人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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151話 ルシファーとバアル

年が明けて間もない頃。

 

招集がかかるまではお互いに実力を高めるための鍛錬に勤しむアリナと十七夜。

 

鏡の前で倒立、側転、バク転などのアクロバットを繰り返すアリナの姿。

 

「ふん~ふん~ふん~~っ♪」

 

ジンガのステップを刻みながら蹴り技、アクロバット移動などを駆使する演舞。

 

トレーニングルーム内のスピーカーからはアリナ好みのハイテンションなサウンドが続く。

 

「よっと」

 

側方宙返りからの猫宙返りを決め、着地と同時に体勢を回転させながら決めポーズ。

 

まるでダンサーのようにも見えるだろうが…決めポーズのセンスはよろしくない。

 

入り口付近から拍手の音が聞こえ、視線を向ける。

 

「素晴らしいじゃないか」

 

立っていたのは同居人の十七夜。

 

「シドからカポエイラを習いだして日も浅いというのに…ここまで身に付くとはな」

 

「それだけアリナが本気だってワケ」

 

「天才とはいるものだな…。集中力と吸収力が違い過ぎる」

 

「そっちのトレーニングは上達してる?」

 

「うむっ」

 

メイド服のエプロンポケットからスプーンを取り出し、アリナの方に向けて下手投げ。

 

「ぬんっ!」

 

超能力魔法のサイが使われ、スプーンは空中静止。

 

構えた右手に力が籠る。

 

「はぁっ!!」

 

右手が一気に握り込まれる。

 

空中のスプーンが一瞬でへしゃげ、小さな鉄屑に変化。

 

サイから繋げるサイオを鍛え、さらに威力を増した一撃となる『サイダイン』だ。

 

「ヒュ~♪その魔法を受けたら魔法少女も一瞬でミートボールだヨネ~」

 

「魔法少女や人間には超能力魔法は有効だ。しかし…悪魔が相手だと話が変わる」

 

「どういう意味?」

 

「超能力魔法は念動力とも言える念波を放ち相手を拘束する。その念波を悪魔は視認出来るのだ」

 

「アリナには見えなかったけど、デビルには見えちゃうんだ?」

 

「霊体や精霊まで観える連中の力は計り知れんものだな。狙うなら動きを止めてからしかない」

 

「あ、分かった。クドラクに仕返しとして仕掛けたら、避けられちゃったワケ?」

 

拗ねたように口をへの字にする十七夜を見て、アリナも苦笑い。

 

「まぁ…あれだけのスプーンを鉄屑に変えただけの成果はあったから、良かったんですケド」

 

キッチンに置かれたゴミ箱には、原型を留めないスプーンが山となって放り込まれているようだ。

 

「自分も色々と工夫している。超能力魔法は…こういう扱い方も出来るのだ」

 

人差し指と中指を揃えて構える。

 

指先から送られる念波によって、トレーニング部屋に置かれた器具が振動していく。

 

「ワ~オ…」

 

揃えた指を上に動かせば、トレーニング機器が全て空中に浮遊していく光景。

 

超能力魔法においては全体攻撃となる魔法である『マハサイ』だ。

 

「転がっている物体なら、いくらでも操れる。これを全部…君にぶつけてみせようか?」

 

「ちょっと!?ウェイ!!ウェイトゥ!!」

 

「フフッ♪冗談だ」

 

指を下に向ければ、トレーニング機器がゆっくりと下に下りて定位置に置かれた。

 

「超能力は便利なものだ。メイド喫茶で働いてた頃に使えたら…何人分の注文を運べただろう?」

 

「帰りたくなった?」

 

「…いや。失言だったな…すまない」

 

「それより、掃除が終わったからこっち来たんだヨネ?スパーリングに付き合ってくれる?」

 

「お安い御用だ。鍛錬用に使う乗馬鞭を持ってこよう」

 

部屋から出ていき、階段を上っていく。

 

鍛錬道具を持ち出すのに対し、十七夜はなぜか遊具室の中へと入っていった。

 

