人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
みかづき荘でのクリスマスパーティの時、八雲みたまは別の用事を抱えて訪れている。
その用事を済ませるため、やちよの部屋へと向かうのだ。
やちよの部屋に入れてもらい、壁際にある伝統的な和装ディスプレイに目を向ける。
「あら~♡とっても綺麗な振袖ね~~♪」
日本の伝統美を引き立たせる和装ディスプレイにかけられていたのはやちよの振袖であろう。
「でも…突然私に振袖を貸してくれるだなんて、どういう風の吹き回しなの?」
「貴女の調整屋で調整をしてもらってる時にね、なんだか寂しそうに見えたからよ」
「私が…寂しそうに見えちゃったの?」
「なんだか…思い人と一緒に過ごしたいのに一緒にいられないような…女の子の寂しさをね」
やちよの女の勘によって気が付かれてしまったのかと、恥ずかしいのか顔を俯けてしまう。
みたまと尚紀は南凪区の海沿いにおいて告白の返事を返す出来事が起きている。
その時に語られた尚紀の決意を尊重する形で彼女は男女関係から距離を置く判断をしている。
しかし心には深い寂しさを抱えているのを周りに悟られまいとしていたようだが通じなかった。
「もしかして…みたまが好きな人って……」
「……お察しの通りだと思うわ」
「なるほどね…貴女にとって、尚紀は貴女の心を縛り続けた憎しみを救済した男ですもの」
「やちよさんには見抜かれちゃったし…何が起こったのかを話してあげるわ」
やちよはみたまからその時の出来事を語ってくれる。
自分の勘は正しかったのだと笑顔を浮かべた後、こう言ってくれる。
「だったらね、男の方から女の子を追いかけたくなるぐらいに…綺麗になっちゃえばいいのよ」
「私が…女の子として綺麗になる?」
「去年の貴女とお喋りしてた時に振袖を着た事がないって言ってたでしょ?貸してあげるわ」
「やちよさん…私の恋心を…応援してくれるのね?」
「私もね…男の子に恋心を抱いた事がある魔法少女よ。だからみたまの気持ちは痛い程分かる」
遠い眼差しを浮かべながら中学生時代を思い出す。
好きな子に告白したかったが、彼女は魔法少女として戦場を生きる者。
秘密を抱えたままでは、それを知らない男との関係は成立しないのは分かっていたのだろう。
好きな男とデート中でも魔獣狩りに向かってしまえば男は不信感を募らせていく。
いつしか好きな男と心がすれ違い、離れ離れになっていくしかない。
だからこそ、やちよは自分の恋心を押し殺してまで身を引いた過去があったのだ。
「魔法少女として…正しい判断をしたと思う。でもね…恋心は理屈じゃないの」
「やちよさんも…好きな男の子から離れていく苦しさを経験したのね…」
「正しい判断をしても…私の心は救われなかった。だからこそ…リスクを恐れてはいけないわ」
やちよが伝えようとしているのは尚紀と丈二が見滝原に行った時に語った内容と同じだろう。
「たった一度の人生だし…リスクを承知した上で突き進みなさい。私と同じになってはダメ」
――みたまの道を進みなさい、人には勝手な事を言わせておけばいい。
フィレンツェ生まれの詩人・哲学者でもあったダンテと同じ言葉をみたまに送ってくれる。
やちよの思いが心に響いたのか、みたまの目には薄っすらと嬉し涙が浮かんでしまう。
右腕で目元を擦った後、彼女は微笑んでくれる。
「やちよさん…ありがとう。私…尚紀さんを振り向かせられるぐらい…綺麗になっちゃうわ♪」
「フゥ…下の階にいる男は罪作りな人ね。こんなにも愛してくれる女の子を遠ざけるなんて…」
やちよは和装ディスプレイに飾られた振袖を外し、みたまの着付けを手伝ってくれる。
「はぁ…いつもは皆に脱いでもらってるのに、まさか今度は私が脱ぐ番になるなんて…」
「いつも脱いでなんていないわよ。ほら、軽口叩いてないでさっさと脱いで」
「どれぐらい着付けにはかかっちゃうの?」
「これから20分ぐらいかかるから覚悟しておいてよ?」
