人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

162 / 398
161話 ホワイトメン

<<アァァーーッッ!!!痛い痛い痛いーーッッ!!!>>

 

生体エナジー協会に響き渡るのは、日常とも言える狂気の叫び。

 

ソウルジェムを奪われ、人体実験のモルモットにされるしかない魔法少女達の苦しみの声だ。

 

「里見太助は、何処までを知っていたのかね?」

 

尋問室の光景が見える強化ガラスの向こう側には、協会の所長が椅子に座っている。

 

サイドテーブルに置かれた2つのソウルジェムに片手を置き、光を放つ。

 

契約の天使であるキュウベぇと同じく、ソウルジェムの扱い方を知っているような素振りだ。

 

「彼は魔法少女の事を知っていたようだが、それだけではない。我々の事も書籍内で語っていた」

 

所長の声がスピーカーを通して尋問室内に響く。

 

「キュウベぇと呼ばれる存在とは、ヘブライの天使だと彼は知っていた。我々との関係性もな」

 

尋問室内で手足を拘束されて椅子に固定されているのは、2人の魔法少女達。

 

牛の角のような癖毛にウェーブのかかったベージュ色をした長髪の少女。

 

赤髪を三つ編みに束ねた少女。

 

2人の手足の爪の間には、尋問官によって薄い竹べらが差し込まれている。

 

大の大人が赤子のように泣き叫ぶ程の拷問方法だが、魔法少女は痛覚が半分麻痺している存在。

 

にもかかわらず泣き叫ぶのは、ソウルジェムを操り痛覚麻痺を解除している堕天使がいたからだ。

 

「答えてもらうぞ。里見太助の娘である里見那由他…そして、彼と深く関わった氷室ラビ」

 

「私達を家に帰してぇーーッッ!!!」

 

質問に答える余裕がない程の激痛に苛まれるしかない少女の痛々しい姿。

 

「私は何も知らないんですの!助けてパパ!!イヤァァーーーッッ!!!」

 

経験したこともない激痛によって錯乱している那由他から視線を逸らせる。

 

見つめる先には、彼女の家で家政婦のような立場で働いているラビ。

 

激痛で涙を流しながらも歯を食いしばり、無理やり理性を保とうと足掻いている。

 

「里見太助は我々の最後の審判について…書籍内で警告をし続けてきた。()()()()()の事をな」

 

「ぐっ…うぅ…!!那由他様と私を…どうするつもりですか…!!」

 

「立場が分かっていないのかね?質問をするのは我々でいい。君達は答えればいい」

 

「私も…那由他様も…何も知らない!教授のお手伝いはした…それでも…詳しくは知らない!!」

 

「そうか…まだ痛みが足りないようだな」

 

尋問官達が手術道具を置く机の上に置いてあった薄い竹べらをとる。

 

「手足の指は合計20本。3本に竹べらを刺して泣き叫ぶのなら…全部に刺したらどうなるかな」

 

「ヒィィーーーッッ!!!」

 

「その後は爪を剥す。激痛を与える痛覚部分は他にもある…歯はどうかね?」

 

「止めて!!那由他様に乱暴しないで!!やるなら私だけにして!!」

 

「答えてもらおうか。君達は何処まで知っている?里見太助の協力者なのだ…知っているだろう」

 

慈悲無き悪魔の冷淡な声がスピーカーから響く。

 

命を弄ばれるしかないと理解したラビが…重い口を開いてくれる。

 

彼女から聞かされた内容について、所長は大きく溜息をついた。

 

「里見太助という民族学者は聡明な男だったようだ…。自力でそこまで調べ上げるとはな…」

 

「貴方が…教授が言っていた…カナン族のフェニキア人なの!?」

 

「違う。私達は彼らの中に入り込み、血を分け与え、知恵を授けた古の先祖達だ」

 

「エグリゴリの堕天使…!?半信半疑だったけれど…契約の天使だけでなく堕天使もいたのね…」

 

「無論だ。インキュベーターも我らも同じ天使。君達のソウルジェムの扱い方は知っている」

 

「貴方達は…本当に最後の審判をやろうというの!?人類に対する()()()()()()()()を!!」

 

――アジェンダ21を!!!

