人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
夜空に暗雲が立ち込める東京。
東京都千代田区大手町に向けて黒塗りバンや偽装トラックの車列が次々と向かっている。
作戦通りの攻略先に向かう車列の中にはアリナ達が乗るリムジンもいるようだ。
「あのデカいトラックの中に…ガルガンチュアとかいうのが入ってるんだろうけど…」
「…悪魔の魔力を数体あの中から感じたが、ただの悪魔ではなさそうだったな」
「どんな感じのデビルだと思う?」
「分からんが…スリルは軍事科学者なのだろう?悪魔を用いた研究成果を乗せてるとしか…」
「デビルインスティチュートのマッド科学者かぁ…話ぐらいはしてあげても良かったヨネ」
「悪魔研究所も君にとってはアトリエなのかもしれないからな…」
「イグザクトリー」
車の車列は千代田区に入った事で皇居が見えてくる。
地図アプリで現在位置を確認する十七夜は苦虫を嚙み潰したような表情になってしまう。
「…この国の悪しき歴史の象徴とも言える牙城が見えてくる頃だな」
「手を出すのはやめた方がいいカラ。あそこには皇居警察だけでなくヤタガラスも潜んでる」
「ヤタガラス…ユダさんから聞いたな。1300年間日本を支配してきた神道秘密結社だと…」
「皇室だけでなく政財界にも勢力を伸ばしてるんだヨネ。サマナーも大勢抱えてるワケ」
「戦うとなると厄介な連中という訳だな。そのヤタガラスのお膝元での作戦行動か…」
「ノープロブレム。ヤタガラスからは許可を貰ってのミッションだって言ってたカラ」
「どういう事なんだ…?イルミナティとヤタガラスには繋がりがあるというのか?」
彼女の質問に対してアリナは不気味な笑みを返す。
車は千代田区を超え、目的地となる新宿区西早稲田にある水稲荷神社に向かう。
午前0時が近づいてきた頃。
経団連会館前に停められた移動指揮車内では兵士達が戦闘指揮を行うモニターを監視する。
青白く光るモニターを後ろ側から見つめるのは大いなる存在。
そこに立っていた人物とは子供達の血で染められたような真紅の衣服を纏う大男。
燕尾服風の赤の上下に黒のカマーバンドやストールチーフを首に巻いたフォーマル姿。
肌は浅黒く、その頭部は二本角が天に向かって生えた牛を模した純金の兜を纏う。
腕を組んでモニターを見つめているのはバアル神であるモロクである。
「東京都公安委員会からの連絡です。全ての寺社付近の交通規制は完了したとの事です」
「……人払いは済んだか」
現場には黒塗りバンから下りてくるダークサマナー達が展開されている。
その姿はまるで市街戦を専門とする法執行機関特殊部隊兵士のような黒装備姿であろう。
自動小銃を持ち、タクティカルベストには召喚管や銃弾マガジン等で武装を行う完全装備。
ヘルメットにはカメラも装備され、カメラ映像は移動指揮車のモニターに届けられるようだ。
アリナ達も侵攻部隊と共に潜伏している。
ドクタースリルを乗せた偽装大型トラック内ではガルガンチュアシリーズが稼働し始める。
コンピューターパネルを操作し、機械仕掛けで覆われた巨大試験官が開いていく。
「ケケケ!この天才スリルが生み出したすんばらしい造魔!ついにお披露目の時間やでぇ!!」
中から現れたのは巨大な人の姿。
衝撃吸収素材を用いたアーマーを纏い、着膨れした巨人こそペレネルも取り扱う造魔である。
【ガルガンチュア】
中世フランスの民話、巨人ガルガンチュア大年代記に登場する巨人。
アーサー王物語のマーリンによって自由の力を与えられて冒険すると言う話が展開される。
ガルガンチュア物語は派生も多く生まれ、巨人だけでなく人間として登場した事もあるという。
社会を痛烈に風刺する作品であり、善悪という単純な描写ではない作品を歴史に残したようだ。
「行けや、ガルガンチュアQ!!雑魚やからって手加減はいらへんでぇ!!」
「ホホホホゥ。了解した、ドクタースリル。雑魚をブチのめす!」
「おまえに着せたったランパートスーツはいくらどつかれても効かへん!流石天才やな!」
「このピエロのような大型スーツ…重たい、動きにくいですぞ」
「贅沢言ったらあかんでぇ!おまえは皮膚が弱いんやさかい、外気を浴びたらあかんのや!」
「なんというデメリット!作り直しを所望しますぞ、ドクタースリル」
「わしの成果にケチつけるんかい!?いいからさっさと行って、いてこましてこんかい!!」
「トホホホホゥ…造魔使いの荒いドクターである」
偽装トラックからは他のガルガンチュア造魔も下りてきて寺社内に展開していく。
水稲荷神社内に向かう魔法少女姿のアリナは手首のバンドで隠している時計に目を向ける。
「……そろそろミッション開始なんですケド」
彼女は黒のミニスカートポケットから黒革手袋を取り出す。
