人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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210話 再婚

中世時代のヨーロッパにおいて、1人の少女が錬金術師となった。

 

彼女は錬金術師として魔道の探求を求めてきたが契約の天使と出会うことになっていく。

 

彼女は願った、錬金術や魔術の奥義を極める道に進む運命が欲しいと。

 

彼女は目的を達成するためなら手段を選ばない者であったから。

 

しかし問題が起きてしまう。

 

魔法少女の重大な問題によって彼女の魔道探求の道は閉ざされてしまった。

 

問題を克服しようと足掻いたが駄目だった彼女は再び手段を選ばない選択をする。

 

悪魔と呼ばれる存在と契約する事で魔法少女問題を解決するという危険極まりない選択だった。

 

彼女は19歳の若さを維持したまま老化することのない命を手に入れたが、それは悪魔の罠。

 

彼女は永遠に悪魔に憑りつかれたまま運命を弄ばれる人生が始まってしまうのだ。

 

寿命で死ぬことのない彼女は彷徨いながらも様々な存在達と触れ合っていく。

 

ニコラス・フラメルと呼ばれる男を錬金術師として導き、夫として迎えた人生。

 

2人で錬金術の至高の目的といえるだろう賢者の石を生み出すために努力した人生。

 

魔女狩りから逃れるようにして夫と別れてからはジャンヌ・ダルクと出会った人生。

 

様々な人生を生きてきたが本当の目的である魔道の奥義と呼べるものは手に入れられなかった。

 

いつしか彼女は長過ぎる人生の迷子になっている。

 

様々な名前を名乗りながら生きてきたが、彼女の心は擦り切れていく。

 

いつしか死を望み酒に溺れるだけの堕落した人生にまで堕ちていた時、彼女は見つけられた。

 

魔道の奥義とも呼べる力を手にする悪魔人間が日本と呼ばれる国にいる。

 

堕落した人生から抜け出すキッカケとなった者を求めて彼女はアメリカから日本へと訪れた。

 

人修羅と呼ばれる悪魔人間と争うことになったが、彼は彼女を許してくれた。

 

人修羅は彼女に託してくれた。

 

魔道の奥義の中でも究極ともいえるだろう最強のマガタマを託してくれたのだ。

 

数百年間の旅路の中で彼女はやっと本来の目的である魔道の奥義に触れられる。

 

大喜びする彼女であったが、魔道の奥義を知れば知るほど彼女の顔から笑顔は消えていく。

 

満たされれば満たされる程、彼女の心は充足を得ると同時に終わらせたい気持ちも生まれる。

 

この長過ぎる人生の旅路の終着駅を求めているかの如く黄昏た表情を浮かべる毎日であった。

 

……………。

 

「ねぇ……ニコラス」

 

感情エネルギーの光に包まれた培養液に顔を向けたままのペレネルが声をかけてくる。

 

錬金術道具や実験用機械が沢山並んだ奥で研究を続けていたニコラスが顔を向けてくれたようだ。

 

「スペインのアンダルシア大学で勉強していた時は…どんな気持ちで勉強していたの?」

 

「…憧れの錬金術師になり、私の夢であると同時に君の夢を実現させたいという気持ちだったよ」

 

「貴方は錬金術師として大成して帰ってきてくれたわ。そして私達は夢を実現しようとした…」

 

「…魔女狩りという集団ヒステリーさえ起こらなければ…君と共に喜びを分かち合えたと思う」

 

「私が残した研究成果を貴方が完成させてくれた…。賢者の石を完成させた時…何を感じたの?」

 

「達成感よりも…孤独を感じた。君が隣にいてくれない寂しさと…目標が消えた虚しさが残った」

 

培養液の中で浮かぶマガタマに視線を向けたまま、ペレネルは今の気持ちを語ってくれる。

 

光に照らされた眼鏡の奥にある彼女の目の表情は伺えなかった。

 

