人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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21話 普通の恋愛

「ねぇ、凛ちゃんの好きな映画って何?」

 

「あたしはね、ベタな恋愛映画が好きだよ」

 

男と女のラブ・ロマンスならジャンルをこだわらず楽しんできたと凛は友達に語りだす。

 

「あんな銀幕世界の男優と女優のようなラブ・ロマンスをいつかしてみたいね…」

 

「凛ちゃんはざっくばらんな男の子って性格してるけど、本当は誰よりも女の子らしいね」

 

「そうかな…?クラスメイト達からは割りとオッサン扱いされるんだけどね~」

 

「ねぇねぇ、男女恋愛に憧れてるなら…好きな男の子とかいる?」

 

「えっ…?まぁ……うん」

 

「ほんと!?告白はしちゃったわけ?」

 

「まだ…。思いを打ち明けたいって思うんだけど、グッドタイミングに恵まれなくてさ…」

 

自分はバットタイミングな女なんだと自虐的な笑みを凛は見せてくる。

 

「いつかグッドタイミングに恵まれる日がくるって。そしたら直ぐに告白するんだよ」

 

「そうだね…。それだけの勇気なら…あたしは持ってると思う」

 

強がりをしても彼女に幸運が訪れない日々が続く。

 

そんな時、彼女はキュウべぇと出会ったようだ。

 

「君はどんな願いをして魂を輝かせるんだい?」

 

「あたしは……自分にとってグットタイミングを得られる女になりたい」

 

こうして一人の魔法少女が誕生する事になるだろう。

 

願いは叶えられたことで彼女の望み通りの幸運が得られる結果が直ぐに訪れる。

 

「あれ?凛ちゃんも今帰り?」

 

意中の相手がうまい具合に一人で教室に残っている。

 

「う…うん。あのさ、少し話があるんだけどいいかな…蓮君?」

 

中学の頃から思いを募らせてきたが告白のチャンスに恵まれず、凛は高校まで追いかける。

 

だからこそ、このチャンスを逃すわけにはいかないのだろう。

 

「あ…あたし!男っぽい感じで…あんまり可愛くないけどさ……あたしのこと、どう思う?」

 

「え…?昔からの付き合いだから分かるけど、凛ちゃんは普通に可愛い女の子だと思う」

 

脈がある反応が帰ってきた事で心臓がバクバク高鳴りだす。

 

「あたしさ…中学の頃から、あなたの事が好きでした。つ……付き合って下さい!」

 

恋愛映画ならもっといいシチュエーションがあるのだろうが、これが凛の限界である。

 

魔法少女となり、魔女と殺し合う運命まで背負って得たチャンスがかかっている。

 

(神様……あたしの思いをこの人に届けて!)

 

だが返事は彼女が期待していたものではなかった。

 

「ごめん…凛ちゃん…。僕ね、高校に入ってから付き合っている女の子がいるんだ」

 

「え…?え……?付き合っている女の子がいたの…?」

 

「本当にごめん…。君は可愛いから他の男の子も君の魅力に気づいてくれると思う」

 

「そんな……あ、あたしが好きなのは蓮君なの…!」

 

「君の気持ちは他の子の為にとっておいて欲しい。これからも、仲のいい友達でいてね」

 

申し訳無さそうにして教室から去っていく想い人に対して彼女は膝に力が入らず崩れてしまう。

 

「告白する勇気はあった…グットタイミングにも恵まれた…なのに、時既に遅し?」

 

何のために魔法少女になったのか彼女は分からなくなっていく。

 

「諦めたくない…この胸を締め付ける好きな気持ちは…蓮君のためだけのもの」

 

一度フラれたぐらいでは凛は諦めない程にまで思いを募らせた少女である。

 

涙を拭って立ち上がり、今後の事を考えていく。

 

魔法少女として生きる毎日と、好きな人と付き合っている彼女という存在の調査を行う。

 

「きっとまだチャンスはある…だってあたしは…グットタイミングの魔法少女なんだから」

 

グットタイミングはもう一つ訪れてくれる。

 

高校に進学してまだ間もないが魔法少女仲間が出来たようだ。

 

「同じ暮らすに魔法少女がいたなんてね…これから宜しくな、澪」

 

「宜しくお願いします!澪…魔法少女になったばかりで東京でどう生きるか不安だったの…」

 

「魔法少女になりたてのあたしも同じ気持ちさ。他の魔法少女もいるって聞くし、不安だった」

 

「澪達…仲良くやっていけそうね」

 

東京の魔法少女社会を二人で生きる事になって分かった事がある。

 

この東京の魔法少女社会がいかに狂っているのかを彼女達は突きつけられる事態となるのだ。

 

「誰も人間を守るために戦わないじゃないか…こんなのって…ありなのかよ…」

 

やってる事は私利私欲のために魔法を乱用しながら犯罪の限りを尽くす連中ばかり。

 

魔法少女という概念が崩れてしまった事で凛と澪はショックを隠せない様子なのだろう。

 

「それに…魔法少女の秘匿のためなら人間さえ平気で殺す人達ばかり…狂ってる…」

 

魔法少女として東京で生きる事に絶望しかけていた時、その者達は現れる。

 

