人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
168話 フェミニズムと同性愛
女性解放運動として知られるフェミニズム。
その思想はオカルトのカバラ主義やグノーシス主義の中にも見出すことが出来る。
これらの思想では、結婚や家族制度を社会改造における障害として捉えているからだ。
フェミニズムの背景にはオカルト主義が隠されている。
その象徴こそが、リリスと呼ばれる悪魔。
アダムの最初の妻であったが別れる神話の光景は、現代フェミニストと行動が合致する。
リリスは平等を叫んだ。
アダムとのセックスにおいて、下にされるのを拒絶した。
8世紀から10世紀頃に描かれたリリス物語の一部にはこうある。
神はアダム自身をそうして創ったように、アダムのために大地から女を創りリリスと名付けた。
アダムとリリスは争いを始めてしまう。
リリスはこう言った。
「お前の
アダムはこう言った。
「お前の上には乗ってもいいが、下にはならない。お前は
リリスは反論した。
「私達は
2人は一歩も譲らず言い争い、やがてリリスは畏れ多い名を口にしながら空に飛び立った。
アダムは創造主に祈りを捧げた。
「世界を統べる方よ!あなたが与えてくださった女は逃げてしまいました!」
リリスがアダムの下になるのを拒んだのは、男性の種を
よく考えてみて欲しい。
これの何処が不平等なのだろうか?
生殖行為とは万物全てにおいて、唯一神が用意した生命を生み出すセックスシステム。
これに沿って行われた創成の物語こそが、人修羅が潜り抜けたボルテクス界での戦い。
そのシステムをいくら否定しようが、生命はシステムに従う事でしか繁殖出来ない。
アダムがどれだけ横暴であったとしても、彼は唯一神が生んだシステムに従っていただけ。
リリスは自分の役割を否定し、唯一神が生み出した繁殖システムに唾を吐いて消えていった。
アダムと呼ばれた男性なのか?
リリスと呼ばれた女性なのか?
グノーシス主義とカバラにおいては、唯一神に歯向かうことが何よりも貴ばれる。
神を否定する人間達が世界のルールを作り替えようという、唯一神への復讐の道でもあった。
唯一神が生み出した、異性間セックスという名の生命繁殖システム。
男女セックスの原点とは、快楽だけを貪るためにあったのであろうか?
より高次の目的のために生み出された繁殖システムではなかったのだろうか?
グノーシス主義とカバラを崇めるイルミナティに支配された、フリーメイソンという友愛団体。
彼らが望む世界とは、自由と平等によって唯一神が生み出した全ての概念を真逆にすること。
それらによって、どんな男女世界へと変質させられていくのだろうか?
今から始まる物語は、唯一神への復讐を望む者達が行う社会変革プログラム。
そして…男性(アダム)に虐げられし女性(リリス)の復讐譚でもあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
愛と呼ばれる概念とは何か?
一般的には恋愛と呼ばれるフィクションにも似た物語的概念が主流なのは言うまでもない。
恋愛というフィクション概念に振り回された男女社会には、何が待っていたのか?
