人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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219話 医療の闇

神浜テロの時においては緊急事態を迎えていたのは里見メディカルセンターである。

 

ここには多くの被災者達が詰めかけたことにより野戦病院の如き騒ぎとなった場所。

 

現在では落ち着きを取り戻しており、通常業務へと復旧することが出来たようであった。

 

「せ…先生…夫は助からないんですか…?」

 

涙ながらに顔を向けてくるのは寝台の上に寝かされている男の妻である。

 

担当医は顔を俯けているのだが、伝えなければならないことを伝えようとする。

 

「申し訳ありませんが…助かる見込みはありません。手は尽くしたのですが…」

 

寝台に寝かされた男の顔は痩せ細り、投薬の影響で頭髪まで抜け落ちたハゲ頭となっている。

 

目は虚ろとなり、薬の副作用に苦しみ殺してくれと呟くばかり。

 

「抗癌剤を投与すれば癌から助かるんじゃないんですか!?なんのための薬なんです!?」

 

「抗癌剤は万能薬ではありません。投与したからといって癌から助かる保障はありません」

 

「そ、そんな……許せない!!助からない薬を投与するなんて()()よ!!」

 

「抗癌剤治療を望んだのはあなた方です。自己責任となりますね」

 

「そんなのって……ないわよ……」

 

泣き崩れてしまった患者の妻にかけてやれる言葉もなく、担当医は病室から出て行ってしまう。

 

病院内の通路を歩いていく担当医の表情は無念に苦しみ、拳は怒りによって震えていた。

 

日が沈む頃。

 

里見メディカルグループを統括する代表者の執務室の扉が開く。

 

「誰だ?」

 

執務用の机で仕事をしていた男とは里見メディカルグループの代表を務める男である。

 

白衣を着た中年の男であるが顔は痩せ細っており、心労で疲れ果てた顔を浮かべていたようだ。

 

入ってきたのは先ほどの担当医の男であり、怒りの表情を浮かべながら近づいて来る。

 

「私は…私はもう我慢なりません!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて!!」

 

担当医が叫んだ話の内容とは、日本の医療業界にとっては絶対の禁句である。

 

それでもこの医者は自分の頭で考え、権威に屈服しない医者としての意地を示す。

 

「医療は仁術です!!私が医者を目指したのは()()()()()()()()()()()()()()()ではない!!」

 

黙って清聴してくれていたが厳しい目を代表者は向けてくる。

 

「言いたい事はそれだけか?ならば仕事に戻りたまえ」

 

「日本の抗癌剤は海外ですら副作用が強くて禁止されている!それさえも日本政府は輸入する!」

 

「その通り。日本人は欧米人からこう呼ばれてきたな…()()()()()()()()()()()()だと」

 

「世界の薬の40%が日本で使用される!欧米の製薬会社を儲けさせるために輸入するんです!」

 

「日本の病院数は米国と英国の病院数を足しても上をいく。数が多いなら儲ける必要があるんだ」

 

「患者を世界で禁止した毒物で薬漬けにしてでも…利益が必要なんですかぁ!!?」

 

「そうだ。それが医師会と連盟、国会と霞が関官僚達が決めたことだ。私はそれに従うだけだよ」

 

「あんたそれでも医者なのかぁ!?仁術である医療を悪徳商売にして心が痛まないのかぁ!!?」

 

それを言われた代表者の眉間にシワが寄り切り、拳を机に叩きつける。

 

「いい加減にしたまえ!!私を糾弾したところで日本の医療は変わらん!!嫌なら出ていけ!!」

 

出て行けと言われたことにより、担当医の男が急に動揺を見せ始める。

 

医者になる夢を叶えた男が医者である事を辞めさせられるというリスクが恐ろしくなったようだ。

 

「そ…それは…その……」

 

「…君はここをやめて独立開業出来る程の資本はあるのかね?」

 

「…ありません」

 

「私はね…資本の無い医者という労働者達を守る責任がある。悪徳商売は君達のためにしている」

 

「私達だけが儲かれば…患者達の命や家族の慟哭は…どうでもいいと言うのですか…?」

 

「…全てを救う力など私には無い。私は私についてきてくれる者達だけを守る…それしか出来ん」

 

西の長と呼ばれた時代の七海やちよと同じ苦しみを背負う代表者は患者を騙して切り捨てる。

 

その姿は魔法少女達を優先して人間達を見捨てる判断を下した七海やちよの姿そのものだろう。

 

