人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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199話 ミトラ教

神浜魔法少女社会においてフェミニズム問題が深刻化していた時期は12月辺りからだ。

 

12月と言えば日本人には馴染み深い季節イベントであるクリスマスが存在している。

 

クリスマスとは、イエス・キリストの誕生を祝うお祭りだと世間では知られているだろう。

 

しかし、誕生日ではなく誕生を祝うという表現には理由があるのだ。

 

それは聖書においてキリストの誕生日が記された記述など何処にもないからである。

 

我々日本人は誰も知らないキリストの誕生日を祝う愚かな真似をさせられてきたというわけだ。

 

では12月25日の本来の意味とは何処からきているのだろうか?

 

それは古代ローマ帝国において、キリスト教を超える程のとある宗教からきていたのだった。

 

……………。

 

「……今年もクリスマスか。俺にとっては苦い日になるな」

 

仕事を終えた尚紀はクリスを運転しながら帰路についている。

 

運転しながら街を見れば、街を彩るクリスマスのイルミネーション飾りなどが目立つ。

 

「ダーリンはクリスマスが苦手なの?まぁ、アタシらは悪魔だから関係ないけどね~」

 

「俺が佐倉牧師の家で暮らしてたのは語っただろ?その時にもクリスマスの仕事をしたもんさ」

 

「えー?悪魔のダーリンが唯一神の家でクリスマス?どんなジョークよそれ」

 

「ジョークじゃない。居候の身だったからな…拒否権はなかったよ」

 

「イヤイヤながらも手伝ったってわけ?そりゃ肩身が狭い思いをしたでしょうねー」

 

「フッ…そうでもないさ」

 

微笑みを浮かべる運転手を見て、車悪魔のクリスは怪訝な態度になっていく。

 

尚紀にとってクリスマスは苦い記憶であると同時に、そう悪い記憶でもなかった。

 

愛する魔法少女がいて、義妹達がいて、育ての親達がいてくれた幸せな時期。

 

呪い殺したい程の神の家でクリスマスを祝おうとも、その時だけは憎しみを忘れられたから。

 

「そういえばダーリン。アメリカでもクリスマスはあったんだけど…こんな話を知ってる?」

 

「どんな話だ?」

 

「12月25日はね、キリストの誕生日なんかじゃないのよ」

 

「キリストの誕生日じゃないだと?なら、唯一神のお祭りの日じゃなかったというのか?」

 

「ええ…アタシもラジオのオカルト番組でやってたのを聞いたぐらいだけど…覚えてるわ」

 

唯一神と戦う悪魔として興味を持ったのか、クリスの話を聞いていく。

 

12月25日とはキリストの日などではない。

 

本来は古代ローマ帝国において最大規模の宗教であった多神教のお祭りからきている。

 

その宗教名とはミトラ(ミトラス・ミロク菩薩)教であった。

 

「ミトラ教……」

 

その宗教名を聞いた時、人修羅として生きる尚紀の脳裏には忘れられない戦いの記憶が蘇る。

 

シジマ勢力が守護を下ろす地として選んだ国会議事堂において戦った悪魔の名もミトラであった。

 

「ミトラは太陽神であり司法神。救済の神や契約の神とも呼ばれていたそうね」

 

「その神になら…会ったことがある」

 

「マジで!?何処で出会ったのよ!」

 

「ボルテクス界での戦いの中でさ」

 

「ワーオ…ダーリンの交友の深さには恐れ入るわね」

 

「仲が良かったわけじゃない。俺はミトラに裁かれ、殺し合った仲だったんだよ…」

 

ミトラ教はインド・イランの神を起源とする秘密教団である。

 

元々はかなり閉鎖的であり、信者となる者は七段階の試練とも言える儀礼が必要だった。

 

ミトラ教の礼拝はミスレアムと呼ばれる洞窟で行われたという。

 

そこには太陽神ミトラが()()()()()()()()神像が置かれ、その前で儀式を行ったようだ。

 

ミトラ教とキリスト教には、無視出来ない程の類似点が数多く存在している。

 

ミトラは敵を許し、友とする盟友の神。

 

ミトラの誕生を羊飼いから知らされた3人の占星術師が祝いに訪れる。

 

