人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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161話 ホワイトメン

<<アァァーーッッ!!!痛い痛い痛いーーっ!!!>>

 

生体エナジー協会に響き渡るのは日常とも言える狂気の叫び声。

 

ソウルジェムを奪われ、人体実験のモルモットにされるしかない魔法少女達の苦しみの声だ。

 

「里美太助は何処まで知っていたのかね?」

 

尋問室の光景が見える強化ガラスの向こう側には協会の所長が椅子に座っている。

 

サイドテーブルに置かれた二つのソウルジェムに片手を置きながら淡い光を放つ。

 

契約の天使であるキュウベぇと同じくソウルジェムの扱い方を知っているような光景だろう。

 

「彼は魔法少女を知っていたようだが、それだけではない。我々の事も書籍内で語っていた」

 

冷淡な声がスピーカーを通して尋問室内に響く。

 

「キュウベぇと呼ばれる存在とはヘブライの天使だと彼は知っていた。我々との関係性もな」

 

尋問室内で手足を拘束されて椅子に固定されているのは2人の魔法少女達。

 

牛の角のような癖毛にウェーブのかかったベージュ色の長髪少女と赤髪を三つ編みにした少女。

 

彼女達の手足の爪の間には尋問官によって薄い竹べらが差し込まれている。

 

大の大人が赤子のように泣き叫ぶ程の拷問方法だが、魔法少女は痛覚が半分麻痺している存在。

 

にもかかわらず泣き叫ぶのはソウルジェムを操り痛覚麻痺を解除している堕天使がいたからだ。

 

「答えてもらうぞ。里美太助の娘である里見那由他…そして彼と深く関わった氷室ラビ」

 

「私達を家に帰してぇーーっ!!」

 

質問に答える余裕がない程の激痛に苛まれるしかない少女の痛々しい叫び声が響いてくる。

 

「私は何も知らないんですの!!助けてパパ!!イヤァァーーーッッ!!」

 

経験した事もない激痛によって錯乱している那由他から視線を逸らす。

 

見つめる先には彼女の家で家政婦のような立場で働くラビがいる。

 

激痛で涙を流しながらも歯を食いしばり、無理やり理性を保とうと足掻いているようだ。

 

「里美太助は我々の最後の審判について書籍内で警告し続けてきた。()()()()()の事をな…」

 

「ぐっ…うぅ…!!那由他様と私を…どうするつもりですか…!!」

 

「立場が分かっていないのかね?質問するのは我々でいい、君達は答えればいい」

 

「私も那由他様も…何も知らない!教授のお手伝いはした…それでも…詳しくは知らない!!」

 

「そうか…まだ痛みが足りないようだな」

 

尋問官達が手術道具を置く机の上に置いてあった薄い竹べらを掴む。

 

「手足の指は合計20本。3本に竹べらを刺して泣き叫ぶのなら全部に刺したらどうなるかな」

 

「ヒィィィィィーーーッッ!!!」

 

「その後は爪を剥す。激痛を与える痛覚部分は他にもある…歯はどうかね?」

 

「止めて!!那由他様に乱暴しないで!!やるなら私だけにして!!」

 

「答えてもらおうか。君達は何処まで知っている?里美太助の協力者なのだ…知っているだろ」

 

命を弄ばれるしかないと理解したラビが重い口を開いてくれる。

 

彼女から聞かされた内容を清聴した後、所長は顔をしかめてくる。

 

「里美太助という民族学者は聡明な男だったようだ…自力でそこまで調べ上げるとはな…」

 

「貴方が…教授が言っていた…カナン族のフェニキア人なの…っ!?」

 

「違う。私達は彼らの中に入り込み、血を分け与え、知恵を授けた古の先祖達だ」

 

「エグリゴリの堕天使!?半信半疑だったけれど…契約の天使だけでなく堕天使もいたのね…」

 

「無論だ。インキュベーターも我らも同じ天使…君達のソウルジェムの扱い方は知っている」

 

「貴方達は…本当に最後の審判をやろうというの!?人類に対する静かなる虐殺行為を!!」

 

――()()()()()()()を!!!

