人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
時女静香に与えられる罰が執行されるまで一週間の猶予が与えられている。
里に帰ってきた魔法少女達はそれぞれの毎日を送っているようだ。
分家の者でありながら時女本家の里にまで連れてこられた涼子とちかは困惑している。
このままここで暮らす羽目になっていくのかと不安を語り合っていた。
「ちはるも分家の者だって聞いてる…。あいつもここに呼び出されて暮らしてきたって…」
「じゃあ…私達もちはるさんと同じように…ここで暮らさないといけないんですか?」
涼子とちかは霧峰村で唯一外食が出来るジビエ料理店にまで来ている。
外の席で向かい合って不安を語り合う光景が続いていたようだ。
「あたしはそんなの認めない!ヤタガラスに振り回されて…時女に振り回されて…うんざりだ!」
「そうです!私はそんな人達とは遠縁の者として生きてきたのに…私にだって人生があります!」
「分家の者として遠くから静香を支えてもいいとは思ったけど…ここで暮らすのはごめんだよ」
「逃げ出したい気持ちは強いですけど…涼子さんは気づいてますか?」
「昨日から村の出入り口に巫達が配置されてることだろ?どうあっても逃がさないつもりだ…」
「村の周囲にも巫達の魔力を感じます…。こう巡回警備されては逃げきれません…」
「これからどうなっていくんだろうな…あたし達……」
気持ちが落ち込んでいた時、獣臭さが近寄ってくるのをちかは感じとる。
視線を向ければ猟師のような魔法少女衣装を着た少女が仕留めた外来鹿を担いできていた。
「もしかして…貴殿らが静香殿と一緒にやってきたという分家の巫達でありますか?」
「誰だよ…あんたは…?」
「我は貴殿らと同じくこの村にやってきた分家の者であります。三浦旭であります」
「青葉ちかです。貴女も分家の人なんですね…それに魔力も感じるし…巫なんですか?」
「如何にも。我は魔法の力を使って里をうろつく害獣を始末してるであります」
「あたしは南津涼子。まぁ田んぼが周囲を囲う田舎なら害獣にも悩まされるよな…」
「この店はそうした害獣を仕留めた後の処理施設として利用されるでありますよ」
「じゃあ…そのキョンをここで解体するんですか?」
「我は日本海側の湯国市生まれ…猟師の親から仕込まれてるであります」
ドヤ顔を見せる旭は担いだ鹿の頭部に目を向けながら微笑んでくれる。
動物の解体現場を直で見られるかもしれないと青葉ちかは目を輝かせてきた。
「あ、あの!私も処理施設を見学させてもらってもいいですか?」
「別に構わないでありますが…珍しいでありますね?この村の巫達でも嫌がるのに」
「私…自然が大好きなんです。神浜で暮らしてた頃はネイチャーガイドもしてました♪」
「自然ガイドの方でありましたか。なら、もしかして動物の解体経験もあるのですか?」
「ええ♪分家の集落で暮らしてた頃、猟師さんから教えてもらったことがあるんです」
それを聞いた旭の目も輝いてくる。
自然を愛する者同士、通じ合える者だと理解したからだ。
「店の人に頼んでくるであります!あ、先にキョンをジビエ処理施設に持って行かないと…」
「私が運びますよ♪こう見えて力持ちなんです。大きな猪だって運べます♪」
「流石は自然ガイドのちか殿であります!では、このキョンをお願いするでありますよ」
「あ…あたしは遠慮しとくよ。寺娘として鹿の供養なら出来るけど…解体は無理かな」
「では、涼子殿にはジビエ料理を提供するであります。この鹿肉を振舞うでありますよ♪」
「そいつはいい!寺娘のあたしだけど、こう見えて大食いなんだ♪」
意気投合した3人は仲良くお昼ご飯を食べることとなる。
仲良くなった3人は旭に連れられ、秘密基地とも言える隠れ家まで案内されていくようだ。
「巫として聞きたいであります。涼子殿とちか殿は…神や悪魔という存在と出会ったことは?」
それを問われた時、2人の脳裏には人修羅の姿とナオミの姿が思い浮かぶ。
「あるよ。しかもね…その存在とは密教の本尊様である大日如来が化身、不動明王だったんだ」
