人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

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224話 常闇の騎士

クリスマスの時に雪野かなえと安名メルは探偵の尚紀から依頼を任されている。

 

行方不明となった和泉十七夜の捜索を託された彼女達は年が明けた辺りから本格的に動き出す。

 

彼女達はただの学生であるのだが、本職の探偵である尚紀から人探しのコツは聞いている。

 

そのため先ずは和泉十七夜の行動をよく知る人物達を相手に聞き込み捜査を行っていたようだ。

 

八雲みたま、天音月咲、千秋理子、矢宵かのこ等、十七夜をよく知る人物達から情報を得ていた。

 

「十七夜が立ち寄りそうな施設は絞り込めたけど…問題なのは神浜にはいないという事だね…」

 

「郊外といっても色々ありますしね…どの辺を探せばいいのやら…」

 

「それと同時に、あたしはバイクの免許取得のために郊外の教習所にも通わないとなんだ…」

 

「じゃあ、かなえさんが通う教習所がある近場から捜索してみるのもいいかもですね」

 

「ん…それでやっていこうか」

 

こうして雪野かなえは二足の草鞋を履く生活がスタートしていくことになる。

 

教習所が終わる時間になるとメルと合流して付近の捜索活動を始めていくのだ。

 

メルの予知能力も合わせながらどの辺りで身を潜めているのかを割り出す作業が続いていく。

 

その間にフェミニズム問題が起こったり、みふゆの受験騒動が起こったりとてんやわんやだった。

 

しかし和泉十七夜の行方を突き止める事は出来ずに月日だけが過ぎていく。

 

捜索範囲を広げていた頃になると観鳥令も十七夜捜索のための協力者となってくれる。

 

それと同じくして彼女達と共に行方不明者捜索に加わってくれる者達もいたようだ。

 

「本当にいいの…?あたし達が捜索しているのは十七夜であって…アリナじゃないんだ」

 

「なぎたんはフリーメイソンに協力してると聞いたの。メイソンとイルミナティは同じ組織なの」

 

「尚紀から説明されたんだね?たしかにフリーメイソンを追えばイルミナティにも繋がってくる」

 

彼女達と合流したのは御園かりんとお供のジャックコンビである。

 

かりんは尚紀に向けてアリナを捜索すると宣言しており、そのための行動を起こそうというのだ。

 

「和泉十七夜の事もかりんは心配してるんだホ。こう見えてかりんは十七夜とは面識があるホ」

 

「へぇー?かりんさんと十七夜さんはどんな関係だったんです?ボク興味深々ですよ!」

 

「俺サマも聞いた事ない!姐さんと姉御のなぎたんさんとはどのようなお関係で?」

 

「なぎたんがメイドのお仕事で悩んでた時にアドバイスしてあげたの!漫画も貸してあげたの!」

 

「メイドと漫画が関係あるんですか…?」

 

「探偵少女メイドのメーちゃんにはメイドさんの心得が全て詰まってるの!今度貸してあげるの」

 

「えっ?ええと…ボクは占いが趣味であって…十七夜さんみたいにメイドになりたいわけでは…」

 

「食わず嫌いはダメなの!読んだら絶対に面白いと保障するの!」

 

目を輝かせながらオタク話を始めてしまうかりんを見てメルとかなえは苦笑いを浮かべてしまう。

 

そんなかりんを見たランタンが辟易した態度をしながら2人に念話を飛ばしてくる。

 

<漫画話になると長くなるホ…。俺とリパーはこんな感じでマシンガントークを浴びせられるホ>

 

<それは……ご愁傷様です>

 

<うん……それは辛いよね>

 

そんな時に横やりを入れてきたのは悪魔ジャーナリストともいえる観鳥令であった。

 

「まぁまぁ、話が脱線しそうだからそこまでにしとこうよ。それで捜索はどれくらい進んだの?」

 

「ん…メルの予知で視えた光景を頼りに絞り込んでいくと…見滝原近くの郊外が怪しいみたい」

 

