人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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217話 監視国家

観鳥令はジャーナリストの卵であり、政治や社会問題を取り扱う観鳥報の記事を生み出す者。

 

だからこそ神浜テロという人災を嘆き、なぜ大規模テロを起こせたのかの原因を追究してきた。

 

「西の魔法少女達はテロを起こした魔法少女達の裏に悪魔がいると考えたけど…どうなんだろ?」

 

悪魔である人修羅を悪者にするために考えたものではあるが、あながち間違いでもない。

 

令はあのテロの時に固有魔法の確実撮影を用いて様々な事件現場の撮影を行っている。

 

その中には魔法少女の敵である魔獣とは違う、悪魔らしき存在が写っていたのだ。

 

「今となっては悪魔が実在していると分かったことだし…あの事件の裏にも悪魔がいたのかも…」

 

令は撮影した写真の中で写せた悪魔らしき存在の情報を魔法少女達に聞いてきた。

 

夜空を飛び去る無数の蝙蝠の写真の正体は、ももこ達が戦ったクドラクだと分かったようだ。

 

ならば吸血鬼悪魔を使役するサマナーがいたと考えるのが自然だろう。

 

しかしクドラク以外の情報は何も得られなかったため、捜査は行き詰っていた。

 

「こうなったら背に腹は代えられない。ネットを使って情報提供を呼び掛けてみるか」

 

令はSNSを用いた情報提供を呼び掛けるために撮影した写真データを投稿する。

 

しかし、この軽はずみな行動が思いもよらぬ最悪の事態へと発展していくことになるのだ。

 

東北にある航空自衛隊基地に場所は移る。

 

基地施設内には白くて大きいゴルフボール型の巨大レーダー施設が並んでいるようだ。

 

周囲には監視カメラが幾重も張り巡らされ、何の施設なのかを示す標識さえない。

 

このようなレーダー施設は海外の諜報機関施設にも存在していた。

 

「おい、このネット投稿の写真画像は…不味いぞ……」

 

「直ぐ上に連絡したほうがいいな…」

 

この白くて巨大な球体状の機械こそ、世界を監視する大規模通信監視システムと呼ばれている。

 

これは()()()()()と呼ばれており、元々はソ連や同盟国の通信傍受の目的で開発されたシステム。

 

現在では世界中を監視する目的で使われており、ファイブ・アイズ加盟国により運営されていた。

 

米国政府とNSA(国家安全保障局)は長い間エシュロンの存在については否定してきている。

 

しかしその存在を内部告発した者こそ、元NSA請負業者のエドワード・スノーデンであった。

 

その後、令がネット投稿した写真画像はすぐさま削除されることになる。

 

「なんで投稿が消されるんだよ!?情報提供を呼び掛けただけなのに!!」

 

続けて投稿しても削除され、利用していたサイトからアク禁まで受ける始末。

 

それでも彼女は諦めず、違うサイトで写真画像投稿を行わず文章だけで目撃情報を聞いていく。

 

そんな彼女に向けて返ってきた返信とは、揶揄と嘲笑に塗れた酷い内容であった。

 

「神浜テロに悪魔が関わってるとかバカじゃねーの?中二病患者は精神病院に入院してろよ」

 

「こいつも陰謀論者じゃねーの?デマ情報なんぞに踊らされて捜査ごっことか呆れるよなー」

 

「陰謀論をネットに撒き散らすカルト共はさっさと刑務所に行けよ。こいつらこそ反日共だぜ」

 

心無い返信で溢れかえっている光景を見た令は憤慨して反論となる長文投稿を続けていく。

 

帰ってくる返信は全て一文煽りであり、質問趣旨を無視して彼女の人格攻撃をする内容ばかり。

 

「くそっ…ネット弁慶共め!!面と向かってバカにする根性すらない連中のくせに!!」

 

彼女を追跡するかの如く次々と投稿内容を荒し続ける者達こそが、ネット世論工作部隊。

 

日本だけでなく、世界中にネット世論工作部隊が存在していると言われている。

 

