人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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159話 可能性の選択

後日。

 

杏子から与えられた有力な情報を頼りに、尚紀と丈二は動き出す。

 

丈二はタクシーを拾い、見滝原郊外の病院へと移動を開始。

 

尚紀はクリスに乗って郊外の病院へと移動していく。

 

「中学生だけで、よく見滝原市内中の病院巡りが出来たものね~」

 

「そうだな。移動距離があって、交通費がかさむ郊外にまで手を回せなかったのは仕方ない」

 

「そこら辺は、大人達でカバーしてあげましょうね」

 

「ああ。ところでクリス、俺は昨日…あらぬ誤解を受けて生き埋めにされちまった」

 

「まぁ酷い!!一体誰がそんな酷い仕打ちを!」

 

「杏子にされた。あいつ…神浜での俺の生活に関して、あらぬ誤解情報を植え付けられたようだ」

 

「そ…そうなの?きっと丈二があの子に語ったんでしょうね~…」

 

「あの子?杏子と会ったのか?」

 

「え”っ!?いや、アタシは知らないわよ!な~んにも知らないんだから!」

 

「……………」

 

「さぁさぁダーリン!時間もないから、もっとアタシを飛ばしちゃいなさ~い!」

 

話をはぐらかし、車は見滝原市内を出て行く。

 

郊外に点在している病院の中で、精神病患者を入院させられる病院に的を絞り捜索していると…。

 

「丈二からの連絡か。見つけたのか?」

 

スマホの通話ボタンをスライドさせる。

 

「どうした、丈二?」

 

「尚紀!病院にあるテレビかニュースアプリを確認してみろ!」

 

「それがどうかしたのか?」

 

「いいから早く!」

 

通話ボタンを切り、言われた通りスマホのニュースアプリをタップする。

 

ニュースを漁っていると、彼の表情が険しくなった。

 

「美国織莉子が…佐藤精神科病院から脱走しただと!?」

 

ニュース内容とは、虚偽の通報により脱走犯にさせられた探し人の情報だった。

 

「なんてこった…。次に向かおうとしていた病院に入院してたのか…しかも脱走って…」

 

捜査が行き詰まり、一度丈二と合流するために見滝原市内へと帰っていく。

 

ホテルに戻り、捜査会議を始めていくのだが…。

 

「参ったな…振り出しに戻っちまったよ」

 

「家に帰ってるとかは?」

 

「警察がそれを考えないと思うか?家に向かっていたら、今頃警察に補導されていただろう」

 

「それを見越して、何処かでほとぼりが冷めるまで潜伏していると考えるべきか…」

 

「五郷は警察が巡回を繰り返している。近場の見滝原市内に潜伏しているかもしれない」

 

「また市内捜索に逆戻りか…。ほとぼりが冷めるのを確認するなら、近からず遠からずだな」

 

「だが…何処に潜伏していると考えるべきか?相手は着の身着のままで脱走したんだぞ?」

 

「友人の家に匿ってもらう…?だとしたら、友達の依頼人から連絡が来るだろう」

 

「金だって持っていないはずだし…ニュースにされた以上は表を歩くことも出来ない」

 

「そんな後ろめたい奴が隠れられそうな地域なら、工業区はどうだ?」

 

「そうだな、あそこは不況の影響を受けて廃工場や無人家屋が多い。身を隠せるだろう」

 

「見滝原の東側に面する工業区と言っても広い。的を絞らないとな」

 

「北側地域は寂れているようだ。その辺りに的を絞るとするか」

 

2人は工業区へと移動し、捜索を開始。

 

勿論これは的外れであり、捜査を繰り返しても成果には繋がらない。

 

「無一文で潜伏していても腹が減る。コンビニにさえ行けない魔法少女なら…何をしでかす?」

 

魔法少女の虐殺者として生きた者なら、それを想像するのは容易だ。

 

人間の守護者として生きる者の心には、怒りの感情が燻り始める。

 

「……………」

 

黒のトレンチコートの袖を白シャツごとめくる。

 

右腕に巻かれていたのは、涼子から貰った数珠。

 

「分かっているさ…涼子。もう俺は…裁きの右腕を通して、お前に縛られる者となったんだ」

 

悔い改めた者として、彼は進んでいくだろう。

 

心の中で燃え上る怒りの感情という煩悩を制御するために、心の中で念仏を繰り返す。

 

