人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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20話 懐かしい風

風見野市郊外の道でタクシーから降りる喪服スーツの尚紀が運転手に礼を言ってくる。

 

「ここまででいい。歩いていきたい」

 

清算を済ませ、お土産袋と墓に備える白いお供え花を手に持ちながら教会に続く森を歩く。

 

森を歩く中、彼は懐かしい気持ちとなっていく。

 

「こうやって荷物を両手に抱えながら…主日礼拝の手伝いをしたもんだな」

 

1月ともあり鬱蒼とした雰囲気を纏う森の景色は変わらないのだろう。

 

「雪が積もったこの道を…四人で手を繋いで教会に帰ったこともあった…」

 

(自分の道を見つけて…彼女と共に幸せな日々が続いていくと…信じていた…)

 

呪わしい1月28日こそ、尚紀が愛した魔法少女である風実風華が亡くなった日。

 

キリスト教は仏教のようにお彼岸やお盆のような一斉にお墓参りをする習慣はない。

 

キリスト教の死生観は神から与えられた永遠の安息と捉えている。

 

集まって故人の命日に墓参りをしたり、死後数ヶ月から数年の間に集会をするぐらいだ。

 

今日は一周忌なので午後から教会に行くと連絡をしたのだが、様子がおかしいと彼は感じる。

 

「固定電話に繋がらなかった…何かがおかしい。それにタクシー運転手から嫌な話を聞いたな」

 

森を歩きながら聞いた話を思い返す。

 

()()()()だと…?」

 

「そうなんだよ…この先の森の奥で暮らす家族達が始めたそうだ」

 

「この先で暮らす一家は確か…プロテスタント教会の宗派じゃなかったのか?」

 

「教会団体から破門されたそうだよ。それで新しい宗教を作ろうとしたって事だと思う」

 

「教会団体を破門されただと…?あれ程の熱心な信徒であった佐倉牧師が…?」

 

「そいつらはね、新興宗教の勧誘を風見野市の人間にしつこく行うんだ。迷惑な連中さ」

 

「……そうか」

 

嫌な話を聞かされた時から感じている胸騒ぎが彼の足取りを重くしていく。

 

「街の人間達から恨みを買うような人間ではないはずだが…何が起こったというんだ?」

 

そう考えているうちに森を抜け、開けた場所に出る。

 

すると懐かしい教会が見えてきたようだ。

 

「俺の家だった場所…俺にとって…この世界の家族と巡り会えた我が家だ…」

 

何も変わらない教会の外観を見つめていると心の不安が少しだけ和らいでくれる。

 

礼拝堂に入る入口に目を向けると家族達の姿があった。

 

「あっ!尚紀だーーっ!!」

 

「尚紀お兄ちゃんだよ!パパ!ママ!」

 

この世界の妹達とも呼べるだろう懐かしい杏子とモモがはしゃぎながら走ってきてくれる。

 

「久しぶりだな…杏子、モモ」

 

体に抱きつく二人に対し、優しく微笑む彼は日常の有難さを痛感してしまう。

 

(人殺しの殺戮者である事を忘れさせてくれる人達だ…また巡り会えて嬉しいよ)

 

背が伸びた杏子の頭を見ると黒いリボンを使って長い後ろ髪をポニーテールに変えている。

 

その髪型には覚えがあり、尚紀は杏子に聞いてみる。

 

「杏子…そのリボンはまさか…」

 

「うん…風姉ちゃんの思い出を…あたしが貰ったんだ」

 

「そうか……そうだったな。それにしても、見違えるぐらい大きくなりやがって」

 

「えへへ♪あと少し伸びたら…風姉ちゃんと同じぐらいだったのに…」

 

「あいつが生きていてくれたなら…その成長を喜んでくれてたな…」

 

「ねぇ、尚紀お兄ちゃん!あたしも背が伸びたんだよ~」

 

「モモも小学校に上がった頃だよな?あの頃よりも背が伸びたじゃないか」

 

「うん!それよりも…この袋の中身は何?」

 

「杏子とモモのお土産に買った甘い洋菓子だ」

 

