人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
1月の第三日曜日、午後3時。
神浜アリーナ前には人だかりが大勢詰めかけている。
今日は売れっ子芸能人となった史乃沙優希が行う凱旋ライブイベントがあるためだ。
地元ファンだけでなく、遠方からも大勢来場しているためスタッフが列整理を行っているようだ。
ブロックごとに観客がアリーナ内に入っていく光景が続く中、遠くからヘリの音が聞こえてくる。
神浜アリーナと隣接している高層ホテルの屋上に向けて大型ヘリが着陸していく。
屋上のヘリポートには迎えの者達が整列しながら並んでいた。
大型ヘリの扉が開き、ラグジュアリーな内部光景が露出。
プライベートジェットのような大型ヘリから下りてくる人物こそ、フェミニズムの象徴。
キャリアウーマンに相応しい黒のレディーススーツに身を包んだリリスであった。
お腹の辺りで腕を組みながら歩くリリスの後ろには女性秘書の姿。
「ライブイベントが終わった後の予定ですが、日本のポルノ産業代表者達との会食となります」
ポルノ産業は一兆円を遥かに超える産業と言われており、その規模は世界を含めて計り知れない。
リリスはポルノ産業にも力を入れており、映画や音楽もポルノを全面的に押し出す政策を進める。
目的は、不特定多数の相手に向けて自慰行為を促すため。
異性愛社会を浸食することが本命であり、不特定多数とセックスしたいと男達に望ませる。
ポルノに夢中になる男達を骨抜きにして、結婚や子孫を残すことを望ませないのが狙いだった。
「その予定はキャンセルしなさい」
「何か理由があるのでしょうか?」
「…今夜は熱い夜になりそうなの。久しぶりに体が疼くのよ」
その言葉の意味を理解した女性秘書は頷き、沈黙してくれた。
迎えの者達に先導されながらホテルエレベーターに向かっていた時、リリスが立ち止まる。
視線を空に向ければ、梟の姿をしたアモンが飛来。
リリスは右腕を上げ、アモンは彼女の腕に止まったようだ。
「…奴らが潜んでいる。吾輩達を狩るためにな」
「もう知ってるわ。私は概念存在である神なのよ」
「フッ…未来のタイムラインは確認済みか。では、吾輩達はあのお方が来られるのを待つのみだ」
「混沌王様…私達の歓迎を心行くまで楽しんで下さい」
不気味な笑みを浮かべ、リリスはアモン達と共にホテルを後にする。
迎えの者達が用意したベントレーの大型リムジンに乗り込み、護衛を乗せた車列と共に発進。
警備員達に誘導されながら地下駐車場に入っていく車列を見つめるのは、1人のライブスタッフ。
帽子のバイザーを指で押し上げたのは、偽装姿の尚紀であった。
……………。
午後5時前。
観客は全て会場入りし、ステージで始まるライブを今か今かと待ちわびている光景が続く。
メインステージ上では音楽を担当する者達とバックダンサー達が並び、沙優希の登場を待つ。
アリーナ中央のセカンドステージの地下では、迫り上がるステージの上に立つ彼女の姿があった。
「…大勢の声が上から聞こえる。みんな沙優希のことを待ってくれてる…」
可愛さと性的さを強調したアイドル衣装を纏う彼女の体が震えていく。
男達を興奮させるポルノ姿のような衣装をファン達に披露するのが恥ずかしいからではない。
「沙優希は…みんなを騙してる。それでも、そんな沙優希をみんなは喜んでくれる…」
気持ちよく騙されたいだけのファン達の声が、彼女の心に暗い影を落とす。
罪悪感によって逃げ出したくなるが、もう後戻りはできない。
「友達が欲しかったからアイドルになった。でも…友達を傷つけるぐらいなら…辞めてもいい」
時間がきたため、ステージがせり上がっていく。
