人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
国家統治の基礎は権威(神・宗教)が権力(政治)の上にあって権力の暴走を抑える仕組みだ。
日本では天皇・神道、欧米ではキリスト教、イスラムでは預言者の代理人を務めたカリフ。
これらによって将軍・皇帝・スルターン等の政治勢力の暴走を抑止する働きを成した。
啓蒙神として、イルミナティの宗教権威としてサタンと呼ばれし神は啓示を行った。
神浜人権宣言は世界中のメディアによって広く拡散されていくことになったのだ。
日本全国、欧米、アジアや中東、世界中のメディアが神浜人権宣言を画一的に報道する。
国連さえも動き、神浜人権宣言はグローバルスタンダードにするべきだと賞賛を露にした。
総理大臣官邸で記者たちの質問に答える八重樫総理大臣は言葉を残す。
「神浜で暮らす一市民が叫んだ人権宣言こそが民主主義の根幹だ。賞賛に値する」
「総理を含めた国会議員の多くが世界連邦運動の日本国会委員会に所属してますね」
「その通り。我らは国家を超えた世界市民として苦楽を共にし、差別と戦わねばならん」
「ネトウヨ等を代表する日本の極右勢力は移民に差別的ですが…その件については?」
「恥ずべき存在だ。移民達も一人の人間として扱い、同じ権利を与えられるべきなのだ」
「では、これからの日本は移民国家としての未来を築き上げるべきなのでしょうか?」
「RCEP(東アジア地域の包括的経済連携)によって数百万人の移民が日本で暮らすだろう」
「彼らの人権のためにも、神浜人権宣言は尊重されるべきだと総理は仰られるというのですね」
「日本人の人口減少は止まらない。その穴を埋めてくれるのが移民達なのだよ」
「これからの移民国家日本のために国会は法整備を進めていくわけでしょうか?」
「日本人という概念こそ、もはや差別的だ。我々は世界市民として、和の世界を目指していこう」
移民を受け入れて成功した国など存在しない。
21世紀のヨーロッパ移民問題などこの世の地獄だ。
殺傷事件・トラック突撃事件・銃撃事件・爆弾テロ・性的暴行等々…。
経済的状況の改善を求めて他の国に移住することは合理的な選択とは言えないのだ。
なぜ経済移民は渡航前に望んだ生活が出来ないのか?
それはそもそも、ヨーロッパに移民を受け入れる経済的余裕などないからである。
先進国最下位となり、後進国化待ったなしの日本でさえ同じ条件であった。
それでも移民国家推進を推し進めるのは、もはや売国政策である。
ユダヤ人であり、アメリカの政治学者のズビグネフ・ブレジンスキーはこんな言葉を残す。
――毎年500万人の移民を日本は受け入れるべきだ。
――日本政府は移民政策推進による、日本民族の雑種化を促すべきだ。
――日本をグローバル市場に取り込む為に、日本を多民族国家にするべきだ。
目的は日本の富を外資が奪うためである。
国連、世界銀行(IMF)、世界貿易機関(WTO)等はもはや、ユダヤの為のグローバル推進機関。
神浜人権宣言を聞き届けたルシファーはこう語る。
――移民の時代となる。
――移民を平等に扱わないのは差別主義者として糾弾されるのだ。
移民が人権を手にし、平等に扱われたら何を求めるのだろう?
それは人権侵害救済法案、外国人参政権、外国人住民基本法。
嘉嶋尚紀が叫んだ天賦人権論・自然権に沿った法案と言える。
外国人参政権を認めればウクライナのクリミア半島と同じく国土が外国のものとなる。
これで日本は滅びることになるだろう。
これこそが、美しき博愛と平等、道徳によってもたらされる国家の破壊光景。
移民と呼ばれる存在によって国を内側から滅ぼされていくのだ。
それを最も喜ぶ連中とは誰だ?
