人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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167話 見滝原出立

11月も終わりを迎えそうな頃の日曜日、ホテルに戻った尚紀が丈二に説明していく。

 

車を運転しながら考えていた言い訳とは、かつての仲魔と連絡が取れたという内容だろう。

 

「それで…こいつらも悪魔なのか?」

 

悪魔の事を知っている丈二に紹介するのは後ろに控えている者達である。

 

「オイオイ!?丈二じゃねーか!」

 

「まさか…こちらの世界でも出会う事になるとはな…」

 

「な、なんだ?お前ら俺の事を知っているのか…?」

 

ワン!(ヤレヤレ、尚紀ハトコトンコノ男ト縁ガアルヨウダ)

 

<かつての世界の丈二じゃない。俺達が覚えていても、コイツはボルテクス界を覚えていない>

 

尚紀の念話に促された仲魔達は納得した表情を浮かべてくれる。

 

彼らもボルテクス界を彷徨った聖丈二という存在の真実を知っている者達のようだ。

 

「あ~…その、なんだ。似たような奴を知ってるが…人違いのようだ」

 

「そうだな…同じなようでいて、違ったようだ」

 

「要領を得ない連中だな…?まぁいい、ところで尚紀」

 

「どうした?」

 

「朝方に依頼人の小巻ちゃんから連絡がきた。探し人が帰ってきたそうだ」

 

「そうなのか…?見つかったなら良かったよ」

 

当事者であるが知らぬ素振りを尚紀は行う。

 

織莉子を救う為にテロリストの所業を行ったなど言える事情ではないのだ。

 

「しかしまぁ…今日のニュースを見たか?」

 

「ああ…佐藤精神科病院があった場所が大規模な地崩れをしたそうじゃないか?」

 

「地震があったわけでも雨が降り続いたわけでもないのにだぞ?おかしな話だな」

 

「…そうだな。もしあそこに入院したままだったら、今頃どうなっていたことやら…」

 

「親族が来て色々手続きに奔走するそうだ。復学したり病院の手続きもあるだろう」

 

「俺達の仕事は終わりだな。行方不明者発見に繋がらなかったから成功報酬は期待出来ないが」

 

「それがな、気前よく払ってくれるそうだ。世話になった礼だってよ」

 

「有難い話だ。なら帰り支度を始めないとなぁ」

 

「そこまで機材は持ってきていないから俺がやっておくよ。そいつらの面倒があるんだろ?」

 

「そうか…悪いな、丈二」

 

「帰りは夜になってからにしよう。それまでは…義妹との時間を大切にしてやれよ」

 

ホテルから出て来た一行を出迎えたのはナオミであり、彼女も次の仕事が控えている。

 

「世話になったな、ナオミ。ボディガード以上の働きをしてくれたよ」

 

「私は早く神浜に戻りたかっただけよ。貴方の仕事をさっさと終わらせて欲しかったしね」

 

「お前にはお前の目的があったな。今夜には見滝原から帰る予定だ」

 

「私もそれに合わせて帰るわ。神浜に戻ってからは暫く…独自行動をさせてもらうから」

 

「そうしてくれ。復讐に生き、復讐を果たした経験を持つ俺がお前を止める事はない」

 

「ありがとう。それよりも…あの子達、これからどうなるのかしら?」

 

「…言いたい事は分かる。その辺を踏まえて、あいつらのところに顔を出してくる」

 

「任せるわ。私の仕事は貴方のボディガードであって、あの子達の面倒じゃないもの」

 

ナオミと別れた一行はマミの家を目指す。

 

昨日の帰り際に連絡先を教えてくれたため先に確認をとっていたようだ。

 

これからの事を相談し合うため他の魔法少女達も集まるという。

 

「このマンションとやらに魔法少女がいるのか?」

 

「ああ、ケルベロスはここで待ってろ。このマンションはペット持ち込み禁止物件だ」

 

「ムゥ…人間社会ハ面倒事ダラケダナ。致シ方ナイ」

 

入り口近くで座り込んで主の帰りを待つケルベロスを残した3人は上の階に移動する。

 

「マミは一人暮らしだから家の連中を気にする必要はないが…」

 

「言いたい事なら分かるぞ。このスケベ猿が粗相を起こさないか心配なのだろう?」

 

「ハァ!?俺様が小娘相手に何しようって言うんだよ!!」

 

「女子の家に上がり込んで箪笥を漁ったりとか?」

 

「んなことするかぁ!!どういう目で俺様の事を見てやがったんだ…犬っころ!!」

 

「美しい女を見たらスケベを行うセクハラ猿だが?」

 

「ああ、俺もそう思ってた。ティターニアとパールヴァティから何回ビンタを貰ったんだ?」

 

白い眼差しを向けてくる2人に対して嫌な汗が吹き出すスケベ猿。

 

「こいつを見張っておいてくれ、クーフーリン」

 

「任せておけ。魔法少女達に手を出したらマンションの窓から蹴り出してやろう」

 

「これも身から出た錆ってやつなのか…?手が自然と動く俺様が憎い~!!」

 

そうこうしているうちにエレベーターはマミの家の階に到着する。

 

扉の前でチャイムを押し、マミが出迎えてくれるのだが彼女は動揺した顔つきを浮かべる。

 

「え…えっと…その人達は誰なの?」

 

「俺の仲魔達だ。上がらせるのが嫌ならここで待たせるが?」

 

「貴方の仲魔…?もしかして、この人達も…」

 

「察しの通り悪魔だ。悪魔は人間に擬態出来る者が多いんだよ」

 

「尚紀から聞いているぞ。イルミナティ共に一泡吹かせてやった小娘達だとな」

 

「まだ中学生ぐらいか?魔法少女って連中も肝っ玉が据わっているようで何よりだな」

 

「こいつらもイルミナティとは因縁がある、部外者ではない」

 

「そう…それなら信用しても良さそうね…」

 

「浮かない顔だな?誰も信用出来ない不安な表情に見えるぞ」

 

