人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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157話 囚われの日々

強制収容所と聞くと、北朝鮮みたいな悪の独裁国家にしかないものだと一般的には考えるだろう。

 

だが、実は日本にも存在している。

 

権力体勢にとって不都合な事実を主張する人達を、精神病だとでっち上げて強制入院させる。

 

精神医療の闇は深い。

 

自分は精神的に全く正常だから、精神病院なんて一生無縁だ。

 

そう思っていたら、悪意ある人物からあなたが危険で精神異常者だと虚偽通報されたとする。

 

そうやって精神病院に強制入院させられるトラブルが多いのであった。

 

……………。

 

「美国さん、調子はどうですか?」

 

病室に入ってきた看護師の声に対し、織莉子は何一つ反応を示さない。

 

「調子が悪かったらナースコールを押して下さいね」

 

そう言い残して、看護師は病室から出て行った。

 

椅子に座って外の景色を見つめるばかりを繰り返す囚われの少女。

 

窓は鉄格子で覆われており、精神病患者の自殺を予防する措置が取られている。

 

だが、傍から見れば座敷牢のようにも見えてくるだろう。

 

閉鎖病棟内は全てオートロックであり、医師の許可が無ければ外出さえ出来ない構造。

 

持ち物でさえ、自殺に使われそうな類のものは看護師が預かるため、荷物は最低限だった。

 

「お夕飯を食べ終えたら、食器を持ってきてくださいね。それと、薬の服用も忘れずに」

 

持ち運ばれてきた食事を少量食べ、彼女は薬を飲む。

 

飲まされているのは精神薬。

 

「……何もする気が起きない」

 

薬を飲んだ後はいつも虚脱感に襲われ、病院から脱出する気分にもならなくなっていく。

 

今日も何もすることなく、彼女は病室のベットの中で眠りにつこうとする。

 

そんな精神病患者達の様子は、深夜巡回の看護師が確認していくことになるだろう。

 

何も異常は無さそうなので、看護師は扉を閉めて次の病室へと歩いて行った。

 

(…私、何してるんだろう?最初の頃は…脱出しようと足掻いたはずなのに…)

 

眠っていたフリをしていた織莉子は、精神病院に運ばれた最初の頃を思い出す。

 

「私を家に帰してぇーッッ!!!」

 

「暴れるな!!!」

 

看護師たちに抑え込まれた織莉子の姿。

 

「私は異常者なんかじゃない!!統合失調症なんかじゃない!!悪者にしないでーっ!!!」

 

「悪者になんてしていない!!ここでは皆がそうなんだ!!」

 

助けを求めるかの如き少女の叫び。

 

しかし、周りの人々は助けを求める彼女を見る事さえない。

 

患者が叫び出して暴れる光景など、精神病棟の日常茶飯事。

 

発達障害、薬物依存、アルコール依存等の患者で埋め尽くされた場所では…異常が普通なのだ。

 

「保護室に移す!この子が落ち着くまで病室には戻せない!」

 

「いやぁぁぁーーーッッ!!!」

 

泣き叫ぶ彼女だが、無理やり保護室という名の隔離室まで連行されてしまう。

 

自殺する恐れのある人や錯乱、器物破損など行動が制御出来ない者が隔離される場所。

 

閉鎖し、隔離し、時には拘束するというのは、周囲の人に害を与えるのを防ぐためにあった。

 

「この娘…物凄い力だった。こんな痩せ細った体なのに…」

 

5人がかりで隔離室に連れてこられた織莉子は、身体拘束を受けていく。

 

「やめて!!乱暴しないでーーッッ!!」

 

布などでできた器具で胴や手足などをベッドに固定する措置がとられてしまう。

 

「改善が認められれば、ただちに解除の指示がもらえる」

 

「私は正常よ!!それに…こんな状態にされたらトイレにさえいけないわよ!?」

 

「後で女性看護師が来て、オムツを履かせてくれる」

 

「オ…オムツ……?」

 

「ここでは殆どの患者が…トイレにさえまともに行けない。オムツの中に漏らしてくれ」

 