彼もまた医療グループの長である者として君主論であるマキャベリズムを実行する者。

 

人も組織も国も建前では動かない。

 

互いの利益がなければ病院グループを経営することすら出来ないし勤めてくれる者達も守れない。

 

「…申し訳ありません。出過ぎたことを…言いました……」

 

「…もういい、下がってくれ。医者として食べていきたいなら…今まで通りにしていろ」

 

確実なる資本支配の光景が生み出され、モデル事務所の社長に平謝りしたやちよと同じとなる男。

 

志しある善人であろうとも誰も資本支配には敵わない。

 

静香の母親も経験した苦しみであり、全ての労働者達が背負う苦しみでもあった。

 

担当医が去ったのを見送った代表者は大きく溜息をつき、苦虫を噛み潰した顔つきを浮かべる。

 

「日本に主権などない…どうする事も出来ない。毒薬であろうと輸入させられるしかないのだ…」

 

疲れ切った体を持ち上げ、棚が置かれているスペースまで歩いていく。

 

立ち止まった彼が手に取ったものとは写真立て。

 

写っていたのは目に入れても痛くない程にまで溺愛した娘、里見灯花と父である自分の姿。

 

「灯花……」

 

里見メディカルグループの代表であり、一児の父親でもあった男は思い出す。

 

あれは里見灯花が病死して葬儀を行った日の出来事であった。

 

……………。

 

雨が降りしきる日、若くして病死した里見灯花の葬儀は粛々と行われていく。

 

参列者の中には病院関係者が多く参列し、親族の中には喪服姿の里見太助と娘の姿もあった。

 

「灯花……灯花ぁぁぁ……ッッ!!」

 

棺桶に入った物言わぬ愛娘を前にしながら献花を行う父親は泣き崩れてしまう。

 

「許してくれ…灯花…!!お前の命を守る事が出来なかった父親を…許してくれぇぇぇ!!!」

 

病院関係者達が彼に肩を貸してあげながら立ち上がらせてくれる。

 

「これが…ヒック…これが罰なのか?灯花…医者となった私が…全て悪いんだぁぁぁ!!!」

 

嗚咽が止まらない者の姿に声を掛けることも出来ないのは弟の里見太助のようだ。

 

「兄さん……」

 

彼は兄から遠ざけられた弟であるが、それでも親族として参列してくれている。

 

顔を俯けたまま隣に立つ娘の那由他も堪えきれずに泣き出してしまう。

 

「ぐすっ…ヒック…どうして…どうしてあの子は不治の病になんて…なってしまったんですの?」

 

「それはね……神様が兄さんに与えた()()かもしれないよ」

 

「天罰…ですの……?」

 

「私はね…病院グループを継ぐのが嫌だったから民俗学の道に進んだ。それには理由があるんだ」

 

「それは…何ですの……?」

 

「……患者達の命を啜りながら金儲けをするのが嫌だったからさ」

 

それ以上は何も言わなくなり、娘の那由他は父親を見ながら動揺を浮かべることしか出来ない。

 

(日本の医療は病気を治さない…そして殺さない。薬漬けにしながら長生きさせて薬で儲ける…)

 

巨大組織になった医療業界は、もはやマフィアのように利権を独占することしか考えていない。

 

患者は金づるであり、日本人の体を世界で禁止されてきた毒薬のゴミ箱として利用していく。

 

飲む必要がない薬まで処方される現在の日本の医療環境こそが莫大な利権なのであった。

 

(全ては欧米裏権力の掌の上…日本に主権なんてない。トルーマンだって日本を嘲笑ったんだ)

 

第二次世界大戦終戦時の米国大統領であったトルーマンはこんな言葉を残す。

 

――猿(日本人)を虚実の自由という名の檻で我々が飼うのだ。

 

――方法は彼らに多少の贅沢さと便利さを与えるだけで良い。

 

――そしてスポーツ、スクリーン、セックス(3S政策)を解放する。

 

――これで真実から目を背けさせることが出来る。

 

――猿は我々の家畜であり、家畜が主人である我々のために貢献するのは当然のことである。

 

――そのために我々の財産でもある()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

――これによって我々は収穫を得続けるだろう。

 

――これは、戦勝国の権限でもある。

 

(若い頃にこの歴史を知った時…私は日本に絶望した。そして欧米裏権力を知る必要が出来た)

 