「はーいっ」
こうしてみたまはやちよから振袖一式を借りる事になっていく。
衣装はキャリーケースに詰めてもらい、持ち帰ったら母親に着付けを手伝ってもらうようだ。
パーティも終わり、キャリーケースを引きながら大東区に帰る彼女は心の中でこう思う。
(尚紀さん…お正月は予定が空いてるといいな…)
こうして諦めきれない恋心を抱えた少女のお正月物語が始まっていく事になるだろう。
男の掲げる目標はあまりにも大きく偉大であり、自分が傍にいれば重荷になるかもしれない。
それでも同じ恋の苦しみを経験した事がある魔法少女は恋する魔法少女に伝えてくれる。
リスクを承知で進む人生もあるのだと分かったみたまは恋心を信じる道を歩むのであった。
♦
正月が控えた頃。
尚紀の家ではようやく年末の大掃除を終えた悪魔達が忘年会を行った後、一息ついている。
温かい暖炉の前で丸まった擬態姿のケルベロスであったが暇を持て余した猫に絡まれている。
「ニャ―!ケルベロス~遊んでニャ―」
「ウルサイ。我ハ猫悪魔共ト遊ンデヤル気ニハナラン」
「そんなこと言わずに遊んでニャ―。魔獣のオイラの肉球でもスマホのソシャゲは遊べるニャ」
「スマホ…?ソシャゲ…?何ノコトダカ分カランガ、我二構ウナ……ムゥ?」
お腹の辺りでフミフミしている感触を感じたケルベロスは顔をお腹に向けてみる。
見ればオッパイ欲しさに猫悪魔のネコマタが吸い付いているようだ。
驚いたケルベロスは飛び起き、ネコマタの首裏に噛みついて持ち上げてしまう。
<コノ変態女悪魔ヲ何処カニ捨テテクル>
「ニャ―!?毛むくじゃらなお腹を見てたら吸い付きたくなっちゃうのよ!悪意はないわー!」
「まだ吸い付き癖が治ってないのかニャ…ネコマタ?いい加減ママのオッパイは忘れるニャ」
獣悪魔達がドタバタとしている横では忘年会の跡片付けをしている槍一郎がいる。
喧しいイビキをたてる悟空の横では背もたれに背中を預けたまま顔を手で覆う尚紀がいる。
「悟空と酒の付き合いをするんじゃなかったな…随分と飲まされちまったよ…」
「ボルテクス時代の頃のお前とは酒を酌み交わしてみたかったのは私とて同じ気持ちだった」
「よしてくれ…あの頃の俺はまだ高校生だぞ?それに飲み会なんてやれる世界じゃなかった…」
「だからこそ、ボルテクスとは違うこの世界でもう一度尚紀と再会出来たのを嬉しく思うぞ」
「同じ気持ちだよ、槍一郎。済まないな…片付けを任せちまって…」
「お前はアホ猿から大分飲まされたようだからな。酔いが冷めるまで休んでいろ」
「流石に吐く一歩手前な気分なんだ…少し夜風に当たってくる」
煙草の箱とスマホを手に持ちながらウッドデッキへと歩いていく。
椅子に座り、肌寒い夜風に当たりながら紫煙をくゆらせていた時にスマホが鳴り出す。
「知らない電話番号だな?こんな夜更けに連絡してくるとなると…魔法少女の誰かか?」
年頃の少女達の電話番号は伏せておけと伝えた人物の顔を思い浮かべながらスライドさせる。
「こんばんわ~尚紀さん♪」
「みたまか?よく俺の電話番号を知ってたな?」
「ももこから聞いた事があったのよ。職場の名刺を貴方が渡してくれたんでしょ?」
「そうだったのか。それで…何の用事だ?俺は忘年会に付き合った後だからな…正直疲れてる」
「そうだったのね…なら、聞きたい事があるだけなの。それを聞けたら大丈夫だから」
「分かった…それで?」
「その…ね…?元旦なんだけど……」
電話を終えた尚紀はウッドデッキから家の中へと戻ってくる。
後頭部を掻きながら困った表情を浮かべる尚紀に対し、槍一郎はこう告げてくる。
「その顔つき…女からデートに誘われたな?」
「……ああ。恋愛の先輩は何でもお見通しなんだな?」
「お前は顔に出やすいタイプだからな。返事はなんて返したのだ?」
「見せたいものがあるから会いに来てって…真剣な態度で言われた。だからまぁ…行ってくる」
「フフッ…相手はこの前の魔法少女か?なら、最後まで相手をしてやるのだぞ」
