人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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140話 人間錬金術

燃え上る神浜市。

 

自由と平等を叫ぶ暴徒達が神浜の街を焼いていく。

 

その光景を中央区セントラルタワーの屋上で見守り続けるのはアリナ達だ。

 

シドの召喚悪魔であるクドラクを見送った後、暫くしてアリナは口を開く。

 

「この騒動がダミーフラッグミッションだったら、踊らされたルミエール共はどうなるワケ?」

 

シドはサングラスを押し上げ、薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「連中はただの道化。役目を終えたら捨てるに限ル」

 

「アッハハ!ルミエールに踊らされるバカって、ヒューマンも魔法少女も変わらない!!」

 

「頃合いを見て我々は撤収しまス。革命の目的ハ、我らの神となるお方に憤怒を与えるたメ」

 

「煮るなり焼くなり好きにすればいい。でも、このシティのジャスティスガールは出来ないワケ」

 

「不殺の変身ヒロインを気取る魔法少女…どこの国でも見かける者達ですネ」

 

「大方、連中を拘束してジャッジでも行うワケ。示しとして利用されるのが見えるんですケド」

 

「この街の魔法少女社会は中央集権独裁状態。恐らくは長という行政の恩赦がもたらされル」

 

「この暴動規模なら、一万人を超えるヒューマンが死ぬ。それでいてギルティはなし」

 

「お涙頂戴の芝居でもしテ、皆に喜びを与えて被害者から目を逸らさせル。私にも見えまス」

 

「どこまでも無責任。それに、気持ちよく騙されたいだけのジャスティスガール達」

 

「…()()()()()()()()()をご存知ですカ?几帳面で真面目であるからこそ起こる集団依存症ヲ」

 

「ジャパニーズ特有の精神病?」

 

「一般的に是とされる事柄だけを画一的に守らせようとすル…それは()()()()なのでス」

 

――絆・団結・連帯・信頼といった不可視である和に執着させル。

 

――それを乱す者を悪と捉えさセ、考える力を奪い集団の言動に依存させル。

 

「多角的に事象を検証シ、行動を決定することを拒絶すル。物事の具体性を抽象的にすり替えル」

 

シドが語った言葉は後に起こる裁判の時に現実と化す。

 

裁判長を務めた七海やちよは叫ぶのだ。

 

――私は!!みんなに生きていて欲しい…みんな笑顔で笑い合い……支え合い……。

 

――環のような輪となって……困難を乗り越えられる幸福社会を築きたいの!!!!

 

環の輪…みんな…どこに具体性があるのだろう?

 

あまりにも抽象的であり、誰と誰が輪(和)になっていくのかさえ語っていない。

 

こんな中身の見えないラッピング箱を崇めさせようとしていたのだ。

 

西の長を務めてきた七海やちよは…。

 

「魔法少女のリーダーが用意するジャスティスに酔いしれ、何処までも無責任になるワケ」

 

「世の中には騙されたい人がいル。自分達は悪くないという他責の安心感が得られるからでス」

 

「本質的創造的に思考することを拒絶する連中。…このシティの全員に言えることなんですケド」

 

「何も考えないバカを装うことが保身の条件。異を唱える者になれば釘として扱わレ、打たれル」

 

「ジャパニーズの道徳は、空気を読んで人に同調する。早い話、()()()()()()ってワケ」

 

「芋虫は群れてキャタピラになるガ、向かう方向を皆が決めていなイ。向かう先も見えなイ」

 

「自我を確立することは自分の中にブレない芯を持つこと。我儘とは違うんですケド」

 

「アナタは言っタ、()()()()()だト。この街の魔法少女達がそれに気が付けるカ…見物でス」

 

悪が分からない偏った善人は無意識に、無邪気に、悪事を善行だと信じて行う。

 

善行と信じているので批判に聞く耳を持たず、より強固な善意で悪行を働く。

 

地獄への道は、いつだって客観性のない無知な善意によって敷き詰められていく。

 

その光景こそが…これから始まるだろう東京の守護者と神浜の守護者達との戦いなのだ。

 

……………。

 

「…戻ってきたようですネ」

 

燃えるような赤い夜空を飛翔してきたのは蝙蝠の群れ。

 

蝙蝠達はシドとアリナの後ろ側に集まり人型に変化していく。

 

