人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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189話 第八巫蠱衆の残党

星の光も見えない夜。

 

娘に与えられる罰の執行まで残すところ二日となり、静香の母は動き出す。

 

「帰ってきたようね」

 

屋敷の庭で誰かを待っていると空から赤い鳥が飛来してくる。

 

赤い体と緑の翼が美しいショウジョウインコに擬態した悪魔が帰ってきたようだ。

 

「神子柴家に大きな動きがあります。連中、夜中に使用人を使って家の荷物を運んでるようです」

 

「夜中に家の荷物を運び出すですって?どういうことなのかしら…」

 

「パッと見で判断すれば、夜逃げでしょうね。神子柴はこの村を捨てる気なのです」

 

「夜中にコソコソと逃げ出す準備をしている点で考えれば…それが妥当な判断ね」

 

「この村で神官をやらせてきたようですが所詮はこの程度。あの年寄りは村民など愛していない」

 

「ヤタガラスから派遣された者でありながら、ヤタガラスに背を向けて逃げ出すなんてね…」

 

「貴女はこの村の村長であり、ヤタガラスのサマナーです。どう判断します?」

 

目を瞑り、時女当主として考えを纏めていく。

 

目を開けて腕にとまった大型インコに向けて決断する言葉を言ってくる。

 

「当主として…神官の裏切り行為を黙認は出来ない。そして…ヤタガラスの者としてもね」

 

それを聞いた鳥悪魔は嬉しそうに翼を広げてくれる。

 

「その言葉が聞きたかった。私はあの神子柴が憎かった…少女達を悪魔の生贄にする糞婆がね」

 

「私だって同じ気持ちだったわよ。でもこれはチャンスね…神子柴を裁く絶好の機会だわ」

 

「ヤタガラスにはこう伝えておきなさい。使命から逃げ出す裏切り者に天誅を下したとね」

 

こうして静香の母は神子柴討伐に向けて準備を進めていく事になる。

 

時間をかけて逃げられるわけにもいかないため、次の日の夜までには準備を終えたようだ。

 

静香に下される罰が明日に執行されることになる深夜となり、決戦の時を迎える。

 

静香の母の部屋では着替えを行う時女当主の姿が見える。

 

下着姿のお腹にサラシを巻き付け、黒のパンツスーツと白シャツを纏っていく。

 

腰にはマガジンポーチ付きのガンベルトを纏い、愛銃のルガーP08と練気刀を差し込む。

 

上半身には悪魔を使役する封魔管と銃のマガジンが収納出来るタクティカルベストを着る。

 

最後はロングトレンチコートを纏って武装を覆い隠すようだ。

 

ライフルバックを背負い、いよいよ出陣する時がきたのである。

 

「みんな…今まで時女本家に尽くしてくれて…本当に感謝してる。娘のことを…お願いね」

 

静香が寝静まる時間ではあるが、使用人達は時女当主を見送るために門に集まってくれていた。

 

村民を思いやってきた優しい村長の出陣を前にして、使用人達の目には涙が浮かんでしまう。

 

静香の母は一人一人と握手を交わした後、抱き締めてくれる。

 

「当主様…ぐすっ……ご武運を!!」

 

火打石を持った使用人が静香の母に向けて切り火を行ってくれる。

 

集まった一同が深々と頭を下げ、最後になるかもしれない時女当主の姿を見送ってくれたのだ。

 

星の光も届かない森を歩いていく静香の母の目にはデビルサマナーとしての誇りが宿っている。

 

「神子柴…今まで散々この村を吸い尽くしてくれたわね」

 

――今日この日をもって…時女一族は神子柴家と絶縁するわ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「こんな深夜に森の中で話があるとは…どういう了見なのかのぉ?」

 

神子柴が呼び出された場所とは、旭が使わせてもらっている山小屋の広場である。

 

ジュボッコの姿は見えず、辺りは薄気味悪い暗さに包まれているようだ。

 

不愉快な表情を浮かべた神子柴は押し黙ったままの時女当主に向けて怪訝な態度を見せてくる。

 

「コートを使って隠しても無駄じゃ。そんな完全武装を纏うお主の目的とはなんじゃ?」

 

それを問われた時、今までの憎しみを絞り出すかのような冷淡な言葉が語られていく。

 

「この村の長として問うわ。深夜にコソコソと引っ越し作業をして…何処に逃げるつもり?」

 

夜逃げを村長に気が付かれていたと分かり、平静を装いながらも心の中で舌打ちをする。

 

「長の私は何も聞かされていないけれど…どういうことなのか説明してもらうわ」

 

