人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
聖探偵事務所の2019年の業務は今日で最後である。
仕事は昼までに終わらせた職員達は午後から年末の大掃除を行っているようだ。
腕まくりをした黒ベスト姿の尚紀は事務所ガレージの掃除を行っている。
「ダーリン!この国では年末の大掃除があるんでしょ?アタシの体も掃除しなさいよ」
「分かってるって…お前は綺麗好きだもんなぁ」
「洗車機を使って終わりじゃダメ!ダーリンの手で優しくゴシゴシ触って欲しいの♡」
「めんどくさいなぁ…洗車機じゃダメなのかよ?」
「洗車機を使うとしてもちゃんとアタシをゴシゴシ洗うのよ?細部の汚れは落ちないし」
「了解したよ。やれやれ…家の大掃除もまだだってのに…」
ガレージの掃除を一通り終えた尚紀が二階事務所へと上がっていく。
事務所内は丈二と瑠偉が掃除を担当していたようだ。
「丈二、ガレージの掃除は終わったぞ」
棚の掃除を行っているようだが、丈二は何の反応も返してこない。
怪訝な顔をしていたが、尚紀はテレビに視線を向ける。
ニュースは内陸部で起きた山の大火事内容を報道していたようだ。
「最近は雨が降ってなかったから山も乾燥してたのかもな…。俺も煙草の始末は気をつけよう」
「これをキッカケにして禁煙してみるとかは?」
「瑠偉が禁煙に付き合うならやってみても構わないぞ?」
「愛煙家の私が禁煙なんてするわけないでしょ?」
「だよなぁ…。お前は酒と煙草と車を愛する男臭い女だったよ」
視線を丈二に戻すが、未だに棚と睨めっこ中のようだ。
不審に思った尚紀が彼の横に近寄ってきた。
「何を見てるんだよ?」
沈黙した丈二が見ていたのは貴重品を入れておくケースである。
「尚紀…これを見ろよ」
促された彼が貴重品入れに目を向ける。
「おい……これは……」
そこに入っていたのは広江ちはるから預かった探偵道具の虫眼鏡。
ガラスには傷が入ったかのような線が入っていた。
「ちはるちゃんから預かって以来、貴重品入れには触れてない。どうしてヒビが入ってるんだ?」
「経年劣化か何かか…?いや、ガラスは曇ったりはするがヒビが入る筈はないよなぁ…」
「私も触ってないし…尚紀も触ってないでしょ?不自然よねぇ…」
言い知れぬ不安を感じてしまう尚紀と丈二であったが、迷いを払うようにしてケースを仕舞う。
「これは修理に出しておく。大人になったちはるちゃんがここに来た時…悲しむ顔は見たくない」
「そうしてやれ。ここはあいつが帰ってくる場所…頑張って守らないとな」
原因不明のひび割れを見た尚紀の不安は拭いきれない。
彼はもう一度テレビに視線を向ける。
ニュース内容は未だに内陸部で起きた山火事の内容を伝えているようだ。
「廃村から火が出たか…。犠牲者はいなかったのが不幸中の幸いってところだな」
果たしてそれは本当なのかと彼は疑いの目をニュースに向けていく。
日本の偏向報道は知っているため、このニュース内容の信憑性は現場に行かなければ分からない。
しかし尚紀は多忙な身であり、全国で起きた事件を追い回す余裕など欠片も無い。
気にしても仕方ないと判断した尚紀は今日の仕事を終え、帰路についていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
時女静香達は追われる身となった。
公安警察から追われ、ヤタガラスのサマナー達からも追われる逃亡の人生が始まるのだ。
彼女達が先に頼ろうとしたのは嘉嶋尚紀であった。
しかしヤタガラスは見抜いており、神浜市に近寄ることも出来ない監視網が敷かれている。
スマホは持ち出せておらず、電話番号もスマホ任せのため尚紀と連絡をとる手段がない。
逃亡を続ける静香達は時女一族の分家集落を頼るしか道はなかったが、罠を張られていた。
「いたぞ!!霧峰村から逃げ出した連中はここに潜伏していたようだ!!」
「周囲を取り囲め!我々ヤタガラスから逃げられると思うなよ!!」
