人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
206話 宿命の対決
季節イベントであるバレンタインも終わった頃。
尚紀は変わらずの日常を送っているようだが、彼と触れ合う魔法少女達は違和感を感じている。
それは彼の目の色が変わっているという部分についてだ。
「ナオキ…どうしたネ、その目?」
「そうだね…ボクも気になってたんだ。何かの目の病気?」
早朝トレーニングに付き合ってくれる魔法少女達は尚紀を心配してくれる。
彼の目の色はどう見ても白人と同じ青色にしか見えない。
今まではアジア人と同じ黒だったのに青色になるのは目立つため隠せない。
「……眼医者に行ったが病気じゃないと言われた。生活に支障はないから問題ない」
「だけど…どう考えてもおかしいです」
「そうだね…突然目の色が変わるだなんて…不自然過ぎるよ」
「何かの魔法を受けているとかじゃないのかな…?私…尚紀が心配だよ…」
美雨、あきら、明日香、ささら、鶴乃は彼を心配してくれる。
しかし尚紀自身も原因が分からないため、どうすることも出来ない。
「病気の類じゃないとするなら…悪魔に関する問題なのだろう。知り合いの悪魔に聞いてみるさ」
魔法少女達に心配はかけさせまいと努めていつも通りの振る舞いを見せてくれる。
それでも彼女達は尚紀の体の変化については不安を隠しきれない様子だった。
目の変化について先に気が付いたのは一緒に暮らす仲魔達。
しかし彼らも悪魔の目の色が変化する現象については詳しくなかったようだ。
そのため彼の目の問題について知っているかもしれない人物のところにまで足を運ぶ。
仕事が終わった後に立ち寄った店とはマダム銀子と呼ばれるニュクスの店であった。
会員制のBARクレティシャスのカウンター席に座り、対応をしてくれる銀子と向き合う。
「虹彩がメラニン色素を集めて青色になったと言われたよ。病気ではなさそうだ」
「加齢によって目の色は変わるわ。色素の量は生まれ育った環境の日照条件に関わるの」
「外回りが多い探偵職だからなぁ…そのせいかもしれない」
「でも変よね…突然目の色が変わったなんて。毎日鏡を見てたのなら兆候は表れてなかった?」
「いや…突然だった。だから俺も不安になって眼科に行ったよ」
カウンターに立つ銀子は腕を組みながら考え込む。
尚紀は出されたウイスキーを一口飲み、不安な気持ちを紛らわせようとしているようだ。
「…悪魔の貴方は年齢を重ねる事は出来ない。だからメラニン色素の問題だとは考え辛いわね」
「なら…何だと言いたいんだ?」
「神も悪魔も概念存在。概念であるためその概念を観測する者達のイメージに影響されるわ」
「俺を観測する者達だと…?」
「日常で触れ合う人々だけではない。遠い異国でも貴方は影響を及ぼしている…崇拝対象なのよ」
「俺の目の色を変えた原因を起こした連中とは…まさか……」
鏡に映った青い目を見た時、瑠偉だけでなくもう1人の存在も浮かんでいる。
それはボルテクス界で尚紀を人修羅に変えた喪服の少年の目であった。
喪服の少年と金髪の老紳士の正体はルシファーだった。
ならば彼の目の色もまたルシファーと同じになったとも考えられるだろう。
「貴方はルシフェリアン達から崇められてきたわ…もう1人のルシファーとして」
黙り込んでいたが、グラスに注がれたウイスキーを一気に飲み干す。
立ち上がった彼は帰っていこうとするのだが立ち止まる。
背を向けたまま言葉を発する尚紀の言葉は震えていた。
「俺はこれから…どうなっていくんだ?人修羅のままか…?それとも…ルシファーになるのか?」
「概念存在の定義を形作るのは貴方ではないわ…観測者である人類なのよ」
