人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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149話 偽りの光

後日となった頃、尚紀は神浜市の中央区と栄区で聞き込みを続けている。

 

街行く人達からは賞賛の声をかけられていくが適当な返事しか返さない。

 

彼を睨んでくる西側差別主義者もいたが睨み返せば逃げていくようだ。

 

「…あいつらは諦めてるんだろうな。これだけの世論を俺が生み出してしまったから…」

 

今日は土曜日であり、中央区では多くの学生達が休日を街で過ごす姿が見える。

 

「学生達も外に出ていいようになったのか?そういや、新聞で読んだっけ」

 

差別条例可決は難しくなり、議員からは人権尊重の街作りが必要だと声が上がった内容である。

 

「子供達にも人権は必要だ。大人達の勝手な都合で、青春を殺されるべきではない」

 

学校も重い腰を上げたのだと判断した彼は道行く学生からも聞き込み捜査を行う。

 

<<おい!そこのイケメン英雄!>>

 

声がした方に振り向いてみるが視線の先には誰もいない。

 

「近くで声がしたと思ったんだが…気のせいか」

 

「いるって!?アタシはここだって!!」

 

下に目を向けると袖がダブダブな私服を着た人物がおり、中央区の元リーダーの都ひなのだ。

 

「お前か…相変わらず身長が小さくて気が付かなかったよ」

 

「お前も変わらず失礼なイケメンだな…だが許そう。そして、よくぞ叫んでくれた!!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながら喜びを表す仕草をしてくる。

 

「お前の叫びこそ!アタシがずっと胸の内に抱え込んできた…この街に対する叫びだった!」

 

「そう思ってきたのなら、なぜ今まで叫んでこなかったんだ?」

 

「叫んできたさ…それでも中央の学生連中は保身に走るばかりだった…」

 

「そういや、中央区は神浜の外から集まった連中が多いんだったな」

 

「神浜の問題ごとには首を突っ込みたくないと逃げられてばかりだったんだ…悔しかったよ」

 

「そうか…お前も人情家だったようだ。だからこそ中央の魔法少女達がリーダーにしたわけか」

 

「それも終わりだ。アタシはリーダーを引退し、中央の魔法少女達をななかに託したんだ」

 

「元リーダーとして、常盤ななかをどう見る?」

 

「安心した…とだけ言っておく。人々を冷静に観察し、間違いを正していけると思う」

 

「同じ意見だ。しかしエゴは誰もが持つもの…リーダーは常に自己批判しないとな」

 

「それが出来ていなかったと…アタシは反省したよ。エゴとは恐ろしいものだな…」

 

「……そうだな」

 

「だが、これでアタシも肩の荷が下りたことだし…受験勉強に専念出来るというわけさ」

 

「受験生だったのかよ?俺も中学の頃は男友達と集まってのたうち回りながら受験勉強を…」

 

「アタシは高校生だぁ!!高校受験じゃない!!大学受験!!」

 

「……そういや18歳とか、あの時言ってたな」

 

「アタシは今までの下地があるから問題はない。問題なのは…アタシが指導しているみふゆだ」

 

「あぁ…そういやアイツ、浪人生だったか」

 

「薬学部志望のくせに…理数系が壊滅的なんだぞ?先が思いやられる…」

 

「アイツ…来年も桜の開花を呪うかもな」

 

「アタシも来年は大学生。花のキャンパスライフというわけだが…」

 

「どうした?」

 

「…新たな大学生活で未だに彼氏の1人もいないでは…周りからバカにされるやもしれん」

 

「健闘を願う」

 

「そこでだ!アタシのリア充生活爆進計画のためにも…お前とは関係を築きたい!!」

 

「はぁ?」

 

グルグル目のまま赤面し、緊張のせいかひなのは呂律が回らない。

 

「ま…先ずは紳士的に…交換日記だ!!つ…次は…その…お茶に誘われてやってもいいぞ!?」

 

(なんの話を始めているんだ…このリスザル女?)

 

緊張で舌が回らなくなっていた時、素っ頓狂な大声を聞いた事で素に戻る。

 

「みゃ~こ先輩~~っ!!」

 

手を振って走ってきたのは、みやこが開く化学教室のアシスタントをやっている木崎衣美里。

 

「待ち合わせ場所に来ないと思ったらこんなところで油を…げ~~っ!?」

 

「お前はたしか…あの時に戦ったサキュバスみたいな魔法少女か」

 

「みゃーこ先輩!また怖いお兄さんところに来てたの!あーし、お尻ぺんぺんされたんだよ!」

 

「えっ……?」

 

「パンツが履けないぐらいお尻が腫れたんだよ!?も~最悪だったよ~っ!!」

 

「ちょっと待て!!そんな痛めつけ方はしてなかっただろ!?」

 

「あ~…こいつの話は真に受けるな。ノリだけで喋る奴だからな…」

 

「だけどさ…あーし達にも悪かった部分あるし、許したげる。それに…謝らないとだね」

 

「あっ…一番伝えたかった部分をアタシも忘れてたな…」

 

並ぶようにして立ちながら彼女達は頭を下げてくる。

 

「お前を傷つけてしまって済まなかった…未知の敵が魔法少女を襲う…その概念に縛られてた」

 

「あなたの話をもっと聞いてたら良かったね…あーしも早合点してた気がするから…ごめんね」

 

「気にするな、俺だってお前達を傷つけたんだし。俺の方こそ済まなかったよ」

 

「寛大な男だな!ますます気に入ったぞ!流石は神浜の歴史差別を救った()()だ!!」

 

彼女の発言に対して尚紀の顔が俯いていく。

 

「えっ?このお兄さん、そんなことやったの?」

 

「衣美里…お前はあんなビッグニュースを見てなかったのか!?」

 

