人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
先に仕掛けたのはダークサマナーのシドである。
踏み込んできた相手に対して左手を持ち上げながらサブマシンガンを構える。
マズルフラッシュが噴き上がり、9mmピストル弾の猛火射撃が飛んでいく。
シドは意に介さず両腕で顔を守りながら接敵してくる。
「防弾コートか!!」
カソックコートに織り込まれたカーボンナノチューブシートが銃弾を受け止める。
高速で接敵してきた相手に対して七星剣の逆袈裟斬りを狙う。
「フン!!」
キョウジの斬撃を受け止めたのは左手に持つ聖書である。
右足を後ろに引いたシドの上半身が揺れた後、キョウジの右側頭部は蹴り飛ばされている。
「ぐぅ!!?」
シドが放ったのは右手を地面につけるまで角度を下げた後ろ回し蹴り。
カポエイラでいうメイア・ルーア・プレザの一撃であろう。
立ち上がろうとするキョウジに目掛けて悠々と歩きながら迫ってくる。
「チッ!!」
左手の銃撃に対し、ジンガと呼ばれるステップで上半身を振りながら回避を行う。
背中から足を回し込んで頭部を蹴るサソリ蹴りを顔に浴びたキョウジは怯む。
右手を地につけ、低い体勢から飛び上がるジャンプ蹴りをシドは続けて放ってくる。
「ガハッ!!」
シャペウジコーロと呼ばれる蹴り技を浴びたキョウジはキリモミしながら倒れ込んでしまう。
シドは側転した後、カポエイラの演舞を悠々と舞いながらキョウジを挑発してくる。
「カポエイラの達人だったのか…ただの銃では貴様に勝てんな…」
立ち上がったキョウジは左手に持つサブマシンガンを投げ捨てる。
重荷として背負っていたミリタリーリュックも下ろして大きく投げ捨ててしまう。
七星剣を地面に突き立て、タクティカルベストに備え付けた召喚管を取り出して構える。
「接近戦で勝てないとみるヤ、悪魔に頼ル。無様な戦いですネ」
「言ってろ。後悔させてやる」
左手には召喚管、右手に持つのは上着のポケットから取り出した式札。
人の形に切った式札を投げ捨てた後、両手を交差させながら召喚の構えを行う。
対峙するシドもまた聖書を開き、収納している召喚管の一つを右手に持つ。
「いでよ……シキオウジ!!」
MAGの光を放つ召喚管を一気に振り抜き、管の中身を解放する。
キョウジの後ろ側に舞い落ちる式札を依り代にしながら現れたのは陰陽師の式神であろう。
<<我を呼んだのは貴様か?人の子よ、心して我を行使せよ>>
【式王子】
高知県香美郡物部村に伝わるという、いざなぎ流と呼ばれる民間陰陽道に伝わる鬼神。
この世に無数に存在する神霊や精霊を祈祷によって神格化したものである。
式王子は主に病人の祈祷で病気や災厄をもたらす悪霊を追い払うために使役されるという。
しかし人間に対しては呪詛として用いられる事もあった。
キョウジの背後に現れたのは二本角が生えた人の姿にも見える巨大な紙の鬼神。
まるで護符を用いて全身を編み込んだかのような恐ろしい姿を形作る。
「クックックッ…ハハハハハハハ!!」
シキオウジの召喚を見た事で不気味な高笑いを始めるシドがこう告げてくる。
「悪魔召喚を依り代頼りとはネェ…私の不肖の弟子以下ですヨ、アナタはネ」
シドの侮辱発言に対してキョウジは舌打ちしてくる。
キョウジの一族は元々は陰陽師であり、悪魔召喚師一族の葛葉と繋がりを持った分家一族。
