人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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サイドストーリー
198話 恐怖のバレンタイン


神浜の魔法少女社会に吹き荒れたフェミニズム問題が解決してから数日が過ぎていく。

 

現在の尚紀は探偵職務をこなす毎日を送っていた。

 

舞い込んできた虐め調査案件のため工匠区に訪れているようだ。

 

工匠学舎の生徒達の張り込み捜査中に虐め現場を目撃してカメラ撮影を行っている。

 

(よし、虐めの現場証拠もこれだけ揃えればいいだろう。後は法的措置を親族が行うだけだな)

 

隠れていた場所から出て来た彼が証拠画像を確認した後、虐め現場に近寄っていく。

 

彼に脅された加害者達は蜘蛛の子を散らすようにして逃げていったようだ。

 

虐められていた工匠学舎の女子生徒から御礼を言われた後、彼は現場から去っていく。

 

工匠区から南凪区に向かおうとしたのだが、その足が止まる。

 

「…やはり気になるな」

 

尚紀は踵を返して工匠区へと戻っていくようだ。

 

場所は工匠区にある天音月咲の実家である竹細工工房に移る。

 

家の庭では月咲が大量の洗濯物を干す作業が続いているようなのだが…その表情は重い。

 

「…これからどうなるんだろう?ウチの家…大丈夫なのかな?」

 

彼女は不安に怯える毎日を送っている。

 

フェミニズム問題の時、彼女の父親である竹細工工房の代表者はDV容疑で警察に逮捕された。

 

勿論待っていたのは竹細工工房の評判が地の底まで落ちる現実。

 

竹細工工房の商品を店に置いてくれていた取引先から取引停止の電話が鳴り響く毎日。

 

竹細工工房の弟子達は商品製造の仕事も無くなり、自分達で営業を行いに行くしかない。

 

弟子のタケの叫びにより鼓舞された弟子達は諦めまいと企業存続の努力を続けてくれている。

 

これが女を守る男達の愛だったのだと痛感した月咲は本気で後悔していた。

 

魔法少女だけで面白おかしく生きていけるという、我儘極まったフェミニズムを掲げたことを。

 

「同性愛だけで生きていける程…世の中甘くないよ。女は男の力がないと…生きていけない」

 

人間が生きていくにはあらゆる縁が必要だ。

 

それこそが社会で働く人々の姿であり、それを守りたい精神こそが社会主義精神。

 

天音月咲の心の中にも強い社会主義精神が芽生えようとしてくれている。

 

「もうウチ…我儘を言わない。魔法少女社会だけでなく男社会も守っていく…大切な存在だから」

 

俯いたまま家事をこなす彼女だからこそ、門前で隠れている男の姿には気が付かない。

 

月咲の様子を伺いに来ていたのは尚紀だったようだ。

 

「あ…あの…月咲ちゃんに何か用事でしょうか?」

 

声が聞こえた方に視線を向ける。

 

現れたのは同じように心配して寄り添ってくれる優しい姉であったようだ。

 

「用事という程じゃない。近くで仕事をしていてな…帰る前に様子を見てみようと思ったんだ」

 

「それは…まだ月咲ちゃんの事を…疑っているということでしょうか?」

 

不安そうな顔を見せてくる月夜を見て、彼はついてくるよう促す。

 

工業区の近くにあった公園のベンチに座り、顔を向けてくる月夜に振り向き口を開きだす。

 

「俺はお前達との戦いの中で…人を信じる大切さを知った」

 

「なら、どうして月咲ちゃんを疑うような行動を起こすのですか?矛盾しています…」

 

「信じる気持ちを失えば加害者にしかなりえない。だが…信じれば信じる程、先に備えられない」

 

彼は他人を疑うことの大切さも知っているし、青葉ちかや佐倉杏子にも語っている。

 

他人を信じたい気持ちとは、自分勝手な理想を信じたいだけであり確証など得られない。

 

時女一族がまだ神浜にいてくれた頃、そんな話を青葉ちかに語ったことがあった。

 

……………。

 

「他人を疑う事は恥ずかしいことじゃない。むしろ、社会を生きていく上で絶対に必要なものだ」

 

ちかのために建築したログハウスが完成した頃、尚紀は自宅近くにあるちかの家に来ている。

 

山小屋のテラス椅子に2人は座り、ちかは尚紀の話を真剣に聞いてくれている。

 

「お前は自然ガイドなんだろ?なら、登山家達の遭難がなぜ起きるのかは…俺より知ってる筈だ」

 

