人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
夜の太平洋を航行しているのはルシファーの居城ともいえる豪華客船。
この船の前部である迎賓館と後部の宮殿エリアの間にあるのは縦に長い中庭エリア。
水と緑で彩られた美しい庭園の大きな噴水の横では椅子に座る瑠偉が誰かと向かい合っている。
テーブルクロスをかけられた机の向こう側に座っているのはバアル神であるモロクのようだ。
席に座りながら酒を嗜んでいた者達の横では冷や汗を浮かべながら立っている悪魔がいる。
執事服を着て頭蓋を模した仮面を纏いながら燭台で辺りを照らす者とは迎賓館エリアの管理者だ。
【ビフロンス】
ソロモン王72柱の魔神の一柱であり、26の軍団を率いる地獄の伯爵を務める堕天使である。
命じられた時だけ人間の姿を取る死者の伯爵であり、本来は角の生えた醜い怪物のようだ。
博識で占星術や鉱物学、植物学等に精通しており召喚者にそれらの知識を授けるとされる。
また鬼火やロウソクを灯したり、怪奇現象を引き起こす力を持つともいわれていた。
「……いかがいたしましょうか?」
晩酌の時に無粋な報告をしなければならないビフロンスも冷や汗が止まらない。
魔界のトップに君臨する御二方の機嫌を損ねれば無事では済まない事なら分かっているのだろう。
しかしルシファーとバアルはクロノスの裏切りに関しては気にしていないようだ。
「構わん。たとえ私の計画の事を知られたとしても、それは最初から織り込み済みなのだ」
「では…クロノス殿を従えた暁美ほむらが東京に訪れたとしても…問題ないと?」
「計画に支障が出ない布陣を敷く。それに暁美ほむらの役目とはアラディアを始末することだ」
「確かに…オーダー18が控えたこの時期に円環のコトワリ神に介入される事態は避けたいです」
「最終的にはあの娘もハルマゲドンに参加してもらう。それ以外の事ならば…多少は目を瞑ろう」
「分かりました。それではルキフグス殿にも報告を行い、暁美ほむら支援の継続を伝えましょう」
燭台の上に灯された蝋燭の灯りと共にビフロンスは去っていく。
黄金の牛兜の中で口をつぐんでいたモロクも思うところがあるのか、瑠偉に質問してくる。
「…二体目のマスターテリオンとなるのは誰だと思う?暁美ほむらか?それとも…アリナか?」
それを問われた瑠偉は不敵な笑みを浮かべながらこう返す。
「お前はアリナを暁の星にまで導けると期待をしているな。その為に準備をしてきた」
「アリナの為の合体素材となってくれと彼女を説得するのも骨が折れる。だが彼女が必要なのだ」
「古代アナトリアで崇拝された
「我は木星神マルドゥクを起源にもつバアルだ。木星神として…金星となる者を導く役目がある」
「フフッ♪金星の女神は私ではダメなの?私も暁の星なんだけどー?」
「汝はいずれ土星を司るサタンとなるだろう。人修羅を取り込んだ時…星の流れが変わるのだ」
「フッ…その通りよ。だからこそ代わりの金星の女神を任せるために…私は暁美ほむらを作った」
「汝が悪魔に導いた暁美ほむらと…我が悪魔に導くアリナ・グレイ…どちらが金星になれるかな」
立ち上がったバアルが去っていく後ろ姿を瑠偉は見送ってくれる。
代わりに現れたのは青いスーツ姿をした大魔王専属の秘書官を務めるゴモリーのようだ。
「失礼します。門倉から連絡が入っておりますのでご確認をお願い出来ますか?」
「客人は今帰った、構わないよ」
端末を持ってきたゴモリーが一礼をして帰っていく。
瑠偉は端末のスイッチを押し、光が浮かんだあとARに表示された入力インターフェイスを押す。
すると通信画面が表示され門倉の姿が映ったようだ。
