人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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173話 自己犠牲精神

中央区にある無料セミナーから出てくる大勢の少女達。

 

その中には美雨と令の姿も見える。

 

同性愛派閥である魔法少女達の中に混じり、女性学講座を受講していたようだ。

 

2人の顔が疲労感に包まれているのは、セミナーの中でももこ達を見つけたからだけではない。

 

女性学講座という名のフェミニズム思想を長時間聞かされただけでも精神的にきつかったようだ。

 

離れた場所にあった公園のベンチに座り、2人揃って大きな溜息をつく。

 

「休憩時間中にももこさん達を説得出来るかと思ったけど…甘かったね」

 

「連中…梃子でも動かぬ態度ネ。よほどフェミニズム思想を気に入たと見えるヨ」

 

「女性のための権利運動…聞こえは良くてもね、観鳥さんは男女平等なんて不可能だと思う」

 

「どうしてそう思う?何か根拠があるのカ?」

 

「想像してみてよ。例えば、女が男社会の定番ともいえる肉体労働に従事した時のことを」

 

「私は力持ちネ。肉体労働を辛いとは思わなかたヨ」

 

「そう思えるのは、美雨さんが魔法少女だからさ。普通の女性は体を鍛えても男には敵わない」

 

女は男に敵わないという例として令が語るのは、米軍女性兵士問題についてだ。

 

米軍は、戦争には女性は参加しないという法律を曲げて女性兵士を採用している。

 

男性兵士だけでは数が足りないというのは表向きの理由に過ぎなかった。

 

「イラク戦争に参加した女性兵士の証言ではね、支援任務ではなく前線に行かされたそうだよ」

 

「女を戦場のど真ん中に行かせるのカ…?米軍は狂てるヨ…」

 

「イラク戦争では既に…戦闘においての男女の区別がなくなってしまっていたんだよ」

 

「魔法少女でもない女が戦場に行て…何が出来るネ?」

 

「フル装備重量を纏うだけでも難しい…肉体能力が男性と比べても極端に弱いのが女性なんだ」

 

「米軍まで…フェミニズムの実験場にされてしまたと言うのカ?」

 

「アメリカの指導者達が自然の定義を変えてしまったせいで…女性兵士達が犠牲になったんだ」

 

イラク戦争の従軍経験がある女性兵士に起こった出来事を令は語ってくれる。

 

入隊したのは経済的に困っていたからであり、男の職場である前線に行きたかった訳ではない。

 

砲兵隊に配属されても、重い砲弾を持ち上げたり装填する事も出来ないし重いレバーも引けない。

 

軍曹達に男のように厳しく扱われても、女性兵士はついていけずに毎日立たされた。

 

脅したり罰したりすれば男に出来ると思われたため、女性兵士は囚人のようにされてしまう。

 

最後にはセックスの相手にされかけたが拒絶したため、前線女性の存在価値は消えてしまった。

 

女の能力は男の職場では何一つ通用しなかったのが現実だったようだ。

 

「保守活動家達は…米軍の男女の役割分担に関する新方針は女性差別だと非難してきたんだ」

 

「そういえば、人間だた頃の私も荒稽古してたら疲労骨折したネ。でも…他の男達は耐えれたヨ」

 

「それが現実なんだよ。生物学的に男女平等なんてありえない…男女の役割は分担するべきだ」

 

「でも、フェミニスト達はそれを認めないネ。家事等の役割分担こそ女性差別だと叫ぶ連中ヨ」

 

「本当に頭がイカレてる左翼思想さ…。こんなんじゃ女性のためじゃなく、女性を貶める思想だ」

 

「それに気が付かないももこ達はウスラトンカチネ。虚言と虚構の世界を見ているだけヨ」

 

「何か…現実を棚上げしてでも、フェミニズムに縋りつきたい事情があると考えるべきかな?」

 

「正面から聞きに行て、教えてくれる連中では無さそうネ」

 

「いつの時代も…人間の弱い部分につけこむ詐欺師は多い。キュウベぇ然りさ」

 

会話を終えた2人が席を立ち上がり、移動していく。

 

神浜の魔法少女達にフェミニズムを撒き散らす連中の後を追うためだ。

 

2人が公園から姿を消し去った後、白い犬が茂みの中から出てくる。

 

(アイツラノ匂イハ覚エタゾ。尾行サセテモラオウカ)

 

2人と一匹の捜査活動が何日か続いていく。

 

今日の講義が終わった時、美雨と令は講師を務めていた人物達に不審な動きがあるのを見つける。

 

廊下で誰かと連絡しているのを影で隠れながら聞き耳を立てていた。

 

「ええ、フェミニストとしての洗脳は上手くいってます。連中は気が付いていません」

 

女講師が語っている内容とは、フェミニズムによって導き出されたキャリアウーマン像の教育だ。

 

専業主婦とは男に依存する寄生虫であり、たかり屋の居候に過ぎない極潰しと男は考えている。

 

女性は自らの価値を高めるために労働に従事し、女性の性を武器にしなければならない。

 

現実的な人間となり、どんなことでもやるという覚悟を持たなければならないという洗脳だった。

 

「これによりセックスは女の武器となる。不倫は文化となり、上司を脅す武器としても使えます」

 

同性愛者達の我儘を正当化するための教育内容も語っていく。

 

さっさと男を見つけて子作りしろ、それが女の役目だという伝統は女性差別である。

 

知的で自立した女性像を嫌う伝統的な異性愛者とは、女性を所有物だと考える独裁者である。

 

男に尽くさせられ、本音を言う事も知性をひけらかすのも認めない男社会を許すべきではない。

 

人間らしく生きる事にこそ喜びを求め、それが女性の真の喜びへと繋がるという洗脳内容だった。

 

「女を精神的に中性化させる。これにより男嫌悪は加速し、男女家族制度を崩壊へと導けます」

 

