人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
これは神浜人権宣言が行われた後、尚紀が失踪から帰った頃の出来事である。
クリスを運転しながら中央区を目指す尚紀のようだがクリスはブーブー文句ばかり言う。
「アタシは反対よ!また魔法少女をアタシに乗せるだなんて!浮気行為なんだからー!!」
「そう言うな。彼女は弱り切った体を押してまでこの街に来てくれる子なんだから」
「タクシーでも拾えばいいじゃない!ダーリンが乗せてあげる必要はないわよ!」
「あの子はイルミナティとディープステートから狙われてる。俺が傍にいた方がいい」
「それはそうだけど…仕方ないわね。用事を済ませる間だけなら構わない事にしてあげるわ」
「もう直ぐ中央区の駅ホームに電車が到着する頃だ。急ごう」
駅の駐車場にクリスを停め、改札口まで迎えに向かう。
駅のホーム方面から歩いてきた3人に目を向けると手を振ってくれたようだ。
「尚紀さん、私達の迎えにきてくれて本当に感謝してます」
改札口から出て来たのはドレスのような私服姿の美国織莉子である。
付き添い件護衛として横にいるのは呉キリカと浅古小巻であろう。
「その弱り切った体を押してまで早めに来たのか…まだ休んでた方がいいんじゃないか?」
「私も織莉子にそう伝えたんだけど…屋敷を監視する連中がいて織莉子も気が気じゃないんだ」
「うちの家の周りにも不審な連中を見かけるようになったわ…妹の小糸も怯えてるのよ…」
「連中が仕掛けてこない辺りから考えて、上の指示によって監視に留められているようだな」
「きっとそれは…尚紀さんが抑止力になってくれてるからだと思います。貴方は命の恩人です」
「織莉子だけでなく、私や小巻の命を守る恩人なんだ。だから私は君の事を大恩人と呼ぼう!」
「本当に感謝してるわ…尚紀さん。私と家族の命を守ってくれる唯一の希望だと思ってるから」
「不審な連中は何処に潜んでるか分からない。早めに移動しよう」
ついてくるように促した後、彼女達を駐車場にまで案内していく。
その道中で織莉子の体がふらつき始めたので立ち止まって後ろを振り向く。
まだ頬がこけたままの織莉子は神浜市に来る道中の疲労によって疲れ切っていたようである。
「ごめんなさい…キリカ。支えてもらってばかりね」
「織莉子…やっぱり体の維持に使う魔力を高めた方がいいんじゃないかな…?」
「私の心は未だ暗雲に包まれていて…ソウルジェムの穢れが溜まる速度も速いままなのよ…」
「今の美国に無理をさせてみなさい。戦うまでもなく円環のコトワリに導かれるだけよ」
「またキリカと小巻さんに迷惑かけちゃうわね…本当に頼りにならない私でごめんなさい…」
「そんな事ないよ!私は織莉子を支えるためなら…どんな苦難にも立ち向かえる!」
「今更そんなこと気にするんじゃないわよ。私達は…魔法少女パートナーでしょ?」
見滝原市で活躍するもう一組の魔法少女達の絆は固い。
その光景を見た尚紀は微笑み、駅の前に車を移動させておくと先に駐車場へと向かう。
避難場所として案内された業魔殿まで訪れた一行は織莉子の容態を見てもらう事にしたようだ。
「酷過ぎる状態だわ…どうしてこうなるまでに私のところに来てくれなかったの…?」
「…ごめんなさい。私は尚紀さんに知らされるまで…調整屋の事を知らなかったのよ」
診察台に寝かされた織莉子のソウルジェムに触れているみたまは動揺を隠せない様子である。
「極度の心的ストレスによって魂が劣化している…戦う力どころか生活さえままならないわ」
「…その通りよ。私は仲間達にばかり戦わせて…グリーフキューブを恵んでもらってたの…」
「調整によって魂の劣化部分を応急処置したわ。今の気分はどう?」
「少しだけ…気持ちが落ち着いてきた気がする。流石は噂に名高い調整屋さんね」
「魂は肉体の外部刺激によって穢れていく…私が応急処置しても生活状況が変わらなければ…」