「お…おい、最後まで相手って……」
「男にとってそうでなくても、向こうは真剣な場合もある。軽はずみな態度は女を傷つけるぞ」
「……気を付ける」
恋に悩む若者の肩に手を置いた後、槍一郎は寝ている悟空を引き摺っていく。
外に放り出される師匠を見た後、彼も自室に戻りベットの中へ入って眠ろうとするが眠れない。
「体が二つあったなら…俺はみたまの傍に寄り添って、幸せにしてやれたのだろうか?」
尚紀は魔法少女達の傍に寄り添い、幸福に生きる事は出来ないだろうと考えている。
自分の役目を果たすため、これからの彼は仕事と勉強漬けの生活を送る事になるだろう。
最終的には国政選挙に出馬し、もし選挙に勝てたならば東京に向かう必要がある。
この神浜市で暮らしていけるのも長くはないと思っていたようだ。
短い付き合いになるかもしれない魔法少女達に対し、彼は思いを馳せていく。
「…悔いはない。俺は男として…遠くからでも女達の人生を守る道を突き進んでいく」
寝返りを打ち、眠る事に集中する。
それでも彼の脳裏には考えたくない思いが形となって浮かんでしまう。
かつては魔法少女と共に生きたいと願った経験があるからこそ、捨てきれない思いもあった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
動乱の年となった2019年を終え、舞台は2020年へと移っていく。
1月1日の元旦となり、神浜市の神社も例年通り忙しくなるかと思ったがそうでもない。
神浜テロの爪痕は未だに深く、地元住民達は自分達の家の事で手一杯な状況が続いている。
無事だった人達も自粛ムードが漂うため、初詣に向かう人達はまばらだったようだ。
それでも神浜市で生きる人々の顔つきは一部の者を除いては希望を感じるような顔を見せる。
何故なら、テロのキッカケともなった神浜東西差別問題をようやく乗り越えられたからだろう。
そんな神浜市の街を東に向けて移動していくのは尚紀である。
大東区まで来たタクシーから降りて清算を済ませた彼が大東区にある神社を目指す。
「遅れるかと思ったが…何とか間に合いそうだ。たしかこの辺だったな?」
お昼が近い11時前に差し掛かった頃、尚紀はようやく大東区にある神社に到着。
神社の境内に入ってみると、拝殿の前では振袖姿の少女が待ってくれている。
「あけましておめでとうございます、尚紀さん♪」
新年の挨拶をされたようだが、彼の両目は見開いたまま茫然としている。
どうやら振袖姿をした彼女に見惚れているようだ。
調整屋の店を彷彿とさせる程の鮮やかな青柄には薔薇模様も装飾されている。
髪には蒼薔薇を模したコサージュ風髪飾り、首元には白いショールを巻く可憐な姿をしている。
「あ…ああ、明けましておめでとう…」
「どうかしたの…?茫然としてたようだけど?」
「い、いや…その…だ。振袖姿のみたまを見るのは初めてだったが…似合うじゃないか」
少し照れた表情を浮かべながらも、はにかんだ笑みを浮かべてくれる。
そんな尚紀の顔を見つめるみたまは満面の笑みを浮かべてくれるのだ。
「ウフ♪尚紀さんに綺麗だって言われちゃった♡私の魅力にメロメロになっちゃったかしら?」
「からかうなって…それより遅くなって悪かったな、午前中は少し用事があったんだ」
「いつもの探偵姿だけど、お仕事に行ってたの?」
「これはクリスに言い訳を用意するために着てるだけだ…先に向かったのはやちよの家なんだ」
「やちよさんの家に何か用事があったの?」
「あいつは魔法少女達への連絡網を今でも持ってる。俺が世話になった子達を呼んでもらった」
用事内容を聞けば、どうやら世話になった魔法少女達にお年玉を配っていたという。
懐から二枚のお年玉袋を取り出し、みたまにも渡してくれる。
「お前とみかげの分だ。無駄遣いするんじゃないぞ」
「まぁ~♪感謝カンゲキ雨嵐♡大人な尚紀さんはちゃんとしてるわ~」
「お前だって社会人になれば同じ立場となる。年末出費が億劫になってくるぞ」
