人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

161 / 398
160話 怒りのデスロード

()()()()というネットスラングが存在している。

 

どんな親を持つかで人生が決まってしまうことを指す。

 

生まれ育った家によって、努力しても厳しい生活を強いられるままの現実を悲観する言葉だ。

 

しかし、ネットではそんな社会的弱者に向けて言われる言葉は決まっている。

 

「親のせいにしないで努力をしろ」

 

「生活が苦しいのは自分の責任だろ」

 

保護者の収入が多く学歴が高い家ほど、子供の成績が良く、大学まで進学させたいと考える。

 

生活保護、ワープア、失業等々…社会的弱者が望んでも手に入らないものを最初から持つ者達だ。

 

恵まれない立場、不遇な環境などで社会的弱者になってしまった人々に対する冷たい自己責任論。

 

何故これ程までに自己責任論が蔓延したのだろうか?

 

それは年功序列制度が崩壊して、()()()()()()()()が跋扈したからだろう。

 

誰しも努力次第で未来を切り拓くことができるというのは、一見フェアに見える。

 

だが、能力を発揮しようにも家庭の経済状況によってスタートラインにすら立てない人々がいた。

 

努力はきっと報われるなど…大嘘である。

 

個人の努力を充実させれる環境とは、()()()()()()()

 

親ガチャに恵まれた者ならば、自分の努力は報われたし、努力しない奴らは糞だと考えるだろう。

 

社会は格差と偏見で分断され、極まった差別ばかりをもたらす悪循環を生み出してしまう。

 

知識の配分率とは、親ガチャによって不平等。

 

それでは、親ガチャに恵まれず、年功序列さえ崩壊してしまう低所得者達は…どうすればいい?

 

答えは簡単だ。

 

()()()()すればいい。

 

……………。

 

見滝原市に入ってくる一台のハーレーバイク。

 

黒のレザージャケットに身を包むのは一人の男の姿。

 

サングラスで目元を覆い、口元は濃い無精髭、ボサボサの長髪を纏う者。

 

いかにもハーレー乗りという見た目をした男が路肩にバイクを停車させた。

 

「畜生…地図を見ても埒が明かなかったせいで…人間に擬態して道を聞く羽目になっちまったぜ」

 

革ジャンのポケットから葉巻ケースを取り出し、右手を用いて口に咥えた葉巻に火を点ける。

 

紫煙を燻らせた後、男は溜息をついた。

 

「ようやく見滝原って街についたのは良いが……」

 

男が入ってきたのは工業区。

 

ここは多くの失業者達の負の感情エネルギーが蓄積したエリアだ。

 

「湿気た空気を感じさせやがる…。怒りに燃え上るべき感情が湿気て…糞みたいな臭いばかりだ」

 

サイドスタンドを地面に下ろし、バイクから降りて歩き始める男の姿。

 

彼が向かった先とは…工業区内にあった公園。

 

中では派遣切りをされてホームレスとなった人々が炊き出しに群がっているようだ。

 

「お前…次の仕事見つかったか?」

 

「見つからない…俺みたいなオッサンを雇ってくれるところなんて…何処にもないよ」

 

「世の中おかしくなったもんだな…。昔は企業に就職出来たら、定年まで安泰だったのに…」

 

「今は年功序列は機能しない。会社の負担が増すばかりな上に、消費者は財布の紐を閉じるんだ」

 

「企業が必要とするのは能力主義だって言うが…能力が高い奴は条件の良い企業に逃げていく」

 

「自分で自分の首を絞めているって気が付かない馬鹿共が経営をしてるんだ…やりきれねぇな」

 

会社のパーツとされて働いてきた工業務めの労働者達の悲惨な愚痴。

 

いっぽう、不動産や商社はビジネスで動く金額が大きく、収入に天井もない。

 

企業間の格差がどんどん広がり、極端な二極化が生まれる日本社会。

 

「このままだと日本は…どうなっちまうんだ?俺たちのような低所得者はもう…いらないのか?」

 

「機械がトレースできる技術職やルートセールスの営業職は、AIやロボットに取って代わられる」

 

「だろうなぁ…。もう普通に働いてたって…給料は上がらねぇ。消費が増えるわけないのに…」

 

「真面目に働いても価値を見出されない時代…。能力主義と成果主義のせいだ…」

 

「俺達だって消費者なのに…。その俺達を切り捨てる能力主義を行って…()()()()()()()()よ?」

 

「もう日本どころか…世界の先進国で生きて良いのは…エリート共だけでいいってことだな…」

 

「俺たち貧乏人なんて…死ねばいいってわけかよ……クソッタレ!」

 

神浜東の経済社会と変わらない光景が見滝原にも生まれている。

 

それは全国にも同様に広がっており、世界規模の末路。

 

国際金融資本家を儲けさせる為にある新自由主義にもとづいた…市場原理政策が生み出す光景。

 

これこそ資本家達が望んだ世界……資本主義であった。

 

<<なんで暴れねぇ?>>

 

「えっ……?」

 

視線を向けた先から歩いてくるのは、葉巻を吸いながら近づいてくるバイカー男。

 

目の前に立った男は葉巻を吸い込んで、男達に吐きつけた。

 

「バハマ産の上モノの煙をくれてやっても…テメェらの汚物の臭いで咽返りそうだぜ」

 

「お前……何なんだよ!?俺たち失業者を笑いに来たのか!!」

 

「テメェらは悔しくねーのか?能力ばかりを優先されて?」

 

「しょうがないだろ…俺の家は貧乏だったんだ…。大学進学なんて…とてもじゃないが…」

 

「俺の家もそうだ…。奨学金返済で首が回らなくなった上で切り捨てられたら…首を吊ってたよ」

 

