人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
燃え上る神浜市では自由と平等を叫ぶ暴徒達が神浜の街を焼いていく。
その光景を中央区セントラルタワーの屋上で見守り続けるアリナ達。
シドの召喚悪魔であるクドラクを見送った後、暫くした頃にアリナはシドに質問する。
「この騒動がダミーフラッグミッションだったら、踊らされたルミエール共はどうなるワケ?」
シドはサングラスを押し上げた後、薄気味悪い笑みを浮かべながらこう告げる。
「連中はただの道化。役目を終えたら捨てるに限ル」
「アッハハ!ルミエールに踊らされるバカって、ヒューマンも魔法少女も変わらないワケ!」
「頃合いを見て我々は撤収しまス。革命の目的は我らの神となる御方に憤怒を与えるたメ」
「煮るなり焼くなり好きにすればいい。でもこのシティのジャスティスガールは出来ないワケ」
「不殺の変身ヒロインを気取る魔法少女…どこの国でも見かける者達ですネ」
「大方、連中を拘束してジャッジでも行うワケ。示しとして利用されるのが見えるんですケド」
「この街の魔法少女社会は中央集権独裁状態。恐らくは長という行政の恩赦がもたらされル」
「この暴動規模なら一万人を超えるヒューマンが死ぬ。それでいてギルティはなし」
「お涙頂戴の芝居でもしテ、皆に喜びを与えて被害者から目を逸らさせル。私にも見えまス」
「どこまでも無責任。それに気持ちよく騙されたいだけのジャスティスガール達しかいない」
「…日本人特有の精神病をご存知ですカ?几帳面で真面目であるからこそ起こる集団依存症ヲ」
「ジャパニーズ特有の精神病?」
「一般的に是とされる事柄だけを
絆・団結・連帯・信頼といった不可視である和に執着させる。
それを乱す者を悪と捉えさせ、考える力を奪い
「多角的に事象を検証して行動を決定する事を拒絶すル。物事の具体性を抽象的にすり替えル」
シドが語った言葉は後に起こる裁判の時に現実となるだろう。
裁判長を務めた七海やちよはこう叫ぶのだ。
――私は!!みんなに生きていて欲しい…みんな笑顔で笑い合い…支え合い…。
――環のような輪となって…困難を乗り越えられる幸福社会を築きたいの!!
環の輪、みんな、どこに具体性があるのだろう?
あまりにも抽象的であり、誰と誰が
西の長を務めてきた七海やちよは中身の見えないラッピング箱を崇めさせようとする。
「魔法少女のリーダーが用意するジャスティスに酔いしれ、何処までも無責任になるワケ」
「世の中には
「本質的創造的に思考する事を拒絶する連中…このシティの全員にも言える事なんですケド」
「何も考えないバカを装う事が保身の条件。異を唱える者になれば釘として扱わレ、打たれル」
「ジャパニーズの道徳は空気を読んで人に同調する。早い話、
「芋虫は群れてキャタピラになるが向かう方向を皆が決めていなイ。向かう先も見えなイ」
「自我を確立する事は自分の中にブレない芯を持つこと。我儘とは違うんですケド」
「アナタは言っタ、
悪が分からない偏った善人は無意識に、無邪気に、悪事を善行だと信じて行う。
善行と信じているので批判に聞く耳を持たず、より強固な善意で悪行を働く。
地獄への道はいつだって客観性のない無知な善意によって敷き詰められていくもの。
その光景こそがこれから始まる東京の守護者と神浜の守護者達との戦いなのだ。
「…戻ってきたようですネ」
赤い夜空を飛翔してきた蝙蝠の群れはシドとアリナの後ろ側に集まり人型に変化していく。
「チクショーッッ!!お楽しみの邪魔が入っちまったぜぇぇーッッ!!」
破壊された頭部が復元しているクドラクは苛立ちを隠さず地面を踏みつけていく。