「魔法少女になってまで得ようとした目標…魔道の奥義。目の前にあるマガタマこそがそうよ…」

 

「マガタマの修復過程において様々な発見をする事が出来たな。君はマガタマを生み出す気か?」

 

かつての賢者の石と同じく、錬金術師としての成果を残す。

 

それこそが錬金術師としての本懐であった筈なのだが…彼女は喜びの表情を浮かべない。

 

「私ね…悪魔と契約してでも得ようとした目標を達成出来ようとしているのに……怖いの」

 

ペレネルは余りにも長過ぎる人生という山道を登ってきた者。

 

ようやく山頂に至ることが出来たというのに彼女の心は孤独と恐怖心に支配されている。

 

「目標があったから長過ぎる生を耐えられた。だけど目標を達成出来たら…きっと耐えられない」

 

「ペレネル……」

 

立ち上がった彼がペレネルの元にまで歩み寄る。

 

横に立って顔を向ければ、彼女の体は震えていた。

 

「おかしな話よね…?望んだ目標に辿り着いたのに……ずっと目指すだけでいたくなる」

 

「登山家もそうだ。登っている時間が苦しくても…ずっと登っていたい。終わって欲しくない」

 

「苦しくても…それは楽しい時間。夢を見続けられる幸福も…覚めれば終わってしまう」

 

「だから登山家達は生涯に渡って山を求めるのだろう…。苦しくても…それは幸福なのだから」

 

「私の幸福もまた…終わりを迎える。それでいい…私は私の人生の山道を登り終えるのだから」

 

ニコラスは震えている彼女にそっとハンカチを渡してくれる。

 

受け取った彼女は光に照らされた眼鏡の下に溜まっていた涙を拭いたようだ。

 

人生の目的を終える事は恐ろしい。

 

しかしそれこそが人間の人生であるべきだ。

 

「私も…長過ぎる生を生きた。賢者の石という魔道の奥義を手に入れたが…虚しいだけだった」

 

俯いてしまう彼に顔を向けてくれる。

 

彼もまた魔道の奥義を求めた者であったが、今は終わりを望む者だ。

 

「私達は錬金術師として登り切った。それぞれが求めた頂きに立てたのなら…終わるべきだろう」

 

「そうね…私達の旅路は終わるべきよ。世界のコトワリに逆らい続けるのも……もう疲れたわ」

 

「私もさ。老骨に鞭を打って生きてきたが……最後は愛する君の傍で死にたいものだな?」

 

顔を向けてくれるニコラスを見たペレネルの細目が見開いていく。

 

最初に出会った頃のような若々しい彼の姿とは違うけれど、面影を感じてしまう。

 

懐かしい気持ちとなれたペレネルが両手を持ち上げる。

 

彼の頬に両手を当て、懐かしい記憶の世界に浸っていく。

 

「こんなに大きくなって…。初めて出会った時は…女の子と間違うぐらいの少年だったのに…」

 

「君は変わらないね…美しい少女のままだ。私はこんなにも枯れ果ててしまったのに…」

 

「年齢を重ねられることは愛しいものだと気が付いていたら…私は悪魔に騙されなかった…」

 

「日本ではな…散ることこそが人生だと考える思想がある。老いて滅びるのも…悪くないよ」

 

「そうね…私達が滅びても新しい種が芽吹く…。その種も大きくなれば枯れ果てて…種を残す」

 

「それこそが人間であるべきだ。私達はそれに逆らったが…今ではそれが正しいと言える」

 

「ニコラス…私はこの研究を最後にする。もう…錬金術師として生き続けたくない…」

 

「私も同じ気持ちだよ…愛しい妻よ。最後ぐらいは…初めて出会ったあの頃に戻りたい…」

 

頬を染め合った2人の顔が近づいていく。

 

研究室に用事があって訪れようとしていたタルトであったが、中の様子を見て扉を閉めてくれる。

 

今は夫婦水入らずの時間なのだということぐらい造魔でも判断することなら出来るだろう。

 

