人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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194話 母の愛

後方で待機していた次世代揚陸艦が山間を抜けながら霧峰村に迫りくる。

 

戦車部隊を前衛とする移動要塞は超巨大な装輪装甲によって大地を平らに変えていくのだ。

 

ブリッジでは巨大モニターに映し出される作戦風景を見つめる作戦指揮官達がいた。

 

<あっけないものだ。ヤタガラスの協力は余計だったかもしれん>

 

<これではデモニカ部隊の実戦運用データとしては不十分です。あまりにも容易く終わりました>

 

<デモニカ部隊は魔法が使える者達との実戦データが必要なのだ。あれでは課題も見えてこない>

 

<過剰な戦力投入は実戦試験にならないという教訓だけが残ったというわけですね>

 

もはや勝敗は決した状態となり、後は生き残っている魔法少女を殺戮するのみ。

 

霧峰村の集落にまで入り込んできた揚陸艦を見た静香の表情は絶望で歪んでしまう。

 

「あんな巨大な鉄塊の船に乗って攻め込んできたなんて…。勝てない…もう…終わりなのね…」

 

追い詰められた静香は自宅の屋敷の中に潜み、息を殺して身を隠すことしか出来ない。

 

静香の屋敷はデモニカ部隊に取り囲まれており、絶体絶命の状況である。

 

「せめて魔法が使えたら…。どうして私達の魔法が使えなくなったのよ…」

 

何かの仕掛けが作用してると判断した静香は燃え上る村の外側に視線を向ける。

 

遠くの景色には天を穿つ光の柱が何本か見えたようだ。

 

「あの仕掛けが魔法の力を封印しているのね…?だけど遠過ぎる…破壊しに向かう余裕はない…」

 

静香の横には大怪我をした涼子が寝かされている。

 

出血が酷く、早く傷を癒さなければ体が死を受け入れて円環のコトワリに導かれてしまうだろう。

 

「静香…あたしはもう…ダメだ…。お前だけでも生き残って…分家を導いてくれ…」

 

「ダメよ!!貴女を見捨てるぐらいなら…私はここで討ち死にするわ!!」

 

「バカ野郎…お前さんは優し過ぎるよ…。だけどそんな静香が……あたしは大好きだ…」

 

「守れなくてごめんなさい…涼子。せめて…死ぬ時は一緒でありたいわね」

 

静香は自分の部屋に飾っていた打刀の柄を握り締めて抜刀する。

 

デモニカ部隊が攻め入ってくるのを迎え撃つために門に向かおうとした時だった。

 

「あっ……光の柱の一つが消えた?」

 

静香が見上げた先ではヤタガラスが仕掛けた魔封結界の起点の柱が消失していく。

 

その光景は次々と起こっていき、ついに最後の結界の起点まで消失してくれたようだ。

 

体が軽くなった気がした静香は打刀に魔力を込めてみる。

 

「やったわ!魔法の力が使えるみたい!誰かがあの光の柱を壊してくれたのね!!」

 

静香は打刀に魔力を大きく注ぎ込み、天に向けて構える。

 

切り札であるマギア魔法を行使されたデモニカ部隊が空を見上げていく。

 

What was that!(あれは何だ!)

 

空に描かれたのは時女一族の家紋である四葉桜紋。

 

放たれる一撃こそ静香のマギア魔法である巫流・祈祷通天ノ光であった。

 

Get out of the way!(退避しろ!!)

 

危険を察知したデモニカ兵達の頭上にはロックオンの如き桜紋の印が浮かぶ。

 

「悪鬼浄滅の光よ…ここに!!」

 

空から一気に光の柱が撃ち出されデモニカ兵達を頭上から貫く。

 

<<AAARRRGGG!!!(グワァァーーッッ!!)>>

 

天の光に焼き尽くされたデモニカ兵達が次々と倒れていく。

 

デモニカスーツの耐性でも防ぎきれなかった一撃によって全員が絶命したようだ。

 

<<Confirmation of life arrest of the wearer.(装着者の生命停止を確認)>>

 

<<Confidentiality Code Approval.(機密保持コード承認)>>

 

<<Allied troops in the vicinity should evacuate.(付近の味方部隊は退避して下さい)>>

 

絶命したデモニカ兵達のバケツめいたヘルメットが光りを放つ。

 

静香の屋敷の周りで次々と爆発が起こり、デモニカスーツの機密は灰塵となった。

 

「ごめんなさい…無理をさせたわね」

 

静香が握っている打刀は魔力行使に耐え切れずに砕けてしまう。

 

刀を捨てた静香は涼子の元に駆け寄って回復魔法をかけていく。

 

背中の傷が癒えた涼子が立ち上がり、疲れた笑顔を浮かべてくれたようだ。

 

「急に魔法が使えるようになったみたいだけど…どうしてなんだろうな?」

 

「きっと村を囲んでいた光の柱が私達の魔法を封印してたのよ。誰かが壊してくれたみたいね」

 

「援軍が来てくれたってことか?だけど…この村には電話さえないんだろ?」

 

「麓の集落まで行かないとないわね…。だとしたら、麓の村の人が連絡したのかしら?」

 

「そう願いたいね。だけどどうする…?巫集までやられちまったし…もう戦力がないよ」

 

「生き残っている人達と共に村を脱出するしかないわ。私はちゃるを探してみる!」

 

静香は屋敷の中に入っていき用意出来る武器をかき集めていく。

 

準備を終えた静香と涼子は広江ちはる捜索のために動き出したようだ。

 

デモニカ兵達が戦死した情報は揚陸艦ブリッジに集められている。

 

