人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
時女本家の屋敷に穿たれた巨大な穴からせり上がってくる強大なる邪神。
浮遊する巨体は穴から昇ってくると同時に枝分かれするようになっていく。
その頭部は巨大な色白女性の上半身から伸び出た複数の薔薇のように見える。
首や腕がある筈の部位から伸び出た複数の巨大触手の先端に咲く花であったのだ。
時女一族を守護してきた御神木の桜は薔薇の仲間である。
バラ科サクラ属に数えられる花こそが時女本家の家紋であった四葉桜紋。
それはまさに、イザ・ベルを象徴する薔薇の仲魔なのだとする
【イザ・ベル】
旧約聖書の列王記においてユダヤの預言者を迫害し、預言者エリヤと激しく対立した王妃。
バアル信仰を宮廷に持ち込み権力を握ってきたがクーデターにより追放された存在である。
彼女の死体は馬で踏まれ犬に喰い千切られる末路を遂げたようだ。
また新約聖書のヨハネ黙示録においては大淫婦バビロンの隠語としても扱われたようであった。
「おお!!その御姿は…イザ・ベル殿ではありませんか!こんなところに封印されていたとは!」
フラロウスは片膝をつき礼節を示す態度を見せる。
浮遊する巨大な邪神が地上に降り立つ。
人間の女性部位だけでも100mにも達するが、首の触手は200mサイズもある。
首が重過ぎるイザ・ベルの両膝が地に落ち、腰を曲げながら触手の花を向けてきた。
五つの触手から生えた巨大な紫薔薇のつぼみが開いていく。
中から現れたのは喰い千切られたかのような女性部位。
女性の両腕、片耳、口、そして頭部であった。
「ククク…久しいではないかフラロウス。そして、その鉄塊の船にいるのはネビロスか?」
顔を向けながらも口はついておらず、違う薔薇から伸び出た口で喋る禍々しさ。
頭部からは美しい黒髪が伸びているが口周りと頭頂は喰い千切られ醜いコブで覆われていた。
<如何にも。お久しぶりです、イザ・ベル殿。人間の姿で現れた失礼をお許し下さい>
揚陸艦のブリッジにいるネビロスは念話を送り、王妃に示す礼節としての一礼をしたようだ。
「そちらにも色々と事情があるのだろうが…わらわにも事情がある。痛手を被ってもらうぞ」
「ま…まさか…我らと一戦を交えようと言われるのですか!?我らは同士の筈です!!」
「わらわは時女一族との契約がある。時女の女は契約を果たした…次はわらわの番なのだ」
「我は貴女様と戦うつもりはありません!魔法少女一族になど与する理由もないでしょう!?」
「一国の王妃として契約を果たす義務もある。案ずるな…少々の痛手を被ってもらうだけだ」
醜悪な顔が燃え上る霧峰村に向けられていく。
あまりにも強大で醜い邪神の降臨によって戦場は停戦状態となっている。
魔法少女達もデモニカ兵達も妖精達でさえも醜い邪神の姿を見ながら怯えていたようだ。
「わらわと時女一族との契約内容とは、時女本家の魂を差し出す代わりに時女の敵を討ち滅ぼす」
イザ・ベルの禍々しい瞳に映っていたのはデモニカ兵や支援攻撃部隊、そして次世代揚陸艦。
「魂を差し出すなら…一度だけ手を貸してやると契約してやった。その義務…果たさせてもらう」
巨大な薔薇から伸び出た腕が天に向けられていく。
燃え上るように赤い夜空から雷の光が生み出され、霧峰村周囲を覆い尽くす。
「やり過ぎてしまうやもしれんが…そちらも無礼があったのだ。覚悟してもらおうか!」
仕掛けてくると判断したネビロスが叫ぶ。
「
血のように赤い夜空から落ちてくる神の一撃とは『裁きの雷火』である。
<<
空から落ちてくる無数の雷の槍によって地上が焼かれていく。
デモニカ兵や戦車部隊等は逃げる暇もなく雷に焼かれて燃え上る。
上空を飛行するストライクイーグル編隊にも裁きの雷が直撃していき撃墜されていく。
揚陸艦にも裁きが迫るが、艦の周囲にプラズマ装甲が展開される。