徹底した女性天下と、百合(リリス)の間に挟まりに来る強姦魔としての男性を貶める教育内容。

 

まさにアダムへの復讐を望むリリスの思想が具現化したような内容だった。

 

()()()()()()()()()()()()。我儘な女を正当化させる精神誘導教育…男は女を憎むでしょうね」

 

徹底的に男と女を潰し合わせる光景こそ、旧約聖書の創世記の光景。

 

アダムとリリスのいがみ合いは時を超え、21世紀の現代社会にまで蘇っていく。

 

リリスの役目を託された存在こそが女性(リリム)であり、魔法少女達であった。

 

「セミナーに参加する魔法少女達の洗脳も段階を進めていいと思います。ええ…分かりました」

 

通話を終えた女講師が歩き去って行く。

 

物陰から監視していた美雨と令も動き出す。

 

「令、音声レコーダーアプリで録音出来たカ?」

 

「距離があったから不安もあるけど、後で確認してみよう」

 

「フェミニズム…その狙いは男女社会を崩壊させる目的なのは間違いなさそうネ」

 

「男性、女性の区別を崩壊させるユニセックス洗脳…それこそがフェミニズムだったんだよ」

 

「あの講師…魔法少女の存在を知てる奴だたヨ。何者ネ?」

 

「魔法少女の存在を知ってる存在は限られている…まさか、あの講師は悪魔なの?」

 

「ナオキ同様、人間に擬態されては魔力を探れないヨ。尻尾を掴む必要があるネ」

 

「そうだね…。魔法少女達を洗脳して…何をさせるつもりなんだろう?」

 

「どうせロクでもない事に使うに決まてるヨ。神浜をテロで焼いた連中は…魔法少女ネ」

 

「悲劇を繰り返させる気か!?こうしちゃいられない…常盤ちゃんに報告に行かないと!」

 

「情報がまだ足りないヨ。あの講師が悪魔なのかを確認してから向かうネ」

 

ビルから出て来た2人は何処かに向かって行く女講師の後をつけていく。

 

「路地裏に入ていくネ」

 

「あの路地裏の道は行き止まりだった筈だけど…」

 

「私達も注意しながら後を追うヨ」

 

女講師の後を追うために2人も進んで行く。

 

それは迂闊な行為。

 

悪魔達は魔法少女の魔力を感じとる力を持っている。

 

「美雨さん!?」

 

後ろを見れば、異界結界が広がり路地裏の出入り口が閉じられてしまう。

 

「やはり…悪魔だたカ!!」

 

一直線に伸びる異界の路地裏世界。

 

周囲には蜘蛛の巣が張り巡らされ、触れれば相手の動きを拘束するだろう。

 

<<何日か前から繰り返していた尾行には気づいていたわよ、おばかさん共が!>>

 

「上ネ!!」

 

痛覚を取り戻した事により、美雨の肌感覚は研ぎ澄まされている。

 

奇襲攻撃を回避するため令を抱えて跳躍移動。

 

背後から音が響く。

 

地面を切断する音を響かせたのは…両腕が鋭利な刃物と化した女性悪魔の一撃。

 

【アルケニー】

 

ギリシャ読みではアラクネと呼ばれる悪魔であり、糸を紡ぎそれに吊り下がる蜘蛛女。

 

元々は小アジア(現在のトルコ)のリュディアに住んでいた機織りの名人であった人物。

 

工芸の女神としても知られるギリシャ神話のアテナに機織り勝負を挑まれる事になったという。

 

アルケニーが用意したのは男性権威を象徴するゼウスを罵倒する織物。

 

それに激怒したアテナはアルケニーを打ち据え、死体に魔法の薬をかけて蜘蛛姿に変えたという。

 

「あんた達の不真面目な態度は見ていたよ。フェミニズムには興味が無いって顔してたでしょ?」

 

全裸の黒髪女性悪魔ではあるが、獣の両足と両腕はカマキリを彷彿とさせる程の巨大な刃をもつ。

 

女性器辺りから伸びるのは蜘蛛糸であり、これを用いて上空からの攻撃を得意とする悪魔である。

 

ソウルジェムを掲げた二人も魔法少女へと変身し、鉤爪とバズーカを構えた。

 

「何を目的にして魔法少女達にフェミニズムをばら撒く!?答えてもらうよ!」

 

「男に媚びを売りたい男みたいな魔法少女なんぞに教えるわけないでしょ!」

 

「男に味方しただけでホモ恐怖症だの名誉男性だのと…フェミニズムは我儘の極みネ!!」

 

「それを望む女性は多くいるってわけ。全ては男共のせいだからね~女性を抑圧するからさ!」

 

男を憎むアルケニーは男に味方する女も許さない。

 

彼女は男性権威を罵倒しただけで男神に味方する女神に殺され、蜘蛛姿に変えられた者だ。

 

両腕の刃を打ち鳴らし、女性器から伸びる蜘蛛糸を使って空中に上っていく。

 

「逃がさない!!」

 

武器を上に向けて構え、拘束するための弾を撃とうとした時…頭上から感じる魔力の数に気づく。

 

「あははは!!あたし一体だけしかいないと思ったわけ?」

 

「こいつらは…全員同じ悪魔カ!?」

 

蜘蛛の巣が張り巡らされた上空に浮かぶのは複数の真紅の瞳。

 

全てがアルケニーであり、周囲は囲まれてしまっていたようだ。

 

「あたし達悪魔は概念存在。望めばこうやって分霊を用意することだって出来るのさ!」

 

空中で鳴り響く刃の音が宣言する。

 

男に媚びを売る裏切り者の女共の首を跳ね落としてやると。

 

「来るネ!!構えるヨ!!」

 

「ここで死ぬわけにはいかない!魔法少女をテロリストにされるわけにはもういかないんだ!」

 

アルケニー達の口が開き、吐き出されたのは無数の毒針攻撃。

 