錬金術師夫婦の愛が数百年の時の流れを超えて蘇る時がきた。

 

しかし彼らは錬金術師として目指すべき目標を失った者達。

 

今の2人が望むのは人間としての終わりであり、自分達の死である。

 

それでもほんの少しの間だけは帰りたいと思ってしまう。

 

2人が出会い、恋をして生きられた懐かしい時代に帰りたいと願ってしまうのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「えいっ!えいっ!」

 

路地裏で魔法武器を振るっている姿を見せるのは八雲みかげである。

 

彼女の動きを見守っているのはリズとタルト。

 

彼女達は空いた時間を見つければ彼女の元に訪れ稽古をつけてくれている。

 

「姿勢が崩れているわ。もっと背筋を伸ばして蹴り込みなさい」

 

「うん、分かったよリズ姉ちゃ!」

 

武器と体術を駆使する指導を受けているのだが、今日のタルトは稽古相手になってくれない。

 

感情が無い造魔は無表情を崩さないのだが、それでも思うところがあるのか顔は俯いている。

 

そんな彼女を心配するようにしてみかげが声をかけてくれたようだ。

 

「今日はどうしたの?なんだか落ち込んでいるような気がするけど…?」

 

彼女の声に反応して顔を上げてくれるが、タルトは首を横に振る。

 

何があったのかをリズに聞くと彼女も無表情なりに心配そうな態度を見せてきた。

 

「昨日からどうも様子がおかしいのよ…。何があったのかは私にも語ってくれない…」

 

「何かあったの…?ミィで良かったら相談に乗るけど…?」

 

2人を心配させてしまうのは自分のせいだと分かっている彼女が立ち上がる。

 

「…ごめんなさい、心配をかけて。私なりに…色々悩んでるんです」

 

「どんな悩み事を抱えているの?ミィが聞いてあげるよ」

 

「ここではその…言い辛いです。少し散歩に付き合ってくれませんか?」

 

言われるがままリズとみかげはタルトの後ろをついていく。

 

彼女達が訪れたのは南凪区にある外国人墓地であった。

 

海を見つめるタルトの髪が潮風で揺れていく中、後ろの2人に向けて語り出す。

 

「マスターが失った時間が蘇っていく…。人間としての時間が…蘇っていく…」

 

「それってもしかして…ペレネル婆ちゃとニコラス爺ちゃが仲直りしたってこと?」

 

「地下の研究室から上がってくるのが遅いと思ったら…そんな事が起きていたのね」

 

「喜ぶべきだと思いますが私は造魔です。それを表現する事が出来ない…私の心は止まったまま」

 

右手で後ろ髪を撫でる彼女の心の中は虚心であるように見えるが、小波が立っている。

 

自分が何故これほどまでに落ち着かないのか理解出来ない表情を浮かべていた。

 

「生前のタルトは…無邪気な子供のような人物だった。それを表現してこそ私は完成するのに…」

 

顔を俯けていく彼女の苦しみならリズは分かる。

 

彼女もまた造魔であり心は虚心。

 

同じ造魔であるタルトに向けてどのように生きればペレネルを満足させれるのかは分からない。

 

上手く生きられず悩み苦しむ造魔の姿を見せられた魔法少女だけが言える言葉があった。

 

「ミィはね…思ったことは口にするよ。それで色々な人から嫌われたり…好きになってもらえる」

 

「思ったことを…口にする?」

 

「言いたいことを口にする怖さもあるけど…ミィは言いたいことも言えない方が怖いって思う」

 

「人は本音を押し隠すものです…。本音ばかりでは相手を傷つける場合もあるんです…」

 

「でもね、ミィはそれでも言いたい。だって…自分に嘘をつきながら生きるのって…辛いんだよ」

 

辛そうな表情を浮かべてしまうのは、姉のみたまの在り方を知っている妹だからである。

 