 

アジェンダ21。

 

1・28事件の際にペンタグラムメンバーのフリを続けた工作員魔法少女が語った計画だ。

 

「大選別は必要なことだ。地球規模での人口削減は、貧困解決と地球汚染を防ぐ手段なのだ」

 

「将来への持続可能な文明を実現するための…国際的な行動指針…。教授が言ってたわ…」

 

アジェンダ21とは、1992年6月に行われた地球サミットによって採択されている。

 

4つのセクションから構成されており、各国家組織の役割や具体的な実施手段も策定済み。

 

単なる努力目標の理念や理想だけを掲げたものではないのが特色だ。

 

条約のような拘束力はなくとも、各国は何が何でも取り組まなければならなかった国際問題。

 

2002年、2012年に大きな修正が施されていく。

 

2015年に具体的な方針を盛り込んだ改訂版が作成され、9月の国連サミットで発行された。

 

その内容は、2030年までになんとしても実現すべきこととある。

 

待ったなしで各国に迫るもの。

 

ジョージア州に突然建てられたガイドストーンは、人類に対して宣言する。

 

()()()()()()()()()()()()()と。

 

「環境に対して、人間社会が影響を及ぼしているどの地域においても、地球規模で実施される」

 

「環境破壊と人口過剰による持続可能性の危機の問題に直接有効なのが人口削減…悪魔の所業よ」

 

「我々はジョージア州ガイドストーンをもって宣言する。地球の管理者として人口を管理すると」

 

「各国の取り組みがあっても…人類の数は増え続けたわ…」

 

「独裁政権でも築かない限り民主主義では達成出来なかったようだ。なら…何が必要だと思う?」

 

「……大戦争。世界を滅ぼせる規模の戦争によって…人口を削減する」

 

「その通り。だからこそ、我々にはヨハネ黙示録通りのハルマゲドンが必要だったのだよ」

 

「貴方達は…どうあっても()()()()()()()()()()()必要があるというのね…」

 

「ハルマゲドンの戦火によって、地上で生きた有象無象の人間は死に絶えるが…選民は生き残る」

 

「それも聞いている…そのための箱舟計画を企んでいるという話も…」

 

「やれやれ、これでは生きて返す事など出来ないな。もっとも…どちらにせよ生きては返さんが」

 

「教授は言っていた…ヨハネの黙示録が世界に巻き起こると…終末時計の針は必ず0になると…」

 

「君達はその光景を見る事はないだろう。ここで新たなる人類進歩の生贄となりたまえ」

 

尋問を終えた所長が椅子から立ち上がるが、泣き叫ぶばかりだった那由他がようやく口を開く。

 

「パパを…パパをどうしたのですの!?パパは知り過ぎていた…貴方達には都合が悪かった!!」

 

激痛と恐怖、そして何よりも耐え難いのが…不安。

 

不安の答えを語られるのは、彼女にとっては絶望死を意味するだろう。

 

所長の視線が那由他に向けられ、口元は邪悪な笑みと化す。

 

「ああ、里見太助か?彼ならもちろん……」

 

――始末したとも。

 

…痛みですすり泣く音が止む。

 

激痛さえ忘れてしまえる程の…絶望の言葉。

 

サイドテーブルに置かれていた那由他のソウルジェムが一気に穢れていく。

 

絶望死確実の穢れの増殖であったが…ここでは意味を為さない。

 

マニトゥのキャリア共がソウルジェムに寄生して、負の感情エネルギーを貪るからだ。

 

「う…嘘ですの…そんな話…嘘ですの!!!」

 