<<さまなぁ!さまなぁさんや!!>>

 

聞こえてきたのは男の声、しかも老人。

 

うら若い乙女が暮らす場所には似つかわしくない存在の声に対し、アリナは大きく溜息。

 

声が聞こえた方に歩いていくと…。

 

「ボケデビル。今度は何を無くしたワケ?」

 

そこにいたのは、赤い肌をした巨大な鹿…いや、鹿人だ。

 

3メートルはある巨体を持つ獣人であり、鹿の頭部を持ち、背には堕天使の翼を持つ存在。

 

「ワシの眼鏡を知らんかのぉ?人間の新聞は文字が小さくて老眼にはキツイわい」

 

「鹿の蹄な手のくせに、よく新聞なんて読むんですケド。眼鏡ならヘッドの上」

 

「ん?おお!あったあった!近くのモノほど忘れてしまうもんじゃ」

 

謎の獣人は眼鏡をかけ直し、リビングにまで行ってしまう。

 

「拾ったデビルで色々デーモン・マージングしたのはいいけど…あんなジジイデビルだなんて…」

 

【フルフル】

 

嵐と稲妻の伯爵であり、ソロモン王に封印された72柱の魔神の一柱。

 

地獄の26個軍団を指揮する序列第34位の地獄の伯爵である。

 

翼と、燃えるように赤い蛇の尾を持った鹿として描かれる存在。

 

婚姻をもたらしたり、厳重に隠された秘密を暴いたり、雷を落す力に優れている。

 

ただし、呪文によって強制されない限りは召喚者に本当のことは言わない性格のようだ。

 

「フルフルとかいうあの鹿…隠された秘密どころか、眼鏡さえ見つけられないんですケド」

 

情けない悪魔を仲魔にしたことに後悔していた時…。

 

<<んほぉぉ~~ッッ!!!もっとだぁーーッッ!!!>>

 

さらに男の叫び声が聞こえてくる、今度は若者のような声。

 

「あいつ…!縛り上げてやったはずなのに!!」

 

慌てて遊具室に向かうアリナの姿。

 

この高級ペントハウスに供えられた遊具室は特殊である。

 

オシャレな遊具が置かれているわけではない。

 

「五月蠅いんですケド!!」

 

扉を開ければ、中に広がっていたのは…前の持ち主の特殊性癖部屋。

 

まるでラブホで見かけるSMルームのような場所で叫んでいた存在とは…。

 

「も…もっと叩けというのか…?よく分からん趣味だが…そんな姿で楽しいのか?」

 

三角木馬の上にいたのは…亀甲縛りされて悶絶している男悪魔。

 

彼の背中をSMプレイで使うような乗馬鞭で叩いていたのは十七夜である。

 

「私は君を導きに参りました!この姿に惑わされてはいけません!!」

 

「自分もよく知らないのだが…こういうのは、あまり表に出さない方がいいのではないか…?」

 

「そんなことはない!!きれいは汚い!汚いはきれい!迷妄をやめなさい!!」

 

――すわっ!!

 

【アティス】

 

ローマ時代にトルコ方面のプリュギアで信仰された、死と復活を繰り返す美少年の姿をした神。

 

大地の植物の枯死と復活を司る存在であり、地母神キュベレの息子とも愛人とも呼ばれる。

 

キュベレが生まれた際に切除した男根は、地に落ちてアーモンドの木となったという。

 

その実がサンガリオス河神の娘ナナの体内に入り込んで身籠らせ、アティスは生まれた。

 

キュベレは自分の息子を愛人にしようとしたが冷たくあしらわれ、彼に呪いをかける。

 

呪われたアティスは発狂して自ら男根を去勢し、体を八つ裂きにして死んだ…狂神である。

 

「さぁ!もっと私を痛めつけるのです!!愉悦とはいつだってタブーの先にあるのです!!!」

 

全身ミイラのような包帯姿のまま、二本角が生えた変態神はおかわりを所望。

 