有名なネット世論工作部隊で挙げられるのは()()()()()()()()であろう。

 

トロールファーム(情報工作組織)によるSNS扇動が欧米では起きてきた。

 

外国勢力介入が疑われる2016年の米大統領選の後でさえSNS企業は対策を打ち出せなかった。

 

日本でも情報戦は重視されており、野党政権に転落してから返り咲いた与党政党は導入していた。

 

「ダメだ…どのサイトで聞き込み投稿をしても埒が明かない…。なんて悪質な空間なんだ…」

 

荒し共を相手するために長文投稿を続けてきた彼女は精神的にも疲れ果てている。

 

ネットでの情報収集を諦めた令は街での聞き込み捜査に切り替えたようだ。

 

しかしそんな令に向け、街中に配置されている監視カメラは常に彼女の姿を映している。

 

「なんか…変な気分。誰かに見られているような…そんなことないのに…おかしいな…?」

 

機械が相手では魔力探知など何の役にも立たず、令は監視されている事にさえ気がつけない。

 

AIを用いた顔認証システムが導入されているスマートシティの恐ろしさに対して民衆は無関心だ。

 

顔認証システムはハイテク独裁国家中国を代表するように人権侵害に利用される危険性が大きい。

 

無断で収集される顔データによって、何処に逃げようともマスクで顔を覆っても見つけだされる。

 

デジタル技術こそ独裁国家が理想とした完全管理社会実現のための大きな力となるだろう。

 

監視国家に狙われれば、街頭モニターで即座に顔を公開され犯罪者情報まで暴露される日がくる。

 

そうなれば全ての魔法少女達は時女静香と同じく社会から追われるだけの人生となるだろう。

 

AI監視カメラだけでなく、位置情報を常に発信するスマホ所持とて同じ結果をもたらすのだ。

 

「見つけたぞ、あの小娘がシドが所有する悪魔を捜査しようとしてる奴だな?」

 

アメリカンなバイクに乗りながら令に視線を向ける人物こそ、追手であるダークサマナー。

 

現れた男とは坂東宮攻略戦にも参加したことがあるキャロルJであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

静香達が神浜生活において利用してきた水徳寺は現在、葛葉ライドウの住処となっている。

 

彼はここで生活を行いながらも、人修羅に関する捜査情報を纏めてきたようだ。

 

「……どう思う、ライドウ?」

 

自室には用意してもらったホワイトボードがあり、ボードを使って集めた情報を纏めている。

 

情報を纏めて捜査方針を考えてきたようだが、探偵の表情は重い。

 

「あの悪魔が魔法少女の虐殺者として生きた事は事実だ。しかし…現在の人修羅は沈黙している」

 

「人修羅は二つの街において虐殺行為をしたという証言なら得ている。何があの男を変えた?」

 

「まだ掴めていないが今の人修羅の目的は何だ?自分が見る限りでは今の人修羅は無害に見える」

 

「その部分については再び聞き込み捜査を行うしかないだろう。すまんがライドウ、頼むぞ」

 

装備は最低限に留めたままライドウは水徳寺から街へと向かって行く。

 

参京区を歩いているのだが、不意に立ち止まったライドウが街の景色に視線を向けたようだ。

 

「…未来の日本か。栄えているようだが…人々は幸福を感じているようには見えないな」

 

「法が変わった事により日本は労働者を薪木にする国と成り果てた。皆が未来に希望を持てない」

 

「だからこそ魔法少女の脅威である魔獣の増加は止まらないし…悪魔も跋扈する事になる…」

 

「古来より政治と魔なる者達は繋がってきた。国が腐敗すればするほど魔物共の天国となるのだ」

 

「自分はサマナーとして政治に関わるつもりは無いが…それでも政治と悪魔は無関係ではない…」

 

「だからこその役割分担だ。悪魔共はサマナーが追い、政治の腐敗は記者が追及していくべきだ」

 

「記者か……」

 

ライドウの脳裏に浮かぶのは、大正時代の帝都に生きる朝倉タヱの存在。

 

