人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

149 / 404
148話 偽りの平和

国家統治の基礎は神・宗教(権威)が政治(権力)の上にあって権力の暴走を抑える仕組みだ。

 

日本では天皇や神道、欧米ではキリスト教、イスラムでは預言者の代理人を務めたカリフ。

 

これらによって将軍や皇帝、スルターン等の政治勢力の暴走を抑止する働きを成したという。

 

啓蒙神として、イルミナティの宗教権威として、サタンと呼ばれし神は啓示を行ってくれる。

 

神浜人権宣言は世界中のメディアによって広く拡散されていく事になるだろう。

 

日本全国、欧米、アジアや中東、世界中のメディアが神浜人権宣言を画一的に報道する。

 

国連さえも動き、神浜人権宣言はグローバルスタンダードにするべきだと賞賛を露にする。

 

総理大臣官邸で記者達の質問に答える八重樫総理大臣はこんな言葉を残す。

 

「神浜で暮らす一市民が叫んだ人権宣言こそが民主主義の根幹だ。賞賛に値する」

 

「総理を含めた国会議員の多くが世界連邦運動の日本国会委員会に所属してますね」

 

「その通り。我らは国家を超えた世界市民として苦楽を共にし、差別と戦わねばならん」

 

「ネトウヨ等を代表する日本の極右勢力は移民に差別的ですが…その件については?」

 

「恥ずべき存在だ。移民達も一人の人間として扱い、同じ権利を与えるべきなのだ」

 

「では、これからの日本は移(・)民(・)国(・)家(・)としての未来を築き上げるべきなのでしょうか?」

 

「東アジア地域の包括的経済連携(RCEP)によって、数百万人の移民が日本で暮らす事になるからな」

 

「彼らの人(・)権(・)のためにも神浜人権宣言は尊重されるべきだと総理は仰られるというのですね」

 

「日本人の人口減少は止まらない。その穴を埋めてくれるのが移民達なのだよ」

 

「これからの移民国家日本のために国会は法整備を進めていくわけでしょうか?」

 

「日本人という概念こそ、もはや差別的だ。我々は世界市民として和の世界を目指していこう」

 

移民を受け入れて成功した国など存在しない。

 

21世紀のヨーロッパ移民問題など、この世の地獄だ。

 

殺傷事件やトラック突撃事件、銃撃事件や爆弾テロや性的暴行等々。

 

経済的状況の改善を求めて他の国に移住する事は合理的な選択とは言えない。

 

経済移民は渡航前に望んだ生活が何ゆえ出来ないのか?

 

それはそもそも、ヨーロッパに移民を受け入れる経(・)済(・)的(・)余(・)裕(・)な(・)ど(・)な(・)い(・)からである。

 

先進国最下位となり、後進国化待ったなしの日本でさえ同じ条件であろう。

 

それでも移民国家推進を推し進めるのはもはや売国政策そのもの。

 

ユダヤ人であり、アメリカの政治学者のズビグネフ・ブレジンスキーはこんな言葉を残す。

 

毎年500万人の移民を日本は受け入れるべきだ。

 

日本政府は移民政策推進による日(・)本(・)民(・)族(・)の(・)雑(・)種(・)化(・)を促すべきだ。

 

日本をグローバル市場に取り込む為に日(・)本(・)を(・)多(・)民(・)族(・)国(・)家(・)に(・)す(・)る(・)べ(・)き(・)だ。

 

目的は日本の富を外資が奪うため。

 

国連、世界銀行(IMF)、世界貿易機関(WTO)等はもはやユダヤの為のグローバル推進機関。

 

神浜人権宣言を見届けたルシファーは移民の時代となると語っている。

 

移(・)民(・)を(・)平(・)等(・)に(・)扱(・)わ(・)な(・)い(・)の(・)は(・)差(・)別(・)主(・)義(・)者(・)と(・)し(・)て(・)糾(・)弾(・)さ(・)れ(・)る(・)のだ。

 

移民が人権を手にし、平等に扱われたら何を求めるのだろう?

 

それは人(・)権(・)侵(・)害(・)救(・)済(・)法(・)案(・)、(・)外(・)国(・)人(・)参(・)政(・)権(・)、(・)外(・)国(・)人(・)住(・)民(・)基(・)本(・)法(・)。

 

嘉嶋尚紀が叫んだ天賦人権論や自然権に沿った法案と言える。

 

外国人参政権を認めればウクライナのクリミア半島と同じく国(・)土(・)が(・)外(・)国(・)の(・)も(・)の(・)と(・)な(・)る(・)。

 

これで日本は滅びる事になるだろう。

 

これこそが美しき博愛と平等、道徳によってもたらされる国(・)家(・)の(・)破(・)壊(・)光景。

 

移民と呼ばれる存在によって国を内側から滅ぼされていくのだ。

 

それを最も喜ぶ連中とは誰だ?

 

それは国無き流浪の民と呼ばれる者達であるユダヤ。

 

そのユダヤの内側に入り込み、シ(・)オ(・)ニ(・)ズ(・)ム(・)を撒き散らす者達だ。

 

シオニズム運動の父であり、 イスラエル建国の最大の貢献者であるテオドールは言葉を残す。

 

ユダヤ人の逆境を、これからさらに酷くする必要がある。

 

それは我らの目的をより達成しやすくしてくれる。

 

良い提案がある。

 

私はこれから、ユダヤ人差別主義者達にユダヤ人の財産を取り上げるようそそのかす計画だ。

 

ユダヤ人差別主義者は我(・)々(・)が(・)虐(・)げ(・)ら(・)れ(・)て(・)迫(・)害(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)と(・)い(・)う(・)事(・)実(・)を(・)強(・)化(・)し(・)て(・)く(・)れ(・)る(・)事になる。

 

ユダヤ人差別主義者達は、我(・)々(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)最(・)も(・)親(・)し(・)い(・)友(・)と(・)な(・)る(・)わけだ。

 

♦

 

尚紀の演説をテレビで見ていたのは神浜の人々や見滝原の人々だけではない。

 

神浜の郊外で暮らすアリナ達もまた彼の勇士を見届けている。

 

アリナが暮らすペントハウスの巨大リビングでは大型テレビを視聴する者達がいる。

 