「夜分遅く失礼します、閣下。パンデミック後の民衆共に投与するワクチン製造が終了しました」
それを聞いた瑠偉の口元に不気味な笑みが浮かぶ。
「手筈通りに投与していけ。各国ディープステートとメディアは病魔の脅威を煽れと伝えておけ」
「分かりました。ククク…いよいよ始まりますな、閣下」
「そう…始まるのだよ。獣の刻印の無い者達は
「ワクチン無しの生活は送れないようになる。ワクチンを打たない者は社会から切り捨てられる」
「そうなれば生きていくための消費活動である
「黙示録の成就は近い…我々は第二のマスターテリオン誕生を今か今かと待ちわびておりますよ」
「時期に生まれるさ。もしかすれば…甘さが残る暁美ほむらよりも、アリナが適しているやもな」
映像の光が消えた後、瑠偉はグラスに残っていた酒を飲み干す。
これから先の世界の在り様を思うルシファーの表情は愉悦を堪えきれない様子だった。
「日本やアメリカのような自由主義国家にも全体主義社会をもたらす事なら簡単に出来る」
ルシファーが語るパンデミック後の世界の在り様とは、全体主義化するという啓示である。
「
人間社会とは様々な考え方があって当たり前であり、それは魔法少女社会とて同じだろう。
様々な考え方の元でこれはおかしい!どうして?と言う権利こそが言論の自由である。
しかし、これを許さない状態となるのがリベラル全体主義社会の在り様なのだ。
国の政策を疑う奴らは国賊だ!全員死刑にしろ!!
私達の願いを叶えて人生を守ってくれたキュウベぇを疑う奴らは魔法少女の敵よ!死になさい!!
疑って調べた上で発言している者達でさえ全体圧力で潰される社会状況が生み出されていく。
「彼らは自らの自由意志で全体主義を行使する。それは自分達の安全を守りたい
ワクチンを打たない奴らは感染をばら撒くバイオテロリスト共だ!!
私達の可愛い子供が感染する!今直ぐ逮捕されなさい!!
このように、自分達の安全を守りたい一心で異なる考え方で判断した者達は悪者にされていく。
速い話、
この苦しみを背負った者こそ、キュウベぇの嘘を叫び続けた暁美ほむらが背負った苦しみである。
「このような心理状態の事をジョージ・オーウェルは
間桐瑠偉という事務員を演じるルシファーも立ち上がり、自分の部屋へと戻っていく。
「社会の事を考えろと周りに同調を強いる者ほど、自分のことしか考えていない愚民共だ」
ルシファーが語った言葉はかつての堕天使アンドラスも語った言葉である。
「社会正義という大きな嘘に騙され、社会貢献する正義に熱狂していく。どう正しいかも考えず」
このリベラル全体主義と呼ばれる手口をかつて人修羅も常盤ななかに託そうとした時期がある。
人間を守る者こそ正義の魔法少女であり、魔法少女を守る者は魔法少女至上主義者だと摺り込む。
悪にされた事で社会正義の名の元に異なる意見をぶつけてくる者達は排除されるしか道が無い。
この手口を常盤ななかに託されていたら人間社会主義という恐怖政治に逆らえる者はいなかった。
「ヒトラーも人間という偏見生物を見て笑いが止まらんかったろう。実に滑稽だよ…シープル共」
暗雲立ち込める海を航行していくルシファーの居城の向こう側には日本の街の明かりが見える。
いずれあの明かりで暮らす人々は正義の業火を撒き散らす火種となると彼は確信している。
出過ぎた杭は打たれるだけなのが集団社会。
騙されていると叫ぶ者には騙されているのはお前だと反証もせず二元論手口ですり替えてくる。
他責の安心感に浸りたいだけの愚民しかいないとルシファーは太古の昔から知っている者だった。
人は見たいものしか見ないし、信じない。