死者を蘇らせ、目の見えない者を見えるようにし、歩けない者を歩けるようにする奇跡。

 

処女アナヒタより生まれ、ミトラは十二正座に囲まれ死んだ後に蘇る。

 

他にもキリスト教との類似点は多く存在しており、これらのイメージはキリスト教が取り入れる。

 

そのキッカケとなったのが、ローマ聖帝コンスタンティヌス一世のキリスト教への改宗であった。

 

「殺し合ったミトラだったが…あいつの中には唯一神への憎悪の感情を感じさせられたな」

 

「ミトラ教はね、皇帝コンスタンティヌスのキリスト教改宗を得た頃からその権威を失ったのよ」

 

皇帝コンスタンティヌスはミラノ勅命を出し、キリスト教はローマ帝国の公認宗教となった。

 

これによりキリスト教徒は巨大な権力を手に入れたというわけだ。

 

ならば、その権力基盤を強固にするには信者を沢山得る必要がある。

 

だからこそ、古くからローマ帝国に根差したミトラ教を弾圧したというわけだ。

 

「キリスト教はミトラ教の教義を奪い盗ったわ。これによりミトラ教信者を会得したわけよ」

 

「後から現れた連中のくせに…まるで盗人共だな。ミトラが唯一神を憎んだのも頷ける」

 

「これをラジオで聞いた時にね…アタシ達はなんて愚かな日を祝ってきたのかって…思ったわ」

 

「…そうだな。悪魔の俺がクリスマスに嫌悪感を持ってた気持ちは…正しかったというわけだ」

 

「イエス伝の著者である人物は、こんな言葉を残しているの」

 

――もしキリスト教の成長がいくつかの致命的な弊害によって遅れていたなら…。

 

――世界はミトラ教化されていただろう。

 

運転しながら窓を開け、夜の街に視線を向ける。

 

窓から見える景色には、明日のクリスマスイブを楽しみにする家族連れを多く見かけてしまう。

 

()()()()()()…まさにその通りだな」

 

倫理学を切り開いた哲学者ソクラテスが残した言葉には、無知は罪なりとある。

 

この街で繰り返した悲劇もまた、魔法少女達の無知によって起こってしまったものだ。

 

人間社会を知ろうとしなかった魔法少女達もまた、クリスマスの秘密を知る努力をしないだろう。

 

きっと今年も例年通り、友達や恋人と集まってクリスマスというバカ騒ぎを楽しみたいだけ。

 

そんな光景を想像してしまう尚紀の顔も曇っていく。

 

「人は見たいものしか見ないし、信じない。己の快楽にしか目を向けない…批判すれば憎まれる」

 

今の彼は魔法少女達に向けてクリスマスは間違っていると批判する気にはなれない。

 

せっかく仲直り出来た関係も壊れるし、数年前の尚紀もまたクリスマスを楽しんだ経験もある。

 

自分は良くて、お前はダメというダブスタを振りかざすわけにもいかない彼は帰宅を目指す。

 

今年の尚紀にとって、クリスマスなど眼中にない。

 

そう考えていた彼であったが…家に帰った時に一本の電話が入る。

 

それは七海やちよ達から明日のクリスマスパーティに招待するという連絡であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

後日となり、家着のカンフー着のまま尚紀は買い物へと向かう。

 

仕事の方は舞い込んでいた依頼を全て片付けており、依頼の電話待ちのため休日となっていた。

 

大飯喰らいのセイテンタイセイ達も家族として迎えたため、買い出しの量も増している。

 

クリスが乗せていくと言ってくれたが、歩きながら街の様子を見て回りたいと断ったようだ。

 

いつも行く北養区のスーパーには向かわず、隣の参京区にまで歩みを進めていく。

 

参京区はテロの被害を受けた地区であるが、無事な店舗はクリスマスイブともあり大賑わい中だ。

 

「心無い連中から不謹慎だと言われるかもしれないが…人間は一生喪に服す生き方など出来ない」

 

苦しみを背負ってでも前を向きたい気持ちは東日本大震災を経験した犠牲者達も同じである。

 

辛い気持ちを乗り越えてでも人生を頑張って生きようとする者達。

 

