人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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207話 チェイスバトル

神浜の夜の街を疾走していく2人の影がビルを飛び越えていく。

 

風を纏う2人の探偵は速度を上げながら跳躍移動を繰り返し、追跡劇を行い続ける。

 

手摺を掴み向こうのビルまで跳躍。

 

段差のある向こうのビルまで一回転して着地した人修羅は駆け抜ける。

 

ライドウも負けじと手摺に飛び移りながら跳躍。

 

横を飛ぶモー・ショボーの神風の力を用いた身体能力向上も相まって距離を詰めてくる。

 

「やるな!逃げ切れる相手じゃなさそうだ!」

 

跳躍移動を繰り返す人修羅の背中を目視しているライドウは腰のホルスターから銃を抜く。

 

コルトライトニングを構えるライドウに向けてモー・ショボーは風魔法を行使したようだ。

 

「ぐっ!!?」

 

人修羅の背中に銃弾が次々と命中していく。

 

痛みによって動きが鈍った相手に目掛けて尚も撃ち続けながらライドウは追ってくる。

 

「ブギウギ♪ブギウギ♪ガンガン撃っちゃえー♪」

 

疾風弾を撃つ相手の的になり続けるわけにもいかない人修羅はアクロバットな動きを見せる。

 

背中の面積を小さくするため側方宙返りを用いてビルとビルの間を飛び越えていく。

 

「人修羅とやらもやるな!ライドウ、弾の補充を忘れるでないぞ」

 

的の面積を小さくする逃走を続ける相手に対して銃のシリンダーをスライドさせる。

 

シリンダーから薬莢を抜き、ガンベルトに備わっている替えの弾を装填。

 

走りながら銃を構えるライドウだが前方から飛んできた障害物が迫りくる。

 

サマーソルトキックで後方に蹴り飛ばしたのはビルの屋上を照らす明かり。

 

身を素早く躱して避けるライドウだが、追跡の動きを止められてしまう。

 

狙いをつけようとするが相手は手摺を飛び越えながら下に向けて降りたようだ。

 

「チッ……」

 

屋上の端で銃を構えるが、相手は向こう側のビルの窓ガラスを突き破って内部に隠れていた。

 

「すばしっこい奴め。ビルヂングを逃げ続けるか、地上に逃げるか…どちらだと思う?」

 

「…下だ。奴は人ごみを利用して我々を撒こうとしている」

 

「探偵が嫌がる逃走のやり方を心得ているとはな…人修羅とやらも侮れない相手だ」

 

ビルの階段を駆け下りる人修羅であったが、窓ガラスが割れる音に振り向く。

 

ライドウも上の階に飛び降りてきており下に向けて銃を構えてきた。

 

遮蔽物を利用しながら銃弾を防ぎつつビルの廊下に向かい走って行く。

 

階段を飛び降りてきたライドウが廊下に向けて銃を構えるが人修羅は事務所の扉の中に入り込む。

 

オフィスの机を飛び越えながら目の前の窓ガラスに目掛けて突撃を行う。

 

ガラスを突き破り道路の上空に飛び出した人修羅は走行してくるトラックのコンテナに着地した。

 

「まだ来るか!?」

 

視線を後ろに向ければ同じく道路に飛び降りてきたライドウが車の屋根を飛び越えてくる。

 

人修羅は人通りに向けて跳躍を行い逃走を続けていくようだ。

 

人通りを走るため風を纏って走るわけにもいかない彼の速度は人と変わらない程にまで低下する。

 

諦めまいと走り続けながらも後ろを振り向く。

 

銃を仕舞ったライドウも人ごみを掻き分けながら追跡を繰り返してくる姿が見えたようだ。

 

「しつこい奴め!!」

 

彼らは工匠区内にある電気街を駆け抜けていく。

 

前方の人の列を手摺を用いた跳躍飛びで大きく超える。

 

着地の勢いのまま側方宙返りを行い、さらに跳躍して前を歩く男の両肩を掴みながら跳躍。

 

「何なんだよお前!?」

 

「見なかったことにしてくれ!」

 

前方宙返りしながら着地した人修羅はスピードを上げながら走り逃げる。

 

ライドウも後から追ってくるが初めて見る電気街の景色に視線を向けてしまう。

 