「……今日はタクシーで帰る。駐車場に停めてあるクリスは明日拾いに来るよ」
そう言い残して尚紀はクレティシャスから去っていく。
見送ってくれた銀子は視線を柱の方に向けたようだ。
「彼が人修羅と呼ばれる悪魔ね…?ヤタガラスが是が非でも手に入れようとする程の存在なの?」
柱の影から出てきた女性とは、キョウジの部下を務めているレイ・レイホゥ。
カウンターに近寄ってきた彼女は椅子に座り銀子に視線を向けてくる。
「ヤタガラスは彼を交渉材料にしようとしている。彼はイルミナティに多大な影響を及ぼすわ」
「恐らくは…ザイオンの主導権争いね。ヤタガラスはイルミナティに平伏すつもりはないのよ」
「ヤタガラスを調べてきて分かった…。今のヤタガラスが戦後生き残れたのは…取引だったの」
「GHQを操るロックフェラーの手引きね。ヤタガラスは国家主義団体…解体の危機になったのよ」
「生き残る事は出来たけど…ヤタガラスはイルミナティの傀儡となった。だから何も出来ないの」
「日本に土足で進駐し続ける米軍をどうする事も出来なかったというわけね」
「ヤタガラスの狙いは日本のザイオンの独立。世界政府から独立して自治国を作り上げることよ」
「
「他国から内政干渉されずに済んだ時代ですものね…。国家主義団体の望みそうなことだわ」
「ザイオンの情報だけでなく、ヤタガラスの狙いをここまで調べられるとは…流石ね」
「命懸けだったわ…あたしの事を不審に思う構成員達も増えている…そろそろ潮時かもしれない」
「分かったわ。葛葉一族のお目付け役として貴女の身の安全は保障する。ここに逃げ込みなさい」
「ヤタガラスに所属してきた私の痕跡を抹消し終えたら…ここに来させてもらうわ」
立ち上がったレイも帰っていく。
見送ってくれる銀子であったが、彼女は夜の女神であるニュクスとしての言葉を語る。
「私は…どちらにつくべきなのかしらね?人修羅側…?それとも…ルシファー閣下かしら…?」
葛葉一族のお目付け役である銀子の仮面と、イルミナティを操るルシファー側に与する仮面。
その両方を纏うニュクスだからこそ彼女は迷う。
ニュクスが求める存在とは、混沌を統べる者。
混沌を統べる存在となるのは混沌王と呼ばれる人修羅か?大魔王ルシファーか?
「混沌という名の自由…それはあらゆる可能性が認められるべき世界の在り様…
国際金融資本家を操り世界を裏側から完全支配する金融という名の秩序を敷いたルシファー。
交わした約束の名の元に魔法少女社会を完全支配する秩序を敷こうとした人修羅。
今のニュクスにとっては、そのどちらも独裁的な秩序を掲げる自由とは真逆の存在に思えてくる。
「私は私を尊重してくれる存在を愛するわ…。誰かの自由を踏み躙る存在には…ついていかない」
未来とは作り上げるものだと信じるニュクスは神の千里眼を行使して未来を視ることはない。
この世界に召喚されれば彼女もまた人間と変わらないちっぽけな存在だと考えている。
だからこそニュクスは1人の悪魔として見届けたいと願う。
混沌という自由とは何なのかを彼女に示す存在となれるのは誰なのかを見極めようとしていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
休日となった尚紀は夏目書房に向かうために道を歩いていく。
店で専門書を買った時、かこからも目の色の変化について心配されてしまう。
親しい者達を心配させまいと青い目についてはメラニン色素の問題だったで押し通すようだ。
買い物を済ませた彼は歩きながらも考え事を繰り返す。
(もし俺がルシファーに成り果てた時…俺はどうなる?俺の人格は残るのか…?)