息をつく暇すら与えられない逃亡の人生は過酷を極めていく。
分家集落の者達は時女一族からは遠縁の者達。
いきなり本家の連中が村に入り込んできたのを不審に思い通報される事が多かった。
分家の者達は本家を慕う者もいれば、かつての涼子やちかのように嫌う者達も大勢いる。
何より分家一族とてヤタガラス一族と関わる者達であるためヤタガラスに協力的だったのだ。
匿ってくれた本家を慕う者達から与えてもらった品は限られている。
衣服の替えもないし、風呂にも入れないし、眠る布団もないし、恵んでくれた路銀さえ底をつく。
日中は警察のパトカー巡回を恐れて身動きをとることも満足に出来ない。
夜を利用した移動を繰り返すようだが、お腹が空いた彼女達の足取りは極めて重い。
今にも絶望しそうな魔法少女達を支えてくれているのは四体の妖精達。
シルフ、コダマ、オベロン、ティターニアは未だに彼女達を守ってくれていた。
静香達はヤタガラスが張る網を潜り抜けるようにして西へと逃避行を繰り返す。
しかし道中を歩く彼女達の顔には絶望の色以外に浮かぶものはなかったようだ。
今日も民家から離れた森の中で焚火を囲む毎日を送っている。
彼女達の目には毎日のように涙が零れ落ちていった。
「お腹……空いたね……」
焚火の前で体育座りをしてるのは広江ちはるである。
彼女の美しい髪はボサボサとなり、体臭も酷く臭う程にまで落ちぶれている。
それは他の魔法少女達も同じであり、各地の分家集落で快適に休む余裕もない証拠だ。
暗い表情を浮かべたまま隣に座る静香に目を向ける。
匿ってくれた分家の者達の御厚意で静香は以前着ていた私服と同じ品を送られていたようだ。
「……ごめんなさい」
静香に声をかければ、帰ってくる言葉は謝罪の言葉ばかり。
彼女達を助けてあげられない時女当主に何の価値があるのかと絶望に打ちひしがれた姿を晒す。
そんな静香が背負うようにして身に付けていたのは竹刀袋である。
これは旭が古井戸の中から持ち出した品であり、中には静香の母の刀が仕舞われていたようだ。
亡き母の遺品を静香は託されたが、時女の矜持を燃え上らせる余裕など今は欠片も無い。
「謝らないで……静香ちゃん。謝るべきなのは……私だから……」
涙が溢れそうになった目を擦り、向こう側に座っているすなおに目を向ける。
彼女の顔は俯いたままであり、絶望の感情が色濃く浮かんでいるようだ。
すなおを絶望のどん底に突き落としたのは、霧峰村を廃村扱いにした新聞記事のせいだ。
霧峰村は隔絶された地であり麓の集落でさえ知る者は殆どいない。
だからこそ霧峰村と麓の集落が山火事で滅びようとも誰も気にしてなどくれない。
それでも土岐すなおは霧峰村の麓の集落で生まれ育った者。
霧峰村同様に麓の集落まで燃やされていた現実を知った時、彼女は泣き叫んだようだ。
「ぐすっ…ひっく……お父さん……お母さん……」
涙が溢れ出したすなおを元気づける言葉をかけてやれる者達はいない。
焚火の光に目を向けるだけの涼子とちかでさえ押し黙ったまま。
それでも努力して黙ってくれている。
我儘な者達なら不満や苛立ちを喚き散らして静香やちはるを罵倒するかもしれない。
それでも感情を律して静香達を支えようとしてくれていた。
そんな彼女達を見下ろすのは木の枝に座っているオベロンとティターニア。
妖精王夫婦も霧峰村の妖精郷だけでなく臣下の妖精達まで失った者達。
行く当てもない悪魔として、今は魔法少女達を支えてあげることにしたようだ。
「彼女達……いつまで持つかしらね?」
「我々が絶望を吸い出してあげていますが…体と心は人間です。擦り切れていくのみでしょう」
「生き残れたのは救いだったのかしら…?それとも…破滅の始まりだったのかしら…?」
「それを問われるのは私達とて同じですよ。臣下を失った王に何の価値があるのやら…」
「この子達も私達も…故郷を燃やされたわ。この屈辱…晴らさずにはいられない…」
