人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
夜空に暗雲立ち込める東京。
東京都千代田区大手町に向け、黒塗りバン・偽装トラック車列が次々と向かう光景が続く。
作戦通りの攻略先に向かう車列の中には、アリナ達が乗るリムジンも見えた。
「あのデカいトラックの中に…ガルガンチュアとかいうのが入ってるんだろうけど…」
「…悪魔の魔力を数体あの中から感じたが、ただの悪魔ではなさそうだったな」
「どんな感じのデビルだと思う?」
「分からんが…スリルは軍事科学者なのだろう?悪魔を用いた研究成果を乗せてるとしか…」
「デビルインスティチュートのマッド科学者かぁ…。話ぐらいはしてあげても良かったヨネ」
「悪魔研究所も、君にとってはアトリエなのかもしれないからな…」
「イグザクトリー」
車の車列は千代田区に入り、皇居が見えてくる。
スマホの地図アプリで現在位置を確認し、苦虫を嚙み潰したような表情となっていく十七夜。
「…この国の悪しき歴史の象徴とも言える牙城が見えてくるころだな」
「手を出すのはやめといた方がいいって。あそこには皇居警察だけでなくヤタガラスも潜んでる」
「ヤタガラス…ユダさんから聞いたな。この国を1300年間支配してきた神道秘密結社だと…」
「皇室だけでなく政財界にも枝葉を大きく伸ばしてるんだヨネ。サマナーも多くを抱えてるワケ」
「戦うとなると厄介な連中だという訳だな。そのヤタガラスのお膝元での作戦行動か…」
「ノープロブレム。ヤタガラスからは許可を貰ってのミッションだって言ってたカラ」
「どういう事なんだ…?」
――イルミナティとヤタガラスには…
彼女の質問に対し、アリナは不気味な笑み。
車は千代田区を超え、目的地となる新宿区西早稲田にある水稲荷神社に向かっていった。
……………。
午前0時が近づいてきた頃。
経団連会館前に停められた移動指揮車内では、兵士達が戦闘指揮を行うモニターを監視中。
青白く光るモニターを後ろ側から見つめる…大いなる存在。
そこに立っていた人物とは…子供達の血で染められたが如き真紅の衣服を纏う大男。
燕尾服風の赤の上下に黒のカマーバンドやストールチーフを首に巻いたフォーマル姿。
肌は浅黒く、その頭部は二本角が天に向かって生えた牛を模した純金の兜を纏う。
腕を組んでモニターを見つめていたのは、バアル神であるモロクだ。
「東京都公安委員会からの連絡です。全ての寺社付近の交通規制は完了したとのことです」
「……人払いは済んだか」
時計に目を向ける。
現場には既に黒塗りバンから下りてくるダークサマナー達が展開されている。
その姿はまるで市街戦を専門とする法執行機関特殊部隊兵士のような黒装備姿。
自動小銃や、タクティカルベストには召喚管や銃弾マガジン等で武装を行う完全装備。
ヘルメットにはカメラも装備され、カメラ映像は移動指揮車のモニターに届けられるようだ。
アリナ達も進行部隊と共に潜伏中。
ドクタースリルを乗せた偽装大型トラック内では…ガルガンチュアシリーズが稼働し始める。
コンピューターパネルを操作し、機械仕掛けで覆われた巨大試験官が開いていく。
「ケケケ!この天才スリルが生み出したすんばらしい造魔!ついにお披露目の時間やでぇ!!」
中から現れた巨大なる人の姿。
衝撃吸収素材を用いたアーマーを纏い、着膨れした巨人こそペレネルも取り扱う造魔である。
【ガルガンチュア】
中世フランスの民話、巨人ガルガンチュア大年代記に登場する巨人。
アーサー王物語のマーリンによって自由の力を与えられ、冒険をしていくと言う話が展開される。
ガルガンチュア物語は派生も多く生まれ、巨人だけでなく人間姿として登場したこともあった。
社会を痛烈に風刺する作品であり、善悪といった単純な描写ではない作品を歴史に残したようだ。
「行けや!ガルガンチュアQ!!雑魚やからって手加減はいらへんでぇ!!」
「ホホホホゥ。了解した、ドクタースリル。雑魚をブチのめす!」
「おまえに着せたったランパート・スーツは、いくらどつかれても効かへん!流石天才やな!」
「このピエロのような大型スーツ…重たい、動きにくいですぞ」
「贅沢言ったらあかんでぇ!おまえは皮膚が弱いんやさかい、外気を浴びたらあかんのや!」
「なんというデメリット!作り直しを所望しますぞ、ドクタースリル」
「わしの成果にケチつけるんかい!?良いからさっさと行って、いてこましてこんかい!!」
「トホホホホゥ…造魔使いの荒いドクターである」
偽装トラックからは、他のガルガンチュア造魔も下りてきて寺社内に展開していく。
水稲荷神社内に向かう魔法少女姿のアリナは、手首のバンドで隠していた時計に目を向ける。
「……そろそろミッション開始なんですケド」
黒のミニスカートポケットから、彼女は黒革手袋を取り出す。
「その革手袋は何だ?」