薬とは石油製品であり、欧米でナンバーワンの石油財閥とはロックフェラー家。

 

彼はロックフェラーやロスチャイルドを追っていくうちに金融マフィアの存在に気が付いた。

 

そして、彼は秘密を追い続けた果てに襲われることになるだろう。

 

出棺することとなり、喪主である灯花の父は遺影を持ちながら皆に向けて深々と頭を下げる。

 

未だに体が震えている彼の元にまで歩いてくるのは同じ医療大学の先輩である老人だった。

 

「里見君、涙を拭きなさい。君は里見メディカルグループの代表者なんだぞ?」

 

「佐藤先輩…ありがとうございます」

 

現れた人物とは佐藤メディカルグループの代表であり見滝原総合病院で院長を務める佐藤博信。

 

しかしそれは表向きの肩書きであり、彼は転生したアレイスター・クロウリーなのだ。

 

ハンカチをポケットに仕舞ったアレイスターが灯花の父の両肩を掴む。

 

激励でもしているように映るだろうが、アレイスターは小声でこんな言葉を言ってくる。

 

「今更後悔しているとかは言わないだろうね?」

 

「そ、それは…その……」

 

「医療という詐欺を続けてきた罰が下ったのだと叫んだ君の姿が心配でね…確認がしたいのだ」

 

終始笑顔を向けてくるアレイスターではあるが、両肩を持つ手にどんどん力が入っていく。

 

「君は患者を騙しながら儲けてきただろう?娘に頼まれたらプライベートビーチまで買う程にね」

 

「ぐっ…うぅ……」

 

「ビーチを買った時は娘と出かけたのだろう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

灯花の父の体はガタガタと震えが止まらなくなっていく。

 

懺悔の気持ちなど許さないとばかりに老人は両肩を掴んだまま放してくれない。

 

「懺悔の気持ちに耐え切れず、いらぬ事を喋るならば…君も娘の後を追う事になるやもしれん」

 

「あ…あぁ……」

 

「黙っていれば丸儲け…騙される連中の自己責任なのだよ。今までも…そしてこれからもね」

 

魔法少女を騙してきたキュウベぇと同じ手口を語ってくる男が恐ろしくて震えが止まらない。

 

もはや懺悔の道すら無いのかと、灯花の父は頷くことしか出来ない始末。

 

「それでいい。これからも日本の医療業界を共に支えていこうではないか……里見君」

 

女のような中性的な声で喋る不気味な老人は手を離して去っていく。

 

出棺のために霊柩車に乗り込んだ灯花の父は遺影を抱きしめながら許しを請う姿だけを残した。

 

……………。

 

「医療は仁術か…。ならば私はもう医者とは呼べない……ただのビジネスマンだ」

 

写真に写った我が子の冥福を祈る事しか出来ない男は乾いた笑みを浮かべながら写真を見つめる。

 

天国に旅立った娘の元には逝けないことなら灯花の父は分かっているのだろう。

 

人々の命を弄びながら稼ぎ、その仕組みすら公然と叫ばない詐欺師に待っているのは地獄のみ。

 

アメリカの理学学士、医学博士であり政治家だった男はこんな言葉を残す。

 

我々が政府に医学的決定を下す力を与えるという事は本質的には()()()()()()()()()()()()のだ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

製薬会社とその株主に飼われた営業マンともいえるのは灯花の父だけではない。

 

医師会や連盟に加入している医療団体とて同じであろう。

 

医師会に所属する者の中には勿論アレイスター・クロウリーもいる。

 

彼は何の罪悪感すら感じておらず、インキュベーターの如く人の命を金儲けとして喰らう者。

 

そんな彼が院長を務めながら経営している病院には今日も大勢の患者達が詰めかけている。

 

見滝原総合病院内では警備会社から派遣されている警備員の姿も多い。

 

昼間だけでなく夜間も巡回警備を行う警備員の中には変装した尚紀の姿があった。

 

「誰も通路を歩いていない病院内を見ていると…新宿衛生病院を思い出すな」

 

警備を続けながらも、彼が何故こんな仕事をしながら潜入捜査を行う事になったのかを振り返る。

 

あれは暁美ほむらから連絡を受けて彼女の家に行った時の出来事だった。

 

「その目……どうしたの?まるで白人のような青い目に変化したように見えるわよ」

 

「眼科に行って聞いたが…加齢によって目の色は変化するそうだ。気が付いたらこうなってたよ」

 