「連中が何者かを捜査する必要がありますが…今は足元を固められる場所を探すのが先決」
「そうね…。あの子達は逃亡犯としてホームレスに成り果てる結末だなんて…あんまりよ」
見張りをしてくれている妖精王夫婦の支えがあって今はどうにか生き残れている。
魔法少女達を助ける妖精は他にもいるため、シルフとコダマは旭の手伝いをしてくれていた。
近くの川で魚を獲ってきた旭の両肩にはシルフとコダマが座っていたようだ。
「シルフ殿…いつも助かるであります。貴殿の風魔法を使って魚を川から弾き飛ばしてくれて」
「旭達は猟を行う余裕もないしね…。ただでさえ絶望の感情で魔力が濁り続けてるのに…」
「ボク達はそんな絶望をエネルギーにして動けるし、頼りにしてくれていいからね!」
「本当に助かるであります…。我々の体と心はもう…逃げるだけで精一杯でありますから…」
六匹の川魚を掴んだ旭が重い足取りを向けながら静香達の元へと帰っていく。
焚火の明かりが見えてくる場所にまで戻った時、旭は立ち止まってしまった。
顔を俯けたまま彼女は絞り出すような震えた声で語ってくれる。
「我はミリタリーが好きでありましたが…今回の件で…ミリタリー趣味が大嫌いになりました…」
「旭の霧峰村は…米軍に焼かれちゃったもんね…」
「米軍は日米同盟を結んだ同盟国…米軍と自衛隊は協力して日の本を守る…そう信じてきました」
自分が信じてきた常識が全て音を立てて崩れてしまった。
今の旭は何を信じればいいのかも分からない。
ミリタリー好きにとって米軍装備は憧れであり、米軍こそ正義の軍隊に思えただろう。
しかし現実は彼女達のようなミリオタが考えているものではない。
アメリカの有名な歴史家は言葉を残す。
日本人は駐留米軍による支配の実情に全く気が付いていないと。
被支配民族が独立国家だと錯覚させる支配手口のことを
「あんな連中をこの国に駐留させてていいの!?追い出すべきじゃん!」
「かつての我同様に…米軍は日の本の守り人だと信じてる者達に言ったところで無駄であります」
「どうしてさ!?」
「人間は…見たいものしか見ないし、信じない。魔法少女を迫害した連中と同じなのであります」
「何で人間って連中は…こんなにも自分の常識世界から出てこようとしないのよ…」
「宗教と同じ心理なのでしょう。自分が信じた概念から出てこない…批判する者は悪であります」
「そんな……ことって……」
「米軍は犯罪軍だと叫んだところで…中国か北朝鮮の工作員レッテル張りで終わりであります」
「旭は…悪のレッテルを張られて迫害されたんだよね…?人間を襲ったのは魔法少女だって…?」
それを聞かれた旭の顔が重く沈む。
今の彼女の体からは消えているが、かつては迫害による暴行の傷跡が上半身に残っていたのだ。
「レッテル張りを受けて我も分かりました…レッテル張りは
「自分の判断は間違いじゃない…。間違いだという奴の追究を潰すためのレッテル張りなのね…」
相手の劣等生を指摘した時点で、自身の指摘された問題を相手の問題にすり替えれる。
マウントをとられそうになった者が簡単にマウントを返せる安易な二元論手口。
それこそが、嘉嶋尚紀も使ったことがある悪のレッテル張りと論点のすり替えであったのだ。
「魔法少女を含めて人々はこんなにも狭い世界しか見る事が出来ない…だから我は諦めたのです」
「こんなんじゃ…誰に助けを求めたって…応えてなんてくれないよね…」
「ボク…山の精霊だから登山家を見てきたよ。リーダーの判断を信じて多くの人が死んだの…」
「皆が流されていくだけの人々…。芋虫のように固まるが…皆が向かう方向を決めていない…」
<その通りよ>
念話が聞こえてきたため、旭達は後ろを振り向く。
蜃気楼のようにして現れた魔法少女を見た旭の目が見開いたようだ。
「氷室殿……?」
暗闇の中から旭に近寄ってきたのは、肩にハクトウワシがとまっている氷室ラビ。
「貴女と出会うのは…湯国市で魔法少女の存在を人々に伝えようとした活動以来かしら?」