「「ほんとっ!!?」」

 

二人は飛び上がりながら喜びを体全体で示す。

 

大げさな反応だと思ったが、彼女達の喜びように対して尚紀は何処か違和感を覚えてしまう。

 

(まるで…久しぶりに食べ物が食べられるような…()()()()をしやがって)

 

二人の事を気にしていた時、保護者になってくれた優しい夫婦も近寄ってくる。

 

「……久しぶりだね、尚紀君」

 

「尚紀君…本当に見違えるほど立派になってくれて…私…嬉しいわ」

 

「久しぶりだな、佐倉牧師。あんた達夫婦がいてくれたから…今の俺がいる」

 

涙ぐむ佐倉牧師の妻に対して夫は肩に手を置くのだが、尚紀は佐倉牧師の胸元に視線がいく。

 

(なんだ…?佐倉牧師の胸元に見慣れないアクセサリーがあるな…)

 

まるで人間の目を模した赤い石が中央に見える。

 

「佐倉牧師…あんた達はいったい……」

 

「その話は後だ…尚紀君。彼女が…待っている」

 

「今日はあの子の一周忌…それを忘れてはいけないわ」

 

「そうだったな…。それじゃ、皆で行ってやろう」

 

佐倉牧師に促され、彼女が待っている墓地へと家族みんなで歩いていった。

 

 

風実風華の墓前に集まってくれた人達が墓参りを行ってくれる。

 

尚紀は献花を行い、皆が両手を握り合わせて祈る姿となっていく。

 

杏子とモモも献花したかったのだが冬の季節であったため拾ってこれる花は咲いていない。

 

尚紀だけは祈りの姿を見せず、ただ静かに風華の墓を見つめるのみ。

 

悪魔の彼には祈る神などいないのだ。

 

「……なぁ、キリスト教の牧師として…神の言葉の一つか二つはしたらどうなんだ?」

 

「……もう私には…その資格は無い」

 

「……そうか」

 

その言葉だけでタクシー運転手から聞いた話が事実なのだと感じられるはず。

 

(風華…お前は何も心配せず、ただ安らかに眠ってくれ。この人達は…俺が守る)

 

祈りを終えた佐倉牧師の表情は暗い。

 

(牧師として何もしてやれないが、こうして風華ちゃんの死を悼む者達が来てくれたよ…)

 

それが彼女の救いになってくれる事を願いたいが、佐倉牧師に祈りは許されない。

 

彼の新しい信仰とは、()()()()()()()()()()()であった。

 

 

杏子とモモが尚紀の話を聞きたいと言ってくるが、土産を手渡す。

 

「これを食べていてくれ。少し…お前の両親と話がしたい」

 

「え…?う、うん……分かったよ、尚紀」

 

「私達の分も食べていいわ。二人で仲良く……お腹いっぱい食べてね」

 

「ママ……?」

 

三人は住居である家の中へと入り、リビングに向かって進む。

 

(家の中が閑散過ぎる…売れる物は何もかも売ったのか…?)

 

食事をとる部屋に入ってみたら家電製品が全て無い。

 

(こんな惨状で…どうやって生きてきたんだよ……)

 

佐倉夫婦は無言で席に座る中、カチカチカチと電気をつけるスイッチの音が鳴り響く。

 

尚紀が明かりの電気をつけようとするが、明かりはつかない。

 

スイッチの音が鳴らし続けられていく。

 

それは佐倉夫婦への無言の圧力なのだ。

 

「どういうことだ……どうしてこんな状態になったんだ!?」

 

彼の言葉に対して自分達の不甲斐なさで夫婦は顔を俯けたまま震えてしまう。

 

「タクシーの運転手から聞いたぞ。お前ら…新興宗教を立ち上げたのか?」

 

「……そうだ。私はキリスト教徒である事を捨て…新しい宗教を立ち上げた」

 

拳で壁を強く叩く音が響く。

 

「それがどういう事か分かってるのか…あんた達!生きていく事すら出来てないじゃないか!」

 

その言葉を否定する事は夫婦には出来ない。

 