「そうなんです。視えた建物をスマホで検索したらマップ表示されたので間違いないですよ」

 

「流石はメルチャンだね。確実撮影を失った観鳥さんよりもずっと頼りになるよ」

 

「そんな事ないですよーっ!令さんには長年培ったジャーナリストのノウハウがありますし!」

 

「有難う♪それじゃ、見つけた郊外に点在してる十七夜さんが立ち寄りそうな施設に向かおうか」

 

「探偵少女メイドのメーちゃんの素晴らしさをまだ語り終えてないの!」

 

<<それはまた今度>>

 

「……なの」

 

オタク知識とは相手に同じ知識の土台がなければ通じないものだ。

 

この苦しみをオタクは常に味わい続けるのと同じように、政治や心理学知識も相手に通じない。

 

この弊害が後の世を混乱に陥れる事になるのだとこの時の彼女達は気が付く事はないだろう。

 

ショボーンとしたかりんを連れた一行が電車に乗り込み見滝原近くの郊外へと向かう事になる。

 

電車内で揺られながら窓の景色を見つめるメルは十七夜と共に過ごしていた頃を思い出す。

 

「十七夜さん…ボク達はもう…あの頃には戻れないんですか?」

 

彼女の不安を掻き立てるのは今日の朝に行ったタロット占いの結果が尾を引いているからだ。

 

タロット占いの結果とは塔の正位置。

 

タロットカードの中でも最も災い深い塔の正位置がもたらす未来とは人生の転落。

 

塔の上から落ちる王冠は大き過ぎる野心とおごり高ぶった心を表す。

 

崩れゆく塔とは固定観念や生活基盤の崩壊を表す。

 

塔に命中する雷は予期せぬアクシデントなどが降りかかるという不吉過ぎるカードなのだ。

 

かつての魔法少女社会の長達に待っていた結末を表したカードでもあった。

 

「ボクが占い結果に怯えていた時…十七夜さんは占いを気にし過ぎるなと言ってくれました…」

 

十七夜の言葉を信じたい気持ちもあるが、それでも自分の占いには絶対の自信をもつメルである。

 

だからこそタロットカードの中で最悪のカードを引いてしまった事は彼女にとって衝撃だった。

 

固有魔法を失ったとしても彼女は占いを信じる者であり未来を強く引き寄せると考えてしまう。

 

だからこそ、その運命は己の選択を貫く者達の手によってもたらされていくのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「それじゃ、アリナは行ってくるね」

 

男装服に着替えたアリナがペントハウスから出かけようとするのだが、十七夜は心配そうだ。

 

「悪魔が襲撃を仕掛けてきてあの施設を破壊するとはな…今度の会議はその対策会議なんだろ?」

 

「それもあるけど、たぶん責任問題の追及もあると思うワケ。アリナはその時の当事者だカラ」

 

「責任問題か…重い処遇を与えられるやもしれんな。援護に向かえなかった自分が呪わしい…」

 

「アリナ的には責任追及されて邪教のアトリエに連行してもらえたら願ったり叶ったりだヨネ」

 

「邪教の館か…自分はユダさんと共に行って悪魔合体を経験出来た。アリナも…したいのか?」

 

「それがアリナの望み。アリナはダークサマナー程度で終わるだけじゃ満足しないカラ」

 

そう言い残して地上に下りるエレベーターの前に立ちボタンを押す。

 

アリナを見送ったメイドの十七夜であったが、彼女に向けて念話を送ってくる悪魔が現れる。

 

<十七夜ー!オレサマ暇シテル!オレサマモ暴レニ行キタイ!>

 

念話を送ってきたのはアリナの仲魔の一体であるコカトライスのようだ。

 

今日は彼の自由行動の日であり、コカトライスを除いた悪魔達はアリナと共に出かけていた。

 

<落ち着け。目立つ行動は控えるように言われているはずだぞ>

 

<コケーッ!他ノ奴ラハ暴レラレタノニ!オレサマノ出番ガナカッタゾ!許セン!!>

 

<そうは言うがな……むぅ?>

 