「事実だ。彼は邪魔だった…車内で練炭自殺に見せかけた上で、海の中に車を落してやったよ」

 

瞳のハイライトが消え、濁っていく。

 

体中が痙攣するかのように震えていく。

 

「教授…そんなことって……な、那由他様ッッ!!?」

 

横に首を向ければ…見えたのは発狂の瞬間。

 

「イ”ヤ”ァ”ァ”ァ”ァ”ーーーーーーッッ!!!!」

 

たった一人残された家族の悲報。

 

再会したい気持ちだけで宝崎市から神浜市に移住してきた者。

 

頑固なまでに父を探し続けてきた苦労は今、全て壊れてしまう。

 

「魔法少女の存在と、我々ヘブライとの関係性を世間に漏らす()()()()()()愚者は…許されない」

 

そう言い残して、所長は尋問室の隣部屋から出て行く姿を見せた。

 

「ア”ァ”ァ”ーー!!!ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ーーーッッ!!!!」

 

椅子に拘束されたまま体を暴れさせ、発狂を抑えることが出来ない悲惨な有様。

 

隣にいた尋問官達は彼女の頭部を抑え込み、首に無理やり鎮静剤を注射する。

 

「あ…あぁ……パ…パ……」

 

眠りについてしまった者の手から竹べらを抜いて拘束を外し、尋問官達が運び出す。

 

「触らないで!!もう…抵抗はしない…好きにしなさい……」

 

ラビもまた絶望の意思を示し、従わされるのみ。

 

独房に戻されてしまったラビは、回復魔法で手の傷を癒すことさえしない。

 

生きる気力そのものが、もう彼女には残っていないようだった。

 

脳裏に浮かぶのは、故郷である湯国市で繰り返された忌まわしい差別の記憶のみ。

 

「もういい…疲れた…。魔法少女になった時点で…絶望しか許されなかったのよ…」

 

白い世界の独房を見つめる事しか出来ない。

 

もう彼女はここから生きて出る希望に縋りつく意思さえ示せない。

 

心の色は()()を通り超えていき…()()()()()()()()のだ。

 

「終末への針が0時へと刻み始める…誰にも止められない。()()()()()()()()()()…」

 

――誰もが負けているこの戦いを。

 

彼女が掲げる絶望の感情とは…()()

 

道理を悟る心であり、真理を諦観する心であり、諦めの気持ち。

 

<<知恵や知識と交わり、欲を覚えた原子(アトム)よ>>

 

脳裏に声が響き、顔を上げるのだが…。

 

「えっ……?」

 

見えた光景とは、何もない世界。

 

ただただ白い世界。

 

白い世界に陽炎が浮かんでいく。

 

形を成した者とは…あろうことかラビ自身。

 

「わた…し……?」

 

近寄ってくるラビの姿は、生命に溢れた色を失った…真白い姿。

 

<<あなたの中のミトコンドリアに問う>>

 

「私の…ミトコンドリア…?」

 

<<人はなぜ生まれ、世界はなぜ存在するのか、考えたことはある?>>

 

「言っている意味が分からない…あなたは誰なの…?」

 

<<一部の原子が反乱を起こそうとも、一部の細胞が傷つくのみ>>

 

小宇宙を表す人間の体のシステムに例えて、世界の在り様を問う白き者。

 

<<傷ついた細胞は、他の細胞が元に戻してしまう>>

 

「世界の運命に抗おうとも…他の運命が押し寄せてきて…潰されてしまう…?」

 

白き存在が語った世界の在り様。

 

それは、1人の少女が希望を祈り、世界に反逆して魔法少女を救おうとした人間の抵抗。

 

だが、結果はどうだ?