悪魔の笛を吹き鳴らすユダなら、そんな偏見生物に向けてこんな言葉を言うかもしれない。
――正義や道徳という、見えないラッピング箱に隠された概念を崇める者達は気づかないだろう。
――自分達の方こそが、邪悪な悪者に変わっているということをね。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「そうか…俺が見滝原に行っている間にそんな姿にされたのか。すまなかった…助けられなくて」
カフェで向かい合っているのは黒のトレンチコート姿の尚紀と学生服姿の観鳥令。
飲んでいる珈琲の隣には見滝原市で起こった騒動のニュース記事が載った新聞があったようだ。
「いいよ、気にしなくて。観鳥さんは悪魔になったけど…こうして生きてる。だからまだやれる」
「俺と同じ悪魔になってもジャーナリストの道は諦めないか。それでこそだな」
「生きていてこそやれるんだ。観鳥さんの命を救ってくれたライドウさんには…感謝してるよ」
「…あのデビルサマナーに借りが出来ちまったな。これからやりにくくなる」
「それより、メルチャンから聞いたんだけど神浜に遊びに来てた暁美ちゃんも悪魔なんでしょ?」
「ああ、そうだ。あの子から依頼を頼まれたから見滝原に行ってたんだ」
「それで生まれたのが横の新聞に載っている騒動の記事なんだね。どんな事件だったの?」
「お前もイルミナティから狙われる立場だ…話してもいいだろうな」
事件の当事者として尚紀は語ってくれる。
見滝原総合病院で行われていた悪魔の所業を聞かされた令は顔を青くする。
「なんて酷い連中だ…許せない!!これだから秘密主義団体はカルト犯罪組織なんだよ!!」
「唯一の救いは俺が逃がした行方不明者であった子供達が大量に見つかったという記事だけだな」
「嘉嶋さんがいなかったらその子達も儀式殺人されてたんだね…。嘉嶋さんを本当に尊敬するよ」
「俺達がやった行為はテロリストそのものだ。国の秩序を乱す法律違反者を尊敬するのか?」
「正しさやルール論なんて概念はね…ハッキリ言って
「そうだな…自由とは責任の世界だ。だから皆が保身に走り、社会ルールである法に依存する」
「どう正しいのかも考えず…自分で自由を捨てていく。誰も法(LAW)の中身を疑わない…」
思うところがあるのか、尚紀はカフェ店内に座っている人々に視線を向ける。
「これは魔法少女社会にも言えることだが…法と秩序によって社会は安定するか?」
「それは……」
七海やちよや和泉十七夜が魔法少女社会の長を務めていた頃を思い出す。
東社会に属する令であったためか、十七夜が敷いた法と秩序が何をもたらしたのかを考える。
「十七夜さんが敷いた法と秩序は……崩壊したよ」
「人は強制されたら反発するものだし、動物も同じだ。俺の政治思想に反発した連中も同じさ」
法と秩序とは信頼が熟成され、それが広がって秩序が出来る状態のこと。
その上で初めて法が出来て社会は安定していく構造をしていると尚紀は語ってくれるのだ。
「民衆側ともいえる革命魔法少女は和泉十七夜の治世にNOを突き付けた。何故だと思う?」
「十七夜さんが敷いた法と秩序では…東の魔法少女達を苦しめるだけだったから…?」
「ルール論を振りかざす者達は民衆を守るためにルールがあるという。だが現実はどうだ?」
「ルールを振りかざす者にしか都合が良くない法律やルールなんて…民衆側を苦しめるだけ?」
「生真面目な和泉十七夜の利益にしかならないルールなど民は守らないし、守る必要なんてない」
これは国も同じであり、信頼出来ない国が作る法律など民衆を傷つけるだけだと語ってくれる。
国民の生活を守る法律が、蓋を開ければ国民を苦しめる法律だったなら誰が守りたい?
