人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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163話 地獄の釜

日付が変わる午前0時。

 

離れた場所で待機しているナオミを残し、魔法少女達が動き出す。

 

病院の景色を魔法で生み出した双眼鏡で見つめる杏子の姿が夜闇の中に浮かぶ。

 

「山から攻めれば手薄だと思ったが…監視してる飛行船の影が見えるな」

 

木の枝に立って侵入ルートを模索している杏子に振り向くさやかの姿。

 

「病院裏側の森の中には、警備員は見える?」

 

「ああ、何人かいるようだ。手には物騒な銃を持ってやがる…日本じゃ手に入らないようなのだ」

 

「あの病院がただの精神病院じゃないという証拠よ。明らかに何かの秘密を守ってる…」

 

警備を務める存在に気づかれず中に入り込むのが望ましい。

 

そう考えたマミは、隣の木の枝に立つキリカと小巻に視線を向ける。

 

「呉さん、たしか貴女の固有魔法は速度低下だったわね?」

 

「その通り。私の固有魔法の結界を張り巡らせれば、飛行船はおろか警備員の速度も低下する」

 

「侵入にはうってつけの魔法ってわけね。上手く病院内に入り込めた後は…」

 

さやかは木の横で浮遊している悪魔に視線を向ける。

 

「え~と…あんたが道を見つけてくれるのよね?」

 

宙に浮いている存在とは、胴が細長い犬のように見える悪魔。

 

「オウ!オレノ主人カラ手助ケシロト言ワレタカラナ。任セテオケ」

 

【真神(マカミ)】

 

大口の真神とも呼ばれる聖なる山神であり、絶滅したニホンオオカミが神格化された存在。

 

狼は古くは田畑を荒らすニホンジカやイノシシを退治する農耕の守護神として崇められてきた。

 

時代が下り山野が開拓され、山と里が接するようになると狼は忌み嫌われるようになっていく。

 

人間や家畜を襲う事も起こり、西洋と同じく悪い象徴として認識され、狩り立てられていった。

 

マカミの神聖は地に堕ちたが、本来は人語を解し、人の性質を見分ける善なる存在であった。

 

「この悪魔がナオミの使役する犬悪魔の一体なんだろ?何が出来るんだよ?」

 

「オレハ性質ヲ見分ケタリ、構造ヲ把握出来ル。アノ病院ノ内部構造ガ知リタインダロ?」

 

「ナオミさんは私たちが迷わないよう、この子を託してくれたというわけね」

 

「シカシマァ、魔法少女ト悪魔ガ共二戦エルナンテ…何百年ブリダ?昔ヲ思イ出スゼ~」

 

「え?大昔の魔法少女達ももしかして、デビルサマナーをやってたりしたの?」

 

「アア、オ前ラカラモMAGヲ貰エルカラナ。共生関係ヲ築ケテキタンダヨ」

 

「なら、何でその関係が廃れて語られなくなったんだ?あたしはそんな話聞いた事もないよ」

 

「そうねぇ…私も長いこと魔法少女をやってるけど…初耳よ?」

 

悪魔と魔法少女の関係性に興味を持たれたようだが、マカミは項垂れてしまう。

 

「…オレタチ悪魔ハ、必ズシモ魔法少女ト上手クヤレタワケジャネェ。ソノ理由モ時期ニ分カル」

 

「どういう意味なのよ…それ?」

 

「…アノ施設ノ底カラ、魔法少女達ノ絶望ヲ感ジル。アレコソガ…関係性ガ壊レタ証ナンダヨ」

 

「魔法少女達の…絶望ですって?」

 

「チンタラシテナイデ行クゾ。手遅レニナル前ニナ」

 

皆は頷き、全員がキリカに視線を向ける。

 

「期待に応えてみせるよ!全ては織莉子のために!」

 

木の枝から飛び降り、両手を地につける着地。

 

同時に魔法陣を生み出し、固有魔法を展開させる姿。

 

「これでヨシ。行こうじゃないか!織莉子救出部隊の出撃だ!」

 

「みんな、静かに侵入するわよ。警備員を無力化させても定時連絡がなくなれば気づかれるわ」

 

魔法少女たちが行動を開始していく。

 

キリカの速度低下魔法の影響を受けた飛行船や警備員達は気づかない。

 

自分達の移動速度が低下していることに。

 

彼女の魔法は、悪魔の魔法で言えばスクンダに該当する。

 

敵の命中率や回避率を落とし込むバッドステータス魔法の一種であった。

 

息を殺しながら山に沿う森の中を進み、病院の敷地内に飛び込んでいく。

 

マカミが用いる構造把握能力である現場検証によって、防犯カメラの位置も把握済み。

 

彼の念話に従いながら、無事に病院倉庫前まで到着出来たようだ。

 

「なんだこれ…?扉が真っ二つになってるじゃねーか?」

 

「誰かがここに侵入した痕跡かしら…?」

 

「ついてるじゃん。あたしの斧で叩き壊す手間が省けるってものよ」

 

中に侵入すれば、そこに見えたのは奈落まで沈んでいける深き穴。

 

「これ…資材搬入用エレベーターよね?」

 

「なんてデカさだよ…これならトラックが何台も停車出来るじゃねーか」

 

「地上の病院は偽装…ここの本体は地下にあったというわけね…」

 

「早く飛び降りよう!こうしてる間にも織莉子の身に危険が迫るんだ!」

 