だからこそ、クリスマスの書き入れ時に水を差すような言葉は言えなかったようだ。

 

財布とスマホが入った肩掛けカバンを背負った尚紀が参京区内にあるスーパーに入っていく。

 

店舗前にはポイント10倍デーと書かれたのぼりが何本か立っていたようだ。

 

ショッピングカートを押しながら精肉方面に向かっていた時、見知った人物を見かけてしまう。

 

「あ、尚紀じゃない。貴方も買い物なのね」

 

同じようにショッピングカートを押しながら歩いていたのは七海やちよであったようだ。

 

「やちよか?新西区住まいなのに参京区方面にまで買い物に来るんだな?」

 

「フフッ♪私はね、みかづき荘から歩いて向かえる距離のスーパーなら買い物に来るのよ」

 

「何か狙いがあると考えるのが自然だな?」

 

それを聞かれたやちよがドヤ顔を浮かべながらスーパーのポイントカードを見せてくる。

 

「今日はこの店のポイント10倍デー…沢山買い物をするからポイントがいっぱい溜まるわ♪」

 

よほど嬉しいのか、小躍りまで始めてしまう有様である。

 

スーパーのポイント10倍デーは七海やちよにとって特別な日なのであろう。

 

「お前…まだ19歳だろ?主婦生活が板についたような貫禄だな?」

 

「私は1人でみかづき荘を切り盛りする管理人ですもの。経費削減は徹底してるのよ」

 

「…普段は欲しい物を買わないけど、ポイントが溜まったら欲望を一気に解放する気か?」

 

図星であり、恥ずかしいのか赤面してしまう。

 

誤魔化すように咳払いを行い、やちよは聞きたい事を言い始める。

 

「それよりもここで会えたのは丁度いいわ。昨日の電話の件なんだけど…本当に参加しないの?」

 

「クリスマスパーティだったか?部外者の俺をどうして魔法少女達は招待してくれるんだよ?」

 

「貴方はもう関係者よ。鶴乃が言い始めたことだけど…私も尚紀に参加して欲しかったわ」

 

「悪いが…俺はクリスマスというイベントはあまりいい印象を持ってない。苦手な日なんだよ」

 

「変な理由ね?尚紀の宗教上の理由なのかしら?」

 

「そういう大層なものじゃないんだが…その、どうも苦手意識が消えなくてな…」

 

「他に何か用事でもあるの?」

 

「いや、今日の仕事は休日なんだ。だから少し遠出をして買い物に来たんだよ」

 

「なら大丈夫じゃない。私が買い物に来たのもパーティの料理に使う食材を買いに来たのよ」

 

「そうは言うがな…」

 

彼はクリスマスというイベントが虚飾に塗れたキリスト教の詐欺だというのを知っている。

 

しかしそれは知識を知っている者にしか通用しない現実があるのも知っていた。

 

ハッキリしない尚紀の態度を見ていたやちよは寂しそうな顔を浮かべながらこう告げてくる。

 

「私とみふゆはね…貴方に本気で感謝しているわ。かなえとメルの命を…救ってくれた人だから」

 

「やちよ…」

 

「私だけでなく皆が感謝している。だからね、今日はその感謝の気持ちを送りたかったのよ」

 

それを言われた尚紀の顔が俯いていく。

 

宗教の歴史の事ばかり考えて、クリスマスという日をなぜ民衆が楽しんでいるのか考えなかった。

 

民衆がクリスマスを望んでいるのは宗教の神様を崇めたいからではない。

 

毎日の生活の中でささやかな喜びを感じられる日が欲しかっただけであった。

 

後頭部を掻きながらも彼は顔を上げてくれる。

 

「…分かった。お前達の気持ちを無下には出来ない…参加させてもらうよ」

 

それを聞けたやちよの表情が明るくなり、笑顔を向けてくれたようだ。

 

「そうと決まったら俺も買い物を手伝おう。料金は気にするな、俺が全額立て変えておく」

 

「そんな…悪いわよ。割り勘でいいじゃない?」

 

「お前はまだ学生だろ?学生なら社会人に甘えとけ」

 