それは国無き流浪の民と呼ばれし者達であるユダヤである。
そのユダヤの内側に入り込み、シオニズムを撒き散らす者達なのだ。
シオニズム運動の父であり、 イスラエル建国の最大の貢献者であるテオドールは言葉を残す。
――ユダヤ人の逆境を、これからさらに酷くする必要がある。
――それは、我らの目的をより達成しやすくしてくれる。
――良い提案がある。
――私はこれから、ユダヤ人差別主義者達にユダヤ人の財産を取り上げるようそそのかす計画だ。
――ユダヤ人差別主義者達は、ユダヤ人が虐げられて迫害されているという事実を強化してくれることになる。
――ユダヤ人差別主義者達は、
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尚紀の演説をテレビで見ていたのは神浜の人々や見滝原の人々だけではない。
神浜の郊外で暮らすアリナ達もまた彼の勇士を見届けていたようだ。
アリナが暮らすペントハウスの巨大リビングでは大型テレビを視聴する者達の姿があった。
「うああああぁぁぁ────……ッッ!!!!!」
テレビ前で泣き崩れてしまったのは吸血鬼にされた十七夜である。
リビングソファーで座るアリナは泣く程にまで叫ぶ者を見物しながら呆れた表情を浮かべてくる。
「この人物が…グスッ…ヒック…フリーメイソンの…あぁ……イルミナティの神か!!」
「アリナが言った通りだったでしょ?アナタや調整屋の理想を叶えてくれるって」
「メシア様だ……人修羅様は…サタン様は……神浜の東を救ってくれるッッ!!」
「アナタが殺戮を続ける必要はなかったワケ。もっとも、屑は死んで当然だと思うケド」
「恥ずかしい…。暴力や…恐怖心という弱点を突くしか…世直し出来ないと思っていた…」
「アナタ、この場に立って同じことが出来る?アリナでさえ無理なワケ」
「出来るわけない…。これ程までの演説が出来る魔法少女なんて…見たこともないぞ…」
「アレがゴッドの権威なワケ。政治という権力を止められる存在こそが、ゴッドなんだヨネ」
「人修羅様のお言葉の一つ一つが…胸の奥底にまで響く…。これが…神の権威なのだな…」
「神格化出来る程の存在って、本当にいるってワケ。アレが本物の博愛メシアなんですケド」
「自分は…この御方に死ぬまでついて行きたい…。イルミナティの神になられるべきだ…」
「フフッ♪アナタも崇める気になったワケ?アリナ達は全員崇めてるんだヨネ」
「あぁ…神様……。博愛と平等…そして……自由の神様ッッ!!」
十七夜は蹲ったまま平伏し、両手を握るように合わせて祈りを捧げてしまう。
これ程までに人々の心を支配出来てしまう神々しくも恐ろしき存在。
それこそが神と呼ばれる権威であった。
祈りを捧げる十七夜の姿を見つめていたアリナの脳裏に、かつて言われた言葉が過る。
あの時に頼られた彼女は悪い気持ちにはならなかった。
アリナが席を立ち上がり、リビングの奥に見える大きなキッチンに向かう。
長い机の上に飾られるようにして置かれたフルーツバスケットの中から林檎を一つとる。
「ねぇ、リンゴ食べる?」
突然アリナからリンゴを食べるかと聞かれ、祈りをやめて怪訝な表情を浮かべてくる。
「今はいい…感動と興奮で胸がいっぱいなんだ…。それより、どうして今…リンゴなんだ?」
「あっそ。いらないならアリナが食べるカラ」
リンゴを齧りながらもテレビ画面に視線を向ける。
そんなアリナがこの場に相応しくない言葉を語りだすのだ。
「…ねぇ、アレが本当に救済に繋がると…本気で思うワケ?」
「突然何を言い出すんだ?彼は東の人々を本気で救済しようと叫んでくれたんだぞ?」
「たしかに、カミハマシティの東は救われると思う。でもさ…それだけだとはアリナは思えない」
「変なことを言い出すのだな…?自分には君の理屈はよく分からないのだが…?」
「だからこそリンゴを勧めたんだけど…いらないって言うならアリナが食べちゃうね」
ポケットのスマホが鳴り響き、アリナは片手で通話を行う。
「用事が出来たからアリナ出かけてくるね。ディナーは先に食べててくれていいカラ」
「いや、君が帰ってくるまで夕飯は我慢しておこう。帰る頃に連絡してもらえたら用意する」
「オーケー。分かった」
「…これからの自分は独断専行しない。ユダさんの指示に従って行動させてもらうよ」
「りょーかい。それもユダに伝えておいてあげるカラ」
ペントハウスから地上に下りるエレベーターに入り込む。
下に向けて移動していくエレベーター内でアリナは本音を語るのだ。
「知恵がなければ、あの演説内容がどれほどのクレイジーな事態になるのか…理解出来ないヨネ」
林檎とは聖書において禁断の果実と呼ばれ、善悪の知識の木の果実を指す。
善悪を知る知恵がなければサタンの詐術には気が付けないという意味で林檎を勧めたようだ。
「唯一神に従順だったアダムとエヴァは、知恵を食べることで呪縛から解放されたワケ」
食べる前のアダムとエヴァは知恵もない動物のような存在であった。
それらを導く唯一神はさながら、羊の群れを飼いならす支配者として君臨する牧師であろう。
「知恵がなければ…アナタも騙されるだけの眠る羊に過ぎないんですケド」
――和泉十七夜…アナタも
シープルとは英語で羊と人々を掛け合わせた混成語だ。
群集動物である羊のような人々という意味であり、洗脳された愚か者だと非難する言葉であった。
地上に下りたアリナは回廊のような通路を歩いていく。