「ええ…これからどう生きていけばいいのか…みんな分からなくなってしまったの…」

 

上がらせてもらえた3人がリビングまで案内される。

 

そこにはマミと同じく暗い表情をしたさやかと杏子の姿があった。

 

 

地下研究所内で何があったのかを語られた事で悪魔達は事態を飲み込んでくれる。

 

「そうか…オセからそんな事を言われたのか」

 

「オセと戦って生き残れるだけでも大したものだが…連中の規模がそこまでだったとはな…」

 

「クルースニクと呼ばれた悪魔が私達を助けてくれたんです…」

 

「あいつがいてくれなかったら…あたし達は全滅してたと思うよ…」

 

「そいつの姿が見えないが…去って行ったのか?」

 

「ええ…彼には彼の使命があると言って…私達の元から去って行ったわ」

 

「心強かったあいつがいなくなるとよ…みんな不安になってきちまったって訳さ…」

 

重い沈黙が場を支配する中、俯いたままのさやかが重い口を開き始める。

 

その声は何処か後悔を感じさせるような沈んだ声である。

 

「あたし達は正義を執行した…ヒーロー作品ならこれでハッピーエンドだったけど…」

 

「あいつらはそんな生易しい連中なんかじゃなかった…あいつらはマフィアそのものだ…」

 

「考えられる状況の中では最悪よ。イルミナティとディープステートを敵に回したのよ…」

 

「事態の重さなら分かる。この国の暗部どころか世界を牛耳る連中が相手だ」

 

「パパとママ…大丈夫かな?突然仕事をクビにされたりとか…銀行口座を凍結されるとか…」

 

「やめろよ…さやか…縁起でもねぇ…」

 

「いや、考えられるケースだろう。連中は手を汚さずに相手を殺せる方法ならいくらでもある」

 

「ライフラインが絶たれたら生きられないものだ。自給自足社会を築けなかった弊害だな」

 

「社会に依存するなら社会から切り離せばいい。単純だが確実に人を死に追いやれるな」

 

「そうなったらあたし…パパとママにどう詫びたらいいのさ!?正義を貫いたはずなのに…」

 

「正義を執行するなら代償も伴う。それでもお前達は引かなかった…本物の正義の味方さ」

 

尚紀の励ましの言葉を聞いても彼女達は俯くばかりなのも無理はないだろう。

 

今までの戦いで国や世界を動かす権力組織から受ける報復の恐ろしさなど経験した事はない。

 

魔獣という悪者をやっつければ日常の世界に帰ってこれた子供なのだから怖気づいてしまう。

 

「尚紀はさ、政治に詳しいよな?もしこの国が動くとしたら…何を仕掛けてくると思う?」

 

「お前達の両親や親族を狙うとしたら…恐らくは()()()だな」

 

「共謀罪って…何ですか?」

 

「国会で強行採決された忌まわしい法律だ。テロや暴力団対策とするが一般人にも適用出来る」

 

「何がそれで出来るって言うのさ…?」

 

「犯罪を行う事は合意した段階で成立する。それを無視して悪者レッテル張りで逮捕出来る」

 

「そんなの嘘でしょ!?そんな無茶苦茶な法律を…日本の国会は強行採決したの!?」

 

「それだけじゃない、()()()()()も施行された。国民の政治批判は監視され、不当処罰出来る」

 

「何だよそれ…?どうして大人達はそんな無茶苦茶な法案を止めなかったんだよ!?」

 

「政治に興味がなかったからさ。お前らだって荒れる話題の政治なんぞに興味は無かったろ?」

 

事実を突きつけられた事で顔を俯けてしまう子供達。

 

今までの記憶を掘り下げてみても政治の話をした事など一度もないはず。

 

「今こうして話している内容だって何処で盗聴されているかは分からない。これが国家権力だ」

 

「この国の政権与党は日本人のための政治を行ってはいなかったのね…」

 

「戦後からずっとな。逆らう派閥もいくつか生まれたが…全部叩き潰されたのさ」

 

「そして残ったのが…ディープステートだけだったって訳かよ…」

 

「あたし達…とんでもない敵に喧嘩を売っちゃったんだね…これから…どうすればいいの?」

 

恐怖で震えるさやかは杏子に抱き着く。

 

不安そうに尚紀に顔を向ける杏子とマミに対し、これからの提案内容を持ち出す。

 

「先ず最優先に考えるべきなのは、お前たちの安否だ。そこで提案がある」

 

「提案…?」

 

「お前ら…神浜市に来る気はないか?」

 

「神浜市なら私達の身の安全を保障してくれる何かがあるの?」

 

「南凪区のホテル業魔殿に向かえ。総支配人に魔法少女だと言えば地下に案内されると思う」

 

「その地下の業魔殿っていうのには、何があるんだよ?」

 

「イルミナティ連中も利用している施設がある。悪魔を召喚したり合体させたりする施設がな」

 

「悪魔合体施設ですって!?」

 

「それだけじゃない。神浜には魔法少女を相手に調整を行える者がいる。その子も頼れ」

 

「魔法少女の調整…?今までそんな事が出来る魔法少女がいたなんて…聞いた事もなかったわ」

 

「お前達のソウルジェムを調整して能力を強化してくれる。戦うのは権力だけではない」

 

「悪魔に喧嘩を売ったんだもんな…悪魔が出てきても不思議じゃねーよ」

 

「業魔殿の主はイルミナティとは中立協定を結んでる。何かあったら業魔殿に逃げ込め」

 

尚紀の提案を聞いても暗い表情は消えない。

 

たとえ自分達の身の安全が守れたとしても、大切な家族や友達を守る力にはならないからだ。

 

そんな彼女達の不安を察した尚紀が立ち上がり、皆に顔を向けながら語り出す。

 

「…これは俺の希望的観測に過ぎない。それでも、聞いてくれるか?」

 

「希望的観測って…何か希望を持てるようなものでもあるんですか?」

 