「春画だらけの街か…。21世紀のこの国は堕落に満ちているようだな」

 

「美少女ポスターというやつだ。大正時代を生きるうぬの目には刺激が強過ぎるようだな?」

 

「昔に比べて…女性の描き方も随分と様変わりしたように映る」

 

「芸術とは時代によって様変わりしてくる。与太話はここらで置いておこう、奴を見逃すなよ?」

 

「ライドウ!美少女ポスターに描かれてる女の子チョーカワイイよ!後で買い物に来ようよ!」

 

「ならば我のオススメキャラを紹介するぞ?今ちまたでは猫娘キャラが競争するソシャゲがな…」

 

「ゴウト…与太話は置いておくんじゃなかったのか?」

 

逃走劇を繰り返す人修羅であったが、通りで店のチラシを配っている牧野郁美を見かけてしまう。

 

神浜の電気街にもメイド喫茶は存在しており、郁美は電気街で働いていたようだ。

 

「あれ…?もしかして尚紀君!?」

 

鬼気迫る顔を浮かべながら走ってくる人修羅を見た郁美が慌てた表情を浮かべてくる。

 

「今は追われてる!!黒いマントを纏った男を魔法の力で止めてくれ!!」

 

「ええっ!?そ、そんなこといきなり言われても…くみだってお仕事中だよーっ!!」

 

「そこを何とか頼む!必ずお礼はしに行くから!!」

 

「だったら任せて!相手が男の子なら、くみの魅力でキュンキュンさせちゃうぞっ!」

 

通り抜けていった人修羅のためにやる気顔となった郁美がライドウの前に立ち塞がる。

 

「貴方が尚紀君を追い回す悪い男の子だね!くみのラブキュンビームでモエモエだよっ!」

 

「ムゥ!?」

 

営業スマイルでハートマークを作ってくる謎の女に向け、ライドウは鋭い目つきを返す。

 

よく見ると彼の視線は可愛いメイド服の下半身に向かっているようだ。

 

「ライドウ、うぬには刺激が強過ぎるか?今の時代の女子はミニスカートだからなぁ」

 

学帽を目深く被り直すが、ライドウの頬は赤く染まっている。

 

そんなライドウの顔を横で見ているゴウトは猫なりにニヤニヤした顔つきを浮かべてきた。

 

「フフフ…気持ちは我にも分かるぞ。うぬは深川町の遊郭も興味津々だったからなぁ」

 

「そ…それは……」

 

「それに、羽黒組の大國湯にも悪魔の擬態を用いて女湯に入ろうとしたことも…」

 

「ゴウト…こんな時代になってまでそんな事を覚えていたのか…?」

 

「ククク…我とて男だ。うぬの若さに付き合ってやったあの日々が懐かしいものだ」

 

(大正浪漫コスプレしてる不愛想な男の子だけど…ムッツリスケベなタイプの子なのかな?)

 

照れているライドウに向けて郁美はメイド喫茶のチラシを渡す。

 

ライドウは何も言わずにチラシを受け取り学ランのポケットに仕舞ったようだ。

 

再び人修羅を追いかけるライドウ達。

 

距離を一気に離されたため焦った表情を浮かべている。

 

「人修羅とやらも手強いな…あのようなハニートラップを我々に仕掛けてくるとは…ぬかったわ」

 

「ああ…奴は強敵だ。気を抜かずに追跡を続けよう」

 

(勝手に引っかかったのは男だけだと思うけどねー……)

 

追手を撒いた人修羅は工匠区内にある神浜競馬場の駐車場にまで逃げ込んでいる。

 

辺りを見回すと平日であったため競馬場には誰もいないようだ。

 

「ようやく撒けたようだな…?葛葉ライドウはなぜ俺を狙ってきたんだ…?」

 

南凪区の業魔殿まで戻って上着を取りに行くかと考えていたが空を見上げる。

 

「あれは……悪魔か!?」

 

空から現れたのは風に舞う無数の木の葉。

 

悪魔だと見破った人修羅は誰もいない競馬場内へと駆けこんでいく。

 

「見つけたぞォォォォ!!うぉれはハイカラ名探偵だァァ!!」

 