「カミハマシティは、サタンが描くペンタグラムで蹂躙される。差別主義者達は全員封印される」
世界そのものもラブ&ピースという封印が成される。
国を乗っ取りたい移民達の大勝利なのだと彼女は神浜人権宣言の正体を語ってくれたのだ。
回廊にあったゴミ箱に林檎の残りカスを捨て、地上で待たせていた車の中に乗り込む。
車の中でアリナは聖書の一節を口に出すのであった。
マタイ福音書第7章15節。
――にせ預言者を警戒せよ。
――彼らは、羊の衣を着てあなたがたのところに来るが、その内側は強欲なおおかみである。
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あの日から一週間をかけて全国のお茶の間には神浜人権宣言の内容がニュースで流れ続ける。
キング牧師の再来として神浜人権宣言はマスコミを通してテレビに届けられていくのだ。
日本メディアの恐ろしいまでの画一化された報道は世界中から
各大手新聞やテレビ局の無差別的な、情に訴える激しいまでの報道手法が問題視されてきた。
日本国内がある時期にはある話題で持ち切りになるといった状況が繰り返されてきたのだ。
その光景はまるで
「なんで…なんでこんなくだらねぇニュースばっか流れるんだよ…?」
苦虫を嚙み潰したようにしてテレビを見るのは神浜在住の西側差別主義者達である。
専門家たちの答弁に対し、苛立ちを募らせているようだ。
「神浜市で行われてきたヘイト問題は前に向かう人々を無理やり後ろに向かせてきた行為です」
「死ぬまで神浜の歴史に向き合わせて、憎悪をもたらしてきたということでしょうか?」
「これはセカンドレイプです。歴史に苦しみ、それでも前に進みたい人々を歴史が殺してきた」
「それによってもたらされたのが、あの神浜左翼テロだったというわけでしょうか?」
「これからの神浜市は人権の街となるべきでしょう。世界のグローバルモデルとなって欲しい」
権威ある専門家の意見に対し、苛立ちが限界を超える。
「ふざけんなぁ!!」
リモコンをテレビにぶつける差別主義者が荒々しい醜態を晒してしまう。
「くそ…専門家のお偉方共は…前までは東のテロリスト共を非難してたろ!!この二枚舌め!!」
こんな光景は他でも見かけていく事になる。
「なんだよ…これ!?神浜人権宣言を糞だって書き込んだら…炎上してやがるじゃねーか!?」
SNSのニュースに対し、批判的意見を投稿した彼だが袋叩きにされるリプで溢れかえっている。
「お前らだって!前までは東のテロリスト共はクソだって書き込んでたろ!!風見鶏共めぇ!!」
彼はスマホを壁に投げつけ壊してしまった。
これが情報娯楽だけを求める全国の民衆の姿なのだ。
ニュース内容など深く考えず、その場の勢いだけで物事を決めてしまう浅慮過ぎる者達。
さながらその光景はストレス発散としてスケープゴートを求める卑屈さが滲み出た光景だった。
日本人が民主主義ではなく、
「不味いよ…これ。会社でも東側の差別を禁止する就業規則を行政官庁に提出するつもりだ!」
「なんでだよ…?社長だって東側の連中を差別してたのに…なんで掌返しするんだよ!?」
西側で働く差別主義者達の顔色にも困惑が浮かんでいく。
「周りの連中を見ろよ…?テレビの人権問題ばかり語ってやがるぞ…?」
「仕方ないだろ…。会社の同僚の話題なんて…皆と共有出来るテレビの話題ばっかじゃねーか…」
「こんな空気にされたんじゃ…もう東側の連中を馬鹿に出来ねーじゃねーかよ…」
「日本って…こんなにも酷い同調圧力社会だったのか……」
御上がこういえば、民衆はへぇ…と言って従う光景である。
まさに卑屈さが滲み出た日本人達の姿なのだ。
尚紀が言った通り、日本人は個人であることよりも全体を優先してしまう民族のようであった。
「ちょっとあんた!!東の子供に物を売らないってどういう理屈よ!!」
「五月蠅い!俺の妻はあのテロで暴徒達に襲われて大怪我をしたんだ!!」
「それがこの子と関係ある!?この子が可哀相でしょ!?それでもあんた、人間なの!!」
「喧しい!!お前らだって…前までは東の連中を嘲笑ってきただろうが!?」
「今はもうそんな時代じゃないでしょ!あんた
「テレビテレビ…!なんでお前らは…テレビが言う理屈だけしか見ないんだよーッッ!!?」
全体が優先されれば、おかしい!どうして?と発言しただけで白い目で見られて孤立していく。
究極の選択社会。
上の言うことを聞くのか、聞かずに去っていくかを選べと突き付けられる光景だ。
下にされた人間達にはもはや逆らう余力はなくなってしまう。
「しょうがないよな…御上に言われたんだし…我慢していくしかねーよ…」
諦めて我慢する道を選んでいく西側の差別主義者達が続出していく。
人は我慢をし続けていると、それが我慢だということを忘れてしまうように出来ている。
慣れとも呼ばれ、色々なことが鈍感となり自分が苦しんでいることさえ分からなくなっていく。
それによって日本の民衆達は国に蔑ろにされてきても潰されていくのだ。
<<分断はよくない!!>>
<<水名でふんぞり返ってた名家連中の思う壺だ!!>>
<<我々は人間としての尊厳を重視する!!>>
似非融和主義を掲げ、東側を差別するアパルトヘイト条例に反対する大勢の西側民衆達。
それが本当に正しいのか、住民達で集まり意見を出し合う
「お前ら恥ずかしくないのかよ!?少し前まで西側で東連中を笑ってやがったのに!!」
野次を飛ばしてくる西側住民に対し、大規模な怒号が巻き起こっていく。