「俺が悪魔だという事は知っているな?」

 

全員が頷くのを確認した後、さらに続ける。

 

「実はな…俺はイルミナティの13血統連中や、黒の貴族共から崇拝されている悪魔なんだ」

 

「どういうことだよ…?いつから尚紀が…連中から崇拝されるようになったんだよ?」

 

「あの1・28事件の時に俺の存在は世界中に広まった。それからなんだよ…」

 

「何か…あったの?」

 

「奴らが付き纏うようになった。招待状が送られたり、俺を崇拝する権力者が現れ出した」

 

「そんなのって…嘉嶋さんは連中に与したりはしないよね?」

 

「する訳がない。ただ俺の庇護を求める世界の権力者は後を絶たない…こう考えられないか?」

 

たとえ敵に塩を送る形になろうとも人修羅の敵意を向けられたくはない。

 

言っている意味が理解出来た魔法少女達は希望の糸が一筋見えたかのように感じてくれる。

 

「どうして俺なんぞを崇めたいかは知らないが…それでも俺は奴らにとって大事な存在らしい」

 

「イルミナティの司令塔一族や黒の貴族の中から…お前の敵意を買うのに反対する者が出るか」

 

「まさにそうなったらいいなって理屈だな。だが悪魔の世界は力が全てであり権威そのものだ」

 

「魔界の悪魔をよく知るお前達なら王に逆らう下々の者がいたのかを知ってるはずだ」

 

「いなかった。どいつもこいつも震え上がって魔王や魔神共に取り入ろうと企んだ者ばかりだ」

 

「イルミナティを支配する黒の貴族共は悪魔の子孫ネフィリムだ。悪魔の本能を持つ者達だ」

 

「この国のディープステートが報復のために動こうとすれば…歯止めをかけにくるやもな」

 

尚紀達が語る言葉が魔法少女達の顔に笑顔を取り戻させていく。

 

「尚紀…お前は本当に凄い奴だよ!」

 

「そうだよ!杏子の義兄さんが…こんな大物だったなんて知らなかった!」

 

「私達を守ってくれるんですね…嘉嶋さん!」

 

「そう出来るようにはする。杏子やその親友達に手を出す悪魔がいるなら…俺が報復に向かう」

 

「安心するのは早い。たとえイルミナティや黒の貴族が動けなくとも、悪魔の司令塔がいる」

 

「エグリゴリの堕天使共が襲えと言えば、そう動くしかなくなるぜ」

 

「エグリゴリの堕天使を率いる悪魔はルシファーだ。あいつの意向次第というわけだな…」

 

「全てはルシファーに通じている。だからこそお前もそれと同じ程の権威と考えられてるのだ」

 

「尚紀がルシファーか…テメェを悪魔に変えたのはルシファーだから息子のようなものか」

 

「あんな親父を持った覚えはないが…利用出来るものは利用する以外に対抗手段はない…」

 

「尚紀があたし達の為の抑止力になってくれるなら心強いよ」

 

「そうね、安心したわ。尚紀さんに言われた通り早いうちに神浜市に向かった方が良さそうね」

 

「業魔殿の主であるヴィクトルに相談してみろ。交通費ぐらいは工面してくれるだろう」

 

「魔法少女達の面倒見がいい人だって解釈していいんだね?」

 

「調整屋を営む魔法少女が慕い、彼女の為に業魔殿の一区画を利用させるぐらいにはな」

 

「業魔殿に行けば調整屋さんとも会えるってわけだね?よ~し!次の週末は神浜に行こう!」

 

「冬休みに行くつもりだったけど、早いに越したことはないよな。尚紀、泊りに行くぞ」

 

「まぁ…構わないが…」

 

セイテンタイセイに対して振り向く尚紀は溜息をついた後、師匠についてこう語ってくる。

 

「こいつな…イビキがとんでもなくうるさいんだ。眠れないかもしれねーぞ…」

 

「外の木の上で寝させたらいい。猿にはお似合いだろう」

 

「テメェら!?戦友である俺様よりも他所の魔法少女を優先するのかよ!!」

 

「私は騎士道に生きる者だ」

 

「というか…俺も眠れそうにねぇ。トレーラーハウスでも庭に用意しよう、無駄に庭が広いし」

 

「俺様を隔離するのは決定事項なのか!?」

 

「俺に拳法を伝授したマスターはあんただが、家主は俺だ」

 

ガックリ項垂れるセイテンタイセイを見て不安に苦しんでいた魔法少女達の心も晴れてくれる。

 

話を終えた尚紀達がマミの家から去って行き、神浜に帰る時には見送りにも来る段取りとなる。

 

そんな中、スマホが鳴った事で尚紀は通話ボタンをスライドさせる。

 

「尚紀か?依頼人の小巻ちゃんからお前に用事があるんだとよ」

 

「俺に何の用事だよ?」

 

「正確に言えば、小巻ちゃんが行方を捜してた織莉子ちゃんからの用事だ」

 

「美国織莉子からの用事だと…?」

 

「小巻ちゃんを通して俺に頼み込んできた。成功報酬をタップリ貰えたし、断れないだろう?」

 

「分かった、行ってみる。住所を教えてくれ」

 

スマホを切った尚紀は仲魔達に振り向く。

 

「暫くこの街で時間を潰しておいてくれないか?俺は郊外の五郷に用事が出来た」

 

「了解だ」

 

「まぁ、適当にしてるわ。ついでに昼飯代金くれ」

 

「お前らの分のスマホも買わないとな。出費が嵩んでくる…このはになんて言い訳しよう?」

 

仲魔達と別れた尚紀はついでにクリーニング店で預けていた仕事着を受け取る。

 

ホテルに戻って着替え終えた彼がクリスに乗り込んで五郷を目指す。

 

脳裏に浮かんでいくのは、かつての世界で織莉子と出会った時の記憶であろう。

 