「この変態デビルを甘やかしちゃダメだって言ったんですケド!」

 

アリナの飛び蹴りが決まり、三角木馬から落下する変態の姿。

 

「はっ!?ここはどこ、私は誰アルか!?この懐かしい痛み…貴女様は私の女王様アルか!?」

 

…今一口調がハッキリしないのが、狂神と呼ばれる神々の特徴なのだろう。

 

「シャラップ!!キューブの中で大人しくしてるか、ここで大人しくしてるか選ぶワケ!」

 

「そんなことより聞いて欲しいでございやがります」

 

このオレいわゆる異邦人系口調の流暢且つ冗長なマシンガントークはこのようにくどくどつらつらと春の訪れを告げる雪解け水のようにとめどなくまろび出てこの世界即ち魔法少女達を通してオレの素敵トークを読んでいるPCやスマホ前のアンタ達を多種多様なボキャブラリィと突拍子もない語り口、つまりはアンタ達が生きている時代即ち令和の世で言う所のいわゆるひとつの電波系トークで圧倒したりゲンナリさせたりするんでスねェ。

なお通称であるすわ族の『すわ』ってのはナショナルランゲージつまりは国語用語で感嘆詞に分類される言葉で予想外の出来事に驚いた時に発する言葉なんだがこれを何故かオレ達異邦人系悪魔はひときしり喋りまくった後セリフの最後に付け足すんだなこれが。

現代ではあんまり使わない言葉だが雑学として憶えておいたりすると一興なんじゃないかねェ。

いややっぱ忘れていいわ。

すわっ!

 

……………。

 

「これでヨシ」

 

主人であるアリナのマギア魔法が炸裂し、体がバラバラとなったアティスである。

 

「こ…ここまでやっていいのか…?」

 

「ノープロブレム。コイツはほっといても生き返るデビルだし」

 

「死と再生の悪魔でもあるのだな…。君の美のテーマである悪魔なのは確かだが…些か…」

 

「…今度こいつのパワーを試して、使えない奴だったら…アリナだってこんな変態はいらない」

 

「うむっ、寝ている時に部屋に現れてマシンガントークをされては堪らんからな」

 

気を取り直してトレーニングルームに向かう2人であるが…。

 

「婆さんや、飯はまだかのぉ?」

 

現れたフルフルを見て、十七夜は溜息。

 

「さっき食べたばかりだろう。それに自分はまだ18歳だぞ」

 

「はて?そうじゃったかのぉ…。それによく見れば…婆さんの肌ツヤピチピチぢゃあ!」

 

「アリナ達はやる事あるから、大人しくしてないとキューブに戻すんですケド」

 

「おお!ワシも参加するぞ!ジジ&ヤングでイケイケぢゃあ!!…ノリノリ?イケイケ?」

 

やる気が出たのか、鹿老人の尻尾の先端から業火が噴き出す。

 

……………。

 

「これでヨシ」

 

主人であるアリナのマギア魔法が炸裂し、ボロボロになったフルフルはテラスに捨てられた。

 

「…悪魔とは個性的だな。恐ろしい奴らもいれば…憎めない奴らもいる」

 

「おバカなデビルもね。アイツ…今度アリナのホームを燃やしそうになったら…」

 

「どうするんだ?」

 

「鹿皮剥いで、アリナが頭に被ってやるんだカラ。色も染色してホワイトにしてやるんですケド」

 

その光景を想像する十七夜の脳裏には、()()()()()()()()()姿()が浮かぶ。

 

「ハァ…デーモンマージングして手に入れたデビルの中でマシだったのは…」

 

2人はヘリポートがある屋上に向けるようにして天上を見上げる。

 

ヘリポートで蹲っている巨大な存在は…ある意味ニワトリ。

 

<<コケコッコー!!>>

 

巨大な体を持ち上げ、翼を広げて空の悪魔を威嚇する姿。

 