「…再び私の魂は劣化して、戦う力どころか日常さえまともに生活出来ないわけね?」
「貴女は定期的に調整屋に訪れる必要がある…でも見滝原から神浜に通い続けるのも負担よね」
みたまはスマホを取り出し、何処かに連絡をしてくれる。
連絡を終えた彼女は織莉子を安心させてくれるような微笑みを浮かべてくれる。
「私に調整の技術を教えてくれたリヴィア先生がね、見滝原市に向かってくれる事になったわ」
「リヴィア先生…?その人も調整屋なの?」
「流れの調整屋をしている人よ。車で移動しながら調整をしてくれてる人だから頼っていいわ」
「何から何まで本当に有難う、八雲みたまさん。貴女も私の命の恩人ね」
「みたまでいいわ。今日の調整はこれぐらいでいいから、彼女達を安心させてあげなさい」
幾分か体が軽くなった織莉子は診察台から起き上がり、キリカ達の元に向かう。
見送ったみたまであったが椅子に座り込み、調整を施した両手を持ち上げていく。
視線を向ける両手は小刻みに震えていたようだ。
(調整を施す時に…視えてしまったわ。あの子がどれだけの仕打ちを受けてきたのかを…)
イルミナティの手下ともいえるディープステートから受けた虐待の数々は目を覆うものばかり。
これがイルミナティを敵に回す事になった魔法少女の現実なのかと恐怖心を隠しきれない。
(イルミナティが世界の魔法少女達を拉致してただなんて…ヴィクトル叔父様に相談しないと)
客間で喜びを分かち合う織莉子達の元に尚紀とヴィクトルがやってくる。
尚紀から事情を説明されたヴィクトルは織莉子達の保護を承諾してくれたようだ。
悪魔と戦った存在であるキリカと小巻は業魔殿に興味を持ち、色々な質問をしてくる。
織莉子も含めて様々な話を聞かされた上で今日のところは帰ってもらうようだ。
「ヴィクトル叔父様…少しお話があるんです」
「深刻そうな顔つきだね?もしかして…美国君を調整した時に何か気がついたのかね?」
事情を説明された時、不愛想なヴィクトルの顔つきにも僅かな動揺の影が浮かぶ。
「イルミナティはディープステートを利用して世界中に生体エナジー協会を創設したそうです」
「生体エナジー協会か…まさかそこで魔法少女達から感情エネルギーを絞っていたとはな…」
「美国さんもディープステートにハメられた末に…そこに囚われたみたいなんです」
「尚紀君がいなかったら…彼女も他の魔法少女達同様、命がなかったやもしれん」
「伯父様…私は恐ろしいです。悪魔崇拝を行う秘密結社が魔法少女を狙ってただなんて…」
「…言いたい事ならば分かる。吾輩がイルミナティと協力関係にある事だね?」
「私たち商人は中立です…だから利用者を責められない。でも、本当に正しいのでしょうか?」
「たとえ本物の犯罪者集団を相手に商売しようとも、商品に罪はない。以前話したはずだ」
「罪を行った者だけを裁け…ですね。でも…私の中にはまだ割り切れない部分が残ってます…」
「君は本当に優しい子だよ。だがね、理想と現実はかけ離れているものだ」
「人間如何に生きるべきかを考えて現実を見ないようでは大きなしっぺ返しを生む…ですか?」
「吾輩は悪人であっても差別しない。その信念があったからこそ東住民の君を差別しなかった」
「東の人々の中にだって悪人はいます。私も…心無い同郷の者から虐めを受けました…」
「
警戒するあまり一括りにするのは外国人が罪を犯したら外国人全員が犯罪者と考えるのと同じ。
そんな短絡的な思考になっては差別を繰り返した差別主義者と変わらないと語られる。
正義感を玩具にして浅慮な判断をするなと厳しく言われた彼女は俯きながらも家に帰っていく。
そんな彼女の背中を見送るヴィクトルの表情にはやりきれない感情が滲み出ているようだ。
その夜。
魔法少女達も寝静まる日付が変わろうとする時間帯こそ半吸血鬼のヴィクトルの時間であろう。
彼はホテルの地上に出ており、今日訪れるというイルミナティ関係者を待っているようだ。