「やっぱり男の人は頼りになるわね♪今日はスーパーで尚紀と出会えた事がラッキーだったわ」

 

そんなこんなで尚紀はみかづき荘のクリスマスパーティに招待される事となってしまう。

 

家に帰ってきた彼は事情をクーフーリンに伝え、今日は遅くなるから夕飯は遠慮すると伝える。

 

「了解した。この件はあの時と同じくクリスには伏せておこう…暴れだしたら不味い」

 

「みたまの件の時は世話になったな。やっぱりお前が一番頼れる仲魔だよ」

 

「俺様は頼りにならねーってか~?」

 

聞き耳を立てていたセイテンタイセイが近寄ってくるが、パーティには興味を示してはいない。

 

「そういう意味じゃない。マスターは戦いの時には頼りになるし…それぞれの特性があるだろ?」

 

「ふん、まあいい。この街の魔法少女共に気に入られてるなら…泊まり込みでも構わないぞ?」

 

その言葉の意味なら男である尚紀は理解出来る。

 

照れた表情を浮かべてしまい、そんなことは起こりえないと強く言って聞かせたようであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

夕方頃。

 

私服に着替えた尚紀はクリスに見つからないようそそくさと家から遠ざかる。

 

道を歩いていき、北養区から新西区へと進んで行く。

 

彼が立ち止まって見上げる家こそ、元西の長であった七海やちよの家であるみかづき荘だ。

 

「ここに初めて来たのは…秘密裏にだったな。客人としてちゃんと来るのは初めてになる」

 

日も沈んで明かりがついた玄関のチャイムを鳴らす。

 

賑やかな声が響く中、家主であるやちよが玄関の扉を開けてくれる。

 

「いらっしゃい。みんな家の中で待ってるわよ」

 

「結構集まってるみたいだな?」

 

「ええ。集まったのはみふゆに鶴乃、それにかなえとメルよ。遅れてあと1人だけくるわ」

 

「遅れてくる奴だと?」

 

「そうなのよ。彼女はパーティに参加する目的もあるけど、違う用事もあるの」

 

「まぁいい。上がっていいのか?」

 

「勿論よ。さぁ、上がって頂戴」

 

この時期はフェミニズム問題を抱えていた時期である。

 

常盤ななか等の魔法少女達はその問題に追われており、パーティに来る暇などない。

 

長としての役目を終え、肩の荷が下りたやちよ達だからこそこうして集まれたようである。

 

<<メリークリスマーーースッ!!>>

 

元気な声で少女達が尚紀を迎えてくれる。

 

みかづき荘のリビングを見れば、クリスマス装飾によって彩られているようだ。

 

「クリスマスパーティーの主賓が来てくれたことだし、そろそろ始めちゃおうか♪」

 

「鶴乃、お前が俺を誘ってくれたようだな?感謝する」

 

「感謝するのはこっちの方だよ!尚紀は万々歳だけでなく…かなえとメルを救ってくれた人だし」

 

「それに私達の魔法少女社会を変えてくれたり、神浜の差別問題を解決してくれた大恩人です♪」

 

「本当に感謝してる。こうしてまた…やちよやみふゆとクリスマスを過ごせるなんて…嬉しいな」

 

「今日はとことん楽しみましょうね♪お?手に持ってるその袋は…例のヤツですか?」

 

「ああ、ここに来る前に買っておいた。プレゼントの交換会ってのをするんだろ?」

 

「尚紀も準備万端!それじゃ座って座って、楽しいクリスマスパーティの時間だよーっ!」

 

リビングの机の前に座り込み、クリスマスパーティが始まっていく。

 

机にはやちよが腕を振るったご馳走だけでなく、チキンや苺のケーキやシャンパン等もあった。

 

尚紀は社会人であるため、やちよと共に買い物した時にワインを購入しているため置かれている。

 

女子の輪の中で男1人だけという緊張感を酒で紛らわしたい魂胆もあったようだ。

 

食事中の談笑が始まり、尚紀の周りに座る鶴乃やかなえが彼に声をかけてくる。

 

「お父さんの件だけどね、ようやく働けるラーメン店を見つけたの!1月から働きに行くみたい」

 

「そうか。それなら万々歳も一年間は臨時休業するんだな?」

 