「はい…全ては登山家達の判断の間違いです。大丈夫だろうと山を信じたために遭難するんです」

 

「自然も人間も突然牙を向けてくる。それに備えるには、自然や人間を疑う気持ちが大切なんだ」

 

「山を信じられなくなってしまいそうです…。だけど、その気持ちがないと先には備えられない」

 

「自然も人間も一面だけで判断してはならない。だからこそ、先を知る為には疑う必要がある」

 

「疑うからこそ…調べる努力に繋がる。学校のテスト問題だって疑うからこそ調べるんですね…」

 

「勉強では出来るのに、人間関係という別の問題になると応用が効かなくなる。人の悪い癖だな」

 

「私…人を疑う自分に疑問を持ってました。だけど尚紀さんのお陰で正しかったと分かりました」

 

「人は疑うからこそ知る努力を行える。だからこそ、情報屋とも言える探偵が必要とされるんだ」

 

「フフッ♪尚紀さんが探偵になったのは、ある意味必然だったのかも知れませんね」

 

「お前が自然ガイドになったのと同じようなものだな。お互いに…疑う気持ちを大切にしような」

 

「はいっ♪」

 

……………。

 

「探偵の仕事も情報の確証が得られるまで捜査は続く。信じるだけでは情報の確証は得られない」

 

「信じたい気持ちに振り回されるのではなく、信じたい気持ちと共に疑い続ける…ですか?」

 

「信じる事と疑う事の調和こそが大切だと思う。だからこそ、俺はNEUTRALの選択を選ぶ」

 

「信じてあげるフリを続けながらも…月咲ちゃん達のその後を調べ続けるのですね?」

 

「ももこの事も信じてやりたい。だけど、それと同時に疑いの眼差しも向け続けたいが…難しい」

 

尚紀は探偵の職務だけでなく様々な問題も抱え込む多忙な身。

 

だからこそ時間に追い回され、疑うための捜査を行うことさえ実行し辛い。

 

今日だって偶々時間を作れただけに過ぎず、これから先も捜査を行えるかは分からないと語る。

 

「だったら!わたくしが月咲ちゃんを見張っていきます!尚紀さんの負担を背負わせて下さい!」

 

「そういえば、お前は俺の前でそんな言葉を言ってたな」

 

「ですが…わたくしもエゴを抱えた人間です。だからこそ…フェミの理屈に惑わされました…」

 

「苦い経験を積めたのなら、エゴを縛る鎖にも出来る。今度こそ任せて大丈夫か?」

 

「はい!貴方に誓って…もう二度と惑わされずに生きると誓います!」

 

月夜の言葉を信じてあげるしかない。

 

疑って情報を集めようにも、体が一つしかないのが人の限界である。

 

人間は何かを選択した時点で、何かを諦めることしか出来ないのだから。

 

2人は頷き合って立ち上がり、尚紀は事務所に帰ろうとするのだが呼び止められたようだ。

 

「あ…あの、尚紀さん」

 

「何だよ、まだあるのか?」

 

「新しい長から貴方の話は聞いてます。月咲ちゃんのために…弁護士費用を払ってくれたことを」

 

後ろに振り向けば頬を染めながら恥ずかしそうな表情を浮かべてくる月夜がいる。

 

モジモジした態度を見せられて首を傾げていたが、恥ずかしながらもお礼を言ってくる。

 

「尚紀さん…本当に有難う御座います。月咲ちゃん共々、貴方に御礼がしたいんです」

 

「見返りを求めるつもりはない。俺は社会主義者であり、皆の幸福な人生こそが俺の幸福だ」

 

「そんなこと言わずに受け取って下さいまし!もう直ぐバレンタインですし…」

 

社会人になってからというもの、季節イベントを意識することもなくなってしまった尚紀である。

 

女子から気持ちの籠ったチョコを何個受け取れるのかを周りと競い合った学生時代を思い出す。

 

懐かしい気持ちとなり口元にも微笑みを浮かべるのだが、彼の態度は変わらない。

 

「だから、そんな気を使ってもらわなくてもいい。俺は社会人だから学生気分には浸れない…」

 

「ダーメーでーす!水名の女として礼儀知らずになりたくはありません!渡させて下さい!」

 

「そうは言うがな…」

 

結局押し切られてしまい、渋々聖探偵事務所の住所が書かれた名刺を渡すことになる。

 

バレンタインになれば月夜と月咲の愛情が籠った品を職場に持ってきてくれる事になるのだが…。

 