「まことでありますか!?神仏とは我も出会ったことがありませんが…凄いでありますね」
「それに…人間として生きる悪魔とも出会ってます。その人から私は多くを学べました」
「この霧峰村の森深くにも悪魔達が暮らしているであります。妖精郷があるんです」
「「妖精郷!!?」」
驚いた涼子とちかの頭に浮かぶのは、まるで絵本の妖精達のような世界観が浮かんでくる。
「妖精達は悪戯好きでヤンチャでありますが、そこまで害はないであります」
「もしかして…あたし達を連れていきたい場所というのは…妖精郷なのか?」
「あそこには連れて行かないであります。我も拉致された事がありますし…酷い目に合いました」
「拉致被害を受けたんですか!?よく無事に帰ってこれましたね…」
「おバカな妖精王達から救ってくれた妖精がいたであります。その子達を紹介するでありますよ」
こうして涼子とちかは妖精と呼ばれる悪魔達と関わりを持つこととなっていく。
しかし彼女達にとっては破天荒な冒険の幕開けとなるとは、この時の魔法少女達は知らなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
静香の母親が作った山小屋の元まで来た3人が樹木悪魔のジュボッコの元までやってくる。
初めは驚いた涼子とちかであったが、話していくうちに穏やかな老人悪魔だと理解したようだ。
「静香さんのお母さんの仲魔なんですね…?つまり…静香さんのお母さんはデビルサマナー?」
「南凪港で見た不動明王様を使役した女サマナーと同じ存在だったなんてなぁ…」
「ワシはこうして自由に過ごせておるが、他の連中は今でも管の中にいるんじゃよ」
「静香殿の母殿が使役する悪魔は他にもいるでありますか?」
「最近は妖精騎士のタム・リンを仲魔にしたようじゃが、他の連中は陰鬱な連中ばかりじゃよ」
「俗世を嫌って管の中から出てこないでありますか?」
「俗世というよりは…霧峰村そのものを嫌っておる。関わりたくもないとな」
「その悪魔達の気持ち…あたしは分かるよ。ちかとあたしはそいつらと同じ気持ちなんだ」
「残念であります…。我も初めは戸惑いましたが、今では住めば都だと考えてるであります」
「私と涼子さんは…分家の集落に帰りたいです。旭さんは帰りたいとは思わないんですか?」
それを問われた旭の顔が沈むように俯いていく。
返事を返すことも出来ない旭に代わり、ジュボッコが重い口を開いてくれる。
「旭はのぉ…湯国市で生きた魔法少女として…
湯国市において、魔法少女の存在を周知させようとした事件が起きる。
しかし努力も空しく人々から迫害を受ける事となったと聞かされたようだ。
「旭はその時の当事者じゃ。魔法少女の存在を周りに伝える努力をしたが…運命は残酷じゃよ」
クラスメイトに魔法少女の存在を知らせた事があり、理解をしてくれた男の子がいた。
しかし湯国市オールスターフェストの際に魔獣が人々を襲う出来事が起きてしまう。
次々と感情エネルギーを吸い上げられた人々は廃人に変えられ倒れ込む。
錯乱したクラスメイトの男は魔法少女の魔法の仕業だと叫び出したのだ。
オールスターフェストで起きた原因不明の事故は未知なる存在である魔法少女の仕業。
噂は瞬く間に拡散し、魔法少女撲滅派という過激派が組織されてしまう。
旭はその時に弾圧の暴行まで受けてしまったようだ。
「全ては
「陰謀論界隈も同じであります…。人間は他人を知る努力をしない…マウント遊びしか求めない」
「人々とて生活がある。生活の合間を縫って、胡散臭い連中の話内容を調べる努力を行うか?」
「…きっと行わないであります。テレビやスマホを見て、娯楽の世界に埋没するだけであります」
「人は見たいものしか見ないし信じない。狭い経験だけで周りを測る事しか出来ん偏見生物じゃ」
「だからこそ魔法少女の存在は…偏見生物とも言える人間達の誰にも知られてはならない」
顔を向けてくる旭の表情にはやり切れない悔しさが浮かんでいる。
心の憎しみを絞り出すようにして…こう呟いた。
――魔法少女は誰にもその存在を知られない…
旭の過去を知った涼子とちかは顔を俯けたままである。