覚悟を決めた沙優希は決断する。
「これがアイドルとしての沙優希の…最後になるステージ。どうか…よろしくお願いします!!」
左手のソウルジェムを掲げて変身を行う。
操り人形としてのアイドルではなく、歌姫魔法少女として最後のステージに挑む。
セカンドステージに向け、アリーナのスポットライトが浴びせられる。
ついに神浜凱旋を果たした歌姫のご登場だ。
「あなたのハートをたたっ斬る!恋の辻斬り姫こと~史乃沙優希…参上~です~!!」
迫り上がった沙優希の姿を見た観客達が歓声に沸いていく光景が広がっていく。
<<さゆさゆ~~!!神浜が生んだ最高のアイドルが帰ってきた~~っ!!>>
<<おかえりさゆさゆ~!!帰りを待ってたみんなのハートを袈裟斬って~~っ!!>>
ファン達を見回し、ご当地アイドルの頃と変わらない笑顔を向けてくれる。
インカムマイクを使って話す感謝の言葉に震えは無かった。
「神浜のみんな~ただいま~!!そして~遠くからお越し下さった皆様!本当に有難う!!」
可愛い笑顔を向けてくれる偶像に向け、多くの歓声が集まっていくと同時に音楽が始まっていく。
メインステージまで歩いてきた沙優希が振り向き、凱旋ライブ一曲目の熱唱がスタートするのだ。
「辻斬りプリンセス!いっくよ~~っ!!」
バックダンサーと共に踊りながら熱唱する光景が広がり、ステージ照明が目まぐるしく輝く。
各所に配置されたスクリーンにはホログラム演出として、刀剣の美しい世界観が投影される。
ファン達は熱狂しながらペンライトを振り、輝かしい歌姫魔法少女を絶賛するのだ。
その光景を見つめるのは、アリーナVIPルーム内で佇むリリス。
スイートルームかと見紛うプライベートルーム内で腕を組み、ガラス越しの景色を見守る。
「…奴らが動く」
バーカウンターの机に立つ梟姿のアモンの言葉は聞こえているが、顔も向けずに返事を返す。
「ええ、分かってるわ。いつでもいらっしゃい」
視線を横に向ける。
隣に控えている女性秘書が頷き、念話を行う。
<各班、状況報告>
VIPルームまで続くアリーナ内部の至る所では、警備職員とは違う人員達が配置されている。
SPかと思わせる黒スーツ姿をした屈強な男達が念話を返し、異常なしと女性秘書に報告を行う。
明らかに人間ではない者達が配置され、迎え撃つ準備は万端といった光景であった。
不敵な笑みを浮かべたリリスは来訪者の到着を待つ。
アダムとリリスの戦いを始めるために。
――さぁ、男と女の狂宴を始めましょうか。
――――――――――――――――――――――――――――――――
アリーナには多くの報道陣も詰めかけ、地元のテレビ局が所有する中継車の姿も見える。
凱旋したアイドルライブは神浜テレビ局の生放送となり、地元民達に映像を届けていく。
さゆさゆの大ファンのレナであるが、気持ちが落ち込んでおりライブに足を運んでいない。
落ち込んだままテレビに映るライブ映像を見ているようだが、何かに気付く。
「さゆさゆって…あんなにダンス上手かったかなぁ?それに…奇妙なポーズばかりするけど?」
ダンスポーズの所々で目を強調するシーンが入っている。
指で6を描き右目に合わせたり、指で6を描き左目にも合わせる。
それにイヤホンマイクの形もよく見れば6。
スクリーン映像も一瞬だけだが違和感を感じるだろう。
メインスクリーンで輝く光は、単眼サインを表しているかの如く輝くシーンが差し込まれている。
また、ホログラムには一瞬だけだが刀剣の刀身に性的な裸体が映るようなシーンも浮かんでいた。
この光景は
イルミナティはサブリミナルを映像作品に使用すると言われている。
あらゆる作品内に666とルシファーとセックスを潜ませ、作品内容を消費者達に絶賛させる。