「あーしがつまんない政治ニュースなんて見るわけないし~」

 

「そうだったな…お前はそういう奴だったよ…」

 

「……さて、俺はそろそろ行くよ。こう見えて探偵をしているからな…今は仕事中なんだよ」

 

「えっ?お兄さんは悪魔なのに探偵さん?悪魔探偵!?ちょ~かっこいいじゃん!!」

 

「この人物を見なかっただろうか?」

 

依頼人から渡された写真を衣美里に見せてくる。

 

「ふんふん…あ、この子はたしか…あーしのお悩み相談所に来た事がある子だよ」

 

「あきらから聞いている。お前達は街の困りごとを聞いてあげる相談所をしてたんだよな?」

 

「そうそう。かなり思いつめてた顔してたし、よく覚えてるよ」

 

詳しい経緯を聞かされた事で失踪者が何処に向かうのかを絞っていく。

 

「助かった。これでだいぶ絞り込めそうだ」

 

「探偵さんのお役に立てちゃった!エミリーのお悩み相談所やってて良かった~♪」

 

「ほぼ魔法少女達の溜まり場になってたが…継続は力なりだな、衣美里」

 

「えへへ~♪みゃーこ先輩があーしを見直してくれて、うれぴーまん♪」

 

「俺は嘉嶋尚紀という。お前の相談所は役に立ちそうだから今後は情報収集で寄らせてもらう」

 

「あーしは木崎衣美里!お菓子を沢山用意して待ってるからね~神浜の英雄さん!」

 

神浜の英雄と聞いた尚紀の顔は苦虫を嚙み潰したようになり、何も言わずに去ってしまう。

 

「あれ…?あーし、何か怒らせるようなこと…言ったのかな?」

 

「いや…分からん。失礼な事を言ったようには聞こえなかったのだがなぁ?」

 

絞り込んだ情報を頼りに水名区方面に歩みを進めていく。

 

黒のトレンチコートのポケットに入れられた彼の拳は苛立ちによって震えていた。

 

 

衣美里の情報を頼りに水名の街を奔走していく。

 

彼女の情報によって潜伏先を見つけ出し、行方不明になっていた少年を発見したようだ。

 

「辛い気持ちは分かる。だが家族はお前の事を心配している…家族のところに帰らないか?」

 

「…………」

 

呑まず食わずだったのか、少年の顔はやつれている。

 

「…ニュースは見たか?全国の人達が神浜の味方をしてくれる。もうこんなテロは起きないさ」

 

「…本当に?本当にもう…東の人達は…暴れたりしない?」

 

「…その原因となっていた歴史は終わるだろう。原因がなくなれば…怒って暴れたりはしない」

 

「…うん、分かった。ごめんなさい…迷惑かけました…」

 

「辛かっただろう…新しく生まれ変わるこの街で、幸多い人生を生きられるよう願う」

 

家族に息子の無事を知らせた彼は警察に任せる事にしたようだ。

 

「これで依頼は達成…衣美里のお陰かもな。あいつのことは覚えておこう」

 

空襲で焼かれたような水名の街を歩いていく。

 

脇道に入り、人気も無い開けた場所に進んでいく彼は後ろの連中に気が付いている。

 

水名地区に入った辺りからつけてくる連中がいるせいで対処するしかないようだ。

 

(…性懲りもない奴らがいるな。神浜市に差別をもたらしてきた中心街なだけはある)

 

広場で後ろを振り向けば数人の水名住民達が立っている。

 

「随分と物騒なもんを持ち歩いている連中だな?俺に何の用事だ?」

 

「貴様の演説のせいで…俺達は全国から悪にされたんだ!!」

 

「東の回し者め!!お前だけは生かしちゃおけねぇ!!」

 

鉄パイプや金属バットで武装した水名の男達が威嚇してくる。

 

「随分と気品溢れる連中だな?流石は神浜歴史の象徴地区で暮らしてきた…クソッタレ共だ」

 

首を左右に鳴らした後、余裕の表情を浮かべながら手招きする。

 

「御託を並べても聞く耳もたないんだろ?始めようぜ」

 

「言ったな!!後悔させてや…っ!?」

 

暴漢の肩を背後から掴んできた人物に目を向けると罵声を浴びせられる。

 

「いい加減にしなさい!!恥ずかしくないのですか!?」

 

「みふゆ…?それに…お前達まで…?」

 

彼女に続くようにして立つのは水名女学園に通う魔法少女達。

 

天音月夜、竜城明日香、阿見莉愛、胡桃まなか、梢麻友のようだ。

 

「いい加減にして!わたくし達がもたらしてきた差別のせいで大勢の人々が苦しんだのです!」

 

「そうですわ!こんな水名の歴史なんて…価値はないですわよ!人々を苦しめるだけだった!」

 

「この水名に武道の心を伝えられなかったのは…竜真館の恥でした。正させてもらいます!!」

 

「歴史とは後世に残すものです!私達がもたらしてきた差別なんて歴史ですら語りたくない!」

 

「まなかは水名の学校に通ってましたが…水名の人達が嫌いでした!酷い差別の街でしたよ!」

 

今までこの街に対して黙ってきた若者達が吼える。

 

勇気をくれたのは誰よりも前に立ち、神浜の差別の歴史を正そうとした者がいたからだろう。

 

「その制服…水名女学園の女子生徒共か!?お前ら同郷だろうが!東側に寝返るのかぁ!!」

 

「寝返る?同じ神浜で暮らす者達でしょう!?寝返るも糞もありませんわ!」

 

「阿見先輩の言う通りです!まなかはまなかの料理を食べに来る人を差別はしません!!」

 

「わたくしはこんな差別の街…出て行きたかった!でも間違ってた…諦めてただけでした!!」

 