「お前らか?あたしらが縄張りにしている地域で魔法少女になったルーキー共は?」

 

「アンタ達は…?」

 

「要件を手短に言ってやるよ。あたし達のパシリとして働くか、死んで魔女になるかだ」

 

「パシリ…?あたし達が魔女になるだって…!?」

 

「凛…どうしよう…この人達、断れば澪達を…!?」

 

「冗談じゃない!あたし達は…お前らのパシリになんてならない!!」

 

「あっそ、なら商売敵だね。死んで魔女になって…あたしらの魔力の肥やしになりやがれ!!」

 

「数が多い!あたしが囮になるから逃げろ!!」

 

「で、でも!?」

 

「いいから早く!あたしも切り抜けて上手く逃げるから!!」

 

どうにか惨状を切り抜けた二人だったが、この地区の魔法少女グループを完全に敵にまわす。

 

魔女や使い魔と戦う二人に対して外道に堕ちた他の魔法少女達まで襲いかかってくる。

 

「もう誰も頼れない…。あたし達二人だけで…この狂った魔法少女社会を生きていこうよ…」

 

「澪…凛が側にいてくれたら大丈夫だから…。ずっと澪の側にいて…お願いだから」

 

「誓うよ。あたしも澪がいないと心細くて絶望しちゃうし…」

 

二人は東京の魔法少女社会でいう、はぐれ魔法少女と呼ばれる存在となり果てる。

 

区を占拠する魔法少女グループの目を盗み、魔女を仕留めて命を繋ぐ日々。

 

見つかった時は殺し合いとなり、弱い澪を守るために凛は必死に戦って守ってあげた。

 

(本当は弱い女の子のあたしを好きな男の子が守ってくれるような展開の方が好きなのに…)

 

それでも澪は大事なパートナーであり、命を預けてもいい存在だから仕方ないと凛は割り切る。

 

「澪ね…他の魔法少女達が語っていた怖い噂を…隠れながら聞いてしまったの…」

 

「怖い噂…?」

 

「東京の魔法少女を殺戮する…悪魔のような存在がいるって……」

 

「マジかよ…外道の魔法少女達の次は悪魔がいるだなんて…どこまで救いがない街だよ…」

 

「凛……澪はね…凄く怖い…。こんな狂った街から逃げ出したい……」

 

「あたしだって同じ気持ちだよ…。でもここがあたし達の故郷だし…行く宛もない…」

 

「死なないで…凛!澪を独りぼっちにだけはしないで…ッ!」

 

「約束する。だから、澪もあたしを独りぼっちにしないでね……こう見えて寂しがり屋だし」

 

肩を抱き合い、周りに怯えつつも力を合わせていき、はぐれ魔法少女達は生きていく。

 

そんな二人の関係が女性同士において特別な関係になるのにそう時間はかからなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

魔法少女として生きていく傍ら、想い人と付き合っているという彼女についての調査も進める。

 

「優しい蓮君にしては趣味が悪い…夜遊びしているような女が彼女だなんて…」

 

思い人の男に接する甘えた態度も芝居がかった縁起にしか凛には見えない。

 

まるで悪徳商法で男を捕まえる女性勧誘員のように彼女には思えてしまう。

 

「嫌な予感がする…蓮君はあの女に騙されているんじゃないの…?」

 

思い人は家が裕福な人であり、金には困ってない人間であるせいで邪悪な連中まで引き寄せる。

 

そんな男に女がいきなり現れて近寄ってきた場合は警戒しないといけない。

 

ハニートラップなど東京ではよくある光景なのだから。

 

「必ずあの女の尻尾を掴んでみせる……絶対に!」

 

凛は二人を監視しているつもりだったが、隣の澪には違って見えてしまう。

 

「凛……どうして叶わなかった恋に縋り続けるの…?」

 

恋に破れても想い人を慕っている悲しい少女のように映ってしまうようだ。

 

「彼の事は忘れた方がいい。それが貴女のためよ」

 

「ごめん…そういう話題は勘弁してくれない?それより今日の魔女狩りの範囲なんだけどさ」

 

(話をはぐらかすのね…。そんなに男の人だけが好きなの?違う恋愛だってあるのに…)

 

(澪は一体何を考えているんだろう…?最近あたしには…分からなくなってきたよ…)

 

 

魔女を狩り終えたとある日の出来事である。

 

魔法少女グループが襲ってくる前に澪を家に送り届けようと付き添っていた時だった。

 

「ねぇ…凛。話があるんだけど、いいかな?」

 

「何さ…澪?そんな改まっちゃって?」

 

「ここではちょっとあれだから……こっちに来て」

 

誰もいない小さな公園にやってきた二人が向かい合う。

 

澪は顔を赤らめ、どこかぎこちない態度。

 

(まるで恋愛ドラマで奥手の少女が告白するシーンみたいな顔してる…何を伝えたいの?)