吸血鬼としての十七夜は様々な能力を所有している。

 

アリナからペントハウスの管理と警備を任された者として使い魔達を使役している者なのだ。

 

その中の一体であるカラスの視界に映った者達の光景が十七夜の脳内にも浮かんだようである。

 

<…まさかこんな地域にまで現れるとはな>

 

<ドウシタ?トラブルカ?>

 

<そのようだ。自分の旧友達がこの地域に迫っている…我々の潜伏場所を特定されるのは不味い>

 

それを聞いたコカトライスはペントハウスの屋上で立ち上がり、巨大な翼を広げて喜ぶ。

 

<コレゾ僥倖!!ソイツラ狩リタイ!場所ヲ教エロ!オレサマガ仕留メテクル!コケーッ!!>

 

<侮るな…奴らの中には自分と同じく悪魔転生を果たした者達もいる。自分も迎撃に加わろう>

 

<マァイイ、協力ミッションダ!!ソレデ、ドウ攻メル?>

 

作戦立案を任された十七夜が腕を組んで考え込んでいたが何かを思いついたようだ。

 

<彼女達の目的は恐らく偵察だ。この場所を知られるわけにはいかん、捕らえる必要がある>

 

<殺サナイノカヨーッッ!?ツマラネーゾ!オレサマ血ヲマダ見テナイ!!>

 

<今は大事な時期だ…事は慎重に進める必要がある。奴らの処遇についてはユダさんに委ねる>

 

<オレサマ、テンション、爆下ガリ…ナンカ眠クナッテキタ……>

 

<君にも協力してもらうぞ、コカトライス。君の魔眼の力は相手を捕えるのに役立つはずだ>

 

<ムゥ…オレサマノ魔眼二期待シチャウ?ソーカ、ソーカ!オレサマ、テンション上ガッタゾ!>

 

(馬鹿と鋏は使いようだな……)

 

私服に着替えるため彼女は自室へと戻っていく。

 

白のニットトップスと紺色のスカートを纏い、黒のニーソックスを履いていく。

 

「もう3月だ。ダウンジャケットの季節は終わったな」

 

黒のダウンジャケットの代わりに黒のジャケットを纏った彼女が部屋から出てくる。

 

「連中をここに近寄らせるわけにはいかん。何処かにおびき寄せねばな…」

 

エレベーターで地上に下りてきた彼女の手には日傘が持たれている。

 

まだ吸血鬼が外を出歩ける時間帯ではないのだが彼女は意に介さず夕日の世界へと歩いていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

かなえ達は見滝原近くの郊外に訪れた事もあり二手に分かれて十七夜の捜索を開始する。

 

かりんとジャックコンビの3人は彼女達とは違う方向を探しにいったようだ。

 

「潜伏中の十七夜さんはどんな施設を利用してるんだろ?メルチャンは何が視えたの?」

 

「十七夜さんが銀行に訪れている光景が視えたんです。だけど…おかしいんですよね」

 

「そうだね…十七夜は吸血鬼になったはず。銀行が開いている時間は日が昇ってるだろ?」

 

「どういう事なんだろう…?十七夜さんは吸血鬼なんだし…日光が弱点のはずなんだけど…」

 

「今は気にしても仕方ない…。この時間だと銀行は閉まってるけど…行くだけ行ってみよう」

 

「十七夜さんが利用してた銀行名は確認済みです。そこから生活圏を割り出しましょう」

 

「十七夜さんは車の免許をもってないし、生活圏も銀行から近いはずだね。それで行こうか」

 

夕日が沈んでいく中、彼女達はスマホ片手に銀行に向かって行く。

 

路地を歩いていた時だった。

 

「この魔力は…!?」

 

十七夜の魔力を感じ取った瞬間、路地の辺りが濃霧に包まれていく。

 

「この霧は吸血鬼の能力だよ!十七夜さんと戦った観鳥さんだから分かる!」

 

「十七夜!!いるのか、十七夜!!」

 

彼女達が周囲に声を上げている時、空からカラスが飛来してくる。

 