魔法少女の虐殺者として、再び魔法少女を殺戮する者に戻るわけにはいかない。

 

そう思えるまでに成長出来たのも、神浜の魔法少女達と出会えたから。

 

南津涼子は魔法少女であり、陰陽五行を司る大という五芒星を用いてマギア魔法を放つ者。

 

悪魔として、彼女の五芒星封印を受けたかのように…尚紀の心は縛り上げられたようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

丈二と合流して捜索内容を報告し合う。

 

「そうか…聞き込みを続けても、非協力的な態度しか得られなかったか」

 

「ああ…。こっちで働いてる奴らも、美国織莉子を嫌悪している。頭のおかしい陰謀論者だと」

 

「まるでマウントを取りたいだけの連中に見えるな。彼女の言葉を聞いた上で判断してるのか?」

 

「どうだかな?住民達が皆そう言うから、自分もそうだと言ってるだけかもしれない」

 

大きな溜息をつき、腕を組む丈二が重い口を開く。

 

「…民主主義的な多数決の弊害を知ってるか?」

 

「ああ…全体主義による()()()()()()()。多数派による独裁専制…同調圧力を敷いてくる」

 

「多数の意見が優れた判断だと見なすことは、意思決定にとって正しいかどうかは分からない」

 

「イラク戦争の際、アメリカ下院で武力行使に反対したのは一人だけ。結果は歴史が証明済み」

 

「大量破壊兵器なんて何処にもなかった…。これが多数決の弊害なんだよ」

 

「二者択一、善悪二元論、こんなやり方を繰り返したら…誰も自分の選択を疑わなくなるんだ」

 

「相手だけが悪者であり、自分は常に正しい選択をしている。自分を否定する者は嘘つきだ」

 

「美国織莉子も…そんな思考に陥った連中から虐められたのかもな…」

 

「まだ15歳の少女を相手にしてだぞ?哀れなもんだよ…」

 

「人間は…見たいものしか見ないし、信じない。ガイウス・ユリウス・カエサルの格言だ」

 

「やりきれねぇな…全くよぉ」

 

喫茶店から出て、2人は再び工業区へと向かっていく。

 

成果は全く上がらず、捜査は暗礁に乗り上げてしまう。

 

「ダメか…これは別の捜査方法を考えていくしか無さそうだな」

 

「俺はもう少し粘ってみる」

 

「分かった。先にホテルに帰って、考えた案を纏めておくよ」

 

丈二と別れた後も独り捜査を続ける姿。

 

気が付けば夕方となり、流石の彼も諦めムード。

 

「この捜査ではダメそうだな…。丈二と合流するか…」

 

工業区から出られる橋を越え、繁華街方面へと向かっていく。

 

「ついでに晩飯を買っておくか。夕食プランの無いビジネスホテルだからなぁ」

 

スマホで丈二と電話して、買ってくる物を聞く姿。

 

そんな人物に向けて、素っ頓狂な叫び声。

 

「あ~~!!墓穴から出て来たのーっ!この女たらし!!」

 

慌ててスマホの通話ボタンを切り、声がした方に顔を向ける。

 

腰に手を当てて指さしてくる人物とは、昨日彼を生き埋めにした魔法少女である美樹さやかだ。

 

「お前…もしかして、俺を生き埋めにした奴なのか?」

 

「その通り!さやかちゃんは女の敵を許さないからね~嘉嶋さん!」

 

「さやか…?もしかして、お前は美樹さやかなのか?」

 

「えっ?そうだけど…ちゃんと会うのは初めてだったかな」

 

「ああ、初めてだ。お前の両親とは会った事があったんだが…」

 

「パパとママから聞いてる。杏子の生活費をうちに仕送りしてくれてるんでしょ?」

 

「そうだ。居候を引き取るにしても、学費や生活費がかさむからな」

 

「うちの家計を助けてくれてる人だったの忘れてたなぁ…。ちょっとやり過ぎたかも」

 

「ノリで俺を生き埋めに出来る奴なら…俺の正体も杏子から聞いてるんだろ?」

 

「うん…。その、この辺じゃ不味いから…違う場所で話そうよ。…聞きたい事があるし」

 

2人は場所を変え、繁華街の路地裏に入っていく。

 

話し合う内容とは、悪魔についてだ。

 

尚紀はかつての世界の話は伏せ、この世界で知り得た悪魔の情報を彼女に語っていく。

 