<<分断主義者だ!!>>
<<人間の尊厳を踏み躙る屑め!!>>
「今までのことを棚に上げて融和主義かよ!!この東の回し者共め!!!」
<<差別反対!!我々は団結する!!!>>
<<差別主義者はーーこの街から出ていけーーーッッ!!!>>
<<出ていけーーッッ!!出ていけーーッッ!!!>>
勢いに圧倒され、西側の差別主義者達は蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。
「何なんだよコレ…?批判にすら耳を傾けないのかよーッッ!!?」
違う意見のぶつかり合い=分断だと勝手に決めつけ、
その光景はさながら批判をした身内信者を袋叩きにするカルト宗教団体だろう。
「助役……」
市庁舎ビルが西側民衆に包囲された光景を見つめる助役に対し、不安を抱える部下の声が響く。
「……もはやこれまでだ。アパルトヘイト条例は市議会も廃案にするしかなくなるだろうな…」
市議会さえアパルトヘイト条例の施行は不可能だと断念せざるを得ないまでに追い込まれた。
……………。
「…これがメディアの力だ」
出かけている尚紀と丈二の代わりに留守番を事務所でしている瑠偉はテレビを見ながらこう語る。
「上手なプロパガンダのコツとは…誰も反対しない、誰もが賛成する
誰もその言葉の意味なんて考えない、そもそも何の意味もなかったりする。
誰も反対できないし何の意味もない言葉でも雰囲気作りは確実に成功する。
「そうやって民衆はメディアによって流されていくだけの羊達へと化けていくのだよ」
これを最も実績したのがヒトラーであり、各国の独裁国家も続いていくのだ。
「日本は民主主義ではない。民主主義とは、個が確立した成員が多数であって初めて機能する」
――ヒトラーの宣伝手法は、未熟な民主主義に対する
「実に滑稽なピエロ共だよ…シープル」
西の差別主義者という悪のお陰で、いよいよ差別の歴史から東の人々は解放されようとしていく。
その光景はまさにシオニズムの父が残した言葉通りの光景であった。
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12月13日。
朝の日課を済ませた後、尚紀は事務所に出勤するためにクリスに乗って移動を開始。
「ダーリンダーリン!ラジオでダーリンのことをニュースにしてたわよ!」
「そういやお前、暇してる時は車のラジオをつけてるんだったか」
「キング牧師の再来ですって!懐かしい名前ね~アタシがアメリカにいた頃の人よ」
「大げさに呼びやがって…」
「それにしてもさぁ、この国もアメリカに劣らず独裁的な画一化ニュースよねぇ」
「原因は
「ゲ~?それさえも放置されっぱなしなわけ?終わってるわねー日本って」
「普通なら無線局免許を剥奪処分されてなきゃおかしいぐらいだ。日本の大手メディア共はな」
「投資家共の傀儡か~。どうりでこの国のメディアもアメリカと変わらないと思ったわ~」
「表現の自由・言論の自由の剥奪だ。情報選択の自由なくして、民主主義メディアはありえない」
無駄話をしていたら事務所に到着。
車から降り、二階事務所に入っていく。
「おおっ!!英雄様のご登場だぞ!!」
拍手で出迎えてくれたのは丈二と瑠偉であり、尚紀は面食らった顔を浮かべてしまう。
「テレビ見たわよ~尚紀♪バッチリ決めちゃってくれて~♪」
「お前の叫びは東住民達の魂の叫びだったよ!お前のような職員を持てて俺も鼻が高いぜ~♪」
「…よしてくれ。俺は英雄でもなんでもねーよ」
「謙遜すんな!東の人は大喜びしてたんだぞ?大東の団地街が喜びの叫びで包まれるぐらいにな」
「言うべきことを言ってきただけだ。感謝されたとしても…差別条例を止めれるかは分からない」
「そんなことないわ。全国のメディアが貴方の人権宣言を取り上げてる。世論が一気に傾くわ」
「総理大臣が賞賛するぐらいだもんなぁ。御上に逆らえない体質の日本人には効果抜群だぜ」
「暫くは人権宣言をメディアが持ち上げ続けてくれると思う。そうなれば嫌でも世論が味方する」
「ふん。ナチスのラジオや、大日本帝国大本営放送に振り回されてた頃と何も変わらねーな」
「そう言うな。この勢いなら神浜市の悪名でもたらされた流出現象にも歯止めが効く」
「全国から支援の輪だって期待出来る。貴方が行った行為は神浜にとっては英雄的行為なのよ」
(…道化を演じた甲斐もあったというわけか。だが、しかし……)
「本来なら、今日は仕事をキャンセルして飲み明かしたい気分だが…こんな日でも依頼はくる」
「所在調査の依頼よ。西側で家を焼かれた一家の子供が家出をして行方不明だそうよ」
「テロの傷跡は未だに根深い。差別問題が解決しようが…この街が荒れることには変わりない」
「探偵事務所は今日も平常運転。今の俺にはそれぐらいが丁度いいんだが…」
「どうかしたのか?」
「…これだけメディアに顔を晒したんだ。街行く人達からちょっかいかけられないかとな…」
「有名人は辛いね~」
「聞き込み捜査なんだが、帽子とサングラスを身に着けても構わないか?」
「んなこと許可出来るわけねーだろ」
「不審者扱いされて、誰からも聞き込み出来ないわよ」
「……だよな」
今日も聖探偵事務所の仕事が始まり、尚紀は現場に向かっていく。
依頼人から詳しい内容を聞き、街で聞き込み捜査をするため神浜の西側へと向かう。
「絞り込みが出来なかったな…。こうなりゃ、西から東へと捜査範囲を広げていくか」
捜査を進めていく中で彼は多くの人々から賞賛されていくだろう。