悪魔を召喚する際に自らが練り上げる感情エネルギーのMAGを練る力が弱い一族なのだろう。
霊力が弱いため、依り代を用いて悪魔を式神として使役してきたようだ。
「この勝負、勝敗は見えましタ。見せてあげましょウ…完成されたデビルサマナーの力ヲ」
シドも召喚管を構えながらこう叫ぶ。
「いでなさイ…ファフニール!!」
召喚管を振り抜き、背後に現れた悪魔の姿はまるで巨大な機械竜のようだ。
<<我ハ邪龍ファフニール!!我ヲ使役スル者ヨ、我ノ敵ヲ示セ!!>>
【ファフニール】
北欧神話に登場する邪悪な竜であり、人が自らの財産を守るために変身した存在とも言われる。
空を自由に飛び回り、炎を吐き散らし、その血は浴びた者に不老不死を与えるという。
12世紀頃に書かれた書物ヴォルスンガサガでは毒を吐き大地を震わせる竜として描かれる。
ファフニールはジークフリートに倒され、彼は心臓を食べる事で賢者の如き知恵を手に入れた。
白銀に輝く鋼鉄の外皮を持ち、吐息からは毒々しい煙を噴き上げる姿をしたファフニール。
邪龍を迎え撃つかの如く歩き始めるシキオウジ。
「目の前の悪魔を倒しなさイ。私はサマナーを仕留めまス」
「我ノ財宝ヲ狙イシ賊共メ!!焼キ尽クシテクレルワ!!」
「薙ぎ倒せ、シキオウジ」
「委細承知!我が呪詛をその身に受けよ!!」
巨大な悪魔達が地響きを立て、互いの間合いに近づいていく。
キョウジは地面に刺さった七星剣を抜きながら構える。
両手を広げながら歩いてくるシドも迎え撃つ構えであろう。
「行くぞぉ!!」
「来なさイ!!」
悪魔と悪魔同士、サマナーとサマナー同士の熾烈な戦いが始まっていく。
「我ガ爪二引キ裂カレルガイイ!!」
白銀の機械竜ファフニールが振り上げた爪の一撃とは『狂気の粉砕』であろう。
周囲を獰猛な爪で破壊し尽くす程の暴れっぷりではあるが、シキオウジには効いていない。
全身を張り巡らす物理無効耐性が防いでいるのだ。
「その程度では我の耐性貫くこと能わず!」
護符で編みこまれた手が邪龍に向けられた後、放たれるのは無数の『マヒ針』である。
「貴様ノ耐性ハ侮レン!ダガ、貴様ノ攻撃モマタ我ノ結界ニハ通用セン!」
ファフニールが周囲に張り巡らせたのは物理反射魔法であるテトラカーン。
物理属性であるマヒ針が反射されたが、シキオウジの物理無効耐性が防ぐ。
互いに一歩も譲らない戦いはサマナー達も同じであろう。
「ハァァーーーッッ!!」
シドが放つ蹴りの乱舞が迫りくる。
上段メイア・ルーア・プレザ、中段アルマーダ、上段ハボジ・アハイア。
キョウジはスウェーバックし、片膝を上げて受け止め、さらにスウェーバックして避け切る。
跳躍からの旋風脚を身を屈めて掻い潜り、七星剣を振りかざす。
「今度はこちらの番だ!!」
袈裟斬り、逆袈裟をジンガステップで避け、続く左薙ぎに対して体勢を下げる回避を行う。
右手を地面につき、床で行う攻撃への繋ぎ移動であるネガチーバホレーを繰り出す。
身を屈めたまま床移動されるため攻撃が狙い辛くなってしまう。
「舐めた真似を!!」
唐竹割りで真っ二つを狙うが、低い姿勢から放たれる蹴り足で斬撃運動中の手首を止められる。
左手で蹴り足を掴んで関節技を狙うが、掴まれた手に支えられながらの後ろ蹴りが放たれる。
腹を蹴りこまれたキョウジはシドの足を離してしまう。