吸血鬼悪魔姿となった十七夜は、手袋を嵌めていくアリナをしげしげと見つめてくる。
「ダークサマナーとして立派になったお祝い品として、アレイスターから貰ったんだヨネ」
右手に嵌めた手袋の甲に描かれていたのは、悪魔召喚士や陰陽師が用いる五芒星の印。
「受け取る気はなかったケド…あいつが生み出した
手袋を嵌めた右掌を十七夜に見せる。
「その印は……何なんだ?」
手袋に描かれていたのは…暁美ほむらの左手にも刻み込まれていたルシファーシジル。
「有神論的サタニズムを象徴するシジル。サタンを崇拝するシンボルでもあるんだヨネ」
「なるほどな…自分もサタンである人修羅様を崇拝するために、マントに刻みたいぐらいだ」
「サタニズムは、個人主義と自由主義を表すワケ。自己を高める追求…
「己が他者にコントロールされたり抑圧されたり、群衆に従わされたりするのを拒絶する道か…」
「アリナ達は迷わない。カミハマのマジカルガール達が現れても…ゴーイングマイウェイを貫く」
「うむっ、自分もサタニズムの道を共に進もう。全ては世界に…博愛と平等をもたらすために」
「アリナ達はアリナ達のマイウェイを進む」
――人には勝手な事を言わせておけばいいカラ。
アリナが進む道もまた、嘉嶋尚紀や暁美ほむらと同じ道。
たとえ周りから間違っていると責められても、自分の正しさを自分自身が裏切らない道。
鹿目まどかの正しさ、御園かりんの正しさ、正義の魔法少女達の正しさに流されない道を求める。
かつて尚紀は、自分の居場所を探し続けた保澄雫に言葉を残す。
――英雄だの、悪者だの、クラスの人気者だの、厄介者だの、どうでもいい概念だ。
――人は善人である必要も、悪人である必要もない。人がその本性を受け入れるのが大切だ。
――人がその本性を引き受け、開き、生きていれば…どんな人間だって素晴らしく魅力的だ。
本性を受け入れず、繕い、作り上げるなら何であれつまらない。
周りに合わせて生きていても、両足でしっかり立っている気がしない。
周囲の人々に流されていき、保澄雫のように自分の居場所を見失うようにはなりたくない。
唯一神に支配され、全体秩序の正しさしか許されない原初の男女のようにはなりたくない。
そう願う人間が知恵を求め…本当の自分と出会う道。
それこそが、人間に知恵の林檎を授けるサタニズムであったのだ。
……………。
「各班、突入準備完了しました」
腕を組んだ姿をしていたが両腕を下ろし、純金の牛兜の中から声を発する。
「……作戦開始」
「了解。作戦開始発令、各班は坂東宮結界に突入せよ」
アリナ達が率いるダークサマナー部隊が動き出す。
坂東宮攻略戦が、ついに開始されたのだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
突入部隊に待っていたのは、尚紀が将門首塚にやってきた時と同じ光景。
「…異界に引き摺り込む気ですネ。将門は歴史においてモ、敵軍を自軍領土で待ち構えましタ」
ホワイトアウトした景色が収まれば、そこには巨大な鳥居と広大な武家屋敷迷路が待ち構える。
「備えあれば憂いなしか…。だが、今までの三流サマナーのようにはいかんぞ」
「策士策に溺れるという諺を思い知らせてやりましょう、フィネガン」
侵入部隊は武装サマナーを先頭にして、武家屋敷に侵入していく光景が続く。
「ちょっとキャロル!迂闊に先に進めば罠にかかるわよ!」
「ビビってんじゃねぇ!俺様のオーディエンスにダサい姿を見せる訳にはいかねぇぜ!!」
「まったく…どうして男はいつもいつも、自分を大きく見せようとするのかしらねぇ…」
ガルガンチュアシリーズも武家屋敷に入っていく光景が続く。
ガルガンチュアQも屋敷の中に入ってみるが、そこは既に惨状が広がっている。
「ホホホホゥ?プロトガルガンチュアシリーズでは、対処出来なかったようですな」
廊下の板を踏み抜いたガルガンチュアは、壁から飛び出した無数の槍で串刺しにされているのだ。
「なるほど、足元注意というわけですな。しかし!このランパート・スーツの性能を見よ!」
気にせず歩き、板をどんどん踏み抜いていく。
壁や天井から槍や大砲の弾が飛び出そうとも、スーツの耐久性のお陰でびくともしない。
「フホホホゥ!流石はドクター・スリルのスーツ性能!わたくし、感激で前が見えません!」
だが、油断は大敵である。
「フホッ!?」
床が開き、落とし穴の罠にかかってしまう。
「ホホホーーーゥッッ!!?」
底に仕掛けられた剣山の如きトラップさえも、スーツの耐久性で防ぎ切ったようだが…。
「無敵!!わたくしは無敵でございます!!」
起き上がり、落とし穴から出ようとする。
「フホッ……随分と底が深い穴だったようですぞ…」
重たいずうたいのジャンプ力では上まで昇れそうにない。
仕方がないので、両手足を壁に貼り付けながら上っていく。
そんな罠にかかった獲物の頭上には…二体の黒い影が現れていたのだ。
