人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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160話 怒りのデスロード

親ガチャというネットスラングが存在している。

 

どんな親を持つかで人生が決まってしまうことを指す。

 

生まれ育った家によって、努力しても厳しい生活を強いられるままの現実を悲観する言葉だ。

 

しかしネットではそんな社会的弱者に対して言われる言葉は決まっている。

 

親のせいにしないで努力をしろ、生活が苦しいのは自分の責任だろ。

 

保護者の収入が多く学歴が高い家ほど子供の成績が良く、大学まで進学させたいと考える。

 

生活保護、ワープア、失業等々、社会的弱者が望んでも手に入らないものを最初から持つ者だ。

 

恵まれない立場、不遇な環境等で社会的弱者になってしまった人々に対する冷たい自己責任論。

 

何故これ程までに自己責任論が蔓延したのだろうか?

 

それは年功序列制度が崩壊して能(・)力(・)主(・)義(・)や(・)成(・)果(・)主(・)義(・)が(・)跋(・)扈(・)し(・)た(・)か(・)ら(・)だろう。

 

誰しも努力次第で未来を切り拓く事ができるというのは一見フェアに見える。

 

だが能力を発揮しようにも家庭の経済状況によってスタートラインにすら立てない人々がいる。

 

努(・)力(・)は(・)き(・)っ(・)と(・)報(・)わ(・)れ(・)る(・)な(・)ど(・)大(・)嘘(・)で(・)あ(・)る(・)。

 

個人の努力を充実させれる環境とは最初から不平等。

 

親ガチャに恵まれた者ならば自分の努力は報われたし、努力しない奴らは糞だと考えるだろう。

 

社会は格差と偏見で分断され、極まった差別ばかりをもたらす悪循環を生み出してしまう。

 

知識の配分率とは親ガチャによって不平等。

 

それでは親ガチャに恵まれず、年功序列さえ崩壊してしまう低所得者達はどうすればいい?

 

答えは簡単だ、現(・)実(・)逃(・)避(・)す(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)。

 

「畜生…地図を見ても埒が明かなかったせいで人間に擬態して道を聞く羽目になっちまったぜ」

 

見滝原市に入ってくるのは一台のハーレーバイク。

 

黒のレザージャケットに身を包むのは一人の男の姿である。

 

サングラスで目元を覆い、口元は濃い無精髭、ボサボサの長髪を纏う。

 

いかにもハーレー乗りという見た目をした男が路肩にバイクを停車させる。

 

革ジャンのポケットから葉巻ケースを取り出し、右手を用いて口に咥えた葉巻に火を点ける。

 

紫煙を燻らせた後、男は溜息をついてしまう。

 

「ようやく見滝原って街についたのはいいが……」

 

入ってきたのは工業区であり、ここは多くの失業者達の負の感情エネルギーが蓄積したエリア。

 

「湿気た空気を感じさせやがる…怒りに燃え上るべき感情が湿気て…糞みたいな臭いばかりだ」

 

サイドスタンドを地面に下ろした後、バイクから降りて歩き始める。

 

彼が向かった先とは工業区内にあった公園。

 

中では派遣切りをされてホームレスとなった人々が炊き出しに群がっているようだ。

 

「お前…次の仕事見つかったか?」

 

「見つからない…俺みたいなオッサンを雇ってくれるところなんて…何処にもないよ」

 

「世の中おかしくなったもんだな…昔は企業に就職出来たら定年まで安泰だったのに…」

 

「今は年功序列は機能しない。会社の負担が増すばかりな上に消費者は財布の紐を閉じるんだ」

 

「企業が必要とするのは能力主義だって言うが…能力が高い奴は条件のいい企業に逃げていく」

 

「自分で自分の首を絞めているって気が付かない馬鹿共が経営をしてるんだ…やりきれねぇな」

 

会社のパーツとされて働いてきた工業務めの労働者達の悲惨な愚痴が零れていく。

 

一方、不動産や商社はビジネスで動く金額が大きく、収入に天井もない。

 

企業間の格差はどんどん広がり、極端な二極化が生まれる日本社会を嘆いてしまう。

 

「このままだと日本はどうなっちまうんだ?俺達のような低所得者は…もういらないのか?」

 

「機械がトレース出来る技術職やルートセールスの営業職はAIやロボットに取って代わられる」

 

「だろうなぁ…もう普通に働いてたって…給料は上がらねぇ。消費が増えるわけないのに…」

 

「真(・)面(・)目(・)に(・)働(・)い(・)て(・)も(・)価(・)値(・)を(・)見(・)出(・)さ(・)れ(・)な(・)い(・)時(・)代(・)こそ…能力主義と成果主義のせいだ…」

 

「俺達だって消費者なのに…その俺達を切り捨てる能力主義を行って…全(・)体(・)が(・)儲(・)か(・)る(・)の(・)か(・)よ(・)?(・)」

 

「もう日本どころか…世界の先進国で生きていいのは…エ(・)リ(・)ー(・)ト(・)共(・)だ(・)け(・)で(・)い(・)い(・)ってことだな…」

 

「俺たち貧乏人なんて死ねばいいってわけかよ…クソッタレ!!」

 

神浜の東の経済社会と変わらない陰惨さが見滝原市でも生まれている。

 

それは全国にも同様に広がっており、世界規模の末路であろう。

 

国際金融資本家を儲けさせる為にある新自由主義にもとづいた市場原理政策が生み出す地獄。

 

これこそが資本家達が望んだ世界の在り様が極まったハイパーキャピタリズム(超資本主義)なのだ。

 

<<なんで暴れねぇ?>>

 

「えっ…?」

 

顔を向けた先から歩いてくるのは葉巻を吸いながら近づいてくるバイカー男。

 

目の前に立った男は葉巻を吸い込んだ後、煙を男達に吐きつけてくる。

 

「バハマ産の上モノの煙をくれてやっても…テメェらの汚物の臭いで咽返りそうだぜ」

 

「お前…何なんだよ!?俺達のような失業者を嘲笑いに来たのか!!」

 

