人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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144話 命を食む者達

アリナが住まう新たな住処は高層マンションの屋上部位である最高級ペントハウス。

 

直通エレベーターから下りれば四階丸ごとアリナの居住区エリアとなる。

 

天上の高い広々とした空間を見れば高級家具が並びたつ。

 

大きなキッチン、様々なバスルーム、書斎ルーム、遊具室、屋内プールにトレーニングルーム。

 

広々としたルーフバルコニーに出ればイングリッシュガーデンを思わせる景色が広がる。

 

屋上に出ればヘリポートと直通しており、ここからヘリに乗って移動出来るようだ。

 

独りで暮らすにはあまりにも広々とした豪邸であろう。

 

彼女…いや、彼はここでどんな毎日を過ごしているのだろうか?

 

今日はそんなアリナの新しい生活の一部を語る物語である。

 

日も昇り切らない早朝。

 

朝起きるのが苦手なアリナであるが、目覚ましの時計が鳴ると同時に目を開ける。

 

大きなベットから飛び起きた後、運動着に着替えてから下の階に向かう。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

トレーニングルームでは柔軟体操を終えたアリナがランニングマシンの上で走っている。

 

ひとしきり走り終えたら今度はストレッチ器具を使って股割りを行う。

 

「グググ…開き切らない!!アリナって…こんなにボディが固かったワケ!?」

 

朝起きるのも運動するのも億劫な人物であったのだが見違えるほどの行動力である。

 

アリナをここまで変えたキッカケは何か?

 

それはフィネガンに成す術もなく負かされたのが原因なのだろう。

 

接近戦を挑まれ、抵抗も出来なかったのがよほど悔しかったのだ。

 

「フンッ!フンッ!」

 

壁に供えられた鏡を見ながら蹴り足を伸ばし、蹴り足動作を確認する。

 

どうやらシドからカポエイラも教えてもらう事にしたようだ。

 

カポエイラトレーニングを終える頃にはビルの窓ガラスから日差しが入り込む。

 

「ハァ…こんな事なら、スクール時代にもっと運動しとけば良かったんですケド」

 

汗まみれになった体を潤すように水を飲み、隣接したシャワールームで汗を流す。

 

ガラスの向こうに見える湯気の世界にはアリナが少女である事を示す膨らみが見える。

 

それでも今のアリナは名誉男性。

 

女性である事を意識させる服装からは遠ざかっているようだが、耐えられない部分もある。

 

流石に男性用の下着を履く事には抵抗があり、黒のショーツとブラを着用している。

 

女性用下着姿のまま長い髪を乾かす姿は女性そのものであろう。

 

バスローブとスリッパ姿の彼女はエレベーターに乗り込んで屋上に向かう。

 

「グッモーニン、アリナの可愛いキュートキッド」

 

ヘリポートを見れば巨大な鷹の姿を誇るフェニックスがいる。

 

「グァ!グァ!」

 

何やら足をばたつかせて交互に持ち上げている光景が続いているようだ。

 

「プッ!アリナの真似をしてるワケ?ほんとキュートなんだカラ♪」

 

「グァ?ピーーッ!」

 

アリナが来たのに気付いたフェニックスは駆け寄ってきて頭部を近づける。

 

「よしよし、グッボーイ」

 

顔を擦り付けながらフェニックスを撫でていく姿は悪魔の母親のようにも見えるだろう。

 

「ブレックファストは食べたワケ?」

 

「ピーーッ!」

 

「そう、もうミールは自分で探して食べれるようになったワケ?」

 

「ピーーッ!」

 

巨大なクチバシを見れば血で汚れており、それが何なのかはアリナには分かっている。

 

バスローブのポケットからタオルを取り出して口元の血糊を拭いてくれる。

 

「アリナもアナタのように…ちゃんと肉食出来るようにならなきゃね」

 

「グァ?」

 

「何でもないカラ」

 

部屋に戻っていく後ろ姿を見送ったフェニックスは眠いのか座り込んで目を瞑っていく。

 

エレベーターから下り、一階部分のスペースから階段を上っていく。

 

二階空間は生活スペースとなっており、吹き抜けのリビングルームや大型キッチン等が備わる。

 

リビングの窓は電動ブラインドが閉められており、シャンデリアライトが照らす空間だ。

 

「アリナのブレックファストは出来てるワケー?」

 

不機嫌そうな声を大型キッチン方面に送ってくる。

 

ここに来た頃には世話人が何人かいたのだが、アリナは全員追い出している。

 

家族の肉を食わされたのだから無理もないだろう。

 

ではアリナ独りで暮らす豪邸の中には現在誰がいるのだろうか?