尾はまるでドラゴンの尻尾のようにも見え、黒い尾羽を持つ姿はドラゴンに見えなくもない。

 

【コカトライス】

 

コカトリスとも呼ばれる邪龍。

 

雄鳥が産んだ卵をヒキガエルが温めると誕生すると言われている。

 

姿は蛇の尾と、四本足を持った雄鳥であり、その凝視を浴びた者は石化させると言われていた。

 

「コラッ!ココハオレサマノ縄張リダゾ!アッチ行ケ!!」

 

空を飛翔しながら威嚇してくるのは、アリナのフェニックス。

 

「グァグァグァ!!ピーーッ!!!」

 

「ナンダト?ココハ最初カラ自分ノモノダト?ママカラ貰ッタダト?」

 

「ピーーッ!!」

 

「ナラバ縄張リ争イダ!餌ヲ探ス優先権ヲ主張スルノハ鳥ノ掟ダ!…ン?オレサマ鳥ダッタカ?」

 

「ピーーッ!!!」

 

コカトライスはクチバシを開け、氷結魔法である絶対零度を収束させて放つ。

 

フェニックスも負けじとファイアブレスを放つ。

 

互いの魔法がぶつかり合い、ビルが振動していく。

 

「あのニワトリ…腐った連中を彫像にして、デスマスクを楽しむのに役立つと思ったケド…」

 

「おい…不味いぞ。癖の強い悪魔を放し飼いにしておくのは危険なのではないか…?」

 

「アイツら…キューブの中に押し込んだままだと文句垂れるんだヨネ…」

 

「せめて鳥同士は別々に放ったほうが良さそうだな…。縄張り争いを始めてるようだが…」

 

「アリナのデビルの中で、一番扱いやすいのは…パズスだけかもしれないんですケド」

 

2人は屋上へと向かい、どうにか仲魔同士の喧嘩を仲裁することが出来たようである。

 

アリナと十七夜は来るべき日のために力を蓄え続ける。

 

そんな2人の元に、ついに招集がかかる時が訪れたのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

1月某日の東京。

 

夜の東京を走るリムジンに乗るアリナと十七夜は、天王洲アイルを目指す。

 

尚紀達が探偵事務所を構えていた近くにある天王洲アイルとは、再開発街区の通称である。

 

品川区の臨海部であり、商業複合ビル、商業店舗、飲食店、アートギャラリーが軒を連ねた。

 

「芸術文化の発信地をコンセプトとしている街か…。君好みの街だろうな」

 

「アリナね、天王洲アイルのアートイベントに出展したこともあったんですケド」

 

「そうか。ところで、自分達は天王洲アイルの何処に集まる話になったのだ?」

 

「運河ルネサンス推進区域を見渡せる高層ビルホテルの貸し会議場なワケ」

 

「なるほど。…では、いよいよなのだな」

 

「フフッ、楽しみだヨネ。デーモンマージングのルーツとなるアトリエ…必ず手に入れるカラ」

 

2人を乗せたリムジンは天王洲アイルに入り、ホテルまで進んでいった。

 

…天王洲には、牛頭天王に関する故事がある。

 

この場所が海だった時代に、牛頭天王のお面が海中から引き上げられたという内容の故事である。

 

天王洲という名称とは、牛頭天王であるバアル神の名を拝した地区であったのだ。

 

……………。

 

ホテル内の会議場には、続々と黒服の男達が集まっていく。

 

その中には、会議場に向かうアリナ達の姿も見える。

 

「今回の作戦会議には…これだけのダークサマナー達が集まってくるとはな…」

 

「それだけ、アトリエ奪取をマジで求めてるってワケ」

 

会議場内に入る扉前に来た時、黒のスーツ姿とは違う人物と2人は出くわす。

 

「あら…?もしかして、貴女が噂の魔法少女サマナーかしら?」

 

「アナタ……誰?」

 

アメリカの西部開拓時代を彷彿とさせるドレスを身に纏うのは、総理秘書官を務めるマヨーネ。

 

