人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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188話 神子柴の暗躍

妖精郷での騒動を終えた涼子達は時女の里での生活に戻っている。

 

用意してもらえた家を仮住まいとして日常を送っているようだ。

 

彼女達は学生であるのだが、霧峰村には義務教育を施す学校は存在していない。

 

時女静香も学校には通っておらず、それは時女の里に生まれた巫達も同じである。

 

なので村の巫達から学校生活はどんな感じで過ごしているのかと聞かれていたようだ。

 

「いいなー学校の青春生活って。あたしも学校っていう施設に通ってみたいー」

 

「でもテスト勉強や受験というのもあるんでしょ?それに周りと比べられる生活は嫌だなぁ」

 

「それに学歴っていうので人間の価値が決められるんでしょ?ここではそんなのないのに…」

 

「外の世界も大変なんだねー。でも、やっぱり自由な世界って憧れちゃうなー」

 

神子柴から巡回任務を受けていない巫達は涼子とちかの元に来て話を聞いている。

 

2人から聞かされた外の世界の内容については賛否両論と言ったところであった。

 

「それにしても…」

 

怪訝な顔つきを見せるのは涼子である。

 

集まってきている巫達の姿がどうも気になるようだ。

 

「なぁ、一つ聞いていいか?」

 

「なに?」

 

「前々から思ってたんだ。分家の者だから聞いてなかったけど…そのお面と雑面布は何なんだ?」

 

「そういえば私も気になってました。巫達の素性隠しの道具としてしか聞かされてませんし…」

 

巫達が顔を覆い隠す道具としていつも身に付けているものがある。

 

それは目元を覆うカラスような仮面と()()()()()()()()()()()()()()()()()の雑面布であった。

 

「これはね、私達が巫になった時に神子柴家から与えられるものなの」

 

「巫になったお祝い品だって私達は聞いてるよ。時女の任務は身元がバレると困るものだからね」

 

「確かに素性隠し道具としては有難いものだけど…なんかおかしくないか?」

 

涼子が気にしているのは二種類用意されている素性隠し道具についてだ。

 

「そうですねぇ…どうして異なる二つの顔隠し道具を用意してくれるんでしょう?」

 

「顔隠し道具でいいならカラス面だけでいいだろ?時女一族はヤタガラス一族なんだし」

 

外部の者からの指摘を受けた里の巫達も困惑していく。

 

どうして単眼に悪魔の翼をあしらった雑面布まで用意されるのか誰も答えを知らなかったようだ。

 

「そういえば私…それについて神子柴様に聞いたことがあるの」

 

雑面布を被る巫がこんな話をしてくれる。

 

「神子柴様はこう言ったわ。与えられる素性隠し道具は()()()()()()()()()()()()()()って」

 

「ますます分からなくなってくるな?カラス面と単眼の雑面布で願いの区別を決めるのかよ?」

 

「それ以上は教えてくれなかったから…私もよく分からないかも…」

 

話を終えた涼子とちかはやる事も無いので家路についていく。

 

しかし先程の話内容が気になっていた涼子はこんな提案をしてくるのだ。

 

「魔法少女の願いについて一番詳しい奴がいる」

 

「キュウベぇのことですね?霧峰村では神様として崇拝されてるようですけど…」

 

「あいつに聞いたら疑問に答えてくれるかもしれないし…行ってみるか?」

 

「もしかして…巫の儀を執り行う社に行くんですか?」

 

「あたしがこの村に最初に訪れた時はキュウベぇを見つけられなかったけど…今回は分からない」

 

「家に帰ってもすることがないですし…旭さんも連れて行ってみましょうよ」

 

「そうだな。霧峰村に不慣れなあたし達だけで行動するより旭もいてくれたら心強いよ」

 

こうして3人の魔法少女達は霧峰村で巫の儀を執り行う社殿を目指すこととなったようだ。

 

「ここが巫の儀を執り行うための國兵衛神楽を披露する神楽殿ですか?」

 

「そうであります」

 

神楽とは神社の祭礼を行う場であり、平安時代中期に様式が完成したとされる。

 

古事記における岩戸隠れにおいて、アメノウズメが神懸りして舞った舞いが神楽の起源だという。

 

神楽は本来、招魂や鎮魂、魂振に伴う神遊びだったとも考えられていた。

 

「さて、キュウベぇはいるかな?」

 