「古都として芸術的に美しかったけど…そこで暮らす人間は美しさの欠片もない野蛮人です!」

 

「私達はそんな水名の者…周りの慣習や差別を黙認して…悪の一部と化してきました…」

 

「もう黙りません!差別の歴史は武道精神に反するのです!我が身を捨てて仁とします!」

 

魔法少女としてではなく、水名で生きた人間として彼女達はここに立つ。

 

この戦いは魔法少女としての戦いではない、だから魔法さえ彼女達は使わない。

 

自らの勇気だけで水名の歴史と戦う意志こそ、演説台の前に立った尚紀と同じ覚悟であろう。

 

「我々は水名の街を東の連中に焼かれたんだぞ!!なのに味方するっていうのかよ!!」

 

「当然の報いですわ!私も差別を黙認した悪として…仕事を無くす罰が与えられましたわ!」

 

「それでも阿見先輩は負けませんでした!!あなた達は阿見先輩以下です!!」

 

「わたくしももう…同調圧力社会には負けません!愛する妹と共にこの街で生きたいから!!」

 

「嘉嶋さんは言ってくれました!私達に見えたのは古都の美ではない…エゴで偏る世界です!」

 

「だからこそ!水名の者として…もう一度歴史と向き合いたい!他県にも誇れる街にしたい!」

 

「水名が西を壊したのです!同調圧力社会を築き…前に進みたい住民達の心を殺してきた!」

 

彼女達の叫びを聞かされる尚紀はさっき助けた子供の事を思い出す。

 

(子供には何も関係なかった…大人がもたらした差別のせいで…子供の未来が犠牲にされた…)

 

彼女達の迫力に気圧されたのか、差別主義者達がたじろいでいく。

 

そんな者達に目掛けてみふゆはこう叫ぶ。

 

「私達はこの世に生まれてきたんですよ!なのに周りに左右される人生なんてあんまりです!」

 

――そんな人生…生きている価値なんてありません!!

 

「この裏切り者共がぁ!!女だからって容赦しねぇぞ!!」

 

「やろうと言うのですか?」

 

明日香がみふゆの前に出た後、木製薙刀を構えてくる。

 

「こ…この子…知ってるぞ!水名でも有名な武術道場の娘だ!!」

 

「竜真館だったか…?あそこの娘はたしか…鬼のように強いとかいう噂を聞いた事が…」

 

「言っておきますが、これは型用の薙刀です。打ちどころが悪ければ死にますよ?」

 

明日香の迫力に恐怖を感じた者達は一目散に逃げていく。

 

「く、くそ!!覚えてろよ…裏切り者共!お前らはもう水名で生きられないからな!!」

 

負け惜しみの捨て台詞を吐いた者も逃げ出す姿を彼女達は黙って見送る。

 

「あれが…私達が生きてきた水名の姿なんです。上品な言葉使いや教養を学ばされてきても…」

 

「水名の者達の中身は…最低の屑でしたわ。見栄っぱりでしかなかったのよ…」

 

「東住民の方がずっと立派です。見栄を張らないだけ下町人情がありました」

 

彼女達の勇士を見届けた尚紀は拍手を送ってくる。

 

「…やれば出来るじゃねーか?俺が演説台の前に立つ必要もなかったぐらいだ」

 

「そんな事ないですよ…全国の世論が味方をしてくれなければきっと…叫べませんでした」

 

「だからこそ、最初の一歩を踏みしめてくれた嘉嶋さんは…神浜の英雄なんです」

 

「私やあきらさん、それに美雨さんが追いかけたい背中です!尚紀さんの生き様は英雄です!」

 

英雄英雄と連呼された尚紀の顔が下に向いてしまう。

 

「……そうか、よかったな」

 

まなかが肘で阿見莉愛を押した事で彼女はオドオドしながら尚紀の前に出てくる。

 

「あの…えっと…ちゃんと話をするのは初めてですわね。私は阿見莉愛と言います、嘉嶋さん」

 

「……何の用事だ?」

 

「私はあの時…貴方を罵倒しちゃったから…謝ろうと。ごめんなさい…私、勘違いしてた…」

 

「……そうか」

 

「努力をしても届かない辛さを知ってるのに努力の自由を東から奪おうとした…最低でしたわ」

 

「……修正していけ。間違えば終わりじゃない、やめたら終わりだ」

 

「そうだと思ったからこそ、私…もう一度モデルを目指し直すつもりなの…」

 

「阿見先輩はですね…契約解除された事務所を変えて、やり直そうと面接を受けてきたんです」

 

「……そうか。世論の流れも変わってきている、今ならバッシングも受けないだろう」

 

「受かるかどうかは分からない…それでも私…絶対にモデルの夢を諦めたくないの…」

 

「阿見先輩なら大丈夫!まなかが保障してあげますから、大船に乗った気でいいですよ!」

 

「……お前の道を進め、人には勝手な事を言わせておけ。俺から言えるのは…それだけだ」

 

「その通りです!せっかく生まれてきたんだし、阿見先輩は阿見先輩でいいんです!」

 

「二人とも…ありがとう。そう言ってくれると私は嬉しい…それでもまだ、周りが怖いわ…」

 

「……周りの事を気にして繕い、飾ろうとするな。俺みたいに苦しむぞ」

 

「えっ…?」

 

その言葉を聞いた阿見莉愛は胸が締め付けられる。

 

(阿見先輩は天然モノの美少女にしてほしいって願った…奇跡で整形した人に…その言葉は…)

 

「どういう意味ですの…?私の美しさが…繕って飾ろうとしたですって!?」

 

「お前は誰なんだ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「私を侮辱する気ですの!?」

 

「周りに合わせた飾りなどに価値はない。お前には、お前にしかない強みがある」

 