尚紀と出会う前のみたまは、周りを不快にさせまいと愛想しか振りまく事はなかった。

 

それでも心の中では神浜市に向けた憎しみを叫びたいのに誰にも言えない苦しみを抱えてきた。

 

苦しみを吐き出す事が出来なかった彼女は東西差別を繰り返す西側への憎悪が燃え上る。

 

そして同じ立場でありながらも自分より弱い者を虐めてスカッとしたい東側への憎悪も燃えた。

 

言いたい事も言えない人生が続いてしまったために精神の袋小路に陥ってしまう。

 

だからこそ八雲みたまは神浜を滅ぼして欲しいと契約するまで追い詰められていったのだ。

 

「姉ちゃは…言いたい事も言えなかったからこの街を呪ったの。ミィはそんな風になりたくない」

 

「私も…言いたい事を言えるようになれなければ…憎しみに支配されていくのでしょうか?」

 

「今のタルト姉ちゃは…苦しんでる。劣等感を抱えてきたミィの姉ちゃと同じに見える…」

 

客観的にそう見られているのであればそうなのだろうとタルトは判断する。

 

彼女は客観性のない主観性は成り立たないと知った者だから。

 

「私は今のマスターに何を言えばいいのでしょう?生前のタルトなら…何を言ったのでしょう?」

 

それを問われた時、みかげは笑顔でこう言ってくれる。

 

その無邪気な姿はまるで生前のタルトのようであった。

 

「決まってるよ!結婚しちゃえって言えばいいんだよ!」

 

胸を張って自信満々に語るみかげを見つめるタルトとリズは目を丸くしてしまう有様だった。

 

ペレネルとニコラスの間にどれ程のわだかまりがあるのかも考えずに無邪気に語る。

 

そんな姿もまた、タルトが目指したい本物のタルトの在り方なのかもしれないと造魔達は思う。

 

得心を得たのかジャンヌと呼ばれる造魔がみかげの頭を撫でてくれる。

 

「私も…貴女みたいに無邪気になりたい。そのための一歩を…踏みしめてみたいです」

 

不思議そうな顔を向けてくるみかげに向けて口元が若干の微笑みを浮かべてくれる。

 

そんなタルトの姿を見守ってくれたリズの心の中にも嬉しいという感情の小波がたった。

 

みかげと別れた2人がペレネルの屋敷へと戻っていく。

 

夜になると部屋で悩むペレネルの元へとタルトが現れたようだ。

 

彼女の言葉を聞いたペレネルは驚きの声を上げてしまう。

 

命令に従うのみの造魔である筈なのに、葛藤を抱える主人の気持ちも考えない提案をしてくる。

 

造魔の主人として欠陥品だと思うかもしれないが、ペレネルはそうは思わない。

 

この可能性こそが造魔として生み出したタルトに求める人間としての在り方なのだから。

 

微笑んでくれたペレネルは決心がついた。

 

それから暫くした頃、尚紀はペレネルの屋敷へと呼び出される。

 

向かい合うペレネルとニコラスが語る言葉を聞いた尚紀は驚いた表情を浮かべたようであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「再婚…するのか?随分と急な展開だな…?」

 

屋敷の応接間の椅子に座る尚紀に向けて、ニコラスとペレネルは微笑んでくれる。

 

「私はね…魔道を極めるために生きてきたわ。その目的も終わり…後は人間として生きたいの」

 

「私達はもう錬金術師としては向かうべき目標を失った者達。だからこそ余生は人間でありたい」

 

「そのための再婚か。だがいいのか…ペレネル?俺のマガタマで得た知識を生かさないのか?」

 

「私はね、悪魔になりたいわけじゃない。魔道の奥義という究極の知恵に触れたかっただけなの」

 

「それが魔法少女契約までして生きてきたお前の本懐でいいのか…?」

 

「構わない。人間のままだったら…私は貴方と出会えていない。これこそが望んだ運命だと思う」

 

