の姿がそこにはあるのだ。
「尚紀……ご飯食べないと……」
「…………」
「せめてリンゴだけでも……」
「…………」
佐倉牧師の家族達も彼の哀れな姿をとても心配している。
空虚な毎日が過ぎていく中、彼は壊れたラジカセのように一つの言葉を繰り返し続ける。
「チェンシー……」
あの時に風華を殺した者の名前を繰り返す度に心には呪いの炎が吹き上がっていく。
(このままで終わらせるつもりはない…チェンシーともう一人の魔法少女を必ず探し出す…)
――生まれてきたことを……必ず後悔させてやる。
空白の一ヶ月は復讐の業火となった牙を燃え上がらせる日々でしかなかった。
♦
雪が降りしきる中、尚紀はいつもの席で座っている。
彼の元に歩いてきた後、膝を折って座り込んだ人物は佐倉牧師のようだ。
「尚紀君……君のせいじゃない。そう自分を責めてはいけない」
佐倉牧師は彼を励まそうとしているが、その声は届かない。
(この少年の心は…あまりにも傷つき過ぎた。風華ちゃんの事を愛していたのだろう…)
守れなかった自責の念と憎しみによって彼の心は闇の中へと誘われている。
(迷いし者を導く事こそ牧師の道を目指したきっかけだ。この少年を救えずして…何が牧師だ)
佐倉牧師は聖書にある一節を口にし始める。
「求めよ、そうすれば、与えられるであろう」
「俺に…神の言葉を投げかけるな…」
父なる神が生み出した宇宙、そして宇宙を導く残酷な秩序。
その犠牲となったのが一人の魔法少女である。
「俺は…あんたに言われた道を見つけた…でも、その道は閉ざされてしまった…」
流れ着いたこの世界で希望を持ち、魔法少女の運命を自分なら変えられると信じてしまう。
「神の運命は…俺から大切な人を奪い続けるんだ……」
「そうか…神の言葉では君の心を救うことは出来ないか…」
自分を呪った神の言葉など嘲笑いにしか聞こえない。
尚紀の魂の慟哭に対して佐倉牧師は目頭を抑えながら涙を零す。
(この少年の心には神の言葉では足りない…
何が必要なのかを神の教えを説く牧師としてではなく、人間として考えてくれる。
(私自身が見つけなければならない。神の言葉に代わる何かを……)
求めよ、そうすれば、与えられるであろうと説法した者として彼の肩を両手で掴む。
「尚紀君、聞いて欲しい…。これは神の言葉ではない……
「……あんたの?」
「迷いというものは、ああなりたいという欲望から生まれる。それを捨てれば問題はなくなる」
「欲望を……捨てる?」
「人は迷って当然だ。大切なことは、君が納得することだと思う」
「俺が納得すること……?」
「迷う自分を受け入れ、自分が本当に納得出来るものを…君自身が見つけなければならない」
「俺自身が納得するもの……」
こんな自分でも迷いを受け入れ、納得する事が出来るものなのかと考え込む。
(……風華が死んだ時、あの子は何を俺に託した?)
あの子が守ろうとしたものがある。
かけがえのない人達を守るために力を使ってくれと託した言葉が脳裏を過る。
(俺は約束したが…出来るのか?迷いを捨て去り…あいつと同じ道を生きる事が出来るのか?)
出来る出来ないじゃない、約束したんだと彼の心が叫んでくる。
(風華の考えや行為を理解し、認めて…あの子の意思を引き継ぐ……)
それが俺の納得なんじゃないのか?と彼の心が叫んでくる。
「人は迷った時にこそ自分が本当に進みたい道が見える。君はもう一度道を見つけられるか?」
「……ああ、見つけてやるさ。見つけて……みせるとも」
墓から立ち上がる尚紀であるが、その目にはもう迷いはない。
「ありがとう、佐倉牧師。あんたの
「人間の言葉……?」
「俺の心を見つめてくれたのは…風華以外じゃあんただけだな」
「私が……君の心を見る?」
「あんたなら進めるさ…人々の心から迷いをとり払える道をな」
「私の道……」
彼の言葉が胸を貫いた佐倉牧師は首にぶら下がる十字架を強く握り締める。
部屋に帰る後ろ姿を見守りながら自分の道について心に問いかけ続けたようだ。
「人の心に目を向け、人間の言葉で人々の迷いを払うか…私にも…出来るだろうか?」
一人の人間である男の言葉で皆に救いを与える道。
それこそが悪魔と触れ合った佐倉牧師にとって新たな道になる可能性が芽生えるのであった。
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最後の起床を終えた尚紀は自分の私物を纏めてカバンに入れる。
「この部屋を見るのも今日が最後か……」
用意してもらったカバンを手に持ちながら自分の家となった場所を後にする。
季節はもう3月の温かさが近づいてきている頃の出来事だ。
「尚紀……本当に行っちゃうの?」
「なおきおにいたん…いかないでぇ…」
寂しそうな杏子とモモの頭を彼は微笑みながら撫でてくれる。
「ふう姉ちゃんが死んだのに…尚紀までいなくなるなんて……」
「ぐすっ……ひっぐ……うぇぇぇぇ……ッッ!!」
「……来年の風華の一周忌には、また戻ってくるさ」