「この場所には殆ど訪れる機会がないので、いつ久兵衛殿が現れるかは分からないであります」

 

「見つかるといいんですけどね…」

 

3人がキョロキョロと辺りを見回すと、神楽殿の屋根の上から声が聞こえてきたようだ。

 

「やぁ、君達。僕に何か用事があるのかい?」

 

この村では久兵衛様と呼ばれて信仰されているようだが、分家の者には関係ない。

 

飛び降りてきたキュウベぇに向かっていつも通りの接し方をするようだ。

 

「神出鬼没でありますな、久兵衛殿は?」

 

「この村だけに留まっているわけにもいかないんだ。巫の義がない時は外の世界に行ってるよ」

 

「ちょうど村に帰ってきた時に出くわしたってわけか。ちょうどいい、聞きたいことがあるんだ」

 

涼子は気になっていたことを聞いてみる。

 

するとキュウベぇはこんな話を語ってくれたようだ。

 

「神子柴がどうして素性隠し道具を二つ用意するのかは僕も知らないけど、これだけは言えるよ」

 

「それは…巫達が巫の儀を執り行う時に願った内容のことですね?」

 

「彼女達の願いは護国救済というナショナリズムのために使われる。だけど、それだけじゃない」

 

「どういうことなんだよ…?」

 

「僕は人間の歴史を傍観するだけの者だから政治に詳しいわけじゃない。けど…何か変なんだ」

 

「何が変なのでありますか…?」

 

キュウベぇが語った内容を聞かされた魔法少女達が困惑の表情を浮かべてくる。

 

それは巫達の願いを聞いてきたキュウベぇが客観的に思った内容であったようだ。

 

「護国救済の願いを行った巫もいれば…護国救済には繋がらない願いを行った巫もいた…?」

 

「あの願いの内容によって日本がどうなるかは分からない。それでも願うなら僕は叶えるだけさ」

 

「もしかして…相反する二つの願いを行った巫達を区別するための道具だったのでしょうか?」

 

「あのクソババア…やっぱり何かを隠してやがったってわけか。だけど…証拠がないしなぁ…」

 

神子柴に不信感を募らせていく分家の者達。

 

同じ分家の者である旭はやり切れない表情を浮かべたままこう口にする。

 

「この村の巫達は哀れであります。我は外の世界で契約したから願いは自由に望めたであります」

 

「霧峰村で暮らしてきたあの子達は神子柴に与えられた願いの内容しか言えなかったんですね?」

 

「ちはるからも聞かされたよ…。あの子はこの村に呼び寄せられて巫にされちまったって…」

 

「この村の少子化はもはや限界であります。外の世界から巫になれる者を連れてくるしかない…」

 

「まるで…人身御供だよ。時女本家はどうして…あんなクソババアに付いて行くんだ…!」

 

キュウベぇは悔しい感情に支配される魔法少女達を傍観するだけでしかない。

 

彼には感情が備わっていないため、この村の問題に触れてくることはないのだ。

 

しかし魔法少女達の願いを聞いてきた者として言える言葉があった。

 

「時女とは遠縁の者なら自由な願いも出来るだろう。でも、この村に近しい者には与えられない」

 

「近しい者って…時女の里で生まれた子供達だけじゃないのか?」

 

「霧峰村の麓にある村で生まれた子供達も時女と近しい者達だ。だから自由な願いは許されない」

 

「霧峰村の麓にある集落で生まれた子供ってたしか…」

 

「すなおさんがそうでしたよね…?」

 

「そういえば我もすなお殿がどのような願いをしたのかを…聞いたことがなかったであります」

 

すなおについて疑問が浮かんだ者達に向けて、キュウベぇはこう告げてくる。

 

「僕は土岐すなおの願いを聞いて彼女を巫にした者だ。だから知っている」

 

――彼女の願いはね…君達と同じく自由に望んだものだったんだよ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

土岐すなおの両親は過保護過ぎた。

 

両親はある頃からすなおの事を心配に思うようになり悩みがあるか毎日のように聞くようになる。

 

以前と変わってしまった両親を心配するすなおは自分に責任があるのかと悩み込む。

 

両親の悩みを作り出してしまったと思い込んだ彼女は自責の念に苦しむこととなるのだ。

 

そんな時、時女の里の麓にある集落まで下りてきたキュウベぇと出会ってしまう。

 

すなおは巫になる者として育てられたわけではないため、時女の掟など知らない者。

 