「待って!何処まで深いのか分からない…いくら私達でも数千メートル下までの着地は無理よ」

 

「なら、マミの出番ってわけだな。よろしく頼むぜ」

 

マミは手を翳し、複数のリボンを生み出し放出。

 

屋根の骨組みに巻き付いたリボンを使って皆が懸垂下降していく。

 

魔力で生み出され続けるリボンによって降下していき、下の景色が見えてくる。

 

「へっ!そこまで深くなかったようだな。これならリボンもいらなかったぐらいだよ」

 

杏子がリボンを放して飛び降りる着地行為。

 

続けて他の魔法少女達も飛び降りてきて、周囲を伺うのだが…。

 

「何よ…これ?物凄い爆発でも起きたわけ…?」

 

明かりに照らされた広大な空間は、まるで爆心地。

 

キョウジが残した爪痕は大きく、復旧作業ははかどっていないようだ。

 

「あたし達の他にもここに侵入した奴がいる。そいつが残した傷跡ってところだろうな」

 

「杏子の言う通りだと思う。あっちに見える扉も破壊されてるし」

 

「そいつに感謝しておこう。織莉子救出の役に立ってくれたんだからねぇ」

 

「感謝するのは早いわよ、呉。そいつの侵入が失敗したせいで、警備を固められたりもするわ」

 

「あ…そうか。感謝して損したよ…」

 

「ブツクサ言ッテナイデ行クゾ。ツイテ来イ」

 

キョウジが破壊した隔壁扉を超え、研究所内部に入っていく。

 

ここから先は、並の魔法少女では直視することも憚られる光景が続くだろう。

 

マカミが言った言葉の光景そのものが広がっていくだろう。

 

その時、魔法少女達は悪魔という存在をどう感じるのだろうか?

 

悪魔は魔法少女と共存できる存在か?

 

悪魔は魔法少女を虐殺するものに過ぎない存在か?

 

答えを示す道が今、始まっていったのだ。

 

────────────────────────────────

 

所長の私室では、今日の仕事を終えた所長が眠りについている。

 

壁にはモニターが設置されており、自動で光が点く。

 

「ヤブンオソクニシツレイシマス、ショチョウ」

 

機械音声が響き、モニターに映し出される存在。

 

地下研究所の管理を任されているAIによって形作られたのは、人の頭部を模した3D立体映像。

 

「…何用だ?」

 

ベットから上半身を起こし、モニターに向き直る。

 

「ケンチサレナイマリョクパターンヲカクニン、ガイテキガシンニュウシタモヨウデス」

 

目つきが変わり、布団を跳ね除けてベットから起き上がる。

 

着替え終えた所長は女秘書のサキュバスを所長室に呼び出す。

 

「侵入者ですか!?」

 

「そのようだ。上の警備は何の役にも立たなかったようだな」

 

「恐らくは、魔法の力を使われたのでしょうね。相手はまたデビルサマナーですか?」

 

「魔法少女共だ。悪魔を一体連れているようだがな」

 

「魔法少女…?飛んで火にいる夏の虫とはこのことですわね」

 

「クルースニクを向かわせろ。犬と猿には期待するな」

 

「分かりました、そのように手配いたします」

 

サキュバスが所長室から出て行こうとするが、扉を開けて入ってくる人物と出くわす。

 

「ヒィーヒッヒッヒ!侵入者ですと?私の研究成果を使ってください所長!」

 

頭が白髪になった中年研究者のようだが、ここで務められる研究者なら異常者なのは間違いない。

 

「上を警備させていた監視装置は役に立たなかったぞ。相手は魔法が使える、機械では分が悪い」

 

「監視しか出来ん無能な機械の時代は終わる!これからは戦闘ロボット兵器の時代です!!」

 

マッドサイエンティスト研究者が手に持つタブレット端末を見せようとしてくる。

 

所長は手を向けて制止させ、断る態度を示すようだ。

 

「ロボット兵器のプレゼンテーションは聞きたくない。論より証拠だ」

 

「勿論ですとも!出撃許可を頂けましたら、その性能が遺憾なく発揮されるでしょうな!」

 

「どうします…所長?」

 

腕を組んで考え込むが、静かに頷く。

 

「研究所に甚大な被害をもたらす爆発物を装備させなければ…構わん」

 

「ヒィーヒッヒッヒ!!そのお言葉が聞きたかったのです!!」

 

喜び勇んで所長室から出て行くマッドサイエンティストの後ろ姿。

 

見送るサキュバスは所長に振り返っていく。

 

「機械の力については半信半疑ですが、精神攻撃や毒などの状態異常は効かないのは利点ですね」

 

「電撃や素材に応じた属性攻撃に弱いだろうな。我々悪魔と同じく、一長一短なのだろう」

 

「人間は科学によって魔法の領域へと進む。ロボットもある意味、ヘブライのゴーレムですわね」

 

「物は試しだ。良好な戦闘結果が得られたのならば、軍産複合体連中に伝えておこう」

 

外敵を迎え撃つ構えを見せる地の底に君臨する者達。

 

侵入者である魔法少女達の激戦を暗示させる光景であった。

 

……………。

 

搬入した資材倉庫のコンテナの中に潜み、研究所の構造を把握していく魔法少女達の姿。

 

「どう…?そろそろこの研究所の全体像を把握出来そう?」

 