帝都に赴いた頃から幾度か事件現場で遭遇しており、記者として取材活動をしてきたようだ。

 

「何を思い出しているのかは分かるぞ…ライドウ。タヱのことであろう?」

 

「タヱさんは元気にしているだろうか…?」

 

「タヱは元気が売りの記者だったな。オカルト記者だと馬鹿にされても挫けない強さがあった」

 

「悪魔の存在など誰も信じない…そのせいで人々から揶揄と嘲笑しか与えられない人だった…」

 

「それでも真実を伝えようとしたのだが…人々は何も知ろうとしない癖に嘲笑いだけは好む」

 

「日本人の悪癖だな…全体ばかりが優先されればおかしい事をおかしいと言う自由すら消える…」

 

「秩序ばかりが優先された弊害だな。全体主義化した社会にあるのは()()()()()()()()()だけだ」

 

「牧師に飼われたまま何も考えずに生きていき…何も考えないまま食肉加工されていく…」

 

「それこそが独裁国家やブラック企業社会そのものだ。政治の裏を知ろうともせず消費される」

 

「誰かいないのか…?タヱさんのように周囲から嘲笑われようとも足掻く心を持った者は…」

 

「そんな者が21世紀の世にいてくれたのなら…きっとタヱの心も救われているだろうな」

 

道を歩いていくライドウは学ランのポケットから一枚の広告用紙を取り出す。

 

開けてみると広告に書かれていたのは牧野郁美が働くメイド喫茶の案内であった。

 

「人修羅の聞き込みを行うなら魔法少女だろう。この前貰った広告の店に行ってみるか」

 

「この時代の文字は左書きか…読み辛いがメイド喫茶と書かれている。メイド喫茶とは何だ?」

 

「まぁ…大正時代で例えるなら、カフェーみたいなものだな」

 

大正時代のカフェーとは喫茶店と違い、女給のサービスを主体として売り出す店であった。

 

その光景はある意味メイド喫茶でありキャバクラともいえるものだろう。

 

学帽を深く被り直したライドウを見上げるゴウトは猫なりにニタついている。

 

「フフ、これも社会見学というものだ。ライドウとてまだ高校生…人生は楽しむべきなのだ」

 

「…鳴海さんや並行世界で見かけた葛葉雷堂のような口ぶりだな」

 

電気街に向かって行くライドウ達ではあるが先に電気街のメイド喫茶に訪れている者がいる。

 

彼らよりも先に訪れていた存在とは、タヱの意思を継ぐジャーナリストである令であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

工匠区の電気街は東地域であり、大東区で暮らす観鳥令にとっても馴染み深い地域である。

 

ここで働く牧野郁美は親身に接してくれる者であり魔法少女にとっては優しいお姉さんであった。

 

「そっか…最近の令ちゃんは辛そうな顔をしてると思ったけど、そんな理由があったんだね」

 

「うん…ネットで情報を集めようにも検閲が酷いし…誹謗中傷の荒し共まで湧いてくるんだ…」

 

「令ちゃんを虐める誹謗中傷なんて許せない!なんで国はネットの誹謗中傷を規制しないの!?」

 

「牧野チャン、それは大きな弊害を生むからやめた方がいい」

 

「大きな弊害…?」

 

「言論の自由、表現の自由はね…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだ」

 

「だ、だけど…いくら言論の自由や表現の自由があっても…誹謗中傷なんて許されないよ…」

 

「誹謗中傷や差別の定義は21世紀でも作られてない。定義がないなら…()()()()()()で十分だ」

 

「そしたら…どうなっちゃうの…?」

 

「独裁国家の独裁行為を批判する人を見つけては…誹謗中傷罪にして政治犯収容所にぶち込める」

 

「そ、そんな……ことって……」

 

「表現に良し悪しを作るべきじゃない。作った時点で独裁国家がそれを最大限利用出来てしまう」

 

「ネット社会の誹謗中傷をする自由も…国の独裁と戦うためには必要となるんだね…」

 

