人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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139話 死と再生の悪魔

かつて暁美ほむらの試練として立ち塞がり戦った7体の魔人。

 

黙示録の4騎士の中には反キリストを象徴する騎士ホワイトライダーがいた。

 

その者は鍛えた弟子とも言えるだろう暁美ほむらに敗れた時、言葉を残す。

 

――ヨハネ黙示録…全テハ、聖書ニ記サレタ運命ヲ辿ル…ソレヲ実行スル者達ガイル限リ。

 

――200人ノ天使カラナル集団ノ長シェムハザハ、カルメル山ニ降リタ。

 

――守護天使ヲ気取ル奴ラ、堕天使共ハ…新妻ニ魔術ヲ教エタ。

 

――ソノ結果…ネフィリムノ名デ知ラレル巨人ガ産マレタ。

 

世界にカニバリズムをもたらしたアナクの子孫ネフィリムと呼ばれる突然変異体。

 

聖書の中にも記述がある。

 

創世記 6:4

 

当時もその後も、地上にはネフィリムがいた。

 

これは、神の子らが人の娘達のところに入って産ませた者であり、大昔の名高い英雄達であった。

 

民数記13:32

 

イスラエルの人々の間に、偵察して来た土地について悪い情報を流した。

 

我々が偵察して来た土地は、そこに住み着こうとする者を食い尽くすような土地だ。

 

我々が見た民は皆、巨人だった。

 

ゼカリヤ書9:6

 

混血の民がアシュドドに住み着く。

 

わたしはペリシテ人の高ぶりを絶つ。

 

ゼカリヤ書9:7

 

わたしはその口から血を、歯の間から忌まわしいものを取り去る。

 

残りの者は()()()()()()()、ユダの中の一族のようになり、エクロンはエブス人のようになる。

 

人食い巨人としても知られるネフィリム達は、唯一神の怒りに触れて洪水に飲まれた。

 

唯一神は彼らを殺し、天使長ミカエルはネフィリムを産んだ堕天使達を闇の中に投獄した。

 

だが、生き残った者達は交配を重ねながら小型化していくこととなる。

 

――サトナ(サタン)ハ、エヴァト交ワリ…人類最初ノ殺人ヲ犯シタ男カインヲ産ミ出ス。

 

――ココヨリ始マルノダ…数千年モノ間、大イナル神ヲ呪ウ…悪魔崇拝者ノ歴史ガ。

 

カナン人の祖となるのは、カナンと呼ばれたノアの孫。

 

カナンが移り住んだ地域の子孫たちこそがカナン人である。

 

ギリシャ人からはフェニキア人と呼ばれた存在達だ。

 

カナンの父とはノアの次男であるハムと呼ばれた人物。

 

ハムはノアの箱舟で大洪水を生き延びた時、唯一神の命令に背いた。

 

箱舟内で禁止された性行為を行い、子供を作ってしまった。

 

ノアはハムの行った背信行為を嘆き、恐れ、葡萄酒を浴びる程飲んだという。

 

聖書研究者の間では、カナンはノアを激怒させたと考える。

 

それについての記述は聖書にはないが、カナンは混血種であった点に着目する。

 

アダムの子孫の規律に縛られなかったため、同性愛行為を望んだのではと考えられた。

 

それが原因でなければ、カナンではなく父親のハムこそ呪われなければならなかったはず。

 

しかし、カナンは祖父のノアから呪われた。

 

これがカナンにして唯一神を数千年もの間、呪い続ける原動力となるのだろう。

 

最初の人殺しを犯したカインの血脈からカナンが生まれ、継がれていく。

 

唯一神を呪い、貶め、堕落させるために存在する民となろうと。

 

これを暁美ほむらに伝えたかった反キリストの象徴的魔人。

 

その姿は何処かイルミナティと似ている。

 

白人となったフェニキア人であるカナン族は、ホワイトライダーの愛馬である白馬を思わせる。

 

目玉だらけの白馬とは、単眼のプロヴィデンスの目を崇拝する者達にも見えてくる。

 

ホワイトライダーは弓兵であり、世界最強の弓矢である核兵器を多く持つのは白人国家。

 

その頭に被った王冠は、バビロンの流れを組むローマ帝国を表すとしたら…?

 

黙示録において、世界を終わらせると言われる4体の騎士。

 

その一体目は既に…遠い昔に解き放たれていたのやもしれなかった。

 

────────────────────────────────

 

アリナは調教されていく。

 

冷徹無常なサイコパスになる訓練を受け続けていく。

 

人々を見下し、嘲笑し、人もモノも単なる商品、廃棄物であり、全ては無価値なゴミだとした。

 

全てを燃やし破壊したって構わない、エリートこそが支配階級なのだからと洗脳されていった。

 

マイナス100度の冷凍庫に良心を仕舞い込めれる人間ほど金融業界に向いている。

 

かつて人修羅は、そんな話を東京のホームレス社会で聞かされたことがあった。

 

……………。

 

アリナの毎日は変わった。

 

学校の代わりとなるのはフリーメイソンとイルミナティだ。

 

表向きのメイソンメンバーとしてメイソン教義を学ぶ毎日を送る。

 

イルミナティ・メイソンメンバーとして良心の全てを剥奪される教育行為も行われる。

 

そしてダークサマナーとなるための修行が繰り返された。

 

男として生まれ変わった彼女は、目覚ましい程のスピードでそれらを吸収していく。

 

そんなアリナの後ろ姿を見つめる教育係のシドは溜息をつく。

 

「流石はバアル様の祝福を受けられる者。妬ましい程の才能の持ち主でス…」

 

――だガ…それでもアナタは石ころに過ぎなイ。

 

――暁の子の輝きにハ…遠く及ばなイ。

 

……………。

 

「助けてぇぇぇーーーーッッ!!!」

 

ここは見滝原総合病院の地下。

 