アリナ達も先攻部隊を先に行かせ、遅れて中に入り込む。
「…見ろ、アリナ」
後ろを振り向けば、既に入り口は消えており枝分かれした通路となっている。
「デビルラビリンスってワケね。トラップ塗れだと考えるのが自然だと思うんだヨネ」
「先に行った連中も…どうなっていることやら」
「仕方ない…コイツの実力を試してみるカラ」
黒手袋を嵌めた右掌を掲げ、キューブを生み出す。
キューブの一欠けらが宙を浮き、中から現れたのは鹿悪魔のフルフル。
「ほえほえ~、呼んだかのぉさまなぁさんや?」
「ボケデビル、アナタはたしか…隠された秘密を暴ける能力があると思ったんだケド?」
「おお!ワシの力を当てにしようというワケじゃな!よかろう、ヤングガール共は見ておれ」
鹿の蹄のような手を翳し、帯電させていく。
霊波を感じる場所を探り当てる力こそ、悪魔の現場検証能力とも言えるだろう。
「ふむっ、罠の位置は把握したぞ。ついてこい、さまなぁさん達」
「驚いたな…悪魔にはこのような能力も備わっていたとは」
「現場検証能力だけではないぞ~?真っ暗なダークゾーンを光で明るくも出来るんじゃ」
「ただのボケデビルってワケでもなくて、良かったんですケド」
黒い翼を広げて浮遊するフルフルが先導して2人を案内していく。
道中では、罠にかかって即死したダークサマナー達の惨たらしい死体が転がっている。
「一瞬で殺されたか…。流石のサマナー達とて、見えない罠を探る術がなければ助からんか」
「アリナは当たりのデビルを引けて、良かったワケ」
「わははっ!!どうぢゃ!ワシの華麗なテクは!」
「図に乗らない」
先導していくが、屋敷の出口までは分からないのか入り組んだ道を進むしか出来ない一行。
「同じ景色ばかりで…方向感覚も分からないな」
「ここの異界を張り巡らせる者を倒さん限り、ワシらは迷宮の迷子で終わるぞい」
「なら、ここのボスを探り出すんですケド」
「今やっとるわい!ろうじんをいたわれ!」
フルフル達が進んだ先は、武家屋敷の中庭と思われる領域。
篝火が焚かれた庭で待ち構えていた二体の黒い影とは…。
「…どうやら、あいつらがここのボスって感じだヨネ」
「この魔力…影と呼ばれながらも、桁外れだぞ!」
腰の鞘から刀を抜刀して近づいてくるのは、甲冑姿の将門と瓜二つの影達。
【公の影】
御伽草子(おとぎぞうし)に登場する平将門の影武者。
7人の影武者がいるか、本物を含めて7人いるとされ、妙見信仰によるものだとされた。
影武者は平将門の呪術によって藁人形から創り出されたと御伽草子では語られている。
また、主の身代わりとして討ち死にした家臣7名であるという伝承も残されていたようだ。
「ふぅ…久しぶりに体を長時間動かしたら腰が痛くなったぞい、さまなぁさんや」
「ボケデビル…まさかとは思うケド…」
「ワシは帰って茶でも飲みたいわ、他の連中に任せるぞ~」
そう言い残し、フルフルの体が光ってキューブの中へと戻ってしまう。
「やっぱアイツはボケジジィなんですケド!!」
「自分が前に出る!援護を頼めるか?」
「他の奴も前に出すカラ。前衛やれそうなヤツ…アイツを試してみるんですケド」
キューブの欠片が宙を舞い、中から現れたのはアティス。
「全国の皆様、こんにちわ…」
「挨拶とかやってる場合なワケ!さっさと前に行く!!」
「突撃レポートしたいと思います!!」
曲線を描くダガーを逆手に持ち、アティスも前に出る。
<<曲者共が…撫で斬りにしてくれるわ>>
公の影達が跳躍し、一気に乱戦へと導かれていく光景。
影に襲われているのは、ガルガンチュアQも同じだ。
<<愚か者が罠にかかったようだ>>
<<たとえ鎧を纏おうとも、愚鈍な輩は容易いものだ>>
落とし穴の中には、両手足を壁に貼り付けたままのガルガンチュアQの姿。
「ままま待ちなさい!!こんな状態のわたくしに攻撃を仕掛けるとは恥を知りなさい!!」
<<戦場で命乞いか?造魔とやらも痴れた者よ>>
<<灰塵に消えるがいい>>
片手を持ち上げ、メギドの光球を生み出していく。
「ヒィーーーッッ!!魔法攻撃はやめたってくださ~~いっ!!!」
哀れ抵抗も出来ずに倒されようとしたその時…。
<<ぬぅ!?>>
突然飛び込んできた巨体の斬撃に対し、二体の公の影は跳躍回避。
現れた存在とは、増援として現れた新たなガルガンチュア。
その見た目は、西洋甲冑を纏う黒騎士二体を合成したかのような禍々しさをもつ。
「こんなこともあろうかと、ドクタースリルは私も持ってきていたというわけだ」
「その声はX!?もう完成していたのか!」
「さっさと上がって来い、Q。私だけでは手に余る相手なのだ」
「あと少しで上り切るから持ちこたえてくれ~!」
広い畳部屋にまで移動した3体の悪魔は武器を構える。
ガルガンチュアXを囲むようにして、霞の構えを向ける公の影。