悪魔という概念存在になった者としての不安を抱え込む尚紀の表情は苦悶に満ちていた。
「もしかしたら…俺にはもう…時間が残されていないのか…?」
この世界に流れ着いた者だが、それでも魔法少女達が生きる世界で自分の居場所を見出せた。
将来の目標まで掲げてこれからだという時に襲い掛かってきた恐怖の現実。
それでも彼は今を生きるしかない。
今を耕す者達だけが未来を築き上げれるのだと信じて生きていこうと覚悟を決めた。
「この神浜で…多くの人達と出会えた。あの子達の今はどうなってる…?」
尚紀は神浜の街を歩いていく。
人生に意義を見出せるキッカケを与えてくれたこの街の人々ともう一度出会うために。
……………。
先ず尚紀が訪れたのは保澄雫の純喫茶。
いつもの席に座った彼の元に雫も来てくれたため談笑しているようだ。
「そうか…。周りに合わせる生き方を止めたから友達の数も減ってしまったんだな?」
「うん…。彼女達に合わせていても自分が死んでると思ったから…距離を放したの」
「友達100人なんて不合理な幻想は捨てちまえ。周りに流されているだけの人生に価値はない」
「だからね…私は新しい事に挑戦しようと思う。そう思えるキッカケを与えてくれた子がいたの」
雫が語ってくれたのは新しい魔法少女仲間のこと。
神浜テロによって多くの犠牲が生まれたために魔法少女契約をした子供達も多い。
そんな時に出会えたのが毬子(まりこ)あやかという魔法少女だったようだ。
「あやかは…テロの時に親戚が犠牲になったの。そのせいで酷くネガティブになってしまったわ」
「そんな自分を変えたかったから…魔法少女になってしまったというわけか?」
「あの子は奇跡によって明るい自分を手に入れた。あの子のポジティブさは私を救ってくれるの」
あやかは漫才が好きであり、テロの傷跡に苦しむ人々に笑顔を送りたい目標を掲げている。
そんな彼女の生き方に共感した雫はこう決めたようだ。
「あやかと魔法少女コンビを組むことにしたのか?」
「尚紀さんに言われた言葉で自分の居場所を見つけられたわ。でも…それの弊害も受けている」
事情を聞けば、どうやら固有魔法を失ってしまったようだ。
魔法少女の魔法の力は願いによって生み出され、能力が決められる。
つまり願いを否定したら魔法が使えなくなってしまう弊害が生まれてしまうのだ。
この弊害に今も苦しんでいる魔法少女こそ、尚紀の家族である佐倉杏子であった。
「私はもう何処にも行かない…私から遠ざからないと決めた。そのせいで…旅する力を失ったの」
「俺の義妹の魔法少女も同じ状況だ…。自分の願いを否定してしまったら魔法の力を失うんだ」
「私はもう以前のような強さを発揮出来ない…。だけどね…あやかが私を助けてくれるの」
「杏子と同じだな。杏子も失った魔法の力を補うために美樹さやかとコンビを組んでるよ」
「あの子達が神浜に来てくれた時に話せたわ。私とあやかも…あの2人のように生きていく」
「お前達なら大丈夫だ。杏子とさやかに負けないぐらいの最強コンビになってみせな」
純喫茶から出てきた尚紀の表情にも微笑みが浮かんでいる。
これからの保澄雫の人生は大丈夫だろうと思えた尚紀は次の行き先へと向かって行った。
……………。
魔法少女達と出会うならエミリーのお悩み相談所に行った方がいいと判断したため道を急ぐ。
歩いていると見知った魔法少女達を見かけたようだ。
「あ…尚紀さん。ちょうど良かったですわ」
現れたのは阿見莉愛と胡桃まなか。
彼は挨拶をするのだが話したい事があると言われて近くのカフェに入っていく。