「私にしかない…強み?」

 

()()()()()()()()()()()()()()だ。プライドに溺れる者は間違いを認める勇気さえない」

 

「それは…そうだけど…」

 

「敵なんて何処にもいない、()()()()()()()()。ガムシャラなぐらいで丁度いいんだよ」

 

「美しく生きるんじゃなくて…ガムシャラに…生きる…?」

 

「自分の心に目を向けろ。自分の心に積極性がなくなった時…人の存在価値は死ぬんだ」

 

「私の心に目を向ける…私が私の心の言葉に…目を向ける…」

 

「モデルの夢を諦めたくない。その夢を与えてくれた人の真似がしたいから進むんだろ?」

 

「私が…真似をしたいと思った…憧れのモデルは…その…」

 

「お前がそいつと同じになる必要はない。お前はお前にしかない強さを持ち、それを極めろ」

 

「私…本当に…その人に勝てるの…?こんな私なんて…奇跡に頼らなかったら…」

 

「お前はつぼみだ。豪華ではなく派手でもない。しかし慎ましい佇まいは心をほぐしてくれる」

 

「私は…つぼみ…?」

 

「つぼみにしかない可憐さもあり、開花に向かうエネルギーに満ちている。生命と可能性だ」

 

「私も…自分に目を向けて…ガムシャラに生きれば…いつか本物の花のように…咲ける…?」

 

「お前を開花に導く温かさは仲間達が与えてくれるだろう。自分の本当の強さを探して極めろ」

 

尚紀は阿見莉愛の本当の美しさに興味があると言ってくる。

 

「いつかきっと、本物の美しさが、周りに対して飾った虚飾を超える日がくる」

 

「虚飾を超える…魔法で整形した私なんかに…そんな可能性が…あるんですの…?」

 

「埋もれた可能性を磨くのは虚飾の下側にいる本当のお前だ。()()()()()()()()()()()()んだ」

 

莉愛の頬に雫が落ちていき、両膝が崩れ落ちる。

 

「私…初めて…本当の私を…美しいって…言ってくれる人と出会えた……」

 

「阿見先輩……」

 

「えっ…うえっ…あぁぁ…あぁぁ…あぁぁぁぁ~~……っ!!」

 

泣き崩れてしまい、場がしんみりした空気となる。

 

「今言った言葉は俺にもブーメランになる…開花に導くいい仲間と出会えたお前が羨ましいよ」

 

その場から去っていく尚紀の背中を見送る魔法少女達は口々にこう語っていく。

 

「たとえ空気を濁してでも誰かを批判出来る勇気…見習いたいものですね」

 

「だからこそ、わたくし達を命懸けで批判してくれた人なんだと思います…」

 

「まなか…あの人の事を誤解してました。謝りたかったけど…行っちゃいましたね…」

 

「仁義に溢れる者は礼儀や知識だけあればいいのではなく…勇気を示す信念も必要ですね」

 

「五常の徳…()()()()()ですね。尚紀さんの姿こそ…私の理想のサムライです」

 

「でも…まなかの気のせいでしょうか…?」

 

――尚紀さんの背中の方が…阿見先輩よりも泣きたそうなぐらい…寂しそうでした。

 

 

依頼は無事に達成したこともあり、今日の仕事は早めに終わる。

 

家に帰ろうと車悪魔のクリスの元に向かっていた時、買い直したスマホが鳴り響く。

 

「これは…嘉嶋会からの電話か?何かあったのかな…」

 

通話ボタンをスライドさせると藤堂からの連絡であり、大声を上げてくる。

 

「ボスーーッッ!!大変な騒ぎになった!!今直ぐこっちに来れそうか!?」

 

「何か…トラブルでもあったのか?」

 

「とにかくこっちに来てくれ!アンタを出せ出せって…大変な騒ぎだぞ!!」

 

「大事のようだな…分かった。代表として今直ぐ向かおう」

 

車で移動する彼は中央区とほど近い工匠区のオフィスに近づいていた時、異変に気付く。

 

「ダ…ダーリン…何なの…あの凄まじい人だかり…?」

 

「嘘だろおい…何があったんだ!?」

 

視線の先にはマンションオフィスを囲む大勢の東住民達が集結している。

 

「離れた場所から近付いた方が良さそうだな…」

 

「気をつけなさいよ。何が起きてるのか分からないから…」

 

離れた駐車場にクリスを停めた後、徒歩で近寄っていく。

 

集団に近づいていた時、工匠学舎の女子制服を着ていた少女が叫ぶ。

 

「見て!!神浜の英雄が来てくれたよ!!」

 

叫んだ人物は千秋理子であり、東の住民達が歓声を上げてくる。

 

<<神浜の英雄ばんざーい!!>>

 

<<俺達の街を救ってくれた英雄ばんざーい!!>>

 

大きな声で歓声を上げる民衆達を見つめる尚紀は戸惑いを隠せない。

 

弁当屋の理子は嘉嶋会に彼がいるのを知っていて、それを周囲に伝えたせいで拡散する。

 

集まった民衆は神浜に根差した差別を封印してくれた恩人に感謝を伝えるための集いであろう。

 

一人の少女が駆け寄ってきて紙とリボンで包んだオレンジ薔薇を差し出してくる。

 

「最高の演説でした、尚紀さん!!私…貴方の事を誤解してました!!」

 

「お前はたしか…花の魔法を使ってきた奴だったか?」

 

花束を渡してきたのは西側住民であり、花屋で働く魔法少女であろう。

 

「春名このみです。私だけでなく、周りが怖くて差別反対と言えなかった人達もいますよ」

 

「西側の連中まで来てくれていたのか…どうりでとんでもない集団になるはずだ…」

 

「その…本当にすいませんでした。貴方の事を疑って…悪者レッテルを張ってしまいました…」

 