かけてやれる言葉が見つからず、魔法少女を助けてくれる時女の者達の有難さも実感したようだ。
「湯国市にいられなくなった旭は祖母を頼り、故郷から出ていった。今ではここが旭の故郷じゃ」
「そんな事情があったなんて…知らなかったよ。ごめんな…霧峰村を悪く言って…」
「私達…こんなにも時女の人々に助けられてたんですね。私も…人間の恐ろしさは経験してます」
「我は霧峰村を愛しているであります。ここでは巫である魔法少女達は…誰にも差別されない」
「ワシら悪魔と魔法少女は似ておる。我々を神と呼ぶ者もいれば…悪魔だと罵倒する者もいる」
「悪魔の尚紀だって旭と同じ目に合った…。正義の魔法少女でさえ…偏見しか見てくれない…」
「無知は罪…。寄り添う思いやりを失った人々は…こんなにも他人を攻撃する事しか出来ない…」
「太古の昔も中世時代も、近代や現代とて何も変わらん。浅慮な正義感だけを人々は玩具にする」
「だからこそ、我はもう他人には期待しないであります。信じたい気持ちなんて…」
「自分勝手な理想を信じたいだけ…ですね?私は疑う事の大切さを…尚紀さんから教わりました」
「ちか殿…その話をもっと聞かせて欲しいであります。我とちか殿は…親友になれそうですな?」
心から打ち解け合う事が出来た3人の魔法少女達の元にシルフとコダマも遊びに訪れる。
人間から迫害されるしかない者達同士で仲良くなれたようであったのだがトラブルもやってくる。
(フフ…フフフ……)
仲良く談笑する者達を見下ろすのは、大きな鳥に擬態した姿のティターニアである。
妖精の女王が視線を向ける先とは何故か南津涼子であったようだ。
(今度こそ美少年に違いないわ…!絶対にそうよ…間違いない!!)
南津涼子は男勝りな熱血系の女子であり、私服も女らしいモノをあまり着ない。
中世的な雰囲気から美少年だとまた勘違いをしてしまう。
(私は美少年に飢えているのよ!!手下共を動かして…今度こそ手に入れてみせるわ!!)
ティターニアは飛び立ち、怪しい行動を開始する。
楽しい時間も過ぎていき旭達一行は帰路につく。
森の中を歩いている時、旭は警戒感を示して2人を止める。
「どうした?」
「この気配…シルフ殿とは違う妖精がいるであります」
「シルフさん以外の妖精…?」
木陰から現れたのは2体のピクシーである。
「うわー可愛い♪この子達もシルフさんと同じ妖精なんですね?」
「何か用事でありますか?我々は家に帰ろうとしているのでありますが…」
2体のピクシーは顔を向け合い、旭達に振り向いて手を合わせてくる。
「ごめんねー。私たち…女王様に命令されちゃっててさぁ…」
「悪いんだけど…迷子になっちゃえーっ!!」
<<えっ!!?>>
両手を掲げて強い光をピクシー達は放ってくる。
眩い光に目が眩み、光が収まってきた頃に目を開けると驚愕する。
「あれ…?なんであたしは独りで立ってるんだ?旭とちかは何処だよ!?」
この光景こそ人修羅もボルテクス界で味わった光景である。
妖精達は悪戯好きであり、ピクシーは人々を迷子にするのが得意なのだ。
旭達と分断されてしまった涼子は慌ててしまう。
「参ったな…土地勘が無いあたしじゃこの森を抜けられるか分からないぞ。合流を急ごう…」
ソウルジェムを左手に出現させて旭達の魔力を探りながら歩いていく。
すると魔獣のものとは違う瘴気を涼子は感じ取ったようだ。
「これは…悪鬼の結界じゃない!?これが悪魔の結界と言われる異界なのか!」
ソウルジェムを掲げて変身しようとした時、頭上から瘴気を放つ悪魔が急降下してきた。
<<パイイイルゥゥゥダァァァァオオオオンーーーッッ!!>>
「へっ?うわーーっ!!?」
頭部に急降下してぶつかってきたのは旭を誘拐した時にも現れたウィルオウィスプである。
鬼火の人魂という名の亡者に憑りつかれてしまった涼子の外側の肉体がガクンと項垂れてしまう。
体がガクガクと揺れ動いた後、顔を上げていく。
その表情はまるで狐憑きにでもあったかのようなイカレた表情をしていたようだ。
「ウォォーーッッ!!久しぶりの人間の肉体だーっ!!」