別れが名残惜しい杏子とモモの肩に手を置きながらも佐倉牧師夫婦にも最後の別れを伝える。
「君が見つけた道…それはきっと苦難に満ちた道のりだろう…」
「いいんだ…もう決めたことだ。俺の道は…戦いの道となる」
魔女だけでなく風華が守ろうとした人間達に危害を与えようとする魔法少女とも戦う。
報復の危険が常に付き纏う道になるだろう。
だからこそ佐倉牧師の家族達の元にいるわけにはいかない。
「君が求める人を救う道に祝福がある事を願う。私も…自分自身の道を探してみるよ」
「今まで世話になったな。本当に有難う、佐倉牧師」
二人は固い握手を交わした後、それぞれの道を歩む事となっていく。
風見野市から出ていく彼の姿も今は遠く。
風見野市を魔女から守る存在はこの時点でいなくなるだろう。
だが程なくして人見リナと呼ばれる魔法少女が現れて人間を守ってくれるようになる。
そしてもう一人、彼がよく知る人物が魔法少女になる事は今の時点では分からないのであった。
♦
「俺にとっては第二の故郷と呼べる風見野市も…遠く過ぎ去ったか……」
写真立てに収められた一枚の写真を取り出す。
風実風華、佐倉牧師、佐倉杏子、佐倉モモ、佐倉牧師の妻が写る大切な思い出を見つめていく。
「この出会いの思い出は…俺の永遠の宝になってくれるだろう」
カバンに写真を入れ戻した後、向かう先に目を向ける。
「交わした約束を守る…たしか約束といえば…マサカドゥスをくれた将門とも約束があったな」
かつてのボルテクス界において東京の守護者となる約束を将門公と交わしている。
人なる悪魔である人修羅は交わした二つの約束を果たす責務を背負う事になるだろう。
だからこそ、彼が向かう先は決まっているのだ。
歩く先には懐かしい景色が見えてくる。
人間である嘉嶋尚紀が生きた最初の故郷、東京の街並みが眼前に広がっていくのであった。
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「私が見つけた道は苦難となる…妻には泣かれてしまったが付いて行くと言ってくれるか…」
自分には過ぎた良妻だと佐倉牧師は心の中で感謝する。
そして子供達には辛い日々を与えてしまう事を謝りぬいてしまうようだ。
礼拝堂には熱心なキリスト教の信徒達が集まってくれている。
「私は…彼らに伝えなければならない。新しい時代を救うには
自分の胸に身に着けた新しい信仰のシンボルを握り締めていく。
「人間の心に目を向けて欲しい…私もそれを信じよう」
佐倉牧師は祭壇前の演説台に立ち、キリスト教徒達に新しい教義を伝えてしまう時がくる。
「皆さん聞いて下さい!私は気が付いた!人々を救うには神の言葉だけでは足りないと!!」
突然の演説に対して礼拝堂がざわめいていく。
その原因はキリスト教徒達の信仰を否定していく演説内容だからだろう。
「人の心に目を向けて欲しい!人の言葉で語りかけるのです!神の言葉では救済を成せない!」
「馬鹿な!!お前は何を言っているのか分かっているのか!?」
熱心な信徒が佐倉牧師の演説内容を非難してしまう。
「お前は我らの主であるキリストの言葉を否定するのか!?お前はそれでも牧師なのか!!」
「何という罪深い発言を……恥を知りなさい!!」
「これはイエスへの裏切り行為だ!!お前はイスカリオテのユダになろうというのか!?」
「これは立派な教団への背信行為ですよ…佐倉牧師!!」
次々と佐倉牧師を罵倒する者達が席を立ち上がり続ける。
「皆さん!自身の欲望を捨てて下さい!!そうすれば迷いは晴れるのです!!」
「黙れ!!人々を迷わせているのは貴様の方だ!!」
「裏切り者め!!お前はもうキリスト教徒として終わりを迎えたぞ!!」
礼拝堂の扉の横では震え上がっている佐倉牧師の妻と子供達が立っている。
(家族達に慈悲を乞うしかない。これが…私の進む…人々の救済への道なのだ!!)
「人間を救うのは神ではない!!人間なのです!!!」
両手を大きく広げながら思いを皆に伝えたのだが、結果は残酷そのもの。
キリスト教信徒達は次々と席を立ち上がりながら礼拝堂を出ていってしまう。
佐倉牧師の声に耳を傾け残ってくれた人は誰もいなかったようだ。
両膝に力が入らなくなった佐倉牧師は演説代の前で崩れてしまう。
「なぜ人の言葉では駄目なのだ…神の言葉という伝統でなければ人々は受け入れないのか…?」
神は決して人間に手を差し伸べてはくれなかった事を佐倉牧師は知っている。
人間に手を差し伸べる事が出来るのは人間だけだと佐倉牧師は経験している。
「何故なんだ!?なぜ……?うぉぉぉぉぉーーーー……ッッ!!!」
♦
程なくして佐倉牧師は所属していた教会団体を破門される事となっていく。
教会にあった信仰の象徴である祭壇と十字架も取り除かれてしまうだろう。
残ったのは虚しい説教を行うだけの演説台だけである。
「これからの家族は…教団からの支援は一切受けられない……」
自分達の力だけで道を切り開いていくしかない苦難の人生が始まっていく。
読んで頂き、有難うございます。