人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
1話 アナザーワールド
そこには星の光が見える満天の夜空が広がっている。
風で木々が揺れる音が響く中、暗い夜の世界で彼は目覚めた。
(……全身が動かない)
彼の胴体には巨大な刺し傷が残り、傷口は焼け焦げている。
明らかに致命傷であったが、まだ彼は死んではいない。
動かない体のまま人修羅は夜空を見上げている。
昨日まで知っていたような、それでいて遥か遠い昔のようにも思える夜空を見上げているのだ。
星空も木々の音も風の肌触りも全部、昔の彼が知っていたはずのもの。
今となっては何もかもが懐かしい気持ちとして彼は感じていたのだろう。
彼の目から自然と涙が零れ落ち、懐かしい光景を見つめつつゆっくりと瞼を閉じていく。
静かに彼は眠りにつくのだ。
悪魔の体は眠ることにより傷を自然回復させる力がある。
これほどの致命傷を癒やすにはどれほど眠らなければならないかは分からない。
それでも眠らせてやって欲しい。
ボルテクス界という地獄を超えた男がようやく休める時間が来たのであった。
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一体どれぐらい眠っていたのかは定かでないが、彼はようやく目を覚ます。
体が動かせる感覚が生まれたので自分の掌を顔に向けてみる。
「おかしい……俺の体から悪魔化した時に生まれた発光する入れ墨みたいな跡が無い?」
首の裏にあるはずの一本角も感じないと右手で首の裏を擦っている。
体を起こして自分の体を確認して見るがやはり発光する入れ墨は見当たらないようだ。
「ダンテに刺された傷まで見当たらないだと…?」
上半身裸のまま立ち上がり、周りを確認して見る。
「森の中……?一体どこの森なんだ?」
訳がわからないままであったが、立ち止まっているわけにもいかずに歩いてゆく。
程なくして民家らしきものが見えてきたので隠れながらその様子を伺う。
(住民の声が聞こえてくる……日本語だな)
ここが自分の生まれた国であることが分かったようだが表情は釈然としていない。
(なぜ俺は……こんな場所にいたんだろうか?)
自分は東京都内の高校に通う者、進路相談が始まる高校二年生だったはずだと記憶を辿る。
(悪い夢でも見ていたのだろうか?あの地獄の世界は、悪い夢だったんだろうか?)
こんな場所でなぜ上半身裸のまま眠っていたのかは思い出せない。
「考えても答えは出ない…だがこれだけは分かる。家に帰ろう…家族に会いたい…」
彼の親友であった千晶や勇、それに祐子先生にも会いたいという気持ちが強まっていく。
上半身裸のままでいるわけにもいかず、民家に干してあったモッズパーカージャケットを盗む。
(すまない……いつか必ず弁償しに訪れる)
街に出た彼はゴミ箱に捨ててあった新聞を手にしたようだ。
「年号は俺が生きていた時代と同じ、日付も同じだな」
やはり自分は悪い夢を見ていたのだと思い込みだした彼が速足で進んでいく。
なんであんな場所で寝ていたのかなど、今の彼にとっては些細な問題のように感じているのだ。
「俺はただの高校二年生、進路の当てもあまりない……何処にでもいる平凡な高校生だ」
ここが東京からそこまで離れていない県だったのも分かった彼は金もないが東京を目指す。
歩きながらも彼は色々なことを考えてしまう。
両親にまた迷惑かけたとか、友達はどうしてるんだろうか?とか色々なことが浮かんでいく。
「きっとこんな場所を彷徨っていたのがバレたら、皆は俺をからかってくれるんだろうな…」
それでも人修羅とかつて呼ばれた男の足取りは軽い。
帰るべき場所があるという安堵感が彼の心を満たしてくれていた。
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どれぐらい歩いたのかは分からないが東京が見えてくる。
