人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

192 / 398
191話 時女を継ぐ者

涼子達が神子柴を食い止めている間に静香達は村に戻る夜道を駆け抜けていく。

 

静香の両腕に抱かれたちはるは暴れ続けるが彼女は放してくれない。

 

大切な親友が自責の念に押し潰されて自殺するなど認めるわけにはいかないからだ。

 

「もう少しで村に戻れるわ!すなお、ちはるの面倒を頼めるかしら?」

 

「静香はどうする気なんですか…?」

 

「涼子達と合流する。すなおが語った言葉が事実なら…私達は神子柴に騙されていたことになる」

 

「ですが…それでも神子柴はヤタガラスからの使者です。逆らうのはヤタガラスへの謀反です!」

 

「そうなるかもしれない…。それでも、私達はヤタガラスから見捨てられた者なのよ」

 

「これからどうする気なんですか?ヤタガラスに逆らえば時女一族だって無事じゃすみません!」

 

それを問われた時、静香の心に言い知れぬ不安が生み出されてしまう。

 

それでも迷いを振り払うようにして顔を上げ、決断する表情を浮かべる。

 

「この村は…ヤタガラスから独立するべきよ。母様は激怒するかもしれないけど…譲れないわ」

 

「今まで築き上げてきた村の秩序を壊すことになるんですよ?それでも…自由を望むんですか?」

 

「自由を望むなら責任も伴う…。私の道は時女一族の破滅かもしれない…それでもついてくる?」

 

それを問われたすなおの顔に迷いはなく、心の底から静香を信頼する者として言える言葉がある。

 

「私は…静香を信じます。貴女こそが自由と幸福を求める時女一族を作れる者だと…信じてます」

 

時女本家の者として求めるのはヤタガラスへの恭順ではない。

 

日の本の民を守り抜く時女の矜持のみが時女静香を突き動かす。

 

たとえヤタガラスに捨てられようとも、護国救済の道は別の形で求め続けたい。

 

それこそが伝統という秩序に縛られない、自由な時女一族の在り方なのだと信じるのだ。

 

村の集落に戻れる橋の前にまで彼女達は駆け寄っていく。

 

しかし橋を見渡せる木の枝には既に神子柴が回り込んでいたようだ。

 

<<キャァァァァーーーッッ!!?>>

 

静香達の目の前で橋が大爆発を起こす。

 

最悪の事態を想定していた神子柴は橋の下側に仕掛けてあった爆弾を起爆したようだ。

 

橋は中央部分から崩れ落ち、集落に戻る道が絶たれてしまった。

 

「ぐっ…うぅ……」

 

爆風に吹き飛ばされて倒れ込んだ3人の魔法少女達。

 

すなおから受けた傷も癒していないまま静香は立ち上がろうとする。

 

「天皇一族であるヤタガラスに逆らうか?不敬罪の上で国家反逆罪といったところじゃのぉ」

 

歩いてくるのは忍者姿となった神子柴である。

 

「その姿は…何なの?ただの老婆のフリをしていただけだったわけ…?」

 

「冥途の土産に教えてやろう。ワシはヤタガラス傘下にあった暗殺一族の生まれなのじゃ」

 

「暗殺一族の者…?ただの神官じゃなかったというわけね…」

 

「元第八巫蠱衆の者としてお主らに死を与えてやる。ワシに勝つ自信はあるか、静香?」

 

「難しい質問ね…。私や巫達に忍びの技術を仕込んでくれたのは…お前だったもの」

 

「お主はワシの弟子共の中では飛びぬけて腕が良かったが…それだけではワシには勝てん」

 

懐から引き抜いた封魔管を構える。

 

「ガシャドクロは倒されたようじゃ。急ぐ必要があるのぉ……いでよイチモクレン!!」

 

神子柴に召喚されたのは巨大な目玉の体を持ち、背中から大量の触手を生やした化け物であった。

 

【イチモクレン】

 

一目連と呼ばれる三重県・伊勢の暴風神、または妖怪とされる存在である。

 

多度神社の神の一柱として祀られ、風神とも鍛冶神とも呼ばれているようだ。

 

凄まじい風を起こして人を飛ばし家を壊すとされ、竜巻や台風を連想させる悪魔である。

 

一目連とは暴風神の出現に驚いた人々が一目散に逃げだすという意味合いから名付けられていた。

 

「このロリコン共め!!じゃない!うぉまえはシラカバ派かァ!?ドストエフスキー派かァ!?」

 