向かい合った3人が話しているのは阿見莉愛についてである。
「新しいモデル事務所のオーディションに合格出来たか。それでこそだな」
「でも…そのモデル事務所に問題があるんです」
寂しい表情を浮かべてしまうまなかを見て、尚紀は事情を莉愛に伺ってみる。
受かったモデル事務所は遠い街の事務所であり、電車で通うことになるだろう。
そのため神浜の魔法少女社会で過ごせる時間が少なくなる現実を抱えていたようだ。
「私は後悔してませんわ…。新しい新天地だからこそ、一からやり直せると信じたい」
「神浜では未だに怨恨が残っている。水名の者達から嫌われたからこそ街を出てのやり直しか」
「来年で高校を卒業しますし…進学先は向こうの街にしようと思いますの。寂しくなるけどね…」
莉愛が横を向けば今にも泣きそうなまなかがいる。
彼女が莉愛を慕っているのは知っているため、まなかにも言葉を送りたくなる。
「今の莉愛を見てどう思う?」
「えっ…?どう思うと…言われましても…」
「以前は目立っていないと気が済まない性格をしている娘だと俺は聞いているんだが?」
「そういえば…そうですね。今の阿見先輩からは強がりな態度を感じないです…」
「それはな、
「自分の弱さを…受け入れる…?」
「弱い奴ほど強がるもんだ。弱さを受け入れてる人間は強がらない。彼女は強くなれたんだ」
「阿見先輩は…強くなれたんですか?まなかは…こんなにも寂しいのに…」
「胡桃さん…私は大丈夫。向こうでもちゃんと生きていくから…あなたもしっかり生きなさい」
自分は弱いと知っている者は皆も弱いと知っている。
偉ぶることもなくなるし周りにも優しくなれる。
弱い人ほど自分の弱さと向き合うことが出来ず、意固地になってでも強がろうとするだろう。
これは高学歴のエリートを表すものであり、自分は優れていると勘違いを起こす現象であった。
「完璧になんてなれなくていい。間違いながらでも私は勉強していきますわ」
「完璧な人間なんていたら
「私はそれが怖くて…一番目立とうとしたんだと思うわ。だけど…尚紀さんに教えてもらえたの」
「阿見先輩はつぼみ…豪華や派手でなくてもいい…慎ましくても美しく生きようとする…」
「野の隅に咲く…そんなつぼみで私はいい。憧れのモデルになれなくても…私は美しくありたい」
笑顔を向けてくれる莉愛の表情は今までにないぐらい優しく、頼りになるように見える。
そんな先輩を見ていると後輩も俄然とやる気が出てきたようだ。
「まなかも阿見先輩に負けません!遠く離れてても…まなかは負けないように生きていきます!」
莉愛を信じて送り出す気持ちとなれたまなかは尚紀に向き直り、頭を下げてくる。
「まなかは…フェミニズムが必要だと思いました。でも…それが全てじゃないようにも思えます」
「今のお前は何を望んでいるんだ?男社会に出て、男に負けないように頑張り続けたいか?」
「それがまなかの夢でしたけど…まなかも女です。女の幸せにも憧れるから…こうします」
胡桃まなかはフェミニズム問題の時に美雨とあきらから与えられた現実を考慮してこう考えた。
自分は世界一のコックになりたいが、それに盲従せず期限を設けてその道を進む。
期限内に世界一になれないのであればそれでいい。
それまでの間に見つけた恋人と結ばれた後は家庭を切り盛りしていく道を生きると。
「まなかも阿見先輩と同じように…強がりません。ありのままのまなかで生きたいです」
「お前達はつぼみだな。豪華でも派手でもなくていい。慎ましい自然な在り方こそが尊いんだ」
「まなかはね…まなかの料理を食べに来てくれる人達の心を安心させられる味を求めていきます」