「うああああぁぁぁ────……っ!!!」

 

テレビ前で泣き崩れてしまったのは吸血鬼にされた十七夜であろう。

 

リビングソファーで座るアリナはそんな十七夜を見つめながらこう告げる。

 

「この人物が…グスッ…ヒック…フリーメイソンの…あぁ…イルミナティの神か!!」

 

「アリナが言った通りだったでしょ?アナタや調整屋の理想を叶えてくれるって」

 

「メシア様だ…人修羅様は…サタン様は…神浜の東を救ってくれる!!」

 

「アナタが殺戮を続ける必要はなかったワケ。もっとも、屑は死んで当然だと思うケド」

 

「恥ずかしい…暴力や…恐怖心という弱点を突く事でしか…世直し出来ないと思っていた…」

 

「アナタ、この場に立って同じ事が出来る?アリナでさえ無理なワケ」

 

「出来るわけない…これ程までの演説が出来る魔法少女なんて…見た事もないぞ…」

 

「アレがゴ(・)ッ(・)ド(・)の(・)権(・)威(・)なワケ。政治という権力を止められる存在こそが、ゴッドなんだヨネ」

 

「人修羅様のお言葉の一つ一つが…胸の奥底にまで響く…これが…神の権威なのだな…」

 

「神格化出来る程の存在って、本当にいるってワケ。アレが本物の博愛メシアなんですケド」

 

「自分は…この御方に死ぬまでついて行きたい…イルミナティの神になられるべきだ…」

 

「フフッ♪アナタも崇める気になったワケ?アリナ達は全員崇めてるんだヨネ」

 

「あぁ…神様…博愛と平等…そして…混沌(自由)の神様!!」

 

蹲ったまま平伏し、両手を握るように合わせて祈りを捧げてしまう十七夜。

 

これ程までに人々の心を支配出来る存在こそ、神と呼ばれる権威であろう。

 

祈りを捧げる十七夜を見つめていたアリナの脳裏に十七夜から言われた言葉が過る。

 

――自分は観察者が欲しい。

 

アリナが席を立ち上がり、リビングの奥に備わる大きなキッチンに向かう。

 

長い机の上に飾られるようにして置かれたフルーツバスケットの中からリンゴをとる。

 

「ねぇ、リンゴ食べる?」

 

突然リンゴを食べるかと聞かれた事で祈りを止めた後、怪訝な表情を浮かべてくる。

 

「今はいい…感動と興奮で胸がいっぱいなんだ。それより、どうして今…リンゴなんだ?」

 

「あっそ。いらないなら、アリナが食べるカラ」

 

リンゴを齧りながらテレビを見るアリナがこの場に相応しくない言葉を語ってしまう。

 

「…ねぇ、アレが本当に救済に繋がると…本気で思うワケ?」

 

「突然何を言い出すんだ?彼は東の人々を本気で救済しようと叫んでくれたんだぞ?」

 

「確かにカミハマシティの東は救われると思う。でもさ…それだけだとはアリナは思えない」

 

「変な事を言い出すのだな…?自分には君の理屈はよく分からないのだが…?」

 

「だからこそリンゴを勧めたんだけど…いらないって言うなら、アリナが食べちゃうね」

 

ポケットのスマホが鳴り響き、アリナは片手で通話を行う。

 

「用事が出来たからアリナ出かけてくるね。ディナーは先に食べててくれていいカラ」

 

「いや、君が帰ってくるまで夕飯は我慢しておこう。帰る頃に連絡してもらえたら用意する」

 

「オーケー、分かった」

 

「…これからの自分は独断専行しない。ユダさんの指示に従って行動させてもらうよ」

 

「りょーかい、それもユダに伝えておいてあげるカラ」

 

ペントハウスから地上に下りるエレベーターに入り込む。

 

下に移動していくエレベーター内でアリナは本音を漏らしていく。

 

「知恵がなければ…あの演説内容がどれ程のクレイジーな事態になるのか…理解出来ないヨネ」

 

リンゴとは聖書において禁断の果実と呼ばれており、善悪の知識の木の果実を指す。

 

善悪を知る知恵がなければサタンの詐術には気が付けないという意味で勧めたようだ。

 

「オンリーゴッドに従順だったアダムとエヴァは…知恵を食べる事で呪縛から解放されたワケ」

 

食べる前のアダムとエヴァは知恵もない動物のような存在であったろう。

 

それらを導く唯一神はさながら羊の群れを飼いならす支配者として君臨する牧師であろう。

 

「知恵がないと騙されるだけの羊で終わる。和泉十七夜…アナタもシ(・)ー(・)プ(・)ル(・)で終わるワケ?」

 

シープルとは英語で羊と人々を掛け合わせた混成語である。

 

群集動物である羊のような人々という意味であり、洗(・)脳(・)さ(・)れ(・)た(・)愚(・)者(・)共(・)だと非難する言葉だ。

 

地上に下りたアリナは回廊のような通路を歩いていく。

 

「カミハマシティはサ(・)タ(・)ン(・)が(・)描(・)く(・)ペ(・)ン(・)タ(・)グ(・)ラ(・)ム(・)で(・)蹂(・)躙(・)さ(・)れ(・)る(・)。差別主義者達は全員封印される」

 

そして世界そのものもラブ&ピースという封印が成されるだろう。

 

「国を乗っ取りたい移民達の…大勝利ってワケ」

 

回廊にあったゴミ箱にリンゴの残りカスを捨てた後、地上で待たせている車に乗り込む。

 

マタイ福音書第7章15節。

 

――にせ預言者を警戒せよ。

 

――彼らは、羊(・)の(・)衣(・)を(・)着(・)て(・)あ(・)な(・)た(・)が(・)た(・)の(・)と(・)こ(・)ろ(・)に(・)来(・)る(・)が、その内側は強(・)欲(・)な(・)お(・)お(・)か(・)み(・)である。

 

♦

 

あの日から一週間をかけて全国のお茶の間には神浜人権宣言の内容がニュースで流れ続ける。

 

キング牧師の再来として神浜人権宣言はマスコミを通してテレビに届けられていく。

 

日本メディアの恐ろしいまでの画一化された報道は世界中から独(・)裁(・)的(・)だと非難されている。

 