少しして大型のタンクトレーラーがホテル駐車場の奥にある倉庫へと入っていく。
タンクトレーラーから降りてきた人物の元にまでヴィクトルは杖をつきながら向かう。
彼の元に歩いて来る者とは黒のチェスターコートとつば広ハットを纏う怪しい男である。
「キッヒッヒ。今月の納入分をお持ちしましたよ、ミスターヴィクトル」
「うむ、いつもすまないね。君たち生体エナジー協会あっての業魔殿だ」
現れた存在こそ生体エナジー協会の営業マンともいえるだろうMAGディーラーなのだ。
「明るい悪魔計画をサポートする、皆様のMAG屋で御座います」
「悪魔召喚には媒体となるMAGが必要だ。それがなければ…吾輩は悪魔研究すらままならん」
「ミスターヴィクトルのような賢人にこそ、我々生体エナジー協会は商品を提供するのです」
視線を逸らしてタンクトレーラーに目を向ける。
商談しているMAGディーラーを残し、地下搬入口エレベーターは下降を始めていく。
地下の業魔殿内部でイッポンダタラがタンクの中身を研究施設に移す作業を行うのだろう。
今月分の商品の支払いを済ませたヴィクトルだったが、らしくもない言葉を語ってしまう。
「…君達を詮索するのは好きじゃない。それでも聞きたい…あのMAGはどうやって生み出す?」
それを聞かれたMAGディーラーの目が細くなり、疑いの眼差しを向け始める。
「それは詮索しないと最初の取り決めで決めたはずですぞ。どういう心境の変化ですかな?」
「いや…忘れてくれ。君達がどんな方法でMAGを生産しようとも…吾輩にはそれが必要なのだ」
「渡る世間はGive and take。それが貴方のモットーでしたな?」
「吾輩とて生体エナジー協会の会員メンバーだ。君達の商品こそが…吾輩の生命線である」
「それが聞けて安心しました。では、私は地下の搬入作業が終わり次第に帰らせてもらいます」
ホテルに戻っていくヴィクトルであったが、やりきれない感情があるのだろう。
「魔法少女を保護する吾輩が…魔法少女を生贄にしたMAGに頼る…皮肉なものだな」
彼が行う所業は外道行為なのかとアメリカの銃乱射事件を例にして考えてしまう。
銃を売るから大量殺戮が生まれるのなら、銃を売り買いする者達は全員悪人にされるのか?
銃を製造して販売するからこそ、警察官達が民衆を守る力として運用する事さえ出来るはず。
スマホだってGPSアプリのお陰で登山家達が遭難した時に助かった事例は多い。
それでもスマホの追跡機能によってプライバシーは侵害され、独裁国家に利用されてしまう。
正義の魔法少女が生み出す武器であっても人を救うと同時に殺す道具にさえ出来てしまうのだ。
「道具とは常に
悪魔研究によって財を成したホテルを見上げながらも彼はこんな言葉を残す。
「吾輩の悪魔研究所で再び生を受けた雪野君と安名君の喜びこそが…」
――商売人としての吾輩の…慰めであろうな。
♦
日も沈んだ夜道をクリスは走行していく。
向かう先とは以前助けた事があった里見那由他の家であろう。
織莉子と那由他は同じ苦しみを経験した者同士であり、交友を深めている。
体がひ弱になってしまった織莉子の身を心配してくれたため、一晩泊めてくれるのだ。
「今日は那由他の家でゆっくり休め。明日の日曜日はもう一度業魔殿に行くんだろ?」
「そのつもりです。私達のソウルジェムを強化する施術をみたまさんがしてくれるそうなので」
「うー…織莉子が他所の魔法少女と仲良くなっていく…私は嫉妬で散り果てそうだよ…」
「バカなこと言ってんじゃないわよ。私達には少しでも戦う力が必要なんだから」
「うん…それは分かってるんだけど…なんか落ち着かない!」
「呉は本当に美国狂いなんだから…少しは友達のえりかって子も気にしてあげなさいよね?」
車を有料駐車場に停止して車から降りる。
一行を家の入口前で待ってくれていたのは那由他と父親の太助であろう。
「よく来てくれたね、待っていたよ」