「これ以上の散歩は認めませんガ…邪魔が入ったとハ?」
「聞いてくれよシドの旦那!もう少しで魔法少女を八つ裂きにしてやれたのに…狙撃された!」
「狙撃…?魔法少女に狙撃されたのですカ?」
「微かに聞こえた銃声の距離からして、千メートルは離れた位置から撃ってきやがったな」
「…アリナ、この街の魔法少女の中に長距離狙撃が出来る狙撃手はいましたカ?」
「いないワケ。ていうか、狙撃銃のような魔法武器を扱う奴事態いなかったんですケド」
「…だとしたラ、デビルサマナーが関与した可能性もありますネ。調べてみましょウ」
「あ~~気分悪い。オレも湿気た気分になったから戻るわ」
召喚管をシドが取り出していた時、何かを思い出したようにして手を叩いてくる。
「そうだ!いいモノを手に入れたのを思い出した!」
「なんですカ、いいモノとハ?」
「クックッ…上玉の魔法少女の血を吸ってやったぜぇ。オマケにそいつは処女ときた!」
「…だとしたラ、その者は吸血鬼となるでしょウ」
「どんな魔法少女だった?アリナもこの街の魔法少女だったから…気になるワケ」
「そいつの名は和泉十七夜。東のリーダーをやってた奴だったと読心術で読み取れたぜ」
それを聞いたアリナは堪えきれずに笑い出す。
「プッ!アッハハハハッ!!だからアリナは言ったワケ!報いを受ける日がくるって!」
「アリナ、その人物を知っているなら力量も知っているはズ。使えそうですカ?」
「まぁ、自分の正しさしか見ない頑固者だったけど…力量だけならアリナが保障する」
「オレもまともに戦ったら手こずった。だが揺さぶりをかけてやりゃ…イチコロだったけどな」
魔法少女としての戦闘力が保障され、それでいて心の弱点を抱えた存在。
シドの口元が邪悪な笑みを浮かべていく。
「その噛まれた魔法少女…使えそうですネ。居場所は分かりますカ?」
「アイツはもう半分オレなんだよ。オレの血を分けた兄妹ならどこに逃げても追える」
ポケットから電話の音が響き、シドはガラケーを取り出し通話する。
「……そうですカ。やはリ、この街にはデビルサマナーが潜んでいたようですネ」
通話を切ったシドはガラケーを仕舞った後、クドラクを召喚管に戻す。
「何かあったワケ?」
「エグリゴリメンバーである堕天使が倒されたようでス…相当の実力者であったはずですガ…」
「エグリゴリ?」
「我らの神の実働部隊だと答えておきまス。彼らこそが黒の貴族達の祖先なのですヨ」
「…魔法少女のパワーでそんな奴を倒せるはずがないとアリナも思う」
「調査班をこの街に残す事にしましょウ。我らも撤収しまス」
大型ヘリに乗り込んだ後、ヘリは燃え上る神浜市を後にしていく。
彼らが再び訪れる日こそ、マスターテリオンとなるサタンが誕生する日となるのであった。
♦
薄気味悪い地下牢の鉄格子の向こう側には蹲る十七夜がいる。
「ぐっ…うぅ…うぅぁぁああーーーッッ!!」
何度も頭を地面に叩きつけて砕きながら渇きに抗おうとする。
鉄格子近くには同じ牢に放り込まれて震える少女もいるようだ。
「い…いや!!来ないで…来ないでぇぇぇーーっ!!」
水名女学園の女子生徒かと思われる少女は悲鳴を上げながら助けを求める。
「おいおい、どうした?渇きに抗う事はねーだろ?」
鉄格子の外には椅子に反対向きで座りながら両手を背もたれの上に乗せるクドラクがいる。
「お前はもうオレなんだよ、十七夜。吸血鬼なら本能に従いな」
「だ…黙れ…黙れぇぇ…自分は…魔法少女でなくなっても…心は……」
血走った目をクドラクに向けようとするが、自然と旨そうな獲物に顔が向いてしまう。
「差別されてきた東の住人のお前だからこそ、差別の元凶を生み出す獲物を用意したんだぜ~」