<<こんな場所までやってくるとはな。安名の力で自分を探し出せたのか?>>

 

カラスから響いてくる念話が聞こえる彼女達が使い魔の主に目掛けて叫んでいく。

 

「十七夜さん!家に帰りましょう!家族だって心配してますよ!!」

 

<<観鳥君や十咎にも語ったが…自分は家族と縁切りしている。家に帰る事はない>>

 

「姿を見せろ十七夜!たとえ帰るつもりがなかろうと…捕まえてでも連れて帰るぞ!」

 

<<雪野君…やはり君とは殺し合う定めだったようだ。残念だよ…こんな関係になるなんてな>>

 

「十七夜さん!みんな帰りを待ってるんだ…親友のみたまさんのためにも…家に帰ってくれ!」

 

<<同じ事を何度も言わせるな、観鳥君。自分を捕まえたいのなら…追ってくるがいい>>

 

濃霧の中からカラスが飛び立つと同時に霧が晴れていく。

 

かなえ達はカラスの後を追うようにして走り続ける。

 

アリナ達が住まう高層ビルからは離れていき、その代わりとして大きな施設が見えてくる。

 

「ここは……?」

 

かなえ達が辿り着いたのは廃墟となった遊園地。

 

施設の奥には取り壊しが待たれる廃墟の城も見えたようだ。

 

「明らかに罠を張ってますって雰囲気ですよね…?」

 

「それでも行くしかない…十七夜の使い魔はこの場所まで飛んできたんだ」

 

「行こう、みんな!今度こそ十七夜さんを連れ帰ってみせる!!」

 

3人が悪魔化を行い廃墟となった遊園地の中へと入っていく。

 

ゲートを潜り抜けた瞬間、それは起こったのだ。

 

「これは…悪魔の異界!?」

 

廃墟となった遊園地は悪魔の異界に飲み込まれてその全様を様変わりさせてしまう。

 

かなえ達が立つ廃墟のアトラクション施設は墓場のような光景に変質したのである。

 

<<自分は奥の城にいる。ここまで来るがいい>>

 

墓の上で佇んでいたカラスから念話が響く。

 

誘い込みを仕掛けようとしているのは分かっているが、それでも彼女達は怯まない。

 

「何が待ち受けていても構わない…あたしは不器用なんだ。派手にやらせてもらうぞ…十七夜」

 

魔法武器を生み出した彼女達が墓場を超えながら城を目指す。

 

異界化した事により廃墟の城は禍々しくも立派な外観となり威圧的に彼女達を迎えてくれるのだ。

 

城館の木製扉を開けて中に入り込む。

 

大きな玄関ホールの中は薄暗く、蝋燭の灯りと古びた家具や肖像画が並んでいる。

 

目の前には大きな階段と踊り場が繋がったT字路のような枝分かれした両階段があるようだ。

 

「……ようこそ、我が城へ」

 

両階段の踊り場で立っている者がいる。

 

「……十七夜さん?」

 

佇んでいる者の声は十七夜であるが見た目が変化している。

 

黒を基調とした貴族のような風貌をしており、両腕と両足は禍々しい漆黒の甲冑を纏う。

 

目元は鉄仮面のようなマスクを身に纏い己の顔を隠す姿をしているようだ。

 

その姿はまさに夜の貴族を表す吸血鬼の姿を彷彿させており、クドラクとも似ている。

 

かなえ達の前に現れた者こそ、()()()()()()()()()()()となった和泉十七夜の姿であった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

禍々しく光る赤黒い魔力。

 

鉄仮面の隙間からは赤い眼光の光が浮かんでいる。

 

鋭い眼光を向けてくる者が重い口を開いて語り掛けてくるのだ。

 

「神浜から出てきてまで自分を探しに来るとはな」

 

強大なプレッシャーを放ってくる城主を相手に怯まない彼女達に視線を向けていく。

 

十七夜の視線が向けられたのは令であったようだ。

 

