人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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150話 国賊の剣

日曜日の朝。

 

ゴミ袋が集められている山の上に倒れ込むようにして寝ていた尚紀が起き上がっていく。

 

酷い二日酔いによってもたらされる頭痛に耐えながら街を歩いていると声をかけられたようだ。

 

「あっ!!」

 

視線の先にいたのは差別が解消される期待が大きい西側に出かけようとしていた月咲である。

 

「尚紀さん!テレビ見ましたよ!!」

 

駆け寄ってきた時、月咲は感じるだろう。

 

「ウチ…本当に嬉しかった!尚紀さんが叫んだ言葉は東の人達の……うっ!?酒臭い…」

 

酷い酒臭さを浴びたせいか顔を歪めてしまう。

 

「……そうだ。そういう顔つきで俺を見るべきなんだよ…」

 

「ど、どうしたんですか…?浴びる程の酒を飲まないと…こんな風にはなりませんよ?」

 

「お前には関係ない。それよりも…ここいらで一番近い駅は何処だ?」

 

「工匠区の駅ですか…?工匠区は駅が少なくて、橋を渡って参京区に入った駅の方が近いです」

 

「……分かった。…ありがとう」

 

月咲から送られる感謝の言葉も受け取らずに歩き去っていく。

 

「尚紀さん…どうしたんだろ?何か…嫌な事でもあったのかな…?」

 

怪訝な表情を浮かべながらも神浜を救った英雄の背中に向けて深々とお辞儀を向けてくれた。

 

……………。

 

北養区の街を歩く人物達がいる。

 

「えへへ…尚紀さんが喜びそうな品は分からないから、実用的な品でいいですよね?」

 

「ん…。尚紀は探偵だし…仕事着はネクタイ姿だから…贈り物はネクタイでいいと思う」

 

「本当に…凄い人です。ボク…あの人と出会う運命を与えてくれたこの世界に…感謝してます」

 

「あたしも気持ちは同じ…。魔法少女やってた頃に…出会いたかったな」

 

プレゼントを包んだラッピング袋を抱えて歩くのはメルと付き添いのかなえのようだ。

 

彼女達は尚紀の家がある丘の方に向けて小高い坂道を歩くのだが素っ頓狂な叫びが聞こえてくる。

 

「ちょっと~あんた達~~っ!!」

 

道路を走ってきたのはクリスのようだ。

 

2人が歩く横道に停車して悪魔同士の会話を始めていく。

 

「アタシのことはダーリンから聞いてるでしょ!?ちょっと聞きたいのよ!!」

 

<クリスさんでしたっけ?あと、普通に悪魔会話をするのは勘弁して下さい…>

 

<念話を使って…。普通の会話だと…あたし達は車に話しかける変人に見られるから…>

 

<あっ……それもそうね。ごめんなさい>

 

<聞きたいことって何ですか?>

 

<昨日の夜からね…ダーリンが帰ってきてないのよ!!>

 

クリスの報告を聞いた2人は驚愕に包まれた表情を浮かべてしまう。

 

<どういう…ことなんですか?最後に尚紀さんを見たのはいつです!?>

 

<工匠区の駐車場で見たのが最後よ。夜風に当たりに行くとか言って東に向かったけど…>

 

<大東区方面に…?尚紀の様子に…何かおかしい部分はなかった?>

 

<凄く…落ち込んでいる様子だったわ。東連中が大勢集まってきててね、英雄様万歳合唱よ>

 

<ボクもその場にいたかったんだけど…プレゼント品を漁りに買い物に出かけてました…>

 

<尚紀がいつまでも帰ってこないから…家に戻ったというわけだ?>

 

<ネコマタから尚紀に連絡してもらったんだけど…ダーリンったら、スマホの電源切ってるわ>

 

<余程…人を遠ざけたい状態だということですね…>

 

<うちも新入り含めてダーリンの捜索に出向いてもらってる。しっかり者に見えて…繊細よね>

 