暁美ほむらが悪夢の世界で見た地獄の如き施設内だ。

 

見える光景とは、儀式の部屋を思わせる手術室。

 

ペドフィリア達から凌辱を受けた全裸姿の子供の少女は拘束され、頭部も拘束されている。

 

眼球を開かせる手術器具で両目を無理やり開かされた少女の隣には恐ろしい人物が立つ。

 

1人は手術用ガウンを着て手術用手袋を嵌めたアリナ。

 

もう1人はアリナの教育係として選ばれたロッジマスターの男性老人。

 

その老人はあろうことかドレスを纏い、厚化粧によって顔のシワを消し去った女の顔つき。

 

ほむらが見たおぞましい絵画に描かれた人物と同じ存在だ。

 

冥界の如き地獄の世界に君臨する狂気の女王を演じる男の姿とも言えた。

 

「今日もお願いするわね」

 

「もう慣れたんですケド」

 

慣れた手つきで麻酔の目薬を子供の右目に入れていく。

 

そして、アリナが手にしたのは長い注射針のような道具。

 

「お父さん!!お母さん!!!助けて!!助けてぇぇぇーーーッッ!!!」

 

「もっと泣き喚くと良いワケ。その方が…良質なアドレナクロムを抽出出来るんだカラ」

 

眉一つ動かす事もなく、アリナは針を子供の眼球に近づけていく。

 

「あーーーっ!!!やだ!!やだぁーーーッッ!!!」

 

そしてアリナは迷うことなく針を右目に刺しこみ、脳の中央である松果体まで突き刺した。

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーッッ!!!!!」

 

激痛と恐怖で失禁と痙攣を繰り返していく子供の肉体。

 

血液吸引機械に繋がった部分から赤い血が吸引されていくのが分かる。

 

子供の絶叫が叫ばれる中、2人は体を震わせることなく悠々とした表情で会話していく。

 

「フフッ…最初の頃と比べて成長したわね。子供の悲鳴を聞いても…もう震え一つないわ」

 

「アリナは弱いアリナを殺していく。そして生まれ変わるワケ」

 

「そうね…あなたは弱者を食す強者としての道を進んでいってる。グローバルエリートの道をね」

 

「アリナはね、アドレナクロムを使ってアートを描くことにしたワケ」

 

「なるほど、子供の生き血で描いた死と再生の美。素晴らしいわ…高値で買わせてもらうわね」

 

「欲しいなら売ってあげてもいいんですケド。アリナのデス&リバースは…あれじゃ物足りない」

 

「そうね…あなたは既に最高の死と再生を手にしたと聞いてるわ」

 

「それが…アリナがダークサマナーになった証。()()()()()()()()()だったケド…愛しいカラ」

 

「あなたは死と再生の父親であり、母親。誇っていいわよ」

 

「それより、このチャイルドの呼吸が弱くなってきてるんですケド」

 

「あらあら?」

 

心臓発作を起こした少女の体はグッタリしていき…死んでしまう。

 

「しょうがない子ねぇ。吸い出せる分は吸い出したし、あとは調理室に持って行かせるわ」

 

「レイプパーティが終わったら次はカニバルパーティ。つくづく生臭い場所なワケ」

 

「あなたは参加しないの?それとも…まだ肉が喉を通らない?」

 

「…いずれ克服するんですケド。アリナはこの弱さを認める気なんてないカラ」

 

「その意気よ」

 

子供の死体が秘密の職員達に運び出されていく。

 

アリナはガウンを乱暴に脱ぎ捨て、手を洗い終わってから手術室を出ていく。

 

少し歩いていたが立ち止まり、後ろをついて来ていた女装院長に向き直った。

 

「ねぇ、そろそろ聞いてあげてもいいんですケド」

 

「何を聞きたいのかしら?」

 

「アナタの名前」

 

「あら?聞きたくもない態度をしてるから語らなかったけれど」

 

「アリナ達は秘密を共有しあう関係。一応、仲間として聞いてあげてもいいワケ」

 

「そう…私達は秘密を共有しあう同士であるからこそ結束が強い。魔法少女社会のように」

 

「確かに魔法少女社会は秘匿社会。強固な繋がりが生まれたワケ」

 

女装院長は少し歩き、自分の女装絵画が描かれた大きな絵画の前に立ち、振り返る。

 

「表向きは佐藤博信と名乗っているけれど…そんな名前なんて、私には意味をなさない」

 

「どういう意味なワケ…?」

 

邪悪な笑みを浮かべた女装院長は後ろを振り向き、自分の絵画を見つめながら語る。

 

「私はね、1947年に…死んだ人間なの」

 

「ワッツ…?」

 

「元々はイギリス人であり、オカルティスト。儀式魔術師でもあったのよ」

 

「言ってる意味が分からない…なら、今生きているアナタは何者なワケ?」

 

「生前の私は死ぬ間際に…悪魔を召喚したわ」

 

「デビルを召喚…?ダークサマナーだったワケ?」

 

「私は肉体と魂を切り離して欲しいと頼み込んだの。その代わり、貴方の僕となると契約した」

 

「肉体と魂を切り離す…?それって、白いオコジョが得意としてるアレ…?」

 

「男の私は魔法少女にはなれない。だから魂を切り離すだけにして、肉体は捨てたのよ」

 

「なら…その切り離されたソウルは…どうなったワケ?」

 

「私は悪魔に頼み込み、私の魂と適合する肉体を探して貰ったら…日本で見つけてもらえた」

 

「なら…アナタはジャパニーズのボディに乗り移った…イギリスのウィザード?」

 

「生まれて間もなく死にかけていた赤子の肉体に乗り移り、私は日本人を演じてきた…」

 

低い笑い声を出しながら…ゆっくり振り向く。

 

英国紳士のような礼をし、顔を上げた後に己の真名を名乗った。

 

