人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
見滝原市から帰ってきた頃よりナオミは尚紀のボディガード仕事からは外れている。
連絡してくれたら警護に就くという事を条件にして依頼人のニコラスにも説明しているようだ。
警護を受ける者からも彼女の道を応援されているため、ニコラスは彼女の自由行動を認めていた。
神浜で雇った探偵達を使って網を張りつつ彼女も街を歩き回りながら捜索を続けていく。
捜索の過程で様々な出来事も陰ながら見てきたようだが、それでも優先すべき問題があった。
「葛葉ライドウ…まさか葛葉四天王において歴代最強のサマナーが大正時代から現れるなんて…」
人修羅として生きる尚紀は葛葉ライドウから命を狙われている事ならナオミも把握している。
ボディガードとして警護に就くべきなのは分かっているが、尚紀からの連絡待ちを続けていた。
「ナオキは私に気を利かせて連絡を寄越さないみたいね…。私の気持ちの理解者として嬉しいわ」
便利屋として怠慢している後ろめたさを支えてくれる依頼人に感謝しながら捜索を続行していく。
南凪区のチャイナタウンにある中華飯店では席に座りながら地図に印をつける彼女の姿があった。
「レイが立ち寄りそうな場所はあらかた目星はつけたけど…中々目撃情報が届かないわね…」
神浜の地図に印をつけながら次はどう動こうかと考え込んでいた時、近寄ってくる者に気が付く。
「ナオミ姉さん…何をしてるネ?」
視線を向ければやってきたのは彼女にとって妹のような存在である美雨であった。
地図を隠すようにして折り畳みポケットに仕舞った彼女が笑顔を向けてくる。
「見れば分かるでしょ?この店のマンゴープリンが気に入ったから食べに来たのよ」
地図に印をつけながらも彼女は注文を繰り返していたようだ。
席を見れば空のデザート容器が大量に並んでいるため、傍から見ればただの外食光景だろう。
昔から大食い女だということは知っている美雨であるが、彼女が心配しているのは別にある。
「…隣に座てもいいカ?」
「構わないけれど…何か用事なの?」
隣の席に座った美雨がナオミと向かい合う。
重い顔をした彼女に心配そうな態度を見せてくれるが美雨が心配するのはナオミの目的であった。
「ナオミ姉さん……まだ諦めてないカ?」
「……何の事かしら?」
「……レイ姉さんへの復讐ネ」
それを問われたナオミの表情から笑顔が消える。
鋭い目つきを向けたまま無言となるナオミの迫力に圧されるが、それでも伝えたい気持ちがある。
「復讐したい気持ちは分かるネ…。私だて…目の前で家族とも言える人達が殺されたから…」
「もしかして…去年の夏頃に起きたチャイナマフィア騒動のこと?」
「あの時…私は不殺の精神を貫いたヨ。そのせいで仲間は捕らえられ……頭を撃ち抜かれたネ」
「美雨……」
「私も…ナオミ姉さんと同じ気持ちが爆発したネ。だけど…それでも私は…人殺しを否定したヨ」
美雨が伝えたい気持ちとは、人殺しになってしまえば二度と日常には戻れなくなる現実である。
報復のために誰かを殺せば、また誰かが報復しにくる。
人を殺せば穴二つという格言こそが美雨の不殺を貫きたい精神。
殺戮の限りを尽くした男達の末路ならナオミも美雨と共に見ている。
だからこそ美雨が伝えたい気持ちも分かってしまう。
それでもナオミの覚悟は変わらない。
「言いたいことは分かったわ。だけどね…私はレイを許すつもりなんて欠片もないから」
「ナオキと長老の末路を見た筈ネ!ナオミ姉さんも人殺しになれば…ああなる末路が待てるヨ!」
「覚悟なら出来ている。私はレイを殺し…レイの敵討ちを望む者が現れたら…受けて立つわ」
「ずと殺戮の連鎖が生み出され続けるネ!どこかで断ち切らないと…ナオミ姉さんは…」
今にも泣きそうな美雨を見ていると怒りたくもなくなってくる。
全てを失ったナオミにとって、目の前の魔法少女こそが唯一の拠り所。
報復の連鎖によって美雨まで巻き添えになった時を考えれば考えるほど恐ろしくなってくる。
「美雨……貴女は自分の家族を目の前で殺したマフィア連中を…どうしたの?」
「…ぶちのめしてやたネ。だけど殺してはいないヨ…ソイツは船を使て逃げて行たから…」
「その判断によってその存在が違う人物を殺戮したのなら…トドメを刺さなかった貴女のせいよ」