<そうなのかも…しれないですね。ボク達…あまりにも尚紀さんに頼り過ぎてたのかも…>

 

<無理させ過ぎたのかな…。尚紀にしか出来ないことはあるけど…だから苦しめてたんだね…>

 

<あんた達と出会えたのは僥倖よ!ダーリンから聞いてるわ、メル君だっけ?>

 

<もしかして…ボクが手に入れた予知の力を頼りにしたいとか?>

 

<モチのロンよ~!ダーリンの居場所をヨチヨチしてあげちゃって~!!>

 

<あたしからもお願いするよ、メル>

 

<分かりました。視てみますね>

 

両目を閉じ、こめかみに指を当てて意識を集中する。

 

「……どう?視えてきた?」

 

「これは…電車内の景色です」

 

「電車…?尚紀は電車に乗って…何処に向かってるんだろう?」

 

「ボクは電車オタクではないから…この電車がどの鉄道路線で使われてるのかは分かりません…」

 

「電車内から見える景色で何か分からない?」

 

「ボクは電車で旅をすることもなかったので…正直分かりませんね…」

 

「そっか…電車に乗って何処かに向かっているという情報しか分からないな…」

 

状況を把握したクリスは落胆の色を浮かべてしまう。

 

<ボク…尚紀さんにプレゼントを持っていく途中だったんです。それがこんな事になるなんて…>

 

<気持ちだけで十分ダーリンは喜ぶわ。帰ってきたら、ちゃんと渡してあげなさい>

 

<力になれなくてごめん…。あたし達もどうにかして探してみる>

 

<ありがとう♪ダーリンが生き返らせてもいいって言うぐらいの子達だと分かって嬉しいわ>

 

尚紀を捜索するためにクリスは再び発進していく。

 

不安な顔を浮かべるメル達も彼の行方が心配で溜まらないのか後悔の言葉を語ってしまう。

 

「尚紀さん…辛かったのなら言ってくれたら良かったのに…」

 

「もしかして…辛いからこそ、誰かに打ち明けに行ったとか…?」

 

「それも考えられますね…」

 

不安そうに空を見上げる者達。

 

不安を抱える者達の姿はここだけではなかったのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

竜真館の道場内で正座しているのは神浜魔法少女社会の新たなるリーダーの姿。

 

常盤ななかは目を瞑り、考え事を繰り返している。

 

「………はぁ」

 

答えが出ないのか深く溜息が出てしまう。

 

人の気配を感じたのか後ろに振り向くと見知った人物が立っていた。

 

「かこさん…?それに貴女は…観鳥さんじゃないですか?」

 

玄関先に立っていたのは仲間の2人。

 

「多分…こちらにいらっしゃると思って来ました」

 

「観鳥さんは…何か私に用事でしょうか?」

 

「夏目ちゃんだけでなく…常盤ちゃんも気が付いてるんでしょ?」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「ななかさん、観鳥さんはですね…尚紀さんの演説の正体に気が付いた人です」

 

「…そうでしたか。よく気が付かれましたね?」

 

「観鳥さんも最初は感動してた…。だけど、最後の部分だけは看過出来なかったんだ…」

 

「流石は政治ジャーナリストを目指す卵です。では…貴女もお悩みになってるのですね?」

 

「うん…。答えが出ないまま迷ってたら…夏目ちゃんに声をかけられてね」

 

「同じ悩みを抱えている者同士で相談し合いながら答えを出そうかと…」

 

「有難いです。私も独りで考えてましたが何も答えが出ないままでした…」

 

「それじゃあ、上がらせてもらうね」

 

「明日香さんからは許可を貰ってますのでどうぞ。それと…貴女達はつけられてましたね?」

 

「「えっ?」」

 

意味が分からなかったが背後から感じる魔力に気づく。

 

「ええっ!?い…いつの間にいたんですか…美雨さん?」

 