 

<<うむ、出来ているぞ>>

 

アリナが椅子に座れば、朝食が並べられている。

 

お茶を淹れている人物とは吸血鬼悪魔となった和泉十七夜であろう。

 

着ている服装はクラッシックメイドを思わせる衣装姿である。

 

「かけてくれ、ご主人」

 

「その言い方やめるワケ。アリナは別に、ここの所有者じゃないんですケド」

 

「むっ?そうか…。では、なんと言えばいいのだろうか?」

 

「アリナはアリナでいいカラ」

 

「アリナか…分かった。飲み物は牛乳がいいか?それとも緑茶か?」

 

「ウォーターで……やっぱ止める。ミルクでいいカラ」

 

「うむ、骨太な強い女になるがいい」

 

「アリナはもうガールは辞めたって、言わなかった?」

 

「……そうだったな、すまなかった」

 

アリナの席に並べられていたのは卵や野菜を中心とした洋食メニューであろう。

 

「アリナのオーダー通り、ミートは使ってないクッキングで安心したワケ」

 

「これでも家族の料理番を務めていた。腕には自信がある」

 

「アナタも席に座ればいい。お互いさっさと食べて、デイリーワークを片付けるワケ」

 

「そうしよう。君は豪邸の管理を自分に任せてくれたからな…日光を遮断出来る家で助かった」

 

朝食を始める2人の姿はルームシェアをしている友人同士のようにも見えるだろう。

 

「アリナの代わりにミートは食べていいって言ったけど…レバー刺し身なワケ?」

 

「…自分は吸血鬼にされた。血の代用品になるのは鉄分だとクドラクから教わったんだ…」

 

語りたくもない者の名を呟いた十七夜の顔が俯いてしまい、重い空気になってしまう。

 

アリナは十七夜の姿を見つめながら物思いに耽る表情を浮かべていく。

 

彼女が思い出していたのは数日前のこと。

 

吸血鬼であり元魔法少女の十七夜を家に連れてきたユダの事を思い出していた。

 

 

玄関を開ければにこやかな笑顔をしたユダとオドオドした表情の十七夜がいる。

 

ユダの肩に担がれているのは十七夜用のベットとして用意した棺桶ベットであろう。

 

アリナは笑顔を返した後、勢いよく扉を閉める。

 

「ま、待ってくれ!夜分遅くの急な訪問だったのは悪かった!!」

 

<<アリナのホームに突然用事があるとか言ってきたけど…そういう魂胆だったワケ!?>>

 

「十七夜君が暮らしていける家を他にも用意したが…君のところがいいと言われたんだよ!」

 

<<それでどうして…アリナがホイホイとイエスって言う発想が出てくるワケ!?>>

 

「彼女は元魔法少女だ!君も魔法少女としての自分を捨てた者なのだから…」

 

<<ノーサンキュー!アリナの世話人なんて…もういらないんだカラ!!>>

 

インターホンから拒絶の大声が聞こえた2人は肩を落とす。

 

「…無理もないか。あれ程の所業をされたのだからな…」

 

「…ユダさん、自分に話をさせてくれ」

 

インターホンのボタンを押しながら真剣な眼差しをカメラに向ける。

 

「聞いてくれないか?自分が何故、君と一緒に生活がしたいと思ったのか…その動機を」

 

インターホンから返事は返らないがそのまま語り続ける。

 

「自分は読心術を使える者だ…だが()()()()()()()()()()()()()()()()者だと君に教えられた」

 

<<……それが、どうかしたワケ?>>

 

「ひとつの綻びから…なし崩し的に自分の在り方は壊れた。だからこそ自分は観察者が欲しい」

 

<<……アリナの鑑定眼で、毎日アナタの言動をチェックして欲しい?>>

 

「自分は負の潔癖主義者だ…いずれまた自分のエゴに飲み込まれる日がくる…それが怖いんだ」

 

<<…かつてのアリナはカミハマのアウトサイダーだった…そんな奴でも、いいワケ?>>

 

「はみ出し者として嫌われても冷静に観察してくれる…そんな君が…自分は欲しいんだ」

 

ゆっくりと扉が開いていき、顔を覗かせてきたアリナの表情は頬を染めている。

 

「プロポーズみたいなセリフは…アリナはノーサンキュー。でも、世話人一人ぐらいは…」

 

懐柔されたアリナの表情を見たユダはニヤニヤした表情を浮かべている。

 

玄関扉に足をかけた後、強引に扉を開けてくる。

 

「いや~流石は魔法少女同士の絆。さて、十七夜君のベットはどこに置こうかな?」

 

「ちょ、ちょっと!アリナのホームに勝手に……」

 

「…なるほど。勝手に上がって欲しくなかったのには、理由があったわけだね」

 

部屋の中を見渡せば散らかり放題であり、アリナに女子力を期待するのは難しい光景である。

 

「……いいのか?」

 

オドオドした表情をアリナに向けると大きく溜息をついたアリナが片手でOKサインを形作る。

 

「この物件は高層ビルの窓が使われてるから日差しが強いな…奥まった部屋を探そう」

 

気が付いたらユダは階段を上っており、慌てたアリナが追いかけてくる。

 

「ちょっと!アリナのホームを勝手に散策しないで欲しいんですケド!」

 

ユダを追いかける後ろ姿を見送りながらも十七夜の顔に微笑みが浮かんでいく。

 

「……ありがとう、感謝する」

 

受け入れてくれた者のために頑張ろうと周囲の散乱っぷりを見つめながら決意する。

 

看板メイドとして働いてきたメイドのなぎたんに訪れた新たなるスタートなのだ。

 

場所は変わり、アリナの豪邸の三階にある客人用の寝室には3人が集まっている。

 

「…むぅ、棺桶ベットか」

 

ユダが持ってきた棺桶ベットを十七夜はジロジロ見つめてくる。

 

「君の身長に合わせて作らせた。マットレスを供えてるから背中も痛くはならないだろう」

 

「へぇ、リビングデッドが起き上がる棺桶ベットねぇ?アリナ的には超グットなんですケド」

 