各大手新聞やテレビ局の無差別的な、情に訴える激しいまでの報道手法。

 

日本国内がある時期にはある話題で持ち切りになるといった状況が繰り返されてきたのだ。

 

その光景はまるでプ(・)ロ(・)パ(・)ガ(・)ン(・)ダ(・)そのものなのだ。

 

「なんで…なんでこんなくだらねぇニュースばっか流れるんだよ…?」

 

苦虫を嚙み潰したようにしてテレビを見るのは神浜在住の西側差別主義者達。

 

専門家達の答弁に対して苛立ちを募らせているようだ。

 

「神浜市で行われてきたヘイト問題は前に向かう人々を無理やり後ろに向かせてきた行為です」

 

「死ぬまで神浜の歴史に向き合わせて、憎悪をもたらしてきたという事でしょうか?」

 

「これはセカンドレイプです。歴史に苦しみ、それでも前に進みたい人々を歴史が殺してきた」

 

「それによってもたらされたのが、あの神浜左翼テロだったというわけでしょうか?」

 

「これからの神浜市は人権の街となるべきでしょう。世界のグローバルモデルとなって欲しい」

 

権威ある専門家の意見に対して苛立ちが限界を超える。

 

「ふざけんなぁ!!」

 

リモコンをテレビにぶつける差別主義者は専門家という拝金主義者を罵倒してくる。

 

「くそ…専門家のお偉方共は前までは東のテロリスト共を非難してたろ!!この二枚舌め!!」

 

こんな光景は他でも見かける事になるだろう。

 

「なんだよ…これ!?神浜人権宣言を糞だって書き込んだら…炎上してやがるじゃねーか!?」

 

SNSニュースに対して批判的意見を投稿した彼は袋叩きにされている。

 

「お前らだって…前までは東のテロリスト共はクソだって書き込んでたろ!風見鶏共めぇ!!」

 

彼はスマホを壁に投げつけて壊してしまう。

 

これが情報娯楽だけを求める全国の民衆の姿。

 

ニュース内容など深く考えず、そ(・)の(・)場(・)の(・)勢(・)い(・)だ(・)け(・)で(・)物(・)事(・)を(・)決(・)め(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)浅慮過ぎる愚民性。

 

権威ある専門家がそうだと言えば、何も考えずにそうなのだと鵜(・)呑(・)み(・)に(・)し(・)て(・)し(・)ま(・)う(・)。

 

さながらその光景はストレス発散としてスケープゴートを求める卑屈さが滲み出た光景だ。

 

日本人が民主主義ではなく、権(・)威(・)主(・)義(・)だと世界の人々から言われるのも無理はない。

 

「不味いよ…これ。会社でも東側の差別を禁止する就業規則を行政官庁に提出するつもりだ!」

 

「なんでだよ…?社長だって東側の連中を差別してたのに…なんで掌返しするんだよ!?」

 

西側で働く差別主義者達の顔色にも困惑が浮かんでいく。

 

「周りの連中を見ろよ…?テレビの人権問題ばかり語ってやがるぞ…?」

 

「仕方ないだろ…会社の同僚の話題なんて…皆と共有出来るテレビの話題ばっかじゃねーか…」

 

「こんな空気にされたんじゃ…もう東側の連中を馬鹿に出来ねーじゃねーかよ…」

 

「日本って…こんなにも酷い同調圧力社会だったのか…」

 

御上がこういえば、民衆はへぇ…と言って従う光景こそ卑(・)屈(・)さ(・)が(・)滲(・)み(・)出(・)た(・)日(・)本(・)人(・)達の在り方。

 

嘉嶋尚紀が言った通り、日本人は個人である事よりも全体を優先してしまう民族なのだろう。

 

「ちょっとあんた!!東の子供に物を売らないって、どういう理屈よ!!」

 

「うるさい!俺の妻はあのテロで暴徒達に襲われて大怪我したんだ!!」

 

「それがこの子と関係ある!?この子が可哀相でしょ!?それでもあんた、人間なの!!」

 

「喧しい!!お前らだって…前までは東の連中を嘲笑ってきただろうが!?」

 

「今はもうそんな時代じゃないでしょ!あんたテレビ見てないの!?」

 

「テレビテレビ…!なんでお前らは…テ(・)レ(・)ビ(・)が(・)言(・)う(・)理(・)屈(・)だ(・)け(・)し(・)か(・)見(・)な(・)い(・)んだよーっ!?」

 

全体が優先されれば、おかしい!どうして?と発言しただけで白い目で見られて孤立していく。

 

これこそ究極の選択社会。

 

上の言う事を聞くのか、聞かずに去っていくかを選べと突き付けられる光景なのだ。

 

下にされた人間達にはもはや逆らう余力はなくなってしまう。

 

「しょうがないよな…御上に言われたんだし…我慢していくしかねーよ…」

 

諦めて我慢する道を選んでいく西側の差別主義者達。

 

人は我慢をし続けているとそれが我慢だという事を忘れてしまうように出来ている。

 

慣(・)れ(・)とも呼ばれ、色々な事が鈍感となり、自分が苦しんでいる事さえ分からなくなっていく。

 

それによって日本の労働者達は国(・)か(・)ら(・)労(・)働(・)環(・)境(・)を(・)蔑(・)ろ(・)に(・)さ(・)れ(・)て(・)も(・)潰(・)さ(・)れ(・)て(・)い(・)く(・)しかない。

 

<<分断はよくない!!>>

 

<<水名でふんぞり返ってた名家連中の思う壺だ!!>>

 

<<我々は人間としての尊厳を重視する!!>>

 

似非融和主義を掲げながら東側を差別するアパルトヘイト条例に反対する大勢の西側民衆達。

 

それが本当に正しいのか、住民達で集まり意見を出し合う議論さえ行っていないのが彼らだ。

 

「お前ら恥ずかしくないのかよ!?少し前まで西側で東連中を笑ってやがったのに!!」

 

野次を飛ばしてくる西側住民に対して大規模な怒号が巻き起こっていく。

 

<<分断主義者だ!!>>

 

<<人間の尊厳を踏み躙る屑め!!>>

 

「今までの事を棚に上げて融和主義かよ!!この東の回し者共め!!」

 

<<差別反対!!我々は団結する!!>>

 