「なぜ貴殿がここにいるのでありますか…?氷室殿は太助殿と共に神浜に行かれたはず…」
「私は使命を帯びる者。神浜で生きてきた人生は…捨ててきたわ。今の貴女のように」
旭に視線を向けるラビの表情は絶望に染まっている。
その表情なら旭はかつて湯国市で見た事があった。
魔法少女の真実を伝える活動を手伝ってくれた友人を亡くした時、今の彼女と同じになったのだ。
「いったいどうしたのでありますか…?何が氷室殿をそれ程までに追い詰めたのです…?」
「他人を心配している暇があるの?私はどのような地獄を貴女達が味わったのかを知っているわ」
「霧峰村の惨劇を見たのでありますか…?それでいて誰にも見つからずここに現れるとは…」
旭の視線がラビの肩に向けられる。
ハクトウワシの目を見ていると背筋が凍り付く程のプレッシャーを感じさせてきた。
<旭…あの子の肩にとまってる鷲は悪魔よ!>
<凄い魔力を感じさせてくる…ボク達どころか妖精王夫婦だって適うか分からないよ!>
警戒感を示す旭を見つめるラビ。
彼女の目も旭の両肩にとまっている妖精達に向いていた。
「私と同じく悪魔を使役する魔法少女になれたようね…三浦?」
「悪魔を仲魔にして…何を企んでいるのでありますか?なぜ我に接触を図るのです?」
それを聞かれた無表情なラビの顔に変化が生まれる。
自分でもなぜ旭の元に訪れてしまったのか分からないような顔をしていたようだ。
「…私たち魔法少女に救いは無い。それは人間だって同じ。だから私は…世界の破滅を望む」
「本気で言っているのでありますか…?世界を破滅させる気でありますか!?」
「世界の破滅は私が手を下さなくとも起こる。その準備を見たために…あの村は焼かれた」
「それは…そうなのでしょう。では氷室殿は…それを早めようとしているのでありますか?」
「人類に救いなど無い。人々は何も知ろうとせず、今日も娯楽にうつつを抜かす…救いなど無い」
ラビは旭に向けて手を伸ばす。
まるでついて来いとでも言わんとしているかのように。
「私はホワイトメン…世界の午前0時を見届けるフォークロアよ。フォークロアに参加しない?」
「我に…世界の破滅の手助けをしろと言うのでありますか…?」
「貴女だけじゃないわ。向こうで絶望している魔法少女も同じ…ホワイトメンになる資格がある」
静香達も含めてこの世に絶望した上で世界の滅びを見届けろと言ってくる。
心配そうな顔を向けてくる妖精達。
俯いたまま体を震わせていたが顔を上げてくれたようだ。
「…お断りするであります」
「なぜ…?貴女達に待っているのは逃亡犯として惨めに生きるのみ。現実を直視出来ないの?」
「たとえ現実が絶望であろうとも…静香殿も含めて…我らは…諦めたくないであります」
「貴女らしくもない言葉を言うようになったわね?魔法少女は虚無だと言ってきた三浦なのに」
「…今でも虚無だと思うであります。それでも我は…虚無の世界に消えて無くなる気持ちはない」
「現実という名の虚無に抗おうというの…?何が三浦を変えたというのよ…?」
迷いを振り切った顔を向けた旭が決意を語っていく。
旭達に諦めない気持ちを与えてくれた者達を語ってくれる。
「我は知りました…神浜の東西差別という変えようのない現実を変えてくれた探偵の存在を」
「…人修羅として生きる嘉嶋尚紀ね。私も…見た事はある」
「我は出会いました…軍隊や悪魔が相手だろうと諦めない気持ちと共に戦ってくれた探偵と」
「…あのハイカラ学生のようなデビルサマナーの事ね」
「あの偉大なる探偵達の存在を知らないままだったら…我は虚無に飲まれてたであります」
心の中の絶望を変えてくれたのは、絶望という現実を変えられる存在がいてくれたから。
絶望的な状況でさえも諦めない姿を見せる者達がいてくれたから。
「我はあの偉大なる御方達の生き様を信じたい…。ついて行きたいのは…彼らであります」
絶望しか与えてくれない氷室ラビにはついて行きたくないと旭は示す。
