人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
ヤタガラスから差し向けられる追手を掻い潜り、静香達一行は西へと逃避行を繰り返す。
スマホや財布さえ持ち出せず日本政府からも追われる彼女達は表を歩く事も出来ない。
逃亡犯として彼女達はガムシャラに逃げ続けた果てに辿り着いたのは京都であった。
「京都に辿り着いたみたいね…。ここには父様が暮らしてきた分家の集落があるの」
「静香の亡くなったお父さんが暮らしてた地域なんですか…?」
「うん…。小さい頃、父様に連れられて何度か訪れた事があったから…ここが最後の頼みの綱よ」
「ヤタガラスの網が張られてなければいいんだけど…心配だよぉ…」
「頼むから…何事も起きないでくれよ…。あたしはもう体の痒さが限界なんだよ…」
「大分お風呂に入ってませんもんね…。それにお布団で寝られない生活だから背中も痛いし…」
「我も大荷物を抱えているであります…。何処かで腰を落ち着けなければ重いままであります…」
「夜を待って移動しましょう。父様の集落に訪れたら私が先に行って様子を見てくるわ」
「我々妖精は集落の外を監視しましょう。サマナーか悪魔が近づいてきた時には伝えます」
「任せるわオベロン、ティターニア。それにシルフとコダマもお願いね」
夜を待った一行は周囲に警戒しながら京都の奥地へと向かって行く。
京都市を超えた静香達が辿り着いたのは京都府の奥地にある山間集落。
かやぶき屋根で作られた民家が並ぶ幻想的なかやぶきの里であった。
「ここで待ってて。私が行ってくる」
夜のかやぶきの里に向かった静香を見送る一行。
しばらくすると静香が走りながら戻ってきたようだ。
「みんな大丈夫よ!爺様と婆様が私達を受け入れてくれるから!ヤタガラスの気配もないわ!」
静香からの朗報を聞いた魔法少女達の顔に久しぶりの笑顔が戻ってくる。
静香の祖父と祖母が暮らす家に招き入れられた魔法少女達。
彼女達の姿を見た祖父と祖母は言葉を失う程の驚きを見せる。
離れていても悪臭が届くほど体は汚れ、安眠出来ないせいで目元に酷いクマまで浮かんでいる。
可愛い孫と友達がホームレス姿をして夜中に現れたなら血の通う人間ならば捨て置ける筈がない。
「静香…それに静香についてきてくれた友達も…なんというみすぼらしい姿にされてしまって…」
「辛かったでしょう…直ぐにお風呂を沸かすから!着替えと寝床も用意するから安心しなさい!」
辛い逃避行を繰り返してきたが、ようやく一息つける安息の場を提供してもらえる。
体の汚れを落とし悪臭塗れの服や下着を変え温かい食事にありつけた彼女達は大泣きしてしまう。
生きている喜びをようやく実感しながら彼女達は久しぶりの温かい布団で眠りにつけたようだ。
静香とちはるとすなおは同じ部屋で眠りについているが、真ん中で眠る静香は悪夢にうなされる。
「あぁ……あぁぁぁぁ……」
燃え盛る霧峰村の記憶。
村人や巫達を虐殺していく米軍の記憶。
母親を殺した堕天使悪魔の記憶。
何も出来なかった無力な自分の記憶。
それらが混ざり合い故郷が崩壊していく悪夢を生み出す。
「わ、たしが…私のせいで…みんなが…集落が…私が…弱かったせいで……」
みんな死んでしまった悪夢に耐え切れず静香は夜中に飛び起きてしまう。
「また…同じ悪夢を見るのね…」
心臓がバクバク動く胸に片手を置く彼女の心に悔しい気持ちが噴き上がり続ける。
霧峰村から去り逃避行を繰り返す道中でも繰り返し見てしまう悪夢に彼女は苦しめられてきた。
無力な自分への怒りによって歯を食いしばっていく。
布団から起き上がった彼女は用意してもらえた和風パジャマのまま外へと出て行ったようだ。
家の庭にまで来た彼女は魔法少女姿に変身して母親の形見である刀を振り続ける。
「私に弱さは許されない…!もう誰も失いたくない…私は…もっと強くならないと!!」