いつか私を迎えに来る、私に都合が良い白馬の王子様がやってくる。
俺が守りたくなるような都合の良い美少女が何人も現れて、選り好み出来る生活が送れる。
…余りにも現実感を感じさせない妄想の如き
現代日本は少子化に歯止めが掛からない。
経済的な理由は勿論だが、何よりも男女が考える
我を貫く我儘の世界とも言えるだろう。
その光景はまるで、唯一神を否定したリリスの我儘のようにも見えてくる光景であった。
……………。
「…俺の答えを示さないまま、放置しておいて良いのだろうか…?」
東京に失踪してから神浜に戻ってきた頃の尚紀は現在、休日を過ごしている。
家に戻ってきてからは何かについて悩んでいたようだ。
「尚紀、そろそろ晩御飯だぞ」
ウッドデッキの椅子に座って悩んでいた彼の元に現れたのはクーフーリン。
黒のベストに合わせた紳士衣装の上からエプロンを纏う姿から察するに、家事をしていたようだ。
「もうそんな時間か?それにしても…意外だったよ。お前が料理得意だったなんて」
「何事もそつなくこなせる器用さを私は持っている」
「お前は勉強熱心な奴だったの忘れてたよ」
家主が座る椅子の隣に座るのだが、顔をしかめて副流煙を払う仕草。
「あ…悪い」
煙草を吸いながら考え事をしていたためか、嫌煙者への配慮を怠っていた。
煙草を灰皿に押し当てて消し、クーフーリンに向き直る。
「ずっと外に出たまま考え事をしていたようだな?」
「……まぁな」
「お前の横顔は窓から見えていた。何を悩んでいたのか当ててやろうか?」
「お前…読心術が使えるのか?」
「いいや、これは男の勘だ」
ニヤニヤした顔つきを尚紀に向けながらこう語る。
「恋の悩み事だろう?しかも相手に言い寄られてきたパターンだ」
言い当てられてしまった尚紀がしかめっ面になり、後頭部を掻きだす仕草。
「私も沢山の女子達から言い寄られた経験をもつ。お前の苦しみなら私の方が先輩だ」
「……分かった。恋愛ごとの先輩に聞いてみるか」
観念したのか、尚紀は事情を説明していく。
「なるほど…魔法少女から告白されたのか」
「俺は…どうしたら良いんだろうな?ハッキリ言うが、俺は多忙な身の上だ」
「付き合ったところで、恋人を放置する結果を生む。無責任な立場にはなりたくないか?」
「それが多数の男の意見だと思う。しかしな…多数の意見が優れた判断だとは限らない」
「なら、その八雲みたまとかいう少女に伺うしかないだろう」
「それしか…無さそうだな。あいつが俺に幻想を抱いているなら、真実を俺の口から語ろう」
「この街を救った英雄など何処にもいない。むしろ、世界を破壊する者だと伝えたらいい」
「……落胆させちまうかもな」
「信じてやれ。アマラの底に消えた尚紀の事を、私達が信じたようにな」
重苦しい空気となっていく。
無言のまま黙り込んでいる尚紀であったが、クーフーリンはこんな話を持ち出すのだ。
「古き時代を生きた私はな、生真面目な尚紀や丈二の価値観をこう考えてしまう」
――恋愛に
突然の発言を受けて、怪訝な表情を返す。
「どういう…意味だよ?」
「男性が愛と結婚に人生の意義を見出す考え方は、人々を混乱させる誤謬なのだ」
「現代人の男達は…女性との恋愛というものに幻想を抱いているとでも言いたいのか?」
「そのような態度はそもそも
騎士道が貴ばれた封建時代における男の役割を語られていく。
それはフィクション的なイメージである恋愛世界のような概念ではなかった。
生き甲斐を感じられる仕事に就き、認められ、報酬を得ることで自分に自信を持つ。
人間こそが独立した神であり、異性の内に宿る恋愛幻想に惹かれる考え方など
「封建的な考え方だな…。それじゃあ男なんて、女を繁殖道具としか考えないサル同然だ」
「悪いことなのか?男に
「男に従わされることで得られる…幸福だと?」
「男女の愛とは…
男女における信頼と尊敬という概念。
男性は理想に沿った生き方をし、目標を達成していくことで自分を尊敬出来る存在にしていく。
男は自分の魅力を磨き、小さな求愛活動によって女性との将来を勝ち取る。
女性は逆であり、弱みを曝け出して男性に従うことで愛を表現してしまう。
伴侶の男性を慎重に選ぶことが女性には求められるのだ。
「求愛とはセックスだ。セックスで得られる最も大きなものとは、肉体のエクスタシーではない」
――精神的なものなのだ。
男性は女性を完全に
女性は男性に完全に
それを達成するには女性が男性を完全に信頼し、セックスを
「恋愛を生得の権利だとは考えない。私に言わせれば、恋愛という概念など発達障害だ」
「そこまで言うのか…?俺も丈二も…ただの発達障害者だとでも言いたいのかよ?」
「自分を磨き、価値を高める代わりに無条件に愛してくれる女を探すのが…本来の男性像だった」
――だが、今の時代の男女が求めているものなど…性的欲情という娯楽に過ぎない。
若い女性は性的魅力が全てであるかのように振舞う…アイドルのように。
性的に可愛いだけで、中身など空っぽな女性に成り果てていく。
若い男性はそれを助長するかの如く浮かれて喜ぶ。
昔の女性像とは何だったのか?