故郷である東京を迷うことも無く、自分の家のマンションに向かっていくのだ。
彼は自分の家のドアの前に立つのだが、不思議と気分が高揚してくる。
「なんだか胸が高鳴るな……自分の家なのに緊張してしまう……」
胸の高鳴りと共に嘉嶋家のドアを開けてみる時がくる。
「……ただいま」
靴を脱ぎ、ダイニングルームに入っていくと丁度両親がテレビを見ていたようだ。
「ごめん親父、おふくろ……俺……」
バツが悪そうに2人に顔を向けるのだが様子がおかしい。
2人の表情は彼が考えていたものとは違っていたのだ。
「……
2人の表情は凍りついている。
まるで不審者でも見るような眼差しで我が家に入ってきた少年を見つめてきたのだ。
その一言で彼の顔も凍りつき、激しく動揺してしまう。
「な……何言ってるんだよ…おふくろ?俺だよ……尚紀だよ」
「君は一体誰なんだ!?何故私達の家に踏み込んできた!」
自分の妻を守らんとする態度を見せる男が立ち上がって敵意を示してくる。
育ての親だと信じている男性が強い口調で罵ってくる光景が信じられない尚紀が叫び出す。
「親父!おふくろ!悪ふざけはやめろよ!?俺は尚紀だ!あんた達の一人息子だよ!!」
「
信じられない言葉が男から発せられた時、全身に震えが走っていく。
「子供がいない……?なら……俺は一体……誰なんだ……?」
動揺したまま自分の部屋だった場所のドアを開けてみる。
そこはただの物置部屋だった光景によって思考が混乱し、眩暈さえ生み出されてしまう。
「いい加減にしろ、君!これ以上私達の家に上がり込むなら警察を呼ぶぞ!」
「待ってくれ親父!?俺はあんたの息子だ!息子なんだーッッ!!」
父親だと信じる男から強引につまみ出された尚紀が家の外に放り出される。
最後に男は悔しい表情を浮かべながらこんな言葉を送ってくれるのだ。
「私達夫婦は…子供が欲しかった。でも、神様は私達に子供を恵んではくれなかった…」
男は尚紀の靴を放り捨て、強引にドアを閉めて鍵をかけてしまう。
「何なんだよ…訳がわからない!!俺は…嘉嶋家の一人息子の……嘉嶋尚紀じゃないのか…?」
閉められたドアを眺めることしか出来ない尚紀の両膝は崩れ、現実が崩壊したのであった。
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尚紀は自分を知っている者を探すためガムシャラに走っていく。
「勇なら俺が分かるはずだ!!俺の知っている新田勇なら!!」
新田家に辿り着いた彼はインターフォンを鳴らし、勇の父だと思う人物が出迎えてくれる。
「勇はいるか?」
「勇?うちにはそんな名前の子供はいないが?」
「勇がいない……?」
怪訝な表情を浮かべつつも勇の父と思われる男は玄関のドアを閉めてしまう。
「訳がわからない……千晶なら俺が判るだろ?俺が知っている橘千晶なら!!」
大急ぎでやってきた橘家のインターフォンを鳴らし、千晶の母がドアから出てくる。
「千晶はいるか……?」
「千晶……?貴方どちらの方ですか?家を間違えていると思いますが?」
「そんなはずはない!千晶は……橘千晶は、この家の娘のハズだ!!」
「いい加減にしなさい!しつこく言うなら警察に通報しますよ!!」
機嫌を害した女性が乱暴に扉を閉めてしまう。
「……勇も千晶も、俺と同じように存在していない扱いなのか?」
一体何が起こっているのか彼には分からない。
地面が崩れてゆくような錯覚で膝が崩れそうになるが、それでも最後の希望に縋り付く。
「今日は土曜日だ……俺が通う都内の高校になら、祐子先生がいてくれるはず……」
最後の望みを胸に秘めながら母校に向かって駆けていく。
都内にある通っていた高校に入り込んでいき、目指すのは職員室。
職員室のドアを強引に開けてみると出勤している教師の数はまばらのようだ。
しかしその中に彼のよく知る女教師の姿を見つけられたことで大声を張り上げてしまう。
