人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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218話 見張る者

絶命した観鳥令の死体を見下ろすのは勝者となったゲーデである。

 

汚れ仕事を果たし終え、浮かれた笑い声を上げる召喚者は無視して死体から宝石を奪い取る。

 

魔法少女衣装のネクタイ部分に備わっていた宝石をソウルジェムの形に変えたようだ。

 

「いつ見ても美しいものです…死にいく者達の魂の美しさは人間も魔法少女も変わらない」

 

無念を抱えたまま死んだ人間の魂は悪霊の如きどす黒さとなり、生者に向けて呪いを撒き散らす。

 

それと同じようにしてソウルジェムもどす黒く濁り切り、かつては呪いを振りまく最後となった。

 

「安心しなさい、貴女の望みは死後も果たされる。私と共に永遠の見張りを行いましょうか」

 

砕け散る前にソウルジェムを飲み込もうとした時、空から何者かの気配が迫ってくる。

 

「むぅ!!?」

 

ゲーデの左腕が切断され、地面に落ちた左手から濁ったソウルジェムが転がっていく。

 

地面に着地と同時に体をひねり込み、低空から放つ後ろ回し蹴りがゲーデの右側頭部を襲う。

 

「ぐはっ!!!」

 

路地裏の壁に叩きつけられたゲーデは怒りの表情を侵入者に向けてくるのだ。

 

「モー・ショボー、その子を頼む」

 

刀を悪魔に向ける存在とは、牧野郁美から頼まれて令を追いかけてきた葛葉ライドウである。

 

風を用いてライドウをここまで運んだモー・ショボーは慌てながらソウルジェムを拾うのだ。

 

「ダメだよライドウ…肉体が死んじゃったら…いくらソウルジェムの穢れを吸い出しても…」

 

「それでもやるんだ!!」

 

「う、うん!」

 

モー・ショボーは懸命に穢れを吸い出し、ソウルジェムが砕けないようにしてくれる。

 

それでも魂が死を受け入れているため、濁りは際限なく生み出されていく。

 

「テメェもデビルサマナーかよ?俺様に逆らおうってのかー?」

 

舐めた態度を見せてくるキャロルJは余裕の表情を浮かべてくる。

 

ゲーデはこの程度で終わる程の弱い悪魔ではないと彼は知っているようだ。

 

「貴様……よくも私の体を傷つけましたね!!」

 

壁に叩きつけられて埋もれたゲーデが壁から抜け出し、憤怒の形相を向けてくる。

 

切り落とされた腕は回復魔法の最上位の一つである『ディアラハン』によって復元回復するのだ。

 

「ここから先は通さん。この子の魂を喰いたいのならば…押し通っていけ」

 

「ならばそうさせてもらいましょうか」

 

「バカな男だぜ!!好奇心は猫をも殺す…俺様と関わっちまったテメェも不審死するんだな!!」

 

ライドウに送るレクイエムの如く再びギターをかき鳴らしていく。

 

迎え撃つライドウであるが、今日は聞き込み捜査だけを目的にしていたため装備は少ない。

 

持ち込んでいた悪魔も非常用として靴下の中に潜ませている召喚管のモー・ショボーだけだった。

 

自分独りで悪魔と戦うことになるライドウであるが、それでも鋼の意思で令を守ってくれる。

 

令の事を心から心配してくれた郁美のためにも負けられない戦いであったのだ。

 

「お供はソウルジェムから離れられないようですね。まぁ、手を離せば直ぐに砕けるでしょう」

 

「貴様の相手は自分だ。モー・ショボーと魔法少女の魂には触れさせん」

 

「よろしい、ならば貴方も冥界に連れて行きましょう。お楽しみの邪魔をした報いです!!」

 

「いつでも来るがいい。もっとも、貴様の相手は自分だけではないようだがな」

 

「なんですと!?」

 

乗馬鞭を振り、冷気を撒き散らすのだがそれを打ち破る炎の業火が上空から放たれる。

 

「なんだぁ!?」

 

「誰です!?」

 