霊体ではない実体を久しぶりに得たウィルオウィスプはハイテンションで踊りまくる。
魂を引っ張り出された魔法少女達の外側の肉体は言わば空席の椅子のようなもの。
悪霊達にとっては座り心地のいい椅子のようにして憑りつかれてしまう危険性が大きかったのだ。
「このまま街に繰り出して沢山遊ぶぞ!!胸にときめきパチンコ生活だーーっ!!」
ルンルン気分で去っていこうとした時、茂みから現れたゴブリンが止めに入ってくる。
「待て待て!そいつは女王様への献上品だ!勝手な事をすると後が怖いぞ!!」
「うるせぇ!うぉれのパチンコ愛は誰にも止められねぇ!チャンチャンバリバリしてーんだ!!」
「亡霊悪魔を妖精郷に住まわせてもらってる恩を忘れたのか!蹴り出されるぞ!!」
「ぐっ…それは困る。まぁいい!妖精郷に拉致ってしまえば後でも憑りつけるからなぁ!!」
渋々と涼子の体を乗っ取ったウィルオウィスプはゴブリンと共に妖精郷へと帰っていく。
見失った涼子を探す旭とちかであったが彼女の姿を見つけることは出来ない。
「もう日が沈んできてます…このままでは遭難する危険性も大きいですよ?」
「この森は我にとっては庭だから遭難はないであります。ですが…涼子殿は危険です」
「あの妖精達…私達を分断して何を企んでるんでしょう?」
それを問われた時、旭の顔が青くなっていく。
「ま…まさか…涼子殿も我と同じくおバカな妖精王夫婦に拉致されて……」
「ええっ!?た…大変!静香さんのお母さんに相談しに向かいましょう!」
「待つであります!妖精郷は危険地帯…グズグズしてたら涼子殿が危ないであります!」
「助けに向かうしかないんですね?森に行くと連絡してるから帰りが遅いなら探してくれるかも」
「我らは先に涼子殿を助けに向かうであります!妖精郷の入り口に案内するでありますよ!」
こうして旭達は救出隊として妖精郷へと向かっていく。
囚われの姫君だったと妖精王達に知られてしまっては旭と同じく命の保障は無い。
バカ夫婦達が繰り返す珍騒動に辟易しながらも、旭は新しい親友の命を守るために駆けていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「う…うーん……」
倒れ込んでいた涼子の意識が戻り、周囲を伺う。
「ここは…何処だ?まるで絵本の世界のようにメルヘンだよなぁ…?」
幻想的な妖精郷の美しさに見惚れているが現実を考えない涼子ではない。
「どうやらあたしは…妖精郷とやらに連れてこられたみたいだ。旭の二の舞になっちまったか…」
男の亡霊に憑りつかれていた気持ち悪さが抜けないのか、頭を振りながら思考を纏めようとする。
そんな涼子の元に近寄って来たのは先ほどのゴブリンであったようだ。
「よぉ、坊主。お目覚めのようだな?」
「げぇ!?もしかしてお前は…六道の餓鬼道に住まう餓鬼じゃないのか!!」
「ちげーよ!!俺はゴブリンだ!腹が出っ張ったマヌケ顔の餓鬼じゃねーだろ!!」
「言われてみればそうか。ところでゴブリンさんよぉ…あたしを拉致ってただで済むと思うか?」
ソウルジェムを掲げようとしたがゴブリンは制止させてくる。
「やめとけ、周囲を見てみろ。妖精達が珍しい客人のお前を見物してるのが見えるだろ?」
魔力を探ってみれば様々な妖精達が木陰に隠れて涼子を見物しているようだ。
「ここで妖精に敵意を示せば、お前は袋叩きにされちまうってわけさ」
「多勢に無勢か…。悪魔の魔法は厄介なのは知ってるし…迂闊には戦えないってわけかよ」
「悪魔のことを知ってるなら話は早い。ついてこい、女王様がお待ちかねだ」
言われた通りゴブリンの案内に付いて行くしかない涼子の顔は不安を隠せない。
(そういえば旭が言ってたな。美少年に間違えられて拉致されたって…)
ここで女だったとバレてしまえば命の保証は無いと旭から聞かされている。
なのでここは上手くはぐらかして逃げ出すことにしたようだ。
「あー…ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
「尿意をもよおしてきたから…その……トイレはないかい?」