彼女の心に暗い影を生んだ感情とは時女の当主としての責任だけではない。
霧峰村で生まれ育った者としての復讐心なのだ。
怒りの感情を爆発させるようにして自分に磨きをかけようと足掻く静香。
そんな彼女を心配そうに見守っていたのは霧峰村崩壊の原因を生み出した広江ちはるであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
朝になり安眠出来た静香達一行は朝食を食べ終え一息つく。
天気が晴れていたため、ちかと旭は汚れてしまった自分達の服や下着を洗濯していく。
静香達は霧峰村に起きてしまった出来事を祖父と祖母に語っているようだ。
「ヤタガラス共め!!長年仕えてきた時女一族をゴミのように捨てるとは……許せん!!」
囲炉裏が置かれた居間で事情を説明された祖父は憤怒によって顔を酷く歪めている。
祖母は娘や村人達を守ろうとして死んだ息子の妻の最後に悲しみ涙を流してしまう。
「霧峰村を滅ぼした時点で我らはヤタガラスに反旗を翻す!!他の分家筋にはワシが説明する!」
「爺様…婆様…ごめんなさい…!時女本家の者なのに…私は誰も守れなかった…!!」
「いいえ、静香は守ったわ!!貴女に最後までついていく覚悟を示す巫達を守り抜いたのよ!!」
「静香…お前だけでも生き残ってくれたのが救いじゃ。時女はまだ滅んでおらん…滅ぼさせん!」
時女一族の分家として、本家を支える覚悟を祖父と祖母は示してくれる。
小さい頃に亡くしてしまった父親の両親達の優しさに触れた静香の目には涙が溢れたようだ。
「実は…霧峰村を滅ぼしたのはヤタガラスだけではないようなんです…」
泣いている静香に代わりすなおは米軍と自衛隊が動いた事について何か知らないかと聞いてくる。
それを聞かされた静香の祖父は重い表情となり、啓明結社と国家内国家について語ってくれた。
「イルミナティとディープステート?それらが私達の里を焼いた連中と関係しているのですか?」
「陰謀論だと馬鹿にするつもりはないようじゃな?ワシも周囲には語ってこれなかったのじゃ…」
静香の祖父はヤタガラスが戦後生き残れた事に疑問を感じてきた。
彼なりに色々調べた結果、GHQの背後にいたユダヤ財閥の存在に気が付いたようであった。
「日の本を守る一族として愕然とさせられた…。日の本は主権国家ではなかったのじゃよ…」
「この国は米国のロックフェラーと英国とフランスのロスチャイルドに支配されてただなんて…」
「そいつらが悪者の親玉なんだね!ヤタガラスはそいつらの仲間だったなんて…許せないよ!!」
怒りに震える魔法少女達ではあったが、それでも祖父は重い表情を変えてはくれない。
これから先、ヤタガラスに反旗を翻すならばイルミナティとも戦争状態になってしまう。
そうなった時、時女一族は今度こそ完膚なきまでに滅ぼされることになると分かっていたからだ。
「静香…ワシらは時女本家についていく。お前が死ねというならば…我らは喜んで命を散らそう」
「…息子と息子の妻となってくれた人達がいない世界に未練は無い。何処までもついていくわ」
「爺様ぁぁぁ……婆様ぁぁぁ……」
重い選択をしなければならなくなった静香を落ち着かせるため、彼女達は居間を離れたようだ。
洗濯物が干された庭を見渡せる縁側に座り込んだ静香達が旭やちかにも事情を説明してくれる。
皆が暗い顔をしたまま俯き、無言となってしまう。
敵の力は桁外れであり、日の本の魔法少女達を結集させて戦おうとも勝てる気がしない。
これからどうすればいいのか分からなくなってしまっていた時、怒りに震える涼子が語り出す。
「……静香の爺さんが語ってくれた話の内容で合点がいったよ」
「涼子さん……?」
「あたしの母さんはこの国の地下組織と戦って死んだ。それがディープステートだったんだよ…」
「国家内国家…日の本の政府を演じながらも中身はユダヤ財閥に飼われた売国者共ですね…」