神浜市で再び暗躍する悪魔勢力との戦いが始まっていく。

 

悲劇を繰り返すわけにはいかないと美雨と令は誓うのだ。

 

神浜テロの裏で暗躍していた悪魔共に好き勝手されるのを、これ以上は許さない者達であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

異界化したことにより、路地裏の光景は異質さを増している。

 

そこまで奥域が無かった筈なのに、向こう側が見えない程にまで伸びた異次元空間。

 

しかし、一直線の通路であるため逃げ道が狭い。

 

上を取られてしまっているため、2人は毒針の雨を後ろに向けて逃げ続けるしかない状況だ。

 

「向こうが地の利を使うなら…こちらも使うヨ!!」

 

「何をする気なんだい!?」

 

「逃げ道が無いなら作れば良いだけネ!!」

 

美雨は両手に身に付けた鉤爪を用いた攻撃を放つ。

 

狙う相手とは、彼女達の逃げ道を塞ぐ異界ビルの壁であった。

 

「ハァッ!!」

 

左右の手から繰り出した袈裟斬りと逆袈裟によって壁が切断され道が出来る。

 

「その手があったか!」

 

令もバズーカーを横に向けて構え、隣ビルの壁を破壊。

 

2人は左右のビル内にそれぞれ入り込み、毒針の雨から姿を隠す。

 

「チッ!逃がさないわよ!!」

 

路地裏上空に張り巡らせた蜘蛛の巣で陣取っていたアルケニー達も動き出す。

 

階段を駆け上り、女悪魔が陣を張る側面から奇襲を仕掛けようとする魔法少女達。

 

「ジャーナリストは粘り強い集中力と体力勝負ってね!」

 

階段を軽快に駆け上る令であったが、悪魔化した存在の魔力を感じとる。

 

踊り場に上り切る前にバズーカを構え、迎え撃つ。

 

壁を切り裂き現れたアルケニーの一体に向けて魔力を込めたロケット弾を放つ。

 

「シャーーッ!!」

 

口を開いたアルケニーが蜘蛛の糸を吐き出す。

 

ロケット弾が蜘蛛の糸に絡み取られ、蜘蛛の巣で受け止められる形で弾は静止させられてしまう。

 

「物騒な武器を使うじゃない?今度はこっちから…!?」

 

アルケニーは令の動きを見て動揺する。

 

あろうことか首元にぶら下げたカメラを向け、撮影を行おうとしてくる。

 

「写真写りが悪そうな被写体だけど、観鳥さんに任せなよ!」

 

「小娘!?何をす…る…!?」

 

気が付いた時にはもう遅い。

 

アルケニーの姿は一枚の写真内に封印され、紙切れとなって宙を舞う。

 

「このショットで炎上してもらう!!」

 

再びバズーカを構え、ロケット弾を発射。

 

蜘蛛の巣で絡み取られたロケット弾に次弾が命中し、アルケニーを閉じ込めた写真ごと爆発。

 

観鳥令が得意とするマギア魔法である『絶対炎上観鳥砲』の一撃が悪魔の一体を倒す。

 

しかし、場所が場所なだけに悪手であった。

 

「アアァーーッッ!!?」

 

狭い場所での爆発物行使は己の身にも危険を招く。

 

あわや爆発に巻き込まれるかと思ったが、爆風に弾き飛ばされ壁に激突していたようだ。

 

「参ったな…。観鳥さんの魔法武器は閉所だとこうも使い辛いなんてね…」

 

回復魔法をかけているのだが、相手は休ませてくれる気など毛頭ない。

 

次々と壁を破壊してビル内に侵入してくるアルケニーに向け、観鳥令の奮戦は続くのだ。

 

同じように階段を上っていく美雨にも危険が迫る。

 

「来るカ!!」

 

気配を感じ取った美雨が武器を構える。

 

「死ねぇぇぇーーッッ!!」

 

壁を切り裂きビル内に入って来たアルケニーの一体が袈裟斬りを仕掛ける。

 

左手の鉤爪で受け止め、続く相手の逆袈裟を逆の鉤爪で受け止め鍔迫り合いとなった。

 

「お前たち悪魔は魔法少女達に何をさせる気ネ!!」

 

「あの子達はリリス様の望みを果たす道具…男の権威を貶めてくれる愛しい娘達なのよ!!」

 

「リリス…?それがお前たちの親玉悪魔の名前カ!」

 

「リリス様は望んでいるし、あたしも望んでる!男共を根絶やしにして女性世界を生み出すと!」

 

「男みたいな女と…女みたいな男しかいない世界を生みだすのは…男への復讐のためか!」

 

「そうよ!それがリリス様の復讐…旧約聖書の創世記の頃より続く…()()()()()()()よ!!」

 

「そうはさせないヨ!!」

 

「百合(リリス)を裏切る名誉男性め!!そんなに男が好きかぁーっ!!」

 

右腕の刃を持ち上げ叩きつけようとするが、先に決まったのは美雨が仕掛けた頭突き。

 

鼻骨を砕かれ、鼻血を撒き散らして怯んだアルケニーに迫りくる連撃。

 

左肘打ちが右側頭部に決まり、踏み込みから放つ縦肘打ちが顎を打ち上げる。

 

「ガッ…!!」

 

崩れて倒れ込みそうなアルケニーの視界に映ったのは、渾身の一撃を構えた美雨の姿。

 

「ハイッ!!!」

 

片膝を上げた状態で地面を踏み抜く震脚を放つ。

 

反動を利用した裏拳落としが放たれ、後頭部に決まった。

 

後頭部を砕かれたアルケニーが倒れ込み、トドメの下段踵蹴りが頭部を潰す。

 

MAGを放出して消滅するアルケニーを背に、美雨は階段を駆け上り廊下に飛び出すのだが…。

 