「観鳥さんは善悪に関係なく自由な報道をする事を信じる者。善悪を作れば排除しか生まれない」

 

「それが神浜テロの時に魔法少女社会に向けての独裁を仕掛けてきた嘉嶋君の姿だったんだね…」

 

「尚紀さんを批判する自由が無ければ…彼の独裁行為に歯止めをかける方法なんて無かったんだ」

 

「政治って本当に難しいね…くみはよく分からないかな。みんなが優しくなればいいのに…」

 

()()()()()()()()()。民主主義国家はね、個人一人一人の倫理観の上でしか成り立たないんだ」

 

重い顔をしたまま俯き、これから先の日本の未来を考えれば考えるほど恐ろしくなっていく。

 

そんな令に向けてまだ神浜テロの真相追及を行うのかと聞くのだが、彼女は諦める気配がない。

 

「観鳥さんはどんな圧力を加えられても諦めない。粘り強い取材力こそがジャーナリスト魂さ」

 

「令ちゃんは本当に強いよね…無頼漢みたい。くみなんて周りの目が怖いから何も言えないよ…」

 

「牧野チャンはアイドルになる夢があるもんね…。炎上するアイドルは必要とされないし…」

 

「頼りないくみでごめんね…。だけど、悩み事ぐらいなら聞いてあげられるから」

 

「ありがとう、それを期待して今日は訪れたんだよ。悩みを話せた分…少しだけ軽くなった」

 

立ち上がった令はレジで精算を済ませてもらい店から出て行く。

 

そんな彼女を見送った郁美は不安そうな表情を浮かべながら令の今の気持ちを察してくれる。

 

「くみに会いに来るってことは…相当追い詰められてるってことだよね?大丈夫なのかな…」

 

令の事が心配で堪らなかった時、他の客が来店する音が響く。

 

「あ、いらっしゃいませーご主人様♪」

 

「う…うむ……よろしく頼む」

 

緊張した顔つきで店に入って来たのは、竹刀袋を背負ったライドウであったようだ。

 

「くみが席に案内するよ♪あれ?ご主人様ってもしかして……嘉嶋君を追いかけてた子!?」

 

「その件について聞き込みがしたいのだが…この店は猫を連れてきても大丈夫だろうか?」

 

郁美が足元を見れば黒猫のゴウトが鳴き声を上げながら媚びを売るように頭を擦り付けている。

 

そんなゴウトに向けて白い目を送るライドウの姿に気が付き、顔を背ける態度をしてきたようだ。

 

ライドウと入れ替わるようにメイド喫茶から去っていく令だが、道端にはバンが停められている。

 

バンの中には盗聴機材が詰め込まれており、メイド喫茶での会話内容は筒抜けだったようだ。

 

内部の者がガラケーを取り出して何処かに連絡を入れる。

 

南凪区のベイエリアでバイクを停めていた男のガラケーが鳴り出し、通話に応じる姿を見せた。

 

「そのまま追跡を続けろ。あの小娘がスマホを使ったなら…挨拶代わりをくれてやれ」

 

そう言ってガラケーを仕舞う男とはキャロルJであり、バイクを発進させていく。

 

彼が向かう場所とは令が帰り道を急ぐ大東区であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

大東区は神浜テロによって破防法に基づき公安監視対象地域となっている。

 

AI監視カメラだけでなく空には防犯カメラ搭載の監視ドローンまで飛んでいる程の地域となった。

 

そんな街中を歩く令は暗い表情を崩せず、後ろに振り向く。

 

街灯付近にあったAI監視カメラは常に彼女を映すかのようにして振り向いたままの状態であった。

 

「…全ては安全のため。そんな大義名分を用意出来れば…簡単に国民の自由を消すことが出来る」

 

傍聴法が改正され、加速する日本の監視社会。

 

通信会社の立ち合いが義務付けられていた警察の盗聴捜査でさえ制約が廃止されている。

 

国民の通話、メール、ネット投稿が監視され放題となり国民は自由を失っていく。

 

「日本は中国のような監視社会と変わらなくなる。自由は直ぐには消えない…()()()()()()()()