彼女は自責の念を吐き出すようにしてキュウベぇに向かって願い事を言ってしまった。

 

両親の悩みを解消して以前のような状態に戻して欲しいと。

 

こうして土岐すなおは魔法少女となるのだが、両親に正体を知られる事件が起きてしまう。

 

時女に近しい集落であるため巫については知られており、時女の掟にも拘束される集落なのだ。

 

娘は時女の掟によって巫になったのだと勘違いをした両親は再び悩み苦しむ毎日を送る。

 

そんな時、すなおの存在が神子柴まで伝わってしまう出来事が起きる。

 

時女一族にはヤタガラスからの勅命が与えられている。

 

その願いを護国救済の名の元に使えと。

 

土岐すなおはヤタガラスの勅命を違反した者だとして神子柴から責め立てられたのだ。

 

その責任は魔法少女だけでなくヤタガラス一族に近しい両親にも与えられる事となる。

 

狼狽したすなおは両親だけは救って欲しいと神子柴に哀願したのであった。

 

……………。

 

「う……うぅ……」

 

暗い部屋の布団の中で悪夢に苛まれる。

 

すなおが見ている悪夢の世界とは過去の記憶。

 

あれは霧峰村の巫の中でもっとも古株の者だった巫を待ち伏せていた時であった。

 

「私ももう直ぐ成人するのね…。ようやく裳着を執り行われることになる…」

 

カラス面をつけた年長者の巫は神楽殿の奥にある地下へと下りていく。

 

この先には洞窟内にある大神殿と呼ばれる村の者達の避難場所があるようだ。

 

洞窟の通路を抜けるとそこには大きな空間が広がっている。

 

そこに建築されていた巨大な社こそが大神殿と呼ばれる場所であった。

 

「よくきたのぉ」

 

巫を待っていたのは、篝火が焚かれた大神殿入り口の前で立つ神子柴だ。

 

カラス面をつけた巫は神子柴の前で跪き、顔を上げる。

 

「お前ももう直ぐ二十歳となる。時女の掟に従い、裳着を執り行うこととなるのじゃ」

 

「覚悟は出来ています。この村で生きた20年近い時間の思い出は忘れません」

 

「うむ。この村に長年貢献してくれた者として、外の世界での活躍を願っておるぞ」

 

「外の世界では…時女の掟に縛られない自由な人生が待っているのですね?」

 

「そうなるだろう。窮屈な掟に縛られた人生から解放され、お前は自由となるのじゃ」

 

それを聞いたカラス面の巫の顔には喜びの表情が浮かんでいく。

 

村から独り立ちしたら街に行きたいと彼女は憧れを持っていた。

 

ファッション雑誌に載っているようなオシャレな服を着て、スマホも持ちたいと夢見てきた。

 

自由な世界で生きられる喜びこそが、裳着という独り立ちだとこの時までは考えていた。

 

「さぁ、これより裳着を執り行う。今まで本当によく頑張ってくれたよ…お前はな」

 

「有難きお言葉…感謝しま…ガハッッ!!?」

 

浮かれて喜んでいたため、背後から迫る者の気配に気が付かなかった。

 

吐血した自分の体に顔を向ければ、日本刀が垂直に突き刺さっており刃が飛び出している。

 

「だ…だれ……っ!!?」

 

刺された刃を引き抜かれた巫がよろめきながらも立ち上がり後ろを振り向く。

 

そこに立っていたのは、血濡れた日本刀を握り締めたまま震えている土岐すなおが立っていた。

 

「す…すなお…!?どう…して…ッッ!!」

 

顔面蒼白となり涙を流し続けるすなおに向け、笑顔を崩さない神子柴は残酷な命令を下す。

 

「すなお、この村の功労者に自由を与えてやるがいい。裳着の仕上げじゃ」

 

「ごめん……なさい……」

 

カラス面の巫が魔法武器を生み出すよりも先に決まったのは、すなおが放つ左薙ぎの一撃。

 

「あっ……?」

 

カラス面の巫の首が跳ね落ち、首元から一気に血が噴き上がる。

 

返り血を大量に浴びたすなおの体に向け、首を失った体が倒れ込んでくる。

 

抱き締めてあげることも出来ずにそのまま受け止め、怖くて体を横に向けてしまう。

 

支えのない体はそのまま地面に倒れ込んだようだ。

 

「ハァ…!ハァ…!ハァ…!!」

 