「調子に乗るなよ男みたいな魔法少女めーッッ!!!」

 

廊下に陣取っていた複数のアルケニー達の魔眼が瞬膜と化す。

 

放たれた魔法とは魅了魔法であるマリンカリン。

 

「うっ!?」

 

美雨の両目が濁っていき、動きが止まってしまう。

 

「トドメーーッッ!!!」

 

獣の如く迫りくるアルケニーの一体が右腕を振り上げ、美雨の首を両断。

 

「ざまぁみなさい!!男に味方するか…ら……?」

 

視界が下に向けて落ちていく光景に疑問を持つ。

 

首を跳ね落とされていたのはアルケニーの方である。

 

アルケニーの一体が消滅する光景に動揺する他のアルケニー達。

 

「ギャァーーッッ!!?」

 

「これは…まさか!?グアァーーッッ!!?」

 

次々と切り捨てられていくアルケニーはようやく気付く。

 

美雨もまた相手を幻惑させる魔法行使を得意とする相手だったのだと。

 

「女性世界という、くだらない夢の世界から目を覚ますネ」

 

先に決まっていた事実偽装を用いた幻惑魔法によって、残すアルケニーは後一体。

 

「くっ…うぅ……!!」

 

後ずさり、向こう側で戦っている他のアルケニー達に念話を送り合流を促す。

 

迫りくる美雨は怒りの表情を浮かべながら質問してくるのだ。

 

「世界中にフェミニズムを撒き散らして男に復讐する。リリスの復讐の果てにあるのは何ネ?」

 

「ククッ…決まってるでしょ?核家族の崩壊、男女恋愛の消滅…そして()()()()()()()()()よ!」

 

「子供を産まない社会?」

 

「貴女も女子学生なら見てきた筈よ。男子学生達の変化に気が付かなかったの?」

 

「どういう意味ネ?」

 

「変革された男はね…女を性的に見るか、女そのものに興味が無くなっていく連中ばかりなのよ」

 

アルケニーは時間を稼ぐために語っていく。

 

「男が女に惹かれる精神構造を知っているかしら?」

 

「…可愛い美少女とかに興味を持つことカ?」

 

「アッハハ!!貴女も我々のメディア洗脳を受けているわね!違う…男が女に感じる魅力とはね」

 

――古来から続く男の本能……()()()なのよ。

 

女性の本能とは、受け身である。

 

所有され、価値ある目的に使われたいと望む精神構造をしている人間なのだ。

 

女性は自分が必要とされていないと感じると、ジェラシーを感じてしまう。

 

愛されていないと感じると素っ気なくなり壁を作る状況ならば想像しやすいだろう。

 

「我々の教育とメディア洗脳によって、男は女をリードする方法が分からなくなっていったわ」

 

自分のペースでゆったり過ごせば女性の方から勝手についてくる。

 

そんなミスリードを生み出し、気が付けば貴重な青春を無駄にしている男性で溢れかえる。

 

男達はそれでも焦りもせず、性的欲求ならばアイドル産業やポルノ産業で満足してしまう。

 

益々男は女を必要としなくなり、リードしてくれない男など女側も必要としなくなる悪循環。

 

無理やり結婚したとしても、セックスレス夫婦になる未来しか見えない光景であった。

 

「骨抜きになった男共でもね…それでも本能は捨てられない」

 

「それが…好きになった女子をモノにしたいという…所有欲なのカ?」

 

「男は望んでいることを女に伝え、従ってもらおうとする。それが叶えば男は女を深く愛するわ」

 

古来の女性は、男性に従うことで愛情を表現してきた。

 

女性が自分についてきてくれる事ほど嬉しいものはないと考えるのが本来の男性である。

 

年齢で劣化していく外見やセックス等では、男女関係を繋ぎ留める事など出来ない。

 

「自分のために尽くしてくれる相手に愛情を抱く。古来より愛を証明する証とはね…」

 

――男と女の()()()()()()だったのよ。

 

男性もまた仕事をして家族を養い、愛情を与えて道を示すことで自分を犠牲にする愛を示す。

 

両方が利己的になってしまえば、男女が愛情を示す道は永遠に閉ざされるだろう。

 

「まさか…それがフェミニズムの…リリスの目的だたのカ!?」

 

「その通りよ!リリス様は()()()()()()()()()()()()()()()事を所望されていらっしゃるわ!!」

 

――傲慢の罪を象徴されるお方…大魔王ルシファー閣下のように!!

 

「そこまで男を憎むのカ…リリスと呼ばれる悪魔は!!」

 

「リリス様はね…男であるアダムと天使から虐げられたわ。だから子供を殺す悪魔になられたの」

 

「アダム…?聖書の世界の話は…現実にあたと言うのカ?」

 

「そうよ。リリス様は男女から生まれる子供を殺すお方…でもね、()()()だと言われたの」

 

邪悪な笑みを浮かべたアルケニーが語るリリスの企みとは…あまりにもおぞましかった。

 

「産まれる子供を直接殺し続けるのも…めんどくさい。だったら、いっそのこと…」

 

――男女の子供なんて、最初からこの世に産まれなくなればいい。

 

高笑いを上げて美雨を挑発してくるアルケニー。

 

美雨は眉間にシワが寄り切り、憤怒の表情を浮かべていく。

 

「これ程までの邪悪な存在…生まれて初めて見つけてしまたヨ!!」

 

「邪悪な存在ですって?魔法少女だってフェミニズムを望んでいる筈よ!!」

 

――だって魔法少女社会は、百合(リリス)を崇めるレズビアン社会じゃない!!!