「そ…それは…その……」
「私はね…家族を殺される苦しみを誰にも味合わせたくない。だからこそ…終わらせるのよ」
「レイ姉さんは殺戮者じゃないネ!自分の私欲のために人を殺す存在なんかじゃ……」
「なら…どうしてレイは私の家族である老師達を殺せたのかしらね?」
結果だけならレイ・レイホゥは人殺しの虐殺者。
ナオミの家族を奪った加害者であり許されるべき存在ではない。
それを否定する事など美雨でさえ出来る筈がないだろう。
美雨もまた、ナオミの家族と言えた老師達に優しくしてもらえた経験があったから。
「レイ姉さん……どうして……」
悔しい感情が押し留められなくなった美雨の目から涙が零れていく。
彼女が呟いた言葉なら何度言ったか分からないぐらいナオミも呟いてきている。
ナオミだってレイの事が大好きだった。
親友として一緒に生きられた者と変わらない日常を共に生きたかった者だから。
しかしレイはナオミを裏切り大切な存在を奪った者。
罪には罰が必要だと叫ぶ概念こそが人類最古の法(LAW)なのだ。
立ち上がったナオミが帰ろうとするのだが、背を向けたまま立ち尽くす。
握り込まれた手が震えながらも彼女は未だに苦しめられる悪夢を語ってくれた。
「私ね…今でも夢に見るの。私の目の前で横たわる家族達の光景が…何度も何度も…夢で浮かぶ」
「ナオミ姉さん……」
「助けられなくて謝り抜いても…応えてくれない。厳しくも優しかった老師の声が…聴けない…」
「私も守れなかた仲間達の家族に謝りに行たネ…。でも…謝ても家族は帰らないと…断られたヨ」
「命は尊いの…代えは効かない。守れなかった人達に謝る言葉は必要ない…必要なのは裁きだけ」
「私は…間違てたのカ…?不殺の信念を貫くべきじゃなく…仇を殺す事が必要だたのカ…?」
「貴女には貴女の信念があっていい。でもね…
「どうして…人々はこんなにも…心が分かり合えないネ……」
「それが自由というもの。貴女の理想だけで人々を画一化しようとするのは傲慢だと知りなさい」
伝えるべきことは伝え終えたナオミが店から去っていく。
独り残されてしまった美雨の体はまだ震えている。
彼女の頭の中にはナオミから伝えられた言葉が深く刻み込まれていたようだ。
「私の理想は…押し付けでしかないのカ?人々の心の神殿を踏み躙る…異教徒でしかないのカ?」
店から出て行ったナオミは車を停めてある駐車場へと向かって行く。
車に乗り込んだナオミが夕日を遮るサングラスをかけた時、こんな言葉を残すのだ。
「…あの子の信念は正しいと思う。でもね…私の信念もまた…正しいのよ」
美雨の選択を選ぶなら人殺しにならずに済み、皆と楽しく過ごせる日常へと帰ってこれる。
それと同時に見逃した悪のせいで誰かが傷つけられ、悲劇が生み出されるだろう。
ナオミの選択を選ぶなら人殺しとなり、報復の連鎖によって日常に帰る事は出来なくなる。
それと同時に彼女が殺した者が生み出す悲劇の連鎖は防がれ、誰かが救われることになろう。
この世の現象は正解であり不正解。
創造性が乏しい者は、常に一つの方向からしか物事を決められない。
「私は私の道を行く。復讐こそが…私の道よ」
人間は右を歩くと同時に左を歩くことなど不可能だ。
だからこそ人間は決断しなければならない。
右の道に進んだ者は左に進んだ恩恵は得られず、その逆も然り。
相反する道こそが陰陽であり、陰陽とは相反すると同時に繋がりも生まれてくる。
正しさはそれぞれが持っていい。
それぞれの正しさによって得られる恩恵もあるだろう。
それらが繋がり合う世界こそが人々が生きる陰陽世界の在り様であるべきだ。
陰陽を繋げる太極となる概念こそ、異なる正しさもあっていいと自分の感情を押し殺す愛。
誰かの正しさを尊重するために自己犠牲を示す道こそが人類が描くべき太極図なのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
麗鈴舫(レイ・レイホゥ)と呼ばれる人物について語ろう。
神道系に特化した葛葉一族の分家筋出身の者だが、彼女は幼い頃よりヤタガラスの者。
類まれない神通力の力を見出されたレイは幼少において神降ろしの技術を体得した神童であった。
しかし彼女は幼少時代において両親を失う悲惨な事件を経験している。
そのためヤタガラスが彼女の親代わりとして育てることとなったようだ。