床を舞うように移動しながら立ち上がり、体を左右に振るジンガステップを行ってくる。
「ファフニール、得意の毒ガスブレスはやめなさイ。ここでは私まで毒にやられてしまウ」
「ヌゥゥ!!体ガ弱キ人間ナドヲ連レテイナケレバ…」
「その人間からMAGを貰うしかない者が随分と偉そうですネ?」
「ヌカセ!!コノ程度ノ紙切レ悪魔ナド、焼キ尽クシテクレルワ!!」
「その言葉、我が呪詛に堪え切れたらの話だ!!」
シキオウジの手が印を結ぶ中、危険を察知したファフニールが背中の翼を広げる。
鉄の骨組みのような翼を広げて飛翔した後、足元に広がるのは敵集団を呪殺する魔法が広がる。
即死魔法の『マハムドオン』に対し、呪殺に耐性がないため間一髪の回避行動が間に合う。
反撃とばかりに息を吸い込みながら業火を吐き出す。
「グォォォーーーッッ!!!」
ファイアブレスを浴びたシキオウジの体が激しく燃え上る。
「炎ガ弱点ダッタカ!コノ戦イヲ制スルノハ、我ノホウダァ!!」
空中から続けて業火を吐き続けるファフニールに対してシキオウジは劣勢となっていく。
「チッ!!」
相性が悪い悪魔を召喚管に戻そうとして意識が逸れたのが運の尽き。
「ぐっ…!?」
召喚管を持つ左腕には血が滲んでいく。
シドが構えていたのは中をくり抜いた聖書の中に隠し持つ拳銃であろう。
貫通はしておらず、内部で弾頭が留まるホローポイント弾を撃ち込まれたようだ。
「戦闘中に余所見をするからでス。いかがですカ?私のマジック・バレットハ?」
「マジックバレット…魔的弾だと…?」
「私の使う弾丸は特注品。鉛でこしらえズ…魔を払う水銀を用いて作らせていまス」
水銀は魔を払うと言われており、神社の朱色も水銀と硫黄を加工して塗装される程である。
魔を払えるほどに強い毒であり、人間にとっても水銀は水俣病の原因ともなった毒なのだ。
「くっ…うぅ…!?」
体内に回り続ける水銀の毒によってキョウジは片膝をついてしまう。
「このまま撃ち殺してもいいですガ、何者なのかを吐かせる必要があル。楽には死ねませんヨ」
聖書に銃を仕舞った後、威圧感を放ちながら迫ってくる。
「くそっ!!」
上着のポケットから取り出したのは数枚の護符であり、シドに目掛けて投擲しながら印を結ぶ。
「六根清浄!!急急如律令!!」
護符が清めの業火と化してマハラギオンの火球となる。
上半身に迫りくる業火の火炎弾であるが、マカコと呼ばれる片手バク転で回避を行う。
「無駄な足掻きでス」
完成されたダークサマナーが持つ桁外れの実力に対して絶体絶命の窮地に陥ってしまう。
「召喚管を使う暇など与えませんヨ」
痛みと苦しみで歪むキョウジの表情であるが、彼の瞳には絶望の色など欠片もなかった。
♦
戦場となった物資搬入エリアの乱戦は激しさを増すばかりである。
「ぐっ…ぬぅ……」
炎に焼かれ続けるシキオウジに対し、航空優勢の構えを崩さないファフニール。
「勝負アッタナ!我ニハ分カルゾ…貴様、術者カラ十分ナMAGヲ貰エテオラヌナ?」
「くっ…それでも我は式神!術者の命令を遂行するためにのみ存在する鬼神よ!」
「ソノナリデ何ガ出来ル?燃エ尽キルガイイ!!」
再びファイアブレスを狙う中、倒れたままのシキオウジの目が怪しく光る。
「ヌゥ!?」
口から吐き出したファイアブレスの炎が消えていく。
シキオウジが放った魔法は『クロスアイ』であり、敵単体の魔法を封印する魔眼の魔法だ。
「ヌォォォォーーーッッ!!」