 

この世界に生まれたのは、新たなる脅威となる魔獣。

 

そして、悪魔と呼ばれる概念存在達によって、魔法少女は再び因果に飲まれて絶望していく。

 

世界の形は抗おうとも…別の災厄と化して舞い戻ってくる。

 

<<この連鎖を断ち切るには、別の選択肢が必要なのよ>>

 

「別の…選択肢…?」

 

<<あなたに選択のための道標を示してあげる>>

 

「貴女は何なの…?どうして…私の姿をしているの…?」

 

その質問を聞いた存在は、無表情のままこう答えるのだ。

 

<<私は()()()()()()。あなたの心が灰色を超えて真白になった時に宿った存在>>

 

――諦念と呼ばれる概念存在よ。

 

ホワイトメンと名乗る存在が右手を持ち上げていく。

 

手に持たれていた品は、ラビにとっては大切な品。

 

友達の形見でもある懐中時計だ。

 

<<行きましょう、世界の先へ。あなたは傍観者として…見届ける必要がある>>

 

諦念に導かれるようにして、手を伸ばしていく。

 

懐中時計に触れた瞬間…世界は完全に色を失い真白に染まっていった。

 

……………。

 

「馬鹿な!?囚人の1人が脱走しただと!」

 

所長室に報告に現れた職員の情報を聞き、驚愕する所長の姿。

 

「消えた魔法少女は…氷室ラビです。独房に入っていた筈ですが…消えていたんです」

 

「我々が保管してあった氷室ラビのソウルジェムはどうなった!?」

 

「ソウルジェムも行方不明です…。恐らくは、脱走のために奪われたものかと」

 

「彼女は魔法少女に変身出来なかったはずだぞ!?固有魔法があるにせよ…使えないはずだ!」

 

「分かりません…本当に蜃気楼のようにして、消えてしまったとしか…」

 

椅子に座り直し、手で追い払う仕草。

 

職員は所長室から出て行くが、彼の表情は苛立ちに包まれている。

 

「なぜ脱出出来た…?魔法少女の力が発揮出来ない状態ならば…内部で手引きした者がいる」

 

女秘書のサキュバスを呼び出し、原因調査に奔走させる。

 

数日が過ぎ、纏められた報告書をタブレット端末で確認していく。

 

「里見那由他を置き去りにする脱走など考えられなかった。やはり悪魔が関わっていたようだな」

 

「新入り悪魔達を召喚した時か、犬猿コンビを召喚した時に異物が混じっていたとしか…」

 

「…ここの魔法少女は皆、絶望死すら許されず、絶望したまま命を諦めるしかない」

 

「それとこの案件が関係あるのでしょうか…?」

 

「諦念に支配された者達を好む存在が…魔界にいる」

 

「魔界に潜む、人間だった者達の残留意思…ホワイトメンのことですか?」

 

「かの者達のいずれかが悪魔召喚の際に紛れ込み…研究所の中で息を潜めていたのやもしれん」

 

「ホワイトメンに気に入られて憑りつかれたと考えるべきでしょうか…氷室ラビは?」

 

「あれは諦念という概念存在そのもの。虚無的であり()()()()()()()()()()()()…己も含めて」

 

「あの存在は実体を持たないですけど…次元と次元を流浪する存在です。まさか氷室ラビも…?」

 

「ホワイトメンは神出鬼没。我々の監視網に引っかかるまでは…身動き出来んな」

 

…これより先、氷室ラビは世界の各地で出現しては消え去っていくだろう。

 

彼女は諦念に支配された存在であり、終末時計の針が指し示す日を見届ける者となった。

 

彼女が見届けるのは、滅びゆく世界の刻なのだろうか?

 

それとも、運命に抗う者達なのだろうか?