「日の本には不審死が蔓延っている…あたしの母さんはそれを調査してた時に…殉職したんだ…」
「じゃあ…涼子ちゃんのお母さんを殺したのは…イルミナティの手下共だったんだね…?」
「母さんは日の本に戦争を起こそうとする連中と戦ってたなんて疑ってたけど……納得出来たよ」
「霧峰村を焼いたのは米軍であります…。米軍を動かせる程の存在ならば戦争だって…可能です」
「神子柴の裏にもユダヤ財閥がいるって言ってたよね…。全部繋がってたんだよ…」
「憎い…!!あたしの母さんを殺し…あたしが好きになれた霧峰村を燃やした連中が…憎い!!」
怒りと憎悪に燃え上る感情が母親と故郷を滅ぼされた静香と同じになっていく。
それでも涼子は修行僧であり、仏教の教えである因果の道理に縛られる者。
何よりも怒りに燃え上る静香を仏教の教えで導いてやってくれと静香の母にも頼まれている。
そんな自分が静香と同じ復讐鬼になってしまっては釈迦にも静香の母にも顔向けできない。
涼子は精神の袋小路に陥り、どうしていいかも分からず悔し涙だけが浮かんでしまう。
「悔しい……悔しいよぉ……静香……」
隣に座る静香に抱きつき、母親を殺された者同士で苦しみを分かち合う姿を見せる。
静香や涼子と同じく家族を殺されたちはるやすなおとて気持ちは同じだろう。
これからの身の振り方すら分からない彼女達は未だに絶望を抱え込んだまま生きるしかない。
それが追われる者達の人生であったのだから。
――――――――――――――――――――――――――――――――
夜となり山間集落は静まり返っている。
集落の空では妖精達が巡回を続けているようだが、そんな悪魔達に視線を向ける者達がいる。
集落を見下ろせる山の木の枝には修験道の三伏姿をした男達が立っていたようだ。
「情報通りだな。ヤタガラスとイルミナティを敵に回した魔法少女共はこの村に潜んでいる」
「他にも魔力を感じるな…この村にいる分家の魔法少女共か?」
「数は少ないし脅威にもならん。問題なのは…あいつらだろうな」
「妖精王のオベロンとティターニア…それに小さい妖精も二体いるようだ」
「鞍馬天狗様に報告を行おう。必要とあらば、この村も霧峰村と同じく焼き払う必要がある」
「我ら鞍馬集の縄張りに飛び込んできた事を後悔させてやろうじゃないか」
そう言い残して三伏姿の男達は忍者の如く木々の上を跳躍しながら消え去ってしまう。
不穏な気配が漂う中、夜が明けた村では静香達の元に集落の魔法少女達が訪れていたようだ。
本家の巫達がどうしてこの集落に逃げ込んできたのかを聞かされた少女達は動揺を隠せない。
「そんな……神子柴様の裏にいたというユダヤ財閥が本家の村を焼き払うだなんて…許せない!」
「テレビでやってた山火事ニュースは嘘だったのよ!この国の政府やメディアまで国賊だった!」
「静香さん…時女の巫集はどうしたらいいんですか?この国を相手に戦うべきなんですか…?」
「私達は日の本の民を守るという時女の矜持を貫く者達ですが…あまりにも…その……」
不安に怯える分家の巫達に視線を向ける静香の表情も重い。
時女の矜持を貫くならば日の本の政府や在日米軍が相手であろうと矜持を貫くべきだろう。
しかし理想と現実はあまりにもかけ離れている。
戦力不足な分家の巫達をかき集めたところで、逆にテロリストとして滅ぼされるのみなのだ。
霧峰村の惨劇で散った巫達の姿が目に焼き付いている静香は時女の矜持を語ることも出来ない。
(私は…どうすればいいの?時女の矜持を体現しないといけないのに…この子達を守れない…)
「静香さん!私達だって戦えますよ!みんな一度は霧峰村に赴いて戦闘訓練を受けてます!」
「裏切り者の神子柴から教わった技術ですが技術は使いようです。私達だって戦力になります!」
「貴女達の力を疑っているわけじゃないの…だけど、今はその気持ちだけを心に留めておいて」
「静香さん……」