「その姿は何だ…観鳥君?自分と同じく悪魔の魔力を感じさせてくるとは…まさか君も…」

 

「…そう、観鳥さんも十七夜さんや雪野さん達と同じく悪魔となれた。これでお揃いだね?」

 

「そうか…君まで悪魔になってしまったのか。まるで悪魔化のバーゲンセールだな」

 

「それに十七夜さんだって随分と姿が変わってるじゃないか…まるで()()()()()だよ」

 

ヴラド三世とは串刺し公として知られるワラキア公であり、吸血鬼ドラキュラのモデルである。

 

父であるヴラド二世と同じく神聖ローマ帝国のドラゴン騎士団に所属していたようだ。

 

ヴラド三世は逆らう者には容赦がなく、敵の死体を串刺しにして吊るす悪魔のような歴史人物。

 

そんなヴラド三世に見えてしまうのは十七夜の右手に持たれている旗槍のせいであろう。

 

漆黒の槍には()()()が巻かれており、敵の血で染め上がった槍を彷彿とさせてくるからであった。

 

「歴史に詳しい観鳥君らしい意見だ。この姿はな…新しい悪魔の力に馴染むよう変化させたのさ」

 

「新しい悪魔の力?そういえば吸血鬼になった十七夜さんなのに…どうして外に出れるんです?」

 

「疑問に思うか、安名?それはな…吸血鬼として弱点を大幅に克服出来たからこそさ」

 

「弱点を大幅に克服した…?まさか十七夜さんは…悪魔合体を用いて体を強化したんですか?」

 

「その通り。自分は形を変えない悪魔合体を望み、新たなる悪魔耐性として炎無効を手に入れた」

 

「どうりで太陽の光に焼かれて体が燃え上らないわけか。不味いな…あたしの魔法と相性が悪い」

 

「それでも紫外線までは防ぎきれなかった…やはり太陽は吸血鬼の天敵である事に変わりはない」

 

「形を変えない悪魔合体である御霊合体をしたんですね?だけど…その禍々しい姿は何ですか?」

 

「吸血鬼とは形があって形が無い変幻自在の悪魔種族だ。望めば依然と同じ姿にだってなれる」

 

重い旗槍を肩に担ぎながら不敵な笑みを浮かべてくる者が階段を下りてくる。

 

新たなる悪魔の力を試したくてウズウズしているような態度に見えるだろう。

 

彼女達の前にまで下りてきた十七夜に向けてメルは叫ぶ。

 

「十七夜さん…ボクは嫌ですよ!十七夜さんとは戦いたくない…またあの頃に戻りましょうよ!」

 

「それは出来ない相談だ。君も自分も悪魔としての道を行くしかない…過去とは決別しろ」

 

「嫌です!また恋愛相談に乗って下さいよ!お節介な十七夜さんに振り回される生活がしたい!」

 

「安名……」

 

見ればメルの目には大粒の涙が浮かんでいる。

 

魔法少女時代を思い出してしまう十七夜の表情も苦しみを浮かべてしまうが、それでも迷わない。

 

「…楽しかった頃に帰りたいと自分も叫んだ。それでもな…自分はもう引き返せないのだ……」

 

「どうしてですかぁ!?」

 

「自分が罪人だからだ。あの神浜テロをもたらしたのは東の長として自分が愚かであったからだ」

 

「東の長として…愚かだった…?」

 

辛そうな表情を浮かべながらも十七夜は語ってくれる。

 

自由と平等こそが必要だと叫んでいた癖に他人の自由と平等は縛り上げた詐欺師であったこと。

 

不義理を許さないと叫んでいた癖に自分が一番不義理であったこと。

 

望んでいたのは自分だけの理想であり、周りの自由と平等なんて欠片も考えてくれなかったこと。

 

だからこそ魔法少女として生きた和泉十七夜は支離滅裂だと批判され、追放されたのだ。

 

「他人の心を見る癖に…自分を見る力がない者…それが魔法少女時代の和泉十七夜の正体だった」

 