「…返答次第では、ただではおかんと言いたげじゃのぉ?ワシに手を出せばどうなる?」

 

「お前の支援を受けられなくなるわね。でも…もうその問題も解決出来そうなの」

 

「なんじゃと…?」

 

「お前を必要としなくなれば…状況は変わる。私は時女一族の長として…お前の罪を問い質す」

 

それを聞かされた神子柴は不敵な笑みを浮かべていく。

 

「ワシの罪じゃと?はて、罪を犯した覚えは無いのじゃが…証拠でもあるというのか?」

 

問われた静香の母はロングトレンチコートから写真を数枚取り出して投げ捨てる。

 

拾い上げた神子柴は表情を変え、静香の母を睨んでくる。

 

「警戒感が強いお前を出し抜くのも苦労したわ。この日が訪れたら…突きつけるつもりだった」

 

「流石はワシと同じデビルサマナーじゃのぉ。お主の悪魔の力も侮れん」

 

互いが睨み合い、息をするのも苦しい程にまで緊張感を周囲に放つ。

 

夜逃げに感づかれた上で全ての悪事の証拠まで用意されては言い訳など通じない。

 

しかし、最悪の事態を想定しないでここに訪れる神子柴ではなかった。

 

「ヤタガラスに所属する者として…お前を拘束する。ヤタガラスの勅命を裏切った者として」

 

「それだけでは済まさない…といったところか?」

 

「ヤタガラスが到着する前にお前を村の人々の前に引っ立てる。全ての秘密を明かさせてもらう」

 

低い笑い声が響いてくる。

 

邪悪な笑みを浮かべた神子柴の表情に恐れはなく、むしろ好都合だとでも言いたげな顔つきだ。

 

「この村から出て行く前に…全ての清算を終える必要があるのぉ。この場所は実に都合がいい」

 

「そう言うだろうと思ってこの場所を選んだ。お前が凄腕のサマナーだというのは認めているわ」

 

「気を使わせてしまったようじゃ。ならばワシも…時女当主に礼を尽くさねばならぬな…」

 

互いが衣服を掴み脱ぎ捨てる。

 

コートを脱ぎ捨てた静香の母は完全武装の姿を晒すが、驚きの表情を浮かべている。

 

「その()()()()…私は見た事がある…」

 

忍び甲冑を纏う黒の忍者服を和服の下に纏っていた神子柴は同じように驚きの表情を浮かべる。

 

「ほぉ…?ワシにとっては忌まわしい衣装ではあるのじゃが…何処で知ったのじゃ?」

 

「ヤタガラスが所有してる資料館で見たわ。その忍者衣装は…かつてあった一族が纏ったものよ」

 

何から何まで知られているのかと溜息をついた神子柴はこんな話を語ってくれる。

 

「ワシの生まれはのぉ…かつてヤタガラスの暗殺一族として名を馳せた()()()()()だったのじゃ」

 

槻賀多一族とは槻賀多家を当主としたヤタガラス傘下にあった集団である。

 

暗殺一族として名を馳せたのは()()()()()という優れた暗殺集団を所有していたからだ。

 

巫蠱師と呼ばれた者達は特殊な虫を使役したという。

 

巨大な虫はデビルサマナー達の悪魔の力に匹敵するほどの実力を持っていたと言われていた。

 

「廃村になった槻賀多家ゆかりの者だったなんて…。なら、貴女は槻賀多家の者なの?」

 

「ワシは乞食でしかなかった槻賀多家の者ではない。巫蠱師だった父の生まれなのじゃ」

 

「分家の者だというわけね。どうりで槻賀多家の()()()を身に付けていない筈よ」

 

天斗紋という言葉を聞いた神子柴の眉間にシワが寄り、つばを吐き捨てる。

 

悪魔のような老婆であっても唾棄すべき存在であったからだ。

 

「ヤタガラスの資料館で槻賀多の歴史を知ったのならば…槻賀多家の生贄儀式も知っておるな?」

 

「天斗と呼ばれる虫人連中から虫を貰う為に…生贄を捧げた人身御供ね」

 

「天斗共は呪われた民。男しか存在しないために繁殖出来ない…だから生贄の女が必要じゃった」

 

第八巫蠱衆の力の源であるバッタのような虫は天斗と呼ばれた虫人達しか育てられない。

 

虫の力を与える代わりに()()()()()()()()()()()()()()()を槻賀多家は差し出す必要があった。

 

生贄となる者こそ、槻賀多家に生まれた女だったのだ。

 