「信じられない…。魔獣以外にも、悪魔と呼ばれる存在がいただなんて…」

 

「目の前に悪魔がいる。論より証拠だ」

 

「そ、それもそうだね…あたしも半信半疑だったんだ…。悪魔は…魔獣と同じなの?」

 

「魔獣のように人間に危害を加える者もいるが、共生する者もいる。俺のようにな」

 

「それじゃあ…人間に危害を加える悪魔は今まで…どうしてきたのさ?」

 

「悪魔召喚士については、まだ知らないだろ?デビルサマナーと呼ばれる連中だ」

 

「デビル…サマナー?えっと…その人達が魔法少女に代わって、悪魔と戦ってくれてたんだ?」

 

「そうなる。悪魔召喚士は悪魔を使役出来る者達。悪魔を殲滅出来るし、味方にも出来る」

 

2人が話す路地裏入り口には、魔力を抑えて気殺した姿を見せるナオミが立つ。

 

仕事の邪魔はしないよう配慮してボディガードを続けてくれているようだ。

 

さやかは腕を組み、色々考え込むがのだが…今一信じ辛い表情。

 

「悪魔だけでなく、デビルサマナーまでいる…。世の中って…知らないことだらけだね」

 

「俺達はな、限られた情報しか与えられていないんだ。それで世の中を知った気にはなるなよ」

 

「まぁ確かに…あたしだって魔法少女になる前は全く信じてなかったし。でも、今は違うよ」

 

「一番確認したかったのは…俺が人間を襲うかどうかだろ?」

 

「う、うん……どうなの?」

 

「安心しろ、俺は人間の味方を続けてきた。今までも変わらないし…これからも変える気はない」

 

「それが聞けて良かったよ。魔法少女のすけこましだけど、杏子の家族だからね♪」

 

「…さっき俺が言った言葉を忘れたのか?その情報も偏見塗れの間違った情報だよ」

 

「え~?でも、神浜の魔法少女達にモテまくってるって!杏子が言ってたよ!」

 

(どう説明すれば良いんだろうな…コレ?)

 

「でもさ、神浜の魔法少女と悪魔が…どんな風に触れ合ったのかは興味ある。聞かせてくれる?」

 

「今は仕事で来ているんだ。忙しいからまた今度な」

 

「だったらさ!あたしと杏子が嘉嶋さんの家に遊びに行く!冬休みになったらさ!」

 

「はぁ…好きにしろよ。その話は長くなるから、この場では話しきれないからなぁ」

 

住所や連絡先を伝え終えた尚紀がさやかを連れて路地裏から出ようとする。

 

「あっ……やばっ!」

 

何かに気づいたのか、さやかは尚紀の背中に隠れてしまう。

 

「どうした?」

 

「ちょっとだけ…隠れさせて」

 

怪訝な表情を浮かべながら前に振り向く。

 

「あいつらは…」

 

繁華街の通りを歩いていくのは、さやかの友人である上条恭介と志筑仁美の姿。

 

「上条君、もう健康そのものですわね。少し前まで病院に入院してたのも嘘みたいですわ」

 

「そうだね…もう遠い昔のように思えてくるよ」

 

「元気になってくれて何よりです。ヴァイオリンの演奏だって、技量を取り戻せてると思います」

 

「そんな事ないよ。まだまだ練習不足…もっともっと練習しないといけないんだ」

 

「それは…休日を潰さないとならないぐらいのものでしょうか?」

 

「学業を疎かにするのは…うちは許されないんだ。まとまった時間がとれるのは休日しかないし」

 

「そうですわね…上条君の家は名家ですし、厳しいのでしょうね」

 

「うん…。それに、今度の演奏会の日も近いんだ。早く家に帰って勉強を済ませて練習しないと」

 

「まるで上条君は…ヴァイオリンの()()()()()()()みたいですわ」

 

「そうなれるよう努力したい。夢を諦めかけたけど…今はそれだけが生き甲斐なんだ」

 

「……そうですか」

 

「ところで志筑さん?この前貸してあげたドヴュッシーの音楽はどうだった?」

 

「え…?ええ…その……素敵な音楽でしたわ」

 

「でしょ?僕が大好きな作曲家なんだ。他の音楽CDも今度貸してあげるね」

 

仲良く帰る光景のように見えるのだが、それを路地裏から観察しているさやかは顔を手で覆う姿。

 

「アチャー…恭介の奴、あんなんじゃいつまでたっても恋仲が進展しないんだけど…」

 