「そう……体に異常が無いのなら私は気にしないわ。入って頂戴」

 

ほむらを心配させまいと尚紀は目の変化については誤魔化す態度を貫くようだ。

 

彼が招き入れられたのは赤青黄色などのカラフルな曲線ソファーが並ぶ異空間。

 

天井部位に備え付けられた時計の剥き出し内部かと思わせるゼンマイ装置が不気味さを醸し出す。

 

「死神の鎌のようなものがゼンマイ時計の振り子かよ…悪趣味極まりないな」

 

「この空間はクロノスが生み出す結界よ。適当に座って」

 

黒のトレンチコート姿の尚紀がソファーに座り込み、ほむらと向かい合う。

 

「それで?俺を家に呼び出してまで話したい依頼内容とは何なんだ?」

 

依頼内容を問われた彼女は顔を俯けてしまう。

 

語るのも憚られる程の悪夢の世界であったが、だからこそ見て見ぬフリは出来なくなったようだ。

 

「悪夢で見た光景が現実でも起きているのかを調査しろだと…?本気で言ってるのかよ?」

 

「私が夢で見た見滝原総合病院の地下にはね…おぞましい領域が隠されてあったのよ」

 

「待て待て、夢で見た内容が本当かどうかなんて調べる必要があるのか?夢の世界の話だぞ?」

 

「ただの悪夢であってくれたのならそれでいい。だけど…夢にしては余りにも現実感があったの」

 

「参ったな…夢の調査をしてくれと依頼される探偵なんて俺が初めてなんじゃないのか?」

 

「普通の探偵なら相手にもしないでしょうね。だけど、貴方が悪魔だからこそ頼みたいのよ」

 

「それは…悪夢で見た世界とやらが悪魔と関係しているかもしれないからか?」

 

不快な表情を浮かべながらも彼女は悪夢の世界で見た光景を語ってくれる。

 

彼女の話の内容を聞いた尚紀の脳裏には忘れられない光景が浮かんでしまう。

 

「ほむら……この依頼、受けさせてもらう」

 

「その表情……何か思い当たる点があるのかしら?」

 

「お前が夢で見たという光景の内容なら俺も見た事があるんだよ…新宿衛生病院の地下でな」

 

「何をしている場所だったの…?」

 

「…悪魔崇拝をしている団体の秘密施設だった。儀式殺人をしているような痕跡も見つけた…」

 

「私の悪夢と同じ内容ね…私が夢で見た施設も悪魔崇拝を行う者達が好みそうな空間だったのよ」

 

「だとしたら…見滝原総合病院は悪魔崇拝を行う団体の隠れ家的な拠点か何かなのか?」

 

「それを見つけだして報告して欲しい。もし悪夢の内容が現実だったなら…放置出来ないわ」

 

「まどかや杏子達以外の赤の他人を気にしてくれるとはな…本当のお前は優しい女で安心したよ」

 

「儀式殺人の生贄にされていたのは子供達だったの。あんな光景を繰り返させる訳にはいかない」

 

「了解したが…問題はまだある。お前は中学生なんだろ?手付金をくれるのか?」

 

「勿論よ。言い値で払ってあげるわ」

 

無い胸を張って自信満々な顔つきを見せてくる彼女を見て、怪訝な顔つきを浮かべてしまう。

 

「もしかして……お前って、お嬢様だったのか?」

 

「今は独り暮らしだけど東京郊外の豪邸で暮らしていたの。金銭面の問題を感じた事は無いわね」

 

手付金を聖探偵事務所の口座に入金してもらったことにより、正式な依頼として承諾する。

 

潜入捜査を行うための準備をするために帰路につく彼の後ろ姿をほむらは見送ってくれたようだ。

 

「彼を頼る事になったのは…記憶操作を用いて問い詰めても手掛かりを掴めなかったからなの…」

 

ほむらは彼を雇う前に単独で捜査をしていたようだが、病院関係者は誰も地下を知らなかった。

 

悪魔となった彼女の魔法はそれだけではないのだが、それを与えてくれる者は沈黙したままだ。

 

「クロノス、貴方は協力してくれる気はないということね?」

 

死神の振り子が揺れ動くクロノスの結界内で声を上げるが、返事は返ってこない。

 

クロノスを魔法盾に変えて時間停止を行使すれば単独潜入も簡単であったが出来なかったようだ。

 

(今でもルシファーと繋がっているクロノスが動かないのなら…あの施設の正体はまさか…)