「この世界で美国織莉子と会うのは初めてになるんだな…俺に何の用事だというんだ?」

 

いい出会いではなかった記憶が邪魔をして不安になってしまう。

 

車は見滝原市内から移動していき、五郷へと入っていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

郊外の有料駐車場にクリスを停めた後、織莉子の屋敷を目指す。

 

歩いていると程なくして荒れた屋敷の塀を見つける。

 

「…酷いもんだ。近隣の住民からやられたのか?」

 

悪意の塊のような嫌がらせの落書きに溢れた塀を超え、門の前に立つ。

 

カメラ付きドアホンを押し、門が開いて屋敷の庭を進みながら玄関の前に立つ。

 

チャイムを押すと玄関を開けてくれた少女が現れるのだが、彼女を見た尚紀は顔をしかめる。

 

「…お前まで酷い有様だな」

 

出迎えたのは痩せこけてしまった美国織莉子の姿であるのだから無理もない。

 

「…嘉嶋尚紀さんですね」

 

「そうだ」

 

「応接間にどうぞ」

 

彼は応接室の椅子に座り、向かい合うようにして座った織莉子は深々と頭を下げてくる。

 

「本当に…有り難うございました。私の捜索だけでなく、救出まで手を貸してくれるなんて…」

 

「礼を言うべきなのは浅古小巻だ。あの子はお前の捜索のために破格の捜索費用を出したんだ」

 

「あの子達には本当に感謝している…私にとっては人生を支えてくれるパートナー達よ」

 

「それよりも、俺に話とは何だ?もう仕事なら終わったんだが?」

 

「私が魔法少女だという事は…知っていますか?」

 

「ああ…それがどうかしたのか?」

 

「私の固有魔法は予知です。貴方が今日、巴さんの家で語っている内容が視えたんです」

 

「その上で俺に聞きたい事というのは恐らく…今後の身の振り方だろうな」

 

沈痛な態度のまま彼女は頷き、その表情は不安で怯えているのが分かるだろう。

 

「私が敵に回した存在はあまりにも巨大です。後見人になってくれた親族の身が心配で…」

 

「安心しろ。予知でマミの家の光景が見えたなら、俺が言った言葉も覚えているはずだ」

 

「私やキリカ、それに小巻さんも…守ってくれるんですか?」

 

「杏子やその親友達に手を出す悪魔がいるなら俺が報復に行くという言葉に二言はない」

 

「本当に優しい人なんですね。貴方のような義兄さんを持てて佐倉さんは幸せ者です」

 

もう一度礼を言うために頭を下げる彼女を片手で制した後、窓の景色に顔を向けて沈黙する。

 

窓から見える光景とは悪意の落書きに塗れた屋敷の塀であり、彼は重い口を開き始める。

 

「…美国織莉子」

 

「織莉子で構いません。何でしょうか?」

 

「お前の置かれている境遇なら杏子から聞いてる。どれだけ惨い仕打ちを受けてきたのかをな」

 

「それは…その……」

 

「汚職議員の娘、陰謀論者、デマ屋、詐欺師、テロリスト…好き放題塀に書かれていたよ」

 

「…たとえ人々から理解を得られなくとも、私は負けません」

 

「これからも街頭で政治活動をするのか?止めておけ、また集団ストーキング被害を受けるぞ」

 

「覚悟の上です。それ以外に…この国を救える方法なんてありません…」

 

「民衆に真実を伝えて大勢の力でディープステートと戦いたいのか?」

 

「はい…ですが、それがどんなに不可能だったのかを…私は突き付けられました…」

 

「人は見たいものしか見ないし、信じない。ガイウス・ユリウス・カエサルの格言だ」

 

「何千年過ぎようとも…人間の中身なんて…変わらなかったんですね…」

 

「俺はお前を嘘つき陰謀論者などとは思わない。それでも人々は悪のレッテルをお前に張る」

 

「どうして私の話を誰も聞いてくれないのか…分かりません…」

 

「固定観念がそうさせる。陰謀論と聞こえただけで胡散臭い、聞く価値はないと思い込む」

 

「物事の表面だけを捉えて思考停止する…私がどれだけ叫んでも内容を調べてもくれなかった」

 

「陰謀論という言葉の出所を知ってるか?」

 

「いいえ、それが何か関係があるんですか?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを生み出した連中がCIAだったんだ」

 

陰謀論という言葉は1950年代にCIAが生み出したプロパガンダ用語である。

 

既知の事実を調査・分析し、その結論を合法的に表明した個人を()()()()()()()()()()()

 

1967年ジョン・F・ケネディが暗殺された時期も陰謀論というプロパガンダは使われる。

 

真相を追及する人々を全体圧力で貶め、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

間接的に人を中傷して貶め、なおかつ悪事を揉み消すという魔女狩り手法を考案したのだ。

 

「人は理解の範疇を超える知恵を語られても決して受け入れない。()()()()()()()()()()()()

 

「痛い程分かります…私が調べて伝えようとした内容を…デマだと最初から決めつけたんです」

 

「CIA文書による具体的なプロパガンダ手法はこうだ」

 

CIAに親しい人々に相手の主張を攻撃させる、目撃者の証言は信用出来ないと主張する。

 

憶測は無責任だと主張する、金銭的利益から陰謀論を広めていると非難する。

 

「何が真実かは自分が情報を集めて検証するべき…なのに大衆が求めるのは悪意の娯楽だけだ」

 

「そうよ…私がどれだけ叫んでも、皆が私を虐めたわ!揶揄と嘲笑しか与えられなかった!」

 

「望むのは思考停止とマウント取り。悪だと決めた奴をサンドバックにするのは楽しいもんだ」

 

「私が問いかけた内容さえ()()()()()()()()()()()!自分の事を棚上げしてリンチしてくる!」

 

「善悪二元論だ。差別する者達の正しさの概念は独特であり、根拠を必要としない」

 

「いつだってマウントを取る事しか頭に無い連中だった…それが善悪二元論というものなの?」

 