「うん、そうなる。来年の一年間はお休みだし、私も高校三年生だから勉強に集中出来るよ♪」

 

「その一年分に必要な鶴乃と親父さんの生活費なら口座に入金済みだ。心配はいらない」

 

「やっぱり尚紀はお金持ちなんだね…。羨ましいなぁ…」

 

「かなえはどうした?何か金に困っているような顔つきに見えるんだが…?」

 

話を聞けば、やちよ達とツーリングに行くための免許費用やバイクの購入費用が必要だと言う。

 

バイト代金を溜めようにも彼女はガラも悪く、中々雇ってくれるところが見つからない。

 

この調子でいけばバイクを用意するのは数年先まで伸びてしまうと悩んでいるようだ。

 

「両親との関係も行方不明が原因で冷え切っていて金は用意してくれないか…。そうだなぁ…」

 

腕を組んで考え込むが、何かを思いついたのか顔をかなえに向けてくる。

 

「探偵やってる俺からの依頼を受ける気はないか?報酬なら前金で出してもいい」

 

「尚紀の依頼…?」

 

「あの神浜テロの時に行方不明者が何人も現れた。探してやりたいが…うちも人手不足なんだ」

 

「探している人物は誰なの?」

 

あの時行方不明となった人物は2人いる。

 

アリナの方はイルミナティ関係者であることもあり危険が大きい。

 

なので捜索を依頼するのは和泉十七夜の行方であった。

 

十七夜の捜索を頼まれたかなえは迷うことなく承諾してくれる。

 

「その依頼…受けるよ。あたしもね…十七夜を探してあげたかったんだ」

 

かなえは十七夜と再会した時の出来事を語ってくれる。

 

「やはり吸血鬼悪魔になっていたか…その上でフリーメイソンと関わりを持つなんて最悪だ」

 

「危険が大きいのは分かってる。それでもあたしは十七夜を止めたい…そのために命がある」

 

「その通りです!」

 

横を見ればメルもやる気を出してくれている。

 

「十七夜さんの間違った世直しをボクも止めたいです!協力させて下さい!」

 

「待て待て、かなえだけでなくメルにまで依頼をするわけには…」

 

「いいえ、協力しますよ!たとえお給料が出なくても手伝いたいんです!」

 

安名メルは魔法少女時代において、東の長だった頃の十七夜の世話になってきた。

 

関係こそ口煩いお姉さんのような存在であったが、それでもメルは十七夜を大切にしたようだ。

 

「尚紀、あたしからもお願いする。メルにとって…十七夜は特別な存在なんだ」

 

「…分かったよ。メルが協力してくれる分、前金の報酬には色を付けておいてやる」

 

「メルは予知があるし捜索の手助けとして心強いよ。この街にはいないから郊外を捜索してみる」

 

「そうなると交通費が膨らみますよね?それでいてかなえさんの免許やバイクのお金となると…」

 

メルはスマホを取り出し、何やら計算を始めていく。

 

机の向こう側で話内容を聞いていたやちよも駆け寄ってくる。

 

「尚紀…貴方は本当に頼りになるわ。十七夜の事を心配してくれて有難う…私も心配してたのよ」

 

「御礼は構わないが…その顔つき、何か別の事を話したいような浮かれっぷりに見えるぞ?」

 

「ウフフッ♪かなえのバイクを前金で買えるのなら、私のオススメバイクがあるのよ♪」

 

「バイカーの血が騒いだってわけかよ…。まぁ、同じ趣味仲間は貴重だもんな」

 

かなえとメルとやちよは集まり合い、居間に置いてあったバイク雑誌を見ながら談笑していく。

 

微笑みながらワインを飲んでいた時、後ろから柔らかい感触が後頭部を襲ってくる。

 

「ウフフ~ヒック♪頼りになる尚紀さんは~…彼女を募集してませんか~?」

 

似たような展開を味わったことがあるため、抱きついてきているのが誰なのかは分かる。

 

「みふゆ…お前また俺の酒を飲んだのか?」

 

「シャンパンと間違えて飲んじゃいました♪お酒って本当に美味しい~…早く大人になりたい♪」

 