 

アジェンダとは1・28事件の際にペンタグラムに参加した魔法少女が語った計画名だろう。

 

()()()は必要な事だ。地球規模での人口削減は貧困解決と地球汚染を防ぐ手段なのだ」

 

「将来への持続可能な文明を実現するための国際的な行動指針…そう教授が言ってたわ…」

 

アジェンダ21とは1992年6月に行われた地球サミットによって採択されている。

 

四つのセクションから構成されており、各国家組織の役割や具体的な実施手段も策定済み。

 

単なる努力目標の理念や理想だけを掲げたものではないのが特色だろう。

 

条約のような拘束力はなくとも各国は何が何でも取り組まなければならなかった国際問題。

 

2002年、2012年に大きな修正が施されていく。

 

2015年に具体的な方針を盛り込んだ改訂版が作成され、9月の国連サミットで発行される。

 

内容は2030年までになんとしても実現すべき事とあり、待ったなしで各国に迫るもの。

 

ジョージア州に建てられたガイドストーンは人類に対して5億人以下を維持すると宣言する。

 

「環境に対して、人間社会が影響を及ぼしているどの地域においても地球規模で実施される」

 

「環境破壊と人口過剰による持続可能性危機の問題に直接有効なのが()()()()…悪魔の所業よ」

 

「我々はジョージア州ガイドストーンをもって宣言する。地球管理者として人口を管理すると」

 

「各国の取り組みがあっても人類の数は増え続けたわ…」

 

「独裁政権でも築かない限り民主主義では達成出来なかったようだ。なら何が必要だと思う?」

 

「……大戦争。世界を滅ぼせる規模の戦争によって人口を削減する…」

 

「その通り。だからこそ我々にはヨハネ黙示録通りのハルマゲドンが必要だったのだよ」

 

「貴方達は…どうあっても終末時計の針を0にする必要があるというのね…」

 

「ハルマゲドンの戦火によって地上で生きた有象無象の人間は死に絶えるが…選民は生き残る」

 

「それも聞いている…そのための箱舟計画を企んでいるという話も…」

 

「やれやれ、これでは生きて返す事など出来ないな。もっとも、どちらにせよ生きては返さん」

 

「教授はヨハネの黙示録が世界に巻き起こると言ってたわ…終末時計の針は必ず0になると…」

 

「君達はその光景を見る事はないだろう。ここで新たなる人類進歩の生贄となりたまえ」

 

尋問を終えた所長が椅子から立ち上がるが、泣き叫ぶばかりだった那由他がようやく口を開く。

 

「パパを…パパをどうしたんですの!?パパは知り過ぎていた…貴方達には都合が悪かった!」

 

激痛と恐怖、そして何よりも耐え難いのが不安。

 

不安の答えを語られるのは彼女にとっては絶望死を意味するだろう。

 

所長が那由他に振り向いた後、邪悪な笑みを浮かべながら残酷な現実を突きつけてくる。

 

「ああ、里美太助か?彼ならもちろん…始末したとも」

 

痛みですすり泣く音が止まったのは激痛さえ忘れてしまえる程の絶望の言葉のせいだろう。

 

サイドテーブルに置かれていた那由他のソウルジェムが一気に穢れていく。

 

絶望死確実の穢れの増殖であったが、ここでは意味を為さない。

 

マニトゥのキャリア共がソウルジェムに寄生して負の感情エネルギーを貪るからだ。

 

「う…嘘ですの…そんな話…嘘ですの!!」

 

「事実だ。彼は邪魔だった…車内で練炭自殺に見せかけた上で、海の中に車を落してやったよ」

 