「また悪魔なの!?母様といい…デビルサマナーはどれだけ悪魔を使役出来るというの…!?」

 

「時女当主か?奴の事は忘れてしまえ。もう帰ることはないのじゃからのぉ」

 

それを聞いた静香の表情が凍り付き、額から冷や汗が流れ落ちていく。

 

「母様が任務で村を出たというのも嘘なのね…?母様をどうしたの!?」

 

高笑いを始める神子柴が邪悪な笑みを浮かべてくる。

 

「昨日奴から呼び出されてのぉ。ワシを脅してきおったから…報いを与えてやったのじゃ」

 

「まさか母様が…そんなことないわ!!あれほど強い母様が…お前になんて負けるわけない!!」

 

「静香にも見せてやりたかったのぉ?奴の愛刀が墓標となって心臓に刺さっているところをな」

 

母親の死を突き付けられた静香の体が震え、目には悔し涙が浮かんでいく。

 

歯を食いしばり殺意と憎悪に塗れた表情となってしまう。

 

「村の巫などワシにとっては虫けらじゃ。願いの内容は金儲けのために使わせてもらったわい!」

 

「最初から…時女一族を喰らいつくすことが狙いだったのね!?許さない…絶対に許さない!!」

 

「そう言いながらお主の母親はワシに殺された。娘のお主も…後を追え」

 

神子柴は両手を顔の前で交差させる。

 

両手が握り込まれた隙間から神経毒をもたらす毒針が数本飛び出し、投擲の構えを行う。

 

「ダメよ静香!!挑発に乗っちゃダメ!!」

 

怒りに飲まれた静香が神子柴に向けて殺意を叩きつけるために駆けていく。

 

「神子柴ぁぁぁーーーっ!!!」

 

神子柴の術中にハマった静香は命をかけてでも戦うだろう。

 

邪悪な老婆に殺されていった者達の無念を叩きつけるためにこそ今の自分があるのだと信じて。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神子柴は連続して毒針の投擲を行う。

 

両腕で顔をガードしながら静香は突撃体勢を崩さない。

 

体に次々と毒針が突き刺さっていくが痛みを感じないかのようにして魔法武器を生み出す。

 

「死ねぇぇーーーっ!!!」

 

七支刀を振り上げ、力任せに叩きつけようとするが神子柴の姿が一瞬にして消える。

 

「どこ!?」

 

月面宙返りを行って静香の背後に着地した神子柴は背中の忍者刀を握り締める。

 

「ぐっ!!?」

 

背中に一太刀浴びてしまうが、痛みを無視して神子柴に襲い掛かり続ける。

 

痛覚麻痺の力を使って痛みを忘れた戦いを続けてしまうが神子柴には通用しない。

 

「無様な戦いじゃのぉ?お主は頭に血が上り易い。稽古をつけてやった時に注意したじゃろう?」

 

「黙れ!!その首を跳ね落としてやる!!」

 

荒々しく振り回す斬撃など神子柴は軽くあしらうかのようにして回避していく。

 

静香の斬撃が振り回される中、神子柴の目は静香ではなく七支刀に向けられている。

 

七支刀の形は独特であり斬撃には全く役に立たない形状をした剣である。

 

どちらかと言えば()()()()()使()()()()()()であり、静香は魔法の付与を目的にして使ってきた。

 

「…イラつくのぉ」

 

眉間にシワを寄せ切った神子柴の体が揺れる。

 

逆袈裟斬りを潜り抜け、右手で静香の手首を掴み、左裏拳を顔面に向けて放つ。

 

両目に打ち込まれて怯んだ静香の右腕を捩じり上げ、背負う形で関節を決める。

 

「あぐっ!!?」

 

右腕が圧し折れた静香を背負い込むようにして投げ飛ばし、追い打ち突きを放つ。

 

拳がみぞおちに打ち込まれ、痛みに関係なく激しく咳き込んでしまう。

 

「ワシに向けてそのゴミ道具を向けてくるな!!天斗紋を思い出して反吐が出る!!」

 

槻賀多家の紋所である天斗紋はテントウ虫を彷彿とさせるようなデザインをしている。

 

しかし天斗紋には()()()()()()()()()を彷彿とさせる形まで含まれていたようだ。

 

槻賀多家もヘブライ民族である秦氏ゆかりの一族であると考えられる。

 

そして時女一族の象徴である七支刀にもまた、ヘブライの秘密が隠されていた。

 