<<差別主義者はーーこの街から出ていけーーっ!!>>

 

<<出ていけーーっ!!出ていけーーっ!!>>

 

勢いに圧倒された西側の差別主義者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「何なんだよコレ…?批判にすら耳を傾けないのかよーっ!?」

 

違う意見のぶつかり合い=分断だと勝手に決めつけ、異(・)論(・)反(・)論(・)は(・)潰(・)さ(・)れ(・)る(・)悪(・)辣(・)な(・)レ(・)ト(・)リ(・)ッ(・)ク(・)。

 

その光景はさながら批判をした身内信者を袋叩きにするカルト宗教団体だ。

 

「助役……」

 

市庁舎ビルが西側民衆に包囲された光景を見つめる助役に対し、部下は不安そうな発言をする。

 

「…もはやこれまでだ。アパルトヘイト条例は…市議会も廃案にするしかなくなるだろうな」

 

市議会でさえアパルトヘイト条例の施行は不可能だと断念せざるを得ないまでに追い込まれる。

 

「…これがメディアの力だ」

 

出かけた尚紀と丈二の代わりに事務所で留守番をしている瑠偉はテレビを見ながらこう語る。

 

「上手なプロパガンダのコツとは…誰も反対しない、誰(・)も(・)が(・)賛(・)成(・)す(・)る(・)ス(・)ロ(・)ー(・)ガ(・)ン(・)を(・)作(・)る(・)事(・)さ(・)」

 

誰もその言葉の意味なんて考えない、そもそも何の意味もなかったりする。

 

誰も反対できないし何の意味もない言葉でも、雰(・)囲(・)気(・)作(・)り(・)は(・)確(・)実(・)に(・)成(・)功(・)す(・)る(・)。

 

「そうやって民衆はメディアに流されていくだけの羊達へと化けていくのだよ」

 

これを最も実績したのがヒトラーであり、各国の独裁国家も続いていく。

 

「日本は民主主義ではない。民主主義とは個(・)が(・)確(・)立(・)し(・)た(・)成(・)員(・)が(・)多(・)数(・)と(・)な(・)っ(・)て(・)初(・)め(・)て(・)機(・)能(・)す(・)る(・)」

 

ヒトラーの宣伝手法は未(・)熟(・)な(・)民(・)主(・)主(・)義(・)に(・)対(・)す(・)る(・)ク(・)ラ(・)ッ(・)キ(・)ン(・)グ(・)なのだと瑠偉は語ってくれる。

 

「実に滑稽なピエロ共だよ…シープル」

 

差別主義者という悪のお陰で、いよいよ差別の歴史から東の人々は解放されようとしていく。

 

その光景はまさにシオニズムの父が残した言葉通りの光景であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

12月13日。

 

朝の日課を済ませた後、尚紀は事務所に出社するためにクリスに乗って移動する。

 

「ダーリンダーリン!ラジオでダーリンの事をニュースにしてたわよ!」

 

「そういやお前、暇してる時は車のラジオをつけてるんだったか」

 

「キング牧師の再来ですって!懐かしい名前ね~アタシがアメリカにいた頃の人よ」

 

「大げさに呼びやがって…」

 

「それにしてもさぁ、この国もアメリカに劣らず…独裁的な画一化ニュースよねぇ」

 

「原因は外(・)資(・)規(・)制(・)の(・)撤(・)廃(・)だ。外国人株主の比率は20%を大きく超えて完全に違法状態なんだ」

 

「ゲ~?それさえも放置されっぱなしなわけ?終わってるわね~日本ってさ」

 

「普通なら無線局免許を剥奪処分されてなきゃおかしいぐらいだ。日本の大手メディア共はな」

 

「投資家共の傀儡か~…どうりでこの国のメディアもアメリカと変わらないと思ったわ~」

 

「表現の自由、言論の自由の剥奪だ。情報選択の自由なくして民主主義メディアはありえない」

 

無駄話をしていたら事務所に到着しており、二階の事務所に入っていく。

 

「おおっ!!英雄様のご登場だぞ!!」

 

拍手で出迎えてくれたのは丈二と瑠偉のようだ。

 

「テレビ見たわよ~尚紀♪バッチリ決めちゃってくれて~♪」

 

「お前の叫びは東住民達の魂の叫びだった!お前のような職員を持てて俺も鼻が高いぜ~♪」

 

「…よしてくれ、俺は英雄でもなんでもねーよ」

 

「謙遜すんな!東の人は大喜びしてたんだぞ?大東の団地街が喜びの叫びで包まれるぐらいに」

 

「言うべき事を言ってきただけだ。感謝されたとしても…差別条例を止めれるかは分からない」

 

「そんな事ないわ。全国のメディアが貴方の人権宣言を取り上げてる…世論が一気に傾くわ」

 

「総理大臣が賞賛するぐらいだもんなぁ。御上に逆らえない体質の日本人には効果抜群だぜ」

 

「暫くは人権宣言をメディアが持ち上げてくれると思う。そうなれば嫌でも世論が味方する」

 

「フン…ナチスのラジオや大日本帝国大本営放送に振り回されてた頃と何も変わらねーな…」

 

「そう言うな。この勢いなら神浜市の悪名でもたらされた流出現象にも歯止めが効く」

 

「全国から支援の輪だって期待出来る。貴方が行った行為は神浜にとって英雄行為なのよ」

 

(…道化を演じた甲斐もあったというわけか。だが、しかし……)

 

「本来なら…今日は仕事をキャンセルして飲み明かしたい気分だが…こんな日でも依頼はくる」

 

「所在調査の依頼よ。西側で家を焼かれた一家の子供が家出をして行方不明だそうよ」

 

「テロの傷跡は未だに根深い。差別問題が解決しようが…この街が荒れる事には変わりない」

 

「探偵事務所は今日も平常運転。今の俺にはそれぐらいが丁度いいんだが…」

 

「どうかしたのか?」

 

「…これだけメディアに顔を晒したんだ。街行く人達からちょっかいかけられないかとな…」

 

「有名人は辛いね~」

 

「聞き込み捜査なんだが、帽子とサングラスを身に着けても構わないか?」

 

「んなこと許可出来るわけねーだろ」

 

「不審者扱いされて、誰からも聞き込み出来ないわよ」

 