 

終末時計の針は刻を刻み続けるだろう。

 

()()()()()()()()()()()

 

────────────────────────────────

 

尚紀が見滝原に訪れてから5日目を迎える土曜日。

 

昨日の戦いでずぶ濡れになった仕事着とも言える服をクリーニングに持ち運ぶ彼の姿。

 

「私服で張り込みをすることも想定しておいて良かったよ」

 

彼の下半身は、魔法少女の虐殺者として動いていた姿と変わらず黒革ズボンにブーツ。

 

上は黒のTシャツの上から白と青の線が入ったライダースジャケットを纏っていた。

 

朝早くクリーニング店に持ち運び、ホテルに帰っていく。

 

「まったく…何が俺のボディガードだ。昨日は放置されちまったよ」

 

ぶつくさ文句を言っていたら、当の本人が待ち構えていたようだ。

 

「私の事を噂してたでしょ?」

 

愛車に持たれながら腕を組んでいるのはナオミだ。

 

「昨日は何処に行ってたんだお前?化粧するのに一日かかったとか言うなよ?」

 

「ごめんなさい、間に合わなくて。昨日は散々だったのは…街の様子を見れば分かるわ」

 

商業区の火災は鎮火しているが、爪痕はあまりに深い。

 

火災が起きた地区は封鎖され、現在も復旧活動や救助活動で慌ただしい光景が続くのだ。

 

「昨日の私はね…神浜に急用が出来て帰っていたのよ」

 

「仕事を放り出しても優先しなければならない程のか?」

 

「ええ…私にとっては最重要なの。私がレイ・レイホゥを探してるのは知ってるでしょ?」

 

「まさか…何か情報を手に入れたのか?」

 

「私は稼いだお金で探偵を多く雇っているの。神浜で雇っていた探偵から情報が来たわ」

 

懐から写真を取り出し、尚紀に見せる。

 

「こいつがレイ・レイホゥなのか…?後ろ側の景色は…南凪区のベイエリアだと思う」

 

「ついに尻尾を掴んだわ…。この女が神浜市に出没すると突き止めただけでも大収穫よ」

 

「なら、依頼をほったらかしにして神浜に帰ってもいいんだぞ?獲物に逃げられるだろうが」

 

「私も…それを悩んでる。それでも私はビジネスウーマンなの、分かる?」

 

「……何が言いたいのか、なんとなく分かるぞ」

 

「さっさと見滝原での仕事を終わらせて、神浜に帰りなさい」

 

(だったら俺の仕事も手伝ってくれよ…)

 

溜息をつきながらホテルに帰っていく。

 

室内では丈二が捜査会議の準備を終えていたようだ。

 

尚紀が得た情報を頼りにし、捜査会議が続いていくのだが…。

 

「やはり…警察の協力は難しそうか」

 

「あの病院は被害届を出す立場だ。美国織莉子を拉致してる証拠が無ければ…動かない」

 

「だとしたら、潜入捜査になるだろうが…今から始めるにしてもなぁ」

 

「その線で調べてみたが、仕事の募集はしていない。清掃員としてもぐりこめると思ったが…」

 

「病院職員から聞き込みをしたところで無駄だろうな…。知っているかどうかさえ怪しいもんだ」

 

「打つ手無しだな…今のところは。有力な情報だが、誰から聞いたんだ?」

 

「俺と同じ悪魔だよ」

 

「だとしたら…あの病院は悪魔と関わりがあると考えるのが自然だろうな。だが、どうする?」

 

「俺たち探偵に礼状はない。警察のように踏み込むわけにもいかないからな…」

 

重い沈黙が続く。

 

丈二の提案により、捜査機材を用いて病院周囲の張り込みを続けるしかないという結論となった。

 

昼飯は外食にしてくるとホテルから出て行く尚紀だが…溜息をつくばかり。

 

「ヘルズエンジェルの言葉通りなら…時間をかけるほど美国織莉子の身が危険に晒される…」

 

俯いたまま立ち止まる。

 

長い沈黙が続いたが、顔を上げた彼の表情は決断したかのような表情。

 

「…済まない、丈二。今回ばかりは正攻法じゃ救えない」

 

彼が思いついたのは、軍隊が行うような人質救出作戦。

 

武力を用いて敵陣に侵入し、敵を排除した上で人質を助けるという内容。

 

