人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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142話 生体エナジー協会

1950年に精神衛生法 が制定された時期から私立精神科病院が乱立し始める。

 

精神科は一般診療科に比べ医者や看護師の数が少なくても良いという特例があった。

 

病院建設費用なども便宜が図られるなど精神科病院を開院しやすい土壌があったといえる。

 

また抗精神病薬が発明され、身体拘束から投薬による抑制が可能となる。

 

少ない投資で得られる利益が大きい分野となったようだ。

 

佐藤メディカルグループ傘下には単科精神科病院の中でも国内有数の大病院が存在する。

 

キョウジが見つけ出した敵の根城の一つ…佐藤精神科病院であった。

 

……………。

 

地元住民達の間では佐藤精神科病院に行く者は死亡退院を望む者達だと囁かれる。

 

佐藤精神科病院の死亡退院者数は全国でも極めて高く、66・5%にもなっていた。

 

これは精神医療業界そのものの闇が凝縮してしまった結果なのだろう。

 

そんな恐ろしい精神病院に向けて走行してくるのは神浜テロでも見かけた米軍偽装トラック。

 

自動で開いたフェンスゲートを超え、小高い場所にそびえる大病院の暗い夜道を走行していく。

 

周囲は無数の監視カメラが備え付けられ、病院敷地内の森の上空には防犯小型飛行船が宙を飛ぶ。

 

高性能ワイヤレスカメラを搭載し、100m上空から監視体制が敷かれる異常光景。

 

過剰過ぎる警備体制ではあるが精神障碍者の脱走防止目的だと地元の人々には説明されていた。

 

数台の偽装トラック車列の最後尾を走るのは黒塗りの高級セダン。

 

大病院の敷地内に入ってきたトラック車列が敷地内の奥に向けて走行していく。

 

敷地内の一番奥に建てられた資材搬入倉庫として使われる場所に入り、停車。

 

トラック車列が全て収まった後、倉庫の巨大扉が自動で閉まる。

 

昇降エレベーターが下がっていくような音が周囲に響いた後…静寂に包まれた。

 

高級セダンは大病院の入り口前で停車。

 

運転手が降り、後部座席の扉を開ける。

 

中から出て来た人物とは…ダークサマナーのシド・デイビスだ。

 

「やれやレ……ここを嗅ぎ付ける者が現れるとハ」

 

サングラスを押し上げた後、運転手を残して病院入り口へと向かう。

 

院内に入れば出迎えの人物が現れたようだ。

 

「アナタがここのセキュリティチームの責任者ですカ?」

 

「はい。こんな夜分にご足労願い、申し訳ありません」

 

黒の警備服を着た人物。

 

上着の袖や黒のベレー帽に見えるエンブレムの形は特徴的だ。

 

六芒星の図形の中にピラミッドと単眼…プロヴィデンスの目を収めたエンブレム。

 

紛れもなくイルミナティを表していた。

 

「丁度私も荷物を届ける仕事がありましたガ…私が対処しなければならない問題ですカ?」

 

「ここを嗅ぎ付けた者は…攫われた少女達が魔法少女だと分かる者だと連絡がありました」

 

「お仲間という線はないのですカ?」

 

「車で尾行してきたようなので、その線は考え辛いですね」

 

「なるほド。車を運転出来る年齢まで生きられる魔法少女なド、そうそういませんしネ」

 

「恐らくはデビルサマナー。…我々の警備部と合流していた天堂組の者達は…全滅しました」

 

「分かりましタ。いきなり乗り込んでくる愚か者でなくとモ、時間を延ばさずに行動を起こす筈」

 

「この病院の地下施設に気が付かれるわけにはいきませんし…」

 

――マニトゥを直ぐに移動させることは出来ません。

 

「フッ…それもそうですネ。暫くは私がここの警備につきましょウ」

 

「お心強いお言葉です。では、所長もお待ちしておりますのでこちらにどうぞ」

 

不気味な院内を2人は進んでいく。

 

窓は強化ガラスに格子戸となっており扉は全てオートロック。

 

精神病院は言わば昔で言うところの座敷牢。

 

法律が変わってからは精神病院に名前が変わっただけなのだ。

 

2人は院長室に入っていく。

 

中は豪華な装飾品で飾られているが、その中でも不気味なのはホルスの目を描いた絵画。

 

警備責任者が絵画に手をかけ回転させる。

 

横の隠し扉が開き、中には大型エレベーターが見えた。

 

エレベーター内に入り扉が閉まっていく。

 

地下へと進んでいく光景が続き、エレベーターが停止。

 

扉が開いていく。

 

この領域こそが…この病院の心臓部であり正体。

 

医療で人々を救うという擬態を施した施設の正体とは…少女を喰らう施設であったのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