「頼りない当主でごめんなさい…。私は霧峰村を守れなかった…貴女達まで失いたくないの…」
今日のところは巫達を家に帰す静香であったが、悔しい感情で表情は歪んでいる。
縁側に座っていたちはる達が彼女に近寄り静香を元気づけてくれるようだ。
「新たな当主として焦る気持ちもあるだろうけど…背負い込み過ぎてはダメよ、静香」
「そうだよぉ…今の静香ちゃんは…いつ責任に圧し潰されてもおかしくない状態だと思うよ…」
「悔しいわ…すなお、ちゃる…。当主として誰よりも時女の矜持を伝えないといけないのに…」
「理想と現実はかけ離れているものです…。現実を見ないでは…みんなが滅んでしまう…」
「これが静香ちゃんのお母さんも背負ってきた苦しみなんだね…。人の上に立つって凄く辛い…」
「母様の苦しみが私にも分かる…。神子柴に逆らいたいのに…村を守れない苦しみがあった…」
これからの時女一族をどうすればいいのかも分からず、静香の精神はがんじがらめとなっていく。
そんな時、空を飛行していたティターニアが戻ってきたようだ。
「静香、不審な人物達が山にいるのを昨日の夜に見かけたわ」
「なんですって!?きっとヤタガラスからの刺客なのよ…この村にまで迫ってくるなんて!」
「どうするの?この村で迎え撃つとしても…村人達にも被害が出るのは避けられないわよ」
切迫した状況ではあるが、静香は迷いを浮かべてしまう。
怒りと憎しみの感情が噴き上がる気持ちと、霧峰村の惨劇が繰り返される恐怖心に板挟みされる。
迷い続けたようだが決断した静香がこう告げる。
「…この村の人達の迷惑になるわ。荷物をまとめ次第…この村から出ましょう」
「それでいいの…?やっとホームレス地獄から抜け出せる喜びを味わえたのに…?」
「保護してくれた時は嬉しかったわ…。だけど、そのせいでこの村が焼かれるかもしれない…」
「やれやれ…せっかく足場を固められる場所を得たかと思ったのですがね。仕方ありません」
オベロン達もやってきた事もあり、みんなを呼んで状況を伝えていく。
悔しい表情を浮かべながらも、涼子とちかと旭も村を去ることに同意してくれたようだ。
事情を説明された祖父と祖母は本家を支える分家一族として戦う覚悟を示してくれる。
しかし今の現状戦力では、日本のディープステートどころかイルミナティ勢力とだって戦えない。
「爺様と婆様の気持ちは嬉しい…でも今は堪えて。戦力を整えるまで…何も知らないフリをして」
「静香…お前はそれでいいのか?これから先も追われ続けるぞ…絶望しか残らんのじゃ!!」
「そうよ!静香のためなら私は死ねる!息子の妻が死んだ以上…貴女は私の子供なのよ!!」
「そうじゃ!ワシらは静香の保護者になりたい…静香の人生を支えたいのじゃ!!」
新しい保護者として静香の人生を支えてくれる者達の優しさが嬉し過ぎて泣いてしまう。
だからこそ、新しい両親の命を守るために離れなければならないのだ。
「いつか…グスッ…いつか帰ってきます…。ヒック…うぅ…爺様…婆様……愛してるわ…っ!」
抱き締め合って涙を流す光景を見守る魔法少女達も貰い泣きしてしまう。
気持ちが高ぶってしまったが彼女達は急いで移動の準備を始めていくのだ。
そんな時、静香達は迫りくる悪魔達の魔力に感づいたようだ。
「大変よ!東の山から大勢の悪魔達が迫ってきているわ!!」
家に飛び込んできたシルフの報告を聞いた静香達が急いで身支度を終えようとしていく。
逃避行に必要な品はリュックに詰めて手渡してくれた静香の祖父母達に感謝しながら走り逃げる。
「この村に被害を出すわけにはいかないんでしょ?私とオベロンが連中を片付けるわ」
「貴女達は出来る限りこの村から離れて下さい。後から追いつきましょう」
「オベロン…ティターニア…あなた達の武運を祈るわ!」
「心配は無用です。霧峰村の森で暮らしてきた頃と違って、今はMAGに困っていません」