しかしヤタガラスは彼女を娘としてではなく道具として育ててきた。
ヤタガラスは国家社会主義であり国にナチズムを敷いたナチス政党のような極右団体。
御国のために皆が死ぬことが愛国心なのだと全体主義を敷く、おぞましい独裁者であった。
小さい子供であろうとも御国のために尽くす生き方を強いられたレイは極秘任務を受ける。
それは大陸に渡り、とある品を極秘裏に手に入れるという潜入任務であった。
幼い彼女が渡った異国とは香港の地。
潜入に必要な語学等を仕込まれたレイは異国の地であろうとも周囲に溶け込めたようだ。
一匹狼のような彼女が潜入した場所とは香港でも有名な武術道場。
蛇鶴八拳という拳法を学べる道場で彼女は住み込みの修行時代を過ごす事になった。
そんな彼女が出会った少女達こそ、幼い頃のナオミと美雨。
年が近かったナオミとは親友のようになり、背中を追いかけてくる美雨は妹のようになっていく。
孤独な人生しか生きてこれなかった彼女にとっては唯一の幸福だった時間。
しかし、彼女は人生を楽しむことなど許されない者。
レイが香港に訪れたのはヤタガラスからの密命を果たすため。
ナオミに近づいたのもそのためであった。
……………。
「あたしは手に入れた…。親友に近づき、親友の親とも言える老師の一族が隠していた秘宝を…」
業魔殿のBARクレティシャスから下りてきたレイだが気分が晴れず下の店で飲み直している。
彼女の左手に持たれていたのは香港時代の思い出の写真。
少女時代のレイとナオミ、そして彼女達を姉のように慕った幼い美雨の姿が写っていた。
「ヤタガラスがあの秘宝を何に使うかなんて興味は無い…あたしにあったのは命令だけだった…」
酒が注がれたグラスを握る右手が震えていく。
思い出を見るたびにナオミの老師を殺した一撃を放った右手の感触が蘇っていくからだ。
辛い気持ちを酒で紛らわせようとしても、重過ぎる罪悪感によって酔う事は出来ない。
「もっと他の方法があったなら…親友のフリをして近づく工作命令さえ出されていなかったら…」
所詮は任務のために過ごしただけの香港時代。
任務が終われば雲隠れして日本に帰るだけだった。
それでも彼女は未だに思い出の写真を手放す事が出来ない。
仮初の関係であったとしても、レイにとってはこの上ない幸福を感じられた一時だったから。
「謝る言葉は許されない…あたしは地獄に堕ちる。それでいい……それこそがお似合いなのよ」
ヤタガラスの者として生きてきた人生を振り返ってみても空虚なものしか残らない。
彼女は愛国心を燃え上らすためヤタガラスに尽くしてきたわけではないようだ。
「所詮は道具…ヤタガラスに尽くしても何も与えてくれなかった。今では命さえ脅かされている」
ヤタガラスに尽くしてきたのは何のためだったのかと、後悔しか残らない。
だからこそ今の彼女は思い出の世界に逃げ込んでしまう。
レイ・レイホウが本当に欲しかったのは、思い出の世界にしか残っていないから。
「ナオミ…美雨…きっと憎んでるわよね?あたしを見つけだして…ヤタガラスに殺される前に…」
時期に死が訪れる日が来ると感じている彼女は決断するような表情を浮かべながら立ち上がる。
「参京区のホテルに戻らないと…風呂無しホテルだから近くの水徳湯に浸かりに行こうかしら?」
思い出の写真をポケットに仕舞った彼女は店を後にしたようだ。
そんな彼女に視線を向けていた男の姿が喫煙席にいる。
黒い中折ハット帽を目深く被ったフライトジャケット姿の男とはウラベであった。
「…ナオミから聞いた特徴と一致している。まさかアイツの潜伏先に現れるとはなぁ」
立ち上がったウラベがレトロなBARに置いてあった電話ボックスに入り何処かに連絡をとる。
通話を終えた彼が電話ボックスから出てくるのだが、複雑な感情が顔に浮かんでいた。
「…今夜は血の雨が降りそうだ。ようやく追い求めたヤツを見つけられたんだからな」
ウラベも家族を殺された者であり敵討ちのみが唯一の生き甲斐。
ナオミの気持ちの理解者であり協力を惜しまない者である。
それでも彼は時たま考えてしまう。
復讐を果たした者は何を頼りに生きていけばいいのかを見出せない苦しみを抱える者でもあった。
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潜伏先であるビジネスホテルに向けてレイは徒歩で帰路についていく。