これが今の佐倉一家の現実でしかないのだから。

 

「見ての通り…教会団体から見放され、私達の教義を伝えてきたが…誰一人聞く耳を持たない」

 

「厄介者の私達に献金なんて集まるはずがなかったの…。教会団体からの支援も無いわ…」

 

「食うにも困る有様じゃないか!あの二人が食べ物ではしゃぐ姿が見えなかったのかよ!?」

 

「そうだな…余程嬉しかったのだ。満足な食事にすら……今の私達はありつけない」

 

「それでもあの子らの親か!!自分の娘達を苦しめる道を選んで…満足だったのかよ!?」

 

居候だが家族となってくれた男の言葉によって咽び泣き始める佐倉牧師の妻である。

 

「……君の言う通りだ。私は…あまりにも罪深い道を選んだ」

 

懺悔の気持ちが表れたのか、胸にある新たな信仰の証を手で強く握り締めていく。

 

「これが……私が選んだ新しい時代を救うための救済の道なのだ」

 

「お前は……娘達を犠牲にしてまで!!何を救いたい!?」

 

()()()!!」

 

信念を譲らない佐倉牧師が席を立ち上がりながら尚紀と向かい合う。

 

「人の迷う心を救うには新しい教義が必要だ!神の言葉ではそれは成し得ないと気がついた!」

 

「キリスト教にその身を委ねたあんたが……()()()()()というのか?」

 

「私は迷いし者を救う為に牧師の道に進んだ!今の伝統に縛られた教義ではそれは出来ない!」

 

神の信徒である事を捨て、何になろうとしていたのか、尚紀はようやく理解する。

 

「一人の人間として人々に手を差し伸べたいと思ったのか…神ではなく自分の言葉を用いて…」

 

その心はきっと、あの路地裏で手を差し伸べてくれた風華と同じ気持ち。

 

人間の心の優しさなのだと尚紀なら理解してくれるだろう。

 

「あんた達だけでそれを決めたのか?親戚は何も言わなかったのか?」

 

「私と妻の親戚は熱心なキリスト教徒達だ…。親戚達からは…絶縁されてしまったよ」

 

「そこまで身を切ってでも…お前達は信念を貫こうとするのか…」

 

神を否定するのは悪魔の道であり、()()()()()()()

 

佐倉牧師の伝統に縛られない自由を望む気持ちこそ、悪魔ならば祝福してくれるはずだ。

 

(人々の為に犠牲となっても助けようというのなら…その心は俺が東京で戦う理由と同じだ)

 

「分かった…あんたの覚悟は聞かせてもらった…もう止めはしない。その道を俺も見てみたい」

 

「君はこんな私達を応援してくれるのか……やはり君は私達の家族だよ」

 

佐倉牧師と向かい合うようにして席に座る。

 

「…ここからは現実の話をしよう。今の収入と貯金はどうなってる?」

 

「私の布教活動を支援する形で妻がパートをしてくれている」

 

「フルタイムで働ける就職も考えたのだけど…幼い子供達の面倒を見ないといけないし…」

 

「それに妻も神学校出身。神学は教師と同じく、就職の幅が狭くて融通も効かないのだ」

 

「パートだと扶養に入るのも難しいな…佐倉牧師がサラリーマンなら夫の扶養に入れるが…」

 

「残念だが…今の私は無職も同然だな…」

 

「パートは130万円を超えるシフトは組まれないのよ…」

 

「税法上どうしてもそれを超えると税金が課せられてしまうそうだ…それで収入が厳しくなる」

 

「つまり今のあんた達は少ない収入を使い、年金と国民健康保険を払ってるわけか」

 

「その上で…杏子とモモの学校費用も払う事になる」

 

「モモは小学校に上がった時にも出費がかさんだはず。それに杏子はもう直ぐ中学校に上がる」

 

「そうだ。中学に進学するに当たる費用も…少ない貯金から切り崩さなければならない」

 

「牧師は収入面でかなり厳しい立場となる職業なのよ…。私達の貯金額は多くはなかったわ…」

 

「それに…もうすぐ固定資産税の納付書も送られてくるだろう」

 

「いくら郊外の森の奥の教会でも、ここは大聖堂規模の教会。それ相応の額になるよな…」

 

「娘達もいつ病気になるか分からない…栄養失調でモモが体調を崩した時の費用もかかったわ」

 

「節約の為にあらゆる生活費を削り、税金の支払いや社会保険の支払いがやってくるか…」

 

(こんな状態が…1年近くも続いたというのか?俺が東京に旅立ってから?)