瞳のハイライトが消えた後、どす黒く濁っていきながら体中が痙攣するように震えていく。

 

「教授…そんなことって…な、那由他様!?」

 

横に顔を向ければ見えたのは発狂の瞬間。

 

「イ”ヤ”ァ”ァ”ァ”ァ”ーーーーーーッッ!!!!」

 

たった1人残された家族の悲報によって娘の心は砕け散る。

 

再会したい気持ちだけで宝崎市から神浜市に移住してきた者こそが彼女である。

 

頑固なまでに父を探し続けてきた苦労は全て壊れてしまう。

 

「魔法少女の存在と、我々ヘブライとの関係性を世間に漏らす()()()()()()()()()()()()()()

 

そう言い残す所長は尋問室の隣部屋から出て行ってしまう。

 

「ア”ァ”ァ”ーーッッ!!ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ーーーッッ!!」

 

椅子に拘束されたまま体を暴れさせ、発狂を抑える事が出来ない悲惨な有様が続く。

 

隣にいた尋問官達は彼女の頭部を抑え込み、鎮静剤を無理やり首に注射する。

 

「あ…あぁ…パ…パ……」

 

眠りについてしまった者の手から竹べらを抜いて拘束を外した後、尋問官達が運び出す。

 

「触らないで!!もう抵抗はしない…好きにしなさい……」

 

ラビもまた絶望の意思を示しながら従わされるのみ。

 

独房に戻されてしまったラビは回復魔法で手の傷を癒す事さえしない。

 

生きる気力そのものが彼女には残っていないようだ。

 

脳裏に浮かぶのは故郷である湯国市で繰り返された忌まわしい差別の記憶のみ。

 

「もういい…疲れた…。魔法少女になった時点で…絶望しか許されなかったのよ…」

 

独房を見つめる事しかラビには出来ず、ここから生きて出る希望に縋りつく意思も示せない。

 

心の色は灰色を通り超えて独房の景色と同じように白く燃え尽きたのだ。

 

「終末への針が0時へと刻み始める…誰にも止められない。私は見守るだけでいい…」

 

()()()()()()()()()()()()を自分は見守っていればいいとラビは絶望の言葉を呟いてしまう。

 

彼女が掲げる絶望の感情とは()()

 

道理を悟る心であり、真理を諦観する心であり、諦めの気持ちである。

 

<<知恵や知識と交わり、欲を覚えた原子(アトム)よ>>

 

「えっ…?」

 

見えた光景とは何もない世界、ただただ白い世界。

 

白い世界に陽炎が浮かんでいき、形を成した者とはあろうことかラビ自身。

 

「わた…し……?」

 

近寄ってくるラビの姿は生命に溢れた色を失った白い姿である。

 

<<あなたの中のミトコンドリアに問う>>

 

「私の…ミトコンドリア…?」

 

<<人はなぜ生まれ、世界はなぜ存在するのか、考えた事はある?>>

 

「言っている意味が分からない…あなたは誰なの…?」

 

<<一部の原子が反乱を起こそうとも、一部の細胞が傷つくのみ>>

 

小宇宙を表す人間の体のシステムに例えて世界の在り様を問う白き者は言葉を続ける。

 

<<傷ついた細胞は他の細胞が元に戻してしまう>>

 

「世界の運命に抗おうとも…他の運命が押し寄せてきて…潰されてしまう…?」

 

白き存在が語った世界の在り様こそ鹿目まどかが世界に反逆して魔法少女を救おうとした歴史。

 

だが結果はどうだ?