「お前とやちよとかなえは来年で二十歳だろ?もう直ぐ飲めるさ」

 

「その時は尚紀さんも一緒に飲みましょうよ♪2人は酔っぱらった後…大人の展開になるかも♪」

 

「みふゆ…お前と一緒に飲むのは遠慮する。絡み酒をしてくる女はどうも苦手でな…」

 

尚紀に向けて色気を振りまいている者を見た鶴乃も負けじと彼の腕に抱きついてくる。

 

「抜け駆け禁止!尚紀はその…わ、私だって…欲しいんだから!」

 

「ズルいです鶴乃さん!尚紀さんは私が先に目を付けたのにーっ!」

 

大岡裁きの如く両腕を引っ張られだした彼の表情も困り顔となってしまう。

 

そんな時、玄関のチャイムが鳴ったので家主のやちよが玄関へと向かって行く。

 

やちよが連れてきた人物に向けて全員の視線が集まるのだが…。

 

「みたまじゃないか?パーティに呼ばれていた最後の1人はお前だったのか」

 

「こんばんわ~みんな♪調整屋の大掃除をしてたから遅くなっちゃったわ~」

 

「もう年末か…ウチも新入り共を使ってやらないとなぁ。それと…お前は他の用事もあるのか?」

 

「そうなのよ~。やちよさんからお誘いがあってね…()()()()を受け取りに来たのよ~」

 

「あるものだと?」

 

「ウフフ♪それは~……今は秘密よ♪」

 

「私とみたまは先に用事を済ませるわ。二階に来てくれるかしら?」

 

「ええ♪それじゃあ~やちよさんオススメの品を拝見しちゃいま~す♪」

 

そう言って2人は二階へと上がっていく。

 

暫くしてみたま達が帰ってくるのだが、彼女の手にはキャリーケースが抱えられているようだ。

 

彼女はそれを玄関に置き、リビングにまで来たみたまは尚紀の隣に座ってきたようだ。

 

「それじゃあ、改めて乾杯をしようよ!まだシャンパンは残ってるし♪」

 

鶴乃の提案を快く受け入れたやちよが皆の分の飲み物を淹れて机の前に置いていく。

 

みたまの前にもシャンパンが置かれたのだが、彼女はやちよに何かを伺うようだ。

 

渋々了承したやちよの許可を得て、みたまは冷蔵庫の中から何かを持ってくる。

 

「お…おい……」

 

持ってきたのはケチャップとマヨネーズ、それに様々な調味料の数々。

 

飲み物を飲む時に用意する品ではない筈なのだが…。

 

「調味料ありったけ持ってきて…何をする気なんだよ…?」

 

「もちろん飲み物に入れるのよ♪」

 

信じがたい言葉に思考停止する尚紀の横で奇怪な行動を始めていく。

 

ケチャップ、マヨネーズと調味料を混ぜ込んでいく光景はもはや人に見せられるものではない。

 

モザイクでも用意してくれとばかりに周囲の者達の顔が青ざめてしまう程の惨事。

 

「え…えっと……それじゃあ、改めて乾杯をしよっか……」

 

顔が引きつった表情を浮かべながらも鶴乃が乾杯の音頭を行ってくれる。

 

困惑した表情を浮かべる尚紀は視線を横に向けてしまう。

 

調味料ありったけが入ったシャンパンをみたまは一息で飲み終えてしまったようであった。

 

その時、彼女の妹である八雲みかげに言われた言葉が脳裏を過る。

 

――姉ちゃの料理……地獄だよ。

 

(……そういう意味だったのか。みたまの家族は…色々と苦労を抱えてきたようだな)

 

みたまの手料理被害を受けた事もあるため、妹の心労は察するに余りあると実感したようだ。

 

その後のパーティは滞りなく進んでいく。

 

みんなが揃ったのでプレゼントの交換会も行ったようだ。

 

新たに加わったみたまはかなえとメルを相手に話し込んでいる。

 

円環のコトワリ世界のことや、魔法少女から悪魔に転生した後の生活について聞いているようだ。

 

やちよとみふゆ、それに鶴乃も加えて仲良く談笑を繰り返す尚紀。

 