「……だよな」

 

今日も聖探偵事務所の仕事が始まり、尚紀は現場に向かっていく。

 

依頼人から詳しい内容を聞いた後、街での聞き込み捜査をするために西側へと向かう。

 

「絞り込みが出来なかったな…こうなりゃ、西から東へと捜査範囲を広げていくか」

 

捜査を進めていく中で彼は多くの人々から賞賛されていくだろう。

 

その中には神浜の魔法少女達の姿が大勢あったのだ。

 

午後の時間まで捜査を行うが案の定大勢から呼び止められて声をかけられてしまう。

 

「予想はしていたが…ここまでとはな。だが、そのおかげで聞き込みが捗ったのは有難い」

 

神浜市立大附属学校方面にまで捜査範囲を広げていくと喧しい声が聞こえてくる。

 

<<尚紀~~~っ!!>>

 

前方を見れば全力疾走で走ってくる鶴乃が迫っている。

 

「見たよ見たよ見たよ~~!!テレビ見たよ~~っ!!」

 

ジャンプ跳躍してくる彼女に対し、彼は片足を後ろに下げて踏ん張る構えを行う。

 

「ぐっ!?」

 

大型犬の全力疾走突撃を浴びたような衝撃に襲われたようだ。

 

「お前…なんでいつもいつも抱き着いてくる…?」

 

「最高だったよ~尚紀の演説!!私ね…泣いちゃうぐらい感動したよ~!!」

 

「重たいから下りろよ…」

 

「ほっ?尚紀は力持ちだと思ったけど…?それってもしかして…遠回しに太っただろ発言!?」

 

「…とにかく、抱き着いたままの状態から解放してくれ」

 

全体重をかけて両手両足で抱き着くものだから胸の感触に困っているのだろう。

 

地面に下りた鶴乃は後ろから来ている人物達にも目を向ける。

 

「みんな~!!神浜のヒーローはこっちだよ~~!!」

 

顔を向ければ神浜市立大附属学校に通う魔法少女達が大勢詰めかけてくる。

 

七海やちよ・十咎ももこ・水波レナ・秋野かえで・夏目かこ・美凪ささら・五十鈴れん。

 

彼女達も鶴乃と同じく尚紀を絶賛しに訪れたのだろう。

 

「お前ら…よく俺がここいらをうろついてるって分かったな?」

 

「フフッ♪地域住民ネットワークを甘く見ない方がいいわ、尚紀。あなたはもう有名人なのよ」

 

「最高だったよ…嘉嶋さん!!あんたは神浜を変えてくれた伝説の英雄だぁ!!」

 

「ふんっ!天狗にならないことね!レナだって…あれぐらい出来るわよ!」

 

「またまた~?超コミュ障のレナちゃんがあそこにいたら、傍聴席側でも逃げちゃうよ~?」

 

「うるさいわね、かえで!!でも…あんな酷いアウェイの場で、よくあれだけ吼えれたわね」

 

「バカでかい声を出すのには、それなりに自信があったんだよ」

 

「それにほら、レナちゃん!さゆさゆの事で感謝したいって言ってたのを言わないと!」

 

「わ…分かってるわよ…」

 

「さゆさゆ…?」

 

「あんた…神浜のご当地アイドルやってた刀剣アイドルの史乃沙優希を知らないの!?」

 

「そういう意味だったのか。俺は音楽ジャンルで好きなのは…ポップじゃなくてロックなんだ」

 

「音楽ジャンルの好みは合わないアンタだけど…レナ、感謝してあげる」

 

「あの子の事で何かあったのか?たしかあの子は……」

 

「うん…アイドルを引退に追い込まれた日からSNS発信も止まってた。でも、更新があったの」

 

「なんて呟かれてたんだ?」

 

「昨日の夜にね、突然大手芸能事務所から電話があって…芸能界入りするのが決まったの」

 

「突然過ぎる…どうしてあのタイミングなんだよ?世間からバッシングされてたんだろ?」

 

「レナだって詳しい事は分からないけど…それでも、あのさゆさゆがビッグアイドルになる!」

 

「レナちゃんはね~、さゆさゆファンクラブ第一号だったのを自慢していくつもりだよ~♪」

 

「一番嬉しいのはね…さゆさゆがまたアイドルを続けてくれること。アンタのお陰だって思う」

 

話しの内容に対して尚紀は怪訝な表情を浮かべてしまう。

 

(きな臭い話だな…何かの狙いがあると考えるのが自然なぐらいだ…)

 

かえでの肘に押されるレナはおどおどしながらも片手を伸ばしてくる。

 

「…ありがとう。ちゃんと話した事なかったけど…レナ、アンタの事を誤解してたわ」

 

「水波レナだったか?俺の方こそ…お前の頭を玩具にして済まなかったよ」

 

「レナでいいわよ。それにレナだって…アンタを串刺しにしたんだからおあいこよ」

 

「そうか…口は悪いが、根は素直な女のようだな」

 

固い握手を交わしていたら2人の両手に手を重ねるようにしながらかえでも立つ。

 

「秋野かえでです!レナちゃんやももこちゃんの友達で…だから2人を救ってくれて嬉しい!」

 

「かえでか…植物を操る魔法を使えるとは変わった奴だな。前世は妖精だったのか?」

 

「かえでの前世が妖精なら!レナの前世は女神様よ!」

 

「餓鬼の間違いだと思うけど~?」

 

「ああ、なるほど…腹の代わりに胸が出たのか。頼むからバックアタック奇襲はやめてくれ」

 

「何べん言わせるのよ!?レナは食い意地なんて張ってないから!!」

 

握手の手を離して怒り出すレナをももこが止め、かえでは尚紀と向き合う。

 

「私…自然が好きなんです。それに動物や虫だって好きなんですよ!猫と犬を飼ってます!」

 

「うちも飼っている。機会があればあいつら連れてくるから、行儀を仕込んでやってくれ」

 

「ええっ!?その子達…凄く気になる!機会がなくても私が遊びに行きますね!」

 

「やれやれ…想像しい連中ばかりがうちに来る。お前にも酷い事をしたな…済まなかった」

 

「いいんです…もう気にしてません。こういう時、魔法少女やってて良かったって思います」

 