「よ、よし…せっかく作ってくれたんだし、入ってみるか」

 

赤いマットレスで敷き詰められた棺桶ベットに入り込み、ゴソゴソ動き回る。

 

「むぅ……どっちに頭を向けて寝ればいいんだ?」

 

「閉所恐怖症とかは大丈夫そうかい?」

 

「うむ、自分はそういう恐怖症を感じた事はないぞ」

 

棺桶扉の開け閉めをしながらも棺桶生活に不安そうな表情を十七夜は浮かべている。

 

「あ、そういえば…」

 

アリナが部屋から出ていき、戻ってきた彼女の手には室内ガイド本が持たれている。

 

「このペントハウスには、電動ブラインドが備え付けられてたのを忘れてたんですケド」

 

「ほう?ビルに照り付ける日差しと紫外線を守ってくれる設備付きだったか」

 

「では、自分はこの棺桶ベットではなく…隣にあるベットで眠ってもいいという事か?」

 

「やれやれ…ここの物件内容を把握しておくべきだったな」

 

「アリナ的には、こっちのベットの方がオススメなんですケド」

 

「いや…遠慮する。自分は人間として生きてきた者だ…可能な限りは人間らしく生きたい」

 

「残念。でも、アンデットヴァンパイアと暮らせるなんて…アリナワクワクしてきちゃった♪」

 

「仕方ない、棺桶は持ち帰る事にするよ」

 

「いや、これは残しておいてくれ。日差し避けとして使える日が来るかもしれないからな」

 

「やっぱりヴァンパイアに棺桶はセットってワケ。それとも…単なる貧乏性?」

 

「…手厳しいな」

 

ガックリ肩を落とす貧乏少女の姿を見たアリナとユダは微笑んでくれる。

 

新たなるルームメイトを迎え入れたアリナの表情にも穏やかさが蘇っていく。

 

吸血鬼悪魔とダークサマナー、2人の共同生活がこれから始まっていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

物思いに耽りながら食事をしていたら朝食を食べ終えている。

 

「それじゃ、アリナは着替えて出かけてくるから後の事はお願いするワケ」

 

「了解だ」

 

不意に誰かの携帯の音が響く。

 

「アリナの携帯じゃないんですケド」

 

「これは…自分に渡してもらえた携帯からだな」

 

メイド服のポケットから携帯を取り出して通話ボタンを押すと連絡相手はユダだったようだ。

 

「おはよう、十七夜君」

 

「自分に何か用事か?」

 

「ダークサマナー達が利用している修験場に来てくれ。場所はアリナ君に聞いて欲しい」

 

「そこで何かを行うのか?」

 

「君も悪魔になった。吸血鬼悪魔としての戦い方をクドラクが教えるそうだ」

 

「……断る。あの男の顔を見るだけでも反吐が出る」

 

「そう言うな。吸血鬼としては初心者なんだから、吸血鬼の先輩からは多くを学べる」

 

「しかし……」

 

「我々の戦力に早くなりたいと言ってきたのは君のはずだ」

 

「……そうだったな。選り好みなど、自分は選べる立場ではなかった」

 

「私も同席してクドラクを監視する。彼が君に乱暴を働かないよう見張っていよう」

 

電話は一方的に切られてしまう中、アリナが顔を向けてくる。

 

「出かけることにするワケ?」

 

「お達しがあったからな。ダークサマナー達が利用する修験場を知っているか?」

 

「オフコース。アリナも利用している場所だから案内出来るワケ」

 

「ではお願いしよう。自分も服を着替えてこないとな」

 

「着替えはあるの?」

 

「あっ……」

 

今着ている服は使用人室から借りているもの。

 

彼女は拉致されて連れてこられたのだから着の身着のままというわけだ。

 

「ハァ…仕方ない。日が沈んだら、アナタの日用品を買いに行くことにしてあげる」

 

「いいのか…?自分はまだ給料を貰えていないから…その…」

 

「アリナの生活費から出してあげる。これは貰い物だからジャブジャブ使っていいワケ」

 

「何から何まですまない…自分は君に頼り切りだな」

 

「その辺はギブ&テイクにしてあげる。後でアリナの役に立ってもらうんだカラ♪」

 

「むぅ?」

 

ニヤニヤした表情を浮かべながら両手の指で四角の形を作って覗き込んでくる。

 

「あっと、もうこんなタイム?アリナ着替えてくるから、食器片づけといて」

 

「うむ。しかし参ったな…吸血鬼の自分が外に出歩ける時間帯じゃないぞ?」

 

「その点は準備しておくから、心配いらないんですケド」

 

「そうか?では、任せるとしよう」

 

スマホを取り出してどこかに連絡しながらアリナは自分の部屋へと戻っていく。

 

程なくして男装服に着替え終えたアリナがメイドの十七夜を連れてエレベーターに向かう。

 

高層ビルの地下駐車場に呼びつけておいた迎えの車の前に立つ。

 

日光に弱い十七夜のためにリアガラスを鉄板で覆ったラグジュアリーリムジンであろう。

 

「なるほど…これなら日光は後部座席に入らないな。それにしても…リムジンに乗るのか…」

 

「早く乗る」

 

「待て、心の準備が……」

 

「貧乏人のハートの準備を待ってる暇はないカラ。ハリーハリー」

 

「わ、分かった!押さなくても自分で乗れる!」

 