「この世に正しさは一つだけ、自分は常にそれを選択している。それ以外はデマだと思い込む」

 

「片方を悪だと決めつけた時点で自分は正義側…だから悪の言葉になんて…耳を貸さない…」

 

「正しさ同士がぶつかった場合には相手の劣等性を指摘する事で自己の正しさの担保とする」

 

「曲解でも捏造でも、その件と全く関係なくとも…なんでもいいのね…」

 

「相手の劣等性を指摘した時点で自身が指摘された問題を相手の問題にすり替えられるんだ」

 

この手口は後に神浜人権宣言の時にも使われており、()()()()()()()と呼ばれる手口である。

 

「善悪二元論とは自身のその時の感情的利益を正しさとする…余りにも危険な哲学だ」

 

「頭の中で善悪概念を作れたなら大衆は少数の言葉に耳を貸さない…それが二元論なのね?」

 

「この手口を最も実践したのがナチスやソ連であり、欧米等も続いていき戦争を正当化した」

 

自分が正しい、または正義だと思い込めば相手の切実な言葉さえ悪者の囁き声に聞こえる。

 

この苦しみを味わったのが、まだ眼鏡をかけてあどけない顔をしていた頃の暁美ほむらである。

 

――みんなキュウベぇに騙されている。

 

旅をしてきた並行世界、そこで知ったのは魔法少女の仕組みと真実。

 

それを伝えようとしても他の宇宙のマミやさやか達は聞く耳を持ってはくれない。

 

証明出来ない理屈だったのだから無理もないだろう。

 

皆の環を乱す者として疑われ、邪見にされるという同調圧力を敷かれてきた苦しみを背負う。

 

デマ屋の陰謀論者という侮辱の言葉を浴びせられてきた織莉子と同じ苦しみなのだ。

 

証明出来ない理屈なら、()()()()()()()()()()()()という発想が何故出てこなかったのか?

 

彼女の言葉を真剣に聞き、()()()()()()()()()()()()暁美ほむらの物語は変わっていただろう。

 

だが暁美ほむらの物語の結末は変わらない。

 

何故なら彼女だけが悪者にされ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

自分の無知を棚上げして相手だけを悪者にする自分の思考を自己批判しない。

 

無知は罪であり、無知が善意を生んで他者の切実な言葉を悪として排除する。

 

地獄への道は客観性の欠如した善意によって舗装されているのだ。

 

「随分とお詳しいのですね?こんなにも政治の話に付き合ってくれた人は…初めてでした」

 

「無理も無い。お前達はまだ10代の子供…本来なら友達付き合いや恋愛で忙しい時期だ」

 

「私に偏見を持たない人だと分かって安心しました。だからこそ…お願いがあります」

 

「お願いだと?この屋敷の中で感じるもう1人の魔法少女についてか?」

 

頷く織莉子は念話を送ると扉を開けて入ってきたのは彼女に命を救われた里見那由他である。

 

「この子は私と一緒に研究所から脱出した子です。私の家で匿ってました」

 

「…里見那由他と申しますの。民族学者の里見太助の1人娘ですの…」

 

「里見太助…丈二から聞かされたな。魔法少女の存在を世間に伝えようとしていた奴だったと」

 

「会話内容を聞かされて理解しましたの…パパの言葉がどうして皆に伝わらなかったのかを…」

 

「魔法少女なんて概念はサブカルネタだ。現実と空想の区別もつかない奴だと罵られただろう」

 

「その通りですの…パパは世間から笑いものにされ…学会からも追放されましたの…」

 

「そんなもんさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…他人に期待はするな」

 

「那由他さんは私と同じ立場となりました…那由他さんのお父様は…その……」

 

顔を俯けてしまう2人の魔法少女を見つめる尚紀は察してくれる。

 

魔法少女という存在を白日の下に晒そうとする者は魔法少女狩りを行う者達には都合が悪い。

 

「里見那由他だったな?これからどう生きる…?」

 

「那由他でいいですの。私にも…分かりませんですの。パパは死に…ラビさんまで……」

 

「そうか…」

 

「彼女は神浜で暮らしてきたんです。神浜に帰られるのでしたら彼女を送ってくれませんか?」

 

「お安い御用だ。俺が近くにいてあげた方がいいだろうしな」

 

「貴方の存在そのものが、イルミナティや黒の貴族への抑止力になる事を期待します」

 

話を終えた尚紀と那由他が玄関から出てくる。

 

見送ってくれる織莉子に対して後ろに振り向く尚紀がこう告げてくる。

 

「織莉子、お前達も神浜市に来い。もしもの時の避難場所として業魔殿を知っておけ」

 

「分かりました。キリカと小巻さんを連れて伺わせてもらいますね」

 

「神浜市の魔法少女達なら…お前の言葉を聞いてくれるかもしれない」

 

「どうして分かるんですか?」

 

「俺が指導してやった魔法少女達がいてくれるからさ。客観性の大切さを学んだ連中だ」

 

「そうですか…そんな聡明な魔法少女達がいてくれるのなら私も希望が持てます」

 

「暫くは体を大事にして、政治活動を自粛しろ。お前のやつれた体は見るに耐えない」

 

「はい…そうします。街頭演説では効果が無いと突きつけられました…」

 

「俺はお前を信じてやる。他人にどうこう言われようが知ったことか、俺の道は俺が決める」

 

「尚紀さん……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()さ。アインシュタインの言葉だ」

 

織莉子の肩に手を置きながら尚紀は微笑んでくれる。

 

「自分の直感を信じろ。お前は他人の圧力に流されて終わるような腰抜け女じゃない」

 

「私の直感を…信じる…」

 

「美国織莉子からは誇り高き政治家の血を感じさせてくれた」

 

――お前のような生き方こそが…本物の個の確立だ。

 

真顔でそんな言葉を言うものだから織莉子の顔が赤面していく。

 

「えっ…えっと…その……」

 