その中にはもちろん神浜の魔法少女達の姿が大勢いたのであった。
……………。
午後の時間まで捜査を行うが、案の定大勢から呼び止められて声をかけられていったようだ。
「予想はしていたが…ここまでとはな。だが、そのおかげで聞き込みが捗ったのは有難い」
神浜市立大附属学校方面にまで捜査範囲を広げていくと素っ頓狂な叫び声が聞こえてくる。
<<尚紀~~~っ!!!>>
「この喧しい声は……」
前方を見れば全力疾走で走ってくる鶴乃の姿が高速で接近中。
「見たよ見たよ見たよ~~!!テレビ見たよ~~~っ!!!」
彼女は躊躇いもなくジャンプ跳躍。
迎え撃つ尚紀は片足を後ろに下げて踏ん張る構えを見せるのだ。
「ぐっ!?」
彼は大型犬の全力疾走突撃を受けたような衝撃に襲われてしまう。
「お前…なんでいつもいつも抱き着いてくる…?」
「最高だったよ~尚紀の演説!!私ね…泣いちゃうぐらい感動したよ~っ!!!」
「重たいから下りろよ…」
「ほっ?尚紀は力持ちだと思ったけど…?それってもしかして…遠回しに太っただろ発言!?」
「…とにかく、抱き着いたままの状態から解放してくれ」
全体重をかけて両手両足で抱き着くものだから、胸の感触に困っているのだろう。
地面に下りた鶴乃は後ろから来ている人物達に目を向ける。
「みんな~!!神浜のヒーローはこっちだよ~~っ!!!」
視線を向ければ神浜市立大附属学校に通う魔法少女達が大勢詰めかけてくる。
七海やちよ・十咎ももこ・水波レナ・秋野かえで・夏目かこ・美凪ささら・五十鈴れんの姿だ。
「お前ら…よく俺がここいらをうろついてるって分かったな?」
「フフッ♪地域住民ネットワークを甘く見ない方がいいわ、尚紀。あなたはもう有名人なのよ」
「最高だったよ嘉嶋さん!!あんたは神浜を変えてくれた伝説の英雄だぁ!!」
「ふんっ!天狗にならないことね!レナだって…あれぐらい出来るわよ!」
「またまた~?超コミュ障のレナちゃんがあそこにいたら、傍聴席側でも逃げちゃうよ~?」
「うるさいわね、かえで!!でも…あんな酷いアウェイの場で、よくあれだけ吼えれたわね」
「バカでかい声を出すのには、それなりに自信があったんだよ」
「それにほら、レナちゃん!さゆさゆのことで感謝したいって言ってたの言わないと!」
「わ…分かってるわよ…」
「さゆさゆ…?」
「あんた…神浜のご当地アイドルやってた刀剣アイドルの史乃沙優希を知らないの!?」
「そういう意味だったのか。俺は音楽ジャンルで好きなのは…ポップじゃなくてロックなんだ」
「音楽ジャンルの好みは合わないアンタだけど…レナ、感謝してあげる」
「あの子のことで何かあったのか?たしかあの子は……」
「うん…アイドルを引退に追い込まれた日からSNS発信も止まってた。でも、更新があったの」
「なんて呟かれてたんだ?」
「昨日の夜にね、突然大手芸能事務所から電話があって…芸能界入りするのが決まったの」
「突然過ぎる…どうしてあのタイミングなんだよ?世間からバッシングされてたんだろ?」
「レナだって詳しいことは分からないけど…それでも、あのさゆさゆがビッグアイドルになる!」
「レナちゃんはね~、さゆさゆファンクラブ第一号だったのを自慢していくつもりだよ~♪」
「一番嬉しいのはね…さゆさゆがまたアイドルを続けてくれること。アンタのお陰だって思う」
話しの内容に対し、尚紀は怪訝な表情を浮かべてしまう。
(きな臭い話だな…。何かの狙いがあると考えるのが自然なぐらいだ…)
かえでの肘に押され、おどおどしながらもレナは片手を伸ばしてくる。
「…ありがとう。ちゃんと話したことなかったけど…レナ、アンタのことを誤解してたわ」
「水波レナだったか?俺の方こそ、あの時はお前の頭を玩具にしてすまなかったよ」
「レナでいいわよ。それにレナだって、アンタを串刺しにしたんだからおあいこよ」
「そうか…。口は悪いが根は素直な女のようだな」
2人は固い握手を交わしていたら、2人の両手に手を重ねるようにしてかえでも横に立つ。
「秋野かえでです!レナちゃんやももこちゃんの友達で…だから2人を救ってくれて嬉しい!」
「かえでか。植物を操る魔法を使えるとは変わった奴だな。前世は妖精だったのか?」
「かえでの前世が妖精なら!レナの前世は女神様よ!!」
「餓鬼の間違いだと思うけど~?」
「ああ、なるほど。腹の代わりに胸が出たのか。頼むからバックアタック奇襲はやめてくれ」
「何べん言わせるのよ!?レナは食い意地なんて張ってないから!!」
握手の手を離して怒り出すレナをももこが止め、かえでは尚紀と向き合う。
「私…自然が好きなんです。それに動物や虫だって好きなんですよ!猫と犬を飼ってます!」
「うちも飼っている。機会があればあいつら連れてくるから、行儀を仕込んでやってくれ」
「ええっ!?その子達…凄く気になる!機会がなくても私が遊びに行きますね!」
「やれやれ…想像しい連中ばかりがうちに来る。…お前にも酷いことをしたな、すまなかった」
「いいんです…もう気にしてませんから。こういう時、魔法少女やってて良かったって思います」
「誰もが回復魔法ぐらいは使える器用さを持っているもんな。悪魔でもそうはいかないのに」
視線を横に向ける。
近くに立っていたのは意見陳述の場にもいたささらの姿である。
「…お前はこれで納得出来たか?」
顔を俯けていた彼女だったが迷いを払うようにして顔を上げ、彼を見つめてくる。