「初めまして、アリナ。私の名は…アレイスター・クロウリーと申します」

 

【アレイスター・クロウリー】

 

イギリスのオカルティスト、儀式魔術師、著述家、登山家。

 

魔術結社を主宰した人物であり、スピリチュアル哲学のセレマ思想を提唱した法の書を残す。

 

黙示録の獣666を自称し己の魔術にカバラやヨガ、麻薬や性魔術を取り入れていった存在だ。

 

彼のオカルティズムや魔術はヨーロッパ中で嫌悪され、スキャンダルに塗れた人生を送る。

 

麻薬常習やバイセクシャルといった部分をあげつらわれ疎まれたが、近現代思想に歴史を残した。

 

「アレイスター・クロウリー…?それが本当の名前…?」

 

「私は悪魔に魂を売り、別人に転生したわ。私もまた、死と再生を超えてきた存在なのよ」

 

「どうりで…アナタとは妙なシンパシーを感じるワケ。名前を聞きたくなったのもソレ」

 

「私は転生したけど、対価は悪魔の僕となること。私にはね…任務が与えられたわ」

 

――()()()()()()()()を生み出す必要があるのよ。

 

「マスター…テリオンって?」

 

「黙示録に記されしテリオンとは、サタンの力と権威を与えられた獣を表す」

 

「サタンの力と権威を与えられたビースト…?」

 

「あなたも見たことあるはずの1・28事件の映像…あの方こそが、テリオンとなられるお方」

 

「あのデビル…人修羅が…マスターテリオン?サタンとなるビースト…?」

 

「でも、我らの神はさらに生み出せと言われた。サタンの力と権威を与えるに相応しい存在をね」

 

「さらに生み出す…?」

 

「その存在となれるに値する少女を…私はこの病院の院長として預からせて貰えたわ」

 

「その…サタンとなるに値するガールって…?」

 

――その子の名前は…暁美ほむら。

 

「暁美…ほむら…」

 

「彼女は生まれつき心臓が弱かった。私は絶対にその少女を死なせるわけにはいかなかったのよ」

 

「それで?そのガールはこの病院でライフを救われて、サタンになったワケ?」

 

「彼女は生き残り、見滝原中学校に通う生徒となり…魔法少女になった」

 

「アリナと同じ魔法少女に!?」

 

「彼女を魔法少女にしたのは我らの神。それこそ…彼女をサタンにするための導きだった」

 

「魔法少女が…サタンに…デビルになれる?どういうワケ…!?」

 

「彼女は魔法少女として生きた。親友と交わした約束のために戦い続けたけど…守れなかった」

 

――そして、我らの神が与えた7つの試練を潜り抜けた果てに絶望して…。

 

――悪魔になったのよ。

 

「魔法少女が…本当にデビルになれたワケ…?」

 

「彼女こそテリオンの一柱に相応しき存在。でも…まだ足りないの」

 

「足りない…?」

 

アリナの体を舐め回すような目つきを向けてくる。

 

不快に思ったアリナは舌打ちをし、話を切り上げて奥の通路に向かい始めた。

 

背を向けたまま歩き、口を開く。

 

「魔法少女がデビルになれるなら…()()()()()()()()()

 

「悪魔になりたいの?悪魔になって…何を求めるの?」

 

「そんなの決まってるワケ」

 

――デス&リバースを世界にもたらす…デーモンロードになるんですケド。

 

アリナが遠ざかるのを見届けたアレイスターは反対の道を進む。

 

「あの子は負けず嫌いだから対抗心に火がついちゃった感じね。話した甲斐があったわ」

 

途中に飾ってあったホルスの目の絵画に向き直り口を開く。

 

「果たして、アリナは悪魔化した暁美ほむらを研磨するための研磨剤になるのか…あるいは…」

 

絵画から視線を逸らし、カニバルパーティ主催会場の食堂に歩みを進める。

 

「私の残りの使命は…3度目のインパクトが起こった世界の人間共に()()()()を施術するのみ」

 

――そのための準備なら…この国の政府と放送メディアが準備してくれるわ。

 

第32代アメリカ合衆国大統領フランクリン・D・ルーズベルトはこんな言葉を残す。

 

――世界的な事件は、偶然に起こることは決してない。

 

――そうなるように前もって仕組まれていたと。

 

――私はあなたに賭けてもいい。

 

────────────────────────────────

 

見滝原総合病院の地下空間は巨大だ。

 

暁美ほむらが悪夢の世界で見て回ったのは東側エリア。

 

地獄の如き光景に耐えきれずほむらは逃げ出し、西側エリアに向かうことはなかった。

 

西側エリアに入る自動ドアが開き、2人の人物が進み出る。

 

1人はアリナであり、もう1人はシド・デイビス。

 

「アナタの仲魔も大きくなりましタ。そろそろダークサマナーとして実戦を経験する時期でス」

 

「実戦って…魔法少女が戦ってきた魔獣とでも戦わせるワケ?」

 

「違いまス。ダークサマナーは悪魔のスペシャリストとしテ、悪魔とも戦えなければならなイ」

 

「つまり…アリナが戦う相手ってのは…」

 

「そウ、悪魔でス。この先の空間は昔からダークサマナー達の修験場として使われましタ」

 

「そういや…こっち側に来るのは初めてだったけど…そういうのがあったワケ」

 

「この修験場ハ、名高い悪魔召喚士一族の修験場を参考にして作られた構造。連戦となりまス」

 

「上等なんですケド」

 

ひときわ大きな自動扉が開き、アリナが進み出る。

 

「私は訓練モニター室でアナタの活躍を見届けまス。生き残れる保証はありませんがネ」

 

「アリナのパワーを疑う気?」

 

「この奥にハ、我々ダークサマナーの中でも飛びぬけて腕利きのサマナーが待ち構えていル」

 