過呼吸に苦しみながら立つのは、上半身が血塗れとなってしまった()()()

 

日本刀を持つ両手も血濡れに染まり、震えが収まることはない。

 

「よくやった、すなお」

 

近寄ってくる神子柴の手には悪魔召喚士が悪魔を用いる際に使われる封魔管が握られている。

 

「さぁて、死体が円環のコトワリに導かれる前に…ご馳走を喰ってしまえ」

 

召喚管から神子柴が使役する悪魔が解き放たれる。

 

巨体の影が周囲を包み、震え上がるすなおは巨大な悪魔を目にして腰を抜かしてしまったようだ。

 

「あ…あれがもしかして…村の守り神だと噂されてる…()()()()()()()()なの…?」

 

霧峰村には神子柴家から村の守り神として語り告げと言われた信仰がある。

 

それは()()()()であり、その姿を目にする事があった巫達は手を出す事を禁忌とされてきた。

 

魔法少女になりたてのすなおの目の前には、蛇神信仰の正体である合成獣が屹立していたのだ。

 

【ムシュフシュ】

 

古代バビロニア神話に登場する聖獣であり、名は怒れる蛇を意味する。

 

蛇の頭と尾、鱗に覆われた馬のような胴体、前脚はライオン、後脚は鷲のものを持つ。

 

創世叙事詩エヌマ・エリシュではティアマトが生んだ11の怪物の一つとして数えられる存在だ。

 

城門の守護獣や魔除け、神々の騎乗獣として数多くの図案が遺されていたようである。

 

「魂ノ宝石…ソウルジェム……喰イテェェェェェッッ!!!」

 

大量の唾液を撒き散らしたムシュフシュが欲望の唸り声を吐き出す。

 

「喰ワセロォォォーーーッッ!!!」

 

二本角が生えた巨大な蛇の頭を持ち上げ、一気に死体に喰らいつく。

 

ソウルジェムが破裂する前に死体ごと丸飲みしたようであった。

 

「美味!!美味ィィィィ!!!コレダカラ神子柴ト組ムノハヤメラレネェェェ!!!」

 

ムシュフシュの体内でソウルジェムは砕け、生み出された魔女ごと吸収してしまう。

 

<<ザマァミロ円環ノコトワリ!!テメェヨリモ先二!オレガ喰ッテヤッタゾ!!>>

 

蛇の頭を持ち上げて念話を送るのは大神殿の屋根の上側だ。

 

そこには眩い光が現れており、鹿目まどかの姿を形作っている。

 

魔法少女姿の鹿目まどかに見えるが、彼女は円環のコトワリが矢を放つ際に生み出される分霊。

 

まどかを剥ぎ取られたアラディアの一部であったのだ。

 

<<貴様……>>

 

憤怒に歪む魔法少女姿のアラディアは魔法少女の魂を回収出来なかった。

 

高笑いを続けるムシュフシュを呪い殺すほどにまで睨みつけ、こう言い捨てる。

 

<<魔法少女の救済の邪魔をし続けるか…飽くなき欲望を抱えた悪魔共!!>>

 

<<オウトモ!!悪魔ハ自由ヲ望ム者達ダァ!!好キ勝手二ヤラセテモラウゼ!!>>

 

忌々しい悪魔を睨みつけながらも魔法少女姿のアラディアの分霊は消えていく。

 

魔法少女の魂の回収を失敗したのならばこの世界に留まる意味はないからであった。

 

<<ケッ!!何ガ魔法少女ノ救済ダ!!テメェダッテ…()()()()()()ダケダロウガ!!>>

 

満足したムシュフシュは神子柴の管の中へと戻っていく。

 

未だに震えながら涙を流すすなおの元にまで近寄ってきた神子柴が彼女の肩を掴んでくる。

 

「あそこに転がっている生首は例の川に捨てておけ、いいな?」

 

「あぁ……あぁぁぁ……あぁぁぁぁーーーッッ!!!」

 

暗殺者にされてしまったすなおにとってはこれが初めての人殺し。

 

彼女の全身は血濡れとなり、殺人者としての人生を生きることとなった。

 

これが神子柴に慈悲を乞うた魔法少女の末路である。

 

彼女は裳着を執り行う際に巫達を殺す暗殺者になることで掟破りの罪をなかった事にされたのだ。

 

「時期に慣れる。人間はどんな苦難であろうとも、慣れることが出来る生き物なのじゃよ」

 