まだあどけない中学生女子の織莉子に対し、オムツの中に糞尿を漏らせと残酷に告げてくる。

 

「そ…そんなのって……私…女の子なのに……」

 

「割り当てられるオムツの数も限られているからな。漏らすのが多ければそのまま履いてもらう」

 

「やだ……いやぁぁぁ……」

 

赤面し、涙が溢れ出す。

 

「少女の恥じらいか?だったら早く薬を飲んで、精神的に落ち着いてから病室に移されるんだな」

 

そう言い残して、男の看護師たちは隔離室から出て行くのだ。

 

「助けて…キリカ…小巻さん…巴さん…美樹さん…佐倉さん……」

 

魔法少女の力を行使して、脱出する。

 

それが出来ないのは…自殺防止のためにソウルジェム指輪を奪われているから。

 

錯乱して異物を飲み込むことも許されない処置が施されている状況。

 

隔離病棟内のナースセンターにある患者達の持ち物が管理されている棚。

 

美国織莉子と書かれた引き出しの中には、穢れの色に染まっていくソウルジェム。

 

このまま放置し続ければ絶望死するしかないのだが…。

 

「あんな子供が入院してくるとはなぁ…。政治家一族の御令嬢だって話だぞ?」

 

「そんな高貴な娘が…重度の統合失調症か。大方、政治家一族のスキャンダル隠しの捨て子だな」

 

「哀れな子供だよ…。勤務先が精神病棟だなんて…こっちまで頭がおかしくなりそうだ…」

 

ナースセンターで会話をしている看護師達の横を通過していく小さな微生物。

 

普通の人間では肉眼で見る事も感じ取る事も出来ない微生物とは…地下から這い出した存在。

 

それは…病院の地下深くに存在する生体エナジー協会内で大量に存在する胞子状のスポアの一部。

 

「キキ…グキキ……ソウル…ソウル……」

 

織莉子のソウルジェムが収められた引き出しの中に入り込み、ソウルを捕獲するように寄生する。

 

みるみるうちにソウルジェムの穢れが取り除かれ、美しい輝きを取り戻す。

 

「ハコブ……ソウル…エナジー…ハコブ……」

 

負の感情エネルギーを吸収したスポアはソウルジェムから離れ、キャリアとして帰っていく。

 

看護師が持っているスマホに憑りつき、電波を駆使するネットを用いた地下移動を行う姿。

 

…この地獄のような牢獄では、魔法少女は絶望さえ許されなかった。

 

……………。

 

隔離室での辱めが耐え切れなかったのか、織莉子は抵抗する素振りも見せずに薬を飲んでいく。

 

飲まされたのは抗精神薬だ。

 

「なに…コレ……?」

 

絶望に染まる程にまで荒れ果てた心が落ち着きを取り戻す。

 

正確に言えば、麻痺していく。

 

何もする気が起きなくなり、抵抗するのも馬鹿らしくなっていく。

 

「気分がいい…辛い感情が…消えていく……」

 

まるでアルコールでも飲んだかのような気分になり、嫌な事を考えないまでに思考が鈍化する。

 

精神薬とは…()()()()()だ。

 

精神科で使われる薬の種類は、麻薬や覚せい剤と同じ成分によって作られたものばかり。

 

使い続ければ…彼女も無事では済まなくなる。

 

「辛くなったら…お薬を飲もう。あれを飲んだら…泣き叫びたくもなくなるわ…」

 

彼女は辛い現実を忘れたいかのように抗精神薬を率先して飲み続ける。

 

無抵抗となっていき、精神保健指定医の診察でも症状が落ち着いてきていると判断された。

 

隔離室から解放され、病室に移された織莉子は…別人のように大人しくなってしまう。

 

「いや…何も考えたくない…。薬が飲みたい…もっと…もっと精神薬を頂戴……」

 

まるで薬物依存症患者のような目つきとなり、看護師の指示に従う従順な態度となっていく。

 

病室の外から聞こえる精神病患者の奇声や暴れる音も気にならない。

 

