人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
意識は夢の世界へと誘われている。
まるでモノクローム映画のフィルム世界に映るのは過去の記憶。
赤い和服を着た小さな少女を子供達が取り囲み、手を繋いで回っている。
屈んだ姿のまま両手で顔を隠しているのは赤い和服を着た時女静香であった。
どうやら子供の遊びである
小さな頃の静香の友達が歌っていくのはかごめの歌。
江戸時代の頃から伝わる遊びであり、歌の最後を言い終えた後に背後の人物を当てるもの。
この遊びは古くから霧峰村に根付いており、里で暮らす子供達の娯楽となったようだ。
「えーと…鈴ちゃん!」
「静香ちゃんすごーい!言い当てられちゃった!」
「えへへっ♪はい、つぎの鬼は鈴ちゃんね」
鬼役の静香が見事に背後に立つ少女を言い当てたため、鬼役を交代する。
子供達の遊びは続いていく。
その光景はモノクローム映画のフィルム世界のように映し出されていった。
彼女達が遊んでいる場所とは時女本家の屋敷であるようだ。
子供達が遊ぶ庭の奥に見える屋敷には、時女本家の家紋である四葉桜紋が見える。
桜紋とは、木花咲耶姫(このはなさくやびめ)を祀る神社などが紋に用いてきた。
しかし散る儚いイメージから、武家の家紋としては敬遠されてきた家紋。
「おぉ、元気なわらべ達じゃのぉ」
「あっ、神子柴様だーっ!」
子供達は遊びを止めて神子柴の元にまで駆け寄ってくる。
「ちょっと待っておれ。お菓子をやろう」
<<わーいっ!!>>
灰色の和服の上から羽織を纏う神子柴は和装バックからお菓子を取り出して配っていく。
神子柴が着ている羽織には神子柴家の紋所が白く刻まれている。
それは
「ワシは静香の母と話がある。上がらせてもらうぞ」
「うん、いいよ!」
屋敷に入っていく神子柴を笑顔で見送った後、静香達は貰ったお菓子を縁側に座って食べていく。
子供達で楽しくお喋りをしていると屋敷で働く使用人の男が帰ってきたようだ。
「おかえりー!ずいぶんとたくさん拾えたみたいね?」
「今年は豊作でしたよ、静香お嬢様」
使用人の男は背負っていた籠を下ろしてくれる。
中に入っていたのは秋の果物である柿だったようだ。
お菓子の次はデザートだと子供達は目を輝かせてしまう。
子供に甘い使用人は微笑みながら柿を静香達に配っていった。
男が背負っていた籠の網目に目を向けて欲しい。
籠編みは古典的な六つ目編みで作られている。
それらは全てヘブライ民族が掲げる六芒星によって形作られているという事に気が付くだろう。
南津涼子が霧峰村に赴いた時、村のいたる所に五芒星や六芒星を見つけたと語ったことがある。
この村はヘブライ文化を色濃く受け継ぐ里なのかもしれなかった。
「もういっかい遊ぼうよー!」
「うん、いいよ!」
デザートを食べ終えた静香達がまたかごめの歌を歌いながら遊んでいく。
時女の里に古くから根差すかごめの歌には秘密がある。
かごめの歌は
かごめの歌詞をヘブライ語に直すと…このような日本語になった。
――何が守られているのか。何が守られているのか。
――守られて封印され、置かれて閉ざされた物を取り出せ。
――火をつけろ。火をつけろ。
――神の社を根絶せよ。
――お守りの岩を造り、そこから水が湧く。
――水を引いて、荒地を支配せよ。
かごめの歌は続いていく。
彼女達が遊ぶ時女本家の大きな屋敷には時女の里を象徴する御神木が存在している。
時女一族を守護するかの如くそびえ立つのは、屋敷の泉の奥に見える
桜の木の下には巨大な霊石が置かれており、しめ縄が結ばれているようだ。
かごめの歌は続いていく。
子供の頃の楽しい記憶を揺り動かすように。
かごめの歌の世界に浸りながらも夢の世界は覚めていく。
目覚めた時女静香に見えた光景とは、電車が停止した景色であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「里が見えてきたわ」
車の入れない獣道を超え、静香達は霧峰村にまで戻ってきたようだ。
長い道のりを歩いてきた5人ではあるが、静香以外の者達の表情は暗い。