腑抜けのような態度を見せられ、葉巻を吸い込んでもう一度煙を吐きかけてくる。

 

「テメェら、()()っていうものを意識したことがあるか?」

 

「階級…?そんな前時代的なもんを考える余裕なんて無かったよ…」

 

「所得水準や社会的地位は己の能力次第で決まると思い込む。違うぜ…全ては階級制度が決める」

 

「階級制度なんて…関係あるか。貧乏だったけど…それなりに暮らせた。自業自得ってもんさ…」

 

「何処までも奴隷根性か?流石は世界一支配し易い国だと資本家から言われるだけのことはある」

 

カナダの大学の経済学部で取り上げられた日本の貧困状況では、こう語られている。

 

日本の貧困者は薬物もやらず、犯罪者の家族でもなく移民でもない。

 

教育水準が低いわけでもなく、怠惰でもなく勤勉で労働時間も長く、スキルが低いわけでもない。

 

世界的にも例の無い、()()()()()()()による貧困だと。

 

「テメェら派遣労働者共は()()()()だ」

 

「奴隷以下だと…!?」

 

「古代ローマの奴隷達は貴族の所有物として手厚く保護された。だが、お前らのザマは何だ?」

 

古代ローマの奴隷は家族を養える処遇があった。

 

奴隷とは貴族の資産であり、奴隷を失うのは資産を失うのと同じ。

 

つまり、日本の派遣企業は古代ローマの奴隷商人を遥かに超える程の悪魔だということだ。

 

バイカー男に問われたホームレス達の顔が俯いていく。

 

「企業の所有物とも言えた終身雇用は崩壊。()()()()()()()()()()()()()()()()()と同じ姿」

 

「俺たちは…その……」

 

「今の今まで何をしてきた、あ?こんなムカつく社会を壊してやりたくはならなかったのか?」

 

「そんな真似…出来るかよ!?それじゃまるで…テロリストじゃないか!」

 

「人間の自然権を奪われておきながら恭順を選ぶってか?憲法を踏み躙る政治家共が笑ってるぜ」

 

「仕方ないだろうが!!()()()()()()ってもんなんだよ!!!」

 

「おーおー、臭い臭い。生まれた人間であることを忘れた家畜の臭いで鼻が曲がりそうだぜ」

 

踵を返してバイカー男は去っていくが…立ち止まる。

 

吸っていた葉巻を右手に持ち、背後のホームレス達に見えるように持ち上げる姿。

 

「怒りの感情を忘れた豚共に、怒りの感情とは何なのかってのを…この街で見せてやる」

 

持たれていた葉巻が右手を通して燃え上る。

 

驚愕したホームレス達が震えながらも口を開く。

 

「あんたは…誰なんだよ…?どうして俺達ホームレスの前に現れたんだ…?」

 

視線を向けてくるバイカー男の口元は、不敵な笑み。

 

「虐げられても御上万歳なテメェらに、俺が本物の階級闘争の光景を拝ませてやるぜ」

 

「あんたは…俺達を救いに来たのか…?名前ぐらい言ってくれよ!」

 

「俺は地獄からやってきた…怒りの使者」

 

――地獄の天使様(ヘルズエンジェル)だよ。

 

────────────────────────────────

 

見滝原郊外の高級住宅街である五郷には、クリスを運転する尚紀の姿。

 

丈二に頼まれ、五郷の様子を探っていたようだ。

 

「パトカーの巡回が多いな…。これだけ網を張られたら戻って来れるはずがない」

 

「こっちも空振りねぇ…。こっちに来て…もう4日が過ぎようとしているわ」

 

「分かってる…。長引かせれば長引かせる程、行方不明者の発見率が低下していく」

 

焦りの表情が浮かぶ尚紀は五郷を出て、見滝原市へと戻っていくのだが…。

 

「ダーリン!!あの光景を見てよ!」

 

「バカな…何が起こっているんだ!?」

 

日が沈もうとしている見滝原市の空に立ち上る黒煙の数々。

 

ダッシュボードに固定してあるスマホに通話が入り、ハンズフリーで通話を行う。

 

「大変だ尚紀!!商業区が…商業区が燃えてやがる!!」

 

「そっちで何が起こってるんだ!?」

 

「分からない…商業区の商社ビルが次々と燃え上っていく!突然火柱に飲まれるように!」

 

アクセルを踏み込み、加速させて見滝原市を目指す姿。

 

「感じるわよダーリン…物凄い魔力をね」

 

返事は帰ってこない。

 

「ダーリン…?」

 

彼の表情は驚愕に包まれている。

 

「この魔力は……間違いない!!あいつの魔力だ!!」

 

耳の奥に蘇っていくバイクの音。

 

脳裏を過るのはかつてのボルテクス界において、メノラーを巡る戦いを仕掛けてきた魔人の一体。

 

「あいつまで…この世界に召喚されてたってことか!」

 

「急ぎましょう!あの街は魔法少女達が守ってるけど…勝てる相手じゃないわ!」

 

「早まるなよ…杏子!!」

 

スピードを上げたクリスが市内へと入っていく。

 

その頃、商業区の外資系商社ビルの屋上では…業火に包まれていく街を見下ろす悪魔がいる。

 

火災気流を全身で浴び、ビル風で赤いマフラーを揺らすのは…髑髏顔のバイク乗り。

 

「ハハハハハ!!見タカ?感ジタカ?赤キ業火ノ怒リヲナ!!!」

 

燃え上る階級闘争こそ、赤旗を振りかざす社会主義を象徴する光景。

 

地獄と化した街の地上では、逃げ惑う民衆達の姿。

 

商社ビルの中に取り残された社員は業火に阻まれ、焼かれ、命を失うばかり。

 