生きる気力もないが、死ぬ気力もない。

 

それが…今の病室で寝たフリを続けている織莉子の現状であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

地上の精神病院など偽装に過ぎない。

 

この地獄の本当の姿とは…地下深くにある生体エナジー協会だ。

 

協会内の深部にあるのは、悪魔を召喚する魔法陣。

 

周りは感情エネルギーであるMAGを貯蔵するタンクが備え付けられ、どんな悪魔でも形に出来る。

 

「始めてくれ」

 

魔法陣が軌道して、悪魔が召喚されようとしている。

 

それを見守るのは生体エナジー協会の所長と女秘書、そして警備任務につくシド・デイビス。

 

「おォ……」

 

召喚されようとしている悪魔の力強さを感じたシドは、感銘の声を上げた。

 

魔法陣に立つのは…2体の悪魔。

 

「……我ヲ呼ビシハ貴様ラカ?」

 

美しい毛並みと巨体、そして龍の尾を持つ悪魔。

 

現れた一体とは、ケルベロスだ。

 

「…感じるぞ、あの吸血鬼の気配が。私がこの世界に召喚されたのは…必然というものだな」

 

ケルベロスの横に立つのは、青年の姿をした人物。

 

白いスーツズボンと白いトレンチコートを纏い、白銀のロングソードが納められた鞘を持つ姿。

 

真ん中分けにした黒い長髪を後ろで括り、額には赤い十字架のような印を刻む者。

 

サングラスを押し上げるシドが口を開く。

 

「…光と闇の宿命は繰り返されますネ。私がここにいたのもまタ、必然だったのでしょウ」

 

彼が持つ聖書が振動していく。

 

管の中に収められた一体の悪魔が…憎悪を撒き散らし、激しく暴れようとしているのだ。

 

<抑えなさイ、クドラク。このヴァンパイアハンターハ…利用出来まス>

 

【クルースニク】

 

光の加護を受けた善なる吸血鬼狩人であり、名は十字架を意味する言葉に由来する。

 

クルースニクは、スロベニアのイストリアに住む吸血鬼クドラクを宿敵として戦う存在。

 

両者は常に比類なき戦闘を繰り返すと伝えられている。

 

クドラクが動物に化ければ、クルースニクは白い動物に化けて戦うという。

 

この戦いは常に光の勢力であるクルースニクの勝利で終わるのだと言われていた。

 

「ウフフ♪強そうな悪魔達が現れてくれて~私とっても嬉しいわ~♡」

 

ケルベロスとクルースニクの前に歩み寄ってくるのは、女秘書の姿をしたサキュバス。

 

「コノ臭イ…姿ヲ偽ッテモ無駄ダゾ…サキュバス」

 

「さっすがケルベロス族♪もう正体がバレちゃったわね~」

 

「貴様ら…私とこのケルベロスを召喚した目的は何だ?」

 

「も・ち・ろ・ん♪」

 

サキュバスの両目が瞬膜と化す。

 

――あなた達を、利用させてもらうためよ。

 

「ムゥ!!?」

 

「この魔法はッ!?」

 

放たれた魔法とは、悪魔の精神操作魔法の一種である『マリンカリン』だ。

 

「「グァァァーーーッッ!!!」」

 

魅了魔法を受けた二体の悪魔達が苦しみ悶えていく。

 

「フフフ…あの犬猿コンビのお仲魔入りね」

 

両者の瞳が濁っていき、この世界にやってきた使命を忘れていくのだ。

 

様子を見守っていたが任せても大丈夫だと判断し、所長とシドは悪魔召喚ルームから出て行く姿。

 

「冷や冷やしましたヨ。私の使い魔の一体とクルースニクハ…殺し合う定めでしたかラ」

 

「クドラクか。よく彼を抑え込めたね」

 

「直ぐに出せと騒がれましたガ、彼を利用するという提案は面白そうだと矛を収めてくれましタ」

 

「フッ…因縁深き吸血鬼ハンターを利用する吸血鬼か。確かに面白い」

 

2人は地上まで上がるエレベーターに乗り込む。

 