「自分は…自分は……」
「あ…あんた…東の住人?東の住人って…やっぱり化け物だったの…?」
「ち…違う!!東の人々は…化け物なんかじゃ……」
「嘘よ!!平等を喚き散らしながら街を破壊する…そんな事が出来る連中は全員化け物よ!!」
「うっ…うぅ……」
「やっぱりお祖母ちゃん達が言ってた通り!東の連中は全員ケダモノ…街から消えればいい!」
「黙れ…だまれぇぇ…それ以上言うなぁぁぁぁ……」
クドラクはわざと西側差別主義者を用意している。
彼女の心の中にある消せない憎しみの炎を利用して悪魔の覚醒をもたらすつもりだ。
「憎しみを正当化しろ。そうすりゃよぉ…誰だって
「せ…正義……」
「こんな差別主義者なんぞ殺せばいいじゃねーか?スカッとするぜ~麻薬を注射したようにな」
「正義が…麻薬…だと…?」
「そうやって溺れていく。正義の味方を気取る連中は
「こないで…東のケダモノ!!神浜にはお前らなんて必要ないんだからーっ!!」
「貴様…東の人々がどれだけ苦しんできても…他人事か!!自分達の悪行は棚上げかぁ!!」
「うるさい!!悪者なんてお前らだけでいい!だって街を破壊したのは貴女達じゃない!」
「その原因を生み出した貴様らが…うっ…がぁぁぁ…っ!!」
「さて、そろそろお楽しみの時間かな?」
意識が朦朧としていくが、体中には獰猛な血が駆け巡っていくのを十七夜は感じている。
「悪魔め!!東の連中は全員悪魔なのよ!!」
「うおぉぉあぁぁぁーーーーっ!!!」
正義の味方のように生きた者として、最後の抵抗とばかりに激しく頭を地面に打ち付ける。
激しく砕けた地面の中に顔を埋めながら彼女の意識は途絶えてしまう。
だが意識とは無関係にして彼女の体が起き上がっていく。
無意識にまでに血の渇きを求めてしまう獣がついに狂暴化してしまう。
「ヒィッッ!!?」
悪魔を表す十七夜の真紅の瞳が瞬膜となり、凶悪な牙を剝き出しにして悪魔の吐息を吐き出す。
<<グゴアァァァーーーーーッッ!!!>>
<<いやぁぁぁぁーーーーーッッ!!!>>
絶叫が木霊した後、牢獄の中が地獄と化す。
牢屋の外にまで流れてくる血を見ながらクドラクは満足そうな笑みを浮かべてくる。
「それでこそオレの兄妹だ。お前もまたオレと同じく…
少し時間が過ぎた頃、十七夜の意識が戻ってくる。
「……ん……えっ?」
目を開けて回りを見れば彼女の色白な顔が真っ青に染まってしまう。
「あっ…あぁ…あぁぁぁぁ……」
転がっていたのは無残な肉塊であり、吸血鬼の腕力で力任せに引き裂かれている。
自分の口の周りどころか体中が血に塗れている事にも気が付いてしまう。
「自分が…自分がやったのか…?人間を…人間を……」
臓腑に塗れた血の海に立つのは正義の魔法少女として生きた者の震える姿。
そんな中、牢屋の向こう側から拍手が聞こえてくる。
「おめでとう。これでお前もバージンは卒業だな…立派なデビルレディになれたってわけさ」
「そんな……そんな……」
十七夜の中で壊したくなかった何かが壊れてしまう。
正義のヒロインとして在りたいと願い、戦い抜いてきた魔法少女人生。
人々を守る道こそが正しく、皆もそうあるべきだと信じて東の魔法少女達の長になった。
自分の姿こそが正義の味方の体現でなければならないと必死に頑張り抜いてきた。
それももう終わりであり、彼女は最後の一線を越えてしまう。
人々を守る者ではなく、
人々に平等をもたらそうと信じたロベスピエールの如く、虐殺者となったのだ。
「お前が守りたかったのは東の連中だけ。自分達を苦しめる西側連中なんざ…ゴミなのさ」
度し難い程にまで人間は自分に都合のいいものしか探さないし、拾わないと告げてくる。
「俺達のような悪魔とどこが違う?