この代表例ともいえる法律こそがアメリカの愛国者法のような全体主義を掲げる法律だった。
「革命魔法少女は東の行政を執行する代表を務めた和泉十七夜を追放した。それが抵抗権なんだ」
「行政が生み出す法というルールも…民衆を守るのに役立たないなら…抵抗するんだね?」
「勿論そいつらは
「嘉嶋さんはテロリストになってでも…この国が隠蔽してきた闇と戦うつもりなんだ?」
「そうだ…俺が牙無き民の牙となろう。戦う力もない人々を傷つける法を砕く…抵抗権となろう」
それを聞いた令は笑顔を浮かべてくる。
自由の権化といえる悪魔になれた事をここまで嬉しく思えた事はなかったようだ。
「観鳥さん…悪魔になれて良かった。悪者にされてでも守るべきもの…それが抵抗権なんだね」
「中国には
「歴史を無くしてでも抵抗するか…日本はその逆だね。万世一系の日本こそ中華だと言ってきた」
「日本は変化を極端に恐れる保守民族だ。だからこそ世界一システム支配し易い民族なのかもな」
秩序や法に盲従する者達はいつだって変わらない。
決まりを破り、輪を乱す出過ぎた杭のような者を悪魔の如く悪者にして打つばかりを繰り返す。
その秩序や法がどのように正しいのか疑わず、調べて検証もせず、ただひたすら盲従していく。
まるでインキュベーターの言葉を鵜呑みにする魔法少女と同じく、秩序や法を鵜呑みにする。
その末路とはLAWの天使のように全体主義を摺り込まれたロボットのような存在になるだけだ。
(ほむら…まどか…お前達もまた抵抗権を使った。神の秩序がお前達を苦しめるだけだったから)
そして人修羅として生きる尚紀もまた、ボルテクス界において抵抗権を行使した者。
新たなる宇宙誕生の生贄として全ての人類を抹殺した唯一神の創成儀式を破壊した者であった。
(理不尽な秩序に抗う為には自由が必要なんだ…たとえ自由を選んだ事によって悪にされてもな)
立ち上がった2人が会計を済ませて店から出てくる。
「さっき語った内容はななかにも伝えておけ。社会の長として先ずは信頼される者となれとな」
「うん、分かった。それと…会って欲しい人物がいるんだ」
「会って欲しいヤツだと?」
「見滝原で見つけたんでしょ…あのアリナさんを?だからこそ、その人を探してる子に話してよ」
それを言われた尚紀の顔に迷いが浮かんでしまう。
アリナを探しているのは後輩の御園かりんであり、彼の家にもアリナを探しに来ている。
その時は危険が大きいと判断したのでアリナについては行方不明で押し通していた。
「危険過ぎる…かりんにアリナの事を話してしまったら危険を省みずイルミナティを追うだろう」
「うん…分かってる。けど業魔殿で何時までもアリナさんを待ち続けるあの子を見てると…辛い」
「あの子に真実を語るべきなのか?アリナは子供を虐殺する連中と同類になったのだと?」
「真実はいつだって残酷さ…。だけどね、民衆には知る権利が必要だ…絶望であったとしても」
「絶望を知るからこそ絶望に立ち向かえるか…分かった、彼女と話してみよう」
令と別れた尚紀であるが、彼女の背中を追うように動いているAI監視カメラに気が付く。
彼は令を庇うようにして立ち塞がり、監視カメラのレンズに目掛けて中指を突き立てる。
観鳥令をつけ狙うならば自分が相手だと言わんばかりの態度を示す事で抑止力とした。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「ウソなの……アリナ先輩がそんな酷いことをしてる連中の仲間だなんて……嘘なの!!」
魔獣狩りをしているかりんを見つけた尚紀は彼女に念話を送って路地裏に呼び寄せる。
向かい合った彼なのだが真実を言うべきなのか不安があったが、それでも決断してくれた。