「チクショーッッ!!お楽しみの邪魔が入っちまったぜぇぇーーッッ!!!」

 

破壊された頭部が復元しているクドラクは苛立ちを隠さず地面を踏みつけていく。

 

「これ以上の散歩は認めませんガ…邪魔が入ったとハ?」

 

「聞いてくれよシドの旦那!もう少しで魔法少女を八つ裂きにしてやれたのに…狙撃された!」

 

「狙撃…?魔法少女に狙撃されたのですカ?」

 

「微かに聞こえた銃声の距離からして、千メートルは離れた位置から撃ってきやがったな」

 

「…アリナ、この街の魔法少女の中二、長距離狙撃が出来る狙撃手はいましたカ?」

 

「いないワケ。ていうか、狙撃銃のような魔法武器を扱うヤツ事態いなかったんですケド」

 

「…だとしたラ、デビルサマナーが関与した可能性もありますネ。調べてみましょウ」

 

「あ~~気分悪い。オレも湿気た気分になったから戻るわ」

 

召喚管をシドが取り出していた時、何かを思い出したようにして手を叩いた。

 

「そうだ!いいモノを手に入れたのを思い出した!!」

 

「なんですカ、いいモノとハ?」

 

「クックッ…上玉の魔法少女の血を吸ってやったぜぇ。オマケにそいつ処女ときた!」

 

「…だとしたラ、その者は吸血鬼となるでしょウ」

 

「どんな魔法少女だった?アリナもこの街の魔法少女だったから気になるワケ」

 

「そいつの名は和泉十七夜。東のリーダーをやってた奴だったと読心術で読み取れたぜ」

 

それを聞いたアリナは堪えきれずに笑い出す。

 

「プッ!アッハハハハッ!!だからアリナは言ったワケ!報いを受ける日が来るって!」

 

「アリナ、その人物を知っているなら力量も知っているはズ。使えそうですカ?」

 

「まぁ、自分の正しさしか見ない頑固者だったけど…力量だけならアリナが保障する」

 

「オレもまともに戦ったら手こずった。だが、揺さぶりをかけてやりゃ…イチコロだったけどな」

 

魔法少女としての戦闘力が保障され、それでいて心の弱点を抱えた存在。

 

シドの口元が邪悪な笑みを浮かべていく。

 

「その噛まれた魔法少女…使えそうですネ。居場所は分かりますカ?」

 

「アイツはもう…()()()()なんだよ。オレの血を分けた兄妹ならどこに逃げても追える」

 

ポケットから電話の音が響き、シドはポケットからガラケーを取り出し通話する。

 

「…そうですカ。やはリ、この街にはデビルサマナーが潜んでいたようですネ」

 

通話を切ったシドはガラケーをポケットに仕舞い、クドラクを召喚管に戻す。

 

「何かあったワケ?」

 

「…エグリゴリのメンバーである堕天使が倒されたようでス。相当の実力者であった筈ですガ…」

 

「エグリゴリ?」

 

「我らの神の実働部隊だと答えておきまス。彼らこそガ…黒の貴族の祖先なのですヨ」

 

「…魔法少女のパワーで、そんな奴を倒せるはずがないとアリナは思う」

 

「調査班をこの街に残す事にしましょウ。我らも撤収しまス」

 

アリナ達は大型ヘリに向かう。

 

ヘリは飛び立ち、燃え上る神浜市を後にしていく。

 

彼らが再び神浜市に訪れることになる日がくる。

 

その日こそが、黙示録の赤き獣であるマスターテリオン…サタンが誕生する日となるであろう。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ここは薄気味悪い地下牢。

 

鉄格子の向こう側には蹲る十七夜の姿。

 

「ぐっ…うぅ……うぅぁぁああーーーッッ!!!!」

 

頭を何度も地面に叩きつけ、砕きながら渇きに抗おうとする痛々しい姿を晒す。

 

鉄格子近くには同じ牢に放り込まれて震える少女がいた。

 

「い…いや!!来ないで…来ないでぇぇぇーーーっ!!!」

 

制服から見て水名女学園の女子生徒かと思われる。

 

「おいおい、どうした?渇きに抗うことはねーだろ?」

 

鉄格子の外には椅子に反対向きで座りながら両手を背もたれに乗せるクドラクがいた。

 

「お前はもうオレなんだよ、十七夜。吸血鬼なら本能に従いな」

 