「太助さん…無事で本当に良かったです。やはり…後遺症のせいで両足が…」
「構わない…命が残っただけでも奇跡だったんだ。娘と協力しながら頑張って生きているよ」
「織莉子さんの方も体は大丈夫でしょうか?貴女の体だって本調子じゃないですの…」
「調整屋さんのお陰でマシになったわ。今日はキリカと小巻さんも連れてきたけど…大丈夫?」
「賑やかな方がいいですの♪さぁ、晩御飯を頑張って作りましたから入って下さいですの」
「俺はここまでだ、緊急事態が起こったら連絡しろ。明日の仕事は休みだから大丈夫だ」
「今日の仕事が終わった後で直ぐ私達を迎えに来てくれて感謝してます、尚紀さん」
踵を返して帰ろうとするのだが太助が呼び止めてくる。
「君には娘を助けてもらって感謝している。少し話があるんだが…時間はあるかな?」
「…長くならないなら構わない。同居人がいてな、帰りが遅いと心配をかけてしまう」
「分かった、そうしよう。君も家に上がってくれたまえ」
那由他と織莉子はリビングの方へと向かって行き、尚紀は太助の書斎の部屋へと招かれる。
「お前は民族学者なんだろ…?部屋の雰囲気が随分と違うな…」
太助の書斎は様変わりしている。
民俗学や宗教等の本が詰められた棚が消えており、PCやモニターが詰まった部屋になっている。
「この足になっては民族調査を行いに行く事も出来ない…私は違う仕事をするようになった」
今では企業などから仕事を請け負うフリーのプログラマーとしての生活を送っているという。
椅子に座ってくれと促された尚紀はソファーに座る。
電動車椅子に座ったまま太助は向かい合い、ようやく話内容を喋り出す。
「単刀直入に言おう。君は…人間ではないのだろう?」
それを聞いた尚紀の表情が変わり、敵意を向けるような顔つきとなる。
「どうしてそれを知っている?お前…本当にただの民俗学者なのか?」
「私はヘブライ民族や魔法少女民族を調査するだけでなく、悪魔の調査も行っていたんだ」
「魔法少女だけでなく悪魔にも精通しているか…博識なもんだが、どうして見抜けた?」
「娘から聞いた…彼女は悪魔に囚われていたとね。悪魔と戦える男となれば答えも出てくる」
「俺は女じゃない…魔法少女でないのなら、悪魔だと判断するしかないだろうな」
民俗学者としての鋭い考察だったのだと判断した尚紀は警戒心を解き、正体を語っていく。
尚紀が悪魔なのだと分かった太助は悪魔としてどのような生き方をしてきたのかも聞いてくる。
敵では無さそうな男のため、人修羅として生きる尚紀は包み隠さず語ってくれたようだ。
「魔法少女社会を
「それが俺の背負う罪だ…でも、今はそれだけでは足りないと悟る事になったよ…」
電動車椅子の肘掛けに両肘を置き、手を組んだまま太助は眼鏡を光らせる。
「今の君が求めているものこそ…
「思想が偏り切れば暴力を撒き散らす者にしかなりえない…俺はそのせいで…死をばら撒いた」
「君だけではない。あらゆる価値観のすれ違いによって争いたくない友と殺し合うまでになる」
何処か遠い世界を見ているような太助の目を見ているとボルテクス界の出来事を思い出す。
親友達と殺し合いたくないのに殺し合う羽目になったのは思想のすれ違いでしかなかったのだ
「この世界は宇宙意思によって支配されている。それは悪魔の君が一番知っているはずだ」
「ああ…あらゆる並行世界を生みだす宇宙意思とやらが…俺たち悪魔にとっては怨敵なんだ」
「あらゆる世界で思想の違いによって殺し合いが生まれる」
LAW、NEUTRAL、CHAOS。
三つの勢力に枝分かれした者達は思想の押しつけを行うために暴力を撒き散らす。
LAWこそが絶対的に正しいのだと信じる者は法の名の元に暴力を振るう。
CHAOSこそが絶対的に正しいのだと信じる者は自由の名の元に暴力を振るう。
NEUTRALを目指す者とて例外ではない。
NEUTRALの思想をLAWとCHAOSに分れた者達にぶつけて暴力を振るう者になると語られる。