キャロルJとゲーデが飛び跳ねて火球を避け、ライドウの横に現れた存在を睨む。

 

「よくも……よくも観鳥さんを!!絶対に許さない!!」

 

浮遊するようにして地面に着地した悪魔少女とは、令と同じく大東区で暮らすメルである。

 

心細かった令がスマホで電話をした相手とはメルであり、迎えを頼んでいたようだ。

 

「見たこともない悪魔ですがこの魔力は覚えがあります。トートの書を持つ者ならば間違いない」

 

「あの見たこともない悪魔娘が新たなトート神だと言いたいのかよ!?」

 

「相手は魔術のルーツを生んだ知恵の神…。離れていなさい…厳しい戦いとなるでしょう」

 

舌打ちをしたキャロルJは言われたとおり現場から離れていく。

 

横に視線を向けるライドウが状況を確認するためにメルに語り掛ける。

 

「自分は後ろの少女の命を救いたい。協力してはもらえないだろうか?」

 

「勿論です!尚紀さんの命を狙う者であっても…観鳥さんを守ってくれるなら歓迎します!」

 

「協力に感謝する」

 

即席のタッグを組むことになったライドウが刀を構え、メルは浮遊しながらトートの書を開ける。

 

迎え撃つゲーデは乗馬鞭を構え、前方空間にメギドの光を生み出していく。

 

「ソウルジェムは惜しいですが手加減は出来ません。2人とも…この場で消滅するがいい!!」

 

メギドを放つと理解した2人が咄嗟の判断で動き、倒れ込んだ令の体を守ろうとする。

 

メギドが解放された路地裏は光の爆発現象を起こし、巨大なクレーターだけが広がっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

メギドラオン程でなくともメギドの火の威力は絶大であった。

 

ライドウ達は離れた位置のビルの屋上に立ち、無事な姿を見せてくれる。

 

「観鳥さん……」

 

令の体を抱き抱えて逃れたメルであったが、彼女に触れた時に理解した。

 

この肉体は既に死んでおり、後はソウルジェムが砕けるだけでしかないのだと。

 

ライドウはモー・ショボーの力を借りて屋上にまで引っ張り上げてもらえている。

 

「早くこの子の体を回復させてあげないと…だけど今は手が離せない…」

 

「ソウルジェムが砕けないように穢れを吸い出し続けるんだ。直ぐに奴を片付ける」

 

メルに視線を向けるが、彼女の姿は俯いた状態を崩せない。

 

蘇生魔法の限界については知っている者であったからだ。

 

「逃げ足だけは早いようですが、それだけではないでしょう?」

 

浮遊しながら空から下りてくるゲーデが屋上に降り立ち、乗馬鞭を向けてくる。

 

「迷っている暇は無い!行くぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

ライドウからの激で奮い立ったメルが彼と共にゲーデを迎え撃つ。

 

乗馬鞭を振るい、極大の冷気魔法である絶対零度を放とうとするが銃弾によって武器が弾かれる。

 

ライドウは腰に隠してあったホルスターからコルトライトニングを抜き、銃撃を放っていた。

 

「観鳥さんの苦しみを百倍にして返しますよ!見せろ、四大元素のアルカナ!!」

 

タロットのルーツであるトートの書のページが浮遊していき、四枚のページが敵に向けられる。

 

四大元素に属する四属性の魔法が一気に放たれ、炎と氷と雷と風の塊がゲーデを襲う。

 

「これ程の魔法行使が出来るとは!!?」

 

魔法で迎撃するのを諦めたゲーデが浮遊しながら四属性魔法を回避する動きを見せる。

 

しかしゲーデの動きについてこれるライドウの斬撃が迫りくる中、彼は召喚者の支援を叫ぶ。

 

「私は接近戦には向いていません!支援を願います!!」

 

必死の叫びに対して返ってくる返事はない。

 

離れた位置の屋上で隠れている事しか出来ないキャロルJの顔には焦りが浮かんでいたようだ。

 