「誰もが回復魔法ぐらいは使える器用さを持っているもんな。悪魔でもそうはいかないのに」

 

顔を横に向けると近くに立っていたのは意見陳述の場にいたささらであろう。

 

「…お前はこれで、納得出来たか?」

 

顔を俯けていた彼女だったが、迷いを払うようにして顔を上げながら彼を見つめてくる。

 

「私…騎士道を見失うところだった。弱者救済を掲げていたのに東の人達を虐げようとした…」

 

「勘違いは誰でも起こす。俺も起こすし、お前だって起こす。間違いは修正していくもんさ」

 

「エゴの恐ろしさを痛感した…掲げていた理想との矛盾にさえ…エゴで気づけない…」

 

「これからに活かせばいい。間違ってきた俺だからこそ…あの場に立ったんだ」

 

「フフッ♪尚紀さんは騎士道の鏡なのかも?私も見習いたいな…将来は公務員になりたいし」

 

「…そうか。本来、公務員こそが社会主義者だ。国民に奉仕するために命を削る者達だからな」

 

「だからこそ、私はななか達と組んだのかもしれない。私も社会に奉仕する思想を信じるから」

 

「しっかりやれ。お前だってまだ若い、頑張り過ぎて我慢を我慢だと思えないようにはなるな」

 

「ありがとう♪辛くなったら…フフッ♪尚紀さんに甘えに行こうかな~♪」

 

「勘弁してくれ…俺はただでさえ、毎日の日課の中にスポ根バカの明日香を抱えてるんだぞ…」

 

「え~!?明日香と仲良くしてたんだ!ズルい…明日香に聞いて私も尚紀さんとスポ根する!」

 

(スポ根バカが…さらなるスポ根バカを呼んでくる…)

 

「あーっ!!秘密特訓の気配!ズルいズルい!私も参加するったらーっ!!」

 

「鶴乃ちゃんも参加する?」

 

「勿論だよー!!由比家のためでなくてもいい…私は皆のために強くならないとだね!」

 

「「おーーっ!!」」

 

(……もう、どうにでもしてくれ)

 

盛り上がってるスポ根娘達は放置する尚紀はオドオドしている人物にも目を向ける。

 

「あ…あの……」

 

「お前は…文房具屋で会った時以来だな」

 

「は…はい…五十鈴れんです…ご無沙汰してました……はい」

 

「あの時の騒動で救出されたはずの友達とは…上手くやっているか?」

 

俯いて黙り込んでしまった彼女を見つめる彼は察してくれる。

 

あれ程までの大規模テロが起こり、東のテロに加わった魔法少女達も大規模となっている。

 

西と東の戦火の中で命を落とし、円環に導かれたと判断するしかない。

 

「……すまない、聞くべきじゃなかったな」

 

「…いいえ、あの子は貴方に救われて…喜んでました。そして、あの時の戦いも…」

 

「…自らの意思で戦場に赴き、納得した上で死んだか?」

 

「はい…あれもまた…命の在り方なのだと…私と梨花ちゃんは…納得する努力をしてます」

 

「納得した上で死ぬ…か。お前はその子の死について…納得は出来ているか?」

 

「納得…してると思います…でも…辛くて寂しい気持ちになると…納得出来なくなるかも…」

 

「そうだな…納得出来る答えなんて、そうそう見つからない。俺も…生涯探していきそうだ」

 

「答えを探すのも…生きてるから出来る。だから…命は尊いんだと…思います…はい」

 

空を見上げる彼は風華の事を思い出してしまう。

 

「俺もな…かつて愛した人を…亡くしたんだ」

 

「えっ…?」

 

「その子はな、戦わなくてもいいのに自らの意思で戦場に赴き…命を落とした」

 

「そんな…まるで、私や梨花ちゃんの友達の死と…同じです。もしかして…魔法少女…?」

 

「誰かのために生き、誰かのために死んだ。あの子が自分の死を納得出来たかは分からない…」

 

それでも風華の死に際の表情は安心しているような顔つきだったとれんに語ってくれる。

 

「あっ……」

 

友達の死を看取ってくれた魔法少女が語ってくれた言葉をれんは思い出す。

 

その子の死に際の表情は安心しているような顔をしていたと語られているようだ。

 

「…意思を継いでくれる人がいる。だから自分の人生はムダではなかった…だから…」

 

「納得して…死んでいった…ですか?」

 

「俺は誓った…その子の意思を継ぐために約束を守り通すとな」

 

そして継がれた意志により、彼女の願いは尚紀を通して叶えられていく。

 

風華の人生に意味があったのだと示す道こそ、彼の納得なのだとれんに伝えてくれる。

 

辛い話を聞かされたれんは涙ぐんでしまうが、袖で涙を拭った後、決意を語ってくれる。

 

「私…こんなにも今…生きてて良かったと思えた日は…ありません」

 

「その子はお前達に託してくれた。自分の人生が無駄ではなかったと示す人がいてくれたから」

 

「継いでくれる人がいる…だから安心して…死ぬ…グスッ…ヒック…」

 

泣き出してしまったれんを夏目かこが慰めてくれる。

 

「かこ……」

 

尚紀に視線を向けてきた彼女は神浜を救ってくれた英雄を見ても何も語りはしない。

 

その顔も何処か不安を抱えた表情を浮かべている。

 

「…れんを頼む」

 

尚紀はしんみりしてしまった現場から去っていく。

 

誰も引き留めはしなかったが、やちよの横を通り過ぎようとした彼の足が止まる。

 

「……やちよ」

 

「えっ…?何かしら…?」

 

「お前は本当に俺の事を…神浜を救った英雄だと思うのか?」

 

「その通りだと思うけど…何かおかしいの?」

 

「かつてお前は長としてマ(・)キ(・)ャ(・)ベ(・)リ(・)ズ(・)ム(・)治(・)世(・)を行った。それでも俺が正しいと思うか?」

 

「どういう事なの…?言ってる意味がよく分からないわ…」

 

「……そうか。邪魔したよ」

 

尚紀は顔も向けないまま今度こそ去っていく。

 

「どうしたんだろ…嘉嶋さん…?」

 

後ろ姿を見送っていたももこであるが、彼の背中を見つめながらこう口にしてしまう。

 

「嘉嶋さんの後ろ姿…なんだか…苦しそう…」

 

――アタシ達に褒めちぎられるのが…辛(・)か(・)っ(・)た(・)の(・)か(・)な(・)…?

