人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
見滝原市での出来事を終えた尚紀は神浜での日常に戻ってくる。
新しい同居人が増えたことにより一週間はバタバタとした生活を送っていたようだ。
「あいつらの偽造公的証書をニンベン師から用意してもらう事になったし、街での生活に戻ろう」
今日も探偵事務所の職員としての生活を送るため職場に向かう。
事務所扉を開けると不機嫌な表情をした丈二が出迎えたようだ。
何があったのかを詳しく聞かされていくと尚紀の表情も重くなる。
「…アパルトヘイト条例か。そんなものが出来たら…東の住民は管理という絶対支配を受けるぞ」
「あれ程の惨事を起こしたからなぁ…。想像はしていたが…こいつは最悪の事態になる」
「就業・居住・教育・治安・住民分類を推し進めるか…。東住民を東地区に隔離する気だ」
「そうなれば…東住民である俺もまた影響を受ける。西側である南凪区で商売出来ねぇ」
「事務所を東に引っ越すか…街から出て行くかの選択肢しか残らないか…」
「クソッタレの西側連中なら本気で実行する。ここで頑張ってきたが…潮時かもな」
「諦めるのか?」
「実はな、神浜での商売が軌道に乗らなかった場合の保険として…東京物件をまだ残している」
「東京にとんぼ返りか…。だけどな、丈二……この事務所はもう、俺達だけのものじゃない」
「未来の聖探偵事務所職員のちはるちゃんが帰ってくる場所でもある。何とかして残したいが…」
「…俺もこの街で、多くの人々と出会えたし…新しい社会活動も始めた。…離れたくはない」
「最後の抵抗としてな、市議会で市民の意見陳述を求める議決をされたのを利用しようと思う」
「条例制定請求代表者への意見を述べる機会か。だが…ニュースは見たろ?」
「差別条例を議会に提出した新市長は…殺された。だから助役が代理人を務めるだろうな」
「場所は何処で行うんだ?」
「南凪区の国立神浜国際会議場になる」
「大人数を収容出来る会議場は限られてるしな。それに、抽選になるんだろ?」
「勿論だ。神浜住民約300万人を全員呼べるわけないからな…俺も抽選には応募してる」
「…当たるかどうかは分からないんだろ?」
「まぁな…抽選の選考を考えるのは西側行政だ。だとしたら……」
「…考えたくもないが、丈二の言う通りになるかもしれない」
「だからな…潮時かもって……お前に愚痴っちまったよ」
2人の間に重苦しい空気が広がっていく。
だが尚紀は迷わず決意を語る。
「…丈二、その抽選の受付はまだ終了してないよな?」
「今日が最終日だ」
「良かった、俺も抽選に参加しよう」
「尚紀が俺の代わりに批判しに行くのか?」
「気持ちは同じだ。この差別条例を俺は決して受け入れない…やらせてくれ」
「尚紀…お前に出会えて本当に良かった。抽選の申し込みはスマホからでも行えるぞ」
「了解だ。早速応募してみよう」
会話も打ち切り、今日の仕事が始まっていく。
日も沈んできて辺りは夜の景色となる。
クリスに乗って職場から帰っていく尚紀だが、工匠区を目指していく姿を見せた。
「ダーリン家に帰らないの?新入り共がブーブー喚くわよ~」
「あいつらには俺が社会活動家だと説明している。暫く離れていた嘉嶋会に顔を出したい」
「相変わらずワーカーホリックなダーリンねぇ。分かったわ、なるべく早くで帰宅しましょう」
後日。
仕事を終えた尚紀は大東区方面に向けて車を進めていく。
孤児の支援を行う福祉団体である嘉嶋会は地域福祉のための炊き出しボランティアを行うようだ。
東のホームレスや生活困窮者のための福祉支援活動と言えるだろう。
世間から関心が持たれず、軽視される存在なのがソーシャルワーカーと呼ばれる者達。
だが彼らの支えがあって差別・貧困・抑圧・排除を抑える社会正義の実現が為されるのだ。
「俺達のような存在が政治には必要なんだ。自由・平等・共生に元ずく幸福社会のためにな」
「そういう思想を持った政治家達が今の政権与党が推し進める市場原理主義を止めるのね」
「本来その役目は社会主義政党である野党の役目なのだが…どの政党も政権与党を止めない」
「どうでもいい野次は飛ばすくせに、売国法案には何の反応もしないでスルーなんでしょ?」
「日本の野党は機能していない。与野党含めて売国国会だ」
「日本人は国会プロレス劇場を見せられてるだけってわけね。なんで取り締まれないの?」
「日本は先進国ではあって当たり前のスパイ防止法がない。売国者天国の国なんだ…」
「ワ〜オ…アタシとんでもない国で暮らしてきたってわけね。アメリカが懐かしいわ」
「本来の政治の役目は俺たち民間が行う炊き出しや子ども食堂を増やすことじゃない」
「貧困を解消して国民の生活水準を上げることが政治の役目なのにね~」
「政治支援はないがソーシャルワーカーも社会の一部。共存を模索したいが…支援は少ない」
「ニコラス爺さんだけが頼りなんでしょ?それとも、ペレネル婆さんにも泣きつく?」
「資本主義を味方につけるしかやっていけない。国を挙げた共産主義では上手くいかなかった」
「まぁ、そこら辺は周りの人と相談してね、ダーリン。そろそろつくわよ」
駐車場にクリスを停めて徒歩で移動していく。
大東区公園広場では数個のテントに群がる東住民達の姿が集まっていたようだ。
いい匂いが立ち込めてくる光景の中を歩き、代表の元に向かう。
「米さん、お疲れ様。昨日炊き出しの話を聞かされてたから顔を出したよ」
「やぁ、尚紀君。多忙な君が来てくれなくても…」
「そうはいかない。これでも嘉嶋会の理事長をしているし…暫く顔を出せてなかったしな」
「そうか…ありがたいよ」
「スタッフは足りているか?」
「君が東のホームレスの方々も嘉嶋会に迎え入れてくれたからね。なんとか足りているかな」
「俺も手伝いたい。何か出来ることはあるか?」
「なら、配膳をお願い出来る?葉月ちゃんの方はこのはちゃんとあやめちゃんが配膳してるよ」
「あいつらも来てたんだな。了解だ」
テントを移動して葉月が料理を担当している場所に向かう。
尚紀の姿に気が付いたのは三角巾を頭に巻いたこのは達であった。
「あっ!尚紀お兄ちゃんだーっ!!」
「尚紀さん、お久しぶり~♪」
「フフッ♪出張お疲れ様」
「ただいま。悪いな…嘉嶋会の通常業務だけでなく炊き出しにまでつき合わせてしまって」
「私達が望んでやっているの。生活に苦しい立場の人達の気持ちに西も東もないわ」
「うん…でもね、あちしは頭ではそれを理解してるけど……」
「そうだね…。アタシ達の心の中には、まだ東の人達への不信感が残ってる…」
「…お前達はテロに参加した東の者達に家を焼かれた。それでも顔を見せてくれて嬉しいよ」
「これもね、社会を重んじるため。だけど…口で言うのは容易いけれど……」
「それを拭いきれない…あちし達の心がまだ残ってる…」
「エゴは消えないものだ。少しずつだがわだかまりを解いていくしかない。手伝おう」