「俺が目指すNEUTRALの道ですら…加害者になる可能性があるというのか…?」
「
「独裁政府の歴史だな…理想に従わない者は人類の敵として虐殺の限りを尽くしたんだ…」
「大切なのは…
「法と自由という現実を見た上で…理想にしか過ぎない中庸を目指す…」
「それこそが…
それこそが他の宇宙を生きる悪魔と関わった少年、少女達の本当の望みなのだと語ってくれる。
LAWに進んだ仲間とCHAOSに進んだ仲間を尊重しながら手を取り合う。
それが出来たのなら、人修羅とて親友達と殺し合う結果なんて生まれなかっただろう。
あの頃の自分に何が足りていなかったのかを突き付けられた尚紀の顔が俯いていく。
「俺は…友達と殺し合いなんてしたくなかった…。ただ…やり直したかっただけなのに…」
今にも泣きだしそうな顔になってしまった尚紀を見つめる太助は眼鏡を指で押し上げる。
「それは君だけの物語だ…私から言える事は何もない。それでも悔いているというのなら…」
――この世界でこそ、
それを言われた時、ハッとした顔を浮かべながら立ち上がる。
「あんたは…誰なんだ?本当に…民族学者をやってるだけの…里見太助なのか?」
「私は君の味方であり、人類の味方だ」
電動車椅子を動かして書斎の奥へと向かって行くのを見ている尚紀の視界が変化する。
白い景色となっていき、姿が見えるのは遠ざかる電動車椅子の背もたれしか見えない。
自分の体を見れば人修羅の姿と化している。
横に視線を向けた時、自分以外の少年達の姿まで立っている。
「お前らは……?」
右を見ればサイバースーツを纏い、腕にCOMPを装備する2人の少年の姿。
左を見れば侍衣装のような服を纏い、ガントレットと呼ばれるCOMPを装備する少年の姿。
そして頭部の左側を刈り上げた髪型をした緑色のつなぎを纏う少年の姿も立っている。
彼らは人修羅と同じようにして電動車椅子に座る男を見据えているようだ。
<<別の宇宙の救世主となった者達もまた、君と同じ苦しみを背負った少年達だった>>
太助とは違う男の声が響き、声が聞こえる方角は遠ざかった電動車椅子方面であろう。
<<君の観測する力によって、この世界にはいない彼らの姿が与えられているんだよ>>
電動車椅子を動かして人修羅側に振り向いてくる。
そこに座っていた人物とは、先程話していた里見太助の姿ではない。
「太助じゃない…お前は誰なんだ…?」
赤いスーツを纏い、白髪の短髪をした眼鏡男。
怪しくも神々しい雰囲気を醸し出す男は光る眼鏡を向けながらこう告げる。
<<私の名は
その名を言われた瞬間、人修羅はかつての新聞で読んだ記事を思い出す。
「バカな…お前は…死んだはずだ……」
<<私は理を捻じ曲げてでも君と出会う必要があった者さ。君は可能性を持つ悪魔だからね>>
「可能性を持つ悪魔だと……?」
<<君は周りの少年達が追い求めた道を探す者。だからこそ…
「俺が…こいつらの道標…?」
<<それだけではない。この世界で生きる魔法少女達の道標にもなってあげて欲しい>>
「俺なんかが…魔法少女達の道標…?」
<<
視界がホワイトアウトしていく。
スティーブンと名乗る男の姿と周りの少年達の姿も消えていく。
<<私は生み出した悪魔召喚プログラムをあえて封印した。それは可能性を探すため>>
人間だけが世界を救えるという偏った理想をスティーブンは求めない。
悪魔や魔法少女という人外でありながらも人の心を宿す者達もまた世界を救える者達。
彼はそう信じたからこそ、それを証明して欲しいと人修羅に伝えてくれる。
意識も消えていく中、最後にスティーブンはこんな言葉を残してくれたようだ。
<<いつか君とは本当の意味で出会えるだろう。
その言葉を聞き終えた時、人修羅の姿と意識も白い世界から消えてしまう。
「あ…あれ…?」
気が付いた尚紀が立っていたのは那由他の家の庭である。