御園かりんにも知る権利があるのだと語った令の気持ちを汲み取った尚紀は語ってくれる。
見滝原総合病院で行われていた悪魔崇拝儀式について説明された彼女は拒絶の言葉を叫ぶ。
大好きな先輩が子供の虐殺行為に加担しているだなんて信じたくない気持ちに支配されていた。
「アリナを直接問い詰めたわけじゃないが…アイツはあの施設を利用していた者だ。ならば…」
「絶対に信じないの!!アリナ先輩が…子供を虐待して殺す外道だなんて…信じない!!」
「俺だって信じたくはないさ…だけどな、あの施設に現れた以上は…関係者で間違いない」
「違うの…グスッ…アリナ先輩は…優しい先輩だったの…わたしの先輩が…ヒック…嘘なの!!」
両膝が崩れ落ちて泣きじゃくる彼女を見下ろす尚紀はかけてやれる言葉が見つからない。
隣にいるお供のジャック・ランタンとジャック・リパーも同じように言葉が見つからないようだ。
「…これで確信が持てたホ。あの女は誘拐されたんじゃないホ、自分で秘密結社入りしたんだホ」
「自分の代わりの死体を用意したのは表向きの死を演出するためか…だが家族だって死んだぞ?」
「あの女は悪魔だホ…自分の目的のためなら他人どころか…自分の家族だって殺せる奴だホ…」
「マジもんの殺人鬼じゃねーか…アリナって女!姐さん…そいつと関わるのはやめた方が…」
「言わないで!!アリナ先輩は…そんな人じゃない!!だってアリナ先輩は……苦しんでた!!」
「苦しんでいた…?何かアリナについて知っているのか?」
嗚咽が止まるまで待ち、話せる状態になったかりんの重い口が開き始める。
語られたのは神浜記録博物館で出会ったアリナの異変についてであった。
「その時のアリナの態度とおかしな問答から察するに…あの女は人殺しをやらされたのかもな」
「それじゃあ…アリナはやっぱり誘拐された上で、殺人鬼として調教されていたのかホ?」
「殺人鬼だった俺サマは分かるぜ…最初の殺人は苦しくても慣れてくる…俺サマもそうだった…」
「アリナ先輩…ごめんなさいなの…。あの時のアリナ先輩の気持ちに気付いてあげられなくて…」
「かりん……」
「わたし…赤ちゃん殺しなんて許さないって叫んだ…きっとアリナ先輩は…それをやらされたの」
「…赤子を殺させられたのか。バアル崇拝をやってる連中だ…子供の生贄をバアルは求めるんだ」
「アリナ先輩は脅されてるだけなの!本当のアリナ先輩は…面倒見のいい優しい人なの!!」
かりんがアリナを信じたい気持ちなら尚紀にだって分かる。
自分の理想が全て壊れ果て、路地裏で蹲っていた彼を奮い立たせてくれた人物こそがアリナだ。
彼女の言葉が無ければやり直す気持ちにさえなれなかったかもしれない。
他人に厳しい人物ではあるが、他人を見捨てない部分もある。
その行動によって時女一族の涼子も救われた事があったし後輩のかりんも救われたのだ。
「…俺はかりんの気持ちを信じよう。アリナは殺人鬼なんかじゃない…追い詰められてるだけだ」
「嘉嶋さん……わたしを信じてくれるの?」
「ああ、信じてやる。だがもう一つ気になる事があるな…別人のような雰囲気を見せたのか?」
「わたしも奇妙に思ったの…アリナ先輩のいつもの口調じゃなかった…雰囲気だって怖かったの」
それについてなら思い当たる部分がある。
アリナと再び対峙した時、かつてのボルテクス界で散った親友と同じ雰囲気を出してきた。
彼女が放つ強大なプレッシャーをかりんも浴びせられたのだと察する事が出来たようだ。
「もしかしたら…アリナの中には別人が宿っているのかもしれない」
「アリナ先輩の中に…別人が入っている…?」
「俺の記憶が確かならば…あまりにも信じられない事態になる。俺にとっては…最悪なんだよ」
「嘉嶋さん……アリナ先輩の中に入り込んでる存在について知ってるの?」