「フフッ♪早く大人になって…私も尚紀さんと一緒にお酒が飲みたいわね~」
喜びの表情を浮かべながら尚紀の右腕に抱きつき、ついてくるように促してくる。
「先ずはお参りをすませてから屋台に行きましょう♪もうお昼だからお腹すいちゃった」
「屋台か…東京で暮らしてた頃、友達と一緒に初詣に行った時の事を思い出すよ」
尚紀を引っ張りながら拝殿に向かって歩んでいくみたまは心の中でこう思う。
(家族や友達以外の人と初詣に来るの…初めてよ。なんだか…フフッ♪浮かれちゃうわ)
拝殿の前で順番が回ってきた尚紀達は前に出て財布を開ける。
お賽銭をみたまは投げ入れるのだが、尚紀の方に視線を向ければ浮かない顔をしている。
「どうかしたの?」
「いや…何でもない。知識を色々と溜め込むとな…楽しい事も楽しくなくなる弊害が生まれる」
「私と一緒に初詣をするのは…楽しくないの?」
「そういう意味じゃない。お前と初詣はいいんだが…俺の悪癖だな。気分を害させてすまない」
改めて五円玉を放り込み、2人揃って手を叩く。
(民衆の善意で放り込まれるこの
売国政策を行いつつも極右思想を掲げた矢部政権の背後には神社庁等の極右団体が存在する。
彼らは過激な憲法改正に賛成しており、数万ある日本の神社を統括する神社庁もその一つ。
日本の神社は神社庁に加盟しなければ村八分の苦しみが与えられる程に恩恵が乏しくなる。
そのため思想の自由が許されず、お賽銭運用の僅かばかりであるが極右団体に流れるのだ。
(愛国の名の元に人権を踏み躙りたいナチス共だ。そいつらにお賽銭を投げる行為なんだよ…)
心の中で本音を考えていた時、横のみたまが声をかけてくる。
「尚紀さんはどんな願い事をしたのかしら?」
「えっ?ええと…その…別れる事になった他の仲魔達と…もう一度再会したい…かな?」
「そういえば、尚紀さんの家にはその仲魔達がいるんでしょ?クリスマスの時に聞いたわ」
「そうだ。うちに来る機会があったなら、みたまにも連中を紹介してやるよ」
咄嗟に思いついた言い訳を並べてみたが、彼女の顔は何やら不満そうな顔つきを浮かべてくる。
「何か忘れてないかしら~…?」
「参拝はお賽銭を投げる以外に何かあったかな…?」
「そうじゃないわ。私が何を願ったのか…聞きたくないの?」
笑顔を向けながらも怒りのオーラを背後で噴火させる彼女の態度にタジタジとなってしまう。
冷や汗をかきながらも促された通りの言葉を言ってくれる。
「……何を願ったんだ?」
「フフッ♪ひ・み・つ♡」
願い事は何か聞いてもらいたそうな態度をしていたのに秘密にされる彼は怪訝な顔つきになる。
そんな彼の手を引っ張り、お腹を空かせたみたまは屋台が並んでいる境内へと向かって行く。
手を引っ張られながらも尚紀は拝殿のお賽銭箱に振り返ってしまうようだ。
(政治を知れば知る程…普通に暮らす人々との間隔がズレていく。
それを正していく道こそが新たなる自分の目標だと彼は信じる。
全ては殺戮者となった者の血塗られた手に触れてくれる優しい子供達の未来を守るためだった。
♦
参道や神社の広場にはお正月ならではの出店が並んでいる。
色々な出店がある通りを歩いていくと美味しそうな匂いが立ち込めてくるようだ。
「昼飯も兼ねるなら粉物だろうな。好きなの選べ、奢ってやるよ」
「や~ん尚紀さん太っ腹♪お腹が空いてるから端から順に回っていきましょ~」
「食い過ぎて腹壊すなよ…」
彼女は興味が出た屋台から次から次に回っていく。
一緒に連れているのは神浜の東にとっては英雄的存在であるため、自然と皆が声をかけてくる。
「よ!俺たち東住人の英雄さん!美しい彼女を連れて東に遊びに来てくれるなんて嬉しいよ!」
「こっちにも買いに来てくれ!あんただったら安くしとくよ!」
色々な人々から声をかけられる彼は辟易とするが、みたまはとても嬉しそうな顔をしている。
「下町人情のある地域だな。気さくな態度で接してくれる人々のようだ」
「みんな本当に嬉しそうな顔をしてるわ。それも全部…尚紀さんのお陰だからね♪」