ついて行くならば諦めない気持ちと共に絶望と戦ってくれる者の背中について行きたい。
それこそが旭が静香を支える理由であり、いつか出会いたい尚紀の道を信じたい気持ち。
魔法少女は虚無という現実を覆してくれるやもしれない希望を感じられる者達について行く。
拒絶の意思を示されたラビの無表情にも、僅かな歪みが生まれたようだ。
「守ろうとする力はそれを超える守ろうとする力に潰されるのみ。全ては無価値であり…虚無よ」
「絶望しか知らなかったら我も同じ気持ちでした。ですが我は希望を感じられた者についていく」
「そう…勝手にしなさい。でも…現実は甘くない。再び絶望を感じたなら…私を呼べばいい」
そう言い残してラビは蜃気楼のように消えていったようだ。
時空を彷徨うラビに向け、ハクトウワシが声をかけてくる。
「…なぜあの者達に声をかけたのだ?」
問われるラビであるが、返事を返せず顔も俯いてしまう。
「この世の事象に未だ未練があると見えるな?」
「…そうね。いずれ人類は虚無の彼方に消えていく…ホワイトメンは…私独りで構わない」
「分かっているのならば…なぜ他の魔法少女連中をフォークロアに誘ったのだ?」
「私にも分からない…この感情の揺らぎこそが…この世の事象なのかも知れないわね」
「その揺らぎに苦しむならば虚無を望め。我らはいずれ根源に辿り着く…感情など無意味だ」
「世界は死に…新しい生が生まれる。私達は虚無という原初の混沌に辿り着き…生まれ変わる」
「新しい生命が生み出されるのだ。世界は死に、新しい世界が生まれる…それがアマラの法だ」
「私が希望を感じるのは次の世界のみ。この世界はもう終わりよ…全てが絶望に飲まれたらいい」
希望を信じて諦めない者達もいれば、全てに絶望して諦める者もいる。
相反する陰陽の道を突き進む魔法少女達に待っているのは希望の未来か?絶望の未来か?
それを作っていける存在こそが魔法少女達と共にこの世を生きる存在である悪魔達。
悪魔が作る世界とは混沌なのか?秩序なのか?あるいはどちらでもありどちらでもない中庸か?
三つの選択が用意された時、魔法少女達は何を選ぶのだろうか?
これこそが他の宇宙でも繰り返された光と闇の戦いに巻き込まれた者達の選択の道。
氷室ラビが選んだ選択とは、世界に絶望して新たなる世界を望む
――――――――――――――――――――――――――――――――
伊勢神宮から離れた森の中にそびえる神宮の前で高級セダンが停車する。
後部座席が開けられ、中から出てきたのは葛葉ライドウであったようだ。
彼の姿は学ランと学帽しか纏っておらず丸腰の状態である。
「ここが超國家機関ヤタガラスの総本山……」
付き添いのサマナー達と共にライドウは神宮の中へと入っていく。
鳥居や橋を超えていき、奥の院へと入っていったようだ。
謁見の間に案内されたライドウが襖の前で正座する。
入っていいと促されたため、襖を開けて平伏した。
<<…汝が14代目葛葉ライドウか?>>
「……はい」
謁見の間は広々とした畳部屋であり、奥側は神前すだれによって覆い隠されている。
声が聞こえてきたのは神前すだれの奥。
そこに鎮座する三羽鳥達が同時に発した声であったようだ。
裏天皇の警備を務めるのはヤタガラス直属の精鋭サマナー達。
謁見しにきた者が不審な動きをした瞬間、彼らは横に置かれた刀を抜くであろう。
<<謁見を許可する。入るがいい>>
「……失礼します」
謁見の間に入って来たライドウが神前すだれの前で正座を行いもう一度平伏する。
額を地につけるほど下げたライドウの体は震えているようだ。
目の前で神々しい霊気を発する存在こそがヤタガラスを率いる長であり、秦氏の長。
そしてライドウもまたヤタガラスを生み出した秦氏一族に隷属する者だと示すものがある。
被っている学帽には弓月の君高等師範学校の生徒だとする高章として弓月紋章が使われている。
神前すだれの奥に鎮座した三羽鳥達が纏う千早の上着にも同じ弓月紋章が備わっていた。