迎え撃つ黒騎士造魔は、ロングソードとランスを向け、繋がった体同士で死角を補う。
<<ゆくぞッッ!!>>
「私は愚鈍なQとは違うということを教えてやろう!!」
公の影達との戦いは熾烈を極めていくだろう。
しかし、それ以上の戦いを行わなければならないのが…四天王達との戦い。
そのために用意されたのだ。
イルミナティが誇るダークサマナー達を。
――――――――――――――――――――――――――――――――
他の坂東宮内でも攻防が続けられていく。
罠を掻い潜って進んでくるダークサマナー達に対し、各寺社の神鏡を守る四天王達も動く。
<…思い出しますな。天慶3年(940年)の頃を…>
他の四天王に向けて念話を行ったのは、最奥領域で佇む鬼神。
【持国天】
世界の中心である須彌山(しゅみせん)の中腹にある、四天王天に住まう四天王の一人。
東方および人間が住む勝身州の御法神であり、ドリタラーシュトラとも呼ばれた。
古代インドの二大叙事詩の一つマハーバーラタには、同名の盲目の王が記載されている。
このドリタラーシュトラ王が神格化され、持国天となったらしい。
一般的には中華式の鎧を着た武人像であり、刀と摩尼宝珠を手に持つ姿である。
<…公は五千の兵を率いて常陸国へ出陣し、平貞盛と維幾の子為憲の行方を捜索した>
念話を返すのは、筆と経典を持つ鬼神。
【広目天】
醜目天とも意訳される存在である四天王の一人。
西方および人間が住む午貨州の御法神であり、ヴィルーパークシャとも呼ばれた。
第三の目である浄天眼と三叉槍を共有するように、破壊神シヴァと関連が深い。
古代インドの二大叙事詩の一つマハーバーラタには、同名のラクシャーサがいたという。
一般的には中華式の鎧を着た武人像であり、右手に筆、左手に経典を持つ姿である。
<10日間に及び捜索するも貞盛らの行方は知れなかった。あのとき公は…兵達を国に返した>
念話を返すのは、巨大な三叉槍を持つ鬼神。
【増長天】
四天王の一人であり、南方および人間が住む贍部洲の御法神。
ヴィルーダカとも呼ばれ、この語には芽生え始めた穀物という意味がある。
五穀豊穣を司り、驚異的な成長を持って仏法を守護する。
密教の真言によると、八部衆の一つである森の神ヤクシャの頭領であったという。
一般的には中華式の鎧の上から天衣を纏う武人像であり、右手には剣か三叉槍を持つ姿である。
<…あの判断が致命的となり、公は敗戦した。歴史が繰り返されるだろう…>
最後に念話を返す者こそ、四天王達の中心人物とも言える鬼神。
【毘沙門天】
多聞天とも呼ばれる鬼神であり、北方および人間が住む倶盧洲の御法神。
ヴァイシュラヴァナとも呼ばれ、その前身は古代インドの財神クヴェーラである。
財神であるため七福神にも取り入れられ、また戦いの神としても崇拝されてきた存在。
戦国武将の上杉謙信も毘沙門天の加護を祈り、旗印に毘の文字を入れて出陣したと言われた。
一般的には中華式の鎧を着た武人像であり、左手には宝塔を、右手には金剛棒を持つ姿である。
<…公は人修羅を彼の地に返された。残しておれば…此度の戦も勝てたやもしれぬ>
<まるで公は…かつての歴史を繰り返すために、この負け戦に臨んだようにも思える>
<我ら四天王の力を結集しようとも…我ら神々は未来が視える者達。この戦は…負けるのだ>
やりきれぬ思いを感じさせる言葉を残す三鬼神達。
だが、毘沙門天だけは違う。
<フッ…それがしにはな、公のお気持ち…なんとなくではあるが、分かるのだ>
<どういう意味なのだ、毘沙門天殿?>
<それがしは、かつてのボルテクス界において人修羅と呼ばれた嘉嶋尚紀と…二度戦った>
<彼の者の実力をよく知る者として、何を感じられたのだ?>
<あの者は…ただの悪魔ではなかった。人であり、悪魔でもある…陰陽を司る存在であったのだ」
<陰陽の悪魔…>
<悪魔であると同時に…人でもある…>
<かつての尚紀は流される者だった。しかし、この世界で成長した尚紀を公から聞けて確信した>
――あの男は…
人であり悪魔であり、そして神でもある。
それはまさに、陰陽だけではなく根源である太極をも表す三位一体。
父と子と精霊を司る三位一体であり、万物の三本柱であるセフィロトともなるのだ。
<公もそれがしも…尚紀になら託してもいいと思えた。だからこそ、我がマガタマを譲ったのだ>
<神…それはヘブライにおいては、大いなる神の子であるメシアをも表す>
<仏教においては…遥か未来に生まれるという菩薩…ミロクメシアをも表すだろう>
<彼の者なら…公には出来なかった日の本の救世を…いや、世界の救世を行えると考えるのか?>
<そうだ。だからこそ、公とそれがしの魂は…人修羅と呼ばれた尚紀のために残そう>
毘沙門天の覚悟を聞いた他の三鬼神達の口元には…笑みが浮かぶ。
「ならば…我らの魂も、彼の者のために残そう」
「そのための負け戦ならば…悔いはない」