 

この世界に生まれたのは新たなる脅威となる魔獣。

 

そして悪魔と呼ばれる概念存在達によって魔法少女は再び因果に飲まれて絶望していく。

 

世界の形は抗おうとも別の災厄と化して舞い戻ってくる。

 

<<この連鎖を断ち切るには、別の選択肢が必要なのよ>>

 

「別の…選択肢…?」

 

<<あなたに選択のための道標を示してあげる>>

 

「あなたは何なの…?どうして…私の姿をしているの…?」

 

その質問に対して無表情なままこう告げてくる。

 

<<私は()()()()()()。あなたの心が灰色を超えて白になった時に宿った存在…諦念よ>>

 

ホワイトメンと名乗る存在が右手を持ち上げていく。

 

手に持たれていた品はラビにとっては大切な品であり、友達の形見でもある懐中時計だ。

 

<<行きましょう、世界の先へ。あなたは傍観者として見届ける必要がある>>

 

諦念に導かれるようにしてラビは手を伸ばしていく。

 

懐中時計に触れた瞬間、世界は完全に色を失い真白に染まっていくのだ。

 

事態に気が付いた者達はさぞ驚愕するだろう。

 

「馬鹿な!?囚人の1人が脱走しただと!」

 

所長室に報告に現れた職員の情報を聞いた所長は驚愕してくる。

 

「消えた魔法少女は氷室ラビです…独房に入っていたはずですが…消えていたんです…」

 

「我々が保管してあった氷室ラビのソウルジェムはどうなった!?」

 

「ソウルジェムも行方不明です…恐らくは脱走のために奪われたものかと…」

 

「彼女は魔法少女に変身出来なかったはずだぞ!?固有魔法があるにせよ…使えないはずだ!」

 

「分かりません…本当に蜃気楼のようにして…消えてしまったとしか…」

 

椅子に座り直した後、手で追い払う仕草をしてくる。

 

職員は所長室から出て行くが所長の表情は苛立ちに包まれている。

 

「なぜ脱出出来た…?魔法少女の力を発揮出来ない状態なら…内部で手引きした者がいるな」

 

女秘書のサキュバスを呼び出して原因調査に奔走させる。

 

数日が過ぎた頃、纏められた報告書をタブレット端末で確認していく。

 

「里見那由他を置き去りにする脱走など考えられなかった。やはり悪魔が関わっていたようだ」

 

「新入り悪魔達を召喚した時か…犬猿コンビを召喚した時に異物が混じっていたとしか…」

 

「…ここの魔法少女は皆、絶望死すら許されず、絶望したまま命を諦めるしかない」

 

「それとこの案件が関係あるのでしょうか…?」

 

「諦念に支配された者達を好む存在が魔界にいるのだ」

 

「魔界に潜むという、人間だった者達の残留意思…ホワイトメンの事ですか?」

 

「かの者達のいずれかが悪魔召喚の際に紛れ込み…研究所の中で息を潜めていたのやもしれん」

 

「ホワイトメンに気に入られて取り憑かれたと考えるべきでしょうか…氷室ラビは?」

 

「あれは諦念という概念存在だ。虚無的であり世界そのものの破滅を望む…自分も含めてな」

 

「あの存在は実体を持たないですけど次元と次元を流浪する存在です。まさか氷室ラビも…?」

 

「ホワイトメンは神出鬼没。我々の監視網に引っかかるまでは…身動きが出来んな」

 

これより先、氷室ラビは世界の各地で出現しては消え去っていくだろう。

 

彼女は諦念に支配された存在であり、終末時計の針が指し示す日を見届ける者となってしまう。

 

彼女が見届けるのは滅びゆく世界の刻なのだろうか?

 

それとも運命に抗う者達なのだろうか?