「だ…黙れ…黙れぇぇ……自分は…魔法少女でなくなっても…心は……」

 

血走った目をクドラクに向けようとするが、自然と視線が旨そうな獲物に向いてしまう。

 

「差別されてきた東の住人のお前だからこそ、差別の元凶を産み出す獲物を用意したんだぜ~」

 

「自分は…自分は……」

 

「あ…あんた……東の住人?東の住人って…やっぱり()()()だったの?」

 

「ち…違う!!東の人々は…化け物なんかじゃ……」

 

「嘘よ!!平等を喚き散らしながら街を破壊する!そんなことが出来る連中…全員化け物よ!!」

 

「うっ……うぅ……」

 

「やっぱりお祖母ちゃん達が言ってた通り!!東の連中は全員ケダモノ…街から消えればいい!」

 

「黙れ…だまれぇぇ……それ以上言うなぁぁぁぁ……」

 

クドラクはわざと西の差別主義者を用意した。

 

彼女の心の中にある消せない憎しみの炎を利用し、悪魔として覚醒を促すために。

 

「憎しみを正当化しろ。そうすりゃよぉ…誰だって正義を振りかざす化け物になるんだぜ~?」

 

「せ…正義……」

 

「こんな差別主義者なんぞ、殺せばいいじゃねーか?スカッとするぜ~麻薬を注射したようにな」

 

――そうやって溺れていくのさ。

 

――正義の味方を気取る連中は…()()()()()とでも言うべき中毒者なんだよ。

 

「来ないで東のケダモノ!!神浜にはお前らなんて必要ないんだからーッッ!!!」

 

「貴様…東の人々がどれだけ苦しんできても…他人事か!!自分達の悪行は棚上げかぁ!!」

 

「五月蠅い!!悪者なんてお前らだけでいい!!だって街を破壊したのは貴女達じゃない!」

 

「その原因を生み出した貴様らが…うっ……がぁぁぁ……!!」

 

もはや理性も限界が近い。

 

「さて、そろそろお楽しみの時間かな?」

 

意識が朦朧としていくが、体中には獰猛な血が駆け巡っていくのを十七夜は感じる。

 

「悪魔め!!東の連中は…()()()()なのよ!!!!」

 

「うおぉぉあぁぁぁーーーーッッ!!!!」

 

正義の味方のように生きた者として、最後の抵抗とばかりに激しく頭を地面に打ち付ける。

 

激しく砕けた地面の中に顔を埋め、彼女の意識は途絶えてしまう。

 

だが意識とは無関係にして彼女の体が起き上がっていく。

 

無意識にまでに求めてしまうのだ…血の渇きを。

 

「ヒィッッ!!?」

 

囚われた水名の女子生徒は戦慄する。

 

悪魔を表す十七夜の真紅の瞳が…瞬膜と化す。

 

口を開き、凶悪な牙を剝き出しにして吐息を吐き出すおぞましい姿が迫る。

 

<<グゴアァァァーーーーーッッ!!!!>>

 

<<いやぁぁぁぁーーーーーッッ!!!!>>

 

絶叫が木霊し、牢獄の中が地獄と化した。

 

牢屋の外にまで流れてくる血を見ながらクドラクは満足そうな笑みを浮かべる。

 

「それでいい。それでこそ、()()()()()だ」

 

――お前もまた…オレと同じくクドラクになったのさ。

 

……………。

 

「………ん……えっ?」

 

目を覚ました十七夜。

 

だが、目を開けたことを激しく後悔した。

 

「あ……あぁ……あぁぁぁぁ…………」

 

そこに転がっていたのは、無残な肉塊。

 

吸血鬼の強大な腕力を使い、肉を力任せに引き裂いたような無残な姿が散乱する。

 

そして、自分の口の周りどころか体中が血に塗れていることに気が付く。

 

「自分が…自分がやったのか……?人間を…人間を……」

 

臓腑に塗れた血の海に立つ正義の魔法少女として生きた者の震えた姿。

 

牢屋の向こう側から拍手が聞こえてくる。

 

「おめでとう。これでお前もバージンは卒業だな…立派なデビルレディになれたってわけさ」

 

「そんな……そんな……」

 

十七夜の中で、壊したくなかった何かが…壊れた。

 

正義のヒロインとして在りたいと願い、戦い抜いてきた魔法少女人生。

 