蹲ったまま泣き続けるすなおの手から日本刀を奪い取る。

 

血払いを行った後、後ろ手に隠してあった鞘に仕舞い込んでそのまま歩き去っていく。

 

「ワシの刀に生き血を吸わせる労働者が現れて助かったわ。歳のせいか…最近は腰が痛くてのぉ」

 

神子柴に従うことでしか罪を逃れられないすなおは逆らうことが出来ない。

 

彼女は言われた通り、深夜の時間を利用して時女の里を流れる川の橋にまで向かって行くのだ。

 

麻袋の中に入れてあった血濡れた白い布をめくっていく。

 

そこから出て来たのは、霧峰村に来て間もないすなおの面倒を見てくれた巫の頭部があった。

 

「ぐすっ…えっぐ…ごめんなさい…。恩を仇で返して…ごめんなさいぃぃぃ……っ!!」

 

自分が殺してしまった者の頭部を抱きしめながら泣き叫ぶ。

 

他にどうする事も出来ない彼女は意を決し、巫の頭部を川に向かって投げ捨ててしまう。

 

大きな音を立てると共に川上から近寄ってくる影に気が付く。

 

「あれも…神子柴様が使役する…化け物なの…?」

 

赤く染まった川の元まで来た悪魔が大きな音を立てながら水辺で暴れる。

 

先程投げ捨てた人間の頭部を喰らっているということならすなおでも想像出来る筈だ。

 

「神子柴様には…逆らえない…。逆らえば…今度は…私や家族が…あの化け物に喰われる…」

 

恐怖で震えながらも、彼女は自分の罪から逃げ出すかのようにして走り去っていった。

 

こうして神子柴家は暗殺者を抱え込むことになっていくのだろう。

 

普段は時女の里に引っ越してきた面倒見のいいお姉さんを演じているが、彼女は裏切り者。

 

時女の巫達にとってはイレギュラーとも呼べる存在となっていく。

 

これからも彼女は裳着という名の人殺しに手を染めていくことになる。

 

悪夢の世界で泣き叫ぶ自分の過去に耐え切れなかったすなおは布団から飛び起きてしまった。

 

「私はただの…暗殺者…。里の皆にバレたら…私はきっと人殺しだと罵られて…差別される…」

 

布団の上で三角座りをしたまま膝に顔を埋め、すすり泣く音が響いていく。

 

恐怖に怯えるすなおが思い出すのは、神浜市で出会った常盤ななかの姿だ。

 

「ななかさん…私…怖い…。私もきっと…貴女みたいに…みんなから虐められる…っ!!」

 

暗殺者としての罪と、先に待っているだろう罰の恐怖を抱えた少女は怯える毎日を送る。

 

そんな者のすすり泣く音を廊下で立ち聞きしていた神子柴は心の中でこう呟くのだ。

 

(安心せい、お前ももう用済みじゃ。静香の裳着の際には…一緒に始末してやろう)

 

――お前の苦しみなら、ワシが取り除いてやる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

霧峰村に帰ってきた巫達は神子柴への強い不信感を募らせていく。

 

そんな神子柴家に付き従う時女本家の娘である静香でさえ、それは感じているのだ。

 

だからこそ今の時女一族は変わる必要があるのだと胸に秘めた思いを強くしている。

 

「母様に伝えないといけない…。私が時女一族をどのように変えたいのかを…」

 

時女の里を変えるには霧峰村を代表する二家を説得する必要がある。

 

先ずは自分が生まれた家である時女本家の当主である静香の母を説得するために動き出す。

 

静香は屋敷にある道場に母を呼び出したようだ。

 

時女一心流を学ぶ時の剣道着に着替えた彼女は道場内で正座しながら母の到着を待ち続ける。

 

自分の思いを打ち明けた時、時女当主の女から何を言われるのかと想像するだけで怖くなる。

 

それでも生みの苦しみを味わうのは必然なのだと考えて気を静めていく。

 

覚悟を決めた静香は近づいてくる足音の方に視線を向けたようだ。

 

「お待たせしたわね」

 

紺色の上着と黒の袴で合わせた剣道着を着た静香の母は娘の前で正座する。

 

「話というのは何かしら?」

 

明るく振舞う態度を示すが、彼女が剣道着を着る時は真剣そのもの。

 

時女一心流を伝える伝道者として己の背筋を正す意味合いも兼ねているからだ。

 