そこはあまりにも巨大過ぎる地下秘密研究所。

 

螺旋構造を束ね合わせて作られたかのように複雑な構造をした地下空間。

 

ま白い空間は地下施設を感じさせないような外の景色がスクリーンに映し出されている。

 

オフィス空間のような景色が続くが、ガラス部屋の向こう側にはおぞましい光景が見えてくる。

 

<<あ”あ”あ”あ”あ”ーーーーッッ!!!>>

 

巨大な機械に繋がれた魔法少女の片目に繋がっているのは…機械式の吸引装置。

 

開かされた眼球に針が差し込まれ、脳の中枢である松果体の血を吸い上げられているのだ。

 

隣の部屋をガラス越しに見れば、さらにおぞましい光景。

 

複数の試験管内に浮かぶのは…魔法少女達から取り出した脳である。

 

脳には埋め込み型の電極が刺さっており、研究所内のAIで脳の思考意図を解読中。

 

電気的な刺激を利用し、発信者の意図を知る仕組みの研究なのだろう。

 

発信内容はインターネットに収集され、他の脳との相互交信が行われていた。

 

他のガラス窓の向こう側には奇妙な光景が広がっている。

 

機械設備に繋がれているのは…餓死しかけた裸体の魔法少女達。

 

頭部は奇妙な機械で覆われている。

 

外の大型モニターにはVRアバターが映し出されており、美しい異世界仮想空間を描いていた。

 

機械に繋がれた魔法少女達は…まるで現実世界など捨て去ったかのような笑み。

 

他にも様々な非人道的行為の光景が見えるが…もはや語るのも憚られる。

 

あまりにも酷い地獄の如き光景が続いていった。

 

()()()()()()()()()の研究状況はどうですカ?」

 

「21世紀の技術革新により飛躍的に進んでいます。2030年までには実用化するでしょう」

 

「ハルマゲドン後の世界秩序、生き残った人類の家畜化計画。時間はあまりありませン」

 

「これらの研究は神浜市の地下深くにあるザイオン都市で続けられるでしょうね」

 

「この研究所もいずれ引き払イ、ザイオンに引っ越ししなければなりませン」

 

「いずれ人間の脳…いや、魂はインターネットで管理される。外側の肉体は必要でなくなる」

 

「我らは人の魂を管理する者となル。魂を奪う者を超エ、我らは管理者を超えた現人神となル」

 

「最終的な目標は2050年。それまでに我々のニューワールドオーダーは完成するでしょう」

 

シドは立ち止まり、感情エネルギーを発している研究室を窓越しに見物。

 

そこには機械内部の筒状の容器の中に収められたソウルジェム。

 

ソウルジェムは拷問の如き研究に耐え切れず破裂。

 

だが…円環のコトワリに導かれる光景が見えない。

 

ソウルジェムが破裂すると同時に筒状容器の中が輝き、生まれる魔女が分子破壊されてしまう。

 

残ったのは純粋な感情エネルギーであるMAGの光のみ。

 

「生物とは情報の塊。人も魔法少女も悪魔とて情報の塊。デジタル化することは可能なのでス」

 

シドが語った恐ろしい言葉。

 

人間も魔法少女もデジタル管理される未来。

 

悪魔の如き管理プログラムと化していくのだ…人類も、魔法少女さえも。

 

その光景はさながら()()()()()()()()の光景であった。

 

……………。

 

景色が変わり、神殿の回廊空間のような景色が続く。

 

赤いカーペットの向こうにはバフォメット像が置かれた両開き扉が見えてきた。

 

「では、私はこれで失礼します。地上の監視任務もありますので」

 

「分かりましタ」

 

警備責任者は去っていき、シドは両開きの扉を開ける。

 

中に入れば、そこは神殿の如き円柱で飾られた空間。

 

白黒タイル床の向こう側まで続く赤いカーペットの奥には…黒革椅子に座る人物がいた。

 

「ようこそ、生体エナジー協会へ」

 

巨大な六芒星とプロヴィデンスの目の形をしたシンボルを背にした男。

 

黒いスーツ姿に黒のベレーを被る姿。

 

肌は病的なまでに白く、その目は悪魔を表す真紅の瞳。

 

「こんばんワ、所長。今夜の荷物をお届けにきましたヨ」

 

「助かるよ。ここに捕らえていた家畜の数も少なくなってきてね」

 

「この国には米軍基地を通しテ、様々な国の魔法少女が搬送されまス。それには理由があル」

 

「フフッ…その通り。せっかく来たのだし、見ていくかね?」

 

――白のマニトゥを。

 

所長は邪悪な笑みを浮かべてくる。

 