「…知っているが、まだ確証には至れていない。やはりアリナを見つけだす必要があるな…」
涙を袖で拭いたかりんが決断する覚悟を示す。
「わたし…アリナ先輩を探し出すの!アリナ先輩は苦しんでる…わたしが助けてあげたいの!!」
「かりん…気持ちは分かるが落ち着け。見滝原総合病院から去った足取りは掴めていないんだ」
「だけど…だけど…じっとしていられないの!アリナ先輩に謝りたい…アリナ先輩に会いたい…」
頑なな態度をしたままの彼女の隣に集まったジャックコンビも腹を括る覚悟を示してくれる。
「しゃーないホ。かりんとも付き合い長いから分かるホ、こうなれば梃子でも動かんホ」
「姐さんが望むなら俺サマは何処までもついていきますぜ!この命は姐さんのものでさぁ!!」
「ランタン君…リパー君…ありがとうなの。わたし達もイルミナティを追いかけるの!!」
「口で言うのは容易いが…つい先日も令が殺されかけた事なら聞いている筈だ」
「聞いているの…観鳥先輩はイルミナティの暗殺者に襲われて殺されそうになったって…」
「暗殺者だけの問題じゃない、啓明結社は世界を金融支配するマフィアだぞ?国さえも従える」
あまりにも強大な敵を相手にする事になると痛感出来るのは令の犠牲があったからこそ。
アリナを追いかける事で自分の家族や友達まで標的にされて報復されるかもしれない。
そんな恐怖に晒されてしまうかりんであったが、それでも覚悟を決めてくれる。
「わたしは…アリナ先輩と約束したの。わたしはマジカルきりんの生き方を貫くって」
「マジカル…きりん…?そいつも魔法少女なのか?」
「私の好きな漫画の変身ヒロインなの。マジカルきりんは悪には絶対に膝を屈しないの!」
「漫画のヒロインの真似をしたいんだな?だが…理想と現実はあまりにもかけ離れている」
「それでも貫くの!真似をするからこそ本物になれるって…アリナ先輩から教わったの!」
「かりん…お前……」
奮い立ったかりんが己の覚悟を悪魔達に示すかのようにして大鎌を構えながら叫んでくれる。
「我が名はマジカルかりん!悪の秘密と犯罪行為を許さない正義の怪盗を貫く者!!」
――我が魂は…決して
かりんの覚悟を聞いてくれた尚紀の口元にも微笑みが浮かぶ。
彼女を見る尚紀の目は強き者を認めるような温かさをしてくれていた。
「よく言った、かりん。そこまでの覚悟を語ってくれるのなら…俺がお前を止める事はない」
「嘉嶋さんが私の事を信じてくれたの♪とっても嬉しいの♪」
「信念を貫く事は大切だ。現実に負けて自分の信念をゴミ箱に捨てていく大人は多いからな」
問題になっている事に沈黙した時、我々の命は終わりに向かい始める。
悪を仕方ないと受け入れる人は悪の一部と成り果てるしかない。
悪に抵抗しない人は悪に協力している事に気が付かなければならないと尚紀は語ってくれた。
「お前のような覚悟を示す者達が増えて欲しいもんだな」
「きっと大丈夫なの!わたしの大好きな漫画を読めば皆が正義を愛してくれるようになるの♪」
「正義か…信念を持つのは大事だが、それと同時に自分を見つめるのも忘れたくないものだ」
かりん達と別れた尚紀であるが、思うところがあるのか不安を語り出す。
「俺達だけの力では啓明結社は倒せない…。一人一人の意識である集合意識を変えなければ…」
これは政治や経済も同じであり沈黙を選べば国際金融資本家が生み出したシステムは変わらない。
一人一人が目覚めなければこれまで通りの結果しかついてこない。
大統領や総理大臣が誰になろうがこれまでの歴史と同じく世の中は変わらないのだ。
「その為にはかりんのように権威とリスクを恐れない者達がいる。反骨心に溢れた人間が必要だ」
それを今の日本人に期待するのは不可能だという事なら尚紀は痛感しているはずだ。