妻や母親になる者として、実用的なスキルを優先してきたはずだ。
何よりも重要であったはずの女性の心構えを身に付けていたはずだ。
「なぁ…尚紀。私はこの時代に流れ着き、人の社会を見せられたが…恐ろしくなった」
「クーフーリン……」
「良い時も悪い時も互いに支え合う、チームという名の男女の姿が…何処にも見当たらない…」
――みんなが我を押し通す我儘社会しか…見つけられなかった。
「このままでは男女は…人類は…その数を減らし続ける以外に道は無い」
……………。
就寝時間となり、尚紀はベットで横たわる。
浅い睡眠ぐらいは出来る彼だが、今日は眠れそうにない状況が続く。
頭の中に浮かぶのは、恋愛という概念に縛られた現代の男女を憂う仲魔の言葉。
「昔の女性は子供を産み…夫の魂を未来に残すという目的意識があった…か」
それが本物の女性の愛なのだとクーフーリンは語ってくれた。
しかし、見たいものしか見ない現代の男女から言えば、封建社会の理屈として聞こえてしまう。
「クーフーリンが経験してきた古き男女の絆と…現代人の俺達が考える男女の絆の形は…」
――どっちが正しいんだろうな…?
無理やり寝ようとするが眠れない。
今日は朝まで考え事をしてしまうだろう。
一体いつの間に…我々が生きてきた男女社会は
――――――――――――――――――――――――――――――――
外来の手によって日本にフェミニズムが導入され、大きく動いた時期は1980年代である。
当時の日本はまだ根強い男尊女卑社会が形成されている問題社会だとみなされたからだ。
若い女性は大学を卒業したら決められた職務しか与えられず、30歳までに寿退社を強いられる。
大学を出た女性達はそれに不満を募らせ、抑圧されたためにフェミニズムが必要とされた。
当時の社会を生きた女性は、日本の男社会が何を女性に向けてしてきたのかを語る。
今日は何色のパンツ?と聞いてくる。
女性の性的な部位を触ってきたりもする。
毎日色々な嫌がらせをしてきたという。
これらの概念を表す外来語こそが、セクシャルハラスメントと呼ばれるセクハラだった。
女性は男性社会に虐げられている。
フェミニズムは海外からの勢いに後押しされ、平成30年間を通して爆発的に広がった。
それによって、本当に女性社会は救われたのであろうか?
フェミニズムを撒き散らす勢力は隠している。
フェミニズムによって、人類が滅亡しようとしている現実を隠していた。
……………。
神浜人権宣言が行われた時期から一か月が過ぎた頃の2020年1月。
中学高校の3年生魔法少女達は受験勉強が忙しい時期なのだろうが、息抜きも大切だ。
「キャァァーーッッ!!さゆさゆカワイイ~~ッッ!!」
自宅のテレビ前で熱中しながら歌番組を視聴している人物とは水波レナ。
テレビの世界では、正月歌番組で登場している史乃沙優希の姿があった。
大歓声の中、音楽ステージで踊りながら歌う姿は人気芸能人そのものに見える。
「みんな!明けましておめでとう!恋の辻斬り曲…いっくよ~!!」
テレビから流れる沙優希の曲に合わせてペンライトを振り回すレナの姿。
彼女の家には様々な雑誌で紹介された史乃沙優希記事が机の上で広がっている。
さゆさゆファンクラブ第一号のレナによってコレクションされたもののようだ。
テンション高い姉を尻目に、テレビのチャンネル権を奪われたレナの弟は不満顔。
暇潰しでレナが買ってきた雑誌に掲載された記事内容を読み耽るのだが…表情は暗い。
「…姉ちゃん」
「何よ五月蠅いわね…レナは今集中してるから、チャンネルを変えさせないわよ」
「そうじゃないよ。姉ちゃんが買ってきた雑誌の取材記事を読んでてね…違和感を感じるんだ」
「違和感って…何よ?」
「僕だって姉ちゃんの趣味に付き合わされたからさゆさゆの事は昔から知ってる。だから分かる」
レナの弟が読んでいた雑誌記事。
それは女性の性差別について取材を受ける、売れっ子芸能人になった史乃沙優希の内容であった。
「さゆさゆってさ…昔はこんな政治ネタなんて言わなかった筈なのに…」
記者の取材によって書かれた記事内容とは、フェミニズム問題そのもの。
記事の見出しはこうだ…性の革命を望む人気芸能人特集!