「公のお気持ち…我らも理解出来た。共に冥府に参りましょうぞ…」
皆が口を揃えて言葉を残す。
――この星の新たなる御法神となるに相応しき益荒男に……栄光あれ。
語り終えた毘沙門天は、眼前から現れようとしている巨大な魔力に視線を向ける。
「…鬼門結界を破れる程の豪の者達か」
最奥領域の扉に張り巡らせていたサンスクリット文字の結界が砕け、扉が破壊される。
白煙の中から飛び出し、最奥領域の広大な空間に飛翔して現れる梟。
歩いてくる人物の姿を見て、毘沙門天は金剛棒を振りかざす。
現れたのは黒スーツ姿のリリスであり、持ち上げた右腕に梟姿のアモンが降り立つ。
「ヤクシャや羅刹程度の雑兵で、私達を止められると思ったのかしら?でくの坊さん?」
50mを誇る巨体を持つ毘沙門天を相手にしても余裕の表情。
「貴様…夜魔の女王であるリリスだな?そして…梟の姿に擬態している者は…」
「如何にも。こちらも紹介するわね、魔王アモンよ」
「ククク…この程度ででくの坊と言うのか?吾輩から見れば、虫けらの如き小さな者に見える」
「古代エジプト、テーベの守護神を起源に持つ魔王か…。正体を現せ!!」
「ご指名みたいよ、アモン」
「では…吾輩が相手をして差し上げよう」
腕から飛び立ち、リリスの上で羽ばたきながら真紅の瞳を光らせる。
「こ…この膨大な魔力は!!」
梟の体がどんどん膨張して巨大化していく。
「ここは狭い。離れているがいい、リリス」
「そうさせてもらうわ」
リリスが蜃気楼のように消えた背後には、超巨大な蛇の尾が地面に叩きつけられる。
「おおおおぉぉ……ッッ!!」
両翼の付け根部分から血が噴き出し、真紅に染まった巨大な両腕が生えてくる。
尾羽の辺りから生えた蛇の尾は伸び続け、梟の体も巨大化を続けていく。
最奥領域でさえも巨体を収めきることは出来ず、屋根を破壊して聳え立つ…超巨大な魔王の姿。
【アモン】
ソロモン王に封印された72柱の魔神の一柱であり、古代エジプトの守護神を起源に持つ魔王。
大気と豊穣を司る神であり、太陽神ラーと習合され主神アモン(アメン)・ラーとして信仰された。
地獄の第1軍団大将を務める悪魔軍団最高司令官であるサタナエル配下の者である。
地獄の40個軍団を指揮する序列7位の大侯爵であり、炎の侯爵とも呼ばれる司令官を務める。
梟の頭を持つ人間の姿や、梟の頭と狼の胴体、蛇の尾を持つ姿としても描かれるようだ。
過去や未来を視通す力を持ち、気が向けば恋愛や友人同士の仲違いを仲裁することもあるという。
アモンは魔神の中で最も強靭な肉体を持ち、口から業火を吐くことも出来ると言われている。
見えざる者とされ真の名を暴く事は出来ず、いかなる神も彼を傷付けることは出来ないとされた。
<<アー!!モーッッ!!!>>
アモンは自身の悪魔結界を生み出し、毘沙門天を取り込んでいく。
毘沙門天が立っていたのは、地平線の彼方にまで伸びる夜の砂漠世界だ。
天に向かわんばかりの巨大なる悪魔を見上げる毘沙門天の顔にも冷や汗が浮かぶ。
「まさか…これ程までの存在であったのか!アモン・ラー!!」
2千mにも上る巨大な蛇の尾。
尾の模様は無数の単眼を思わせ、イルミナティが崇めるプロヴィデンスの目と似ている。
本体である梟の体だけでも500mはある巨体。
長く伸びた赤き両腕と、大きく広げた梟の翼をもって相手を威圧する禍々しさ。
これ程までの魔王が地上に現れたのなら、地球などアモン一体で滅んでしまうだろう。
「…ここが、それがしの死に場所となるだろう。だがッッ!!!」
腰を落とし足を半歩広げ、金剛棒を右肩に担ぐような構え。
「ただでは死なん!!貴様も道連れにしてやろうぞ!!!」
「吾輩を恐れぬその胆力…見事なり。だがその意思、何処まで保つのか…」
――吾輩が審理してやろうではないか。
禍々しい両掌が開き、業火を噴き上げさせる。
敵全体に相性を無視して貫通する、特大威力の火炎属性魔法である『メギドフレイム』だ。
さらに体から光りを発し、魔力を強化していく。
魔法攻撃力を上げる魔法である『コンセントレイト』をかけて威力を倍増させたのだ。
絶対の死をもたらす魔神を前にしても、毘沙門天の口元には笑みが浮かぶ。
「尚紀…汝は小さな人の身でありながらも、それがしに果敢に挑んできた。それがしも続こう…」
物理攻撃力を上げる補助魔法のタルカジャをかけ、さらに攻撃力を上げる気合の力を溜め込む姿。
「ゆくぞぉ!!!」
一気に跳躍し、上空にそびえるかの如きアモン本体に向けて剛腕の一撃を狙う。
「耐え切ってみせよッッ!!!」
両掌からメギドフレイムが放たれる。
「ぐおおぉぉーーーーッッ!!!!!」
地平線の彼方まで伸びる砂漠世界全土を飲み込む程の超業火地獄。
魔法少女であれば、防御結界を張り巡らそうとも一瞬で燃え尽きる程の熱量世界。
炎を無効化出来る耐性を持つ毘沙門天ではあるが、耐性を貫通する程の炎攻撃で全身が焼かれる。