「槻賀多の歴史を知った時…他人のように思えなかった。時女一族も神から力を授かる一族よ…」

 

「ワシがこの村に訪れるずっと前より契約の天使との関係は続いておった。この村は同じじゃよ」

 

「虫人を神と崇拝した槻賀多家も…キュウベぇを神として崇拝した時女一族も…()()()()()ね…」

 

「ワシはそんな一族で生きた巫蠱師から生まれた。ワシはずっと聞かされた…槻賀多の愚かさを」

 

都市伝説界隈ではアバドン王事件と呼ばれるものが存在している。

 

その記事を書いた朝倉タヱは記事の中でアバドン王事件を解決した書生について情報を残す。

 

槻賀多家と関わりアバドン王事件を解決した人物こそが、14代目葛葉ライドウであったのだ。

 

「廃村となったのは自業自得。虫を得られなくなった親父は…忍びの技術だけで生きてきた」

 

「もしかして…お前が時女一族に指導した技術とは…」

 

「ワシが親父から学んだ技術じゃ。時女一族の巫共が使う忍術とは…第八巫蠱衆のものじゃよ」

 

「何が狙いだったの…?第八巫蠱衆の亡霊ともいえるお前は…何を望んで霧峰村に訪れた!?」

 

狂ったような笑い声が聞こえてくる。

 

愉悦を堪えきれない表情を浮かべた神子柴は邪悪な笑みを浮かべ、恐ろしい狙いを語っていく。

 

「第八巫蠱衆として屈辱に苛まれた人生を生きた。ワシはもう…奪われる者にはなりたくない」

 

「だから今度は…()()()として…霧峰村を狙ったというわけなのね!?」

 

怒りを爆発させる時女当主に向け、背中に背負った忍者の日本刀を抜く。

 

狡猾で残忍な表情を浮かべた神子柴は…ついに己の真の狙いをぶちまけるのだ。

 

「おうとも!!ワシは奪う者として第八巫蠱衆を蘇らせる!そのために霧峰村に来たのじゃ!」

 

「巫達はお前にとっては…()()()()()でしかなかったのね!?許さない…絶対に許さない!!」

 

「愚かな()()()共じゃった!虫を操る者達こそが…第八巫蠱衆の巫蠱師なのじゃ!!」

 

「神子柴ぁぁぁぁーーーッッ!!!」

 

ついにデビルサマナー同士の戦いの火蓋は切られることとなる。

 

時女当主として絶対に譲れない戦いとなるだろう。

 

巫達を犠牲にしてきた罪を背負う者として、静香の母は命をかけて第八巫蠱衆と戦うのだ。

 

ヤタガラスのデビルサマナーとして、葛葉ライドウと同じ気持ちを胸に抱いて戦う事になった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ライフルスリングを用いて背中に回していたG36A2を手に持ち構える。

 

アサルトライフルの速射の照準が向けられるよりも早く神子柴は跳躍。

 

握り込んだ左手の隙間に握っていたのは神経毒をもたらす毒針であった。

 

「チッ!!」

 

投擲された毒針を横っ飛びで回避しながら射撃していく。

 

マズルフラッシュが噴き上がる中、獲物となる神子柴は年齢を感じさせない回避力を示す。

 

「なんて動きなの!?狙いがつけられない!」

 

弾を撃ち尽くしたマガジンを捨て、ベストから次のマガジンを取り出す暇など与えてはくれない。

 

「ほれ、ワシの間合いじゃ」

 

一気に踏み込んできた神子柴が放つ右切上げがアサルトライフルを切り捨てる。

 

そのまま返しで袈裟斬りを仕掛けられる前に静香の母は練気刀を引き抜く。

 

刃を刃で受け止め、引き抜く勢いのまま神子柴の刃を弾き飛ばす。

 

「時女一心流を受けてみなさい!!」

 

「ハハハ!!思い出すのぉ!ヤタガラスの修験場で手合わせした時のことを!!」

 

互いの斬撃の応酬が続き、鍔ぜり合いとなるがこの間合いは危険である。

 

「ぐはっ!?」

 

静香の母の左側頭部に決まっていたのは上段膝蹴り。

 

怯んだ相手に向けて神子柴の後ろ回し蹴りが決まり、静香の母は大きく蹴り飛ばされていく。

 

旭に利用させていた山小屋の壁を突き破り中にまで蹴り込まれたようだ。

 

「生涯現役と言いたいところじゃが、老骨には堪えるのぉ。早く倒れてしまえ」

 

山小屋に近づいていた時、周囲の異変に気が付く。

 