「さゆさゆってさ…
「アンタ…何が言いたいのよ?さゆさゆが間違った事を言うとでも思ってるわけ!?」
レナの中では絶対者である史乃沙優希を馬鹿にされたと激しく思い込み、苛立ちを見せる姿。
エゴに飲まれれば最後、相手の切実な言葉さえ悪者の囁き声として聞こえてしまう生理現象だ。
「違うって!さゆさゆを馬鹿にしたいわけじゃない…芸能界に行って変わったと言いたいだけ!」
「さゆさゆは何も変わってなんていない!さゆさゆを馬鹿にするならしばくわよ!」
弟の直感が気が付いた違和感を棚上げし、自分のエゴ世界を優先するかの如くテレビに集中。
「姉ちゃん……」
そんな姉の姿を見て、レナの弟は言い知れぬ不安を感じてしまったようだ。
このような光景は他でも見られる。
神浜左翼テロが起きてより一か月が過ぎた神浜市。
新たなる魔法少女社会が再編された事により、減った魔法少女の数が増えてきているのだ。
死傷者数が一万人を大きく超える程の大惨事。
その悲劇を食い物にする者がいる…契約の天使であるインキュベーターだ。
テロの犠牲になった子供達の元に現れ、契約を持ち掛けてきた。
親を失った少女達は二つ返事で願い事を言ってしまう悲劇が繰り返されてしまう。
これにより、魔法少女の虐殺者が殺したために減った魔法少女の数が少しづつ回復していた。
そんな彼女達を統括する存在こそが、新たなる神浜魔法少女社会の長となった常盤ななかなのだ。
彼女は今、魔法少女社会治世において大きな悩み事を抱えているようであった。
「話って…何なのさ、ななか?」
レストランの個室を用いて密談しているのは、常盤ななかと遊佐葉月。
相談事を持ち掛ける魔法少女社会の長の表情は重い。
「…あの騒乱より月日は流れ、新たな魔法少女の数も増えてきています」
「そうだね…あれだけの悲劇が起きて、アタシ達姉妹と同じ立場になった子供も多かったし…」
「彼女達を管理するのも…長としての私の務めです」
常盤ななかは人間社会主義を掲げる魔法少女であり、心には人間の目線を持つ人物。
東西中央の長達が築き上げた助け合い社会を踏襲しながらも、締め付けは厳しく行ってきた。
「魔法少女は魔獣と戦う使命にのみ準じるべき者達。それ以外を縛りつつ、教育も施す…」
「自由を縛り上げる弊害なら…尚紀さんに見せられたよね。…ななかも苦しい立場になったよ」
「はい…。私は彼女達の内心の自由まで拘束するわけにはいかなくなりました」
「だからこそ、内面部分を長い時間をかけて変えていく教育政策を尚紀さんに託されたわけだ」
「ですが…長い時間がかかる分、緊急事態に対処出来ない」
ななかが今起こっている魔法少女社会問題について語っていく。
「フェミニズムが…魔法少女社会に巻き起こってきている?」
「私はバラエティには疎いのですが、メディアがフェミニズムを強調していると聞いております」
「新入り魔法少女達が…その影響を受けてしまっているというの?」
「彼女達が不満を感じているものとは…私の治世そのものなんです」
「どういう意味なの…それ?」
「私は長として経験の浅い者。だからこそ、相談役として尚紀さんを頼ってしまう…」
「それの何が不満だっていうのさ?」
「それはですね……」
――私たち魔法少女にとって…尚紀さんは
葉月は驚愕して立ち上がる。
信じられないという表情を浮かべてしまう。
「私の治世は
「バカげてるよ!!尚紀さんが男だからって…何で魔法少女達は不満に思うのさ!?」
「魔法少女社会は
「ふざけてる…男の尚紀さんを差別したいだけじゃないか!」
大きく溜息をつき、ななかは眼鏡を外す。
ハンカチで眼鏡の汚れを拭き、ガラスに映った自分の姿を見つめる。
そこに映っていたのは、女性である少女の姿。
「女と男…少しの差異があるだけで…どうして人々は分断されるのでしょうね?」
彼女の憂いの言葉は、人間の守護者と戦った神浜魔法少女達に向けて叫んだタルトの憂いと同じ。
――尚紀と皆さんに…差異があるのですか?