精神病院の外に出れば、シドを迎えにきた車が待機していた。

 

「申し訳ありませン。急用を任せられましたのデ、協会の防衛任務から外れさせてもらいまス」

 

「構わんよ。新しく警備を担当する悪魔も召喚出来たし、交代要員も君が手配してくれた」

 

「天堂組の組員と会長がこの場の警護を務めまス。彼らは既に吸血鬼…サマナーとも戦えまス」

 

「前回の失態の時、武装した人間程度では…デビルサマナーの進行を止められなかったからな」

 

「あの男が再び来る可能性も考えられまス。その時の保険としテ、私の悪魔をお貸ししまス」

 

「君の悪魔とは…?」

 

「魔人…と言えバ、信頼してもらえますカ?」

 

「ハハハ!気前がいいじゃないか。魔人まで用意してくれるなら、恐れる者は何もない」

 

「少々性格に難がありますガ、実力は保障しますヨ」

 

そう言い残して、シドは車で去っていく。

 

所長が視線を向ける先。

 

そこに召喚されていたのは魔人。

 

「オウオウ!俺ヲパシリニシヨウッテカ?」

 

バイクのアクセルを吹かせる魔人とは、ヘルズエンジェル。

 

「悪イガ気ガ乗ラネェナ。俺ハ好キニヤラセテモラウゼ…セッカクノ自由ダシナァ!」

 

そう言い残し、ヘルズエンジェルはバイクを走らせていった。

 

残されてしまった所長は両手をオーバーに広げ、大きな溜息。

 

「やれやれ…性格に少々難がある次元ではなかったよ、シド君」

 

バイクで風を感じながらも、髑髏顔は愉悦に笑うかのようにカタカタと口を動かせる。

 

「遠クカラ感ジルゼェェェ人修羅ァァ…オ前ノ怒リガ、アノ街ニ近ヅイテキテルッテヨォ!!」

 

バイクを走らせていくのは、怒りの炎を纏う魔人。

 

その先に見えた都市とは…見滝原市であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

佐藤精神科病院の屋上ヘリポートに着陸していく一機のヘリ。

 

ヘリから降りてきたのは、八重樫内閣で民間人閣僚を務める門倉IT大臣の姿。

 

「…ここに来るのも久しぶりだな」

 

案内人に誘導され、地下施設へと降りていく。

 

生体エナジー協会の入り口とも言えるエレベーターから下りれば、所長が出迎えてくれたようだ。

 

「ご無沙汰しております、所長」

 

「久しぶりだね、門倉君。IT大臣とアルゴンソフト社のCEOという二足の草鞋も大変だろう?」

 

「そうですね。体が沢山あれば良いと思えるぐらいには、多忙な身の上です」

 

「ここを視察に来るというのは、ムーンショット計画の進捗状況の確認かね?」

 

「その通り。私は2050年までに完成させなければならない計画を任される身です」

 

「私が研究区画まで案内しよう、ついてきたまえ」

 

2人は研究所エリアを進んでいく。

 

ガラスの向こう側には、魔法少女というモルモットを使ったおぞましい人体実験の光景が続く。

 

「ムーンショット計画とは、()()()()()()()。身体や脳といった制約からの解放だ」

 

内閣府が掲げるムーンショット計画には、6つの目標がある。

 

1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現。

 

2 2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現。

 

3 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現。

 

4 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現。

 

5 2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出。

 

6 2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現。

 

「人は肉体という檻から解脱する。彼ら、彼女達の新しい生活はロボットという()()()()が行う」

 

「労働させ、娯楽をさせ、その追体験は己自身の脳にフィードバックされる。肉体は不要となる」

 

「人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会。それはまさに…サイボーグの世界です」

 

「第四次産業革命によって、IT、AI、ロボット技術は飛躍的進歩を遂げた。もうSFではない」

 

「足が不自由な人も山登りを楽しみ、家で寝ながら仕事をこなす。少子高齢問題も解決しますね」

 

「現実とゲームが融合した作品も数々生み出された。人々はリアルとデジタルの()()()()()()()

 

「人が機械と融合するイメージとて好意的に受け取られる。漫画やゲーム主人公になった気分で」

 

人と機械の融合など出来るのか?