さやかの質問に対し、雷魔法の応用によって霊波を放出するマカミが答える。

 

「アア、大マカニハナ。オ前ラノ探シ人ガ囚ワレテイルノハ、独房区画ダ」

 

「そこに美国さんが囚われてるのね…恐らくは他の魔法少女達も」

 

「なら、ちんたらしてないで独房区画とやらに突入しようぜ」

 

「マテマテ、独房区画ハ強靭ナ外壁デ覆ワレテルシ、独房ノ扉ハ魔法少女デモ壊セナイゾ」

 

「ならどうすればいいのさ!?こんなことしてる時でも、織莉子は苦しんでるというのに…」

 

「独房ハ全テ電子ロックサレ、セキュリティAIデ管理サレテイル。ココヲ統括スルAIヲ狙エ」

 

「要は、それを派手にぶっ壊せば良いんでしょ?私の斧に任せなさいよ」

 

「この研究所を管理するセキュリティ区画は分かる?」

 

「把握済ミダ。行クゾ、ツイテ来イ」

 

コンテナの影から魔法少女達が出てきて走り抜ける。

 

巨大な資材倉庫を走っていた時、案内役のマカミが空中停止した。

 

「ど、どうしたのさ…?」

 

「…ドウヤラ、オレ達ガ入リ込ンデイタノニ気ヅカレタヨウダナ」

 

「なんですって!?」

 

倉庫と倉庫を繋ぐ隔壁扉が開いていく。

 

奥から現れてきたのは、人ならざる存在達。

 

「う…嘘でしょ?こんな連中…ゲームや漫画でしか見た事ない…」

 

「21世紀って…こんなにも文明が進んでたってわけね…」

 

その者達とは、機械人形ともいえるマシン。

 

【T93G】

 

93式機動歩兵Gタイプと呼ばれる対悪魔用兵器として開発されたマシン。

 

逆関節の二足歩行を採用したため安定性が低く、量産には至らなかったようだ。

 

白いボディの両椀にはマニピュレーターと機関銃を供える武装だ。

 

【T95D】

 

95式機動歩兵Dタイプと呼ばれる対悪魔用兵器として開発されたマシン。

 

四足歩行するロボットであり、重武装・多層構造装甲を併せ持つ巨体。

 

このタイプはボディの上に機関銃を二丁装備しているタイプのようだ。

 

【ビットボール 】

 

監視偵察用マシンであり、戦闘能力も備わっている浮遊する球体型兵器。

 

エコモーターで浮遊し、重要施設の警備を行う存在である。

 

<<ヒィーヒッヒッヒ!!>>

 

館内放送のように資材倉庫内に聞こえてきたのは、狂気の音声。

 

<<動いたぞ!動いたぞ!21世紀を形作る!新たなる労働力達が!!>>

 

「誰だよテメェ!?正体を現しやがれ!!」

 

<<出て来いと言われて出て行く馬鹿はおらん!私は研究者なのだ!!>>

 

「ビビりの研究者如きが用意した木偶の坊で!私達を止められると思ってんの!!」

 

<<マシンが魔法少女に負けるという()()()()()()()()!お前達の四肢を破壊してやろう!>>

 

「私達を達磨にして捕らえようというのね…卑怯者!出てきなさい!!」

 

<<ヒィーヒッヒッヒ!!イヤなこった!いけえ!ロボット軍団!!>>

 

マシンのカメラアイが悪魔の如く真紅に光る。

 

<<ターゲットヲカクニン。コレヨリ、コウゲキヲカイシスル>>

 

銃口を向けてくるマシン達に対し、小巻が前に出る。

 

「私を馬鹿力だけの女だとは思わないことね!」

 

魔法武器であるポールアックスを振り上げる。

 

この斧は小さな四角い十字盾と合体した見た目なのだが、盾が見当たらない。

 

マシンロボ達から繰り出される銃撃の雨。

 

それを防いだのは、彼女達の前に出現した巨大な盾。

 

「小巻さんのあの武器…魔法の盾と一体化してたってわけね!」

 

「呉ッッ!!」

 

「言われなくても分かってるって!」

 

速度低下魔法を発動させる。

 

銃撃速度が低下し、発射速度と弾速が落ちていく。

 

この隙を見逃す魔法少女達ではない。

 

小巻が生み出した大盾の左右と上から飛び出すのは、さやかと杏子とマミ。

 

速度が低下した銃弾を斬り払いながら進み、さやかが切り込む。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

人型から先に狙い、次々と切り捨てていく。

 

「援護するわ美樹さん!!」

 

上空を跳躍したマミは複数のマスケット銃を生み出し、援護射撃。

 

白い装甲版で覆われた隙間に弾が撃ち込まれ、内側からリボンが飛び出す。

 

「レガーレ・ヴァスターリア!!」

 

リボンによって拘束されたマシンを切り捨てていくさやかの姿。

 

離れた位置から機関銃の腕を構えるマシンに対し、顔も向けずに反応を示す。

 

剣の刃を相手に向け、鍔の下側に見える引き金を引く。

 

刃が射出され、マシンのカメラアイを貫通する程の威力を示す。

 

「あたしの剣が斬るだけしか能がないとでも思ったわけ?甘い甘い♪」

 

射出し終えた剣の柄を投げ捨て、魔力で新しい剣を生み出しマシンと戦っていく。

 