「初めまして、私はマヨーネと呼ばれるサマナーよ。むさくるしい男ばかりで、嫌になるわよね」

 

「…アリナだカラ」

 

「和泉十七夜という。…貴女はテレビで見たことがあるような…たしかアレは…」

 

「総理大臣の後ろをついて回る女性を、ニュースで見たことがあるでしょ?」

 

「そうだ、思い出した。貴女はたしか、八重樫総理大臣の秘書官を務めている人だな?」

 

「それは表向きの肩書きよ。私の任務は彼の護衛であり、時には暗殺者ともなるの」

 

「あの太ったジジイが言うこと聞かなくなった時の保険でもあるワケ?」

 

「その通り。私のような女性サマナーが増えてくれるのはいい傾向ね。期待してるわよ」

 

「失望させるつもりはないカラ」

 

<<ケッ、魔法少女がサマナーの真似事を始めるとはな…世も末だぜ>>

 

男の声が聞こえ、3人は近づいてくる男に視線を向ける。

 

黒の革服を纏い、ギターケースを担いだオールバックのサングラス男とは、キャロルJだ。

 

キャロルJはアリナの前に立ち、サングラス内から視線を向けてくる。

 

「気に入らねぇな。魔法少女は子供らしく、変身ヒロインごっこでもやって遊んでな」

 

「アナタ…誰?今時流行らないロックンロールスタイルだけど、ダサいカラ」

 

「俺様の名前はキャロルJだ、新入り。それと新入り…今なんつった?」

 

「ダサいって言ったワケ」

 

「テメェ…俺のロックを馬鹿にしやがるとはいい度胸してやがるじゃね~か?」

 

眉間にシワを寄せてガン飛ばしてくる男に対し、アリナは涼しい表情。

 

「やろうってワケ?アリナは別に構わないんですケド」

 

「シドに鍛えられてるからって図に乗るなよ!俺様がギャフンと言わせて…」

 

「そこまでにしないか、キャロル」

 

肩を掴んできたのはユダだ。

 

「もう直ぐ作戦会議が始まる。君達も早く中に入りなさい」

 

「チッ!邪魔が入ったか…。覚えとくぞ、魔法少女サマナー」

 

「いつでも相手してあげるカラ。アナタなんて、アリナの糞マスターに比べたら弱そうだし」

 

「こ…こいつ!!」

 

「しつこいわよ、キャロルJ。女に相手にされないなら、早々に消えるのが男の役目よ」

 

「マヨーネ…お前までこのガキの肩を持つか。いいさ…その気合が本物かどうかは後で分かる」

 

会議室内に入っていくキャロルJとユダを見て、3人は溜息。

 

「…男って、口先だけの奴らが多いのよ。特に女が相手だと、直ぐ上から目線でモノを言うの」

 

「弱い奴ほどよく吼えるヨネ。デカく見せようとするところがニワトリなワケ」

 

「ウフフッ♪同意見よ。それじゃ、私達も中に入りましょうか」

 

<<あーっ!おったおった!!嬢ちゃんちょっと待ってーや!!>>

 

素っ頓狂な男の声が聞こえ、3人は視線を向ける。

 

「……今度は誰?」

 

「ふむっ…変わった人物のようだが…?」

 

ヘルメスの杖が描かれた黒エプロンを纏う眼鏡男の姿。

 

おかっぱヘアーにデカい鼻が特徴的であり、赤い眼鏡フレームを押し上げながら見つめてくる。

 

「ドクタースリル、こちらに来ていたのですか?」

 

「ドクター…スリルって?」

 

「ロスチャイルド家が抱える魔術結社、黄金の夜明け団から資金援助を受ける軍事科学者よ」

 

ロスチャイルドという名を聞き、アリナは舌打ち。

 

彼女の脳裏には、未だにあの悪夢の光景が刻み込まれているからだ。

 

「たしか、名前はアリナやったかな?はじめましてやな~わしは…」

 

「興味ないカラ」

 