「…丈二と瑠偉にからかわれる事になるよな?絶対なるに決まってる…どうしよう?」

 

職場仲間だけでなく、家に帰れば仲魔達からもからかわれる未来は想像に難くない。

 

大きく溜息をつきながらも、朴念仁な男はバレンタイン当日を迎えることになっていったのだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

バレンタイン。

 

それは女の戦場とも呼ばれている。

 

女が思い人にチョコを送り、ハートを射止めるといった歌が歌われる程の争奪戦。

 

だからこそ、魔法少女達もこの季節イベントには力が入っているようだ。

 

普段料理などしない魔法少女達は料理が得意な魔法少女の元に赴き、共にチョコを作っている。

 

しかし料理が好きなのはいいのだが、周りに甚大な被害をもたらす天災を生み出す者達がいた。

 

彼女達も思い人に贈るチョコを作ろうとするのだが、周りの魔法少女達は止めに入ってくる。

 

天災料理を生み出す3人娘は集まり合い、秘密裏にしてチョコを生み出そうと暗躍していた。

 

「業魔殿にはキッチンスペースがあったのね。知らなかったわ」

 

「そうですね、このはさん。私達のチョコ作りのためにキッチンを用意してくれたのですか?」

 

前を歩くみたまが振り返り、後ろの常盤ななかと静海このはに笑顔を向けてくれる。

 

「ここでは私しか利用してないけど~女の子が働く場所だしキッチンは常備しておかなくちゃ♪」

 

「フフッ♪みたまさんののほほんな態度を見るのは久しぶりな気がするわね」

 

「そうですね、色々な出来事も起きましたし。でも、尚紀さんのお陰で街は変われました」

 

「尚紀さんのお陰で私たち姉妹も救われたのよ。だから今日は頑張らないと♪」

 

「ええ♪もう直ぐバレンタインですし…私も今日は本気で料理に打ち込みますね♪」

 

「あらあら?もしかして、常盤さんとこのはさんも尚紀さんが好きになっちゃったのかしら~?」

 

それを言われた2人の顔が真っ赤に染まり、縮こまってしまう。

 

勿論みたまも尚紀の事が大好きな女の子である。

 

だからこそ思い人のハートを射止めるチョコを生み出さなければならないわけだ…秘密裏にでも。

 

「どうやら私達はライバル関係みたいね?でもいいわ、誰を選ぶかは尚紀さんが決めることだし」

 

「昨日の敵は今日の友~♪私が仕入れておいた調味料がふんだんにあるから期待して頂戴ね♪」

 

ルンルン気分でキッチンスペースに入っていく3人娘達。

 

今日の業魔殿では調整の仕事も悪魔学講座もお休みしているため周囲には誰もいない。

 

ヴィクトルとイッポンダタラにも秘密にしているため、騒動は起きてしまうのだ。

 

「「なんだ!!?」」

 

突然の爆発音に慌てた声を出すヴィクトルとイッポンダタラ。

 

合体事故が起きた時の警報が鳴り響いたため、2人は急ぎ足で悪魔合体施設内に駆け込む。

 

「誰もいないぞ?警報装置の誤作動か何かか?」

 

「それだとさっきの爆発音の説明がつかないでありやがります」

 

「それに通路内で感じたあの酷い異臭は何だったのだ?」

 

「ま、まさか…久しぶりのアレでやがりますか…?」

 

みたま料理を振舞われたことがあるヴィクトルとイッポンダタラの顔が青くなっていく。

 

その頃、爆発が起きてしまったキッチンスペース内では…。

 

「「「ゲフッ」」」

 

黒い煙を吐き出したのは、服がボロボロになり頭がアフロになってしまった3人娘達。

 

爆発被害を受けたのだろうが…なぜ料理が爆発するのか説明出来る科学はこの世に存在しない。

 

「…おかしいわね。チョコの材料と他にも色々混ぜ合わせたら…美味しくなると思ったのだけど」

 

「みたまさんが用意した調味料の数々は…スーパーで見かけない物ばかりでしたよね?」

 

「アハ…あれはね、ヴィクトル叔父様が悪魔研究に使っていた品の数々なのよ~」

 

「悪魔研究に使っていた品ですって!?」

 

「どうしてそんな物を用意したのです!?」

 

「ええと~…尚紀さんは悪魔でしょ?だから悪魔の口にも合うようなチョコを作りたいな~と…」

 

しばしの沈黙の後、2人は頷く。

 

「なるほど…一理あるわね」

 