「あっ……あぁ……」
クドラクの言葉は客観的意見であり、自分だけの正義しか見なかった者を客観的に見てくれる。
十七夜の行ってきた治世を批判する者などいなかったから気がつけなかったのだろう。
たとえ批判者がいたとしても、自分の正義が絶対的に正しいと信じ込み拒絶しただろう。
自分だけが認められたいという承認欲求にも似た我儘に固執して意固地になる。
客観性のない主観性はこうも成り立たなくなっていく。
批判のない社会は例外なく腐り果てるのと同じく。
足音が近づく中、吸血鬼の嗅覚によって誰なのかが十七夜には分かる。
「お前は……アリナ……?」
クドラクの横に立ち、嘲笑うような笑みを浮かべてくる。
「なぜ…君がこんなところに…?聞いた話では、君は9月に起きた火事で死んだはず…」
「アリナがアナタに語った言葉を覚えてる?」
「そ、それは……」
「いつか報いを受ける日がくるって言ったヨネ?」
「今が…その報いなのか……?」
「ノー、もっと前に味わってるはずだヨネ?」
十七夜の脳裏に浮かぶのは東の魔法少女達から拒絶された日の記憶であろう。
「アナタは優秀だった。だからこそ
「自分は…そう見られていたのか…」
「
「自分は…東の長として優れていると…己惚れていたのか…」
「これは高学歴エリートも陥る思考の罠。優秀だと勘違いする奴は意地でも間違いを認めない」
アインシュタインは学べば学ぶほど、
「足りなかったのは
「それが出来なかったから…自分は…堕ちるとこまで…堕ちたわけか…」
「これが鑑定眼でアナタを観察したアリナの感想だカラ」
トドメとなる残酷な指摘に対して、牢獄から乾いた笑い声が響きだす。
「ハハハ…自分は愚か者だ…君に警告を与えてもらいながら…間違いを認めなかった…」
臓腑が転がった血の海が沸き立ち、血の雫が宙に浮かびながら凝固していく。
「自分はコンプレックスの塊だ…だから既成観念を外せず…壁を作り…人を受け入れなかった」
赤黒い血の塊が十七夜の体に集まっていき、魔法少女衣装のような悪魔姿を形成していく。
黒のマント、ビスチェ、ガーターベルト、髪飾りには血のように真紅の赤薔薇。
固有魔法を象徴するかのようなモノクルには蝙蝠翼の飾りが生まれる。
白き軍人を思わせた魔法少女姿から禍々しい吸血鬼姿に成り果ててしまう。
「自分は…間違いを認めるのが怖かっただけの…愚者だったぁーーっ!!!」
血の海が弾け飛び、周囲を赤く染める。
クドラクとアリナにも血が覆い被さったが瞼を閉じずに悪魔化の瞬間を見届けてくれる。
赤い魔力を放つ漆黒の姿、その瞳は悪魔を表す真紅の瞳。
血に塗れた姿となったのは夜を支配する種族である夜魔に成り果てた者である。
東欧スロベニアの悪と闇の象徴である新たなる吸血鬼の誕生であろう。
だが新たなる悪魔の両膝が崩れてしまい、砕かれた地面に顔を埋めながら号泣していく。
「あぁ…アァァァ…うああああぁぁぁぁぁぁぁぁ──……っ!!!!」
和泉十七夜のプライドと正義の魔法少女としての誇りが全て砕け散る。
今の彼女の心は全てを剥ぎ取られて壊されたように無垢であろう。
赤子のように泣き喚き、自分の愚かさに絶望していく。
これ以上は会話にならないと感じた者達は牢屋から去っていくだろう。
通路を歩きながらも十七夜の今後についてこう語る。
「守ったプライドも、ブレイクすればこうなるワケ。気が付くのが遅過ぎなんですケド」
「東の長としてのプライドしか見てなかったって事さ。外向きのプライドってやつだな」
アリナの頭に浮かぶのは東の長としてという言葉を口癖のように周りに語った十七夜であろう。
「プライドは内側に向けるものなワケ。それに気が付きもせずブレイクしてズタズタになった」
「宗教信者に見られる光景さ。間違ってた事に気が付いた時、そいつは何も信じられなくなる」
「あんな姿になった和泉十七夜だけど、使っていけそう?」
「あいつはもう人殺しであり、オレの兄妹とも言える吸血鬼。堕ちるとこまで堕ちていくさ」
「そうじゃない。自発的にアリナ達と肩を並べる気になるかを聞いてるワケ」
「どうだかな?悪魔になっても人殺しになっても…超生真面目な性格なのは変わらないだろう」
「だとしたら…もう一押しが必要なんですケド」
「それについては、もう用意してあるそうだ。ユダがこっちに来てくれる」