「その革手袋は何だ?」
吸血鬼悪魔姿となった十七夜は手袋を嵌めていくアリナをしげしげと見つめてくる。
「ダークサマナーとして立派になったお祝い品として、アレイスターから貰ったんだヨネ」
右手に嵌めた手袋の甲に描かれているのは悪魔召喚士や陰陽師が用いる五芒星の印であろう。
「受け取る気はなかったケド…あいつが生み出したシジルが気に入ったから身に付けるワケ」
手袋を嵌めた右掌を十七夜に見せてくる。
「その印は…何なんだ?」
手袋に描かれていたのは暁美ほむらの左手にも刻み込まれていた
「有神論的サタニズムを象徴するシジル。サタンを崇拝するシンボルでもあるんだヨネ」
「なるほどな…自分もサタンである人修羅様を崇拝するためにマントに刻みたいぐらいだ」
「サタニズムは個人主義と自由主義を表すワケ。自己を高める追求…
「他者にコントロールされたり抑圧されたり、群衆に従わされたりするのを拒絶する道か…」
「アリナ達は迷わない。カミハマの魔法少女達が現れても…ゴーイングマイウェイを貫く」
「うむっ、自分もサタニズムの道を共に進もう。全ては世界に博愛と平等をもたらすために」
「アリナ達はアリナ達のマイウェイを進む。人には勝手な事を言わせておけばいいカラ」
アリナが進む道もまた嘉嶋尚紀や暁美ほむらと同じ道。
たとえ周りから間違っていると責められても自分の正しさを自分自身が裏切らない道。
鹿目まどかの正しさ、御園かりんの正しさ、正義の魔法少女の正しさに流されない道を求める。
かつての尚紀は自分の居場所を探し続けた保澄雫に言葉を残す。
本性を受け入れず、繕い、作り上げるなら何であれつまらない。
周りに合わせて生きていても、両足でしっかり立っている気がしない。
周囲の人々に流されていき、保澄雫のように自分の居場所を見失うようにはなりたくない。
唯一神に支配され、全体秩序の正しさしか許されない原初の男女のようにはなりたくない。
そう願う人間が知恵を求め、本当の自分と出会う道。
それこそが人間に知恵のリンゴを授けるサタニズムであったのだ。
「各班、突入準備完了しました」
腕を組んだ姿をしていたが両腕を下ろした後、純金の牛兜の中からこう告げる。
「……作戦開始」
「了解。作戦開始発令、各班は坂東宮結界に突入せよ」
アリナ達が率いるダークサマナー部隊が動き出す。
坂東宮攻略戦がついに開始されるのであった。
♦
突入部隊に待っていたのは尚紀が将門首塚にやってきた時と同じ光景である。
「…異界に引き摺り込む気ですネ。将門は歴史においても敵軍を自軍領土で待ち構えましタ」
ホワイトアウトした景色が収まれば、そこには巨大な鳥居と広大な武家屋敷迷路が待ち構える。
「備えあれば憂いなしか…だが、今までの三流サマナーのようにはいかんぞ」
「策士策に溺れるという諺を思い知らせてやりましょう、フィネガン」
侵入部隊は武装サマナーを先頭にして武家屋敷に侵入していく。
「ちょっと、キャロル!迂闊に進めば罠にかかるわよ!」
「ビビってんじゃねぇ!俺様のオーディエンスにダサい姿を見せる訳にはいかねぇぜ!!」
「まったく…どうして男はいつもいつも、自分を大きく見せようとするのかしらねぇ…」
ガルガンチュアシリーズも武家屋敷に入っていく。
ガルガンチュアQも屋敷の中に入ってみるが、そこは既に惨状が広がっている。
「ホホホホゥ?プロトガルガンチュアシリーズでは対処出来なかったようですな」
廊下の板を踏み抜いたガルガンチュアは壁から飛び出した無数の槍で串刺しにされている。
「なるほど、足元注意というわけですな。しかし!このランパートスーツの性能を見よ!」
気にせず歩き、板をどんどん踏み抜いていく。
壁や天井から槍や大砲の弾が飛び出そうともスーツの耐久性のお陰でびくともしない。
「フホホホゥ!流石はスリルのスーツ性能!わたくし、感激で前が見えません!」
だが油断は大敵である。
「フホッ!?」
床が開き、落とし穴の罠にかかってしまう。
「ホホホーーーゥ!!?」
底に仕掛けられた剣山トラップさえもスーツの耐久性で防ぎ切ったようだが問題もあろう。
「無敵!!わたくしは無敵でございます!!」
起き上がり、落とし穴から出ようとする。
「フホッ…随分と底が深い穴だったようですぞ…」
重たい体のジャンプ力では上まで届かず、仕方がないので両手足を壁に貼り付けながら上る。
そんな罠にかかった獲物の頭上には二体の黒い影が現れているのだ。
アリナ達も先攻部隊を先に行かせた後、遅れて中に入り込む。
「…見ろ、アリナ」
後ろを振り向けば入り口は消えており、枝分かれした通路となっている。
「デビルラビリンスってワケ?トラップ塗れだと考えるのが自然だと思うんだヨネ」
「先に行った連中も…どうなっていることやら」