「知り合いなのか?」

 

「うん…あたしの親友達。春頃に付き合ったそうだけど…進展する素振りは見せないんだ」

 

「聞こえてきた会話の内容からして、男の方は忙しいみたいだったぞ」

 

「でも!付き合ってくれてる彼女がいるんだよ!?それを蔑ろにしてまで…夢を追いかけるのは」

 

「無責任だって…言いたいのか?」

 

顔を俯けてしまうさやかの姿。

 

乙女心をあまり知らない尚紀には、励ましてやれる言葉は見つからない。

 

「難しいもんだな…恋と仕事の両立ってやつは」

 

「ドラマとかでもあるよね…私と仕事、どっちが大切なの!…っていうの」

 

「それは男を一番苦しめる質問だ。男だって体が一つしかないんだ…どちらかしかない」

 

「それだよ…そのどちらかっていうのが気に入らない!バランスが悪すぎるよ!」

 

「しかし……」

 

「あたしは二者択一なんて気に入らない!男なら…()()()()()()()()()()()()よね!」

 

辛そうな表情を浮かべたまま、彼女は走り去っていく。

 

「あいつ…あの表情からして、何か思うところがあったんだろうな…」

 

遠く離れていく恭介と仁美の背中に視線を向ける。

 

「スペシャリストか…。俺も多忙を極める身だ。あいつと同じように…自分を抑えるしかない」

 

ごく一般的な男達と同じ選択をした時…丈二との会話内容を思い出す。

 

「多数の意見が優れた判断だとは限らない…か」

 

自分がやるべき事を見出し、スペシャリストとして己の道を極めようと足掻く男達。

 

上条恭介が敬愛する作曲家であるクロード・ドビュッシーは…こんな言葉を残した。

 

――私はスペシャリストを好まない。

 

――私にとって自分を専門化することは、それだけ()()()()()()()()()ことだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

捜査会議を済ませ、遅い晩飯や風呂を済ませた2人はベットに入り込む。

 

明日は丈二が考えた捜索方針で捜査を進めていくようだが…。

 

「……なぁ、丈二」

 

「…なんだ?眠れないのかよ」

 

「ああ…。聞いてもいいか?」

 

「何だ?」

 

「その……だ。お前は…その歳でまだ独身だろ?今まで恋愛とかは経験あるのかと思って…」

 

布団から上半身を起こし、ニヤついた顔を浮かべてくる。

 

「なんだなんだ~?恋愛話をしたいのか?学生時代の修学旅行の夜を思い出すぜ~♪」

 

機嫌が良くなり、部屋の冷蔵庫の中に入れてあった缶ビールを持ってくる。

 

「飲めよ。こういう話は酒が入った方が話しやすい」

 

尚紀も起き上がってベットに座り込み、向かい合う。

 

ビールを飲みつつ、丈二は口を開き始めるのだ。

 

「俺だってな、恋愛の一つや二つは経験ある。だがな…それでも俺は刑事だったんだ」

 

「捜査第一課務めだったんだろ?凶悪犯罪を取り締まる部署で務めてたなら…危険は大きかった」

 

「警察官と付き合う女性の心労は重い。刑事時代の俺の先輩だって…嫁さんを苦しめたんだ」

 

「お前はその現実を知ってたから…身を固めるのを拒んだのか?」

 

「ああ、そうだ。一家の大黒柱になろうかという男が…命を落とす。残された女性が哀れだよ」

 

「…そうだな。妻を幸せにする責務を残してあの世に旅立つなど…無責任極まりない」

 

「俺も同じ考えだ。だけどな、先輩にその事を聞いた事がある…どうして結婚なんてしたんだと」

 

「なんて言ってたんだ?」

 

「俺にも、あいつがどうして結婚してくれたのか…分からないんだとよ」

 

「相手の気持ちすら知らずに…結婚したのかよ?随分といい加減だな」

 

「刑事は社会の為に戦う責務がある…。いい加減な結婚は女を不幸にする…そう伝えてやった」

 

尚紀は刑事という職務の立場を考えてしまう。

 

警察だけでなく、消防や軍人だって、尚紀と同じ気持ちで人々の守護者を務める社会奉仕家だ。

 

だからこそ、彼らが女性を遠ざけようとする気持ちは…痛いほど分かってしまう。

 

「先輩も…辛そうな表情を浮かべて黙り込んだものさ。あの人だって…気が付いてたんだよ」

 