ライドウは弓月の君である秦氏の学校に通う学生であり、ヤタガラスのデビルサマナー。
彼の帝都生活はヤタガラスに従属させられたものでしかなかったようだ。
<<汝は大正時代の者。この時代に存在してはならぬ者。世界のコトワリを破った罪は重いぞ>>
「も……申し訳…ありません…」
<<14代目のライドウには帝都守護の任務を与えたはず。任務を放棄するつもりか?>>
「けっして……そのようなことは……」
<<では、何故にこの時代に迷い込んだ?アカラナ回廊は物見遊山を行う領域ではない>>
平伏したままライドウは三羽鳥に向けて包み隠さず自分の動機を語っていく。
この時代に流れ着いたのはアカラナ回廊を漂っていた悪魔の言葉に従ったもの。
この世界には時空の歪みが存在しており、それをもたらす悪魔達こそがこの世界を滅ぼす。
故に人々を守るデビルサマナーとして、この世界も救いに来たのだと語ってくれた。
しばしの沈黙が謁見の間を包む。
しかし神前すだれの奥からは怒気を含む叱責が放たれたのだ。
<<愚か者め!!帝都守護の任務を放り出してまで違う世界を救うだと?何様のつもりだ!!>>
「申し訳ありませんッッ!!自分の領分では無いと感じましたが…それでも来てしまいました!」
<<若さゆえの過ちもあろう…。しかし、此度の越権行為はあまりにも重過ぎるぞ>>
「自分は人々を守るためにこそ退魔師としての価値があると信じました!それゆえの行動です!」
<<それはこの時代でなくとも全う出来る。愚かな欲に狂いおって…自由の権化のつもりか?>>
「自分は…そのようなつもりでは……」
<<ヤタガラスと葛葉ライドウの名に泥を塗りおった汝には…相応の罰が与えられるだろう>>
出過ぎたことをしてしまったのは彼の正義感から生まれたもの。
しかし浅慮過ぎる正義感を振りかざす者ほど、後先考えずに行動してしまう人間心理がある。
その行動は無責任であり、周りの迷惑など考えない自由を掲げる蛮行とも思えてくるだろう。
日の本の秩序を司るヤタガラスとは相容れない隔たりがあったようだ。
もはや裁きは避けられず、葛葉ライドウの名も剥奪され葛葉一族からも蹴り出される。
そんな恐怖に支配され震えたままであったのだが、三羽鳥は裁きではなく命令を下すのだ。
<<その名に泥を塗った汝ではあるが…汚名を返上する機会を与えてやろう>>
その言葉を聞いたライドウが顔を上げる。
地獄に放り込まれた罪人の元に天から救いの糸が下りてきたような気持ちとなったようだ。
<<この世界に歪みをもたらす悪魔の存在については…我らは把握しておる>>
「その悪魔というのは…一体…?」
<<その悪魔の名は…人修羅>>
「人修羅…?そのような悪魔の名など…聞いた事もありません」
<<奴は数年前にこの世界に出現した。今は人間に擬態しながら生きているようだ>>
「その人修羅という悪魔は…この世界を滅びに導く程の悪魔だと言われるのですか…?」
<<奴の力は強大だ。神霊クズリュウを討ち滅ぼす程の力を秘めておる>>
「神霊として名高い…あのクズリュウをですか…?」
<<そして奴は虐殺者でもある。この地に顕現してからというもの…死の上に死を築き上げた>>
それを聞かされたライドウの目に怒りの炎が燃え上る。
心には義憤の感情が噴き上がり、人修羅に向けて強い憤りを纏ったようだ。
<<奴は東京と名を変えた帝都で子供の大虐殺を繰り返した。汝にとっては…怨敵であろう?>>
「その悪魔に誅罰を下すのが…自分に与えられる罰でしょうか…?」
<<侮るな。奴の力は桁外れ…倒すことは出来まい。しかし…汝ならば封印出来るやもしれん>>
葛葉ライドウに向けて三羽鳥は命令を下す。
その任務内容とは護国救済任務とも呼べるほどの重要任務。
人修羅を封印して
<<この任務を全うする間ならば…この時代の滞在を許そう。汝の面倒は使者に任せる>>
「寛大な御言葉…恐悦至極に御座います。この葛葉ライドウ…命を懸けてでも果たしてみせます」