「尚紀さんは悪魔ですし、悪魔にあった調味料を混ぜ合わせるのもまた愛情というものです」

 

みたま同様、このはとななかも料理に関しては常人では理解出来ない思考をしていたようだ。

 

<<ウルィィィィィ……>>

 

爆発したキッチンから跳ね飛ばされた三つの鍋の中には、物体XYZの姿が蠢ている。

 

「何の騒ぎだね!?」

 

慌ててヴィクトル達もキッチンに入ってくるのだが、鍋から這い出す存在に視線が向く。

 

「こ…これはまさか…」

 

「ちょ…あ…ちょ…!?台所で悪魔合体だとォォォォーーッ!!?」

 

3人娘も鍋の方に振り向く。

 

這い出してくるチョコらしき存在を見た後、はにかんだ笑みを浮かべてくる。

 

「これ、尚紀さんに食べてもらおうと思って作ったチョコレートなのよ~♪」

 

「愛情がたっぷり詰まってるから…食べられると思うわ」

 

「そうですね。形は少々崩れてますが、私達の愛情なら詰まってます」

 

蠢く悪魔らしき物体を見たヴィクトルとイッポンダタラは顔を向け合いヒソヒソ声を発する。

 

(うぉれ…人修羅に同情するぞ。まさか台所で悪魔を作れるなんて…)

 

(まぁ…錬金術は台所から生まれたというぐらいだからな。みたま君の未来が末恐ろしいよ)

 

(あいつらに悪魔合体させるんじゃネェェー!!合体事故のオンパレードだァァァァ!!)

 

こうして魔法少女達のサバト儀式も終わりを迎え、バレンタインの日を迎えることとなっていく。

 

果たして彼女達が生み出したのはチョコなのか?悪魔なのか?

 

それは食べる本人が判断するしかなかったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

バレンタイン当日。

 

今日も尚紀は仕事であるが、クリスには乗らずに徒歩で探偵事務所へと向かう。

 

季節イベントに関わる事となったので、クリスを連れて行けば騒動を起こすのは分かっていた。

 

仕事も終わりを迎える夕方頃。

 

帰宅しようと事務所から出てくる尚紀の顔は項垂れているようだ。

 

「ハァ…仕事が始まる朝早くからあの姉妹が来るとはなぁ」

 

どうやら天音姉妹は朝早くに押しかけてきてバレンタインの本命チョコを渡してくれたようだ。

 

これには丈二と瑠偉もニヤニヤした表情となり、仕事中はずっとからかわれたようである。

 

「学生時代を思い出すな…。千晶からチョコを貰えた時は…勇からからかわれたもんだよ」

 

バレンタインチョコを入れたショルダーバックを肩にかけ、帰路についていく。

 

南凪区の道を歩いていた時、声をかけてくる少女達がいた。

 

「尚紀さーん!」

 

声がした方に振り向く。

 

「葉月にあやめ…それに美雨とあきらにかこもいるじゃないか?」

 

5人の魔法少女達は尚紀の仕事が終わるのを見計らうためにここで待っていたようだ。

 

「お仕事お疲れ様です尚紀さん♪」

 

「あちし達、ここで尚紀お兄ちゃんの帰りを待ってたんだよー!」

 

「俺に何か用事なのか?」

 

「ナオキ、社会人は季節のイベントも考えないぐらいに余裕のない生活を送てるのカ?」

 

「えへへ♪ボク達は女の子だよ?今日はバレンタインデーだし…もちろん頑張っちゃったよ♪」

 

「そうそう♪アタシも腕によりをかけて作っちゃったんだ~♪」

 

5人の少女達の手に持たれているのは可愛いラッピング袋に包まれた本命チョコ。

 

わざわざ仕事が終わるまで待ってくれた上で気持ちの籠った贈り物を女子から渡される。

 

これには不愛想な尚紀の顔つきも照れた表情を浮かべてしまう。

 

彼女達の手作りだと聞かされたため、渋々受け取っていきバックの中に詰めていった。

 

「労働の後は体も疲れるネ。甘い物を食べて体も心も癒すといいヨ♪」

 

「そうだな…甘いチョコはウイスキーのツマミとしては優れてる。有難く頂くよ」

 

何かに気が付いたのか、彼は周囲を見回していく。

 

「ななかとこのははいないのか?」

 

「えっとね…このはなんだけど、学校から帰る時に何処かに行っちゃったんだよ」

 

「アタシも何処に行くのかは聞かされなかったんだよね~。でも、なんか怪しい雰囲気だったよ」

 