2人を乗せた高級リムジンが発進する中、空高くにはフェニックスが飛んでいる。

 

母親を警護する役目を果たす親孝行な子供悪魔なのだろう。

 

後部座席に座る十七夜はどこか落ち着かない様子である。

 

「むぅ…貧しい家で生活してきた自分が…こんなVIP待遇を受けていいのだろうか?」

 

「細かい事を気にし過ぎていると、若白髪が生えるんですケド」

 

「嫌味か?自分の髪は元々白髪色だ」

 

「ダッツライト。忘れてたワケ」

 

「ハァ…この新しい生活に慣れるまで、暫くかかりそうだな」

 

不安を感じる十七夜を乗せたリムジンは見滝原市を目指して進んでいくのだ。

 

アリナと別れた十七夜がいる場所は見滝原総合病院の地下に備わる西側エリア。

 

ダークサマナーの修験場で彼女を待っていたのはユダとクドラクであろう。

 

「よ~く来たなぁ~十七夜。オレの兄妹よ」

 

「黙れ。貴様に兄妹扱いされるのは反吐が出る」

 

「つれない態度だな?まぁいい、シドの旦那から頼まれた教育を済ませて帰るとするか」

 

「十七夜君、これからの君は悪魔として生きるのだが…君は特殊な悪魔のようだ」

 

「特殊な悪魔とは?」

 

「君は元々受肉した魔法少女から悪魔に変化した。MAGから生まれた悪魔とは違う」

 

「召喚されて生まれたオレ達悪魔は概念存在。悪魔の姿を人間が視認する事は出来ねぇ」

 

「つまり、魔獣のような存在が悪魔というわけか?そして自分は…その中間になると?」

 

「その通り。君は概念存在としては完成していない…いわば悪魔化した人間のようなものさ」

 

「この世界を統べる皇帝陛下となられるだろう人修羅様と同じく、悪魔人間とも言えるんだよ」

 

「人修羅…?自分以外にも悪魔人間はいるというわけだな」

 

「君が悪魔化した姿は魔法少女時代と同じく人間に視認される。気を付けたまえ」

 

「分かった、そうしよう」

 

「それじゃあ、早速ヴァンパイアレッスンを始めるとするか」

 

両手を鳴らし始めるクドラクに対し、ユダは2人から離れていく。

 

「…なるほど、荒っぽい教育になるというわけだな?」

 

訓練趣旨を理解した十七夜はクドラクと向き合いながら構える。

 

「もう魔法少女じゃないんだ。今までの戦い方は忘れるつもりで攻めてきな」

 

「…いいだろう。自分も試してみたかった…悪魔化した自分の力を!」

 

ライトで照らされた修験場に立つ十七夜の影が蠢き始め、影の中から無数の蝙蝠が飛び出す。

 

蝙蝠は十七夜の体に纏わりつくように集まり、彼女の戦闘衣装を編み込んでいく。

 

現れたのは魔法少女の和泉十七夜ではない、悪魔人間となった和泉十七夜の姿である。

 

「悪魔変身や蝙蝠を操る力ぐらいは理解しているようだな?」

 

「そうだ。しかし…魔法少女時代の武器である鞭はもう…錬成出来ないようだ」

 

「気にするな。それ以上の恩恵をお前は授かっているのだと…オレがレクチャーしてやらぁ!」

 

クドラクは指を揃えて手招きする中、十七夜は右手を持ち上げ周囲を飛ぶ蝙蝠に魔力を送る。

 

吸血鬼師弟の対決が始まるのであった。

 

 

「あの時に受けた借りを返してやる!訓練程度で終わると思うな!」

 

無数に飛び交う蝙蝠達が赤く帯電していき、右手をクドラクに向けながら蝙蝠達を放つ。

 

かつての魔法少女時代に得意としていたマギア魔法を模した一撃であろう。

 

ニヤニヤした表情を浮かべるクドラクは体を変化させてくる。

 

「なんだと!?」

 

彼の体が一気に霧となり、無数の蝙蝠の一撃が素通りしてしまう。

 

周囲が毒々しい濃霧に包まれ、実体を持たなくなったクドラクに警戒する。

 

「これがあの時にしてこなかった霧化なのか…?それに何だ…この酷い臭いは?」

 

<<後ろがガラ空きだぜ>>

 

「なにっ!?」

 

霧が集まり実体化すると同時に十七夜を羽交い絞めしてくる。

 

拘束された十七夜は吸血鬼の力で振り解こうとするがビクともしない。

 

「これがヴァンパイアの能力の一つだ。そして、お前が吸い込んだ霧は毒でもあったんだ」

 

「くっ…!つまり…ヴァンパイアは霧になれる上に、毒を吸っても大丈夫というわけか?」

 

「毒や疾病のような体の神経を攻撃してくる魔法は効かない耐性を持つ。お前もやってみろ」

 

「自分も霧化出来るのか…?」

 

「オレが吸血鬼にしてやった男でさえ簡単に出来た。イメージしろ、お前の体が応えてくれる」

 

「…いいだろう」

 

目を閉じて意識を集中する。

 

(自分は水だ…水蒸気のように形無き者……)

 

十七夜の体に変化が白い霧のようになっていき、羽交い絞めから抜け出せる。

 

慣れない芸当のため直ぐに霧化が解けるが実体化すると同時に宙を舞う回転蹴りを放つ。

 