<<無事な帰還を期待する。汝には大正時代の帝都を守る使命があるのを忘れるでないぞ>>
謁見の間から解放されたライドウが神宮を後にする。
神宮の門を超えた時、横にいる外国人のような男に視線を向けたようだ。
「やぁ、待っていたよ」
青い目をした外国人がライドウに振り向く。
大正モダンな紳士服を纏い、キャスケット帽子を被る姿。
手には黒いバックが持たれており、銀の山羊飾りも施されていたようだ。
「君はこの時代の歪みを正す…キッカケになるかもしれない存在だ」
「お前は…一体……?」
「あるいは…君自身がこの世界に歪みをもたらすキッカケになるかもしれない」
近寄ってきた紳士男に警戒感を示すが、今の彼は丸腰である。
それでも襲い掛かってくるのならば徒手空拳でも十分戦えると考えていたようだ。
「私は君に期待をしている。彼が私の
「何を言っているのだ……?」
「今は分からなくてもいい。いずれ運命は君達をめぐり合わせるだろう…宿命の対決となる」
そう言い残して紳士男は去っていく。
何を伝えたいのかも分からない男からは視線を逸らす。
目を向けた先に立っていたのはヤタガラスの使者であったようだ。
「三羽鳥様より、貴方がこの時代で暮らしていけるだけの手配をせよと仰せつかっております」
「また世話になる。いや…違うか。貴女は自分が出会ったヤタガラスの使者ではあるまい?」
「その通りです。貴方のサポートを行ったヤタガラスの使者は…私の先祖に当たります」
「そちらにも色々と事情があるのだろう。すまないが…この時代での世話を任せる」
「その前に…貴方は葛葉の里に向かうべきです」
「葛葉の里に向かうだと…?」
「葛葉ライドウの名を持つ貴方がこの時代で任務をこなす。葛葉一族もいい顔をしません」
「分かった…彼らにも事情を説明してくる」
車に乗り込んだライドウは葛葉の里に向かっていく。
心中穏やかではないが、それでも葛葉一族の者としての責任もあるだろう。
ライドウを乗せた車は葛葉一族の里へと向かうために走行していく。
彼を見送るようにして帰り道を歩いていた紳士男が顔を向けてきたようだ。
窓ガラスから見えた紳士男の表情には、微笑みが浮かんでいた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
そこは葛葉一族の御神木を祭る巨大社。
社の神域奥の大広間には葛葉一族を見守ってきた巨大三本松がそびえ立つ。
三本松の下側は拝殿の作りをしており、大きな篝火が暗い社内を照らす。
拝殿に向けて黒い学生服と学生帽を纏う人物が正座している光景が広がっていた。
<<まさか…14代目葛葉ライドウが21世紀の地に現れるとはな>>
威厳に満ちた老人の声が神域内に響く。
それはまるで葛葉御神木である三本松から響いてくるかのようだ。
<<事情は聞いておる。若さゆえの過ちであろうとも…今回は特例だ。活動を認めよう>>
「有難き御言葉…感謝します」
ライドウは葛葉御神木に向けて平伏を行う。
顔を上げた時、ばつが悪いような態度をした言葉が発せられたようだ。
<<実はな…丁度良かったのだ。この時代の葛葉ライドウの現在は……不在状態なのだ>>
「自分の後を継いでくれた葛葉ライドウが不在状態…?」
<<汝より後の葛葉ライドウの体たらくには呆れておった。修験場を超えられる者すらおらん>>
「今の葛葉一族が…それ程までの人材不足に陥っていたとは…」
<<現代の葛葉四天王は既に崩壊しておる。後継者が見つからないためにな…少子化のせいだ>>
「では…自分がこの時代で活動を行っても、現代の葛葉ライドウが文句を言うこともないと?」
<<我らも立場が弱くなった…。大正時代の葛葉ライドウに頼らねばならぬ程にまでな…>>
顔を上げて立ち上がったライドウに向けて三本松は指令を下す。
<<ヤタガラスの任務を全うして欲しい。力なき我ら宗家に代わり…どうか頼むぞ>>
「承知した。14代目の葛葉ライドウとして…必ずや人修羅を封印してみせよう」