「オイオイ…何やってんだよゲーデ!俺様の悪魔ならそんな連中自分だけで何とかしろ!!」

 

二体同時召喚など行使出来ないため、増援の悪魔を召喚することは彼には出来ない。

 

他のダークサマナー達の支援に頼るのはプライドが邪魔して選ぶ事さえ出来ない。

 

今のキャロルJの手札にある中では最強のゲーデに頼るしか道がなかったのだ。

 

「召喚者に見放されるか。哀れなものだな」

 

ライドウが放つ右切上げによってゲーデの左腕が切断される。

 

体勢が怯んだ相手に向けてメルはトートの書を構える。

 

「最低で最悪で極悪な結果をお前に与えてやる!!」

 

炎を描く魔法陣から放たれたのは極大の火球を放つアギダイン。

 

隣のビルから放たれた炎魔法に振り向いた時には遅過ぎたようだ。

 

「グワァァーーーッッ!!?」

 

大火球の一撃を浴びたゲーデの体を構成している死体が燃え上っていく。

 

その場に倒れ込んでしまったが、それでも体から冷気を撒き散らして消火する動きを見せてくる。

 

「グッ…うぅ……」

 

全身が焼き尽くされており、虫の息をしている敵にトドメを刺さんとライドウが動く。

 

跳躍斬りを仕掛けてくる相手に向けて最後の抵抗とばかりに即死魔法を行使する。

 

「せめて貴様だけでも……道連れにしましょうッッ!!!」

 

倒れた自分の体を中心にしてサンスクリット文字の魔法陣が生み出されていく。

 

マハムドオンが放たれようとした時、上空で武器を振り上げるライドウの体が光りを放つ。

 

「ハァァーーーッッ!!!」

 

彼の体からMAGの光が放たれ、光を纏った陰陽葛葉の形が変わっていく。

 

MAGの光が大きな斧となり、放つ一撃とは磁霊金剛壊 ( じれいこんごうかい )である。

 

「ガッ……ッッ!!!」

 

胴体を切断した一撃が屋上を砕き、マハムドオンを構築していた魔法陣さえも砕く。

 

破壊の勢いは止まらず、隣のビルが崩壊する程のド派手な一撃となったようだ。

 

土煙が立ち上る中、刀を振ってMAGの光を払ったライドウが左手の鞘に納刀する動きを見せる。

 

視線を隣の瓦礫に向ければ、瓦礫に圧し潰されたゲーデの上半身が残っていた。

 

「み…ごと…です…。これ程の…サマナーが…いた…とは……」

 

トドメを刺し損ねたかとライドウが迫りくる。

 

腰のホルスターから銃を抜いて構えるが、ゲーデにはもう戦う力など残ってはいない。

 

「召喚者に捨てられた…私はもう…貴方と戦う理由など…ないの…です……」

 

「あの男はサマナー失格だな…。トドメが欲しいか?」

 

「トドメを刺すぐらいなら…私の命を…あの娘を救うために…役立てるのです…」

 

「どういう風の吹き回しだ?あの魔法少女の命を奪ったのは貴様だというのに?」

 

「私は…見張る者…あの娘も…見張る者…。どんな形になろうとも…私は見張る者でありたい…」

 

促されたライドウは刀を抜き、ゲーデの首を跳ね落とす。

 

転がったゲーデの首を持ち、ライドウはメルの元へと駆けていく。

 

ゲーデは死神であり外側の死体は操り人形に過ぎず本体は悪霊であり生首だけでも問題なかった。

 

屋上に戻ってきた彼が目にしたのは必死になって令の体を蘇生させようとしているメルの姿。

 

「ダメだ…蘇生魔法は魂が体から離れていない死体になら効くけど…魔法少女の魂は……」

 

蘇生魔法である『リカーム』の光を何度も生み出していくが、令の体は蘇生してくれない。

 

魔法少女にとって外側の肉体は生きた外付けHDDであり、魂はソウルジェムとして外側にあった。

 

絶望の表情を浮かべながら泣き崩れていた時、後ろから現れたライドウに振り向く。

 