しどろもどろになっていく織莉子を見ていた那由他にも微笑みが戻ってくれる。

 

「ウフフッ♪織莉子さんって、年上の殿方がお好きなんですの♪」

 

「ちょ、ちょっと那由他さん!?突然何を言い出して!」

 

真っ赤になって否定する織莉子を見つめる彼女も笑顔を取り戻せたようだ。

 

「織莉子さんも魔法少女だけど、年頃の女の子だって分かって…なんだか安心したですのよ」

 

「那由他さん…?」

 

「無理ばかりをしないで欲しいですの。貴女にだって…幸福に生きていい権利があるんですの」

 

そう言い残した後、尚紀と那由他は屋敷から去っていく。

 

手を振って見送っていたが那由他から言われた言葉が脳裏を過ってしまう。

 

「幸福に生きていい権利…それこそが憲法の自然権。それを踏み躙るのが…今の日本なのよ」

 

心の中には決して折れない信念が宿る者の戦いは続いていくだろう。

 

誰にも理解されずとも、守りたい人達から罵倒されようとも、守り抜く道を探す。

 

長い孤独の果てに本当になるべき自分になり、心から果たしていく者となる人生が待っている。

 

そんな生き方に至れるものこそがテオーリアへと成長していく。

 

誰にも理解されずとも、愛する人から理解されなくても、守り抜く道を俄然と進んだ者がいた。

 

並ぶ者なき偉大なる愛を貫いた暁美ほむらと同じく、自分自身を裏切らない誇り高き道を進む。

 

妥協せず、流されない者へと成長していく未来にこそ個が確立していくのであった。

 

 

支度が済んだ尚紀は丈二と那由他をクリスに乗せた後、窓を開けて外の人物達に顔を向ける。

 

駐車場に集まっていたのは見送りに来てくれた魔法少女達であろう。

 

「本当に有難う、嘉嶋さん。貴方がいてくれなかったら、きっと美国さんは…」

 

「その先は言うな。俺は探偵としてあの子を探したが自力で帰ってきた…そういう事にしとけ」

 

「そうだったわね…ごめんなさい。でも、本当に感謝しているわ」

 

「この街に戻ってきて、お前を見直すきっかけになるとはな。この先もその調子でいけ」

 

「ええ、私はもう大丈夫よ。貴方に言われた言葉は骨身に染みている…一生忘れないわ」

 

視線を横に向ければさやかと杏子が立っている。

 

「嘉嶋さん…ちゃんと話した事がなかったけど、杏子が言ってた通りの人で本当に安心したよ」

 

「さやか…杏子をお前に託す。これからも…杏子を大切にしてやってくれ」

 

「ええっ!?義兄さんからそんな言葉を言われちゃうと…その……」

 

「お前がどういう奴なのかは知ってる。そしてお前にずっとついて行きたい杏子の気持ちもな」

 

彼の脳裏に浮かぶのはかつて魔女と呼ばれた存在がいた世界の記憶。

 

魔女と成り果てたさやかを救う為に命を捨てる覚悟を決めた杏子から託された手紙がある。

 

杏子の切実な気持ちが綴られた手紙内容は世界が改変されようとも忘れてはいない。

 

「ったく、キリカと小巻も見送りに来てくれたら良かったんだけどよ…」

 

「あいつらにはあいつらの都合があるんだろ?」

 

「まぁな…キリカは織莉子の身が心配だって言うし、小巻は妹や家族が心配なんだとよ」

 

「それでいい。お前達が見送りに来てくれただけでも嬉しいよ」

 

言いたい事は沢山あるのだろうが、別れが寂しいのか杏子は顔を俯けてしまう。

 

そんな彼女を見ていると素直ではなかった小学生時代の姿を思い出していく。

 

「杏子…もう直ぐ風華が死んで三年目になる。四回忌は無いが…顔を出しに行かないか?」

 

「尚紀……」

 

「それに今年の一月の三回忌に俺は行けなかった。だからこそ…俺にとっては三回忌だ」

 

「うん…いいよ、あたしもついて行く。風姉ちゃんもきっと喜ぶからさ…」

 

見送りに来てくれた者達に顔を向けていたが互いに頷き合う。

 

車のキーを回し、エンジンが始動して発進しようとしていた時、窓の外を見上げていく。

 

近くのビルの屋上に立っていた人物と彼は目が合ってしまう。

 

人間に擬態して魔力を隠していた人物とは暁美ほむらの姿であろう。

 

<……またな、暁美ほむら>

 

念話を送った後、左手でピースサインを掲げる。

 

ピースサインは平和の意味を持つが第二次世界大戦の頃には勝利という意味で使われている。

 

円環のコトワリ神であるアラディアを必ず倒すという勝利を掲げるハンドサインを送るのだ。

 

<……ほむらでいいわ>

 

尚紀が掲げるハンドサインが気になった魔法少女達は顔を隣ビルに向けていく。

 

屋上に視線を送る頃には黒い羽根が舞い落ちる光景だけが残されていたようだ。

 

夜道の高速道路を走行中の車内は静かな時間が続いていたが、丈二が口を開き始める。

 

「お前の仲魔連中は乗せなくても良かったのか?」

 

「あいつらは先にタクシーで神浜市に向かわせたよ。後ろの子が乗れなくなる」

 

後部座席に座っているのは俯いた表情を続ける那由他である。

 

かけてやれる言葉も見つからず、重苦しい空気が続いていたようだ。

 

「私…これからどうやって生きたらいいんですの…?」

 

自分では答えが見つからず、男達に問うように口を開いてくれる。

 

「厄日なんて次元じゃないですの…不幸という底なし沼に嵌ったような気分ですの…」

 

「母親はどうした?」

 

「パパとママは数年前に離婚しましたの。ママとは…離れて暮らしてきましたの」

 

「父親に兄弟はいないのか?従姉妹を頼るというのは?」

 

「パパの兄とは…仲が悪かったですの。そして、私も従妹とは仲が悪かったんですの…」

 