「…私、騎士道を見失うところだった。弱者救済を掲げていたのに…東の人達を虐げようとした」
「勘違いは誰でも起こす。俺だって起こすし、お前だって起こす。間違いは修正していくもんさ」
「エゴの恐ろしさを痛感した…。自分が掲げていた理想との矛盾にさえ…エゴで気づけない」
「これからに活かせばいい。間違ってきた俺だからこそ…あの場に立ったんだ」
「フフッ♪尚紀さんって、騎士道の鏡なのかも?私も見習いたいな…将来は公務員になりたいし」
「…そうか。本来、公務員こそが社会主義者だ。国民に奉仕するために命を削る者達だからな」
「だからこそ、私はななか達と組んだのかもしれない。私も社会に奉仕する思想を信じるから」
「しっかりやれ。お前だってまだ若い、頑張り過ぎて…我慢を我慢だと思えないようにはなるな」
「ありがとう♪辛くなったら…フフッ♪尚紀さんに甘えに行こうかな~♪」
「勘弁してくれ…。俺はただでさえ毎日の日課の中にスポ根バカの明日香を抱えてるんだぞ」
「え~っ!?明日香と仲良くしてたんだ!ズルい…明日香に聞いて私も尚紀さんとスポ根する!」
(スポ根バカが…さらなるスポ根バカを呼んでくる……)
「あーっ!!秘密特訓の気配!ズルいズルい!私も参加するったらーっ!!」
「鶴乃ちゃんも参加する?」
「勿論だよーッッ!!由比家のためでなくてもいい…私は皆のために強くならないとだね!」
「「おーーっ!!!」」
(……もう、どうにでもしてくれ)
盛り上がってるスポ根娘達は置いておき、オドオドとしている人物に目を向ける。
「あ……あの……」
「お前は…文房具屋で会った時以来だな」
「は…はい…五十鈴れんです…。ご無沙汰してました……はい」
「あの時の騒動で救出されたはずの友達とは…上手くやっているか?」
「そ…それは……」
俯いて黙り込んでしまった彼女を見て彼は察した。
あれ程までの大規模テロ、そして東のテロに加わった大規模な魔法少女達。
西と東の戦火の中で命を落とし、円環に導かれたと判断するしかない。
「……すまない、聞くべきじゃなかったな」
「…いいえ、あの子は貴方に救われて…喜んでました…。そして、あの時の戦いも…」
「…自らの意思で戦場に赴き、納得した上で死んだか?」
「はい…。あれもまた…命の在り方なのだと…私と梨花ちゃんは…納得する努力をしてます」
「納得した上で死ぬ…か。お前はその子の死について…納得は出来ているか?」
「納得…してるとは思います…。でも…辛くて寂しい気持ちになると…納得出来なくなるかも…」
「そうだな…納得出来る答えなんて、そうそう見つからない。俺も生涯探していきそうだ」
「答えを探すのも…生きてるから出来る…。だから…命は尊いんだと…思います…はい」
空を見上げ、彼は風華のことを思い出していく。
「俺もな……かつて愛した人を亡くしたんだ」
「えっ……?」
「その子はな、戦わなくてもいいのに…自らの意思で戦場に赴き…命を落とした」
「そんな…まるで、私や梨花ちゃんの友達の死と…同じです。もしかして…魔法少女…?」
「その子は最後に……こんな言葉を残した」
──貴方のその力を…。
――私が守ろうとした…かけがえのない人達を守るために…。
――使って下さい。
「…誰かのために生き、誰かのために死んだ。あの子が己の死を納得出来たかは分からないが…」
――あの子の死に際の表情は…どこか安心しているような表情を浮かべて…死んでいった。
「あっ……」
れんは思い出す。
彼女の友達の死を看取ってくれた魔法少女が語ってくれた言葉を。
その子の死に際の表情は安心しているかのような表情を浮かべていたと語られていた。
「…意思を継いでくれる人がいる。だから自分の人生はムダではなかった…だから…」
「納得して…死んでいった……ですか?」
「俺は誓った。その子の意思を継ぐために約束を守り通すと。そして継がれた意思により…」
――彼女の願いが叶い…俺を通してその子の人生に意味があったのだと示す道。
「それが……俺の納得だと思う」
俯いて涙ぐんでいくれんの姿に彼は気がつく。
袖で涙を拭い、彼女も決意を秘めた瞳を向けてくる。
「私…こんなにも今……生きてて良かったと思えた日は…ありません」
「その子はお前や梨花に託してくれたんだ。自分の人生が無駄ではなかったと示せる人達がいる」
「継いでくれる人がいる…だから安心して……死ぬ……グスッ…ヒック…」
泣き出してしまった彼女を見て、かこが駆け寄ってきて慰めていく。
「かこ……」
尚紀に視線を向けてきた彼女は神浜を救ってくれた英雄を見ても何も語りはしない。
その表情も何処か不安な表情を浮かべていた。
「…れんを頼む」
しんみりしてしまった場から去っていく尚紀の後ろ姿をみんなが見送ってくれる。
誰も引き留めはしなかったが、やちよの横を通り過ぎようとした彼の足が止まる。
「……やちよ」
「えっ…?何かしら……?」
「お前は本当に俺のことを…神浜を救った英雄だと思うのか?」
「その通りだと思うけど…何かおかしいの?」
「かつてお前は長としてマキャベリズム治世を行った。それでもお前は…俺が正しいと思うか?」
「どういうことなの…?言ってる意味がよく分からないわ…」
「……そうか。邪魔したよ」
顔も向けないまま彼は今度こそ去っていく。
「どうしたんだろ…嘉嶋さん…?」
ももこが後ろ姿を見送っていたが、彼女は彼の背中を見ていてこう口にした。
「嘉嶋さんの後ろ姿…なんだか…苦しそう」
――アタシ達に褒めちぎられるのが…辛かったのかな…?