シドも笑みを浮かべて頷くのだが…突然空腹を示す音が室内に響く。

 

「…失礼。夕飯を食べる暇もない多忙な状況でしたのデ」

 

「ハハハッ、構わないよ。幹部食堂で遅い夕飯を済ませてからにしよう。高級寿司を用意させる」

 

「それは楽しみでス」

 

2人は移動していく。

 

まるで貴婦人のサロンを思わせる宮殿食堂に移動した2人が席に座って向かい合う。

 

「そういえバ、私はまだ出会ったことがないのでス」

 

「誰と出会ったことがないのかね?」

 

「暁の子…我らの神が手塩にかけて用意した存在。アナタはたしカ、7つの試練の時に見た筈」

 

その言葉が意味するのは…所長と呼ばれた男もまた堕天使なのだと意味する。

 

ルシファー直属の実働部隊エグリゴリのメンバー達だ。

 

かつて暁美ほむらに与えられた7つの試練。

 

その5番目に現れた時の翁の戦場に演奏隊として現れた200人の堕天使がいた。

 

目の前の人物もまたそこにいたようだ。

 

両肘を机に置き、合わせた手の上に顎を置く。

 

「…力強く、美しかった。たとえ肉体も魔力も弱くとも…彼女の魂は決して砕けない盾だった」

 

「我らの神になられるお方…人修羅とさエ、互角に戦える程の存在だと聞いてまス」

 

「あの戦いの光景を私も見物させてもらった。彼女の存在はハルマゲドンに必要なのだ」

 

「我らの理想未来NWOとテ…ハルマゲドンに勝利出来なければ藻屑と化ス」

 

「LAWの天使共を打ち倒し、唯一神を滅ぼす。それを成し得なければ我らの庭である地球は…」

 

「……神の怒りに触れテ、神罰が下されるでしょうネ」

 

「…今度の神の怒りは、世界を飲み込む津波程度では済まされんと…私は考える」

 

「アナタもまた原初の宇宙が生まれた頃かラ、唯一神と共に在った天使。よく知っておられル」

 

「地球はイレース(破壊)されるだろう。この考えは他の協会幹部とも意見が一致している」

 

「世界の国のうち9割の国に生体エナジー協会があル。そこの管理者もまた堕天使方でス」

 

「エグリゴリメンバーが代々所長を務めてきた。魔法少女を家畜にする以上は危険が伴うからな」

 

「生体エナジー協会の会長である堕天使…シェムハザ様とも会った事が私はありましたネ」

 

「シェムハザ様とアザゼル様もまた、暁の子には期待されている。負けるわけにはいかんのだ」

 

――光と闇の最終戦争をな。

 

話し込んでいたら職員が来て、木箱器に収められた高級寿司を置いて去っていく。

 

「フフッ、ジャパンの諺では腹が減っては戦は出来ぬとありまス。私も同感でス」

 

「軍隊は胃袋で動く…ナポレオンの諺もあったな」

 

「アナタは食べないのですカ?」

 

「悪魔の私は…こちらを頂こう。寝酒には丁度いい」

 

上着のポケットから取り出したのは小さな試験管のような器。

 

中で緑色に輝くのは犠牲となった魔法少女から搾り取ったのだろう感情エネルギーであるMAGだ。

 

蓋を開け、所長は一気に飲み干していく。

 

「フゥーッ、やはり魔法少女の絶望の味は格別だな」

 

「私はショーユソースとワサビで頂きまス」

 

食事を終えた2人は移動していく。

 

この地下研究所の最深部へと至っていく。

 

暗闇の奥底こそがこの世の冥界。

 

その先に存在しているのだ。

 

白のマニトゥと呼ばれる悪魔が。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

エレベーターから降りてきた2人が立つ場所が地下研究所最深部。

 

長いトンネル形状の巨大空間が地下800mまで広がっており、底はMAGの光に包まれている。

 

モニタールームに入り、2人は巨大空間をモニター越しに見つめる。

 

「見たまえ。悪魔の私でさえ醜いと感じさせるほど獰猛なソウルイーターを」

 

「…かなり肥大化してますネ。もうじき耐え切れなくなるでしょウ」

 

モニターに映し出されたのは、あまりにもおぞましい姿。

 

全長はかつてのワルプルギスの夜に迫る程の巨大な存在。

 

二本角が生えた白い肌の巨人に見えなくはないが…人の形を保つ事が出来なくなっている。

 

全身が分割されたかのように内側から弾け、黒き触手で無理やり内側に繋ぐ痛々しい姿。

 

マニトゥの巨体は巨大な鎖で雁字搦めにされており、拘束されている。

 

それ以外に見える管のようなチューブは体と繋がり、無尽蔵に感情エネルギーが流し込まれる。

 