競馬場の空の上で人型になった悪魔こそ霧峰村に現れた悪魔の一体。

 

ヒトコトヌシは下の景色を見ながら人修羅を探すのだが、場所が場所なだけに興奮してくる。

 

「ここは競馬場かァァァァ!?うぉれも馬券を買うぞォォォォ!!」

 

ギャンブル狂いの血が騒いだのか追跡もそっちのけでヒトコトヌシは馬券売り場を探し始める。

 

悪魔は基本的に気まぐれな気分屋であり、それは仲魔となった悪魔とて同じ。

 

そのため単独捜査に向かわせても勝手気ままな捜査をして迷子になる事も多かったようだ。

 

「あいつ…何しに来たんだよ…?」

 

屋外観覧席からヒトコトヌシを見ている人修羅の表情も呆気にとられている始末。

 

しかし競馬場内に侵入してきた探偵の気配に気が付いた人修羅の体が動く。

 

「チィ!!」

 

屋外観覧席にまで侵入してきたライドウが銃を撃ってくる。

 

観覧席を逃げ続ける人修羅はダートコースに目掛けて飛び込んでいったようだ。

 

「追い詰めたぞ!観念するがいい!」

 

ライドウとゴウトもダートコース内に入り込んでくる。

 

ダート内を走りながら逃げていたが、聞こえてくる蹄の足音が気になり後ろを振り向いた。

 

「レースの始まりだァァァァ!!レース枠に入りやがれェェェェ!!」

 

ヒトコトヌシが競馬場施設内の厩舎から連れてきたのは競走馬達。

 

馬の世話をしていた厩務員達は突然の突風に襲われたためか目を回しながら倒れ込んでいた。

 

「おいおい…マジかよ!?」

 

「ヒトコトヌシめ!勝手な事をしおって!!」

 

ダート内に侵入してきた競走馬達が2人の周りを走って行く。

 

一匹の競走馬に目を付けたライドウは手綱を掴んで馬に飛び乗る。

 

「乗馬は得意か?」

 

「葛葉の里でよく乗り回していた」

 

「ならば問題あるまい。ゆくがいい、ライドウ!」

 

後ろに振り向けば乗馬した侍の如きデビルサマナーが迫ってくる。

 

人修羅も走っている競走馬の手綱を掴み取り馬に飛び乗ってしまう。

 

「参ったな…乗馬なんて小さい頃にやったのが最後だぞ!?」

 

慣れない馬の操作に悪戦苦闘しながらも後ろから迫りくる追手に視線を向ける。

 

「ダンテと鬼ごっこしてた方がマシなぐらいの騒ぎになってきたな…それでも、逃げ切るさ!」

 

手綱を強く握り締めた2人の追跡劇は次のステージへと移っていく。

 

アマラ深界でも経験出来なかった規模の逃走劇となってしまったが人修羅の目に諦めは無い。

 

ダンテには追い付かれてしまったが今度こそは逃げ切ってみせると手綱を強く打つのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

各馬一斉にスタートした神浜競馬場内。

 

実況は探偵ごっこに飽きたモー・ショボーが勝手に担当しているようだ。

 

立ち見場所ではヒトコトヌシが大量の馬券を握り締めている。

 

「走れサマナァァァァ――ッッ!!うぉまえに全賭けだァァァァ!!」

 

レースコースに入った前方の人修羅の背中に目掛けて銃を抜く。

 

「くっ!!」

 

馬の操作に慣れない人修羅は避ける事も出来ずに銃弾を背中で受け止める事しか出来ない。

 

しかしライドウの弾も底を尽き、銃をホルスターに仕舞ったようだ。

 

手綱を握り締めた騎乗者達が最初のカーブに曲がり込む。

 

「おーっと!ライドウ選手、インコースに入り込んじゃったーっ!追い抜いちゃえーっ!」

 

カーブを曲がりながらインをつき、一気に接敵。

 

抜刀した状態で迫りくるライドウに対し、後ろを振り向く人修羅は左手に光剣を放出。

 

「ここは異界じゃない…魔法の飛び道具の数々を撃つことは出来ないな…」

 

右手に刀を持ったライドウが仕掛けてくる。

 