 

「黙るネッッ!!!」

 

両手の鉤爪に魔力を纏わせる。

 

もはや援軍は間に合わないと判断したアルケニーは最後の攻勢を仕掛ける構え。

 

「男に味方する魔法少女に終わりを与えてあげるわ!!」

 

両手の刃を交差させて放つのは、悪魔の風魔法であるマハザンマ。

 

迫りくる無数の風の刃に対し、美雨は両手の鉤爪を振り上げる。

 

「終わりの時は近づいているネ!!」

 

「何ですって!?」

 

彼女が放つ魔法とは、同じく風を放つ魔法。

 

噴き上げる風の竜巻が風の刃とぶつかっていき、強い強風で目も開けていられない。

 

「くぅ!!」

 

両手の刃を地面に突き刺し耐えていたのだが、目の前に現れた存在に目を向ける。

 

「それはお前の方ヨ!!」

 

風に舞う柳のような宙返りを用いて接近した美雨。

 

両手の鉤爪を交差させ、纏う風を放射するようにして払う動きを見せた。

 

「この一撃が…私が積み上げたクンフーネ!!」

 

放たれた一撃こそ、美雨が得意とするマギア魔法である『鷹影爪風斬』の一撃。

 

<<アァァァァーーーッッ!!!>>

 

竜巻に飲まれたアルケニーの体が風の刃によって細切れにされていく。

 

マギア魔法を放つと同時に後方に跳躍した美雨が着地。

 

目の前に広がっていたのは、竜巻に飲まれたアルケニーが消滅する際に放ったMAGの光だった。

 

「こちら側は…全滅させたようネ」

 

アルケニーから語られた話の内容で混乱してしまうが、令の無事を優先するために念話を送る。

 

<令、そちはどうネ?>

 

<大丈夫、こっちも全員始末出来たよ。だけど…>

 

<どうかしたのカ?>

 

<観鳥さんはうっかりしてたみたい…。録音してたスマホを落として壊してしまったよ>

 

<物的証拠が無くなてしまたカ…仕方ないネ。状況証拠だけでもななかに持ち帰る事にするヨ>

 

異界結界が解けた路地裏から美雨と令は駆け足で出てくる。

 

その光景を見守っている動物がビルの屋上には存在していた。

 

「アノ小娘共…思ッテイタヨリモ強者デアッタヨウダ」

 

白い大型犬の姿をしているのは、尚紀の仲魔であるケルベロス。

 

彼女達を影から守るために異界世界にも現れていたようだ。

 

「アルケニーハ言ッテイタナ…リリスモマタ、コチラノ世界ニ召喚サレテイルヨウダ」

 

目を瞑り、かつての世界であるボルテクス界の記憶を思い出していく。

 

「カグツチ塔ニ現レタリリス共ハ分霊デアッタ。ソレデモ…魔王ノ如キ力ヲモツ悪魔デアッタ」

 

ケルベロスは不安を感じてしまう。

 

もし、この世界に召喚されたリリスは本霊であったのならばと。

 

「モシソウデアッタナラ…魔法少女ガ敵ウ相手デハナイ。地球ソノモノサエ滅ボセルダロウ」

 

ケルベロスもビルから跳躍して駆け抜けていく。

 

「人修羅ヨ…此度ノ戦ハ魔法少女ダケデハ分ガ悪過ギル。我ラモ動クシカアルマイ」

 

ケルベロスの知らせを受けた尚紀もまた動き出すことになるだろう。

 

かつての世界であるボルテクス界での戦いが再び始まろうとしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「やっちゃんの大学構内で…大量の行方不明者が出たですって!?」

 

声を荒げたのは、みかづき荘のリビングに訪れている梓みふゆである。

 

隣にいるかなえや鶴乃、メルも暗い表情を浮かべてしまう。

 

「行方不明者は男女合わせて30人にも上るわ。全員が神浜市立大附属学校に在籍してる生徒よ」

 

「魔獣の仕業じゃないよね…?だって、魔獣は感情を吸い上げた人間を隠す事なんてしないし…」

 

「意図的な隠蔽行為…恐らくは、あたしやメルと同じ…悪魔の仕業だと思う」

 

「だとすれば…悪魔の狙いが何なのかは、同じ悪魔であるボクとかなえさんなら分かります」

 

深刻な表情を浮かべる2人が語るのは、悪魔が求める感情エネルギーであるMAGについて。

 

「ソウルジェム以外からでも、悪魔は魔獣のように感情エネルギーを吸い出せるんです」

 

「方法としては…分かり易いと思う。人間に与える拷問なんだ…」

 

「人間を拷問する!?」

 

「酷過ぎるよ…そんなの!!」

 

「その光景を見た事がある尚紀から聞かされた…。彼の親友も犠牲になって…辛そうだった」

 

「尚紀には…そんな辛い経験があったんだね…」

 

「それを今度は…私たちの学校に向けて行っている連中がいる。在学生として許さないわ」

 

「私も気持ちは同じですよ、やっちゃん」

 

「私だってやちよと同じだよ!絶対に許せない…悪魔にギャフンと言わせないとだね!」

 

「こんな時こそボクの出番!魔法少女時代の占い魔法は無くなっても…予知能力があります!」

 

「フフッ、やっぱりメルがいてくれると心強いわね。悪いけれど調べてもらえないかしら?」

 

「勿論ですよ~♪七海先輩とまた昔のように戦えるなんて…生き返れて本当に嬉しいです♪」

 

「あたしも付き合うけど、単独で動くなら新しい長にも連絡を入れておいた方がいいと思う」

 

「そうね…常盤さんも今は厳しい状態だし、動ける私たちで対処した方がいいわ」

 

「魔法少女はチームワークだね♪でもさ…このキメ台詞を言ってくれるももこの姿が最近…」

 

「そうですね…見かけなくなってます。レナさんやかえでさんもですよ?」

 

「あの子達の事も心配だけれど…今は行方不明事件に集中しましょう」

 

東の学校に通うメルはやちよの学校については詳しくないため、残って詳しく聞かされていく。

 

他の3人は帰っていくようだが、話題はももこ達の事を心配する内容となってしまう。

 