マシンはAI制御されているようだが、この時代のAI技術ではまだ人の反応速度は超えられない。

 

鈍足な動きで狙いをつけているようでは、さやかとマミの敵ではない。

 

しかし、装甲材質によって防御を固め、愚鈍な動きのまま攻めることなら出来る。

 

「かてぇぇーーッッ!!!」

 

四脚型のマシンに一撃を叩きこむのだが、弾かれる杏子の槍。

 

「カチカチじゃねーか!あたしの槍でも切り裂けなかった!」

 

複合装甲で覆われたマシンが愚鈍に動き、機関銃で狙いを定める。

 

「チッ!!」

 

側転しながらの回避行動。

 

跳躍し、狙いを定める槍の一撃。

 

「カメラの部分は脆そうかもな!」

 

投げられた槍の一撃がカメラアイを貫き、一機が沈黙。

 

「どいてなさいよ、あんた達!!」

 

小巻の声が木霊する。

 

跳躍して現れた彼女が、巨大なポールアックスを振り上げる。

 

「うらぁぁーーーッッ!!!」

 

まるでスイカ割りの如く装甲で覆われた四脚型マシンが両断される光景。

 

「スピードしか能がない魔法少女だとは思わないでもらおうか!」

 

同じく跳躍して現れたキリカの姿。

 

手が隠れて見えないほど長い袖の中から飛び出すのは、繋ぎ合わされた三日月鎌の鞭。

 

「ヴァンパイアファング!!」

 

叩きつけるように振り下ろされた一撃によって、数機が纏めて両断された。

 

「あの固い連中は呉さんと浅古さんに任せていいわ!私は空を飛び交うマシンを狙う!」

 

「そっちは任せたぞマミ!!」

 

「見滝原魔法少女組を舐めんじゃないわよーッッ!!!」

 

次々と倒されていくロボット軍団の光景をセキュリティルームから眺める存在。

 

マッドサイエンティストは苛立ちを募らせパネルを叩き、マイクに向かって叫ぶのだ。

 

<<何をやっている!?そんなコスプレテロリスト如きに後れを取るな!!>>

 

「うっ…!恥ずかしいプロレスマスク被ってるの忘れてたのに!」

 

「妙なところで乙女の恥じらいを見せるよね~小巻ってさ?魔法少女衣装も恥ずかしがってたし」

 

「五月蠅いわね呉!私だってこう見えて、女の子なんだから!」

 

「そのゴリラな暴れっぷりを見せられたら、嫁の貰い手が無くなるかもね~♪」

 

冗談を言い合いながらも、キリカと小巻の連携は息がピッタリ合う。

 

織莉子の為に魔獣と戦い続けたこともあり、3人組で戦うよりも長く2人で戦ってきた間柄だ。

 

「フフッ♪呉さんと浅古さんの関係を見ていると、佐倉さんと美樹さんに見えてくるわね」

 

自分が織莉子ポジションかと考えていた時、違う隔壁扉が開く音に振り向く。

 

<<私のロボット軍団に敗北は許されん!数で攻めれば負けはしない!!>>

 

次々と現れるロボット軍団の銃撃の雨に対し、リボンを張り巡らせる防御結界を敷く。

 

「物量で攻めて来るわ!大型のロボットが入り込めない場所にまで行きましょう!」

 

「地の利を生かして個別に撃破か!仕方ねぇな!!」

 

「ちょっとマカミ!何処に隠れてるわけさ!?何処かいい場所ないわけ!」

 

キョロキョロ辺りを見回すと、コンテナの隙間からところてんのように伸び出る犬神の姿。

 

「ジョ…状況判断トイウモノダ!オマエラニ任セタラ大丈夫カト思ッテナ!」

 

浮遊しながら強がるが、怯えたように尻尾がくるりと丸まっている。

 

<コイツ…ビビりな悪魔だったわけ?>

 

<悪魔って連中も個体差があるようだなぁ…>

 

念話を用いて疑念を浮かべながらも、マカミの誘導に従い倉庫区画から移動を開始。

 

<<逃がすな!!包囲して殲滅しろ!!人間の警備員共もさっさと向かいたまえ!!>>

 

防御を得意とする小巻をしんがりとして研究所を駆け巡る魔法少女達。

 

いつしか彼女達は施設の奥深くにまで入り込む。

 

そこで見る事になるだろう。

 

悪魔達が魔法少女に対して…どんな惨い仕打ちをここで続けてきたのかを。

 

────────────────────────────────

 

鋼鉄の血管内かと思わせる程の巨大な地下施設空間を駆け巡る魔法少女達。

 

鈍重なマシンよりも、人間の警備員達の方が小回りも効き反応力も高いため苦戦を強いられる。

 

「いたぞーーッッ!!!」

 

武装した警備員達から浴びせられる銃弾の雨。

 

キリカは常に速度低下魔法を展開させ、魔法少女達を援護し続ける。

 

彼女の奮戦もあり、銃弾の猛火を斬り払いながらみねうちで敵を昏倒させていく。

 

マミもリボン拘束を用いて戦うが、キリカの方に心配した表情を向けてくるのだ。

 

「呉さん!いくら何でも魔力の使い過ぎよ!」

 

「そうだよ!そんなハイペースじゃ最後まで保たないよ!」

 

心配そうにしてくれる皆を見るが、キリカは笑顔となり背中を向ける。

 