集まった人達に向けて時間の許す限り配膳作業を行っていく。
すると1人の少女を見かけたようだ。
「ん…?あの子はたしか……みたまの妹の?」
列に並んでいたのは八雲みたまの妹である八雲みかげの姿であった。
「あっ……?どうして尚紀お兄ちゃんが…ここで働いてるの?」
オドオドした表情を向けてくる小学生女子を見て、目線を合わせるぐらい屈んでくれる。
「この炊き出しは嘉嶋会という団体が参加してる。嘉嶋って団体名で分かるだろ?」
「えっ!?もしかして尚紀お兄ちゃんって…社長さん!?」
「…まぁ、似たようなもんだ。だが、どうして炊き出しになんて来るんだ?家の食事は?」
「そ、それはね……」
俯いて黙り込んでしまった彼女の姿を見て彼は察した。
「……何人分、包んで欲しい?」
「……4人分」
「お前もみたまも育ち盛りだろ?6人分包んでやるよ」
「尚紀お兄ちゃんは…本当に優しいね。ありがとう」
葉月に頼み、6人分の汁物や揚げ物をプラスチック容器に入れてもらう。
袋で包み持ってくる彼の姿が近づいてくる。
「これは葉月からのサービスだ。熱いうちに食っちまえ」
尚紀は小さな紙袋に入れられた大学芋をみかげに渡す。
彼や葉月達の優しさに触れたみかげの目に涙が浮かんでしまうのだ。
「グスッ…うぅ……ありがとう……ありがとうみんな……」
「みかげちゃん…どうしたのかな?」
「……少し聞いてみるか」
彼らは広場から少し離れた場所のベンチに座ったみかげを囲むようにして立つ。
彼女は大学芋を頬張り、口の中に広がる優しい味で少しだけ元気を取り戻せたようだ。
「どうしてみかげだけで来たの?お姉ちゃんのみたまさんはどうしたのかな…?」
「…姉ちゃはね、外に出るのが怖くなって…団地街から出られなくなってるの」
「だからみかげちゃんが代わりに炊き出しに並んだの?お父さんやお母さんは?」
そう聞かれて俯いてしまったが、顔を上げたみかげの顔には暗い表情が浮かんでいる。
それでも聞いてほしいのか、みかげは語っていくのだ。
神浜の東経済がどんな状況になっているのかを語ってくれた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「…ミィや姉ちゃのお家はね、とっても貧乏なの」
「そうでしょうね…私も昔からみたまさんの金銭面については疑ってたわ」
「うら若い17歳の乙女が映画館丸ごと用意して調整屋だなんて…無理あったし」
「どれぐらい貧乏なの?」
「コラ、あやめ。デリカシーがないんだけど~?」
「あっ…葉月ごめん。話したくなかったら、あちしはもう聞かないよ?」
デリカシーがない質問であっても、みかげは辛い過去を語ってくれる。
「……
その言葉を聞いた4人は暗い表情となり顔を俯けてしまう。
「ミィはママから望まれなかった子供…。ミィが生まれてさえいなかったら負担は少なかったの」
「…望まれない命など、あってはならない」
「そうだよ!みかげちゃんまで…あちし達みたいにされちゃったら……」
「あやめお姉ちゃん達も…望まれなかった子供なの……?」
「貴女だけじゃないの…。多くの子供達が親から疎まれて孤児となり、養護施設行きにされる」
「みかげちゃんよりも歳が若い子供がね…顔を痣だらけにして養護施設に来るんだよ…」
「俺も…家族だと信じてた両親から捨てられた。だからこそ、俺は孤児を救う団体を立ち上げた」
「…だったら、ミィをまだ育ててくれてるだけ…ミィはママやパパから望まれてるんだね」
「…東の経済状況は丈二から聞いていた。その上で今回のテロによる経済打撃だ」
「東地区で働いていた人達は…収入面がさらに厳しく追い込まれたでしょうね…」
「……これは神浜だけの問題じゃないんだ。日本全国の問題なんだ」
「どういうことなの…?尚紀さん…?」
「国民負担率を知ってるか?日本人所得の半分近くが…税金や社会保険料で国に奪われる」
「そんな…働いても働いても生活が豊かになるはずがないじゃん!」
「北欧なら福祉政策の財源にされるが…日本はされない。毟り取られるだけなんだ」
「酷過ぎるよ!!それが日本政府や国会の在り方なの!?」
「消費税が上がるほどデフレが進む。だが、税収は上がらない。法人税を下げるからだ」
「…投資や還元に使うでもない内部保留や、株主配当金や役員の給料を増やす目的なのよ」
「このはの言う通り。経団連や日本国営メディアの内部保留額は、数百兆円規模にもなる」
「略奪者共じゃん!!そんな悪人共のせいで…ママはミィにお小遣いも出せないよ!」
「正社員を派遣化、ギグワークを増やす、移民を連れてくる。失業者が激増してるのに…」
「…今の日本は先進国最下位の国。それもこれも…日本行政が日本人から略奪するからだ」
「な、なんで反対の声が上がらなかったの?国民主権の国でしょ!?」
「…ちょうどいい。滅びゆく日本に生まれてしまったお前達のために今から俺が授業をしてやる」
このは達もみかげの横に座るよう促し、尚紀は皆の前で重い現実を語り出す。
「今の日本は、政官財を担う特権階級のためにしか機能していない」
――そいつらが儲けるために、お前達は安月給で働かされ、高い税金という略奪を受ける。
「そいつらが何をお前たち民衆に望んでいると思う?」
「な……何を望んでるの?」
「今のまま…
世の中の仕組みに目もくれず、不公平なことにも目を向けないまま楽しく遊んでればいい。
漫画やゲーム、映画や音楽、バラエティーやスポーツやセックス、娯楽だけを望むがいい。
御上に逆らわないロボットになり、戦争が始まれば軍需産業を儲けさせるために死にに行け。
そんな愚民共であって欲しいと彼は独裁者達の本音を語ってくれる。
これが永田町や霞が関、政官財がグルになった日本人総愚民化政策である。
GHQの残したWGIPや3S政策等の踏襲でもあった。
「詩人ユウェナリスが、古代ローマ社会の世相を批判して詩篇中で使用した表現があるんだ」
権力者から無償で与えられる食糧と娯楽によって、ローマ市民が政治的盲目に置かれている。
そんなローマ市民のことを
「子供の頃、
顔を青くして震えるのは社会に疑問を持たず、楽しく遊んできただけの若者達。
合点がいった表情を浮かべたみかげが口を開いてくれたようだ。
「…ミィね、ミィの部屋にもテレビが欲しいってママに言ったの。でも…間違いだった…」
「昔の人は言ってくれていた…テレビを見てたら馬鹿になると」
「タダより高い物はない、便利な物には裏がある……全部真実だった」
「あちし…知らないことだらけだった。世の中はこんなにも…悪人のためだけに在ったんだね」
「ミィね…もう駄菓子屋さんで無駄遣いしないよ。古本屋さんに行って…少しでも本を読む」
「そうか…。そう言ってくれるなら慣れない授業をやってみたのも悪くなかったよ」
「ありがとう、勉強になったよ。それじゃあ、ミィはそろそろ帰るね…」
席を立ち上がろうとしたみかげに向けて尚紀が片手を持ち上げていく。