「そいつがゴールってワケ?なら、そいつを倒してアリナが名を上げるワケ」

 

「フフッ…生き残ってみせなさイ。そうでなけれバ、アナタに投資をした価値がなイ」

 

シドと別れ、縦に長い広大な空間を進む。

 

「…いる。魔獣と似ている瘴気だけど…これがデビルの魔力ってワケね」

 

管理室で広大な修験場をモニターするシドがマイクを使い、修験場内に音声を届けてくる。

 

<<ダークサマナーとしての初陣でス。私から学んだサマナーとしての技術を全て出しなさイ>>

 

「…言われなくても分かってるワケ」

 

左掌を掲げ、アリナの魔法武器であるキューブを生み出す。

 

デビルサマナーは召喚管を使うものだが…彼女は使用する気配を見せない。

 

エメラルドの如く輝くキューブに線が入っていき、ルービックキューブのような形に変化。

 

自分の魔法武器を見つめながら、アリナは初めての仲魔と出会えた日の事を思い出していった。

 

……………。

 

目を覚ましたアリナは周囲を確認する。

 

「ここ…何処なワケ…?何処かの屋上…?」

 

両親の脳みそを食べさせられたアリナは倒れ、運び出される。

 

ここはアリナが晩餐会に参加したホテルの屋上だ。

 

「うっ!!」

 

口内に蘇っていく両親の脳の感触。

 

胃液が逆流して嘔吐し、激しく咳き込む。

 

「お目覚めですカ?」

 

聞きたくもない人物の声がした方に視線を向けていく。

 

そこにはシド・デイビスの姿と配膳ワゴンの上に置かれた壺の入れ物が見える。

 

「ぐっ…うぅ……今度はアリナに…何をやらせようってワケ…?」

 

「睨むこともないでしょウ?食べずに殺される選択も出来タ…しかシ、アナタは両親を食べタ」

 

――それ二、赤子をバアル神の生贄に捧げた時かラ…アナタは十分、我らと同じく加害者でス。

 

事実を言われ、俯いていく。

 

自分の弱さに腹を立てるかのように震えていた時、シドがワゴンを押してきた。

 

「我らの主ハ、食人を行えた者としてアナタを認めましタ。褒美をお渡しするそうでス」

 

「褒美…?」

 

「見なさイ、この没薬(もつやく)で出来た壺の中身ヲ」

 

立ち上がり、言われた通りにする。

 

「…何かの液体?」

 

「この悪魔を見つけることが出来たのは偶然だったそうでス。とても貴重な存在でス」

 

――世界各地で伝説となリ、語り継がれル…死と再生を司る悪魔でス。

 

「…デス&リバースデビル?この液体が…?」

 

「見ていなさイ。もう直ぐこの液体ハ…再生を迎えル」

 

「この液体が…リバースする…?」

 

「アナタが悪魔の死と再生を見届けるのでス。この悪魔こソ、アナタの悪魔となるに相応しイ」

 

そう言い残し、シドは去っていく。

 

怪訝な表情のまま壺を見ていた時…。

 

「な…なに……?」

 

壺がカタカタと揺れ動き出す。

 

亀裂が入っていき、アリナは壺の中に魔力を感じる。

 

両親の脳を食べたショックさえ忘れるようにして、アリナは見入ってしまう。

 

まるで内側から破壊するかの如く壺が弾け飛ぶ。

 

中から現れた悪魔とは…?

 

<<ピィーーーーーッッ!!!>>

 

アリナは見届けた。

 

死と再生の悪魔が復活する瞬間を。

 

生まれたその姿はまるで…。

 

「ビッグ……イーグル?」

 

このサイズでありながらも、この悪魔は生まれたばかりの雛鳥である。

 

「グァグァグァ……グァ?」

 

「このビューティフルバードが…アリナのデス&リバースデビル……?」

 

ワゴンの上に立ち、アリナをじっと見つめてくる。

 

金色と赤で彩られた羽毛を持つ美しい雛鳥。

 

この悪魔は悪魔でありながらも動物に過ぎない。

 

雛鳥には刷り込みと呼ばれる学習形態が備わっており、最初に見たものを親と認識する。

 

「ピィーーーーッッ!!」

 

両翼を羽ばたかせ、雛鳥でありながらも空に舞い上がる。

 

飛翔しながらその鳥は燃え上り、自らを象徴する姿へと変わっていく。

 

「あぁ…あの姿は……マジなワケ…?」

 

燃え盛る大鷲が如き雛鳥。

 

その姿を人間が視る事が出来たなら、世界中の人々からこう呼ばれるだろう。

 

不死鳥と。

 

「あのイーグルの正体は……フェニックス!!!」

 

【フェニックス】

 

不死侯と呼ばれる侯爵階級を持つ、ソロモン王に封印された72柱の魔神の一柱。

 

名は真紅の意味を持ち、エジプト神話の聖なる鳥ベンヌと同一視される。

 

不死鳥の所以は死なないからではない。

 

フェニックスは世界に一匹しか存在せず、数百年の寿命を得て死と再生を繰り返すからだ。

 

死期を悟ると香料の枝を集めて山を作り、上に横たわって自ら火を点ける。

 

身体は燃えて液状となるが、凝固するとそこからフェニックスが復活するという。

 

地獄の20個軍団を指揮し、序列第37位に数えられる魔の侯爵だ。

 

夜空を旋回して飛ぶフェニックス。

 

長く伸びた尾羽の炎が線を描き、夜空に円環の炎陣を描いていく。

 

さっきまでの苦しさなど忘れたかのように、アリナは死と再生の鳥に魅入られていく。

 

「…トゥービューティフル。間違いない…このデビルこそが…アリナが求めてきた美の形!!」

 

――ヒューマン共に一目で伝えられる神々しいビューティフルフォルム!