人々を守る道こそが正しく、皆もそうあるべきだと信じて東の魔法少女達の長になった。

 

自分の姿こそが正義の味方の体現でなければならないと必死に頑張り抜いてきた。

 

だが、それももう終わり。

 

彼女は最後の一線を越えてしまった。

 

人々を守る者ではなく、人々を殺す者に成り果てた。

 

人々に平等をもたらそうと信じたロベスピエールの如く、虐殺者と化した。

 

「結局、お前が守りたかったのは()()()()()()。自分達を苦しめる西側連中なんざ…ゴミなのさ」

 

――度し難い程にまで、人って連中は自分に都合の良いものしか探さないし、拾わない。

 

「俺たち悪魔とどこが違う?えこひいきさんよぉ?」

 

「あ……あぁ……」

 

クドラクが語った言葉はただの客観的な意見。

 

自分だけの正義を見てきたが、その正義の中には客観性が存在しなかった。

 

十七夜の行ってきた治世を批判する者などいなかったから、気がつけなかった。

 

たとえ批判者がいたとしても、自分の正義が絶対的に正しいと信じ込み拒絶しただろう。

 

自分だけが認められたいという承認欲求にも似た我儘の世界に固執し、意固地になる。

 

客観性のない主観性はこうも成り立たなくなっていく。

 

批判のない社会は例外なく腐り果てるのと同じく。

 

近づいてくる足音が聞こえる。

 

吸血鬼の嗅覚により、その人物が誰なのかが十七夜には分かった。

 

「お前は……アリナ……?」

 

クドラクの横に立ち、嘲笑うような笑みを浮かべてくる。

 

「なぜ…君がこんなところに…?聞いた話では、君は9月に起きた火事で死んだはず…」

 

「アリナがアナタに語った言葉、覚えてる?」

 

「そ、それは……」

 

「いつか報いを受ける日がくるって」

 

「…今が、その報いなのか……?」

 

「ノー。もっと前に味わってるハズ」

 

十七夜の脳裏に再び蘇っていくのは、東の魔法少女達から拒絶された日の記憶。

 

「アナタは優秀だった。だからこそ劣る人の話を受け入れない。プライドさえ()()()になる」

 

「自分は…そう見られていたのか……」

 

「認めるのが怖かったダケ。それならバカの方がまだマシ。騙された分、臆病になり学べるカラ」

 

「自分は…東の長として優れていると…己惚れていたのか……」

 

「これは高学歴のエリートも陥る()()()()。優秀だと勘違いする奴は意地でも間違いを認めない」

 

アインシュタインはこんな言葉を残す。

 

学べば学ぶほど、自分の無知が分かるという言葉だ。

 

「足りなかったのは知的謙虚さ。自分で全てを決めず、周りの正しさにも目を向けるべきだった」

 

――それが出来なかったフールガールなら、堕ちるとこまで堕ちるワケ。

 

「これが鑑定眼でアナタを観察した、アリナの感想だカラ」

 

牢獄の中で乾いた笑い声が響いていく。

 

「ハッ…ハハハ…自分は愚か者だ…。君に警告を与えてもらいながら…間違いを認めなかった…」

 

牢獄内に異変が起きていく。

 

臓腑が転がった血の海が沸き立つ。

 

血の雫が宙に無数に浮かび上がり、凝固していく。

 

「自分はコンプレックスの塊だ…だから既成概念を外せず…壁を作り…人を受け入れなかった…」

 

赤黒い血の塊が十七夜の体に集まっていき、魔法少女衣装のような悪魔姿を形成していく。

 

黒のマント、ビスチェ、ガーターベルト、髪飾りには血のように真紅の赤薔薇。

 

固有魔法を象徴するかのようなモノクルには、蝙蝠の翼の飾り。

 

白き軍人を思わせた魔法少女姿とは違う…禍々しい漆黒の吸血鬼姿が顕現する。

 

「自分は…()()()()()()()()()()()()()だけの……」

 

――愚者だったぁーーッッ!!!!