消費者達が気が付かないうちにルシファー主義を絶賛しているという意味合いにされるのだろう。
それに気がつける者はあまりにも少なかった。
「昔からのさゆさゆに見えるけど…笑顔も素敵だけど…何処か悲しそうに見えるのは…なぜ?」
さゆさゆのことが真剣に好きなレナだけが、彼女の異変に気付いてくれる。
最後のステージ光景のようにも見えたレナの心には、言い知れぬ不安が宿っていった。
……………。
ライブが始まった頃。
中継車の横を通り超えていくのは男女の姿。
1人は185cmはある男であり、もう1人は150cm程度の小柄な少女である。
「…ジャンヌとか言ったか?目立つよう言われてるのは分かるが…その姿は何だよ?」
「私は神学者です。この姿をしていても不思議ではないでしょ?」
「悪魔である造魔が神学者ねぇ…?まぁ、場違いな姿してた方が目立つし…丁度いいか」
「私達は陽動役です。悟空、協力して上手くやりましょう」
「よし、行くか」
アリーナ会場の入り口に向けて歩いていくと警備員達に呼び止められる。
「ちょっと待て!怪しい奴らめ…何なんだお前達は?」
1人はカンフー着を纏い、長めの白髪をワイルドにオールバックにしたガラの悪い男。
もう1人はスカートにスリットが入ったシスター服を纏う白人少女であった。
「この近くで昼寝してたんだけどよぉ、この建物から聞こえてくる騒音が不快で起きちまったよ」
「私は神に仕える者です。主はこの場所で行われている汚らわしい催しを大変嘆いておられます」
「俺様達はこのイベント騒ぎに腹が立って文句を言いに来たってわけさ。主催者に会わせろ」
「貴様ら…悪質な迷惑行為を行いに来たというわけか!?つまみ出すぞ!!」
「おっ、やろうっての~?俺様は構わないけどよ~」
「警察を呼ばれたいのか!!」
「そのような輩になど屈しません。主は今直ぐ邪悪な催しを中止することを望んでいます」
「頭のおかしい奴らめ…いい加減にしろ!!警察に突き出してやる!!」
警備員の男が悟空の腕を掴むが、迂闊な行為。
「ぐふっ!!?」
勢いよく頭突きを顔面にお見舞いされた警備員の男が倒れ込む。
暴力沙汰が起きた事に慌てた警備員の1人が無線を用いて連絡を行う。
<<本部!正面玄関でトラブル発生!至急応援を寄越してくれ!暴力沙汰だ!!>>
騒ぎを聞きつけた周辺の警備員達も大勢駆けつけてくる。
囲まれてしまった悟空とジャンヌは背中を合わせあう。
「テメェの強さは聞いてないが、俺様は面倒見なくて大丈夫なのか?」
「これでもリズから武術の訓練を受けています。この程度の雑兵ならば問題ありません」
「そうかい?なら…派手に暴れようや、シスターさんよぉ」
「望むところです。主の怒りを浴びることを恐れぬ者から前に出なさい」
2人は同時に武術の構えを行う。
「取り押さえろーーッッ!!」
特殊警棒で武装した警備員達が一斉に迫りくる。
「暇してたもんだからよぉ、暴れ足りなかったんだ。派手にいくぜぇ!!」
迫る警備員の警棒の袈裟斬り打ちに対し、払い上げると同時に肘を引き正拳突き。
左右から迫る警備員に右肘、左肘と腹部に打ち込み後ろ回し蹴りで次の相手を蹴り飛ばす。
警棒を振り上げて迫る警備員に踏み込み、股間と胸倉を掴み上げる。
「おらぁぁーーッッ!!」
一気に頭上まで持ち上げ、豪快に地面に叩きつけた。
暴れまくるセイテンタイセイの後ろでは、タルトの激戦が繰り広げられていく。
「来なさい!神の裁きを与えましょう!!」
左手で警棒を持つ手首を払い右拳突き。
横から迫る警備員に対し、手首を払いながらの諸手突き。
迫る警備員の袈裟斬り打ちを左手で受け止め、両手で相手の体に抱き着きながら跳躍。