「済んだことだ、気にするな。それに…この花いくらだ?タダで貰うわけにもいかない」

 

「ブロッサムの店長も怖くて差別反対と言えなかった人です。この花は感謝の気持ちなんです」

 

「…その人の気持ちを踏み躙るわけにもいかないな。オレンジ薔薇は大事に飾らせてもらう」

 

「花言葉は熱望と絆です。皆の熱望を叶えてくれて…神浜に絆の環をくれた人に相応しいです」

 

「……そうか」

 

「えへへ♪みんな尚紀さんに感謝してるんですよ!」

 

横を見れば、いつの間にか理子も来てくれている。

 

「理子…もしかしてお前が嘉嶋会の事を住民達に伝えていったのか?」

 

「いけませんでした…?だって、千秋屋のお得意さんが神浜の英雄だなんて黙ってられません」

 

「…まぁいい、黙っていてもいずれバレていただろう」

 

「私…泣いちゃうぐらい感動しました!やっぱり尚紀さんは…子供達のヒーローです!!」

 

疑いもなく真っ直ぐな瞳を向けてくる者に対して彼の心は切り裂かれる程に苦しんでいく。

 

「素敵なお兄~さん♪お父ちゃんの工場を救ってくれて…本当に感謝してるよ!」

 

「お前はたしか…裁縫道具箱に入ってそうな武器を使ってた奴だな?」

 

「矢宵かのこです!工匠区で工場を経営してる家の娘で…ファッションデザイナー志望なの!」

 

「どうりで裁縫道具のような武器を振り回す奴だと思ったよ」

 

「その…本当にごめんなさい。私達…貴方に報復なんて…するべきじゃなかった…」

 

「…いいんだ。俺はそれだけのことをした存在…報復されて当然なんだよ」

 

「そっか…そう言ってくれる優しい人だからこそ、神浜のために叫んでくれる人なんだね」

 

「……俺は褒められるような奴じゃない」

 

「謙遜しないの♪あっ、お兄さん結構いい生地使ってるコート着てるね?こだわりのある人?」

 

「こだわりというか、生地や裁縫がしっかりしてる服じゃないと破れやすいんだよ」

 

「成程、コストを度外視してでも実用性を重視する服装選びをするセンス…気に入ったわ!」

 

「な、なんだって…?」

 

「嘉嶋さんでいいんだよね?今度さ、体の採寸をしていい?貴方に似合う服を作りたいの!」

 

「ファッションデザイナーの卵らしい意見だな。けど、服は間に合ってるし…」

 

「贈り物だと思って協力して!私…男の人の服だって作りたいの!ねぇねぇ、いいでしょ?」

 

「そんなに顔を近づけてくるなよ…考えておく…」

 

「期待しながら待ってるからね♪」

 

目を輝かせるかのこの隣にいるこのみにも顔を向けてみる。

 

(なんだ…あのこのみの表情は?ご愁傷様ですとか言いたげな表情だな…?)

 

不穏な気配を感じていた彼は他にも近寄ってくる少女達に顔を向ける。

 

「あ…あの…僕…じゃない、私…水樹塁って言います。先日の無礼を…許して下さい…」

 

「気にするな。お前はたしか…痛々しい言動が目立った奴だったな?」

 

「えっと…その…私はゲームやネット小説が大好きで…妄想するのが好きだから…その…」

 

「そうか…あの言動にはそういう理由があったんだな。それと、隣にいる連中はたしか…」

 

「…吉良てまりです。私達…貴方の事を誤解してました」

 

「古町みくらよ。ごめんなさい…私達は貴方の言葉の意味すら考えずに…襲ってしまったわ」

 

「三穂野せいらです。本当に…ごめんなさい。映画監督を目指すのに…全体が見えなかった…」

 

「…頭を上げてくれ。俺だってお前達に大怪我をさせた悪党だ。あんなやり方は間違ってた…」

 

「そう言ってくれて…本当に助かるわ。私達ね、貴方に凄く興味が湧いたの」

 

「貴方の言霊は魔法を超えてたと思う。私もあれ程の言霊を文で描けるようになりたい…」

 

「文学者になりたいのか?」

 

「私はきまぐれ屋。ただ文を描く才能があったみたいだから…契約したんです」

 

「きまぐれ過ぎるだろ…それで?文を描く才能を極めてみたいのか?」

 

「私は言霊を文で綴れる者になりたい。だけど今の私は魔法頼り…和歌や本を読んでるけど…」

 

「それだ」

 

「えっ?」

 

「本を読んで満足するから経験にならない。実践しないから知った知識に深みが生まれない」

 

「読書では…教養にはならないと?」

 

「英語を6年間習っても日本人は英語すら話せない。本なんて読ませるから身につかないんだ」

 

「習うよりも…実行する事が大切だと言いたいんですか?」

 

()()()()()()()()()。平面より立体。書き物や言葉でも経験とタイアップすると立体になる」

 

「そ…そういう仕組みだったんですね…深みがないと沁み込まない…水と同じです」

 

「頭の中で解ったつもりにはなるな。俺は行動で実行していく者だ」

 

「どうりで貴方の言霊には私にない力があるはずです。私はこの街の差別を黙認した者だし…」

 

「修正していけばいい。お前もまだ若い、人生はこれからさ」

 

「フフッ♪嘉嶋尚紀さんね…私…あなたの事が気に入りました。これからも宜しく♪」

 

「吉良共々、よろしく。私は歴史が大好きなの…今度、歴史の背後にいた悪魔について…」

 

「それについてはヴィクトルに聞いてくれ。俺だってこの世界の悪魔に詳しいわけじゃない」

 

「嘉嶋さんって、凄くスタイリッシュな戦い方ですよね!アクション映画好き?」

 