 

血の海が弾け、周囲を赤く染める。

 

クドラクとアリナにも血が覆い被さったが、2人は瞼を閉じずに見届けた。

 

魔法少女が悪魔となった瞬間を。

 

赤い魔力を放つ姿。

 

その瞳は悪魔を表す真紅の瞳。

 

血に塗れた姿をした夜を支配する種族である夜魔。

 

東欧スロベニアの悪と闇の象徴である新たなる吸血鬼の誕生だ。

 

だが、新たなる悪魔は両膝が崩れ、砕かれた地面に顔を埋めて号泣していく。

 

「あぁ…アァァァ…うああああぁぁあぁぁぁぁぁぁ────……ッッ!!!!!」

 

和泉十七夜のプライドと、正義の魔法少女としての誇り。

 

全て砕け散った。

 

今の彼女の心は全てを剥ぎ取られて壊されたように無垢。

 

赤子のように泣き喚き、自分の愚かさに絶望していく。

 

これ以上は会話にならないと、クドラクとアリナは牢屋から去っていった。

 

通路を歩きながらも2人は十七夜の今後について語り合う光景が続く。

 

「守ったプライドも、ブレイクすればこうなるワケ。気が付くのが遅過ぎなんですケド」

 

「東の長としてのプライドしか見てなかったってことさ。外向きのプライドってやつだな」

 

「プライドは内側に向けるものなワケ。それに気が付きもせずブレイクしてズタズタになった」

 

「宗教信者に見られる光景さ。間違ってた事に気が付いた時、そいつは何も信じられなくなる」

 

「あんな姿になった和泉十七夜だけど、使っていけそう?」

 

「あいつはもう人殺しであり、オレの兄妹とも言える吸血鬼。堕ちるとこまで堕ちていくさ」

 

「そうじゃない。自発的にアリナ達と肩を並べる気になるかを聞いてるワケ」

 

「どうだかな?悪魔になっても人殺しになっても…超生真面目な性格なのは変わらないだろう」

 

「だとしたら……もう一押しが必要なんですケド」

 

「それについては、もう用意してあるそうだ。ユダがこっちに来てくれる」

 

「ユダって…頭にターバン巻いた笛吹き蛇使いみたいなダークサマナー?何が出来るワケ?」

 

「いずれ分かるさ。あいつの話術そのものが…()()()()なのさ」

 

薄暗い通路を歩いていたがアリナは立ち止まる。

 

クドラクが去っていく後ろ姿を見送った後、後ろを振り向き十七夜の牢屋に視線を向けた。

 

「この目で見ないと確信が持てなかったけど…魔法少女は本当にデビルになれた」

 

アレイスターが言っていた言葉は真実だったと確信が持てたアリナは右手を握り締める。

 

「…和泉十七夜ですらデビルになれる。でも…アリナはまだ、ダークサマナー程度でしかない」

 

遥か高みを目指す者。

 

アリナが目指すべき頂きとは天空を超えた世界。

 

星の世界だ。

 

「アリナは…あんなレベルのデビルにはなりたくない。もっと強く…美しく輝けるデビルになる」

 

――美を司るスター…ヴィーナス・プラネットのように輝いてみせる。

 

「暁美ほむら……アナタになんて、アリナは負けてやらないんだカラ」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

捕虜となった者の意思を曲げさせる手法としては、拷問を想像するだろう。

 

だが、このやり方は非科学的だと非難されている。

 

第二次世界大戦中のドイツには、捕虜のほぼ全員から重要な情報を引き出した尋問官がいた。

 

彼は捕虜に指一本触れなかったと言う。

 

物理的に捕虜を虐待したことはなく、全員に敬意を払い、親切に接した。

 

その結果、ほぼ全員が必要な情報を喋った。

 

拷問を使わず、尋問相手を丁寧に扱うことで全員を喋らせる技術は敵国を震撼させた。

 

……………。

 

地下牢から出された十七夜。

 

彼女の表情は虚ろであり、放心状態とも言える。

 

抵抗する素振りも見せずに連れていかれてしまったようだ。

 

彼女が連れていかれた部屋は豪華な応接室のような空間。

 

周囲には誰もおらず、彼女一人だけが残されている。

 

外部の情報が何も入らない空間とも言えるだろう。

 

「……………」

 

全てを諦めたようなぼんやりとした表情。

 

彼女は今、自責の念によって精神はボロボロの状態。

 

この状態に導くことこそ、ユダの狙いがあった。

 

「失礼するよ」

 

入ってきたのは、アルファベットが刻まれたターバンを巻いた褐色肌の男性。

 