「私もね…妻を見つけてやり直したい目的のために錬金術を求めてきたが…それももう終わりだ」

 

「そうか…お前達は目的を達成したんだな?人生の山道を登り終えたなら…後は帰るだけか?」

 

「そうだ、後は山道を下るだけとなる。懐かしい時代に帰るようにしてね…」

 

顔を向け合う2人は笑顔を向け合ってくれる。

 

そんな2人の気持ちが嬉しかったのか、尚紀も微笑んでくれたようだ。

 

「貴方のマガタマ修復をもって私の錬金術師としての旅は終わりよ。だからね…感謝してるわ」

 

「私とペレネルをもう一度繋いでくれたナオキ君には本当に感謝している。だからこそ頼みたい」

 

「もしかして…結婚式の仲人の役目か?」

 

「それもあるが…もっと重要なものだ。私達はね…子供に恵まれなかった者達なんだ」

 

「彼はね…若い頃から造精機能障害なの。だから私達は手を出してしまったわ…錬金術の禁忌に」

 

「まさか……ホムンクルスか?」

 

「娘の()()()と生きられた時間こそ私とペレネルにとって至福の時間だった。だから帰りたい…」

 

「ホムンクルスは短命だったけど私達にとっては愛する娘だったわ。だから…また子供が欲しい」

 

「現代では不妊治療も進んでいる。どうにか男の象徴を元気にして頑張ってくれよ」

 

「フフッ♪ニコきゅんも頑張ろうとしたんだけれどね…やっぱり年齢には勝てなかったわ♡」

 

「えっ…?お前らもしかして……?」

 

顔を赤面させるニコラスに向けて意地悪な顔を向けてくるペレネル。

 

そんな2人が望む新たなる子供とは…意外な存在であった。

 

真剣な表情を浮かべて語った言葉を聞いた尚紀が驚愕して立ち上がる。

 

「正気なのかよ……お前ら!?」

 

「本気だ。私達はね…君を養子として迎え入れようと思う」

 

「私と夫をもう一度繋いでくれたナオキこそ、私達の()()()()()()()()()()()なのよ」

 

ニコラスは石の賢者として築き上げた莫大な資産を所有している。

 

ペレネルは錬金術師としてだけでなく資産家としても大成功を収めた者である。

 

そんな2人の遺産を相続させられるとしたら、天文学的な遺産相続となってしまうだろう。

 

困惑した表情を浮かべる尚紀であったが、強い決意を浮かべたニコラスが口を開く。

 

「嘉嶋会創設の時の演説は忘れていない。君はこの世界に投げ出された者として孤独に苛まれた」

 

「親だと信じた者達から捨てられ…路頭に迷う人生を生きてきた。私達はそんな貴方を救いたい」

 

「だが…ジャンヌとリズはどうなる?彼女達こそお前らの娘とするべきじゃないのか?」

 

「あの子達はそれを拒絶したわ。自分は造魔であり、主人に尽くすために生きたいと言われたの」

 

「だからこそ、ナオキ君を養子として迎え入れたいのだ。どうか私達の我儘を受け入れてくれ」

 

「しかし…俺なんかじゃなくてもいいだろ…?実の子供を産みだす事を諦めるのか?」

 

「私達はね…人間のような時間を過ごせたらそれで満足なんだ。家族を築けたらそれで充分だ」

 

「私はナオキを家族にしたい…。こんな小娘姿の私なんかをお母さんだと呼ぶのは嫌かしら?」

 

それを問われた尚紀が赤面してしまう。

 

孤独であっても強く生きようと決めたのに、もう一度家族となってくれる者達が現れてくれた。

 

孤児として生きる者だからこそ、両親という存在を熱望してきた。

 

再びこの世界で両親になってくれる者達がいる。

 

体が震えてしまう尚紀の両目には嬉し涙が溜まっていたようだ。

 

「おやじ……おふくろ……」

 