振り下ろす斬撃を光剣で受け止め、左足でライドウの馬を蹴り飛ばす。

 

「ヒヒーーン!!?」

 

怯んだ馬が下がっていくが、態勢を整えたライドウの馬は果敢にも追いかけてくる。

 

大きなコーナーを曲がり切った馬達が直線に入っていく。

 

手綱を打ち、人修羅と並走するまでに迫ってきたライドウが再び仕掛けてくる。

 

「「ハァァーーーッッ!!」」

 

互いの斬撃が打ち合われる中を馬達は駆け抜ける。

 

その光景はまるで戦国武者達の合戦シーンのようにも見えるかもしれない。

 

刀の頭で打ち付けてくる相手の右腕を受け止めたが、続く横薙ぎが放たれる。

 

身を低めて避ける人修羅は反撃の蹴りを放つ。

 

しかし読まれていたのか馬を離され蹴り足は空を切る。

 

「ライドウ、相手の馬を斬るなよ。この競走馬達が命を燃やすべきなのは今ではない」

 

「分かっている。しっかり掴まっていろ」

 

同じように前を走る馬の列に入り込みながら間を潜っていく2人の馬。

 

再び仕掛けてくるライドウは両手持ちで横薙ぎを放つ。

 

人修羅は馬を接近させて左腕を縦に向けながら迎え撃つ構えを行う。

 

ライドウの右手首を受け止め反撃の左肘打ちを放つ。

 

「ぐっ!?」

 

脇腹に受けた相手が怯んだ隙を狙い左裏拳を放つが身を屈められたために空を切る。

 

反撃の肘打ちが人修羅の脇腹に決まり、続くように刀の頭打ちを放つが左手で掴まれてしまった。

 

馬から引き摺り下ろそうとするが馬の腰にしがみついていたゴウトが飛びかかってくる。

 

「そうはさせん!!」

 

「なんだこの猫は!?頭を引っかくなーっ!!」

 

「我が名は業斗童子!葛葉ライドウのお目付け役であり葛葉一族の前進だ!!」

 

「聞いてねーよ!うちのバカ猫共みたいに凶暴な奴め!!」

 

猫に襲われ怯んだ人修羅の馬が離れるよりも先にライドウの元に跳躍して離れるゴウト。

 

コーナーに入り込んだ馬達はゴールを目指して突き進む。

 

「ライドウ選手がコーナーを突いて来る!このまま逃げ切れるかなーっ!」

 

「ステキすぎて死ぬぜぇぇぇぇぇ!そのまま逃げ切れぇぇぇぇ!!」

 

最後の直線に入り込んできた人修羅が手綱を大きく打つ。

 

一気にライドウの横にまで走り込んできた人修羅が視線を向けるのはライドウが乗る馬。

 

目が合った馬に向けて放つのは原色の舞踏と呼ばれる幻惑魔法。

 

「ムゥ!!?」

 

混乱したライドウの馬がダートに目掛けて突っ込んでいく。

 

「なんだとォォォォォ!!?」

 

コースアウトしてしまったライドウを尻目に人修羅がゴールイン。

 

「これは大番狂わせだーっ!!ライドウ選手、コースアウトにより失格ーっ!!」

 

レースに勝った人修羅の馬が通過していく中、立ち見場所のヒトコトヌシが燃え尽きていく。

 

「有り金全部突っ込んだんだぞォォォォ…し…死にが…ハチィィィィィィ……」

 

体を構成する木の葉が枯れ葉となっていき、大量の馬券と共に風を舞っていったようだ。

 

レースに勝ったのはいいのだが、人修羅は馬の止め方など知らない者である。

 

「おい止まれ!何処まで走るつもりだよーーっ!?」

 

ダートコースまで走り続けた人修羅の馬も大きくコースアウトしていく。

 

そのまま門の鉄柵にまで突っ込んでいった彼の体が外にまで放り出されたようであった。

 

「してやられたな…。奴め、幻惑魔法の類も心得ている悪魔のようだ」

 

「自分の刀の銘柄は鎮心だ。悪魔の精神操作魔法の耐性は身に付けている」

 

「ならば問題あるまい。奴を逃がすなよ」

 

仲魔達を封魔管に戻したライドウが競馬場を後にする。

 