それを分かっているため、静香も真剣な態度を示すために剣道着を着ている。

 

「母様…聞いて欲しいの」

 

汗ばんだ手をギュッと握り締めた静香は時女一族当主に向けて語っていく。

 

神浜市で経験したことを踏まえて、時女静香がどのような村の治世を望むのかについてだ。

 

時女一族当主である村長は瞬き一つせずに娘の望みを聞き続ける。

 

全てを語り終えた時、時女当主は冷淡な返事を返したようだ。

 

「それは出来ない相談よ。巫はこれからも時女一族として己を律する道を生きなければいけない」

 

「私は神浜で見ました!人間社会主義を掲げた嘉嶋さんの政策に反対する魔法少女達の思いを!」

 

「時女の巫と外の世界の魔法少女を混同してはいけない。我々に思想の自由は許されないわ」

 

「なぜですか!?私達がしてきたことは…基本的人権である内心の自由を剥奪する行為です!!」

 

「自由民主主義国家となった日の本の民には内心の自由があるべき…そう言いたいのね?」

 

「そうです!!私は巫達の自由を尊重したい…巫になる子達の願いも自由であるべきです!!」

 

「思想の自由が敷かれた場合、どのような弊害が起きるのかは…私は語ったことがある筈よ」

 

それを言われた静香の脳裏には母から聞かされた話内容が浮かんでいく。

 

己の常識や価値観を曲げずにいる事も大切だが、それを周りに押し付けては争いしか生まない。

 

価値観の違いで拒絶ばかりを繰り返せば、人間社会は他人と殴り合うことしか出来なくなる。

 

思想が自由である民主主義国家には弊害もある。

 

皆の自由が尊重されれば、互いの自由と自由がぶつかり合う争いが生まれてしまう。

 

それは国の社会秩序さえも脅かす事になるのだと静香の母親は語ったことがあったのだ。

 

「それでどうやって時女一族を纏め上げようというの?巫が自由を望めば報復だってありえるわ」

 

「そのために…私は嘉嶋さんから教育政策を託されました!私は巫達を導く教育を行いたい!」

 

「教育政策には弱点がある。長い時間をかけて内心を変える以上、緊急事態に対処出来ない」

 

「私達は独裁で時女の矜持を周りに押し付けるしかないんですか!?彼女達が哀れです!!」

 

「周りの自由を尊重したとするわ。なら、()()()()()()()()()()()()と皆が言い出したら?」

 

「えっ…?それは…その……」

 

「霧峰村なんかより魅力的に思える都会生活を自由に望める。誰が彼女達を止められるの?」

 

それを問われた時、静香は何も答えを返せなくなってしまう。

 

神浜市での生活を楽しんだ者として、都会生活に憧れる巫達の心も分かってしまうからだ。

 

「他所は他所、うちはうち。それが無用な争いを回避する唯一の方法…()()()()ことなの」

 

「割り切れというんですか…?巫達の心の自由を踏み躙ることを…割り切るしかないと!?」

 

それを問われたら今度は静香の母まで押し黙ってしまう。

 

時女当主として神子柴が行ってきた事は既に把握済みである。

 

それでも村長として、村のスポンサーともいえる神子柴家を村から蹴り出すことは出来ない。

 

村から様々な恩恵を与えられないのなら、村人達が霧峰村を守る理由もないだろう。

 

人間関係は相互利益でしか機能しないのは当主として重々承知している。

 

過疎化による廃村の現実を知る者として、泣く泣く神子柴家の好きにさせるしかなかったからだ。

 

手に汗が滲んできた静香の母の手も握り込まれて震えてしまう。

 

「母様…私達は時女の矜持という理想を語る者達です!巫達だって…日の本の民なのです!!」

 

「分かってる…そんなこと……分かってるわ!!」

 

目に涙が浮かんでしまう母親の姿を見た静香の心に動揺が浮かんでいく。

 

「巫達の自由を縛り…神子柴の望みのままに願いを使わせた!彼女達の奇跡さえ犠牲にさせた!」

 

「母様……」

 

「私は巫達を神様の生贄として捧げているだけよ!それでも…村を守りたい。私は…当主だから」

 

涙が溢れ出す母親の姿を見て、彼女がどれだけの苦しみを抱えてきたのかをようやく理解する。

 

静香の母とて本当は巫達の自由を尊重したかった。

 

それでも村を守る為には神子柴が勝手に生み出した掟を守らせる以外に村を救う方法はなかった。

 