だが、それを民間人である尚紀が行うというのなら…もはや凶悪犯罪者でしかない。

 

「あの病院に多くの魔法少女が囚われているとしたら…俺独りで全員を救えるのか?」

 

人質救出任務とは、チームワークが何よりも必要とされるだろう。

 

孤軍奮闘では、人質にされた者達を盾にされて身動きが取れずに包囲されるだけだ。

 

「…仕方ない、ナオミに助けを頼んでみるか」

 

連絡先から彼女を呼び出して、昼飯に誘う。

 

レストランの個室で話し合いが続き、犯罪ともいえる救出行為に参加を希望してくれたようだ。

 

「それでも…私と貴方の2人だけでは心もとないわ」

 

「お前の仲魔をいっぺんに召喚して手伝わせることは出来ないか?」

 

「デビルサマナーの悪魔召喚はね、術者のMAGを必要とするの。私でさえ一体召喚が限界なのよ」

 

「丈二はただの人間だしなぁ…。後は……」

 

彼の顔が俯いていく。

 

何を考えているのか察する事は出来るが、それでもナオミは提案してきた。

 

「この街の魔法少女の協力を得られないかしら?」

 

「やめてくれ、危険が大きすぎる。昨日の夜に釘を刺してきたばかりなんだ」

 

「他にも頼れそうな存在がこの街にいるのかしら?」

 

「いや…それは……」

 

彼の脳裏に浮かんだのは、同じ悪魔である暁美ほむらの存在。

 

しかし、彼女は鹿目まどかの回りから動く事が出来ないのは聞いていた。

 

「いないのならば、選択肢はなくてよ」

 

「……そうするしか無さそうだ」

 

レストランから出て来た2人だが、尚紀の表情は重い。

 

(せっかく犯罪行為から足を洗えた杏子を…また汚れた世界に引き摺り込むのか…?)

 

断って欲しいと願いながら魔法少女達の魔力を探して行く。

 

今日は土曜日であり、中学生たちは休日。

 

「見つけたぞ、巴マミの魔力だ」

 

レストラン近くの繁華街に食料品を買いに訪れていたマミに声をかける。

 

事情を説明した上で断る自由を与えたが、マミは二つ返事で承諾してくれた。

 

「いいのか…巴マミ?正義の味方として生きるお前が…犯罪行為に手を染めるんだぞ?」

 

「選択の余地はないわ。美国さんの命がかかっているし」

 

「顔がバレたら指名手配犯よ…それでもいいの?」

 

「怖い気持ちもある…。それでも、美国さんの命を守れない方がよっぽど怖いのよ」

 

「協力に感謝する。頭部を隠せる目出し帽なら俺が買っておいてやるよ」

 

「まるでテロリストね…私たち。でも構わない、覚悟は出来たわ」

 

「他の魔法少女達とは連絡がとれそう?」

 

「ええ、任せて。作戦会議を行いたいのだけれど、私の家に来てくれるかしら?」

 

「オイオイ…彼氏でもない男の俺を連れ込む気か?カラオケボックスとかでいいだろ?」

 

「ダメよ。こういう作戦を練り上げる時は、美味しい紅茶を飲みながら考えたいものね♪」

 

「安心しなさい。レディの家に上がり込んで箪笥を漁る男だったら…私が懲らしめてあげる」

 

「誰がするか!?そんな変態行為!!」

 

マミから集合場所の住所を聞いた後、尚紀はスマホで調べておいたサバゲ―ショップに向かう。

 

暫くして、買い物を済ませた尚紀がマミのマンションに向かうのだが…。

 

「随分と立派なマンション暮らしだったんだな…あいつ」

 

社会人の悪癖か、維持費のことを考えながらマミの家の階を目指す。

 

扉の前に立ち、チャイムを押そうとするようだが…片手が持ち上がらない。

 

「参ったな…女の家に上がり込むだなんて小学生の頃に千晶の家に遊びに行ったのが最後だぞ?」

 