 

「澪ね…貴女に出会えた事は…願いが叶ったんだって…思えるようになったの」

 

「澪の願い…?」

 

「澪は…運命の恋人に巡り会いたいって、キュウべぇに願ったの」

 

「そっか…。澪もあたしに負けず劣らず、恋に恋する魔法少女だからね」

 

だが、彼女が考えてる恋愛と澪が考えている恋愛の形は完全に食い違う。

 

「澪…凛の事が好き…大好き!!貴女こそが…澪の運命の恋人だったのよ!」

 

「え…?え…それってその……アレ?」

 

澪の描く恋愛とは()()()()()()の世界なのだ。

 

「お願い凛…貴女の事考えていると胸が締め付けられて苦しいの。澪の恋人になって!!」

 

告白された凛はショックを受けてしまう。

 

(命を預けてもいいと思えるほど信じ合っていた…大切なパートナーだったのに…)

 

凛と澪の心はこんなにも食い違っていた現実に対して強い衝撃を凛は感じている。

 

「…気持ちは本当に嬉しい。でもあたし……その気持ちには応えられない」

 

「え…?え…?どうしてよ…凛!?澪はこんなにも…貴女の事を愛しているのに!」

 

「あたしだって澪は好きだ。でもそれは仲間や友達として好きであって…恋人関係じゃない」

 

「そんな……命を預け合うぐらい硬い絆で結ばれているのに!どうして恋愛になれないの!?」

 

(胸が張り裂けそうに痛む…。それでもあたしには…絶対に譲れない恋愛観があるんだ…)

 

「あたしはね…()()()()()()()()。それがあたしの恋愛観なの…女の子同士の恋愛は望まない」

 

予想通り酷くショックを受けた大切なパートナーは大泣きしてしまう。

 

もう彼女達は引き返せない事態となる。

 

「さよなら…凛…。澪ね…貴女と一緒にいられて……幸せだったよ」

 

「待って!!あっ……」

 

肩に手を伸ばそうとしたその手は叩き落されてしまう。

 

走って帰っていく澪の後ろ姿を呆然と見つめることしか凛には出来ない。

 

12月の季節、寒い冬の風が体と心を冷たく冷たく凍りつかせていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

あの日以来、凛は澪から拒絶されていく。

 

学校で声をかけても無視される。

 

顔があったら目を背けられる。

 

スマホの連絡さえ繋がらない。

 

「やっぱり…あたしのせいなんだよな…あの子の純粋な恋心を断る形で踏み躙った……」

 

きっともう、彼女達が元に戻る事は出来ないのだろうと凛は孤独に打ちひしがれてしまう。

 

それ以来、一匹狼のようにして独りで魔女と戦う事となっていく。

 

「澪の存在が後ろにいないだけで…こんなに心細いだなんて…思わなかった…」

 

普通の魔法少女仲間として過ごしたかったはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もう分からない…あたしは間違った事をしたのかな?」

 

魔法少女は同じ魔法少女同士で付き合うしか選択肢は無いのかと凛は強い不満を抱え込む。

 

男を遠ざけて魔法少女同士で恋人のように愛し合うのが自然な事なのかと強い憤りを宿す。

 

「普通の男の子と付き合うという事は魔法少女の秘密を隠しながらのお付き合いになる…」

 

それはとても難しい恋愛になる事ぐらい凛にも分かってるが、感情がそれを許さない。

 

「現実に潰されて…あたしはあたしの恋心を曲げたくない。だってあたしは…男性を愛してる」

 

 

魔女狩り終え繁華街の表通りを出た時、固有魔法のグットタイミングが舞い降りてくる。

 

「あれは蓮君の恋人の女…?それに隣の男と腕を組んで……まさか!」

 

思い人を騙す女の馬脚を晒す時がきたようだ。

 

気づかれないよう二人の後を尾行し、会話に聞き耳を立てる。

 

「それで、お前の新しい財布君はいい感じに貢いでくれてるわけ?」

 

「私がおねだりしたら何も疑わずにさぁ、欲しい贈り物をジャンジャン買ってくれるんだー♪」

 

「それを質屋に持っていって、だいぶ稼いでるようだな?」

 

「ほんと馬鹿だよねーあいつ。私達が遊ぶ為の金を貢いでいるとも気が付かずにさぁ」

 

「お前の財布のおかげで俺も欲しかった物が色々買えたし堪らないよな~こういう楽な儲け方」

 

「ア・イ・シ・テ・ルーとか言ってあげると直ぐ舞い上がって女を好きになるアホだからね~」

 

(あたしが想像していた通りだ…この女は蓮君の金目当てに近づいてきた女だった…)

 

二人がラブホテルに入っていくのを睨みながら凛は決意する。

 

「この事実を蓮君に伝えないと!!」

 

次の日になると凛は思い人の前に再び立ち、昨日の事実関係を説明してくれる。

 

「そんな馬鹿な!?彼女が…僕の贈りものを質屋に売って…他の男と遊んでいるだなんて!!」

 

「本当だよ!あたし見たんだ!繁華街で蓮君の彼女と他の男が歩いて話してるのを見たんだ!」

 

「僕は信じない!彼女は僕を愛してる女性だ!彼女に悪い印象を与えようとしてるのか…?」

 

「ち、違う!あたしは本当に見たんだよ!信じて…蓮君!!」

 

「証拠を出してくれ!彼女が僕の気持ちを踏み躙り…僕の金で他の男と遊んでいた証拠を!!」

 

「そ…それは……」

 

「証拠は出せないんだろ?だったら僕はそれを信じない。絶対に信じてやるものか!」

 

凛の思い人は怒って自分の教室に戻ってしまう中、凛は義憤の感情を爆発させていく。

 

「許せない…蓮君の純粋な愛情を利用して…金儲けに利用しているあの悪女を!!」

 

――証拠?だったら…その張本人の口から言わせてやる!