「仕方ない…コイツの実力を試してみるカラ」
黒手袋を嵌めた右掌を掲げるアリナはキューブを生み出す。
キューブの一欠けらが宙を浮き、中から現れたのは鹿悪魔のフルフルであろう。
「ほえほえ~、呼んだかのぉ~さまなぁさんや?」
「ボケデビル、アナタはたしか…隠された秘密を暴ける能力があると思ったんだケド?」
「おお!ワシの力を当てにしようというワケじゃな!よかろう、ヤングガール共は見ておれ」
鹿の蹄のような手を持ち上げながら帯電させていく。
霊波を感じる場所を探り当てる力こそ、悪魔の現場検証能力とも言えるだろう。
「ふむっ、罠の位置は把握したぞ。ついてこい、さまなぁさん達」
「驚いたな…悪魔にはこのような能力も備わっていたとは…」
「現場検証能力だけではないぞ~?真っ暗なダークゾーンを光で明るくも出来るんじゃ」
「ただのボケデビルってワケでもなくて良かったんですケド」
黒い翼を広げて浮遊するフルフルが先導しながら2人を案内していく。
道中では罠にかかって即死したダークサマナー達の惨たらしい死体が転がっている。
「一瞬で殺されたか…流石のサマナー達も見えない罠を探る術がなければ助からんか…」
「アリナは当たりのデビルを引けて良かったワケ」
「わははっ!!どうぢゃ!ワシの華麗なテクは!」
「図に乗らない」
先導していくが屋敷の出口までは分からないのか入り組んだ道を進む事しか出来ない。
「同じ景色ばかりで方向感覚も分からないな…」
「ここの異界を張り巡らせる者を倒さん限り、ワシらは迷宮の迷子で終わるぞい」
「なら、ここのボスを探り出すんですケド」
「今やっとるわい!ろうじんをいたわれ!」
フルフル達が進んだ先は武家屋敷の中庭と思われる領域。
篝火が焚かれた庭で待ち構えていた二体の黒い影は先程現れた影と同じ姿をしている。
「…どうやら、あいつらがここのボスって感じだヨネ」
「この魔力…影と呼ばれながらも…桁外れだぞ!?」
腰の鞘から刀を抜刀して近づいてくるのは甲冑姿の将門と瓜二つの影達。
【公の影】
7人の影武者がいるか本物を含めて7人いるとされ、妙見信仰によるものだとされる。
影武者は平将門の呪術によって藁人形から創り出された御伽草子ではないかと語られている。
また主の身代わりとして討ち死にした家臣7名であるという伝承も残されていた。
「ふぅ…久しぶりに体を長時間動かしたら腰が痛くなったぞい、さまなぁさんや」
「ボケデビル…まさかとは思うケド…」
「ワシは帰って茶でも飲みたいわ、他の連中に任せるぞ~」
そう言い残した後、フルフルの体が光ってキューブの中へと戻ってしまう。
「やっぱアイツはボケジジィなんですケド!!」
「自分が前に出る!援護を頼めるか?」
「他の奴も前に出すカラ。前衛をやれそうな奴だから…アイツを試してみるんですケド」
キューブの欠片が宙を舞い、中から現れたのは狂神アティスである。
「全国の皆様、こんにちわ…」
「挨拶とかやってる場合なワケ!さっさと前に行く!!」
「突撃レポートしたいと思います!!」
曲線を描くダガーを逆手に持ちながらアティスも前に出る。
<<曲者共が…撫で斬りにしてくれるわ>>
公の影達が跳躍し、一気に乱戦へと導かれていく。
影に襲われているのはガルガンチュアQも同じである。
<<愚か者が罠にかかったようだ>>
<<たとえ鎧を纏おうとも、愚鈍な輩は容易いものだ>>
落とし穴の中には両手足を壁に貼り付けたままのガルガンチュアQがいる。
「ままま待ちなさい!!こんな状態のわたくしに攻撃を仕掛けるとは恥を知りなさい!!」
<<戦場で命乞いか?造魔とやらも痴れた者よ>>
<<灰塵に消えるがいい>>
片手を持ち上げ、メギドの光球を生み出していく。
「ヒィーーーッッ!!魔法攻撃はやめたってくださ~~い!!」
哀れ抵抗も出来ずに倒されようとした時、援軍が駆けつける。
<<ぬぅ!?>>
飛び込んできた巨体の斬撃に対して二体の公の影は跳躍して回避を行う。
現れた存在とは増援として現れた新たなガルガンチュア。
その見た目は西洋甲冑を纏う黒騎士二体を合成したかのような禍々しさをしている。
「こんな事もあろうかと、ドクタースリルは私も持ってきていたというわけだ」
「その声はX!?もう完成していたのか!」
「さっさと上がって来い、Q。私だけでは手に余る相手なのだ」
「あと少しで上り切るから持ちこたえてくれ~!」
広い畳部屋にまで移動した三体の悪魔は互いに武器を構える。
ガルガンチュアXを囲むようにして霞の構えを行う公の影。
迎え撃つ黒騎士造魔はロングソードとランスを向け、繋がった体同士で死角を補う。
<<ゆくぞ!!>>
「私は愚鈍なQとは違うという事を教えてやろう!!」
公の影達との戦いは熾烈を極めていくだろう。