バイタルサインが消えた部隊の情報を受け取った貴族風の男達の顔に不気味な笑みが浮かぶ。

 

<そうこなくてはな。死んだデモニカ兵達から収集したデータこそがデモニカを成長させる>

 

<魔法が行使出来るようになったということは、ヤタガラスの結界が破られた証拠ですね>

 

<この村の周囲から感じられる魔力…これは魔法少女のものではない、悪魔のものだ>

 

<だとすれば…情報にあった妖精郷の妖精達が動いたというのでしょうか?>

 

<気まぐれな妖精共が魔法少女の味方をするとは考え辛いが…近くにいる悪魔は奴らしかいない>

 

<丁度いい。悪魔との実戦データを得られるチャンスを見逃すわけにはいかないです>

 

迎撃任務を受け取ったデモニカ兵達が悪魔を迎撃するため迎え撃つ。

 

そこ頃、土砂に埋もれたすなおとちかは酸欠に苦しむ表情を浮かべている。

 

このまま死ぬのかと絶望していた時、上に被さっている土砂が軽くなったような気がした。

 

「死ぬんじゃねーぞ!ちかーーっ!!すなおは引っ張りだしたから後はお前だけだー!!」

 

ちかを掘り出してくれたのは妖精郷のトロールである。

 

咽込むちかはトロールの姿を見て安堵の表情を浮かべてくれたようだ。

 

「トロールさん…助けてくれて本当にありがとう。でも…どうして来てくれたんですか?」

 

「オレだけじゃないぞ!妖精郷の悪魔達が全員動いてくれたんだ!!」

 

「オベロンさんとティターニアさんが助けてくれるなんて…本当に感謝します」

 

助かったすなおとちかではあるが、大神殿があった方に振り向く。

 

神楽殿があった場所は巨大な陥没が広がっており、地下空間が崩壊した証拠であった。

 

「守ってあげられなかった…。私は…ガイド失格ですね…」

 

今にも泣きそうなちかの肩にすなおは手を置いてくれる。

 

「いいえ、ちかさんは立派なガイドです。不安と恐怖で錯乱した私を導いてくれたのだから」

 

「だけど…悔しいです。大勢の人達の命が消えてしまうだなんて…」

 

「これ以上はもう持ちこたえられない。静香と合流するべきだと思うわ」

 

「お前達はそうしろ!オレはこの村を焼いた悪い連中をぶちのめしに行く!」

 

「トロールさん…気をつけて。貴方まで死んでしまったら…私は凄く悲しいです」

 

「任せとけ、ちか!連中を月の彼方にまでぶっ飛ばしてやる!!」

 

巨大な棍棒を担いだトロールが戦場に向かう姿を魔法少女達は見送ってくれる。

 

すなおとちかも顔を向け合って頷き、静香の元へと駆けていった。

 

妖精達に助けられたのは静香やすなお達だけではない。

 

「旭!お願いだから目を開けて!!旭ーーーッッ!!」

 

顔の前で喧しい声を出している存在に気が付いた旭が目を開けていく。

 

「シルフ殿…?コダマ殿…?」

 

旭を救ってくれたのはシルフとコダマであったようだ。

 

立ち上がった旭が体を見てみると全身の傷は全回復している。

 

「シルフ殿とコダマ殿が我を救ってくれたのでありますね…感謝するであります」

 

「シルフは回復魔法のすぺしゃりすとなの!体の傷はぜんぶ治ったと思うけど…どう?」

 

旭は上着をめくって体の状態を確認してみる。

 

「シルフ殿は凄いであります…。全身の火傷どころか…昔の古傷まで消えてしまうだなんて」

 

「古傷が消えちゃうと何か不味かったわけ…?」

 

「いや…我の過去を忘れないために残そうと思ったのでありますが…構わないであります」

 

「旭…どうするの?外の様子だと…もうこの村はダメみたいだけど…それでも戦うの?」

 

シルフに問われた旭の顔が俯いてしまう。

 

前髪で表情は隠れているが、怒りに震えているのならば分かる。

 

「我は…あの軍隊を絶対に許さないであります。我の命がある限り…戦うであります」

 

「だけど…旭のライフル銃は無くしちゃったんでしょ?武器がないんじゃどうしようもないよ!」

 

「武器ならあるであります」

 

旭は古井戸の奥に視線を向ける。

 

彼女が飛び込んだ先とは静香の母が利用している武器庫とも呼べる場所であった。

 

古井戸の奥に進んでいく旭は無断使用になるのを承知で武器と弾薬をかき集めていく。

 

「我の魔法行使は武器を選ばないであります。銃であるならば…我の弾は悪魔でも撃ち殺せる」

 

全身フル装備ともいえる状態となった旭は最後の武器に手を伸ばす。

 

それは静香の母でも扱いきれなかったNTW-20と呼ばれる大型の狙撃銃であった。

 

「シルフ殿、コダマ殿。我は戦場に行くであります。恩を返す余裕はないであります」

 

「それってもしかして…死ぬつもりで戦場に行くっていうわけ!?どうかしてるわよ!」

 

「この村が滅びるなら…我も滅びていいであります。我にはもう…帰る故郷はないのだから」

 

悲しい表情を浮かべながらも微笑んでくれる旭の決意は固い。

 

このまま送り出しては彼女は死んでしまうと判断したシルフもまた覚悟を決めてくれる。

 

「ハァ…魔法少女も妖精に負けないぐらい我儘なんだから」

 

「シルフ殿…?」

 

旭の肩に座り込んでくれたシルフが顔を向けて微笑んでくれる。

 