「いつか…結婚した女を不幸にする日がくる。俺なら結婚どころか…付き合う事さえしたくない」

 

「だからこそ、俺は今でも独身だ。私立探偵であろうと…命の危険は付き纏うからなぁ」

 

「当然の判断だ。俺だって気持ちは同じ…これから先も、女性と結ばれることは無いだろう」

 

重い空気となり、2人は缶ビールを一気に飲み干す。

 

喫煙室を予約していた事もあり、2人は煙草に火を点ける。

 

紫煙を互いに燻らせながら、不思議そうな表情を丈二は浮かべた。

 

「お前が恋愛話を持ち掛けてくるなんて初めてだな?何かあったのか?」

 

尚紀は事情を説明してくれる。

 

「なるほど…。お前の義妹の友達から…そんな事を言われたわけか」

 

「女の我儘だと思う。だけどな…多数の意見が優れた判断だとは限らない…」

 

「俺が語った言葉だな」

 

「両方をやり遂げてみせろだなんて…難し過ぎる。もしもの時を考えたら…悔やみきれない」

 

「俺と同じ苦しみさ。だからこそ、俺は女性との生涯から……逃げたんだ」

 

「悪い事だとは思わない。無責任な人生に付き合わせるぐらいなら、他の奴と結ばれるべきだ」

 

俯いたまま頭を掻く仕草をする丈二。

 

顔を上げ、尚紀の目を見つめてきた。

 

「俺はな…私立探偵を続けてきた間の中でも、それを考え続けてきたよ」

 

「答えは同じだったんだろ?だからこそ、今も独身だ」

 

「男の俺が考えられることなんてこれが限界さ。だけどな…だからこそ、狭めたのかもしれない」

 

「狭めた?」

 

「俺の可能性さ。何かの道を選んだのなら…何かの道を諦める行為だ」

 

「悪い事なのか?スチュワーデスをやりながら、パイロットもやりたいなんて理屈は通用しない」

 

「二兎を追う者は一兎をも得ず。これは世の常だから仕方ない…けどな、相手の心はどうだ?」

 

「相手の心…?結婚してくれた女のことか?」

 

「自分だけで悩んできたが…相手の気持ちまでは想像出来ない。俺はな…こう思うようになった」

 

――これは…俺たち男だけで考えて、勝手に答えを出していいものなのだろうかと。

 

尚紀の顔が俯いてしまう。

 

自分の事ばかり考えて、()()()()()()()()()()()

 

それこそが…さやかが一番怒った部分。

 

「たった一度の人生だ。リスクを承知した上で…突き進む選択もあるんだろう」

 

「そんな選択…付いて来てくれた女が可哀相だろ…」

 

「どうして分かる?先輩が分からなかったように…男の俺たちでは、女性の心は分からない」

 

「後悔したくないという直感だけで…リスクを承知した上で…大胆に突き進む覚悟を示す…」

 

彼の脳裏に浮かんだのは、ダンテの言葉。

 

――お前の道を進め。

 

――人には勝手な事を言わせておけ。

 

「一見無責任のようにも思う。だけどな、人の言うことに流され、自分の道を断念するのは辛い」

 

「あの時の自分の直感が正しかったと気づいた時の後悔の方が…恐ろしいというのか?」

 

「それを決められるのは…相手だけだ。だからこそ…さやかちゃんは向き合って欲しかったんだ」

 

「あの小僧は…どちらを選ぶんだろうな?片方だけの道を選んで女を遠ざけるか…あるいは……」

 

「こればかりは、大人の俺たちが出しゃばる問題じゃない。その子の問題だ」

 

「…そうだな」

 

「難しいもんだ…。全体の幸福を優先するのか、個人の幸福を優先するのか…あるいは…」

 

「両方手に入れてみせろ…か。無茶言うよな……美樹さやかは」

 

会話を終えた2人が布団に入り込む。

 

ベットの上で眠くなるまで沈黙していたが、頭の中では考えてしまう。

 

(俺は……遠ざけるべきなのだろうか?)