「まぁ…嫌いじゃないが…」

 

「なるほど!今度オススメのアクション映画について、色々お話ししようね!」

 

「どうしてそうなる…?」

 

賑わう周囲の中、1人だけ浮いているのは水樹塁であろう。

 

「あ…あの……」

 

「…今度は何だよ?」

 

「私…闇の覇王になりたいんです。あなたこそ、私の理想である…()()()()だと思います!!」

 

混沌の悪魔達以外でも混沌王と言われてしまったためか、尻が酷く痒くなったようだ。

 

「闇の覇王の素質について…えっと…色々ご教授してもらいたく…」

 

「そんな概念は周りの連中が勝手に作るもんさ。お前の道を進め。周りの勝手に踊らされるな」

 

「なるほど…それが覇王の素質なんですね!僕…また一歩、覇王の道に進めた気がする!!」

 

(……本当に痛々しい小娘だよ、コイツ)

 

住民達も集まってきて多くの人々から賞賛されながら感謝の言葉を伝えられる。

 

英雄だの救世主だのと言われる尚紀の顔は感謝を語った住民の数だけ凍てついていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

解放された頃には日も沈んでおり、尚紀はクリスの元まで戻ってくる。

 

扉を開けてオレンジ薔薇を助手席に置いた後、彼はこう告げてくる。

 

「……クリス、夜風に当たってくるから遅くなる」

 

「えっ…?何かあったの、ダーリン?」

 

彼は何も答えないままクリスの元から去って行く。

 

工匠区を超えながら東に歩いてしまい、気が付けば大東の団地街近くである。

 

「英雄だのメシアだの…勝手な事ばかりほざきやがる…」

 

彼は確かに神浜市を救ったのかもしれない。

 

だが彼がもたらした理屈によって、日本が乗っ取られるというのも分かっていたのだろう。

 

「ああ言うしかなかった…平等の概念を振りかざす者が他の地域はどうでもいいでは…」

 

神浜の平等は語るくせに、他の地域の平等はどうでもいいのかよ?

 

もしあの時、西側の人々の誰かがこう言えば彼は黙るしかなかったろう。

 

「俺や佐倉牧師…それにかなえから聞いた他の可能性宇宙の魔法少女の思想である環の輪は…」

 

――()()()()()()()()()()()()思想だったんだよ。

 

国や民族を守るためのナショナリズムはリベラルやグローバルという共産主義とは相性が悪い。

 

地域の人々の生活と幸福を優先しなければならないのに、他の地域住民の負担までやれという。

 

国土や経済規模が小さい国々において、そんな負担は最初から耐え切れない。

 

断れば環を乱す差別国家だと罵倒するのが自由・平等・博愛という名の侵略行為。

 

「やちよの掲げたマキャベリズムこそが…国防における政治思想の正しさだったんだよ…」

 

だが彼は社会主義を掲げながら七海やちよにこう告げる。

 

自分達の社会ばかりを優先せず、人間社会も平等に扱えと強制してくる。

 

社会主義を掲げる者が現れなければ魔法少女達の負担は軽かったろう。

 

しかし人間社会を優先しろで状況は変わる。

 

他の地域住民であり民族とも言える人間達を優先しなければならない苦しみを味わうのだ。

 

「博愛だの平等だのは地域や民族を守るのに弱い。環の輪によって他の地域主権が脅かされる」

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり…国という地域を守る答えだったんだよ。

 

それを認めれば今度は差別を撒き散らす西側の地域主権まで認める事になるだろう。

 

地域主権の名の元に、地域を攻撃してきた敵国ともいえる東側を断罪しろと叫ぶだろう。

 

そこに社会主義者が現れて、神浜市に根差した差別を超えろという負担を押し付けてくる。

 

博愛の名の元に西側地域主権は壊され、東のテロで犠牲になった人達の苦しみは踏み潰される。

 

「魔法という卑劣な手段を使わないで超えられる考えが…見つからなかった…」

 

彼の頭に浮かぶのは奇跡という名の洗脳魔法が使えない頃の佐倉牧師であろう。

 

「あんたは正々堂々とした覚悟のまま…対話による変革を望んだはず…俺も背中を追ったよ」

 

なのに結果は杏子の洗脳魔法で信者を会得した頃の佐倉牧師と変わらない現実が彼を苦しめる。

 

大東区の団地街入り口まで歩いてきた彼の両膝が崩れて膝立ちとなる。

 

「何が英雄だ…何がメシアだ…」

 

──私は、彼らにとって真実でない事を信じさせようとした。

 

「俺は…俺達は…()()()()()()()()()()()()でしか…なかったんだぁ!!」

 

蹲りながら震える背中を晒している。

 

自責の念に堪え切れなくなった尚紀の心は佐倉牧師と同じように壊れようとしている。

 

「尚紀さん…?」

 

知っている人物の声が聞こえた事で濁った眼を向けていく。

 

近寄ってきていた人物は私服姿の八雲みたまのようだ。

 

「み…みたまか…?そうか…俺は…団地街にまで…歩いて来てたのか…?」

 

「大丈夫なの…?どこか苦しいの…?」

 

「…なんでもない、なんでもないんだ…」

 

「そんな訳ないでしょ!ほら、手を出して…」

 

彼女の手が差し伸べられた事で渋々と手を掴んで引き起こしてもらう。

 

「…ただの仕事疲れだよ。夜風に当たってたら紛れると思って…歩いてた」

 

「そう…尚紀さんも社会人だったわね。探偵の仕事はよく知らないけど…辛い仕事のようね」

 

「……まぁな」

 

「向こうに団地街の公園があるの。そこで少し休まない?」

 

「いや…俺は……」

 

「それにね…貴方に…伝えたい事もあるから…」

 