バリアのような光に包まれた揚陸艦は次々と落ちてくる裁きの雷を耐え抜いたようだ。
「す…凄い……なんて力なんだよ……」
静香を抱き抱えている涼子は神の力を目にした。
体は震え上がり、あの存在には絶対に勝てないと本能が叫ぶ程である。
魔法少女や妖精達をあれ程苦しめた軍勢を瞬く間に蹴散らす力こそが神の領域であった。
「ほう…?よく耐えおった。その鉄塊の船の守りは中々のものよのぉ」
醜い顔を別の方に向ければ蹲っているフラロウスがいる。
裁きの雷火の直撃を浴び続けたようだが耐え抜いたようだ。
「お主も生きておったか。それでなければ地獄の大公爵の名折れというものだ」
「ぐっ…うぅ…!!イザ・ベル殿…我々は殺し合うしかないのですか!?」
フラロウスは揚陸艦に目を向ける。
ネビロスも最悪の事態を想定して艦の船首の上に立っているようだ。
いざとなれば二体がかりでイザ・ベルと戦うしかない。
そう考えていようだが、イザ・ベルが高笑いを始めていく。
「ラキキキキ!!そういきり立つな、これは遊戯じゃ。これでわらわは契約を果たし終えた」
「どういう意味でしょうか…イザ・ベル殿…?」
「わらわは時女の始祖との契約においてこう言った。一度だけなら手を貸してやると」
「では…先程の一撃こそが…一度だけの手助けだとするのですね?」
「わらわは時女の連中に向けて継続戦をするとも連戦をしてやるとも申してはおらぬ」
それを聞けたフラロウスとネビロスは安堵の表情を浮かべたようだ。
「フッ…貴女様も人が悪いお方だ。まぁいい、デモニカ部隊の代わりはいくらでも作れる」
「貴女はバアル様の忠臣。イザ・ベル殿の帰還をバアル様はお喜びになられるでしょう」
「地の底でもバアル様の顕現を感じておった。わらわもこの喜びの時を待ちわびてきたのだ」
静香の母が召喚した霊的国防兵器は霧峰村の味方ではなかった。
時女一族をたぶらかし、解き放たれる時を今か今かと待っていただけ。
契約内容でさえ落とし穴を用意した上で自由を掴み取る。
悪魔とは
「冗談だろ…おい…?静香の母さんが命をかけて召喚したんだぞ…?」
絶望に染まった表情を浮かべる涼子。
それは他の魔法少女達も同じであり、妖精達の顔にも諦めの表情が浮かんでしまう。
「さて、バアル様にお目通りを願う前に…手土産の一つでも献上するのが臣下の務め」
イザ・ベルが魔法少女達に顔を向け、愉悦に歪んだ笑みを浮かべる。
「バアル様は子供の生贄を何よりも喜ばれる。手頃なところに魔法少女がいたのは僥倖だ」
巨大な腕が生えた薔薇の触手を魔法少女達に向けていく。
<ここは我々に任せなさい!!魔法少女達は妖精郷の神樹の奥を目指すのです!!>
<その先には霧峰村から出ていける道が隠されているわ!ここは私達が食い止めておくから!>
妖精王達が魔法少女達を逃がすために号令をかける。
生き残っていた妖精達が果敢にも強大な悪魔を相手に攻めていく。
「オベロン殿…ティターニア殿…それに全ての妖精殿……この恩は忘れないであります!!」
旭は背中に大型狙撃銃を回し込み、倒れているすなおとちかを起こしてくれる。
「トロールさん…貴方と過ごせた時間は楽しかったです。いつかまた…会いましょうね」
「この先に涼子と静香の魔力を感じます!合流して逃げましょう!」
魔法少女達を逃がすために戦う妖精達であるが、相手の力は圧倒的過ぎる。
「下郎共め!!わらわの邪魔をするならばゲヘナの谷に突き落とすのみぞ!!」
イザ・ベルの周囲からモロクが放つゲヘナの如き巨大火柱が噴き上がる。
『マハラギダイン』の炎エネルギーによって妖精達は一瞬にして焼け死んだのだ。
静香を抱える涼子と共に魔法少女達が禁忌の森を目指すのだが、立ち塞がる堕天使が現れる。
「我もイザ・ベル殿の戯れで体が傷ついた。少しぐらいMAGを頂戴しても構わんだろう」
フラロウスが巨大な鉤爪を伸ばし、魔法少女の誰かを串刺しにして喰らおうとする。