「先ずはヤタガラスの使者に報告を行わないと」
「あたしは遠慮する。どの面下げて連中に顔を見せろってんだよ」
「私も涼子さんと気持ちは同じです。私達は分家の者なのに…そっとして欲しかったです」
2人から不満の気持ちを向けられる静香は困り顔を見せるが、すなおが協力してくれる。
「では、私は涼子さんとちかさんを村まで案内します。静香とちゃるは報告をお願いね」
「分かったわ。それじゃあ行きましょうか、ちゃる」
静香の呼びかけにも無言の態度を示したちはるが彼女の後ろをついていく。
(ちゃる…どうしたのかしら?いつもは元気いっぱいな子なのに…)
親友を心配しながらも静香達は苔むした杉林の中の石段を登っていく。
彼女達が向かうのは霧峰村の名も無き神社であった。
神社まで辿り着いた静香とちはるは決まった参拝方法を行う。
すると背後にはいつの間にかヤタガラスの使者が現れていたようだ。
「勧誘任務が上手くいかずに申し訳ありません…。時女に期待を寄せて頂いたのに…」
深々と頭を下げる静香とちはる。
ちはるの体は恐怖に怯え切ったかのように震えていた。
「我々も過大な期待を寄せ過ぎていました。後任に引き継がれますので此度の任務は終わりです」
「あの…我々の責任問題については…?」
「それについては…また後ほど与えられるでしょう。ヤタガラス一族の者として逃れられません」
「本当に…すいませんでした。時女本家の未熟者として…覚悟は出来ております」
静香の顔にも暗い影が浮かぶが、静香とちはるを安心させるかのように微笑んでくれる。
「怖がらなくていいです。貴女達はまだ若い…一度の失敗で全てを決めるような真似はしません」
「いいんですか…?」
「この国を守る大人として、若い才能の成長には期待しています。これからも励みなさい」
「寛大なお言葉…本当に感謝します」
静香とちはるは深々とお辞儀を行い、家路についていく。
石段の前まで来た静香とちはるであったが、怯えたままちはるは後ろを振り向く。
見送ってくれるヤタガラスの使者を前にして、彼女は懺悔にも似た謝罪の言葉を言ってしまう。
「あの…その……本当に……ごめんなさい!!」
青い顔つきのままちはるはもう一度お辞儀をしてしまう。
「ちゃる……」
彼女なりに深く反省しているのだろうと静香は考えてしまうが、ちはるの不安は別にある。
ちはるからの精一杯の謝罪を受け取ったヤタガラスの使者ではあるが、不気味に沈黙している。
首を横に振り、何も言わずに見送る姿だけを見せた。
「行きましょう、ちゃる。ヤタガラスのお姉さんも気にするなと言ってくれてるわ」
「う…うん……」
恐怖を抱えたままのちはるは静香に手をつながれ帰路についていく。
彼女達の姿が見えなくなった頃、ヤタガラスの使者に向けて何者かの念話が送られてきた。
<あの者達をどうするのだ?>
ヤタガラスの使者は視線を右側に向ける。
そこにあったのは名も無き神社を守護するキツネ像である御稲荷であった。
「…広江ちはるは許されません。ヤタガラスとイルミナティの箱舟計画を見た者として」
<では、此度の任務に赴いた時女の巫達は…
逆側の御稲荷からも念話が届き、視線を左のキツネ像に向ける。
「その役目を神子柴に与えています。準備が出来次第に取り掛かるそうです」
<人の口に戸は立てられぬ。耐え切れない秘密を抱えた者ほど周りに語り出す>
<懺悔の気持ちと共にね。だからこそ…この村に帰ってきた巫達は危険なのです>
二体の御稲荷が言いたいことは分かっているヤタガラスの使者はこう告げてくる。
「我々ヤタガラスは…この
<時女一族とてヘブライ民族だぞ?秦氏から遠縁となるが、血筋の一族である事に変わりはない>
「大選別の時は迫っています…。ヤタガラスとて全ての秦氏一族を救う余裕はないのです」
<では、経済界の重鎮を務める秦氏の者達以外の秦氏ゆかりの一族は…見捨てるのですね?>
「そうなります…。それはヤタガラス所属の退魔師一族とて同じです」
<大選別の名の元にこの村は焼き払われるか…。我々の役目も終わったようだ>
<霧峰村が起こった時より我々はこの村を見守ってきましたが…終わりのようですね>