「俺は何をしてたんだ…?織莉子達は家の中に入っていったのか…?」
狐につままれたような気分に浸りながらも彼は家に帰るためにクリスの元へと向かって行く。
そんな彼の姿を書斎の窓から見送る里見太助の口元には微笑みが浮かんでいたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
次の日、尚紀はクーフーリンのために用意したフォードのエコノラインを運転している。
クーフーリンはまだ運転免許取得中であり、今は尚紀が乗っているようだ。
フルサイズバンが向かうのは那由他の家であり、家の前で待っていた少女達を乗せていく。
向かう先は昨日訪れていた業魔殿のようだ。
「いやー大恩人は車を二台も持ってるのかい?お陰で那由他も乗せていけるよ」
「那由他も調整屋に用があるって言ってたからな。クリスは4人乗りだからこっちで来た」
「私も神浜の魔法少女社会に合流した者として毎日を過ごしてますの。今日は調整の日ですの」
「随分と機嫌がいいな?調整屋に行くのが嬉しいのか?」
「フフッ♪私は調整屋でお友達が出来たんですの。その子と会えるのが楽しみなんですのよ」
「調整屋で友達…みたまの護衛をしているみかげの事か?」
「ご存知だったのですの?」
「あいつはおてんば娘だが、上手くやっていけそうか?」
「はいですの♪寂しそうな私の友達になってくれたんですの…おてんばだけど優しい子ですの」
そうこう言っているうちに車は業魔殿の駐車場へと入っていく。
一行は地下へと降りていき、みたまの調整屋に入る。
「あっ!なゆたーん!!」
元気に手を振って出迎えてくれたのは八雲姉妹であろう。
「いらっしゃーい。調整屋さんにようこそ~♪美国さん、今日は顔色がいいわね」
「ええ、昨日の調整のお陰で久しぶりにぐっすり眠れたの。ご飯も沢山食べれたわ」
「それは良かったわ。沢山ご飯を食べれるようになって、体を元に戻さないとね」
織莉子達を客間に向かわせる横では那由他とみかげがはしゃぎながら手を繋ぎ合っている。
「那由他もみかげも嬉しそうだな。いい友達になれそうだ」
「フロスト君が死んで…ミィは友達を失ったの。だから寂しかったのね…あんなに懐いてるし」
「すまない…お前たち姉妹の大切なフロストを殺してしまったのは…俺なんだ…」
「…言わないで。本当に辛いのは私たち姉妹よりも尚紀さんの方なんだから…」
「俺は調整屋から席を外しておく。彼女達の用事が終わったら呼んでくれ」
「あっ…尚紀さん…」
「……何だ?」
「その…えっと……」
この頃は尚紀とみたまとの間で告白が行われた時期である。
しかし尚紀は錯乱したままみたまの前から逃げ出し、告白の返事をまだ返せていない。
言いたい事が何なのか察している彼は辛そうな表情を浮かべながら謝罪の言葉を言ってくれる。
「あの時は…逃げ出してすまなかった…」
「いいの…尚紀さんにも何か辛い事情を抱えていたんだと思うわ。それなのに私は…」
「気に病むな、お前の気持ちは本当に嬉しい。だけど今の俺は気持ちの整理が追い付いてない」
「あの時に何を抱えていたのかは聞かないわ。でも…いつか胸の内を語ってくれたら嬉しいわ」
「必ずお前に伝えに行く。それまで少しの間…待っててくれ…」
そう言い残す尚紀は背中を向けて去ってしまう。
彼は遊戯室に供えられたソファーに座り、時間を潰しながら考え事をしているようだ。
「里見太助のところに行った時の記憶がおぼろげだ…俺はあの時、太助に呼ばれた気が…」
人修羅の脳裏の中に漠然と浮かんでくるものがある。
それは那由他の家にいるはずのないスティーブンと名乗った人物から語られた言葉であろう。
「俺が魔法少女の道標になるか…教育政策は施したし…悩みぐらいは聞いて指導はしてやれる」
それだけで彼女達の人生を救える道標になれるのだろうかと考えてしまう。
何か根本的な問題を解決する事こそが彼女達の人生を救える道標になるのではないのか?