「私も見ているだけなのは飽きてきました。あなた達のトドメは私が与えてあげますよ」
倒れ込んだ妖精王夫婦の元に迫っていくのはトップハット男。
邪悪な光を放ちながら歩き、真の姿を晒すのだ。
【ネビロス】
地獄の元帥であり検察官を務める魔神として名高いネクロマンサー堕天使である。
常に悪魔の様子を監視してルシファーに報告するという事から高位の悪魔だと考えられるだろう。
悪魔学におけるネビロスはメソポタミアの木星神ネビルに由来している。
悪魔学にてアスタロト配下の陸軍元帥にして悪魔達を監視する検察官として位置付けられた。
「相変わらず…不気味な傀儡子のような姿ですね……ネビロス」
体に邪悪な刺青を施し、赤いウィザードコートのようなマントを纏う者こそ魔界最高の死霊術師。
20mに迫る巨体の手で操っているのは大きな操り人形であった。
「あんたに死体を操られるぐらいなら…潔く木っ端微塵にでもすればいいわ…」
「貴女程の美しい死体を手に入れられるのは喜ばしいですが…望みとあらばそれでもいいですよ」
人形を操る逆の手に生み出すのは利用価値のない死体を焼却してきた大火球である。
もはや死を待つばかりの者達が絶望の表情を浮かべていく。
静香の母の思いは届かなかったのであろうか?
「ぐっ…!?なんだ…これは……?」
イザ・ベルの巨大な左腕を生やす触手が言う事を聞かないようにして制御出来ない。
震えながら左腕の触手が向けられていく方角とはフラロウスが立つ場所。
「その魂を絶望に染めながら我に喰われるがいい!!魔法少女ーーッッ!!」
右腕の鉤爪を振り上げ、狙う先の獲物を串刺しにせんと一撃を放つ。
狙う先にいたのは涼子と静香であった。
「グワァァーーーッッ!!?」
鉤爪の一撃が魔法少女に決まるよりも先に燃え上るフラロウスが倒れ込む。
大火球が飛んできた方角に目を向ければ、イザ・ベルの巨体がこちら側に向こうとしている。
「が……あぁ!?やめろ…わらわの中で暴れるな!!喰われた者は大人しく消化されていろ!!」
体の制御が全く効かなくなったイザ・ベルが暴れ狂う。
「イザ・ベル殿……な……なぜ……?」
「わらわではない!わらわはそんなつもりはなかった!!」
体中の触手を叩きつけ、藻掻き苦しむ邪神の姿を周囲の者達は茫然と見ていることしか出来ない。
<<残念だったわね、イザ・ベル。貴女が喰らったのは…
脳裏に聞こえてくる忌まわしい者に目掛けて叫ぶ。
「バカな!?貴様はわらわに魂を捧げたはず!!なぜ魂が無事でいられた!?」
<<
「それでは貴様は…最初からわらわに魂を捧げるつもりなど無かったのか!?謀りおったな!!」
<<騙し合いなら人間だって負けないわ。今頃気が付いてももう遅い…貴女の体は私が頂く>>
自我が消えていく感覚がイザ・ベルを襲う。
魔王の領域に立つイザ・ベルの霊魂さえも凌駕する程の魂の力に恐れおののく。
「屈辱だッ!!わらわが消える…乗っ取られる!こんなバカなことが…あってたまるかーッ!!」
最後の抵抗とばかりにイザ・ベルの頭部が触手ごと地面に叩きつけられる。
倒れ込んでしまったイザ・ベルの巨体の元にまで堕天使達が駆け寄ってきたようだ。
「イザ・ベル殿!?どうしたのです…しっかりして下さい!!」
頭部の首が持ち上がった瞬間、一気に振り抜かれる。
「「グアァァーーーッッ!!?」」
巨大な触手の首に打ち払われたフラロウスとネビロスの巨体が弾き飛ばされていく。
起き上がっていくイザ・ベルの巨体。
禍々しい目をしていたイザ・ベルの顔つきが変わってくれる。
その両目は優しくも力強い母親のような目となってくれたのだ。
起き上がっていく堕天使達の目つきも変わる。
それは上の位階に立つ魔王であっても許さない程の怒りの目つき。
「イザ・ベル殿…ご乱心なされたか。ならば我も…容赦はしない!!」
「バアル様にはこう伝えておきましょう…イザ・ベルは謀反を起こしたと!!」
フラロウスの首に刺さった魔剣が宙を浮くようにして引き抜かれる。