「その時は神子柴もろとも始末します。ヤタガラスの生き血を吸う害虫もろとも焼き尽くす」
<あの寄生虫の慌てふためく顔を見たかった気持ちもあるが…我々は役目を終える>
<もうこの地に身を置く必要はないのです。一足早く、我々はこの地より離れます>
そう言い残した後、二体の御稲荷像に亀裂が入っていく。
亀裂の隙間から漏れ出るようにして御霊の光が抜け出していく光景が広がるのだ。
空に向かって分霊は飛んでいき、他の名も無き神社にある御稲荷像の分霊と同化するのだろう。
抜け殻となった二体の御稲荷像は砕け散り、瓦礫を残すのみとなった。
去っていく御稲荷を見送ったヤタガラスの使者ではあるが、両手が握り込まれて震えてしまう。
彼女の脳裏に浮かぶのは初めて広江ちはると出会った時の記憶だった。
「…好奇心は猫をも殺す。秘密を嗅ぎ回る探偵に憧れていなければ…別の人生もあったのに…」
ヤタガラスに人生を捧げる一族として生まれた者はヤタガラスの者として任務を果たす。
それでも彼女はまだ若いヤタガラスの使者であり、心の中には青臭い若さが残っている。
非情になりきれない女性は漆黒の御高祖頭巾(おこそずきん)を脱ぎ捨てた。
「ごめんなさい……」
美しい黒髪の長髪を靡かせながらヤタガラスの使者は去っていく。
彼女が頭部を晒したのは、心の中にある隠せない気持ちを抑え込めない衝動に負けたからだ。
それでも彼女はヤタガラスとして生きる以外の人生など知らない者。
これからも本心を隠すかの如く、漆黒の頭巾で頭部と心を覆い隠す人生を生きていくだろう。
それこそが、秘密主義団体とも言える秘密結社に属する者達の在り方であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「天皇陛下の勅命とも言えるヤタガラスの使命を果たせず帰還か…。何か釈明はあるか?」
神子柴家に呼び出された静香達は武家屋敷の広々とした居間に正座させられている。
座布団の上で正座する神子柴は厳しい表情を浮かべながら静香達を問いただす。
神子柴家に現れたのは静香とすなおとちはるのみ。
涼子とちかは神子柴家に赴く事を拒否したようであった。
「その…嘉嶋さん…じゃない、日の本の新たなる神となられる方は…非常に頑固な方でして…」
「私達も頑張って勧誘を続けましたが…我々側に参加する素振りは見せてくれませんでした…」
「仲良くなることは出来たよ…。だけど…尚紀先輩だって…自由に生きたい人だから…」
言い訳を並べていく巫達を見つめる神子柴は怪訝な態度を浮かべてくる。
「ワシは遊びに向かわせたつもりはない。水徳寺の和尚から聞いておるぞ」
神浜生活の保護者であると同時にヤタガラスの者でもあった和尚から聞かされた内容を語られる。
その内容は勧誘任務など片手間のようにして都会生活を満喫していたという内容であった。
「それだけではない。静香、お前は時女の巫達を浅慮な正義感の名の元に動かした責任もある」
「そ…それは…その…」
神子柴には秘密にしていたつもりであったが、南凪港での出来事も把握されていたようだ。
「勘違いするでない。時女の使命とは悪鬼と戦うことで日の本を救うこと。忘れたとは言わさん」
「ですが…人間社会の問題だって日の本の問題です!!時女の者として捨て置けませんでした!」
「まだあるぞ。静香、お前は退魔師一族同士が取り決めた領分を犯した越権行為もある」
魔法少女達の誘拐事件があった時の出来事まで把握されていたと分かった静香の顔も青くなる。
「ワシの目と耳となる時女の者達は大勢おる。隠せていたつもりだったのだろうが甘かったのぉ」
「では…神浜テロの時のことも…ご存知なのですね…?」
「言うに及ばん。ワシに隠し立ては通用せん…数々の責任問題を問うことになるだろう」
「申し訳…ありませんでした……」
両手をついて頭を下げる静香の体は震えている。
たとえ時女本家の巫であろうとも重い責任が与えられる恐怖に怯えてしまう。
そんな彼女を助けてくれたのは横にいる2人の親友達であった。
「静香ちゃんは悪くないよ!私達に向けて時女の矜持を体現してくれた…最高の巫だよぉ!!」