「テメェらは悔しくねーのか?能力ばかりを優先されて?」

 

「しょうがないだろ…俺の家は貧乏だったんだ…大学進学なんてとてもじゃないが…」

 

「俺の家もそうだ…奨学金返済で首が回らなくなった上で切り捨てられたら…首を吊ってたよ」

 

腑抜けのような態度を見せられた事で葉巻を吸い込んでもう一度煙を吐きかけてくる。

 

「テメェら、階(・)級(・)っていうものを意識した事はあるか?」

 

「階級…?そんな前時代的なもんを考える余裕なんて無かったよ…」

 

「所得水準や社会的地位は能力次第で決まると思い込む。違うぜ…全ては階級制度が決める」

 

「階級制度なんて…関係あるか。貧乏だったけどそれなりに暮らせた…自業自得ってもんさ…」

 

「何処までも奴隷根性か?流石は世界一支配し易い国だと資本家から言われるだけの事はある」

 

カナダの大学の経済学部で取り上げられた日本の貧困状況ではこう語られている。

 

日本の貧困者は薬物もやらず、犯罪者の家族でもなく移民でもない。

 

教育水準が低いわけでもなく、怠惰でもなく勤勉で労働時間も長くスキルが低いわけでもない。

 

世界的にも例の無い、完(・)全(・)な(・)政(・)策(・)ミ(・)ス(・)に(・)よ(・)る(・)貧(・)困(・)だと言葉を残す。

 

「テメェら派遣労働者は奴(・)隷(・)以(・)下(・)だ(・)」

 

「奴隷以下だと…!?」

 

「古代ローマの奴隷達は貴族の所有物として手厚く保護された。だが、お前らのザマは何だ?」

 

古代ローマの奴隷は家族を養える処遇があったと聞かされていく。

 

奴隷とは貴族の資産であり、奴隷を失うのは資産を失うのと同じ。

 

つまり日本の派遣企業は古(・)代(・)ロ(・)ー(・)マ(・)の(・)奴(・)隷(・)商(・)人(・)を(・)遥(・)か(・)に(・)超(・)え(・)る(・)悪(・)魔(・)だということだ。

 

バイカー男からそう問われたホームレス達の顔が俯いていく。

 

「企業の所有物とも呼べた終身雇用は崩壊。家畜の如く消費されて捨てられる末路と同じ姿…」

 

「俺達は…その……」

 

「今の今まで何をしてきた、あ?こんなムカつく社会を壊してやりたくはならなかったのか?」

 

「そんな真似…出来るかよ!?それじゃまるで…テロリストじゃないか!」

 

「人(・)間(・)の(・)自(・)然(・)権(・)を(・)奪(・)わ(・)れ(・)て(・)お(・)き(・)な(・)が(・)ら(・)恭(・)順(・)を(・)選(・)ぶ(・)ってか?憲法を踏み躙る政治家が笑ってるぜ」

 

「仕方ないだろうが!!そ(・)れ(・)が(・)日(・)本(・)人(・)っ(・)て(・)も(・)ん(・)な(・)ん(・)だ(・)よ!!」

 

「おーおー、臭い臭い。生まれた人間である事を忘れた家畜の臭いで鼻が曲がりそうだぜ」

 

バイカー男は踵を返して去っていくが、その足が止まる。

 

吸っていた葉巻を背後のホームレス達にも見えるように持ち上げていく。

 

「怒りの感情を忘れた豚共に、怒りの感情とは何なのかってのを…この街で見せてやる」

 

持たれていた葉巻が右手を通して燃え上り、驚愕したホームレス達が震えながらも語り掛ける。

 

「あんたは…誰なんだよ…?どうして俺達ホームレスの前に現れたんだ…?」

 

顔を向けてくるバイカー男の口元には不敵な笑みが浮かんでいる。

 

「虐げられても御上万歳なテメェらに、俺が本物の階級闘争の光景を拝ませてやるぜ」

 

「あんたは…俺達を救いに来たのか…?名前ぐらいは言ってくれよ!」

 

「俺は地獄からやってきた怒りの使者……」

 

――地獄の天使様(ヘルズエンジェル)だよ。

 

♦

 

見滝原郊外の高級住宅街である五郷にはクリスを運転する尚紀がいる。

 

丈二に頼まれて五郷の様子を探っていたようだ。

 

「パトカーの巡回が多いな…これだけ網を張られたら戻って来られるはずがない」

 

「こっちも空振りねぇ…こっちに来てもう4日が過ぎようとしているわ…」

 

「分かってる…長引かせれば長引かせる程、行方不明者の発見率が低下していく」

 

焦りの表情が浮かぶ尚紀は五郷を出て見滝原市へと戻っていくのだが異変が起きる。

 

「ダーリン!!あの光景を見てよ!!」

 

「バカな…何が起こっているんだ!?」

 

日が沈もうとしている見滝原市の空に立ち上るのは黒煙の数々。

 

ダッシュボードに固定してあるスマホに通話が入り、ハンズフリーで通話を行う。

 

「大変だ!!商業区が…商業区が燃えてやがる!!」

 

「そっちで何が起こってるんだ!?」

 

「分からない…商業区の商社ビルが次々と燃え上っていく!突然火柱に飲まれるように!」

 

通話を終えた尚紀はアクセルを踏み込み、加速させて見滝原市を目指す。

 

「感じるわよ…物凄い魔力をね…」

 

悪魔の仕業だと分かるクリスはそう口にするが尚紀の返事は返ってこない。

 

「ダーリン…?」

 

彼の表情は驚愕に包まれており、大惨事を起こす存在を知っているような顔つきに思える。

 

「この魔力は…間違いない!!あいつの魔力だ!!」

 

耳の奥に蘇っていくのはバイクの音。

 

脳裏を過るのはかつてのボルテクス界においてメノラーを巡る戦いを仕掛けてきた魔人の一体。

 

「あいつまで…この世界に召喚されていたのかよ!?」

 