ブルジョアから虐げられてきた怒れる労働者達がもたらしてきた…階級闘争の歴史光景だ。

 

「ククク…感ジルゼ人修羅ァァァ…。テメェノ怒リガ近ヅイテキテルッテナァ!」

 

アクセルを回し、マフラーからけたたましい業火が噴き上げる。

 

バイクの車輪が燃え上り、怒りの炎と化す。

 

「ヒャッハーーッッ!!!」

 

一気に走り出し、ビルの屋上から飛び降りようとする。

 

だが、炎の車輪が地面に吸着するようにビルの窓ガラス側面を走行していくではないか。

 

燃え上る車輪によってビルの側面を焼き切りながら駆け下りてくる光景。

 

商業区内に走行してきたクリスを急停止させる。

 

「やはり奴か!!お前ら早く逃げろーーッッ!!!」

 

地面にまで駆け下りてきた悪魔のバイクが無数の車が走る道路に飛び出す。

 

「イーハアァーーッッ!!!」

 

バイクの車輪をドリフトさせる一回転運動。

 

周囲に巻き起こったのは…全体を薙ぎ払う程の『ヘルスピン』攻撃。

 

突風と業火が巻き起こる程の『全体攻撃』によって、無数の車が宙を舞う。

 

「チッ!!」

 

車を後退させ、炎上しながら飛ばされてきた車の数々を避けながら後退。

 

周囲は豪熱結界と化し、もはや人間の姿は炭化した死体のみ。

 

停車したクリスの元にまで走行してきたのは、かつて死闘を行った魔人の姿。

 

「イヨォォ…()()()()。会イタカッタゼェェェ」

 

車の中から降りてきた尚紀の姿は既に悪魔化している。

 

業火と煙に覆われた世界を歩くその表情は、憤怒と化す。

 

「貴様…またメノラーでも奪いに来たのか?…ヘルズエンジェル!!」

 

髑髏顔の口元をカタカタと動かす表情は、笑っているようにも見える。

 

「勘違イスルナヨ。俺ハモウ、アンナガラクタニ興味ハネェ」

 

「ならば…この惨状は何故起こした!?俺を挑発するためか!!」

 

「俺ハ概念存在ダゼ。ヘルズエンジェルッテノハナ…米国ヲ荒ラシタ巨大暴走族カラキテイル」

 

「ヒエラルキー社会への怒りを込めて暴走を繰り返していた連中か…。それを実行したわけか」

 

「格差ニ虐ゲラレタ己ノ在リ様ヲ憎ミ、周リヲ憎ム。俺ノ怒リコソ社会主義革命ノ炎ダゼ」

 

「暴力革命の真似事だと…?貴様は低所得者の怒りを代弁する存在だとでも言うのかよ」

 

「コノ国ノ愚民ホド腐ッタ連中ハイネェ。虐ゲラレ続ケテモ貴族ト言エル御上ニ従ウ家畜共ダ」

 

「民主主義国家は選挙で民意を託すしかない!暴力で政治意思を押し通すなどテロリストだ!」

 

「ハハハハハ!!ソノ暴力デ、テメェノ政治思想ヲ魔法少女二押シ付ケタ奴ガヨク言ウゼ!」

 

「クッ……」

 

「ブラザー…テメェモ()()()()()ノサ。人間ト魔法少女ノ力ノ格差デ生マレル被害ヲ憎ム者ニナ」

 

尚紀の脳裏に浮かぶのは、東京や神浜市において魔法少女の虐殺者として生きた記憶。

 

人間社会主義の為なら、帰りを待つ人々がいる悪の魔法少女であろうと虐殺を繰り返してきた。

 

どれだけの人間に悲しみと絶望をもたらしてきたのか?

 

人間の守護者であろうとした者が?

 

誰かを守ろうとすればする程…守れない者達を無尽蔵に生み出す怒りの業火の道を歩んできた男。

 

その姿は何処か、ヘルズエンジェルとよく似ていた。

 

「たしかに俺は…怒りと憎しみを正当化して魔法少女を虐殺した。人間の怒りを叩きつけてきた」

 

「怒リノ魂ハ、暴力トスピードヲ己ノ拠リ所トスル。テメェノ怒リノ炎ガ欲シカッタンダヨ」

 

「俺を怒らせるためだけに…これだけの所業をやってのけたのかぁ!!」

 

「オウトモ!俺ハカツテノ世界デ、テメェニ言ッタハズダ!!」

 

――連レテッテヤルゼ…スピードノ向コウ側ヘ!!

 

「貴様ぁーーッッ!!!」

 

怒りの魂を宿した人修羅もまた、暴力とスピードを欲する悪魔と化す。

 

右手から光剣が出現し、刃を構えた。

 

「待チナ!セッカク良イ女悪魔ヲ連レテルンダ…カツテノ世界ト同ジ勝負ジャツマラネェ」

 

髑髏顔の視線を向けた先には車悪魔であるクリスの姿。

 

「…どうやらこの魔人は、アタシとダーリンというダンスパートナーを相手に挑みたいみたいね」

 

「良イ車ヲ持ッテルノニ自信ガネェカ?ペーパードライバーダッタノナラ、勘弁シテヤルガナ?」

 

「車輪対決か……良いだろう」

 

クリスに乗り込み、車体をUターンさせる。

 

ヘルズエンジェルが前に進み、左側に停めて並び合う光景。

 

「付き合ってやるが、ここではダメだ。人間の被害が大きくなる」

 

「甘イ男ダナ?マァイイ、オ望ミトアラバ用意シテヤルゼ…俺達ノバトルステージヲナ!」

 

ヘルズエンジェルが魔人結界を張り巡らせる。

 

視界がホワイトアウトし、白い世界に色が戻れば…。

 