「しょうがない奴め。その辺で隠れて立ちションしとけ」
「ありがたい、そうするよ」
立ちション出来たら女としてどれだけ楽かと考えながら茂みの中に入っていく。
木陰に隠れた隙をつき、涼子はそそくさと逃げ出したようだ。
「嘘も方便ってね♪こんなところで長居してたら浦島太郎の二の舞さ!」
大慌てで逃げていくのだが、妖精郷の土地勘など持ち合わせていない彼女は迷ってしまう。
流石に気が付かれたのか背後からは追手となる妖精達の魔力が迫ってくる。
「まずいな…早く逃げ出さないと!!」
慌てていた涼子であったが、茂みの中から顔を出している存在に気が付く。
「妖精郷には馬もいるのか?乗馬なんて小さい頃にやったことがある程度だけど…仕方ない!」
彼女は跳躍して馬の背に飛び乗ってくる。
眠気を抱えてウトウトしていただけの馬は慌てて起き上がり、その姿を晒すのだ。
「げぇーっ!?お前…化け物馬だったのかよー!!?」
【ケルピー】
ケルト神話における水の精である馬の姿をした妖精である。
人をそそのかしてその背に乗せ、そのまま水の中に飛び込んで溺死させてしまうという。
しかしうまく従わせることが出来れば自由に操ることも可能らしい存在であった。
「驚きたいのはこちらの方だ!!私の背中に勝手に乗るでない!!」
上半身は緑色の体を持つ馬であるが、下半身部分は水に漂う水藻のような姿をしている。
「勝手に私の背中に乗ってくる者は、このまま水底まで連れて行ってやる!!」
「わわっ!!待て、勝手に動き回るなーっ!!」
宙に浮かび上がったケルピーに振り回されながら妖精郷の空を飛び回っていく。
泉の底まで連れていかれては堪らないと意を決して空の上から飛び降りる。
「うわーーっ!!!」
木々の枝を砕きながら地上へと落下。
あわや地面に叩きつけられるかと思ったが、意外と地面は柔らかかった。
「いてて…お尻から地面に叩きつけられるかと思ったけど…なんでこんなに柔らかいんだ?」
地面を見てみると、毛皮のような肌触り。
お尻からはお腹の呼吸のような感触まで伝わってくる。
周囲にはミツバチの巣が散乱しており、デザートを食べ散らかしていたようだ。
「んごー…zzz…んごーー…zzz……」
涼子が着地した場所の下にいたのは旭を追い回したことがある妖精の姿。
「んごー……ふごっ?」
鼻提灯が割れて目を覚ましたのは毛皮を纏うトロールであったようだ。
「まずい……」
抜き足差し足で逃げようとしたが、背後で立ち上がったトロールの影に覆われてしまう。
巨体の影に包まれた涼子は恐る恐る後ろを振り向く。
「むむむーーっ!?お前……オレのデザートを盗みに来た盗人だな!!」
つぶらな瞳が眼光を放ち、涼子を睨んでくる。
「あ…あたしはダイエット中だから…その…高カロリーなハチミツは遠慮するかなー…」
冷や汗をダラダラ流す涼子であるが、トロールは近くにあった木を両腕で抱え込む。
「ヌォォォ――ッッ!!月まで飛ばしてやるぅーーっ!!」
怪力を用いて木を根元から引っこ抜き、強引に振り回してくる。
「お洒落にあの世行きだーーッッ!!!」
「うひゃーーーッッ!!!」
大慌てで逃げ出す涼子を背後から追い回してくるトロールが迫りくる。
前方からは涼子を見つけ出したゴブリンと妖精達まで現れてしまう。
「見つけたぞ坊主!!小賢しい真似しやがって!神妙にお縄につけ!!」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろーっ!!」
「なにーっ!?ん…おい、ちょっと待て!!後ろのトロールは何だ!?」
「こいつを止めてくれーーっ!!」
ゴブリン達の横を走り逃げていく涼子であるが、後ろのトロールが迫ってくる。
「待て!マテマテ!!止まりやがれトロールーーッッ!!!」
「てんちゅううぅぅぅ!!!!」
「あがパァッッ!!!」
見境なくトロールは暴れまわり、ゴブリン達は巨大な木によって張り飛ばされていく。
「ンギモッチイィーーッ!!!」
「見境なしかよーーっ!!?」
怒れる巨人は両手に持った丸太の如き木を振り上げ、追いついた獲物に一撃を放とうとする。