現代の日本人は何処までも御上万歳な権威主義民族であり、企業社会主義ロボットそのもの。
義に生きる精神などゴミ箱に捨て、御上にヘーコラしながら不満の捌け口は下の者で発散する。
辛い現実など忘れてエンタメを消費しながら皆と楽しく遊んでいればいいだけの民衆達なのだ。
パンとサーカスこそが現実であり、今のままでは国際金融資本家達の足元にも及ばない虫けらだ。
それでも尚紀はかりんの背中に続く気持ちを胸に抱きながら進む者となるだろう。
彼もまた己の信念を貫く道こそが正しく、それこそが男の生き様なのだと信じる者であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「……決心は変わらないか?」
里見メディカルセンターの代表者執務室では険しい表情を浮かべた灯花の父がいる。
執務机の上には辞表が置かれており、目の前にはかつての担当医の男がいたようだ。
「私は医者だ。医者として
ヒポクラテスの誓いとは医者が誓う倫理的な原則である。
真実を語り自律的な決定を促すという自律尊重原則。
患者に危害を及ぼすべきではないという無危害原則。
患者に利益をもたらすという善行原則。
利益と負担を公平に配分するという正義原則。
医療倫理はこの四大原則をもって行われなければならない。
だからこそ医者は他人から尊敬されるべき存在だと言える筈だったが、現実は違った。
「医者になる夢を叶えたというのに棒に振るか?今のご時世、無職は生き辛い世の中だぞ?」
「悪事に加担してまで金儲けなどしたくない。私は私を頼ってくれた人々の味方でありたい」
「…ならば君はクビだ、何処へでも消えろ。私はもう君を守る必要などなくなるわけだからな」
「身内だけ守るのが医者の役目なのか?医者とは苦しみを抱えた人々を救うためにあるんだろ?」
それを問われた灯花の父は無言となり、顔を俯けてしまう。
担当医の男が語る言葉とは常盤ななかが魔法少女社会の長達に向けて叫んだ言葉と同じだろう。
絆を結んだ愛しい魔法少女達と仲良く過ごす馴れ合い社会を守るのが正義の魔法少女なのか?
弱き人間を守る為にこそ魔法という力をもつ魔法少女が在るのだと叫ぶべきではないのか?
担当医だった男の心にある感情こそ、弱き人間の味方でいたいと叫ぶ常盤ななかの真心であった。
「私はそれを実行していく。日本の医療業界という医療マフィアがしてきた悪行を告発していく」
「…黙っていれば儲けられたものを、信念とやらで捨てるのか?正義では美味い飯など食えんよ」
「人を騙して食う飯など全てが不味かった。私は自分達だけ得をして弱者を捨てる道は選ばない」
踵を返した男が部屋から去ろうとするが扉の前で立ち止まる。
顔を向ける価値も無い似非医者に向けて本物の医者はこんな言葉を送るのだ。
「偽りの自分を演じて好かれるよりも、
「そ…それは……」
「自分らしく生きる事に値段はつけられない、自分らしく生きる事ほど楽しい事はない」
「私は…自分らしく生きていないと言いたいのか……?」
動揺を浮かべてくれた者に最後の餞別を送るために男は振り返ってくれる。
「私は私で在りたい。製薬会社やその株主を儲けさせるために医者を続けるぐらいなら出て行く」
――医者の魂とは、切り売りするものではないからだ。
医者という存在は何なのかを伝え終えた男が部屋から去っていく。
モデル事務所の社長に向けて平謝りしか出来なかった七海やちよをこの男は超えるのだ。
その思いとは自分は人の命を預かる医者なのだという誇りから生まれている。
リスクを恐れず正義の医者で在りたいと願った信念を貫き通す男の姿こそ男の生き様そのものだ。
正義の医者とは何なのかを伝えられた灯花の父は項垂れたまま顔を上げられない。