「かつての魔人結界じゃないな…」

 

「アノ不毛ナ大地ジャツマラネーダロ?楽シモウゼ」

 

「良いだろう、ここなら文句はない」

 

張り巡らされた結界世界とは、人間が消えた夜の見滝原都市の光景だった。

 

互いにエンジンを回転させ、マフラーが唸り声を上げていく。

 

「コイツガ落チテキタ時ガスタート合図ダ」

 

運転席側に右掌を向けると、金貨コインが置かれている。

 

「コイントスか…()()()()()を思い出させてくれる」

 

「スタートト同時ニ戦イヲ始メヨウゼ。ナンデモアリダ」

 

「フッ…()()()()()ってわけかよ。構わないぜ?踊りたくなってきた」

 

「アタシとダーリンに喧嘩を売った以上はアンタ、無事じゃ済まないわよ!」

 

「ノレルゼェェェ…最高ノ夜ニナリソウダァ!!」

 

コインを親指で弾く。

 

鈍化した世界を舞うコイン。

 

互いのマフラーが唸りを上げる。

 

「サァ、俺達ノセカンドステージダ!!」

 

――怒リノデスロードガ始マルゼェ!!

 

コインが落ちた瞬間、一気に急加速。

 

互いの怒りが爆発する程の激しいデスレースが始まったのだ。

 

彼らが発進した後から跳躍してやってきた人物達がいる。

 

「あいつら…行っちまったぞ」

 

現れたのは、見滝原の守護者を務める美樹さやか・佐倉杏子・巴マミ。

 

「あんな魔獣…見たことないわ。嘉嶋さんはアレと戦おうというの…?」

 

記憶が改変されたため、マミと杏子はかつて戦った魔人の事を思い出せない。

 

「関係ない!あたし達の街に火を点けて…大勢を殺した悪者を絶対に許さない!」

 

「へっ、さやかの言う通りだな。未知の脅威にビビッて逃げ出したんじゃ、尚紀に笑われる」

 

「私達は彼らのレースの先回りをしましょう!嘉嶋さんを援護するわ!」

 

魔法少女達も動き出す。

 

彼女達をビルの屋上から見守っていたのは、見滝原を支配する悪魔達。

 

「ヘルズエンジェルか…厄介な魔人が現れたものじゃのぉ」

 

「私が支配する街で勝手なことをしてくれた礼をしてやろうと思ったけれど…」

 

「どうする?人修羅とあの小娘達に任せるのか?」

 

「もしもの時は動くけれど…見守らせてもらうわ」

 

「人修羅の力を疑うことはないが、あの小娘達まで信頼しておるようじゃのぉ?」

 

「当然でしょ?私は彼女達の実力を疑ったことはないわ」

 

――敵として戦い合い、時には仲間としても死線を共に潜ったことがある子達なんだから。

 

────────────────────────────────

 

ルール無用のデスレース。

 

追われる者と追う者との戦い。

 

どちらが先にゴールするかではない。

 

どちらが先にくたばるかを競うデスロードバトル。

 

「あのハーレーバイク…かなり弄ってるわね!振り切れないわ!」

 

「ただのバイクだと思うな。あれはヘルズエンジェルの怒りが形になった代物だ」

 

前を走るクリスを追う形として迫りくる魔人のバイク。

 

チョッパータイプのハーレーの車輪は怒りの炎そのものであり、地面を焼きながら走り迫る。

 

車体でブロックして前に出さないレースバトルではない。

 

生き残れるかを競う戦いだ。

 

「サァ、行クゼ!俺トコイツノ怒リヲ止メラレルカナ!!」

 

バイクに乗ったまま立ち上がり、爆音を鳴らすアクセル操作。

 

「来るぞ!」

 

ドリフトして急カーブする回避行動。

 

地面から出現したのは、巨大な竜巻。

 

ヘルズエンジェルが得意とする風魔法の一種である『ヘルエキゾースト』だ。

 

魔人のバイクも急カーブし、猛追を崩さない。

 

「わ~お…あんなのに巻き上げられたらイチコロね」

 

「あの風魔法は厄介だった…。こちらの強化魔法を無効化させてくる」

 

「デカジャ効果まで付与されてるだなんて…戦った時は苦戦したでしょうね」

 

「ああ。だが、今回のバトルはお前がいてくれる。もう奴のスピードには振り回されない」

 

「頼りにしてよねダーリン!」

 

人間がいない悪魔結界世界であろうとも、道路には無数の車が転がっている。

 

蛇行運転を繰り返しながら避けていくのだが…。

 

「オラオラオラァーーッッ!!」

 

ウイリーしながら炎の車輪を前に向け、次々と壁となる車の数々を破壊しながら突き進む。

 

「ノレる奴じゃない!いいわ、こっちも熱くなってきた!!」

 

エンジンの如く熱くなったクリスがダッシュボードの上に固定させたスマホを電波で操作。

 

動画サイトを用いてキックパネルスピーカーから流れ出すのはハードロック。

 

「へっ…やっぱ俺にはユーロビートよりも、こっちのノリが熱くなれるぜ!」

 

窓を全開にして音楽を周囲に放つ彼女の後ろ姿を楽しむヘルズエンジェル。

 

「イイ女ジャネェカ~ソレデコソダ!俺モノッテキタゼ~~ッッ!!」

 

互いが蛇行運転を繰り返し、車の壁を超えていく。

 

左カーブをドリフトする瞬間、人修羅は左手を窓から突き出す。

 

「喰らいな!」

 

放たれた破邪の光弾に対し、魔人バイカーは間一髪で避けきる。

 

カーブを曲がるタイミングを逃したヘルズエンジェルは大きく迂回。

 

「やるわね」

 