しかしそれ以上の戦いを行わなければならないのが四天王達との戦い。
そのためにイルミナティが誇るダークサマナー達が用意されたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
他の坂東宮内でも攻防戦が繰り広げられている。
罠を掻い潜って進んでくるダークサマナー達に対して各寺社の神鏡を守る四天王達も動く。
<…思い出しますな。
他の四天王に念話を行うのは最奥領域で佇む鬼神。
【持国天】
世界の中心である
東方および人間が住む勝身州の御法神であり、ドリタラーシュトラとも呼ばれる。
古代インドの二大叙事詩の一つマハーバーラタには同名の盲目の王が記載されているという。
このドリタラーシュトラ王が神格化され、持国天となるのだ。
一般的には中華式の鎧を着た武人像であり、刀と摩尼宝珠を手に持つ姿であった。
<…公は五千の兵を率いて常陸国へ出陣し、平貞盛と維幾の子為憲の行方を捜索した>
念話を返すのは筆と経典を持つ鬼神。
【広目天】
醜目天とも意訳される存在である四天王の一体。
西方および人間が住む午貨州の御法神であり、ヴィルーパークシャとも呼ばれる。
第三の目である浄天眼と三叉槍を共有するように破壊神シヴァと関連が深い。
古代インドの二大叙事詩の一つマハーバーラタには同名のラクシャーサがいたという。
一般的には中華式の鎧を着た武人像であり、右手に筆、左手に経典を持つ姿であった。
<10日間に及び捜索するも貞盛らの行方は知れなかった。あの時の公は…兵達を国に返した>
念話を返すのは巨大な三叉槍を持つ鬼神。
【増長天】
四天王の一体であり、南方および人間が住む贍部洲の御法神。
ヴィルーダカとも呼ばれ、この語には芽生え始めた穀物という意味がある。
五穀豊穣を司り、驚異的な成長を持って仏法を守護する。
密教の真言によると八部衆の一つである森の神ヤクシャの頭領であったという。
一般的には中華式の鎧の上から天衣を纏う武人像であり、手には剣か三叉槍を持つ姿であった。
<…あの判断が致命的となり、公は敗戦した。その歴史が繰り返されるだろう…>
最後に念話を返す者こそ、四天王達の中心人物とも呼べる鬼神。
【毘沙門天】
多聞天とも呼ばれる鬼神であり、北方および人間が住む
ヴァイシュラヴァナとも呼ばれ、その前身は古代インドの財神クヴェーラである。
財神であるため七福神にも取り入れられ、また戦神としても崇拝されてきた存在。
戦国武将の上杉謙信も毘沙門天の加護を祈り、旗印に毘の文字を入れて出陣したと言われる。
一般的には中華式の鎧を着た武人像であり、左には宝塔を、右には金剛棒を持つ姿であった。
<…公は人修羅を彼の地に返された。残しておれば…此度の戦も勝てたやもしれぬ>
<まるで公は…かつての歴史を繰り返すために、この負け戦に臨んだようにも思える>
<我ら四天王の力を結集しようとも…我ら神々は未来が視える者達。この戦は…負けるのだ>
やりきれぬ思いを感じさせる言葉を残す三鬼神達であるが、毘沙門天だけは違う。
<フッ…それがしにはな、公のお気持ち…なんとなくではあるが、分かるのだ>
<どういう意味なのだ、毘沙門天殿?>
<それがしはかつてのボルテクス界において、人修羅と呼ばれた嘉嶋尚紀と二度戦った>
<彼の者の実力をよく知る者として、何を感じられたのだ?>
<あの者はただの悪魔ではなかった。人であり悪魔でもある…
<陰陽の悪魔…>
<悪魔であると同時に…人でもある…>
<かつての尚紀は流される者だった。しかしこの世界で成長した尚紀を公から聞けて確信した>
――あの男は
人であり悪魔であり、そして神でもある。
それはまさに陰陽だけではなく、根源である太極をも表す三位一体。
父と子と精霊を司る三位一体であり、万物の三本柱であるセフィロトにもなるのだ。
<公もそれがしも…尚紀になら託してもいいと思えた。だからこそ我がマガタマを譲ったのだ>
<神…それはヘブライにおいては大いなる神の子であるメシアをも表す>
<仏教においては遥か未来に生まれるという菩薩…
<彼の者なら公には出来なかった日の本の救世を…いや、世界の救世を行えると考えるのか?>
<そうだ。だからこそ、公とそれがしの魂は…人修羅と呼ばれる尚紀のために残そう>
毘沙門天の覚悟を聞いた他の三鬼神達の口元にも笑みが浮かんでいく。
「ならば…我らの魂も、彼の者のために残そう」
「そのための負け戦ならば…悔いはない」
「公のお気持ち…我らも理解出来た。共に冥府へ参りましょうぞ…」
皆が口を揃えて願いを託す最後の言葉を残してくれる。
<<この星の新たなる御法神となるに相応しき益荒男に……栄光あれ>>
語り終えた毘沙門天は直ぐそこから現れようとしている巨大な魔力に顔を向ける。