「ぐふっ!?」
警備員の体を利用したドロップキックが炸裂し、後列の警備員達が巻き込まれて倒れ込む。
掴まれた警備員がタルトを振り解き、右薙ぎ打ちを仕掛けるが掻い潜り態勢を俯き姿勢にする。
「がはっ!?」
背中から足を回して蹴るサソリ蹴りが顔面に決まり、怯んだ相手に向けて旋風脚が打ち込まれた。
黒タイツの美しい脚線美から放つ蹴り技はスリットによって邪魔されずに動かせているようだが。
「派手にやるつもりでそんなスカート履いてきたか?だけどよぉ、見たくなくても見えちまうぞ」
タルトの背後から迫る警備員に向けて飛び蹴りを放つ援護攻撃。
後ろ側に着地したセイテンタイセイに視線を向ける彼女は冷ややかな態度を返す。
「…ジロジロ見ないでください」
「造魔でも恥じらいを見せるんだな?」
「私は造魔である前に女性です」
「そりゃ失礼!」
警棒で刺突を仕掛けてくる相手の側面に踏み込み、右腕を相手の右肩に回し込む。
そのまま両手で捕まりながらの跳躍蹴り。
<<ぐわぁぁーーーッッ!!?>>
警備員を中心に旋回するような豪快な連続蹴りを放ち、警備員達の側頭部を蹴り飛ばしていく。
着地した彼を振り解き警棒を振り上げるが、右肘を打ち込まれそのまま右裏拳が顔に決まる。
怯んだ相手に向け、今度はタルトが飛び蹴りを放ち大きく蹴り飛ばす連携攻撃を見せるのだ。
「団体客が来たようだな」
視線を向けた先からは増援の警備員達が次々と駆け付けてくる。
「陽動で終わるつもりは俺様はないぜ!こいつら全員しばき倒して、尚紀と合流しようや!」
「相手はあのリリスです。私達も急ぎましょう!」
前方から迫る警備員に対し、セイテンタイセイが踏み込み蹴りを放ち後続を巻き込んで倒し込む。
倒れ込んだ警備員達が顔を上げれば、セイテンタイセイとタルトが仁王立ちのまま不敵な笑み。
「そういうわけだ。逃げるなら追わねぇが…やるなら覚悟しろよ」
「聖書は剣より強しです。逃げないならば…覚悟なさい」
表の騒動は激しさを増していき、アリーナ内を警備していた警備員達も外に駆り出される有様。
だからこそ、アリーナ内の警備は手薄になるというわけだ。
メインアリーナ内のイベントは盛況であるが、他にも神浜アリーナ内には設備が多い。
二階にあるのはセンテニアホールであり、多目的会議場として使われるエリア。
その通りを歩いていくのは、作業服に身を包んだ長身の男女達。
モップを持つ男は身長184cmはある男であり、隣の黒髪女性に向けて口を開く。
「表の連中は上手くやってくれたようだな。警備員共の姿が見えない」
168cmはある長身の女性は顔も向けずにこう返す。
「タルトなら心配いらないわ。小さい子だけど、私が鍛えた子なのだから」
「ほう?武においては自信があるようだな?」
「フッ…私にそれを問うのかしら?クーフーリン」
自身の名を語られた彼が怪訝な表情を浮かべながら視線を向ける。
「…お前には瀬田槍一郎と名乗ったはず。なぜ私がクーフーリンだと分かった?」
「私は造魔よ。体を構築するために悪魔が使われている…その中の一体が貴方を知ってるのよ」
「他の悪魔の知識や記憶も引き継いでいるというわけか。お前の中に溶けた悪魔…気になるな」
「お喋りをしている暇は無い。私達には私達の役目がある」
「そうだったな。待ち構えているのは警備員だけのはずがない…行くぞ、リズ・ホークウッド」
「リズでいいわ」
奥まった通路にまで来た2人が通路内を進んで行く。
エレベーター前にはSPを思わせる黒スーツを着た男達が立っていた。
「おい、この先は立ち入り禁止だぞ」
「清掃作業員として来た。上の階の掃除をしなければならない」