「あいつはスピード自慢の魔人だった。俺達の攻撃も避けられまくったもんだ」

 

「フフッ♪懐かしい記憶の世界に浸っているようね」

 

「お前があの時いてくれたら、もっと楽しめただろうよ」

 

左に急カーブして移動するが、後続からはヘルズエンジェルのハーレーが迫りくる。

 

黒の革ジャンの襟元に右手を伸ばし、背中に隠していた武器を取り出す姿。

 

「セッカクノチェイスバトルダ。盛リ上ゲル道具ヲ用意シテオイタゼ」

 

右手に持って構えるのはソードオフ・ショットガン。

 

「人間ノ玩具ダロウガ、俺ガ使エバコウナルノサァ!!」

 

引き金が引かれ、12ゲージショットシェルが発射される。

 

鈍化した世界を舞うのは、複数のコイン。

 

コインショットと呼ばれるショットガンの撃ち方だ。

 

コインに怒りの炎が宿り、火炎散弾となりて迫りくる。

 

「チッ!!」

 

身を伏せながら運転するが、クリスの背後は燃え上る散弾の一撃を浴びせられる。

 

リヤガラスやテールランプ、バックドア等が割れ、フロントガラスまで砕け散る有様。

 

「やりやがったなスカル野郎!!」

 

激怒したクリスの車輪は、怒りの放電現象。

 

「今度はこっちの番よ!!」

 

空から放たれる雷魔法とはマハジオンガ。

 

蛇行運転を繰り返し避けながらも、余裕の表情でショットガンを折り曲げシェルを排出。

 

魔人の意思が宿ったバイクは、自動で運転行為を繰り返す。

 

ダブルバレルに弾を詰め込み直し、アクセルを回し込む。

 

攻撃を受けて怯んだクリスに向けて急接近。

 

横に並走した瞬間、右手の銃を人修羅に向けて構え込む。

 

「そうはさせるか!!」

 

運転席側の扉を勢いよく開け、ヘルズエンジェルをバイクごと弾く。

 

「チッ!!」

 

体勢が崩れながらも引き金を引く。

 

発射されたコインショットによって、側面から車の屋根が破壊されてしまう。

 

「野郎ッッ!!」

 

サイドブレーキを引くブレーキ操作。

 

クリスの車体が一気にドリフトし、車体側面を壁にする一撃。

 

「甘イゼェ!!」

 

ヘルズエンジェルは走行しながら足を伸ばし、地面を砕くほど蹴り込む。

 

「なんだと!?」

 

鈍化した世界の宙を舞うハーレーバイク。

 

魔人はクリスを大きく飛び越え、走行しながらドリフトUターン。

 

人修羅も車を発進させ、チェイスバトルは続いていく。

 

振り向き、猛追してくる魔人を確認。

 

「クリス!運転を続けろ!!」

 

「何をやろうってのさダーリン!?」

 

「誰もいないんだ!派手にやっても構わないだろう!」

 

席を立ち上がり、両手を広げ、全身に魔力を溜め込みながら両腕を抱え込む姿勢。

 

体勢を起き上がらせるように両腕を広げ、全身に纏った光を放つ一撃となるゼロスビート。

 

彼の体から放たれた無数の光弾に対し、ヘルズエンジェルは不敵な笑み。

 

「ハッハーーーッッ!!!」

 

迫りくる光弾を蛇行運転で避け続け、爆発を超えていく。

 

火花を撒き散らす程の横滑りを行い身を低め、前方から迫ってきた光弾を避け切る。

 

一回転のヘルスピンを用いて体勢を立て直し、空から落ちてくる光弾の雨をウイリー跳躍。

 

大爆発を起こした業火の中から飛び出したのは、爆発の炎を無効化した魔人の姿だ。

 

「あれを避け切ったですって!?」

 

「だから言ったろ!あいつは魔人の中でも最速の魔人だったんだ!」

 

再びハンドルを握りスピードを上げるチェイスバトル。

 

側面まで走ってきた魔人が運転席に向けて再び銃を構える。

 

人修羅はそれに対し、左裏拳を放ち相手の銃を弾き落とす。

 

「ヤロウッ!!」

 

相手も裏拳を放つが左手で掴み取り、運転席側の扉に叩きつける行為。

 

「グゥ!?」

 

関節を折られる前に振り解くが、体勢が崩れて後退していく。

 

「堪ラネェ…流石ハカツテノ世界デ俺ノ走リニツイテコラレタ奴ダゼ!!」

 

互いの爆走行為によって、次々と街が破壊されていく。

 

その光景をビルの上から見下ろす者達がいた。

 

「あれが…悪魔と呼ばれる存在なのね、美樹さん」

 

「うん…嘉嶋さんからそう聞いてる。マミさんも今年の1月のニュースは知ってるでしょ?」

 

「ええ…彼は魔獣なんかじゃなかったわ。そして、嘉嶋さんと同じ存在は無数にいるのね」

 

「…悪魔を倒して、魔法少女の利になるのかねぇ?」

 

「利益の問題じゃない!嘉嶋さんが言ってた通り…悪魔の中には人間を襲う連中がいる!」

 

「本来ならデビルサマナーと呼ばれる存在達の領分だろうけど、放置する事は出来ないわ」

 

「しゃーねぇな。尚紀だけに負担を押し付けるのも癪だからねぇ」

 

「さぁ、私達も行くわよ!」

 

デスレースは互いの怒りによって際限なく加熱していくだろう。

 

しかし、二体の悪魔達は熱くなり過ぎて気づいていない。

 

バトルレースに飛び入り参加を希望する少女達がいたことを。

 

────────────────────────────────

 

互いが絡み合う程のチェイスバトル光景。

 