「霧じゃと…?」

 

周囲に広がっていくのは濃霧である。

 

視界がホワイトアウトした神子柴は懐から封魔管を引き抜く。

 

「悪魔を使った小技などワシには通用せん。いでよ…スパルナ!!」

 

神子柴が召喚した悪魔とは美しい冠を纏う巨大な霊鳥の御姿である。

 

【スパルナ】

 

ヒンズー教では美しい翼を持つ者という名をもつ霊鳥である。

 

ガルーダと同一視される事もあるが、どちらかというとその原型になった鳥のようだ。

 

リグ・ヴェーダにも記載があり、スパルナ達はガルーダの子孫だとする意見もあった。

 

「ククク…私には見えていますよ。その老木の姿がねぇ!!」

 

スパルナは白と緑の美しい翼を羽ばたかせる。

 

強風が周囲に吹き荒れ、濃霧を一気に払い飛ばす。

 

見えたのは山小屋を突き破って姿を顕現させていたジュボッコであった。

 

「ご老体!!そろそろ冥途に逝く時です!!」

 

クチバシを広げて風を一気に溜め込んでいく。

 

スパルナが放ったのは敵単体に衝撃属性の特大ダメージを与える『テンペスト』だ。

 

「グォォーーーッッ!!?」

 

巨大な竜巻が山小屋を飲み込み、山小屋だけでなくジュボッコまで巻き上げようとする。

 

地面に根を張り踏ん張り続けるが、ジュボッコの枝葉は次々と砕けて巻き上げられていく。

 

「フッ……時間は稼いでやったぞ。後の事は…頼む……」

 

薄れゆく意識の中で三浦旭と触れ合った日々を思い出す。

 

「ここは…大切な場所じゃった。暗い絶望を抱えた少女の心に…少しでも…花が芽生えれば…」

 

ついに竜巻で全身を引き裂かれたジュボッコの体が巻き上げられる。

 

砕けた木はMAGの光となり、宇宙を温める新たな熱エネルギーとして宇宙へと昇っていったのだ。

 

極大の風魔法が止めば、周囲には不気味な静けさだけが残される。

 

「…スパルナ」

 

「分かっておりますよ」

 

翼を広げて一気に空まで昇っていく。

 

スパルナは鷹の目を用いて伏兵を見つけ出そうとするのだ。

 

遮蔽物のない場所に追い込まれた獲物に向けられているのは狙撃銃であるDSR-1である。

 

座った状態で両足の大腿四頭筋の内側に両肘をあてて構える静香の母は一撃必殺を狙う。

 

狙う部位とは神子柴を一撃で仕留められる眉間か顎であった。

 

「喰らいなさい!!」

 

神子柴が体を横に向けた瞬間、顎に目掛けてライフル弾が放たれる。

 

迫りくる銃弾であったが、静香の母は既にスパルナの鷹の目に捉えられていたのだ。

 

「くっ!?」

 

神子柴の周囲に暴風が吹き荒れ、ライフル弾が逸れてしまう。

 

発射音で気が付かれたが、神子柴が仕掛けるよりも先にスパルナが急降下してくる。

 

「その美しい体…我が爪で引き裂いてくれよう!!」

 

立ち上がって練気刀を構える獲物に目掛けて巨鳥の爪が迫りくる。

 

息を吸いこんだ静香の母の目が大きく開き、瞳孔がスパルナを捉えた。

 

「時女一心流…瞳合わせ!!」

 

眼力がスパルナを捉え、動きを急停止させる。

 

「体が動かない!?こんな魔法…見た事が無いですよ!!」

 

「これは時女一心流が使う技よ!もっとも…術者の動きも止まってしまうけれどね…」

 

「ならば…体が動く瞬間になった時!その体を引き裂いてくれる!!」

 

「それが出来ればね」

 

「なにっ!!?」

 

スパルナが気が付いた時にはもう遅い。

 

木に絡みついて潜んでいた伏兵が飛び降り、手に持つ槍でスパルナを一気に串刺しにする。

 

「ガハッ!!?き…貴様は……ナーガ族の者か!!」

 

「よぉ、ガルーダの親戚!!怨敵ガルーダに連なる鳥悪魔のテメェは…生かしておけねぇ!!」

 

【ナーガ】

 

インドの蛇神の一族であり、ヒンズー教以前の土着信仰を引き継いでいると言われている。

 

人面蛇身または上半身人間・下半身蛇の姿で描かれ、美しく知力にも優れるとされる存在だ。

 

脱皮や交尾の際の絡まりあいの神秘性から、生まれ変わりや不死の象徴として崇められる。

 