「十七夜さん…ボク…気が付いてあげられなかった…。大き過ぎる矛盾を抱えてたんですね…」

 

「自分は愚かな理想主義者だ。だからこそ東の魔法少女を苦しめ…神浜テロに導いてしまった」

 

「十七夜…自分を責め過ぎだ。あの大規模テロを扇動したのは十七夜の指示じゃないだろ…?」

 

「七海達にも語ったが…自分は神浜の破壊を望んだ者。破壊の果てに人々は平等になると信じた」

 

「思うだけなら誰でも思う…あたしだって…あたしを傷つける連中なんて滅びろと思ったさ…」

 

「あの結末とは…自分の望みそのものだった。だからこそ…自分があの神浜テロを招いたんだ」

 

「十七夜さん…悲しみに支配されちゃダメだ!今の十七夜さんは自責の念に潰されてるんだよ!」

 

「自分は償いがしたい…東の魔法少女達が望んだ平等世界を作る…それこそが自分の弔いだ!!」

 

右手に持たれた旗槍を振り抜く。

 

黒い霧のようなものを噴き上げた槍を構えた十七夜は決断する覚悟を示すためにこそ叫ぶのだ。

 

「自分は世界の平等を望む!神浜人権宣言を叫んだ人修羅様の思想こそが…自分の理想世界だ!」

 

「騙されちゃダメだよ!尚紀さんが叫んだ人権宣言はね…大きな落とし穴があるんだ!!」

 

「黙れ!!たとえ観鳥君であっても世界の平等を叫んで神浜を救ったあの御方の侮辱は許さん!」

 

戦闘は避けられないと判断した悪魔少女達が武器を構える。

 

ゲーテを取り込んだ観鳥令は乗馬鞭のような武器を生み出して十七夜に向けて構えるのだ。

 

「フッ…君も正義の鞭を振りかざす者となるか?どれ程の手並みなのか…自分に見せてみろ!!」

 

「十七夜さん程の使い手になれなくてもいい!十七夜さんの過ちを気が付かせる力だけでいい!」

 

――今の十七夜さんは…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そのものだ!!

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

先に仕掛けたのは十七夜であり迎え撃つのは同じ槍を武器にしたかなえである。

 

「くっ!!」

 

燃え上る魔槍ルーンで柄の一撃を受け止め鍔迫り合う。

 

燃え上るルーンを相手に鍔迫り合う敵の周囲にも業火が生み出されて焼き尽くさんとする。

 

しかし炎無効耐性を得た十七夜は炎を無効化しながら新たなる悪魔スキルを発揮するのだ。

 

「なんだ!?」

 

旗槍から噴き上がる黒い霧に触れた瞬間、炎魔法が消えていく。

 

「これが悪魔の物理魔法というやつだ。実に素晴らしい」

 

十七夜が用いた物理攻撃スキルとは『暗夜剣』と呼ばれるもの。

 

敵単体に大ダメージを与える一撃であると同時に魔封効果も付与するものなのだ。

 

「我が一撃に触れた者は魔封状態となる。魔封を無効化する耐性は無かったようだな?」

 

「チッ!!」

 

黒い霧の中で鍔迫り合うかなえが十七夜の鉄仮面に目掛けて頭突きを放つ。

 

だが動きは読まれており後方に向けて跳躍した相手に頭突きの一撃を避けられてしまう。

 

着地した十七夜は左右から迫る敵に意識を向け、槍を構える。

 

「これが観鳥さんが得た悪魔の力だぁ!!」

 

「令さん!合わせて下さい!!」

 

乗馬鞭を振り抜いて放つ魔法とは氷結魔法のマハブフーラ。

 

合わせて放たれたのは疾風魔法のマハザンマである。

 

左右から迫る吹雪と竜巻に対して十七夜の体から漆黒の光が放たれ、体が弾ける。

 

無数の蝙蝠化を行った十七夜が階段の踊り場にまで飛翔していき再び実体化する。

 

避けられた魔法の一撃はぶつかり合い、対消滅したようだ。

 