「貴女達がMAGを提供してくれる仮のサマナーになってくれたお陰で、本来の力を発揮出来るわ」
オベロン達には北の日本海側に向けて逃げると伝えた静香達は山の中を駆け抜けていく。
しかし、そんな彼女達を追ってくる者達の魔力反応に気が付いたようだ。
「ハハハ!上手く分断出来たな!」
「厄介だったのは妖精王共だけだ!残りは大したこともないだろう!」
「魔法少女共のソウルジェムは早い者勝ちだ!あぁ…早く喰いたいぜぇ!!」
忍者の如く木々を跳躍しながら迫ってくるのは山岳信仰を生業とする三伏姿の男達。
登山家としても知られる宗教信者達であっても、彼らは人間の身体能力を遥かに超えている。
ならば追手の正体も見当がつくだろう。
「ヤタガラスから逃げられると思っているのか!」
「こいつらは何なの!?」
静香達に追いついた男達が木の上から飛び降りてくる。
手には僧兵が用いる薙刀や金砕棒等を持ち、獲物を殺さんと振りかざしてきた。
「あの里が時女ゆかりの地だったとはなぁ…危うく国の重要伝統的建造物群を焼くところだった」
「我らの襲撃から里を守るために逃げ出したのは我らにとって好都合。ここなら邪魔も入らん」
「お前達はヤタガラスからの刺客ね!正体を表しなさい!!」
ソウルジェムをかざして静香達は魔法少女姿に変身する。
魔法武器を構える少女達に向けて不敵な笑みを浮かべた男達もまた変身を行うのだ。
「いいだろう…我らの悪魔変身を見るがいい!!」
三伏姿の男達の周囲に風が巻き起こり、風が収まった現場には日本で語られし妖怪の姿があった。
【コッパテング】
カラステングの一種であり、下位の天狗である山鬼。
民間伝承では怪奇現象としても語られ神隠しである天狗さらいは天狗の仕業だと言われていた。
また雨や風を操る力もあり、天狗つぶてや天狗倒しとも言われているようだ。
しかしコッパテングは神通力をもたない天狗であるため、カラステング程の力はなかったようだ。
「人間が……悪魔に変身したですって!?」
「この人達もナオミさんのようなサマナーなんだよね…?どうして召喚じゃなくて変身なの!?」
驚愕した表情を浮かべる静香達の前でカラス羽を羽ばたかせる者達こそが日本でも有名な妖怪達。
天狗衣装から見える肌はカラスの如く黒ずんでおり小柄ながらも一筋縄ではいかない悪魔である。
「悪魔召喚の種類にはなぁ…自分の体を依り代にして悪魔を使役する方法もあるんだよぉ」
「オレ様達が用いる悪魔召喚方法とは、神降ろしのような一時的な融合じゃねぇ」
「肉体そのものを悪魔と融合させる召喚方法こそが、我ら鞍馬集が行う悪魔召喚なのだ!」
「鞍馬集ですって…?貴方達もヤタガラスに飼われた暗殺集団なのね!?」
「その通り!鞍馬天狗様達が出るまでもねぇ!魔法少女如き…オレ様達で葬ってくれる!!」
「ちょっとちょっとぉ!?魔法少女だけじゃないでしょ!可愛い妖精悪魔だっているわよ!」
「なんだぁ……?」
視線を向ければ、旭の肩の上でプンスコしている妖精達がいたようである。
「ああ、妖精王以外にも妖精がいたっけか?豆粒みたいに小さいから気が付かなかったぞ」
豆粒と言われたシルフとコダマの顔が真っ赤になり激おこぷんぷん丸と化す。
「誰が豆粒ですって!?可愛い妖精に向かって失礼なヤツね!!」
「そうだよぉ!オマエらだって悪魔にしては少女のように小柄な体系のくせに!」
「テメェ!?気にしていることをズケズケと言いやがって!容赦しねーぞ!!」
「シルフ殿、コダマ殿…子供のような喧嘩で済まされる相手ではないであります」
「分かってるわよ!悪魔同士の殺し合いなら…殺される覚悟でかかってきなさい!!」
「ぬかせぇ!!悪魔も魔法少女共もまとめて相手してやるぜぇ!!」
武器を構えた者達が一斉に戦いを始めていく。
追われ続ける人生となった静香の中には抑えきれない衝動が駆け巡る。
大切な人達を奪われた上で屈辱に苛まれる人生を生きれば許さない者に成り果てる。