一方、猛毒で相手を死に至らしめる存在として恐れられる悪魔でもあった。

 

「おのれ……ナーガ族!!この恨み…いつか必ず…晴らします……っ!!」

 

心臓を貫かれたスパルナの体が弾け、MAGを空に放出。

 

勝どきを上げるように槍を天に向け、雄たけびを上げるナーガ族の戦士であった。

 

「やりましたよ姐さん!ナーガ族の怨敵を討ち取った俺の活躍を見てくれましたかい!」

 

仲魔の活躍に頷く姿を見せるが、静香の母が視線を向けるのは山小屋があった場所だ。

 

「ジュボッコ…ごめんなさい。でも、仇はとったわ」

 

曇天の夜空に隙間が生まれ、星の光を周囲にもたらしていく。

 

星の光の世界で生まれたのは、巨大なる悪魔の影。

 

「不味い!!?姐さん危ねぇ!!!」

 

無礼を承知で主に目掛けて槍の横降りを放つ。

 

「ぐっ!!?」

 

ナーガの槍に弾き飛ばされた静香の母に見えた光景とは、豪熱放射の一撃。

 

ナーガの姿は属性ビームに飲み込まれ、MAGの光が飛び散った凄惨な光景であった。

 

「ほう?お前も蛇神を使役する者であったか。わしの周りを嗅ぎ回らせた蛇であったのじゃろう」

 

歩いてくる神子柴の背後に屹立する存在こそ、ムシュフシュサマと村の者達に崇拝させた存在だ。

 

「巫ジャネェェ…魂ノ宝石ガネェェ…テメェハ喰ッテヤラネェ!!焼キ尽クシテヤルゥゥゥ!!」

 

「ワシを巻き込むでないぞ。それにこの森の奥にいる妖精共を怒らせると厄介じゃ」

 

「知ルカァァァ!!ブッ殺シテヤルゥゥゥーーッッ!!!」

 

ムシュフシュは口から再び豪熱放射の一撃となるファイアブレスを発射してくる。

 

駆けながら跳躍して避けるが、旭にとっては大切な森に火の手が上がっていく。

 

「召喚!!朱雀!!」

 

封魔管を振り抜き、静香の母が召喚したのは五色の優美さを体に纏った神獣である。

 

【朱雀】

 

古代中国に発祥する天の四方を司るとされた四聖獣の内、南方を象徴する神獣。

 

翼を広げ五色に彩られた鳳凰に似た鳥の姿で表され、朱色を象徴色とする。

 

夏と五行の火も象徴しており、風水においては湖や海に棲まうとされた。

 

「奴の炎は私には通用しません!任せなさい!!」

 

朱雀は飛び立ち、上空からの魔法攻撃を仕掛けていく。

 

「ワシらの決着も急ぐとしよう。ムシュフシュがやり過ぎてしまうやもしれん」

 

互いが刀を構え、風となる。

 

時女の里を代表する二家同士の潰し合いは熾烈を極めることとなるだろう。

 

その光景はアバドン王事件の歴史を彷彿とさせるやもしれない。

 

アバドン王事件において槻賀多家の当主もまた、静香の母と同じ気持ちに目覚めてくれる。

 

天斗と呼ばれる虫人男に大事な娘を生贄に捧げるなど、ごめんこうむると叫んでくれたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

燃え上る森の中を並走しながら疾風と化す静香の母と神子柴の影。

 

腰のホルスターからMP7サブマシンガンを引き抜き、駆け抜けながら神子柴に銃弾を撃つ。

 

銃弾よりも早く駆け抜ける神子柴は神経毒をもたらす毒針を複数投擲する反撃を返す。

 

「火の手に飲まれて死ぬなどごめんじゃ!ここまでくれば焼け死ぬことはないじゃろう!」

 

木陰に隠れた神子柴は腰のポーチから煙玉を取り出す。

 

火を点けて投げ捨てると中身が炸裂して煙が周囲に充満していく。

 

「煙幕を作って仕掛けてくるつもりね!?」

 

仲魔の風魔法で煙幕を吹き飛ばす事も出来るが、朱雀を召喚しているため今は出来ない。

 

この世界のデビルサマナー達の悪魔召喚は一体を召喚するだけで精一杯であった。

 

全ての煙玉を使われたため、周囲は白煙によってホワイトアウトしてしまう。

 

「さぁ、ワシの幻術を打ち破ることは出来るかのぉ?」

 

声がした方角に向けてサブマシンガンを発射する。

 