周囲を警戒しながら歩いていたのだが、突然の胸騒ぎに襲われるような感覚を味わうのだ。
「張り詰めるような殺気を私に向けてくる者がいる…まさか、ヤタガラス!?」
ヤタガラス内部で不穏な行動を起こしてきた者として追われる事態になるのは想定している。
周囲を歩く人々に危害を加えさせないためにレイは路地裏を通して逃げようとしていく。
しかし彼女の行く手を阻むかのようにして悪魔結界である異界が開いてしまったようだ。
「くっ…!?」
歩いて来る者に視線を向けた時、レイの目は大きく見開いてしまう。
「まさか……そんな……」
目の前から迫ってくる者を見た彼女は昔の記憶がフラッシュバックする。
大人になった者ではあるが、少女時代の頃と変わらない雰囲気を纏う者を忘れる筈がない。
違う部分を上げるとしたら、目の前から迫る者が纏う業火のような憤怒の形相だけだった。
「…老師、貴方の導きがあってここまでこれました。貴方を殺した者をようやく…見つけられた」
街灯の下で立ち止まった者こそ、レイが香港時代に得た親友。
親であり老師であった者をレイ・レイホウに殺された復讐者、ナオミであった。
抑えようのない殺意を向けてくる者に対し、レイは全てを察したかのようにして口を開く。
「…あんたの噂はかねがね聞いていたわ。凄腕の女性サマナーがいるとね…」
「デビルサマナーになるしかなかったのは…全て貴様を殺すため。長かった…ようやく果たせる」
眉間にシワが寄り切ったナオミが封魔管の一つを手に取る。
握られた封魔管に収められた悪魔とは魔王シュウであった。
もはや戦闘は避けられないと判断したレイもまた腰に差してある武器を手で掴む。
握られていたのは蛇鶴八拳の武器術で習ったヌンチャクであった。
睨み合う両雄。
かつては親友として共に生きられた頃の名残など欠片も残らない憎悪が支配する空間。
それでもレイは語りたい言葉があったようだ。
「…今更何を言っても無駄なのは分かってる。私は犯した罪から逃げようなんて思わない」
「殊勝な心掛けですこと。逃がすつもりは欠片も無いけれど…何が言いたいわけ?」
「あたしが香港に赴いた目的よ。あたしはね…ヤタガラス情報部員としてとある品を狙っていた」
「まさか……私を拾ってくれた老師の一族が守り抜いてきた…あの宝玉だったの?」
「
「老師の一族でさえ扱いきれなかった宝玉を奪うために…私の家族を殺したのね!?」
「その通り。そのチャンスを得るために貴女に近づいたのよ…全てはヤタガラスの任務だった」
ヤタガラスの工作員として近づいた目的を全て語られたナオミは激怒する。
親友のように一緒に過ごしてくれた時間は全てが欺瞞であり嘘だった。
友情を感じられた者の本性とは、他人を騙しても何も感じない腐れ外道。
利用するだけ利用した上で家族を殺し、一族の家宝を持ち逃げするためにナオミは利用された。
歯を食いしばったまま睨んでくるかつての親友に向けるレイの表情は懺悔を行う者と似ている。
それでも自分が犯した罪から逃れるつもりはないようにして腰から武器を抜いた。
「あたしはね…言い訳を並べて許しを請うつもりはない。全てあたしが選んだ道…あたしの罪よ」
「よく言ったわ…!!望み通り…この場で貴様を八つ裂きにする!!復讐を果たし終える!!」
覚悟を決めた表情を浮かべたレイが両手で持つヌンチャクを水平にしながら構える。
彼女の背後に浮かび上がる存在こそ、神降ろしの力を行使出来る者が纏う存在。
神道の三貴士の一柱であり、天皇家の皇祖神と呼ばれる日本の主神アマテラスであった。
【アマテラス】
古事記では天照大御神と呼ばれる太陽神にして三貴士(みはしらのうずみこ)とされる神。
イザナギが黄泉から逃げ帰って行った禊で左目から生じ、三貴子の一柱とされる。
高天原の支配を命じられ、他の神々の助けを得ながらこれを果たした。
しかしスサノオの乱暴狼藉に苦しんだアマテラスは恐れを抱えたまま天岩戸に隠れてしまう。
太陽を失った世界は荒み、悪神が跋扈したため神々は知恵を出し合い岩戸から救出した。
女神とされるが男神ともされ、男神の権威を授かった巫女がアマテラスとも解釈されていた。
「神降ろしの技術を用いる貴様だからこそ…私も神降ろしの技術を身に付ける必要があった!!」