 

――フレイムによってデスが生み出され!リバースしていくアルティメットライフ!!

 

「アリナがアナタのママになってあげる…アリナに見せて……」

 

――美しさとパワーに満ち溢れた……デス&リバースフォルムを。

 

両手を広げて新たなる仲魔を歓迎するアリナを遠くから見つめるのはシドだ。

 

「…フェニックスと同一視されるベンヌは太陽を表ス。プロヴィデンスの右目でス」

 

プロヴィデンスの目は片目の単眼だが、元はホルスの目なのだから両目がある。

 

月の左目と太陽の右目。

 

太陽も月も天空を支配する存在であり、ピラミッドの頂点である天を表す。

 

またピラミッドは階級社会構造を表すことにも使われる。

 

「我らはピラミッドの頂点であり天を司る支配者。王・宗教・金…この世の権力を表すのでス」

 

――我らのように天に上リ…金星の如く輝けるかどうカ…見物ですネ、アリナ。

 

――フェニックスハ…アナタを()()()()()となるやもしれませン。

 

……………。

 

「…出ておいで。アリナの愛しいデス&リバース」

 

27個のキューブが纏まったルービックキューブの一つが外れ、アリナの周囲を飛び交う。

 

サイコロまでに小さいキューブが光を放ち、中に収められていた存在が解き放たれる。

 

アリナの固有魔法とは結界の生成。

 

27個あるキューブそれぞれが彼女の結界魔法であるとしたら…27体の悪魔をストック出来る。

 

己の固有魔法を応用したため、デビルサマナーの召喚管を必要とはしなかったようだ。

 

結界世界から解き放たれた存在が実体化していく。

 

「ピィーーーーッッ!!!」

 

その雄々しき姿とは、アリナの美を象徴する悪魔…フェニックス。

 

僅かな期間ではあったが、雛鳥の頃よりも数倍巨大な姿となっている。

 

フェニックスが雛鳥の姿で生きてこれたのは成鳥するまでの期間が極端に短いからだろう。

 

背後の空中で羽ばたきながら燃え上り、マスターであり母親でもあるアリナを守る守護悪魔。

 

周囲に漂う瘴気から現れていく悪魔達の姿も顕現した。

 

ダークサマナーとしては初陣であるが、恐れもなく不敵な笑みを浮かべる。

 

「蹂躙してやるカラ。アリナの美になれるフレイムを…アナタ達にも与えてあげる」

 

――死んだら感謝してヨネ。

 

────────────────────────────────

 

訓練モニター室では、複数台供えられたモニターから修験場内の様子がモニターされる。

 

静かに戦いを見つめるシドであったが、後ろに控えていた黒スーツサマナー達が口を開く。

 

「馬鹿な…あの小娘……本当に新米サマナーなのか!?」

 

「訓練期間はまだ二か月も立っていないはず…。なのに…あれ程まで悪魔を操れるだなんて…」

 

モニターの光に照らされたサングラスを押し上げ、シドが口を開く。

 

「この程度の悪魔共を蹂躙したからといっテ、威張れる存在ではありませン」

 

「し、しかし…魔法少女として実力者であったのかもしれませんが…あれ程とは…」

 

「それに…悪魔との連携である()()()()()()()()の技術まで…短期間で身に着けるだなんて…」

 

「…確か二、恐ろしい程の才能ですネ。嫉妬のあまり殺したくなるほド…妬ましい存在ですヨ」

 

モニターに視線を戻す。

 

業火に包まれている修験場内。

 

転がるのは焼き尽くされた悪魔と魔法武器の光弾に貫かれてバラバラになった悪魔の死体。

 

死体は弾け、感情エネルギーであるMAGと化し施設内を漂う。

 

右手に翳しているのは、悪魔を収納するキューブとは違う攻撃用のキューブ。

 

彼女の背には、口から炎の息を噴出する守護鳥が羽ばたき主を守る。

 

「残念。燃えて灰になってくれたら、アリナの死者蘇生シリーズに加えてあげたのに」

 

アリナとフェニックスの戦いぶりはまさに、力による蹂躙。

 

魔力残量など気にせずアリナはマギア魔法を連発。

 

フェニックスは人修羅のファイアブレスに匹敵する程の業火を口から吐き出し焼き尽くした。

 

圧倒的な力押し。

 

力の思想に目覚めつつあるアリナの戦い方だ。

 

これには理由もあった。

 

「アリナのソウルジェムにも穢れが溜まってきた事だし…吸っていいんですケド」

 

「グァグァグァ♪」

 

フェニックスの目が光る。

 

アリナのソウルジェムが穢れの輝きを放ち、外側に向けてどす黒い渦の光を噴出。

 

穢れと言われる負の感情エネルギーを悪魔が吸収していく光景だ。

 

母親を務めるアリナの感情エネルギーを嬉しそうに吸っていくフェニックス。

 

さながら、子供に授乳を与える母親のようにも見えてくる。

 

穢れの感情エネルギーを吸いきられたソウルジェムは元の輝きを取り戻した。

 

「魔法少女になって後悔した時期もあったけど…今はラッキーだったと思うワケ」

 

デビルサマナーと悪魔との契約行為。

 

それは召喚者が生み出す感情エネルギーであるMAGを悪魔に提供し続けること。

 

餌を貰えなければ飼い犬とて主人の手を嚙み千切るだろう。

 

フェニックスは周囲を漂う悪魔死体のMAGまで吸い尽くし、体が大きくなっていく。

 

「もっと食べるワケ。満足したら、そこでエンドだカラ」

 

奪われる者ではなく、奪うモノとしてアリナは進む。

 

修験場の奥にまでたどり着いたアリナは目を細め、奥にいるサマナーを見据える。

 

「あのサングラスかけたひげ面おっさんが…ここのボスってワケ?」

 

腕を組んで待っていたのはウラベを襲ったことがあるフィネガンだ。

 