立っていたのは2人の後を追っていた美雨だったようだ。

 

「固有魔法を使て尾行してたネ。行儀が悪いことして悪かたヨ」

 

「そんな真似までして…観鳥さん達を尾行してきた理由は?」

 

「オマエ達がさき話していた内容ネ」

 

「あっ……」

 

「あの時…私達はナオキの演説に感動してたヨ。だけど最後の部分で令の表情に変化が見えたネ」

 

「バレてたか…。流石は裏社会を渡ってきた美雨さんだよ」

 

「何も語らず、不安そうな表情で帰る令が気になてたネ。隠し事してるとピンときたし」

 

「…バレてしまっては仕方ないですね。美雨さん、私がお伝えしますのでお上がりください」

 

「お邪魔するヨ」

 

4人は集まり、ななかが語っていく。

 

真実を聞かされた美雨は驚愕し、顔には冷や汗が流れ落ちる。

 

「…そういう手口だたカ。そして…ナオキが語た理屈は…落とし穴があたと言うカ?」

 

「この手口によって今…世界中の国々が荒らされているのです」

 

「酷いもんだよ…。欧州は既に移民天下の状態で、公共施設も移民文化で作り替えられてる」

 

「今のロンドンを知ってますか?まるでイスラムの国を見ているかのような有様ですよ…」

 

「ナオキの人権宣言は…移民にとて、都合が良すぎたというわけカ…」

 

「移民と自国民との間で激しいいがみ合いが起き、それが憎悪として国民に向けられるのです」

 

「この問題は神浜とて例外じゃないネ。移民は増え続けてる…南凪区一極化集中では収まらない」

 

「移民はポリコレという人権と多様性の政治によって守られ、欧州は移民の植民地となったんだ」

 

「ナオキの人権宣言は素晴らしい博愛と道徳精神ネ…。だけど…だけど……」

 

「はい…。博愛や道徳では守り切れないものがあるんです。それこそが…地域主権なのです」

 

「私…移民とのトラブルは多くを見てきたネ。そして…連中を摘まみだそうとすると…」

 

「蒼海幇は極右を掲げる差別団体…。そういう扱いを国から受ける危険性が大きかったのでは?」

 

「これが…平等なのカ!?平等という素晴らしい博愛によて…国が壊れるなんて…あんまりネ!」

 

「異なる存在の人達とも仲良くし…慈しみ…みんなで手を繋ぎ合って和(環)を築くってね……」

 

――そもそも…不可能なんだよ。

 

「…経済とは()()()()()()。移民に仕事を奪われたら国民が怒り…国民に奪われたら移民が怒る」

 

「憎悪しか…もたらさないんだ。だから移民を受け入れて成功した国なんて…なかったんだよ…」

 

重苦しい沈黙が場を支配していく。

 

「社会主義は地域限定にするべきです…。それこそが静香さん達が掲げてきた国家社会主義です」

 

「社会主義をグローバル化させるのが共産主義…それを推し進める国連は共産主義組織なんだ…」

 

「神浜は…神浜はどうなていくネ!?ナオキがもたらした思想によて…何が起こるカ!?」

 

「憎しみの連鎖は終わらないのです…。今度は東が相手ではなく…移民が相手となるでしょう」

 

「ナオキ…オマエはそれが分かてて…分かてた上で…神浜人権宣言を掲げたのカ…」

 

「尚紀さんは…間違っていたのでしょうか?私には……答えが出せません」

 

「観鳥さんも…出せないよ。平等を掲げた人権宣言のお陰で東が救われたのは…事実なんだ」

 

「神浜を救った英雄なのは事実です。ですが…それと同時に、新たなる災厄さえもたらす者…」

 

周囲が静まり返り、皆が俯いてしまう。

 

ショックで体が震えていた美雨であったが顔を上げ、決断した表情を向けてくる。

 