「急ぎましょう!あの街は魔法少女達が守ってるけど…勝てる相手じゃないわ!」

 

「早まるなよ…杏子!!」

 

スピードを上げたクリスが市内へと入っていく。

 

その頃、商業区の外資系商社ビルの屋上では業火に包まれる街を見下ろす悪魔がいる。

 

火災気流を全身で浴び、ビル風で赤いマフラーを揺らすのは髑髏顔のバイク乗りなのだ。

 

「ハハハハハ!!見タカ?感ジタカ?赤キ業火ノ怒リヲナ!!」

 

燃え上る階級闘争こそ、赤旗を振りかざす社会主義を象徴する地獄。

 

地獄と化した街の地上では逃げ惑う民衆達の姿が大勢いるだろう。

 

商社ビルの中に取り残された社員は業火に阻まれ、焼かれ、命を失うばかり。

 

ブルジョアから虐げられてきた怒れる労働者達がもたらしてきた階(・)級(・)闘(・)争(・)の(・)歴(・)史(・)光(・)景(・)だ。

 

「クックックッ…感ジルゼ、人修羅ァァァ…テメェノ怒リガ近ヅイテキテルッテナァ!」

 

アクセルを回すとマフラーからけたたましい業火が噴き上げる。

 

バイクの車輪が燃え上り、怒りの炎と化す。

 

「ヒャッハーーッッ!!!」

 

一気に走り出し、ビルの屋上から飛び降りようとする。

 

だが炎の車輪が地面に吸着するようにビルの窓ガラス側面を走行していくではないか。

 

燃え上る車輪によってビルの側面を焼き切りながら駆け下りてくる。

 

商業区内に走行してきたクリスを運転する尚紀は車悪魔を急停止させる。

 

「やはり奴か!!お前ら早く逃げろーーっ!!」

 

地面にまで駆け下りてきた悪魔のバイクが無数の車が走る道路に飛び出す。

 

「イーハアァーーッッ!!!」

 

バイクの車輪をドリフトさせる一回転運動を行ってくる。

 

周囲に巻き起こったのは全体を薙ぎ払う程の『ヘルスピン』攻撃。

 

突風と業火が巻き起こる程の『全体攻撃』によって無数の車が宙を舞う。

 

「チッ!!」

 

車を後退させながら炎上する車の数々を避けつつ後退していく。

 

周囲は豪熱結界と化し、もはや人間の姿は炭化した死体のみ。

 

停車したクリスの元にまで走行してきたのは、かつて死闘を行った魔人の姿である。

 

「イヨォォ…ブラザー。会イタカッタゼェェェ…」

 

車の中から降りてきた尚紀の姿は既に悪魔化している。

 

業火と煙に覆われた世界を歩くその表情は憤怒の形相をしている。

 

「貴様…またメノラーでも奪いに来たのか…?ヘルズエンジェル!!」

 

髑髏顔の口元をカタカタと動かす表情は笑っているようにも見えてくる。

 

「勘違イスルナヨ。俺ハモウ、アンナガラクタニ興味ハネェ」

 

「ならば…この惨状は何故起こした!?俺を挑発するためか!!」

 

「俺ハ概念存在ダゼ。ヘルズエンジェルッテノハナ…米国ヲ荒ラシタ巨大暴走族カラキテイル」

 

「ヒエラルキー社会への怒りを込めて暴走を繰り返していた連中か…それを実行したわけか?」

 

「格差ニ虐ゲラレタ自分ノ在リ様ヲ憎ミ、周リヲ憎ム。俺ノ怒リコソ社(・)会(・)主(・)義(・)革(・)命(・)ノ(・)炎(・)ダゼ」

 

「暴力革命の真似事だと…?貴様は低所得者の怒りを代弁する存在だとでも言うのかよ?」

 

「コノ国ノ愚民ホド腐ッタ連中ハイネェ。虐ゲラレ続ケテモ貴族トイエル御上ニ従ウ家畜共ダ」

 

「民主主義国家は選挙で民意を託すしかない!暴力で政治意思を押し通すなどテロリストだ!」

 

「ハハハハハ!!ソノ暴力デ、テメェノ政治思想ヲ魔法少女二押シ付ケタ奴ガヨク言ウゼ!」

 

「クッ……」

 

「ブラザー…テメェモ俺(・)ニ(・)ナ(・)ッ(・)タ(・)ノ(・)サ(・)。人ト魔法少女ノ力ノ格差デ生マレル被害ヲ憎ム者ニナ」

 

尚紀の脳裏に浮かぶのは東京や神浜市において魔法少女の虐殺者として生きた記憶。

 

人間社会主義の為なら帰りを待つ人々がいる悪の魔法少女であろうと虐殺を繰り返している。

 

人間の守護者を気取りながらどれだけの人間に悲しみと絶望をもたらしてきたのか?

 

誰かを守ろうとすればするほど守(・)れ(・)な(・)い(・)者(・)を(・)無(・)尽(・)蔵(・)に(・)生(・)み(・)出(・)す(・)怒りの業火の道を歩んできた男。

 

そんな人修羅の在り方は何処かヘルズエンジェルとよく似ているはず。

 

「たしかに俺は怒りと憎しみを正当化して魔法少女を虐殺した…人間の怒りを叩きつけてきた」

 

「怒リノ魂ハ、暴力トスピードヲ自分ノ拠リ所トスル。テメェノ怒リノ炎ガ欲シカッタンダヨ」

 

「俺を怒らせるためだけに…これだけの所業をやってのけたのかぁ!!」

 

「オウトモ!俺ハカツテノ世界デ、テメェニ言ッタハズダ!!」

 

――連レテッテヤルゼ…スピードノ向コウ側ヘ!!