「この悪魔は自分を見捨てたサマナーに仕返しをしたいそうだ。生贄になる事を承諾してくれた」

 

「生贄って…まさか、観鳥さんを殺したソイツと悪魔合体させようというんですか!?」

 

「それしか救う手立てはない…。失った命の代わりとなるための…生贄なんだ」

 

「観鳥さんを…ボクやかなえさんと同じ悪魔に作り替える…」

 

令の意思を無視してそれを行っていいのか迷っていた時、負け犬となった者が空から現れる。

 

「テメェら!!俺様のゲーデを返しやがれ!!それは俺様のモノだぞ!!」

 

空を見上げれば鳥悪魔の足に掴まったキャロルJが逃げ出す前の遠吠えを行っている姿が見える。

 

溜息をついたメルがトートの書を空に向けてしまう。

 

「アギャギャ!?さっさとズラからないと大変な事が起こりそうな予感!!」

 

鳥悪魔が大急ぎで逃げようとするのだが、飛んできた火球の直撃を受けてしまう。

 

<<ウワァァァァーーーーーッッ!!?>>

 

地上へと落下していく者達になど目もくれず、3人は令の体とソウルジェムを持ち運んでいく。

 

異界から脱出した者達が向かう先とは悪魔合体施設である業魔殿であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ん……んん……?」

 

寝台に寝かされた令の瞼が開いていく。

 

視界に入った人物達とは郁美とメルであり、南凪自由学園の先輩だった都ひなのもいたようだ。

 

「良かった!蘇生は成功したみたいです!!」

 

「令ちゃん…良かった…本当に良かった!くみ…令ちゃんの事を凄く心配してたんだからね!」

 

「連絡を受けて駆けつけてみたが…すまなかった!令のピンチに間に合わなくて!」

 

「み…みんな…?どうして観鳥さんは…生きてるの……?」

 

体を起こしてみれば違和感を感じてしまう。

 

「えっ…?この服装は…何だろう?」

 

彼女が自分の体を見れば魔法少女衣装が変化している。

 

ストライプが入った黒のベストとハーフパンツに蜘蛛の巣が描かれた黒ストッキング。

 

赤いシャツからは赤黒いフリルが燕尾服のように伸びており、髪には悪魔の翼の飾りがあった。

 

「この姿は一体…?それにどうして…殺された筈の観鳥さんが生きているの…?」

 

それを問われたメルの顔が俯いていく。

 

辛い表情を浮かべているメルに代わり、先輩のひなのが説明を行ってくれた。

 

「順を追って説明しよう。令の命を救ってくれた人物はメルと…あそこにいるサマナーなのだ」

 

令が視線を向けた先にいたのは、壁に背を預けながら腕を組んで沈黙しているライドウである。

 

「そして…令の姿が変わってしまったのはな……」

 

「もちろん、悪魔になったからだ」

 

「えっ!?」

 

男の声が寝台の下から聞こえてきたのにビックリした令が下を覗き込む。

 

下側にいたのは顔を寝台の上に向けている黒猫のゴウトであったようだ。

 

「我の言葉が理解出来るのであろう?ならば、うぬが悪魔となった動かぬ証拠だ」

 

「観鳥さんが…悪魔になった…?」

 

「正確に言えば…まだ魔法少女です。ですが、悪魔合体によって…肉体は悪魔となりました…」

 

メルに促されて左手に目を向ければまだソウルジェムの指輪が存在してくれている。

 

死体となった令の体は悪魔合体によって悪魔化したのだが、未だに体は外付けHDDに過ぎない。

 

状況が飲み込めた令は泣きそうなメルに顔を向け、首を横に振ってくれる。

 

「自分を責めちゃダメだよ、メルチャン。勝手に悪魔にされても観鳥さんは怒ってはいないから」

 

「だけど…そもそも迎えを頼まれたボクがもっと早くに駆けつけていたら…こんなことには…」

 

「命を助けてくれた恩人の判断だったんだ。観鳥さんはそれに従うよ」

 