――男と女という…小さな差異があるから争うのですか!
辛そうな表情を浮かべて眼鏡を掛け直す彼女を見て、葉月も気持ちを落ち着けるようにして座る。
叫んだこともあり喉が渇いたのか、ジュースをストローで飲み始めた。
「…このような話をしても良いのか分かりませんが、葉月さんはどう思います?」
「アタシは気にしないけど、何の話なの?」
困ったような表情を浮かべたななかは視線を逸らし、気恥ずかしいのか頬を染める。
「私たち魔法少女社会に広がっていく…
突然の話題転換ともいえる恋愛相談。
ビックリした葉月はストローで吸い出していた中身を吹いてしまう。
「恋愛ごとに疎い私ですが…尚紀さんから聞かされた話があります。1人の魔法少女の物語を…」
東京の守護者が常盤ななかに語ったのは、東京の魔法少女の物語。
それは東京の魔法少女社会においては、はぐれ魔法少女として扱われた少女の物語であった。
「魔法少女は正体を秘匿して生きねばならない者達。だからこそ、強い連帯感が生まれます」
「そうだね…。人間達に秘密が語れない以上は…アタシ達はアタシ達の社会で完結するしかない」
「だからこそ、パートナーとも言える魔法少女を大切に思うばかりに…愛してしまう」
「吊り橋効果ってヤツだね…。交渉を学ぶために心理学の本を読んだことがあるから知ってるよ」
「普通の恋愛を望む事も許されないのが魔法少女達。だからこそ、同性愛を唯一無二の愛とする」
「だからなんだね…魔法少女社会に関わろうとする男がいるだけで…不満を感じてしまうのは」
「深く絆を結びあった愛する魔法少女の間に
「ななかに敵意を向けてくる魔法少女達の原因が分かったよ…」
――彼女達にとって、都合が良い同性愛の世界を破壊する可能性を持つ男に向ける嫉妬と憎悪。
――被害妄想だったんだね。
合点がいった表情となり、ななかに呼び出された理由も察しがついたようだ。
「どうやら、今のななかはアタシのネゴシエイトを必要としているわけだ?」
「その通りです。彼女達の被害妄想を刺激しないようにして、どうにかなだめて欲しいのです」
「了解したよ、交渉事なら任せておいて。個人同士の交渉なら、相手にノーとは言わせない」
「フフッ♪相手にイエスと言わせるだけの交渉術をお持ちのようですね?」
「この葉月さんに任せときなって♪」
話し合いが終わったこともあり、2人は勘定を済ませて店から出て行く。
美雨に調べてもらった敵意を向けてくる魔法少女達の情報を受け取り、葉月は去っていった。
背中を見送る常盤ななかであったが、その表情には曇りが生まれてしまう。
「葉月さん…いくら交渉を得意とする貴女でも…此度の問題解決は難しいです」
いくら火消しを行おうとも、燃え上る業火の勢いが強まれば強まるほど逃げるしか道が無い。
魔法少女社会どころか、世界中にフェミニズムという女性の怒りを撒き散らす
それこそが、国際金融資本家達に牛耳られる…日本を含めた世界メディアであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
季節は12月頃にまで戻る。
尚紀は仕事に向かったようだが、今日は何故かクリスには乗らず徒歩で職場に向かう。
ガレージ内で不貞腐れているクリスの元にまでやってきたのはクーフーリン。
「ちょっとクーフーリン。それとも、ダーリンが用意した戸籍名の瀬田槍一郎と呼ぶべき?」
クーフーリンに与えられた人間名とは、彼の幼名に因んでいる。
クーフーリンの幼名はセタンタと呼ばれるため、瀬田という性となった。
また、槍一郎という名は彼の武器である魔槍ゲイボルグから名付けられたようだ。