「あっ……?」
彼はみかげの頭を撫でてあげ、辛そうな表情を浮かべた。
「…今まで、この街に対して沈黙してきて…すまなかった」
「尚紀お兄ちゃん……?」
「飯が冷めないうちに…早く帰ってやれ」
……………。
炊き出しの品を抱えたみかげが帰っていく後ろ姿を4人は見送る中、尚紀が姉妹達に振り向く。
「…お前達はアパルトヘイト条例については賛成の立場なのか?」
「それは…その……」
「今の俺の話を聞いても東住民だけが悪者だと思うのか?」
「…思えないよ、アタシには。これだけの仕打ちを政官財の糞野郎共にされるなら…」
「…東の人達だけじゃなく日本全国の人達が怒って暴れてもいいぐらいだよね…」
「…短絡的だった。表面的な結果だけに囚われて…なぜ暴動が起きたのかに目を向けなかったわ」
「気に病むな、このは。少し前の俺だってお前達と同じ考えだったんだから」
「尚紀お兄ちゃん……」
「さて、俺はそろそろ帰るよ。後の事は米さんやお前達に任せるとする」
踵を返して停めてある車の元へと去っていく。
俯きながら歩いていた彼だが、顔を上げて決意を秘めた表情を浮かべたようだ。
「荒波を避けては通れない。俺は掲げた正義の為に…魔法少女を殺戮した者。ならば責任を負う」
正義とは権利に近いニュアンスだ。
責任をとらない正義はあり得ない。
責任をとらない正義など
「俺は…神浜の東で暮らす魔法少女を虐殺した者。彼女達のためにも…償いをしよう」
夜空を見上げながらもその表情には恐れの色が浮かぶ。
「たとえそれが責任の矢面に立たされて…俺が守った人々から罵倒される事になろうとも…」
――俺は……逃げも隠れもしてやらない。
――――――――――――――――――――――――――――――――
2019年12月12日、時刻は夕刻頃。
南凪区の国立神浜国際会議場には多くの住民や報道陣が集まってきている。
会議場を目指す人の列内にはビジネススーツを着込んだ尚紀の姿も見えた。
「運良く抽選に当たることが出来た。それに住民被害者の声を俺が語る役にも選ばれるとはな…」
ビル内に入り受付を済ませて大ホールに入場していく。
「俺の席はF列の右端か…」
貰った用紙に書かれた案内を見ながら傍聴席を目指していると声をかけてくる者がいた。
「あっ!尚紀さんじゃないですか!」
席を見れば尚紀の隣と並ぶようにして座っている常盤ななかと夏目かこの姿があったようだ。
「お前達も応募していたのか?」
「はい。私達も西側住民として条例内容を知る権利があると思いまして」
「私とななかさんは抽選に当たりましたけど…あきらさんと美雨さんはダメでした」
「それに…大ホール内にはお前達以外の魔力を感じるな」
「この魔力は…ささらさんと阿見莉愛さん、それに史乃沙優希さんもおられるようですね」
「令から聞かされてる。その魔法少女達はテロのせいで世間からバッシングを浴びていると」
「はい…。モデルとご当地アイドルの仕事を続けられなくなったそうです…」
「彼女達だって犠牲者なんです…この条例には切実な思いがあると思います」
「そうだろうな…怒って当然のことだ。だが…彼女達にも気が付いてもらいたいもんだ」
席に座り込み、3人は意見陳述が始まる時間まで時間を潰す。
「…ななか、気が付いているか?」
「はい…。大ホール最後尾に陣取るメディアのことですね」
「物凄い数ですよね…。聞いた話によると、今日の会議内容は国営放送の生放送らしいです」
「それだけじゃない。欧米メディアも大勢詰めかけてるんだぞ」
「異常ですよね…。遠い異国の地方都市の条例問題をどうして気にするんでしょう?」
「何かしらの企みがあると考えるのが自然だと思う」
左腕の腕時計を見て、ななかは2人を促す。
「お静かに。そろそろ意見陳述が始まりますよ」
地方自治法第74条第4項の規定により条例制定請求代表者への意見を述べる機会が始まる。
演説台に立つ助役は供えられたプロジェクターを使って条例案内容を説明する姿が続く。
30分ほどアパルトヘイト条例の必要性を語った後、住民被害者代表スピーチに移行するのだ。
代表に選ばれた者達が涙ながらに東のテロリズム被害に苦しむ胸の内を語っていく光景が続く。
お涙頂戴スピーチに対し、席に座って見物する助役達の口元には薄気味悪い笑みが浮かぶ。
(もっと同情票を集めろ。感情論に持ち込めば何も疑わない愚民を騙すことが出来るのだ)
(それにしても助役…あの海外メディアの数は何ですか?あれも仕込みなんでしょうか?)
(私も聞いてはいないが、誰が呼んだのだ?)
(総務部に聞いても誰も知らないそうです。これも中央政党の先生方の配慮でしょうか?)
(そうとしか思えん。まぁいい、世界の人々も味方につくならこの条例に反対する者はいない)
会議内容は国営放送メディアを通じて国民の食卓前に飾られたテレビにも届けられていく。
テレビ中継は神浜魔法少女だけでなく遠く離れた見滝原魔法少女達の目にも留まるだろう。
2人目の被害者スピーチが終了して順番が回ってきた尚紀が立ち上がる。
「尚紀さん……」
彼は心配そうに見つめてくるななかとかこに振り向く。
「…ななか、かこ。今から俺が語る演説内容を…
「えっ…?どういうことですか?」
「たとえその内容が東側の人々にとって最高の内容であったとしても…疑え」
「何を企んでるんですか…尚紀さん?」
「反面教師としての俺の姿を見届けろ。今から始めるのは汚職政治家達の手口……
そう言い残してステージの上に向けて上がっていく。
演説台の前に立ち、大ホールに集まった住民やメディアに目を向ける姿を見せるのだ。
目を瞑り、かつての家族の姿を思い出していく。
(佐倉牧師…俺もあんたと同じ道を行こう。たとえ
――暴力ではなく、対話によって和(環)を築く。
目を開けた尚紀が語り始める。
死の上に死を積み上げてきた混沌の悪魔、人修羅にとっては初めてとなる戦場。
大規模論戦が始まったのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
国際会議場のテレビ中継を固唾を飲んで見守る神浜の魔法少女達。
その中には家族と共にテレビを見つめる八雲姉妹の姿があった。
「…この放送も差別条例後押しのために世論操作を行う仕込みなのよ」
「姉ちゃ……」
「…金を牛耳る連中ばかりが世の中の全てを決めていく」
「……うん」
この光景は見滝原市でも同じであり、神浜市の惨劇に心を痛める少女達がテレビを見つめていた。
「…これからどうなるんだろうね、神浜市は」
テレビを見つめるのはこの世に受肉した概念存在の父の役目を果たす鹿目知久だ。
「うん…。パパはどう思う?」
概念存在である鹿目まどかは弟の役目を演じるタツヤをあやしながらテレビを見つめる。
その表情には不安が滲んでいたようだ。
「テロは絶対に許されない。だけど…東の人達に対して危険だから管理するでは…」