「…鬼門結界を破れる程の豪の者達か」
最奥領域の扉に張り巡らせていたサンスクリット文字の結界が砕け、扉が破壊される。
白煙の中から飛び出し、最奥領域の広大な空間に飛翔して現れたのは梟である。
歩いてくる人物の姿を見つめる毘沙門天は金剛棒を振りかざす。
現れたのは黒スーツ姿のリリスであり、梟姿のアモンが持ち上げた右腕に降り立つ。
「ヤクシャや羅刹程度の雑兵で私達を止められると思ったのかしら?でくの坊さん?」
50mを誇る巨体を持つ毘沙門天を相手にしても余裕の表情を浮かべてくる。
「貴様…夜魔の女王であるリリスだな?そして…梟の姿に擬態している者は…」
「如何にも。こちらも紹介するわね、魔王アモンよ」
「ククク…この程度ででくの坊と言うのか?吾輩から見れば虫けらの如き小さな者に見える」
「古代エジプト、テーベの守護神を起源に持つ魔王か…正体を現せ!!」
「ご指名みたいよ、アモン」
「では…吾輩が相手をして差し上げよう」
腕から飛び立ち、リリスの上で羽ばたきながら真紅の瞳を光らせる。
「こ…この膨大な魔力は!!」
梟の体がどんどん膨張していき、凄まじい規模で巨大化していく。
「ここは狭い。離れているがいい、リリス」
「そうさせてもらうわ」
リリスが蜃気楼のように消えた背後には超巨大な蛇の尾が地面を叩きつける。
「おおおおぉぉ……っ!!」
両翼の付け根部分から血が噴き出し、真紅に染まった巨大な両腕が生えてくる。
尾羽の辺りから生えた蛇の尾は伸び続け、梟の体も巨大化を続けていく。
最奥領域でさえも巨体を収めきる事は出来ず、屋根を破壊して聳え立つのは超巨大な魔王の姿。
【アモン】
ソロモン王に封印された72柱の魔神の一柱であり、古代エジプトの守護神を起源に持つ魔王。
大気と豊穣を司る神であり、太陽神ラーと習合されて主神
地獄の第1軍団大将を務める悪魔軍団最高司令官であるサタナエル配下の者でもある。
地獄の40個軍団を指揮する序列7位の大侯爵であり、炎の侯爵とも呼ばれる司令官を務める。
梟の頭を持つ人間の姿や梟の頭と狼の胴体、蛇の尾を持つ姿としても描かれるようだ。
アモンは魔神の中で最も強靭な肉体を持ち、口から業火を吐く事も出来ると言われている。
<<アー!!モーッッ!!>>
アモンは自身の悪魔結界を生み出し、毘沙門天を飲み込んでいく。
毘沙門天が立っていたのは地平線の彼方にまで伸びる夜の砂漠世界。
天に向かわんばかりの巨大な悪魔を見上げる毘沙門天の顔にも冷や汗が浮かぶ。
「まさか…これ程までの存在であったのか…アモン・ラー!!」
二千メートルにも上る巨大な蛇の尾。
尾の模様は無数の単眼を思わせ、イルミナティが崇めるプロヴィデンスの目と似ている。
本体である梟の体だけでも五百メートルはある巨体。
長く伸びた赤き両腕と大きく広げた梟の翼をもって相手を威圧する禍々しさ。
これ程までの魔王が地上に現れたのなら地球などアモン一体で滅んでしまうだろう。
「…ここが、それがしの死に場所となるだろう…だが!!」
腰を落とし足を半歩広げ、金剛棒を右肩に担ぐように構える。
「ただでは死なん!!貴様も道連れにしてやろうぞ!!」
「吾輩を恐れぬその胆力は見事。だがその意思、何処まで持つのか吾輩が審理してやろう」
禍々しい両掌が開き、業火が噴き上がる。
敵全体に相性を無視して貫通する特大威力の火炎属性魔法である『メギドフレイム』であろう。
さらに体から光りを発して魔力を強化していく。
魔法攻撃力を上げる魔法である『コンセントレイト』をかけて威力を倍増させるのだ。
絶対の死をもたらす魔神を前にしても毘沙門天の口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「尚紀…汝は小さな人の身でありながらも、それがしに戦いを挑んできた。それがしも続こう」
物理攻撃力を上げる補助魔法のタルカジャをかけ、さらに攻撃力を上げる気合を溜め込む。
「ゆくぞぉ!!」
一気に跳躍し、上空にそびえるアモンの本体に目掛けて剛腕の一撃を狙う。
「耐え切ってみせよ!!」
両掌からメギドフレイムが放たれる中、毘沙門天の渾身の一撃もまた迫る。
「ぐおおぉぉーーーーっ!!!」
地平線の彼方まで伸びる砂漠世界全土を飲み込む程の超業火地獄が解放されてしまう。
魔法少女であれば防御結界を張り巡らそうとも一瞬で燃え尽きる程の熱量世界。
炎を無効化出来る耐性を持つ毘沙門天ではあるが耐性を貫通する程の炎攻撃で全身が焼かれる。
「乾坤一擲!!!」
メギドの如き業火の世界から飛び出したボロボロの毘沙門天の一撃がアモンに迫る。
四天王達は決死の覚悟で戦うだろう。
その先に敗北があると知っていても、彼らの顔には恐れも悔しさもない晴れやかさを浮かべる。