気力を振り絞りながら立ち上がる式神に対し、地面に降りた機械竜が突撃してくる。
「物理ガ効カヌナラ!壁二押シ付ケテ潰シテヤル!!」
迫りくる機械竜に対してシキオウジが何かを掴む。
「カラクリの邪龍め…これでも喰らうがいい!!」
シキオウジが両手で掴んで投げ飛ばしたのは物資搬入エリアに停めてあったトラック電源車。
「コノ程度ノ瓦礫ナドデ!!」
右腕でトラックを弾こうとしたが、放たれたマヒ針が電源車を貫く。
テトラカーンを封じられたため、マヒ針は鋼鉄の鱗のような白銀の肌に突き刺さっていく。
「アバババババババ!!?」
電源車に溜め込まれた電気が針を通してファフニールに流れ込み、巨大な体が感電していく。
「…やはりカラクリか。電撃が弱点であったか」
巨体が倒れ込み、麻痺した体のまま苦しみのたまう。
追撃するシキオウジの動きも鈍く、魔封が効いているのが終われば勝敗は決するのだ。
サマナー同士の戦いもまた両者譲らない激戦が繰り広げられている。
シドは地面に手を付けながら側方倒立回転を行う。
キョウジの目の前で繰り出し、体勢を回しきらずに逆立ち姿勢に移りながら連続蹴りを放つ。
「うぅっ!!」
両肘で弾き続けたが、繰り出される両足の一発を頭頂部に浴びて後ずさる。
片手逆立ち状態のまま体を回転させ、起き上がるシドに対してキョウジが迫る。
回し蹴りを繰り出すが身を低める一回転で避けたキョウジは前掃腿を狙ってくる。
片足を上げて避けたシドは片手をつきながら飛び上がり、そのまま浴びせ蹴りを放つ。
七星剣の柄頭で蹴り足を弾くキョウジも果敢に攻め抜く。
「貴様の召喚した悪魔も景気が悪そうな状況だな!」
「苦し紛れの勢いで止められるほド、私の邪龍は甘くはありませんヨ」
斬撃を掻い潜り、地面を舞いながら這う相手に対して苦戦を強いられるキョウジ。
「…いいだろう。そこまで格闘戦が好きならば…付き合ってやろう」
七星剣を地面に突き立てた後、腰を落として足を半歩開き、両腕を構える。
「…望むところでス」
ジンガのステップを刻むシドに対して互いが動く。
シドのハイキックを肘で弾き、キョウジは右回し蹴りを放つ。
側転回避したシドはキョウジの側頭部に目掛けてハボジ・アハイアと呼ばれる蹴りを繰り出す。
状態を逸らした勢いでキョウジは倒れ込むが、追撃を狙うシドの腹部に蹴りを放つ。
「グッ!?」
後ろに後退したシドに対して起き上がって立ち向かう。
シドの前蹴りを払い、膝を突き出す一撃に対して聖書で打ち払う。
続けて後ろ回し蹴りを狙うシドであるが罠に引っかかる。
「何!!?」
後掃腿で軸足を刈り取り、倒れ込むシドに目掛けて跳躍一回転からの膝刺し落としを放つ。
身を捩じらせて避けたシドを追撃するように地を這う掃腿をキョウジは繰り出す。
バク宙で掃腿は避けられ、一回転した浴びせ蹴りの反撃が迫る。
片手を地面に付く反動で飛び上がりながら蹴る穿弓腿でシドの蹴り足を弾く。
「チッ!!」
俯けに倒れ込んだシドに目掛けて蹴り足が伸びるがバク転によって回避される。
着地の姿勢から片手をつく浴びせ蹴りを読んでいたかのような掃腿蹴りでシドの腕を刈り取る。
「オノレェ!!」
「ハァァーーーッッ!!」
跳躍しながら放つ旋風脚をシドは片腕で受け止めたが、それは次の一撃への布石に過ぎない。
「ゴハ……ッッ!!?」
着地と同時に放った後ろ回し蹴りが側頭部にクリーンヒットしたシドはキリモミ回転していく。