屈辱に苛まれて正義の人になれば周りに強要しかしない、周りの者達を勝手に裁いていく。
魔法少女の虐殺者として生きた時代の人修羅と同じ心理状態に陥っていたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
円陣を組んで死角を補う相手に向かってコッパテング達が仕掛けていく。
「風使いの天狗の力を見せてやるぜぇ!!」
飛翔しながらカラス羽を羽ばたかせ、コッパテング達の連携した強風攻撃が静香達を襲う。
<<キャァァーーーーッッ!!?>>
『羽ばたき』の魔法攻撃によって陣形を崩され吹き飛んだ魔法少女達に目掛けて敵が飛来。
「陣形は崩れた!後は各個撃破だな!!」
「ソウルジェムは早い者勝ちだって言ったからな!オレ様に奪われても文句言うなよ!」
「テメェ!?六個のソウルジェムを全部独り占めにしようだなんてさせねーぞ!!」
補助魔法のスクカジャを用いて命中率・回避率を上げたコッパテング達が仕掛けてくる。
迎え撃つのは風魔法に耐性を持ち、羽ばたき攻撃をしのいだシルフとコダマだ。
「コダマ!いくら旭でも二体の悪魔使役には耐えられないわ!交代で戦いましょう!」
「う、うん!シルフの魔法とボクの魔法は被ってるからお願いね!」
後ろに下がったコダマの代わりにシルフが両手を前に向けながら風を収束させていく。
「喰らいなさい!!」
シルフが放ったのは風魔法のマハザンだが、相手は同じ風使いの天狗である。
風魔法を無効化したコッパテングが薙刀を振り上げてシルフを両断する構えを行う。
「天狗を相手に風魔法とはバカなヤツめ!!先ずは豆粒悪魔から仕留めてやる!!」
振り上げた刃に切り裂かれるかと思った時、静香が割って入る。
彼女が持つ新しい武器とは母の形見となった練気刀であった。
「これ以上はやらせないわ!!お前達ヤタガラスを絶対に許さない…皆殺しにしてやる!!」
静香の怒りに呼応するかのようにして刀身が燃え上る。
デビルサマナーとして生きた静香の母の刀は魔法少女の魔力行使にも耐える程の強度をしていた。
「ハァァーーーッッ!!」
コッパテングの力を押し切りそのまま袈裟斬りを放つ。
「アガァァァァーーーーッッ!!!」
斬ると同時に焼く攻撃を受けた悪魔が燃え盛りMAGの光となって滅ぶ。
鬼神のような顔つきを浮かべる静香は怒りに飲まれたまま戦い続けていくのだ。
怒りと憎しみに支配されたような顔つきを浮かべるのは静香だけではない。
「母さんの仇ーーーーッッ!!!」
警策を模した魔法武器が燃え上り、涼子の怒りを乗せた一撃がコッパテングを打ち砕く。
鬼のような表情を浮かべる涼子は静香と同じく怒りに飲まれた戦いを繰り返していく。
「お父さんとお母さんの仇共は全員殺しましょう!!」
憎しみに支配されたすなおもまた怒りに飲まれたまま戦う姿を見せる。
そんな彼女達の姿を不安そうに見つめるのは、同じく家族を殺された広江ちはる。
彼女は復讐心を燃え上らせることはなく、家族を殺された者の中では唯一冷静であったようだ。
「ダメだよみんな!!復讐心に支配された戦いなんてしちゃダメ!!」
必死に叫ぶちはるであったが、彼女の声さえ聞こえない程にまで激情を撒き散らす魔法少女達。
そんな彼女達の姿がちはるの先輩であった嘉嶋尚紀の姿と重なってくる。
守れなかった屈辱に苛まれた者は許さない者に成り果てる光景ならちはるも見届けた者。
だからこそ叫ばなければならない。
虐殺者として生きた頃の人修羅と同じ存在にしないためにも静香達を止めるのだ。
必死になって叫ぶちはるの声に最初に気が付いたのは涼子である。
「止めるなちはる!!憎い敵を殺すのに何を躊躇う必要があるってんだよ!!」
「憎ければ殺すになったら…尚紀先輩と同じになっちゃう!涼子ちゃんは修行僧なんでしょ!?」
「そ…それは……」
「仏教の教えが涼子ちゃんの道標だった!このままだと…涼子ちゃんは