「鶴乃さんは同じ学校の高等部だし、ももこさんの姿を見てません?」

 

「私ね…ももこの件については、やちよの前では言い辛い話があったの」

 

「どういう事なんですか…鶴乃さん?」

 

「立ち話もなんだからさ…あそこで話し合おうよ」

 

場所を公園に変えて話し合いが始まっていく。

 

語られる内容とは、鶴乃と同じ神浜市立大附属学校高等部で生活しているももこについて。

 

「ももこはね、面倒見が凄く良い子でしょ?だからね…最近は周りからの相談事で忙しいみたい」

 

「どういう相談をされているんでしょうか?」

 

「それが…ね?私も噂で聞いただけなんだけど…」

 

鶴乃が語っていく内容とは、同性愛を望む女子高生達の悩み事について。

 

特に男性問題についての相談事を請け負っているようだ。

 

「ももこはね…同性愛を毛嫌いする男子生徒を…許さない子になったの」

 

「何ですって!?」

 

「あの子は人一倍正義感が強い子なのは認めるよ。だけど…今はそれがおかしい方向に向いてる」

 

聞かされていく内容によって、みふゆとかなえの表情は暗くなっていく。

 

「私の学校は女性差別を認めない。だから女性差別を監視する風紀委員会も設立されてるの」

 

「思想の自由が認められない独裁的な学校だったんですか…?やっちゃんの通う学校は…」

 

「ももこは風紀委員の手伝いもしてる。今の彼女はね…風紀委員みたいに男の子を取り締まるの」

 

「男の子を取り締まるって…同性愛を認めたくないって主張をしているだけなんですよね?」

 

「それが女性差別に繋がるって…あの子は信じて疑わない。先生達もももこを絶賛してるんだよ」

 

「教師達の後押しがももこさんの自信にも繋がるんですね?女性を守る正義を行っているって…」

 

「私…そんなももこの姿を見るのが苦しくて話し合ったの。だけど…物凄く怒ってきたんだ…」

 

「鶴乃さんの話すら聞いてくれないだなんて…何がそこまでももこさんを突き動かすんですか?」

 

「見当もつかない…。レナやかえでまで変わっちゃったし…訳が分からないよ…」

 

「…やちよに黙っていて正解だったよ。やちよは真っ直ぐだから…呼び出して説教すると思う」

 

「そんなことになったらさ…せっかく昔のように繋がり合えたのに…私…やだよそんなの…」

 

鶴乃は尚紀との約束を果たしただけだ。

 

神浜で暮らす魔法少女達を客観的に見てあげて欲しいと鶴乃は言われている。

 

だからこそ、自分の正しさの世界しか見ようとしないももこを客観視してあげただけ。

 

それでも、親友の言葉でさえ聞く耳をもってくれなかった。

 

その原因ならば、イルミナティがもたらす人間心理操作を例にすれば分かるだろう。

 

「あいつら……」

 

かなえは不快な表情を浮かべてしまう。

 

彼女は以前、ももこ達を見かけた時に立ち聞きしていた言葉がある。

 

――一体の悪魔が悪さしたら、悪魔全体が魔法少女の敵になるって言うのかよ!

 

――レナちゃんは外国人が犯罪を犯したら、外国人全員が犯罪者になるの?

 

(ももこ…レナ…かえで…アナタ達が語った言葉は嘘だったの?間違いに気づいた筈なのに…)

 

人間とはここまで視野狭窄になれる生き物。

 

何かの間違いを犯したら、今度は別の間違いを起こす。

 

自分は間違いを是正出来たという思い込みの自己愛が…さらなる間違いに繋がっていく。

 

人間は外部から与えられた情報を頼り、自分の正しさを()()()()()()

 

思考の蛸壺化を防ぐには、不快な話でも分析して検証する冷静な判断力を持つしかない。

 

しかし、そんな事をやる民衆がいるのだろうか?

 

日々の生活の忙しさに追われ、気が付けば流されていくだけの者に成り果ててはいないのか?

 

気が付けば仲の良い連中とだけつるんで、マウントをとりたいだけの者になっていないか?

 

みふゆと鶴乃と別れたかなえは…こんな言葉を残す。

 

「あたしが擦れた生き方をしてきたのはね…あたしの心を誰かに委ねるのが…嫌だったからさ」

 

周りの正しさにばかり振り回され、不良レッテルを張られて苦しんだ記憶が蘇っていく。

 

「教師だの…他人にどう思われるだの…それを心配している限り…アナタの心は()()()()()()

 

雪野かなえは迷わない。

 

彼女を導いてくれたのは、古き伝統の知恵を託してくれたやちよの祖母がいてくれたから。

 

「恥も外聞もない…。あたしの事を好きじゃない人を心配している暇も無い…」

 

――あたしの事を好きでいてくれる人を大切にするので…忙しいから。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「そうですか…。魔法少女達にフェミニズムをばら撒く者達の背後には…悪魔がいるのですね」

 

美雨と令からの報告を受け取っているのは、明日香の道場に来ている常盤ななか。

 

2人から悪魔達の目的を聞かされる彼女の表情は憂わしい顔つきになっていく。

 

ななかの隣にいるこのは達姉妹も動揺を隠せない様子だ。

 

「リリスと呼ばれる悪魔が背後で糸を引いている。それで間違いないのですね?」

 

「その悪魔は聖書に出てくる悪魔ネ。アダムの最初の妻である…あのリリスで間違いないヨ」

 

「悪魔は概念存在だというのを突き付けられますね。神話上の存在がこの世に顕界するとは…」

 

「リリスの目的はアダムとして生み出された男への復讐。そのために男社会を貶めるんだ」

 

「その尖兵にされるのが…人間の女性だけでなく、私たち魔法少女も含まれるのですね」

 

「ごめんよ…ななか。アタシも方々当たって交渉してきたけど…怒れる集団が相手だと厳しいね」

 