まさに破裂寸前の風船の如き姿をした巨大なる大霊。

 

「自分が耐え切れずに死ぬことさえ理解出来ぬほど知能が欠如し、無限にソウルを喰らう者だ」

 

「フッ…いくら私とテ、大好きなスシで死にたくはないものでス」

 

「この悪魔は特殊な存在。自分の一部を増殖させ、無尽蔵に個体を増やす事が出来る」

 

「世界中にある生体エナジー協会の最深部にモ、これと同じ個体があるというわけですネ」

 

「マニトゥはソウルを喰らうシダ植物とも言える。体から放たれる胞子状のスポアが魂を捕える」

 

「この研究所内でも感じましタ。あの胞子がソウルジェムを捕エ、穢れのエネルギーを喰らウ」

 

「お陰様で家畜を拷問しようが、そうそう絶望死には至れない。体を切り刻もうとね」

 

「捕えた穢れはマニトゥに回帰するキャリア生物を生じさせル。その生物はデジタル化すル」

 

「あそこに見える管の数々はLANケーブルにもなっている。ネットワーク経由でソウルを貪る」

 

「自分でソウルの穢れを喰らイ、我々が用意するMAGさえ喰らウ。際限なき暴食の悪魔ですネ」

 

「暴走しているとも言えるね。ある意味…()()()()()()()のやもしれん」

 

マニトゥが収められた空間の音声がモニター室に響く。

 

空間内が振動し、モニター室にも揺れが伝わってくる

 

<<ヒハハハハ…ヒヒヒヒヒ……ソウル……ソウルだぁぁぁ……>>

 

暗闇の奥底に鎮座した主のおぞましき声。

 

まるで魔法少女達から際限なく授乳を求める狂気の赤子のようにも聞こえるだろう。

 

『悪魔の産声』だ。

 

「……まだ自我が残っているようですネ」

 

「…いずれそれも消え去る。自分が何を求めているのかさえ、分からぬほどにな」

 

「白のマニトゥと黒のマニトゥ。白は創造を司る存在でス」

 

「世界中のマニトゥは…あと少しで東京に向けて運び出されるだろう。そこで創造が行われる」

 

「東京においテ、全てのマニトゥを破壊すル。それによリ…莫大なMAGが放出されル」

 

「その時にこそ、神霊規模の悪魔をこの世に召喚出来る。魔界を産む…母親だ」

 

「…私も見てみたいものでス。古代バビロニアにおいての…原初の神ヲ」

 

「白のマニトゥで目的を達成出来れば良いが…邪魔されるならば、黒のマニトゥが必要となる」

 

「…神の粒子を生み出すILC加速器。東京湾にまで伸びて繋がれた巨大地下リングですネ」

 

「黒のマニトゥとは破壊を司る。世界を内側から次元破壊する……()()()だ」

 

「……出来れバ、黒のマニトゥは使わないで済めばいいのですガ」

 

「閣下が発令されるオーダー18。それには必ず障害が現れると仰られている」

 

「こちらでの騒動もまタ…それに繋がるやもしれませン。私も警戒を緩めぬよう努めまス」

 

「案ずるな、君だけに負担はかけん。君以外にも強力な戦力がいるから自由に使って構わん」

 

「ほウ?」

 

「ここには莫大なMAGが貯蔵されている。私は許可を貰い、護衛として2体の悪魔を召喚した」

 

「その悪魔の実力ハ?」

 

「折り紙付きだが性格に難有りだ。しかし私の秘書を務める悪魔の力で懐柔させたから問題ない」

 

「でハ、その2体の悪魔とやらを拝見させてもらえますカ?」

 

「よろしい、こちらに来てくれ」

 

踵を返し、2人は研究所最下層を後にする。

 

繋がれたソウルイーターは際限なく魔法少女達のソウルから生み出される絶望を喰らい続ける。

 

その身が破裂するまで。

 

その身の破壊こそが創造へと至る…死と再生の大霊。

 

故に白のマニトゥとは死ぬために存在しているとも考えられる悪魔であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後日。

 

夜中の見滝原市郊外の佐藤精神科病院から離れた場所にはキョウジが立つ。

 

車のボンネットに置いた周辺地図を見ながら煙草を吸っている光景が続いていた。

 

「正面の警備態勢は地元の奴らにも怖がられる程の異常さ。それに病院の後ろは山の斜面か」

 

人の流れは正面部分からしか整備されておらず、病院の周囲はフェンスで覆われている。

 

周辺地図に印をつけながら考え込んでいたら煙草を吸い終えている。

 

地面に吸い殻を落し、踏み消そうとした足が止まった。

 