 

かつて愛した人の思い出を考えながら、尚紀は静かな寝息を洩らしていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

警察の捜索でもそうだが、人探しには多大な時間と人員が必要とされる。

 

長期間の捜索は難しく、行方不明者を発見出来ない場合も多い。

 

限られたコストと時間の中で、どうやって目的の人物を見つけ出すかは探偵の経験に依存する。

 

しかし、本人の足取りが長く途絶えたり、探されるのを拒むようなケースの場合、困難を極めた。

 

「ただでさえ人手不足…手付金は多いが肝心の人員が少なすぎるではなぁ…」

 

回ってなかった住宅区で聞き込み捜査を続けているのは尚紀。

 

丈二は工業区で回り切れなかった南側の方に向かっているようだ。

 

彼の脳裏に浮かぶのは、霧峰村に帰っていった広江ちはるの姿。

 

「お前の嗅覚があってくれれば良かったんだがなぁ…。泣き言ばかりも言えないか…」

 

SNSで情報を募ったが、汚職議員の娘という看板を知られているため心無いコメントばかり。

 

交友関係も狭く、頼れる親族は遠い県にいる後見人の家ぐらい。

 

「この街にいないなら…いよいよ手詰まりだな。捜索を続けるかを依頼人に聞く必要が出てくる」

 

住宅区での捜索もはかどらず、見滝原中学校を超えて繁華街方面を目指す。

 

時刻は既に夕刻となり、今日の捜索も空振りに終わりそうな気配。

 

繁華街方面に向かう彼だが、魔法少女の魔力を感じ取ったようだ。

 

「この魔力…嫌な奴がうろついているようだ。近くにも魔力を感じるな…魔法少女なのか?」

 

彼女が感じたのは巴マミの魔力と百江なぎさの魔力。

 

彼の脳裏に忌まわしい記憶が蘇っていく。

 

「…嫌な奴がいるからといって、捜索先を変えるわけにもいかない」

 

溜息をつき、彼は繁華街の方へと歩いて行った。

 

……………。

 

少し前の時間。

 

学校を終えたマミはいつもの日課である魔獣パトロールを行っている。

 

そんな彼女に向けて、元気な声が木霊してきた。

 

「マミ~~おかえりなのですーっ!!」

 

手を振って走ってくるのは、赤いランドセルを背負ったなぎさの姿。

 

「あら、なぎさちゃんも帰りなの?」

 

「そうなのです!用事があったから遅くなったけど、ちょうどマミと出会えて良かったのです!」

 

「ウフフ♪私も会えて嬉しいわ」

 

「マミはまた街のパトロールなのです?」

 

「ええ、これが私の使命ですもの」

 

「なぎさもパトロールやりたいのです!」

 

「えっ…?それはちょっと…」

 

「う~!マミだけ正義の味方はズルいのです!なぎさもやりたいのです~!」

 

「しょうがない子ね…分かったわ。一緒に街を回りましょうか」

 

「やったのです!」

 

2人は手を繋ぎ、繁華街を歩いていくのだが…。

 

「どうしたのです?」

 

マミが視線を向けたのは、路地裏方面。

 

「…ちょっとここで待ってて、なぎさちゃん」

 

「えっ?マミ~!?」

 

「いい子だから、ここで大人しくしてて。直ぐに戻ってくるから」

 

なぎさを置いて彼女は路地裏の奥へと入っていく姿。

 

彼女が駆け付けた先では、男と女の言い争い光景が見える。

 

「は、放して!私は帰るつもりはないから!」

 

「いい加減にしろ!私がどれだけお前を探したと思ってる!?」

 

男は女の手を掴み、無理やり連れて行こうとしているように感じさせる光景。

 

「待ちなさい!」

 

「誰かね!?」

 

男が視線を向けた先には、怒りの表情を向けてくるマミの姿。

 

(魔力の痕跡は何も感じないわ…。魔獣に操られている類ではない…)

 

「子供じゃないか…子供は早く家に帰って、勉強でもしているといい!」

 

「その人は嫌がってます!手を放してあげてください!」

 

「五月蠅い!この女はな…家を出て行った私の妻だ!!」

 

「えっ……?」

 

女に視線を向ければ、暗い表情をして頷いてくる。

 

男が言ってる事は本当であり、これは他所の家の夫婦問題。

 

魔獣と戦う使命のために生きる魔法少女が関わる必要はないのだが…。

 

「あ…えっと……」

 

女性が乱暴をされていると勘違いして怒鳴ってしまった自分に戸惑ってしまう。

 

「ほら…行くぞ。冷たくした事は謝るから、やり直そうじゃないか」

 

男に手を強く引っ張られる女性。

 

女性はマミに顔を向け、か細い声を上げる。

 

「……たすけて」

 

「えっ……?」

 

引っ張られて上着の袖が捲れれば、腕には痣が見える。

 

恐らくは全身にもあるのだろう。

 

ドメスティックバイオレンスの痕跡だ。

 

これは他所の家の問題であり、夫婦の問題。

 

頭の中で関わるべきか迷った時、かつてのトラウマが蘇ってしまう。

 

――どうやらお前は、杏子の命さえ守れたら……それで良いと考えていたようだな?