「どちらでも構わない。それより、念話で呼び出した用事とは何だ?」
「ダーリンがね、珍しくアタシに乗らずに職場に行ったでしょ?何か聞いてない?」
「知らんな」
「嘘おっしゃい!ダーリンはアンタの事を高く評価してるから家の管理を任せてるじゃん!」
「確かにそうだが、何でも聞かされるというわけではないな」
「絶対浮気しに行ったに決まってるわよ!逢引きに違いないわ!!」
「そうとは限らんだろう?あいつは拳法家だから、車ばかり乗っていると体もなまるからな」
クーフーリンは事情を知っているが、素知らぬフリを懸命に務めている。
クリスを残した事情とは、連れたままではまた誤解を受けかねないと判断したためだった。
……………。
南凪区ベイエリアに場面は移る。
神浜港が見渡せる海沿いの通りでは、2人の人物達の姿が見える。
夜の海沿い通りの街灯に照らされたベンチに座っていたのは、尚紀とみたまであった。
あの時、みたまの告白を受けてしまった尚紀は錯乱したまま逃げ出してしまう結果を残す。
それでは勇気を振り絞って告白してくれた者に対して、余りにも無責任な態度となるだろう。
社会で生きる大人として、返事を返す責任を感じていたからこそ呼び出した。
全ての事情を話すために…。
「これが…神浜を救った英雄とか呼ばれる存在がやらかした…真実だ」
長い話に付き合ってくれた彼女の顔は俯き、酷く困惑した表情を浮かべてしまう。
世界を呪った調整屋と呼ばれる魔法少女を救ってくれる存在だと信じ、救いを求めてしまった。
それでも蓋を開けてみれば、新たなる絶望を世界に撒き散らすだけの存在でしかなかった。
「私は…自分に都合の良い理想像だけを…貴方に押し付けていただけだったのね」
「確かに俺は東の人々を救ったのだろう。だが…それを遥かに超える他の人々が犠牲となる」
「それが…尚紀さんがもたらした、神浜人権宣言の正体だったのね?」
「論点のすり替えと呼ばれる手口さ。西側の劣等生を指摘すれば、後はこちらのものだった」
「確かに…あの時に行われた会議の趣旨内容と、尚紀さんが持ち出した話は…関係なかったわ」
「誰かがこう言えば、俺が用いた論点のすり替えなど簡単にひっくり返せたのさ」
――今、その話はしていない。
全く別の話題を持ち掛けて、西側被害者達の気持ちの矛先をすり替える。
気が付けば、加害者ではなく被害者達こそが悪人なのだと仕立て上げられてしまったのだ。
「俺は…お前が語った希望の光なんかじゃない。インキュベーターと変わらない…詐術師さ」
重苦しい沈黙が夜の海沿い通りを支配する。
被害の復興は進んでいくが、それでも人々は外出を自粛しているため人通りは見かけない。
2人だけの重苦しい空間であった。
「…告白してくれた気持ちは嬉しい。それでも…俺はお前が考えている理想なんかじゃない」
真実をみたまに語り、恋心を諦めてもらいたい。
それこそが尚紀の出した答えであり、独りで彼女の元にまでやってきた理由。
彼が出した結論とは、丈二に語った言葉通りであり大多数の男達が同じ答えを出すだろうもの。
私と仕事、どっちが大事なの!
この問題を上条恭介と同じく、尚紀もまた乗り越える事が出来なかった。
これを克服し、両方手に入れられる答えを用意出来なかったのだ。
俯いたまま無言で悩み抜くみたまの姿を見ていると、美樹さやかが語った言葉が脳裏を過る。
――あたしは二者択一なんて気に入らない!
――男なら…両方手に入れてみせなさいよね!
それと同時に、クーフーリンから語られた言葉も過る。
――そのような態度はそもそも女性の性質だ。男性が考えるべきではない。
――男に従わされることによって得られる幸福という概念を考えないのか?