恥じらいを見せていた時、家の中から扉を勢いよく開けられる。

 

「ゴハッ!?」

 

扉にぶつかり悶絶していると、杏子が顔を出してくる。

 

「何ちんたらしてんだよ尚紀。女の家に上がるのが恥ずかしいのか?」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

「つーかさ…あたしも女の子なんだけど?あたしの家に上がり込むのは平気だったのか~?」

 

遠回しに男扱いされていると感じた杏子の狂犬顔。

 

また殴られる前に素早く家の中に入っていく情けない男の姿があったようだ。

 

────────────────────────────────

 

ショルダーバックを背負っていた尚紀は、中を開けてファイルを取り出す。

 

机の上に置いていくのは、3D地図を使うことが出来るアプリを用いて印刷した用紙。

 

写されているのは、航空から撮影したように写し出された佐藤精神科病院の全体像。

 

「ここに織莉子が囚われてたのか…よし!刻みに行こう!!」

 

「馬鹿!暴れに行くんじゃないっつーの呉!美国を助けに行くだけ!」

 

「そういう小巻だって、暴れたそうな顔してるじゃん?」

 

「そ、それは…ケースバイケースよ。暴れる必要があったら別にいいでしょ?」

 

「やはりゴリラ女の力は禁じられないようだ。存分に暴れてくれたまえ」

 

「そのゴリラ女に張っ倒されたいの!!?」

 

喧嘩を始めるキリカと小巻をさやかと杏子が抑え、マミは咳き込んで沈黙を呼びかける。

 

「色々と調べてみた。最近この病院は山火事を受けたようだ」

 

「上空写真からでも分かるね…森が丸裸になっちゃってるよ」

 

「ここから侵入するのは難しい。この病院は地元で評判になるぐらい警備の規模が尋常じゃない」

 

「何かを隠してる証拠だな。建前としては精神病患者の脱走を防ぐってところだろうよ」

 

「二手に分かれよう。俺が警備をしている連中を引き受ける」

 

「私たちは別動隊になって病院内に潜入して、魔法少女達を捕らえている施設を探り出すね」

 

「上空写真から見て、不自然に大きい倉庫が見えるだろ?病院の資材倉庫規模じゃない」

 

「ここに入り込むのは良いけれど、脱出ルートの確保も必要ね。大勢が囚われてるのでしょ?」

 

「それに…中がどうなってるのかも分からないし…魔法少女を捕らえれる何かがあるのかも?」

 

「あたし達も同じ末路になるって心配してるのか、さやか?」

 

「怖がってるわけじゃないよ!ただ、備えは必要だって言いたいだけ」

 

「随分と成長したな~さやか?昔のお前はもっとこう…猪突猛進だったぞ?」

 

「えっ?もちろんですとも!さやかちゃんの成長期は年中無休なのだ~!」

 

自分でもどうして冷静になれるのかは分からない表情。

 

たとえ記憶を奪われても、彼女は円環のコトワリの使者。

 

コトワリ神と一つになったことで、様々な経験値を手に入れられたのだろう。

 

「囚われの子達を搬送するバスが必要ね。私が手配してあげるし、運転も任せて」

 

「頼んだ、ナオミ。俺は先攻して様子を伺いながら連絡しよう。決行は今夜の0時とする」

 

「盛り上がってきた~!囚われ姫な織莉子を救出しに行く王子様な私…これだよコレ!!」

 

「班分けはどうするの?尚紀さん一人に警備員全部を任せるわけにも行かないわよ」

 

「俺に任せろ。病院施設内には何が隠されているか分からないし、避難誘導員は多く必要だ」

 

「尚紀なら心配いらねーよ。本気のあたしを倒せるような奴なら、警備員共の方が心配さ」

 

「それじゃあ、私たちは救出班として動く事にする。指揮は私が執らせてもらうわ」

 