「そうだよ…こんなの可哀相だよね…。東の人達だって人間なんだよ…」
「ね~ちゃ?てれびのひとたち、いじめっこなの?」
「虐められた人達でもあるんだよ。お姉ちゃんには政治は難し過ぎて分からないかな…」
巴マミの家でも遊びに来ていた人物と共にテレビを見つめるマミがいたようだ。
「…悲劇を繰り返してはいけない。私もそう思うけど…これで本当にいいのかしら?」
「悪いことする連中を監視出来るのです。なぎさはこれでいいと思うのですけど?」
「確かに…監視や管理をされたら犯罪なんて出来ないわ。でも想像してみて…」
「何をです?」
「なぎさちゃんがね、悪いこともしてないのに…警察官に付きまとわれて監視されるのを」
「そ、そんなの許せないのです!なぎさは悪い事なんて…してないのに!」
「この条例はね…そんなことを東の人達に向けて行う条例なのよ…」
「そ、そんな……なぎさが間違ってたのです…」
美樹さやかの家では一人娘のさやかと同居人の役目を果たす佐倉杏子がいる。
2人はテレビを見つめながらも杏子は複雑そうな表情を浮かべていた。
「…さやかはこの条例をどう思うんだ?」
「あたしは賛成。だってさ、この条例が施行されたら犯罪なんて出来ないよ。絶対正しい」
「…擦れた人生生きてきたあたしの立場から言えば…こんなのやり過ぎだ」
「どうしてさ?悪者を縛り上げて犯罪抑止出来るならこんな素晴らしいことないじゃん?」
「…潔癖症なさやからしい意見だな。まぁいいか…これ以上口開いたら喧嘩になりそうだし」
杏子はテレビから視線を外して寝転び、スマホを弄り始める。
「この被害者達の叫びは報われないといけない。間違いは正さないといけないの」
「そうかよ。表面的な正しさばかり見ていると…あたしみたいな過ちを起こすぞ」
「あんたって本当に斜めにしかモノを考え……えっ、杏子見てよ!?」
テレビに映し出されたのは演説台の前に立つ人物。
かつては佐倉杏子の義理の兄とも言えた存在であった。
「この前見滝原市にお仕事で来てた嘉嶋さんが…テレビに映ってる!」
それを聞いた杏子が飛び起き、テレビ画面に釘付けとなる。
「な……何で?何で尚紀がいるんだよ…?被害者スピーチに呼ばれてたのか…?」
固唾を飲んで彼の姿を見つめる2人。
そんな2人の光景は怪しげな空間にも存在していた。
「人修羅……いいえ、嘉嶋尚紀と名乗っているのだったかしら?」
椅子に座り宙に浮かぶ額縁風の巨大画面を見つめるのは悪魔となった暁美ほむらである。
隣には老人姿の時の翁が後ろ手を組み、大画面を見つめながら立っているようだ。
「私が見ないテレビなんてつけさせて、何故私がこの男を見物しなければならないの?」
「よく見ておけ。今日この日こそ…世界に向けて
「啓蒙の光ですって…?」
「ルシファー閣下の
――獣の数字666を司る…赤き獣となりしサタンの役目だ。
意味深な言葉を残した後、時の翁と呼ばれしクロノスは黙り込む。
視線を戻した彼女は今まで真剣に見た事もなかったテレビに集中する姿を残すのだった。
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「俺はあのテロの時、被災者のために奔走してきた。しかし…多くの人を救えなかった」
演説台のマイクを使い、被災者救援やボランティア活動内容を短く語っていく。
「多くの亡骸の中に人生を生きる権利を持っていた人達がいた。だが…奪われたんだ」
彼の語る悲惨な犠牲者達の事を思う西側住民達のすすり泣く音が響いてくる。
「俺は東の連中に怒りを覚えた。だがな…それと同時に疑問が浮かんだんだ」
すすり泣く音が止む。
「人生を生きる権利を持っている人達は…本当に神浜の西側住民だけなのか?」
今行っているのは被害者の声という趣旨内容。
被害者とは西側住民だけであったのか?
「俺たち人間は…何のために生まれてきた?俺は幸福に生きるために生まれてきたんだと思う」
周囲がざわついていく。
不快な表情をした助役が口を開いてしまった。
「あの男は…何を言う気なんだ!?」
周囲のざわめきも意に介さず彼は言葉を紡ぐ。
「東西、被害者と加害者…差で分けるから区別出来ない。東の人々だって幸福に生きるべき者だ」
ざわめきはどよめきに変化していき、会場内がざわついていく。
傍聴席に座り不快な表情を浮かべる魔法少女達の姿もあったようだ。
「あの人は…何を言いに来たの?今は西側で犠牲になった人達の話をする内容じゃないの?」
父親をテロで失ったささらは怒りの表情を浮かべていく。
「嘉嶋さん…だったかしら?テロの犠牲になった人達のために魔法少女を虐殺した人なのに…」
「どうして突然…加害者になった東側の味方をするようなことを言い出すの…?」
隣同士で座る阿見莉愛と史乃沙優希も動揺の声を漏らす。
東の暴徒達が起こしたテロによって仕事を奪われた彼女達も怒りの表情を浮かべてきた。
「差別や偏見はダメだと子供に唱えながら大人がやっている。お前達はそれでも大人なのか?」
<<空気読めよ!!!!>>
尚紀を罵倒する叫び声が上がってしまう。
日本人が最も得意とする
<<お前何しに来たんだよ!!?>>
<<あんた…東の肩を持つつもり!!?>>
<<貴様だって見たんだろうが!!西の犠牲者達を見ておいて…それでも裏切るのか!!>>
<<この東の回し者め!!ここから出ていけ!!!>>
会場から鳴り響くのはブーイングとも言えるだろう大合唱。
<<K・Y!!K・Y!!>>
<<K・Y!!K・Y!!>>
空気を読め、空気が読めない奴めという頭文字アルファベットを叫ぶ西側住民達。
「こ…怖い!!みんなやめて…やめてください……!!」
周りの人々の怒号に恐怖し、かこはななかに抱き着きながら震え抜く。
「尚紀さん…貴方という人は…そこまでの覚悟をお持ちだったのですね…」
周りの勢いは圧倒的過ぎてななかが立ち上がって叫ぼうとも掻き消される勢いだ。
大ホールに入っているのは千人にも上る西側住民達。
交渉事を得意とするななかや葉月が演説台に立とうともこの圧力なら震え上がるだろう。
「あの男をここからつまみ出せ!!!」
怒りに燃える助役であったがポケットの中で鳴っていたスマホに気が付く。
「こんな時に誰だ…!?」
助役は席を立ち上がりホールの裏側まで移動して通話を行う。
「はい、私です。……八重樫先生ですか!?」
通話してきた相手とは新市長選の時に中央政党代表として応援演説に来た八重樫総理大臣だった。
「この前の市長選の時には、先生から大変お世話に…なんですって!?あの男を喋らせろ!?」
大ホール内では怒号ブーイングが続いていく。
流石の尚紀であっても演説台に置く両手は震えていた。
(…佐倉牧師。あんたも味わったんだな……この恐ろしさを)
かつて所属教会から破門される覚悟で佐倉牧師は叫んだ。
――人間の心に目を向けて欲しい!そして人間の言葉で語りかけるのです!
――神の言葉では、本当の人の救済は成し得ない!