クドラクは右腕を上げてガードしながら不敵な笑みを向けてくるのだ。

 

「呑み込みが早いところは100点だが…可愛げのない性格をしてるところでマイナス50だ」

 

「貴様から100点を貰えても嬉しくなどない!」

 

「体を瞬時に変化させられるぐらい磨き上げろ。オレ達の体は形があって形がない存在だ」

 

クドラクは右手を向けながら氷結魔法を放つ。

 

「チッ!」

 

放たれたマハブフーラに対して十七夜の体が変化し、無数の蝙蝠化を用いた回避を行う。

 

距離を離したところで実体化しながら右手を相手に向け、いつでも反撃出来る姿勢を崩さない。

 

「その調子ならオレが教える手間も少なくて済むな。今度は悪魔の魔法を教えてやる」

 

「悪魔の魔法…?自分も使えるというのか?」

 

「ヴァンパイアはサイと呼ばれる攻撃魔法が使える。サイってのはサイキックの略だ」

 

「つまり…超能力者のような力が使えるというのか?」

 

「オレがお前に読心術を行使しただろ?悪魔の読心術はサイキック魔法の応用なのさ」

 

「では、魔法少女でなくなった自分だが…以前のような読心術が使えるというわけだな」

 

「それだけじゃないぜ」

 

クドラクは十七夜に右手を向けると彼女の体が宙に浮かぶ。

 

「うわっ!?」

 

そのまま一気にクドラクの前にまで引き寄せられたようだ。

 

「これがサイだ。物体を浮かせて引き寄せたり、遠くに飛ばしたり出来る」

 

「ぐっ…!体が…動かない…!!」

 

「そしてこれが威力を上げたサイオだ」

 

クドラクの右手がまるで固い林檎を握り潰すかのようにして動くと悲鳴が木霊する。

 

「ぐぁぁぁーーーーっ!!?」

 

全身を万力で締め上げられるかのような苦しみに襲われる十七夜。

 

右手を下ろされた事で解放された彼女は地面に蹲ってしまう。

 

「サイは集中力がかかる魔法だ。前に吸血鬼にしたヤクザはスプーンも曲げられなかったなぁ」

 

「ハァ…ハァ…自分にも、これが出来るというのか…?」

 

「練習あるのみだな。サイの魔法が使える悪魔は限られている」

 

「…分かった、鍛錬に励もう」

 

「さて、ヴァンパイアの能力についてのレクチャーに戻ろう。お前…血は吸っているか?」

 

「……血の代用品で我慢している」

 

「それだといずれ我慢出来なくなる。吸血鬼に血を吸われた者がどうなるかを…見せてやるぜ」

 

指を鳴らすと鍛錬用の悪魔が内臓されたゲートが次々と開いていく。

 

中から現れた存在とは屍鬼にされてしまった人間達であろう。

 

<<GRRRRR……>>

 

「こ…この青白い肌をしたゾンビ共はなんだ!?」

 

「こいつらは屍鬼。オレ達に血を吸われた非童貞、あるいは非処女だった人間の末路だ」

 

「そんな…自分が人の血を吸って…性の喜びを知っている者だったら…こうなるのか!?」

 

「こいつらはオレ達の使い魔として操る事も出来る。今のこいつらはオレの傀儡だ」

 

「貴様…まさか人間を襲ってまで用意したというのか!?」

 

「優等生を気取っていられるのも今の内だけだぜ。こいつらを始末しろ」

 

クドラクの目が怪しく光ると屍鬼共の目も同時に光る。

 

<<シャァーーーーッッ!!>>

 

屍鬼達が大挙して十七夜に襲い掛かってくる中、十七夜は動揺してしまう。

 

「や、やめろぉ!!」

 

襲い掛かるかつての人間達に対して手加減を加えた徒手空拳で倒そうとする。

 

しかし痛覚が麻痺した屍鬼達は倒れても起き上がりながら十七夜を襲い続ける。

 

「未だに不殺ごっこか?屍鬼にされちまった奴らはもう人間には戻れねぇ、遠慮はいらねーぞ」

 

「だ、黙れ外道め!!自分に…また人間を殺させようとするのかぁ!!」

 

正義の変身ヒロインとして生きた者の矜持を捨てきれない者を見つめるユダ。

 

テコ入れが必要だと感じた彼の笛が再び吹き鳴らされるだろう。

 

「案ずるな、十七夜君。その者達はな…神浜に差別を撒き散らしてきた西の差別主義者だ」

 

「なんだと…!?」

 

「神浜テロが起きたその後の東がどうなっているのか…君は知っているのか?」

 

「何が…起きているんだ?自分の故郷の人々に…一体何が!?」

 

()()()()()()()さ」

 

「アパルトヘイト…だと?」

 

「今の神浜市議会ではアパルトヘイト条例の制定が急がれている。東住民に対する差別条例だ」

 

「馬鹿な!?どうしてそんな条例を…西側の奴らは平気で作ろうとする!?」

 

「東の人々を人間扱いしないからさ。就業や居住、教育や治安、住民分類を推し進めるんだ」

 

「ふざけるな!!たしかに東の人々は街を破壊した…それでも…それは西の連中のせいだ!!」

 

「その通りだ。言われも無き差別の歴史はテロという実害によって…狂気を極めた」

 

「東の人々はどうなってる!?西側の連中は何をやっているんだ!?」

 