 

「貴様ぁーーっ!!」

 

怒りの魂を宿した人修羅もまた暴力とスピードを欲する悪魔と化す。

 

右手から光剣が出現して刃を構えてくるが待ったをかけられる。

 

「待チナ!セッカクイイ女悪魔ヲ連レテルンダ…カツテノ世界ト同ジ勝負ジャツマラネェ」

 

髑髏顔の視線を向けた先には車悪魔であるクリスがいる。

 

「…どうやらこの魔人はアタシとダーリンというダンスパートナーを相手に挑みたいみたいよ」

 

「イイ車ヲ持ッテルノニ自信ガネーカ?ペーパードライバーダッタノナラ勘弁シテヤルガナ?」

 

「車輪対決か…いいだろう」

 

促された人修羅はクリスに乗り込み、車をUターンさせてくる。

 

ヘルズエンジェルが前に進み、左側に停めて並び合う。

 

「付き合ってやるが、ここではダメだ。人間の被害が大きくなる」

 

「甘イ男ダナ?マァイイ、オ望ミトアラバ用意シテヤルゼ…俺達ノバトルステージヲナ!」

 

ヘルズエンジェルが魔人結界を張り巡らせる。

 

視界がホワイトアウトし、白い世界に色が戻れば異様な景色が広がっている。

 

「かつての魔人結界じゃないな…」

 

「アノ不毛ナ大地ジャツマラネーダロ?楽シモウゼ」

 

「いいだろう、ここなら文句はない」

 

張り巡らされた結界とは人間が消えた夜の見滝原都市の光景に思えるだろう。

 

互いにエンジンを回転させていき、マフラーが唸り声を上げていく。

 

「コイツガ落チテキタ時ガスタート合図ダ」

 

運転席側に右掌を向けると金貨コインが置かれている。

 

「コイントスか…懐かしい奴を思い出させてくれる」

 

「スタートト同時ニ戦イヲ始メヨウゼ。ナンデモアリダ」

 

「フッ…デスロードってわけかよ、構わないぜ?踊りたくなってきた」

 

「アタシとダーリンに喧嘩を売った以上はアンタ、無事じゃ済まないわよ!!」

 

「ノレルゼェェェ…最高ノ夜ニナリソウダァ!!」

 

コインを親指で弾き、空を舞うコインの下側では互いの乗り物のマフラーが唸りを上げる。

 

「サァ、俺達ノセカンドステージダ!!怒リノデスロードガ始マルゼェ!!」

 

コインが落ちた瞬間、一気に急加速していく。

 

互いの怒りが爆発する程の激しいデスレースが始まったのだ。

 

彼らが発進した後から跳躍してやってきた人物達は置き去りにされてしまう。

 

「あいつら…行っちまったぞ」

 

現れたのは見滝原の守護者を務める美樹さやか、佐倉杏子、巴マミである。

 

「あんな魔獣は見た事がないわ…嘉嶋さんはアレと戦おうというの…?」

 

記憶が改変されたマミと杏子はかつて戦った魔人を思い出せず、相手が魔人だと気が付かない。

 

「関係ない!あたし達の街に火を点けて大勢を殺した悪者を絶対に許さない!」

 

「へっ、さやかの言う通りだな。未知の脅威にビビッて逃げ出したんじゃ、尚紀に笑われる」

 

「私達は彼らのレースの先回りをしましょう!嘉嶋さんを援護するわ!」

 

魔法少女達も動き出す中、ビルの屋上から見守っていたのは見滝原を支配する悪魔達である。

 

「ヘルズエンジェルか…厄介な魔人が現れたものじゃのぉ」

 

「私が支配する街で勝手な事をしてくれた礼をしてやろうと思ったけれど…」

 

「どうする?人修羅とあの小娘達に任せるのか?」

 

「もしもの時は動くけれど…見守らせてもらうわ」

 

「人修羅の力を疑う事はないが、あの小娘達まで信頼しておるようじゃのぉ?」

 

「当然でしょ?私は彼女達の実力を疑ったことはないわ」

 

敵として戦い合い、時には仲間としても死線を共に潜った事がある仲間達。

 

だからこそ悪魔ほむらは彼らに戦いを任せるようにしながら沈黙するのであった。

 

────────────────────────────────

 

ルール無用のデスレースが始まり、追われる者と追う者との戦いが行われる。

 

どちらが先にゴールするかではない、どちらが先にくたばるかを競うデスバトルなのだ。

 

「あのハーレーバイク…かなり弄ってるわね!振り切れないわ!」

 

「ただのバイクだと思うな。あれはヘルズエンジェルの怒りが形になった代物だ」

 

前を走るクリスを追う形として迫りくる魔人のバイク。

 

チョッパータイプのハーレーの車輪は怒りの炎そのものであり、地面を焼きながら走行する。

 

車体でブロックして前に出さないレースバトルではない、生き残れるかを競う戦いなのだ。

 

「サァ、行クゼ!俺トコイツノ怒リヲ止メラレルカナ!!」

 

バイクに乗ったまま立ち上がり、爆音を鳴らすアクセル操作を行う。

 

「来るぞ!!」

 

ドリフトして急カーブする回避行動行う中、地面から出現したのは巨大な竜巻。

 

ヘルズエンジェルが得意とする風魔法の一種である『ヘルエキゾースト』が炸裂する。

 

魔人のバイクも急カーブしながら猛追を崩さない。

 

「わ~お…あんなのに巻き上げられたらイチコロね…」

 

「あの風魔法は厄介だった…こちらの強化魔法を無効化させてくる」

 

「デカジャ効果まで付与されてるだなんて…戦った時は苦戦したでしょうね?」

 

「ああ…だが今回のバトルはお前がいてくれる。もう奴のスピードには振り回されない」

 

「頼りにしてよね、ダーリン!!」

 

人間がいない悪魔結界であろうとも道路には車が無数に転がっている。

 

蛇行運転を繰り返しながら避けていくのだがヘルズエンジェルは意に介さず突っ込んでくる。

 

「オラオラオラァーーッッ!!」

 

ウイリーしながら炎の車輪を破城槌とし、壁となる車の数々を破壊しながら突き進む。

 

「ノレる奴じゃない!いいわ、こっちも熱くなってきた!!」

 