「いいんですか…?これから先、観鳥さんはボクやかなえさん、それに十七夜さんのように…」

 

「悪魔として生きるしかないって言いたいんだね?構わないよ…命を残せただけでも満足さ」

 

「観鳥さん……」

 

寝台から起き上がった令は壁際で佇むライドウの元まで歩いていく。

 

「葛葉ライドウさん…だったかな?ありがとう…助けてくれて。お陰様でまた目標を追えるよ」

 

「目標……?」

 

「観鳥さんはね、記者になりたいんだ。憧れのジャーナリストである…朝倉葵鳥を目指したい」

 

それを言われた時、ライドウの目が見開いてしまう。

 

朝倉葵鳥とはライドウが生きていた大正時代の記者であり、朝倉タヱのペンネームであった。

 

「タヱさんを…知っているのか?」

 

「やっぱり…ライドウさんなら知っていると思ったよ。朝倉葵鳥が生きた時代は大正時代だし」

 

「タヱさんを目指すために記者になりたいのか…?」

 

「うん…観鳥さんはね、彼女のようになりたい。周囲から馬鹿にされても…真実を追う者にね」

 

悪魔の象徴である赤い瞳を向けながらも笑顔を作ってくれる。

 

逆境にも負けないその笑顔を見ていると朝倉タヱの笑顔と重なって見えてしまう。

 

「周囲から疎まれ…命を落とす程の危険に晒されるんだぞ?それでも…タヱさんを目指すのか?」

 

「そうするよ。朝倉葵鳥こそ、観鳥さんがジャーナリストを目指したいと思ったキッカケだから」

 

それが聞けたライドウの口元が微笑み、頷いてくれる。

 

「君なら目指せるさ。命を落とす程の危険にさえ立ち向かう勇気を示せる君ならばな」

 

「令で構わないよ。それと大事なことだから言うね……タヱじゃなくて葵鳥さんだから!」

 

プンスコしながら腰に手を当てて指差ししてくる姿がタヱとそっくりに見えてくる。

 

タヱはペンネームではなく本名で呼ばれるのを気にするタイプであったようだ。

 

頷いてくれたライドウがゴウトを引き連れて部屋から去っていく。

 

通路を歩きながらも彼は遠い眼差しを浮かべながら朝倉タヱの事を思い出していた。

 

「観鳥令…葵鳥と同じく鳥の名を持つ記者か。彼女なら何処までも飛べるだろう…タヱのように」

 

「フッ……自分も同じ意見だ」

 

歩きながらもライドウは令を襲ったダークサマナーの存在について疑問が浮かんでいく。

 

なぜ彼女を襲ったのか?彼女が追ってきた存在とは何なのか?

 

疑問を感じていたが彼は首を振って考えるのをやめてしまう。

 

「気にしても仕方がない…。自分の使命は人修羅を倒すことなのだ」

 

人修羅を倒す、それがヤタガラスから受けた使命。

 

それでもライドウの心の中には迷いが浮かんでいく。

 

神浜の魔法少女達から慕われる彼を倒してもいいのか?

 

神浜の魔法少女達を敵に回してでも討つべきなのか?

 

晴れない迷いを抱えたライドウの心はグラついてしまうようだ。

 

それでも彼はヤタガラスのデビルサマナーとして生きる者。

 

迷いを払うようにして前だけを見据える男が業魔殿を後にしていく。

 

彼が通り過ぎた通路には魔法少女と悪魔の合体が成功した事に狂喜乱舞するヴィクトルがいる。

 

その隣では顔を俯けた姿のまま佇む八雲みたまもいたようだ。

 

「御霊合体以外でも…魔法少女は悪魔と合体することが出来た。この成功例があるのなら…」

 

恐ろしい望みを抱えているみたまもまた迷いを抱え込む者。

 

それでも彼女は望みを実行する勇気が出せない苦しみを抱えている。

 

迷いを抱えた者達はそれぞれの日常へと帰っていくが、平穏が訪れることはない。

 