「聞こえなかったのか?立ち入り禁止だと言っている」
「随分と厳重な警備ね?上の階には相当なVIPが来ているのかしら?」
不審に思ったSP達が念話を送る。
後ろ側の通路からは合流を促された他のSP達まで現れだす。
「警告はしたからな。侵入者として対処させてもらう!」
周囲が異界化していく。
異界の通路内で正体を表していくSP達。
その姿は筋骨隆々の大男のような悪魔共であった。
【オーガ】
オーガの名はローマの死神オラクルス、または北欧の主神オーディンの異名ユッグに由来する。
人を襲っては食べると言われる邪悪な鬼であり、力は強いが頭は弱いと言われていた。
オーガは巨大な体をもった鬼であり、若くて美しい女を好んで襲い、食したという。
力が強いだけでなく変身能力を持ち合わせているようだ。
「男は嬲り殺しにしてやる!女の方は美しいな…組伏せて強姦した後で喰らってくれるわ!!」
緑の肌とボサボサの黒髪長髪を靡かせたオーガ達の右手に持たれているのは巨大な鉈。
通路の前後から迫りくるオーガ達を見つめる男女の口元には不敵な笑みが浮かぶ。
「さぁ、久しぶりに出会えた貴方の実力を私に見せてみなさい、クーフーリン」
「お前の中に溶けた悪魔が何者なのか…この戦いで見極められるやもしれんな」
クーフーリンは右手の指でルーン文字を描く。
周囲に風の竜巻が生み出され、オーガ達は右腕を顔に掲げて突風を防ぐ。
「風魔法だと!?まさか…貴様らも悪魔かぁ!!」
竜巻が収まれば、そこに立っていたのは白い甲冑姿の槍兵と漆黒のマントに身を包んだ猛将の姿。
互いが背を向け合い、前後の敵に対処する構えを見せた。
「ビビるんじゃねぇ!やっちまえッッ!!」
頭上でゲイボルグを回転させたあと横に振る構えを見せるクーフーリンに対し、悪魔が迫りくる。
「雑兵共が何体集まろうと…我が魔槍の敵ではない」
左切り上げで鉈を打ち払いながら体勢を回転し、胴に横打ち。
槍に弾き飛ばされたオーガの横から迫るオーガに対し、腹部に刺突。
「ガハッ!?」
槍を引き抜くと同時に横から迫るオーガに向けて足を刈り取る払い打ち。
宙に浮かされたオーガの巨体に向けて槍を叩き落とし、地面を砕く程の一撃となる。
「アグッ!!」
心臓を一突きされてMAGの光と化すオーガなど目もくれず、背後から迫る敵に向けて跳躍。
旋風脚を右側頭部に叩き込み、さらに回転を加えた右薙ぎ打ちでオーガを弾き飛ばす華麗な動き。
視線を横に向ける。
後ろ側で戦っているのは、同じく華麗な技を駆使する造魔の姿。
「下品な悪魔共ね。身の程を教えてあげるわ」
彼女の右手に持たれているのは影で編まれたロングソード。
放たれる逆袈裟斬りを潜り抜け、左裏拳を放つオーガの手首を片手で受け止めながら掴む動作。
「ウガーッ!?」
手首を捩じられて俯けになった相手の顔面に蹴りを入れ、怯んだ敵に袈裟斬りを放ち一体を倒す。
迫りくるオーガの連続斬りをかわし、袈裟斬りを潜り抜けて背中を蹴り飛ばす一撃。
横から放たれる斬撃の手首を蹴り飛ばし、舞う動きで背後から迫るオーガの胴体を左薙ぎで両断。
「おのれ小娘ぇーーッッ!!」
両手持ちで放つ鉈の一撃を受け止めるが蹴りを背中に放たれ態勢を崩す。
「もらったぁ!!」
鉈を叩き落とす一撃を放つ時、リズの体が影に飲まれる。
オーガの一撃は空振りし、オーガの影から出現したリズの一撃によって両足が切断される。
悲鳴を上げて倒れ込む敵に向けて心臓を背後から串刺しにする一撃。
MAGの光と化すオーガになど目もくれず、次の獲物を狙う姿を見せた。
そんな彼女の戦いに横目を向けていたクーフーリンは心の中で呟くのだ。
(完成された武…そして影を操る魔法…。まさか…リズの中に溶けた悪魔とは…?)