「感謝されたくて演説を行ったわけじゃない。俺には俺なりの責任があったからなんだ」
「尚紀さんにとっては贖罪でも、私たち東住民にとっては救世主様なのよ」
屋台を色々と見ていると町内会の代表も声をかけに現れ、住民を代表してお礼を言ってくれる。
屋台の商品でお昼を済ませたいと言ったらテント席を貸してくれたようだ。
テント席に座り昼飯を食べようとしているが、尚紀は机の前を見て心配そうに声をかけてくる。
「随分と買ったようだが…食いきれそうか?」
「デザートは別腹だから大丈夫♡りんご飴にチョコバナナ…どれも美味しそう♪」
「まぁいい。町内会のテント席を独占するとあれだから…早めに食べて移動しようか」
「そうするわ。このままこの場所にいたら、尚紀さんは町内会の人達と飲み明かしそうだし♪」
そうと決まればと彼はたこ焼きの爪楊枝に手を伸ばす。
たこ焼きの一つを突き刺していると目の前から美味しそうなたこ焼きの匂いが近づいてくる。
「はい、あ~ん♪」
「えっ?」
前に視線を向ければ、みたまがたこ焼きの一つを口元に近づけてきている。
「じ…自分のを食べるよ」
「ダーメ、私の愛情が籠ったたこ焼きから先に食べて欲しいわ♡」
「いや…その…恥ずかしいんだが…」
「男は度胸♪何でもやってみるものよ~♪さぁ、熱いうちに口に入れて頂戴♪」
彼女の気持ちを無下にも出来ず、周りを伺いながら隙を見て食べてくれたようだ。
照れた表情を浮かべながら黙々とたこ焼きを食べていると、目の前の彼女に視線を向ける。
みたまは食事の手を止めており、遠い眼差しを浮かべながら屋台の景色を見つめている。
「…去年はね、十七夜を連れて初詣に来たの。彼女と一緒にお雑煮イベントに参加もしたわ」
お雑煮を食べれる子供向けのイベントであり、ヒントを考え食材を探す内容だと聞かされる。
十七夜を連れて色々な人々と触れ合えた楽しい記憶を語る彼女の声には寂しさを感じてしまう。
「十七夜は悪魔になっちゃったし…もう…私達のところには…帰ってこないのかしら?」
ももこから十七夜の事を聞かされた時は動揺のあまりももこを罵倒している。
その時の事を思い出したみたまの顔には後悔の表情が浮かんでしまう。
「ももこに謝りたい…だけど、最近は調整屋に現れにこないし…勉強会にも参加してないのよ」
「大丈夫…きっと元の生活に戻れるさ。お前は愛する人々と一緒に生きるのが望みなんだろ?」
「尚紀さん…」
「ももこがいて十七夜もいる。それに他の魔法少女達とも楽しく過ごせる。そうしてみせるさ」
励ましの言葉を聞いた時、心の中の不安が消えていく。
軽はずみな大口を叩く男は頼りにならないかもしれないが、彼には実績がある。
だからこそ信頼出来ると判断する気持ちこそ、男への信頼を寄せる女の気持ちなのだろう。
頬を染めながらも彼女は感謝の言葉を口にしてくれる。
「私…尚紀さんと出会えて…本当に幸せよ。貴方の傍が…一番安心出来るわ」
寂しそうな態度を始めてしまう彼女を見つめる彼の心は苦しみに包まれてしまう。
傍にいたいと告白してくれた彼女を遠ざける判断をしたのは尚紀であり、罪悪感に蝕まれる。
気まずい空気となっていた時、素っ頓狂な叫び声が聞こえてきたようだ。
「おおっと!?お熱いですね~みたまさん!尚紀さん!」
視線を向ければ現れたのは矢宵かのこと弁当が沢山入った袋を持った千秋理子である。
「お前はたしか…かのこだったか?それと理子は家の手伝いのようだな?」
「はいっ♪屋台で働く人達もお腹が空きますし、お弁当屋さんの書き入れ時なんです」
「小学生なのに偉いな…正月休みなら遊んでいたいだろうに。かのこは付き添いなのか?」
「私は暇してたから外出してたんだけど、理子ちゃんを見つけたからついてきちゃったんです」
「そうか。ちょっと待ってろ…まだ袋はあったはずだ」
尚紀は懐から余っていたお年玉袋を取り出し、財布から万札を入れてくれる。
「ほら、お前らの分のお年玉だ。無駄遣いするなよ」