俯いてしまうみたまを見つめる彼は怪訝な表情を浮かべる。

 

俯いている表情はどこか頬を染めているようにも見えるからだろう。

 

心配かけさせまいと彼は黙って彼女の後ろをついていく。

 

噴水広場の前まできた時、みたまが振り向いてくれる。

 

「どうした…?」

 

俯いたままのみたまを心配してくれるが、彼女の肩は震えながら緊張している。

 

「どうしよう…歩きながら何を言おうか考えてたのに…胸が苦し過ぎて…何も思い浮かばない」

 

「お前の方こそ体を大事にしろよ」

 

顔を上げていくみたまの瞳は潤んでおり、突然駆け寄ってくる。

 

「おいっ?」

 

尚紀の胸に抱き着きながら顔を埋め、絞り出すようなか細い声が聞こえてくる。

 

「ありがとう…ありがとう…私達を救ってくれて…本当にありがとう……」

 

――あなたこそが世界を呪った私たち調整屋の…希望だった。

 

震えながら啜り泣き初めてしまうみたまに対して彼は動揺してしまう。

 

(世界を呪った調整屋…?どういう意味なんだ…?)

 

みたまが落ち着いた頃、彼は質問してくる。

 

彼女は重い口を開き、魔法少女としてどんな願い事をした末に契約したのかを語ってくれる。

 

「車の中で語ってくれた人間達に対する憎しみ…それが契約にも繋がってしまったか」

 

「私は夢と希望を叶える魔法少女なんかじゃない…人々に呪いと絶望を欲した魔法少女よ…」

 

「あの神浜テロはお前の望みが叶った光景だと言いたいのか?」

 

「そうかもしれないし…今となっては分からない。私の望み通り…神浜に呪いと絶望が訪れた」

 

「みたま……」

 

「燃え上る街を歩いていて後悔したわ…あんな地獄を望んでしまったのだと…自分を呪ったわ」

 

「…お前もエゴに飲まれたか。俺も怒りの炎を撒き散らし…大勢の魔法少女達を絶望させたよ」

 

「…私は罰を欲した。だからこそ、私は貴方に裁かれたいと…ずっと一緒にいて欲しいと…」

 

「それももう必要ないだろ?神浜市の差別の歴史は終わり、お前の憎しみの原因もまた消える」

 

「おかしな話よね…?裁く者の貴方が…私が呪い続けた街を救ってくれるだなんて…」

 

「…この街で多くの人と出会えた。それによって俺もまた過ちを正せた…感謝している」

 

「私もよ…貴方がこの街に来てくれたから…貴方と出会えたから…私は本当に救われた…」

 

頬を染めるみたまはまた俯いてしまい、彼が見守る中でか細い声を出してくる。

 

「ねぇ…尚紀さん…」

 

「…なんだよ?」

 

「私もね…令ちゃんに…負けたくない」

 

「どういう意味だよ?カメラマンとしてなら令の方が…」

 

「そういう意味じゃない…()()()()()()…負けたくない…」

 

顔を上げたみたまは真っ赤な表情をしており、瞳を潤ませたままこう告げてくる。

 

「裁く者として…ずっと一緒にいる約束は終わると思う。だからね…今度は…今度はね…」

 

朴念仁な尚紀であるが、流石にこの状況には気が付いてしまう。

 

彼女の口から語られる言葉は今の尚紀に告げるべきではないのだが、彼女は止まらない。

 

「私の希望の光として…ずっと傍にいて。私…貴方のことが…大好き…です…」

 

告白してしまったみたまは恥ずかし過ぎて顔を俯けてしまう。

 

肩を震わせてしまうのは断られた時を想像する恐怖心からなのかもしれない。

 

震えながらも告白した相手の返事を待ち続けるのだが、返事は返ってこない。

 

「……尚紀さん?」

 

顔を上げて彼を見た時、みたまは驚いてしまう。

 

尚紀の全身は震え上がっており、濁った目をしたまま震える唇で低い言葉を紡いでいく。

 

「よせ……やめろ……やめてくれ……」

 

「どうしたの…?私…何か貴方に悪い事でも…」

 

「俺は…俺は…人から好かれるような…男じゃないんだ…」

 

「な、何を言い出すの…?一体何が貴方をそこまで…」

 

近寄ろうとしてくるみたまに対して震える片手を向けながら制止させてくる。

 

俯いてしまう彼はもう片方の手で顔を覆ってしまう。

 

もうこれ以上、偽りの英雄の姿を大事な人達に見せたくない仕草にも見えるだろう。

 

「俺は…()()()()()()()()()()()()なんだ!!希望の光なんかじゃ…ないんだよぉぉぉぉ!!」

 

彼はみたまから逃げるようにしながら姿を消していく。

 

「待って!!何が貴方をそこまで苦しめているの…お願いだから待ってーっ!!」

 

追おうとするみたまであるが、彼の全力疾走にはついて行けずに見失う。

 

「尚紀さん…どうしちゃったのよ…お願い…行かないで……」

 

暗い夜道の世界に消えてしまった愛する人の姿。

 

暗い夜道の光景は彼の心を表すかのような不気味さを彼女に感じさせた。

 

 

何処かの路地裏の壁にもたれかかる男は両足を広げて寝そべり、だらしない姿を晒す。

 

ウィスキーの酒瓶も何本か転がっており、飲み干されている。

 

「ヒック…どいつも…こいつも…俺を勝手に…希望の光だとか言って…祀り上げやがる…」

 

袋の中の酒瓶を手に取り、蓋を開けて飲み始める。

 

口から漏れ出る雑な飲み方をしていた彼であったが無理が祟ってしまう。

 

「ぐっ!!?」

 

強烈な吐き気に襲われた尚紀は堪えるかのようにしながら地面に倒れ込む。

 