エンジンの如く熱くなったクリスがダッシュボードの上に固定させたスマホを電波で操作。

 

動画サイトを用いてキックパネルスピーカーから流れ出すのはハードロック曲であろう。

 

「へっ…やっぱ俺にはユーロビートよりも、こっちのノリが熱くなれるぜ!」

 

窓を全開にして音楽を周囲に放つ彼女の後ろ姿を楽しむヘルズエンジェルがこう叫んでくる。

 

「イイ女ジャネェカ~ソレデコソダ!!俺モノッテキタゼ~~ッッ!!」

 

互いが蛇行運転を繰り返しながら車の壁を超えていく。

 

左カーブをドリフトする瞬間、人修羅は左手を窓から突き出す。

 

「喰らいな!!」

 

放たれた破邪の光弾に対して魔人バイカーは間一髪で避ける。

 

カーブを曲がるタイミングを逃したヘルズエンジェルは大きく迂回する事になるだろう。

 

「やるわね」

 

「あいつはスピード自慢の魔人だった。俺達の攻撃も避けられまくったもんだ」

 

「フフッ♪懐かしい記憶の世界に浸っているようね」

 

「お前があの時いてくれたら、もっと楽しめただろうよ」

 

左に急カーブして移動するが後続からはヘルズエンジェルのハーレーが迫りくる。

 

黒の革ジャンの襟元に右手を伸ばし、背中に隠していた武器を取り出す。

 

「セッカクノチェイスバトルダ。盛リ上ゲル道具ヲ用意シテオイタゼ」

 

右手に持って構えるのはソードオフ・ショットガンであろう。

 

「人間ノ玩具ダロウガ、俺ガ使エバコウナルノサァ!!」

 

引き金が引かれ、12ゲージショットシェルが発射される。

 

空中を舞うのは複数のコインであり、コインショットと呼ばれるショットガンの撃ち方だろう。

 

コインに怒りの炎が宿りながら火炎散弾となって飛んでくる。

 

「チッ!!」

 

身を伏せながら運転するが、クリスの背後は燃え上る散弾の一撃を浴びせられる。

 

リヤガラスやテールランプ、バックドア等が割れ、フロントガラスまで砕け散る。

 

「やりやがったな…スカル野郎!!」

 

激怒したクリスの車輪も怒りの放電現象を起こす。

 

「今度はこっちの番よ!!」

 

空から放たれる雷魔法はマハジオンガであり、ヘルズエンジェルの頭上から雷撃が迫りくる。

 

蛇行運転を繰り返して避けながらもショットガンを折り曲げてショットシェルを排出する。

 

魔人の意思が宿ったバイクは自動で運転行為を繰り返す。

 

ダブルバレルに弾を詰め込み直した後、再びアクセルを回し込む。

 

攻撃を浴びて怯んだクリスに目掛けて急接近しながら横を並走してくる。

 

右手の銃を人修羅に向けて構えるが、迎え撃つ人修羅が一気に動く。

 

「そうはさせるか!!」

 

運転席側の扉を勢いよく開けた事でヘルズエンジェルをバイクごと弾く。

 

「チッ!!」

 

体勢が崩れながらも引き金を引き、発射された銃撃で車の屋根が破壊されてしまう。

 

「野郎っ!!」

 

サイドブレーキを引くとクリスの車体が一気にドリフトし、車体側面を壁にする。

 

「甘イゼェ!!」

 

ヘルズエンジェルは走行しながら足を伸ばし、地面を砕くほど蹴り込む。

 

「なんだと!?」

 

宙を舞うハーレーバイクはクリスを大きく飛び越えていき、ドリフトUターンしてくる。

 

人修羅も車を発進させていき、猛追してくる魔人を確認した人修羅はクリスにこう告げてくる。

 

「運転を続けろ!!」

 

「何をやろうってのさ!?」

 

「誰もいないんだ!派手にやっても構わないだろう!」

 

席を立ち上がって両手を広げ、全身に魔力を溜め込みながら両腕を抱え込む。

 

体勢を起き上がらせるように両腕を広げ、全身に纏った光を放つと光弾の雨が生まれる。

 

人修羅から放たれたゼロスビートに対し、ヘルズエンジェルは不気味な笑みを浮かべてくる。

 

「ハッハーーーッッ!!!」

 

迫りくる光弾を蛇行運転で避けながら爆発を超えていく。

 

火花を撒き散らす程の横滑りを行いながら身を低め、前方から迫ってきた光弾を避け切る。

 

一回転のヘルスピンを用いて体勢を立て直し、空から落ちてくる光弾の雨をウイリー跳躍。

 

大爆発を起こす業火の中から飛び出したのは爆発の炎を無効化した魔人の姿なのだ。

 

「あれを避け切ったですって!?」

 

「だから言ったろ!あいつは魔人の中でも最速の魔人だったんだ!」

 

再びハンドルを握りながらスピードを上げる。

 

側面まで走ってきた魔人が運転席に目掛けて再び銃を構えてくる。

 

人修羅は左裏拳を放ち、相手の銃を弾き落とす。

 

「ヤロウッ!!」

 

相手も裏拳を放つが左手で掴み取り、運転席側の扉に叩きつける。

 

「グゥ!?」

 

関節を折られる前に振り解くが、体勢が崩れた魔人は後退していく。

 

「タマラネェ…流石ハカツテノ世界デ俺ノ走リニツイテコラレタ奴ダゼ!!」

 

互いの爆走行為によって次々と街が破壊される中、その光景をビルから見下ろす者達がいる。

 

「あれが悪魔と呼ばれる存在なのね…美樹さん」

 

「うん…嘉嶋さんからそう聞いてる。マミさんも今年の1月のニュースは知ってるでしょ?」

 

「ええ…彼は魔獣なんかじゃなかったわ。そして嘉嶋さんと同じ存在は無数にいるのね…」

 

「…悪魔を倒して、魔法少女の利になるのかねぇ?」

 

「利益の問題じゃない!嘉嶋さんが言ってた通り…悪魔の中には人間を襲う連中がいる!」

 