キリスト教徒でありながら唯一神とキリストの言葉を否定した裏切り者。
古いしきたりに縛られるべきではないと叫んだ佐倉牧師に待っていたのは社会リンチ。
その恐ろしさを佐倉牧師にとっては義理の息子とも言えただろう尚紀もまた味わうのだ。
西側住民達の勢いが消えてから喋ろうとするが勢いはますます強まっていく。
人間の守護者として戦ってきた者が守ってきた人間達から罵倒される光景となる会場空間。
尚紀にとってはこれ以上ない程にまで心が痛めつけられてしまう。
これが彼が選んだ責任の道だった。
(
――アナタはアナタのままで良いワケ。
――アナタはアナタの情念を貫けばいい。
――周りに合わせても、社会は変えられないワケ。
――間違いは修正してでも勝ち取る。
――…アナタに、妥協して欲しくない。
アリナの言葉が脳裏に過った時、尚紀が動く。
演説台のマイクを片手で払い彼は自らの口で叫ぶのだ。
「
悪魔の雄叫びの如き叫び声が大ホール内を揺らす。
民衆のブーイング圧力さえも超える叫び声によって民衆達は静まり返っていく。
覚悟とは声に表れるのだ。
「尊厳とは自然権!生存権、自由権、幸福追求権、参政権や抵抗権…自由に生きていい権利だ!」
彼が叫ぶ
全ての人は平等に造られ、造物主によって、一定の奪いがたい天賦の権利を付与される。
生命、自由および幸福の追求の含まれることを信ずるという内容であった。
「尊厳がなんだ!!俺達の尊厳を踏み躙ったのは…東の連中だぞ!!!」
立ち上がった1人の男性に向けて尚紀は視線を向ける。
「あんたにも犯してはならない尊厳がある!!それと同時に…東の人々にも尊厳がある!!」
「詭弁だ!!お前は東のテロリスト共を正当化したいだけだろうがぁ!!!」
「ならば聞く!!テロリスト共の蛮行の正当化はダメで、西側の蛮行の正当化ならいいのか!?」
「そうよ!!私達には東の連中を裁く権利があるわ!!!」
立ち上がった1人の女性に向けて尚紀は視線を向ける。
「大迷惑を被ったのよ!!死んでいった西側の人達のためにも…東住民は裁かれるべきよ!!」
「迷惑をかけない人間など存在しない!!迷惑を語るあんたは他人に迷惑をかけなかったのか!」
「そ、それは……」
「あんたはどうだ!!そっちのあんたは!!向こうのあんたはどうなんだ!!!」
尚紀に指を刺された者達は顔を俯けてしまう。
彼らの頭の中に浮かんだのは仕事の失敗のせいで周りに迷惑をかけた苦い記憶だった。
「他人に迷惑かけといて相手を許さないのか!いつから日本の迷惑をかけるなが生まれた!?」
「わしの孫は東のテロで死んだ!!!」
叫び声を上げた老人に向けて尚紀は視線を向ける。
「あの子達の人生は…これからじゃった!幸福に生きる権利があった!それを奪われた!!」
「生まれた子供には幸福に生きる権利がある!それは西側の子供だけではない!!」
「返せ!!孫たちの幸福な人生を…返してくれぇ!!!」
「ならば問う!!孫達の幸福な未来が奪われたのなら東側の子供達の未来を奪うのか!!?」
「五月蠅い!!返せ…返してくれぇぇ…孫達の幸福な人生を返してくれぇぇ!!!」
「あんたの悲しみは人間の悲しみ!!その悲しみの感情は東側の人間も同じだ!!奪うのか!?」
「ぐっ…うぅ……」
尚紀の言葉が言い返せなくなり老人は力なく椅子に座り込む。
「お前達の怒りの原因を教えよう。日本人は人に迷惑をかけちゃいけないと教えられてきた」
――それなのに、子供が大人になったら自分は我慢してるのに、何故他は我慢しないと苛立つ。
「我慢の上に我慢を重ねる悪循環。それは…
「許せっていうんですか!!!」
立ち上がったのは家族を東側住民に殺されてしまった美凪ささらである。
「お父さんは正義の消防士だった!なのに東の暴徒のせいで焼け死んだ!悪を許すんですか!!」
「怒りや憎しみの感情…そして正義と悪!!俺はこの二元論のせいで多くの人を裁いてきた!!」
「貴方だって怒ってくれたじゃない!!西で犠牲になった人達のために…戦ってくれた!!」
「俺も正義を振りかざしてきた…その末路なら!!お前もあの時に見ただろうが!!」
「そ、それは……」
「俺は怒りと憎しみを正当化して正義を振りかざし…裁く相手の心を想像しなかった糞野郎だ!」
――お前もそうなりたいのかぁ!!?
「う…うぅ……お父さん…お父さん……あぁぁぁぁ~~~……ッッ!!!!」
泣き崩れてしまったささらは座り込み、隣の女性が抱きしめてあげる姿が見えた。
「東の平等主義者共のせいで!!仕事を奪われた私達はどうなるのよ!!?」
声を張り上げたのは元モデルの阿見莉愛と元ご当地アイドルの史乃沙優希である。
「私は努力しましたわ…でも届かなかった!だから奇跡に縋りついてでも…モデルになったの!」
「沙優希は刀剣好きの変わり者です!だから友達が欲しくてアイドルになって…友達が出来た!」
「それを全部失ったのよ…私達は!!どう責任とってくれるのよ…返して!!返しなさいよ!!」
「返して…沙優希のことを好きになってくれた人達を!!返して下さい!!!」
「ならば問う!!この条例によって、好きな就職先さえ選べなくなる東住民は構わないのか!!」
「知った事ですか!!あいつらは私からモデルの仕事を奪ったのよ!?」
「奪われたから奪い返すのか!?努力しても届かなかった苦しみを知るお前がそれを言うのか!」
「あっ……」
「私のことを好きになってくれた友達や…ファンの人達はどうなるんですか!?」
「この条例によって、東の子供は西側で出来た大切な友達と出会えなくなる。考えなかったのか」
「えっ…?そ、それは……」
「自分の大切な友達なら良くて、東の子供達の大切な友達なら失おうが…どうでもいいか?」
「さ、沙優希…そこまでは考えてなくて……」
「お前達は尊厳を奪われた。だから尊厳を奪い返す…それがお前達の在り方だったのか?」
「う…うぅ……どうして?どうして私は…水名になんて生まれてきたのよ…ッッ!!」
泣き崩れてしまった阿見莉愛を抱きしめるために沙優希も口を閉じて座り込んでくれる。
罵倒の声を誰も上げれない空気にまで圧倒されてしまった空間を見回し、尚紀が叫ぶ。
「西側は東側を恐れて監視社会を築いた!!だからギスギスするし、いがみ合いが起きる!!」
――人間は、
――これを意識出来なければ…政治屋共と同じくエゴイストにしかなり得ない!!
「怒りや憎しみの感情ではなく、人間の尊厳に目を向けて欲しい!!心に目を向けて欲しい!!」
彼は語っていく。
かつての佐倉牧師が掲げた理念を。
「周りの言葉ではなく!あんた達の言葉で語って欲しい!周りに己の正しさを決めさせるな!!」
――周りに合わせれば、誰もが肯定してくれる喜びが得られるという承認欲求を捨ててくれ!!
――自身の欲望を捨てれば、周囲に流される迷いは解けるんだ!!
「あんた達の心を救うのは、同調社会じゃない!!