「よーし判決を下す!!死刑ッッ!!!」
「誤解なんだってーーっ!!!」
豪快な横振りによって涼子は大回転しながらお空の星になるかと思われたがハプニングが起きる。
「なんじゃこりゃァァァァァァァ!!?」
頭上に掲げた丸太の如き木が両サイドにあった木とぶつかってめり込んでしまう。
反動を受けたトロールの体が鉄棒の大回転のような状態となってしまう。
高速で回転し続けるトロールの握力が耐えきれず手を離してしまった。
「月にウサギいるかァァァァァァ!?モチついているかァァァァァァ!?」
大回転しながらお空の彼方に飛んでいったのはトロールであったようだ。
その頃、妖精郷まで訪れた旭とちかはソウルジェムを片手に魔力を探りながら駆け抜けている。
「幻想的な場所ですけど…ここに長居し過ぎるとまずいんですよね?」
「ここは外界とは時間の流れが違うであります。早く涼子殿を連れ戻さないと!」
「私だって巫です!旭さんの遅れはとりませんから!」
魔法少女姿に変身したちかは両手に片手斧を持ち、どこから現れるか分からない妖精に警戒する。
前後左右どちらから奇襲が現れても対応出来る状態であったが、頭上の警戒が疎かであった。
「「えっ……?」」
何か大きな影が魔法少女達を包み込んだかと思った瞬間…。
「「ぐえーーっ!!?」」
空から降ってきたトロールに押しつぶされてしまったようである。
「…考えてたらモチを食いたくなったじゃないかァァァァァァ!!」
「「重いからどいてーーーッッ!!!」」
気合十分な救出隊であったが、突然の空からの贈り物によって戦闘不能に追い込まれたようだ。
危機は去ったかのような安堵を浮かべた涼子であったのだが、背後に何者かの存在を感じとる。
「つかまえたー♪」
「ひゃぁ!?」
背後から抱き着いてきたのは妖精の女王であるティターニア。
隣には怪訝な顔つきを見せる妖精王のオベロンがいた。
「ゴブリンが遅いから何をやってるのかと見に来たら、妖精郷を楽しんでるようね?」
女王の巨乳を背中に押し付けてくるが、少女である涼子には通用しない。
「今度こそ美丈夫で間違いないんでしょうね?」
「私の目は節穴じゃないわ。今度こそ大丈夫に決まってるから」
妖精郷に迷い込んだ魔法少女は囚われ、救出に来た魔法少女は潰れたまま。
南津涼子は窮地に立たされてしまったようであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「さぁ坊や、こっちにいらっしゃい。私が可愛がってあげるから♡」
「は、放せ!!家に帰らせてくれよ!!」
ジタバタともがくが、魔法少女の力では妖精の女王の力を振り解くことは出来ない。
「困った子ねぇ…。大人しくしてくれるなら手を離してあげてもいいわよ」
「埒が明かないし…分かったよ。大人しくすれば手を離してくれるんだな?」
「ええ、女王の私に二言は無いわ」
仕方なく涼子は大人しい態度を見せ、ティターニアは両手を離してくれる。
後ろに振り返れば、そこには息を飲み込む程の絶世の美女とも言える女王がいたのだ。
微笑んでくれるティターニアは緑のドレスの裾を持ち上げ、礼を示してくれる。
「初めまして、私の名はティターニア。妖精郷の女王であり、隣は夫の妖精王オベロンよ」
「随分と小さい王様を夫にしてるんだな…。それにしても…」
涼子の視線が釘付けとなってしまったのはティターニアの足。
両目が見開き、酷く興奮した様子でティターニアの足に飛びついてきた。
「この美しい脚…まるで仏陀の妃であるヤショーダラーのように美しい脚だ!!」
突然興奮した患者のようにしてティターニアの足を頬擦りしてしまう涼子の謎の態度。
どうやら彼女は酷い
涼子の愛を独占出来たと感じたティターニアは満面の笑みを浮かべてくれる。
「いけない子ねぇ?でも、この妖精郷で暮らしてくれるなら…私の足でいいことしてあげる♡」
「い…いいこと!!?」
「そう、いいことよ♡」
仏教徒であるが未だに煩悩を克服することが出来ない涼子は頭を抱えて悩み抜く。
(あの立派な太腿で何をしてくれるんだろう…?ダメだ…煩悩が抑えきれない!!)