 

終末時計の針は午前0時を指し示すまで刻を刻み続けるのであった。

 

 

尚紀が見滝原市に訪れてから五日目を迎える土曜日に移る。

 

今日の彼は昨日の戦いでずぶ濡れになった仕事着をクリーニング店に持ち運ぶようだ。

 

「私服で張り込みをする事も想定しておいて良かったな…」

 

彼の下半身は魔法少女の虐殺者として動いていた姿と変わらず黒革ズボンにブーツ。

 

上着は黒のTシャツの上から白と青の線が入ったライダースジャケットを纏っている。

 

朝早くクリーニング店に持ち運んだ後、尚紀はホテルに帰っていく。

 

「まったく…何が俺のボディガードだ。昨日は放置されちまったよ」

 

ぶつくさ文句を言っていたら当の本人が待ち構えていたようだ。

 

「私の事を噂してたでしょ?」

 

愛車にもたれ込みながら腕を組んでいるのはナオミであり、尚紀は呆れた顔をしてくる。

 

「昨日は何処に行ってたんだ?化粧するのに一日かかったとか言うなよ?」

 

「ごめんなさい、間に合わなくて。昨日は散々だったのは…街の様子を見れば分かるわ」

 

商業区の火災は鎮火しているが爪痕はあまりにも深い。

 

火災が起きた地区は封鎖され、現在も復旧活動や救助活動で慌ただしい光景が続くのだ。

 

「昨日の私はね…神浜に急用が出来たせいで帰っていたのよ…」

 

「仕事を放り出しても優先しなければならない程のか?」

 

「ええ…私にとっては最重要なの。私がレイ・レイホゥを探してるのは知ってるでしょ?」

 

「まさか…何か情報を手に入れたのか?」

 

「私は稼いだお金で探偵を多く雇っているの。神浜で雇っていた探偵から情報が届いたの」

 

懐から写真を取り出して尚紀に見せてくる。

 

「こいつがレイ・レイホゥなのか…?後ろ側の景色は…南凪区のベイエリアだと思う」

 

「ついに尻尾を掴んだわ…この女が神浜市に出没すると突き止めただけでも大収穫よ」

 

「なら依頼をほったらかしにして、神浜に帰ってもいいんだぞ?獲物に逃げられるだろうが?」

 

「私もそれを悩んでるのよ…それでも私はビジネスウーマンなの、分かる?」

 

「…何が言いたいのか、なんとなく分かるぞ」

 

「さっさと見滝原での仕事を終わらせて神浜に帰りなさい」

 

(だったら俺の仕事も手伝ってくれよ…)

 

尚紀はホテルに帰っていき、室内では丈二が捜査会議の準備を終えている。

 

尚紀が得た情報を頼りにして捜査会議が続いていくが、状況は極めて厳しくなってしまう。

 

「やはり警察の協力は難しそうか…」

 

「あの病院は被害届を出す立場だ。美国織莉子を拉致してる証拠が無ければ動かない」

 

「だとしたら潜入捜査になるだろうが…今から始めるにしてもなぁ…」

 

「その線で調べてみたが仕事の募集はしていない。清掃員としてもぐりこめると思ったが…」

 

「職員から聞き込みをしたところで無駄だろうな…知っているかどうかさえ怪しいもんだ…」

 

「今のところは打つ手無しだな…有力な情報だが、誰から聞いたんだ?」

 

「俺と同じ悪魔だよ」

 

「だとしたら…あの病院は悪魔と関わりがあると考えるのが自然だろうな。だが、どうする?」

 

「俺達のような探偵に礼状はない。警察のように踏み込むわけにもいかないからな…」

 

重い沈黙が続く中、捜査機材を用いて病院周辺の張り込みを続けるしかないという結論となる。

 

昼飯は外食にするとホテルから出て行く尚紀であったが、その顔つきは決意を感じさせてくる。

 

「ヘルズエンジェルの言葉通りなら…時間をかけるほど美国織莉子の身が危険に晒される…」

 

俯いたまま立ち止まり、長い沈黙を続けたが顔を上げた彼の表情には決断が宿っている。

 

「…すまない、丈二。今回ばかりは正攻法じゃ救えない」

 

彼が思いついたのは軍隊が行うような人質救出作戦である。

 

武力を用いて敵陣に侵入し、敵を排除した上で人質を助けるという内容であろう。

 

それを民間人である尚紀が行うというのなら、もはや凶悪犯罪者でしかない。

 