四天王達の魂を託せる者がこの世界にいてくれるなら、潔く散る覚悟であった。
♦
公の影二体と戦うガルガンチュアXであるが劣勢となっていく。
「がぁ…っ!!」
剣戟で壁に叩きつけられたボロボロのガルガンチュアXは迫りくる公の影二体に顔を向ける。
「剣豪とも呼べる剣技だけでなく魔法も熟達している…ドクタースリル…情報不足だったぞ!」
立ち上がった造魔も負けじとマハブフーラを放つ。
公の影の一体が反射魔法のマカラカーンを使い、マハブフーラは跳ね返される。
「ぐおおぉぉーーーーっ!!」
跳ね返された吹雪で甲冑が凍り付いていき、動きが鈍くなってしまう。
「まだ上れないのか…Q!!これ以上は持ちこたえられないぞ!!」
<<あと少しだーーっ!!>>
穴の方からの声に最後の希望を託した後、決死の覚悟で突撃する。
<<笑止!!紛い物の悪魔如きで我を倒せるものか!>>
「本体の影共に言われたくはない!!」
ガルガンチュアXの剣戟を受け止めるが、畳部屋にまで押し込まれていく。
<<面妖な造魔め!!>>
もう一体の影の剣戟は背中と同化した黒騎士が受け止め、左右から迫る剣戟に対応する。
左右から迫る公の影の袈裟斬りを受け止め、鍔迫り合いとなっていく。
「ぐあっ!?」
左右同時の頭突きを浴びて怯むガルガンチュアXに対し、左右同時に放つ回し蹴りが決まる。
「ヌォォォォーーーッッ!!」
畳に倒れ込んだガルガンチュアXにトドメをささんと左手を刀にかざす二体の影。
合体剣と呼ばれる魔法の『紅蓮真剣』を纏わせていき、刀身から業火が迸る。
武器を落したガルガンチュアXは覚悟を決めるしかないだろう。
「…あの愚鈍造魔め!死んでドリーカドモンに戻っても…アイツにはされたくない!」
刀を振りかざしてトドメを刺そうとした時、素っ頓狂な叫び声が近寄ってくる。
「ピンチヒッター登場ぉぉぉーーっ!!」
襖を体当たりで破り、公の影達の中央に着地したのはガルガンチュアQである。
「間に合ったか!!騎士がピエロに助けられる皮肉もこのさい許してやるぞ!!」
意表を突かれた公の影達が向き直ろうとした顔を剛腕の手で掴み上げる。
「このままスイカ割りのようにしてや…ぬふぅ!!?」
火炎魔法を纏った刀の刀身がランパートスーツを貫通している。
スーツ内で吐血するガルガンチュアQであるが掴んだ手は離さない。
「ゴハッッ!!このスーツは魔法が防げない…弱点を突いてくるとは卑怯ですぞーっ!!」
<<痴れ者め!!戦場で女々しい言い訳を並べるぐらいならば、潔く散華せよ!!>>
「トホホホホゥ……それしかないかも」
立ち上がろうとするガルガンチュアXに対して最後の叫びを放つ。
「ドクタースリルに伝えておいて欲しい!このスーツで暴れさせてもらえて…楽しかったと!」
「ガルガンチュアQ…!!いちいち死に際までそのスーツを気にする必要があるのか!?」
「ドリーカドモンは拾っておいてくれ!!あと、スーツの見た目もカッコよくしてと伝えて!」
「死に際なのに注文が多過ぎる!悲壮感の欠片もない奴め!!」
「大切な事である!!」
スーツの隙間から光りが漏れ出していく。
悪魔が命を捨てて用いる自爆魔法である『玉砕破』の光であろう。
彼の意思を汲み取ったガルガンチュアXは現場から逃走していく。
<<ヌォォォォーーーッッ!!は、放せーーーッッ!!>>
「ホホホホゥ!!嫌なこったでございますーーーっ!!」
カッと武家屋敷が光った後、大爆発を起こす。
爆発の衝撃波が幾重にも生み出され、武家屋敷の迷路は主人ごと破壊されてしまう。
異界が解け、寺社内に戻ったガルガンチュアXの前には影が守っていた神鏡が宙を浮く。
「……ぬんっ!」
拳で神鏡を叩き割ると北斗七星結界を繋ぐ起点の一つが消失する余波が周囲に広がる。
「よぉやったで~ガルガンチュアX!!お前はオトコ前や~!!」
労いに現れたドクタースリルであるが、周囲をキョロキョロと伺いながら聞いてくる。
「……ガルガンチュアQは帰ってへんな?」
「…あの造魔は影を道連れにして死んだぞ、ドクター。お陰で命拾い出来た」
それを聞いたスリルは赤眼鏡の内側から大量の涙を流しながら大喜びしてくれる。
「ガルガンチュアQ!!お前もオトコ前やった!!流石わしが作ったガルガンチュアや!」
「それと…あのスーツについて文句を垂れていたのだが…」
「なんやねん!?わしのスーツに文句あったんか…あのアホ!!感動して損したわ!!」
転がっていた造魔の素であるドリーカドモンを拾った後、スリル達は撤収していく。
その頃、水稲荷神社の結界内においてもアリナ達の善戦が続くのだが劣勢となっている。
「くっ!!」
霧化を駆使して避けようとするが風魔法の『ザンダイン』を浴びて霧ごと弾かれる。
「十七夜!?」