しかし後方から飛んできた毒針が静香の母の左肩を貫いてしまう。

 

「ぐっ!?気配が掴めない……何処にいる!!?」

 

撃ち尽くしたサブマシンガンのマガジン交換をしようとするのだが、左手から落としてしまう。

 

「左腕に…痺れがっ!?」

 

即効性の神経毒が静香の母の体を襲い、体の感覚が奪われていく。

 

「第八巫蠱衆は虫のエキスパート。様々な虫の調合によって生み出された毒の味はどうじゃ?」

 

神子柴が生み出す幻術世界に翻弄される静香の母はなす術がない。

 

太腿、脇腹、右腕と次々に毒針が突き刺さっていく。

 

体中に痺れが広がってしまい、静香の母は片膝をついてしまった。

 

煙幕効果も収まってきたのか、周囲の景色が戻っていく。

 

白煙世界から歩み寄ってくるのは獲物を嬲り殺しにするのを楽しんでいる悪魔の如き老婆の姿だ。

 

「どうやら、あちらの方も決着がついたようじゃ」

 

神子柴が顔を向ける方角からはムシュフシュの勝どきの如き雄叫びが聞こえてくる。

 

少し前の頃、朱雀とムシュフシュの戦いも熾烈を増している。

 

航空優勢からの一方的な炎魔法攻撃に苦しめられたムシュフシュは雄叫びをあげたようだ。

 

「これは…!?」

 

夜空が急激に曇天となり、雷雲の光が生み出されていく。

 

「ウザッテェェェ!!チョコマカ逃ゲル貴様ニハ…特別大キイノヲクレテヤル!!」

 

ムシュフシュは魔法攻撃威力を上げる補助魔法の『マカカジャ』を行使する。

 

曇天の空から神槍の如き無数の雷光が落ちてくる。

 

「グワァァーーーッッ!!!」

 

マハジオダインの集中砲火を潜り抜けられなかった朱雀は雷の一撃を浴びてしまう。

 

急降下して墜落してきた朱雀に向けて歩みより、獰猛な眼を大きく開ける。

 

「ぐっ…うぅ……こ…この魔法は!?」

 

傷ついた朱雀の体が石化していく。

 

ムシュフシュが放った魔法とは敵単体に石化を付着させる『石化の呪い』であった。

 

「申し訳…ありません…。役目を果たせず…ここで力尽きるとは……」

 

完全に石化してしまった朱雀に振り上げられたのは巨大な前足。

 

踏み潰すかの如く振り下ろされた一撃によって、石化した朱雀の体は粉々となってしまう。

 

砕け散った体はMAGの光となり、宇宙を温めるエネルギーとして天に昇っていったのだ。

 

「頼みの綱の朱雀は倒された。残すところは青龍のみか?」

 

余裕の態度で迫ってくる神子柴。

 

ふらつきながらも立ち上がった静香の母はベストから封魔管を抜いて構える。

 

震える管から召喚された存在こそ、夜空に浮かぶ青龍の御姿。

 

「修験場での戦いの時は…ワシのムシュフシュが青龍に勝った。また同じ事の繰り返しじゃよ」

 

「やってみないと…分からないじゃない」

 

召喚者の意思を託された青龍が頷き、巨体を飛翔させていく。

 

迫りくるムシュフシュを迎え撃つために青龍は強敵の元へと赴くのだ。

 

「神経毒に侵された貴様など敵ではない。ワシの手で嬲り殺しにしてくれる」

 

「煙幕の中で私の気配を頼りに攻撃してたみたいね…。だから私が何をしてたのかに気付かない」

 

「なんじゃと…?」

 

両手の握力が戻ってきた静香の母は右太腿のホルスターから拳銃を引き抜く。

 

「チッ!!」

 

眉間を撃ち抜かれる前にバク転を繰り返しながら銃弾の猛攻を避け続ける。

 

大きく跳躍して離れた神子柴は忌々しい者に向けて獰猛な獣の如き顔を晒すのだ。

 

「なるほど…サマナー達が用いる回復道具も用意しておいたというわけか?」

 

静香の母がベストのポーチに入れてあったのは毒を回復させる『解毒符』であった。

 

「私はまだこれからよ。負けられない…この戦いだけは…絶対に負けたくない!!」

 

ルガーP08を太腿のホルスターに仕舞い、練気刀を鞘から抜いて構える。

 

忍者刀を逆手に持ち、腰を落としながら構える神子柴。

 

2人の戦いは最後の決着へと向かっていくのだろう。

 

それは二体の悪魔達とて同じである。

 