「私も一緒に行ってあげる。悪魔の魔法の力を思い知らせてあげるんだから!」

 

「だったらボクも一緒に行くよ!シルフも旭もだいじな友達だから!」

 

妖精達の優しさを感じ取れた旭の目に嬉し涙が浮かんでしまう。

 

「我はまだ…独りぼっちではなさそうでありますね。では皆さん…出撃するであります!」

 

妖精と共に魔法少女達は反撃の狼煙を上げようとしている。

 

燃え上る村の方ではデモニカ部隊と交戦を繰り返す妖精達の姿が大勢いてくれる。

 

魔法少女達は最後の一人になってでも戦っていくだろう。

 

霧峰村を愛する者として、命をかけてでも譲れない戦いがここにはあった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

霧峰村の集落は戦場の如き大乱戦となっていく。

 

妖精郷の主戦力とも言えるハイピクシー達が次々と雷魔法を放っていく。

 

雷に焼かれていくデモニカ部隊も応戦を繰り返し、妖精達にも次々と犠牲者が生まれてしまう。

 

They're coming from the sides!(側面からも来るぞ!!)

 

We're surrounded! Request air support!(囲まれている!?航空支援を要請しろ!)

 

デモニカ部隊の側面を突いてきたのは魔封結界を破壊しに向かったホブゴブリン達の軍勢。

 

巨大な棍棒を片手に迫りくる大男達に向けて航空支援攻撃が放たれる。

 

爆撃によってホブゴブリン達は挽肉となってMAGを放出する最後を迎えていく。

 

デモニカ部隊に近寄るチャンスさえ手に入れられない状況を打破したのは三浦旭の一撃。

 

エンジンを撃ち抜かれたガンシップが火の手を上げながら墜落していく。

 

火の見櫓に登った旭が構えている銃こそ、航空機関砲サイズの弾を撃つ大型の狙撃銃であった。

 

「これが悪魔の合体魔法でありますか…!風の抵抗すらなく弾を撃てるだなんて!」

 

旭の肩に座っているシルフが行使したのは『疾風弾』と呼ばれる合体魔法。

 

銃弾に疾風属性を纏わせると同時に風の抵抗を軽減させて飛距離を伸ばしてくれる効果がある。

 

「旭!あのヘリコプターみたいな連中もやっちゃえー!!」

 

「任せるであります!!」

 

地上から高射砲の如き一撃が発射され、次々とオスプレイが撃墜されていく。

 

それに気が付いた上空のストライクイーグルが急降下してバルカン砲攻撃を仕掛けてくる。

 

「くっ!!」

 

火の見櫓を飛び越え、間一髪でバルカン砲の雨を回避。

 

宙を飛ぶ旭は驚きの表情を浮かべながら大きく空を飛び越えているようだ。

 

「こ…この跳躍力は一体!?魔法少女の身体能力を超えているでありますよ!?」

 

「これは神風って呼ばれる魔法だよ!風の通り道を作ってくれるから体が大きく軽くなるんだ!」

 

「コラ、コダマ!私が説明しようと思ったのに!」

 

「えー?別に減るもんじゃないしいいでしょー?」

 

「フフ♪悪魔を仲魔にするのは素晴らしいでありますね…これなら我も戦えるであります!」

 

「旭のソウルジェムの穢れは私が吸い出してあげる!安心して戦いなさい!!」

 

「やっちゃえー旭ーーっ!!」

 

「了解!!」

 

地面に着地した旭に目掛けて発射されたグレネード弾を跳躍回避。

 

側転宙返りを行いながら腰のホルスターからMP7サブマシンガンを引き抜く。

 

駆け抜けながらサブマシンガンを放ち、デモニカ兵達を撃ち殺す。

 

Shit!(くそ!!)

 

旭の背中に向けて銃を構えるデモニカ兵の頭上から迫ってくるのはウィルオウィスプ達である。

 

「うぉれ達ノプリティーアイドルヲ傷ツケル奴ァァァァ!!うぉれ達ガ許サネェェェェ!!」

 

亡霊悪魔に憑りつかれたデモニカ兵達は体の自由が利かなくなる。

 

次々と同士討ちを始めていくデモニカ兵達を見て、旭は亡霊達のお陰だと気が付いてくれた。

 

「旭ーッッ!!うぉれ達も来てやったぞー!!ここは任せて魔法少女を助けに向かえー!!」

 

「流石は亡霊悪魔であります!呼んでもないのに来てくれるなんて!」

 

「うぉれ達と旭の仲だー!!うぉまえが風呂に入ってたって背中を流しに現れてやるぞー!!」

 

「そんな真似をしたら清めの塩で成仏させてやるであります!!」

 

心強い仲魔達がいてくれたお陰で旭の心の中に広がっていた絶望の波が押し留められる。

 

まるでこの村に訪れた時に仲間達と巡り合えた喜びのような気持となっていく。

 

絶望を乗り越える力こそが、多くの者達との繋がりともいえるだろう絆の力なのであった。

 

旭は駆けつけたすなおとちかと合流を果たし、静香達の元へと駆けていく。

 

魔法少女と悪魔軍勢の反撃に押され続けているのは歩兵だけでなく装甲車部隊も同じだ。

 

後退しながら攻撃を繰り返す先から迫るのはスプリガンの巨体。

 

40メートルに至る程の巨人が持つ巨大な大岩が次々と歩兵戦闘車を破壊していく。

 

戦車部隊も前に出て砲撃を繰り返すが、スプリガンの巨体はびくともしない。

 

戦場の劣勢を覆した光景を見守るのは村の空を飛んでいるオベロンとティターニアである。

 