 

放課後を待ち、悪女を問い詰める事にする。

 

学校の門で待ち構えていると上手いことに一人で下校してきたようだ。

 

(本当にあたしはグットタイミングの魔法少女だね…)

 

尾行していき、路地裏に差し掛かった時に声をかける。

 

「おい、お前」

 

「えっ?ちょ、ちょっと!?」

 

肩を掴みながら路地裏に引きずり込む。

 

「い、痛い!!なんなのよアンタ!?」

 

「お前…蓮君の贈り物を質屋で売って、稼いだ金で本命の彼氏と遊んでるだろ?」

 

「な…なんでそんな事があんたに分かるのさ!?」

 

「あんた達がラブホテルまで行くのを通りかかってね、会話内容を聞かせてもらったんだ」

 

顔が青くなっていく人物に対してさらに詰め寄る。

 

「さぁ、今から蓮君のところに行くぞ。悪事を働いたお前の口から真実を吐け!!」

 

胸ぐらを掴み上げて問い詰めていた手が叩き落とされてしまう。

 

「ふざけんな!誰が行くもんかよ!それにあんた、それを証明する証拠でも用意してるわけ?」

 

「お前が真実を語ればそれで済む!」

 

「ふん!私は彼にこういうもんねー。この女に脅されてさぁ、嫌々ながら言わされてると!」

 

「ふざけやがって…何処まで汚い悪女なんだよ…お前は!!」

 

「それにさぁ、これは恋人同士の問題じゃない!あんた、男の子と恋愛したことある?」

 

「れ…恋愛経験は無いけど……」

 

「ほら見なさい!男と恋愛したことも無い女が口出しする権利なんてあるわけないじゃん!」

 

外野は引っ込んでろと罵倒してくる悪女に対して憤怒の感情が爆発して震えてしまう。

 

(あたしと澪は…こんな人間のクズ達を…魔女や使い魔から守ってきたの…?)

 

魔法少女達がその秘密を秘匿し、自由恋愛さえ楽しめない重荷を抱えてる。

 

毎日毎日苦しくて堪らないのに、どうしてそんな酷い事が言える?

 

そう心で感じた時、憤怒は憎悪へと裏返ってしまう時がくる。

 

「あんたの顔覚えたからね~?彼に言いつけに行っちゃうから~♪」

 

(魔法少女達の苦しみも考えず…こんなクズ人間に…どうして…そこまで言われるの?)

 

憎悪の感情が湧き上がり、右手が震え続ける。

 

「……こんな奴は…正しく生きようとする人間に害を与えるだけの…悪者だ」

 

「な、何よ…あんた、なんで左手を構えてるわけ?」

 

「……こんな悪女は…存在してはいけない…」

 

「何をする気なの!?ちょ…誰か助けて!!」

 

恐怖を感じた悪女は路地裏から逃げようとした時、背後には武器を構えた魔法少女がいる。

 

「男の人を嘲笑い、貶めて苦しめる女なんて……死んでしまえ…ッッ!!!」

 

人間を守る為に戦った一人の魔法少女はついに()()()()()()()()()のであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

澪が行方不明になったという知らせが届く日が訪れる。

 

それが魔女に破れたか、魔法少女グループに襲われて殺されてしまったのかは分からない。

 

「あたしのせいだ…あたしが澪を独りにしてしまったから…澪は死んでしまった…」

 

本当に独りぼっちになってしまう時が訪れた事で凛の心に絶望の渦が湧き始める。

 

(澪の気持ちを受け入れて…女同士で幸せに生きていけてたら…過ちを犯さずに済んだの?)

 

彼女のその手はもう綺麗な手をしていない。

 

一人の人間の命と人生を奪った返り血に塗れた汚れた手になり果てている。

 

「あたしは魔法少女として失格なのかもね…。それでも蓮君を救う事は出来たって…信じたい」

 

それが唯一の心の慰めだと信じる彼女は前向きになりたいが戦う力が出ないし、気力もない。

 

「このままあたしも…澪の後を追うことになるんだろうね…」

 

それなら最後にもう一度だけ希望を持ってみたいと凛は決意する。

 

最後の希望を胸に秘め、愛する人に再び思いを伝える事を決めるのだろう。

 

彼は付き合った女が悪女だと気が付く事はついになかった哀れな男。

 

自分を愛してくれた女性を失った悲しみによって悲嘆に暮れている道化そのものだった。

 

「今度こそ本当の愛を届けてみせる。だってあたしは…心の底から貴方を愛しているんだから」

 

 

「……話って何さ」

 

「蓮君…彼女さんが亡くなったばかりでこんな事言うのも変だと思うけど、聞いて欲しいんだ」

 

「また彼女を悪者に仕立て上げたいのかい?亡くなった彼女の尊厳を踏みにじりたいのかい?」

 