「本来ならデビルサマナーと呼ばれる存在達の領分だろうけど、放置する事は出来ないわ」

 

「しゃーねーな。尚紀だけに負担を押し付けるのも癪だからねぇ」

 

「さぁ、私達も行くわよ!!」

 

デスレースは互いの怒りによって際限なく加熱していくだろう。

 

しかし二体の悪魔達は熱くなり過ぎているせいで気づいていない。

 

バトルレースに飛び入り参加を希望する魔法少女達がついに行動を起こすのであった。

 

♦

 

互いが絡み合う程のチェイスバトルは続いている。

 

ヘルズエンジェルに側面体当たりを仕掛けるがブレーキをかけられて後方に回り込まれる。

 

スピードを上げ、右側に飛び出した魔人の蹴りが助手席側の扉を蹴り抜く。

 

扉が大きくへしゃげ、衝撃でひっくり返りそうになるが片輪走行のまま走り抜く。

 

「おおぉぉーーーっ!!」

 

持ち上がった片輪から放電現象が生まれながらビルに突っ込む。

 

放電した片輪がビルの側面に触れた瞬間吸着しながら車体が大きく駆け上がる。

 

「オモシレェ!!」

 

地面を蹴り砕いて大きく跳躍するヘルズエンジェルもビルの側面を炎で駆け進む。

 

互いが跳躍した先には商業区の真ん中にあった高速道路が存在している。

 

互いが着地しながら体勢を維持して駆け抜けていく中、別の魔力を感じ取る。

 

「なんだ…?」

 

近くまで来た魔法少女の魔力に気が付いた人修羅は顔を向ける。

 

商業区に屹立する無数のビルを超えていくのはリボンを用いた空中移動を繰り返すマミ。

 

ビル屋上の手摺に巻き付いたリボンの遠心力を利用しながらビルの間を飛び越えてくる。

 

「突然失礼!!」

 

遠心力を生かした跳躍によって彼女は高速道路まで飛び込んでくる。

 

「おいっ!?」

 

彼女が飛び乗ったのは屋根が破壊されてオープンカー状態になっているクリスの後部座席だ。

 

「文句なら後で聞くわ!!」

 

右手を持ち上げれば横一列に並ぶマスケット銃が出現する。

 

「はぁっ!!」

 

一斉射撃を仕掛けるがバイクを横滑りさせて掻い潜るヘルスピンによって避けられてしまう。

 

「ナンダテメェ!?コノ俺ガ魔人ダト分カッテテ喧嘩ヲ売ロウッテノカァ!!」

 

「魔人…ですって?」

 

マミの記憶に掛かった闇のカーテンの一部がめくり上がるように記憶がフラッシュバックする。

 

彼女が思い出すのは黙示録の四騎士達との戦いの記憶であろう。

 

「私は…あの魔人と似ている悪魔と戦った事があるような…」

 

茫然としているマミに振り向きながら人修羅は声を荒げてくる。

 

「ボケっとしてんじゃねぇ!!何しにきやがった!?」

 

「えっ!?あっ…そうだったわね。援護しに来たのよ」

 

「これは悪魔同士の戦いだ!魔法少女が出しゃばるんじゃねぇよ!」

 

「そうはいかないわ!あの悪魔は私の街を焼き払った敵なのよ!」

 

「お前の街を焼いた報いなら俺が与えるから、さっさと帰れ!!」

 

「私だって戦える!去年の私よりも強くなっているわよ!」

 

「そういう問題かよ!魔人の力を侮るんじゃねぇ!」

 

運転しながらの口論になろうとヘルズエンジェルは容赦なく仕掛けてくる。

 

ヘルエキゾーストが次々と繰り出された事で地面から竜巻が噴き上がっていく。

 

マミは蛇行運転を繰り返すGに耐えるようにシートを掴みながら叫んでくる。

 

「ちゃんと運転して!私は車にいい思い出がないのよ!」

 

「だったら乗るなよ!?」

 

「ちょっとちょっとダーリン!?他の街に来たと思ったら…また魔法少女と仲良くなってる!」

 

「こんな時に何馬鹿なことを言い出すんだよ!?」

 

「車が喋った!?これも悪魔だと言うの…?」

 

「説明している時間はねーよ!!」

 

「この浮気者!女たらし!何処までもすけこましなんだからーっ!!」

 

「被害妄想もいい加減にしろよ!?」

 

「ダーリン殺してアタシも死ぬぅーーっ!!」

 

運転席側に迸る嫉妬の雷魔法が炸裂してしまう。

 

「アバババババ!!?」

 

「キャァァーーーーッッ!!?」

 

運転しながらも感電地獄が襲い掛かってしまう哀れな男。

 

乱痴気騒ぎを始める者達を見ているヘルズエンジェルは髑髏顔ながらも怪訝な表情である。

 

「仲魔割レカ…?何シニ来ヤガッタンダ、アイツ?」

 

呆気に取られていた時、背後から迫りくる魔力に気が付く。

 

「今度ハ道路建設会社ノ回シ者カァ?」

 

空の上で高速道路と並走するように伸びていくのは青白く輝く楽譜の五線。

 

まるでスケートボードのように線の上を滑りながら加速してくる存在とは美樹さやかであろう。

 

逆側からも並走する五線が伸び続け、上を滑っていくのは佐倉杏子である。

 

2人を乗せた楽譜がヘルズエンジェルと並走するまでに迫りくる。

 

「あんた!あたし達の街で好き勝手に暴れてくれたわね!!」

 

「覚悟は出来てんだろうな、髑髏野郎?」

 

「魔法少女共カ。ガキガデシャバッテイイ場所ジャネェ、家デミルクデモ飲ンデナ」

 

「バカにする気!?喋れる分、魔獣よりもタチが悪いわ!!」

 

「だったらよぉ、命乞いだって出来るよな?そうさせてやらぁ!!」

 

さやかが持つ魔法武器は西洋のサーベルに近いナックルガード付きの剣。

 