「ボクも葉月さんとあやめちゃんと同じく、帰宅中にななかが何処かに行くのを見たきりだね」

 

「私もあの2人については何処か不気味だったんです。バレンタインが近いのに大人しかったし」

 

気にしても仕方ないと判断した尚紀は皆に礼を言った後、帰路につくため歩いていく。

 

栄区に入った頃、再び少女達から呼び止められる。

 

やってきたのは八雲みかげと千秋理子と観鳥令、それに工匠学舎の4人組魔法少女達だった。

 

「みかげに理子に令…それにみくらとてまりにせいら…後はたしか…」

 

「闇の覇王をやってるフォートレス・ザ・ウィザードのるいたんだよ!なおたん♪」

 

「だから!?普段はその名前をみんなの前で言わないでったらー!ソウルジェムが濁る!!」

 

「東の魔法少女連中のご登場か。お前らの手に持ってるのはもしかして…」

 

「えへへ♪お母さんに習いながら作ったんです!お口に合うといいんですけど…」

 

「ミィもママから作り方を教えてもらえたから作ったの!学生の頃を思い出すって言ってたなー」

 

「小学生なのに頑張ったんだな。有難く頂くとするよ」

 

横を向けば、オドオドした態度をしている令に目がいく。

 

横にいるせいらの肘に押された彼女が尚紀の前にやってくる。

 

「え…えと、ね?観鳥さんはジャーナリストを目指してて…女子力は高い方じゃないけど…」

 

彼女の手に持たれているのは本命チョコ。

 

手を見ればチョコを刻むために慣れない包丁を使ったせいか絆創膏が巻かれているようだ。

 

頬を染めながらも感謝の意思を伝えようとしてくれている彼女を見て、尚紀も微笑んでくれる。

 

「お前も頑張ったようだな、令。ありがとう」

 

その言葉が聞けた令の顔が真っ赤になっていく。

 

それでも努力が報われたような気分となり、赤面したままはにかむ笑みを浮かべてくれるのだ。

 

そんな光景を見ていたみかげは膨れっ面になっていく。

 

「うぅ…恋のライバルが多過ぎるよぉ!でもミィだって…負けないもん!」

 

「何を負けたくないの、みかげちゃん?」

 

「りこたんはミィより子供だから気にしたらダメ!」

 

女の嫉妬を爆発させる小学生の姿を気にすることもなく、彼は別の気になることを口にする。

 

「東の魔法少女が揃って来るのなら、みたまは来なかったのか?」

 

「それが…私とてまりと三穂野が誘ったのだけど、用事があるからと言って何処かに行ったのよ」

 

「なんだか怪しい雰囲気を出してた気がするのよね…」

 

「うん…映画で例えるならマッドサイエンティストな悪役が何か企んでるような顔だったなぁ…」

 

「ミィも最近の姉ちゃは不自然だったと思う。バレンタインが近いのに家の台所に近寄らないし」

 

「僕には分かる…みたまさんはきっと、禁断の魔術を用いて何かを生み出そうとしているのだと」

 

中二病な水樹塁の適当発言であったが、意外にも的を得ている。

 

気にしても仕方が無いと判断した尚紀は皆に礼を言い、帰路につくため街の北を目指していく。

 

中央区に入る頃にはまた魔法少女達に呼び止められる。

 

やってきたのは中央の元リーダーの都ひなのと木崎衣美里、それに綾野梨花と五十鈴れん。

 

同じようにしてチョコを頂いてしまったため、流石にチョコの数も持ちきれなくなっていく。

 

参京区に入る頃にもまたまた魔法少女達に呼び止められてしまった。

 

現れたのは美凪ささら、竜城明日香、保澄雫、阿見莉愛である。

 

同じようにチョコを渡されてしまったため、彼はコンビニ袋を用意してチョコを入れたようだ。

 

「なんか…とんでもない量のチョコを貰うことになってるんだが?」

 

項垂れながら北養区にまで帰ってきた時、追い打ちをかけるような少女達が現れる。

 

「うひゃーっ!?とんでもない量のバレンタインチョコだよー!」

 

「この素っ頓狂な叫び声…まさかあいつらも…?」

 

視線を向ける先から来たのはみかづき荘組である。

 

七海やちよ、由比鶴乃、梓みふゆ、雪乃かなえ、安名メルの五人組であった。

 

「フフッ♪モテる男は辛いわね、尚紀」

 

「まぁ…尚紀はモテるとあたしも思うよ」

 