援護射撃をするためにアリナはマギア魔法の
複数のルービックキューブが光弾となって影に迫るがマカラカーンを行使される。
「マジで!?」
マギア魔法が反射された事でアリナに目掛けて飛来してくる。
「アウチッ!!」
避け切れず光弾を体に浴びた事で倒れ込むアリナ。
「女王様ーーっ!?私の主になんということを!!」
<<余所見をするとは、死にたいらしいな>>
「何っ!?ぐはぁ!!」
隙を突かれた事で刀を腹部に突き刺されたアティスはそのまま蹴り飛ばされてしまう。
「ゴハッ…この強さ…雑魚と聞いておりましたが…些か情報不足だったのでは…?」
迫りくる強敵に対し、ふらつきながらも起き上がる十七夜は右手をかざす。
「魔法攻撃は反射されるのか…ならば、これならどうだ!!」
念波を周囲に送ると日本庭園のような中庭に備わっていた岩や石灯籠が宙に浮かび上がる。
「行けっ!!」
物理攻撃に近い魔法攻撃とも言えるマハサイを駆使する。
無数の飛来物が迫りくるが、影達は霞の構えで迎え撃つ。
「そ、そんな!?」
次々と迫りくる飛来物を連続で斬り捨てていき、あっけなく地面に落ちていってしまう。
「チャンス!!」
傷だらけのまま起き上がったアリナは攻撃用のキューブを構える。
キューブが光りを放ち、公の影の周囲に結界を張っていく。
<<ぬぅ!?>>
影達の姿がキューブの中に収められ、封じ込められてしまう。
アリナの固有魔法を駆使した牢獄結界に閉じ込められてしまったようだ。
「や…やったのか…?」
ふらつきながらアリナに近寄ってくる十七夜。
飛来してきたキューブを掌で浮かせているアリナであったが、その顔は戦慄している。
「……不味いかも、コレ」
「何っ…?」
冷や汗が顔を伝うアリナは結界を張る持ち主であり、結界内の光景も分かる。
常人なら発狂死する程の狂った空間内で影達が放とうとする巨大な魔法を感じ取ったのだ。
<<周りの被害を気にしなくてもいい空間を与えてくれるのだ>>
<<遠慮をする必要もないという事だな?>>
地面に刀を突き刺して放たれるのは消滅を司る万能属性魔法のメギドである。
結界内で二発のメギドが炸裂した事で眩い光に包まれていく。
「ま、不味いんだケド!!」
掌で浮かせていたキューブを捨てようとしたが間に合わない。
<<キャァァーーーーッッ!!!!>>
メギドの威力は牢獄結界を破壊しただけでは収まり切らず、外の空間まで襲い掛かる。
周囲に放たれた万能属性魔法の威力によって、アリナ達は武家屋敷方面にまで弾き飛ばされる。
「ぐっ……うぅ……」
「なんという…一撃…これが本物の…プリズンブレイク…!!」
壁を突き破って屋敷の中に転がり込んだアリナとアティスは顔を持ち上げていく。
牢獄結界から解放された影の一体が迫ってくる中、アティスが提案してくる。
「女王様…こんな時に言うのもアレですが…MAG不足でお腹ペコリンなのであります」
「…マジでこういう時に言うようなセリフじゃないんですケド…」
「申し訳ないのですが…濁ったジェム内のマグネタイトをチューチューしても宜しいですかな」
「……好きにしなさいヨネ」
俯けに倒れたままアリナに手を向けるアティス。
アリナのソウルジェムから穢れの感情エネルギーが噴き出していくが異変が生じる。
「あ…あら…?」
感情エネルギーはアティスの方には向かわず、中庭の方に飛んでいく。
「あいつ…!?」
公の影は怪しく光る刀をかざし、アリナから生み出されたMAGを刀を用いて吸収していく。
デビルサマナーのMAGを吸い取る能力を持つのが
<<ぐあぁぁーーーっ!!>>
MAGを吸収する公の影の向こう側では首を掴まれて持ち上げられる十七夜がいる。
<<生者必滅。吸血鬼であろうとも例外ではないぞ、小娘>>
「十七夜!!アリナ達を残して逃げてもいいカラ!!」
「断る…っ!!」
愛する仲魔のために最後まで戦おうとする十七夜の腹部に目掛けて慈悲無き一撃が放たれる。
「がはっ!!!」
怨霊剣が突き刺さり、刀身が大きく背中から突き出す。
「まだだ…まだ終わりではないぞぉ!!」
首を掴む腕を両手で掴み、吸血魔法を放つ。
影の体から血と魔力が噴き出し、吸血しながら回復しようと努めるようだが無駄であろう。
「なんだ…か、体が…!?」
手の先から石へと変化していく事態に気が付く十七夜。
足元も石化していき、石化現象は体の上部に目掛けて広がっていく。
<<我が飛び首の一撃、汝を死へと誘うだろう>>
相手にダメージを与えると同時に石化や魅了などの状態異常を付着させる攻撃が十七夜を蝕む。
分霊は雑魚だと侮っていたようだが、絶体絶命の状態にまで追い込まれてしまったアリナ達。
千年を超えて関東の守護神を務めてきた将門公はそれ程までの存在であったのだ。
「……女王様」