周囲は尚紀の演説に聞き入ってしまっている。
そんな周囲を観察していた常盤ななかは違和感を感じた。
「こ…この手口は……まさか、尚紀さんは……」
いつの間にかホール内は暗くなっており明かりはステージ上にしか見えない。
ホール内はスタジオ照明のような光で包まれ、演説台で熱弁を振るう尚紀を照らす。
降り注ぐ光に照らされた彼の背後には美しい人影が広がっていく。
「ななかさん……見て下さい!!」
「あれは……天使の翼……?」
背後に敷かれたバック幕に広がっていた人影とは6枚翼の影。
人類に知恵を授けた悪魔であり、イルミナティからは啓蒙神と呼ばれし存在。
大魔王ルシファーの翼であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
国際会議場のテレビ中継を見守っていたのは東の魔法少女達である。
彼女達は尚紀の演説を聞き入り、頬には涙の雫が落ちていく。
「尚紀さん…ボク達東の人達のために…グスッ…うぁぁぁ~~……ッッ!!!」
やちよに抱き着き、涙を抑えきれないメルは号泣していく。
みかづき荘のテレビを見つめるやちよとみふゆ、それに鶴乃とかなえも口を開いていく。
「やっぱり尚紀は…他人の心の痛みを考えてくれる人!戦った私でさえ…救ってくれたもん!」
「私達を命懸けで批判してくれた人よ…。こんなにも勇気があって…誰よりも前に立ってくれる」
「本当に…誰も出来なかったことをしてくれる人です…。本気で社会を変革させようとする…」
「あたし……もっと早くに尚紀と出会えていたら…良かったな…」
工匠区の廃工場内ではスマホのニュースアプリ画面を見つめる天音姉妹がいるようだ。
彼女達も尚紀の言葉に胸を打たれて涙を流していた。
「嘉嶋さん…大切な仲魔をウチのせいで死なせたのに…なのにウチのために…戦ってくれる…!」
姉の胸で泣いていく月咲を片手で抱きしめながらも月夜はスマホに映る彼の姿を見守ってくれる。
「他人に迷惑をかけない人間なんていない、だから許す…。わたくしも…そう信じていきますね」
南凪区の中華街では公園に集まった令と美雨とあきらが涙ぐみながらスマホ画面を見つめている。
「観鳥さん…尚紀さんと出会えてよかった…。あの人こそが…本物の英雄だ!!」
袖で涙を拭いていく令にハンカチを渡す美雨は潤んだ瞳のまま尚紀に言葉を送ってくれる。
「ナオキ…どこまでも遠くに行ける男ネ。私…ナオキの背中が見えなくなた気がするヨ…」
「この人の姿こそが…本物の仁義だよ…。義を見てせざるは勇無きなりを体現してるよ…!」
工匠区の工場を経営する男の一人娘もまた尚紀のテレビ演説を見て涙を流す。
「私…あの人に酷いことしちゃった…。お父ちゃんの工場や…東の人達を守ってくれてる…」
矢宵かのこはかつて報復を望んで彼を傷つけてしまった己の浅はかさを恥じていった。
「やっぱり…やっぱり尚紀さんは…子供達のヒーローだった!!」
両親と一緒にテレビを見ていた千秋理子は号泣して母親の胸の中で泣き続けた。
「僕…こんな伝説の覇王になってみたい…。嘉嶋さんの姿こそが…僕の理想だった…」
中二病妄想が好きな水樹塁は対話の可能性を知ったようだ。
後輩の三穂野せいらの部屋に集まり、テレビを見ていた古町みくらと吉良てまりも口を開く。
「凄い…まるで私の大好きなSF映画の大統領キャラが叫んだ独立宣言を聞いてるみたい…」
「…私には公民権運動で差別撤廃を叫んだキング牧師に見えるわ…」
「……私…私…自分が恥ずかしい…」
「吉良…?」
てまりは彼の対話を聞いて涙を流していく。
「私の言霊なんて魔法というチート行為です!なのにこの人は魔法も使わず言霊を届けられる!」
「吉良先輩…そんなことないですよ!吉良先輩は言葉ではなく、文字で言霊を描くんです!」
「私なんて魔法を使わないでここに立ったら…泣きべそかいて逃げ出します!最低ですよね…」
吉良てまりは言霊という人の心を揺り動かす現象について多くを学べたようだ。
見滝原市においても彼の演説を聞き入る少女達の姿が見える。
「凄い…こんな若者なのに…大人顔負けの迫力だよ……」
テレビを見ていた鹿目知久は眼鏡を指で押し上げながら尚紀の姿を見守り続ける。
「こんなにも優しい男の人…わたし、今まで見たことも………アレ?」
鹿目まどかは記憶に違和感を感じる。
「わ…わたしは……この人の事を知ってるような…出会ったことがあるような気が…?」
まどかはかつて魔女と呼ばれる魔法少女の成れの果てが跋扈する世界で尚紀と出会っている。
その記憶を封印している悪魔の呪縛に僅かながらもヒビが入った気がした。
「この男の人…凄いのです…。あんなに虐められてたのに…皆を黙らせちまったのです…」
マミの部屋でテレビを見つめていたのは円環の使者としての記憶を奪われた百江なぎさ。
政治ニュースを小学生なりに驚いていたのだが、隣のマミに視線を移す。
「……どうかしたのです?」
隣には正座しながら顔を俯けてしまっているマミがいる。
太腿の上に乗せた両手は握り締められており、苦い経験によって肩を震わせている。
思い出していたのは過去に尚紀から浴びせられた言葉の数々だった。
「…なぎさちゃん。私ね…薄情な女だって思う?」
「何を言い出すのです!?マミはとっても優しいのです!なぎさに毎日チーズくれるし!」
「それはね…大切な友達のなぎさちゃんを失いたくない…ただのエゴなのよ」
「エゴ…?難しいことは分からんのですけど、なぎさはマミが優しい子だって思うのです!」
「そうありたい…。だからこそ私は…他人の家の問題であっても…救いの手を差し伸べていく」
「それが…この前の騒動の時だったのです?」
「ええ。あれも…私なりの贖罪だったのよ、なぎさちゃん」
さやかと杏子もテレビを食い入るように見つめている。
「あ…あたし…なんて馬鹿だったんだろ…。嘉嶋さんに言われるまで…気が付かなかった…」
浅慮過ぎる正義感を振りかざし、あやうく神浜の東住民達の不幸を望むところであった。
己に恥じていた時、突然の頭痛に襲われてしまう。
「ぐぅッッ!!?」
さやかの脳裏に浮かんだのは、かつてあったかもしれない世界の記憶。
記憶世界の電車の中に座る彼女は2人組のホストの話内容を聞いている。
立ち上がり、虚ろな瞳を向けながらホストの元に歩いていく。
「あたし…あたしは……」
彼女もまた円環のコトワリの使者であるが、その記憶は悪魔に奪われている。
その封印に亀裂が入る程の凄惨な記憶がフラッシュバックしてしまったようだ。
「ち…違う…あたし……あたしはそんなつもりじゃ……!!」
怖くなってテレビから離れていき、ベットの中に飛び込んでしまう。