 

♦

 

参京区方面にも捜査範囲を広げたが案の定、魔法少女達から声をかけられる。

 

参京院教育学園に通う常盤ななかや志伸あきら、静海このは達姉妹が彼を賞賛していく。

 

適当に相槌を打つ彼であったが、顔をななかに向けると冷たい反応が返ってくる。

 

「ななか…」

 

彼女はかこと同じ表情を浮かべており、手放しで絶賛するような事はしてくれない。

 

彼女達と別れた尚紀は気疲れしたのか、かつて利用した事があった純喫茶に入る。

 

「……いらっしゃいませ」

 

店番をしていたのはルミエール・ソサエティとビジネスを行っていた魔法少女であろう。

 

「喫煙席は?」

 

「…奥の席です」

 

「分かった。それと珈琲一つ」

 

「…分かりました」

 

奥の席に座り、持ち込まれた珈琲を飲みながら日が沈んだ夜の景色を見つめている。

 

吸っていた煙草を灰皿に押し付けて消していた時、横に人の気配を感じたようだ。

 

「…何か用事か?」

 

立っていたのは店番をしていた人物である。

 

「…聞きたい事があるの」

 

「見知らぬ男にか?」

 

「貴方はもう有名人でしょ?テレビを見させてもらったから…質問があるの」

 

「…言ってみろ」

 

「あの時の貴方の演説で…神浜の差別の歴史は終わるかもしれない。その件で聞きたいの」

 

「…喜ばしい表情をしていないな?この街が救われるというのに…どこか他人事のようだな?」

 

「…私はこの街に特別な思い入れがあるわけじゃないの」

 

「そうか…だとしたら、お前のような中庸の者なら俺の質問にも答えられるかもしれない」

 

「質問の答えを返してくれたら…私も答えを返すわ」

 

貴方は街を救って大勢から感謝されている。

 

貴方はこの街を救った英雄として、強く居場所を感じられているかと質問される。

 

重い沈黙が続く中、重い口を開いた彼の表情はどこか苦しそうだ。

 

「……感じられないな」

 

「どうして?みんながあなたを賞賛するのに?」

 

「なぜ、そんな質問をするんだ?」

 

答えを返すと約束した彼女であるが、黙り込んでしまう。

 

「答えないのか?口約束に過ぎないが、約束を守らない店は金輪際利用するつもりはない」

 

俯いたままの彼女は重い口を開き、約束通り答えを返す

 

「私は…自分の居場所を探してる者。どうやったら自分の居場所を見つけられるのかを探す者」

 

約束を果たし終えた彼女が帰っていこうとする中、背中に声を掛けられる。

 

「……今の俺は、お前と同じだよ」

 

「えっ…?」

 

考えてもいなかった言葉が出てきた事で慌てながら彼の方に向き直る。

 

「周りから賞賛されようが…居場所なんて感じない。むしろ…針の筵に座らされてる気分だ」

 

「どうしてなの…?あれ程の偉業を成し遂げたのに…?」

 

「…お前の着ているその制服、参京院教育学園の学生か?」

 

「…うん」

 

「自分の居場所を探す者として、どんな学生生活を送っているのかなら…大体想像は出来る」

 

「…想像している通りだと思う。私はごく普通の学生生活をしているけれど…」

 

「周りに合わせているだけで、心此処に在らずだろ?今の俺と全く同じだよ」

 

「分からない…あれほど周りの人々から求められる存在になったというのに…どうしてなの?」

 

「お前…嘘(・)を(・)つ(・)き(・)な(・)が(・)ら(・)生(・)き(・)て(・)い(・)て(・)、(・)楽(・)し(・)い(・)か(・)?(・)」

 

それを聞かれた彼女の顔が俯いてしまう。

 

「俺も嘘をついている…周りに合わせるだけで…両足でしっかり立っている気にならない」

 

「そこまで私と同じ気持ちだなんて…その気持ち…とても分かるわ」

 

重い沈黙が場に広がる中、珈琲の残りを飲み終えた彼がようやく語り始める。

 

「…英雄だの、悪者だの、クラスの人気者だの、厄介者だの、どうでもいい概念だ」

 

「えっ…?」

 

「人は善人である必要も、悪人である必要もない。人がその本性を受け入れるのが大切だ」

 

「どういう意味…?」

 

「人がその本性を引き受け、開き、生きていれば…どんな人間だって素晴らしく魅力的だ」

 

「…周りに合わせて、普通に生きる努力をしてきた私は…魅力のない者だと言いたいの?」

 

「本性を受け入れず、繕い、作り上げるなら何であれつまらない。だから今の俺も価値はない」

 

「あっ……」

 

心の中に抱えていた何かが揺り動かされる。

 

「偽善、偽悪は等しくお粗末。本性さえ表してくれたら何でもいいんだ」

 

「本性…ですって……?」

 

「俺はオ(・)マ(・)エ(・)に会いたい。どこかで見たような、聞いたような人間には興味は無い」

 

胸の高鳴りが抑えられず、彼女は胸を手で抑え込んでしまう。

 

「自分の本性に目を向けろ。せっかく生まれてきたんだし…本当の自分と出会いたいだろ?」

 

「本当の…自分……」

 

「それこそが、誰のものでもない…我(・)の(・)居(・)場(・)所(・)なんだよ」

 

後ずさりしていく彼女であったが、力が抜けたように両膝が崩れる。

 

両目は見開かれ、尚紀の姿が瞳の中に広がっていくようだ。

 

彼女は自分が何故どこにも居場所を感じられなかったのかを見出せる。

 

同調圧力社会で生きるしかない日本人全員が抱えている心の問題の答えにもなるだろう。

 

それこそが、周(・)囲(・)に(・)流(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)個(・)の(・)確(・)立(・)なのだ。

 

「わた…し…なんて…馬鹿だったの…。環境のせいにして…自分の居場所を勘違いしてた…」

 

「自分の内面に真剣に興味を持たない者は、他人や社会に問題を見出していく」

 

そうして事の本質からは遠ざかり、遠ざかるほど苛立って焦っていく。

 