杏子が持つ魔法武器は突くだけでなく斬る事も可能な長槍パルチザンと酷似する槍。

 

2人が同時に跳躍してヘルズエンジェルに仕掛けてくる。

 

魔人はブレーキを用いて減速させた事で同時斬撃をやり過ごす。

 

跳躍した2人は五線の上に飛び移りながら追撃の手を緩めない。

 

「杏子!5名様ご案内!!」

 

「任せとけ!!」

 

さやかは纏う白いマントで全身を覆い、マントが開くと同時に出現させたのは同じ種類の剣。

 

「う・す・ら・バ・カ!!」

 

魔人を馬鹿にし返しながら次々と剣を投擲するが、投げる方角は側面道路ではなく前方空間。

 

杏子は右手を持ち上げながら魔力を放出する。

 

「編み込み結界!!」

 

剣が投げられた空間に張り巡らされたのは赤い鎖を無数に張り巡らせたような結界である。

 

投げられた剣が編み込み結界を超え、柄に巻き付き鞭のように操ってくる。

 

「合体魔法カ!デビルサマナーミタイナ芸当ガ出来ルトハナァ!!」

 

無数の赤い鎖に繋がれた五本の剣が次々とヘルズエンジェル目掛けて斬撃を仕掛けてくる。

 

それに対してアクセルを回しながら一気に加速。

 

杏子に操られた斬撃が次々と迫り、高速道路を切り裂きながら破壊していく。

 

スピードが遅ければバラバラにされていただろう。

 

ヘルズエンジェルはヘルスピンを行いながら車体を回転させる。

 

前輪ウイリーを使って炎の後輪を持ち上げながら迫りくる剣を打ち払う。

 

体勢を戻してスピードを上げながら前方の敵に顔を向けるのだ。

 

「今度ハ大艦巨砲主義カ?俺ト人修羅ノデスバトルヲ邪魔バカリシヤガッテ!!」

 

目の前を走るクリスのリアシートから身を乗り出すのはマギア魔法を構えるマミの姿。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

巨大なマスケット銃を模した大砲の火打ち石が火皿に落ちた事で巨大榴弾が放たれる。

 

「ウザッテェ!!一気二飛ビ出シテ…テメェラマトメテ焼キ尽クシテヤル!!」

 

ハンドルの真ん中に備わるメーターのカバーを外してスイッチを押し、一気に加速させる。

 

「行クゼェェーーーーッッ!!!」

 

爆発的な速度で高速道路を駆け抜けながら飛来してきた榴弾を避ける。

 

背後で爆発した榴弾によって杏子が操っていた複数の剣は破壊されてしまう。

 

クリスの前まで飛び出した加速力こそ、ヘルズエンジェルのスピードを極限にまで上げる力。

 

『ヘルスロットル』なのだ。

 

「あいつ!アレを放つつもりか!!」

 

「何をやろうって訳なの!?」

 

「クリス!ニトロを使って運転しろ!俺が前に出て防ぐ!!」

 

「何をやるつもりか分からないけど、やっちゃいなさい!!」

 

右掌から生み出すのはナオミとの戦いで用いた事があるマガタマのゲヘナであろう。

 

マガタマを飲み込みながら立ち上がり、跳躍してボンネットの上に飛び移る。

 

片膝をつきながら右手を構えて迎え撃つ。

 

「俺ノ怒リノ業火ヲ思イ知レェェーーッッ!!!」

 

後方に目掛けてマフラーから放たれたのは広範囲に広がる程の業火噴射。

 

地獄の天使を象徴する怒りの炎を放つ一撃である『ヘルバーナ』が迫りくる。

 

直撃すればクリスどころか楽譜の道を滑りながら移動するさやかと杏子も無事ではすまない。

 

後方に業火を撒き散らしながら走り続ける魔人バイカーはサイドミラーで後方を確認する。

 

「バカナ…!?」

 

放たれた業火の一撃を吸収していく存在がいる。

 

前方に右手を掲げた人修羅が炎を吸収する防護壁の役目を務めている。

 

マガタマのゲヘナは炎属性魔法を吸収する優れた炎耐性を持つ呪物なのだ。

 

「しっかり掴まってなさいよ、魔法少女!!」

 

「何をする気なの!?」

 

「あの髑髏野郎のケツにキスしに行くのよ!!」

 

「なんですって!!?」

 

ニトロスイッチが自動で押された事でクリスも一気に急加速していく。

 

シートにしがみつきながら加速力に怯えるマミの脳裏にはトラウマの光景が蘇っていく。

 

「もう交通事故はイヤーーッッ!!!」

 

互いが極限のスピードとなりながら高速道路を駆け抜けていく。

 

「ウォォォォォーーーッッ!!!」

 

ヘルズエンジェルもアクセルを最大にまで回し込みながら加速し続ける。

 

「あと少しだ…もう少し!!」

 

間合いにまで入り込んだ瞬間、人修羅が跳躍する。

 

「テメェ!!?」

 

後ろに現れた存在に振り向くと不敵な笑みを浮かべた悪魔探偵が座っている。

 

「よぉ、メノラーバトルの続きを始めようか?」

 

素早く動き回れるバイクであろうとバイクに乗る魔人自体が素早いわけではない。

 

この戦法を用いてボルテクス界の戦いでも勝利を掴み取っていた経験が役に立ったようだ。

 

「グハァ!!」

 

左右の肘打ちを髑髏の側頭部に打ち込み、怯んだ相手にチョークスリーパーを仕掛ける。

 

「グォォーーーッッ!!!」

 

操縦が乱れた魔人のバイクが高速道路の壁を突き破る。

 

商業区と工業区を遮るように伸びる川の中に飛び込み、水上の上を炎の車輪で走り抜く。

 

首をへし折る程の圧力が加えられ続けるが、アクセルを回し込む。

 

「何をする気だ!?」

 

「一緒ニ行コウゼ…スピードノ向コウ側ヘナ!!」

 