杏子は正座したままテレビの前から動かない。
震えたままの彼女の口元から小さな声が響く。
「……父さん」
演説台の前で人々から罵倒され、それでも熱弁を振るい続ける尚紀の姿が重なって見えてくる。
佐倉杏子の父である佐倉牧師の姿と重ねていたようだ。
「尚紀の中で…生きててくれた…。あたしの父さんは……生きててくれたんだ…」
大好きだった家族の記憶と、風華の記憶、そして尚紀の記憶が交互に浮かんでいく。
幸せだった小学生時代を思い出した彼女の頬に雫が流れ落ちていった。
白い世界でテレビを見つめていた暁美ほむらも重い口を開いていく。
「……かつて私はこう言ったわ」
――悲しみと憎しみばかりを繰り返す、
──それでもかつて、この世界を守ろうとした人がいた。
「魔法少女として生きた頃の私は…この世界を救いようのないものだと…切り捨てたわ」
「魔獣と戦うことで人々を救いはしたが…魔獣が生まれる原因とは向き合わなかったのぉ」
「魔法少女なんかに政治や社会を変える力なんてない…。だから諦めてしまっていた…」
「あの男はお前さんが切り捨てたものと戦っているというわけじゃな」
「…しょうがないじゃない。私達はどこまでいっても…世間知らずな子供でしかないのだし」
「しょうがないで済まさなかったのが嘉嶋尚紀と名乗る人修羅の生き方なのじゃろうのぉ」
「個人のために戦う私と、全体のために戦う人修羅。似ているようで…違う存在ね」
「人修羅と呼ばれる存在を語った書物の中ではこう記されておる。世界に変革をもたらす者と」
世界に変革をもたらす者。
その姿は鹿目まどかの理不尽な運命を変えようと足掻いたほむらの姿とも重なってくる。
「もう1人の人修羅とも言えるお前さんは変革した銀の庭宇宙を…どこまで守れる?」
「むろん…私が死ぬまでよ。それと、私の事を人修羅って呼ばないでと言ったでしょ?」
「やれやれ…女子はもっと可愛らしい悪魔名で呼ばれたいようじゃな」
……………。
尚紀のテレビ演説をもっとも聞き入っている神浜の東住民がいる。
その人物達とは八雲みたまと八雲みかげであった。
「尚紀さん…尚紀さん…あぁ……あぁぁぁぁ~~……ッッ!!!」
嬉し過ぎて泣きじゃくる姉のために涙を流しながらも妹はハンカチを渡してくれる。
姉の嗚咽が止まるまで待ち、尚紀の演説を聞いていて気が付いた事を語ってくれた。
「姉ちゃは…前に言ったことがあるよね?魔法少女の希望は…絶望で差し引きゼロになるって」
「グスッ…ヒック……言ったわ…。それが…どうかしたの?」
「だったらさ…姉ちゃのように世界を呪った魔法少女は…どうやって差し引きゼロになるの?」
「えっ…?そ、それは……」
「ミィね…尚紀お兄ちゃんの演説を聞いて…ようやく分かった気がする」
――姉ちゃの絶望はね、
涙で充血したみたまの両目が見開いていく。
「尚紀さんが…世界を呪った私たち調整屋の……希望?」
みかげから語られた逆転の発想を見届けるために姉のみたまは再びテレビに視線を向ける。
妹が語った発想を成し遂げられる者なのかを見極める必要があるのだろう。
テレビに映る尚紀の熱弁は激しさを増していった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ステージ上で照らされる尚紀の姿を撮影し続けるメディア群。
その後ろ側に隠れるようにして立つのはスーツ姿の瑠偉とリリスの姿である。
「フッ…実に愉快な姿だな、人修羅。今のお前の姿はまるで
「
不気味な笑みを浮かべた瑠偉が尚紀の背後に映った6枚翼の人影を見つめながらこう口にする。
「啓蒙神として…
瑠偉の期待を一身に背負う男は尚も演説を続けていく。
「我々は!!正義だの悪だのといった、二元論的概念から解脱しなければならない!!」
――万物の陰陽とは、陰と陽の二元論だけで捉えるべきではない!!
――根源の太極を合わせた…
万物を司る宇宙を表すのはカバラで伝わる生命の樹と呼ばれしセフィロトである。
十個の球体セフィラこそが世界の在り様を記しているのだ。
セフィラとは2本の柱ではなく、
宇宙の時間でさえ過去・現在・未来という3本柱。
生命である男と女だけでなく、子供という3本柱。
争い合う者達だけでなく、赦す者も加える3本柱。
三位一体的視点は偏りがなくなるので
「我らに必要なのは怒りと悲しみだけではない!!そこに愛を加えた三位一体が必要だ!!」
――我らに見えている景色は、エゴという見えない影で覆われる、偏った世界に過ぎない!!
――愛だけが、敵を友人に変えられる唯一の力だ!!
「人は個人的な狭い関心事を越え、人類全体に関わる広い関心事に向かうべきだ!!」
ざわつきの声さえもはや上がらない。
被害者である西側住民の心は怒りや悲しみというエゴを忘れることが出来ている。
それほどまでに尚紀の熱意が西側住民達の心に言霊として響いてくるからだ。
「俺には夢がある!!いつか人が…運命に支配されない世界にたどり着きたいという夢が!!」
――相争うだけが人類の運命などではない!!
――互いが手を取り合う
周囲で黙っていた住民達の口から今までのことを振り返る小さな言葉が呟かれていく。
「お…俺は、みんなが東の奴らはクソだって言うから…そうだって…調べもしないで…」
「爺さんや婆さん達…それに親父や御袋から聞かされてきただけで…俺が考えたわけじゃ…」
「水名の名家連中がそうだって言うから…合わせておけば得するし…逆らえば損するし…」
「歴史の授業で東側は西側を苦しめたと習っただけだった…歴史の内容が全てだと思ってた…」
「周りが怖かったんだ…周囲に合わせないと生きていけないぐらいに…日本は同調社会だった…」
責任逃れのようにも聞こえるが、それでも今までを振り返ることなどしてこなかった西側住民。
その機会を尚紀の熱意が与えてくれたのだ。
「最大の悲劇は!!悪人による圧政や暴力ではない!!
――直面する問題に対して沈黙しようと決めた時、我々は
「だからこそ俺はもう黙ってはいない!!俺は余所者だが…今はこの街の平等を望む者だ!!」
――だが、それだけでは足りない!!
「えっ……?」
「地域だけが良ければそれでいいでは、自分達が良ければそれでいい理屈!!平等ではない!!」
――我々は地球市民として、全ての差別と闘わなければならない!!
「尚紀…さん……?」
演説を聞いていた常盤ななかが感じた違和感が確信へと変わっていく。
「我ら人類!!我ら兄弟姉妹!!地球人として、全ての国々が和(環)を築き上げるべきだ!!」
――その時こそ誕生するだろう…世界が
――我らは世界市民であり地球人!!世界のために、苦楽を共に背負わなければならない!!