彼女の脳裏に浮かぶのは家族との確執や学校生活、そして大好きだった人の夢。

 

周りにばかり振り回されて彼女は個を失っていたと気が付かされてしまう。

 

「自(・)分(・)が(・)自(・)分(・)を(・)裏(・)切(・)る(・)んだから自分の居場所なんてどこにもねーよな。だから俺もまた同じさ」

 

「私自身が…私の居場所を失わせてたのね…。どうりで何処にも…見出せないはずよ…」

 

「感情や気持ちは人生の羅針盤。気持ちが指し示す方向に向かえ…まだ見ぬ港が待ってる」

 

「私が私に正直である事こそが…私の居場所を…私自身が守る事に繋がる…?」

 

「今までのこだわりは捨てて自然体でいろ。まだ子供なのに…俺のようになっちまうぞ?」

 

伝えるべき内容は伝えた彼は立ち上がった後、レジの方に向かう。

 

「清算したいんだが?」

 

「えっ…?あ、はい!」

 

慌ててレジの前に来てから清算しようとするせいで打ち間違えてしまう。

 

「落ち着けって、急いでるわけじゃない」

 

「私…わたし…興奮し過ぎて…!見つけたかったものが…やっと見つかったから…!」

 

恥ずかしいのか嬉しいのか、彼女は泣き出してしまう。

 

見つめる彼はポケットからハンカチを出した後、彼女に手渡す。

 

「グスッ…ヒック…ありがとう…ありがとう…嘉嶋尚紀さん…」

 

「お前…俺の事を知っていたのか…?」

 

右手のハンカチで涙を拭きながら左手を彼に見せるとソウルジェム指輪が備わる。

 

「そうか…お前も魔法少女なら、業魔殿に行って悪魔の教育を受けてるはずだよな」

 

「貴方は悪魔なのに私の居場所を救ってくれた。本当に悪魔なの?私には神様にしか見えない」

 

「神様扱いは勘弁してくれ…ケツが痒くなってくる」

 

「フフッ♪私の名前は保澄(ほずみ)雫です。よろしくね、嘉嶋さん♪」

 

「フッ…やっとお前に出会えた気がするよ。その調子でいけば、もう居場所を失わないさ」

 

「私…これからはもっと自分と向き合って、自分の事を勉強していきます!」

 

「勉強をするではなく経験が大事だ。知(・)る(・)で(・)は(・)な(・)く(・)、(・)や(・)る(・)。自分のやりたい事をやっていけ」

 

「はいっ!嘉嶋さんって…学校の先生よりも好きになれそう。貴方をもっと知りたいです」

 

「俺は…自分の居場所を見失っているだけの…た(・)だ(・)の(・)迷(・)子(・)さ(・)…」

 

純喫茶から出て来た尚紀は夜空を見上げる。

 

彼の脳裏に浮かぶのは、かつての仲魔でありライバルだったデビルハンターの姿である。

 

「刹那主義と快楽主義だった男…ダンテ。自分に正直に生きる者の見本と言えたお前なら…」

 

――我の居場所の迷子になった俺に…なんて言ってくれるんだろうな?

 

目を瞑り、かつての世界ボルテクス界の記憶の中に浸っていく。

 

あれはアマラ深界最深部に下りる決意をした時だった。

 

「この先に下りたらもう…俺は俺でなくなるかもしれない…」

 

そんな弱さを仲魔達に語った時、ダンテが言ってくれた言葉がある。

 

「迷うな、少年。先に行って何になろうが…少年は少年のまま生きればいいのさ」

 

「たとえそれが…完全なる悪魔になる道であったとしてもか…?」

 

「イカレた姿になって帰ってきて、仲魔達に見捨てられるのが怖いのか?」

 

「……そうだ」

 

「フッ…そんなんだから、お前はいつまでたっても周りが怖いだけのガキなのさ」

 

――お(・)前(・)の(・)道(・)を(・)進(・)め(・)。(・)人(・)に(・)は(・)勝(・)手(・)な(・)事(・)を(・)言(・)わ(・)せ(・)て(・)お(・)け(・)。

 

ダンテが残した言葉はフィレンツェ生まれの詩人・哲学者でもあったダンテと同じ言葉。

 

新しい事をしようとする時、人はもっともなことを言って、それを止めさせようとする。

 

しかし直(・)感(・)が(・)一(・)番(・)正(・)し(・)い(・)のだ。

 

自分が進むべき道は自分のリスクで大胆に突き進むべきだ。

 

自分の直感に自信がないと、人の言うことに流されて自分の道を断念する時がある。

 

しかし後になって、あの時の自分の直感が正しかったと気づく、そ(・)の(・)時(・)の(・)後(・)悔(・)は(・)最(・)悪(・)だ。

 

自分の直感を信じて自分の道を敢然と進めという意味合いがあった。

 

「そうだな…俺の道は俺が選んで進み、周りの連中なんて…勝手な事を言わせておくべきだな」

 

探偵事務所へと帰っていく尚紀はかつての仲魔に思いを馳せる。

 

「ダンテ…お前は完全な悪魔になった俺を捨て身で止めてくれた。もっと早く殺せたのに…」

 

周りにとっては間違いであろう選択でさえ、ダンテは認めて背中を押してくれる。

 

最悪の脅威となろうともダンテは彼の選択を認め、後悔させない道へと押し出してくれている。

 

「俺の最悪の選択によって国が滅ぶかもしれない…それでも認めてくれる人がいないと…辛い」

 

――ダンテ……あんたがいなくて寂しいよ。

 

彼の足取りは重い。

 

ペテンがバレて国賊だと罵られる日の事を考えれば考えるほど、彼の足取りは重くなる。

 

啓蒙神として彼は神浜市に平和をもたらしたのだろう。

 

それと同時に日本どころか世界さえも滅ぼす環をもたらしてしまう。

 

一時の喜びなど、悪魔がもたらした偽(・)り(・)の(・)平(・)和(・)に過ぎない。

 

もう一度責任の矢面に立たされる日を想像していく彼の体は震えるしかないのであった。

 




長くなるので二つに分けます。
人修羅君のモテ期到来ですが、本人は佐倉牧師の如く心がズタズタになっていってハーレムにはならない計算です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。