「え~!?偶然出会っただけなのに…いいんですか?」
「構わない。将来は有名なファッションデザイナーになるんだろ?少しだけ投資してやる」
「嬉しいです~♪本当に有難うございます!」
「えへへ♪尚紀さんありがとう!それじゃあ、私は屋台の人達にお弁当を持っていきますね」
理子は仕事に向かうようだが、ファッション好きなかのこは振袖姿のみたまが気になる様子。
「この綺麗と可愛さが両立した古典的ながら現代的な振袖!とっても素敵です~みたまさん!」
「フフッ♪これはやちよさんから借りた振袖だけど、褒めてくれるとやっぱり嬉しいわ♪」
「いやー着ているのがみたまさんなら、そりゃ似合いますって!それに引き換え…」
ジト目を向けられてしまうのは男の方である。
「せっかくみたまさんが振袖姿でお洒落してるのに!仕事着で初詣はないんじゃない~?」
「何を着てようが俺の自由だろ…」
「お洒落をしてくれる彼女がいるなら、男もお洒落をするべきよ!なので…ムフッ♪」
怪しい笑みを浮かべてくるかのこに対し、尚紀は言い知れぬ不安を感じてしまう。
それでもファッションにうるさい彼女を見ていると、昔の親友を思い出してしまう。
(勇からもファッションを手厳しく指導されたもんだ…あいつも服や靴が大好きだったな)
懐かしい気持ちとなり、つい心が開いてしまったのが運の尽き。
みたまとの初詣が終わった後、かのこの家に寄る事になってしまったようであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
神社での初詣を終えた2人は大東区の南に向かって歩んでいく。
海沿いの場所で尚紀とみたまは海の景色を眺めているようだ。
「余所者の俺でも受け入れてくれる東の人々だった。東の根も葉もない噂は当てにならないな」
「それが十七夜が愛した街の人々の姿なのよ。歴史問題に苦しめられた末に…壊れていったの」
「それももう終わりだ。これからは俺以外の余所者達に接する態度も変わってくれるさ」
これからの明るい東社会を思えば思う程、尚紀に対する愛しさが心の中に溢れ出す。
頬を染めたみたまはあの夜を繰り返すようにして尚紀に顔を向けてくる。
「ねぇ…もし選挙に勝てたなら…東京に行く事になるのかしら?」
「…そうなると思う。俺は聖探偵事務所を退職し、東京での生活が待っているだろう…」
固い決意を秘めるのは、みたまや十七夜達のような生活困窮者を救うため。
それがひいては魔法少女社会を救う結果を残せるという、新たなる抑止力の道である。
それでも恋心を捨てられない少女の心は未だに変わらない。
愛する魔法少女達だけでなく、愛する男とも一緒に生きたいという願いを抱えているのだ。
「…政治家さんだって、お嫁さんぐらいはいるでしょ?」
「えっ?」
「妻は夫を支えながら生きる。それが夫の仕事に対する力になってくれる…そう思いたい」
みたまは潤んだ瞳をもう一度向けてくる。
「私はね…貴方を愛する気持ちは絶対に捨てないわ。だから…貴方が必要としてくれたなら…」
価値ある目的に使われたいと思う心理こそが女性の気持ちである。
尚紀の人生を支えるパートナーとして、彼女も東京に行きたいと言い出すのだろう。
それを聞いた尚紀の顔は俯いていき、近くにあったベンチに座り込んでしまう。
隣の席に座ってきたみたまに昔話を聞かせてくれる。
「数年前の俺はな…愛する魔法少女と共に人生を生きてみたいと考えていた事があった…」
尚紀が話してくれた人物とは風美風華のことである。
悪魔を救ってくれた魔法少女であり、人生に絶望を抱えた少女でもあったという。
「悪魔と魔法少女が一緒に生きられる未来を夢見た…それでもその子は…殺されて死んだ…」
魔法少女の人生を守ると誓った矢先で愛する魔法少女を目の前で殺された負け犬。
それこそが嘉嶋尚紀であると語ってくれる。
「俺は怖いんだ…東京で一緒に生きてくれた人々さえ守れなかった…俺は誰も…守れない…」