「そうです!静香は重い罰が与えられる恐怖があっても…時女の矜持を貫いてくれた人です!!」
神子柴はすなおとちはるに向けて冷淡な目つきで睨んでくる。
「ワシは勘違いするでないと言ったはず。時女の矜持は悪鬼と戦うことで示すものじゃ」
「時女の使命は日の本を守ることだよ!人間社会も…悪魔も…全部日の本の危険だった!」
「私たち時女一族は変わるべきです!!魔獣である悪鬼だけが日の本の脅威ではありません!!」
「出過ぎたことを言うな!!時女一族はヤタガラス一族としての責務がある!!」
「いいえ黙りません!!私は時女の矜持を貫いてくれた静香の背中に…ずっとついていきます!」
「私だってついていくよ!!静香ちゃんこそ…時女の長になるべき巫だと…信じてるから!!」
霧峰村を支配する神子柴を相手にして、ここまで反抗してきた巫達はいなかった。
それでも戦ってくれるのはそれだけ静香のことを信じているからだ。
静香の生き様こそが時女一族の在り方であるべきなのだと。
「みんな……」
すなおとちはるの叫びを聞いた静香の両目には嬉し涙が浮かんでいく。
しかし神子柴の目には憎悪の感情が宿っており、恐ろしく冷淡な言葉を言ってきた。
「すなお…随分とでかい口を叩くようになったものじゃのぉ?」
「あっ……」
蔑みの目を向けてくる神子柴を前にしたすなおの体が震えあがっていく。
「そういえば…
「あぁ……あぁぁぁ……」
歯がガチガチと鳴り出す程にまで震え上がる。
ただならぬ姿を見せるすなおを見た静香は彼女を庇うようにして前に出る。
「すなおとちゃるは悪くないわ!全ては時女本家の者としての越権行為!私が罰を受けます!」
それが聞けた神子柴は頷き、こう告げる。
「よく言った。静香に与える罰は…ワシとヤタガラス双方から与えられるものとなるじゃろう」
「……覚悟は出来ています」
「ヤタガラスとの調整もある。一週間は暇をやるから好きに暮らせ。村の出入り口は塞いでおく」
「私は…逃げません。時女本家の者として…潔く罰を受けます」
話が終わった静香とちはるが立ち上がるが、すなおは立たない。
彼女は神子柴家に住み込みで暮らしている者であり、神子柴家がすなおの住処であったからだ。
静香とちはるは一礼をしてから去っていく。
残された2人であったが、未だに震えるすなおに向けて恐ろしい言葉を言ってくる。
「…お前はヤタガラスの勅命に逆らった者。ヤタガラスを敵に回せば…
それを聞かされたすなおは神子柴に向けて土下座をしてしまう。
「お願いです…!家族だけは…家族だけは助けてください!!」
先程までの強気な態度が一転し、従順な姿を晒してしまう。
すなおの態度に満足したのか邪悪な笑みを浮かべた神子柴は、あまりにも残酷な命令を下した。
「すなお…静香の罰としてワシは裳着を執り行う。獲物となる者達とは…」
――時女静香、広江ちはる、南津涼子、青葉ちかじゃ。
心臓が止まりかける程の衝撃に襲われる。
驚愕した顔を上げ、すなおは叫び出す。
「なぜですか!!?静香だけでなく…どうしてちゃるや涼子さんやちかさんまで!!?」
「理由が分からんのか?なるほど…どうやらお前は広江ちはるから聞かされておらんようじゃ」
「どういう…ことなんですか?ちゃるが一体…何を隠していると言うんです!!?」
「あの者はヤタガラスを激怒させた。お前の罪など比べ物にならん程の大罪を犯したのじゃ」
「ちゃるが大罪を犯した…?ヤタガラスは何をそんなにちゃるに向けて怒っているのです!?」
「理由を知らんお前ならば…ヤタガラスも見逃してくれるやもしれん。これは口封じでもある」
立ち上がった神子柴は震えながら座り込むすなおの肩を掴んでくる。
先程までの恐ろしさとは打って変わり、安心させてくるような狡猾な態度を示す。
「ヤタガラスに口添えして…お前と家族の命を守ってやろう。死ぬのはあやつらだけで十分じゃ」
「そ…そんなの……そんなのって……」
「ヤタガラスを敵に回して…お前は生き残れるのか?家族は生き残れるのか?」
すなおはもはや思考すら定まらぬ程の混乱状態に陥ってしまう。
藁にも縋る程の恐怖心に支配された彼女は涙を流しながらこう言った。