「ユダって…頭にターバン巻いた笛吹き蛇使いみたいなダークサマナー?何が出来るワケ?」
「いずれ分かるさ。あいつの話術そのものが…
薄暗い通路を歩いていたアリナが立ち止まる。
クドラクが去っていく後ろ姿を見送った後、後ろを振り向いて牢屋に視線を向ける。
「この目で見ないと確信が持てなかったけど…魔法少女は本当にデビルになれた…」
アレイスターが言っていた言葉は真実だったと確信が持てたアリナは右手を握り締める。
「…和泉十七夜ですらデビルになれる。でも…アリナはまだ…ダークサマナー程度でしかない」
遥か高みを目指すアリナが求める頂きとは天空を超えた星の世界であろう。
「アリナはあんなレベルのデビルにはなりたくない。もっと強く…美しく輝けるデビルになる」
美を司る星である金星のように輝いてみせる。
暁美ほむらには絶対に負けないと誓ったアリナは十七夜を捨てて去るのであった。
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捕虜となった者の意思を曲げさせる手法としては拷問を想像するだろう。
だがこのやり方は非科学的だと非難されている。
第二次大戦中のドイツには捕虜のほぼ全員から重要な情報を引き出した尋問官がいたという。
彼は物理的に捕虜を虐待した事はなく、全員に敬意を払いながら親切に接した存在。
その結果、ほぼ全員が必要な情報を喋ったという。
拷問を使わず、尋問相手を丁寧に扱う事で全員を喋らせる技術は敵国を震撼させた。
「…………」
地下牢から出された十七夜の表情は虚ろであり、放心状態とも言える。
抵抗する素振りも見せずに連れていかれてしまったようだ。
彼女が連れていかれた部屋は豪華な応接室のような空間であり、周囲は誰もいない。
外部の情報が何も入らない空間とも言えるだろう。
全てを諦めたようなぼんやりとした表情の彼女は自責の念によって精神はボロボロの状態。
この状態に導く事こそユダの狙いがあった。
「失礼するよ」
入ってきたのはアルファベットが刻まれたターバンを巻いた褐色肌の男性である。
召喚道具は身に着けず、友好的な笑顔を向けながら手前の椅子に座ってくる。
虚ろな表情のままユダに視線を向ける十七夜はか細い声を出していく。
「殺せ……殺してくれ……」
悪魔として生きる事を拒絶する言葉から察するに、心は未だ正義の味方を続けている。
介錯を願う悪魔少女を見つめるユダは首を横に振った後、こう語り出す。
「シドのやり方は異常過ぎる…彼の犠牲にされてしまった哀れな君を…私は殺せない」
「今更…何様のつもりだ…?自分を吸血鬼に変えて…人殺しをさせて…善人面なのか…?」
「それは私が関与したものではない。君に行った仕打ちを聞かされた時…私は彼を殴ったよ」
「……お前は何者なんだ?」
「私の名はユダ・シング。友愛結社の会員として働いている者さ」
「友愛結社だと…?」
「それよりも…さっき殺して欲しいと私に頼んできた君の気持ちは本心なのかい?」
それを聞かされた時、十七夜は顔を俯けてしまう。
「君にも家族がいるのだろう?娘が親よりも早く死んで…家族が喜ぶとでも思うのか?」
「自分はもう…家族の前には帰れない。吸血鬼として…夜の世界で生きるしかない…」
「それに殺害に関与させられてしまった血塗られた手では…愛する家族を抱きしめられないか」
首を縦に振る十七夜に対し、ユダは自分の事を話してくれる。
「私にもね、遠く離れた母国ネパールに家族がいる。大勢の大家族だよ」
「…その家族とは離れ離れなのか?」
「私の国は先進国のような豊かさはない。大家族を支えるために私は外国に旅立った」
「遠い異国の地で…家族を支えてきたのか?」
「貧乏過ぎる家であっても…大家族が生きていけるだけの生活費をどうにかして賄ってきた」
家が貧乏であり、家族を支えるために独りで働き、家族と会えない孤独を抱える。
十七夜は自分と同じ共通点を見出していき、彼の話を真剣に聞き始める。
「君は…本当に死にたいのか?」
「自分は…魔法少女の長…失格者だ。自分のせいで魔法少女達を苦しめて…暴力に導いた…」
「間違いを犯さない人間など存在しない。間違えたのならやり直していけばいい」
「やり直す…?馬鹿を言うな!吸血鬼にさせられて…人殺しになって…やり直すだと!?」
「君が魔法少女社会の長になったのは…何か目的があったんだろ?」
「…………」