「そうですねー。魔法少女だけでなく、きっと人間達からもモテモテになれますよ」

 

「だからこそ、彼は神浜の英雄なんですよ」

 

にこやかな笑みを浮かべる5人組の手にも本命チョコが持たれている。

 

「それよりもみふゆ?貴女にはお見合い相手の男の人がいると思うけど…大丈夫なの?」

 

「いいっ!?やっちゃん…ここでそれを暴露しちゃいます!?」

 

「えっ…それは初耳。あたしが死んだ後、みふゆはそんな事になってたんだ?」

 

「これってもしかして…浮気案件?いっけないんだ~♪」

 

「だって!お見合い相手なんて…一回しか会った事がないですし!親が勝手に決めた相手です!」

 

「みふゆさんにだって相手を選ぶ権利があるとボクは思いますよ」

 

「あぁ…メルさん!私の味方はメルさんだけですね!」

 

女が5人揃えば姦しいどころではすまないのは時女一族と関わった事があるので知っている。

 

大きく溜息をつきながらも、尚紀はやちよ達の本命チョコを受け取っていくようだ。

 

「ところで、最近業魔殿の調整屋がお休みしてるんだけど…何か聞いてない?」

 

「ううん、私も聞いてない」

 

「お前らもみたまの姿を見かけないのか?」

 

「そうなんですよ…何処かに隠れて何かしてるのかも?」

 

「あたしとメルは業魔殿に行く機会がないから知らなかったなぁ…」

 

「むっ!?」

 

突然の予知の光景が視えてしまったメルの顔が青くなっていく。

 

「どうした?」

 

「視えます…こ、これは…蠢く黒い物体…もしかして…大きなチョコレート!?」

 

「蠢く大きなチョコレートだと?」

 

「あぁ…この恐ろしい存在が近くにまで来ています!まるで這い寄る混沌の塊ですよ!!」

 

「魔獣じゃないわよね…?もしかして悪魔かしら?」

 

「分からないが俺も警戒だけはしておこう。貰ったチョコレートは有難く受け取っておくよ」

 

みかづき荘組と別れた尚紀はコンビニ袋の中を覗いてみる。

 

「合計で26個もチョコを貰っちまった…。学生時代なら勇になんて言われるんだろうな…」

 

自分がどうしてこんなにも少女達からモテるのか、皆目見当がつかない様子。

 

朴念仁だと言われる男の所以の光景であった。

 

……………。

 

北養区の街がざわついている。

 

周囲の人々が驚いているのは道行く3人娘達の異様な光景に対してだ。

 

学生服を着た3人娘が押しているのは運搬台車の上に置かれた大きなラッピング箱。

 

一体何を運んでいるのか見当もつかず、不気味に思っているのだろう。

 

「流石に重たいわね…でも、この重さが私達の尚紀さんへの愛情だと思えば苦しくないわ」

 

「北養区の坂道を登るのは大変ですけど頑張りましょう」

 

「フフッ♪この日のために秘密にしてきた特性のバレンタインチョコ♪尚紀さんも喜ぶわよ♪」

 

メルの予知によって見えた光景とは這い寄る混沌。

 

不穏な気配を撒き散らす存在が尚紀の家を目指して北上していく。

 

バレンタインイベントの最後を締めくくるに相応しい贈り物が届けられる時は近かったようだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

クリスに見つからないよう尚紀はそそくさと家の中に入っていく。

 

リビングでくつろいでいる仲魔達が出迎えてくれるのだが、視線がコンビニ袋に向いてしまう。

 

何が入っているのかを白状させられたため、盛大にからかわれる始末。

 

そんな時、玄関のチャイムが鳴り響く。

 

「あら、誰かしら?私が出るわね」

 

悪魔化したネコマタが玄関に向かって行く。

 

程なくして、ネコマタが連れてきた人物達をリビングにまで案内するのだが…。

 

「こんばんわ~尚紀さん♪」

 

「夜分遅くにお邪魔します♪」

 

「尚紀さんの家に入るのは初めてだけど…とっても素敵な家なのね♪」

 

「お、お前ら…何で突然俺の家に?」

 

やってきたのは八雲みたまと常盤ななかと静海このはである。

 

新しく家の住人になったクーフーリン達とは初対面であったため、ネコマタが紹介してくれる。

 

「紹介するわ。神浜のメシマズ三銃士よ」

 

「「メシマズ三銃士!?」」

 

「食材を爆弾に変える女、静海このはよ」

 