「祐子先生…ッッ!?」
「え……?」
自分の担任だと信じている女性の名を叫びながら高尾祐子の元へと駆けていく。
「貴方は……?」
いきなり職員室に駆け込んできた少年に対して警戒感を持った態度を女教師は見せてくる。
「俺だよ先生!あんたが担任している教室の生徒の一人だ!嘉嶋尚紀だよ!」
最後の望みをかけて自分の事を知っているかどうかを託す。
望みを託された彼女であったが、残酷な現実を与えるかのようにして立ち上がる。
彼がよく知る腕を組んだ姿を作り、威圧的に語りかけてくるのだ。
「私のクラスに嘉嶋尚紀という男子生徒はいません。貴方は何処の学校の生徒?不法侵入よ」
「そ……そんな……誰も……誰も俺の事を……覚えていないのかよぉぉぉーーッッ!!」
最後の希望を絶たれてしまった尚紀は錯乱しながら走っていく。
職員室にいた教師達が立ち上がり、不審者の彼に駆け寄ってくるが強引に押しのける。
「どけ!!!」
我を忘れて叫びながら職員室から飛び出していき、母校だと信じた高校から走り去っていく。
全ての希望を断たれた尚紀は現実の全てが崩壊したのであった。
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その後は知り合いの生徒や親戚周りも当たってみたが、誰も彼の事を知らないと言い続ける。
「もう……何処にも行く当てが無い……」
日付が変わった東京の街を彼は彷徨い続けている。
今日は日曜日ともあり、多くの人達が街に繰り出しながら日常を謳歌しているようだ。
すれ違う赤の他人、何も知らない子供達が彼の横を通り過ぎていく。
「東京に……俺の居場所なんて……何処にも無いんだな……」
尚紀はパーカーを目深く被りながらその素顔を隠す。
今の彼の表情はどんな顔をしているのだろうか?
目深く隠れた彼の顔は暗い影に覆われて見えない。
ふと彼は空を見上げる。
ビルに覆われた東京の空があったが、人間として生きた嘉嶋尚紀の知っている景色ではない。
「もう……ここにはいられない」
行く当ての無いまま東京の街を去っていく。
彼の後ろの東京は遠くなり、これから何処に向かうのかも分からない。
その背中は行く当ての無い旅に向かって歩いていくのだ。
今の彼にとっては数年後に出会う少女がいる。
その少女は願いによって始まりも終わりも存在しない概念存在となってしまう運命を辿る者。
全ての世界に生きた証もその記憶も何処にも残されていない存在に少女は成り果てるだろう。
神という領域にシフトした少女はこの世の住人であれば誰もその存在を認識出来ない。
彼女もまた世界に干渉出来ない存在である神に成り果ててしまうのだ。
その運命は嘉嶋尚紀にとっては親友であった二人の者達も辿ることになってしまう。
新田勇と橘千晶もまたかつてあったかもしれない宇宙においてコトワリの神となった者達。
その存在は数年後に出会う少女と同様に全ての世界から消え去ったのだ。
この二人を覚えている者達は全ての世界において存在しない。
高尾祐子だけは別だった。
彼女はコトワリを開く事も出来ず、かつてあったかもしれない宇宙において消滅した者。
コトワリ神になる事も出来ず、未だ他の世界においては普通の人間として存在している。
その幸運は尚紀に与えられたこの世界で繰り返される残酷さの最初の一端となったのだ。
そして嘉嶋尚紀。
彼は一つの世界を死滅させた悪魔として大いなる意思に呪われた者。
永遠に神と戦い続ける神の敵対者という悪魔の概念存在と成り果てた存在。
その存在は大いなる神によって否定されたことでコトワリ神と同じ運命を辿ってしまう。
彼の存在もまた始まりも終わりも存在しない。
嘉嶋尚紀は全ての世界の住人では無くなってしまった者。
今ここにいるのはこの世界に流れ着いてしまった異邦者であり漂流者。
人間である嘉嶋尚紀の記憶を持った概念存在でありながら
読んで頂き、有難う御座います。