「……これはもう、()()()()()()()()()()()()と思うヨ」

 

「美雨さん……」

 

「ナオキは差別を黙認しないで戦てくれた…。弊害もあるけど…それでも間違えてないヨ」

 

「そ…それは……」

 

「そうです…よね…。神浜魔法少女社会に対してだって…やり方こそ間違ってましたが…」

 

「神浜の魔法少女達を批判してくれたお陰で…やり直すキッカケとなってくれた…」

 

「楽な道しか求めない魔法少女や人間は多い…。それでもナオキは…命を張てくれたネ」

 

「誰かの尊厳を守り抜く人であり…同時に目的のためなら手段を選ばない暴君でもある…」

 

他人を思いやれる優しい男。

 

目的のためなら手段を選ばない暴君。

 

人修羅と呼ばれる悪魔は秩序(LAW)なのか?混沌(CHAOS)なのか?

 

魔法少女達は選択を迫られる。

 

「世界なんて救いようがないと切り捨てる…それに反逆した男ネ。こんな男…今までいなかたヨ」

 

「私…尚紀さんを怖がってしまいました…。もしかしてあの時も…尚紀さんを傷つけたのかも…」

 

「光をもたらすと同時に闇をもたらす人…か。どっちが正しいのかな?観鳥さん…分からないよ」

 

美雨は立ち上がり、両足を肩幅に開いて両手を動かす。

 

「美雨さん…その構えは…?」

 

左手を頭上に掲げ、右手を下に向ける正中線の構えを皆に見せてくる。

 

「…見ているネ」

 

空手の回し受けと似ているような動き。

 

左右に大きく両腕を回し、そのまま両腕でS字を描くような型には見覚えがある者がいた。

 

「その動きは…太極拳ですか?」

 

左右の手が逆になった正中線の構えで描かれたのは陰陽太極図。

 

「攻めの手と守りの手は同時に存在するヨ。拳法は()()()()であり、万物の在り方ネ」

 

「光があれば…影もまた…同時に生まれる…?」

 

「傷つける事もあれば…傷つけられる事もある…。同時に備えるのが…陰陽理論?」

 

「ナオキが言た太極の根源とは…()()()()()。私達は常に…陰陽のコトワリの上で生きているヨ」

 

「私達は陰陽を見つめながら…どちらが正しいかと悩んでいただけ…?」

 

「人は陰陽を観測する者…だから流されやすいヨ。常に心を中庸に保ち、陰陽を取り扱うべしネ」

 

ななか達の表情から迷いが消えていく。

 

「す、凄いです美雨さん!私…陰陽理論に感動しました!!」

 

「フフッ、流石は美雨さん。あの嘉嶋さんの口から完敗だって言わせるぐらいの魔法少女さ♪」

 

「ウフッ♪私はきっと…太陽の光から生まれる影なんていらないって…我儘を言ってただけです」

 

「…ほ、褒めても何も出せないヨ!それに…拳法ではまだナオキに勝ててないネ!」

 

みんなから太鼓判を押された美雨は赤面しながら床に座り込んでしまう。

 

「私…尚紀さんに謝りに行きたい…。顔には出さなくても…苦しんでると思います」

 

「せめて…事情を知っている私達だけでも理解者になってあげたいですね…」

 

「中庸の徳たるや、それ至れるかな…孔子の言葉ネ。私達だけでも…ナオキを分かてやりたいヨ」

 

「それが中庸(NEUTRAL)の道…か。観鳥さんもジャーナリストとして…そうありたいね」

 

彼女達は道場に掛けられていた掛け軸に視線を向ける。

 

道場主である明日香の父自らが書道したもののようだ。

 

「心正しからざれば剣また正しからず…。心の正しさとは…()()()()()()()()だったのです」

 

「皆がナオキを悪者扱いして罵倒することになっても、私は正しいと言える勇気…()()()()ネ」

 