「いきなりなツッコミやな!?わしボケてへんで!ちょっと話したかっただけやで!」

 

「アリナはアナタに話なんてないカラ」

 

「くぅーッ!クソ生意気なガキやで!よくもまぁイケしゃあしゃあと!!礼儀知らずなガキめ!」

 

「アリナより身長小さいオッサンに凄まれても怖くないカラ」

 

「自分よりも小さいな…?147cmぐらいか?」

 

「きーっ!!わしの身長は関係ないやろ!?わしのガルガンチュアでいてこましたろかぁ!」

 

「まぁまぁ、子供には寛大な態度をしてあげてね、ドクター」

 

「マヨーネ…お前は女サマナーに甘すぎるんや!育ちの良いおまえが礼儀を仕込んでやってや!」

 

「私も忙しい身なので難しいですわ。それより…ガルガンチュアはもう完成したのですか?」

 

「おう!完成したガルガンチュアの性能実験のために、実戦投入が決まったというわけや」

 

「……ガルガンチュアって、何さ?」

 

「…わしとは話は無いって、言うてなかったか?」

 

「……ふん」

 

(可愛げのないガキサマナーめ…!!)

 

「…君達、もう会議が始まってしまう。席についてくれないか?」

 

ユダに促された者達は会議室内に入り、席についていく。

 

大型スクリーンの横の演台にはシドが立ち、作戦内容を伝えていく。

 

いよいよ邪教の館攻略が始まっていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

北斗七星結界を繋ぐのは、将門の首塚と並ぶようにして建てられた寺社の神鏡。

 

1 鳥越神社

 

2 兜神社

 

3 将門首塚 

 

4 神田明神 

 

5 筑土八幡神社 

 

6 水稲荷神社 

 

7 鎧神社

 

これらの寺社に神鏡があり、出撃して神鏡を破壊する計画が語られていく。

 

「先遣隊の情報でハ、首塚の周囲を守る形で四天王が配置され残りの寺社に影が配置されてまス」

 

出撃班が編成されていく光景が続く。

 

「シドは持国天討伐、フィネガンとユダは広目天討伐、マヨーネとキャロルJは増長天討伐か」

 

「難敵だっていう、毘沙門天の討伐は誰が担当するワケ?」

 

「今回の作戦にハ、リリス様とアモン様も加わることになりましタ」

 

アリナの脳裏に浮かぶのは、自身を冥界へと引き摺り込んだ悪魔であるリリスが浮かぶ。

 

「…あいつらに任せても大丈夫なワケ?」

 

「毘沙門天ハ、将門の切り札とも言える鬼神でス。だからこソ、あのお方達が動いてくれタ」

 

「それでは…最大の難関とも言えるだろう将門首塚は…誰が攻略に向かうのだ?」

 

「この作戦の指揮をとられる神…」

 

――バアル神であるモロク様、自らが討って出ることになりましタ。

 

アリナの背中に氷柱が差し込まれた程の寒気が走り、肩が震える。

 

彼女の脳裏に浮かんだのは、バアル神に生贄を捧げた己の姿。

 

神への捧げものを見届けた…恐るべき牛頭神の影。

 

同時に、言い知れぬ興奮さえもたらしていく。

 

「アハッ…あのゴッド・オブ・バアルと一緒に戦える日が来るなんて…サイコーなんですケド…」

 

「アリナ、十七夜。アナタ達は影の討伐に向かう為に水稲荷神社に向かって下さイ」

 

「了解した」

 

「アリナ達は雑魚エネミー退治?舐められたもんなんですケド」

 

「わしのガルガンチュアは何処で使えばええんや~!」

 

「同じク、影の討伐に用いる予定でス」

 

「ケッ!わしのガルガンチュアも舐められたもんや…雑魚掃除に使われるなんて感じ悪いの~!」

 

「ガルガンチュアシリーズハ、実戦データが不足していまス。データ収集のための実戦でス」

 

「ふんっ!わかっとるわ!」

 