そう考え込んでいた時、最初の調整が終わった織莉子がやってきたようである。
「隣に座ってもいいですか?」
「構わない」
促されて座った後、真剣な表情を浮かべながら尚紀に語り掛けてくる。
「私…尚紀さんと話せる機会がありませんでした。なので、もっと色々お話がしたいんです」
「俺はただの探偵であり、悪魔だ。それ以上のものではない…他の連中に聞くといい」
「じゃあ…私の話を聞いてくれませんか?私に興味を持ってもらいたいんです」
そう言われて怪訝な顔を向ければ少しだけ照れた表情を浮かべてくる。
語ってくれて構わないと言われたため彼女は自分の今までの人生を話してくれるだろう。
国政政治家一族に生まれたことや国政を目指そうとした父が汚職事件を起こしたこと。
そこまでは魔女という概念が存在していた世界でも知っている内容だろう。
その上で父親が汚職に手を染めてまで国政に出馬しようとしたのは何故かを聞いてみる。
すると織莉子はこう語ってくれたようだ。
「私は勘違いしてました…お父様は私欲のために国会議員を目指したのではないんです」
「…全ては守りたい国民のために国会議員を目指したか。この国の支配構造に気が付いたから」
「確かに私はお父様を苦しめる要因になりました。でも、本当のお父様は気高かったんです」
「お前も誇り高い女だからな。父親の血を受け継いでいる証拠だよ」
「だからこそ…私もお父様の意思を継ぎたかったんです。そのための政治活動でした」
「しかしな…日米合同委員会というGHQや、ディープステートを相手にするんだぞ?」
「それでも戦います。日米合同委員会がもたらす裏マニュフェストを認めるわけにはいかない」
「…
年次改革要望書とは毎年10月に米国から突き付けられる日本への命令書である。
現在は日米経済調和対話という名称に変更しているが、命令である事に変わりはない。
毎月二回各省庁のトップ官僚が日本人が入れない場所に呼ばれて進捗状況をチェックされる。
表向きは日本とアメリカの意見交換だが、アメリカは日本からの要望は無視している。
これを問題視した野党政権時代において、年次改革要望書を廃止しようとしたようである。
しかし日本を牛耳るアメリカとディープステートによって野党政権は脆くも崩壊。
2011年には米国の黒人大統領との会談で
「日本と米国の飼い主は同じだ。奴らを儲けさせる為に機能するのがホワイトハウスと米軍だ」
「米国の石油財閥ロックフェラー…そして英国とフランスのロスチャイルドが影の支配者です」
「お前は世界四大財閥に数えられるユダヤ財閥を敵に回すんだぞ?それがイルミナティなんだ」
その恐ろしさは分かっていても、まだ15歳の少女の体には震えが生まれている。
彼女は国会議員一族に過ぎず、世界を代表する大財閥と戦える力など欠片も無い。
日本政府さえ平伏し、手下として動かされては頼みの綱など何処にも存在しないだろう。
「ユダヤ財閥に逆らう者は総理大臣でもヘリコプターの遊覧飛行だ…冷たい海水が待ってる」
「それでも…それでも!!私は…お父様の意思を…意思を……」
恐ろしさのあまり涙が零れ始める織莉子に対し、胸の中には熱い感情が沸き起こっていく。
人間の守護者としての戦いを支えてくれた義憤の感情が溢れ出す。
彼は泣き崩れてしまった織莉子の肩に手を置いてくれる。
「怖かっただろう…これはもう、魔法少女の力でどうにか出来る次元を超越し過ぎている」
「怖い…怖い…私…本当は…凄く怖い…っ!!」
胸に押し殺してきた感情が爆発したかのように泣き喚き続けてしまう。
そんな織莉子の姿を見ていた時、アリナに言われた言葉が頭の中に蘇る。
――アナタにはないワケ?