――宇宙意思とも言えるだろう、唯一神に呪われた…悪魔でしかないんだ。
記憶の中に蘇るのは炎を運ぶ者と成り果て、佐倉牧師の教会を焼いてしまった罪の記憶。
両手で頭を抱え込み、上半身を俯けたまま罪と罰の記憶に支配されながら悶え苦しむ。
「俺の傍にいれば…
語られた気持ちこそ、みたまを遠ざけた本心だったのだと彼女は知る事になるだろう。
恐怖と不安に支配された愛する者の気持ちに気が付いたみたまは尚紀を抱きしめてくれる。
「怖がらないで…貴方は守護者よ。だって私や十七夜…それに東の人々の心を救ってくれたわ」
「怖い…怖いんだ…俺と親しくなってくれた人々は…誰も生き残ってくれなかった…」
「それが運命だとしても…私は戦う。だって…運命に抗う自由を叫んでくれた人がいたから」
それを叫んだ者こそ、神浜東西差別の歴史を終わらせてくれた偉大なる英雄。
みたまや十七夜、東の魔法少女、それに西側の穏健派の人々さえ救ってくれた救世主であろう。
「自信を持っていい。私は信じてる…尚紀さんなら…私を守り抜いてくれる人だって」
「み…みたま……」
こんな呪われた男を信じてくれると言ってくれる女がいる。
それがどれほど嬉しかったのかは彼にしか分からない。
尚紀もみたまを抱きしめてくれる。
「ありがとう…俺なんかを…信じてくれて…」
思いが通じ合った気持ちになれたみたまは潤んだ瞳のまま尚紀の胸に顔を埋めてくれる。
男の自分を心から愛してくれる女の柔らかい温もりと甘い匂い。
胸が高鳴り、添い遂げたいと思った風華を相手に果たせなかった雄の欲望がこみ上げてしまう。
それでも恐怖は拭いきれないようだ。
人修羅と呼ばれる嘉嶋尚紀は大いなる意思に呪われた悪魔でしかない。
そっとみたまを抱き起した後、笑顔を向けてくれる。
「お前は本当に優しいな…そんなみたまの心に呪いを生んだ歴史を終わらせられたのが…」
――俺の人生の誇りだ。
みたまを席から立ち上がらせた後、彼女を大東団地まで送ってくれる。
団地の入り口前で寂しそうな顔を浮かべるみたまに微笑み、手を振りながら尚紀は帰っていく。
胸の高鳴りは未だに続いており、雄としての本能に苦しみながらも彼は前だけを見据える。
「俺の人生に花はいらないと思った…それでも…
悶々とした感情を抱えながら帰路についていた時、別の用事を思い出す。
教えてもらった板金工場を検索した後、尚紀は工匠区へと歩みを進めていった。
♦
元旦の工匠区は騒然としている。
何故なら、猛り狂った雄の如き存在が道を歩いているからだ。
その姿はまるで多産や豊穣などをもたらす男性器崇拝の御神体の如き神々しさと恥ずかしさ。
それを纏う者こそ、1人の雄なのだ。
「このみが言ってたかのこの脅威とは…こういう事だったのかよ……」
雄の顔は真っ赤となり、恥ずかしさによって御神体ともいえる体は震えている。
これは少し前の出来事である。
「あんじゃこりゃぁぁぁぁーーーっ!!?」
部屋で叫ぶ尚紀が身に付けているのは矢宵かのこの自信作。
「どうかな?尚紀さんは男の人だし、雄としての猛りを表現したかったの♪」
尚紀が着せられている服とはまるで着ぐるみ。
顔を出す丸い穴以外の部分はキノコ種類のタケリタケのようにも見えるはず。
「どういうファッションセンスしてんだよ!?こんなの着て帰れるか!脱がしてくれぇ!!」
「えー勿体ないよー。私のファッション服を宣伝するために協力して!」
「断る!!この姿…どう見ても…男の股間にぶら下がってるヤツだぞ!?」
「だからこそ男の尚紀さんに身に着けて欲しかったわけ。ちゃんとぶら下がってるでしょ?」
「そういう問題かよ!!いいから脱がせてくれー!!」
「しょうがないなぁ……あ、あれ?」
「どうした…?」
「ファスナーがビクともしない」
「なんだとぉ!?だったら鋏か何かで着ぐるみを切ってくれ!!」
「そんなこと出来るわけないよ!私が夜なべしながら作った自信作なのに!!」
「もういい!!俺が内側から壊してやる!!」
そう言えばかのこの目がウルウルしだす。