「…()()()()()()()さ」

 

「ヘイトクライム…?」

 

「嫌がらせ、脅迫、暴行等の犯罪行為。連日続く西側住民のヘイトスピーチがそれを促す」

 

――いずれ東の人々は、()()()()()()()()()()になるやもしれないね。

 

ルワンダ虐殺とは1994年にアフリカのルワンダで発生した大量虐殺歴史である。

 

フツ系の政府とそれに同調するフツ過激派によって多数のツチとフツ穏健派が殺害される。

 

ルワンダ全国民の10%から20%にも上る約100万人もの人々が虐殺されてしまう。

 

原因はヘイトスピーチからヘイトクライムにまで流れていったことであろう。

 

メディアがツチとツチに味方するフツ穏健派は殺すべきゴキブリだと扇動したのだ。

 

「東の住民はテロリストだ。いつ襲われるか分からない。だから隔離しろ、街から追い出せ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それこそがアパルトヘイトの歴史というものだとユダは告げてくる。

 

青ざめた十七夜であるが、次第に歯を食いしばる程の怒りの表情に変わっていく。

 

「ふざけるな……ふざけるなぁぁーーーっ!!」

 

怒りに呼応するかのように赤い魔力が全身から噴き上がる。

 

その光景を見たクドラクとユダの口元には不気味な笑みが浮かんだようだ。

 

「吸血鬼は噛まなければ血を吸えないわけじゃねぇ。お前も使って見せろよ」

 

ヴァンパイアがもっとも得意とする魔法の『吸血』を使ってみせろとクドラクは告げてくる。

 

応えるようにして蝙蝠の羽が生えたモノクルが怪しく光る。

 

両手を開けて構えながら周囲を異界化させていき、その光景はまるで墓場の世界であろう。

 

「うぉぁあああーーーーっ!!」

 

開かれた両手から赤い波動を放ち続ける。

 

<<グアァァーーーッ!!?>>

 

屍鬼にされた者達の体の皮膚から流れ出すのはおびただしい血の雫。

 

念動力で全身から吸い出されるかのようにして絞り尽くされていく。

 

絞られて宙を浮かぶ血の塊が凝固していき、無数の赤い蝙蝠と化して十七夜の体に集まりだす。

 

クドラクに痛めつけられた傷が回復していき、さらには屍鬼達の魔力まで吸い尽くす。

 

全身を用いて血を吸い尽くし、攻撃と回復を同時にこなす魔法こそが悪魔の吸血魔法である。

 

「…血痕も残らないようにしてやる」

 

広げた両手を頭上に掲げると大量の血で生み出された蝙蝠が収束していき、赤黒い球体と化す。

 

血を吸いつくされてミイラのように痩せ細った屍鬼達に放つのは十七夜の極大魔法であろう。

 

右手を前に向け、左手で支えながらそれを放つ時がくる。

 

「さぁ、クライマックスだ。フフフ……ハァーハハハァ!!」

 

頭上の赤黒い球体が破裂した事で巨大な魔力の奔流を生み出す。

 

<<Aghhhhhhh!!!>>

 

魔力の奔流に飲み込まれた屍鬼の体は欠片も残らず消滅していく。

 

これがヴァンパイアと化した十七夜の極大魔法『ブラッディ―・ルーラー』の一撃である。

 

悪魔を表す真紅の瞳を輝かせる十七夜は吐き捨てるようにこう呟いてくる。

 

「…太陽にでも祈っていろ。腐り切った西側の連中にだって、太陽は平等だ」

 

拍手をしていたユダであったが、彼女に歩み寄ってくる。

 

「素晴らしい。君の怒りの力こそが我々の博愛結社に必要なんだよ」

 

「…どういう意味だ?」

 

「我々のスローガンである自由・平等・博愛。それを望まない邪悪な存在は誰だ?」

 

「…西側のように、エゴに腐り切った人間共だ」

 

「我々に必要なのは正義を執行する剣。振るう者は誰よりも()()()()()でなければならない」

 

「こんな吸血鬼の自分にも…正義の剣を振りかざす資格があるのか?」

 

「私が言った言葉を忘れるな。人殺しの悪魔であろうとも、皆が平等なんだ」

 

「ユダさん……」

 

両肩に優しく手を置いてくれるユダがにこやかな笑みを浮かべてくれる。

 

「私の目に狂いはなかった。君のように道徳と正義を愛する者こそ、世界の未来を築く」

 

真顔でそんなセリフを言われたものだから十七夜は背を向けてしまう。

 

彼女の頬は照れたように赤くなっていたようだ。

 

クドラクも近寄ってくるが、その顔は驚愕に包まれている。

 

「…これ程の吸血魔法を見たのは初めてだ。どうやら…とんでもない逸材を拾ったみたいだぜ」

 

「フン、敵に塩を送ってくれた事を後悔する日がくるかもな」

 

「ぬかせ!お前みたいなガキヴァンパイアなんぞに!クドラクの座はまだ譲れねぇ!!」

 

火花が飛び散るように睨み合う吸血鬼師弟を見つめるユダは両手をオーバーに広げてしまう。

 

腕時計を見たユダは十七夜に向き直る。

 

「もうこんな時間か。たしか君はアリナ君の家に帰って夕飯の支度をするんだったな?」

 