「フン、魔法少女のサマナーか…。ソウルジェムを用いてMAGを練り出すとはな」

 

「アナタが腕利きのダークサマナーってヤツ?アナタを倒してアリナが名を上げるワケ」

 

「私の名はフィネガン。先輩サマナーとして…天狗になった後輩の鼻をへし折ってやる」

 

「アナタの名前なんてどうでもいい。アリナは上り続けるカラ」

 

「飽くなき強さへの渇望か。しかし、井の中の蛙大海を知らずだな」

 

ポケットから葉巻を取り出し火を点ける。

 

紫煙を燻らせながら、アリナの召喚悪魔を油断なく見つめる。

 

「フェニックスか…確かに強大な悪魔だが、一体しか悪魔を使役出来ない者など論外だ」

 

「アリナはアートを選ぶワケ。興味のないデビルなんか、アリナは仲魔になんてしないカラ」

 

「選り好みしているようでは、強敵悪魔と戦っても生き残れない。魔法の属性概念を忘れたか?」

 

「…デビル魔法の4属性、それにバッドステータス魔法、そして即死魔法のアレ?」

 

「悪魔たちは固有の属性耐性を持つが、同時に弱点となる属性を持つ。忘れてはならない」

 

「つまり…アリナのフレイムフェニックスの弱点は…」

 

「氷結魔法となるだろう。私が氷結魔法を得意とした悪魔を使役して…勝てるか?」

 

「……………」

 

「上を目指し、飽くなき力を求めるならば多くの悪魔を求めろ。貪欲なまでに悪魔を求めろ」

 

「…オーケー。そこまで言うなら面倒見てあげてもいいワケ。アリナもデビルをもっと知りたい」

 

「その意気だ。もっともそれは…私との戦いで生き残れたらの話だが」

 

葉巻を指で弾き、黒スーツズボンのベルトに吊り下げたメリケンサック型召喚管を外す。

 

両手にはめ込み、メリケンサックで武装した右拳をアリナに掲げる。

 

「案ずるな。お前が一体しか悪魔を使役出来ないなら、私も悪魔を一体用意するだけに留めよう」

 

「スポーツマンシップでも気取ってるワケ?」

 

「私は元ボクサーであり、プロフェッショナル。仕事に対して独自の美学を持つ者だ」

 

「…まぁ、そこは否定しないワケ。アリナだって独自の美学を持っている訳だし」

 

「お互いの美学を貫き通すためにこそ…強さを求めるのだ。私から生き残ってみせろ」

 

メリケンサック型の召喚管の蓋が緩んでいき、MAGを放出。

 

MAGの感情エネルギーが凝固していき…巨大な悪魔を形作っていく。

 

召喚された悪魔とは獅子の頭部と腕を持ち、鷲の足を持ち、背中に4枚翼を持つ獣人悪魔だ。

 

<<…ほう?魔法少女が相手か。ちょうど喉が渇いていた…ソウルジェムを喰わせてもらう>>

 

浮遊した強大な悪魔を前にし、アリナもさっきまでの余裕顔が消える。

 

冷や汗を流しながらも、怯えた素振りを見せずに強気な態度。

 

「…名前ぐらい名乗ったらどうなワケ?」

 

「我を前にして怯えぬか?愛い奴め…いたぶり尽くして絶望させ…魂を喰らってやる」

 

――我に喰われて同化する前に、我が名を称えよ。

 

――我が名は邪神パズスなり!!

 

【パズス】

 

パズズとも呼ばれるアッシリア・バビロニアの悪魔であり、メソポタミアの風の魔王。

 

獅子の頭と腕、鷲の脚、背中に4枚の鳥の翼とサソリの尾、蛇の男根を隠し持つという。

 

ペルシャ湾から吹く南東風が猛暑と共に嵐と()()をもたらしたことから風が神格化した存在だ。

 

悪霊の王であるため、その彫像が悪霊を統御する護符として用いられることもあった。

 

シュメールの嵐の神であるアンズーの流れを引くとも言われている。

 

また、蝗害を具神化した存在とも考えられていた。

 

空中で睨み合う悪魔たち、地上のサマナー達も睨み合う。

 

「……行くぞ!!」

 

「ハッ!オッサンサマナーに負けるアリナじゃないワケ!!」

 

修験場最後の戦いが火蓋を開く時がきた。

 

────────────────────────────────

 

2体の悪魔が同時に動く。

 

フェニックスのファイアブレスに対し、パズスが放ったのは風の魔法である竜巻。

 

横回転の渦を巻く竜巻と炎が空中でぶつかり合い、周囲は豪熱と化す。

 

「死ね~~~ッッ!!!」

 

右手に出現させたルービックキューブをフィネガンに向けて構える。

 

アリナが放つマギア魔法『Nine Phases(9つの段階)』だ。

 

生き物が死んで腐りきる九相図の名を与えられた無数の光弾の雨が敵を穿つ…筈だが。

 

「えっ…?」

 

既にフィネガンはワンインチ距離。

 

左腕でパリングの払い動作、構えた右手が大きく弾かれる。

 

「ぐふぅッッ!!!」

 

右腕が弾かれたのに気が付くよりも早く、メリケンサックの右ストレートがアリナの左頬を穿つ。

 

大きく弾き飛ばされたが、アリナは悪魔との連携を駆使する。

 

サマナー達が駆使する悪魔連携の中で見られる召し寄せ。

 

離れた位置にいる悪魔を瞬時にサマナーの元にまで瞬間移動させる技法だ。

 

炎を纏ったフェニックスは自らの炎を消し、上腹をクッションにしてアリナを受け止めた。

 

「ピィー!ピィーッッ!!」

 

「ぐっ……いつの間に懐に……」

 

血反吐を吐き、悠々と歩んでくるフィネガンに向き直る。

 