――――――――――――――――――――――――――――――――
参京区方面にも捜査範囲を広げたが、案の定魔法少女達から声をかけられる。
参京院教育学園に通う常盤ななか・志伸あきら・静海このは達姉妹が彼を賞賛していく。
適当に相槌を打つ彼であったが、ななかに視線を向ける。
「ななか…」
彼女はかこと同じ表情を浮かべ、手放しで絶賛するようなことはしてくれない。
彼女達と別れた尚紀は気疲れしたのか、かつて利用したことがあった純喫茶に入る。
「……いらっしゃいませ」
店番をしていたのはルミエール・ソサエティとビジネスを行っていた魔法少女である。
「喫煙席は?」
「…奥の席です」
「分かった。それと珈琲一つ」
「…分かりました」
奥の席に座り、暫くして持ち込まれた珈琲を飲みながら日が沈んだ夜の景色を見つめていく。
吸っていた煙草を灰皿に押し付けて消していた時、横に人の気配を感じた。
「…何か用事か?」
立っていたのは店番をしていた人物のようだ。
「…聞きたいことがあるの」
「見知らぬ男にか?」
「貴方はもう有名人でしょ?テレビを見させてもらったから…質問があるの」
「…言ってみろ」
「あの時のあなたの演説で、神浜の差別の歴史は終わるかもしれない。その件で聞きたいの」
「喜ばしい表情をしていないな?この街が救われるというのに…どこか他人事のようだな?」
「…私はこの街に特別な思い入れがあるわけじゃないの」
「そうか…。だとしたら、お前のような中庸の者なら俺の質問にも答えられるかもしれない」
「質問の答えを返してくれたら、私も答えを返す。貴方は街を救って…大勢から感謝されている」
――貴方はこの街を救った英雄として…強く居場所を感じられている?
重い沈黙が続く。
重い口を開いた彼の表情はどこか苦しそうであった。
「…感じられないな」
「どうして…?みんながあなたを賞賛するのに?」
「なぜ、そんな質問をするんだ?」
答えを返すと約束した彼女だが黙り込み、俯いてしまう。
「答えないのか?口約束に過ぎないが、約束を守らない店は金輪際利用するつもりはない」
俯いたまま彼女は重い口を開いてくれた。
「私は…自分の居場所を探してる者。どうやったら…自分の居場所を見つけられるのか探す者」
約束を果たし終えた彼女が踵を返し、帰っていこうとする。
そんな彼女の背中に向けて、尚紀はこんな言葉を送るのだ。
「…今の俺は、お前と同じだよ」
「えっ……?」
考えてもいなかった言葉が出てきたためか、慌てて彼の方に向き直る。
「周りから賞賛されようが…居場所なんて感じない。むしろ…針の筵に座らされてる気分だ」
「どうしてなの…?あれほどの偉業を成し遂げたのに…?」
「…お前の着ているその制服、参京院教育学園の学生か?」
「…うん」
「自分の居場所を探す者として、どんな学生生活を送っているのか大体は想像出来る」
「…想像している通りだと思う。私はごく普通の学生生活をしているけれど…」
「周りに合わせているだけで、心此処に在らずだろ?今の俺と全く同じだよ」
「分からない…あれほど周りの人々から求められる存在になったというのに…どうしてなの?」
「お前…
それを聞かれた彼女は俯いていく。
「俺も嘘をついている…。周りに合わせるだけで…両足でしっかり立っている気にならない」
「そこまで私と同じ気持ちだなんて…その気持ち…とても分かるわ」
重い沈黙が場に広がっていく。
珈琲の残りを飲み終えた彼がようやく重い口を開いてくれた。
「…英雄だの、悪者だの、クラスの人気者だの、厄介者だの、どうでもいい概念だ」
「えっ……?」
「人は善人である必要も、悪人である必要もない。人がその本性を受け入れるのが大切だ」
「どういう意味…?」
「人がその本性を引き受け、開き、生きていれば…どんな人間だって素晴らしく魅力的だ」
「…周りに合わせて、普通に生きる努力をしてきた私は…魅力のない者だと言いたいの?」
「本性を受け入れず、繕い、作り上げるなら何であれつまらない。だから今の俺も…価値はない」
「あっ……」
心の中に抱えていた何かが揺り動かされる。
「偽善、偽悪は等しくお粗末。本性さえ表してくれたら何でもいいんだ」
――俺は…
――どこかで見たような、聞いたような人間には興味は無い。
胸の高鳴りが抑えられず、彼女は手で胸を支えてしまう。
「自分の本性に目を向けろ。せっかく生まれてきたんだし…本当の自分と出会いたいだろ?」
――それこそが、誰のものでもない…
後ずさりしていく彼女だが、力が抜けたようにして両膝が崩れる。
両目は見開かれ、尚紀の姿が瞳の中に広がっていくようだ。
彼女はようやく見出せた。
自分が何故どこにも居場所を感じられなかったのかを。
同調圧力社会で生きるしかない日本人全員が抱えている心の問題の答え。
周囲に流されない
「わた…し…なんて…馬鹿だったの…。環境のせいにして…自分の居場所を勘違いしてた…」
「自分の内面に真剣に興味を持たない者は、他人や社会に問題を見出していく」