 

監視社会になって困るのは犯罪者だけだろ?と民衆は考えているだろう。

 

普通の人は監視されたところで困らないと思っているのだろうが、本質はそこではない。

 

監視社会とは、おかしな事をおかしいと思うのにそれを言えない社会になっている状態のことだ。

 

管理者達に逆らえなくなり、独裁国家の理想社会である情報統制社会が完成するのである。

 

「救いようがないのは…テロは二度と起こすべきじゃないと東の人々が監視を受け入れたことだ」

 

――()()()()()()()()()()()()

 

――自分が多数派にまわったと知ったら、それは必ず行いを改める時だ。

 

アメリカの著作家であり小説家のマーク・トウェインはそんな警句を残している。

 

組織論にも通じる警句であり、全員が賛成する事業や方針は危ういという考え方なのだ。

 

異論や少数意見にこそ耳を傾けるべきであり、多数派は謙虚さが求められるとの戒めであった。

 

「民主主義は最悪の政治を避けるための仕組みであり、独裁は最高の政治をするための仕組みさ」

 

人々は独裁状態こそが最高に秩序が保たれた不安の無い豊かな社会状態だと勘違いをする。

 

その最高に秩序が保たれた状態が独裁者のためだけにしか機能していない事すら考えてくれない。

 

社会を混沌とさせてでも守るべき自由(CHAOS)を望まない限り国は独裁状態(LAW)となる。

 

果てにあるのは独裁国家であり国民の人権と自由は全体利益という大儀の元に潰されていくのみ。

 

「自由(CHAOS)とは、()()()()()()()()()()()()。悪者にされても観鳥さんはそう信じるよ」

 

AI監視カメラが怖くなり、令は路地裏の中へと入っていく。

 

追跡されているような恐怖に怯える彼女はスマホを取り出して誰かに連絡を入れる。

 

そんな彼女の頭上には監視ドローンが一機飛んでいるのだが、突然急降下を始めていく。

 

「えっ!!?」

 

令が反応するよりも早く急降下突撃してきたドローンが地上に激突。

 

間一髪で横っ飛びした令であるが、激突したドローンはドローン爆弾の如く爆発してしまう。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!!」

 

爆発を浴びた令は爆弾の炎に焼かれ、破片まで浴びてしまい全身傷だらけとなって倒れ込む。

 

それと同時に周囲が異界化していき、高笑い声が響いてくるのだ。

 

<<ハーッハハハ!!どうだい?()()()()()()()()()を味わった感想は?>>

 

各国の大統領や首相がスマホを使わず位置情報を特定されないガラケーを使うのには理由がある。

 

それは監視ドローンシステムであるエピックシェルター攻撃を恐れているためなのだ。

 

テロ容疑者が使うスマホから居場所を特定し、ドローン兵器で爆撃する追跡システムである。

 

これによりスマホを所持しているだけで空から追跡爆弾が飛来してくる危険が大きかった。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

令の背中は焼け爛れており、刺さった破片は臓器にまで達している。

 

苦悶の表情を浮かべながらも立ち上がろうとするが、頭部を勢いよく踏みつけられてしまう。

 

「頑張るねぇ?戦車を破壊出来る量の爆薬が搭載されてたってのによぉ?」

 

「お前は…誰なんだ…?どうして……観鳥さんを……襲うんだッッ!?」

 

誰かを問われた男の機嫌がよくなり、後頭部を踏みつけていた足をどけてくれる。

 

踵を返して歩きながらも取り出したヘアブラシでオールバックヘアーをキメていく。

 

赤いギターを肩に下げた男が振り向き、スウィープピッキング演奏を行う姿を見せてくる。

 

ギターの音は小型のスピーカーから鳴り響き、派手な音をかき鳴らしながらこう叫ぶのだ。

 

「俺様の名はキャロルJ!!ロックンローラーであり、イルミナティのダークサマナーなのさ!」

 

「イルミナティだって……!?」

 