「問題ない。私の腰元にあるソウルジェムを見てみなよ」

 

「嘘だろ…?魔力を消耗したのに濁ってねーじゃねーか?」

 

「呉だけじゃないわ。防御魔法を使い続けてる私のソウルジェムも綺麗なままよ」

 

「どういうことなのかしら…?」

 

敵の猛攻が沈静化したためか、魔法少女達は向かい合って話し合う。

 

「…オ前達ニハ見エナイヨウダナ」

 

「何が見えないっていうのさ?」

 

「コノ研究所内ニハナ、小サナ悪魔共ガワンサカイルンダヨ。空気中ニ漂ウ微生物レベルノナ」

 

「その微生物レベルの悪魔が…私達のソウルジェムを綺麗にしてくれてるわけ?」

 

「魔法少女ハ感情エネルギーデアルMAGを練リ上ゲルコトガ出来ル」

 

「もしかして、そのMAGっていうのは…私達の魔力行使や感情の曇りで生まれる穢れのこと?」

 

「ソノ通リ。オ前達ガ魔力ヲ使ウホド穢レタMAGガ溜マル。悪魔ハMAGヲ吸イ出シテ喰エル」

 

「つまり…あんた達がいてくれたら、あたし達は魔力切れを起こすこともなくなるわけ!?」

 

「スゲーじゃねーか!?あたし達…もう戦わなくても済むぞ!!」

 

「そうね…魔力切れの心配が無くなる以上、魔法少女が戦う理由も無い。でも、変ね…?」

 

「何が変なんですか、マミさん?」

 

「それ程の恩恵を与えてもらえるというのに…どうして太古の魔法少女達は悪魔を遠ざけたの?」

 

マミの言葉に対し、マカミは顔を背ける。

 

「…ソノ答エナラ、コノ先ニアルダロウ」

 

「この先に…?」

 

視線を向けた先には、隔壁扉が見える。

 

狼の神格化であるマカミの鼻は誤魔化せない。

 

この先から漂う…死臭の臭いを。

 

「コノ先ノ光景ヲ見タ上デ…マダ悪魔ノオレ二付キ従ウ気ニナルカ…見物ダナ」

 

マカミに促され、魔法少女達は先を進んで行く。

 

隔壁扉を開けた先とは…廃棄物処理区画。

 

「ぐっ!?」

 

「なんて酷い臭いだよ!!?」

 

全員が顔をしかめてしまう程の強烈な腐敗ガスが充満した施設。

 

眼前を見れば、焼却機械に放り込まれるのを待っているかのような…腐肉の海。

 

「見ロ、地獄ノ光景ヲ。円環ノコトワリニ導カレルコトモ出来ズニ腐リ果テタ…哀レナ者達ヲ」

 

巨大なゴミピット内に捨てられていたのは…体が欠損した魔法少女達の遺体。

 

「ヒィ!!?」

 

「キャーー!!?」

 

「う…嘘だろ…こんな…こんな酷過ぎる光景!!?」

 

今まで様々な凄惨な光景を見てきた魔法少女達であるが、これ程までの地獄絵図は見た事ない。

 

研究に使う臓器を抜き取られ、食肉に使う肉付きのいい部分を切り取られた遺体の数々。

 

死体は腐敗して全身が黒ずみ、液状化してピット内を悪臭の泉に変えていた。

 

「…コノ光景コソガ、我々悪魔ト魔法少女達トノ共存関係ヲ破壊シタ光景ナノサ」

 

「どういう意味だよ!?」

 

「悪魔ハ強欲ダ。ソウルジェムカラ少量ノMAGヲ提供シテモラウ程度デハ…()()()()()()()()

 

「まさか…あんた達悪魔は…ソウルジェムを…!?」

 

「…ソウダトモ。オレ達悪魔ハナ、オ前達ノソウルジェムヲ…()()()()()

 

――爆発的ナ負ノ感情エネルギーヲ生ミ出セル…ソウルジェムヲ喰ライタイ。

 

…絶句した魔法少女達。

 

さやかと杏子は武器をマカミに向けて構えてくる。

 

「あんた…あたし達を騙そうとしてたのね!?」

 

「こんな場所に連れ込んできたのは…罠だったのかよ!?」

 

キリカと小巻も彼女達に続く。

 

「織莉子を救出する手助けなんて嘘だ!この悪魔は…私達と織莉子を喰らいたいだけなんだ!」

 

「何が悪魔と魔法少女の共存関係よ!あんた達は魔法少女に近づいて…魂を喰らいたいだけよ!」

 

恐怖心と猜疑心によって混乱し、浮足立つ姿を見せていく。

 

「ハッ!昔ヲ思イ出スゾ!太古ノ魔法少女達モ…今ノオ前ラト同ジ顔ヲシテ、()()()()()()()!」

 

強がった態度を見せるマカミだが、殺される覚悟で震えている。

 

脳裏に浮かぶのは、冤罪の如き光景。

 

太古の魔法少女達から悪魔狩り被害を受け、狩られていった仲魔達の凄惨な光景だった。

 

一瞬即発の空気を破ったのは、一発の銃声。

 

「マミさん…?」

 

マスケット銃を上に向けて撃ち放ち、冷徹な表情を仲間達に向けてくる。

 

「今がどういう状況なのか分からないの?仲間割れをしている場合ではないわ」

 