「里見っていう苗字…もしかして、里見メディカルセンターの…?」

 

「はい、そうですの。あの病院グループとは親族関係になりますの」

 

(里見メディカルグループ…神浜に来た頃の新聞で見た記憶が…)

 

尚紀の脳裏に浮かんだのは里見メディカルグループ院長の娘である里見灯花の病死であろう。

 

彼女にとっては仲の悪かった従妹との死別を意味している。

 

「仲が悪かった従妹の灯花とは…最後まで仲直り出来ませんでしたの」

 

「新聞で見たよ。残念だったな…」

 

「気にしなくていいですの。あの子は…私やパパを馬鹿にしてきた子ですの…」

 

「その表情からして、先立たれた空虚感を感じているようだな?」

 

「もっと素直な子だったら…いいえ、元気な体だったなら…良かったですの」

 

再び重苦しい沈黙が続く中、すすり泣く音が聞こえてきたので男達は後ろを振り向く。

 

「私…何もかもを失うばかりですの…!グスッ…私の人生なんて…価値は無かったですの!」

 

「那由他ちゃん……」

 

「もう何も信じられないですの!パパが死んでラビさんも死んで…何を頼れと言うんですの!」

 

「絶対的な存在を失った事による喪失感に耐えられないか?」

 

「そうですの…私は織莉子さんみたいに強くはなれないですの…私は…寂しがり屋ですの…」

 

「どうして織莉子は喪失感に耐えられたと思う?」

 

「それは…分からないですの…」

 

「強く在ろうとしたからだ」

 

「強く在ろうとしたから…?」

 

「人生は苦しみの連続だ、生きていることそのものが苦しい。なら…どう楽しくすればいい?」

 

「え…えと…芸術を楽しむとか、娯楽を楽しむとか…」

 

「そんなものは現実逃避のロマン主義だ。絶えず現実逃避を続けても真の喜びなど得られない」

 

「だからこそ…自分の強さを求めるのですの…?」

 

「自分に誠実に生きる…それが強さだ。弱い者はそれを否定し、連帯して引き摺り下ろす」

 

「ニーチェのニヒリズムか?」

 

「この世に絶対などはない。たとえ父を愛してもいつかは死に別れる。他の強さが必要なんだ」

 

「厳し過ぎますの…私は弱いですの。こんな私に急に強くなれだなんて…あんまりですの…」

 

「欲望が無くなった人間など強くはなれない。何かないのか?お前だけの欲望は?」

 

「私だけの…欲望……」

 

「それを見つけ出し、必要としろ。自分を我慢し続ける人生など死んでいるも同然だ」

 

「ニーチェがキリスト教を批判した理屈か。絶対神に盲従する生き方など()()()()()()()とな」

 

「絶対を作ってしまえば、それに縋りついてしまう。だからこそ喪失感に耐えられないんだ」

 

「なら、織莉子さんは何に支えられているのですの…?愛したパパを失ったはずなのに…?」

 

「彼女が求めているのは父の無念を晴らしたい気持ち。だがそれ以上にあるのは…憂国の感情」

 

――堕落した日本社会は正されるべきだという…()()()を求めているんだ。

 

織莉子とほむらの強さの秘訣とは()()()()()()()()()

 

自分自身が望む欲望である社会欲、愛欲なのだと尚紀は告げてくる。

 

自分の欲望を本気で望む者達こそが妥協を許さず強く在ろうとするだろう。

 

人間の守護者として生きてきた尚紀の姿もまた同じなのだ。

 

「誰かのために戦っても応えてなどくれない。ならばこそ、時にはエゴに生きるのも必要だ」

 

「私の…エゴ……」

 

「それが生きる力、戦う力に変化させられるならな。だが、あくまでも個人で完結しろよ?」

 

「そうだな…エゴは周りに押し付け易いもんだ。しかしエゴを自制出来れば生きる強さになる」

 

「俺はエゴを魔法少女社会に押し付けた事がある。俺みたいには…なるんじゃねーぞ」

 

黙り込んでしまった那由他から視線を逸らす大人達。

 

夜の夜景を後部座席から眺めるばかりの彼女は自分自身と向き合っていく。

 

神浜市内に入った頃、彼女の家が近づいてくる。

 

「この先でいいんだな?」

 

「はい…」

 

那由他が住む家の前まで案内された後、車を停止させる。

 

後部座席から出て来た彼女を見送る2人であったが彼女の家の玄関で誰かを見つけてしまう。

 

「えっ……?」

 

家の玄関前にいた存在とは電動の車椅子に座った人物の影である。

 

くたびれたトレンチコートを纏い、首元にはマフラーを巻いている。

 

パーマがかかった長髪を真ん中分けにした髪型と黒縁眼鏡も目立つだろう。

 

「パ…パ……?」

 

暗い庭を進んでくる電動車椅子から見えてきた男の姿とは那由他が探し続けた大切な家族。

 

里見太助の姿だと分かった娘は目を見開きながら大声を出してしまう。

 

「パパ…!?パパーーッッ!!」

 

那由他は駆けていきながら父親に抱き着く。

 

「生きてたんですの…パパは生きてたんですの!!」

 

「……悪かったね、那由他。心配をかけさせてしまったようだ」

 

突然の光景に対して尚紀と丈二も驚愕した表情を浮かべてしまう。

 

「どういう事なんだよ…?」

 

「あの子の親父さんは死んだんじゃなかったのかよ…?」

 

感動の再会で泣きじゃくる彼女の姿を茫然と見つめる事しか出来ない。

 

「急に出て行ったと思ったら!神浜に家だけ用意していなくなるなんて酷いですの!!」

 

「……ごめんね、那由他」

 

「私がどれだけ心配したか…!!でも、良かった…生きててくれて…良かったですの!!」

 

「五体満足という訳ではなくなってしまったがね。だが…どうにか命を取り留めたようだ」

 