「あの病院に多くの魔法少女が囚われているとしたら…俺独りで全員を救えるのか?」

 

人質救出任務とはチームワークが何よりも必要とされるだろう。

 

孤軍奮闘では人質にされた者達を盾にされて身動きが取れずに包囲されるだけなのだ。

 

「…仕方ない、ナオミに助けを頼んでみるか」

 

連絡先から彼女を呼び出して昼飯に誘う。

 

レストランの個室で話し合いが続き、犯罪ともいえる救出行為に参加を希望してくれたようだ。

 

「それでも…私と貴方の2人だけでは心許ないわね…」

 

「お前の仲魔をいっぺんに召喚して手伝わせる事は出来ないか?」

 

「デビルサマナーの悪魔召喚は術者のMAGを必要とするの。私でさえ一体召喚が限界なのよ」

 

「丈二はただの人間だしなぁ…後は……」

 

顔を俯ける彼が何を考えているのか察する事は出来るが、それでもナオミは提案してくる。

 

「この街の魔法少女の協力を得られないかしら?」

 

「やめてくれ、危険が大き過ぎる。昨日の夜に釘を刺してきたばかりなんだ」

 

「他にも頼れそうな存在がこの街にいるのかしら?」

 

「いや…それは……」

 

彼の脳裏に浮かんだのは同じ悪魔である暁美ほむらの存在であろう。

 

しかし彼女は鹿目まどかの周囲から動く事が出来ないのは聞かされている。

 

「いないのならば、選択肢はなくてよ」

 

「……そうするしか無さそうだ」

 

レストランから出て来た2人であったが尚紀の表情は重い。

 

(せっかく犯罪行為から足を洗えた杏子を…また汚れた世界に引き摺り込むのか…?)

 

断って欲しいと願いながら魔法少女達の魔力を探して行く。

 

今日は土曜日であり、中学生達は休日であろう。

 

「見つけたぞ、巴マミの魔力だ」

 

レストラン近くの繁華街に食料品を買いに訪れていたマミに声をかける。

 

事情を説明した上で断る自由を与えたが、マミは二つ返事で承諾してくれる。

 

「いいのか…巴マミ?正義の味方として生きるお前が犯罪行為に手を染めるんだぞ?」

 

「美国さんの命がかかっているし…選択の余地はないわ」

 

「顔がバレたら指名手配犯よ…それでもいいの?」

 

「怖い気持ちもある…それでも、美国さんの命を守れない方がよっぽど怖いのよ」

 

「協力に感謝する。頭部を隠せる目出し帽なら俺が買っておいてやるよ」

 

「まるでテロリストね…でも構わない、覚悟は出来たわ」

 

「他の魔法少女達とは連絡がとれそう?」

 

「ええ、任せて。作戦会議を行いたいのだけれど、私の家に来てくれるかしら?」

 

「オイオイ…彼氏でもない男の俺を連れ込む気か?カラオケボックスとかでいいだろ?」

 

「ダメよ。こういう作戦を練り上げる時は、美味しい紅茶を飲みながら考えたいものね♪」

 

「安心しなさい。レディの家に上がり込んで箪笥を漁る男だったら…私が懲らしめてあげる」

 

「誰がするか!?そんな変態行為!!」

 

マミから集合場所の住所を聞いた後、尚紀はスマホで調べておいたサバゲ―ショップに向かう。

 

暫くした頃、買い物を済ませた尚紀がマミのマンションに向かって行く。

 

「随分と立派なマンション暮らしだったんだな…あいつ…」

 

社会人の悪癖か、維持費の事を考えながらマミの家の階を目指す。

 

扉の前に立ち、チャイムを押そうとするようだが片手が持ち上がらない。

 

「参ったな…女の家に上がり込むなんて小学生の頃に千晶の家に遊びに行ったのが最後だぞ?」

 