「ち、違うよ…蓮君!あの女は本当に……」

 

「うるさい!なら君はどうなのさ!?僕は知ってるんだよ?君が夜中に街で夜遊びしてるって」

 

(それは魔法少女として…魔女や使い魔から人間達を守ろうと……)

 

「君の方がよっぽど悪女なんじゃないの?僕の心を傷つける言葉ばかり使うくせに!!」

 

「ち…違う!!あたしそんな女じゃない!!だってあたしは本当に貴方の事を……」

 

「失望したよ…凛ちゃん。君は高校に上がって変わってしまった…もう昔の君じゃないんだね」

 

泣きながら哀願しても彼女の言葉に耳を傾けてはくれない。

 

二度と近寄るなと言われてしまい、去っていく彼の後ろ姿を見つめながら崩れ落ちる。

 

「……これで、あたしの恋は完全に終わってしまった…。なのに…なんでだろ?」

 

――悲しみの感情よりも…どす黒い感情が湧き上がってくる。

 

「もう…蓮君みたいな男の子を苦しめさせはしない。悪女共は全員……許してやらない!!」

 

狂った東京魔法少女社会でさえ善良に生きてくれた魔法少女はついに壊れてしまうのであった。

 

 

「そこのお兄さん、ちょっといいですか?」

 

キャッチセールスを行っている美女が一人の若い男性を呼び止める。

 

男は美人に急に声をかけられ、嬉しそうに談笑を始めてしまう。

 

「もっと深い仲になりませんか?あそこの喫茶店で色々と話がしたいんです」

 

これは美人局と言われる罠である。

 

恐ろしい営業マン達に囲まれ、男は買いたくもない物をローンで買わされる末路が待つ。

 

「そうだね。それじゃ、僕が知っている喫茶店に……あれ?」

 

後ろを振り返ると、悪女は消えてしまっている。

 

「何処に行ったんだろ…え?地面に飛び散った赤黒い痕は…血痕?」

 

地面を見つめる男性よりもさらに上の光景では、ビルの屋上で立つ魔法少女がいる。

 

右手に持つ魔法のクレイモア大剣の刀身に刺さっているのは先ほどの悪女の遺体。

 

男性を罠にかけようとしていた悪女は心臓を串刺しにされたまま担がれていたようだ。

 

「ほんとグットタイミングだったね。今日も男の人をあたしは救うことが出来たんだ」

 

大剣を振り抜き、串刺しにした悪女をビルの壁に叩きつける。

 

「これは人間を救うための戦いだ…。あたしは男の人達を悪女共から救っている」

 

これも魔法少女としての正義の在り方だと自分の凶行を正当化してしまう。

 

「だって魔法少女は…()()()()()()()()()()()()()なのだから」

 

次々と東京の街で男を騙す悪女共が殺されていく。

 

グットタイミングの魔法少女はチャンスを逃さない。

 

狂った正義に魔法少女は溺れてしまう日々が続くのだ。

 

そんな日々が続いていき、季節も流れていった時、終わりを迎える事になるだろう。

 

12月24日の夜。

 

世間はクリスマス時期を迎えているが、この魔法少女の戦いは終わらない。

 

男女のカップルで賑わう表通りをビルの上から悲しそうな顔をして見守るのは凛の姿。

 

今日も悪女を殺す戦いを始めようとしていたが、こんな嘆きを呟いてしまう。

 

「あたし達魔法少女も…あんな自由な恋愛が出来たら…良かったね…」

 

そんな時、後ろから音も無く現れるのは黒衣の男性である。

 

「お前か?人間の女を殺し続ける…殺人鬼の魔法少女は?」

 

「え…?男の人……?」

 

凛はついに東京の魔法少女社会に現れる虐殺者と出会う事となるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

魔法少女の存在を知る者に対して凛は警戒心を持ちながら威嚇してくる。

 

「だったら、どうだっていうのさ?」

 

その一言の後、肌が突き刺される程の殺意を彼女は感じ取る。

 

「こんな……ありえない!?何なんだよ……このデカ過ぎる魔力は!?」

 

黒衣のフードが首の後ろから伸びる一本角によって跳ね除けられる。

 

発光する入れ墨が顔に刻まれ、金色の瞳を持つ素顔を男は見せてくる。

 

その時に凛は悟るだろう。

 

この男こそが東京で噂になっていた魔法少女を殺戮する者だという事を理解するのだ。

 

「人間じゃなさそうだな…。あたしも殺しに来たってわけ…?」

 

魔法のクレイモア大剣を構え、魔力を注ぐ。

 

「お前は人間の命をなんとも思わない外道だ。俺が殺してやる」

 

「そういう理由で魔法少女を殺戮してきたわけ?それが何だってのさ!」

 

好きな男の子を苦しめるような悪女共を殺して何が悪いと凛は叫んでくる。

 

「自分の別の幸せを何故見つけなかった?お前には…それが無かったのか?」

 

「ハハ…魔法少女同士でレズビアンになるしか…あたしらには道が無いのか?」

 

「…何が言いたい?」

 

「あたし達に……()()()()()()()()()!?」

 

――私達魔法少女も、あんなふうになれたらいいのに。

 