彼の脳裏に浮かぶのは、セタンタとして生きていた頃の自分自身。
影の国で修行をしていた時、彼を鍛えてくれた女悪魔の師匠がいた。
「こいつらは強い!!応援を呼べ!!」
念話を行い、さらに増援の兵士達を呼び寄せるオーガ達。
「そうだ、応援を呼ぶがいい。それが我々の役目だ」
「まだまだ戦い足りないもの。それに…可愛いセタンタの戦いをもっと見物したいのだから」
自身の幼名であるセタンタと呼ばれたクーフーリンはリズに振り向く。
彼に顔を向けるリズの口元は微笑んでくれている。
「まさか…お前の中に溶けた悪魔とは……」
「ボヤかない。今は戦いに集中しなさい」
美しい黒髪の長髪を掻き上げる仕草を見せる。
そんな彼女の姿が、クーフーリンにとっては鍛えてくれた女師匠の姿と酷似して見えたのだ。
「…今は考えても仕方ない。望みとあらば我が槍術…お見せしよう!!」
クーフーリンとリズの戦いもまた激しさを増していく。
彼らの活躍によってアリーナ内で待機していた悪魔勢力も分散してくれている。
それによってリリスに至る道もまた開けることになるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
アリーナのイベント道具を収納する大倉庫内で隠れていたウルフドッグが物陰から出てくる。
アリーナ内で複数の魔力反応を感じ取ったためだ。
「クーフーリントホークウッドハ上手クヤッタヨウダ。我モ動クトシヨウ」
大倉庫内からアリーナ内へと侵入していく犬が駆けていく。
「人修羅カラ聞カサレテイタエレベーターハ…コッチダナ」
VIPルームがあるアリーナ四階に向かえるエレベーターまで進む。
通りを走っていたが、エレベーターに辿り着く前に通路から現れる存在に気付き立ち止まった。
「ライブスタッフや警備員は何をしてるのかしら?野良犬が紛れ込んでいるじゃない」
現れた人物とは、沙優希のマネージャーをやっている女性。
唸り声を上げて警戒するケルベロスを見て、女マネージャーは目を細めていく。
「リリス様の守備隊に合流を促されたけど、もしかして…侵入者とはお前のことなの?」
「……試シテミルカ?」
普通の人間ならば犬の鳴き声に聞こえるだろうが…彼女はケルベロスの言葉を理解出来る。
ならば、女マネージャーの正体は決まったも同然だろう。
ウルフドッグの体から霧が放たれ、周囲を包んでいく。
濃霧が晴れた時、そこに現れたのは悪魔姿の巨体。
「ケルベロス…お前程の悪魔が侵入していたのなら、合流を促されたのも頷けるわね」
「女悪魔トテ手加減ハセン。悪魔ノ法トハ、強者コソガ全テダ」
「もちろん…私もそのつもりよ!」
ビジネススーツの裾部分から両手に落ちてきて掴んだのは護身用のスローイングナイフ。
ナイフをケルベロスに向けて次々と投擲。
しかし、竜の尾を持つケルベロスの尻尾が次々とナイフを弾いていく。
最後のナイフ攻撃を尻尾を使って握り止めて砕き、獰猛な金色の瞳を女悪魔に向けてくる。
「コノ程度ノ児戯デ攻メテクルナラバ…死ヌダケダ」
「フフッ…興奮してきたわ!悪魔同士の殺し合いだなんて久しぶりだものね!!」
女マネージャーの両目が赤く染まり、周囲も異界化していく。
そこに現れていたのは、ケルベロスの巨体に匹敵する程の女魔獣。
青色の毛皮にライオンの前足と馬の後ろ足を持ち、オールバックにした金髪の顔を持つ姿だった。
【エンプーサ】
夢魔、あるいは吸血鬼とされる女悪魔であり、名は力づくで押し入る者という意味をもつ。
一本の足は真鍮または青銅で、もう片方は大きな鉤爪があり蝙蝠のような翼を生やす。
冥界の魔術の女王ヘカーテに仕えており、雌犬に例えられたという。
夢魔と同じく男性を誘惑して精気を吸い取ったり、時には喰らい殺す悪魔であった。
「夢魔カ…リリス二与スルノハ、男性ヲ喰ライタイトイウ欲望ノタメナノダロウナ」
「私もリリス様の思想を信じる女よ。この世は女こそが支配するべきなのよ!」
「クダラナイ。雌犬ノ貴様二与エテヤロウ…女ガ超エラレナイ男ノ力ヲナ!!」
「ぬかせぇぇーーッッ!!!」
獰猛な魔獣達が同時に飛びつき、取っ組み合いの乱戦と化す。