召喚道具は何も身に着けず、友好的な笑顔を向けながら手前の椅子に座った。

 

虚ろな表情のままユダに視線を向け、か細い声を出していく。

 

「…殺せ………殺してくれ………」

 

悪魔として生きることを拒絶する言葉。

 

彼女の心は未だに…人として生きた頃と同じ。

 

介錯を願う悪魔少女を見て、ユダは首を横に振る。

 

「シドのやり方は異常過ぎる…彼の犠牲にされてしまった哀れな君を、私は殺せない」

 

「今更…何様のつもりだ…?自分を吸血鬼に変えて…人殺しをさせて…善人面なのか…?」

 

「それは私が関与したものではない。君に行った仕打ちを聞かされた時…私は彼を殴ったよ」

 

「……お前は何者なんだ?」

 

「私の名はユダ・シング。友愛結社の会員として働いている者さ」

 

「友愛結社…だと…?」

 

「それよりも…さっき殺して欲しいと私に頼んできた君の気持ちは…本心なのかい?」

 

それを聞かされた時、十七夜は顔を俯けてしまう。

 

「君にも家族がいるのだろう?娘が親よりも早く死んで…家族が喜ぶとでも思うのか?」

 

「……自分は、もう家族の前には帰れない。吸血鬼として…夜の世界で生きるしかない…」

 

「それに…殺害に関与させられてしまった血塗られた手では、愛する家族を抱きしめられないか」

 

静かに首を縦に振る。

 

「…私にもね、遠く離れた母国ネパールに家族がいる。大勢の大家族だよ」

 

「…その家族とは、離れ離れなのか?」

 

「私の国は…先進国のような豊かさはない。大家族を支えるために…私は外国に旅立った」

 

「……遠い異国の地で、家族を支えてきたのか?」

 

「貧乏過ぎる家であっても…大家族が生きていけるだけの生活費を、どうにかして賄ってきた」

 

家が貧乏であり、家族を支えるために独りで働き、家族と会えない孤独を抱えた者。

 

十七夜は自分と同じ共通点を見出していき、彼の話を真剣に聞き始める。

 

「君は…本当に死にたいのか?」

 

「…自分は、魔法少女の長…失格者だ。自分のせいで魔法少女達を苦しめて…暴力に導いた…」

 

「間違いを犯さない人間など存在しない。間違えたのなら、やり直していけばいい」

 

「やり直す…?馬鹿を言うな!吸血鬼にさせられて…人殺しになって…やり直すだと!?」

 

「君が魔法少女社会の長になったのは、何か目的があったんだろ?」

 

「……………」

 

「話したくないなら構わないが…」

 

「…平等と平和を望んだ。利他精神こそが正しく、正義を行うことこそ魔法少女だと信じた」

 

「平等と平和…そして利他精神。それが君の望みならば…長でなかろうと貫けばいい」

 

「悪魔にされたんだぞ…?人殺しなんだぞ…?こんな自分が…そんなこと……」

 

「君は自分で自分の首を絞めている。自責の念から解放されたいから死を望む」

 

「そうだ……そうだとも……」

 

「だがね、死んだところで…それは償いにはならない。責任を取らずに逃げ出しているだけだ」

 

「責任…だと……?」

 

「死んだ人間達は帰ってこない。街が焼かれて苦しむ人達の心も救われない。ならどうする?」

 

「……自分には、分からない」

 

「社会を変えていけばいいじゃないか。東の人達だけでなく魔法少女達は…何に苦しめられた?」

 

「……格差と差別」

 

「なら、そんな社会を変えていくことこそが…君の償いではないのかい?」

 

「社会を…変える?」

 

「君に必要なのは死ではない」

 

――社会に平等をもたらす可能性を秘めた…思想なんだよ。

 

社会平等…その言葉を聞いた時、壊れた十七夜の心が()()()()()かのようにして震えた。

 

『マインドコントロール』

 

他人の考えや気持ちを自分の意のままにコントロールし、洗脳していく心理操作の技法。

 

もともと人間の脳というのは真っ白なキャンパス。

 

成長の過程で外部からの情報により染められ、それを基にして個人の価値観が作られていく。

 

我々が個性だと信じているものも外部からのマインドコントロールによって作られる。

 

何が流行っているのか、どんなことが起きたのか、知らない情報を探してみたい。

 