「どうした観鳥君?遠距離からしか攻撃出来ないか?鞭とは相手を叩くためにあるのだぞ?」

 

「あいにく…観鳥さんの中に溶けた悪魔は接近戦が苦手でね。それに観鳥さんも苦手なんだ…」

 

「そうだったな…君は魔法の飛び道具頼りの者だった。生き残れたら誰かに稽古をつけてもらえ」

 

「どうせだったら乗馬鞭を扱うのを誰よりも得意としていた十七夜さんから教わりたいもんだね」

 

「それは出来ないな。自分はかつての武器を捨て、今は槍の扱い方を勉強中なのでな」

 

令に意識を向けている相手に目掛けて飛んできたのは、かなえが放つ鷹円弾の一撃。

 

迫りくる魔槍を目にした十七夜の体が霧化を行う。

 

ルーンは彼女の体を素通りして後ろにあった肖像画に深く突き刺さり動きを止めたようだ。

 

二階の通路にまで移動して実体化した十七夜が下の者に目掛けて不気味な笑みを浮かべてくる。

 

「荒々しい槍の使い方だな、雪野君?お互いに槍の技術は磨かなければならないようだ」

 

「元々あたしの戦い方はラフファイトだ。技術よりも大事なのは…敵を恐れない心さ」

 

「恐れを知らない者に待っているのは死だけだ。それを自分が分からせてやる…ついて来い!」

 

何を思ったのか、十七夜は戦場から逃げ出すかのようにして二階通路を走って行く。

 

「逃げるな、十七夜!!」

 

かなえが階段を昇りながら十七夜の後を追う。

 

顔を見合わせる令とメルであるが、十七夜とは付き合いが長い彼女達は何か思うところがあった。

 

「十七夜さんが一目散に逃げだす判断をする時は…いつだって何かしらの策を考えてる人だった」

 

「これも何かの狙いがあっての逃走なんでしょうか…?」

 

「そう考えておいた方がいいと思う。とにかく、観鳥さん達も後を追いかけよう!」

 

令とメルもかなえの後を追いながら城館の二階を目指すために階段を駆け上がっていく。

 

三階構造をしている城館の二階通路を走る彼女達が通路内で槍を振るうかなえを見つける。

 

「この程度の攻撃であたしは倒せない!姿を見せろ!!」

 

かなえの周りには超能力魔法を用いて槍のように飛んできた家具が叩き壊され散乱している。

 

<自分の魔力を追ってこい。ここまで来れれば…相手をしてやろう>

 

念話を送ってきた者の魔力を追い、城館内部を駆けていく3人の悪魔少女達。

 

彼女達が辿り着いたのは城の外が一望出来る大きなバルコニーであったようだ。

 

「追い詰めたぞ…十七夜。空を飛んで逃げなかった事だけは褒めてやる」

 

「何度でも言ってやります!十七夜さんを相手にボクの悪魔の力を使わせないで下さいよ!!」

 

「観鳥さんだって使いたくない…それでも、話を聞く気がないなら力で追い詰めてみせるさ!」

 

強気な態度を向けてくる者達に向けて十七夜は不気味な笑みを浮かべてくる。

 

「追い詰めた?フフッ…見えるものだけにしか意識を向けられないのが人の悪い癖なのだろうな」

 

「何だと…?十七夜…何を狙って……」

 

「自分がいつ独りで戦うと言ったのだ?それに気が付かなかったのが運の尽きなのだよ」

 

<<えっ!!?>>

 

十七夜が立つ後ろ側から強大な魔力が発せられる。

 

透明に見えていた筈の空間に浮かぶのは悪魔を表す真紅の瞳。

 

「これは!?体が…動かない!!」

 

「しまった!?やっぱり罠を張ってたのか!」

 

悪魔の魔眼を行使されたかなえ達の手足の先が石化していく。

 

ペトラアイを放った者とは十七夜の後ろ側の空間で待ち伏せていた悪魔であった。

 

「コケーッ!!オレサマ、アンブッシュ、得意!!イキナリ石化サセラレタ恐怖ヲ楽シメ!!」

 