「話したくないなら構わないが…」
「…平等と平和を望んだ。利他精神こそが正しく、正義を行う事こそが魔法少女だと信じた」
「平等と平和…そして利他精神。それが君の望みならば長でなかろうと貫けばいい」
「悪魔にされたんだぞ…?人殺しなんだぞ…?こんな自分が…そんなこと……」
「君は自分で自分の首を絞めている。自責の念から解放されたいから死を望む」
「そうだ……そうだとも……」
「だがね、死んだところでそれは償いにはならない。責任を取らずに逃げ出しているだけだ」
「責任…だと…?」
「死んだ人間達は帰ってこない。街が焼かれて苦しむ人達の心も救われない。ならどうする?」
「……自分には分からない」
「社会を変えていけばいいじゃないか。東の人達だけでなく魔法少女達は何に苦しめられた?」
「……格差と差別」
「なら、そんな社会を変えていく事こそが君の償いではないのかい?」
「社会を…変える?」
「君に必要なのは死ではない。社会に平等をもたらす可能性を秘めた…思想なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、壊れた十七夜の心が
ユダが行う手口とは
他人の考えや気持ちを自分の意のままにコントロールして洗脳する心理操作の技法であろう。
人間の脳というのは真っ白なキャンバス。
成長の過程で外部からの情報で染められ、それを基にして個人の価値観が作られていく。
我々が個性だと信じているものも外部からのマインドコントロールによって作られる。
何が流行っているのか、どんな事が起きたのか、知らない情報を探してみたい。
そうやって外部と接触していくうちにマインドは流されていくものだ。
学校、塾、セミナー、企業研修、テレビ、新聞、雑誌、SNS。
あらゆる外部との接触によって、我々は常にマインドがコントロールされていくのである。
これは
「平等思想…そうだ…それだ…自分が欲しかったのは…平等社会だ…」
「我ら友愛結社の目標は人類は平等であり、全ての人が手を携えて幸せに生きるという社会さ」
「お前達は…平等社会を作ろうとしているのか?」
「我らの結社のスローガンは
「そんな世界…築く事が出来るのか?人々は歴史や伝統ばかりを見て…新しいものを否定する」
「歴史よりも大切なもの、それは人々の幸福社会。博愛主義こそが歴史よりも重要なのだよ」
ユダの言葉の一つ一つが十七夜の心の隙間を埋めていく。
岩のように固くなった心を削り取っていく言葉こそ、水滴で石を穿つ光景だろう。
「我らが目指す世界連邦…それこそが歴史や伝統を消し、世界に平等の幸福をもたらす」
「神浜の歴史を消す事が出来るのか…?差別を消す事が出来るのか…?」
「我らの
ユートピアとは英国の思想家トマス・モアが出版した著作に登場する架空の国家の名前である。
ユートピアという言葉を用いる場合には注意が必要である。
現代人が理想郷としてイメージする素朴なユートピアとは違うのだ。
ユートピアには格差がない代わりに人間の個性を否定した非人間的な管理社会の色彩が強い。
決して自由主義的・牧歌的な理想郷などではないのだ。
本来の意味からすると社会主義や共産主義の文脈で用いられるべき言葉であろう。
「理想郷を私は目指す。神浜で起きた悲劇はそもそも格差と歴史差別によって起こされたんだ」
「その通りだ…!東の人々は神浜に根差した歴史ばかりを見て…東の人々を迫害した!!」
「我らはそんな悲劇を生み出す歴史と伝統を破壊する。人々に必要なのは博愛精神のみだ!」
「あぁ…全くその通りだ!!自分が胸に押し留められてきた思想が…理想が…ここにある!!」
「君は悪魔になったが心は自由であるべきだ!自由に平等を望み、博愛社会を求めるべきだ!」
「求めていいのか…?こんな悪魔の自分が…人殺しの自分が……」
「自分に周りとの格差を求めるな!悪魔であろうと人殺しであろうと胸を張って平等を叫べ!」
十七夜の両目に悲しみの涙ではなく喜びの涙が溢れ出す。
「人類みな兄弟姉妹!我らに格差を作る線引きを破壊しろ!溝を破壊しろ!」
権威を、宗教を、国境を、民族を、歴史を、全て破壊しつくして統一する。
我らの間に歴史差別や伝統差別、宗教差別も民族差別も起こり得ない理想郷が生まれる。
「それこそが
眩い思想に触れた十七夜は両手で顔を覆いながら嗚咽を堪える。