「乾坤一擲!!!」
メギドの如き業火の世界から飛び出したボロボロの毘沙門天の一撃がアモンに迫る。
四天王達は決死の覚悟で戦うだろう。
その先に敗北があると知っていても、彼らの顔には恐れも悔しさもない晴れやかさを誰もがもつ。
四天王達の意思と志とも言える魂を、託せる者がこの世界にいてくれたから。
――――――――――――――――――――――――――――――――
公の影二体と戦うガルガンチュアXであるが、劣勢となっていく。
「がぁッッ!!!」
剣戟で壁に叩きつけられたボロボロのガルガンチュアXは、迫りくる公の影二体に視線を向ける。
「剣豪とも呼べる剣技だけでなく…魔法も熟達している!ドクタースリル…情報不足だったぞ!」
立ち上がり、負けじとマハブフーラを放つ。
公の影の一体が反射魔法のマカラカーンを使い、マハブフーラは跳ね返される。
「ぐおおぉぉーーーーッッ!!!」
跳ね返された吹雪で甲冑が凍り付いていき、動きが鈍くなっていく。
「まだ上れないのかQ!!これ以上は持ちこたえられないぞ!!」
<<あと少しだーーッッ!!!>>
穴の方からの声に最後の希望を託し、決死の覚悟で突撃する。
<<笑止!!紛い物の悪魔如きで我を倒せるものか!>>
「本体の影共に言われたくはない!!」
ガルガンチュアXの剣戟を受け止めるが、畳部屋にまで押し込まれていく。
<<面妖な造魔め!!>>
背後から迫るもう一体の影の剣戟は背中と同化した黒騎士が受け止め、左右から迫る剣戟に対応。
左右から迫る公の影の袈裟斬りを受け止め、鍔迫り合いと化す。
「ぐあっ!?」
左右同時の頭突きを受け怯むガルガンチュアXに対し、左右同時に放つ回し蹴りの一撃。
「ヌォォォォーーーッッ!!!」
畳に倒れ込んだガルガンチュアXにトドメをささんと左手を刀に翳す二体の影。
合体剣と呼ばれる魔法の『紅蓮真剣』を纏わせ、刀身に業火を纏わせる。
武器を落したガルガンチュアXは覚悟を決める。
「…あの愚鈍造魔め!死んでドリーカドモンに戻っても…アイツにはされたくない!」
刀を振りかざし、トドメを刺そうとした時…。
「ピンチヒッター登場ぉーーッッ!!!」
襖を体当たりで破り、跳躍して公の影二体の中央に着地したのはガルガンチュアQ。
「間に合ったか!!騎士がピエロに助けられる皮肉もこのさい許してやるぞ!!」
意表を突かれた公の影達が向き直ろうとした頭部を剛腕の手で掴み上げる。
「このままスイカ割りのようにしてや…ぬふぅ!!?」
火炎魔法を纏った刀の刀身が、ランパート・スーツを貫通している。
スーツ内で吐血するガルガンチュアQであるが、掴んだ手を離さない。
「ゴハッッ!!このスーツは魔法が防げない…弱点を突いてくるとは卑怯ですぞーッッ!!」
<<痴れ者め!!戦場で女々しい言い訳を並べるぐらいならば、潔く散華せよ!!>>
「トホホホホゥ……それしかないかも」
立ち上がろうとするガルガンチュアXに向けて、最後の叫びを放つ。
「ドクタースリルに伝えておいて欲しい!このスーツで暴れさせてもらえて…楽しかったと!」
「ガルガンチュアQ…!!いちいち死に際までそのスーツ気にする必要あるのか!?」
「ドリーカドモンは拾っておいてくれ!!あと、スーツの見た目もカッコよくしてと伝えて!」
「死に際なのに注文が多すぎる!悲壮感の欠片もない奴め!!」
「大切な事である!!」
スーツの隙間から光りが漏れ出していく。
悪魔が命を捨てて用いる自爆魔法である『玉砕破』の光だ。
彼の意思を汲み取ったガルガンチュアXは跳躍して回避行動。
<<ヌォォォォーーーッッ!!は、放せーーーッッ!!!>>
「ホホホホゥ!!嫌なこったでございますーーーッッ!!!」
カッと武家屋敷が光り、大爆発を起こす。
爆発の衝撃波が幾重にも生み出され、武家屋敷迷路は主ごと破壊されてしまった。
異界が解け、寺社内に戻ったガルガンチュアXの前には…影が守っていた神鏡が宙を浮く。
「……ぬんっ!」
甲冑を纏う拳で神鏡を叩き割る姿。
同時に、北斗七星結界を繋ぐ起点の一つが消失する余波が周囲に広がっていった。
「よぉやったで~ガルガンチュアX!!おまえはオトコ前や~!!」
労いに現れたドクタースリルであるが、周囲をキョロキョロと伺う姿。
「……ガルガンチュアQは帰ってへんな?」
「…あの造魔は、影を道連れにして死んだぞドクター。お陰で命拾い出来た」
それを聞いたスリルは赤眼鏡の内側から大量の涙を流して大喜び。
「ガルガンチュアQ!!お前もオトコ前やった!!流石わしが作ったガルガンチュアや!」
「それと…あのスーツについて文句を垂れていたのだが…」
「なんやねん!?わしのスーツに文句あったんかあのアホ!!感動して損したわ!!」
離れた場所に転がっていた造魔の素であるドリーカドモンを拾い、スリル達は撤収していった。
……………。