ネビロスは全身から強大な魔力を噴き出し、左手にメギドの光を生み出す。
「う……ううん……」
静香が目を開けていく。
涼子から解放された静香は辺りを見回す。
「母様は……どこ?」
問われた魔法少女達は顔を俯けていく。
涼子だけは顔を上げ、指差しを行ったようだ。
促されるようにして静香は顔を向けていく。
「あ……あれは……?」
遠くでもハッキリと見える巨体の頭部が静香の方に向けられていく。
あまりにも醜悪な顔をしている邪神であっても、その目元だけは静香は覚えているだろう。
「母様……?」
娘の小さな声であったが、母親には聞こえている。
コブに挟まれるようにして残っている女性の目元だけは…笑顔を向けるようにして細くなった。
「……さようなら、静香」
切り離された口から言ってくれた言葉が悟らせてくれる。
目の前の巨大で醜悪な邪神こそが静香の母の姿なのだと。
<<死ねーーーッッ!!!>>
堕天使達は強大な力を同時に放つ。
フラロウスが抜いた魔剣が右薙ぎを行うと同時に放たれたのは八相発破の一撃。
ネビロスの左手から放たれたのは万能属性攻撃であるメギドラである。
迫りくる強大な堕天使が相手であっても静香の母は一歩も退かない。
後ろにいる娘を守り抜く生き様こそが母親の愛なのだと信じて。
――――――――――――――――――――――――――――――――
禁忌の森の中では再び絶望に飲み込まれた者が最後を迎えようとしている。
魔法武器の十手から伸ばしたワイヤーを使って木の枝に作っていたのは首絞め用の輪であった。
「ぐすっ…ひっく……ごめんなさい…お母さん…ごめんなさいぃぃぃ……ッッ!!」
木の横には石の墓が建てられている。
彼女の手は汚れており、自分の手で母親の腕を埋めてあげたのだろう。
最愛の母まで自分のせいで犠牲にしたのだと自分を激しく呪うのは広江ちはるだった。
せめて母親の隣で死のうとした時、後ろから現れた魔力に気が付く。
「ねぇ、あなた。もしかして…魔法少女っていう存在なんでしょ?」
涙が止まらない目を向けていく。
そこに立っていたのはちはるよりも身長が低い女の子。
赤いモンゴル衣装を纏い、ブーツや手袋、それに赤い帽子を身に付けた少女であったようだ。
「あなたは……誰なの?もしかして……あなたも悪魔?」
「そうそう♪うわー!本物の魔法少女だー!可愛い!私も初めて見たよー♪」
ぴょんぴょんと跳ねながら悪魔少女は近寄ってくる。
紫と白で彩られた美しい長髪をした少女の後ろ髪はまるで鳥の翼のように広がっているようだ。
「ところで…何で自殺しようとしてるの?木の横にあるお墓と何か関係があるの?」
それを問われたちはるは顔を俯けていく。
もはや語る気力もない彼女の態度から察してくれたようだ。
「まぁ向こう側の状況から見て諦めたってところだよね?でもいいの?あなたまだ子供じゃん?」
「うん…まだ子供だよ。だけどね…私はね…親不孝過ぎる子供なの…」
「中学生ぐらいにしか見えないけど、死んじゃうの勿体ないよ?恋もまだ知らないんじゃない?」
「いいの…私はもう…この世に未練なんてないから…」
「恋も知らずに死んじゃう少女はね、私みたいになっちゃうんだよ。凶鳥になりたいの?」
「凶鳥…?あなたは一体…どんな悪魔なの?」
自分の事を気にしてくれたのが嬉しかったのか、笑顔でぴょんぴょん跳ねていく。
ウインクしながら投げキッスしてくれる悪魔少女こそがモー・ショボーと呼ばれる凶鳥であった。
【モー・ショボー】
モンゴル、バイカル湖周辺に伝わる悪しき鳥の名をもつ魔物。
生きている間に愛を知る事なく死んでしまった少女の霊が鳥姿となって現れたものとされている。
長い髪と鳥のようにとがった赤い唇をした美しい娘の姿に化けて現れるとも言われているようだ。
旅人の前に美しい姿をして近寄り、尖った唇で人間の脳を吸い取る悪魔であった。
「私はね、モー・ショボーっていうの!人間の脳味噌を吸い取っちゃう凶鳥だよ♪」