「怯むな!押し返すのです!!」

 

妖精達の指揮を執るオベロンであるが、横のティターニアは疲れた表情を浮かべている。

 

「こんなことなら、引っ越ししたジョロウグモに続くようにして私達も出て行くべきだったかも」

 

「我々妖精が暮らしていける場所はもう殆どありません。ここが最後の楽園だと考えてました」

 

「それもそうね…。槻賀多家の天斗樹林を失って以来…私達は数十年の流浪を繰り返したのよ」

 

「私達の最後の楽園を焼き尽くしてくれた礼をせずして、私はこの地を去るつもりはないのです」

 

「舐められたまま尻尾を撒いて逃げ出すのも癪だわ。こうなったら私もとことん暴れてやるわよ」

 

「その意気です。私達が相手をするべきなのは…あそこでふんぞり返っている連中ですよ」

 

妖精王夫婦が視線を向ける先には進軍してきた次世代揚陸艦がそびえ立つ。

 

揚陸艦の上部にそびえる巨大な艦砲が対地攻撃用誘導砲弾を発射する。

 

「グァァァァーーーッッ!!?」

 

戦車の砲撃さえびくともしなかったスプリガンであるが、超巨大な艦砲の直撃には耐えきれない。

 

体が砕け散ったスプリガンが大きく倒れ込み、体が崩壊してMAGの光を放出。

 

忌々しい表情を浮かべたオベロンが揚陸艦に向けて叫ぶ。

 

「出てきなさい悪魔共!!貴様達の相手は妖精王である私達がしてあげましょう!!」

 

オベロンとティターニアの姿は揚陸艦のモニターに映し出されている。

 

モーニングコートを着た白髪の中年男の口元には不敵な笑みが浮かび、踵を返す。

 

「我が行こう。せっかくの御使命だ…派手にやらせてもらおうか」

 

「この状況ではデモニカ部隊も長くはもたないでしょう。頼みましたよ、フラロウス卿」

 

「貴殿が出てくる必要は無い。後は我に任せてもらおうか…ネビロス卿」

 

ブリッジから姿を消すのはフラロウスと呼ばれるエグリゴリの堕天使。

 

彼の力が強大であるのは、ボルテクス時代の記憶をもつティターニアならば分かるだろう。

 

「…厄介な奴が出てきたわね。この気迫…人間に化けていようとも隠せないわ」

 

揚陸艦の上部甲板の上に現れた人間姿の男を見たティターニアは一目で正体を見抜く。

 

妖精の女王の脳裏に浮かぶのはボルテクス時代のカグツチ塔の記憶。

 

カグツチ塔に現れた堕天使の中には強力な悪魔がいたのだ。

 

空の妖精王夫婦を睨む男が上部甲板から飛び降りる。

 

空中を落下しながら貴族男がその正体を表すのだ。

 

全高40mにも上る巨大揚陸艦と並ぶ程の全高を持つ悪魔こそがフラロウスであった。

 

【フラロウス】

 

ソロモン王の七二柱の悪魔であり、豹面姿の戦士として表される地獄の大公爵。

 

魔導書ゴエティアにも登場しており64番目の序列に数えられ、36個の軍団を指揮する。

 

過去や未来を透視する力を持ち、火を自在に操り望みのものを焼き尽くす力をもつ。

 

また空言を好み、召喚者に対しては偽り事ばかりを言って貶めようとする存在であった。

 

「相変わらず…訳の分からない体の構造をした堕天使ですこと」

 

赤と黒で彩られた豹人間の形をしているが豹の顔は胸部に存在している。

 

肩から首までは冠を表すような二本角が肩から伸び、首の部位には巨大な剣が差し込まれている。

 

まるで自分の体そのものが巨大な鞘の如き堕天使の姿であった。

 

「気をつけて…オベロン。私は人修羅の坊やと共にあの堕天使と戦ったことがあるから分かる」

 

「奴の力はどうでした?」

 

「強かったわ…。奴は強力な物理魔法と炎魔法を駆使してくる…特にあの剣には気をつけなさい」

 

「では…私が前に出ましょう。小さな姿をした私ですが、打たれ強さには自信があります」

 

鞘からサーベルを抜いたオベロンが一気に急降下してくる。

 

ティターニアは両手を構え、全身から氷結の霊気を発していく。

 

「来るがいい妖精王共!!我が魔剣を抜かせられる程の実力があるのかどうか…試してやる!!」

 

フラロウスは両手の鉤爪を大きく伸ばし、オベロンとティターニアを迎え撃つ態勢を見せた。

 

激戦に続く激戦を制するのはどちらなのか。

 

どちらも譲れない戦いを仕掛け合う両雄の戦いは壮絶さを増していくだろう。

 

だが堕天使軍の力は侮れず、徐々にだが妖精達が押され始めている。

 

敵は圧倒的な物量を投入しており、未だに包囲殲滅する力を有しているのだ。

 

フラロウスが前線に出てきたこともあり霧峰村の守り人達は窮地に立たされていく。

 

この地獄を超えようと足掻く者達の戦いは最終局面を迎えようとしていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

茫然自失のまま燃え上る霧峰村を歩いていくのは広江ちはるの姿である。

 

彼女はもう誰にも顔を見せたくないと考えているようだ。

 

自分のせいで村人達が全滅するのだと激しく自分を呪い、村から逃げていく。

 

何処かでひっそりと死んでしまえばいいのだと絶望しながら歩いていた。

 

「もう…穢れが抑え込めない。これでいい…私はもう…生きている価値なんてないから…」

 

彼女が歩いていく方角とは禁忌の森。

 