巨大な獣同士の戦いが激しさを増していくが、それは異界での出来事。
何事も起きていないかのような一階通路を歩いて来るのはライブスタッフの男である。
「ケルベロス…そいつは任せた」
異界景色が見えるライブスタッフとは、偽装姿の尚紀であった。
クーフーリン達の活躍によって一階エレベーターの護衛達も上の階に向かわされており手薄。
何の障害もなくエレベーターに乗り込み、4階を目指すことが出来ると思われたのだが…。
突然手が扉にかけられて開きだす。
乗り込んできたのは、女マネージャーを務めるエンプーサの護衛達。
尚紀の両隣に入り込み、エレベーターの扉が閉まっていく。
上の階に上がっていくのだが、黒スーツを着た男の1人が非常停止ボタンを押す。
エレベーターは3階辺りで停止することになった。
張り詰めた空気が支配する中、護衛の男達は中央に佇んでいる尚紀に視線を向けていく。
「…貴様、ライブの仕事を放り出して何処に行く?」
目元が帽子で隠れている尚紀は何も答えようとしない。
「どうやら…侵入者とは貴様のようだな?」
男達が腰元に隠してあったナイフに手をかける。
尚紀は首を左右に鳴らし、いつでも来いという態度を示す。
「いいだろう…そんなに死にたいならば…」
「…死ねぇ!!」
左の男のナイフ突きを両手で払い突き飛ばし、右の男の突きを片手で受け止め払い飛ばす。
左からくる右薙ぎに対し、上体を後方に反らせて避け、右からの袈裟斬りを手首で受ける。
そのまま右手刀を護衛男の背中に打ち込み、体勢を崩す一撃とする。
「くそっ!?」
横からの突きを右腕で受け止め、ナイフを持つ腕ごと体を壁に押し付ける拘束技を使う。
「貴様ぁ!!」
袈裟斬りを仕掛ける相手の手首を受け止め、一本拳の形にした右拳で首を打つ。
喉仏を打たれた男が呼吸困難になった隙に右手首を掴み、左腕を内側に回し込む関節技を決める。
「ぐあぁぁーーッッ!!」
伸びきったナイフを持つ手を右手で突き飛ばす。
「がふっ!!?」
曲がった右腕によってナイフが左肺に突き刺さり、吐血を吐き出す。
左腕を回し込んだまま盾として使い、横の男を威圧する尚紀。
冷や汗が浮かぶ隣の男が腰元に隠してあるもう一つのナイフを抜く。
「これ以上…好きにさせるかぁ!!」
両手にナイフを持つ相手が動くと同時に隣の男を払い飛ばして迎え撃つ。
互いの両腕が高速で交差され、次々と突き・払い斬り、受け、捌き動作の応酬が続く。
左の払い斬りを止め、右腕の払い斬りと腹部に向けた突きを受け止めたが腕力で押し込んでくる。
エレベーターの隅に尚紀は叩きつけられ、首元と腹部に向けてナイフが迫りくるが…罠だ。
「甘い!!」
右膝蹴りを相手の左腕に打ち込み、腹に刺突を仕掛けていた刃が右上に向けて跳ね上げられる。
「ギャァァァーーッッ!!?」
左のナイフが右腕に突き刺さり、怯んだ相手に尚紀が仕掛ける。
右手首を両手で掴んで捩じり込み、ナイフを払い落とす。
そのまま小手返しを放ち、一回転して倒れ込んだ男のナイフを奪い取り、腹部に突き刺す。
「ゴフッ!!!」
倒れ込んで呻き声を上げる護衛達を見下ろしながら非常停止ボタンを再び押す。
四階まで上がったエレベーターの扉が開き、護衛の男達は這い這いの姿をしながら逃げ出す有様。
その後ろを追う狩人の如く出て来た尚紀に向けて、刺されたナイフを引き抜いた男達が叫び出す。
「貴様…何者だぁ!!?」
「俺の名は嘉嶋尚紀。今となっては…ただの探偵だ」
「嘉嶋…尚紀だと!?まさか…あの時のホストが言っていた男なのか!!」
「ホストだと…?」
尚紀の脳裏に浮かぶのは、行方不明者となった友人であるシュウの姿。
「貴様ら…シュウに何をした!?」
それを問われた男達が不気味な笑い声を上げながら立ち上がっていく。
その瞳も悪魔を表す真紅の瞳に変わっていくのだ。
「ククク…あの男ならば、俺の一撃で粉々にしてやったぞ?」
周囲が異界化し、男達の姿が巨大化していく。
景色が狭い屋内通路ではなく、アリーナ屋外景色へと変化する。
「泣きべそかきながらお前の名を叫んでいたさ。貴様もあのホストの後を追うがいい!」