彼が叫んだのはフリーメイソン理念でありイルミナティ理念でもある。
共産主義であり、イデオロギーの自由を認めないグローバルスタンダード(国際基準)なのだ。
「モントルー宣言の世界連邦6原則に従い、我ら一丸となりて!人類皆平等のために尽くす!!」
「ななかさん…尚紀さんは…何を言って…」
「…そういうことだったのですね」
「えっ…?どういうことなんですか…ななかさん?」
「尚紀さん…貴方という人は……あまりにも
賞賛の表情から一転、ななかの表情は尚紀に対して恐怖を感じる表情となった。
「我らは二元論を超え、新たなる概念に辿り着くだろう!!それこそが三位一体世界だ!!」
彼が用いているのはヘーゲルの弁証法と呼ばれる手口。
テーゼとアンチテーゼを合体させて生み出す三つ目の概念、ジンテーゼを生み出す弁証法だ。
このヘーゲル弁証法の恐ろしさや不備に気づく者達は少ない。
「我らは神浜だけでなく世界の差別と闘う者となる!!それこそが…俺が皆に語る啓蒙精神!!」
両手を広げていき、大ホール内にいる皆に向けて尚紀は宣言した。
「人類は誓うべきだ!善悪で生まれる差別を撤廃し!自由を叫ぶ宣言を今日行うべきなんだ!!」
――それこそが俺が代表して叫ぶ……
……………。
静まり返る大ホール内。
彼が掲げた理想の世界を住民達は上手くイメージすることが出来なかったようだ。
たが、遠くから拍手の音が聞こえてくる。
拍手をしていたのは瑠偉とリリス。
日本メディアや欧米メディアの者達も全員拍手を始めていく。
拍手の音に流されていくかのようにして西側住民達まで拍手を始めてしまう。
気が付けば響き渡る拍手の音で大ホール内は埋め尽くされていった。
「ハァ…ハァ…ハァ……」
演説を終えた尚紀が息を切らせながらもステージ上から下りてくる。
大ホール内の全体照明が灯されていく中を素通りして彼はホール内から姿を消していく。
神や魔王と戦うよりも神経と精神を擦り減らした戦いを終えた尚紀は休息を必要としていた。
……………。
外に出て来た彼は目立たない場所にあった喫煙場でミネラルウォーターを飲んでいる。
「……俺は、なんて理屈を振りかざしちまったんだよ…」
まだ震える手でポケットから煙草を取り出し、右手の人差し指と中指で火を灯す。
紫煙を燻らせる左手だが煙草を挟んだ左手は震え続けていた。
「……尚紀さん」
横を見ればななかとかこが立っている。
「…よく俺がここに来ると分かったな?」
「…なんとなくです。それよりも……言いたい事があるんです」
「俺が出した宿題の答えが…分かったような顔つきだな?」
「はい…。貴方が用いた詐術とは……」
――
――――――――――――――――――――――――――――――――
予定が狂ったことによりアパルトヘイト条例の意見陳述会議は日を改めると助役は語る。
意見陳述会議は解散となり、住民達が大勢ホール内から出て行く光景が続く。
壁際にいた瑠偉とリリスは不気味な笑みを浮かべながら住民達を見つめていた。
「かつて…すり替えを最も得意とした民族がいた。それこそがヘブライであり、ユダヤだ」
「ユダヤにすり替えられ、貶められた神こそが…バアル神であるモロク様です」
嵐と慈雨の豊穣神でもあるバアルは、バアル・ゼブル(崇高なるバアル)と呼ばれてきた。
それをすり替えベルゼブブ(糞山の王)として語り継ぎ、本来の存在を
「そして生まれた悪魔概念こそが太古の昔から私の副官を務める蠅王…ベルゼブブだ」
「異教文化を破壊する手口こそが、すり替え行為。ユダヤはあらゆる概念をすり替えてきました」
「彼らは詐術の天才だ。支配者として君臨していたら、いつの間にか可哀相な被害者に
ワイマール共和国頃の腐敗極めたドイツを生み出し、いつの間にかホロコースト犠牲者となる。
責め立てられる者がいつの間にか同情され、ユダヤを攻撃する者こそが悪とされた歴史を語った。
「演説していた彼の行いもまた、すり替え行為でしたわね」
西側の責め立てる者達がいつの間にか
かつてユダヤと戦った者達と同じ末路がこの場でも生まれているのだと2人は語ってくれる。
「彼らは毎日新しい嘘を生み出し、敵は次から次へと反論しなければならなくなりますわ」
「その結果、本来の目的であった攻撃をする余裕が全て無くなってしまうというわけさ」
糾弾される者がいつの間にか糾弾する側にすり替わり、金切り声で裁判に引っ張り出す。
過去にユダヤに立ち向かったあらゆる人物や運動は常にこの結末で終わらされていた。
「差別は本当に便利な概念ですわ。正当な主張さえ
「人修羅が語った美談に騙され、あの男がもたらした最悪の詐術を誰もが鵜呑みにしたのだ」
「彼の働きを無駄にするわけにはいきませんね」
「勿論、そのための準備でもあったのだから」
瑠偉は後片付けをしている各国のメディアに視線を向ける。
「人修羅…お前が語った理想を私が成し遂げよう。お前の理想をグローバルスタンダードにする」
「神浜に起きてきた差別の歴史は消えますわ。そしてこれからは
「移民の時代となる。移民を平等に扱わないのは差別主義者として糾弾されるのだ」
「それによって、移民はあらゆる権利を手に入れることが出来る。そして
「イスラム移民を入れ込んだEUと同じく、移民に逆らう事は警官であっても許されなくなる」
「神浜や全国の犯罪率は激増するでしょうね。どれだけの少女達が
「フフッ、異民族を支配するやり方はいつだって…民族の雑種化を促すためのレイプだからな」
「それでは後の事は私が勤めますわ、閣下」
「よろしく頼むよ、リリス」
踵を返して瑠偉と呼ばれる女性を演じるルシファーは去っていく。
「人修羅…お前はハルマゲドン後の世界皇帝となり、世界に和(環)を築く支配者となる」
――お前こそが、
――国家を解体してローマを築く…
サイファーとは英語で暗号、文語では0の意味もある。
HIPHOPでは皆で輪になるという意味合いもあった。
サイファーという暗号をこう考えることも出来ないだろうか?
0→輪→和→円→環とも考えられる。
かつて佐倉牧師はこんな言葉を残す。
――この救いの環を、多くの人々にも円のように繋げていかなければならない!
――これこそが、希望を繋いでいく円環の世界!!
みんな手を取り合って円環を築く。
それによって何が起きるのだろうか?
それは
余所者が流れ込んできても迎え入れろ、何をされても差別してはならない。
みんなが手を取り合って
博愛や道徳という他人を思いやる優しい思想は、こんなにも国家破壊に繋がってしまう。
世界は博愛や平等、道徳によって破壊しつくされるだろう。
破壊され尽くした果てに辿り着く世界連邦と世界市民への道しか残らない。
人修羅が語った三位一体。
それはトライアングルともなり、イルミナティのピラミッドにもなる。
三位一体世界の支配者とは誰のことなのだろうか?
イルミナティに所属する者達は人修羅である尚紀のことをこう表現する。
神皇陛下だと。
2019年12月12日。
世界に向けて啓蒙神の光が届けられることになった日。
全ての数字を足せば36であり、唯一神を表す三位一体を意味する日。
36の数字を全て足していけば獣の数字666ともなる日。
世界から差別を表す概念が憎まれ、滅ぼされていくことになるだろう
それと同時にこうも語られるだろう。
神浜の差別の歴史を終わらせることになるだろう存在。
彼が世界にもたらしたのは神の慈悲か?
それとも悪魔の笛か?
それを決められるのは嘉嶋尚紀の詐術に気が付いた者達だけであった。
これにて、神浜問題は一応のケリを自分の中でつけられました。
しかし…人修羅君は相変わらずルシファー閣下の尻の下に敷かれる赤いペットで終わりましたね(汗)