「時女一族の誇りであるこの剣を馬鹿にするな……ぐぅ!!?」

 

怒りに任せて立ち上がろうとするが、ついに全身に神経毒が回ってしまい倒れ込む。

 

「静香!!」

 

狼狽したまま動こうとしないちはるに頼るわけにもいかず、すなおが静香を援護しようとする。

 

「ハロー!ハルオォォー!うぉれとも遊んでくれよォォォ!!角でグリグリしてやるゥゥゥ!!」

 

突如として空中から現れたイチモクレンの触手攻撃がすなおを襲う。

 

「キャァァァァーーーッッ!!?」

 

触手の大回転打ちがすなおの脇腹を強打する。

 

彼女は森の中にまで弾き飛ばされ、イチモクレンは追撃を行うために攻め込んでいくようだ。

 

「ダメ!!静香ちゃんを殺さないで!!殺すなら私を殺してよ!!オババーーーッッ!!」

 

泣きながら神子柴に向けて哀願してくるが、冷酷な眼をちはるに向けてくる。

 

「広江の、言われなくてもお主は殺す。そして、ワシの秘密を知った静香共も全員殺す」

 

静香は痛みを無視して立とうとするが全身が麻痺しており、もはや立つことさえままならない。

 

そんな者などいつでも殺せるとばかりに刀を仕舞い、ニヤついた表情を浮かべながら語ってくる。

 

「ワシはのぉ…ヤタガラスに所属しておるが、ヤタガラスなど本当はどうでもいいのじゃ」

 

「なんで…すって……?」

 

「ワシを雇っておる本物の依頼主とはのぉ…米国のユダヤ財閥なのじゃよ」

 

「それじゃあ…お前は…米国の工作員だったというの!?」

 

「ヤタガラスが抱える時女一族。それは奇跡を政治利用出来る存在であり…看過出来なかった」

 

米国のユダヤ財閥であるロックフェラーはGHQを通してヤタガラスの存在については知っている。

 

ヤタガラスはナチスと同じく極右団体であり、米国支配の脅威となる存在。

 

だからこそヤタガラスの力を削ぐために工作員を送り込んでいたようだ。

 

「ワシの任務はヤタガラスの奇跡を封殺する奇跡を起こし、その上で米国支配を容易にすること」

 

ロックフェラーの工作員として神子柴は様々な売国政策を後押しする奇跡を起こしてきた。

 

日本人の安全な水が売られた。(水道民営化)

 

日本人の安全な土が売られた。(汚染土の再利用)

 

日本農家の種が売られた。(種子法廃止)

 

日本の農地が売られた。(農地法改正)

 

日本の海が売られた。(漁業法改正)

 

労働者が売られた。(高度プロフェッショナル制度)

 

日本人の仕事が売られた。(改正国家戦略特区法)

 

ブラック企業対策が売られた。(労働監督部門民営化)

 

ギャンブルが売られた。(IR法)

 

学校が売られた。(公設民営学校解禁)

 

老後が売られた。(介護の投資商品化)

 

個人情報が売られた。(マイナンバー包囲網拡大)

 

他にも様々な制度が改悪され、売国政策は神子柴の支援を受ける矢部政権が担当している。

 

最長の政権運営を担った矢部元総理とは、極右に擬態した国賊総理だったのだ。

 

「政治を知らんバカな巫共は何も疑わずに願いを使った。日の本が売られるとも知らずにのぉ」

 

「そんな…ことって…!!この国は…日の本は…売国者ばかりだったというの!?」

 

「何を期待してたのじゃ?国会議員や官僚に政治行政を任せておけばいいとでも思い込んだか?」

 

「酷過ぎる…!!それじゃあ…私たち時女一族がどんなに頑張ったって…日の本を守れない!!」

 

「今の日の本は売国こそが一番金儲けになる。拝金主義の日本人にはお似合いの末路じゃろう?」

 

「拝金主義を掲げる売国奴め…!!お前も…国賊議員や国賊官僚共も…絶対に許さないわ!!」

 

怒りに燃え上る静香はふらつきながらも立ち上がっていく。

 

売国者への憤怒が両足に力を与えてくれるが、動くことさえままならない。

 

「もういい…お主も疲れたじゃろう?その川に沈んだ巫と同じく…永遠に休むがいい!!」

 

田んぼのカカシ同然の姿を晒す静香に目掛けて神子柴が一気に踏み込む。

 