 

「一番の苦しみは食事だ。生きていく為にかかせないものだが…私達はそれすら得られない」

 

「杏子とモモが学校給食から持ち帰ってくれる給食のパンがあるの。それが…家の食事なの」

 

「あんた達…そんなんじゃ…確実に死ぬぞ…」

 

「いつの日だったか…杏子がリンゴを持って帰ってきた事がある。貰った品だと言ってな…」

 

「贈り物を貰えて良かったねと…杏子に言ってしまったわ。盗んだ品だと分かっていてもね…」

 

「私達一家は風見野の嫌われ者だからな。親として…盗みを働いた娘を叱るべきだったが…」

 

「杏子が犯した窃盗という罪は私達のせい…だからあの子を責める資格なんて私達には無いの」

 

「今の現実…聞かせてもらった。あんた達のお陰で今の俺がいる…協力を惜しむつもりはない」

 

懐から黒革名刺入れを取り出し、一枚の名刺を佐倉牧師に手渡す。

 

「探偵見習いではあるが収入はある。副業も掛け持ちしてそれなりにやってるし、力になるよ」

 

「何を言うんだ!?君はまだ年齢で言えば…今年で19歳の未成年だろう!?」

 

「今年で22歳だ、そういう事に今はしている。俺も成人した大人としてあんた達を助けたい」

 

「尚紀君……君という男は……」

 

「あんた達は俺の恩人であり…家族だ。家族を助けるのに理由がいるか?」

 

「なんて立派な子になって……嬉しいわ……グスッ」

 

佐倉夫婦の目に熱い涙が溢れていく。

 

その姿を見つめる尚紀は優しい微笑みを返してくれる。

 

「おい、そこの二人。立ち聞きしてないで入ったらどうだ?」

 

扉の向こうにいる子供達に声をかけられ、バツが悪そうに入ってくる。

 

二人の子供達も尚紀の言葉を聞いていたのか涙を流してくれているようだ。

 

「尚紀…あたしが苦しんでる時には…やっぱりあの時みたいに助けに来てくれる人なんだね…」

 

「グスッ…尚紀お兄ちゃん……!」

 

「お前ら、湿っぽい顔してんじゃねーよ」

 

尚紀は立ち上がった後、喪服のポケットからスマホを取り出してタクシー会社に連絡をとる。

 

「腹が減ってるから元気が出ないんだ。寿司を食いに行くぞ、回らない方のな」

 

「「お寿司!?回らないほう!!」」

 

飛び上がって喜んでくれる子供達の姿を見た佐倉夫妻も久しぶりとなる笑顔を見せてくれる。

 

(今なら…風華が手を差し伸べてくれた気持ちが分かる。俺も…風華と同じ道を進もう)

 

外に出れば冬空の冷たい風が吹き抜けてくる。

 

冷たい風も久しぶりに揃った家族達にとっては心地良い風となるだろう。

 

「懐かしい風だ……」

 

風見野市で一緒に駆け巡り、魔女と戦った風の守護者を思い出す。

 

「あいつの風を肌で感じる時はいつだって……優しい風を感じられたよ」

 

風華の未来は守れなかったが、家族の未来は守りたいと彼は心で誓いを立てる。

 

(そのために……風華との未来を作るために使うはずだった宝石を使おう)

 

宝石の事を考えていると銀座で宝石店を経営するニコラスが頭に浮かぶ。

 

(あいつなら…この宝石をどう扱っていいのか分かるはず)

 

風見野市で家族水入らずの時間を過ごした後、尚紀は再び東京に帰る事になるのであった。

 




読んで頂き、有難うございます。
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