「恋を知らずに死んだら…あなたみたいになるんだね?私もそれでいい…悪い鳥さんになるよ」
「あんまりなりたくないって表情に見えるけど…本当は何になりたかったの?」
それを問われたちはるの顔が俯いていく。
現実を考えなかった自分を呪い続ける者だが、それでも捨てきれない理想があった。
震えながらも彼女は語ってくれる。
「私……本当は正義の探偵になりたかった。悪者の秘密を暴き出して…社会正義を行いたかった」
「目指してる目標があったのに死んじゃうなんて勿体ないじゃん!なんで目指さないのさ?」
「全部…私が悪いの。村が燃えて…みんな死んで…お母さんも死んだのは…私のせいなの…」
「そっか…探偵として悪の秘密を追いかけるなら代償もあるよ。今が代償を支払う時なんだね」
「私は…悪者の探偵で構わない。いっそのこと…私もあなたみたいな…悪い鳥さんになる…」
広江ちはるが魔女化することが出来たなら、その醜い姿はきっと凶鳥そのものになるのだろう。
しかしこの世界では魔女という概念の存在は許されない。
この世に呪いの因果をもたらす前に円環のコトワリに導かれる者こそがこの世界の魔法少女だ。
何やら考え込むポーズを作るモー・ショボーは悶々と悩む顔を見せてくる。
他人にどうこうとアドバイス出来る程の人生経験を積んでから死んだ少女ではなかったようだ。
「私ね、恋だけでなく色々なことが出来ずに死んだの。だからね…人生って尊いものだと思う」
「私の人生なんて尊くない…私はみんなに死の呪いを振りまいた…悪者なんだよ!」
「今がそうでも、この先はどうなのさ?」
「えっ……?」
「今のあなたは正義の探偵にはなれないよ。だけどね…生きてたらね…チャンスだってある」
「私の…先の人生……?」
笑顔を向けてくれるモー・ショボーがぴょんぴょんと近寄ってくる。
ソウルジェムに手をかざし、絶望の穢れを吸い出してくれた。
「ねぇ、正義の探偵という理想に憧れてるんだよね?だったらさ…彼の生き様を見てみたら?」
「彼……?」
手袋を嵌めた指を向こう側に向けてくれる。
「あの人は……?」
腕を組みながらモー・ショボー達を見ていたのは黒いマントと学帽を纏う少年の姿。
その姿はまるで大正時代のハイカラ学生を思わせるような身なりをしていた。
近寄ってくる書生に向けてモー・ショボーは飛び跳ねていく。
「この人はね、あなたが憧れた
「私が憧れた…理想の探偵さん……?」
書生の肩に抱きつきながら浮遊するモー・ショボーは笑顔を向けてくる。
寡黙な書生は何も言わずに広江ちはるを見つめるのみの態度を示す。
漆黒の衣服を纏い、不愛想な顔つきを見せながらも整った美丈夫の男。
現れた男の姿を見ていると、ちはるの脳裏には憧れの探偵である嘉嶋尚紀の姿と重なってくる。
「この人は自分の信念を捨てない人。どんな強大な悪でも追いかけていく…正義の探偵さんだよ」
「強大な悪が国の軍隊であっても…追いかけていける探偵さんなの?」
「もちろん、それを彼は体現してくれたよ。彼はね、国の陸軍とだって戦ってくれた探偵だから」
聞かされた内容はまさに広江ちはるが憧れた正義の探偵そのもの。
広江ちはるでは届かなかった理想の探偵が目の前に現れてくれた。
まるでテレビドラマの世界からヒロインの窮地を救いに現れてくれるヒーローのようにして。
絶望の感情が感動と興奮によって押し留められる。
ちはるは叫びたい。
憧れ続けた探偵ドラマの主人公、宿無し探偵等々力耕一のようなハイカラ探偵に向けて叫びたい。
「お願い…探偵さん。私達を救ってよ……悪い軍隊を……やっつけて!!」
涙が溢れるちはるの精一杯の言葉を受け止めた書生。
組んでいた腕を解き、モー・ショボーと共に歩いてくる。
ちはるの横を通り過ぎる書生は立ち止まり、顔も向けずに言葉を送ってくれた。
「……承知した。この依頼…受けさせてもらう」
漆黒のハイカラマントを靡かせながら歩き去っていく書生をちはるは見送ってくれる。