――そうして事の本質からは遠ざかり、遠ざかるほど苛立って焦っていく。
彼女の脳裏に浮かぶのは、家族との確執や学校生活、そして大好きだった人の夢。
周りにばかり振り回されて彼女は個を失っていた。
「
「私自身が…私の居場所を失わせてたのね…。どうりで何処にも…見出せないはずよ…」
「感情や気持ちは人生の羅針盤。気持ちが指し示す方向に向かうがいい。まだ見ぬ港が待ってる」
「私が私に正直であることこそが…私の居場所を…私自身が守ることに繋がる…?」
「今までのこだわりは捨てて自然体でいろ。まだ子供なのに、俺のようになっちまうぞ?」
言うべきことは言ったので立ち上がり、レジの方に向かう。
「清算したいんだが?」
「えっ…?あ、はい!」
慌ててレジの前に来て清算しようとするから打ち間違えてしまう。
「落ち着けって、急いでるわけじゃない」
「私…わたし…興奮し過ぎて…!見つけたかったものが…やっと見つかったから…!」
恥ずかしいのか嬉しいのか彼女は泣き出してしまう。
そんな彼女の姿を見ていて辛いのか、ポケットからハンカチを出して彼女に手渡す。
「グスッ…ヒック…ありがとう…ありがとう……嘉嶋尚紀さん…」
「お前…俺の事を知っていたのか…?」
右手のハンカチで涙を押さえつけ、左手を彼に見せる。
「そうか…お前も魔法少女なら業魔殿に行って悪魔の教育を受けてるはずだよな」
「貴方は悪魔なのに…私の居場所を救ってくれた。本当に悪魔なの?私には神様にしか見えない」
「神様扱いは勘弁してくれ…ケツが痒くなってくる」
「フフッ♪私の名前は保澄雫(ほずみしずく)です。よろしくね、嘉嶋さん♪」
「フッ…やっとお前に出会えた気がするよ。その調子でいけば…もう居場所を失わないさ」
「私…これからはもっと自分と向き合って、自分のことを勉強していきます!」
「勉強をするではなく経験が大事だ。知るではなく、やる。自分のやりたいことをやっていけ」
「はいっ!嘉嶋さんって…学校の先生よりも好きになれそう。貴方のこと…もっと知りたいです」
「俺は…自分の居場所を見失っているだけの……
純喫茶から出て来た尚紀は夜空を見上げる。
彼の脳裏にはかつての仲魔でありライバルとも言えたデビルハンターの姿が浮かんでいく。
「刹那主義であり快楽主義だった男…ダンテ。自分に正直に生きる者の見本のような男だった」
ダンテなら我の居場所の迷子になった者に何を言うのかを考え込んでしまう。
目を瞑り、かつての世界ボルテクス界の記憶の中に浸っていく。
あれはアマラ深界最深部に下りる決意をした時だった。
……………。
「この先に下りたらもう…俺は俺でなくなるかもしれない…」
そんな弱さを仲魔達に語った時、ダンテが言ってくれた言葉がある。
「迷うな、少年。先に行って何になろうが…少年は少年のまま生きればいいのさ」
「たとえそれが…完全なる悪魔になる道であったとしてもか…?」
「イカレた姿になって帰ってきて、仲魔達に見捨てられるのが怖いのか?」
「……そうだ」
「フッ…そんなんだから、お前はいつまでたっても周りが怖いだけのガキなのさ」
――お前の道を進め。
――
ダンテが残した言葉はフィレンツェ生まれの詩人・哲学者でもあったダンテと同じ言葉だ。
新しいことをしようとする時、人はもっともなことを言って、それを止めさせようとする。
しかし、直感が一番正しいのだ。
自分が進むべき道は、自分のリスクで、大胆に突き進むべきだ。
自分の直感に自信がないと、人の言うことに流され、自分の道を断念する時がある。
しかし後になって、あの時の自分の直感が正しかったと気づく、その時の後悔は最悪だ。
自分の直感を信じて、自分の道を敢然と進めという意味合いがあった。
「…そうだな。俺の道は俺が選んで進み、周りの連中なんて…勝手な事を言わせておくべきだな」
踵を返して探偵事務所へと帰っていくが、それでもその背中には迷いが残っている。
「ダンテ…お前は完全な悪魔になった俺を捨て身で止めてくれた。もっと早くに殺せた筈なのに」
周りにとっては間違いであったであろう選択さえ、ダンテは認めて背中を押してくれた。
最悪の脅威となろうとも、ダンテは彼の選択を認め、後悔させない道へと押し出してくれた。
「俺の最悪の選択によって、国が滅ぶかもしれない。それでも認めてくれる人がいないと…辛い」
――ダンテ……あんたがいなくて、寂しいよ。
彼の足取りは重い。
ペテンがバレて国賊だと罵られる日のことを考えれば考えるほど、彼の足取りは重くなっていく。
啓蒙神として彼は神浜市に平和をもたらしたのかもしれない。
それと同時に日本どころか世界さえも滅ぼすだろう和(環)をもたらしてしまう。
一時の喜びなど悪魔がもたらした偽りの平和に過ぎない。
もう一度責任の矢面に立たされる日を想像していく彼の肩は震えていった。
長くなるので二つに分けます。
人修羅君のモテ期到来ですが、本人は佐倉牧師の如く心がズタズタになっていってハーレムにはならない計算です。