破戒僧とは宗教の戒律を破った聖職者のことである。
寺を継ぐために仏教系の大学を目指したいと願った者が激情のまま破戒僧に成り果てるのだ。
「あたしは…尚紀と同じになってたのか…?復讐したい気持ちが…正義の人にしてしまう…?」
仏教徒である涼子を縛ってきた戒めである
日本人は復讐を好む民族であり、だからこそハムラビ法典を愛する気持ちに流される。
しかし正義による報復の連鎖によって、宗教戦争と変わらない善悪の戦争が生み出されてしまう。
「仏教の根幹は因果の道理…だからこそ…悪い行いをすれば…必ず報いがやってくる…」
涼子の脳裏に浮かぶのは、神浜の魔法少女達に報復されて殺されかけた人修羅の姿。
人間を守り抜くために戦い抜いた者でさえ、待っていたのは因果の道理である報いの末路。
正義の人、許さない人達の中にあるのは守り抜くという建前を用意した
だからこそ人修羅は躊躇いなく虐殺者となり、虐殺の正当化を行い続けて報いを受けたのだ。
「あたしは許せない感情に飲まれて…自分を見失ってたのか?尚紀と同じように…?」
客観性の無い主観性は成り立たない。
それこそが南津涼子が神浜市で得た人生の宝物ともいえるだろう自分を見つめる戒めであった。
「ちゃる…だったらどうすればいいの!?私達を今でも殺そうと迫りくる敵がいるというのに!」
ちはると涼子のやり取りが聞こえていたすなおが叫ぶ。
人間を過ちから救う仏教の教えであろうが、それは理想に過ぎない。
理想と現実はあまりにもかけ離れているもの。
許す心を説いたところで、目の前から迫りくる敵が改心してくれることなど絶対にないのだ。
「身を守る権利までは否定しないよ!それは人間が生まれた頃から持っている…抵抗権利だよ!」
「ならば何処までも戦うべきよ!敵がいるから脅かされる…なら敵を全て殲滅するしかないわ!」
「それは恐怖心による凶行の正当化だよ!!専守防衛だって…やり過ぎたら戦争と変わらない!」
「身を守るだけの戦いしか許されないの!?だったら私達は…座して死を待つだけよ!!」
専守防衛には限界がある、敵の脅威を取り除くことが出来ないことだ。
人修羅もこれを危惧した末に、人間脅威となる魔法少女を全て管理した上で逆らう者を虐殺した。
人間に危害を与える現場だけを取り押さえたところで、待っていたのは何の罪もない少女の死。
だからこそ独裁者となった人修羅は望んだのだ。
人間は座して死を待たず、平和の脅威を取り除く為の攻勢防御と呼ばれる専守防衛戦争を行った。
正義の人、許さない人に成り果てた人修羅は間違っていたのだろうか?
「ハハ!仲間割れとは見苦しいねぇ…そんなに禅問答をやりたいならオレ様の腹の中でしな!!」
ちはるに目掛けて金砕棒を振り上げてくるコッパテングに向けて飛来物が飛んでくる。
「ぐはっ!?」
クナイが腕に突き刺さって怯んだ相手に目掛けて跳躍斬りを仕掛けてきたのは静香である。
一気に首を跳ね落として着地した彼女の顔には返り血がべっとりついていたようだ。
「…ちゃるがどう思おうとも、私は戦う。私はもう…一族の皆を誰も死なせたくない!!」
今の静香の気持ちこそ、人間の守護者として虐殺者に成り果てた頃の人修羅の感情。
彼女の心にあるのは守りたいという気持ちよりも奪う者達に向けた絶対的な憤怒の憎悪が強い。
正義の権化と化してでも敵を虐殺し続ける者となっていくだろう。
「うあぁぁぁーーーーッッ!!!」
敵を切り裂き、焼き尽くし、業火を背に刀を振るい続ける者の名は
鬼神の如く戦い続ける静香の姿を目にした者達の表情が変わり、恐怖を浮かべていく。
「し…静香さん……」
「まるで……悪鬼のような表情であります……」
生真面目で優しい人間ほど狂っていくものだ。
自分が正義と信じたら命をかけて行うし、他人にも曖昧さを許さない。
自分の思想に忠実、よってどんどん過激化する。