「後で殺すわ♪」

 

「飲み物を猛毒に変える女、常盤ななかよ」

 

「後で殺します♪」

 

「味覚異常者な上に料理も地獄、八雲みたまよ」

 

「後で殺すわぁ~♪」

 

「ナチュラルに喧嘩売ってんじゃねーよ!?」

 

「あら?私は尚紀の口から聞いたことを語っているだけよ?」

 

自分達はそういう目で見られていたのかと尚紀にジト目を向けてくる3人娘。

 

冷や汗をかきつつ彼もクーフーリンやセイテンタイセイ、それにケルベロスを紹介してくれた。

 

「もしかして…お前らが訪れた理由ってのは…」

 

「そう!そのまさかよ~尚紀さん♪」

 

「私達はね、みたまさんの協力の下でバレンタインチョコを作ったの♪」

 

「少々形は崩れてしまいましたが…それでもこのチョコは私達の感謝の気持ちが詰まってます♪」

 

そう言い残して3人娘達は家の外に置いてある運搬台車の元へと歩いていく。

 

尚紀とクーフーリン達は向かい合うようにして不穏な空気を出しているようだ。

 

「おい…尚紀。私の気のせいかもしれんが…外から酷い異臭を感じるぞ」

 

「気ノセイデハナイ…我ノ鼻モ感ジテイル…コノ悪臭ハタシカ…」

 

「微妙に悪魔の魔力まで感じさせやがる…一体あの小娘達は何を用意したんだ?」

 

「俺に聞くなよ…」

 

そうこう言っているうちに3人娘達が戻ってくる。

 

まるで引っ越し業者のような大荷物を抱えてくるわけなのだが…。

 

「ま…まさか…その大きなラッピング箱の中身が…」

 

「私達の愛が籠った手作りチョコレートよ~♪」

 

「材料を多く入れ過ぎて肥大化しちゃったけど、男の子だし大丈夫よね?」

 

「一つ聞かせてくれ…味見はしたか?」

 

「必要なのですか?」

 

「必要だよ!!!」

 

ルンルン気分で箱を開けようとするメシマズ三銃士。

 

危険を察知したケルベロスが威嚇ポーズをしながら唸り声を上げてしまう。

 

男達は事の成り行きを青い表情を浮かべたまま見守ったようだ。

 

さて、這い寄る混沌の中身とは…?

 

「「「ジャジャーーン♪♪♪」」」

 

ラッピングのリボンを外せば箱が四方に分れるようにして側面が倒れ込む。

 

中から現れた存在とは、かつてのボルテクス界でも見た事がある存在であった。

 

「「「スライム共じゃねぇーかぁーーーっ!!?」」」

 

みたまの箱からはチョコカラーなブラックウーズ。

 

ななかの箱からはチョコカラーなブロブ。

 

このはの箱からはチョコカラーなスライム。

 

尚紀の前で整列して並び、恐ろしい呻き声を上げていく。

 

<<ピチャチャチャ!ズズー!ズズズズー!!……ヌル?>>

 

<<グゲグゲグゲゲェ!おでノ味…ダイジニジジジジジデグレェ>>

 

<<おでバァ…宇宙イヂィ…美美美美ジイィ!!>>

 

もはや開いた口が塞がらない男悪魔達。

 

ネコマタとケットシーは危機を察知してトンズラしていく。

 

「お…おい…これ、どうやって……?」

 

「えっ?台所で作った私達のチョコレートよ?」

 

「台所で悪魔を作れるだと!?」

 

「魔法少女って連中は悪魔よりも恐ろしいじゃねーか!?」

 

後ずさる尚紀の前にゆっくりと迫っていくスライム悪魔達。

 

「私も色々と料理を作るけど~動ける料理を作れたのは初めてよ~」

 

「きっとみたまさんの愛情が籠ったチョコが奇跡を起こしたのよ。それは私達も同じだけど」

 

「さぁさぁ尚紀さん♪遠慮をなさらずタップリ食べて下さいね♪」

 

「いや…俺じゃなくて…こういうのはケルベロスの方が…」

 

視線を向ければ、既にケルベロスもトンズラしている。

 

獣悪魔である自分に振られると分かっていたため素早い判断であった。

 

「な…なぁお前ら?俺は腹の具合が悪いから…これ食べて……」

 

「悪いが尚紀…今回ばかりは逃げさせてもらう」

 

「こんなの喰ったら悪魔でも死んじまうからなぁ…」

 