「世間の評判なんてどうでもいい。お前の味が世界一だと言ってくれる人達を…大事にしていけ」
阿見莉愛達を見送った尚紀の口元も自然と微笑む。
「皆が成長してくれている…。この分なら、俺が魔法少女達にしてやれる事も多くはないな…」
その気持ちはエミリーのお悩み相談所で語り合った魔法少女達を見るほど強くなっていく。
だからこそ尚紀は自分がいなくなっても神浜の魔法少女達は強く生きていけると信じられる。
夕暮れに染まっていく夕日を眺めていた彼は決心がついたようだ。
「俺も生きられるだけ生きてみる。それでも俺が俺でなくなったなら…どうか強く生きて欲しい」
諦める気持ちはないが、それでも現実に打ち勝つ力を出せないならば潔く消えようと覚悟する。
自分がルシファーに成り果てるのなら、この世界を滅ぼす存在になるというのなら迷わない。
今の人修羅が求めている存在とは、自分を終わらせられるほどの力を秘めた存在。
人修羅と並ぶ程の
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しんみりした気分を紛らわせようと尚紀はホテル業魔殿へと向かって行く。
夜風に吹かれながらも帰りはタクシーで帰ろうかと考えながら階段を上っていた時だった。
「何だ…?この空気は……?」
張り詰める程の殺気がホテル付近から感じられる。
まるで人修羅の存在を許さないとでも言わんとしているかのように。
辺りを警戒しながら階段を登り切ると、ホテル玄関の屋根の柱から魔力を感じとる。
「悪魔か!?」
尚紀は素早くマガタマを飲み込み悪魔化する。
隠れていた悪魔はばつが悪そうな顔つきで顔をひょっこり出してきた。
(……初めて見る悪魔だな?)
まるで緑色の湯吞みに丸い目玉と口がついているようなマヌケな頭部を持つ悪魔。
その悪魔こそ霧峰村の惨劇の時に現れた悪魔の一体。
顔をこちらに向けているが柱に隠れてしまう。
少しするとばつが悪い気分を表現するかのように地面を転がりながら現れた。
「なんだかとってもダークネス。ボク、魔法少女世界デビューしたッスよ」
両手を上げ体をくねらせる妙ちくりんな小人であったが、先程の殺気は彼が出したものではない。
「ウヒッ、
謎の悪魔が階段下を見下ろすように顔を向けていく。
人修羅となった尚紀も後ろを振り向いた。
「お…お前は……」
階段に立っていたのは、漆黒のハイカラマントを靡かせる書生と黒猫。
書生の目元は目深く被った学帽によって伺えない。
風になびくマントの裏側は完全武装をしているようだ。
悪魔やデビルサマナーにしか伝わらない言葉を黒猫が発する。
「……人修羅とやら、まずはその力を見極めさせてもらうぞ!」
憤怒を纏った書生が階段を駆け上がる。
人修羅も上着のライダースジャケットを脱ぎ捨て、発光する刺青を晒す。
腰のガンベルトに差した刀の鍔を親指で弾き、一気に跳躍。
刀を抜いた者こそ霧峰村の惨劇の時に現れたデビルサマナーだった。
「タァァァーーーッッ!!」
「くっ!?」
仕掛けてくる跳躍斬りに対し人修羅は右手で刃を掴み取る。
強く握り込んでも砕く事が出来ない刀こそ破邪の力を纏う陰陽葛葉。
刃を掴んだ右手から血が滴り落ち、怒りの顔をデビルサマナーに向ける。
「貴様は何者だ!!なぜ俺の命を狙う!?」
「……自分の胸に聞いてみろ!!」
人修羅の左肘打ちをバク転で避ける。
距離を放したデビルサマナーは霞の構えを行った。
「ライドウ、まずは慎重にな。間違っても殺すなよ?」
黒猫は隠れていた悪魔と共にライドウと呼ばれた者の戦いを見守るようだ。