ヘルズエンジェルに側面体当たりを仕掛けるがブレーキをかけられ後方に回り込まれる。

 

スピードを上げ、右側に飛び出した魔人の蹴りが助手席側の扉を蹴り抜く。

 

扉が大きくへしゃげ、衝撃でひっくり返りそうになるが片輪走行のまま走り抜く。

 

「おおぉぉーーーッッ!!!」

 

持ち上がった片輪から放電現象が生まれ、そのままビルに突っ込む。

 

放電した片輪がビルの側面に触れた瞬間吸着し、車体が大きく駆け上がる。

 

「面白レェ!!」

 

地面を蹴り砕き大きく跳躍、ヘルズエンジェルもまたビルの側面を炎で駆け進む。

 

互いが跳躍した先には、商業区の真ん中にあった高速道路。

 

互いが着地しながら体勢を維持し、駆け抜けていくのだが…。

 

「なんだ…?」

 

近くまで来た魔法少女の魔力に気が付き、人修羅は視線を向ける。

 

商業区に屹立する無数のビルを超えていくのは、リボンを用いた空中移動を繰り返すマミ。

 

ビル屋上の手摺に巻き付いたリボンの遠心力を利用して街中を飛び交っていく。

 

「突然失礼!!」

 

遠心力を生かした跳躍によって、彼女は高速道路まで大きく跳躍移動。

 

「おいっ!!?」

 

彼女が飛び乗ったのは、屋根が破壊されてオープンカー状態になったクリスの後部座席。

 

「文句なら後で聞くわ!!」

 

右手を翳せば、横一列に並ぶマスケット銃が出現。

 

「はぁっ!!」

 

一斉射撃を仕掛けるが、バイクを横滑りさせて掻い潜るヘルスピンによって避けられた。

 

「ナンダテメェ!?コノ俺ガ魔人ダト分カッテテ喧嘩ヲ売ロウッテノカァ!!」

 

「魔人…ですって?」

 

マミの記憶に掛かった闇のカーテンの一部がめくり上がるように記憶がフラッシュバックする。

 

彼女が思い出すのは、黙示録の四騎士達との戦いの記憶。

 

「私は…あの魔人と似ている悪魔と戦ったことがあるような…」

 

茫然としているマミに振り向き、声を荒げる。

 

「ボケっとしてんじゃねぇ!何しにきやがった!?」

 

「えっ!?あっ…そうだったわね。援護しに来たのよ」

 

「これは悪魔同士の戦いだ!魔法少女が出しゃばるんじゃねぇよ!」

 

「そうはいかないわ!あの悪魔は私の街を焼き払った敵なのよ!」

 

「お前の街を焼いた報いなら俺が与えるから、さっさと帰れ!!」

 

「私だって戦える!去年の私よりも強くなっているわよ!」

 

「そういう問題かよ!魔人の力を侮るんじゃねぇ!」

 

運転しながらの口論になろうとも、ヘルズエンジェルは容赦なく仕掛けてくる。

 

ヘルエキゾーストの風魔法が次々と繰り出され、地面から竜巻が噴き上がっていく。

 

蛇行運転を繰り返すGに耐えるようにして、マミはリアシートを掴む姿。

 

「ちゃんと運転して!私は車に良い思い出がないのよ!」

 

「だったら乗るなよ!?」

 

「ちょっとちょっとダーリン!?他の街に来たと思ったら…また魔法少女と仲良くなって!」

 

「こんな時になに馬鹿なこと言い出すんだクリス!?」

 

「車が喋った!?これも悪魔だと言うの…?」

 

「説明している時間はねぇ!!」

 

「この浮気者!女たらし!!何処までもすけこましなんだからーっ!!」

 

「被害妄想もいい加減にしろよ!?」

 

「ダーリン殺してアタシも死ぬぅーーッッ!!!」

 

運転席側にほとばしる嫉妬の雷魔法。

 

「アバババババ!!?」

 

「キャァァーーーーッッ!!?」

 

運転しながらも感電地獄が襲い掛かってしまう哀れな男の姿。

 

乱痴気騒ぎを始める者達を後方から見ていたヘルズエンジェルは、髑髏顔ながらも怪訝な表情。

 

「仲魔割レカ…?何シニ来ヤガッタンダ、アイツ?」

 

呆気に取られていた時、背後から迫りくる魔力に気づく。

 

「今度ハ道路建設会社ノ回シ者カァ?」

 

空の上で高速道路と並走するように伸びていくのは、青白く輝く楽譜の5線。

 

まるでスケートボードのように線の上を滑りながら加速してくる存在とは、美樹さやか。

 

逆側からも並走して伸び、上を滑っていくのは佐倉杏子。

 

2人を乗せた楽譜がヘルズエンジェルと並走するまでに迫りくる。

 

「あんた!あたし達の街で好き勝手暴れてくれたわね!」

 

「覚悟は出来てんだろうな、髑髏野郎?」

 

「魔法少女共カ。ガキガ出シャバッテイイ場所ジャネェ。家デミルクデモ飲ンデナ」

 

「バカにする気!?喋れる分、魔獣よりも質が悪いわ!」

 

「だったらよぉ、命乞いだって出来るよな?そうさせてやらぁ!!」

 

さやかが持つ魔法武器は、西洋のサーベルに近いナックルガード付きの剣。

 

杏子が持つ魔法武器は、突くだけでなく斬る事も可能な長槍パルチザンと酷似する槍。

 

2人が同時に跳躍し、ヘルズエンジェルに仕掛ける。

 

魔人はブレーキを用いて減速、2人の同時斬撃をやり過ごす。

 

跳躍した2人は5線の上に飛び移り、追撃の手を緩めない。

 

「杏子!5名様ご案内!」

 

「任せとけ!」

 