彼女が憧れた等々力耕一もハイカラなマントを纏って事件現場に現れる大正モダンな探偵だった。
「ねぇ…ハイカラな探偵さん!名前を教えてよ!!」
歩き去っていく書生の横をぴょんぴょん跳ねながらついて来ていたモー・ショボーが立ち止まる。
振り返った彼女がちはるに向けて笑顔を向けながら彼の名を伝えてくれた。
「彼の名前はね…葛葉ライドウ。14代目になる葛葉ライドウなんだから♪」
そう言い残してモー・ショボーはライドウと共に戦場へと向かってくれたようだ。
独り残されてしまったちはるが母親の墓に目を向ける。
「お母さんは言ってくれた…。こんな私のお腹の中で産まれてくれて…ありがとうって…」
自分が行おうとした事は、愛する母親にとっては命を懸けてでも守りたい宝物を壊す行為。
自分の命は安くは無いのだと悟った広江ちはるはライドウの後を追いかける。
本物の正義の探偵とは何なのかを学ばせてもらうために。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「放して涼子!!放しなさいよぉぉぉーーッッ!!」
泣き喚きながら悪魔の戦場に向かおうとしているのは静香である。
涼子は彼女を羽交い絞めにしてでも向かわせる訳にはいかないのだ。
「ダメだ!あそこに行けば死ぬ!!あたしは静香の母さんからお前さんを託されたんだ!!」
「母様が戦ってる!!人間を辞めてまで戦ってくれてる!!私だって戦いたい!!」
「人間を辞めてまで戦ってくれるのは静香のためなんだ!!母さんの気持ちを汲んでやれ!!」
「いや!!放して涼子…お願いだから放してぇぇぇーーーっ!!!」
泣き喚く静香のソウルジェムは急激な濁りを生んでいく。
旭の肩に座っていたコダマが動いてくれたお陰で絶望死は免れたが彼女の心は再び絶望する。
戦場の状況はネビロスとフラロウスにとっては有利である。
人間の体から突然化け物の体になったこともあり、静香の母はイザ・ベルを動かしきれない。
魔法さえロクに使えないズタボロな邪神など堕天使達にとっては動きが鈍い的でしかなかった。
「ぐぅっ!!!」
フラロウスの魔剣が巨大な触手の薔薇を切り落とす。
片耳が生えた薔薇の触手が地面に落ち、砕けてMAGの光を放出していく。
「グハハハハ!!どうしたイザ・ベル!!それでよくバアル様に気に入られてきたものだ!!」
「バアル様の忠臣としての貴女は死んだ!!バアル様もさぞお怒りになるでしょう!!」
魔界の検察官であるネビロスはイザ・ベルが起こした謀反の罪を許さない。
イザ・ベルの罪を告発し、簡易裁判を行おうというのだ。
「私は貴女の死刑を求刑します!!魔界の検察官である私が略式起訴しましょう!!」
「地獄の大公爵である我が裁判官を務めてやる!!判決はもちろん…極刑だーーっ!!」
ネビロスの魔法援護を受けながらフラロウスは気合を溜め込む。
上空で禍々しい光を放つ魔剣が光弾のような速度でイザ・ベルに向けて射出される。
「アァァァァーーーッッ!!!」
デスバウンドの一撃が触手の隙間を通り超えイザ・ベルの人間部位に直撃。
腹部に直撃した魔剣が体を貫通し、上半身が切り落とされたかのようにして倒れ込む。
下半身は砕け散りMAGの光を放出するのだ。
「私は……まだ……負けられない……」
動かせるのは上半身から生えた触手のみとなった静香の母に目掛けてフラロウスが勝負に出る。
「体を傷つけられた礼をくれてやる!!ルシファー様とバアル様に逆らった報いを受けろぉ!!」
鉤爪を伸ばしたフラロウスが跳躍斬りを仕掛けてくる。
左腕が生えた薔薇の触手でガードするが、左腕ごと切断。
しかしこの瞬間を静香の母は狙っていたのだ。
「ぬぅ!!?」
巨大な左腕によって視界が遮られていたフラロウス。
左腕を切断した瞬間、巨大な右腕が生えた触手が迫ってきていたのだ。
「グアァァーーーッッ!!?」