そうやって外部と接触していくうちにマインドは流されていくものだ。

 

学校、塾、セミナー、企業研修、テレビ、新聞、雑誌、SNS。

 

あらゆる外部との接触によって、我々は常にマインドがコントロールされていくのである。

 

これは集団意識操作とも言える手口だ。

 

「平等思想……そうだ…それだ……自分が欲しかったのは…平等社会だ…」

 

「我ら友愛結社の目標は、人類は平等であり、全ての人が手を携えて幸せに生きるという社会」

 

「お前たちは…平等社会を作ろうとしているのか?」

 

「我らの結社のスローガンは、自由・平等・博愛。これこそが世界の羅針盤となるべきだ」

 

「そんな世界…築くことが出来るのか?人々は歴史や伝統ばかりを見て…新しいものを否定する」

 

「歴史よりも大切なもの、それは人々の幸福社会。博愛主義こそが歴史よりも重要なのだよ」

 

ユダの言葉の一つ一つが、十七夜の心の隙間を埋めていく。

 

岩のように固くなった心を削り取っていく。

 

()()()()()穿()()のだ。

 

「我らが目指す世界連邦。それこそが歴史や伝統を消し去り、世界に平等の幸福がもたらされる」

 

「神浜の歴史を消すことが出来るのか…?差別を消すことが出来るのか…?」

 

「我らのユートピアに、そのような差別など存在しない。人々は平等となり幸福となる」

 

『ユートピア』

 

イギリスの思想家トマス・モアが出版した著作に登場する架空の国家の名前である。

 

ユートピアという言葉を用いるときには注意が必要だ。

 

現代人が素朴に理想郷としてイメージするユートピアとは違う。

 

ユートピアには格差がない代わりに人間の個性を否定した非人間的な管理社会の色彩が強い。

 

決して自由主義的・牧歌的な理想郷などではない。

 

本来の意味からすると社会主義や共産主義の文脈で用いられるべき言葉であった。

 

「理想郷を私は目指す。神浜で起きた悲劇はそもそも…格差と歴史差別によって起こされたんだ」

 

「その通りだ…!東の人々は神浜に根差した歴史ばかりを見て…東の人々を迫害した!!」

 

「我らはそんな悲劇を生み出す歴史、伝統を破壊し尽くす。人々に必要なのは博愛精神のみだ!」

 

「あぁ…全くその通りだ!!自分が胸に押し留められてきた思想が…理想が…ここにある!!」

 

「君は悪魔になったが、心は自由であるべきだ!自由に平等を望み、博愛社会を求めるべきだ!」

 

「求めていいのか…?こんな悪魔の自分が…人殺しの自分が……」

 

「己に周りとの格差を求めるな!悪魔であろうと人殺しであろうと…胸を張って平等を叫べ!」

 

十七夜の両目に涙が溢れていく。

 

悲しみの涙ではない、喜びの涙だ。

 

「人類みな兄弟姉妹!!我らに格差を作る線引きを破壊しろ!溝を破壊しろ!!」

 

――権威を!宗教を!国境を!民族を!歴史を!全て破壊しつくして統一する!!

 

――我らの間に歴史差別や伝統差別、宗教差別も民族差別も起こり得ない理想郷が生まれる!!

 

「それこそが世界連邦であり!!世界市民であり!!」

 

――博愛に満ちた理想郷…()()()()である!!!

 

両手で顔を覆い、嗚咽を堪える十七夜。

 

ユダが語る言葉の一つ一つが水滴の雨となり、岩の如く閉ざした十七夜の心を完全に削り取った。

 

「グスッ…ヒック…目指したい…。自分もそんな理想郷を…目指したい…!!」

 

「君の悪魔の力を、自由と平等と博愛のために使ってくれないかい?」

 

「勿論だ!!こんな悪魔の自分でも…まだやれることが…やりたいことが…見つかった!!」

 

「我らの結社に協力するなら、もちろん報酬を出してくれる。君は家族の口座を知ってるかい?」

 

「う…うむ。自分はメイドとして働いて、稼いだ金を父の口座に入金してきたからな」

 

「ここでも同じ事をしてやりなさい。たとえ家族と離れ離れでも出来ることはある…私のように」

 

「ユダさん…ありがとう。こんな自分に()()()()を与えてくれて…本当にありがとう!!」

 