「お願いします…家族を救ってください!私はどうなってもいい…家族だけは…お願い…っ!!」
「安心せい。お前と家族の命を保障してくれるようヤタガラスに頼み込んでやる。信じるがいい」
泣き崩れてしまったすなおを放置して神子柴は大広間を後にする。
縁側廊下を歩いていた時、茶室に飾られている籠目紋に目を向けたようだ。
「ヤタガラス…ワシは騙されん。秘密主義者であるお前らが望む口封じとは…この里の抹殺じゃ」
籠目紋は六芒星であり、ヘブライ民族が掲げるシンボルと同じ。
自身が纏う羽織にも六芒星の家紋が備わっている。
神子柴家もまた六芒星を掲げるヘブライ民族の血を受け継ぐ者なのだろう。
「同族だろうが我らは殺す。ヘブライとはヒュドラの如く殺し合う多民族集団なのじゃからのぉ」
低い笑い声をあげていく。
神子柴の顔は悪魔の如く歪み、愉悦を堪えきれない表情を浮かべる。
「この村も吸い尽くした。有り余る富を片手に渡米して向こうのザイオンで暮らしていくかのぉ」
神子柴はイルミナティの工作員でもある。
イルミナティの中核を成すユダヤ財閥の者として、大選別を生き残る取引をしているのだろう。
「引っ越しの準備を急ぐか。この村と心中などワシはごめんこうむるよ。フフ…ハハハハハ!!」
神子柴は霧峰村をあっけなく捨てた。
悪魔のような老婆にとって、時女一族とは
この村の神官として最後の仕事となるのは静香達の裳着である。
それを最後の楽しみとして、裏切り者の国賊は姿を消していった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
暗い表情を浮かべながら静香とちはるは家路を目指す。
2人とも無言であったが、ちはるの方が先に口を開いてくれる。
「オババ…凄い怒ってたね。私達…どうなっちゃうんだろう…」
今にも泣きそうな親友を見て、気丈にも静香が励ましてくれる。
「大丈夫よ!ちゃるや皆に責任を問われるような真似はさせない…私が責任を背負うわ」
「だけど…!それだと…静香ちゃんは…」
「怖いけれど…悔いはないわ。だって私は…時女の矜持を体現したんですもの」
時女本家の女として悔いのない生き方を貫いた。
それだけが今の時女静香を支えてくれている柱であったようだ。
元気づけてくれた静香を見て、目に涙を浮かべるちはるが感謝を伝えてくれる。
「ありがとう…静香ちゃん。だけどね…私はね…凄く怖いんだ…」
「私だって怖くて堪らないわよ。だけど…それも巫達が背負う責任の道なのよ」
「ち、違うの!私が怖いのはね…オババから感じた嫌な気配だったの…」
「神子柴様から感じた…嫌な気配?」
「上手く言えないけど…あのオババは嘘をついてる。なんとなくだけど…感じたの」
「神子柴様が…嘘をついてる…?」
「気を付けて、静香ちゃん。きっと悪いことが起きる気がする…それが…凄く怖い…」
ちはるの危険を感じとる能力は静香も認めている。
彼女が嘘をつくはずが無いと分かる者だからこそ、警戒感を持ってくれる。
「分かった…私も気を付ける。今日の神子柴様は今まで見た事もないぐらい…恐ろしかったし…」
「こんな時…尚紀先輩に電話出来たらいいのに…。この村はスマホの電波すら届かないよぉ…」
「私達で乗り越えるしかないわ。これを乗り越えたら…この村を立て直しましょうね」
怯えながら泣いていくちはるを優しく抱き締めてくれる。
そんな静香の優しさによって心が癒されたのか、少しだけ元気な笑顔を見せてくれたようだ。
「私…お母さんに会いたい。凄く…会いたいよぉ」
「真っ直ぐ家に帰ってあげなさい。元気な姿を見せてあげて、お母さんを安心させるのよ」
「うん……」
広江家に用意された家に向かってちはるは駆けていく。
見送る静香の心の中にも最愛の家族への思いが吹き上がり、彼女も家に向かって駆けていった。
家の門を超えて静香は自宅である屋敷の中へと入っていく。
「ただいまー…」
遠慮がちな声を上げた時、素っ頓狂な叫びと共に誰かが走ってくる。
「おおっ!!貴女が私の君主の娘様ですね!!」
駆け寄ってきたのは使用人として暮らしている静香の母の仲魔であるタム・リンであった。
「え…えっと…新しい使用人さんかしら?」