レイの背後に出現した太陽の如く輝く神を相手にするナオミもまた悪魔召喚を行う。
ナオミの背後に出現した魔王こそ、金属と武器と戦の神であるシュウであった。
「「我が身に宿れ!!」」
レイの背後で輝く男神が巫女ともいえる女性に乗り移るかのようにして消えていく。
金色の目となった彼女は太陽の如く光り輝き、その姿はアマテラスそのものに見えるだろう。
ナオミの背後で屹立した魔王もまた悪魔召喚士に乗り移るかのようにして消えていく。
真紅の目となった彼女は禍々しい光を放ち、その姿は戦の魔王そのものに見えるだろう。
「「ハァァーーーッッ!!」」
ヌンチャクを振り回す演舞を行ったレイが右脇に武器を挟む形で左腕を前に向けながら構える。
ナオミは生み出した青龍偃月刀で舞うような演舞を行い武器を背に回し込み、左腕を構えた。
「どれほど腕を上げたのか…試してあげるわ」
「あの頃の私と思わないことね…。お前を倒すために…私は地獄を生き抜いてきたのだから!」
互いがアスファルトを踏み砕く程の突進攻撃を行う。
武器を振り上げる者達が行う戦いこそ、加害者と被害者の殺し合いとなるだろう。
罪を犯した者には罰を与えよという太古の時代から続く法(LAW)が正しく執行される。
それこそが、デビルサマナーとして生き続けたナオミが望む願いであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「
ホテル業魔殿から離れたチャイナタウンの飲み屋で飲んでいるのはウラベである。
向かい合うようにして座るのはシックな黒コーデ服に身を包んだ擬態姿のリャナンシーであった。
「ウラベ様…ホテルから出歩いてよろしいのですか?何処に監視の目があるかも分かりません…」
「ホテルに引き籠ったままだとな…今日は気分が晴れそうにねぇ。だから少し付き合えよ」
「それはまぁ…構わないですわ。ウラベ様と一緒にお酒を飲めるのは私の喜びですし♪」
紹興酒のカクテルを飲んでいた2人であるが、ウラベの顔は複雑な表情を浮かべたままだ。
ナオミと同じく復讐者として生きる者であるため、復讐という行為に思うところがあった。
「復讐が正しいなんぞ言う輩はな、自分に災いが降りかかるのが怖いだけの連中の戯言なんだよ」
「それは…そうですわね。傍から見ている者達など所詮は部外者…被害者側ではないのです」
「SNSの犯罪者叩きもそうさ。当事者でもない連中が犯罪者を死刑にしろと騒ぐ…関係ないのに」
「加害者と被害者の問題にしゃしゃり出てきて正しさを決めるのも…所詮は自分のためですわね」
「正しさは周りが勝手に生み出すもの。その中身は我が身可愛さから出てくるものばかりなんだ」
「ストレス発散も含まれているのでしょう…。正義の棒切れを振り回すのが楽しくて仕方ない…」
「正義さえ手に入れられたら悪のサンドバックを叩き放題。だから大勢が被害者側の味方をする」
「正義を気取る連中も所詮は我が身可愛さでしか動かない者達。この街の魔法少女もそうでした」
「自分がやっている事を客観視しない。
「
「昔から続いてきた魔女狩りの中身もそうさ。悪者に味方すれば悪の身内として断罪を叫ばれる」
「何処までも正義の快楽を押し通す事しか出来ない。
「正義を振りかざす連中の中身こそ、卑劣極まったダブルスタンダードそのものだというわけさ」
やり切れない感情を濁すようにして2人は酒を一気に飲み干す。
正義を振りかざす者達の恐ろしさなら悪魔としてリャナンシーも経験している。
愛が欲しかっただけなのに精気を吸い取る化け物扱いされ、正義の味方に追われた過去をもつ。
だからこそウラベが語った話の内容は悪魔として他人事ではないように感じたようだ。
「俺は復讐者だが…自分の復讐が正しいとは思わない。それでもな…これは感情の問題なんだよ」
「ウラベ様……」
「妻子を無残に殺されたまま泣き寝入りしろだなんて俺は認めないし…ナオミだって認めない」
「だからこそ、ウラベ様は復讐相手の情報を彼女に伝えたというわけですね?」
「復讐に生きるのは当事者の自由。復讐が犯罪であろうと関係ねぇ…好きにやらせてやりたい」
「その罪を背負う覚悟があるのなら自由を求めてもいい…。
話し込んでいたため道行く人達の中から視線を向けている者に2人は気が付いていない。
飲み屋のテラス席で会話を続けていたウラベの元に誰かが近寄ってくる。