片手を差し伸べてきたユダの手を両手で握り、2人は微笑む姿を見せる。

 

そんな光景は監視室とも言えるモニタールームで監視され続けていた。

 

監視室に立つシドは、モニターの光に照らされたサングラスを指で押し上げる。

 

「フッ……これだからユダは恐ろしイ」

 

シドの横に立つアリナは呆れた表情。

 

「あ~あ、これで和泉十七夜も()()()()()のバカ共の仲間入り確定なんですケド」

 

これこそが、マインドコントロールの恐ろしさ。

 

マインドコントロールと洗脳はその意味合いが微妙に違う。

 

洗脳は監禁や暴力などの恐怖心を利用して相手の意思をコントロールする。

 

弊害もあり、洗脳はその環境から解放されてしまうと意外とあっさり解けてしまうのだ。

 

マインドコントロールはそうした恐怖心を煽るような言動は行わない。

 

相手が気づかないように心理操作などを駆使しながら、巧みに個人の意思を変えてしまう。

 

加害行為ではなく、自分で呪縛をかけることになるから極めて解き辛い。

 

「これで和泉十七夜も我らの一員。拾った甲斐もあったというもノ」

 

「ユダってヤツ…すました顔して相当エゲツないヤツだったんですケド」

 

「ユダは大家族を支える一家の大黒柱。家族のためなら彼は悪魔となれル」

 

「フン…()()()()()()()()()()()ってワケ」

 

「モーツァルトのオペラ曲、魔笛を知っていますカ?」

 

モーツァルトの最後の作品であるオペラ曲、魔笛。

 

意味は魔法の笛である。

 

「あれがどうかしたワケ?」

 

「あの曲ハ、フリーメイソンのためのオペラとして知られているのでス」

 

「まさか……モーツァルトも…?」

 

「彼もまたフリーメイソン会員でしタ。魔笛はフリーメイソンのシンボルや教義に基づク」

 

「知識階級連中は…みんなフリーメイソンと縁があったワケね」

 

「悪魔が来りて笛を吹ク。アナタが表現した言葉こそガ…イルミナティのマインドコントロール」

 

「…どういう意味なワケ?」

 

「我らはある意味演奏隊。大衆の行動を支配する音楽を奏デ、民衆は行進曲のように流されル」

 

現代人は、自分の耳で聞いたニュースや身辺の出来事を通じて漠然としたものを溜め込む。

 

言葉にならない言葉を心の中に蓄積していく。

 

言葉にならない言葉をキーワードとする命令に従い、行進曲にでも合わせるかのように進む。

 

「和泉十七夜の言葉にならない言葉とハ、格差と差別を憎ミ…そして平等を望む道徳主義でス」

 

「確かに…アリナが見た限りでも、和泉十七夜は言葉にならない言葉を通して生活してきた」

 

現代人はダブルマインド(自己との葛藤によって混乱した精神状態)だ。

 

その断層を真剣に癒そうとはしていない。

 

断層を癒すためには荒療治が必要だからだ。

 

偽りのペルソナをかなぐり捨て、真実の自己を理解するための行動を起こさねばならないからだ。

 

「そこデ、自然と()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようになル」

 

「自分自身は、苦痛や犠牲を払わなくてもすむ…。そんな連中、アリナは腐るほど見てきた」

 

「大衆の行動を支配しようと音楽を奏でるのが我々エリート。民衆はそれに気が付かなイ」

 

「まぁ、アリナだって一昔前までは…催眠術だのマインドコントロールだのは笑ってたワケ」

 

「だから我らの術中にハマるのでス。我々は代理人を通しテ、それを行ウ」

 

「その役目を担ってるのが…世界中の政府やメディアってワケ?」

 

「人々はそんな話を決して信じなイ、嘲笑ウ。だからこそ我らのマインドコントロールは無敵」

 

「ジャパニーズはヒトラーから何も学ばなかったってワケ。()()()()()()の恐ろしさを」

 

「我らは人々を永遠に躍らせる音楽を奏で続ける者。それによって人々を望む形に()()()()()

 

――それこそガ、我らの錬金術。

 

――人間錬金術なのでス。

 




なぎたんも立派にハロウィンモードになって悪落ちしてくれました(汗)
さて、そろそろシドのバトルを描こうかと考えてます。
シドのバトル相手はもちろん、キョウジさんです。
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