前転する勢いを利用して腕で体を跳ね上げ、山なりに突進するドロップキックを放つ。

 

「キャァァァァーーーッッ!!!」

 

直撃した静香の体が一気に弾き飛ばされていく。

 

「ダメーーーッッ!!!」

 

ちはるが静香を止めようとするが受け止めた衝撃が強過ぎたため彼女も川まで転落していく。

 

「すまんのぉ…。寂しくないよう、お主達の仲間も冥途のお供にしてやろう」

 

森の中では巨大な竜巻に巻き上げられたすなおまで吹き飛ばされてきたようだ。

 

「あぁーーっ!!!」

 

神子柴の近くに落ちてきたすなおの上空からは勝ち誇ったイチモクレンが下りてくる。

 

「よくやった。すなおの始末はワシがするから、お主は管に戻っておれ」

 

「まだ暴れ足りないでありますゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

「ガシャドクロを倒した連中が迫っておる。ワシが討ち損じたなら出番をくれてやろう」

 

イチモクレンを管に戻した神子柴は別の封魔管を取り出す。

 

「静香共にトドメを刺すのは…いつもの残飯処理担当の悪魔にしとこうかのぉ」

 

涼子達が現場に駆けつけようとするが、夜道は濃霧の如き煙幕によって遮られている。

 

「これは何だ…?先が見えないぞ…?」

 

「気をつけて下さ…ぐぅ!!?」

 

「ちか殿!?ぐあーーっ!!?」

 

「ちか!!旭!!うわーーっ!!?」

 

煙幕の世界から次々と毒針が飛来して魔法少女達を串刺しにしていく光景が続く。

 

「我が幻に惑え、愚かな虫けら共」

 

時女一族を支配してきた悪魔の如きサマナーの力は桁外れであった。

 

魔法少女達を相手に純粋な力比べをすれば負けるだろうが、神子柴には長年の経験と技がある。

 

神子柴の忍術に翻弄される魔法少女は手も足も出せずに痛めつけられていくしかない。

 

絶体絶命の状況を迎える中、川の中では水底に沈んでいく者達の姿が残されている。

 

彼女達は目撃するだろう。

 

神子柴の犠牲となってきた巫達の哀れな姿を。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(冷たい……息が出来ない……)

 

全身が麻痺しているうえに右腕が折られている静香は泳ぐこともままならない。

 

(私は今、どこを向いてるんだろう…上なの?下なの?右?左?)

 

方向感覚さえなくなった静香の体が力なく沈んでいく。

 

このまま死ぬしかないのかと諦めていた時、救いの声が響いてくる。

 

<静香ちゃん!!>

 

魔法少女服の布を掴んできたのは一緒に川に落とされた広江ちはるだ。

 

念話を送って静香の反応を待つ。

 

彼女は力なくも引っ張ってくれる者の声に反応してくれたようだ。

 

<静香ちゃん…大丈夫?早く上がらないと息が出来なくなるよ!>

 

<私はもう…ダメみたい。誰も守れなかった…母様も…村の皆も…巫達も…>

 

<諦めたらダメだよぉ!絶望的な状況だって…静香ちゃんはみんなの前に立ってくれた!>

 

<ちゃる……>

 

<私やみんなを守ろうとしてくれた!だからね…私はね…静香ちゃんに守ってもらいたい!!>

 

<私が…ちゃるを守る…?>

 

<私だけじゃないよ…!すなおちゃんや、涼子ちゃんや、ちかちゃんや、旭ちゃんも守ってよ!>

 

<私に…出来るの…?神子柴は強い…私の力じゃ…勝てない…>

 

敗北感に打ちひしがれていた時、静香とちはるは川底で何かを見つけてしまう。

 

<なに……これ……?>

 

川底に広がっていたのは…無数の人骨である。

 

<これは…巫よ…。すなおを支配してきた神子柴に殺された…巫達の…骸よ…>

 

物言わぬ死骸に成り果てた巫達を見て、彼女達がどれだけ無念だったのかと思えば心が痛む。

 

彼女達がどんな夢を抱いて、未来に希望を望んできたのかを考えただけで心が張り裂ける。

 

<もう…こんな悲劇を繰り返しちゃダメ…。それを終わらせるのが…静香ちゃんなんだよ>

 

<私が…終わらせる?私に…出来るの…?>

 

<私は信じてる…。静香ちゃんこそが……時女一族を継ぐ巫だって!!>

 

巫の希望を託せる静香を死なせるわけにはいかない。

 