 

嫌な予感を巡らせながらも彼女は自分の悪夢がただの夢でしかなかったことを願う。

 

彼女の夢が正夢であったのなら、今この時でも子供達が儀式殺人の生贄になっていたからだった。

 

……………。

 

「この病院は警備会社の契約を二つ行っている…。もう一つの警備会社の連中は何処だ?」

 

巡回を続けていたら別の警備員と突き当りで出くわしてしまう。

 

現れたのは警備員の制服を着せられ、不満げにライトを尚紀に向けてくるセイテンタイセイだ。

 

「なんで俺様まで探偵の仕事に付き合わされるかねぇ…」

 

「美雨からの依頼がない時は暇人なんだし手伝え。丈二は別件捜査で忙しくて来れないし」

 

「まぁいい、貰える小遣い少ないし…ちゃんと手伝った分の給料をもらうからな?」

 

「分かってるって…。それより、ほむらから聞いたエレベーター方面はどうだった?」

 

「巡回してたが地下に下りるエレベーターなんぞ見つからなかったぞ?ただの夢だって」

 

「それなら構わないんだが…どうも引っかかるな。ほむらはどのエレベーターで地下に下りた?」

 

2人で考え込んでいたが、医者の姿をした者が近づいてくる。

 

現れたのは幻魔種族の固有能力である擬態の力を用いて職員になりすましたクーフーリン。

 

「この病院の副院長に暗示魔法をかけて聞き出せた。どうやらこの病院は黒で間違いない」

 

「流石は魔法にも長けた幻魔種族だ。こういうデリケートな役目は槍一郎に限るな」

 

「ケッ!俺様は犬っころよりも頼りにならねーってかぁ?」

 

「そうは言ってないだろ…マスターは暴れることに関しては頼りにしてるって」

 

「フン、嫉妬に狂った猿など置いていけ。こっちだ」

 

猿のようにキーキーと怒り出す悟空をなだめつつ、尚紀は槍一郎に案内されていく。

 

彼が案内した場所とは悟空が巡回したエレベーターエリアであり、隣には階段もある。

 

「ここは何もなかったぞ?本当に地下に下りるエレベーターがあるのかよ?」

 

「まぁ、見ていろ」

 

槍一郎が非常ベルの起動装置の蓋を開けて中に隠されていたボタンを押す。

 

すると階段が持ち上がっていき、下側には隠し階段が現れたようだ。

 

「なるほど…悪夢の世界のほむらは上に持ちあがった階段に気が付かないまま下りたようだな」

 

「人間の意識は狭い部分にしか向けられないものだ。だから手品のような小細工が通用する」

 

「武術の世界でもそれは同じさ。フェイント技術は意識操作と同じ手口だからなぁ」

 

「よし、行ってみるか」

 

ここまでくれば変装は必要ないと元の人間姿に戻った槍一郎の背中に2人はついていく。

 

奥には隠しエレベーターが存在しており、ボタンを押して後ろを警戒しながら到着を待つ。

 

槍一郎がエレベーターパネルの横にあるスイッチを押せば上階の隠し階段が下りたようだ。

 

「これで誤魔化せるだろう。さぁ、鬼が出るか蛇が出るか…何でも現れるがいいさ」

 

エレベーターが到着した3人が乗り込み、見滝原総合病院の深部へと降りていく。

 

この領域こそほむらが見た悪夢の世界であり、人修羅として生きる尚紀も見た事がある場所。

 

悪魔崇拝者達が秘密の会合と儀式殺人を行う場であり、ダークサマナー達も利用する施設。

 

かつて在った世界で見た悪魔崇拝ガイア教施設と変わらない地の底を象徴する地獄であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

地下施設にエレベーターが到着して扉が開く。

 

開けた地下空間には警備室である検問所が設けられており、座っていた警備員達が立ち上がる。

 

「エレベーターから人が降りてこないぞ…?」

 

「エレベーターの誤作動か?ちょっと見てくるか」

 

不審に思った警備員達がエレベーターに近寄った時、隅に隠れていた男達が警備員の腕を掴む。

 

「「うわっ!!?」」

 

引き摺り込まれた警備員達の真ん中に立った悟空が左右に向けた掌底打ちを放つ。

 

「「ぐふっ!!!」」

 

腰を落とし馬歩の状態から打開と呼ばれる掌底打ちを放ち、警備員達を昏倒させてくれた。

 