夜の街に逃げ出した人修羅の逃走劇はまだ終わりではない。

 

相手は同業者である探偵であり、追跡は探偵職の得意とするところ。

 

同じ探偵として探偵が嫌がる逃げ方を繰り返すのだが追い詰められていく。

 

人修羅が最後に逃げ込んだ場所とは大東区の北側に当たる観覧車草原であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ここなら開けている…邪魔も入らないだろう」

 

かつての遊園地跡であり、古い観覧車がまだ残っている草原に立つ人修羅が背後に視線を向ける。

 

草を踏みしめながら歩いてくるのはライドウとゴウトの姿だ。

 

「追い詰めたぞ、人修羅。ここで仲魔に張り込みをさせていて正解だったな、ライドウ?」

 

視線を横に向ければ、古びた観覧車の裏手に隠れていたヨシツネが姿を現す。

 

「俺のモダーンな捜査を甘く見ていたようだな?逃げ切れると思うなよ」

 

腰の鞘から薄緑と呼ばれる刀を抜き、人修羅に向けてくる。

 

背を向けたまま微動だにしない逃亡犯に向けてゴウトが語り掛けてきたようだ。

 

「ライドウは探偵だ。逃げ方が上手い者のようだが、ライドウには通じないぞ」

 

「同業者だったか。どうりで俺の逃走手口を見破ってくるわけだ」

 

「さて、人修羅よ。ライドウが調べたところでは…多くの子供を殺戮してきた事実を掴んでいる」

 

それを問われた人修羅は否定する言葉も語らず沈黙を続ける態度を示す。

 

沈黙は肯定だと受け取ったゴウトは続けて逃亡犯の罪状を問い質していく。

 

「東京と名を変えた帝都における大虐殺…うぬはこう呼ばれたようだな?魔法少女の虐殺者だと」

 

「……その通りだ」

 

「何を目的にして虐殺を繰り返したのかは問うまい。我々が問うのはうぬが犯した罪のみだ」

 

「なるほど…魔法少女の虐殺者として生きた俺に誅罰を下すために現れたというわけかよ?」

 

「故あってこの時代に流れ着いたライドウは帝都守護を託された者。言いたい事は分かるな?」

 

「東京で殺戮の限りを尽くした現代の俺さえも裁きたいと言いたいのか?時代が違うだろうが」

 

「時代が違えどもライドウは東京の守護者。うぬが殺戮したのはライドウが守った人々の子孫だ」

 

鋭い目つきを向けてくるライドウが刀の鍔を親指で弾く。

 

いつでも斬りかかれる殺意をぶつけてくる者に向け、人修羅は逃げも隠れもしない背中を晒す。

 

彼が繰り返した虐殺行為もまた東京の人々を守る為の正義の道。

 

だからこそ、正義を掲げてしまった者としての責任を問われるのなら逃げるわけにはいかない。

 

責任をとらない正義など不正義でしかないのだから。

 

「俺が繰り返した虐殺行為…それもまた人々を守るためのもの。交わした約束のためだった」

 

「交わした約束のため…?」

 

「この刀を俺に託してくれた東京の守護神との約束を果たすために…俺は戦ってきた」

 

人修羅の左手に出現させた刀を見たゴウトは驚きの声を上げる。

 

「それはまさか…公の御剣!?うぬは将門公に託されたというのか…東京の守護を!?」

 

「俺もまた東京の守護者として今を生きる者…俺の道は殺戮の上に殺戮を重ねる道だった」

 

「なぜだ…将門公の御剣を託される程の男が…なぜ子供達を殺戮する外道行為を行った!!」

 

「それが問題を解決する迅速な手段だったからだ。優しさでは人を救えない…だから殺戮した」

 

眉間にシワを寄せたライドウも口を開く。

 

「生まれた子供達には…幸福に生きる権利がある。貴様は掲げた正義のためにその未来を奪った」

 

「そうだ。そしてその子供達もまた幸福に生きる権利を持つ子供の未来を奪った。俺は許さない」

 

「これからも殺戮していく気か…?子供達の未来を奪い続けるのか!」

 

「その必要があるなら…俺は喜んで虐殺者の姿に戻る。救うべき者達のために…死の山を築こう」

 