静香の前で跪き、顔はイケメン中身はザンネンな男が笑顔を向けてくる。
「初めまして、私は田村と申します。色々あって静香お嬢様の母君とは主従関係を結びました」
「私の母様と…主従関係ですって!?」
「その通り!早くに夫を亡くされた母君は私の父性を求めて夜な夜な布団の中で主従関係を…」
「えっ?ええっ!?」
突然の展開についていけずにグルグル目になっていた時、屋敷の奥から懐かしい声が響く。
<<娘に誤解されるようなことを言うんじゃないわよ!!>>
田村が後ろを振り向くと、飛んできたのは陶器製の炊飯器。
「ゴフッ!!?」
顔面にクリーンヒットしたタム・リンはその場に倒れ込み失神したようだ。
「まったく…困り者なんだから」
奥から現れたのは愛する家族である静香の母であった。
「おかえりなさい、静香。お勤めご苦労様」
優しい言葉をかけてくれる母であるが、娘の顔が俯いていく。
母にあったら語りたいことが山ほどあった筈なのに恥ずかしくて顔を上げられない。
彼女はヤタガラスから与えられた任務を失敗した者であり、時女に泥を塗った者。
だからこそ時女当主の娘であっても母親に顔を向けることが出来なかったようだ。
俯いたままの娘を見て、ヤタガラスに長く在籍する者として何があったのかは察してくれた。
「母様…?」
気が付けば母親が目の前にきており静香を抱きしめてくれる。
「何があったのかは聞かないわ。静香はまだまだこれからよ…私の自慢の娘ですもの」
母の優しさに触れた時、張り詰めた糸が切れたかのようにして静香の目に涙が浮かぶ。
「ごめんなさい…母様…ごめんなさい……」
「謝らなくていい…。私も静香ぐらいの年齢の頃は失敗ばかりだったんだから♪」
「母様……母様ぁぁぁぁ……っ!!!」
母の胸の中で泣いていく娘を抱きしめてくれたまま頭を撫でてくれる。
そんな母親の愛に触れた静香の心から恐怖の感情は消えてくれたようだ。
「さて!愛する娘も帰ってきた事だし夕御飯にしましょう♪田村さんも寝てないでしたくなさい」
「了解です……」
こうして娘が実家に帰宅したこともあり、屋敷の中は賑わいを見せていく。
夕飯の席では静香がマシンガン発射のように様々な出来事を語ってくれる。
神浜市で過ごせた時間は色々あったけど、彼女に大きな喜びを与えてくれたと語ってくれた。
「とくに海が凄かったの!川しかみたことなかったから驚いたわ…大きな魚も釣れたの♪」
「まぁ♪どんな魚を釣ったのかしら?」
「黒メバルでしょ、ウミタナゴでしょ、メジナでしょ、そうだわ!大きなブリも釣れたの♪」
「ブリを釣ったの!?凄いじゃない静香♪」
「えへへ♪嘉嶋さんの家でバーベキューをしたの。私達とっても仲良くなれたわ♪」
「神様と仲良くなれる静香ですもの。きっと神様は静香のことを大切にしてくれるわ」
「静香お嬢様と仲良くしたい妖精もいますよ!ここに!!」
「貴方は黙って洗い物してなさい!!」
「そんな殺生なー!!もっとカンナギ達と触れ合いたい~!!」
「ウフフ♪愉快な人なのね、田村さんって♪」
「見た目に騙されちゃダメよ、静香。この男は股間にだらしなくてね…巫の1人をね…」
「わーっ!わーっ!!それは語らないで欲しいですぞーっ!!!」
久しぶりの故郷で過ごす時間はあっという間に過ぎていく。
小さな頃に戻ったかのようにはしゃいでいたら就寝時間になったようだ。
自分の部屋に久しぶりに帰ってきた静香が布団を敷いて就寝につく。
しかし静かな時間が続いたためか心の中がざわついてきたようだ。
布団から起きた静香は部屋から出ていく。
向かった先とは時女本家の血を引く者しか近寄れない御神木が見える鳥居の前であった。
左手を掲げて生み出したのは、魔法少女として生きる静香が振るう魔法武器。
6本の枝刃を持つ特異な形をした剣である
両手で七支刀を持った静香が目の前に掲げるようにして剣を構える。
目を瞑り、深く深呼吸をした後に目を開けたようだ。
「後悔はない…。どんな責任を背負うことになっても…私は時女の矜持を捨てない女でありたい」
魔法の力で七支刀を消そうとするが、彼女の目は七支刀に釘付けとなっている。