「お前の戦いを見物していたが…遠距離戦しか能がないようだな?」

 

自分を鍛えてくれているマスターのシドと同じ指摘をされる。

 

接近戦の攻防など、魔法少女の敵として立ちはだかってきた魔獣はしてこなかった。

 

そのためアリナは接近戦を身に着ける必要性など無いと判断し、怠慢を選んだ。

 

それが裏目となり、弱点にさえなっている。

 

「接近戦を挑める力量もないか?ならば、私が前に出るまでもないな」

 

パズスの邪眼が邪悪な光を纏う。

 

瞬時に何が来るのか分かったのはフェニックスだ。

 

「ワッツ!?」

 

アリナの襟をクチバシで摘まみ、拾い上げるようにして背中側に放り込み羽ばたく。

 

あと少しパズスに睨まれていれば、即死の魔眼魔法である『ヘルズアイ』によって即死していた。

 

広大な修験場内の空中を飛び、眼下の獲物を睨むフェニックス。

 

「助けてくれたワケ…?グッボーイ、アナタは愛しいアリナのベビーなんだカラ」

 

優しく背中の羽を撫でていた時、無償の愛を捧げてくれた愛犬のことを思い出す。

 

「…アナタはアリナの新しいパートナー。さぁ、そのパワーを見せてヨネ!!」

 

両翼に炎を纏い、大きく下に向けて翼を羽ばたかせる。

 

放つ魔法とは悪魔の炎魔法では最上位とも言える極大魔法である『マハラギダイン』だ。

 

地上が爆裂し、大業火地獄と化す。

 

その規模は小規模な町一つを焼き尽くせる程の大火力。

 

悪魔との戦闘を想定して強固に作られた修験場だからこそ耐え切れたようだが…。

 

「流石はフェニックスと言ったところか?」

 

眼前の空中に視線を移す。

 

4枚翼で空中を飛ぶパズスの右掌に立つのはフィネガン。

 

彼もまた召し寄せを使い、あの一瞬で空に向けて回避行動を行えたようだ。

 

「…腕利きのダークサマナーって話、マジだったみたい」

 

獅子の顔を持つパズスの口元が歪み、牙をむき出しにする笑みを浮かべる。

 

「我とフェニックス、どちらが空の王者なのか…試してみるか?」

 

獅子のたてがみが逆立ち、フェニックスに向けて無数の毛を射出。

 

刺さった相手を石化させて殺す『石化針』であり、魔法というよりは物理に近い攻撃。

 

フェニックスは飛翔して石化針を掻い潜り、背に乗るアリナはキューブを構える。

 

「お返しなんですケド!!」

 

魔法攻撃を放つが、施設内に豪風が吹き荒れ光弾の軌道が逸らされていく。

 

「空を制するは炎にあらず…風なり」

 

豪風が一気に強まり、フェニックスは姿勢制御も難しくなっていく。

 

「くぅ!!この…湿()()()()は何っ!!?」

 

突然全身に感じ始める激しい悪寒、発熱、手足の痺れなどの症状。

 

耐え切れずにアリナの姿勢が崩れ、地上に向けて落下。

 

パズスとは嵐と熱病を運ぶ邪神。

 

パズスにしか使えないと言われる熱病を運ぶ風魔法である『湿った風』の効果だ。

 

「ピィーーーーッッ!!!」

 

体の神経を蝕む魔法攻撃に耐性があったフェニックスが動く。

 

炎が消え、黒焦げた地面に激突する前に飛び込んで来たフェニックスがアリナをキャッチ。

 

ゆっくり地面に彼女を寝かせるが、アリナは体が麻痺したかのように動けない様子。

 

4枚翼を羽ばたかせて地上に下りたパズスもフィネガンを下ろした。

 

「くっ…あ……あぁ……」

 

俯けのまま無理やり起きようとするが熱病が体を蝕み嘔吐してしまう。

 

「さっきまでの威勢はどうした?新米サマナー」

 

両手を大きく広げながら悠々とした態度で近寄ってくるフィネガン。

 

「これが悪魔の戦場だ。悪魔の魔法、耐性、弱点、あらゆる要素を把握して悪魔を使役する」

 

――力押しだけで勝ち残れる程、デビルサマナーの世界は甘くはないぞ。

 

アリナは才能に恵まれていた。

 

だが、才能だけでは乗り越えられない壁にぶつかった。

 

それでも彼女は立ち上がろうとする。

 

「麻痺した体に鞭を打ち、私のサンドバックとなるか?」

 

「ゴホッゴホッ…!!アリナは負けない…負けるわけにはいかないカラ…」

 

「私との実力差すら理解出来ないか?」

 

「アナタとの実力差なんて関係ない。アリナは…()()()()()()()()()()()()ワケ」

 

「……………」

 

「アートの世界でも、比べるエネミーなんて何処にもいない。エネミーは常に…アリナ自身」

 

――ライフで最も大切なことは、何をおいてもマイハートに積極性を失ってはならないワケ。

 

「理想には信念が必要。信念がないと困難を突破なんて出来ない、理想を選ばず妥協するダケ」

 

「才能だけはあるようだが、所詮は我らの猿真似をしているだけだ」

 

「模範も極致に達すると、真実と同様になる。真似をすることこそが…理想に繋がっていく」

 

アリナが語っていくのは神秘主義的な信念。

 

それは芸術の世界だけでなく、かりんが愛した漫画家の世界にも通じる。

 

真似をするからこそ、真似をしたい憧れの存在へと近づいていく。

 

マジカルきりんが大好きな御園かりんが、マジカルかりんである自分に脱我を求めるように。

 

「マイハートは理屈を超越する。マイハートに背かないライフこそ…強者の道であり幸福の道」

 

――アリナはガムシャラでいい…当たって砕けるほどのベストを尽くせばいい。

 

――アリナがアリナに負けなければ…目の前の存在なんて…。

 

――気が付いたら超えているワケ!!