「……このままうぬを放っておくわけにもいかぬな」

 

ゴウトが後ろに下がっていく。

 

互いの刀の柄に手を伸ばす。

 

「ライドウ、今度はぬかるなよ!」

 

振り向き様に抜刀する人修羅の目の前には同じく抜刀したライドウと悪魔の姿が待ち受けている。

 

「今度コソ貴様ノ首ヲ獲ル!!」

 

オルトロス、ヨシツネがライドウと共に人修羅を囲むような陣形を生み出す。

 

左手に鞘を収納した人修羅は腰を落としながら霞の構えを行い迎え撃つ姿勢となる。

 

正面のライドウ、左右後方の悪魔。

 

何処から攻めてきても斬り捨てる。

 

そんな事を考えながらも、何処か嬉しい気持ちも湧いてくる。

 

(もしかしたら…この男ならば…)

 

目の前のサマナーの実力は計り知れない。

 

この者ならば自分を討ち取る程の好敵手に成りえるかもしれない。

 

そんな気持ちも湧いてくる人修羅の口元にも自然と笑みが浮かぶようだ。

 

互いに振りかざすのは断罪の刃。

 

人修羅の怨霊剣は鍔鳴りのような音を出し始める。

 

葛葉ライドウと再び戦える日が訪れた事を嬉しく思うような響き。

 

過去のライドウもまた、将門公と戦う日が訪れるのだろう。

 

「「行くぞ!!」」

 

互いに駆け抜けながら刃を振り上げる。

 

同時に放つ袈裟斬りがぶつかり合い、斬り結びながら火花を飛ばす。

 

鍔ぜり合う男の目に視線を向ける。

 

ライドウの目は怒りに燃え上りながらも、その炎は義憤の炎なのだと感じさせてくる。

 

自分と同じ心の炎を宿す者ならば殺し合うのも定めというもの。

 

魔法少女の虐殺者として生きた者は大儀の名の元に大虐殺を築き上げた罪人でもあるのだから。

 

背後からも悪魔達が攻めてくる。

 

多勢に無勢であるように見えるだろうが、今を生きる罪人は独りではなかったようだ。

 

「「ヌゥ!!?」」

 

ヨシツネとオルトロスの前に落ちてきた魔槍が大地を激しく砕く。

 

飛び跳ねて避けた二体の悪魔が空を見上げる。

 

「尚紀とやり合いたいのならば、先ずは我々を超えてみせろ」

 

古びた観覧車の上から飛び降りてきたのはクーフーリン。

 

飛び退いたオルトロスに目掛けて突進してくる悪魔の姿も迫ってくる。

 

「慌テタ時二隙ガ出来ル癖が治ッテイナイヨウダナ!!我ガ血族ヨ!!」

 

「ナニッ!?」

 

側面から突撃してきたケルベロスに突き上げられたオルトロスが地面に叩きつけられてしまう。

 

「グゥゥゥゥ…人修羅側ニイタノカ……兄者!!」

 

ヨシツネの元にも人影が迫りくる。

 

「受け止めてみろやーーッッ!!」

 

頭上を見上げたヨシツネの空から迫りくるのは如意棒を振り上げたセイテンタイセイ。

 

ヨシツネは脇差も抜いて二刀流を構えながら如意棒の一撃を受け止める。

 

「ぐぅ!!」

 

大地が激しく砕ける程にまで打ち付けられたがヨシツネはヤマオロシの一撃を受け止め切った。

 

「やるじゃねーか、テメェ?このセイテンタイセイ様の一撃を受け止めれる奴ぁそういねぇよ」

 

「やかましい野郎だねぇ…そんなこと、アタリキシャリキよ!」

 

ライドウが視線を向ければ二体の仲魔が三体の悪魔と交戦している光景が映る。

 

「あいつら…連絡もしてないのに来てくれるなんてな」

 

後ろに視線を向ける人修羅の顔にも微笑みが浮かんだようだ。

 

「人修羅とやらは三体も仲魔を使役出来るというのか…?ライドウでさえ二体が限界なのに!」

 

「その通りです。それと、人修羅じゃなくて嘉嶋尚紀さんですよ」

 

「むぅ?お、おい!?」

 