さやかは纏う白いマントで全身を覆い、開くマントと同時に出現させたのは同じ種類の剣。

 

「う・す・ら・バ・カ!」

 

魔人を馬鹿にし返しながら次々と剣を投擲するが、投げる方角は側面道路ではなく前方空間。

 

杏子は右手を翳し、魔力を放出。

 

「編み込み結界!」

 

剣が投げられた空間に張り巡らされたのは、赤い鎖を無数に張り巡らせたような結界。

 

投げられた剣が編み込み結界を超え、柄に巻き付き鞭のように操る。

 

「合体魔法カ!デビルサマナーミタイナ芸当ガ出来ルトハナァ!!」

 

無数の赤い鎖に繋がれた5本の剣が次々とヘルズエンジェル目掛けて斬撃を仕掛けてくる。

 

アクセルを回し一気に加速。

 

杏子に操られた斬撃が次々と迫り、高速道路を切り裂きながら破壊していく。

 

スピードが遅ければバラバラにされていただろう。

 

ヘルズエンジェルはヘルスピンを行い車体を回転させる。

 

前輪ウイリーを使って炎の後輪を持ち上げ、迫りくる剣を回転を用いて打ち払う。

 

体勢を戻し、スピードを上げながら前方の敵に視線を向けるのだ。

 

「今度ハ大艦巨砲主義カ?俺ト人修羅ノデスバトルヲ邪魔バカリシヤガッテ!!」

 

目の前を走るクリスのリアシートから身を乗り出すのは、マギア魔法を構えるマミの姿。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

巨大なマスケット銃を模した大砲の火打ち石が火皿に落ち、榴弾が放たれる。

 

「ウザッテェ!!一気二飛ビ出シテ…テメェラマトメテ焼キ尽クシテヤル!!」

 

ハンドルの真ん中に付いているメーターのカバーを外す。

 

スイッチを押し、一気にアクセルを回し込む。

 

「行クゼェェーーーーッッ!!!」

 

爆発的な速度で高速道路を駆け抜け、飛来してきた榴弾を避けながら突き進む。

 

背後で爆発した榴弾によって、杏子が操っていた複数の剣が破壊されてしまう。

 

クリスの前まで飛び出した加速力こそ、ヘルズエンジェルのスピードを極限にまで上げる力。

 

『ヘルスロットル』だ。

 

「あいつ!アレを放つつもりか!!」

 

「何をやろうって訳なの!?」

 

「クリス!ニトロを使って運転しろ!俺が前に出て防ぐ!!」

 

「何をやるつもりか分からないけど、やっちゃいなさいダーリン!」

 

右掌から生み出すのは、ナオミとの戦いで用いたマガタマであるゲヘナ。

 

マガタマを飲み込みながら立ち上がり、跳躍してボンネットの上に飛び移る。

 

片膝をつき、右手を構えて迎え撃つ姿。

 

「俺ノ怒リノ業火ヲ思イ知レェェーーッッ!!!」

 

後方に向けてマフラーから放たれたのは、広範囲に広がる程の業火噴射。

 

地獄の天使を象徴する怒りの炎を放つ一撃である『ヘルバーナ』が迫りくる。

 

直撃すればクリスどころか、楽譜の道を滑りながら移動するさやかと杏子も無事ではすまない。

 

後方に業火を撒き散らしながら走り続ける魔人バイカーはサイドミラーで後方を確認。

 

「馬鹿ナ…!?」

 

放たれた業火の一撃を吸収していく存在。

 

前方に右手を掲げた人修羅が炎を吸収する防護壁の役目を務める。

 

マガタマのゲヘナは炎属性魔法を吸収する優れた耐性を持つのだ。

 

「ちょっと!しっかり掴まってなさいよ魔法少女!」

 

「何をする気なの!?」

 

「あの髑髏野郎のケツにキスしに行くのよ!」

 

「なんですって!!?」

 

ニトロスイッチが自動で押され、クリスは一気に急加速。

 

前の椅子にしがみつき、加速力に怯えるマミの脳裏には…トラウマの光景が蘇っていく。

 

「もう()()()()はイヤーーッッ!!!」

 

互いが極限のスピードとなり、高速道路を駆け抜けていく。

 

「ウォォーーーッッ!!!」

 

ヘルズエンジェルもアクセルを最大にまで回し込み、加速し続ける。

 

「あと少しだ…もう少し!」

 

間合いにまで入り込んだ時、人修羅が跳躍。

 

「テメェッッ!!?」

 

後ろに現れた存在に振り向く。

 

「よぉ、メノラーバトルの続きを始めようか?」

 

後部座席に座り込んでいるのは、不敵な笑みを浮かべた人修羅の姿。

 

素早く動き回れるバイクであろうとも、バイクに乗る魔人自体が素早いわけではない。

 

この戦法を用いて、ボルテクス界の戦いでも勝利を掴み取っていたのだ。

 

「グハァ!!」

 

左右の肘打ちを髑髏の頭部に打ち込み、怯んだ相手にチョークスリーパーを仕掛ける。

 

「グォォーーーッッ!!!」

 

操縦が乱れた魔人のバイクが高速道路の壁を突き破る。

 

商業区と工業区を遮るように伸びる川の中に飛び込み、水上の上を炎の車輪で走り抜く。

 

首をへし折る程の圧力が加えられ続けるが、アクセルを回し込む。

 

「貴様!何をする気だ!?」

 

「一緒ニ行コウゼ…スピードノ向コウ側ヘナ!!」

 

自らに向けてヘルエキゾーストを放ち、巨大な水飛沫ごとバイクを竜巻で巻き上げてしまう。

 

「「ウォォーーッッ!!?」」

 

体勢を崩した二体の悪魔が空から舞い落ちてくる。

 