「だ、だけどマミ!この悪魔は…何を企んでるのか分からねぇ!」

 

「そうだよ恩人!こんな奴を連れてたんじゃ…織莉子の身に危険が迫る!」

 

「それでも信じてついていけって言うの…巴!?」

 

苛立ちを向けてくる仲間に向けて、厳しい表情を返す姿。

 

「この子を信用出来る保証はない。それでも、今の私達は彼のナビがなければ包囲殲滅されるわ」

 

「悪魔なんて信用するっていうんですか!?」

 

「その悪魔である嘉嶋さんから、生活費を送ってもらえているのは誰?」

 

「えっと、それは……」

 

「悪魔である嘉嶋さんがATM犯罪の罪を代わりに被ってくれて、救われた子は誰なの?」

 

「それは…その……」

 

「一時の感情に惑わされないで。疑いたくなる気持ちも分かる…それでも、私は信じてみる」

 

――他所の家の問題に対して薄情だった私でも、先はあるのだと信じてくれた嘉嶋さんのように。

 

冷静なマミに論され、俯いていく魔法少女達。

 

誰かの客観的な視点が無ければ、それこそ仲間割れが起きていただろう。

 

己の選択に向ける自己批判の大切さが伺える光景だ。

 

「…アンタノヨウナ冷静ナ魔法少女バカリダッタナラ、共生関係モ続ケラレタダロウニ」

 

口惜しい表情をしていた時、腐海に目を向ける。

 

「…気ヲツケロ、魔法少女達」

 

「えっ…?どうしたのよ…?」

 

「コノ研究所ノ微生物悪魔共ガ…ソウルジェムソノモノヲ喰ライタガッテイル」

 

「なんですって!?」

 

魔法少女達も腐海に目を向ける。

 

…それはあまりにもおぞましい光景。

 

腐海で横たわる遺体という名の抜け殻に宿っていくのは、マニトゥの一部達。

 

無数に存在する一つ一つがマニトゥであり悪霊。

 

悪霊に憑りつかれた腐った遺体が…無数に動き出す。

 

「あ…あぁ……」

 

顔面蒼白になり、冷や汗が噴き出す少女達。

 

ゴミピット内から這い出してきたのは、魔法少女の遺体に宿ったアンデット達だった。

 

【トルソー】

 

イタリア語で木の幹や人間の胴体部分を指す言葉。

 

転じて胴体部のみを造形した彫刻やマネキンを指すこともある存在。

 

この言葉はバラバラ殺人の亡骸の隠語に用いられる事もあったという。

 

爆発やバラバラ殺人で死んだ遺体を表す際にも使われ、死んだ犠牲者の無念の形でもあった。

 

「グッ…ゴガッ…ソウ…ル……ソウ…ル……」

 

腐肉の手足は欠けており、腹は開かれたまま内臓を垂れ流し這ってくる存在。

 

マニトゥのキャリア達は既に飽きていた。

 

ソウルジェムに寄生して、少量のMAGを吸い出して運ぶ行為に。

 

「ク…ワ…セロ……ソウ…ル……ジェ…ム……」

 

肉体に宿り、ソウルジェムを喰らい、内側で破裂して放出された負の感情エネルギーが欲しい。

 

地獄から這い出してきた存在達の怨念の意思が迫ってくる光景。

 

「どいてろ!!」

 

血相変えて前に出たのは杏子。

 

頭に被っていた目出し帽を脱ぎ捨てた顔は…やりきれない表情を浮かべる。

 

「あんた!なんでマスクを脱ぐのさ!?どこで顔を記録されるか分からないのに!」

 

「構わねぇ!!惨い姿に変えられた死者達を弔うんだ…行儀の悪い姿は見せられねぇ!」

 

片膝をつき、祈りを捧げる構え。

 

まるでその姿は、死してなお彷徨う者達に祈りを捧げるシスターにも見える。

 

「なんて姿にされちまったんだよ…お前ら……」

 

杏子のソウルジェムが赤く輝きだす。

 

「神様に見捨てられた上に…円環のコトワリに導かれることさえ…出来なかったなんて…」

 

何をやるのか一瞬で判断出来たさやかが叫ぶ。

 

「みんな!!この部屋から出て!!」

 

「どういうことなの美樹さん!?」

 

「杏子は…大技を放つつもりだよ!あたし達まで焼け死んじゃう!!」

 

状況を理解したマミは、キリカと小巻にも目線を向け、彼女達も頷く。

 

4人と一体の悪魔は廃棄物処理区画から奥へと移動していく。

 

残された空間の頭上には、刃を下に向けて構えられた無数の槍が浮かぶ光景。

 

「イエスは言われた…私は蘇りです、命です。私を信じる者は死んでも生きるのです」

 

槍の刃が左右に開き、浄化の炎を放出。

 

「あたしに出来るのは…弔われた遺体が、いつか違う形で蘇る日がくる事を…祈ってやるだけだ」

 

決意を秘めた表情。

 

無数の槍が巨大な業火となりて地上に降り注ぐ。

 

「盟神抉槍(くがたち)!!!」

 

彼女が放ったのは、一つ一つが彼女の最大威力のマギア魔法に匹敵する威力。

 

これ程までの乱暴な魔力行使は通常なら耐えられないが、この研究所内ならば出来る。

 

杏子のソウルジェムに寄生した他のキャリア共が無尽蔵の魔力を提供してくれるのだ。

 