「…戦術の要諦は、敵をあざむくこと。ならば定石を覆す戦いこそが求められる」

 

佐藤精神科病院が毎年行う避難訓練の内容にも目を通し終えている。

 

「フッ…寒い季節になってきた。派手に暖かくしてやろう」

 

火が付いたままの煙草の吸殻を放置して、キョウジは車の後ろに歩いていく。

 

車のトランクを開け、ミリタリーリュックを取り出して背負う。

 

中に入っているのは証拠データを収める端末や、C-4爆弾等々。

 

米軍採用の対戦車ロケットランチャーを右肩に担ぎ、左手にはAPC9サブマシンガンを持つ。

 

白いスーツ上着の下に防弾タクティカルベストを纏い、マガジンや拳銃を隠し持つ重武装。

 

地面に突き立てていた七星剣を右手で抜いて逆手に持ち、病院に向けて歩いていく。

 

「あの施設の着工から竣工するまでの異常過ぎる長さから判断して…地上の建物は偽装だな」

 

暗闇の世界へと歩みを進めていくキョウジの背中。

 

彼の道は死への旅路か、終わりなき殺戮の道か。

 

デビルサマナー葛葉キョウジの戦いが始まったのだ。

 

……………。

 

警備の数が増やされ、病院施設に入れる山道前のゲートは物々しい空気。

 

山道の周囲の森の中にまで巡回している警備兵の姿が多数。

 

その手には日本の警備会社が使用することなど出来ないはずの自動小銃。

 

厳戒態勢ともいえる布陣ではあるのだが…。

 

「今日は風が強いな」

 

「夜風も寒い季節になったし、早く見回りを交代してもらいたいぜ…」

 

「地上も空も監視の目で固めてる。これだけの監視網を敷いてて…昨日の騒ぎの奴が来るのか?」

 

「どうだろうなぁ?死にに来るようなもんだぞ」

 

「だよなぁ」

 

お喋りをしながら巡回していた警備員達だったが思い知らされるだろう。

 

監視の目で固めていようが、それが通用するのは人間や魔法少女程度でしかないということを。

 

<<ゥリィィィィィ!!!!>>

 

「な、なんだ…?」

 

叫び声が何処かで聞こえた気がした。

 

「どうした?」

 

「…いや、なんでもない」

 

ただの人間では概念存在である悪魔の姿を見る事など出来ないし、声も伝わらない。

 

それは監視カメラとて同じ。

 

悪魔の異界に引き摺り込まれた者達のみがその存在を知覚出来るのだ。

 

では、悪魔が異界を開かずに行動すれば何が出来る?

 

<<オレは悪霊インフェルノだぁぁーーーッッ!!!>>

 

大気に焦げ臭い匂いが充満し…次の瞬間、それは起きた。

 

「「うわぁぁーーーーッッ!!!?」」

 

突然の森林大火災光景が広がっていく。

 

業火が次々と森に広がり、山の斜面を登っていくかのようにして病院に迫りくる。

 

今夜の風が追い風であったのも影響が強いのだろう。

 

「な、なんだーっ!!?何処から火の手が上がったんだぁ!!?」

 

「早く逃げろーーッッ!!」

 

警備員達が慌てて森から逃げていく光景を空から見つめる存在こそが…炎の悪霊。

 

【インフェルノ】

 

イタリア語で地獄を意味する名を持つ悪霊。

 

生きたまま焼け死んだ死者の怨念が、炎を纏った亡者の姿で現れたもの。

 

東西を問わず、地獄とは炎が燃え盛っているイメージがある。

 

これは生前の罪悪感や受けた憎しみが形を成したものとも考えられる。

 

生前に極悪人と記憶された者は死後、その記憶により地獄で苦しむこととなるのがこの悪霊だ。

 

「グゥゥゥゥ!!熱イィィーッッ!!!貴様ラモ同ジニナレェェーッッ!!!」

 

亡者の憎しみが業火となり森林を燃やし尽くす。

 

病院内では火災警報が鳴り響き、入院患者達を看護師達が誘導していく光景が続く。

 

警備室では警備責任者が檄を飛ばす。

 

「何処から侵入されたんだ!?これだけの監視網を敷いているというのに…」

 

「やれやレ、この体たらくだからこソ、私が呼ばれたというわけですネ」

 

後ろを見れば、いつの間にかシドがいる。

 

「相手はデビルサマナーですヨ。アナタは悪魔の存在について知らな過ぎたようですネ」

 

「うっ…わ、私は……」

 

「アナタの査定についてハ、私が上に報告しておきまス。それよりモ…陽動に注意しなさイ」

 

ゲート周辺の山道や森林から逃げてきた警備兵達が病院施設を防衛するかのように動き続ける。

 