「一般的な意見に惑わされない中庸の心…竜城さんのお父さんもそれを目指してたんだね」

 

「ノルウェーの劇作家であり、近代劇の父であるヘンリック・イプセンの言葉と同じです…」

 

――この世で最も強い人間は、孤独の中でただ一人立つ人間だ。

 

自分を見失わず、孤独に耐えて立ち続ける強い意志を持った人間を目指す道。

 

彼女達が選んだのは秩序でも混沌でもなかった。

 

陰陽だけでは偏った見方しか出来ず、相争うだけの未来しか築けない流される道。

 

だからこそ尚紀は叫んだのだ。

 

三つ目の概念を生み出し、バランスを産みたいと。

 

それこそが彼がもたらしたルシファーの宇宙的啓示。

 

LAW・NEUTRAL・CHAOSの勢力は、()()()()()()()()()()と啓示したのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

東京。

 

平将門の首塚に向けて歩く人物とは二日酔いに耐えながら歩く尚紀である。

 

「ここしばらく…将門のところには顔を出していなかったっけ…」

 

久しぶりに訪問しようと遠出してきたようだ。

 

首塚に登るため石段を上っていると違和感に気が付く。

 

「な…なんだ…これは…?」

 

周囲の景色が歪んでいきホワイトアウトしていく光景に動揺を浮かべるが見た事もある景色である。

 

「あれはかつての世界において…将門の領域に入った時の光景だ」

 

世界に色が戻っていくとそこは薄暗い場所。

 

「坂東宮…再び来ることになるとはな。だが…以前に見た景色とはかなり違うな…」

 

広大な闇の世界に見えたのはあまりにも巨大な武家屋敷。

 

「俺をこんな場所に引きずり込むとは…何を企んでいる…将門?」

 

朱色に染まった鳥居を潜り、武家屋敷方面へと歩いていく。

 

屋敷内に入り、蝋燭の明かりを頼りに屋敷の回廊を進んでいく。

 

「似たような景色ばかりが続く武家屋敷って…方向感覚が分からなくなっていくな…」

 

畳の部屋に入って襖を開いて進んだり、曲がり角の多い廊下を当ても無く進む。

 

地下に下りる階段を降り、先に進んでいく。

 

「地底洞窟か…?」

 

滝に沿うように地底洞窟の道が続き、川には灯篭の明かりが灯っている。

 

洞窟の奥まできた尚紀は両開きの入り口を開ける。

 

「ここは……」

 

大きな地底湖の中央に見えた社こそ、かつての坂東宮の中央に位置した将門公が祀られた社。

 

階段を下りていき、地底湖の中央に聳え立つ社の領域へと入ろうとすると何かに気が付く。

 

「これは…結界だな?かなり厳重に張られている…さっきまでの領域といい…どういうことだ?」

 

怪訝な表情を浮かべていた時、将門の声が頭に響いてきた。

 

<久しいな、人修羅よ。何用か?>

 

<あんたに…聞いて欲しいことがあった。それと…この迷路のような領域は何なんだよ?>

 

<…賊共が東京に現れておる。これはそのための守りなのだ>

 

<賊共…だと?>

 

<汝がここまで来れたのは正解の道を我が与えた為。賊共が入れば手荒い歓迎となるだろう>

 

<なるほどな…。俺をそっちに入れてくれるか?>

 

<鳥居の結界は既に解けている。入るがいい>

 

幾重にも連なる朱色の鳥居を超え、将門の社の中へと入っていく。

 

社の中は神域の如き異空間となっており、奥底まで続く社内の鳥居の向こう側は異次元空間だ。

 

「再び…この場所に訪れる日が来るとはな…」

 

鳥居の奥底から近付いてくるのは、神の如き強大なる怨念。

 

現われし存在とは天皇の朝廷に対抗し、東国の独立を標榜して新皇と名乗った豪族。

 

「…その出で立ち。サムライとしてのあんたの姿を見るのは…初めてだな」

 