 

――杏子の命さえ無事なら、家族の事など……どうでもいいと考えていたようだな?

 

――なぜ手を差し伸べなかった?

 

――杏子の一番近くにいただろ……なぜ俺の家族を見捨てたんだ?

 

寒い冬の夜、杏子の家族となった者から罵倒された記憶。

 

心の苦しみで顔が歪み、両手が握られ震えていく。

 

――例えよう。

 

――お前は隣に住んでいる子供が、毎晩親の虐待で泣いていた時……どうする?

 

――なぜお前の力で救ってやらない?

 

――誰かの家の事情だから、魔法少女は関わり合いになるべきではないと考えるのか?

 

(私は…わたしは……)

 

握り込んだ手が開かれていく。

 

ソウルジェムを構えることもなく、魔法少女としてではなく。

 

彼女は、ただの女子中学生として叫ぶのだ。

 

「……放してあげてください」

 

「なんだと…?」

 

「たとえ貴方の妻であったとしても…嫌がる人に無理やりな行為をするのは犯罪です」

 

「他人の家の問題に…首を突っ込むのか!?出しゃばるなよ!」

 

「いいえ!出しゃばらせてもらいます!!私はもう…過ちを繰り返したくない!!」

 

彼女の心の中に巡るのは、杏子の家族を救えなかった自責の念。

 

そして、尚紀から与えられたトラウマの痛み。

 

全ては、次に繋げる為の大切な戒め。

 

駆け寄り、女性を掴んでいる男の手を掴み上げる。

 

「貴様ッッ!!!」

 

本性を現し、逆の手でマミの顔を張り倒そうと仕掛ける。

 

「ハァーッッ!!」

 

振りかぶった男の右手首を掴み、背負い投げ。

 

「がはっ!!?」

 

アスファルトに叩きつけられ、大きく咽る男の姿。

 

右手首を掴んだまま俯けに寝かせ、関節を捻じ曲げる。

 

「ギャァァァーーーッッ!!!」

 

悲鳴を上げる男の逆の手も掴み、背中に回し込む。

 

「……これでヨシ」

 

男の両手はリボンで括り付けられ、無力化させられてしまったようだ。

 

「…警察に連絡した方がいいです」

 

「で、でも……この人は私の主人なのよ…」

 

「たとえ夫であったとしても…DVは犯罪行為です。時たま見せる優しさに騙されないで」

 

「それは…その……」

 

「貴女にだって、守りたい尊厳があると思います。だからこそ、逃げ出したのは正解なんです」

 

「……分かったわ」

 

…マミが入ってきた方角とは逆の方向から、足音が近づいてくる。

 

「……その男は、俺が警察まで連れて行ってやるよ」

 

「えっ…?」

 

忘れもしない…マミにトラウマを与えた人物の声。

 

現れた人物とは、今年の1月頃に見滝原市に現れてマミを罵倒した男…嘉嶋尚紀。

 

「嘉嶋…さん……?」

 

マミの体が恐怖で震えていく。

 

自責の念からなのか、彼の正体を1・28事件の時に知った恐怖心からなのかは分からない。

 

俯いたままの彼女を無視して、男を無理やり立たせる。

 

「は、放せー!!私が妻に何をしようと勝手だろうが!?」

 

「他人に身勝手な期待をするな。たとえ妻であったとしてもな」

 

「く…くそ……」

 

立たせたまま連行していくが立ち止まり、背中越しに口を開く。

 

「……やれば出来るじゃねーか」

 

「えっ……?」

 

「俺が言った言葉を忘れていなかったようだな」

 

「そ、それは…その……」

 

「それでいい。誰だって過ちは起こす…。お前も起こすし…俺だって起こすんだ」

 

「嘉嶋さん……私……」

 

俯いた顔を上げれば、マミに振り返ってくれている尚紀の姿。

 

「お前の事を見直した。自分や仲間の事しか頭にない奴かと思ったが…そうでもないらしい」

 