「くそっ!!このままじゃ…山火事に飲み込まれちまうぞ!!」

 

「消防がここまで駆けつけるのに…早くても20分はかかる!」

 

「一本道しかない病院は防災に弱いって上に忠告してきたってのに…だからこのザマだ!!」

 

「狼狽えるな!!俺達の任務は侵入者を見つけ出して排除すること……!?」

 

檄を飛ばした男の首が跳ね落ちる。

 

次々と跳ね落ちていく警備員達の首。

 

「ヒィィィーー!!?」

 

闇雲に銃を乱射する警備員の首も跳ね落ちた。

 

彼らには見えてはいなかった。

 

自分達の近くに立つ敵の姿を見る能力はなかったのだ。

 

<<ヒャッハー!今夜は派手な血祭りと行こうぜーッッ!!>>

 

【ラクシャーサ】

 

インドに伝わる悪鬼の種族。

 

アスラが神々の敵であるのに対してラクシャーサは人間の敵であるとされる。

 

ヒンドゥーでは人喰い悪鬼だが、彼らは土着の神々の系譜らしく水に関係する自然神であった。

 

様々な妖術を用い神々を圧倒する事もあるが、最終的には敗れることを運命付けられている種族。

 

仏教では羅刹として夜叉(ヤクシャ)と共に天部に取り入れられた。

 

「パッションがぁーーみなぎるぜぇぇぇーーッッ!!!」

 

赤い肌と二本角を持つ黒髪長髪の悪魔が振りかざすのは二刀流の曲刀。

 

病院内部にまで入り込み、次々と警備員達を殺戮していく。

 

殺戮の悪魔が通った後に残されたのは、おびただしい死体の数々。

 

「クックッ…臭うぜぇぇ…こいつぁぁ乙女の感情エネルギーだぁぁ……」

 

地下から漂う魔法少女達の感情エネルギーに気づいたラクシャーサは病院内を探し求める。

 

「ここだなぁ?」

 

院長室の扉を蹴破り、中に侵入。

 

「旦那は好きに暴れていいと言ってくれた。だったら好きにMAGを喰らうし殺戮するさぁ!!」

 

中を物色していた時、下側からエレベーターが昇ってくる音が微かに聞こえた。

 

「そこに道を隠してたってわけかよ?さぁ~て、下にはどんなご馳走共を隠してるんだぁ?」

 

隠し扉の前で双剣を振りかざす。

 

下から昇ってきた者が扉を開けた瞬間に首を跳ねる構え。

 

エレベーターは院長室で停止した時、ラクシャーサは異変に気付く。

 

<<貴様の心臓、貰い受ける>>

 

「あん?」

 

エレベーターの向こう側から感じたのは…恐ろしい悪魔の魔力。

 

「がフッ!!?」

 

エレベーターの扉を突き破って伸びてきた矛がラクシャーサの心臓を貫く。

 

「ゴハァ!!!こ…この槍……ま…さか……ケルトの…英雄!!?」

 

槍が引き抜かれ、エレベーターが開く。

 

後ずさりながら現れた悪魔に視線を向ける。

 

そこに立つのは白銀の甲冑鎧を纏った美しき槍兵。

 

その姿は同じケルトの英雄であるタム・リンとよく似ていた。

 

「……貴様の首も、貰い受ける」

 

「て…てめぇは……()()()()()()()…!!?」

 

一閃の風が室内に吹き抜ける。

 

「すま……ねぇ……サマナー……だん…な……」

 

殺戮してきた者達同様、槍の矛で首を跳ね落とされたラクシャーサの体が弾け、MAGの光と化す。

 

「……………」

 

勝利の余韻を感じることもない美しい顔。

 

だが、その瞳は何処か濁っているようにも見える。

 

「ウッフフフ♪いい子ね~クーフーリン♪」

 

同じエレベーターから出て来たのは、胸元をはだけたビジネススーツを着た金髪女性。

 

長身のクーフーリンに胸元の巨乳を見せびらかすようにしてウインクしてくる。

 

クーフーリンと呼ばれた悪魔は視線を逸らし、寡黙に徹する姿を残す。

 

【クーフーリン】

 

アイルランド、アルスター神話における英雄で光の神ルーグの息子。

 

幼少時から大変に美しく、勇猛な少年セタンタとして知られた存在。

 

しかし、戦闘の狂気に囚われると凶暴化すると共に、世にも恐ろしい姿に変化したという。

 

彼は鍛冶屋クランの獰猛な犬を打ち殺した時、犬の代役を申し出たことがある。

 

クーフーリンの名はクランの猛犬を意味するのだ。

 

武者修業の為に影の国に出かけ、そこで戦いの女神スカアハに武術や魔術を学ぶ事となった存在。

 