地面に倒れ込んだシドに対してキョウジは駆け抜ける。
七星剣を地面から引き抜き、ダッシュの勢いのまま前方宙返りを行う。
「
起き上がるシドの頭上から迫りくる七星剣に対し、ヒビが入ったサングラスが怪しく光る。
次の瞬間、大きく鳴ったのは本を閉じる音なのだ。
「な、なんだと!!?」
七星剣を受け止めたのは聖書を用いた真剣白刃取りであり、シドはこう告げてくる。
「聖書は剣より強シ」
「くぅ…っ!!」
両手持ちで押し込もうとするのだが本に挟まれた刃はビクともしない。
「スゥ―――……」
シドは呼吸を整えながら意識を集中していく。
「なんだ…!?」
カソックコートの上半身が内側から筋肉膨張していくかのように肥大化していく。
キョウジの腕力をもってしてもビクともしない体勢から繰り出される一撃が迫る。
次の瞬間をキョウジは覚えていない。
「ガッ……?」
左側頭部に決まっていたのは上段膝蹴りの一撃。
ぐらついて後ろに下がるキョウジの腹部に目掛けて強烈なサイドキックを放つ。
「グアァァーーーッッ!!」
大きく蹴り飛ばされたキョウジは地上エレベーターの真ん中付近で倒れ込んでしまう。
シドはひび割れたサングラスを押し上げた後、ファフニールに顔を向ける。
「…そちらも終わったようですネ」
離れた場所では焼き尽くされて灰となったシキオウジが見える。
「グハハハハッ!!魔封ガ切レルマデニ我ヲ仕留メキル余力ハナカッタヨウダ!」
勝利の咆哮を上げる機械竜から顔を逸らせば虫の息になったキョウジが見えるだろう。
「ご苦労様でしタ、ファフニール。戻りなさイ」
召喚管にファフニールを戻した後、トドメを刺さんとシドが近寄ってくる。
守りを固めた敵拠点に単身乗り込むなど狂気の沙汰である。
自らの命を捨てに行くも同然の狂った行動の果てに待っていたのは殺される末路なのだ。
狂い死ねと名付けられた一族の男の在り方こそ、無謀という言葉そのものであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
倒れ込んだキョウジの横で立つシドは勝利を確信した表情を浮かべている。
「私を相手にして手傷を負わせる程度の実力はありましたカ。ですが所詮は半人前のサマナー」
「キ…サ…マ…俺を…侮辱…する…か…!!」
「アナタは陰陽師なのでしょうガ、古来より陰陽師系サマナーの霊力は弱いと聞きまス」
「グッ…うぅ……」
「召喚した悪魔の力すら満足に与えてやれないのであれバ…付け焼き刃もいいところでス」
キョウジの脳裏に浮かぶのは葛葉一族の者達から嘲笑われてきた苦い記憶。
所詮は陰陽師、陰陽師系の悪魔召喚士は葛葉一族の恥晒し。
コドクノマレビト事件同様、陰陽師共は悪魔召喚士を名乗らせるのもおこがましい。
お前など狂い死ぬ末路がお似合いだと侮辱されてきた言葉の数々が蘇ってくる。
「余程の才能に恵まれた陰陽師であればまだしモ…アナタも例に漏れない弱者でしたネ」
キョウジの口元が怒りに燃え上りながら食いしばられていく。
「確かに…俺は陰陽師系サマナーだ。それでもな…初代キョウジは…葛葉の名を手に入れた…」
「葛葉…?まさかアナタハ……ヤタガラスの者?」
「葛葉一族宗家の名を…自らの力だけで手に入れたんだ!その末裔である俺は…捨てない…」
――どんなに嘲笑われようと…葛葉の矜持をな!!