凛の慟哭の叫びによってかつて愛した魔法少女の言葉が脳裏を過る。

 

「そういう訳か?魔法少女が普通の恋愛を望む事が…どれだけ無謀か分からないのか?」

 

「知ってるさ!魔法少女の秘密を隠して男性と付き合う事の愚かさぐらい!」

 

明日をも知れない身で秘密を隠しながら男の人と交際なんて不可能。

 

それでも恋の道とは理屈ではないのだと凛は叫んでくる。

 

「だからお前は…男を選んだわけか…」

 

「そうさ…男の人との恋愛を…諦めたくなかったんだ…」

 

魔法少女社会の恋愛事情はガールズラブ社会なのは凛も感じていたと悪魔に語りだす。

 

「あたしもね…パートナーから告白された事がある……」

 

「パートナーと共に…何故大人しくしてこれなかった?」

 

「告白されたけど断った。だから澪は去った…そして行方知れずで…死んだ」

 

「…………」

 

「あたしは……独りぼっちになった…」

 

最後の希望を持って好きな人に告白したけど誤解されたまま拒絶され、凛の恋は終わる。

 

それでも好きな人を騙し続けた悪い女を殺す事で、好きな人の人生を救えたと殺戮を正当化する

 

「世直しのつもりで悪女共を殺して回っていやがったか…ふざけやがって」

 

「あたしだって!最初は人間を守るために魔法少女パートナーと共に戦ってきたさ!」

 

「何故その気持ちを捨てやがった!」

 

「それでも救いようのない人間共が正しい人間を傷つける!あたしは正しい人間を救いたい!」

 

「お前は()()()()()()()()()()()()()()()()。人間社会の敵め…必ず殺してやる」

 

「ハハ…人間だけが尊いってわけ?()()()()()()()()()()()()…あんたに言われたくないよ!」

 

クレイモア大剣で八相の構えを行いながら刃を悪魔に向けてくる。

 

「「()()()()()()()()()は…自分で決めるッ!!!」」

 

互いが一気に踏み込む瞬間、悪魔は目の前の魔法少女の強さに気づくだろう。

 

(この魔法少女…強い!他の魔法少女とは明らかに覚悟が違う!!)

 

本物の戦士の目を持つ強敵に対して黒衣を掴みながら脱ぎ捨てる。

 

手を抜いたら自分の首が落ちる程の気迫を纏う魔法少女も迫りくる。

 

魔力で生み出す光剣を握り締めた悪魔が大剣と斬り結び合う。

 

愛する者を失った悪魔と、愛する人の為に生きた魔法少女との戦いが始まっていく。

 

「「くっ!!」」

 

互いの剣が軋み合う。

 

悪魔の光剣の光熱が容赦なくクレイモア大剣を溶断出来るはずだが、それが出来ない。

 

「この女の魔法武器な何だ……硬過ぎるぞ!?」

 

「あたしの武器は…あたしの心の形!!絶対に折れてやらないと誓う…意志の固さだぁ!!」

 

左腕の肘打ちが彼女の右側頭部に襲いかかる。

 

彼女は負けじと左肘で悪魔の右側頭部を殴りつける。

 

「「うおおおおーーーーッッ!!!!」」

 

互いの乱撃の一撃一撃が火花を夜空に輝かせ、剣舞を繰り返す。

 

「俺を相手に一歩も後ろに下がらないか!実力だけは認めてやる!!」

 

「あたしは一歩たりとも引き下がらない!常に後ろにいた仲間を守り抜いてきた女なんだ!」

 

今は後ろにいなくても、心にはいつも大切な魔法少女パートナーがいてくれる。

 

強き思いの力が悪魔の猛撃に対して一歩も譲らない戦いの力を与えていく。

 

「チッ!!」

 

互いの斬撃が切り結び合い、互いが前に押し出る。

 

互いに背を向け合う中、振り向いた者達が再び斬り結び合う。

 

斬撃を受け止め硬直すれば容赦なく左腕で殴りつけ、相手もまた殴り返してくる。

 

悪魔の一撃で後ろに後退するが、ふらつきながらも踏み留まり大剣の刺突を仕掛けていく。

 

「くたばれーっ!!」

 

光剣で刺突を弾き、乱撃を打ち込み合う。

 

彼女の一撃を下に打ち落とすが、彼女の大剣が悪魔の頭を狙う刺突を放つ。

 

「くっ!!」

 

額をかすめて血が滲み、前髪が何本か舞い、怯んだ悪魔に対してさらに猛撃を繰り返す。

 

斬撃を受け止めた悪魔が放つ左ボディブローが彼女の横腹を襲う。

 

「ガハッ!?」

 

なおも怯まず体を捻り、悪魔の足を刈ろうと払い斬りを行う。

 

悪魔はバク宙を行いながら払い斬りを避け、距離を離した相手同士が睨み合う。

 

「ハァ…ハァ…あたしは…間違っていない!!」

 

「お前の心は強いよ…。だが、人間を殺す魔法少女を…俺は決して許しはしない!」

 

「ハァァァァーーーッッ!!!!」

 

魔女の首をも跳ね落とす程の渾身の一撃が迫りくる。

 