<<我らからも支援がある。現代の葛葉ライドウに与えるべきだった従者を汝に託そう>>
ライドウは視線を左側に向けていく。
三本松の奥から現れる小さな動物の姿を見たライドウが驚きの声を上げた。
「ゴウト!!?」
現れたのはかつてライドウと共に超力兵団事件の解決に尽力してくれた心強い仲魔の姿。
業斗童子(ゴウトドウジ)と呼ばれる小さな黒猫であった。
「またしても、うぬの共をするか。我らにはよほどの縁があるらしい」
「バカな……どうして!?」
ライドウの脳裏に浮かぶのは超力超神が帝都に顕現した時の記憶。
仲魔と呼べたゴウトは自らの命を犠牲にして超力超神の力の源を破壊してくれた。
その時に帰らぬ人となっていたのだが、生きていたようだ。
ライドウを見上げるゴウトが猫の鳴き声を上げる。
しかしデビルサマナーであるライドウには彼の言葉が分かるようだ。
「懐かしい反応だな。超力兵団事件が終わった後のうぬと再会した時も…同じ反応を向けてきた」
ゴウトは事情を説明してくれる。
納得したライドウに向けてゴウトは従者としての使命を語ってくれた。
「このゴウト…こんな黒猫のナリとて我も葛葉一族…うぬよりも前進よ。お目付け役となろう」
「フッ……また一緒だな、ゴウト?」
「ウム、今日からまた一緒だ。我は嬉しく思うぞ…今までの葛葉ライドウの中ではうぬが最強だ」
ライドウとゴウトは三本松に視線を向ける。
葛葉一族を見守ってきた御神木は提案をしてきたようだ。
「人修羅の力はあまりにも強大。今の汝では及ばないやもしれん…修行が必要だろう」
三本松は修験場を利用して悪魔召喚師としての力量を上げよと提案をしてくる。
修験場は葛葉ライドウ襲名の儀式が執り行われる場であり、実戦形式の演舞を行える空間だ。
また葛葉一族の修練場としても利用されている道場のような場所であった。
「ライドウ、うぬの力は知っている。これから先のうぬならば…二体の悪魔召喚を行えるだろう」
「ネビロスも言っていたが…自分にそれほどの力があるのだろうか?」
「謙遜するな。うぬよりも先を知る我らが保障するのだ…うぬならば身につけられよう」
「分かった。一刻も早くデビルサマナーとしての力量を上げ、人修羅討伐に向かうとしよう」
ライドウはこれより一ヵ月間は葛葉の里において修行の日々を送っていくのだろう。
2020年の1月も終わりを迎える日。
修行を終えたライドウはフル装備を纏った状態で三本松の前に立つ。
<<見事だ。二体同時召喚を身につけられると信じておった。今の汝はかつてよりも強い>>
「では…行ってくる」
<<最後に、葛葉一族の伝統に則り締めの儀礼として…一本締めを執り行わせていただく>>
ライドウとゴウトは両手と両前足を上げていく。
<<我が国の永久なる秩序の健在とぉ…汝らの輝かしい前途を祈りぃ……ゐよぉぉぉ!!>>
一本締めの儀礼として音が響くほど強く手と前足が叩かれた。
<<…在り難し。これにて葛葉一族が慣例、定時報告会の終了である…>>
これを最後に、威厳に満ちた声は聞こえなくなった。
「では行くか、ライドウ。我らの戦いの地へ…」
ライドウはゴウトと共に三本松が祭られた大広間を後にする。
彼らが向かう地とは人修羅が暮らす神浜市となろう。
車に乗り込み神浜に向かうライドウに振り向き、ゴウトが言葉を送ってくれる。
「厄介事に巻き込まれたようだが、これもまた帝都の地が置かれた関東を守るための戦いだ」
「…承知している」
「
ライドウは山羊の飾りを身に付けた金髪の外国人から言葉を送られている。
これは宿命の対決となるだろうと。
魔法少女達が生きる世界に流れ着いた葛葉ライドウは再び刃を振るうことになるだろう。
ヤタガラスのデビルサマナーとして。
時女静香編はまどマギキャラにこれでもかとメガテン的こじつけを喰らわせる物語となりましたね(汗)
ライドウ対人修羅の足音が聞こえてくる形で五章はお終いです。
六章も縁がありましたら読んでいただけると凄く嬉しいです。