死を前にしても葛葉のプライドを捨てない者が力の限り吠えてくる。
そんな中、サマナー同士の戦いが終わったのを確認した警備員達が奥から走ってくる。
警備員達に視線を向けた後、キョウジを見下ろしながらこう告げる。
「私に手傷を負わせる事が出来た者は少ないでス。名を聞いてあげましょウ」
キョウジの口元に笑みが浮かんだ後、シドを睨みながらこう返す。
「俺の名は…葛葉キョウジ…必ず貴様を殺しに現れる者だと…頭に刻め……」
残された力を振り絞りながら右手に持つ七星剣の刃を口に咥える。
「何をする気ですカ?」
「そこで見ていろ…吠え面かかせてやろう…」
左手を腰に回して取り出したのは銃の形をしたフックショットである。
「キサマ!?」
シドの隙をつき、頭上に構えながら引き金を引く。
放たれたフックが飛び、地上倉庫の屋根を破って傘のようにアンカーが開きながら固定する。
「くっ!!」
一気に引き上げられるキョウジの体の負荷は重く、脱臼する程の衝撃が肩に襲い掛かる。
「逃がすナ…撃テ!!」
警備員達の銃撃が飛び交う中、右手に持たれていたのは起爆リモコン。
シドは自分の近くに落ちているミリタリーリュックの中身に気がついていない。
不敵な笑みを浮かべながらキョウジはこう呟くだろう。
「……あばよ」
鈍化した世界。
シドの顔がミリタリーリュックに向けられていく。
「まさカ…!?」
起爆スイッチのリモコンが押された瞬間、物資搬入エリアが大爆発する。
地上倉庫までワイヤーで持ち上げられたキョウジは振り子の勢いを利用しながら跳躍する。
倉庫の外で着地した後、ふらつきながらも病院から逃げ出す姿こそ奇跡の大逆転であろう。
シャッフラー使いであるキョウジのトランプに描かれたジョーカーこそキョウジを表す。
狂い死ぬ道化師としての意味合いが強いが、トランプ占いの世界では違う。
占いで使われる時には
この光景こそ、それを暗示させるものになるだろう。
爆炎と煙に包まれた物資搬入エリアでは爆発を浴びた警備員達の肉片が散乱している。
爆発の近くにいたシドの姿は見えない中、煙が晴れていくと人影が浮かんでくる。
「……ゲフッ」
口から黒い煙を吐き出したのは黒い肌がさらに黒ずんだ気がするクドラクの姿。
ボロボロの姿となったクドラクの後頭部を掴んで離さない人物はシドであろう。
「あ…あの…シドの旦那…?」
「咄嗟の判断でしタ。ヴァンパイアなのだシ、この程度はどうってことないですよネ?」
「そりゃ…ない…ぜ…ガフッ…」
白目をむいて倒れ込む哀れな吸血鬼など眼中にないシドはサングラスを指で押し上げる。
「葛葉キョウジですカ…私に恥をかかせる程のジョーカー…侮っていましたネ」
燃え上がる物資搬入エリアから研究所の方角へと去っていく。
「次に出会った時こソ…全力で八つ裂きにしてあげますヨ」
クドラクは何故か回収されず、笑われる道化師のような姿となって終わるのであった。
♦
あれから数日が過ぎた頃。
被害を受けた精神科病院から離れた場所にあるゴルフ場は人気もなく貸し切り状態である。
レジャースポーツを楽しむ姿をしているのはゴルフウェアに着替えたシド・デイビスであろう。
「さテ、警備責任者としテ…此度の失態の責任をとってもらいますヨ」
ドライバーの下側には地面に埋められて首だけ伸びた男の頭部がボールの代わりをしている。
「ままま、待ってくれーーっ!!ここまでされる謂れはないぞぉ!!」
「そうはいかん」
シドの横に立つのは秘密研究所の所長を務める堕天使である。
「あれ程の被害を未然に防げなかったのは初期措置の遅れが原因だ。責任をとってもらうぞ」
「シドさんはゴルフが趣味だったなんて、知らなかったわ~♪」
セクシーなミニスカウェアを着ているのはお色気秘書を務めるサキュバスであろう。
「この国に来てからというもノ、趣味を楽しむ時間もない多忙なスケジュールでしタ」
「今日はお休みにしたんだし~、思いっきりかっ飛ばしてあげちゃって~♡」