村の人々さえ逃げ道として選ばなかった場所でなら誰にも見つからずに死ねる。

 

ふらつきながら歩く魔法少女のソウルジェムも限界が近い。

 

体を動かす程度の魔力さえなくなっていき、森の入り口に辿り着くよりも先に体が倒れ込む。

 

「あぁ……こんな場所で…私は死ぬ。それでもいい…もう苦しさに耐えられない…」

 

ちはるは魔法少女服に身に付けてあったソウルジェムを手に取る。

 

濁りは限界を迎えており、いつヒビが入ってもおかしくない。

 

「私は…正義の探偵になれなかった。広江ちはるは…みんなを死に追いやった…悪者でいい」

 

胸の中でソウルジェムを抱きしめ、芋虫のように体を丸めていく。

 

広江ちはるは悪の探偵。

 

みんなを死なせた大悪党。

 

自分自身を呪い殺すことがせめてもの償い。

 

そんなことを考えながら死のうとした時、小人が近寄ってきた気配に気が付いた。

 

「なんだ?悪者だから何もせずに野垂れ死ぬべきだとか考えてるのかよ?」

 

眼を開けてみると、斧を持ったゴブリンの姿が見えた。

 

「貴方はたしか…ゴブリンさんだっけ?」

 

「おう、俺はゴブリンだ。美少女を攫っていく()()()()()()()()()()()()だよ」

 

「そっか…貴方も悪者なんだね。だったら…私も同じ。私もね…みんなを死なせた悪者なの」

 

「だから死ぬのか?自責の念を抱えながら?悪者にはそれしか与えられないのかよ?」

 

「えっ……?」

 

自分でもなんでこんな話を言いたくなったかは分からない。

 

それでも悪者だと言われ続けたゴブリンと呼ばれる悪魔は語りたくなったようだ。

 

「俺は妖精だから…基本的には悪戯好きだ。人間から悪者だと言われ続けてきたよ」

 

「もしかして…その武器を持って戦いに行くの?他の妖精達と同じように…?」

 

「らしくもないことしてるのは分かってる。だけどよぉ…もう俺には居場所がないんだ」

 

「ゴブリンさんにとって…霧峰村は最後の居場所だったんだね…」

 

「俺はここを最後の場所だとする。悪者でもな…自分の居場所ぐらいは…守らせてくれよ」

 

「私も…この村が大好き。だから守りたかった……だけど……私は……」

 

「だったら、守りに行けばいい」

 

小人は片膝をついて手を伸ばしてくれる。

 

ちはるが握っていたソウルジェムに手を掲げれば絶望の穢れが吸い出されていく。

 

動けるようになったちはるは体を持ち上げてくれたようだ。

 

「さて、らしくもない話を魔法少女に聞かせちまったな。悪者の俺はそろそろ行くぜ」

 

「死にに行くようなものだよ……それでも行くの?」

 

「悪者が野垂れ死ぬなら誰も気になんてしないよ。だからまぁ……堂々と死んでくるさ」

 

片手を振りながらゴブリンは去っていく。

 

見送ることしか出来ないちはるは傍にあった木に背中を預けるようにして座り込む。

 

「悪者でも…守りたいものがある。だから戦う…命をかけてでも……」

 

自分にその資格はあるのかと考えてしまう。

 

そもそもこんな悲劇は自分が生まれてこなければ起こらなかったもの。

 

再び自責の念に飲まれたちはるの両目からは涙が溢れ出す。

 

「私なんて…生まれてこなければ良かった…。探偵になんて…憧れなければ良かった…」

 

正義の探偵を信じた魔法少女が正義の探偵を呪ってしまう。

 

悪の秘密を暴き出し正義を執行することで社会正義は成され、ヒーローとして称えられる。

 

そんな世界に憧れをもった少女は魔法少女となり、岡っ引きのような姿となった。

 

悪者を引っ立てて正義を成すべき魔法少女がもたらしたのは…大勢の死。

 

社会正義を執行する側の存在が社会悪と成り果てたのだ。

 

己の因果に飲み込まれた少女はまた絶望の世界に浸っていく。

 

「私なんて……わたしなんて……生まれてこなければ良かったんだぁーーッッ!!!」

 

広江ちはるの人生、広江ちはるの正義、広江ちはるが信じた信念。

 

それら全てを否定する言葉を叫んでしまう。

 

そんな彼女の絶望を否定してくれる存在はいてくれるのか?

 

きっといてくれる筈だ。

 

「バカなことを言わないで!!」

 

泣き喚く彼女が視線を向ける先に立っていたのは広江ちはるを産んでくれた母親。

 

彼女はちはるに駆け寄り、両肩を掴んで涙を流しながら叫んでくれる。

 

「ちはるの事を誰もが悪者だと言ったとしても…私はそれを否定する!私は貴女の母だから!!」

 

「お母さん……私がね…この地獄を生んだの。私が探偵ごっこなんてしたせいで…村は滅びるの」

 

「それでもね…私だけはちはるを守ってあげるわ。貴方と共に生きられた人生が…愛しいから」

 

そう言って抱き締めてくれた時、人間として生きた時代の記憶が蘇っていく。

 

何の変哲もない家庭に生まれ、勉強は苦手だけど友達とも仲良く過ごせた人間時代。

 

家に帰れば両親がいて、家族と食卓を囲み探偵ドラマの話で盛り上がってくれた優しい毎日。

 

そんな人生の隣にいてくれたのはいつだって母親だった。

 

「正義の味方になんてなれなくていい…完璧でなくてもいい…()()()()()()()()()()()のよ」

 