正しいことをしていると信じ込む。
それこそが歴史に名を残す独裁者であり、正義という名の狂った虐殺者の在り方なのだから。
「ヒィィィーーッッ!!こ、こんなに強い娘だなんて…聞いてねーぞぉぉぉーッッ!!!」
最後の一体となったコッパテングが腰を抜かす中、虐殺者が近寄ってくる。
刀の刃には敵の血が滴り落ち、さらに血を吸わせようとするその姿は悪鬼そのものだろう。
憤怒によって顔が歪んだ静香が刀を振り上げる。
「虐殺者となった嘉嶋さんの心がようやく分かった…。憤怒こそが…あの人の戦う力だった!!」
静香の姿が魔法少女の虐殺者として生きた頃の人修羅の姿と重なってしまう。
かつての彼が振るい続けたようにして慈悲無き刃が振り下ろされそうになった時だった。
「もうやめてくれぇ!!!」
割って入るようにして静香に抱きつき凶行を止めたのは涼子である。
その姿は人修羅を止めようとしたタルトの姿と重なって見えてくるかもしれない。
「邪魔しないで!!貴女だって繰り返したくない筈よ…敵を殺さなければ大切な人が死ぬのよ!」
暴れる静香の体を抑え込み、涼子は静香の母から託された願いを果たすために語り出す。
「怨みに怨みをもってせばついにもって休息を得べからず…忍を行ずれば怨みをやむことを得ん」
涼子が語った言葉とは
報復は報復によって終わらず忍耐によって報復は終わる、これが真実であるという意味だ。
「この世は因果に縛られている…静香がこいつらを殺さなくても
「涼子……」
「あたし達は身を守る以上の暴力を行使する必要はない…。それ以上を望むのは…欲望なんだよ」
「私の……欲望……?」
「屈辱を晴らしたいという欲望こそが…かつての尚紀の心であり…今の静香の心なんだよ…」
「私も…かつての嘉嶋さんと同じになるの…?」
「このまま凶剣を振るい続ければそうなる…。その末路は…静香だって忘れられないだろ…?」
涼子の言葉が心に響いたのか、静香は刀を下ろしていく。
「もう凶剣を振るうんじゃない…これは静香の母さんの形見なんだろ?母さんが可哀相だ…」
「わ……私……わたしぃぃぃ……っ!!!」
溢れ出る涙が抑えられなくなり、静香は涼子に抱きついたまま泣いていく。
そんな静香の心に寄り添うようにして抱き締めてくれる涼子の姿はまるで菩薩のようであった。
「ハハ…ハハハ…何だか知らねーが…とんだ腰抜け女共だぜ……」
腰が抜けたまま逃げ出そうとした時、空から飛来してくる何かがコッパテングを貫く。
「がふっ!!?こ…この武器は…まさか…ッッ!!!」
鋼の六角棒に上半身を貫かれたまま夜空に顔を向ける。
月に照らされた者達が翼を羽ばたかせながら下りてくる姿を見て、悲鳴の如き叫びを上げるのだ。
「も……申し訳ありません……鞍馬天狗様ーーーッッ!!!」
中央を羽ばたく天狗の両側で羽ばたく者達も次々と武器を地上に投げつける。
錫杖の形をした武器に貫かれていったコッパテングの体が弾けMAGの光をばら撒く最後となった。
「見事なものだな、赤い小娘。報復の感情を乗り越えるとは…まるで浄土宗開祖の法然のようだ」
着地した天狗達が手を向ければ、神通力によって浮き上がった武器が戻ってくる。
手に武器を携えた天狗達が鋭い眼差しを静香達に向けてくるのだ。
「鞍馬天狗…?お前が鞍馬集を構成する天狗悪魔共の長なのね…?」
「如何にも。我が名は鞍馬天狗…鞍馬山の僧正坊であり毘沙門天の夜の化身である」
静香達の前に現れた悪魔こそ、葛葉ライドウが使役するヨシツネの師匠でもある大天狗。
日本八大天狗にも数えられる恐ろしい天狗であり、日本の妖怪の中でもトップクラスの力をもつ。
逃亡犯達はついに恐ろしい狩人達に追いつかれ、命を脅かされることとなるのであった。
仏教の因果の道理こそ、まどマギの根底にあるテーマの一つですよねぇ。
選択した人間はその選択という原因によって滅びの結果がついてくる物語の流れが原作まどマギで御座いました。