警備員を引き摺りながら出てきた男達が周囲を見回し、ボルテクス界に存在した光景を思い出す。

 

「…気味が悪いぐらい似ている光景だな」

 

「そうだな…この病院の地下空間はかつての新宿衛生病院の地下施設とよく似ている」

 

「懐かしい思い出に浸ってないでコイツらを隠そうぜ」

 

監視モニターが並んだ警備室にまで連れ込まれていく警備員達。

 

別会社から派遣された警備員の服を脱がせ、自分達が着ていた警備員服を脱いでいく。

 

警備室から出てきたのは別会社の警備員に擬態した尚紀と悟空であった。

 

「置いてあったセキュリティーカードの見た目まで同じだ…俺まで夢の世界に来た気分になる…」

 

「無線はオンにしておけ。ここからなら施設内の連中を見張れるから私が指示を出す」

 

「俺様としては蜂の巣を叩いた騒ぎの方が楽しめるが…まぁ給料分の働きならしてやるさ」

 

警備室の奥に向かえば鉄の格子戸ゲートが立ち塞がる。

 

セキュリティーカードを差し込むと格子戸ゲートが横にスライドするようにして開いてくれた。

 

「……何だ?」

 

一瞬だが、尚紀の目には不可解な光景が映ってしまう。

 

白人のような青い瞳となった尚紀に見えたのは新宿衛生病院の地下空間の光景。

 

首を振り視線を戻せば似ているが違う景色である元の空間が青い目に映ったようだ。

 

「どうした?」

 

「……何でもない、先を急ぐぞ」

 

ゲートを超えた2人は警備員のフリをしながら巡回している者のように振舞っていく。

 

無機質な壁を薄暗い明かりが照らす不気味な通路を超えていくのだが周囲に目がいってしまう。

 

「…ここの施設の持ち主は相当な悪趣味をしているようだな」

 

「ああ…飾られた絵画の数々は異常小児性愛者が描いたとしか思えない卑猥なものばかりだ」

 

「人体をバラバラにしてカニバルを楽しむ絵画もあるぜ。俺様はこういう連中を知っている」

 

「まさか…この施設も生体エナジー協会を運営していたイルミナティの関連施設なのか?」

 

「調べていけば分かるさ。それより、ほむらに渡す証拠写真を残していけよ」

 

「分かってるって」

 

尚紀は身に付けている伊達眼鏡を指で押し上げる。

 

これは眼鏡型の隠しカメラであった。

 

分かれ道に辿り着いた2人は手分けして地下施設の捜査を開始。

 

尚紀が向かった方角は悪夢の世界でほむらが向かった方角と同じである。

 

禍々しい悪魔の絵画の数々を超えていくとホルスの目が描かれた絵画を見つけたようだ。

 

「これを掲げる連中なら知っている。どうやらここはイルミナティの施設で間違いなさそうだな」

 

そんな事を考えていると耳に差し込んだ無線機のイヤホンから槍一郎の声が聞こえてくる。

 

向かってくる警備員の存在を伝えてくれたため、彼は警備員のフリを行いながら進んでいく。

 

道中ですれ違ったが怪しまれることはなかったようだ。

 

道中の光景を眼鏡型カメラで撮影を続けていくと見覚えのある曲がり角が現れる。

 

「かつての新宿衛生病院の地下と似通っているここならば、曲がった先にあるのは…」

 

警戒しながら奥の部屋の入口前まで進み、中に人がいないか聞き耳を立ててみる。

 

誰もいなさそうなので尚紀はゆっくりと扉を開け、中の様子を覗き込んだ。

 

「…思い出したくもない禍々しい光景だ。新宿衛生病院の地下にあった儀式殺人部屋と同じだ」

 

覗き込んだ部屋とは血文字のような魔法陣の中央に手術台が置かれた薄暗い手術室。

 

後ろを警戒しながら彼は部屋の中へと入っていく。

 

「イルミナティを象徴する梟と…牛頭の像。バアル崇拝をしている連中が置きそうな悪魔像だな」

 

カメラ撮影しながらも中央にある手術台の元にまで近寄り、眉間にシワを寄せる顔を浮かべる。

 

「眼科にある手術道具一式…それに血液を吸引する機械…何を行うのか想像したくもないな…」

 

子供達の目を使って長い針を脳まで突き刺し、アドレナクロムとして子供の生き血を吸い上げる。

 