迷いを振り切ったちはるは彼女を抱えて川底から水面に目掛けて昇っていく。

 

しかし彼女達に向けて追手が迫ってきている。

 

その追手こそが巫達の死を冒涜するかの如く死体を貪ってきた悪魔であった。

 

<逃がさねーぞぉぉーーっ!!美味そうな獲物共ーーっ!!>

 

恐ろしい念話が聞こえてきたちはると静香は向こう側から迫ってくる悪魔に目を向ける。

 

高速で泳ぎながら迫ってきていたのは、巨大なエイのような化け物の姿であった。

 

【イソラ】

 

古代豪族である安曇氏の主神である水神。

 

その姿は貝や藻のまとわりついた醜いものとされているようだ。

 

神功皇后の征韓に協力した神ともされ、人の顔を恐ろしい異形に変える力をもっていた。

 

巨大なエイの姿をした悪魔が迫ってくる。

 

体がボロボロの静香を抱えていては満足に戦うことさえ出来ないだろう。

 

<静香ちゃん…ここは私が食い止める。どうにかして水面まで昇って!!>

 

<でもちゃる…貴女は水の中で戦えるというの!?炎も使えない場所なのよ!>

 

<それでもやるしかない…!私は正義の探偵に憧れた巫…もう諦めたりなんて…しないから!>

 

ちはるの覚悟を受け取った静香もまた覚悟を決める。

 

<喰らってやるーーーっ!!>

 

迫りくるイソラの突撃を避けるために互いの体を蹴り飛ばす。

 

弾き飛ばされた静香とちはるはイソラの突撃を避けることが出来たようだ。

 

静香は必死になって左腕を動かしながら水面を目指していく。

 

手負いの獲物を殺そうとイソラは狙うが、自分の体にワイヤーが巻き付いていることに気付く。

 

<ぐおぉぉーーっ!!?は、放せーーっ!!!>

 

尻尾の部分に巻き付いた十手のワイヤーごとちはるの体を荒々しく運んでいく。

 

川の中で引っ張られるしかないちはるであるが、自分がいなくても静香は勝つと確信している。

 

だからこそ静香を生き残らせなければならないと自分の命にかけて願うのだ。

 

広江ちはるはイソラとの戦いに己の最後の力を振り絞る覚悟を決めた。

 

「ぷはっ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」

 

水面から飛び出した静香は大きく息を吸い込み、麻痺した体に鞭を打って泳いでいく。

 

伸し泳ぎと呼ばれる横泳ぎでどうにか岸まで泳ぎ着くがそのまま力尽きてしまう。

 

「私はまだ…負けられない。ちゃるのためにも…早く…立たなきゃ…」

 

身動き一つとれない時、川原の石を踏み歩く音が近寄ってくる。

 

「静香…!!」

 

ふらつきながらも歩いてくるのは全身が傷ついた姿をしたすなおである。

 

涼子達を狩り殺すために向かった神子柴の隙をつき静香の元まで来たようだ。

 

静香の元までどうにか辿り着いた彼女は両膝が崩れてしまう。

 

「すなお…貴女まで…酷くやられちゃったみたいね……」

 

「静香…私はどうなっても構わない。貴女だけは…死なせはしないわ……」

 

倒れ込んだ静香の手を両手で掴んでくれる。

 

すなおの思いが形となり、コネクト現象が生まれていく。

 

土岐すなおは両親の悩みを治して欲しいという願いで契約した癒しの魔法少女。

 

浄化の光によって静香の全身麻痺の症状が収まり、折れた右腕も動くようになる。

 

体が動くようになった静香は突き刺さった毒針を抜いていき、倒れ込むすなおを抱え込む。

 

「すなお!傷ついた体で無茶な魔法行使はダメよ!」

 

「いいんです…。私は罪人…一度背負った罪からは…逃れられません…」

 

「だからって…!こんな場所で死なせるつもりなんてないわ!」

 

「私は構わない…それでも…望みがある…。静香だけは…生き残らせたいと…」

 

「ちゃるもそうだった…どうして私のために…そこまで命をかけてくれるの…?」

 

それを問われたすなおは、静香の腕の中で微笑んでくれる。

 

その顔つきは死をとしてでも守り抜きたい人に託す思いが表れていた。

 

「静香は…私達の時女一族を継いでくれる…長となる者。この村に…自由を与えてくれる人…」

 

優しく微笑んでくれたすなおが気を失ってしまう。

 