「…医療グループの長である私に立てついてクビにされてでも…私の間違いを批判してくれるか」
このような勇気ある日本人の姿など何処にもいないかもしれない。
時代劇の忠臣蔵など、お家という全体のために犠牲となるのが善・美徳として洗脳されてきた。
そのような価値観に支配された日本人は政府や組織に対する忠誠心と犠牲的献身しか求めない。
それが正しいという誤った価値観が揺らぐこともなく、御上の家畜ロボットとして完成する。
権力者に歯向かう反骨心が無ければ上の間違いを修正していく事など不可能だった。
「君は勇気ある者だよ…クラブ活動の顧問が体罰を行うのは間違っていると叫ぶ生徒と同じだな」
立ち上がった灯花の父が棚の前にまで来て娘の写真を手に取る。
若くして亡くした我が子の姿を見つめる男の手は震えていたようだ。
「灯花…私はお前を心から愛していた。欲しい品があるなら金に糸目を付けずに買い与えた…」
入退院を繰り返す病弱な少女であったが、それでも目に入れても痛くない程にまで溺愛した愛娘。
退院出来た時はお祝いだと称して頼まれた品なら何でも買い与え、高級ディナーに連れて行った。
味気ない病院食しか与えられなかった娘は喜んで高級ディナーを食べてくれた記憶が巡る。
「…美味かったか?製薬会社と株主を儲けさせるために父さんが患者達を騙して稼いだ御飯は?」
本当の父の姿を見せた時、娘の灯花は何と言ってくれたのだろう?
弱者を騙して踏み躙って食べる最高級の飯は美味しいと言ってくれただろうか?
「私は…灯花さえいてくれたら全てが幸せだった。だけど…だけど私にはもう……お前はいない」
両膝が崩れ落ち、嗚咽の音が響いていく。
「生きてさえいてくれたら何にだってなれたんだ!!なのに…なぜ死んだ?灯花ぁぁぁーっ!!」
医者としては地に堕ち、愛娘に死なれて生きる意味さえ失った男の慟哭が叫ばれる。
今の彼は何のために守銭奴の如き強欲者としての生き方を選んでいるのかも分からない。
罪の意識でさえ愛娘がいてくれたから耐えれたが、今となっては心の支えすらない状況であった。
その頃、里見メディカルセンターの屋上では氷室ラビが仲魔のサンダーバードと共に立っている。
院長室での出来事さえ知っているかのようにして彼女は最後にこんな言葉を残してくれた。
「弱い人ほど偉ぶるわ、だけど弱さを受け入れている人は偉ぶらない。彼のような人は稀ね」
「この病院の院長のような愚者ではなかったな。インディアン達は
血管の中の水が海に還り骨の中の土が大地に還る時、土地は貴方のものではないと気づくだろう。
むしろ逆。
貴方こそ、土地のものなんだ。
「所有の虚しさは死ぬ時になって初めて気が付く。強欲な成金共はそれに一生気が付かないのだ」
「お金の所有など虚無の前では全てが無価値。ここの院長はそれに気が付かないまま死ぬのね」
「そうだ。所詮金など紙幣を創造する権利を与えられたユダヤ財閥のものに過ぎないからな」
「そんな紙切れがないと生きていけない人類に価値なんてないわ。だからこそ…滅ぶ必要がある」
それだけを言い残して氷室ラビと仲魔の姿は消えていった。
日本人どころか世界中の人々にとっても病院は命を救う場所だと考えているだろう。
そんな者達にこそ、このような警句を残すべきなのだ。
アメリカの医学博士であったロバート・S・メンデルゾーンは言葉を残す。
――一般の人が知らない事は沢山あります。
――もし知っていたら、おそらく二度と医療機関を受診しないでしょう。
――この職業は製薬業界に乗っ取られ、単に生涯顧客を作るために準備されているからです。
次は誰のキャラドラマ回収だったかこんがらがってくる(汗)
やっぱ勢いでこのキャラ出したい!は自分の首を締め上げるだけっすね(汗)