「フッ…期待してもらえるなら喜んデ」
シドはドライバーを力強く振り上げていく。
「や…やめて…やめてくれぇーーーっ!!!」
振り上げられたドライバーを躊躇いもなくフルスイングしてくる。
「あごパァ!!!!」
ボールの代わりを務めた男の首が千切れ飛びながら大きく飛んでいく。
生首は血を撒き散らしながらも一打でグリーンの上まで転がったようだ。
「ナイスショット~♡ワンオンを狙えちゃうわね~♪」
「使わせてもらえているゴルフ場を汚しても大丈夫なのですカ?」
「構わんよ。このゴルフ場はアレイスターがオーナーを務めているゴルフ場だからね」
「なるほド。でハ、遠慮なく楽しませてもらいまス」
「しかし…此度の被害は大きかった。色々と手回しをして隠蔽を図らねば…」
「大きな問題点だったのハ…性格に難有りの悪魔共ですネ」
「あの子達ったら~屋上で朝まで喧嘩してたのよ~?信じられない脳筋バカ達よね~」
「あの者共にかけた洗脳魔法の効果は限定的だからな」
「そうね~。本気で魅了魔法をかけちゃったら~…目につく連中全部殺していくかも?」
「元々の悪魔の性格に難があるのやもしれませン」
「そこでだ。私はあと二体…追加の悪魔を召喚しようと考えている」
「次の召喚悪魔を使役する許可をもらえたわけですネ。性格に問題ない悪魔を願いますヨ」
ポケットに入れているガラケーの着信音が響き、シドは通話ボタンを押す。
<<ちょっと!!今日はアリナのトレーニングに付き合ってくれる約束……>>
速攻で通話ボタンを消した後、電源をOFFにしてくる。
「わ~お…こっちにまで聞こえるぐらいの喧しさだったわね~」
「ハハハッ、まったく…多忙な人生を送っているようだね?」
「私とテ、休日ぐらいは必要でス。唯一神でさえ一週間に一日ぐらいは休みまス」
「違いない」
キャリーバックを背負いながら今日はのんびり過ごす一同の姿がそこにはあった。
一方、宝崎市の葛葉探偵事務所では動きがある。
事務所オフィスの奥に備わる書斎は開いており、奥にはキョウジの姿がいるようだ。
包帯を頭に巻き、絆創膏を顔に張り付ける痛々しい姿で作業を行っていく。
椅子に座る彼は机の上で器の中の肉塊を磨り潰している。
武器庫とも言える空間の隅には封印と張り紙がされた壺がいくつも置かれている。
その壺の中は恐ろしい生き物達の蠢く音が響いてくるようだ。
シドに言われた言葉が頭から離れないキョウジは歯を食いしばりながら怒っている。
「俺は…目的のためなら手段など選ばない。たとえそれが俺の身に災いを招こうともな…」
彼が行っているのは蠱毒と呼ばれる呪術である。
毒虫を瓶や壺などに詰めて作り上げる古来から存在する呪具の一種であろう。
作成の方法は割と簡単であり、百種の蟲を一つの容器に入れて互いを食らい合わせるのみ。
生き残った一匹を決め、それを呪物として利用するというわけだ。
作成が成功した蠱毒には様々な使い道が存在する。
中国式では完成した蠱毒を細かく磨り潰し、呪いを掛ける対象の飲食物の中に混ぜ込む。
しかし彼が生み出そうとしている蟲毒は真逆の用い方をするのだろう。
「コドクノマレビト事件…あの時の陰陽師結社が用いた
初代キョウジは子孫のために禁忌の呪物レシピを残しており、現代キョウジはそれを利用する。
復讐に燃え上る葛葉キョウジが再び姿を見せる時こそ、殺戮の幕開けとなるだろう。
キョウジを以てしても解決出来なかった難事件はこれで終わりにはならない。
その事件と関わり合いになっていく探偵事務所は他にもあるからだ。
彼から依頼を引き継ぐ探偵こそ人修羅であり、探偵業を営む嘉嶋尚紀となるのであった。
キョウジさんもウラベさん同様、どうにか生き残ってくれましたね。
ライドウさん絡めるなら…キョウジさんとも絡めたいな~という誘惑に負けましたので生存させた次第です。
シリアスダークばかりじゃ何なので、次はアリナとなぎたん使って何か日常系を描きたいかと思います。