 

例えば、スウェーデンでは既に数千人がマイクロチップを体内に埋め込んだ生活を送る。

 

玄関や車の開錠、公共交通機関の料金の支払いなどを、鍵やサイフを取り出す必要なく行える。

 

日本で現金だ電子マネーだと言っているうちに、北欧はマイクロチップで支払いをしているのだ。

 

動物実験では、ネズミの脳波を検出してロボットを操作する技術がすでに実現している。

 

人間がロボット(アバター)を操作するのは、夢物語ではない。

 

「我々は…管理者と言う現人神と化す。人の肉体は必要なくなり、抵抗することも出来ない」

 

「脳だけを取り出し、生活を送る。人間は物理的制約から解放された…ユートピアで暮らす」

 

()()()()()X()…人々がアバターとして暮らしていくデジタル管理世界。我々の計画の骨子だ」

 

「我々イルミナティは、人のソウルをデジタル化させ、支配する現人神となる」

 

――人間など…ソウルを生み出す松果体としての脳だけあればいいのだ…。

 

急に頭痛を感じたのか、門倉は額を抑え込む。

 

抑え込んだ額には、縦に伸びた古傷が痛々しく残っている。

 

「どうしたのかね?」

 

「いえ…ただの仕事疲れでしょう。もう大丈夫です」

 

「そうか」

 

ガラス越しに見ていた地獄の研究光景から遠ざかっていく。

 

「捨てられる人間の肉体は、新しい食料となるだろう。生まれる子供も試験官ベビーとなる」

 

「大人になった人間の肉の味は今一ですからねぇ。食すならばやはり、子供の肉が一番美味い」

 

「子牛や子山羊と同じくな。カニバルこそが、グローバルエリートの証であり人の支配者の証だ」

 

「太古のカナン人から続けられてきた文化が、世界の新しい生活様式となる。実に素晴らしい」

 

「フフッ、飯の話題をしていたら腹が減ってきた。どうだね、後で共に夕食でも?」

 

――ここには魔法少女という子供達の肉が沢山あるのだから。

 

「そうしたいのですが、僕も多忙な身です。また今度ということで」

 

「残念だ」

 

ムーンショット計画の進捗状況を確認していく光景が続く。

 

門倉が最後に立ち寄ろうとしていたのは、最深部にあるマニトゥが収められたエリア。

 

「我々のムーンショット計画とは…魔法少女の構造と同じなのだ」

 

「肉体と魂を切り離し、体を外付けHDDとする。我々はアバターという外付けHDDを用意する」

 

「魔法少女から生まれたソウルは、円環のコトワリに喰われる。我々もまたソウルを食すものだ」

 

「イルミナティを生み出した黒の貴族達の祖…カナン人。彼らは貴方の子孫であるヘブライです」

 

「私を含めた堕天使達は…元々は天使。ヘブライの天使であるインキュベーターと同じ存在だ」

 

「目指すべきはソウルの管理世界。生み出される感情エネルギーを利用する目的は違いますがね」

 

「LAWのインキュベーターは宇宙延命のために。我々CHAOSは私利私欲を満たすために使う」

 

「世界が黙示録となり滅びた後も、魔法少女は地底世界でさえ生まれていくかもしれません」

 

「勿論そうなる。ハルマゲドンに勝利すれば、LAWのインキュベーターも消えるだろうが…」

 

――CHAOSの堕天使が、代わりの契約の天使となり、魔法少女契約を繰り返すだろう。

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「絶対管理世界を作れば、我々悪魔は退屈する。だからこそ、娯楽は残しておきたいものだ」

 

――獲物を追い立て、狩りをし、肉を引き裂いてソウルを喰らう喜びを奪わないでくれ。

 

かつての世界において、世界に静寂をもたらすという全体主義世界を望んだ勢力こそがシジマ。

 

LAW(法)とも言えるコトワリを望んだ者達は、LAWとは真逆の存在である堕天使。

 