作戦会議を終え、尚紀は使った資料を鞄の中に戻していく。

 

「そろそろお湯が沸いたかしら?紅茶を淹れてくるから待っててね」

 

台所に移動していく。

 

暫くして、紅茶を淹れて持ってきてくれるマミが帰ってきたようだ。

 

「へぇ…美味いじゃないか?」

 

「そうねぇ、これなら店に出しても良いぐらいだと思うわ」

 

「そ、そうですか…?大人達に喜んでもらえたのは初めてだから…嬉しいわ♪」

 

「マミさんは紅茶に詳しいだけじゃなく、ケーキ作りも得意なんですよーっ!」

 

「ケーキ…ですって!?」

 

さやかの一言で鼻息が荒くなるほど気合が入った表情を浮かべてしまうナオミの姿。

 

彼女が手を付けられないほどの大食い娘である事を知っている尚紀は、マミに振り向く。

 

「あ~…その、なんだ。ケーキはまた今度にしとけ…」

 

「えっ?どうしてなのかしら?」

 

<…冷蔵庫の中身を全部食いきられても、まだおかわりを言うような女だぞ?>

 

念話を聞き届けたマミの顔が青くなる。

 

「そ、そうねぇ…?また今度にしちゃおうかしら…あは…ハハ……」

 

引きつった笑いを浮かべるマミを見て、ナオミは肩を大きく落としたようであった。

 

────────────────────────────────

 

行動を開始していくためにマンションから出て行く者達を見下ろす存在。

 

隣ビルの屋上から地上を見下ろす者とは、魔法少女姿となった氷室ラビ。

 

ネイティブアメリカン等が付けるようなウォーボンネットを頭に纏い、風で羽根が揺れていく。

 

「あれが…守ろうとする者達なの?」

 

誰もいない場所で独りごとを喋るようにした態度。

 

答えを返すようにして、彼女の頭に直接声が響いてくる。

 

<<あなたの原子が、可能性に触れた>>

 

「あの人達が…終末時計の針を止めようとする者だと言いたいの?世界を守るために…」

 

<<守ることを選んだ将来は、より強大な守る力に飲み込まれる>>

 

「あなたが語った円環になった少女。魔法少女を守るために命を捧げた者は…私を守れなかった」

 

<<忘れるな。人間の将来にあるのは、()()()()()であるが故の…絶望の荒野だ>>

 

「かつて希望を祈り、いつか絶望を撒く魔法少女を救いたい鹿目まどかの意思は…叶わなかった」

 

悟りを得たようなその表情は、何も感じないように微動だにしない。

 

大切な存在である里見那由他を救いに行って欲しいと哀願しに行くことさえしない。

 

全ては無価値。

 

まるでそう言いたいかのように。

 

<<いずれ万物は、根源へと帰る時がくる。早いか遅いか…ただそれだけだ>>

 

「そう…私達は輪廻の元へと帰っていく。この世界の事象など、一時の花火に過ぎない」

 

<<悟りを得る旅路は続く。行きましょう、先の世界へ>>

 

「ええ、行きましょう。止まる事の無い…終末時計の針と共に」

 

蜃気楼のように消えていく存在。

 

彼女は既に魔法少女の域を超えようとしている。

 

その姿はまるで時間渡航者。

 

終末時計の針の流れのままに、終わりの日を見届ける旅路の世界へと旅立った者。

 

氷室ラビの心を支配するものは、諦念。

 

彼女に憑りついた存在こそ、諦念そのもの。

 

彼女は既に己の名前さえ意味を見いだせない。

 

「私は傍観者。命の終わりという古き伝承に従い、世界の終わりを見届ける者」

 

――私はホワイトメン。

 

――世界の午前0時を見届ける…フォークロア(民間伝承)よ。

 




マギレコだけでなく、メガテンにも諦念勢力が存在しますのでクロスさせてみました。
キャラが増える一方…扱いきれるのか?(汗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。