水稲荷神社の結界内においても、アリナ達の善戦が続くのだが…。
「くっ!!」
霧化を駆使して避けようとするが、風魔法の『ザンダイン』の直撃を受け霧ごと弾かれた十七夜。
「十七夜!?」
援護射撃をするために、アリナはマギア魔法Nine Phasesを放つ。
複数のルービックキューブが光弾となりて影に迫るが、マカラカーンを使われる。
「マジでッ!?」
マギア魔法が反射され、アリナに向けて飛来。
「アウチッ!!」
避け切れず光弾を体に食らって倒れ込むアリナの姿。
「女王様ーーッッ!?私の主になんということを!!」
<<余所見をするとは、死にたいらしいな>>
「何っ!?ぐはぁ!!」
隙を突かれ、刀で腹部を串刺しにされたアティス。
そのまま蹴り込まれ、アティスの体が弾き飛ばされる。
「ゴハッ…この強さ…雑魚と聞いておりましたが…些か情報不足だったのでは…?」
迫りくる強敵に対し、ふらつきながら起き上がり手をかざす十七夜。
「魔法攻撃は反射されるのか…。ならば、これならどうだ!!」
念波を周囲に送る。
日本庭園のような中庭に備わっていた岩や石灯籠が宙に浮かび上がる。
「行けっ!!」
物理攻撃に近い魔法攻撃とも言えるマハサイを駆使する攻撃。
無数の飛来物が迫りくるが、影達は霞の構えで迎え撃つ。
「そ、そんな!?」
次々と迫りくる飛来物を連続で斬り捨て、あっけなく地面に落ちていってしまう。
「チャンス!!」
傷だらけのまま起き上がったアリナは、攻撃用のキューブを構える。
キューブが光りを放ち、公の影の周囲に結界を張っていく。
<<ぬぅ!?>>
影達の姿がキューブの中に収められ、封じ込められてしまう。
アリナの固有魔法を駆使した牢獄結界の中に閉じ込められてしまったようだ。
「や…やったのか…?」
ふらつきながらアリナに近寄ってくる十七夜。
飛来してきたキューブを掌の上で浮かせていたアリナであったのだが…。
「……不味いかも、コレ」
「何っ…?」
冷や汗が顔を伝うアリナは結界を張る持ち主であり、結界内の光景も分かる。
常人なら発狂死するほどの狂った空間内で影達が放とうとする巨大な魔法を感じ取ったのだ。
<<周りの被害を気にしなくてもいい空間を与えてくれたのだ>>
<<遠慮をする必要もないということだな?>>
地面に刀を突きさし、放たれたのはメギドの一撃。
結界内で二発のメギドが炸裂し、眩い光に包まれていく。
「ま、不味いんだケド!!」
掌の上で浮かせていたキューブを捨てようとしたが、キューブが光りを放ち…。
<<キャァァーーーーッッ!!!!>>
メギドの威力は牢獄結界を破壊しただけでは収まり切らず、外の空間まで襲い掛かる。
周囲に放たれた万能属性魔法の威力によって、アリナ達は武家屋敷方面にまで弾き飛ばされる。
「ぐっ……うぅ……」
「なんという……一撃!わたくし…感動いたしましたぞ…!」
壁を突き破り、屋敷の中から中庭を見るアリナとアティス。
牢獄結界から解放された影の一体が迫ってくるのが見える。
「女王様…こんな時に言うのもあれですが…MAG不足でお腹ペコリンなのであります」
「…マジでこういう時に言うようなセリフじゃないんですケド…」
「申し訳ないのですが…濁ったジェム内のマグネタイトをチューチューしても宜しいですかな」
「……好きにしなさいヨネ」
俯けに倒れたままアリナに手を翳すアティス。
アリナのソウルジェムから穢れの感情エネルギーが噴き出していく。
「あ…あら……?」
感情エネルギーはアティスの方には向かわず、中庭の方に向けて飛んでいく。
「あいつ…!?」
公の影は怪しく光る刀を翳し、アリナから生み出されたMAGを刀を用いて吸収していく。
デビルサマナーのMAGを吸い取る能力を持つのが『怨霊剣』の能力のようだ。
<<ぐあぁぁーーーッッ!!!>>
MAGを吸収する公の影の向こう側では、首を掴まれて持ち上げられた十七夜の姿。
<<生者必滅。吸血鬼であろうとも例外ではないぞ、小娘>>
「十七夜!!アリナ達を残して逃げてもいいカラ!!!」
「断…る……!!」
愛する仲間のために最後まで戦おうとする十七夜の腹部に目掛け…。
「がはっ!!!」
怨霊剣が突き刺さり、刀身が大きく背中から突き出す光景。
「まだだ…まだ終わりではないぞぉ!!」
首を掴む腕を両手で掴み、吸血魔法を放つ。
影の体から血と魔力が噴き出し、吸血しながら回復しようと努めるようだが…。
「なんだ…か、体が……!?」
手の先から石へと変化していくことに気が付く十七夜。
足元も石化していき、石化現象は体の上部に向けて進んでいく。
<<我が飛び首の一撃、汝を死へと誘うだろう>>
相手にダメージを与えると同時に、石化や魅了などの状態異常を付着させる攻撃が十七夜を蝕む。
分霊である雑魚だと侮っていたようだが、絶体絶命の状態にまで追い込まれてしまったアリナ達。
千年を超えて関東の守護神を務めてきた将門公とは…それ程までの存在であったのだ。