「お気になさらずに、葉月さん。私の治世のために尽力してくれただけでも嬉しいです」

 

「葉月の交渉でも折れない辺り…やはり彼女達を支配しているのは…」

 

「うん…それはエゴだと思う。感情に支配された相手だと交渉にならないんだよ…」

 

「葉月がおかしい部分を指摘しても…聞く耳を持ってくれないんだね…?」

 

「あの神浜騒動の時にエゴに飲まれる恐ろしさを皆が経験した筈。なのに…未だに克服出来ない」

 

皆の顔が暗くなっていく。

 

一番ショックを受けている人物がいる。

 

「かこ……」

 

あやめの隣に座っている夏目かこの表情は今にも泣きだしそうな顔つき。

 

自分が行ってきた教育政策に自信が持てなくなってしまったようだ。

 

「かこさん…自分を責めてはいけません。教育政策は時間がかかる分、効果が出るのが遅いです」

 

「…責任を感じてしまいます。尚紀さんに教育を託されたのは…過ちを繰り返さないためなのに」

 

「彼女達を信じるためにこそ任された教育政策。ですが…このまま放置するわけにもいきません」

 

「どうするネ、ななか?治世側の私たちの言葉を聞く気がないのなら…暴走しかねないヨ」

 

皆が神浜の新しい長に視線を向けていく。

 

目を瞑り、しばしの沈黙を続ける。

 

目を開けた彼女は声と表情を強張らせた状態でこう口にするのだ。

 

「…神浜テロの悲劇を繰り返すつもりはありません。いざという時は…武力を用いて鎮圧します」

 

ななかの決断に皆が動揺していく。

 

長の決断を不安に感じる美雨と令が彼女に質問するのだ。

 

「ななか…私と令はお前たちを見張るために治世側に立つ者ネ。忘れたとは言わせないヨ」

 

「常盤ちゃん…まさか、あの時と同じように…彼女達の命を奪う気なのかい?」

 

2人の質問に対して俯いてしまうのだが、顔を上げ真剣な表情を浮かべてこう返す。

 

「疑うのも大切ですが…信じる事も大切です。ですので、私は両方を試してみようと思います」

 

「ななかの独裁ではなく、話し合いの場を設けると言いたいのカ?」

 

「彼女達の言い分を聞いた上で、私達もまた此度の状況を彼女達に伝えていこうと思います」

 

「物的証拠を押さえられなかったのが痛いね…。決定的な証拠が無いんじゃ憶測扱いされる…」

 

「話し合い…聞こえは良くても無力な場合が多いです。行政でも無駄な会議が繰り返される程に」

 

「それでも…それが民主主義的な治世だと、私は信じるヨ。冷静な判断に感謝するネ」

 

「安心するのは早いです。私は彼女達を信じるために話し合いをしますが…無駄になるなら…」

 

美雨は背中に冷たいものを感じてしまう。

 

目の前にいるななかの瞳の中に感じてしまうものがある。

 

それは、尚紀と同じく人間社会主義者としての怒りの炎。

 

常盤ななかの父親であった男は、女である魔法少女に襲われて犠牲となり家族は崩壊。

 

魔法少女社会という女社会の犠牲者にされた人間の無念を尊重したい気持ちもあった。

 

「その時は…仕方ないネ。それでも、その時の私は拳だけで連中の相手をさせてもらうヨ」

 

「それが貴女の矜持でしたね…美雨さん。マフィア騒動の時の信念を貫くために…」

 

「あの子達にも…帰りを待ている家族や友達がいるネ。奪う者にはならないで欲しいヨ…ななか」

 

会議が終わり、皆が帰路についていく。

 

残っていたななかは明日香の父親が書道した掛け軸に視線を向けたままの状態が続いていた。

 

「これってさ…明日香さんのお父さんが書いたものなの?」

 

隣に残っていたのは葉月である。

 

大きく溜息をつき、ななかは重い口を開いてくれる。

 

「心正しからざれば剣また正しからず。私の心は揺れています…私は社会を優先すべきなのかと」

 

「同じ社会主義者として、ななかの気持ちも分かるよ。だけどね…尚紀さんの過ちを思い出して」

 

「裁く相手の心を想像してあげられなかったから…尚紀さんは魔法少女の虐殺者に成り果てた…」

 

「正しさはそれぞれが持ってるよ。だけどね、どちらかに味方したら…どちらか捨てる事になる」

 

ななかの心は迷い抜く。

 

美雨の理屈の味方をすれば、加害者になろうとしている者達は救われるだろう。

 

しかし、ななかやかこ、それにこのは達のような立場となる犠牲者側は救われない結果を残す。

 

蒼海幇の長老を務めた関羽が生きていた頃、こんなやり取りがあった。

 

――お前さん達の正しさの定義によって社会が不利益を被った時…責任がとれるか?

 

――……とれないネ。

 

――定義としての正しさが存在しないのならば…国民の利益を考えるのみ。

 

――誰かを否定して良いのは、誰かに否定される覚悟を持つ者のみ。これは人殺しも同じじゃ。

 

「アタシはね…たとえななかが裁く者として魔法少女を殺したとしても…絶対に味方してあげる」

 

「葉月さん……」

 

「だってさ…美雨さんの理屈で言うなら、死刑制度がある日本の刑務官達は全員罪人にされるよ」

 

「刑務官達は被害者達の精神救済を願って…死刑執行官になる。そうでなければ耐えられない」

 

「だけど…加害者の親や友達から見れば…大切な人を死刑にした仇でもあるんだよね…」

 

「どちらかに味方をするという弊害ですね…。片方で得られた恩恵を捨てる行為になります…」

 

「どうやったら…皆を救えるんだろうね?交渉しか得意じゃないアタシには…分からないよ」

 

悩み抜く2人であったが、尚紀の神浜人権宣言を現場で聞いていたななかは思い出す。

 

演説台の前に立ち、彼が何を叫んでいたのかを。

 

「…あの神浜人権宣言の時、尚紀さんはこのような言葉を言っていました」

 

――怒りや憎しみの感情ではなく、人間の尊厳に目を向けて欲しい!!