「グォォーーーッッ!!離レロォォォーーーッッ!!!」

 

傷だらけの青龍は最後の抵抗とばかりに近寄ってきたムシュフシュの体に巻き付いている。

 

強大な力で絞め潰そうとするのだが、ムシュフシュの暴れる力を抑え込むことは出来ない。

 

(神子柴に支配されたこの村は呪わしかった…。だが、それももう終わる…)

 

静かに目を閉じ、これから訪れる自由な霧峰村の未来を願う。

 

「何ヲスル気ダァァァァーーーッッ!!?」

 

「四神の一柱として…最後の維持を見せてやる!!付き合ってもらうぞぉ!!」

 

青龍の体から眩い光が放たれていく。

 

悪魔や魔法少女達が死をもって敵を滅ぼす自爆魔法であったのだ。

 

巨大な爆発の余波が神子柴の元にまで届き、動揺の顔を浮かべながら叫ぶ。

 

「あの爆発は…自爆なのか!?ムシュフシュは…ワシのムシュフシュは大丈夫なのか!?」

 

隙を見せた神子柴に向けて袈裟斬りを放つ。

 

咄嗟に刃で受け止めたが右肘打ちを神子柴の左側頭部に打ち込む。

 

「ガッ!!?」

 

怯んだ相手に向けて蹴りを放ち、大きく突き飛ばした。

 

「朱雀…青龍……あなた達の犠牲は無駄にはしない」

 

静香の母が纏うベストに刺さった召喚管の一つが激しく振動する。

 

今こそ召喚する時だと叫ぶかの如く。

 

振動する召喚管を引き抜いた静香の母は、最期となる悪魔召喚を行うのだ。

 

「いでなさい……私の騎士!!」

 

振り抜いた召喚管から解放されたMAGの光が実体化する。

 

現れた薄緑の甲冑騎士こそ、静香の母を君主として認めた妖精騎士だ。

 

「我が槍と命は君主のもの!勝利を我が君主のために!!」

 

頭上で回転させた魔法の槍を倒れ込んだ神子柴に向ける。

 

2人の刃が向けられる神子柴ではあるが、地面に倒れ込んだまま不気味な笑い声をだす。

 

「ククク…流石はワシのムシュフシュじゃ」

 

デビルサマナーは悪魔召喚の際に召喚悪魔に向けてMAGを供給する者達。

 

召喚されている状態の悪魔は召喚者との繋がりがあると言えるだろう。

 

だからこそ、神子柴はムシュフシュの存命を確信しているのだ。

 

<<グガァァァーーッッ!!死ニタクネェ……マダ喰イ足リネェーーッッ!!!」

 

木々を薙ぎ倒しながら近寄ってくるのは全身傷だらけのムシュフシュである。

 

危うく命を落としかけたようだが強靭な肉体は青龍の自爆に耐えきったようだ。

 

起き上がる神子柴も刃を向けてくる。

 

背中を合わせて前後の敵に向かい合う静香の母とタム・リンは決死の覚悟を決めた。

 

「私の命に代えても…あの悪魔を倒してみせましょう。それこそが君主を守る騎士の務め」

 

「タム・リン…貴方を誤解していたようね。戦場に出たなら…貴方は本物の騎士だったわ」

 

死地に赴く者達が敵を討たんと駆け抜ける。

 

静香の母と神子柴は連続した斬撃の応酬と体術を用いた組打ち勝負を仕掛け合う。

 

タム・リンは死にかけたムシュフシュの巨体に飛び乗り魔法の槍を突き刺すがびくともしない。

 

「グォォーーッッ!!離レロォォォーーッッ!!イテェェェジャネェェカァーーッッ!!」

 

「我が名にかけて!退く事はない!!」

 

タム・リンの槍は相手に魅了効果を付与する魔法がかけられているが通じる気配がない。

 

魅了に耐性をもつ悪魔だと判断した彼は暴れ狂う巨体から跳躍。

 

「我が魔槍の力を受けよ!!」

 

槍を振り抜いて発せられたのはヒートウェイブの衝撃波。

 

「グァァァァーーーッッ!!」

 

本来のムシュフシュならびくともしないだろうが、瀕死のムシュフシュならば別だ。

 

「よし、効いている!!私と共に君主に仕えた同胞達よ…お前達の仇は私が討つ!!」

 

地面に倒れ込んで藻掻き苦しむ悪魔にトドメを刺さんと駆け寄っていく。

 

しかしムシュフシュは罠を張っていたのだ。

 

「バァァァカァァァメェェェーーーッッ!!!」

 