睨み合う両雄。
この一戦こそ尚紀が生きたボルテクス界とは違うボルテクス界で起こるやもしれない宿命の対決。
金髪の紳士が語った通りライドウと人修羅の戦いは世界を超えてまで戦い合う運命にあった。
「「ハァァーーーッッ!!」」
悪魔とデビルサマナーは互いに踏み込み風となる。
彼らの戦いはこの一戦が終わっても長く続くだろう。
それこそが人修羅が望んだ好敵手との運命の出会いであったのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――
袈裟斬り、逆袈裟の連続斬りを上半身を振りながら避けていく。
続く右薙ぎを舞うように潜り抜けて拳法の構えを行う。
背後に立つ人修羅に顔を向けたライドウが一気に刀を放つ。
決まれば悪魔でも即死する程の鋭い『的殺』突きに対し右に踏み込む。
突きを避けると同時に右手でライドウの手首を掴み、関節を決めようとするが蹴り飛ばされた。
「チッ!!」
距離を放した人修羅は次の一手を狙うため円を描くように歩き続ける。
ライドウも同じく次の一手を狙うために歩いていく。
「…時代がかった身なりをしたサマナーだな?こんな場所で仕掛けてくるとは世間知らずかよ?」
「その点は考えている」
ライドウの代わりに喋った黒猫の言葉に反応するようにして視線を横に向ける。
ホテル業魔殿周囲はライドウの仲魔が異界を構築しているため人間からは戦いを見られない。
「我らとて大通りで殺し合いを行うつもりなどない。悪魔とサマナーの戦いは異界で行うものだ」
「ご丁寧なことだな?ライドウとか言ったか…その名前なら聞いた事がある」
「ほう?この時代の悪魔達の間でもライドウの名は知れ渡っていたようだな」
「葛葉ライドウ…お前は大正時代のデビルサマナーの筈だ。なぜこの時代にいる?」
「我らには我らの都合がある。お喋りを続けているとライドウの攻撃を捌き切れんぞ?」
鋭い目つきをしたライドウが仕掛けてくる。
向かってくるライドウに対し、ホテル玄関屋根の柱を利用した三角飛び蹴りを行う。
放たれた回し蹴りを左腕でガードしたライドウが袈裟斬りを狙う。
斬撃を潜り抜けて後ろに回り込んだ人修羅であったが右腕を掴まれてしまう。
拘束されたまま斬撃を喰らうわけにもいかない人修羅はライドウの右腕を掴み返す。
「「くっ!!」」
互いに背を向け合いながら両腕を掴み合う状態が続いたが、人修羅が振り解く。
背後の相手に向けて左薙ぎを狙うが地面に片手をつく程の低空姿勢から放つ蹴りが決まった。
後退るライドウに向け、右手に光剣を放出した人修羅が仕掛ける。
光剣の光熱をもってしても溶断する事が出来ない程の強度を陰陽葛葉はもっている。
放つ袈裟斬りを受け止め、刃を払い上げるようにして刀を回し込む。
光剣の刃を下側に向けられたため反撃が出来ず、がら空きの人修羅の首を跳ねんと横薙ぎを放つ。
迫る斬撃に対し舞うように後方移動を行い横薙ぎを避け切ったようだ。
「大した剣技だ!しかし剣技だけでは俺には勝てない!!」
互いの袈裟斬りが打ち合い、内回し蹴りを用いて陰陽葛葉を蹴り払う。
袈裟斬り、逆袈裟と連続斬りを仕掛ける光剣の刃を上半身を振りながら避けていく。
唐竹割りの一撃を受け止めたライドウの体勢が回転して肘打ちを放つ。
左脇腹に決まった人修羅が怯んで後ろに下がった時、封魔管の一つが抜かれる。
「行くぞ、ヨシツネ!」
MAGの光を放つ封魔管を振り抜いたライドウが攻め込んでくる。
次々と連続斬りを仕掛けてくる相手の斬撃を打ち払っていくが上空から現れた存在が迫る。
「浅草ROCKで祭りだぜぇ!!」