<<ソ…ウ…ル…ジェ…ム……!!!>>

 

隔壁扉が下りた向こう側から離れていても感じさせる大豪熱。

 

扉も熱に耐え切れずに赤く変形していくが、どうにか奥の通路にまでは炎を届かせない。

 

「なんて…威力なのよ」

 

「考えなしにあんな魔法を使うだなんて…私よりもおっかない奴だったんだね…」

 

「フン、あんただって…キレたら何しでかすか分からない怖さを感じてたわよ…呉」

 

「フフッ、八重歯を伸ばす魔法少女は恐ろしいってところで納得しなよ、小巻」

 

変形して開かなくなった扉が袈裟斬りで切り裂かれる。

 

「……弔いは終わったの、杏子?」

 

俯いたまま歩いてきたのは、膨大な魔力行使に耐えきった杏子の姿。

 

「ああ…あれだけ燃やしてやれば、もう眠れるさ。ついでにクソッタレ廃棄場も破壊してやった」

 

「行きましょう、みんな。ここに囚われた魔法少女を救い出す…もう悲劇は繰り返させない!」

 

決意を込めて駆け抜けていく魔法少女達。

 

目指すは独房区画のセキュリティを解除するために破壊しにいくセキュリティ区画。

 

恐れも無く突き進む彼女達だが、この先にいる者の気配を感じているのはマカミだ。

 

(コノ匂イ…悪魔ナノハ確カダガ、善ナル存在ノヨウニモ感ジサセルナ…?)

 

ようやく研究者たちが活動する区画内に入り込む魔法少女達。

 

自動扉が開く。

 

広がっていた光景とは…宮殿の回廊のような光景が広がっていた。

 

────────────────────────────────

 

「コノ辺リガ幹部区画ダ。セキュリティ区画モ直グソコダ」

 

「悪趣味な光景の次はブルジョア光景…。何処までも支配者気取りの連中なんだね」

 

「油断しないで。何が飛び出してくるか分からないわ」

 

宮殿の如き回廊を警戒しながら進んで行く。

 

飾られた大きな窓には屋外景色を映し出す映像が映っている。

 

周囲を飾るのは悪趣味な絵画の数々。

 

そして…ドレスで着飾った少女達の蝋人形だ。

 

「ブルジョア空間内にまで悪趣味なもんを飾るなんて…とことんイカれてる連中ね」

 

「私の鎌で早く刻んでやりたいけど…不気味な人形だね。まるで…()()()()()()()()()よ」

 

回廊を進んで行くと、両開きの扉が開く音が響く。

 

「あの人は…?」

 

俯いたまま回廊まで出て来たのは、真白い剣士。

 

白いスーツズボンと白いトレンチコートを纏い、白銀のロングソードが納められた鞘を持つ姿。

 

「…スゲー魔力だ。あれも人型の悪魔なんだろうな…尚紀のように」

 

魔法少女達とは離れた場所に立ち、立ち塞がってくる。

 

「あんたもあたし達の邪魔をしようっていうの!?」

 

黒い長髪を後ろで括った男は、顔も上げずに答えない態度。

 

「無視しようってのなら…しょうがないわね」

 

「見た目は整ってる悪魔だけど、織莉子のためなら容赦なく刻むよ」

 

接近戦の武器を持つ魔法少女達が前に出る。

 

後ろからマスケット銃を構えて援護しようとするマミだが、横で浮かぶマカミの異変に気付く。

 

「どうしたの…?」

 

宙に浮かぶマカミの体は震え上がっている。

 

「嘘ダロ…?アノ白イ剣士ノ姿ハ……伝説ノヴァンパイアハンター……」

 

マカミが言葉を喋り終えるよりも先に鳴ったのは、剣の鍔を親指で弾く音。

 

「えっ……?」

 

一迅の風が吹き抜ける。

 

「消えた……?」

 

前方空間からいなくなった存在だが、背後の気配を感じて皆が振り向く。

 

抜刀して剣を振り抜いた後ろ姿を見せる白き剣士。

 

血払いを行い、柄を回転させる回転納刀。

 

「あ…あれ…?」

 

鍔の鳴る音が響くと同時に、魔法少女達の覆面マスクが切り裂かれ、布切れが落ちていく。

 

「ガッ…アッ…ア………」

 

皆がマカミに目を向ける。

 

体には無数の斬撃の痕が浮かび、血が噴き出す。

 

「マカミ!?」

 

「スマ…ネェ…オレ…ハ……ココマデ…ダ……」

 

体がバラバラとなって弾け、MAGの光と化す。

 

一瞬で起きた斬撃現象。

 

悪魔の中でも達人級の剣技を持つ悪魔が使えるという『刹那五月雨斬り』の一撃だ。

 

「グッ…ウゥ…!道先…案内人は…始末…した…ぞ……」

 

後ろを振り向く白い剣士。

 

彼の表情を見た魔法少女達は戦慄する。

 

美しく整ったその顔は、血管が浮き上がる程にまで血走っている鬼の形相。

 

両目も獰猛な悪魔を象徴する真紅の瞳を輝かせていた。

 

<<驚いた。まさか…この区画まで入って来られるとはな?賞賛に値するぞ>>

 

幹部区画に響くのは、この地下研究所の支配者である所長の声。

 

「あんたがここのボスなの!?出てきなさいよ!!」

 