「むっ?もうそんな時間か…すまないが、今日のトレーニングはこれで終わらせてもらう」

 

「人間の飯なんぞを有難がるとは…ヴァンパイアの風上にもおけねぇ娘だな」

 

「人間の食事の美味さを忘れた化け物に言われたくはない」

 

「病院の地下駐車場に車を回しておく。あのリムジンは君の移動手段として使ってくれ」

 

「…有難く使わせてもらう。こんな自分がリムジン生活か…家族が知ったらさぞ笑うだろうな」

 

帰っていく十七夜の後ろ姿をユダ達は見送る中、彼女はこう呟いてしまう。

 

「人間という生き物がどういう連中なのかを理解した…自分はもう…迷わない」

 

この世に自由と平等と博愛をもたらす事に異を唱える者達を和泉十七夜は絶対に許さない。

 

カタコンベの如き死の山を築き上げようとも博愛に満ちた世界を目指すと彼女は誓ってしまう。

 

残されたクドラクであったが顔をユダに向けながら薄気味悪い笑みを浮かべる。

 

「…流石は悪魔の笛吹き。たとえ毒の耐性を体に纏おうとも…心までは守れないってわけか」

 

ユダの口元も邪悪な笑みを浮かべながらこう語ってくれる。

 

「適当な()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これこそが世界を破壊する原動力」

 

「倒すべき敵がいなければ、正義の味方は()()()()()()()()()()()()()もんな」

 

「だからこそ、正義の味方を気取る者達は…恐ろしいイデオロギーに取り憑かれる」

 

道徳的に劣った、非人道的で理解不能で対話不能な悪者を次々と欲しがる。

 

まるで漫画の変身ヒーローにでもなった気分で悦に浸り、敵を滅ぼしたがる。

 

「自分は正義だと信じる者は批判になど耳を貸さない。正義の物語だけを頭に浮かべたい」

 

「わたしのかんがえたじゃあくなてき~しか、興味なさそうな連中だからなぁ」

 

「どんな卑劣でデタラメな嘘でも許されると考える。気持ちよく騙されたいだけの愚者共だ」

 

「十七夜は神浜で正義の味方を気取ってた連中と変わらねぇ。イデオロギーに取り憑かれてる」

 

「学校の同一性同調洗脳教育の賜物さ。個で考えず、周りが正しいと教える事だけを強要する」

 

「掲げるイデオロギーの中身を考えない奴は法さえ蔑ろに出来る。それが暴力革命ってもんさ」

 

「ドストエフスキーはイデオロギーに取り憑かれた狂人を()()()()()()()()と表現している」

 

「概念に取り憑かれてるってわけだな。正義だの絆だの道徳だの、中身をまったく考えねぇ」

 

「正義や道徳という見えないラッピング箱に隠された概念を崇める者達は…気づかないだろう」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事をね。

 

この世は思い込みと勘違い合戦の闇鍋だ。

 

皆が自分の勘違いで作った型と世界を比較して良し悪しを決める。

 

一般的な正義を教える勢力、すり込む勢力が正義や絆はいい行いだと言い出す。

 

正義が生きるべき道だとした事で異論を唱える者は悪にされ、制裁が叫ばれる。

 

客観性を無くした例を語ればこうだ。

 

あなたが悪者なのは、()()()()()()()()()()()()

 

我らの倫理となる概念がそう伝えているから、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

哲学者のニーチェもこんな言葉を残している。

 

道徳的理想の勝利は、他のいずれの勝利と同じ。

 

非道徳的手段によって、つまり()()()()()()()()()()()によってえられる。

 

霊魂は肉体が衰え、いまわしくなり、飢えることを欲した。

 

哀れ、その霊魂こそ痩せ、いまわしくなり、飢えたのだ。

 

神浜で正義の味方を気取ってきた魔法少女達と東京で正義の味方を気取ってきた守護者達。

 

命を懸けて行ってきた互いの正義の中身は人修羅の暴力、魔法少女達の虚言・誹謗・不正。

 

魔法少女達のみの利益と、人間の守護者としての怒りと憎しみの正当化。

 

それこそが正義や絆、道徳や平等というラッピング箱の中身であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

エレベーターから下りたアリナは玄関の扉を開ける。

 

「ただいま~…」

 

ダルそうに返事をするが今日は返事が返ってこない。

 

不思議に思ったアリナは二階に上っていき、キッチンに向かう。

 

「…いるなら返事ぐらいは返したらどうなワケ?」

 

夕飯を席に並べた状態で椅子に座るのは十七夜であるが、その顔は俯きながら表情も暗い。

 

「えっ…?あ…すまない、考え事をしていたんだ…」

 

「…何かあったの?」

 

自分の夕飯が並べられた席に座ったアリナは十七夜を見つめる。

 

暫く黙っていたが顔を上げた十七夜はアリナに向き合う。

 

「人間という生き物は…どうしてこんなにも…残酷なんだろうな…?」

 

「ヒューマンに愛想でも尽きる事でもあったワケ?」

 

今の神浜市が地獄と化している現状について十七夜は語ってくれる。

 

「自分は正義と平等を愛した…コミュニティ意識のために戦った…その結果が…コレだ!!」

 

「なるほど…見返りに見合わない仕打ちを与えられたってワケ?」

 

「神浜の西側などケダモノ共だ!あんな連中なんか守りたくない…だから東の自治を望んだ!」

 