「今言た言葉は本当カ?」
少女の声に反応して顔を向けるウラベだったが、突然胸倉を掴まれて持ち上げられる。
驚いた表情を向ける相手とはこの街の互助組織に属する美雨であった。
「小娘……5秒だけ時間をやる。今直ぐその汚い手を退けろ」
驚きはしたが怯まない態度を示すウラベの右手は腰元のホルスターに伸ばされている。
デビルサマナーであるウラベは相手が魔法少女だと分かるため容赦しない態度を返してきた。
眉間にシワを寄せた美雨は手を離すつもりはない態度を返す。
殺伐とした空気を心配する視線が集まり出したため、仕方なく美雨は手を離してくれた。
「どうして止めなかたカ…?どうしてナオミ姉さんをレイ姉さんのところに行かせたネ!!」
「お前…ナオミだけでなく、ナオミの家族を奪った仇とも面識があるのか?」
「レイ姉さんは悪い人じゃないヨ!ナオミ姉さんにとては親友だたし…私にとては姉だたネ!!」
「ナオミにとって親友なら、仇を許せと言うのか?ナオミの無念はどうなる?」
「それだて…話し合えば分かり合えると思うヨ!!」
「いい加減にしやがれ!いくら妹のような存在でもな…ナオミの心はテメェのものじゃねぇ!!」
自分の理想ばかりに囚われ周りに理想を押し付けるだけの美雨の顔が俯いてしまう。
昔のように仲良くして欲しいという理想ばかりを見て、現実を直視しない。
それでは辛い現実を生きてきたナオミの心を踏み躙るだけでしかないのだと突き付けられる。
それでも美雨には信じたい信念があった。
「善は悪を許し…正義は悪を許さない。ナオミ姉さんは正義に囚われてる…
「お、お前……」
美雨が語った言葉こそ、先程のウラベ達が語っていた話の内容と共通するもの。
美雨に言われた言葉が心に響いたのか、ウラベは復讐者としての自分に目を向けざるを得ない。
「恨む気持ちが善悪を生むネ…。悔しい感情が物事を観えなくする…私もそれに苦しんだヨ」
「なら…お前は仇を許すと言うのか…?お前だって大切な人が奪われたら…憎いだろ!?」
「憎いヨ…それでも私は怒りの感情を飲み下して…この街の長老を殺したナオキを許したネ」
「許す…だと…?お前だって憎いのに…どうして許す!?憎けりゃ殺す…それが人間だろ!?」
「その結果…ナオキは魔法少女達に報復されて死にかけたヨ。私が怖いのは…その末路ネ」
魔法少女の虐殺者として戦い抜いた尚紀の姿をナオミと共にウラベも見ている。
だからこそ語られた末路に真実味を感じてしまい、復讐が正しいのか分からなくなってくる。
「守れなかった苦しみが切実な情念を生むネ。長年の屈辱が重なれば…許さない人に成り果てる」
「それがかつての尚紀や…今のナオミの姿だと言いたいのか…?」
「私の望みは…ナオミ姉さんの心の聖域を踏み躙る行為ネ。それでも私は…止めに行くヨ」
踵を返して去ろうとするのだがウラベが呼び止めてくる。
後ろを振り向いた時、俯いた顔を上げてくれた彼は頷いてくれた。
「レイとかいう女が向かった場所を教えてやる。行ってこい…お前の可能性を俺に見せてみろ」
レイの向かった場所を聞いた美雨は抱拳礼を返しながら微笑んでくれる。
そんな彼女を見送ってくれたウラベは席に座り込み帽子を深く被り直す。
「ウラベ様……」
美雨に言われた言葉はウラベにも当て嵌まる。
正義に囚われる恐ろしさを客観的に語ったが、それでも復讐心に支配され自分が見えなくなった。
「リャナンシー……俺とナオミの道は正しいのか?あの子に言われて…分からなくなってきたよ」
「正しさとは…周りが決めるものです。貴方の道をお進み下さい…何処までもお供します」
「ありがとう…流石は俺の自慢の仲魔だ。たとえ尚紀と同じ末路になろうとも…俺は行くよ」
人間は右の道を歩くと同時に左の道を歩くことなど不可能だ。
だからこそ人間は決断を行い、片方で得られた恩恵を捨てていく。
たとえ選んだ道の先に待っているのが破滅であろうとも人間は進む者。
人間は迷いに迷った果てに頼ろうとするものがある…それは
直感は理屈を超える。
他人の理屈に圧し負け自分の道を断念した時、後になって自分の判断は正しかったと気が付く。
その時の後悔は最悪なのだとフィレンツェ生まれの詩人であり哲学者のダンテは言葉を残す。
ウラベは未来に待っているリスクを恐れず後悔しない生き方を選んだ。
ならばナオミはどんな選択をするのだろうか?