悪魔と関わる者達だからこそ、その先にあるのは冥府魔道の道なのかもしれなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「令……これからどう生きていく?」

 

高層ビルの屋上では夜風に髪を靡かせている悪魔姿のかなえとメルが佇んでいる。

 

彼女達が視線を向ける先とは屋上の端で悪魔姿を晒す令であったようだ。

 

迷いを抱えた表情をしたまま俯いていたが、決心したのか顔を上げてくれる。

 

「観鳥さんの生き方は変わらないよ。ジャーナリストとして…これからも日本の闇を追う」

 

「観鳥さんを襲った男はイルミナティと言ったんですよね?だとしたら…啓明結社が相手です…」

 

「うん…これから令が追うことになる存在は…命がいくつあっても足りない程の危険な相手だ…」

 

「覚悟は出来ている…けど、魔法少女のままだとこれから悪魔と戦っていくのも厳しいよね…」

 

サイドポニーテールを夜風で揺らす令が左手を持ち上げる。

 

左手に握られていたソウルジェムを摘まむようにして顔に向ける姿を見せるのだ。

 

「観鳥さんの中に溶けたゲーデは悪魔であり、悪魔は人間の魂を体に取り込める存在だ」

 

「いいのか…令?それを実行してしまったら…あたし達と同じく円環に逝く事は出来なくなる」

 

「ずっと悪魔として存在しないといけないんですよ…?死後だって…何処に逝くのやら…」

 

「観鳥さんはね…円環に導かれる事が魔法少女の至上の喜びだとは思わない。だからこれでいい」

 

令は決断するかのようにして口元にソウルジェムを近づけていく。

 

魔法少女として生きた自分の象徴を見つめる令は微笑みを浮かべ、ソウルジェムにキスをする。

 

「さようなら……魔法少女として生きた観鳥令」

 

ソウルジェムを口に咥えた令は一気にソウルジェムを噛み砕く。

 

解き放たれた令の魂は悪魔の肉体に喰われるかのようにして吸収されたようだ。

 

「……円環のコトワリには導かれていない。どうやら成功したみたいだね」

 

「…今の気分はどうですか…観鳥さん?」

 

「悪い気はしないかな…。外側に魂が抜け落ちてたソウルジェム状態の方がよっぽど変だったし」

 

「これで令もキュウベぇから引っ張り出された魂を取り戻せた。あたし達と同じ存在となるんだ」

 

「悪魔として生きるか…。これで観鳥さんも尚紀さんや十七夜さんの仲魔となれるわけだ」

 

「あたしとメルはね…尚紀から依頼されて十七夜を捜索している。令はどうするんだ?」

 

「そうだね…神浜テロの捜査は完全に行き詰ったし、また十七夜さんの捜索に加わろうかな」

 

「それじゃあ…これからの観鳥さんはボク達の仲魔ですよ!不謹慎だけど…ちょっと嬉しいです」

 

「悪魔になったら魔法少女の固有魔法は消えちゃうんでしょ?参ったな…便利だったのに…」

 

「フフッ、ジャーナリストは粘り強い取材力だって言ってた令らしからぬ発言だね」

 

それをかなえから言われた令は恥ずかしいのか照れた表情を浮かべてしまう。

 

魔法の力などなくても人間はジャーナリズムを築いてきた。

 

ジャーナリズムを信じてきた令だからこそ、便利な魔法などなくても生きていける。

 

「初心忘るべからずだね…。人間だった頃からジャーナリストになりたいと願った者だし♪」

 

「そうです!観鳥さんは魔法なんて使わなくても立派なジャーナリストになれますよ!」

 

「魔法少女の魔法を失っても悪魔の魔法という大きな力がある。頼りにしてるからね…令」

 

笑顔で別れた3人であったが、令は独りその場に残る。

 

踵を返して夜の神浜市に視線を向けていく。

 

夜風に吹かれながらリボンタイとサイドポニーテールを揺らす彼女はこんな言葉を残すのだ。

 

「日本人はヒトラーの宣伝手法で考えない人になった。だからこそ誰かが伝えなければいけない」

 