ファッションデザイナーを目指す卵として自信作を壊される苦しみを味わう事になるためだ。
女の涙に弱すぎる男は悪魔の力を解放する事をやめてくれる。
どうにかファスナーを下ろそうと頑張ってみたが、魔法少女の力でもビクともしない。
「どういう耐久度してるんだよ…この着ぐるみ!?これも魔法少女の魔法の力なのか!?」
「これは私でもファスナーを下ろせそうにないね…力自慢の友人に脱がせてもらうとかは?」
それを言われた瞬間、頭に浮かぶのはセイテンタイセイとクーフーリン。
こんなごりっぱ様な姿をしたまま家に帰った時の反応が恐ろし過ぎる。
それでも他に手段がないため、泣く泣く尚紀はごりっぱ様な姿のまま工場を去ったのだろう。
一方、参京区に借家がある静海このは達姉妹は隣の工匠区へと初詣に行っている。
帰りの道を歩いていた時、横の道から現れた卑猥な存在を見つけたために目が点になるだろう。
「「あ…あぁ………」」
出会ってしまったのは嘉嶋会のボランティア職員達。
赤面して口をパクパクさせるこのはと葉月の隣には不思議そうな顔を浮かべるあやめがいる。
「あけましておめでとう~尚紀お兄ちゃん!それと、なんでキノコの着ぐるみを着てるの?」
まだ子供であるため彼女は男性器というものを見た事がないようである。
それでも三女よりは性的な知識を持つ姉達は顔を真っ赤にしながら悲鳴を上げてしまう。
<<キャァァーーーーッッ!!変態よぉぉぉーーーっ!!>>
「見るなぁぁぁぁーーーっ!!!」
恥ずかしさのあまり錯乱してしまったキノコ男が駆けだしていく。
その頃、道路の配管工事をしている工事現場で働く警備員は前から駆けてくる存在に気が付く。
「な…なんだアイツーーーッッ!!?」
我を忘れて逃げ惑う尚紀は目の前にある工事現場が見えていない。
頭に浮かぶ光景は嘉嶋会職員達からごりっぱ理事長と嘲笑われる恐ろしい光景であろう。
勢いのままバリケードを突破して工事現場に入った瞬間であった。
「ぬふぅ!!?」
勢いよくこけたキノコ男が土管の中に挟まってしまったようである。
「だ、大丈夫かアンタ!?」
作業員が駆け付けるが、着ぐるみの足部分をバタバタさせながら藻掻く事しか出来ない。
慌てた作業員達がキノコを抱え込み引っ張り出そうとするのだが上手くいかない。
「なんだこの着ぐるみ!?なんか滑っとしてて滑りやがる!!」
「手が滑る!!もっとしっかり持って引っ張り出せ!!」
作業員達がキノコ男を引っ張るがまた落ち込み、また引っ張る。
それを連続して行う光景はある意味性的な光景に見えてくるやもしれない。
尚紀の異常行動を心配したこのは達が追いかけてきて現場に到着したためさらに混沌と化す。
「な…何してるのさ…尚紀さん!?最低だよーーっ!!」
赤面したまま目が飛び出すほど驚く葉月であったが、地面から振動を感じてしまう。
「地震!?規模は小さいけど…どうしてこんな時に地震が…」
「…もしかして、地面が感じちゃったとか?」
「どういう意味なのさ?このは、葉月?」
「「あやめはまだ知らなくていい!!」」
こうして珍妙な現場光景は偶然居合わせた民衆のスマホ撮影の餌食となってしまう。
SNSで拡散し、メディアからこの写真を記事に使わせて欲しいという連絡まできたようだ。
次の日に発売された神浜新聞の見出しはこうである。
『神浜の英雄、ご乱心』
『男気配管工事』
『キノコタケノコ元気な子』
そんな新聞を買い物ついでに見つけたクーフーリンは迷わず購入する。
尚紀の家の中では腹を抱えて笑う仲魔達の光景が生まれているようだ。
「……殺せ……殺してくれ……」
部屋の隅で三角座りしたまま背中を向け、誰も近寄れないダークゾーンを生み出す家主。
珍騒動が起こってしまった2020年のお正月物語はこうして終幕するだろう。
そんな新聞を見つけてしまった八雲みたまは膨れっ面となり、こんな言葉を残すのであった。
「地面と浮気しないでよね!!」
勢いで書いた。
反省はしていない。