(確かに…クーフーリンが出した答えならば、仕事と女、両方を守ることも出来る…しかし)
女性の立場を考えてしまう。
夫天下のような状態にされてしまった女性の気持ちに寄り添う感情が強くなる。
クーフーリンに言わせれば、それこそが女々しい態度なのだと切り捨ててきた。
仕事と女、両方を満足させられない苦しみに悩む心優しい男達。
だが、そもそもその概念そのものが
「みたま……?」
俯いた顔を上げ、彼女は立ち上がる。
尚紀の前に立ち、決断する表情を浮かべながら口を開いてくれた。
「私の答えはきっと…大勢を怒らせると思う。それでもね…やっぱり私は…貴方に感謝したい」
意外な答えを返され、俯いた顔を彼も上げたようだ。
「私たち東の人々が救われても…今度は移民問題によって東西中央の人々が苦しむのは分かるわ」
「なのに…どうしてお前は感謝を述べてくれるんだよ?」
「私はね…東にもたらされた差別に苦しんできたわ。でも…貴方が差別を解放したのは事実なの」
「それは結果論だ。俺のやったことなんて…ただの詐欺師なんだよ」
「それでもね…そんな優しい詐欺師さんなら…私は愛していけると思う…」
優しい詐欺師と言われた時、暁美ほむらの事を思い出す。
彼女もまた理不尽な現実を覆すために、世界を騙す詐欺師となる道を選んだ悪魔であった。
「みたま……」
あの時と同じようにして俯き、頬を染めている。
彼女の気持ちは真実を語られ様とも、微塵も動かなかった。
尚紀も立ち上がり、彼女と向き合う。
潤んだ瞳を向けてくる彼女に向けて、自分の答えを示すしかない。
「俺は多忙な社会人であり、NPO法人の代表であり、今でも東京の守護者を務める者だ」
「分かってるわ…デートする暇も無いことぐらい。それでも、貴方について行きたいの…」
「その気持ちは…俺に向けられた信頼と尊敬なのか?」
「その通りよ。私は尚紀さんを尊敬しているし…私を幸せにしてくれる人だと信頼しているわ」
差別から解放される実績を女性に示したため、信頼しても良いという判断を下せる女性の気持ち。
これこそが、求愛を求める男達が本当に求めなければならない…男女関係なのではなかろうか?
彼女の気持ちは本気である。
だが、それでも尚紀には尚紀の正しさというものがあった。
「少し…海でも見物しないか?」
通りを歩き、海が見える位置にまで進む。
みたまも横に並び、2人は静かに海を見つめいていた時に…彼の気持ちを聞かされたのだ。
「俺はな…まだみたまを救えてなんて…いないと思うんだ」
「そんなことないわ!差別から解放された時…私の心がどれだけ救われたと思ってるの!?」
「しかし…お前の生活面ではどうなんだ?」
「生活面…?」
「東の人々が差別から解放されようとも、賃金は低いまま。物質的な豊かさは得られていない」
「それは……そうだけど」
「俺はな…本気でお前の事を救ってやりたい。詐欺師などではなく…本当に救う者になりたい」
「尚紀さん……?」
振り向く尚紀の表情には、決断の感情が宿っている。
「俺な……東京の魔法少女社会が安定してくれたなら、目標があるんだ」
「目標?」
「探偵を続けるのも良かったんだが…それでは社会を救えない。だからこそ…目指したい」
――
彼の高過ぎる目標を聞かされたみたまは、驚いてきょとんとしてしまう。
「今の日本の政治など…売国者共がもたらす圧政だ。だからこそ、俺が日本を変えてやりたい」
「尚紀さんは…私だけでなく…生活に苦しむ全ての魔法少女達まで救いたいというの…?」
「それが俺に出来る贖罪だ。生活と差別に苦しむ原因を見ないまま…俺は魔法少女を虐殺した」
東京の魔法少女社会、そして神浜の魔法少女社会。
どちらの社会にも根底にあったのは…日本政府がもたらしてきた圧政による苦しみだった。
「お前はあの時、俺に言ったよな?本当は愛する人達と生きたいと」
「尚紀さん……」
「俺はお前に幸福を与えてやりたい。お前を含めた、全ての人々の生活水準を上げてやりたい」
後頭部を掻き、照れた表情を尚紀は浮かべる。
「これが俺に出来る精一杯の愛情表現だ。それはきっと…女が考えていた幸福とは違うのかもな」
偉大なる男の優しさは、個人の狭い関心事を遥かに超えた次元にあった。
彼が幸せにしてあげたい女とは、全ての魔法少女どころか、人間の女にまで向けられている。
それはきっと、東京で救ってあげられなかった少女と、その母親までも含めているのだろう。
尚紀の優しさに触れたみたまの胸が激しく締め付けられる。
女としての願望を望みたい気持ちと、尚紀の道の果てにある景色を見てみたい願望がせめぎ合う。
「……尚紀さん」
「済まない…みたま。俺の答えはきっと、お前の気持ちを拒絶して付き合うことを……?」
駆けだした彼女は尚紀の胸に顔を埋めてくる。
「…分かったわ。貴方を独り占めにしちゃったら…他の子達が怒り出すものね」
――尚紀さんの愛は…
すすり泣く彼女を片腕でそっと抱き締めてやる。
美樹さやかがこの光景を見たら、きっと激怒するかもしれない。
上条恭介と同じような選択を望み、女個人よりも全体が望むことを優先するからだ。
しかし、果たしてそれだけなのであろうか?