あまりにも矛盾極まった光景であったが、この世界の光景こそが…シジマに与した堕天使の本音。

 

ボルテクス界において、シジマのコトワリを啓いた氷川は言葉を残す。

 

――シジマに与する堕天使共は、シジマを利用していた。

 

――自分達が思い描く、別の世界計画に生かすための思想実験がしたかった。

 

――堕天使共が欲しかったのは、人々の静寂ではない。

 

――悪魔達の完全なる支配体制だ。

 

地獄の主のおぞましい欲望を聞かされた門倉は、不気味な笑みを浮かべるばかり。

 

エレベーターの扉が開き、マニトゥを管理するモニタールームに入る2人。

 

モニター光景を見ながらマニトゥの成長具合を観察していた門倉であったのだが…。

 

「ぐっ!?」

 

また頭痛がぶり返し、額を抑え込んでしまう。

 

(傷が疼く…。米国で生活していた時…僕は…米国の生体エナジー協会内のマニトゥと出会い…)

 

門倉の脳裏には、不気味な声が木霊する。

 

<<ヒヒヒ…ヒハハハハ……ソウル……ソウルだぁぁ……>>

 

頭を振り、脳裏に浮かんだ闇の囁き声を振り払う仕草。

 

「やはり仕事疲れのようだな。少しは休んだらどうなのかね?」

 

「…いえ、大丈夫です。ハルマゲドンまで時間はあまりない…急がなければ」

 

「そうか。よろしく頼むよ」

 

踵を返し、門倉は先に帰ってしまう。

 

地上に出るためのエレベーターに向かう中、研究区画のガラス内の光景に視線を向ける。

 

機械設備に繋がれているのは…餓死しかけた裸体の魔法少女達。

 

頭部は奇妙な機械で覆われている。

 

外の大型モニターにはVRアバターが映し出されており、美しい異世界仮想空間を描いていた。

 

「現代人間の欲や争いに満ちた社会を改善するには…その根源である魂、()()()()()()()()()だ」

 

サイバーネットワークによるデジタルレーニン主義管理体制。

 

それこそが、イルミナティの代理人の一人である八重樫総理から与えられた門倉の使命。

 

「人は肉体を捨て、アバターとなる。ハルマゲドン後の世界は…()()()()()()()()を起こす」

 

時代や分野において、不動にされた主流の考え方や支配的な価値基準が劇的に変化する世界。

 

それこそが、アルゴンソフト社のCEOでありイルミナティに所属する門倉が生む…新世界秩序。

 

パラダイムXだ。

 

「今はまだ実験段階を示すXナンバーだが、いずれは完成するだろう」

 

――その時こそパラダイムシフトは完成し、我々の家畜である人間共の理想郷を生み出す。

 

――我々ソウルの管理者である牧師達が生み出す、新しい人間牧場。

 

――()()()()()()(理想郷)だ。

 

その世界の名は、違う並行世界においても語られている。

 

東京にICBMが落ち、魔界と繋がってしまい、人類文明が滅びてしまった世界。

 

悪魔が跋扈するその世界を支配したのは、LAWの天使達だった。

 

天使達は()()()()という全体主義独裁組織を生みだし、TOKYOミレニアム都市を築いた。

 

四大天使を元老院の長とするセンター組織が行政府として機能する役目を果たす。

 

彼らが生み出そうとした理想郷世界とは、この世界で生まれようとしているパラダイムXと同じ。

 

人々をデジタル管理支配出来る仮想世界に落し込む…人間牧場計画。

 

メシア教が生み出した人為的アルカディアであった。

 

「我々が生み出すニューワールドオーダー…()()()()()()()。必ずや…やり遂げてみせる」

 

屋上ヘリポートにまで来た門倉を乗せたヘリが飛び立っていく。

 

夕焼けが沈む空を見つめていた門倉は、額の傷を触りながら…こう呟く。

 

――人類とは、バーコード化を行い、デジタル管理することは…可能だ。

 