空から斬撃を仕掛けてきたのは霧峰村の惨劇の時に現れたヨシツネである。
ヨシツネの斬撃を右の光剣で受け止めたが罠だった。
「くぅ!?」
横に回り込んだライドウの左薙ぎを左手の光剣を逆手に向けて放出する事で受け止める。
「俺とライドウの剣舞を相手にどこまでやれるか見せてみろ!!」
迫りくるライドウとヨシツネが繰り出す連続斬り。
人修羅は二刀流を用いて捌き続けるが背後には別の悪魔が武器を構えている。
「見ているだけなのはアキアキだね、チミ。ボクも混ぜてもらうッス」
持っているブーメランを人修羅に目掛けて投げつける攻撃を放つ。
「ぐはっ!?」
モコイブーメランが右脇腹に決まった人修羅の体が宙を舞う。
ホテル玄関の階段下にある広場にまで落ちてきた彼の体が地面に叩きつけられた。
「くっ…うぅ……」
俯けのまま起き上がる人修羅の目には階段から下りてくる3人の姿が映る。
「……戻れ、モコイ」
「今日のボク、調子いいッス。これからモコイの必殺技コーナーを披露する予定なんだ」
「それはまた今度見てやる。今は戻れ」
「ガックリ、ボクはおセンチさんになったよ。じゃ、またネ。ボク帰るよ、グッバイ」
封魔管に戻ったモコイの代わりに召喚されたのは獣悪魔であるオルトロス。
「ケモノノ血ガ騒グゾ!人修羅トイウ悪魔ノ力ヲ試シテヤルゥゥゥーッッ!!」
双頭の口から業火が噴き上がりファイアブレスを放ってくる。
立ち上がった人修羅が横っ飛びで回避するがオルトロスが駆け寄ってきた。
「コザカシイヤツ…カミ殺シテヤル!!」
飛びかかってくるオルトロスに踏み込み、地面を踏み砕く程の縦拳アッパーカットを腹部に放つ。
「ガフッ!!?」
通天砲の一撃を浴びて弾き飛ばされるオルトロスの後続からはヨシツネが迫りくる。
「その首…もらったぜ!!」
両手持ちから放つ袈裟斬りの一撃。
構え直す人修羅は左腕で相手の手首を制止させ、ワンインチ距離からの一撃を放つ。
「がはぁ!!?」
右頂肘の肘打ちが鎧具足に放たれ咳き込むヨシツネが一歩下がってしまう。
離れた相手に向け左足を伸ばしながら放つ左拳の一撃がさらに決まった。
「ぐあぁぁーーーッッ!!!」
崩拳の一撃によってヨシツネは階段まで弾き飛ばされていき叩きつけられたようだ。
トドメの一撃として人修羅は左腕をヨシツネに向けて構える。
破邪の光弾の光が収束するよりも先に上空から迫る者が現れたため構えを解く。
「ゆけ!ライドウ!!」
黒猫が空を見上げながら吼える。
現れたのはオルトロスを封魔管に戻して別の悪魔を召喚したライドウの姿。
「ニンジャみたいにキメてやりな!サマナーさんよぉ!!」
巨大な蜘蛛の上に飛び移ったまま地上に向けて急降下の一撃を放つ。
「くっ!!」
広場を踏み砕きながら現れたのはツチグモの巨体。
「行くぜーー!!オラオラオラァ!!!」
ツチグモが巨大な前足を使って地面を打ち付けていく。
大きな地震が巻き起こり態勢が崩れた人修羅に向けてライドウが跳躍する。
鞘から抜刀した陰陽葛葉にはライドウのMAGが注がれ淡いMAGの光を纏う。
放つ一撃こそ、忍者のように空から現れて全ての敵を薙ぎ払う『ジライヤ乱舞』だ。
MAGの光を纏った陰陽葛葉が大地に目掛けて唐竹割りを行う。
衝撃波が地面を伝わっていき地盤が持ち上がる程にまで大地を大きく砕く。
「グワァァーーーッッ!!!」
空に向けて弾き飛ばされた人修羅が落ちてくる。
大きく砕かれた地面に叩きつけられた彼が強敵に向けて顔を向けていく。
そこには完全破壊されたホテル前の広場を飛び越えてくるライドウとヨシツネが迫ってきていた。