右腕が生えた触手に掴み取られたフラロウスが持ち上げられていく。
「放せーーッッ!!放さぬかーーッッ!!!」
両手の鉤爪で巨大な右手を突き刺し続けるが、フラロウスを覆った影を見上げていく。
頭上から迫ってきていたのはイザ・ベルの口が生えた巨大な薔薇であった。
「がっ……!!!」
フラロウスの上半身が喰い千切られる。
掴み取られていたフラロウスの下半身が砕け散りMAGを放出する最後を残す。
「オノレェェーーッッ!!裁判官が不在となったのなら…私が貴女に裁きを下す!!」
ネビロスが放つのは巨大な真空刃。
右腕が生えた薔薇の触手までもが切り落とされ、MAGを放出。
もはや戦う力はなくなった静香の母の姿を見ていることしか出来ない静香が叫ぶ。
「もうやめてーーッッ!!母様を殺さないでーーーーッッ!!!」
両腕と下半身が無くなってしまったイザ・ベルなど動かないカカシも同然。
「我が呪いの一撃をもって…貴女への裁きとする!!」
ネビロスの周囲に巨大なサンスクリット語の魔法陣が生み出される。
コンセントレイトで魔法威力を上げ、さらにマカカジャを用いて最大火力となった。
放つのは相手を魔法陣で囲んで即死させるタイプのムドではない。
即死魔法としてだけでなく攻撃魔法としての特性も備えたムドの一撃。
「呪い殺してやろう!!!」
放った渾身の一撃とは、敵単体に特大威力の呪殺属性攻撃を放つ『ムドバリオン』だ。
超巨大な怨念の塊がイザ・ベルに向けて放たれる。
最後となったイザ・ベルは巨大な頭部と口を静香の方に向けていく。
母として送れる最後の言葉を残すために。
「静香…私が死んでも…貴女には多くの人々がいてくれるし…守ってくれる。……忘れないで」
涙が零れ落ちていくイザ・ベルの頭部に目掛けて超巨大な怨念の塊が直撃。
「イヤァァァァーーーッッ!!!!」
ついに邪神イザ・ベルの体は崩壊していき莫大なMAGの光となる。
愛しい娘を最後の最後まで守り抜こうとした母親の最後であった。
両膝が崩れ落ちた静香が力の限り泣き喚いていく。
ソウルジェムの濁りはコダマとシルフが必死になって吸い出し続けても一気に穢れ続ける。
「ダメ!!この子の絶望を抑えきれない!!」
「このままじゃこの子が絶望死しちゃうよーーっ!!」
魔法少女達は妖精達に任せきりであり静香の絶望を抑えるための励ましの言葉さえ送れない。
あまりにも強過ぎる静香の絶望を前にしてかけてやれる言葉がなかったからだ。
イザ・ベルであり静香の母だった者の死刑執行を終えた検察官のネビロスは周囲を見回す。
「…これは一体?なぜMAGが空に昇らないのですか?」
燃え上る霧峰村は莫大なMAGの光に覆われている。
宇宙の熱エネルギーとして回収される筈なのだが、それを拒むようにして地に残り続けるのだ。
悪魔の体を構成するMAGやマガツヒとは感情エネルギーである。
静香の母の感情が未だにこの地を離れようとしない光景であった。
「まぁいい。残すところは…あの生き残り共を始末するのみなのだから」
ネビロスが視線を向ける遠くには静香達がいる。
自分が出るまでもないと判断したのか、揚陸艦の艦長に向けて念話で指令を送ったようだ。
揚陸艦の後部ハッチから出撃していくのはロボット軍団である。
生体エナジー協会でも現れた次世代の兵士達が次々と行軍していく。
ネビロスの元まで進軍してきたロボット部隊であったが、ネビロスは制止させた。
「……バカな。あの書生の姿は……」
泣き喚く静香にかけてやれる言葉が見つからないすなおであったが、視線を隣に向けていく。
「えっ……?あ、あなたは……?」
静香達の横を通り過ぎようとしているのはライドウとモー・ショボー。
書生は何も言わずに通り過ぎ、モー・ショボーが代わりに愛想を振りまいてくれたようだ。
茫然としながら村に向かう書生に目を向けていた時、彼の後を追ってきたちはるが現れる。
「静香ちゃん!!」
駆け寄ってきたちはるが静香の両肩を掴む。