自分を産んでくれた人の言葉によってちはるの胸から絶望の感情が押し留められていく。

 

「私はありのままのちはるを愛しているわ。こんな私のお腹の中で産まれてくれて…ありがとう」

 

「お母さん……お母さん……お母さーーーんッッ!!!」

 

泣き喚くちはるは母親に抱きつき、力の限り泣いていく。

 

そんな娘の温もりをいつくしむかのようにして、ちはるの母は抱きしめたまま頭を撫でてくれる。

 

ちはるの心の中にあるのは絶望の感情ではなくなった。

 

今の彼女の中にあるのは母親への感謝の気持ち。

 

この世に産んでくれた人への愛情の気持ち。

 

それだけで心は絶望から救われ、生きる力を与えてくれるのだ。

 

「帰りましょう…ちはる。この村の家はなくなったけど…私達には私達の家があるじゃない」

 

「うん…ぐすっ…帰ろう…お母さん…。私とお母さんが生きてきた…あの家に……」

 

立ち上がらせてくれた母親に向けて泣き腫らした顔を向けるちはるの表情も晴れていく。

 

そんな娘に向けて母親は日常通りの笑顔を向けてくれた。

 

2人は手を繋いで帰っていく姿を見せてくれる。

 

楽しく生きてきただけの人間時代に戻れたかのようにして。

 

これこそが悪者と呼ばれようとも()()()()()()()()

 

子供のためなら周りから罵倒されて嘲笑われようとも()()()()()()()()()()()()()

 

子供を産んだ親の愛であったのだ。

 

親の愛を示す者は広江ちはるの母親だけではない。

 

ちはるを捜索していた静香と涼子はデモニカ兵達の追撃を受け分断されている。

 

静香を包囲殲滅しようと追い詰める兵士達を相手に果敢にも戦いを続けていく。

 

しかし静香が屋敷から持ってきた武器は魔法に耐えられる代物ではない。

 

魔法行使によって次々と砕けていき、ついには丸腰の状態となってしまった。

 

I've got you cornered, little girl!(追い詰めたぞ小娘!!)

 

銃を構えたデモニカ兵達が迫る中、手足を撃ち抜かれている静香は片膝をつく。

 

息を切らせる静香は諦めまいとするが、もはや絶体絶命の状態であった。

 

「これまでなの……?」

 

もはや勝機無しと判断した静香が目を閉じてしまう。

 

銃を構える兵士達であったが、突然の悲鳴が聞こえてきたため目を開ける。

 

「は……母様ーーッッ!!!」

 

静香を救出しに現れたのは静香の母親であった。

 

彼女が振るっている武器こそ、静香が無くしていたご先祖達の剣である。

 

「逃げるわよ静香!!」

 

「で、でも……母様……その体……」

 

静香の母親は爆撃を受けて燃え上る山を必死になって超えてきた。

 

そのため全身火傷を負ってしまい立っているのもやっとの状態であった。

 

それでも静香の手を引っ張って娘の命を助けようとする。

 

切り捨てられたデモニカ兵達が次々と爆発する中、どうにか助かったようだ。

 

「待って母様!早くその傷を回復しないと!」

 

「私のことはいい…。それよりも…この村の村長としてのお願いを聞いてくれるかしら?」

 

自宅である屋敷方面にまで走ってきた静香の母が立ち止まり、敵がいないのを確認する。

 

振り返った静香の母は娘に最後の望みを託そうとしてくれているのだ。

 

「この状況から見て…霧峰村はお終いよ。静香は生き残った人々を連れて…村を逃げなさい」

 

「そんな!?母様はどうする気なのよ!!」

 

「私は…この村の村長よ。村長として…全ての責任を負うわ。私はこの村の守り人なの」

 

「母様も一緒に逃げましょうよ!この村を捨てるのは辛い…だけど、母様と一緒なら…」

 

泣きそうな表情を浮かべている娘を見て、静香の母は首を振る。

 

その顔には決断の気持ちと共に母親としての自己犠牲の気持ちまで表れていた。

 

「私は霧峰村のサマナーであり、時女本家の血を引く女。だからこそ…()()()()使()()()()()

 

「何を召喚するつもりなの…?そんな体じゃ戦えないわ!せめて回復するだけでも!!」

 

「敵がいつ現れるか分からない…もう時間が無いの。私はこの屋敷の奥にある封印を解く」

 

それが何を意味するのかは、時女本家の者なら聞かされてきた。

 

時女本家の女達は霧峰村の始祖達が守り抜いた霊的脅威を封印する守り人一族。

 

だからこそ時女本家の奥にある封印の地は神聖な場所であると同時に忌まわしい場所でもある。

 

「まさか…母様は……()()()()()というのを執り行うつもりなの!!?」

 

「これは…時女本家の退魔師が行う契約なの。封印された霊的脅威はね…国防兵器でもあるの」

 

静香の母親は焼け爛れた手に握っている静香の剣を掲げていく。

 

「このご先祖様の剣…貸してもらうわね。奉納の儀式にはこの剣が必要なのよ」

 

「ダメよ母様!母様が奉納の儀式を語っていた時は…怖がっていたわ!何を奉納する気なの!?」

 

()()()()()()()()()()()()よ。言えることは…それだけね」

 

「私だって時女本家の血を引く女よ!母様はここで休んでて…私が奉納の儀式を執り行うから!」

 

我儘を言って聞かない静香は顔を真っ赤にしながら怒っている。

 

そんな娘の泣きそうな顔を見ていると、静香の母は愛しさがこみあげてくるようだ。

 