この拷問を教育と称してイルミナティ入りを果たしたアリナは何度もやらされてきた。

 

もしそんな光景を今この場で見つけたのなら、彼は潜入捜査など忘れて襲い掛かっただろう。

 

それでも彼は目にすることになっていく。

 

この地下施設で行われてきたおぞましい子供の虐待と殺戮行為の動かぬ証拠の数々を。

 

顔を俯けたまま歩いてくる尚紀の元に別の方角に向かっていた悟空が近寄ってくる。

 

「向こう側は大きな扉があるが、このカードじゃ入れそうにねぇ。そっちはどうだった?」

 

悟空が向かった方角とはダークサマナー達が利用する施設であり、区画分けされている。

 

この施設を利用してきた十七夜もまさか隣の区画がおぞましい虐殺施設だとは考えないだろう。

 

「…ここは子供を虐待して殺す施設だ。レイプ室、食肉加工室、食卓…そして焼却場もあった」

 

「生体エナジー協会で見かけた光景と同じだな…こいつはマジで破壊した方がいい施設だ」

 

「……急いで逃げるぞ。依頼人であるほむらに写真を渡し、どうするかを判断してもらう」

 

「その顔つきなら答えは出てるんだろ?たとえほむらが動かなくても…お前が破壊するんだな?」

 

憤怒に歪んだ顔を上げる男は決意する。

 

「ああ…俺が破壊してやる。たとえ証拠を警察に突き出しても…動いてくれるとは思えない」

 

「全く…この国には正義なんて存在しないんだろうな。正義を執行する国そのものが終わってる」

 

「…所詮は敗戦国というわけさ。日本に生まれてきて…これほど後悔したことはなかったよ」

 

急いで槍一郎の元に戻る2人であったが、尚紀は格子戸ゲート近くで足を止める。

 

「何だこれは……?またなのか……?」

 

尚紀の青い目に映ったのは再び新宿衛生病院の地下空間の光景。

 

そしてゲートの向こう側には2人組の人物達が立っている。

 

その光景はかつて在った世界で見かけた喪服の老婆と喪服の少年が現れた時と酷似していた。

 

「フフッ……☆」

 

現れたのは尚紀にとっては初めて見る少女達。

 

目の前の人物達とは制服姿の藍家ひめなと栗栖アレクサンドラ。

 

彼女達は恋人繋ぎのように手を繋ぎ、離れない姿を見せてくる。

 

「お前達は誰なんだ…?魔法少女なのか…?」

 

驚きの表情を浮かべた男に向けて2人はこんな言葉を贈ってくる。

 

「どうしたの、ひめちゃん?あの人が気になるの?」

 

「うん。あの男の人と私チャン達って、もしかしなくてもフィーリングバッチリなのかも♪」

 

「そうなの?それは嬉しいことだって私も思うな」

 

「質問に答えろ……お前達は何者なんだ!?」

 

怒りの声を上げる男に向けてひめなとアレクサンドラは笑顔を向けてくる。

 

ひめなが左手を持ち上げていき、中指に嵌められている指輪を見せてきた時に彼は感づく。

 

「銀の山羊頭部をした指輪だと…?まさかお前達の正体とは……」

 

ひめなの指輪とアレクサンドラの髪飾りに見えた銀の山羊頭部とは逆五芒星を表す。

 

ボルテクス界においては堕天した魔王ルシファーを表すシジルでもあった。

 

「でもひめちゃん、今は忙しいみたいだから。後にしようか」

 

「おけまる☆じゃあね、人修羅君。きっとまた会えるから」

 

「ま、待て!?お前達の正体を答えろ!!ルシファーなのか!?」

 

ひめなとアレクサンドラが笑顔で手を振り、彼女達の姿は消えていく。

 

それと同時に元の景色の光景が彼の青い目には映ったようだ。

 

驚愕した表情を浮かべたままだが、隣にいる悟空は怪訝な顔つきを向けてくる。

 

「何を叫んでんだ?少女なんて何処にもいないだろ?」

 

「えっ……?」

 

周囲を見れば悟空が語った通り誰もいない。

 

「俺しか……見えていなかったのか……?」

 

不安と恐怖を感じた尚紀は片手を両目に当てながらこう呟く。

 

「変化した俺の目にしか……映らない者達なのか……?」

 

夢と現実の区別がつかなくなり、ふらつきながらも槍一郎がいる検問所に戻っていく。

 

服をもう一度着替え直した男達が服を着せ直した警備員達を殴る。

 