「侮らないことでス。将門は陣地に敵を引き摺り込んで倒すのを得意とする武将だそうでス」

 

「敵さんの土俵がなんや!わしのガルガンチュアで蹴散らしたるわ!」

 

「ハァ…このチビスケオッサンと同じ仕事をやらされるなんて、超バッドなんですケド」

 

「それはこっちのセリフやぁ!!ケツしばいたろか生意気サマナー!!」

 

「喧嘩はやめて頂きたイ」

 

「作戦決行の時間は何時?」

 

「今夜の0時を予定しておりまス」

 

「まだ少し、時間があるな…」

 

「装備の最終確認を済ませておきなさイ。それでハ、貴殿方の武運を祈りまス」

 

作戦会議は解散となり、ダークサマナー達が会議室から出て行く。

 

会議室から出て行くアリナと十七夜だが、アリナは十七夜に向き直り口を開いた。

 

「……少し、夜風に当たってくるね」

 

「アリナ…?」

 

「大丈夫……直ぐ戻るカラ」

 

そう言い残して、アリナは歩き去っていく。

 

ホテルから出たアリナが進むのは、運河沿いの道。

 

ボードウォークの運河沿いに立ち、冷たい夜風を体に浴びていく。

 

「……くっ……うぐっ…ッ!!」

 

右腕を抑え込み、苦しんでいく姿。

 

「何なの…この痛みは?熱い…右腕が…焼けつくように痛む……ッッ!!!」

 

アリナが感じている痛みは、彼女が感じている痛みではない。

 

彼女のものではない、内側の少女の魂が感じている幻肢痛。

 

「この痛み…覚えてる気がする…。あれは……あの時……」

 

アリナの脳裏にフラッシュバックしたのは、バアルの化身となりし少女の記憶。

 

――熱い……手が燃えるよう……。

 

アリナの記憶世界に見えたのは、ひび割れた牛頭天王像の頭部。

 

まるで記憶世界の少女と融合している感覚を味わいながら、右腕を動かしていく。

 

力任せに振りかぶり、殴りつける動作。

 

巨大な牛頭天王像の頭部は…完全に砕け散ってしまった。

 

――見て、尚紀君。

 

――美しいでしょう?

 

――力有る者は美しいわ。

 

視線を右腕に向けていくアリナの目に見えたのは……。

 

「ヒッ!!!?」

 

そこにあったのは…異形化した己の右腕。

 

黒い触手を何本も束ね合わせ、無理やり腕の形にしようとするが抑えが効かない暴走した右腕。

 

――私は自分の道を切り開く力を得た……。

 

――私を宿す貴女は、その程度の力で満足するのかしら?

 

――フフッ……アッハハハハハハハハハハッッ。

 

おぞましい世界で最後に見えたのは…愕然としながら両膝を崩れさせていく人なる悪魔の姿。

 

かつての世界ボルテクス界においては人修羅と呼ばれし…尚紀の姿であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァ…!ハァ…!!」

 

記憶の世界から解放されたアリナは片膝をつき、息を切らせる。

 

近づいてくる足音が聞こえるが、彼女は振り向く気力すらない。

 

「…逃げ出したのかと思いましたガ、何をしていたのでス?」

 

現れた人物とは、アリナのマスターであるシド・デイビス。

 

「……何でもない」

 

「右腕を抑えていますガ、怪我でもしていたのですカ?」

 

「何でもないって言ってるんですケド!」

 

怒りの表情を浮かべて立ち上がり、睨んでくる。

 

「フッ…それだけの元気があれば問題ないでしょウ」

 

「アリナは何処にも逃げない。帰るホームも焼いてくれたし、覚悟も鍛えてくれたカラ」

 

「それが聞けて何よりでス。皆は支度を終エ、待機状態となってまス」

 

「アリナも直ぐ行く。だけど……」

 

「どうかしましたカ?」

 

運河に視線を向ける。

 

美しいアリナの後ろ髪を夜風が揺らしていく。

 