蹲って悩んでいる涼子の背中に足指を添わせてくる。
「あぁ……ほぁぁぁぁ……っ!!」
赤面しながら快感に支配される涼子。
あと一押しすれば彼女は妖精の女王から与えられる誘惑に負けてしまうやもしれない。
そんな様子を怪訝な面もちで眺めているだけの夫である。
妻が浮気している光景に見えるだろうが、彼にとっては妻が玩具で遊んでる光景だったようだ。
<<う…うぉう様ァァァ…チョットォォォ…言イタイコトガアルゾォォォ>>
オベロンが横を向けば、涼子に憑りついていたウィルオウィスプがいたようだ。
「何ですか?」
<<うぉれ…ソイツニ憑リツイタ時…胸ノ辺リニィィ…変ナ重サヲ感ジタゾォォ>>
「変な重さ…?」
<<うぉれ…ソイツ…男ジャナイッテ…思ウゥゥ。男ノうぉれガ言ウンダカラ…間違イナイ>>
それを聞いたオベロンの眉の位置がびくっと上がってしまう。
「それを確認する方法は…一つでしょう」
王子様ルックな王様衣装の腰に備えてある鞘からサーベルを引き抜く。
クロアゲハ蝶のような翼を広げながら浮遊していき、涼子に近寄ってくる。
「あぁ…こんな綺麗な脚にめちゃくちゃにされるなら…ここに住み込むのもいいかも…」
誘惑に負けた顔を浮かべながらティターニアに抱きつこうとした時だった。
「ちょっと!?」
横やりを入れるかのようにしてオベロンが襲い掛かってくる。
「ハァァーーーッッ!!」
高速で繰り出されるサーベルの刺突攻撃。
「うわぁぁぁーーーッッ!!?」
涼子の上半身の衣服が切り裂かれ、一気に破れてしまう。
「……やはりでしたか」
上半身の衣服が破れ果て、そこにあったモノを目にしたティターニアの目が点になる。
「な…な…何するんだよーっ!!?」
赤面しながら胸を隠す乙女な少女の胸元には女性らしい胸の膨らみがあった。
妖精王の情けなのか、ブラジャーだけは切り裂かれなかったようである。
「……ティターニア?」
夫が視線を妻に向ければ、開いた口が塞がらずに石化しているおバカな女王がいたようだ。
「やはり貴女の目玉は腐ってますよ!この娘の何処が美丈夫なのです?ついてきて損しました!」
夫が罵倒してくるが余程堪えたのか妻は石化したまま動けない。
(これで分かった…。やっぱり妖精郷になんて…いるべきじゃない!!)