ヒトラーが残した著書で述べている宣伝ノウハウは実にシンプルだ。

 

自分の頭でものを考える連中はどうせ少数なんだから相手をするだけ無駄だ。

 

大事なのは残りの多数派に、とにかく何度も何度も同じことを吹き込むこと。

 

つまりアホの方が多数派なのだと割り切る事が肝心なのだと残している。

 

「自分の頭でものを考える人が減る時、ヒトラーの宣伝手法は蘇る…嘘が既成事実になる」

 

マスコミに何度も貴方達の安全を守ると嘘を流させることで、民衆達のマインドは固定化される。

 

仕事と娯楽で忙しい民衆達が情報の検証など行う筈がないと舐め腐った態度ともいえるだろう。

 

おかしいと気が付いた者でさえ、周りから揶揄と嘲笑を浴びせられるのが恐ろしくて保身に走る。

 

民衆は嘘に踊らされながら行進することしか出来ず、独裁国家の管理社会は完成を迎える。

 

「ヒトラーの手口をのさばらせるのはマスコミの怠慢だ…。だからこそ、観鳥さんが見張るんだ」

 

日本人のリスク管理の甘さといえる平和ボケこそ、観鳥令がもっとも憂いを感じている部分。

 

自己管理の甘さによって、監視社会と言うと変人扱いする能天気なチャラい態度を向けてくる。

 

そんな者達こそ、いざという時は誰かに責任転嫁しながら喚き散らすことになるしかないのだ。

 

誰かの責任にさえしてしまえば自分の罪に意識を向けなくて済むのであった。

 

「国家が民衆のデータを収集するなら、同時に民衆も国家のデータ収集を強化するべきなんだよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()こそが、民衆の自由も人権も消え去った状態。

 

だからこそ国家のデータ収集を行う役目を担う、()()()()()()()政治記者が必要なのだ。

 

「たとえ観鳥さんの記事を誰も喜ばなくても…民衆が自分達を守るキッカケとなると信じたい…」

 

人間は見たいものしか見ないし、信じないという初代ローマ皇帝の格言なら観鳥令も知っている。

 

そんな民衆を相手に自由な報道を繰り返そうとも、揶揄と嘲笑しか与えられず悪者にされるだけ。

 

ほむらや織莉子が誰にも信じて貰えなかったように、令の記事も誰にも信じてもらえないだろう。

 

人間という偏見生物に絶望してジャーナリズムを信じられなくなっていた時期もあった。

 

そんな彼女にジャーナリストとして憧れを求めろと励ましてくれた男のためにも令は進むのだ。

 

「いつか誰かに胸を張れる記事を残したい。だからこそ…観鳥さんは記者として()()()()となる」

 

――善悪に関係なく、自由な表現をすることこそが独裁国家に立ち向かう唯一の方法だと信じて。

 

口で言うのは容易いが、民衆がどれだけ権威主義に調教されてきたのかは知らなければならない。

 

日本を含めた教育機関が行ってきた手口とは、人間から()()()()()()()()()()()()()()()()こと。

 

自分の頭で考え、権威に屈服しない人間を切り捨てるように教育させてきた。

 

腐敗を極めた拝金主義者というエリートにとって、反骨心に溢れた民衆は脅威でしかないからだ。

 

御上にヘーコラさせて譲歩の御慈悲を与え、御上に向けた不満は下の者を虐めさせて発散させる。

 

流される者ばかりを量産することによってエリート達の独裁支配は完成を迎える事が出来るのだ。

 

知らないのはただの無知。

 

知ろうとしない無知は罪。

 

無知は()()()()()()()

 

アリナに宿った千晶ならば、流されるだけの人々に向けてこんな言葉を贈っただろう。

 

――弱い者は乱し、惑わすの。

 

――自分では何も出来ないから。

 




これで観鳥さんもハロウィン姿となれたことだし、後はももこちゃんだけとなりましたね。
そのももこちゃんをハロウィン姿に持っていくまでが長くなりそうです(汗)
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