「…聞きたいことがあるワケ。…ルシファーとバアルについて」

 

サングラスを押し上げ、怪訝な表情をシドは浮かべてくる。

 

「アリナを試す儀式の時、ルシファーとバアルは同時に現れた。でも…分からないんだヨネ…」

 

「何が分からないのです?」

 

「ルシファーとバアルって、そんなに関係が深いゴッドデビルなワケ?」

 

質問の意味を理解したシドは、同じように運河の前に立ち口を開いていく。

 

「古代オリエントで広く信仰されていたバアル神ハ、聖書においてサタンとして語られていまス」

 

「ルシファーは聖書の世界で、サタンとして語られないワケ?」

 

「ルシファー閣下の御名ハ、聖書の何処にも記載されていないのでス」

 

「聖書の世界に…ルシファーは存在しない?」

 

「旧約聖書イザヤ書においテ、輝く者が天より墜ちたという比喩でしか登場しませン」

 

「じゃあ、聖書の世界においてのサタンっていうのは…バアルのことを表す?」

 

「バアルから無数の悪魔概念が生み出されたのでス。ルシファーという名もそこがルーツでス」

 

「つまり…デビルっていう存在は、須らくルシファーなワケ?」

 

「閣下を象徴する金星、暁の星。金星を司る女神アシェラトハ…バアル神の妻でス」

 

「つまり…ルシファーは、その影響を受けている存在だというワケ?」

 

「暁の星とハ、バアル神と共に在ル妻の星。いわバ…あの御二方は()()()()()()()()ですネ」

 

「分からない…アリナの前に現れたルシファーは…男の姿だった…」

 

「あの御方は男神であり女神でもあるのでス。ルシファー閣下とバアル神のルーツとハ…」

 

――金星の女神イナンナ…そしテ、木星の神であるマルドゥク神なのでス。

 

――そしテ、マルドゥク神の父神であリ…古代シュメール最高神の一柱こそガ…エンキ神。

 

――バビロニアにおいては天空神エアと呼ばれシ…()()()()()なのでス。

 

シドの話を聞き終えたアリナは、大きく溜息を出す。

 

「アリナ…神話の世界って、よく分からないんですケド」

 

「全ての神話のルーツこそガ、古代シュメールでありバビロニアなのでス。覚えておきなさイ」

 

踵を返し、シドは去っていく。

 

胸に手を当て、内側に宿ったバアルの化身の鼓動を感じていく。

 

「アリナはね…この程度のパワーじゃ満足しない。だからこそ、手に入れたい…」

 

――最強のデビルを生み出せる…邪教のアトリエを。

 

――アリナも輝いてみせる…美を司るヴィーナスのように。

 

――だってアリナは……美を追い求めてきたマジカルガールだカラ。

 

迷いを振り払い、シドの背中を追いかけていくアリナの姿。

 

聖書においてはサタンと呼ばれるバアルのルーツこそ、木星神であるマルドゥク神。

 

それがエジプト神話のオリシス、ギリシア神話のゼウス、ローマ神話のユピテルとなっていく。

 

木星神ユピテルを英語でジュピターと発音し、木星として語られてきた。

 

その木星が衛星となり、ルシファーを象徴する金星が誕生したと言われている。

 

バアルとルシファーは切っても切れない星々の関係性を持つ存在。

 

バアルの化身を宿した魔法少女は目指していくだろう。

 

美を司る星、暁の星へと至る道を目指すのだ。

 

暁の星ルシファーを生み出せる存在こそが木星であり、バアルであったのだ。

 




アリナの仲魔悪魔を色々悩みましたが、アリナを象徴するマギレコ要素は死と再生、熱病だけでなく鹿、デスマスクもあると思ったのでそれに因んだ連中を用意しました。
フルフル…デビルチルドレンにしかいない鹿悪魔でしたよ(汗)
アティスに関しては、後々アリナと関わりが深くなる悪魔との関係性が深い悪魔となりますね。
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