河川敷に落ちてきた悪魔達は、同時に地面に叩きつけられてしまったようだ。

 

「ぐっ…うぅ……」

 

互いに立ち上がろうとするが、片膝をついた状態のままヘルズエンジェルは低く笑うのだ。

 

「ヘヘ…強クナッタナ、人修羅。モウ俺ジャ…敵ワナイカモシレネェ」

 

「貴様をこの世界に召喚したのは誰だ…?」

 

「シド・デイビスサ」

 

「シドだと!?お前…あいつの仲魔だったのか!」

 

「俺ハアイツヲ利用シテキタ…。俺ハ悪魔ダ…未来ガ分カル」

 

「まさか…この世界に流れ着いた俺と再戦するために、仲魔のフリをしてたってのか?」

 

「カツテノ世界デ俺ハ…テメェニ負ケタ。悔シカッタンダヨ…リベンジガシタカッタ」

 

「その為だけに…この街を焼き払うとはな。かつての世界と同じ末路にしてやる」

 

「イイゼ…テメェニナラ倒サレテヤッテモイイ。ダガナ…タイマンジャナキャ駄目ダ」

 

立ち上がったヘルズエンジェルは転がった愛車を持ち上げ、上に跨る。

 

「勝負ハオ預ケダ。マタヤロウゼ…今度ハテメェトアノ可愛イ子チャンダケデキナ」

 

「逃がすと思っているのか?ここで終わらせてやる!」

 

「ソウイキリ立ツナ。トコロデ、話ハ変ワルガ…テメェハドウシテ見滝原ニ来タンダ?」

 

「この世界で生きてきた俺は探偵をしている。この街には人探しで訪れただけだ」

 

「ソノ探シ人ッテノハ…魔法少女ナノカ?」

 

「どうして分かる?居場所を知っているのか?」

 

革ジャンのポケットから葉巻ケースを取り出し、右手を用いて口に咥えた葉巻に火を点ける。

 

勝負の余韻を感じるかのように紫煙を燻らせながら、口を開く。

 

「…佐藤精神科病院ダ」

 

「あの病院がどうかしたのか?」

 

「アソコニハ秘密ガアル。魔法少女ニトッテハ…絶望死サエ許サレナイ地獄ノ一丁目ナノサ」

 

「美国織莉子は…佐藤精神科病院に囚われているのか。なぜその情報を俺に伝える?」

 

「俺ハナ、イルミナティナンゾニ与スルツモリハネェ。テメェトノ勝負ダケガ全テダ」

 

「あの病院がイルミナティと関わりのある施設だったとはな…」

 

持っていた葉巻ケースをアイテム代わりにするようにして、投げ渡す。

 

「バハマ産ノ上モノダゼ。アリガタク受ケ取リナヨ、ブラザー」

 

そう言い残し、ヘルズエンジェルは赤いマフラーを靡かせながら去っていく。

 

人修羅は追撃を行わず、悪魔化を解いていく姿。

 

魔人が張り巡らせた結界が解け、景色は元の河川敷となっていった。

 

「美国織莉子は…イルミナティから狙われていたとはな。丈二に情報を伝えなければ」

 

貰った葉巻ケースを開ければ、バハマ産の葉巻が一本残っている。

 

取り出して口に咥え、端を噛み千切って吐き捨てる。

 

右手で火を点け、吸い込みながら紫煙を燻らせていたのだが…。

 

「ゴホッゴホッ!!忘れてた…葉巻は煙草と違って直吸いだったな…」

 

初めての葉巻を味わいながら捜査方針を考えていたら、魔法少女達が遅れて駆けつけてくる。

 

「尚紀!あの髑髏野郎はどうしたんだよ!」

 

「あいつか?あいつなら去っていったよ」

 

「どうして逃がしちゃうんですかー!?あいつは…あたし達の街を焼いた奴なのに!」

 

「あの魔人は必ずまた俺の前に現れる。その時にこそ、100倍にして報いを与えてやるさ」

 

「それでも、無事で良かったわ。あれが悪魔なのね…恐ろしい強さだったわ」

 

「巴マミ、クリスはどうした?」

 

「あの悪魔なら高速道路から下りて目立たない路地裏で停車してるわ。体を癒したいそうよ」

 

「そうか…。お前らを乗せて移動してたら目立つからなぁ」

 

「チッ!やっぱり骨折り損だったって訳か…悪魔はグリーフキューブを落しもしないし」

 

「そうでもない、情報を残していきやがった」

 

「情報って…何だよ?」

 

「美国織莉子の行方だよ」

 

驚愕した3人に向けて、かつての敵から語られた内容を伝えていく。

 

依頼人の仲間であり、戦友の魔法少女ならばと判断したようだが…甘い判断だったと後悔する。

 

彼女達が情報を知った上で、どんな行動に出るかを想像したのはホテルに帰っていた時だった。

 

「不味ったな…。後で釘を刺しておかないとな」

 

立ち止まり、夜空を見上げる。

 

「魔法少女にとっては…絶望死すら許されない地獄の場所か…」

 

彼の脳裏に過ったのは、ボルテクス界での記憶。

 

悪魔達が人から絞り出すものは、何処の世界でも同じなのだと尚紀には分かっている。

 

悪魔が求めるものとは感情エネルギー。

 

かつての世界ではマガツヒと呼ばれ、この世界ではMAG(マグネタイト)と呼ばれるもの。

 

「…マガツヒを絞り出すのは簡単だ」

 

――人を死ぬまで()()すればいい。

 




いやーついにさやかちゃんのバトルシーンを描くことが出来て嬉しいのなんの。
マギレコでも登場待たせまくったキャラですし、僕も待たせてしまいましたね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。