自らにヘルエキゾーストを放ち、巨大な水飛沫ごと竜巻でバイクを巻き上げてしまう。

 

「「ウォォーーッッ!!?」」

 

体勢を崩した二体の悪魔が空から舞い落ちてくる。

 

河川敷に落ちてきた悪魔達は同時に地面に叩きつけられてしまったようだ。

 

「ぐっ…うぅ……」

 

互いに立ち上がろうとするが片膝をついた状態のままヘルズエンジェルは低く笑い出す。

 

「ヘヘ…強クナッタナ、人修羅。モウ俺ジャ…カナワナイカモシレネェ…」

 

「貴様をこの世界に召喚したのは誰だ…?」

 

「シド・デイビスサ」

 

「シドだと!?お前…あいつの仲魔だったのか!」

 

「俺ハアイツヲ利用シテキタ…俺ハ悪魔ダ…未来ガ分カル」

 

「まさか…この世界に流れ着いた俺と再戦するために、仲魔のフリをしてたってのか?」

 

「カツテノ世界デ俺ハ…テメェニ負ケタ。悔シカッタンダヨ…リベンジガシタカッタ」

 

「その為だけに…この街を焼き払うとはな。かつての世界と同じ末路にしてやる」

 

「イイゼ…テメェニナラ倒サレテヤッテモイイ。ダガナ…タイマンジャナキャ駄目ダ」

 

立ち上がったヘルズエンジェルは転がった愛車を持ち上げた後、上に跨る。

 

「勝負ハオ預ケダ。マタヤロウゼ…今度ハテメェトアノ可愛イ子チャンダケデキナ」

 

「逃がすと思っているのか?ここで終わらせてやる!」

 

「ソウイキリ立ツナ。トコロデ、話ハ変ワルガ…テメェハドウシテ見滝原ニ来タンダ?」

 

「この世界で生きてきた俺は探偵をしている。この街には人探しで訪れただけだ」

 

「ソノ探シ人ッテノハ…魔法少女ナノカ?」

 

「どうして分かる?居場所を知っているのか?」

 

革ジャンのポケットから葉巻ケースを取り出し、右手を用いて咥えた葉巻に火を点ける。

 

勝負の余韻を感じるかのように紫煙を燻らせながらヘルズエンジェルはこう告げてくる。

 

「…佐藤精神科病院ダ」

 

「あの病院がどうかしたのか?」

 

「アソコニハ秘密ガアル。魔法少女ニトッテハ絶望死サエ許サレナイ…地獄ノ一丁目ナノサ」

 

「美国織莉子は佐藤精神科病院に囚われているのか…なぜその情報を俺に伝える?」

 

「俺ハナ、イルミナティナンゾニ与スルツモリハネェ。テメェトノ勝負ダケガ全テダ」

 

「あの病院がイルミナティと関わりのある施設だったとはな…」

 

持っていた葉巻ケースをアイテム代わりにするようにして投げ渡す。

 

「バハマ産ノ上モノダゼ。アリガタク受ケ取リナヨ、ブラザー」

 

そう言い残した後、ヘルズエンジェルは赤いマフラーを靡かせながら去っていく。

 

人修羅は追撃を行わず悪魔化を解いていく。

 

魔人が張り巡らせた結界が解け、景色は元の河川敷となったようだ。

 

「美国織莉子はイルミナティから狙われていたとはな…丈二に情報を伝えなければ…」

 

貰った葉巻ケースを開ければバハマ産の葉巻が一本残っている。

 

取り出して口に咥えた後、端を噛み千切って吐き捨てる。

 

右手で火を点け、吸い込みながら紫煙を燻らせていたのだが慣れない行為は祟るものだろう。

 

「ゴホッゴホッ!!忘れてた…葉巻は煙草と違って直吸いだったな…」

 

初めての葉巻を味わいながら捜査方針を考えていたら魔法少女達が遅れてやってくる。

 

「尚紀!あの髑髏野郎はどうしたんだよ!」

 

「あいつか?あいつなら去っていったよ」

 

「どうして逃がしちゃうんですかー!?あいつはあたし達の街を焼いた奴なのに!」

 

「あの魔人は必ずまた俺の前に現れる。その時にこそ、100倍にして報いを与えてやるさ」

 

「それでも無事で良かったわ。あれが悪魔なのね…恐ろしい強さだったわ…」

 

「巴マミ、クリスはどうした?」

 

「あの悪魔なら高速道路から下りて目立たない路地裏で停車してるわ。体を癒したいそうよ」

 

「そうか…お前らを乗せて移動してたら目立つからなぁ」

 

「チッ!やっぱり骨折り損だったって訳か…悪魔はグリーフキューブを落としもしないしよぉ」

 

「そうでもない、情報を残していきやがった」

 

「情報って…何だよ?」

 

「美国織莉子の行方だよ」

 

驚愕した3人のために語られた内容を伝えてくれる。

 

依頼人の仲間であり、戦友の魔法少女ならばと判断したようだが甘い判断だったと後悔する。

 

彼女達が情報を知った上で、どんな行動に出るかを想像したのはホテルに帰っていた時なのだ。

 

「不味った…後で釘を刺しておかないとな…」

 

立ち止まりながら夜空を見上げる尚紀はボルテクス界の記憶を思い出す。

 

「魔法少女にとっては絶望死すら許されない地獄の場所か…」

 

悪魔達が人から絞り出すものは何処の世界でも同じなのだと人修羅には分かっている。

 

悪魔が求めるものとは感情エネルギー。

 

かつての世界ではマガツヒと呼ばれ、この世界ではマグネタイトと呼ばれるもの。

 

「…マガツヒを絞り出すのは簡単だ」

 

――人(・)を(・)死(・)ぬ(・)ま(・)で(・)拷(・)問(・)す(・)れ(・)ば(・)い(・)い(・)。

 




いやーついにさやかちゃんのバトルシーンを描くことが出来て嬉しいのなんの。
マギレコでも登場待たせまくったキャラですし、僕も待たせてしまいましたね。
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