「悪魔との連携が上手い奴だ…悪魔使いとしては…俺を超えていやがる!」
立ち上がった人修羅に目掛けて二刀の刃が迫りくる。
しかし彼らの死闘の邪魔立てをする存在が叫んだ声に反応して刃の動きが止まったようだ。
「やめて!!貴方達が何者かは知らないけど…その人は悪い悪魔なんかじゃないわ!!」
ライドウとヨシツネは声がした方向に顔を向けていく。
人修羅の金色の目にも彼女の姿が映っており、その表情にも焦りが生まれてしまう。
「来るな、みたま!!お前まで殺されるぞ!!」
ホテルの中から現れたのは地下の業魔殿から帰ろうとしていた時の八雲みたま。
彼女は調整屋として生きる非戦闘員のような人物だが魔法少女であることに変わりはない。
ホテル前に広がっていた異界の存在に気が付きソウルジェムを用いて侵入してきたようだ。
無表情な顔を向けていたが、舌打ちをしながらライドウに顔向けるヨシツネに振り向く。
「魔法少女のお出ましか。どうする、ライドウ?強そうなヤツには見えねーけどな」
「……狙いは人修羅だけだ。魔法少女とやらの相手をするつもりはない」
彼らのやり取りを聞いた人修羅は安堵の表情を浮かべる。
しかし鋭い目つきとなり、強敵達に向けてこう言ってきた。
「…場所を変えるぞ。狙いが俺ならば…俺に追いついてみせろ」
風を纏った人修羅が一気に駆け抜けていく。
仲魔達を封魔管に戻したライドウの元に黒猫が駆け寄ってきたようだ。
「探偵であるライドウを相手に逃亡する気か?見逃すこともあるまいて」
「分かっている…逃がすつもりなどない」
懐から取り出した封魔管を振り抜く。
MAGの光が形となり現れた悪魔はモー・ショボーだった。
「わーい!人修羅と鬼ごっこだー♪なんか懐かしい気分になるなー…アレ?今はまだ早い?」
「行くぞ、モー・ショボー」
「りょーかい!探偵ごっこの始まりだー♪」
ライドウの肩に飛び乗った黒猫は彼と共に獲物を追跡していく。
彼らの姿は異界から消えていき、ライドウの仲魔が生み出した異界も消失したようだ。
元の景色に戻った光景を茫然と眺めることしか出来ないみたま。
それでも彼女の心は不安で堪らない程の苦しみを抱えていたようだ。
「まさか……そんな馬鹿な……」
「ヴィクトル叔父様……?」
地上で起きている騒動に気が付いたヴィクトルもみたまを追って後ろから現れる。
彼の顔は驚愕した表情に包まれていた。
「なぜだ…なぜ葛葉が21世紀にいる…?あの男は…大正時代のデビルサマナーだぞ!?」
「大正時代の…デビルサマナー……?」
2人は茫然としたまま彼らが逃げ去った方角を見つめるばかり。
ビルを跳躍しながら開けた場所を探す人修羅だったが後ろを振り向く。
「この俺に追いついて来るか…いいだろう。とことん相手をしてやるさ!!」
追跡の手を緩めないライドウは隣を飛行するモー・ショボーの風魔法の加護を得ている。
彼の速度も人修羅に負けない程の加速力を生み出し追いつこうとしてきた。
自分を脅かす程の強敵に追われる人修羅であったが、心の中には懐かしさが湧いてくる。
再び同じ戦いを繰り返すのかと考えている彼の表情に恐れはない。
人修羅は最強のデビルハンターに追われようとも諦めなかった者。
アマラ深界での逃走バトルと同じような戦いになろうとも、走り切ってみせるだろう。
葛葉ライドウ対人修羅の戦いはチェイスバトルを再現するかのようにして白熱していった。
六章は東京バトルに繋げるためのお膳立てな流れを踏まえつつ描いていきます。
キャラドラマ回収や、そろそろ円環のコトワリとのバトルもしたいなーとか考えながら進めていきますね。