「ふ~ん、それが東側の独立自治を望んだ原因だったってワケ?」

 

「どれだけ社会平等を説いたところで…西側の聞く気のない連中には馬の耳に念仏だ!!」

 

「西側の中には差別はよくないって言いながらも社会を変える行動をしなかった連中もいる」

 

「結局は自分達だけが可愛い愚者共だ…ならば、そんな性根が腐り切った連中を()()()()()…」

 

――平等と博愛こそが貴ばれるべきであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

彼女が語る概念とはフランス革命独裁者のロベスピエールが掲げた恐怖政治と大虐殺の歴史。

 

たった一つのイデオロギーしか認めない社会全体主義でもある。

 

かつての人修羅や常盤ななか、時女一族が掲げた政治理念と共通する全体主義そのものだ。

 

感情のまま熱弁を振るう十七夜を見つめていたアリナは微笑んでくれる。

 

「…やっと、アナタに出会えた気がする」

 

「えっ…?」

 

「フフッ♪今日は開けてもいいんですケド♪」

 

機嫌よく席を立ち上がったアリナはワインセラーに向かう。

 

彼女が持ってきたのは鉄分を入れた黒ワインとイチゴ牛乳のようなピンク色のワインである。

 

「お、おい…酒を飲むのか?自分達は未成年だぞ?」

 

「アリナは戸籍上はもう死んでるし、アナタもマイホームに帰らないなら7年後は葬式だカラ」

 

「そうか…自分は行方不明扱いなのだろうな。死亡認定が降りたら…自分も故人か」

 

「もう規則なんて気にしないでさ、パーっと弾けるワケ♪今日はそれが出来たアナタに乾杯♪」

 

珍しくもアリナがグラスを持ってきてあげて2人分のワインを注いでくれる。

 

そして懐から取り出した小さな管を開けた後、赤黒い何かをワインに淹れ込む。

 

「今入れたそれは何なんだ…?」

 

「アドレナクロム。分かりやすく言えば…人の血なんですケド」

 

「き…君は人の血を飲む者だったのか!?まるで自分と同じ…吸血鬼だ……」

 

「そう、今のアリナはアナタと同類。だからね…本当のアナタと出会えた気がして嬉しかった」

 

「本当のアナタと出会えたというのは…どういう意味だ?」

 

「言葉っていう表現行為はね、ある意味ペテンなワケ」

 

「言葉が…ペテン?」

 

「外側に話す以上は外側の人々を不快にさせない言葉しか選ばない。取り繕う言葉なワケ」

 

「それは…そうだな。自分が語ってきた正義もまた…取り繕ってきた綻び塗れだった」

 

「周囲と揉め事を起こすな、既存の事に疑問を持つな。周りに合わせるだけのペテンだヨネ」

 

「…周囲の同調圧力にばかり屈してきたから…そこには本当の自分はいなかったのか…」

 

「事象が優先されその他は一切思考させないジャパニーズ固有の村社会精神…反吐が出るヨネ」

 

「いい学校を出ていい企業に就職するのが正解…そんな拝金主義思想も同じなんだろうな…」

 

「せっかく生まれてきたんだし、()()()()()()()()()()()()()ワケ」

 

――アナタが本当のアナタと向き合えたら…たとえそれが醜くても、アリナは素敵に思うカラ。

 

「アリナ……」

 

赤黒い液体が舞うワインを手に持ったアリナは乾杯を望んでくれる。

 

戸惑っていたが微笑んでくれた十七夜もワイングラスを持ってくれる。

 

「フッ…()()()()()()()()()。自分達は何処か似ていると感じていたよ」

 

乾杯の音が鳴り響いた後、2人は喉を潤していく。

 

「フフッ♪こんなに美味かったのだな…酒という飲み物は?」

 

「アリナも今日飲んだワインは一番美味しかったんですケド♪」

 

「さぁ食べてくれ!今日はムシャクシャしていたから料理に没頭して沢山作ってしまった!」

 

「アナタも沢山食べるワケ。それと…アナタに提案があるんですケド」

 

「提案だと?」

 

「アリナはね、ダークサマナーとして仲魔を色々と探してるの。だから…その……」

 

その提案を聞いた十七夜は満面の笑みを浮かべながら即答してくる。

 

「勿論だ!!」

 

アリナの手を握りながら輝いた眼差しを送ってくれる。

 

「こんな醜いエゴを抱えた自分の事を愛してくれる君なら…自分は何処までもついていく!」

 

「フフッ♪それなら……」

 

「うむっ…今後とも、よろしく…だぞ」

 

仲のいい食卓風景が広がっていく。

 

その光景は何処かアリナが失った家族のような光景にも思えてしまう。

 

いつも不機嫌な表情ばかりをしていたアリナも今日ばかりは笑顔を見せてくれる。

 

酔っぱらうまで飲んでしまった2人は食事を終えるが勢いのまま電話で車を呼び寄せる。

 

十七夜のための買い物を派手に楽しもうという魂胆なのだろう。

 

イルミナティと関わってしまったがために失ってしまった人間らしい生活。

 

悪魔となって孤独となってしまった十七夜と触れ合う事で取り戻せた気がする。

 

そんな嬉しそうなアリナの姿を夜の繁華街で目にする事になるのであった。

 




書いてて思った。
あれ…?想像以上にアリなぎCP出来上がってきてね?
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