光剣で斬撃を受け止める悪魔は左拳で彼女の顔面を殴りつける。

 

彼女も負けじと左腕で殴り返そうとするのだが、罠だった。

 

「あっ…!?」

 

体を素早く拳打の横に滑り込ませ、伸び切った腕を掴み、当身を肘に打ち込む。

 

「ぐあっ!!?」

 

左腕の骨が砕け散る音が響く中、怯んだ彼女の頭部に目掛けて左ハイキックの一閃が決まる。

 

「……浅かった」

 

咄嗟に蹴り飛ばされる方角に向けて跳躍した彼女は蹴りの威力を半減させてくる。

 

ビルのアスファルトに大剣を突き立てながら彼女は起き上がっていく。

 

「あんた…本当に強いね。きっと……ここがあたしの死に場所になる」

 

右腕のクレイモア大剣を天に向けながら持ち上げていく。

 

「何をする気だ……?」

 

後ろ髪のポニーテールに大剣を近づけながら、恋に生きた乙女を捨てる覚悟を示す。

 

「さよなら……可愛い女の子のあたし」

 

一気に大剣を上に持ち上げ、美しいポニーテールの髪が切り落とされてしまう。

 

「……女である事を捨てたか」

 

夜風が美しい女性の象徴を運んでいく中、凛々しい戦士の鋭い眼光が向けられる。

 

「もう愛した人と結ばれたいと願った恋路も絶たれた…そして、あたしの殺戮の報いも訪れた」

 

「それが…()()()()という概念さ。魔法少女だからこそ…()()()()()()()()()()()

 

「なら…あたしは一振りの剣になる。魔法少女である事も、女である事も捨てて…剣になろう」

 

右肩にクレイモア大剣を担ぎ上げるようにして構える。

 

「行くぞ……これがあたしの…最後の戦いだ!!」

 

悪魔の拳が強く握り締められる。

 

手負いになりながらも闘志は怯まない相手に対して悪魔は敵の覚悟を感じているだろう。

 

「この女の信念の強さは…本物だった。これ程の敵と戦えたのは久しいが…次の一手で倒す」

 

睨み合う二人が今、風となる瞬間が訪れる。

 

互いがアスファルトを踏み砕く程にまで踏み込み、爆ぜる地面と共に前に飛び出る。

 

二つの意思が激しくぶつかり合った時、決着が訪れるだろう。

 

クリスマスミサの鐘の音が響く中、クリスマスの夜空には敗北者の掠れた声が響きだす。

 

「……やったね、ヒーロー。人間を……守れたじゃん」

 

「…俺はただの人殺しだ。何故…振り下ろさなかった?」

 

悪魔の光剣は彼女の心臓を抉っている。

 

凛のクレイモア大剣は背中で止められたままだった。

 

「本当はあんたに…あたしを止めて欲しかったのかも……ね」

 

大剣を握った手が緩み、剣が地面に落ちてしまう。

 

悪女達を誅伐する信念の剣を彼女は手放し、後ずさりながら彼女は倒れてしまう。

 

「お前程の魔法少女が…どうして……」

 

戦いを制したのは人間の敵を殺すだけの人殺しの殺戮者であるが、彼は動揺を隠せない。

 

近寄って片膝を折りながら彼女の最後の言葉を聞いてあげる事にしたようだ。

 

「本当は分かってたんだ…あたし…こんなのただの…八つ当たりだってさ…」

 

「……そうか」

 

「人殺しになって…魔法少女失格になった…。最後の恋心さえ…愛する人には届かなかった…」

 

「俺も経験がある。聞いて欲しい言葉が、叫びたい言葉があるのに…誰にも声は届かない」

 

世界に必要とされなかった苦しみの経験を持つ悪魔だからこそ彼女の苦しみが分かってしまう。

 

「あたし…澪にもう顔向け出来ない…肩を抱いてあげるには…人間の血で…汚れ過ぎちゃった」

 

「澪…お前の魔法少女パートナーの名前か?」

 

「うん…あたしの大切な魔法少女パートナーだった…でも…あたしが澪を…傷つけちゃった」

 

命を預けてもいいほど信じ合えた魔法少女パートナーであるが、恋愛観の違いだけですれ違う。

 

それがどれだけの苦しみだったのか、思想の違いで友と殺しあった人修羅ならば分かるだろう。

 

「もし澪が…普通の友達として…仲間として接してくれてたら…過ちを犯さなかったかも…?」

 

「そうかもな……お前の愛した人の名前は?」

 

「蓮君。あたしが中学の頃からずっと好きで好きで堪らなかった…愛した人…」

 

「気持ちが届かなくて…残念だったな」

 

「いいよ…こんな人を殺す女の子なんて…きっと優しい蓮君には似合わな…ゴホッガハッ!!」

 

大きく咳き込みながら吐血し、ソウルジェムも濁り果てていく。

 

「お前の最後を看取ってやるのが…愛する男でなくて悪かったな」

 

「ううん…。男の人に看取ってもらえるなら…魔法少女社会じゃ…上出来だよ…」

 

「魔法少女の隣には常に魔法少女がいる…。魔法少女社会の現実しか…連中も見ようとしない」

 

「そんな世界で…魔法少女同士の恋愛の世界とは違った…普通の世界を…みたかった…」

 

――普通の人間と同じように…()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……お前の名前を教えてくれ」

 

「ゲホッ!ゲホッ!!凛…それが…恋愛の敗北者の…名前さ…」

 

普通を願った彼女の心は魔法少女として間違いだと言い切れるのだろうか?