「周りと面白可笑しく腐っていくだけの道を否定するためには…先ず、実践する事だった…」
織莉子の両肩を両手で掴み、泣いている織莉子を自分の顔に振り向かせる。
「俺が…お前のための道標になってやる」
「えっ……?」
「もう怖がらなくていい…後の事は俺に任せておけ」
「それって…もしかして……」
「俺がお前の親父さんの果たせなかった夢を……継いでやる」
――美国久臣に代わり…俺が国会議員になってやる。
彼の決意を聞かされた織莉子の目が見開いていく。
彼女の瞳の中に映る尚紀の姿が愛してやまなかった優しい父親の姿と重なって見えてしまう。
「後の事は俺に任せて…お前はキリカ達と共に幸福に生きろ。お前の涙は見たくない」
「あぁ…あぁぁぁ…お父様……お父様ぁぁぁーーっ!!」
泣きながら尚紀に抱きつき、胸の中に顔を埋めてくる。
優しく彼女の頭を撫でてくれる男の温もりが父親の温もりと重なっていく。
恐ろしさに支配され、魂まで劣化した精神が落ち着きを取り戻してくれたようだ。
落ち着いてきた織莉子が顔を上げた後、はにかんだ笑みを浮かべてくれる。
「尚紀さん…私は貴方を心の底から尊敬します。貴方なら私の願いを託せる者だと信頼します」
「受け取った。お前や他の魔法少女達の未来を守る為に…道標となる道を…俺は進む」
その言葉を聞かされた彼女の胸が激しく締め付けられる。
顔を真っ赤にしたまま織莉子は再び尚紀の胸に顔を埋めてしまう。
「あぁ…誇らしかったお父様…私が愛した時代の…お父様……」
偉大なる男が織莉子に与えてくれたのは父性愛。
女が本当に欲しかったものを得られたような気分となり、子供のように甘えてしまう。
そんな彼女を抱き締めてやる尚紀は確信するだろう。
これこそがスティーブンから託された道標になる道になってくれるのだと理解するのだ。
「ご…ごめんなさい…私ったら…はしたない…」
「お前はまだ中学生だろ?子供なんだから大人に甘えろ」
「フフッ♪私…尚紀さんの道となった政治の道を支えたいです。それはお父様の道ですから」
「俺にも政治を語り合える仲間がようやく出来たわけだ。歓迎するよ、織莉子」
「はいっ♡これからも宜しくお願いします♪」
立ち上がった2人が調整屋の元へと向かって行く。
織莉子を送りながらも心の中ではアリナに言われた言葉を唱え続ける。
(俺は俺の情念を貫けばいい…周りに合わせても社会は変えられないし…織莉子は救えない)
人修羅として生きる尚紀の中には悲しみの記憶しかない。
それでも魔法少女達がいるこの世界に流れ着く事で喜びの記憶も与えてくれている。
だからこそ幸福を与えてくれた者達のためにこそ男は働こうと決意するだろう。
その決意は後に八雲みたまにも語られる日がくる。
スティーブンは人間だけが世界を救えるという偏った理想を求めなくなったと語った者。
悪魔であり人間でもある存在もまた人類を救える者となる可能性が残されている。
それを皆に示す道こそが他の宇宙で絶望を生きた少年、少女達の心を救う道ともなるだろう。
人修羅として生きる嘉嶋尚紀が進んで行く道こそ、人類の道標となるための道のりであった。
本編の突然の展開に補足を入れるためにサイドストーリーで動機部分を描いておきました。
こんな生き急ぐ人生を生きてたら人修羅君は遠からずに金剛神界逝きですかね(汗)
魔法少女からモテまくるから別の意味で金剛神界逝きになるかも(汗)