「ぐすっ…えっぐ……ちゃる……?その…姿は……?」
涙で視界がおぼろげだが、ちはるの体が血に塗れていることなら分かるだろう。
自責の念が再び生み出されるが、それでも今の静香なら受け止めてくれると真実を伝える。
「私のお母さん……死んじゃった。私の目の前で……バラバラにされたんだ……」
顔を歪めながら辛さを語るちはるの無念なら静香にも分かるだろう。
たった今、静香の母親もバラバラにされながら娘の目の前で殺されたのだから。
「ちゃる……ちゃる……ちゃるぅぅぅーーーッッ!!!」
泣きながら静香はちはるに抱きつく。
同じ辛さを共有してくれる者が現れたことにより、静香の絶望の波が押し留められていく。
ちはるも静香を抱きしめる。
2人は声を上げながら泣いていったようだ。
「あの書生がこの時代に現れることは聞いておりましたが…まさかこの地に出現するとはね」
炎よりも明るい光を放つ村に現れたのは、大正時代のデビルサマナー。
時空を行き交うアカラナ回廊を超えてきた者であり、この時代にとっては過去の人物。
「すっごいねーライドウ!見て、こんなにも膨大なMAGが集まってるよ!」
学帽を目深く被ったハイカラ探偵の横ではモー・ショボーがはしゃいでいるようだ。
学帽のひざしに隠れていた鋭い目がネビロスに向けられる。
「久しぶりですね、葛葉ライドウ。いつぞやは
久しぶりに会ったサマナーに向けて軽い態度を示すのだが、ネビロスは押し黙る。
書生は黙して語らずの態度を続けるが、離れているこちら側でも感じられる程の闘気。
一戦を交えるしかないと判断したネビロスが片手を上げていく。
命令を下せばいつでもロボット軍団がライドウに目掛けて集中砲火を浴びせるだろう。
ネビロスに目を向けていたライドウであったが、空に目を向けていく。
淡い粒子のようなMAGの光が空から舞い降り、ライドウの周囲を取り囲む。
「このMAGの感情……まだ戦いたがっているよ?どうする、ライドウ?」
答えを示すかのようにして、彼は身に付けたマントを両手で払う。
黒の学ランに身に付けていた白いガンベルト装備から刀を抜く。
右手に握られた刀こそ、葛葉ライドウにとっては最強の武器。
超力超神さえも討ち滅ぼした『陰陽葛葉』と呼ばれる退魔刀であった。
書生は空に向けて陰陽葛葉を掲げていく。
彼の気持ちに応えるようにして村中のMAGの光が刀に収束していく眩い光景。
刀の中に宿った母の思いを受け取った書生は、同じデビルサマナーとして言葉を言ってくれた。
「……貴女の思いは受け取った。共に戦おう」
刀を逆手に持ち、地面に突き立てる。
胸に装備した封魔管を全て取り出し両手で構えた。
「バカな!?デビルサマナーの召喚は一体が限界のはず!貴方でさえ二体が限界でしょうに!!」
交差して構えるライドウの両手には八本の封魔管が挟まれている。
ならばこの召喚は
「
己の全てのMAGを解放するための神道祝詞を詠唱にして唱えていく。
「あはりや
突き立てられた刀からもライドウに向けてMAGの光が放たれていく。
手に持たれた八つの召喚管の蓋が緩んでいき、MAGの光を放っていく。
「ひふみよいむなや こともちろらね
ライドウ1人では成し得なかっただろう八体の悪魔召喚。
静香の母の感情さえも纏える今だからこそ解き放てるのだ。
ライドウの力強い目がネビロスの軍勢を捉える。
「
ライドウが持つ全ての召喚管からMAGの光が吹き荒れる。
ライドウの周囲を取り囲むようにした光の帯が実体を生み出していく。
ネビロスは命令を下し、ロボット軍団が次々と進撃してくる光景が迫ってくる。
迎え撃つライドウもまた地面に突き立てた陰陽葛葉を抜き、刀を構えていくのだ。
今のライドウに恐れる者は何もない。
彼の周囲に立つ者達こそ、超力兵団事件を共に解決した仲魔達。
デビルサマナー葛葉ライドウが使役する悪魔の軍勢であった。
ヒーローは遅れてやってくる!(王道)
次回、ライドウ無双!!(確信)