「……女王様」
腹部から血を流すアティスが立ち上がり、迫りくる影に向けて歩いていく。
「私の死を超えて……勝利という再生の美を描いて頂きたい…」
「変態デビル……?」
最後の力を振り絞り、逆手に持つ刃を突き立てんと公の影に飛び込む姿。
<<手打ちにしてくれる>>
八相の構えとなり、飛び込んでくるアティスに目掛けて左薙ぎ。
「が……あっ……」
アティスの首は跳ね落とされ、飛び首となって宙を舞う。
だが…残されたアティスの体が光りを放つ。
「何が起きてるワケ…?」
「この温かな光は…一体…?」
仲魔達に向けて光が舞い降り、傷も魔力も全快していく。
命を捨てて味方を完全回復させる回復魔法である『リカームドラ』の光だ。
石化が解けた十七夜は蝙蝠化を用いて刀身から抜け出し、光で目が眩んだ影の背後に回り込む。
実体化して鎧甲冑の背中に向けて右手を翳す。
「この距離なら外さん」
<<貴様…!?>>
サイの念波を放ち、相手を拘束。
<<ヌォォォォーーーッッ!!!?>>
宙に浮かぶ公の影に対し、右手に力を込める。
「はぁッッ!!!」
開いた手が握り込まれると同時に、影の体は一瞬で圧縮され押し潰された。
小さな肉塊が弾け、MAGの光を空に向けて放つ光景に気が付いたのは、もう一体の影。
<<おのれぇぇーーッッ!!!>>
影の一体が倒された事に気が付き後ろを振り向いた迂闊さを、アリナは逃さない。
<<何っ!?ぐおおぉぉーーーーッッ!!!>>
背後を振り向けば、巨大な手によって鷲掴みされて持ち上げられていく。
召喚されていたのは、武家屋敷の天井を破壊する程の巨大な体を持つ邪神パズスだ。
「状態異常に耐性を持つ者か…。楽には死ねんぞ」
掴んだまま青白い炎を噴出させ、公の影を焼いていく。
<<グォォォーーーッッ!!!>>
掴まれたまま体を焼き尽くされていく影の姿。
首から下を掴まれた状態ではあるが、伸ばしていた右腕と刀はまだ動かせる。
最後の力を振り絞り、公の影は首の裏に刀の刃を向ける。
<<我の魂は公と共に有り!!そして公の魂も…新たなる後継者と共に有り!!>>
自ら首を跳ね落とす。
飛び首となった頭部が空中で浮かび、パズスに目掛けて最後の特攻。
眼前で自爆し、周囲が白煙に包まれる。
白煙が晴れれば…左手で顔を覆い、爆発を防ぎ切ったパズスの姿が現れた。
「最後まで武士であったか…見事なり」
異界が解け、寺社内に戻ったアリナ達。
「変態デビル…グッジョブだったんですケド。使えるヤツだと分かって、アリナも安心したカラ」
アリナと十七夜の前には、宙に浮かぶ神鏡。
上を見上げ、頷いたパズスは右手の人差し指を鏡に向ける。
神鏡はパズスの業火で熱破壊。
同時に、北斗七星結界を繋ぐ起点の一つが消失する余波が周囲に広がっていった。
「獅子でもある我は常に汝と共にある。いつでも呼ぶがいい」
「どうしてライオンだと、常にアリナと共にいたくなるワケ?」
「…いずれ分かる時が来る」
――獅子とは、金星の女神と縁が深い存在だからだ。
そう言い残して、パズスはアリナのキューブの中へと戻っていった。
「…生き残れたのは自分達だけか。アティスがいてくれなければ…死んでいたな」
「そうカモ。後でフェニックスの蘇生魔法で生き返らせてあげてもいいヨネ」
「そうだな。だが…ご褒美の鞭を要求されそうな気がする」
「アリナにも…ヒールで踏んで欲しいって要求しそうなんですケド」
「…やっぱり、生き返らせてやるのは止めとくか?」
「変態さえ無かったら、マシなデビルだったんですケド」
夜空に流れ星が見え、泣き崩れるアティスの影が見えたような気がした。
踵を返し、2人は寺社を後にしていく。
北斗七星結界を繋ぐ起点は次々と破壊されていく。
同時に、結界の効力が切れてきたのか夜空に巨大な施設の影が見えてくる。
人間には見えないが、魔法少女やデビルサマナー…それに悪魔達にはその影が見えている。
「あれが邪教のアトリエ…?」
「だと思う…。あれ程の巨大な施設が東京の空の上に隠されていたとはな…」
「フフッ♪楽しみだヨネ…アリナは絶対にあのアトリエを手に入れてみせるんだカラ」
リムジンに乗り込み、合流地点へと向かう。
坂東宮攻略戦は最終局面を迎えようとしている。
移動指揮車内では神鏡破壊の情報が伝えられていき、表示された地図には印がついていく。
「……我も動く」
「ご武運を、バアル様」
移動指揮車内から姿を消し、バアル神であるモロクは将門首塚を目指す。
日の本の守護を担ってきた神々の輝きは…次々と消えていく。
その光景は、この国がさらなる闇に飲み込まれていくかのようにも見えてくる。
それでも、憂国の烈士達の顔に憂いはない。
なぜなら…国を憂う志しを継いでくれる男と、出会えたから。
長くなるので二つに分けます。
敵側にもコミカルなキャラを突っ込むと生き生きさせられて良いですよね。