「パパ…?もしかして…足が…?」

 

「心拍停止によって脳に酸素がいかなくなってね…後遺症が残ってしまったようだ…」

 

「そ、そんな……」

 

「それでも、私を見つけて海に飛び込み救助してくれた人には感謝する。命を繋げたからね」

 

「パパ…本当に無事で良かったですの…そんな体になったのなら…もう何処にも行かないで…」

 

「うん…そうするしかないようだ。これからは…家族の傍にいさせてもらうよ」

 

「あぁ…パパ…パパ……」

 

家族水入らずの光景を目にしていた尚紀と丈二は溜息をついた後、踵を返す。

 

「…行こうぜ、丈二」

 

「そうだな…俺達はお邪魔虫のようだ」

 

車に乗り込み発進していく中、ようやく再開を果たした親子の美しい光景だけが残される。

 

だが何処か違和感を感じるはず。

 

抱き着いて泣きじゃくる愛しい一人娘に対して太助は目を合わせていない。

 

あろうことか太助の視線は別の人物にずっと向いていたようだ。

 

車に乗り込む尚紀を見送りながらも不敵な笑みを浮かべてくる。

 

「長かった……ようやく会えたね。私は君を探していたんだよ」

 

実の娘を抱きしめている彼の腕は何処か空虚なまでに温もりを感じさせなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

家の中で眠りについている織莉子。

 

今日は電磁波被害を受けていないのかぐっすり眠れている。

 

時計の時間だけが動いていく中、夜の静かな時間を打ち破ったのは飛び起きた織莉子の姿だ。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!」

 

息を乱し、恐怖に包まれたように汗ばんだ顔つきが尋常ならざる事が起きたのを感じさせる。

 

「なんだったの…あの予知夢は……?」

 

織莉子の固有魔法が見せた近くて遠い未来の光景こそ、まさに戦場そのものである。

 

「飛び交うヘリと戦闘機…爆炎に包まれた見滝原…私に指示を求めてくる兵士達の声……」

 

状況が飲み込めなかった彼女はベットから出て窓辺に立つ。

 

「革命を示す赤い布を腕に巻いた兵士達は叫んでいた…時女一族の魔法少女達は叫んでいた…」

 

脳裏にまだ残っているのは悲痛な叫び声の数々。

 

<<嘉嶋総司令はまだ戻られないのか!?>>

 

<<こちら1番隊!!パイナップル・ブリゲイツの侵攻を食い止められない!!>>

 

<<こちら2番隊!!ヤタガラスの猛攻が止められないわ!嘉嶋総司令はまだ戻らないの!>>

 

<<円環のコトワリ神と悪魔ほむらを同時に相手をしてるんだ!そう簡単にはいかない!!>>

 

<<こちら4番隊!!海の向こう側に無数の艦船を確認!!米英の連合艦隊です!!>>

 

<<持ちこたえて!!嘉嶋さんは帰ってくる…日の本の新たな太陽神は…帰ってくるわ!!>>

 

<<この革命は絶対に負けられない!!この世界同時革命戦線が最初で最後の賭けだ!!>>

 

<<海の彼方でも阿修羅会と多神教連合が戦ってる!イルミナティから他国を解放する!!>>

 

<<我々国津神の悲願はこの一戦にある!!皆の者、奮戦せよ!!>>

 

決意が籠った憂国の烈士達の叫び声が耳の奥に残っている。

 

その叫びは世界中の烈士達と共に叫んでいるのだ。

 

未来の世界の戦場に立っていた織莉子は烈士達の叫びをイヤーマフ通信機から聞いている。

 

燃え上る戦場と化した見滝原市をビルの上から茫然と見つめる事しか出来なかったようだ。

 

「あれが…未来の私の姿?私は尚紀さんや革命兵士達…それに魔法少女や神々と共に戦って…」

 

あまりにも現実離れした光景を見せた予知夢。

 

何故そんな事態になってしまったのか、彼女は織る勇気さえ出せない。

 

ビルの屋上から見えた光景は戦場から逃げきれずに死んでいく見滝原市の人々の姿。

 

航空母艦から発艦した攻撃機の爆撃によって無残な死体の山で埋め尽くされた地獄。

 

あまりにも酷過ぎる死の嵐を前にして、予知夢世界の彼女は震えが止まらなかったようだ。

 

「私はいつか…赤き革命旗を掲げた嘉嶋尚紀と烈士達と共に…戦場に向かう日が来る……」

 

予知夢の世界に立っていた織莉子の姿。

 

正義の魔法少女として生きた人生を捨て去ったかのようにして白き帽子は捨てられている。

 

左腕には兵士達と同じく革命軍を表す赤い布が巻かれている。

 

世界を解放するための戦場光景とは人類を救う救済の光景なのか?

 

あるいは人類を戦火に巻き込み大虐殺する地獄の光景なのか?

 

美国織莉子は憂国の烈士として戦場に参加する未来が待っているのやもしれない。

 

彼女は人類を解放する者であると同時に人々を戦火に飲み込ませて死なせていく極悪人。

 

嘉嶋尚紀もまた人々から罵倒される呪われた悪魔となるだろう。

 

時女一族もまた守るべき日の本の民を裏切った者達だと罵倒されるだろう。

 

この人殺し!!戦争を生み出した悪魔共め!!お前達のせいで家族が死んだ!!

 

息子を返せ!!娘を返せ!!

 

彼らの慟哭の叫びを浴び、()()()()()()()()()()()()()()()()存在となるだろう。

 

それと同時にまだ見ぬ未来の先では別の形としても呼ばれる可能性も宿す陰陽存在であった。

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

真・女神転生 Magica nocturne record

 

 

To be continued

 




これにて織莉子編は終わり、時女静香編が始まります(もちろん地獄コース)
考えている最後の部分を描く頃には、物語のラスト部分でしょうな。
眼鏡をかけて車椅子に座る怪しい太助…何者なのか?(メガテニストには正体バレバレ)
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