師匠であるスカアハから授けられた象徴的な槍こそがゲイボルグと呼ばれる魔槍であった。

 

「最初の頃は狂犬だったけど~、私の魅惑魔法でメロメロになったのよね~~?」

 

「……いつになったら、私に相応しい強敵と巡り合えることになる?」

 

「そうね~?最近は物騒だし~もう直ぐ巡り合える気がすると思うわけ♪」

 

「とぼけるな。私の血が騒ぐ…もっと強い敵と殺し合いたいと…騒ぐのだ!!」

 

<<俺様との勝負じゃ不満だってのかよ、犬っころ?>>

 

視線を向けた先はエレベーターの奥。

 

腕を組んでいるのは赤と紺色のカンフー着を着た長身人物。

 

長めの白髪をワイルドにオールバックにした人物もまた、瞳の色が濁っている。

 

「黙れ、暴れ猿め。貴様との腐れ縁が()()()()()()()()と考えると…眩暈がして戦う気が失せる」

 

「寝惚けてる犬っころなんぞ俺様の敵じゃねぇ。擬態不意打ちでもやってんのがお似合いさ」

 

「貴様…私の槍術を侮辱する気か!?」

 

「おうおう、やろうってのか?」

 

詰め寄ってきて睨み合う男達。

 

割って入ってきたのはお色気秘書。

 

「ま~ま~、2人とも。喧嘩するほど仲が良いでいいじゃない?戦う相手を間違えないで~♡」

 

「五月蠅ぇ色ボケ女!!俺様とこいつは戦いに飢えてんだよ!さっさと強敵を連れてこい!!」

 

「あ~ん!そんなこと言われても~~私は斡旋の仕事まではしてないの~~!」

 

「たくっ!この無駄にデカい尻でも振って連れてこいってんだ!」

 

尻を鷲掴み。

 

ビンタをもらった。

 

「フン、貴様は女の尻でも追いかけてた方がいいんじゃないのか?赤い尻が好みなんだろう?」

 

赤い尻というワードに超反応。

 

オールバックにしたおでこに血管が浮かんでいく。

 

「テメェ……今俺様のことを…ケツの赤い猿っつったか!?」

 

右手に生み出した武器。

 

それは如意棒として知られる武具であった。

 

雲のような霧を全身から発し、暴れ猿と呼ばれた男は正体を現す。

 

「上等だぁーッ!!このセイテンタイセイ様を怒らせる犬がどうなるかを見せてやるぜ!!」

 

【斉天大聖】

 

中国四大奇書の一つ、西遊記に登場する仙術を駆使する妖猿であり、孫悟空として知られる武神。

 

花果山の霊石から生まれ、曲折あって仙術を身に付けて天界で暴れ回ることとなる存在。

 

天界が彼をなだめる為に役職を与えると共に認めた称号が斉天大聖である。

 

名だたる道教の神々にも彼は止め切れなかったが、釈迦如来によって下界の五行山に封じられた。

 

後に三蔵法師に解放されて弟子入りし、猪八戒・沙悟浄らと共に天竺まで経典を求めて旅をする。

 

それが後の世に知られる有名な物語、西遊記であった。

 

中国の伝統的な武侠服を思わせる衣装を纏うのは、獣人とも言えるような姿となった孫悟空。

 

「行くぜオラァァーーーッ!!」

 

如意棒を頭上で振り回し、袈裟斬りの角度から打ち込む。

 

「フンッ!」

 

ゲイボルグで受け止め、鍔迫り合い。

 

睨み合う両雄と困ったままオロオロするお色気担当。

 

「やめて~!!喧嘩するなら外でやりなさいよ~!!」

 

「応!!ここじゃ狭いし、屋上来いやぁ!!」

 

「ヤンキー漫画でも読んだのか?だが、部屋が狭くて戦い難いことは同意してやる」

 

「キャンキャン鳴かせてやるから覚悟しろよぉ!!」

 

「キーキー鳴くことになるのは貴様の方だ!!」

 

プンスコしながら部屋を出ていく2体の悪魔。

 

独り残された女秘書は両手を広げるポーズを残す。

 

その光景はまさに犬猿関係であった。

 

「全く…私の魅了魔法で戦いの事しか考えられないようにしてるのが災いしたのかしら?」

 

妖艶な笑みを浮かべた彼女の背中から蝙蝠の翼が生える。

 

蝙蝠の翼を折り曲げ、姿を隠す。

 

翼を広げた時、彼女の姿はセクシーな女悪魔姿へと変化していた。

 

【サキュバス】

 

女性タイプの淫魔であり、ラミアやリリムと混同される悪魔。

 