仲魔達からも見捨てられた尚紀の背後には既に3人娘が移動している。

 

「は、放せーーッッ!!?」

 

両腕と腰をがっちり掴んでくる3人娘の恋心パワーな腕力の前では、尚紀とて身動き出来ない。

 

「このチョコは賢いのよ。私達が命令したら相手に向かって飛び込んでいくし♪」

 

「これなら悪魔らしくマルカジリ出来ますね♪」

 

「オレサマ オマエ マルカジリな食いっぷりが見たいわ~♪」

 

<<好ギガァ!大大大大好ギガァ!!>>

 

<<グゲグゲグゲゲェ!おでノながま…ダイジニジジジジジデグレェ>>

 

迫りくるスライム共が一斉に飛びついてくる。

 

<<やめろぉぉぉーーーッッ!!!?>>

 

腕を掴んだななかとこのはから口を無理やり開けさせられ、ついには悲劇の瞬間が訪れる。

 

「オボボボボボボボボボーーーッッ!!!!」

 

飛びつきながら液状化したスライム共が尚紀の口に突撃を行う。

 

口の中にどんどん入り込んでいき、尚紀の腹もパンパンとなっていく。

 

白目を向いたまま意識が遠くなり一欠けらも残らず飲み込まされた後、俯けに倒れてしまった。

 

……………。

 

意識が何処かの世界に引き寄せられていく。

 

<<なんだ…?俺は…またパトっちまったのか……?>>

 

バックアタックからの連続クリティカルの上に食いしばり後も自爆されるような衝撃を思い出す。

 

<<俺はたしか……スライム共を喰わされて……>>

 

俯けのまま周囲を見回すが、何処かで見たような見ていないような微妙な気分となっていく。

 

ここは()()()()()()()と呼ばれる場所。

 

この世界もまた人修羅と縁を持つやもしれない可能性をもつ意識世界だ。

 

近づいてくる足音が聞こえてくる。

 

現れたのはオレンジのシンボルカラーを纏う灰色の戦闘服を着た男であった。

 

<<悪魔を食べたのかい?味はどうだった?>>

 

<<味だと!?悪魔なんて喰えるか!!>>

 

<<なんで?美味しいよ?>>

 

<<お前はスライム悪魔を喰えるのかよ!?腹壊すぞ!!>>

 

<<ストマックガード余裕でした>>

 

銀髪をした青年がポーチの中から何かを取り出すのを人修羅は手を出せないまま見つめている。

 

<<悪魔を食べる悪魔になった君は、()()()()()()()()()()()だ>>

 

ポーチから出したモノとは脳みそ悪魔であったようだ。

 

<<お近づきの印にこれをあげよう。最高に美味しい悪魔だよ>>

 

<<よせ…やめろ!!俺の意識世界でまで悪魔を喰わせるんじゃねぇぇーー!!>>

 

<<いつか君とは出会える気がする。さぁ遠慮せずに…マルカジリだよ!!>>

 

銀髪の青年に抱き起こされた後、有無を言わさず人修羅の口の中に脳みそ悪魔を突っ込んでくる。

 

<<オボボボボボボボボボーーーッッ!!!!>>

 

意識世界でまで悪魔を喰わされ悶絶したまま意識は遠ざかり、別世界の光景も消えていく。

 

意識を取り戻したのは、今まで感じたこともない吐き気に支配された状態の尚紀であった。

 

「あの…野郎……地母る……100回……地母ってやる……」

 

……………。

 

バレンタイン。

 

それは女の戦場とも呼ばれている。

 

女が思い人にチョコを送り、ハートを射止めるといった歌が歌われる程の争奪戦。

 

だからこそ、魔法少女達もこの季節イベントにおいて間違った形で力を入れてしまったようだ。

 

チョコを食べるための人間の歯と舌は、食べられる物かどうかを判断するために備わっている。

 

食事だけでなく、情報もまた鵜呑みにするのではなく咀嚼という形で調べる努力が必要だ。

 

食べられるものかを疑い、疑うからこそ噛む行為を行う。

 

これもまた、疑うことの大切さを学ばされる光景なのであった。

 




マギレコのバレンタインイベントが始まったので、五章の途中ですがサブストーリーを先に投下しておきます。
悪魔の食べ物ネタを考えると、やはりアバタールチューナーが真っ先に思い浮かびましたので、サーフさんのカメオ出演というお話となりました。
サーフさんはボス修羅君とは因縁深い主人公でしたので。
あ、やめて地母らないでまだ寝てない(汗)
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