 

――心に目を向けて欲しい!!

 

――我々は!!正義だの悪だのといった、二元論的概念から解脱しなければならない!!

 

――我らに必要なのは、怒りと悲しみだけではない!!

 

――そこに愛を加えた三位一体が必要だ!!

 

「あの時の尚紀さんの手口は…この前私が葉月さんに伝えましたよね?」

 

「うん…論点のすり替えと、弁証法の悪用だって言ってたね」

 

「それでも、東の人々のために叫んだ尚紀さんの道徳精神だけは…嘘偽りは無いと信じたいです」

 

「なら、ななかは…加害者の心にも目を向ける気になれるの?」

 

葉月からの問いかけを聞いた彼女は目を瞑っていく。

 

思い出すのは、憎き仇として殺害した魔法少女…更紗帆奈の姿。

 

「くっ……!」

 

思い出しただけで憤怒が沸き起こり、眉間にシワが寄っていく。

 

更紗帆奈がどれだけ悲惨な人生を生きていようとも、ななかは決して許さない。

 

加害者が被害者ぶる態度を絶対に認めない感情を持つのが常盤ななかである。

 

冷静になろうと努めるようだが、心は人間。

 

エゴを克服することは不可能であるため、容易く飲み込まれてしまう。

 

「言うは易し…ななかは魔法少女のせいでこの世界に引き摺り込まれたんだから無理しちゃダメ」

 

葉月に促され、両目を開けていく。

 

「私も過ちを犯す危険性を孕む者です。ならば…尚紀さんの過ちから学ぶしかありません」

 

「なら、ななかは演説台の前に立った尚紀さんと同じ事をしようというの?」

 

「その通りです。私は話し合いの場に立った時…彼と同じ手口を使ってみます」

 

――ヘーゲルの弁証法を。

 

テーゼとアンチテーゼを掛け合わせた、ジンテーゼに導くのが弁証法の手口。

 

それは右翼と左翼の妥協点を見出し、どちらにも配慮出来る妥協案を示すという内容となる。

 

「愛だけが…敵を友人に変えられる唯一の力だと尚紀さんは言いました。それを…信じてみます」

 

掛け軸に視線を向ける。

 

「心を正しく保つには中庸の精神しかありません。秩序と自由の両方を敵にする選択となります」

 

「難しい道だね…中庸(NEUTRAL)の道ってさ…」

 

結論を出せたななかの元に連絡が届く。

 

スマホを取り出して通話ボタンをスライドさせれば、相手は七海やちよであった。

 

連絡を確認したななかは葉月に振り向き、こう伝えてくる。

 

「神浜市立大附属学校の件については…やちよさん達にお任せします。私も準備で忙しいので」

 

「行方不明事件かぁ…。その件にも悪魔が絡んでいるのなら…チャンスに出来ないかな?」

 

「私もそれをお願いしています。物的証拠が用意出来たら、話し合いも有利に出来ます」

 

「やちよさん達だけが頼りだね…」

 

「長としてまだ未熟者の私では…元西の長のやちよさんに頼るしか無いということです」

 

「ドンマイドンマイ♪ななかはこれからなんだしさ…見栄を張るのは止めようよ」

 

「フフッ、それもそうですね。この前、尚紀さんからも同じ事を言われてました♪」

 

迷いが晴れた2人も道場を後にしていく。

 

帰路についていたななかであるが、美雨の報告で聞いたフェミニズムの狙いの事を考えてしまう。

 

「魔法少女社会は…性の難民化社会。その原因は…人間達に()()()()()()()()()()()()()()から」

 

彼女はこう考えてしまう。

 

魔法少女の苦しみを理解してくれる男達が現れてくれたのなら、フェミニズムなど求めないと。

 

「原因があるから結果を生む。原因が解決されない限り…」

 

――魔法少女達がフェミニズムを求めたい気持ちを抑え込むことなど…出来ません。

 

魔法少女の真実を人間社会に伝えていきたい。

 

その考え方は、他の可能性宇宙でも模索されている。

 

魔法少女達にも人間らしく生きてもいい自由を求める可能性を探す道。

 

それが巡り巡って魔法少女達の恩恵にも繋がっていくと常盤ななかは信じてみたくなる。

 

「同性社会だけではダメなんです。異性愛者達の協力が無ければ…社会は上手く機能しません」

 

フェミニズムという名のリベラル左翼思想が生まれた歴史など、たかが数百年。

 

結果は今まで先祖達が築き上げてきた社会をぶち壊しにするだけの末路しか無かった。

 

異性愛とは、太古の先祖達が残してきた幸福になるための知恵。

 

正しかったと示す根拠ならば、何千年も上手く機能してきた異性愛の歴史が根拠となるだろう。

 

「本物の愛とは…己を押し殺す自己犠牲精神。愛は()()()()()()()()…誰も信じない」

 

加害者になろうとしている魔法少女に向ける愛を求める者もまた、自己犠牲を強いられる。

 

何千年も続いてきた異性愛社会の男女関係もまた、己の心を殺す自己犠牲によって機能してきた。

 

己の心に自制心を働きかけ、誰かのために尽くす態度を示す事が、愛を証明する証。

 

それこそが、アダムとエヴァが楽園から追放されても生き残る事が出来た力。

 

互いの相互利益を優先する自己犠牲精神であったのだ。

 




マギレコ魔法少女触れてないキャラも多いんですが、メガテンキャラも突っ込んでるので描き切る余裕が生み出せない(汗)
何人分のマギア魔法を取り扱ったのか思い出し辛い(汗)
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