夢や現実で男を誘惑し、性交すると言われる存在。

 

夜寝ている男の夢の中に入り込み、誘惑して精液を奪う者だと言われている。

 

豊満な肉体をした絶世の美女として現れるため、彼女の誘惑に抗える者は少ない。

 

過度な性行為が続けられた男達を死なせる淫魔として恐れられた。

 

また、男性タイプの淫魔はインキュバスとしても知られているのだ。

 

「今日のあの2人は役に立ちそうにないし~……シドさ~ん、ファイト♡」

 

踵を返してエレベーターに乗り込み、下の研究所へと戻っていく。

 

この騒動の中で陽動を警戒していたのだが、キョウジの姿は何処にも見えない。

 

彼は一体何処から現れるのだろうか?

 

彼は言った。

 

戦術の要諦は、敵をあざむくことだと。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

病院施設の奥にある大きな倉庫前にはキョウジが立つ。

 

顔はガスマスクが装着されているようだ。

 

ガスマスクを外して捨てた彼は倉庫に向けて歩みを進めていく。

 

「最初からここが怪しいと思っていた。病院にしては不釣り合いな大きさを誇る倉庫だからな」

 

キョウジが病院施設に侵入したルートとは何処だったのか?

 

それは…あろうことか燃え上る森林内部から直進してきたのだ。

 

白いスーツも煤けており、火災の壮絶さを物語るのだが…彼は迷わず直進してきた。

 

命知らずの戦術ではあるが、敵の裏をかくことが出来たようだ。

 

兵は詭道、それが孫子の名言。

 

出来るのに出来ないふりをし、必要なものを不要とみせかける。

 

遠ざかるとみせかけて近づき、近づくとみせて遠ざかる。

 

敵の意表を衝く、これが戦術の要諦。

 

敵が陽動だと思い込むのを逆手にとったわけだ。

 

七星剣を用いて扉を真っ二つに切り捨てる。

 

「倉庫なのに何も置かれていない…それに妙な地面だ。奥に見えるあの操作パネルは何だ?」

 

捜査パネルを押せば地面が沈んでいく。

 

「なるほど…ここが地下施設の生命線である物資搬入路というわけかよ」

 

100m程下りれば、そこは広大な空間。

 

「大型トレーラーが何台も停車出来そうな空間だ。あの奥が地下施設というわけだな」

 

厳重に閉じられた両開き扉に視線を向ける。

 

キョウジは右肩に担いでいた対戦車ロケットランチャーを持ち、構えた。

 

「俺のやり方はいたってシンプル。敵を皆殺しにして、証拠データを奪い、施設を破壊するだ」

 

対戦車弾頭が発射される。

 

扉に直撃し、大きな穴を開けて通路を開けた。

 

「さぁ、蜂の巣を叩いた騒ぎになるぞ。お楽しみといこうじゃないか」

 

使い捨ての無反動砲を捨て、キャリングで肩にかけていたサブマシンガンを左手に持つ。

 

開けた通路に向かっていた時…キョウジの眉間にシワが寄る。

 

「……この魔力、ダークサマナーか。それも…かなりの実力者だな」

 

瓦礫と白煙の中から現れたのは悪魔崇拝神父であるシド・デイビスである。

 

「陽動と見せかけて正道。中々に賢しい人物のようですガ…私は気づいてましたヨ」

 

「……お前はイルミナティのダークサマナーだな?」

 

「イエス。冥途の土産に教えてあげてもいいでしょウ。私の名ハ、シド・デイビスでス」

 

「今から俺が殺す者の名だ。直ぐに忘れるさ」

 

「中々の自信ですガ、私に通用するのかどうカ…試してみるのもいいでしょウ」

 

「フン……いいだろう」

 

「好奇心は猫をも殺ス。イルミナティを追う者は例外なク…私が殺しまス」

 

睨み合う両雄。

 

キョウジは地面に七星剣を突き立て上着のボタンを外し、タクティカルベストを露出。

 

腹部にはマガジンと拳銃ポーチ、胸には複数の召喚管がポーチで支えられいつでも抜ける。

 

空気が歪む程の緊張感の中、2人が動く。

 

デビルサマナーとダークサマナー…悪魔召喚士同士の戦い。

 

互いに実力者であり熾烈を極める戦いとなろう。

 

キョウジは狂い死ぬジョーカーとしての運命を果たすのか?

 

それとも活路を見出せるのか?

 

葛葉キョウジ最大の戦いとなるだろう一戦が…始まった。

 




さぁ、キョウジVSシド・デイビスが始まりますね。
原作のままキョウジさん死んでしまうのでしょうかねぇ(汗)
ようやく人修羅の仲魔達も登場させる事が出来たし賑やかになってきましたね。
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