「…静香はいつも頑固者ね。この屋敷で過ごしてきた人生の中でも…沢山喧嘩をしちゃったわ」

 

「母様…?」

 

左腕でそっと娘を抱きしめてくれる。

 

「こんなに大きくなって…もう貴女を抱っこする力はないわね。健やかに成長してくれたわ…」

 

「お願い…母様…そんなこと言わないで!一緒に逃げるって言ってよ…お願いだから言って!!」

 

「私はね…貴女の母親よ。母親はね…子供のためならいつだって死ねる…私も夫と同じ気持ちよ」

 

「やだ…やだよ母様…お願いだから…お願いだから私達と一緒に逃げてーーッッ!!」

 

涙が溢れていく静香を見た母親が最後の笑顔を向けてくれる。

 

その表情は親子喧嘩をした後、静香が謝りに来たときにいつも向けてくれた日常の笑顔。

 

静香の脳裏には幸福に生きられた人間時代の記憶が巡っていく。

 

「ごめんなさいね…静香。母親として…これが娘に送れる……最後の愛情よ」

 

一歩後ろに下がった母親が娘に向けて一気に踏み込む。

 

「ぐふっ!!?」

 

静香のみぞおちに決まっていたのは母親の右肘の一撃。

 

静香の意識が遠ざかり、母親の左腕が倒れそうな娘の体を支えてくれる。

 

「……涼子ちゃん。静香を……お願いね」

 

視線を向ける先には静香の魔力を追って駆けつけてくれた涼子が立っている。

 

「だ…ダメだよ…そんなの!お願いだから…静香のためにも…お前さんも逃げておくれよ!!」

 

涼子の頼みであっても首を振り、近寄ってきた静香の母が娘を託してくれる。

 

「この子は怒りっぽい子なの。私が死んだらきっと怒り狂う…だから涼子ちゃん、娘をお願いね」

 

「えっ……?」

 

「貴女は修行僧なんでしょ?仏教の教えをもって…静香の心を導いてあげて欲しいの」

 

「そんな大役…あたしには出来ない!お前さんがやっておくれよ!!」

 

「子供の親として…最後の愛を示してくるわ。どうか娘の人生を……支えてあげて」

 

涙が溢れ出す涼子は静香を抱き抱えたまま後ろに下がっていく。

 

最後の笑顔を向けてくれる静香の母の姿を南津涼子は一生忘れない。

 

静香の母親もまた涼子の母親と同じ道をいく。

 

愛する娘や愛する人達のためにこそ、()()()()()のだ。

 

「母さん…母さん……っ!!どうしてそんなにまで……自分を犠牲に出来るんだよーっ!!」

 

「貴女も母親になれた時は…分かる日がくると思う。静香と貴女の人生に…幸がありますように」

 

静香の母の最期の望みを託された涼子は泣き喚きながら走り去ってくれる。

 

娘達を見送った静香の母は最期の力を振り絞って屋敷の中へと走って行く。

 

デモニカ兵達が迫る中、急いで奉納の儀式を執り行わなければならない。

 

屋敷の奥に広がっている泉を通り超え、封印石が置かれた桜の木の下にまで辿り着く。

 

「御身を封印する一族の者として奉納を行うわ!我が声に耳を傾けたまえ…!!」

 

しめ縄が結ばれた巨大な霊石から声が響いてくる。

 

その声は奈落の底で燃え上るゲヘナの世界に引きずり込まれる程の恐ろしき魔の囁きであった。

 

<<ラキキキキ!!わらわには分かっておったわ…ヤタガラスがどのような連中なのかをな>>

 

「そうね…ヘブライ民族がどのような民族なのかは…貴女が一番よく知っているわよね」

 

<<ヘブライは殺し合う民族。唯一神とバアル様が殺し合うが如く…ヒュドラの如き民族よ>>

 

「私達もそんなヘブライの血を引く一族よ。だからこそ…私は奉納を行うわ」

 

<<ヘブライに連なる者よ。()()()()()()()()()であるわらわに…何を捧げてくれる?>>

 

それを問われた静香の母は、守り人一族として生きた時女一族を代表して叫んでくれる。

 

()()()()!!!」

 

ヘブライの血を引く時女一族の長が掲げるのは七支刀である。

 

先祖達の魂が燃え上るようにして七つの切っ先から炎が燃え上っていく。

 

<<おぉ…我らヘブライの神聖なる炎…!ヘブライの象徴である…()()()()()()!!>>

 

神社では鏡やマガタマには依り代が宿ると言われている。

 

では七支刀には何が依り代として宿っているのか?

 

一説では七つに枝分かれした七支刀はヘブライの象徴である7枝に分れた燭台だという説がある。

 

メノラーの原型とは、唯一神の命令によって建てられた幕屋の聖所に置かれた純金の七枝の燭台。

 

エジプトから脱出したヘブライ民族の象徴であったのだ。

 

「日の本に流れ着いたご先祖様…私は生贄を捧げます。始祖アブラハムがイサクを捧げたように」

 

この一撃こそ、愛する人達を守る為の自己犠牲となるだろう。

 

霧峰村で今もなお戦い続ける者達を守る為の愛となるだろう。

 

「旭……ちか……お前達と出会えて……オレ……楽しかった…よ……」

 

戦車の一撃によって下半身が消し飛んだトロールの元に迫るのはデモニカ兵達。

 

容赦なく銃口を向けられ、トロールは撃ち殺される。

 

「へっ……らしくもないことなんて…するもんじゃねーよな…」

 

蜂の巣にされたゴブリンの元に迫るのは歩兵戦闘車。

 