それを示す戦いこそがレイと再会を果たしたナオミの戦いとなるのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ハィィィーーーッッ!!」
一回転した勢いのまま跳躍回転斬りを仕掛ける。
唐竹割りの角度から迫る偃月刀に踏み込み、ヌンチャクの鎖で偃月刀の柄を受け止める。
すぐさま左右の手に持つ棍の部分でナオミの両側頭部を打ち付け、怯んで下がる相手に構え直す。
回転しながら次々と放つ刃を身を翻しながら避け、踏み込みながらヌンチャクを振り抜く。
脇腹にヌンチャクの棍を受けたナオミが下がるが、揺るぎない闘志を向けながら武器を振り回す。
「シュウの防御力を手に入れているようね…。女の体とは思えない感触だったわ」
「みくびらないで…私の力はシュウに頼り切りだと思うなら大間違いだという事を見せてやる!」
レイは右腕を持ち上げながら左腕で背中に回し込んだヌンチャクの棍を握る構えを行う。
対するナオミは右手で回転させた偃月刀の柄を左肩に乗せ、腰を落とし左腕を水平に構えた。
睨み合う両雄が風となる。
連続する回転斬りを避け、突きの猛攻をヌンチャクで捌く。
豪快な刺突に対しヌンチャクの鎖を用いて柄を拘束する動きを見せる。
ワンインチ距離から放つ肘打ちを肘打ちで返し、偃月刀の柄を掴んだレイが下に向けて押し込む。
柄が大きく回転して体勢を崩されるかと思ったが、ナオミは跳躍しながら側方宙返りを行う。
着地して持ちこたえた相手に向けて右拳を放つが、ナオミも負けじと右拳を放つ。
「「ぐっ!!」」
互いに一歩後退するがその隙を見逃さずレイは右蹴り上げを行う。
偃月刀が大きく蹴り上げられる中を踏み込むが、徒手空拳になったナオミも負けてはいない。
鈍化した世界。
回転しながら舞う偃月刀の下では武術家達が猛攻を繰り返す。
互いの突き、肘打ち、膝蹴り、蹴り足、捌き、掴み動作を制止ながら打ち合い続ける。
偃月刀が落ちてくる中、レイがヌンチャクを放つ右腕を左腕で受け止め、流れるように肘を放つ。
「ぐふっ!?」
左頂肘が胸に決まったレイが咳き込みながら後ろに下がる中、ナオミは掴んだ偃月刀を振り抜く。
ヌンチャクを縦に向け受け止めようとしたが、最初の一撃でヒビが入っていた鎖を断ち切られる。
「くっ!?」
レイが纏うスーツの上着を偃月刀の刃が切り裂く。
後ろに退いた彼女であったが、胸元からはおびただしい血が流れ落ちていたようだ。
「この程度では済まさない…。老師を殺した貴様に相応しい死に方は…八つ裂きにされる事よ!」
揺るぎない憎しみを向けてくる者に向け、レイは懺悔にも似た表情を浮かべてくる。
「そうね…あたしはナオミの家族を殺した女ですもの。どんな殺され方をしても…憎みはしない」
壊されたヌンチャクを捨て、燃え上るような光を全身から放つ。
胸元の傷は回復魔法によって瞬時に癒され、アマテラスを宿した者としての力を発揮する。
「貴女の全てをぶつけてきなさい!あたしも全てをぶつけきる…この命、奪う程の力を示せ!!」
「それでこそよ!!私の憎しみの全てを受け止めなさい…貴様はそれだけの事をした!!」
レイの両手に収束していく光とはメギドの炎。
迎え撃つナオミは封魔管を手に取り、召喚悪魔をシュウから不動明王に切り替える。
互いに放つ一撃は極大の一撃となるだろう。
どちらが死んでもおかしくない程の魔法の力場が発生する中、叫び声が響いてきた。
<<2人ともやめるネ!!>>
懐かしい声が響いてきたレイが視線を横に向ける。
「美雨……?」
現れたのはレイにとっても妹のような存在であった美雨。
互いの魔法の力場に侵入しようとするが、魔法少女姿の彼女でも入り込めない。
「来ちゃダメ!!これは私の戦いよ…たとえ貴女でも邪魔する権利はないわ!!」
倶利伽羅剣を構えるナオミは豪熱の炎を収めるつもりはない。
不動明王の炎の力はナオミの怒りの炎となり、仇を燃やし尽くさんと燃え上り続ける。
アマテラスの光の炎まで燃え上る中を突っ込めば魔法少女といえども燃え尽きてしまう。
それでも声を届けるぐらいならば出来る。
「ナオミ姉さん!もう復讐なんてやめるネ!!レイ姉さんを殺しても…家族は帰てこないヨ!!」
「黙りなさい!!私がレイに求めるのは…愛する人を奪った者として裁きを受ける事だけよ!!」
「ナオミ姉さんだて…ナオキを見た筈ネ!!正義を追い求める者は…報復されて死ぬだけヨ!!」
「正義が成されないでは被害者はどうすればいいのよ!?泣き寝入りでもしろと言いたいの!?」
美雨が語った通り、今のナオミもまた尚紀と同じ姿となっている。