ちはるとすなおの意思を託された静香の顔から怒りは消える。

 

「ごめんなさい…また…みんなに迷惑かけちゃったわね。でも…もう大丈夫」

 

覚悟を決めた静香が走っていく。

 

「もう誰も死なせない…。私は時女を継ぐ者…みんなの未来を守る…巫よ!!」

 

巫達や村人達が自由に幸福を望んでいいと考える気持ちこそ時女一族の伝統よりも重い。

 

時女一族の人々が本当に望む幸福を与えてこそ、長となる者を支えてくれる。

 

それこそが集団社会を統率する代表者の務めだと理解した静香は戦うのだ。

 

みんなの自由と幸福を踏み躙る秩序を敷いた独裁者との決着をつけるために。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ぐっ…うぅ……」

 

煙幕が晴れた地面に倒れ込む涼子とちかと旭。

 

歩いてくるのはトドメを刺すために近寄ってくる神子柴だ。

 

「巫といえどワシの毒からは逃れられん。身動き出来ないままあの世に逝くがいい」

 

「ちく…しょう…!体が…動かない…!!」

 

「こんな場所で…死ぬわけには…!!」

 

「そうで…あります…!我らは見たい…静香殿が変えてくれる…霧峰村の未来を…!!」

 

「静香に希望を託すようじゃが無駄じゃ。あの娘は今頃ワシのイソラに……むぅ?」

 

神子柴の動きが立ち止まる。

 

背後に顔を向ければ全力で走ってきた静香が立つ。

 

息を切らせた彼女は涼子達を守りに現れてくれたのだ。

 

「イソラから逃げきれたじゃと…?それにワシが与えた毒まで消えているようじゃな…?」

 

「涼子達は殺させない…。この子達の未来を守りたい…ちゃるとすなおの未来を守りたい…!」

 

静香は魔法武器である七支刀を右手に出現させて握り締める。

 

左手には忍者武器のくないが握り締められていた。

 

「私のありったけをお前にぶつける。今度こそ勝ってみせる…この村の未来のために!」

 

「右腕も動くようになったか…いいじゃろう。今度こそトドメを刺してやる」

 

神子柴が顔の前で両手を交差させて握り込む。

 

指の隙間から飛び出す複数の毒針が獲物の血を求めるかの如く光りを放つ。

 

「…イソラの気配が消えたじゃと?広江の…お主にそこまでの力があったとはな…」

 

「ちゃるも頑張ってくれてるのね…。私も続くわ…時女一族を継ぐ者として!!」

 

睨み合う両雄。

 

この一戦こそが霧峰村の未来を決める。

 

先に動いたのは神子柴だ。

 

「さぁ、行くぞ静香ぁ!!」

 

連続して投げられる毒針が迫りくる。

 

胴体と足を狙う毒針に対し、静香は跳躍する。

 

体を横倒しに回転させるコークスクリュー回避で毒針の隙間を超えていく。

 

螺旋を描く回転体勢からくないを投擲。

 

忍者刀でくないを弾き、神子柴が仕掛けてくる。

 

「「ハァァーーーッッ!!!」」

 

互いの斬撃の応酬が続き火花を散らす。

 

斬撃の応酬からの組打ちを仕掛けていく。

 

神子柴の回し蹴りが決まるよりも先に静香が跳躍。

 

右手で神子柴の肩を掴みながら側方倒立回転とびで超えながら背中を蹴り込む。

 

「ぐぅ!!」

 

体勢が崩れた神子柴に目掛けてくないが飛来するが振り向き様に刀で弾く。

 

「舐めるな小娘がーーっ!!」

 

互いが剣を逆手に持ち、打撃戦が繰り広げられる。

 

突き、肘打ち、蹴りの応酬が続き互いが打撃を捌きながら一撃を狙う。

 

「がはっ!?」

 

左足の飛び後ろ回し蹴りから続く右足の旋風脚が静香の左側頭部を捉える。

 

倒れ込む静香だが尚も果敢に攻める姿勢を崩さない。

 

神子柴が放つ突きを掻い潜り右手の突きがカウンターで決まる。

 

「ぐふっ!?」

 

顔面に決まった拳が神子柴の鼻骨を砕き、おびただしい出血をもたらす。

 

若者が相手ではスタミナ切れで負けると判断した神子柴が静香の後ろ回し蹴りをバク転で避ける。

 

距離を放した神子柴は懐から封魔管を取り出して悪魔を召喚するのだ。

 