悪者なのに正義の味方ごっこをした自分がおかしかったのか、最後にゴブリンは微笑んでくれる。

 

「こういう生き方も……悪く…ないかも…な……」

 

歩兵戦闘車はゴブリンを容赦なく引き潰していき、潰れた妖精はMAGの光となる。

 

フラロウスの強大な力に打ちのめされた妖精王夫婦も地面に倒れ込んでいる。

 

「くっ……強い……」

 

「やはり…サマナーのMAG供給無しでは…私達の力も…大したことないわね…」

 

高笑いを続けるフラロウスは妖精王夫婦を踏み潰すために歩き迫ってくる。

 

魔法少女達も奮戦を続けるが、ストライクイーグル編隊の空爆によって体が弾き飛ばされる。

 

地面に倒れ込んだ魔法少女達の元にはデモニカ兵達が迫っていた。

 

大切なものを守り抜きたい自己犠牲こそが愛である。

 

その愛をもっとも強く抱く者達こそが両親である。

 

「あ……あれは……」

 

ちはると彼女の母親が見上げた先からはストライクイーグルが急降下してくる。

 

バルカン砲が回転していき、地上攻撃を仕掛けようとしてくるのだ。

 

「ちはる!!逃げるわよ!!!」

 

娘の左手を強く握りしめた母親の右手がちはるを逃がそうと懸命に引っ張ってくれる。

 

しかし母親の愛であっても現実を覆す力など存在しない。

 

「えっ……?」

 

物凄い轟音が聞こえた瞬間だった。

 

ちはるの目の前で走ってくれていた母親の姿が一瞬にして消え去ったのだ。

 

「お母…さん……?」

 

ちはるが首を下に向ければ全身に返り血が纏わりついている。

 

左手に顔を向ける勇気がなくても気になってしまう。

 

やけに軽くなった左手を持ち上げていく。

 

「あっ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁーーーッッ!!!?」

 

彼女の左手に握られていたのは…娘を守ろうと力強く引っ張ってくれた優しい()()()()であった。

 

戦闘攻撃機が通り超えていき、ループ飛行を行う。

 

再びちはるに向けての機銃攻撃を仕掛けるために。

 

もはや大声を上げる力すら失ったちはるがへたり込む。

 

綺麗になってくれたソウルジェムさえ再び絶望の波が押し寄せていく。

 

多くの者達が泣き叫び、絶望していく地獄の如き現実世界。

 

この現実を覆す力を考えるとしたら、それはもはや神の力のみ。

 

「私は守り人一族の長…そして一人娘の母!!だからこそ!!我らの始祖達と同じ道を行く!!」

 

剣を逆手に持った静香の母は、守り人としての最後の一撃を放つ。

 

「がはっ……ッッ!!!!」

 

燃え上る七支刀を心臓に突き刺した静香の母が大きく吐血する。

 

最後となるかのようにして、静香の母は日本書紀で歌われた桜の枕詞を残してくれた。

 

花細(ぐは)し……桜の()で……こと愛では……早くは愛でず……我が愛づる子ら……」

 

両膝は崩れ落ち、メノラーの如き炎を生み出す七支刀が彼女を焼いていく。

 

その光景はまるで唯一神に息子を捧げるために火を点けようとした始祖アブラハムの再現だ。

 

業火に包まれた静香の母が倒れ込んだ時、流れ出す彼女の血が地面に吸われていく。

 

地面に根を張る御神木の桜が血のような桜の花を咲かせていく。

 

泉の水さえ生き血の如く真紅に染まっていくのだ。

 

桜の木は()()()()()()()という。

 

軍国主義時代においても桜の歌は兵士達が散り際に歌ったもの。

 

花として散る一族が掲げた紋所こそが()()()()

 

静香の母の命は霧峰村の人達と共に…()()()()()()()

 

<<契約は果たされたぞ!!>>

 

大地が地響きを上げて振動していく。

 

赤い花びらを咲かせた桜の御神木の花が舞い落ちる中、巨大な霊石がついに砕け散る。

 

真紅の泉は底から噴き上がるが如く溢れ出す。

 

娘と両親が生きた大切な家も崩れ落ちていく。

 

「こ…この胎動はなんだ!!?」

 

フラロウスでさえも恐れる程の霊圧が静香の屋敷方面から生み出されていく。

 

揚陸艦のブリッジも激しく揺れ動き、ネビロスと呼ばれたトップハット男が叫び出す。

 

「まさか…ヤタガラスが隠していた霊的国防兵器とは……あのお方なのですか!!?」

 

静香の屋敷が岩盤ごと崩れ落ちていく。

 

巨大な穴が穿たれた地に顕現する神こそ、時女の始祖が封印してくれた荒神。

 

必殺の霊的国防兵器として恐れられた…あまりにも醜い女神。

 

女の一族である時女一族が封印してきた存在とは、()()()()()()()()()

 

<<ラキキキキキキキキキキ!!!!!>>

 

高笑いを続ける荒神がついに地の底から這い上がってくる。

 

全高40mを誇るフラロウスが見上げる程の巨大な神が顕現するのだ。

 

霧峰村に降臨した邪神こそ、北イスラエルにおいてバアル崇拝を撒き散らした邪悪な王妃。

 

()()()()()と呼ばれる巨大怪物であった。

 




いやー持ち上げて落とす展開は書いてて興奮してきますね!
マギレコ本編では左腕が切り落とされたちはるちゃんですが、可哀相なので僕の作内では母親の手を切り落とす事にしました。
ここまで落っことしたのなら、もうあの主人公が出てくるしかないですよね?
次回はついにあの方のご登場です。
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