何よりも時女一族はヤタガラス一族の者達。

 

神子柴に逆らうのはヤタガラスに逆らう行為であり、ヤタガラス所属の静香の母も逆らえない。

 

あまりにも重い現実に打ちのめされた静香の母は…涙を飲んで割り切る努力をしたのであった。

 

「ごめんね…静香。時女当主だなんて周りから言われても…無力な私で…ごめんね……」

 

泣き崩れてしまった母親に駆け寄り、娘は抱きしめてくれる。

 

「母様…そんなにも辛い現実を抱えていただなんて…。ごめんなさい…私が悪かったわ……」

 

「ごめん……本当にごめん……静香ぁぁぁぁ……っ!!」

 

胸の中で泣き喚く母親の弱さを娘は受け止めてくれる。

 

時女一心流を伝えてくれた頃の厳しくも凛々しい母親の姿は何処にも見えない。

 

あるのは世間知らずの娘と同じような…()()()()()()()でしかなかったのだ。

 

「……母様。私は決めたわ」

 

「えっ……?」

 

娘の胸の中で顔を上げると、安心させてくれるような微笑みを浮かべる娘がいる。

 

「教育政策は後回しにする。霧峰村の経済を立て直す…多くの人達が訪れる村にしていきたい」

 

「そんな事が出来るというの…?この村は観光資源すら見当たらない…温泉街でもないのよ?」

 

「それでもやるの。きっと皆はいい顔をしない…村から出て行く者達も大勢出るかもしれない…」

 

「それが廃村の原因である村の過疎化なの…。どうあっても…人々は相互利益しか求めないの…」

 

「里の者達だけでは不可能だと思う…。それでもね、私は多くの人達と縁を結ぶことが出来たの」

 

静香は神子柴というスポンサーではない、別のスポンサーを考えている。

 

それは神浜市で仲良くなれた嘉嶋尚紀であり、彼の親友でもあるニコラスのことであった。

 

「私はね…霧峰村をこんな風に変えたいと提案をしてくる。もし賛同してくれたら出資も募れる」

 

「静香…それ程までのお金持ちとまで…神浜生活で知り合えたというの…?」

 

「その人がね…私が勧誘を行いたかった嘉嶋尚紀さんなの。私…あの人にもう一度会いにいくわ」

 

娘が提案してきた内容によって、母親の心に一筋の光が浮かんでくる。

 

時女当主と呼ばれても静香の母の交友関係は狭かった。

 

ヤタガラスの退魔師一族の者達ですら必要以上の関係は求めなかった。

 

自分は霧峰村の村長なのだと自分に言い聞かせ、村の者達との交流を優先する決断をした。

 

それがこんなにも()()()()()()()()()()結果に終わったのだと突き付けられ、己を恥じていく。

 

「静香…貴女を神浜市に向かわせてくれた運命に感謝するわ…。ぐすっ…あぁぁぁぁ……っ!!」

 

霧峰村の村長である現在の時女当主よりも頼れる娘の胸の中でもう一度泣いていく。

 

そんな母親の頭を娘は優しく撫でてくれる。

 

静香にとっては祖母にあたる母親の優しさを感じ取れた静香の母親は決意したようだ。

 

娘に甘えるようにして抱き着いていた母親が離れていく。

 

泣き腫らした少女のような顔を浮かべた母親の顔が笑顔になり、こう告げてくれた。

 

「貴女こそが…時女当主となるべき巫よ。私は安心して…この村を静香に任せられる」

 

「母様……?」

 

静香を安心させるような笑顔を浮かべてくれるが、逆に不安になってくる。

 

全てのことを娘に託した上で、母親が何処か遠くに行ってしまうような不安を感じてしまう。

 

「不出来な長だったけど…私は時女一族当主として全ての清算をしてくる。後の事は…お願いね」

 

そう言い残した静香の母は、夕日が差し込んでくる道場の出口へと消えていったようだ。

 

静香の罰が重いものになるというのは分かっている。

 

裳着によって巫達が帰らなくなってしまったのは偽装殺人だというのも感づいている。

 

だからこそ、時女の矜持の伝道者として生きた者はこう決意するのだ。

 

巫達もまた、愛すべき日の本の民として生きる自由を持つべき者達なのだと。

 




これでお膳立ては整いましたので、親子揃ってデスオバーバ討伐の流れとなっていきます。
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