恥じらいを見せていた時、家の中から扉を勢いよく開けられる。

 

「ゴハッ!?」

 

扉にぶつかり悶絶していると杏子が顔を出してくる。

 

「何ちんたらしてんだよ、尚紀。女の家に上がるのが恥ずかしいのか?」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

「つーかさ…あたしも女の子なんだけど?あたしの家に上がり込むのは平気だったのか~?」

 

遠回しに男扱いされていると感じた杏子が狂犬顔を浮かべてくる。

 

また殴られる前に素早く家の中に入っていく。

 

ショルダーバックを背負っていた尚紀は中を開けてファイルを取り出す。

 

机の上に置いていくのは3D地図を使う事が出来るアプリを用いて印刷した用紙であろう。

 

写されているのは航空から撮影したように写し出された佐藤精神科病院の全体像である。

 

「ここに織莉子が囚われてたのか…よし!刻みに行こう!!」

 

「馬鹿!暴れに行くんじゃないっつーの!美国を助けに行くだけ!」

 

「そういう小巻だって、暴れたそうな顔してるじゃん?」

 

「そ、それは…ケースバイケースよ。暴れる必要があったら別にいいでしょ?」

 

「やはりゴリラ女の力は禁じられないようだ。存分に暴れてくれたまえ」

 

「そのゴリラ女に張っ倒されたいの!!?」

 

喧嘩を始めるキリカと小巻をさやかと杏子が抑え込み、マミは咳き込んで沈黙を呼びかける。

 

「色々と調べてみた。最近この病院は山火事を受けたようだ」

 

「上空写真からでも分かるね…森が丸裸になっちゃってるよ」

 

「ここから侵入するのは難しい。この病院は地元で評判になるぐらい警備が尋常じゃない」

 

「何かを隠してる証拠だな。建前としては精神病患者の脱走を防ぐってところだろうよ」

 

「二手に分かれよう。俺が警備をしている連中を引き受ける」

 

「私達は別動隊になって病院内に潜入し、魔法少女達を捕らえている施設を探り出すね」

 

「上空写真から見て、不自然に大きい倉庫が見えるだろ?病院の資材倉庫規模じゃない」

 

「ここに入り込むのはいいけれど、脱出ルートの確保も必要ね。大勢が囚われてるのでしょ?」

 

「それに中がどうなってるのかも分からないし…魔法少女を捕らえられる何かがあるのかも?」

 

「あたし達も同じ末路になるって心配してるのか?」

 

「怖がってるわけじゃないよ!ただ、備えは必要だって言いたいだけ」

 

「随分と成長したな~さやか?昔のお前はもっとこう…猪突猛進だったぞ?」

 

「えっ?勿論ですとも!さやかちゃんの成長期は年中無休なのだ~!」

 

自分でもどうして冷静になれるのかは分からない表情を彼女は浮かべている。

 

たとえ記憶を奪われても彼女は円環のコトワリの使者。

 

コトワリ神と一つになったことで様々な経験値を手に入れられたのだろう。

 

「囚われの子達を搬送するバスが必要ね。私が手配してあげるし、運転も任せなさい」

 

「頼んだぞ、ナオミ。俺は先攻して様子を伺いながら連絡しよう。決行は今夜の0時とする」

 

「盛り上がってきた~!囚われ姫な織莉子を救出しに行く王子様な私…これだよコレ!!」

 

「班分けはどうするの?尚紀さん独りに警備員全部を任せるわけにも行かないわよ…」

 

「俺に任せろ。病院施設内には何が隠されているか分からないし、避難誘導員は多く必要だ」

 

「尚紀なら心配いらねーよ。本気のあたしを倒せるような奴なら…警備員共の方が心配さ」

 

「それじゃあ、私達は救出班として動く事にする。指揮は私が執らせてもらうわ」

 

作戦会議を終えた尚紀は使った資料を鞄の中に戻す中、マミは台所に顔を向ける。

 