背後からゴウトを摘まみ上げたのは悪魔化したメルである。

 

隣には悪魔化したかなえも立っており、魔槍ルーンを構えているようだ。

 

「この戦いは予知で視えていました。だから先回りをさせてもらってたんです」

 

「槍一郎と悟空にも…連絡しておいた。槍一郎と悟空という名前は…彼らの人間名だよ」

 

「放せ!放さぬか貴様ら!!」

 

摘ままれたままプンスコ怒り、暴れるゴウトを見ているメルの目が輝きだす。

 

「うわーっ!可愛い黒猫ちゃんですよ、かなえさん!モフモフしちゃいますからね~♪」

 

「ヌワーッ!?頬でスリスリするでないわーっ!!」

 

「この子も動物に擬態した悪魔かな…?それとも別の何か…?」

 

クーフーリン達に続いてかなえとメルも現れたことで状況は不利だと判断する。

 

鍔迫り合いを打ち払い跳躍したライドウが胸の白いベストに差した封魔管を全て抜く。

 

6本の封魔管を指に挟んだまま詠唱の祝詞を呟いていくがゴウトが止めに入る。

 

「そこまでだ、ライドウ!今の状態では八体の悪魔召喚には耐え切れん」

 

「……しかし」

 

「熱くなり過ぎるでない。今宵は分が悪い…引き上げた方が良さそうだ」

 

MAGの光を放つライドウであったが召喚の構えを解く。

 

胸に封魔管を戻した彼はヨシツネとオルトロスも戻したようである。

 

メルから解放してもらえたゴウトはライドウの足元にまで歩いていき後ろを振り向く。

 

「人修羅よ、今宵は我らが引こう。まだうぬの力を見極め切れていない…いずれまた会おう」

 

「俺はこの街で暮らしている。人間としての生活の邪魔をしないなら…いつでもかかってこい」

 

「うぬと会う前に色々と捜査しているから知っている。我らの狙いはうぬだけだ」

 

「葛葉ライドウ…お前は俺と戦うためだけに大正時代から来たのか?それだけが狙いなのか?」

 

「我らは超國家機関ヤタガラス所属の者。時代を超えても我らはヤタガラスなのだ」

 

「ヤタガラスのサマナーか…。最近は勧誘の連中が現れないと思ったら…今度は実力行使かよ」

 

「神霊クズリュウを倒す程のうぬだ。その力は侮れんし仲魔にも恵まれている。厄介なものだな」

 

「ヤタガラスは俺と戦うための刺客として葛葉ライドウを招集したわけかよ。ご苦労なことだ」

 

「人修羅よ、次に相まみえる時は覚悟しておけ。まだまだライドウは成長期だからな」

 

そう言い残してライドウとゴウトは去っていく。

 

彼らの後ろ姿を見送った人修羅であったが、その胸中は穏やかではない。

 

(あいつは断罪者になるかもしれない。かつての俺がそうなったように…俺の罪を裁く者となる)

 

人修羅は魔法少女の大虐殺という罪を犯した。

 

しかしそれは人間社会主義という政治思想を掲げた上で人々を守りたかった人間守護の道。

 

その道は大正時代の人間達を守ろうとしたライドウの道と同じであろう。

 

それでも人修羅とライドウとの明確な差を考えるのならば、人修羅は人殺しだということだ。

 

人殺し、それは人として最も行ってはいけない外道行為。

 

しかし人間社会の安寧という()()()L()A()W()()()()()()()日本司法は死刑さえ合法的に行える国。

 

社会正義のためならば外道行為である人殺しさえ許されるべきなのか?

 

戦争ならば人を沢山殺した虐殺者こそがヒーローとして称えられるべきなのか?

 

()()()()()()()()人類は簡単に悪行を善行だとすることが出来てしまう。

 

かつてアリナはこう言った。

 

正しさというものは、はっきり言って誰かが決めたものでしかないのだと。

 

人修羅は正しいのか?ライドウは正しいのか?