屹立したのは、身長3メートルはある巨体の悪魔達。
【アステリオス】
ギリシャ神話のミノタウロスの別名であり、その名は星・雷光を意味する。
海の神ポセイドンは神の祝宴で生贄とするため、特別な牛を作りクレタ島の王に渡したという。
しかし彼は自分の飼う牛の中から替え玉を用意したため、神の怒りに触れることとなる。
報復として后が特別な牛であるクレタを愛するよう仕向け、生まれたのがアステリオスであった。
【ベルセルク】
北欧神話に登場する獰猛な戦士達であり、英語圏ではバーサーカーと呼ばれる存在。
戦闘時の極度の興奮によって恐怖を感じなくなり、凶暴な戦闘力を発揮すると言われている。
語源は古代北欧語であり、熊の毛皮を着た者という意味があるという。
北欧神話の主神に仕えており、ベルセルク達はオーディンの加護を持つ存在として知られていた。
<<Grrrrrrrr……!!>>
手負いの獣と化した二体の悪魔達が極度の興奮によって痛覚を忘れる。
牛の頭部を持つアステリオスは巨大な両手斧を振り回し、尚紀に向けてくる。
黒豹の皮を被った隣のベルセルクは腰の鞘から剣を抜き、霞の構えを向けてきた。
殺意を叩きつけてくる悪魔共に対し、それ以上の殺意を向けてくる尚紀が帽子を脱ぎ捨てる。
顔と両手に発光する刺青が浮かび上がり、首裏からは一本角が伸びていく。
獰猛な金色の瞳となった人修羅が、雄たけびの如き叫びを上げるのだ。
「シュウの仇だ…命がいらない奴からかかってこい!!」
「「オオォォォーーーッッ!!!」」
獰猛な雄たけびを上げた二体の悪魔が同時に迫りくる。
両方から繰り出される一撃に踏み込み、ベルセルクの手首とアステリオスの斧の柄を受け止める。
腕で両方を弾き、ファイティングポーズを構えた人修羅に向けて次々と斬撃が繰り出されていく。
斧と剣によって繰り出される連続の斬撃に対し、上半身を駆使するスウェー回避を高速で行う。
回避と共にショートアッパーを武器に放ち、武器を打ち上げていくが尚もスピードが増していく。
魔法少女でも刃に触れれば挽肉にされかねない攻防を制したのは、斬撃の嵐に踏み込む人修羅。
「ぐふっ!!?」
アッパーでベルセルクを大きく打ち上げ、袈裟斬りを仕掛ける斧を掻い潜り膝関節を蹴り飛ばす。
アステリオスの態勢を崩すと同時に壁蹴りの如き跳躍を見せ、宙を飛ぶベルセルクに迫る。
「ハァァーーーッッ!!」
ベルセルクを超えて跳躍した人修羅が拳を大きく振りかぶり、腹部にパンチを打ち込む。
勢いのまま落下していき、地面を激しく砕く。
大きく吐血したベルセルクの腹に一撃を入れたままの拳から業火が噴き出す。
「消し飛べぇぇーーッッ!!!」
ゼロ距離から放つ地獄の業火の爆炎によって、ベルセルクは原型を留めない程の死となった。
「おのれぇぇぇーーーッッ!!!」
巨大な両手斧を振り上げて迫るアステリオスに向け、放たれた矢の如く飛び込んでいく。
右掌内に生じたのはメギドの光。
「うおおぉぉーーーッッ!!!」
振り下ろされる両手斧の一撃よりも先に決まったのは右フックパンチ。
牛の顔が殴り飛ばされると同時に右拳からメギドの光が解放される。
極大の光の爆発が起こり、アステリオスは異界ごと消失していくのだ。
最後まで立っていたのは、亡き友を思う人修羅の姿のみである。
「シュウ……仇は取ったぞ」
4階にあるVIPルームの位置は既に把握済み。
通路に向かおうとするのだが、一直線に伸びた道にはリリスを守護するSP達が次々と現れる。
周囲が再び異界化して悪魔の姿を晒していく。
獰猛な悪魔の瞳を人修羅に向けていくのだが…相手が悪過ぎる。
彼らは相手が混沌王である人修羅とはリリスから伝えられていない。
捨て駒として利用されているだけなのだ。
「御託はいい…始めようぜ」
両手を鳴らしながら不敵な笑みを見せる。
親指を鼻に擦り付け、舞う演舞を行ったあと手招きを行う人修羅の勇姿。
そして彼に与する仲魔達の死闘は、神浜アリーナにおいて苛烈さを増していくばかりであった。
公式マギレコストーリーは終わってしまいましたが、僕はボチボチ続けていこうと思います。