血反吐を吐きながらも立ち上がるが流れ落ちる出血が酷く、片膝をついてしまう。

 

激痛で顔を歪めながらも八雲みたまから聞いた話を思い出していく。

 

「イルミナティ…まさか本当に実在していたなんてね…。世の中…知らないことだらけだよ…」

 

「知らないまま終わっていればこんな目に合わずに済んだってのによぉ…身の程知らずな女だぜ」

 

「あいにく…観鳥さんはジャーナリストを目指す者。人々から馬鹿にされても真実を追う者さ!」

 

気力を振り絞り立ち上がった令が左手にソウルジェムを生み出して魔法少女に変身する。

 

だが魔法少女といえどもこれ程までの深手を負ってしまっては命の危険な状態なのだ。

 

「回復魔法を使う暇なんぞ与えてやらねーからなぁ。さぁ…俺様の悪魔と踊るがいい!!」

 

ギターテクニックを披露しながら爆音をかき鳴らし、それを合図として上空から悪魔が飛来する。

 

キャロルJの前に立つ悪魔とは、邪教の館で悪魔合体を用いて生み出した新たなる悪魔であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

【ゲーデ】

 

ブードゥー神話の生死を司る神であり、黒い燕尾服に黒い山高帽を身に纏う墓地の男爵である。

 

死者が神々の住処ギネーへ向かう道の中で永遠の交差点と呼ばれる魂が行き交う場所で佇む存在。

 

ゲーデは死者の知識を手にする事ができるため誰よりも賢い神であり、死者を()()()()でもある。

 

また死者を守護する者として、ブードゥー信者の墓石にはゲーデに関する名が刻まれるとされた。

 

「フフフ…もう直ぐ貴女も永遠の交差点に逝く事になる。派手なレクイエムと共にね!」

 

銀の蛇が刻印された黒い山高帽を被り、黒い燕尾服という貴族風な見た目だが中身は死の神。

 

燕尾服の下は肋骨が剥き出しになった死体であり、顔も髑髏のように腐敗している。

 

動く死体とも言える死神こそがゲーデであり、乗馬鞭のような武器を構えてくるのだ。

 

「悪魔が相手でも…観鳥さんは…負けない……くっ!!」

 

体は立っているだけで限界であるのだが、それでも魔法武器であるバズーカを生み出して構える。

 

頭から流れ落ちる血によって片目が覆われながらも狙いをつけようとするが視界が霞んでしまう。

 

「死に抗うことはありません。恐れなく死を受け入れなさい…私が冥界に案内しましょう!」

 

相手が重傷者であろうともゲーデは容赦してくれない。

 

乗馬鞭のような武器を振るえば冷気が溢れ出し、令は極大の冷気を浴び続けていく。

 

「ぐっ…あっ…あぁ……」

 

氷結魔法のマハブフーラが放たれ続ける中、耳障りなギターの音だけが聞こえてくる。

 

「テメェを冥界に送ってやるレクイエムなら用意してやる!俺のサウンドを冥途の土産にしな!」

 

「冗談じゃ…ない…!!耳障りなギターをかき鳴らされながら…円環に導かれたくはない!!」

 

体が凍り付きながらも魔法のバズーカの引き金を引き、榴弾が発射される。

 

しかし棒立ち状態で放ってくる攻撃など悪魔どころかサマナーにさえ通用しない。

 

軽く避けてくる相手は令を挑発するかのように演奏を続け、ゲーデは音に合わせて踊り出す。

 

「サァサァサァ!盛り上がってまいりました!愉悦とはいつだってタブーの先にあるのです!」

 

体が氷結した上で全身の血液まで不足している彼女のソウルジェムが急速な濁りを生んでいく。

 

それでも諦めまいと魔法のカメラを生み出して相手を封印する固有魔法を使おうとするのだが…。

 

「なんで…!?なんで固有魔法が使えないんだ…!?」

 

「それは私が披露する踊りの影響を受けているからですよ」

 

ゲーデはキャロルJのド派手なサウンドに合わせて踊りを楽しんでいるわけではない。

 