漆黒の全身甲冑を纏い、髷を下ろして後ろ髪を伸ばし、青白い顔には歌舞伎化粧を纏う存在。

 

日本三大怨霊の一つとして数えられ、禍々しい祟神であると同時に明神でもある御姿。

 

桓武天皇の血筋を持ち、新皇を名乗る資格は十分持っていた存在。

 

一千年の時を超えて関東を守護せし猛将…平将門公だ。

 

「その姿こそが…本来のあんたの姿ってわけかよ」

 

凍てつくような覇気を全身に感じ、人修羅としての尚紀でさえ冷や汗が浮かぶ。

 

「…賊共に備えるため、我もまた警戒している」

 

「賊共っていうのは…?」

 

無言の態度を向けてくるのは彼に語るべきかを迷っているのだろう。

 

「俺はまだ東京の守護者としての自分を捨ててはいない。聞く権利があるはずだ」

 

「…そうだな。守護者として知るべきであろう」

 

将門は語っていく。

 

かつて西洋からやってきた神々達から託されたものについてだ。

 

「馬鹿な……この世界にも存在していたというのか!?」

 

「そうだ。我が千年を超えて守ってきたのは邪教の秘術を行う施設……邪教の館だ」

 

「どうしてそれをもっと早くに教えてくれなかった!?」

 

「…西洋からやってきた神々との約定があったからだ」

 

「約定だと…?」

 

「邪教の秘術を求める者は太古の昔から多い。悪魔召喚士、魔法少女…あらゆる邪な者達が集う」

 

「あんたは…そいつらに見つからないようにするために隠し通してきたのか?」

 

「そうだ。だが…邪教の秘術文献の断片によって館と同じ施設が生まれているのは知っている」

 

「業魔殿のような施設か…」

 

「古の約定有る限り、我は邪教の館を表に出すつもりはなかった。しかし…」

 

「……ついにその存在を突き止めた連中が現れた。そいつらが賊共ってわけか…」

 

「彼奴らはダークサマナー。悪魔合体施設を求めるのは道理というものだ」

 

「まさか…イルミナティ共か!俺も守りたい…邪教の館は何処に隠されてたんだ?」

 

「我の首塚と並ぶようにして存在している我ゆかりの寺社を繋ぎ、結界を張って封印してきた」

 

「聞いた事がある…あんたの首塚を通して東京に描かれた()()()()か」

 

「北斗七星結界は各寺社で祀られた神鏡が起点となり張られている。我の力を宿す鏡だ」

 

「ダークサマナー共はその鏡を破壊したがっているというわけだな。守りはどうしてる?」

 

「何度か小競り合いが起きたが全て蹴散らした」

 

「もしかしてこっちの世界のあんたも、あいつらに守護されているのか?」

 

「無論だ。我の守りを貫きし剛の者達とは仏法の守護神である四天王達だ」

 

「どうりで蹴散らされるわけだ…。多聞天でもある毘沙門天は元気にしていたか?」

 

「汝に会いたがっていた。毘沙門天とそれに続く鬼神達。そして我の七体の影が防御を固める」

 

「それだけの布陣を敷かれればイルミナティだって手を出してこれなかっただろうな」

 

「汝も結界を守りに来るのはいいが…汝は神浜と呼ばれし地域に住居を移したのだろう?」

 

「知っていたのか…?」

 

「彼奴らはいつ攻めてくるか分からない。東京在住ならまだしも、神浜から間に合うのか?」

 

「そ、それは……」

 

「案ずるな、ここは我らが防御を固める。汝は今まで通りで構わん」

 

「俺が神浜に引っ越して…良かったのか?東京の一大事だっていうのに…」

 

「神浜と呼ばれる地域とて関東。関東の守護神である我が守らねばならない地域なのだ」

 

「すまない…二足の草鞋を履く羽目になったな…」

 