ユダが語る言葉の一つ一つが水滴の雨となり、岩の如く閉ざした彼女の心を完全に削り取る。
「グスッ…ヒック…目指したい…自分もそんな理想郷を…目指したい…!!」
「君の悪魔の力を自由と平等と博愛のために使ってくれないかい?」
「勿論だ!!こんな悪魔の自分でも…まだやれる事が…やりたい事が…見つかった!!」
「我らの結社に協力するなら勿論報酬を出してくれる。君は家族の口座を知ってるかい?」
「う…うむ。自分はメイドとして働いて、稼いだ金を父の口座に入金してきたからな」
「ここでも同じ事をしてやりなさい。たとえ家族と離れ離れでも出来る事はある…私のように」
「ユダさん…ありがとう。こんな自分に希望の光を与えてくれて…本当にありがとう!!」
片手を差し伸べてきたユダの手を両手で握りながら2人は微笑む。
そんな光景は監視室とも言えるモニタールームで監視され続けているようだ。
監視室に立つシドはモニターの光に照らされたサングラスを指で押し上げる。
「フッ…これだからユダは恐ろしイ」
シドの横に立つアリナは呆れた表情を浮かべながらこう告げる。
「あ~あ、これで和泉十七夜もルミエールのバカ共の仲間入り確定なんですケド」
これこそがマインドコントロールの恐ろしさ。
マインドコントロールと洗脳はその意味合いが微妙に違う。
洗脳は監禁や暴力などの恐怖心を利用して相手の意思をコントロールする。
弊害もあり、洗脳はその環境から解放されてしまうと意外とあっさり解けてしまう。
マインドコントロールはそうした恐怖心を煽るような言動は行わない。
相手が気づかないように心理操作などを駆使しながら巧みに個人の意思を変えてしまう。
加害行為ではなく自分で呪縛をかける事になるから
「これで和泉十七夜も我らの一員。拾った甲斐もあったというもノ」
「ユダって奴…すました顔して相当エゲツない奴だったんですケド」
「ユダは大家族を支える一家の大黒柱。家族のためなら彼は悪魔となれル」
「フン…デビルが来りて笛を吹くってワケ?」
「モーツァルトのオペラ曲、
モーツァルトの最後の作品であるオペラ曲の魔笛は魔法の笛という意味である。
「あれがどうかしたワケ?」
「あの曲はフリーメイソンのためのオペラとして知られているのでス」
「まさか…モーツァルトも…?」
「彼もまたフリーメイソン会員でしタ。魔笛はフリーメイソンのシンボルや教義に基づク」
「知識階級連中の全てがフリーメイソンと縁があったワケ?」
「悪魔が来りて笛を吹ク。アナタが表現した言葉こそがイルミナティのマインドコントロール」
「…どういう意味なワケ?」
「我らはある意味
現代人は自分の耳で聞いたニュースや身辺の出来事を通じて漠然としたものを溜め込む。
言葉にならない言葉を心の中に蓄積していく。
言葉にならない言葉をキーワードとする命令に従い、行進曲にでも合わせるかのように進む。
「和泉十七夜の言葉にならない言葉とハ、格差と差別を憎ミ…そして平等を望む道徳主義でス」
「確かに…アリナが見た限りでも和泉十七夜は言葉にならない言葉を通して生活してきた」
現代人は自己との葛藤によって混乱した精神状態である
その断層を真剣に癒そうとはしていない。
断層を癒すためには荒療治が必要だからだ。
偽りのペルソナを捨て、真実の自己を理解するための行動を起こさねばならないからだ。
「そこデ、自然と
「自分自身は苦痛や犠牲を払わなくても済む…そんな連中、アリナは腐るほど見てきた」
「大衆の行動を支配しようと音楽を奏でるのが我々エリート。民衆はそれに気が付かなイ」
「まぁ、アリナだって一昔前までは催眠術だのマインドコントロールだのは笑ってたワケ」
「だから我らの術中にハマるのでス。我々は代理人を通してそれを行ウ」
「その役目を担ってるのが…世界中の政府やメディアってワケ?」
「人々はそんな話を決して信じなイ、嘲笑ウ。だからこそ我らのマインドコントロールは無敵」
「ジャパニーズはヒトラーから何も学ばなかったってワケ。プロパガンダの恐ろしさを」
「我らは人々を永遠に躍らせる音楽を奏で続ける者。それによって人々を望む形に
――それこそが我らの錬金術…
なぎたんも立派にハロウィンモードになって悪落ちしてくれました(汗)
さて、そろそろシドのバトルを描こうかと考えてます。
シドのバトル相手はもちろん、キョウジさんです。