隠し身の技術を用いてステルス状態を保っていた者こそ、アリナの仲魔であるコカトライス。

 

悪魔が潜んでいたにも関わらず魔力どころか姿すら相手に気が付かせないのが隠し身の脅威だ。

 

「巨大な悪魔だけど…この見た目…もしかして巨大なニワトリですか!?してやられました!」

 

「ニワトリジャネーヨ!!オレサマドラゴン!!二度ト間違エルンジャナイゾ!!コケーッ!!」

 

「そういう割にはニワトリみたいな鳴き声をしてるよね…なんて訝しんでる場合じゃないけど…」

 

「グッ…!?コ、コレハ口癖デアッテ…オレサマ、ニワトリジャナイ!ダケド…ウゴゴゴ…」

 

「…自分のアイデンティティに苦しんでる?分かるよ…あたしも悪魔と人間の間で苦しんでる」

 

「オマエラモ同ジカ!?ナンカ親近感ヲ感ジテキタゾ!!」

 

「コカトライス…今は自分達のアイデンティティ議論をしている場合じゃないぞ」

 

「ヌゥゥゥ…友達ニナレルカモト思ッタガシカタナイ!コイツラハ献上品トシテ持チ帰ル!!」

 

必死になって体を動かそうとするが、既に四肢の殆どが石化状態であり棒立ち状態をしている。

 

そんな者達を捕らえる事など朝飯前であり、なんなら完全に石化させて砕く事も出来るだろう。

 

「待ってて下さい…何とかして石化の解除魔法を……」

 

「そうはいかんぞ、安名」

 

歩いてきた十七夜がメルの左手に持たれていたトートの書を引き抜いて奪い取る。

 

これが魔法の触媒なのだと見抜かれていたようだ。

 

「返して下さいよー!それはボクの魔導書ですよ!まぁ…元々はトート神のものですけど…」

 

「この魔導書の表紙に描かれているのはホルスの目か?トート神の力を行使出来るとはな…」

 

「コノ小娘ガ魔術ノ神ダトォ!?エジプトノトート神ト言エバ、啓明結社ノ連中ノ崇拝対象ダ!」

 

「そうだったな…アリナから聞いたがイルミナティが用いる魔術は全てエジプトが発祥だそうだ」

 

「ボクはイルミナティなんぞに拝まれたくありません!神様扱いされたらお尻が痒くなります!」

 

「ちょっと待った!!今…アリナって言わなかった!?どういう事なの…十七夜さん!!」

 

「やはりアリナとも繋がっていたんだな…十七夜。アリナの居場所も吐かせてみせる…!!」

 

「チッ…口が滑ったか。まぁいい、アリナと会いたければ自分達に捕らえられることだ」

 

絶体絶命のピンチに陥ってしまった雪野かなえと安名メルと観鳥令。

 

彼女達の目の前に立ち塞がるのは夜の世界に消えてしまった常闇の騎士と石化を操るドラゴン。

 

常闇の騎士が纏う鉄仮面の中で浮かぶ赤い眼光には、もはや迷いの色は浮かばないだろう。

 

今の彼女が求めているのは平等世界であり世界連邦を築くために全ての国家を解体すること。

 

人修羅が叫んだ平等理念こそが今の十七夜の行動理念であり、人修羅を崇拝する信念でもある。

 

常闇の騎士となった和泉十七夜の戦いは止められないだろう。

 

世界に平等をもたらす事こそが神浜テロをもたらして散っていった魔法少女達の鎮魂となる。

 

悪魔の笛吹きからそう摺り込まれた十七夜は目隠しされた亡者の如く突き進むしかない。

 

正義に盲従する者達こそが世界を破壊する原動力となる者だとユダは言葉を残すのであった。

 




ようやく常闇なぎたんのご登場です。
何でドラキュラモデルのヴラド三世な印象を与えているのかは後々分かってくると思われます。
なぎたんが常闇になるならみたまさんもいずれは常闇化するでしょうね。
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