タム・リンに目掛けて放つのは石化の呪いである。

 

「ぐっ!!?」

 

手足の末端からどんどん石化が始まっていく。

 

「モラッタァァァーーーーッッ!!!」

 

長く伸びた蛇の首が持ち上げられ、一気にタム・リンに目掛けて突撃してくる。

 

跳躍して回避しようとするのだが…間に合わない。

 

「がっ……ッッ!!!」

 

タム・リンの腰に目掛けて巨大な歯を突き立て、彼の上半身が千切れ飛んでいく。

 

「グウゥゥゥ…男ナンゾ喰ッチマッタァァーッッ!!気持チ悪イジャネーカァァーーッッ!!」

 

巨体をふらつかせながらも、女の肉を喰いたいと静香の母の元へと迫る。

 

俯けに倒れたタム・リンの上半身が持ち上がり、右手の槍を必死の形相で構えていく。

 

血を吐き出しながらも最後にこんな言葉を残してくれるのだ。

 

「我が君主と娘様の未来に…幸多いことを…願っておりますよ…っ!!」

 

彼の体から光りが発せられる。

 

青龍と同じ覚悟を決めたタム・リンの自爆攻撃である。

 

「ナンダァァァーーーッッ!!?」

 

後ろから迫りくる巨大な魔力に気が付いたムシュフシュは長い首を後ろに向ける。

 

後ろから迫ってきていたのは、自爆エネルギーを一直線に放つ特攻の一撃。

 

光の中で槍を構えたタム・リンは微笑み、最後の一撃を自分の命と共に突き立てた。

 

彼の最後の気持ちがMAGの供給が絶たれると共に届いた静香の母が後ろを振り向く。

 

そこに見えたのは、ムシュフシュが爆ぜて大量のMAGが夜空に向けて放出されていく光景。

 

「タム・リンーーーッッ!!!」

 

不出来な長を君主と呼んでくれた騎士の最後を見ながら絶叫を上げてしまう。

 

「喚き散らしたいのはワシの方じゃーーーっ!!!」

 

隙をつかれた静香の母は背後に現れた神子柴から両手で掴まれてしまう。

 

老骨に鞭を打ち、下半身の力を最大に発揮しながら跳躍する。

 

「貴様も死ねーーーっ!!!」

 

木々のてっぺんを超える程の跳躍を行った神子柴は裏投げの体勢から一気に急降下。

 

この投げ技は両腕を拘束されているため受け身すら与えられない必殺の一撃となるだろう。

 

決まった技とは第八巫蠱衆流の飯綱落としであった。

 

「がはっ!!!!」

 

頸椎が砕け、頭蓋骨にも大きな骨折を負う程の必殺の一撃が決まった静香の母は動けない。

 

しかし地面は腐った葉っぱが厚い層を生み出す柔らかい土であったため、かろうじて息がある。

 

まだ死に切れていない憎き者に向けて神子柴が近寄ってくる。

 

「スパルナだけでなく…ワシのムシュフシュまで殺しおって!!代償は高くつくぞ!!」

 

転がっていた練気刀を拾い上げて逆手に持つ。

 

静香の母の横に立った神子柴は両手で柄を握り締め、一気に振り下ろす。

 

「あっ……」

 

痙攣を続けていた静香の母の動きが止まってしまう。

 

彼女の愛刀は神子柴の手で心臓を貫く一撃となり地面にまで刃が届いていた。

 

「…貴様の刀が墓標となる。この村を去ることになって…ワシも高い代償を払ったものじゃのぉ」

 

忌々しげにつばを吐き、神子柴は暗闇の世界へと消えていく。

 

残されたのは敗者のみ。

 

誰が見ても時女当主の最後にしか見えない光景だけが残されてしまった。

 

この村の悲劇が起きた頃、胸騒ぎがして布団から起きてしまった静香は家の中を歩いていく。

 

庭にまで来た静香は曇天の夜空が開けた星の世界を見ていたようだ。

 

「なんだろう…凄く胸がザワザワする。今日のことが怖いんじゃない…もっと怖いような…」

 

静香は胸を抑え込み、優しい母の温もりを思い出そうとする。

 

しかし彼女は言い知れぬ不安に支配されたかのようにして、母の温もりを感じられなかった。

 




スーパーメガテンこじつけ過ぎるクロスオーバー展開でしたね(汗)
拙作はジジババ率が妙に高いところから、僕がスタイリッシュジジババ好きだとバレてしまうやも(フロム脳)
次回、静香ちゃん達のデスオバーバ決戦!
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