嗚咽を堪えながら震える彼の元にまで歩み寄ってくれた夫婦が彼を抱きしめてくれる。

 

夫婦の肩を抱きしめた尚紀はついに声を出しながら泣いてしまうのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

月日は流れ、3月の最初の週末となった頃。

 

神浜市の南凪区にある業魔殿ではホテル結婚式が始まろうとしている。

 

籍は入れたのだが、それを周りの者達に知らせるわけにはいかない事情があるようだ。

 

ペレネルは資産家として生きてきたが、現在の戸籍上の年齢は108歳を超えている。

 

老い先短い老婆が19歳の小娘姿だったと周囲の者達にバレるわけにはいかないのだ。

 

秘密裏にした結婚式は粛々と進められていく。

 

参列してくれたのは尚紀や仲魔達、それにタルトとリズとヴィクトルと銀子だけであった。

 

「なんで俺様まで呼ばれるかねぇ…?ニコラス爺と元嫁の結婚式なんぞに…?」

 

「我々のことを信頼してくれている証拠だろう。今日は大人しくしてろよ」

 

「分かってるって。俺様は式が終わったらすぐさま帰るからな」

 

横に視線を向けると結婚式に着ていけるパーティドレスを纏う女性達がいる。

 

「尚紀から聞いてるぞ。お前らはアイツに付き従う使用人になってもいいってのかよ?」

 

「私達は造魔です。造魔は主人に尽くすために生み出された者…主人の代わりなど務まりません」

 

「私は構わないわ。ナオキがフラメル家を継いでくれるなら…彼の従者として生きていきたいの」

 

「しかしよぉ…どんどん出世するなーお前は?もうちっと俺様の小遣いも上げてくれねーかな?」

 

「お前に小遣いくれてやっても博打に使うか酒に消えるだけだ」

 

「静かに。そろそろニコラス先生の入場の時間である」

 

手前の扉が開く。

 

新郎として現れたのはニコラスであり、後からウェディングドレスを纏うペレネルが現れる。

 

2人は祭壇の前に立ち、牧師が挙式開始の宣言を行っていく。

 

牧師の言葉を清聴している夫となる者は心の中でこう思う。

 

(これで悔いはない…決心がついたよ。妻に憑りついた悪魔と戦うために…私は人を辞めよう)

 

牧師の言葉を清聴している妻となる者は心の中でこう思う。

 

(ナオキ…貴方の未来には地獄が待っている。だからこそ…私達が残す遺産を上手く使ってね)

 

新郎新婦の誓いの言葉や指輪の交換が終わる。

 

結婚証明書に署名を終えたニコラスとペレネルは最後に誓いのキスをして式は終了となった。

 

結婚式が終わってから暫くした頃、尚紀の元に集合写真が届けられることになる。

 

家のリビングで集合写真を見つめる尚紀の顔は微笑んでくれていた。

 

「俺の新しい両親……もう二度とはって、思ったんだけどな……」

 

写真の中央には、養子である尚紀を囲むようにして笑顔を浮かべたニコラスとペレネルがいる。

 

これからは彼ら夫妻が尚紀の新しい両親であり、尚紀は一人息子として二重相続人になろう。

 

彼の未来に待っているのは世界の富を独占し、世界の紙幣を製造する者達との戦い。

 

それらと戦うには彼の力だけでは足りなさ過ぎるのだ。

 

多くの者達の力が必要ともなれば、多くの金を動かす必要が生まれていく。

 

だからこそ尚紀のお陰で夫婦に戻れた錬金術師夫婦は彼を養子として迎え入れてくれた。

 

世界を支配する者達と戦うための軍資金となってくれる莫大な遺産を相続させるために。

 

……………。

 

<……そうか、分かった。私も召集に応じよう>

 

ペレネルの屋敷の外にはカラスに擬態した悪魔がいる。

 

ベットで夫と共に眠るペレネルの影が怪しく広がっており、部屋の壁に人型を生み出す。

 