体を痙攣させていく堕落した男の姿はまるで心が壊れてしまった頃の佐倉牧師であろう。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

 

吐き気を堪えたようだが、また酒瓶を拾い上げて残りを飲み始める。

 

飲み切った酒瓶を乱暴に捨て、コートの袖で口を拭きながら呪いの言葉を吐き出していく。

 

「お前らは…()()()()()()。本当に英雄なのか…希望の光なのか…調べてもくれねぇ…」

 

都合のいい存在だけを欲する者達こそ、彼にとっては情報娯楽だけを求める愚民に見える。

 

「フッ…ハハハ…こんな楽な事はない…お前らは…追い込み猟で罠にかかる獲物も同然だ…」

 

周囲を包囲して獲物を囲むが出口を一つ用意しておく。

 

獲物は出口に向かって走り逃げ、出口に仕掛けられた罠によって捕らえられる。

 

「都合のいい答えばかりを求めて飛び込んでいく…まるで…()()()()()()()のようだ…」

 

()()()()()、そして今の人修羅は()()()()()とも呼ばれるかもしれない。

 

ラテン語でルシファーを表す悪魔概念そのものに成り果てている。

 

その者は暁の星の如く美しく輝くが、堕天して醜い悪魔王と化す。

 

()()()()()()()()()()()()()のだと神浜市に現れたバアル神が残した言葉通りの光景であろう。

 

悪魔として生んだ親、流れ着いた世界で育ててくれた親、今の尚紀はどちらの親にも酷似する。

 

「俺が…子供のヒーローだと…?クックックッ…違うね…」

 

袋から酒瓶を取り出しながら日本の偏向メディアが報道しない移民犯罪の現実を語っていく。

 

「欧州で移民に凌辱され…股から精液を流しながら親に泣きつく少女達を知らないのかよ…」

 

蓋を開け、壁にもたれながら再び飲み始める。

 

「俺は子供の強姦魔を喜んでこの国に招く英雄様だ!!ハハハ!!移民犯罪に乾杯だぁ!!」

 

乾いた笑い声を出しながら飲み続けているとスマホの着信音が鳴り響く。

 

「深夜0時を超えてんぞ…おまけに知らない電話番号。まぁいい…酔っ払いが相手してやる」

 

電話ボタンをスライドさせた酔っ払いは通話を始める。

 

「誰だぁ~テメェ?」

 

通話相手は何も答えない。

 

「シカトすんならもう切るぞ~…」

 

電話を切ろうとした時、尚紀にとっては家族の声が聞こえてくる。

 

「……尚紀」

 

その声を聞いた瞬間、急激に酔いが冷めていく。

 

「杏子……か?」

 

「この前、見滝原で会ったばかりだろ?なんだか何年も見かけなかった人物のように語るな?」

 

家族の声を聞いた瞬間、この世界に流れ着いた頃の記憶が脳裏を過る。

 

「テレビ見たよ…久しぶりに電話をしてみようかと思ったのは…アンタを懐かしく思ったから」

 

風華がいて、佐倉牧師がいて、佐倉牧師の妻がいて、義妹とも言えた姉妹がいた記憶が蘇る。

 

「演説していた姿…カッコよかったよ。まるで…死んだ父さんみたいだった…」

 

新しい家族や、大切な人と巡り合えた頃の幸せな記憶が巡っていく。

 

「尚紀の中に父さんが生きている…なんだかさ…父さんは死んでなかったんだって気がして…」

 

「……杏子」

 

震えた声を聞いた杏子は違和感に気が付いてしまう。

 

「俺は…佐倉牧師の姿なんかじゃねぇよ…おぞましい…悪魔なんだ…」

 

「ど…どうしたんだよ…?もっと自信持てよ…アンタは神浜を救った英雄だろ?」

 

「英雄だと…?押しつけがましい理想を俺に押し付けるぐらいなら…売国奴と呼べよ…」

 

彼の豹変ぶりを聞かされた杏子の脳裏に苦い記憶がフラッシュバックする。

 

心が壊れ、酒浸りとなり、家族に乱暴し、杏子を罵った佐倉牧師の姿が蘇ってしまう。

 

「やめて…くれよ…尚紀…!!アンタ…そんな部分まで…父さんに似ることねーだろ!!」

 

「俺はもう…お前の家族失格者だ…いつでも敵討ちに来い…首を洗っておいてやる…」

 

「何言い出すんだよ!?アタシにはもう…新しい人生がある!!前に言っただろうが!?」

 

「頼む…頼むよ杏子…俺は罪人なんだ…。皆から英雄だなんて…言われたくねぇよ!!」

 

「…何があったんだ?そっちの人達には語りたくないなら…アタシにだけは語ってくれよ…」

 

「聞いて…くれるのか…?」

 

「こんなんでも、アタシはまだ…アンタの最後の家族なんだぞ?」

 

尚紀の目から涙が零れ落ちてくる。

 

「お前にだけは語らせてくれ…真実を知っても…俺の事を…嫌いにならないでくれぇぇぇ…っ」

 

涙ながらに語っていく尚紀の姿を見かける者達はいない。

 

英雄だのメシアだのと賞賛される人物の栄光の姿など何処にも見えない。

 

その姿はまるで()()()()()()()()と人々に哀願する者のようにも見えるはず。

 

かつてのダンテはこう言った。

 

――そんなんだから、お前はいつまでたっても()()()()()()()()()()なのさ。

 




変な時間に目が覚めたので投稿します。
みたまさんの青春モードですが、この話は原作まどかマギカのテーマを使う物語。
100%の善意によって、相手に呪いを与える救いの無さ(さやか&仁美展開)
人修羅君はとことん苦しむ、だってメガテン主役だし(汗)
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