「そろそろお湯が沸いたかしら?紅茶を淹れてくるから待っててね」

 

暫くした頃、紅茶を淹れて持ってきてくれるマミが戻ってきたようだ。

 

「へぇ…美味いじゃないか?」

 

「そうねぇ、これなら店に出してもいいぐらいだと思うわ」

 

「そ、そうですか…?大人達に喜んでもらえたのは初めてだから…嬉しいわ♪」

 

「マミさんは紅茶に詳しいだけじゃなくて、ケーキ作りも得意なんですよーっ!」

 

「ケーキですって!?」

 

さやかの一言で鼻息が荒くなるほど気合が入った表情を浮かべてしまうナオミ。

 

彼女が手を付けられない程の大食い娘である事を知っている尚紀はマミに振り向く。

 

「あ~…その、なんだ。ケーキはまた今度にしとけ…」

 

「えっ?どうしてなのかしら?」

 

<…冷蔵庫の中身を全部食いきられても、まだおかわりを言うような女だぞ?>

 

尚紀の念話が聞こえたマミの顔がみるみる青くなってしまう。

 

「そ、そうねぇ…?また今度にしちゃおうかしら…あは…ハハ……」

 

引きつった笑いを浮かべるマミに対してナオミは大きく肩を落とすのであった。

 

────────────────────────────────

 

行動を開始していくためにマンションから出て行く者達を見下ろす存在がいる。

 

隣ビルの屋上から地上を見下ろす者は魔法少女姿となった氷室ラビ。

 

ネイティブアメリカン等が付けるようなウォーボンネットを頭に纏い、風で羽根が揺れていく。

 

「あれが…守ろうとする者達なの?」

 

誰もいない場所で独りごとを喋るようにした態度をしてくる。

 

答えを返すようにして彼女の頭に直接声が響いてくるようだ。

 

<<あなたの原子が可能性に触れた>>

 

「あの人達が…終末時計の針を止めようとする者だと言いたいの?世界を守るために…」

 

<<守る事を選んだ将来は、より強大な守る力に飲み込まれる>>

 

「あなたが語った円環になった少女。魔法少女を守るために命を捧げた者は私を守れなかった」

 

<<忘れるな。人間の将来にあるのは世界の装置であるが故の絶望の荒野だ>>

 

「かつて希望を祈り、いつか絶望を撒く魔法少女を救いたい鹿目まどかの意思は叶わなかった」

 

悟りを得たようなその表情は何も感じないように微動だにしない。

 

大切な存在である里見那由他を救いに行って欲しいと哀願しに行く事さえしない。

 

全ては無価値だと言いたいかのように凍り付いた表情を浮かべるのみ。

 

<<いずれ万物は根源へと帰る時がくる。早いか遅いか…ただそれだけだ>>

 

「そう…私達は輪廻の元へと帰っていく。この世界の事象など、一時の花火に過ぎない」

 

<<悟りを得る旅路は続く。行きましょう、先の世界へ>>

 

「ええ、行きましょう。止まる事の無い…終末時計の針と共に…」

 

蜃気楼のように消えていく氷室ラビは魔法少女の域を超えて時間渡航者に成り果てている。

 

終末時計の針の流れのままに終わりの日を見届ける旅路の世界へと旅立った者なのだ。

 

氷室ラビの心を支配するものは諦念であり、彼女に取り憑いた存在こそ諦念そのもの。

 

彼女は既に自分の名前さえ意味を見いだせない者に成り果てている。

 

「私は傍観者。命の終わりという古き伝承に従い、世界の終わりを見届ける者」

 

――私はホワイトメン…世界の午前0時を見届ける…フォークロア(民間伝承)よ。

 




マギレコだけでなく、メガテンにも諦念勢力が存在しますのでクロスさせてみました。
キャラが増える一方…扱いきれるのか?(汗)
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