「東京を忘れなければそれでいい。それで…汝の要件というのは?」

 

「……聞いてくれるか」

 

尚紀は重い口を開き、語っていく。

 

将門でなければ今の彼の苦しみは分からないと感じたからこそここまで来た。

 

今の尚紀は将門と同じ立場である。

 

国の民を守ってきた守護者が謀反を起こし、民を苦しめる人権宣言を行った国賊であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

辛い表情を浮かべたまま語り続ける尚紀の言葉を将門は聞いてくれる。

 

思うところがあるのか、その目が閉じられていく。

 

まるで人間として生きた頃の記憶を思い出していくかのようにした姿を見せた。

 

「俺は確かに神浜を救ったのかもしれない。だが、それと同時に俺は…移民を招いた逆賊だ」

 

黙して語らずの態度を続ける将門に向けて懺悔の言葉を繰り返す。

 

「移民を受け入れる環境を整えるのは国を売る行為だ。国の守護神として…俺を斬るか?」

 

重い沈黙が破られ、将門は重い口を開き出す。

 

「…かつて我も、国の政治を憂いて謀反を起こし…朝廷の敵となった武士だ」

 

「あんたの時代も…国の政治は腐敗していたのか…?」

 

「朝廷の要職は藤原氏が独占し、地方の政治は国司が横暴に振る舞ってやりたい放題であった」

 

「国の中央どころか地方の政治まで腐っていたのか…。今も変わらない…神浜もそうだった」

 

「民衆は朝廷から派遣された国司からの重税や労役に苦しめられてきた。民の敵だったのだ」

 

「……人間の歴史は繰り返しだな。救いようがない…」

 

「我は国司だけでなく、それを押さえない朝廷共にも憤慨し…乱を起こした」

 

「平将門の乱か…」

 

「傍若無人な国司共から印綬を奪って追放し、関東8か国を解放してきた」

 

「朝廷の悪政に苦しんでいた民衆を味方に付けられたから…あんたは新皇を名乗ったんだな」

 

「朝廷は祈祷による呪殺を目論んだが潰え、我を打ち取った者は誰であれ貴族にすると宣言した」

 

「…後の末路は分かる。連合軍の焦土作戦によって民は路頭に迷うが…嘆いていた理由は違う」

 

「…全ては我の力不足。我の治世を望んでくれた民草を…守ってやれなかった…()()()()()()

 

「…さぞ無念だったろう。あんたの気持ち…今の俺なら分かってやれる」

 

「難しいものだな…民を守る道は。…1・28事件の時、我が語った言葉を覚えているか?」

 

「優れた武将であろうとも、救えない存在は必ず生まれる…。あんたの事だったんだな…」

 

「…守ってやれなかった民草に向けて…詫びれる言葉などない。汝は我から…何を学ぶ?」

 

俯いて黙り込むが顔を上げ、決意を秘めた表情を将門に向ける。

 

「…繰り返させない。過ちは違った形となり、何度でも降りかかろうが…止めてみせる」

 

――そのためならば俺は……喜んで()()と呼ばれてやる。

 

彼の決意を聞けた将門の口元に微笑みが浮かぶ。

 

漆黒の鎧の腰に身に着けた刀を鞘ごと抜き、彼の前に翳すのだ。

 

「…未来の汝は()()()()()となるだろう。…受け取るがいい」

 

禍々しくも美しい輝きを放つ刀剣。

 

それはかつての世界でも手に入れたことがあった公の御剣。

 

関東の守護神が携えてきた霊刀であり、国の暴政を諫めし者が振るってきた剣。

 

将門の刀であった。

 

「俺に託してくれるのか?もう一度…あんたの刀を?」

 

「かつての世界以上に、今の汝はこの刀を持つに相応しい益荒男にまで成長してくれたな」

 

――嬉しいぞ…()()よ。

 

将門の意思を汲み取った尚紀は片膝をつき、両手を前に掲げる。

 