 

それを自分勝手に決めるのは周りの者達であり、彼らではないのだろう。

 

人修羅の生き方は正しくないと思うのならば、ライドウにとって人修羅は悪である。

 

正しい大儀と書いて正義。

 

正義の概念とは、こんなにも()()()()()()()()()()()()()現実を抱えていたようであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「吾輩は…葛葉を知っている。大正時代において、吾輩は葛葉を支えてきたのだ」

 

後日となり、尚紀は仕事の帰りを利用して業魔殿へと訪れている。

 

ホテル前に投げ捨てていた上着を取りに来たようであり、ヴィクトルとも話をしているようだ。

 

「葛葉ライドウもデビルサマナーだ…悪魔合体施設を利用するのも頷ける」

 

「しかし…なぜ葛葉が21世紀に現れたのだ?アカラナ回廊を利用したのだろうが理由が見えん」

 

「奴はヤタガラスとして俺の前に現れた。恐らくはこの時代のヤタガラスの招集に応じたんだ」

 

「その狙いとは…君の命か?あるいは君の身柄をヤタガラスに渡すことか…?」

 

「どちらにせよ、奴は俺を狙い続けるだろう。潜伏先がこの街なら…俺は常に襲われる立場だな」

 

大きな問題事を抱えればさらに大きな問題事が舞い込んでくる。

 

大きな溜息を出して顔をしかめる尚紀の心労は重かったようだ。

 

それでも気になっていることがある。

 

大正時代を葛葉ライドウと共に生きたヴィクトルだからこそ聞いてみたいことがあった。

 

「あの男はどんな人物だった?共に生きたお前なら詳しい筈だ」

 

「フフッ…葛葉の話となると長くなるぞ?奴と吾輩は長年の友のような関係だったのだから」

 

応接室で話し込む2人は長い間語り合っていく。

 

その頃、地下業魔殿に下りられる階段では誰かが下りてきているようだ。

 

「この街で業魔殿という名のホテルを見つけた時、もしやと思ったが…大当たりだったようだな」

 

「……変わらずの地下生活のようだ」

 

「フフッ…あの男と会うのも久しぶりだ。うぬにとってはつい先日のことだろうがな」

 

「……変わらずの()()()()()()()()()()()なのだろうか?」

 

「その部分については丸くなってくれている事を願いたいな。あの頃の奴のノリは異常だったし」

 

地下研究所に入って来た者達が奥へと歩いていく。

 

その頃、ライドウの話で盛り上がっていた2人であったが来訪者の存在にようやく気が付いた。

 

<<あっ……>>

 

3人と一匹が声を上げながら固まってしまう。

 

()()()()()()()()()、14代目葛葉ライドウのご登場である。

 

「お…お前――ッッ!!?」

 

「何故うぬが業魔殿にいるのだ!?」

 

「それはこっちのセリフだ!?吾輩はお前達が来るとは聞いてないぞ!!」

 

「人修羅!?」

 

即座に銃を引き抜いたライドウが容赦なく銃弾を撃ってくる。

 

「おわわっ!!?こんなところでおっぱじめる気かよ――ッッ!!」

 

「今日こそ逃がさん!!」

 

業魔殿内で再び生死をかけた鬼ごっこが始まっていく。

 

「あ!あ!あ!何故に葛葉がここにいるゥゥゥゥ――ッッ!!?」

 

「こいつを止めてくれ――ッッ!!」

 

「ぎゃーー!?うぉれに振るんじゃねェェェェーーッッ!!」

 

発砲音やガラスが割れる音が響く中、開いた口が塞がらない業魔殿の主である。

 

「ヴィクトルよ、また世話になるぞ。ところで…何故に人修羅がここにいる?」

 

「そんな事より暴れている連中を止めるのだ!!喧嘩なら外でやりたまえ!!」

 

どんちゃん騒ぎとなってしまった葛葉ライドウ対人修羅の対決。

 

これから先、2人のライバル関係は長く続くことになるやもしれない。

 

それでも人修羅の顔は悲嘆に暮れる表情よりも明るい表情を浮かべることが多くなっていく。

 

葛葉ライドウと戦っている時だけは、重い現実を忘れる事が出来たのやもしれなかった。

 




人修羅とライドウはいい喧嘩仲魔になりそうな予感を感じさせる終わらせ方にしておきました。
人修羅以外にも現代キョウジさんもいることだし、ライドウさんも苦労するでしょう。
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