腹部から血を流すアティスが立ち上がり、迫りくる影に歩いていく。
「私の死を超えて…勝利という再生の美を描いて頂きたい…」
「変態デビル…?」
最後の力を振り絞り、逆手に持つ刃を突き立てんと公の影に飛び込んでいく。
<<手打ちにしてくれる>>
八相の構えとなり、飛び込んでくるアティスに目掛けて左薙ぎを浴びせてくる。
「が……あっ……」
アティスの首は跳ね落とされ、飛び首となって宙を舞う。
だが残されたアティスの体が光りを放つ。
「何が起きてるワケ…?」
「この温かな光は…一体…?」
仲魔達に光が舞い降り、傷も魔力も全快していく。
命を捨てて味方を完全回復させる回復魔法である『リカームドラ』の光であろう。
石化が解けた十七夜は蝙蝠化を用いて刀身から抜け出し、光で目が眩んだ影の背後に回り込む。
実体化して鎧甲冑の背中に右手をかざす。
「この距離なら外さん」
<<貴様…!?>>
サイの念波を放ち、相手を拘束する。
<<ヌォォォォーーーッッ!!?>>
宙に浮かぶ公の影に対して右手に力を込める。
「はぁーーっ!!!」
開いた手が握り込まれると同時に影の体は一瞬で圧縮されながら押し潰される。
小さな肉塊が弾け、MAGの光を空に放つ光景に気が付いたのはもう一体の影であろう。
<<おのれぇぇーーっ!!>>
後ろを振り向いた迂闊さをアリナは逃さない。
<<何っ!?ぐおおぉぉーーっ!!>>
背後を振り向けば巨大な手が迫っており、鷲掴みされながら持ち上げられてしまう。
召喚されていたのは武家屋敷の天井を破壊する程の巨大な体を持つ邪神パズスなのだ。
「状態異常に耐性を持つ者か…楽には死ねんぞ」
掴んだまま青白い炎を噴出させた事で公の影を焼いていく。
<<グォォォーーーッッ!!!>>
掴まれたまま体を焼き尽くされていく影の姿。
首から下を掴まれた状態ではあるが、伸ばしていた右腕と刀はまだ動かせる。
最後の力を振り絞り、公の影は首の裏に刀の刃を向ける。
<<我の魂は公と共に有り!!そして公の魂も…新たなる後継者と共に有り!!>>
自ら首を跳ね落として飛び首となった頭部が空中で浮かび、パズスに目掛けて特攻していく。
眼前で自爆した事で周囲が白煙に包まれる。
白煙が晴れれば左手で顔を覆い、爆発を防ぎ切ったパズスの姿が現れたようだ。
「最後まで武士であったか…見事なり」
異界が解けた事で寺社内に戻ったアリナ達は安堵した表情を浮かべていく。
「変態デビル…グッジョブだったんですケド。使える奴だと分かってアリナも安心したカラ」
アリナと十七夜の前には宙に浮かぶ神鏡が見える。
アリナに促されたパズスは右手の人差し指を鏡に向けると業火によって神鏡は破壊される。
同時に北斗七星結界を繋ぐ起点の一つが消失する余波が周囲に広がったようだ。
「獅子でもある我は常に汝と共にある。いつでも呼ぶがいい」
「どうしてライオンだと、常にアリナと共にいたくなるワケ?」
「いずれ分かる時がくる…
そう言い残した後、パズスはアリナのキューブの中へと戻ってくれる。
「…生き残れたのは自分達だけか。アティスがいてくれなければ…死んでいたな」
「そうかも…後でフェニックスの蘇生魔法で生き返らせてあげてもいいヨネ」
「そうだな。だが…ご褒美の鞭を要求されそうな気がする…」
「アリナにもヒールで踏んで欲しいって要求しそうなんですケド…」
「…やっぱり、生き返らせてやるのは止めとくか?」
「変態さえ無かったらマシなデビルだったんですケド」
夜空に流れ星が流れていき、泣き崩れるアティスの影が夜空に浮かんでしまう。
そんな中でも北斗七星結界を繋ぐ起点は次々と破壊されていくだろう。
同時に結界の効力が切れてきたのか夜空に巨大な施設の影が浮かんでいく。
人間には見えないが魔法少女やデビルサマナー、それに悪魔達にはその影が見えている。
「あれが邪教のアトリエ…?」
「だと思う…あれ程の巨大な施設が東京の空の上に隠されていたとはな…」
「フフッ♪楽しみだヨネ…アリナは絶対にあのアトリエを手に入れてみせるんだカラ」
リムジンに乗り込んで合流地点に向かう中、坂東宮攻略戦は最終局面を迎えようとしている。
移動指揮車内では神鏡破壊の情報が伝えられていき、表示された地図には印がついていく。
「……我も動く」
「ご武運を、バアル様」
移動指揮車内から姿を消したバアル神モロクは将門首塚を目指す。
日の本の守護を担ってきた神々の輝きは次々と消えていく。
その光景は日本がさらなる闇に飲み込まれていくかのようにも見えてくるだろう。
それでも憂国の烈士達の顔に憂いはない。
国を憂う志しを継いでくれる男を信じ、命がけの戦いを繰り広げていくのであった。
長くなるので二つに分けます。
敵側にもコミカルなキャラを突っ込むと生き生きさせられて良いですよね。