「この剣は私の魔法武器だけど…魔力で生み出したものじゃない。私の
静香が握る七支刀は彼女が巫になった時に静香の母が渡してくれたもの。
一族の伝統の全てが詰まっている象徴だと言われており、時女当主が持つべき剣。
「今の時女当主である母様にも伝えないといけない…。私が時女をどのようにしたいのかを…」
静香の鞄の中には尚紀から託された教育プログラムが記された書籍が入っている。
過ちを起こした人間の守護者が時女静香に託した大切な品であった。
「日の本に生きる人々のために…嘉嶋さんは魔法少女を縛り上げようとした。でも…間違ってた」
たとえ大儀があろうとも、押し付ければ押し付ける程に正義の魔法少女達は反発した。
人修羅が掲げる人間社会主義こそが正しいと静香も信じようとしたが、多くの者達が拒否した。
「様々な考え方があって当たり前…それが本当の自由。私たち時女も…縛り上げてしまったわ」
心というものは、それ自身一つの独自の世界。
地獄を天国に変え、天国を地獄に変えうるもの。
それこそが人間の基本的人権にもあたる内心の自由である。
人間が人間らしい生活をするうえで、生まれながらにしてもっている権利。
基本的人権は人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であり、侵してはならない永久の権利だ。
「あの時の嘉嶋さんは…違う私を見ているみたいだった。
この宇宙とは違う宇宙においてそれは実現することとなるだろう。
世間知らずの違う静香は偏った正義感だけを求めて暴走の限りを尽くした。
最後には独裁こそが正しいとまで偏ってしまい、悪事を持って理想を成し遂げたいとまで考えた。
イデオロギーという悪霊に憑りつかれた狂人にまで落ちぶれ果てた静香の姿がそこにはあった。
「嘉嶋さんの生き様を見たのが…私の神浜生活で得た最高の宝。だからこそ…後世に残していく」
この世界の時女静香が求めるのは時女の理想(LAW)を周りに押し付けるものではない。
時女一族が長年にかけて生み出した思想を
思想の自由が敷かれては、時女の理想などつまらないと言い捨てる者達も大勢出るだろう。
そんなものより楽しい娯楽とばかりに堕落していく者達も大勢生まれるだろう。
堕落は偏見と差別を生み、他人を玩具にしてマウント遊びを楽しみたい者も生まれる筈だ。
「それでも…押し付けることは許されない。私の心の理想は…誰かの心の理想ではないから…」
自由を与えれば与える程、人間は堕落する混沌を生む。
正義の味方を気取る魔法少女とてそれは例外ではない。
いつの間にか自分達の都合の良さしか求めない人間に成り果てていく。
だから堕落者を矯正する独裁(LAW)が必要では独裁者の恐怖政治しか生み出せない。
「私とななかさんに託されたのは教育。人間を自発的に善性の道に進ませる可能性を生み出す道」
これからの時女静香は常盤ななかと同じく教育者としての道を歩みたいと考えている。
時女の理念を長として周りに押し付けるのではなく、自発的にそれを望んでいい自由を与える道。
人々の内心の自由を尊重した上で、時女の理想は素敵だと思ってくれる人を少しでも生み出す。
それこそが基本的人権の尊重であり、独裁とは違う
「人修羅として生きる嘉嶋さんが与えてくれたのは…」
――混沌(CHAOS)という自由の力で…平和を望む道だったわ。
決意を秘めた静香が屋敷へと戻っていく。
彼女の人生にはこれから先、あまりにも苦しい試練が待ち受けているだろう。
圧倒的な秩序の力によって、自由を求める時女一族は滅びるかもしれない。
それでも未来の時女一族当主を目指す時女静香が求めるものは…秩序ではない。
みんなが自由に平和というものを一緒に考え合える
考え方が違う異なる者達の調和を目指す自由(CHAOS)があってもいい。
それもまた、籠目紋である六芒星の調和であった。
不気味なわらべ歌から始まる静香ちゃんの苦労スタート話です。
時女静香編はデビルサマナー葛葉ライドウ対アバドン王の影響が色濃く出るやもしれません。
時女本家の静香ちゃんと槻賀多家の弾さんは、同じように自由な村の在り方を望ませてる部分とかが意識してる部分です。