悪魔の千年王国到来を夢見ながらも、心の奥底には堕天使達と同じ欲望が渦巻いてしまう。

 

「ヒ…ヒヒヒ……ソウル……ソウルだぁぁぁ……」

 

愉悦に歪んでいく門倉の表情は…人間の顔つきではなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ん……んん……?」

 

寝台の上で目を覚ました織莉子は違和感を感じた。

 

「ここは……何処?」

 

病室ではなく、隔離室でもない。

 

白い壁と床と便器、目の前には電子ロック付きの強固な扉。

 

左手を確認するが、やはりソウルジェム指輪は見つからない。

 

彼女達を収監している独房の近くに収められているのは間違いないのだが…。

 

<<お目覚めかな、魔法少女>>

 

壁に備え付けられたスピーカーから音声が響く。

 

<<顔を見せなくて失礼。君たち魔法少女が収められた独房は強固でね、外から声は届かない>>

 

虚ろになっていた思考が急速に回りだし、恐怖に包まれていく。

 

<<君は精神病棟から脱走したとして、警察に通報された。行方不明者として扱われるだろう>>

 

「私を…何処に連れてきたの!?ここから出して!!」

 

<<いずれ出される時はくる。絶望死さえ、ここでは許されない。覚悟しておくのだな>>

 

「ここは何処なの!!私をどうするつもり!?」

 

<<ここは生体エナジー協会と呼ばれる場所。魔法少女にとっては…地獄の一丁目だな>>

 

「生体エナジー協会…?魔法少女にとっては…地獄…?」

 

<<ここには、君達のお仲間が世界中から集められる。そして、生きて帰れる者はいない>>

 

「あ…あぁ……」

 

全身が震えだし、涙が溢れて来る。

 

<<ソウルジェムから生まれる感情エネルギーを取り出す施設。その方法は…想像に任せよう>>

 

そう言い残して、スピーカーから声は聞こえなくなった。

 

絶望のどん底に突き落とされた織莉子は、両手で顔を覆いながら泣き叫ぶ。

 

「お父様…これが…私に与えられる罰なのですか!?貴方を死に追いやった…報いですか!?」

 

知りたいと願った少女が辿り着いたのは、逃れられない地獄の世界。

 

知りたいという好奇心は、猫をも殺す。

 

イルミナティとディープステートに触れなければ、こんな目には合わずに済んだ筈なのに。

 

<お願い!誰か返事をして!!>

 

魔法少女同士の念話を送るが、特殊な金属で覆われた強固な空間がそれを阻む。

 

魔法少女同士の連携による脱走を防ぐためのものだろう。

 

代わりに応えたのは、さっきの男とは違う男の声。

 

<<よぉ、新入りの魔法少女。ついてねぇな~ここに運ばれたらもう…法律は通用しないぜ?>>

 

「出しなさい!!私をここから出して!!!」

 

<<無駄なことさ。それよりも…ククク。お前、瘦せこけちまってるが…いい体してやがる>>

 

「な…何を言っているの…?」

 

<<どうだ?死ぬ前に…女としての楽しみぐらいは経験したいだろ?俺達が相手してやるよ>>

 

中学生ではあるが、織莉子だって年頃の15歳。

 

言っている意味は理解出来るため、赤面しながら罵倒する。

 

「最低の屑共め!!お前達に凌辱されるぐらいなら…舌を噛んで死んでやるわ!!!」

 

<<舌を噛み千切っても死にはしない。苦しみが続き、穢れのMAGが生み出されて絞られるぜ>>

 

「MAGですって…?ソウルジェムから生まれる…感情エネルギーのことなの…?」

 

<<まぁいい、気が変わったら声を上げな。お前達の状態は常にモニターされているからな>>

 

欲望に塗れた男の声が消える。

 

もはや成す術もなく、命をいつ終わらされるかを待つばかりの魔法少女の姿。

 

「助けて……誰か助けて……」

 

泣く事でしか生きる事を証明出来ない者に救いの手を差し伸べる者など、地の底にはいない。

 

ここは生体エナジー協会。

 

地獄を象徴する地の底であった。

 