上条恭介と呼ばれる少年は…本当に私欲のためだけにヴァイオリンを演奏するのだろうか?
美樹さやかは聞いたことがある筈だ。
皆が彼の演奏を望んでいた景色を見た事がある筈だ。
彼がもたらす音色の幸福とは…美樹さやかを含めた全ての人々のための音色。
これこそが上条恭介が人生を捧げてもいいと思える程の仕事であり、生き甲斐だ。
たとえ付き合ってくれている彼女を放置しようとも、彼女を含めた全てのために働くだろう。
それによって得られた自信と報酬によって、妻となった仁美を幸せに導く道だってあってもいい。
男が女を娶り、幸福にするというのが恋愛だと皆が言う。
しかし、男がもたらす愛とは本当にセックスという求愛行為しか無かったのであろうか?
性的な欲情を遥かに超えた次元にまで精神を磨き、その代わりに無条件に愛してくれる人を探す。
それこそが、男が求めるべき愛の形なのではなかったのか?
古き時代を生きたクーフーリンは、尚紀に伝えてくれた。
平成30年間によって忘れ去られてしまった、日本人が求めてきた家族の在り方を伝えてくれた。
伝統的な道徳観とは何か?
それは…人類が長年に渡って蓄積してきた、
しかし、国家や民族、伝統や歴史を破壊しようとする左翼団体が世界中に存在している。
彼らが撒き散らす自由と平等思想こそがフェミニズムであり、自由なセックスであった。
「たとえ…尚紀さんの一番になれなくても…私は貴方にずっとついていく。ついて行かせて…」
「ありがとう…分かってくれて。お前は美樹さやかよりも、考え方が大人なのかもな」
「フフッ♪この前調整屋に来てくれた美樹さんは14歳だったわね。きっとこれからなのよ…」
「そうだな…。いつかあいつにも、俺達の先祖が残してきた愛の形に気が付いてくれるさ」
話を終えた2人の姿が通りから消えていく。
そんな彼女達の姿を遠くの茂みから監視していた少女の姿があった。
「尚紀さん……調整屋……そんな関係だったなんて……」
隠れていた人物とは、みたまの親友である十咎ももこ。
南凪区に用事で訪れていたところでみたまの魔力を感じ取り、現場に訪れてしまったようだ。
遠くで隠れていたためか、彼女は会話内容が聞こえていない。
だから勘違いをしてしまう。
海が見える夜の景色で抱きしめ合う男女の姿。
それは年頃の少女ならば、こう見えるだろう。
恋人同士の姿として。
「べ…別にいいじゃん!尚紀さんと調整屋が付き合ってたって…アタシは全然気にしてないし…」
空元気を出そうとするが、体は震えている。
頭の中では否定しても、心の中にはどす黒い感情が噴き上がってくる。
「ち…違う…!アタシは…アタシは別に……怒ってなんていないんだから!!」
耐えられなくなり、彼女もまた街の明かりの世界へと駆けだしていく。
その光景はまるで…東京で儚く散ったはぐれ魔法少女達と同じ光景に見えてしまう。
普通の恋愛を望んだだけで、大切な魔法少女と関係が壊れてしまった悲劇。
ももこの胸の内に噴き出すどす黒い感情とは…普通の恋愛を望む感情ではなかった。
時女一族編のプロットが暗礁に乗り上げ、過去話の加筆修正してましたがメンタルをやられました。
なのでリリスの話に決着をつけたくなったので、常盤ななか編をスタートしていきますね。