かつては敵同士として殺し合った関係であったが…いつの間にか盟友のような関係となっている。

 

殺伐とした世界でしか生きられなかった人修羅の顔も自然と笑顔になっていく。

 

時女一族が与えてくれた喜びを、今度はみかづき荘組や調整屋が与えてくれたのだ。

 

宴もたけなわな頃、尚紀が皆に向けてこんな質問をしたようである。

 

「なぁ…お前ら。少し質問がしたいんだが」

 

「どうしたの尚紀?急に改まったような態度をして?」

 

「やちよにはスーパーで言ったよな?俺がクリスマスに関しては苦手意識を持ってると」

 

「それがどうかしたの?」

 

楽しい席で場違いな話題を出してもいいか迷ったが、悪魔を大切にしてくれる者ならばと信じる。

 

「クリスマスはキリスト教のお祭りだってのは…日本人なら誰でも知ってるはずだ」

 

「それはそうね~。でも、どうしてそれが尚紀さんにとって苦手意識を持つことになるの?」

 

「もしもだ…クリスマスはキリスト教とは関係ない宗教の祭祀だと言えば…お前達はどう思う?」

 

それを問われた時、明るい雰囲気が消えて困惑したような表情を皆が浮かべてしまう。

 

知識を知らない者に知識を語ったところで共有されないし通じない。

 

この苦しみをほむらと織莉子も味わったことがあり、知識自慢のオタクだって経験している筈だ。

 

楽しい席でこんな話をしたことを後悔するようにして、尚紀の顔も俯いてしまう。

 

「すまない…場違いな話をしてしまったな。今言った言葉は忘れてくれ」

 

何か思うところがあったのだろうと魔法少女達は判断するが、それでも微笑んでくれる。

 

「謝る必要はないわ。貴方には貴方の信じているものがある以上、それは尊重したいの」

 

「それにね、私達は別に神様を拝みたいからクリスマスパーティを開きたいわけじゃないの」

 

「うん…これはね、尚紀に向けての感謝を伝えたいパーティだって…あたしは思う」

 

「ボクも同じ気持ちです!尚紀さんのお陰で…ボクとかなえさんはもう一度人生を楽しんでます」

 

「かなえさんとメルさんと一緒にクリスマスを過ごせる奇跡を与えてくれたのは…貴方です」

 

「だからこそ、私達は尚紀さんに送りたいクリスマスパーティだったというわけよ」

 

敵として殺し合った悪魔に向けて送る、幸福なクリスマスパーティ。

 

そこには悪徳に塗れたキリスト教の歴史など何の関係もなかった。

 

彼女達はイエス・キリストの誕生を祝いたいわけではない。

 

今の幸せを与えてくれた人修羅に向けて、感謝を送るために集まってくれたパーティだったのだ。

 

「お前ら……」

 

宗教の歴史に囚われ過ぎた彼が俯いていくが、顔を上げた尚紀の表情には笑顔が浮かんでいる。

 

「今日はありがとう…。お陰様で…人間として生きられた幸福な時代を…思い出す事が出来たよ」

 

クリスマスパーティも終わりを迎え、尚紀は帰路につくために夜道を歩いていく。

 

偏った歴史問題ばかりに意識が向いてしまった己を恥じ、ミトラについては考えないようにした。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

魔法少女達が暮らす神浜市において、人修羅はどんな事をしたのだろうか?

 

敵として殺し合った関係ではあるが魔法少女達を許し、盟友として迎えてくれた。

 

死者を蘇らせる奇跡まで与えてくれた。

 

人を憎まずの精神を民衆達に説き、神浜東西差別問題を救済にまで導いてくれた。

 

これらの出来事と共通している神話が存在する。

 

それこそがミトラ教におけるミトラが起こした神話であった。

 

今の人修羅はかつて殺し合ったミトラとの類似性が極めて強くなっている。

 

だからこそもう一度ミトラを振り返るようにして、眠る尚紀は夢の世界で思い出していく。

 

ボルテクス界の東京議事堂において、シジマのミトラと戦った時の出来事を。

 

……………。

 

「邪魔だぁぁぁーーーッッ!!!」

 

死亡遊戯の刃がミトラの首に目掛けて放たれる。

 