愛する者を魔法少女に殺され、二度とそんな悲劇を生み出さないために魔法少女を殺戮してきた。
気が付けば人間社会主義の名の元に独裁的な正義をばら撒く独裁者に成り果てていた。
世界を善悪で分断し、終わりの無い殺し合いを魔法少女社会にばら撒こうとした。
そんな末路に成り果てた原因こそが、繰り返したくないという切実なる情念。
切実なる情念を生み出す屈辱を長い間味わい続けると正義の人、許さない人に成り果てる。
自分だけの正しさこそが絶対的に正しいと盲従し、どう正しいのかも考えずに凶行を繰り返す。
「ナオミ姉さんの望みは同じ苦しみを他人にも味合わせたくないネ!だから復讐しようとする!」
「そうよ!私はもう誰にも同じ苦しみを経験させたくない…だから禍根となる者共を断つのよ!」
「ナオミ姉さんの復讐に
「それで構わない!!私は私の信じる道を突き進む…復讐という正義こそが!私の道なのよ!!」
「目を覚ますネ!!私達の長老を殺した時のナオキの姿や…報復されたナオキの姿を見た筈ネ!」
それを言われた時、初めてナオミの顔に迷いが浮かんでしまう。
復讐者であり独裁者となった尚紀の姿を見届けた者として彼女の言葉に真実味を感じてしまう。
このまま復讐の道を進めば、尚紀と同じく復讐を終えても殺戮の限りを尽くす末路が残るだろう。
繰り返したくない情念が平和を遠ざけ、次から次に獲物となる悪者を探しては殺していく。
そんな
断罪の刃が下ろされていく。
周囲に燃え上っていた復讐の炎の如き炎熱結界も収まってくれる。
レイもまたアマテラスの力の解放を止め、周囲は不気味な静寂に包まれた。
レイに近寄ろうとした美雨であるが、片手を上げて制止させてくる。
「レイ姉さん……」
やっとの思いで再会出来た大切な人が見せたのは拒絶であった。
「貴女をそこまで追い込んじゃったのは…あたしのせいよね?だからもう…あたしで終わらせて」
「レイ……?」
穏やかな表情を向けてくる彼女を見ていると、ナオミは香港時代を思い出す。
レイと美雨と共に毎日を送れた幸福時代の記憶は未だに忘れる事が出来なかったようだ。
「あたしはね…ヤタガラスの工作員だけど…今ではヤタガラスから追われる者になっているわ」
「…無様な末路ね。私の家族を殺した加害者に相応しい末路だわ」
「否定出来ないわ。ヤタガラスで生きた痕跡を消すつもりだったけど…犯した罪は拭いきれない」
ナオミと美雨に顔を向けた後、覚悟を決める態度を示す。
「あたしはあんたの仇でいい。今度は美雨に邪魔されない場所で…続きを始めましょうか」
「いい覚悟ね…私は貴女を追いかけ続ける。ヤタガラスから逃げ出そうとも私からは逃げないで」
「受け止めるわ…ナオミ。だからお願い…あたしを殺し終えたなら…美雨と共に幸福に生きて」
踵を返したレイが逃げるようにして走り去っていく。
ナオミと美雨と再会出来た事によって幸福時代の記憶が再び蘇る。
あの頃にはもう戻れないのだと突き付けられたレイの心は泣き叫びたい程にまで苦しみ抜く。
涙を流しながら去っていくレイは後悔のどん底に叩き落とされるのだ。
欲しかった愛を与えてくれないヤタガラスに何故ついて行ったのかと、己の愚かさを責め抜いた。
レイを見逃してしまったナオミもまた両膝が崩れ落ちてしまう。
その目からは涙が溢れ出し、今では口に出さなくなってしまった言葉が溢れ出す。
「レイ…どうして…こんなことになったのよ……」
「ナオミ姉さん……」
「私…貴女と殺し合いなんてしたくない…。なのに…どうして貴女は…奪っていったの…?」
2人がどんなに泣き叫ぼうとも、2人の間を形作る関係性とは被害者と加害者である。
善悪に分断された者達は終わりの無い殺し合いの関係性しか生み出せない。
陰陽が互いを潰し合う光景となるだろう。
正義(LAW)と悪(CHAOS)に分断された者達が殺し合う光景こそ、人修羅が生きた世界。
彼もまたナオミと同じく正義と悪の戦いに巻き込まれて親友達と殺し合う末路を辿った者。
この世はゾロアスター教が生み出した善悪二元論によって支配されるしかないのだろうか?
善悪でしかこの世を認識してはいけないのだろうか?
立ち上がったナオミは何も言わずに去っていく。
親友と殺し合う事が辛くても、彼女が求めるのは復讐という名の正義(LAW)である。
それだけが今の彼女に戦う力を授けてくれる柱であろう。
縋りつきたい柱を失った時、ナオミはもう戦う力も湧いてこないかもしれない。
相反する陰陽の道を女性達は突き進む。
加害者は罰を求め、被害者は正義を求める道こそが復讐という名の分断であった。
僕の好きな復讐劇は憎たらしい相手を倒してざまぁな展開よりも、復讐そのものに悩み苦しむキャラの在り様なんですよね。