「私を…許してくれるんですか…?佐倉さんや…貴方の家族を見捨てた女なのに…」

 

「…自分の事しか見えなくなる認知バイアスは、誰でも起こす。俺もまた…過ちを犯した者だ」

 

「嘉嶋さんでさえ…私と同じような過ちを起こすんですね…」

 

「もう俺は…お前の事を自分だけが可愛いエゴイストだとは…思わない」

 

――巴マミ、お前の可能性を示してくれて…先に期待が持てるようになったよ。

 

そう言い残して、彼は去っていく。

 

「嘉嶋さん……」

 

残された女性を見て、彼がマミに託したのだと判断する。

 

「…ありがとう。こんな私を…許してくれて」

 

暗い表情が消え、微笑む姿。

 

「さぁ、行きましょう。被害届を出した後、民間シェルターに向かいましょうか」

 

「は…はい……」

 

2人も路地裏を後にし、待っていたなぎさと合流して去っていく。

 

男を警察署に突き出した後、外に出て来た尚紀が夕暮れ空を見上げる。

 

「可能性の選択とは常に…()()()()()()()()()()()()()。それでも…選択を繰り返すしかない」

 

――お互いに…迷いに迷った末に、納得出来る選択の道を目指したいものだな。

 

そう言い残して、尚紀は聞き込み捜査へと戻っていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「アー…オカシイナ?見滝原トカイウ街ヲ目指シテイタハズナンダガナァ……」

 

バイクを止めて道端に立ち、地図を見ているのは…シドが召喚した魔人。

 

ヘルズエンジェルである。

 

「コッチノ道ダト思ッタンダガ…何処デ道ノ選択ヲ間違ッタ?」

 

遠くに見えていた見滝原市の道に進もうとしていたが、道を間違ったようだ。

 

高速道路にまで持っていかれ、そのまま進んで行く過ちを犯してしまう。

 

ドライバーならば、一度か二度は経験するだろうトラブル。

 

「テイウカ…今ハドノ辺ナンダ……?」

 

青い道路案内標識に視線を向ける。

 

「二木市ダト?見滝原カラドレグライ離レタンダロウナ…?」

 

地図を革ジャンに仕舞ってバイクに跨り、アクセルを吹かす。

 

「マァイイ!地図デ探シ出シタ次ノ道ガ正解ダロウ!」

 

勢いよく発進し、二木市から魔人は去っていくのだが…。

 

「た……大変っす……」

 

影で隠れて魔人を見ていたのは、魔法少女の姿。

 

困り果てていた為か、ヘルズエンジェルは魔力に気が付いていなかった。

 

「あんな魔獣…見た事ないっす!結菜さんに報告しないと!!」

 

慌てて去っていく。

 

この街で喧嘩っ早い事で有名な魔法少女と出くわしていたなら…大火炎祭りとなっていただろう。

 

後日…。

 

「髑髏顔をした…小型の魔獣ですってぇ?」

 

銀髪の長髪に黄色いカチュームを纏う少女は怪訝な表情。

 

「ひかるは見たっす!黒い革ジャンと革パンのライダースタイルで…しかも喋ったっす!」

 

「それ…ただのバイク乗りの男だったってオチじゃないのぉ?」

 

「そんなことないっす!とんでもない魔力だって感じたっすから!」

 

「魔力を感じる?だとしたら魔獣よねぇ。喋る小型の魔獣…ピュエラケアなら分かるかしらぁ?」

 

「今度調整に行く時に聞きに行くっすよ!ついでに、お茶会も♪」

 

「フフッ♪それも良いわねぇ」

 

この街で暮らす魔法少女達は…平穏に暮らせている。

 

違う宇宙の二木市ではない。

 

神浜市で起きた原因によって血の惨劇が起こることも無い…平和な街であったようだ。

 

危うく招かれざる客によって平和が破壊されかけたのだが、当の魔人はというと…。

 

「ココハ何処ダァーーーッッ!!?」

 

田舎道で立ち往生して、また地図と睨めっこをしているようだ。

 

彼はさすらいのバイク乗り魔人。

 

風が向くままに走って行く存在。

 

だからこそ、気まぐれな風のように行く当ては不確かだ。

 

つまり……酷い方向音痴悪魔であった。

 




ついでに二木市の結菜さんとひかるちゃんを描きましたが、今後絡むかどうかは進行余裕次第です(汗)
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