意識が戻った男達に向けて尚紀は幻惑魔法である原色の舞踏を行使。

 

青い目から金色の目に変化した彼の目を見た男達は幻惑に取り込まれ混乱状態となったようだ。

 

侵入者が入り込んでいるのも理解出来ず、彼らは元の警備任務へと戻っていく。

 

彼らの幻惑状態が元に戻る前に尚紀らは地下施設を後にして病院から去っていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……ただの夢であって欲しかったわ。だけど、この証拠写真があるなら間違いなく現実よ」

 

証拠写真の数々を見せられたほむらは顔を青くしながら震えている。

 

凄惨な現場を見てきた者でさえ恐ろしくなる現場光景を再び見ることになってしまったからだ。

 

「ほむら…これからどうする?この証拠写真を警察に届けても…恐らくは揉み消される」

 

「イルミナティ…それ程までの組織なのね。今の日本政府は連中の飼い犬に過ぎないだなんて…」

 

「俺はこの地下施設を放置出来ない。かつての生体エナジー協会と同じく破壊しに行こうと思う」

 

彼の覚悟を聞かされたほむらは頷き、立ち上がった彼女が上のゼンマイ装置に向けてこう告げる。

 

「私を金銭面で支えてくれたようだけど…私はイルミナティ側には付かないわ、クロノス」

 

(ほむら…お前がお嬢様だったのは欧米の啓明結社の世話になってきたからだったのか…)

 

「自由を望むのが悪魔の戒律なんでしょ?だったら…悪魔の私は私の自由を行使させてもらうわ」

 

彼女の決意を聞いた時の翁は姿を見せないままこう返してくる。

 

<<…好きにするがいい。悪魔の自由は誰にも侵害出来ん…しかし、自由とは責任の道じゃ>>

 

「分かっている…たとえイルミナティから追われる事になろうとも…私は悪魔崇拝を許さない」

 

<<強き者よ、恐れなく自由を進むがいい。その道の果てに破滅があろうとも……強く在れ>>

 

沈黙したクロノスに代わり、肩に手を置いてくれる尚紀が励ましてくれる。

 

「それでこそ悪魔だ、ほむら。自分の直感を信じろ、お前は独りじゃない…俺達がついている」

 

「尚紀…ありがとう。クロノスの支援が得られないなら私なりに準備をする必要があるわね…」

 

「この襲撃には俺の仲魔達も参加してくれる。決行は週末の夜にしようぜ」

 

「了解よ。私は悪魔であっても…心は人間で在りたい。悪魔崇拝者を許すつもりは絶対にないわ」

 

それぞれが決意を胸に秘め、見滝原総合病院の襲撃作戦のための準備を進めていく。

 

かつて自分の命を救ってくれた病院に襲撃を仕掛けるほむらの表情は複雑さも抱えている。

 

それでも彼女には譲るわけにはいかない感情が宿っているのかもしれない。

 

子供達を生贄にする悪魔崇拝はいずれ彼女が愛する鹿目まどか達にも向けられるだろう。

 

それに彼女も魔法少女として人間を守る為に戦い抜いた矜持もまだ残っている。

 

今の彼女の決断を促した気持ちこそ、暁美ほむらの原点だった頃の気持ち。

 

鹿目まどかと巴マミと共に正義の魔法少女として生きたいと願った頃の気持ちこそが支えである。

 

「私はリスクを恐れない…私が超えてきた道はリスクなんかを気にする者では生きられなかった」

 

週末の夜、フル装備を抱えたほむらが彼女を待つ車の元へと歩いていく。

 

フルサイズバンに装備を放り込んだ彼女が乗り込み、先導するクリスを追って発進していく。

 

バンの中で彼女は自分について来てくれる新しい仲魔達に視線を向けながらこう呟いた。

 

「恐れはない…だって今の私はね、頼れる仲魔達がいてくれるのだから」

 

暗雲が立ち籠る夜を二台の車が駆け抜けていく。

 

悪魔崇拝者達の陰謀を打ち砕くなら、同じ悪魔こそが相応しいのだと信じて戦い続けるのだ。

 

悪魔狩りを行う悪魔達の今夜は長い夜を迎えるのであった。

 




悪魔ほむらの仲魔達の初陣は長くなるので三つに分けます。
人修羅君に幻覚が見えるようになってくるとは、精神病院行きですかね?(デッドスペース脳)
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