「うぉれは疾風族のイチモクレンだァァァ!!趣味は読書とリリアンだァァァ!!!」

 

「そんなの聞いてないわよ!!」

 

「やれ!!イチモクレン!!」

 

「オッケェベイェェェェベベベ!!うぉまえは血ィ祭りィィィィ!!」

 

迫りくるイチモクレンが放つのはかまいたち攻撃であるマハザンマの一撃。

 

かまいたちが次々と放たれていく中、静香の体が揺れる。

 

全力で突撃していく中で跳躍。

 

側転の勢いのまま猫宙返りでかまいたちを避け、そのままバク転しながらイチモクレンに迫る。

 

大きく弧を描く後方宙返りを行いイチモクレンの背後で着地。

 

「な…なんじゃこりゃァァァァァァァ!!?」

 

巨大な目玉の体に一閃の跡が浮かぶかのようにして一気に血が吹き出す。

 

後方宙返りを行った時の斬撃によってイチモクレンが真っ二つになりMAGを放出して滅びた。

 

「オノレェェーーッッ!!ワシの使い魔共を次々と屠りおってーーーッッ!!」

 

「勝負よ!神子柴ーーーッッ!!」

 

怒りに燃える神子柴が放つ回転跳躍斬りに対し、静香は片手を地面につける。

 

「グアァァーーーッッ!!?」

 

低空から放つ蹴り上げが神子柴の斬撃よりも早く決まり、一気に蹴り飛ばされていく。

 

壊れた橋の近くにまで蹴り飛ばされて倒れ込む神子柴に向け、静香が勝負にでる。

 

「時女一心流…三尺蹴詰ノ首落とし!!」

 

三尺の間合いから一気に蹴り詰め、居合の構えから首を跳ねる斬撃を狙う。

 

ふらついたまま立っている神子柴の首が跳ね落ちるかと思ったが罠だった。

 

「えっ!!?」

 

神子柴の姿が一瞬にして消える。

 

老婆の体は宙を舞っており、背後に着地した神子柴の両手が静香の体を掴む。

 

「貴様の母と同じ死に方をさせてやるーーーッッ!!」

 

下半身の力を最大限に発揮して跳躍。

 

大きく飛んだ体勢から裏投げを放ち、飯綱落とし状態のまま落下していく。

 

「くっ!!!」

 

両腕は拘束されており受け身はとれない。

 

このまま首と頭蓋骨を破壊されて殺されるかと思った時だった。

 

「な、なんじゃーーッッ!!?」

 

静香の右手に持たれたままの七支刀が燃え上る。

 

怒りの魂を宿したかのように静香の体を包み込み、背後の神子柴まで燃え上っていく。

 

「ギャァァァーーーーッッ!!?」

 

全身火達磨となった神子柴の両手が離れて落下していくチャンスを生かして静香は一回転着地。

 

地面に叩きつけられた神子柴が転げまわるが、同じようにして火に包まれた静香は無事だった。

 

「私が狙ったわけじゃない…。もしかして…あなたが助けてくれたの…?」

 

右手に持たれた剣に宿った炎が消えていく。

 

一族の伝統が全て詰まった時女一族の象徴だと母から言われた言葉を思い出す。

 

「きっとご先祖様達が助けてくれたのね…ありがとう。お陰で助かったわ…」

 

勝利を感じていた静香であったが、呻き声を上げながら立ち上がろうとする者に目を向ける。

 

「静香ぁぁぁーーッッ!!まだ終わりではないぞぉぉぉーーーッッ!!!」

 

全身が焼け焦げた姿をした神子柴が憤怒の形相を浮かべながら突進してくる。

 

「この一撃に…苦しめられ続けた時女一族の者達の…魂を込める!!」

 

両手で七支刀を構えた静香も駆けていく。

 

最後の一撃として放つのは、亡き母が静香に伝えてくれた時女一心流の奥義となる剣技。

 

「時女一心流……旋風鎌鼬!!」

 

跳躍からのキリモミ回転を加えた斬撃が神子柴の胴体に放たれる。

 

「ぐっ……ッッ!!!?」

 

袈裟斬りの角度から胴体を斬られた神子柴の体から血が吹き出す。

 

後退っていく神子柴に剣を向ける者こそ、女の一族である時女一族の自由を背負う少女の姿だ。

 

「神子柴…お前は()()()()()だったわ。霧峰村に寄生し続けた……虫だったのよ」

 