 

「凛!!お前は自由な夢を見ていいんだ!お前の心を…束縛なんて誰にもさせやしない!」

 

彼女の震える右手を男悪魔が握り締めてくれる。

 

「魔法少女であったとしても…自由に…人間らしく…夢を見てみたかった……」

 

愛する人と結ばれ、人間と同じように幸せに暮らしていく夢を魔法少女は見てみたかった。

 

「お前はもう世界に悲しみを撒き散らす必要はない!お前は普通の幸せを手にしていいんだ!」

 

「ありがとう…。最後に…貴方のような男の人と出会えて…本当にグットタイミングだった…」

 

「お前の最後を看取る男の名は尚紀だ!俺はお前を忘れない!」

 

――お前のような魔法少女がいてくれて…俺は東京に希望が持てた!!

 

泥のような東京の魔法少女社会にも美しく咲いてくれる華のような魔法少女がいてくれた。

 

それが彼にとって、どれほど眩しく見えた事だろうか。

 

「蓮君…今度こそちゃんとした女性と…出会って…幸せになって…欲しい…なぁ……」

 

そう言い残した凛の瞳孔は散大して死を迎える。

 

彼女の胸元にあるソウルジェムを手に取った男悪魔は魔女として孵化する前に砕いてくれる。

 

「………おやすみ。いい夢を見ろよ」

 

彼女の瞼を手で閉じ、亡骸を見つめ続ける彼の重い口が開く。

 

「……おい、いつまで隠れてるんだ?そこの二匹…出て来いよ」

 

そう言われるとバツが悪そうにしてケットシーとネコマタが物陰から出てくる。

 

今日は満月であり、悪魔の血を持つ存在達もこの日ばかりは悪魔の姿を取り戻せるようだ。

 

「……可哀想な魔法少女だったニャー」

 

「魔法少女として普通の恋をする自由も得られずに死ぬなんて…哀れな少女ね」

 

三体の悪魔に見守られながら一人の魔法少女の恋物語は終わるのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

黒衣を纏った尚紀と二匹の悪魔が表通りを歩く。

 

粉雪が舞い降り、ホワイトクリスマスを迎えながらも心は晴れてくれない。

 

「魔法少女って連中は…どうして…自由に生きちゃ駄目なのかニャー?」

 

ケットシーは悶々とした感情を我慢出来ずに喋ってしまう。

 

「魔法少女は存在を秘匿して戦う少女達…なら…秘密を共有し合える子といた方が幸せよ…」

 

「そこが分からないニャー。女の子同士一緒にいたら、なんで幸せな愛が芽生えるニャ?」

 

「吊り橋効果というものよ」

 

危険と隣り合わせの少女同士の方が普通の男より愛情が芽生え易くなる心理だと教えてくれる。

 

「そんな世界もあるニャ?でもあの子はそんな魔法少女の恋愛が嫌だったのかもしれないニャ」

 

「普通の人間の幸せ…それは魔法少女にとっては…望む事も許されない世界なのでしょうね…」

 

「どうしてニャ、ネコマタ?」

 

「深く絆を結んだ愛する魔法少女が…他の男なんて好きになってみなさい?絶対に傷つくわ…」

 

「またまたどうしてニャ?」

 

「魔法少女同士の恋愛の世界に()()()()()()って…怒り出すからよ」

 

「ニャー!?そんな怖い女の子もいるのかニャ!?」

 

「女の恨みは恐ろしいのよ~ケットシー?」

 

無駄話ばかりしている二匹の猫悪魔達に構わず尚紀は歩き続ける。

 

表通りの隅ではサックスを演奏しているストリートミュージシャンがいるようだ。

 

立ち止まって演奏を聞いていたが、ポケットを漁り万札が一枚あったのを掴む。

 

「……一曲、頼んでいいか?」

 

万札を空き缶の小銭入れの中に入れる。

 

「え…?こんなにいいんですか?」

 

「バラード曲を頼む」

 

「せっかくのホワイトクリスマスですもんね。それじゃ、ラブ・バラードでも演奏します」

 

男として生きる尚紀は演奏を静かに聞いてくれる。

 

大切な人に送る、言葉以上のものを感じさせる曲が冬空に流れていく。

 

そんな中、隣には高校生ぐらいの少年も訪れて同じように小銭入れにお金を入れる。

 

「……いい曲ですね」

 

「……そうだな」

 

隣に現れたのは凛が愛した男性である。

 

彼もまた愛する人を失った悲しみを癒そうと立ち寄ったみたいだ。

 

街行く男女の若いカップル達。

 

煌びやかに輝くクリスマスの恋愛の世界。

 

これはそんな世界を普通のカップル達のように生きる事も出来なかった魔法少女に送る曲。

 

ノーマルラブ・バラード、()()()()()()()()であった。

 




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