彼の踊りは死の舞踏であり、敵全体の魔法を封印する『トリッキーダンス』であったのだ。

 

全身は最初のドローン攻撃でズタボロであり、さらに氷結を浴びたまま魔封状態となってしまう。

 

相手が重症の少女であろうと一切の容赦がないキャロルJは残酷な命令を使役悪魔に下すのだ。

 

「ムドって終わりじゃつまらねぇ!凍り付いたその女を死ぬまで殴りつけてやんな!!」

 

「ククク、素敵な提案でございます!ご期待に沿わねばなりませんね…覚悟しなさい!!」

 

乗馬鞭を左手で叩きながら迫りくるゲーデに対し、令は棒立ちのまま動く事さえ出来ない。

 

「あぐっ!!!」

 

サンドバックとなるしかない令は乗馬鞭でズタボロの体をめった打ちにされていくのだ。

 

「ハハハァ!これがキャロルJ様の実力だ!!シドやフィネガンばっかが実力者じゃねぇ!!」

 

彼は組織内での地位は高くなく、腕利きサマナーのシドやフィネガンに強い対抗心を燃やす者。

 

コンプレックスの塊ともいえる存在であり、だからこそ承認欲求モンスターでもある。

 

歪んだ承認欲求は残虐性となり、敵を派手に討ち倒して手柄を独り占めしたいと考えてきた。

 

「これが…罰なのかな…?記者として…皆が必要としないものを…追いかけて…不快にさせて…」

 

走馬灯として蘇っていくのは、ジャーナリズムを信じて活動してきた彼女に対する仕打ちの数々。

 

善悪に関係なく観鳥令は有りのままの真実を撮って伝える者でありたいと願ってきた。

 

そんな彼女に待っていたのは厄介者として疎まれ続ける人生の日々。

 

彼女にどれだけ伝えたい思いがあっても、人々はそれに応える義務などない。

 

苦労して生み出した記事はバカにされ、揶揄と嘲笑を与えられるか無視されるだけであった。

 

「もう…疲れたかも…。これが…真実を追いかける者の…末路なんだね…」

 

「好奇心は猫をも殺す。悪魔の存在とイルミナティを知ろうとする者には死が与えられるんだよ」

 

ゲーデは倒れ込んでしまった令を左手で掴み上げ、右手の乗馬鞭に魔力を込める。

 

乗馬鞭が氷結していき鋭い氷の刃と化し、刃を令に向けたまま右腕を構える。

 

「貴女は記者でしたか。私と同じく見張る者だというなら…永遠の交差点で役目を果たしなさい」

 

「残念だけど…出来ない…かな…。魔法少女はね…死んだら…円環に導かれる…」

 

「そうはなりません。貴女を殺し、死を受け入れたソウルジェムが砕ける前に私が喰らうのです」

 

「悪魔に…喰われる…?そうなったら…観鳥さんは…どうなっちゃうの…?」

 

「円環のコトワリに喰われるのも私に喰われるのも末路は同じ。概念存在の一部となるのみです」

 

「ハハ…とことん…魔法少女は…救われないね…。もう戦う力はない…好きにするといいさ…」

 

「私と同じく見張る者よ、これ以上は痛めつけません。最後ぐらいは…痛みもなく殺しましょう」

 

魔法少女でありジャーナリストとして生きた観鳥令は今日まで戦い抜いてきたが、それも終わる。

 

「がっ……ッッ!!!」

 

氷の刃で心臓を貫かれた令の体が倒れ込んでいく。

 

鈍化した世界。

 

涙が零れ落ちていく中、彼女は最後にこんな言葉を残す。

 

「ごめん…ね……十七夜…さん……尚紀……さ…ん……」

 

地面に倒れ込んだジャーナリストは日本で蔓延る不審死の仲間入りを果たす。

 

この光景こそ日本の闇であり、今日までずっと繰り返されてきた秘密を追う者達の末路であった。

 




長くなるので二つに分けます。
原作マギレコの死人組は運命を乗り越えられないのか?次回を待て!
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