<<その者を倒せたならば、考えてやる。君達が相手をしているのは、伝説の吸血鬼狩人だ>>

 

「吸血鬼狩人だと…?」

 

<<名はクルースニク。闇の吸血鬼と戦う宿命にある…善なる吸血鬼狩人だ>>

 

「そのクルースニクは…正義の味方をしている悪魔なの?嘉嶋さんのように…?」

 

<<彼を懐柔させるのに、私の秘書も苦労した。洗脳魔法を駆使しても…未だに抵抗してくる>>

 

「ガッ…アァ……アァァァァーーーッッ!!!」

 

頭を抑え込み、片膝をつき苦しみだすクルースニクの姿。

 

<<見ての通り、彼の精神耐性は強力だ。だからこそ、私の秘書も洗脳に加減が効かなかった>>

 

幽鬼のように揺らめき、立ち上がっていく…白き狂気を纏う剣士。

 

<<今の彼は純粋なる狂戦士。最初の一撃で死ねなかったことを後悔するだろう>>

 

剣を抜き、構える。

 

その表情は正気を失いかけているかのように苦しみ悶える。

 

「……マミさん、小巻さん、キリカ。ここはあたし達に任せて」

 

前に進み出たのはさやかと杏子。

 

「お前らは、どうにかしてセキュリティ区画を見つけ出せ。こいつは抑え込んでおくよ」

 

「貴女達だけで勝てるというの!?さっきの一撃…私でさえ動きが見えなかったわ!」

 

「そうだよ君達!私の速度低下魔法なら援護出来る!!」

 

「防御魔法だってそこまで得意じゃないんでしょ…あんた達!?」

 

「不利なことぐらい分かってる…。それでも、一刻も早く囚われた魔法少女達を救いたい」

 

「もうあんな…胸糞悪い光景は見たくないからな」

 

さやかは剣を正眼に構える。

 

杏子は左足を前に出し、左前半身で槍を構えた。

 

「Grrrrrrrr!!!!」

 

歯を剥き出しにした野獣の如き表情。

 

それでもクルースニクの体には剣豪の如き剣術が染みつき、刃を振るえるだろう。

 

「行って!!!」

 

「あたし達を信じろ!!」

 

「美樹さん…佐倉さん…ごめんなさい!!」

 

マミはキリカと小巻を連れ、回廊の奥へと駆けていく姿。

 

<<逃がさんよ。いずれ君達も…愚かな2人組の後を追うだろう>>

 

回廊を走り続けるが、周囲から魔力を感じとる。

 

「これは!!?」

 

回廊に飾られていた蝋人形達が振動していく。

 

ギクシャクした動きで前に進み、蝋が剥げ落ちていく。

 

「な…何なんだよ!?この化け物!!」

 

「さっきと同じ…アンデットなの!?」

 

【ワックスワーク】

 

人体解剖の標本にされるはずだった女性の死体に対し、蝋細工を用いた防腐処理を施したもの。

 

内側の死体は経年劣化で腐り果て、部分的に腐敗し骨が覗いてしまっている。

 

欧米ではキリスト教の最後の審判での復活思想の影響で、亡骸を残す復活思想が根強い。

 

遺体に消毒・保存処理を施し、必要に応じて修復し、長期保存が出来る技法が研究されてきた。

 

エンバーミングの技術はそういう背景で発達してきたようだ。

 

<<私が仕込んでおいた悪霊達は、私の命令があれば動き出し、敵を滅ぼす人形と化す>>

 

動き出す歩く死体は、先程と同じく魔法少女達の遺体。

 

頭部や手足の蝋が歩く振動で剥がれ落ち、腐った腐肉と骨を剥き出しにして迫ってくる。

 

<<この死体はな、私が気に入った美しい魔法少女達の死体だ。コレクションでもある>>

 

少女達の尊厳を踏み躙る悪魔の言葉。

 

マミとキリカと小巻の表情が憤怒と化す。

 

「このドクズがッ!!」

 

「こんなにも頭にきたの…生まれて初めてよ!!あんただけは絶対に許してやらない!!」

 

「私たち魔法少女を弄んだ罪…魔法少女である私達があなたに罰を下してみせるわ!!」

 

<<楽しみだ。私はセキュリティルームにいる…ここまで辿り着いてみせろ>>

 

「グッ…ゴガッ……グガァァァーーッ!!!」

 

迫りくるアンデットの群れに対し、慈悲とも言える供養の一撃が次々と繰り出されていくだろう。

 

彼女達もかつては希望を祈った魔法少女達。

 

魔女と呼ばれる世界においては、その成れの果てとなった者達。

 

その者達を殺さねばならない苦しみは、魔女と呼ばれる存在と戦った時の苦しみの再現。

 

それでもマミ達は迷わない。

 

これ以上の悲劇を繰り返させないためにも。

 

地獄の底では、イキの良い魔法少女達のMAGを欲するおぞましい赤子の胎動。

 

独房では、仲間達の魔力を感じ取った織莉子の希望に満ちた表情。

 

それぞれの戦いが始まっていく。

 

地獄の釜の蓋は開いた。

 

後は地獄の悪魔共を呵責(かしゃく)するのみ。

 




バイオハザードの地下研究所をイメージして書いてたら、ゾンビ悪魔祭りになってしまった(汗)
これもプラズマの仕業か。
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