「虫……か……。ならば……巫蠱師として……本望……じゃ……」

 

神子柴の体が壊れた橋から落下する。

 

霧峰村を吸い尽くした寄生虫は川の中へと転落し、最後を迎えることとなった。

 

「母様…私…やったよ……」

 

夜空を見上げる静香の目からは、亡き母を思う涙が零れ落ちていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「うっ……うぅ……」

 

涼子達から回復魔法をかけてもらうすなおの意識が戻っていく。

 

「気が付いたかい?」

 

「涼子さん…?それにちかさんに旭さん…?良かった…無事だったんですね?」

 

涼子に立たせてもらうすなおは旭とちかに視線を向ける。

 

2人は静香に肩を貸しており、疲れた笑顔を向けてくれた。

 

「ごめんなさいね…すなお。涼子達を回復させる余力しか残ってなかったわ…」

 

「いいんです…静香。それよりも…神子柴は…?」

 

「…決着をつけたわ。あの寄生虫が殺してきた巫達の末路と同じく…川に落ちていった」

 

「そうですか…因果応報ですね。それより、ちゃるの姿が見えませんが…?」

 

「ちゃるは…川の中で私を逃がすために悪魔と戦ってくれたの…。悪魔は倒したみたいだけど…」

 

ちはるを心配する魔法少女達であったが、彼女の魔力が近づいてくるのを感じとる。

 

「ちゃる!無事だったんですね!!」

 

夜の河原を歩いて来ていたのは広江ちはるであり、横にも誰かがついてきている。

 

「あ……あぁ……っ!!」

 

旭とちかから離れた静香が駆け寄っていく。

 

「母様ーーーッッ!!!」

 

ちはるの横を歩いて来ていたのは、神子柴に殺されたかと思っていた静香の母であった。

 

母親に抱きつき胸の中でワンワンと泣いていく。

 

そんな娘の頭を優しく撫でてくれる母親の胸の中で静香は顔を上げてくれたようだ。

 

「ぐすっ…ひっく…良かった…生きててくれて…本当に良かった!でも…どうしてなの…?」

 

「それはね…彼らが助けてくれたのよ」

 

静香の母は後方の空に目を向ける。

 

静香達の元に夜空から舞い降りてきたのは妖精王夫婦だった。

 

「ティターニア…オベロン……あなた達が母様を助けてくれたのね…?」

 

「見つけた時には絶命しかけていましたが…間に合いました。私の妻は回復魔法の達人なのです」

 

「見殺しにしてやりたい気持ちもあったけど…貸しを作っておくのも悪くないと思ったの」

 

「そうです、この貸しは大きいですよー?報酬として!私達のために美少年を用意しなさい!」

 

「ええっ!?そ、そんなこと言われても…私達の村には男の子が全然いないし…」

 

「そこを何とかするのです!時女当主から聞いてますよ?娘の貴女がこの村を変えてくれると」

 

「だからこそ、私達は貴女に貸しを作っておく。沢山の人々が訪れる村にするのよ?」

 

「私たち夫婦は時女静香に期待します。さぁ、母親と共に村に帰るのです」

 

妖精王夫婦に顔を向けたまま頷き、向かい合った母と娘が笑顔を向け合う。

 

親子水入らずの光景に涙を浮かべてしまうちはるの元へはすなお達がやってきたようだ。

 

「ちゃるも無事で良かったです」

 

「私も死んじゃうかと思ったんだけどね…静香ちゃんのお母さんが助けてくれたの」

 

「この村もようやく運が味方してくれたようだな?よし!これからの村を頼むぞ、静香!」

 

「分家組ではありますが、私達もこの村をより良くするために協力したいです♪」

 

「我も楽しみであります。静香殿が作ってくれるだろう、新しい時女の里の未来がね♪」

 

神子柴という虫によって不運が続いてきた霧峰村。

 

()()()()()()()という必殺の虫を使役した存在こそが第八巫蠱衆と呼ばれた存在であった。

 

この村の運は神子柴という寄生虫に吸い尽くされ底を尽きているかもしれない。

 

新たなる災厄の足音が近づいているのだ。

 

運喰い虫をめぐる騒動こそがアバドン王事件である。

 

虫に吸い尽くされたこの村の運は底を尽き、いずれは()()()()が待っていたのであった。

 




さらばデスオバーバなお話でした。
まぁ一難去ってまた一難、テンポよく進めていかんとですね。
次回からは時女一族エンチャントファイア(火属性付与)な流れです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。