そこには悪魔を表す影が浮かんでおり、外の悪魔と念話を行っていたようだ。

 

<魔界から次々と魔王や魔神達が集まっている…私も遊んでばかりはいられないな>

 

<オーダー18が行われる日も近いのです。お急ぎ下さい、()()()()()様>

 

そう言い残して窓際に立つカラスは飛び去っていった。

 

壁に浮かんだ影の頭部が真紅の瞳を開けていく。

 

恐ろしい悪魔の目が向けられる先とは、数百年間搾取してきた魔法少女であった。

 

「長い間楽しませてもらったが…そろそろ君とは潮時かもしれないよ、ペレネル」

 

壁に浮かんだ悪魔の人影から生身の肉体がせり出してくる。

 

道化師の服装と似た真紅の貴族衣装を纏う者こそ、ペレネルを支配し続けた魔王であった。

 

【メフィスト】

 

メフィストフェレスと呼ばれる者であり、光を愛さない者とも呼ばれる悪魔。

 

ゲーテのファウスト物語に登場する悪魔としても知られている存在だ。

 

ファウストはルネサンス期のヨーロッパに存在したとされる伝説上の魔術師である。

 

彼が召喚した悪魔こそがメフィストであり、悪魔と取引したため突然死したという。

 

メフィストはゲーテの物語で名を知られるようになり、地獄の大公と呼ばれるようになった。

 

未来の出来事や天文学、占星術、気象学に通じ、火炎術と変身術、幻術にも長けている。

 

人の心の闇に巧みに囁きかけ、悪徳や欲望をそそのかして魂の契約を迫ろうとする悪魔であった。

 

「思い出すよ…ペレネル。君と初めて出会った日のことをね」

 

空中に浮遊するのは、漆黒の長髪を靡かせる赤き魔王。

 

邪悪な笑みを浮かべたメフィストは右手を持ち上げ、ソウルジェムを生み出す。

 

右手に浮かべられるソウルジェムこそ、ペレネルが悪魔契約した際に奪われた魂であった。

 

「美しい魂の輝きだ…。数百年間濁り続けるのみであったのに…フフ、再婚出来たからか?」

 

視線を向ける先には再婚相手がいる。

 

この者を目の前で惨たらしく殺してやったら、どれだけの絶望を生み出せるのか?

 

そんな事を考えただけで舌から涎が溢れ出す。

 

「今はまだ生かしてやろうではないか…。しばらくは幸福に暮らすがいい」

 

浮遊したまま壁に残っている人影の中へと戻っていく。

 

右手の中で転がすソウルジェムをもう直ぐ喰らえる日がくる。

 

何百年も寝かしてきたワインの蓋を開けるような喜びを今、彼は感じていた。

 

「希望こそが絶望を引き立てる最高のスパイスだ。フフフ…どう殺してやろうかな?」

 

影の中に入り込んだメフィストの影がペレネルへと戻っていく。

 

これから先メフィストは沈黙しながらも暗躍していくだろう。

 

死ぬことが出来ない不死身の者をどう殺してやろうかと考えていくのだ。

 

彼の息子となった混沌王に気が付かれないように計画を進めなければならない。

 

計画の準備が整った時こそニコラスとペレネルの終わりの時である。

 

今は小さな幸せを噛み締める日々を送れるのだろうが、それも時期に終わりを迎えるだろう。

 

その時にこそ、ニコラスは戦わなければならない。

 

愛する妻を探し求め、ようやく結ばれた者としての最後の戦いを行わなければならないのだ。

 

今まで眠っていた大きな闇が動き始める。

 

2020年の時代とは、去年を遥かに超える程の動乱の幕開けであった。

 




過剰なまでのキャラ数なのにたるとマギカのキャラを突っ込む必要があったのはこのような目的を考えていたためです。
錬金術師に憑りつく悪魔を考えるなら、やっぱゲーテのメフィストしかいませんよね!
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