獅子の頭部を持つ巨人であり、背中に翼を生やし体に大蛇が巻き付く赤き悪魔の最後である。

 

「グハァァーーーーーッッ!!!?」

 

エネルギー刃によって首が跳ね落とされ、巨大な獅子の頭部が地面に転がり落ちていく。

 

巨人の体は砕け散り、マガツヒを放出して消え去る最後となった。

 

「ハァ…ハァ…先生だけは守らないと…祐子先生だけは……俺が守らないと!!」

 

鬼気迫る程の気迫を纏う人修羅の表情は苦しみの上に苦しみを重ねられたかの如く歪んでいる。

 

この東京議事堂に来る前において、彼は大切な親友達を失う結果を残しているからだ。

 

魔人と化した新田勇は守護を呼び、コトワリ神の一つである邪神ノアに転生を果たす。

 

魔人と化した橘千晶は守護を呼び、コトワリ神の一つである魔神バアルアバターに転生を果たす。

 

そして今、最後のコトワリ神を顕現させるために氷川が東京議事堂に潜んでいる。

 

その氷川を止めるために、人修羅の恩師は単身で議事堂内部に飛び込んで行ったのだ。

 

急いで東京議事堂の奥へと向かおうとした時、か細い声が聞こえてくる。

 

「貴様……まだ死んでいなかったか!!」

 

憎しみの視線を向ける先には、今にも砕け散りそうなミトラの頭部が転がっている。

 

「よせ……勝負はついた。後はただ……滅びるのみ……」

 

「ならば黙って死ね!!俺は急いでるんだよ!!」

 

「最後に…聞いていけ。これは…ボルテクス界を超えた先の…汝の光景なのだ……」

 

「ボルテクス界を超えた先の俺だと……?」

 

魔神であるミトラもまた過去・現在・未来、そして並行宇宙を視る事が出来る概念存在。

 

だからこそ他の可能性宇宙で起こる未来の光景を死に際の時に視えてしまったようだ。

 

「汝は…違う宇宙に流れ着く。汝には再び試練が訪れ……苦しみに飲まれていく……」

 

「……俺には救いなどないと言いたいのか?」

 

「それが混沌の底に堕ちる悪魔の運命…だが……おぉ……これは……」

 

ミトラが視えた違う宇宙の未来。

 

そこに立つ人修羅は世界を憎む怒りの炎を纏いながらも、光の慈悲を持つ存在であった。

 

「違う宇宙の汝は…可能性を感じる。破壊しか行えない悪魔ではない…神と呼べる存在に視える」

 

「悪魔の俺が……神だと?」

 

「汝はいずれ……我の神名さえも合わせ持つ程の……神となれる」

 

「俺がミトラだと……寝言は死んでからあの世で言え!!」

 

「我はボルテクスにおいては…司法神としての役目しか与えられなかった。だが…汝こそが…」

 

――我に代わり…太陽神と呼ばれるに…相応しい程の……神となれる。

 

そう言い残した後、ミトラの頭部は完全に砕け散りマガツヒを放出する最後を残す。

 

「悪魔の俺があいつに代わって…太陽神になるだと……?」

 

困惑した表情を浮かべてしまうが、恩師の身が心配だったので迷わず奥へと走って行く。

 

そんな後ろ姿の己自身を最後に、尚紀は布団から飛び起きる事となるのだ。

 

「……シジマのミトラ。お前はあの時……俺に何を託そうとしたんだ?」

 

ミトラの予言通り、人修羅として生きる尚紀は違う宇宙に流れ着く。

 

その過程の中で彼は成長し、シジマの思想を掲げる者となった。

 

ならば今の人修羅もまた、シジマのミトラとの類似性が生まれているとも言えるだろう。

 

悪魔は概念存在である。

 

概念であるため、イメージの中に違うイメージが摺り込まれればその存在は変質していくだろう。

 

人修羅はこの世界においても唯一神を崇拝する宗教であるキリスト教と戦い続けるだろう。

 

その姿はまるでミトラが果たせなかった無念を背負うかのようにして立つ存在のようにも見えた。

 




書けるところから始めたいのでサイドストーリーを進めていきます。
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