 

アリナの信念の叫びが、彼女のソウルジェムをエメラルドの如き光へと変える。

 

その光景は、強敵の人修羅相手でも自分の本心を裏切らなかった杏子の魂の輝きと似ていた。

 

「こ…この光は……」

 

パズスはアリナの魂の輝きに魅入られていく。

 

悪魔の目はアリナの輝きの中に見出せていく。

 

金星の輝きを見出だせたのだ。

 

沈黙し続けるフィネガン。

 

抗う余力もないアリナを見つめ続けた後、溜息をつく。

 

訓練モニター室の強化ガラスに視線を向け、口を開いた。

 

「この娘は合格だ。私が保障する」

 

モニター室にいたシドはマイクを使い、音声を届ける。

 

<<フィネガンに認められた以上ハ、アナタは合格ですヨ…アリナ>>

 

状況が理解出来ず、力が抜けて片膝をつく。

 

彼女の前にまで歩いてきたフィネガンは語る。

 

「お前はサマナーにとって、最も大切なモノを持っていた」

 

「サマナーにとって…最も大切なモノ…?」

 

「何者にも惑わされない…折れない心」

 

――鋼の信念だ。

 

「悪魔は狡猾だ。隙あらばサマナーを出し抜き、破滅させる。だからこそ…迷わない信念がいる」

 

「デビルの惑わす理屈や誘惑さえ跳ね除ける…鋼の信念…?」

 

「お前の言葉はボクシングの世界でも同じだった。ベストを尽くす…敵は己自身だ」

 

「フィネガン……」

 

「恐れに支配された人生など破けた風船と同じ。学問しようが経験しようが…人の価値を殺す」

 

――結局、当たって砕けろの精神こそが大切なのだ…サマナーの世界だろうが、何だろうがな。

 

後ろを振り向き、パズスも頷く。

 

右手をパズスが掲げると、アリナの体を蝕んでいた湿った風の熱病が解けていく。

 

立ち上がったアリナはフィネガンを見て微笑んだ。

 

「流石はプロフェッショナル。アリナと同じマインドをしてたってワケね。認めてあげるカラ」

 

「フッ…大口を叩くことも大切かもな。消極的な言葉しか言えん者の人生は…暗いものだ」

 

踵を返し、パズスの元へと歩きながら片手を上げて別れを告げる。

 

パズスを召喚管に戻そうとしたが、パズスはフィネガンに向けて語り掛けてきた。

 

「…フィネガンよ、我はこの娘と共に行く」

 

「パズス…?」

 

「この娘の魂の中で…見出せた」

 

――我ら悪魔を導く者…暁の輝きをな。

 

少し沈黙したが溜息をつき、フィネガンは頷く。

 

「世話になった」

 

会話が聞こえていたアリナは状況を理解し、左手に悪魔を収納するキューブを生み出す。

 

キューブの一つが外れ、パズスの元へと飛翔していく。

 

「我の新たなるサマナーとなりし娘よ。見せてみよ…汝の魂のいく末を…」

 

アリナの結界魔法に収納されたパズス、そしてフェニックスも収納していく。

 

修験場を後にするアリナを見守りながら、フィネガンはサングラスを指で押し上げる。

 

「周りの正しさに身を沈め、流されていくだけの弱き者にはなるな…アリナ」

 

――お前も私と同じく…プロフェッショナルとなる者だ。

 

────────────────────────────────

 

11月1日。

 

神浜市において左翼テロリズムが起きた日。

 

夕暮れが近づく空を見上げていたのは、魔法少女姿のアリナだ。

 

彼女が立っている場所とは、自宅である最高級ホテル最上階のペントハウス屋上。

 

ヘリポートの端に立ち、かつてあった魔法少女としての人生を思い返していたようだ。

 

遠くの空から見えてくるのは迎えの大型ヘリ。

 

左掌を掲げ、悪魔を収納したキューブを生み出し見つめる姿を見せた。

 

「…アリナが生まれたカミハマシティ。みんな仲良しのように見えて…()()()()()()()だった」

 

西側の人々は東側の人々など無関心だった。

 

あるのは周りから刷り込まれてきた歴史背景。

 

周りの正しさという同調圧力によって、人々は傷つけ合うだけだった街。

 

「結局みんな…()()()()。自分の信念も考えもない…他人の言動に同調するだけのシティだった」

 

善人だと思われた西側の魔法少女達でさえ…東の人々を救う為に政治を叫んだことはない。

 

あったのは、可哀相な東側に同情する自分達に酔いしれた後…楽しい日常に戻る毎日だった。

 

正義の味方を気取る魔法少女達がやってきた日常を()()()()()()()()()

 

「アリナはね…百万人の付和雷同より、1人のリアリストを望むんですケド」

 

アリナが望んだ人物とは、神浜の魔法少女社会を本気で批判するために戦い抜いた男。

 

後に覚醒し…裁く者サタンとなった存在。

 

人修羅と呼ばれた悪魔だ。

 

「アリナはこれからもデビルと共に生き続ける。もうあのシティに…未練はないカラ」

 

踵を返し、降り立ったヘリに歩みを進めていく。

 

ダークサマナーとして生きる道を選んだ者。

 

死と再生の美を極める為に生きる者。

 

従えし悪魔とは、死と再生の悪魔と熱病の悪魔。

 

アリナの足取りに迷いはない。

 

彼女は…いや、彼は生まれ変わる為に死んだ人物。

 

死人は何者にも流されないのだから。

 




アリナの仲魔に相応しい悪魔として選んだのは、フェニックスとパズスでした。
アリナの美のテーマとマギレコドッペルテーマがくる悪魔はもう、この2体しかないと思いまして。
アリナの仲魔はまだ追加する予定ですが、なかなか決まらん(汗)
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