……………。

 

11月の最後の週、火曜日を迎える時期。

 

クリスを運転しているのは、尚紀の姿。

 

喧嘩別れになりかけたが、どうにかクリスを見つけ出してなだめられたようだ。

 

助手席に座るのは丈二。

 

今回の依頼のサポートをしてくれる。

 

「俺にとっては、久しぶりの見滝原だ。丈二は来たことはあるか?」

 

「いや、俺も初めて訪れる土地だ。土地勘がないだけに、捜査に支障が出るかもなぁ」

 

「俺は何度かあるが…片手で数える程度だ。土地勘に優れてはいない」

 

「お互い迷子にならないよう気を付けようぜ」

 

高速道路に入り、見滝原市を目指していく。

 

「昨日スマホを台無しにされてな。新しいのを買いに行く時に…店内のテレビニュースを見た」

 

尚紀が見たニュース内容とは、里見太助の娘である里見那由他(さとみなゆた)失踪内容。

 

「家政婦を務めていた氷室ラビと共に行方不明。たしか、里見ってのは…」

 

「ああ、民俗学者の里見太助だろ?俺もあいつの民俗学の本は見たが…嘘っぱちだと思ってた」

 

「今はどうなんだ?」

 

「事実だったと痛感した…。俺達は…限られた情報の世界でしか生きていないんだな」

 

「里見太助は、随分と前に行方不明のニュースが流れたが…今度は娘と家政婦が行方不明」

 

「何かの繋がりを感じずにはいられないが…捜索依頼が来ない以上は動く事は出来ないぜ」

 

「こっちも人手不足なんだ。人探し案件なら他にもあるんだが…手を回す余裕は俺もない」

 

「里見太助の民俗学書籍内容からして、魔法少女を追いかけた存在だ。だとしたら…」

 

「ああ…。この国の裏側連中からして見れば、嗅ぎ回られたくない内容を追ってた奴だ」

 

「不審死の仲間入りかもなぁ…。そして、その娘達も…」

 

「年齢からして、魔法少女をやっててもおかしくない奴らだった。魔法少女まで失踪なのか?」

 

「どうだろうな?どっちにしろ、今は目の前の依頼に集中するべきだ」

 

「違いねぇ」

 

高速道路を進み続けるのだが、後ろから走ってくる赤いオープンカーに気づく。

 

「あのBMWのZ4…神浜市の辺りからずっと後ろをついて来ているぞ」

 

「ああ、あの車はナオミだ」

 

「知り合いなのか?」

 

「俺のボディガードを請け負ってるそうだ。そう思ってたら喧嘩を売られたり、読めない女だ」

 

「ボディガード?悪魔のお前にボディガードなんて必要なのかよ?」

 

「俺が頼んだわけじゃねぇよ。大方、仕事だから仕方なくついて来てるんだよ」

 

「そうか…ところで、そのナオミって女性は…美人なのか?」

 

「…それを聞いてどうするんだ?」

 

「いや、尚紀のボディガードをしてるなら…ついでに人探しを御一緒に…と思ってな」

 

「やめとけ、あいつは傲慢なビジネスウーマンだ。バカ高い依頼料をふんだくられるぞ」

 

「そいつぁ…勘弁して欲しいもんだ」

 

見滝原市へと向かっていく二台の車。

 

人修羅として生きる尚紀の戦場は、次のステージへと向かっていく。

 

見滝原を舞台にした戦い。

 

その中で彼は、再び魔法少女達と出会うことになっていく。

 

彼の記憶の中に巡るのは、苦い記憶ばかり。

 

再び尚紀と出会う魔法少女達は、彼を受け入れてくれるのか?

 

それとも、手を取り合うこともなく、お互いに拒絶の意思を示すのか?

 

敵の布陣は強固。

 

協力し合えなければ、囚われの少女を救う事など…不可能であった。

 




ちなみに、ムーンショット計画はリアルの内閣府HPからネタを貰っており、メガテン的な設定に魔改造しましたが、将来は分かりません
くわばらくわばら…(汗)
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