将門は彼の両手に託すようにして政治を諫めし者が振るうに相応しい剣を託してくれた。

 

両手で将門の剣を持つ尚紀は右手で柄を握る。

 

「…前に持った時よりも重く感じる。それに…手に吸い付く程の一体感を感じる…」

 

鞘から引き抜き、霊刀の刀身を解放する。

 

周囲に凍てつくような寒さと神々しさが放たれていく。

 

「日本刀の原型である古太刀か…。斬ることに重点が置かれている…」

 

腕を組んで見守る将門の口元には喜びの笑みが浮かんでいた。

 

「我の後継者よ。舞ってくれないか?」

 

同じ無念と同じ志を受け取った尚紀は迷いなく頷く。

 

「志は受け取った。見ていてくれ…国賊と呼ばれるだろう守護者が振るう剣舞をな」

 

……………。

 

かつてのボルテクス界以上に将門は人修羅を認めてくれた。

 

人修羅が振るった美しき演舞を見届けた将門は去っていく後ろ姿を見守りながら語りだす。

 

「…666の悪魔よ。汝が背負いしはルシファーの魂だけにあらず…我の魂をも背負うのだ」

 

踵を返し、異次元空間に戻るための鳥居の道を歩きながらも彼に託したい気持ちを語ってくれる。

 

「汝は憂国の烈士となりて戦うだろう。日の本の血筋ではない国家内国家だけが相手ではない」

 

――我の血筋の祖先であり、1300年間…日の本を支配してきた…渡来人一族ともな。

 

――その者達こそが、我が倒せなかった日の本の朝廷一族。

 

――()()()()()()()()()と、秦氏の宗教組織である神道…()()()()()だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神浜行きの電車の中に立つ尚紀は窓の景色を見つめながらも新たなる力に思いを馳せる。

 

将門の刀は左手の収納魔法で収められ、いつでも抜けるよう手を開きながら感触を感じていた。

 

「大事な剣を託されたな…。それでも嬉しかったよ……あんたの気持ちを託してくれて」

 

神浜の景色が見えてきた時、彼はこんな言葉を口にする。

 

「俺はもう迷わない。たとえななか達が俺のペテンを周囲に漏らそうとも…恐れはしない」

 

駅のホームから下りた時、夕暮れの空を見上げながら己の迷いなき覚悟を見せてくれた。

 

「たとえペテンがバレて神浜の人々から国賊だと罵られても…恐れはしない」

 

――お前の道を進め。

 

――人には勝手な事を言わせておけ。

 

ダンテの言葉がまた浮かび、今はいないかつてのライバルに思いを馳せながら微笑む。

 

「ダンテ…俺もあんたと同じく吹っ切れた。周囲の人々から憎まれながら生きるのも…悪くない」

 

――俺は俺であればいいんだ。

 

――俺はたった独りでも戦い抜く。

 

――それこそが、人間の守護者としての…俺の生き方なのさ。

 

恐れを捨てて真っ直ぐ進む尚紀の足取りにはもう迷いはない。

 

この世で最も強い人間は、孤独の中でただ一人立つ人間である。

 

自分を見失わず、孤独に耐えて立ち続ける強い意志を持った人間こそが強いのだ。

 

それを伝えようとしてくれた仲魔こそがデビルハンターと呼ばれたダンテである。

 

魔界の悪魔達から裏切り者の息子だと呪われながら生きてきた者。

 

悪魔に襲われ人間にまで被害をもたらし人間から呪われながらも誇りを捨てなかった男がいた。

 

人修羅はダンテの背中に続くだろう。

 

人間としての誇り高き魂を追い求める男達の道はもう一度重なってくれたのだった。

 




やっと人修羅君も吹っ切れて、パワーアップアイテムも貰えたというわけです。
僕の物語は日ユ同祖論ネタを全開にするんで、時女一族編は地獄になるかも(汗)
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