動かない石像に向かって罵詈雑言を吐き捨てる夫婦喧嘩を尻目に涼子はこっそり逃げ出していく。
「こっちよこっちーーっ!!」
「シルフか!?」
騒ぎに気が付いたシルフとコダマがやってきて涼子の道案内をしてくれる。
「助かった!出口まで案内してくれ!」
「こっちよ!しっかりついてきなさい!!」
走り続ける涼子の左右を飛翔しながら誘導してくれるシルフとコダマ。
しかしコダマが後ろを振り向き、驚きの声を上げたようだ。
「うわーっ!!スプリガンがくるよーっ!!?」
離れていても地響きが伝わってきた涼子も後ろを振り向く。
「な…なんだよ…?木々を押し倒してくる…あの巨大なヤツはーーっ!!?」
全長40メートルはあろうかという巨人が迫ってくる。
妖精郷の門番を務めるスプリガンが巨大化した姿であり、肩にはティターニアまでいる。
「逃がさないわよこのクソ女がぁ!!女王の私に恥をかかせた報いを与えてやるわ!!」
「男だと勘違いしたのはそっちだろぉ!?」
魔法少女姿に変身した涼子ではあるが、強力な悪魔であるスプリガンが相手では分が悪い。
絶体絶命のピンチであったが、空から念話が響いてくる。
<巫よ、ここは我らが引き受けよう>
「えっ!!?」
上空を見れば、空を飛んでいたのは龍である。
「あれは…時女当主が使役する悪魔!?」
龍が口を開き、放たれたのは絶対零度の氷結魔法攻撃。
「グォォーーーッッ!!?」
直線で吐き出された属性ビームとも言える一撃を受けたスプリガンの巨体が倒れ込む。
空を浮遊するティターニアは忌々しげに空の悪魔に視線を向ける。
「私の邪魔をするなら容赦しないわよ!!その悪魔ごと氷漬けにしてあげるから!!」
「あら?このセイリュウを相手に氷結魔法を使うだなんて、相変わらずのおバカさんね?」
【青龍】
中国の伝説上の神獣であり、四神の一つに数えられる東方の青龍である。
四神とは朱雀、玄武、白虎、青龍が東西南北を守護する存在として数えられて神格化されたもの。
道教における人格神化した名前では神君と呼ばれ、龍族の始祖とされたようだ。
「涼子!!ここは私に任せて逃げなさい!!」
「だ、だけど……」
「私なら大丈夫よ!静香達が旭とちかの救出をしてくれてるから合流して帰還なさい!!」
「四聖獣の一つを使役出来る静香の母さんなら大丈夫か…。恩に着るよ!!」
涼子はデビルサマナーとしての静香の母の力を信じて妖精郷を後にしていく。
青龍の上に乗った時女当主が見下ろすのは、スプリガンが起き上がってくる光景だった。
「怪獣大決戦と言ったところね?妖精郷が大変になっても知らないんだから」
「知った事ですか!!あんたとはいつかケリをつけたかったのよ!!かかってきなさい!!」
「上等じゃない!!ショタコン女悪魔になんて私は負けないから!!」
こうして、醜い女バトルは一晩中続くこととなっていく。
龍と巨人の大暴れにより妖精郷は酷い有様となったようであった。
後日となり、静香の母はボロボロな姿をしたまま帰ってくる。
話を聞かされると、ティターニアと取っ組み合いの大喧嘩をして引き分けに終わったようだ。
デビルサマナーとしての静香の母の凄さをジュボッコの元で語り合う旭とちかと涼子達。
すると森の奥から妖精王のオベロンと妖精達がやってきたようだ。
「え…えっと……」
オベロンが連れてきたのは縄でぐるぐる巻きにされたままタコ殴りにされたティターニアである。
たとえ妖精の女王であろうとも自分の夫や仲魔の住処を破壊するのはギルティ案件だったようだ。
「うぅ…時女の奴との喧嘩で弱った私を囲んで棒で叩くなんて…恥を知りなさい…」
「とまぁ、このように妻も反省しております。今回の騒動を機に、私達も心を入れ替えますよ」
全然反省していないのでは?と怪訝な顔を浮かべてしまう魔法少女達。
するとオベロンはこんな提案をしてきたようだ。
「うちの妻は男女の区別もつかないほど目玉が腐りました。どうかご教授願えないでしょうか?」
「な…何を我らが教授するのでありますか…?」
「美少年と美少女の違いをティターニアに教えてやって欲しいのです。私も共に学びましょう」
「「「ええっ!!?」」」
錆びついたゼンマイのような音を立てながらついてきていたシルフに首を向ける魔法少女達。
困り顔を浮かべたままウインクしてくるシルフは投げやりな言葉を言ってきた。
「うちの王様達はめんどくさいのがこれで分かったでしょ?諦めなさい」
ガックリ項垂れる魔法少女達。
こうして時女の魔法少女達はひょんなことから妖精王達との交流が行われることとなる。
しかしそれは束の間だけの優しい時間でしかない。
時女の里に訪れる騒乱はもう目前にまで迫ってきていた。
三浦旭ちゃんも静香組と合流を果たせたことですし、対決デスオバーバ編を進めていきますね。