人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築 作:チャーシュー麺愉悦部
神浜の路地裏を歩くのは漆黒のハイカラマントを纏う葛葉ライドウ。
足元を歩くのは彼のお供を務める黒猫姿のゴウトである。
「ここか……酷いものだな」
誰もいない開けた路地裏には焼け焦げた人の跡と返り血が辺り一面に残っている。
現場検証を行うライドウは感じているはずだ。
この惨劇を起こした者は相手に対して一切の容赦をしない冷酷な者なのだろうと。
「ヤタガラスを裏切ったレイ・レイホゥか…手練れのサマナーを何人も殺しながら逃げている」
「ヤタガラス直属のサマナー一族の者達をこうも容易く殺せるか…侮れない女のようだな」
レイ・レイホゥを追う事になったライドウの脳裏には名も無き神社で語られた言葉が過る。
あれは神浜近くの名も無き神社に呼び出された時のこと。
「……粛清任務だと?」
怪訝な顔つきを浮かべるライドウの前には漆黒の頭巾を被り顔を隠すヤタガラスの使者が立つ。
相変わらず素顔を見せない者であり本心を悟らせない淡々とした言葉を語る事しか出来ない者だ。
「人修羅封印任務を継続中の貴方に依頼するのは負担になりますが他に任せられる者がいません」
「自分は殺し屋ではない、他を当たってくれないか?」
「サマナーとて人間…人を斬り殺すのは嫌ですか?」
「自分は護国守護を務めるデビルサマナーであり…悪魔と戦う者。それ以外ではない」
「では、その者が悪魔の力を身に宿して戦える者だと言えば…考えは変わりますか?」
「…神降ろしが使える程のサマナーなのか?」
「その者はあまりにも強力な悪魔をその身に降ろす者。神を宿す者は既に人間とは呼べません」
「…人の姿をした悪魔ならば、討伐するのはデビルサマナーの役目か」
「此度の依頼はヤタガラス情報部に所属していた裏切り者の粛清です。急ぎ始末して下さい」
「待つがいい、その者はどうしてヤタガラスを裏切ったのだ?何か理由があるのではないのか?」
「ゴウト、貴方は犯罪者が犯罪を犯す動機を一々確認しながら戦う者なのですか?」
「そ、それは…ただ気になっただけの事なのだ」
「あの者が何を思って裏切ったのかは知る術もなし。大切なのは彼女が殺戮者だということ」
「ライドウと同じく護国守護の任に就く者達を殺戮するならば…日の本の脅威ともいえるか」
「ゴウト、貴方が首輪に挟んでいるスマホのマップアプリに印をつけます。現地に赴きなさい」
「うむ、現場検証こそが探偵の本分だ。よろしく頼むぞ」
「…すまほ?」
不思議顔を向けながらライドウはゴウト達のやり取りを見物する事しか出来ない。
彼は大正時代の人間であり21世紀の未来道具については何の知識も無い者なのだ。
「ライドウ、うぬは大正時代の者だから分からぬも無理はない。しかしコレは便利だぞ」
「大正時代の頃は首輪に小さなメモ帳とペンを挟んでいたが…それの代わりにもなるのか?」
「その通り。これは多機能道具であって…いや、説明しても分からぬか」
首輪にスマホを挟み直してもらったゴウトとライドウが踵を返して去っていく。
その時の出来事を思い出すライドウの表情は複雑な心境を押し隠すような顔をしてしまう。
「探偵として行方不明者捜索だけで済めばいいのだが…うぬはヤタガラスの者でもある」
「分かっている…探偵は仮の姿でしかない。自分の本分はヤタガラスのデビルサマナーだ」
「護国守護こそが我らの役目。秩序に仕えておきながら秩序に仇成す者は討たねばならん」
「……そうだな」
現場検証を終えたライドウとゴウトが去っていく。
路地を歩きながらもライドウは今の自分の姿と魔法少女の虐殺者としての人修羅を重ねてしまう。
(秩序に仇成す者は死罪にする…自分も人修羅と変わらない事をしようというのか…)
ハイカラマントの中で握り締めた手に力が入っていく。
彼は大正時代においても様々な者達と戦ってきた。
中には秩序ある社会の理不尽に虐げられたが故に秩序に仇成す自由主義者もいたのである。
それでも理不尽を強いられたならこちらも理不尽を敷いてもいいだなんて理屈を彼は認めない。
(可哀相な理由があれば何をやってもいいでは秩序が崩壊する。それだけは認める訳にはいかん)
かつての人修羅と同じ答えにしか辿り着けないライドウだが、心には葛藤が残っている。
自分の甘さのせいで少女が目の前で犠牲にされてしまう程の経験がない彼は鬼になりきれない。
「レイ・レイホゥか…現場を見ただけでその強さを感じた。自分とて必ず勝てる保障はない」
「ぬかるなよ、ライドウ。うぬには人修羅と戦う使命がある…ここでやられるわけにはいかんぞ」
答えが出ないながらも彼はヤタガラスの任務に盲従する道を選ぶ。
それが国の秩序を守ることに繋がるならば武力行使もやむを得ない。
暴力は悪い事だと認知されながらも正義を振りかざせば暴力を行使する事が許されてしまう。
そんな者達の姿は秩序の維持だけに盲従して
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教育会議の議論を終えた常盤ななか達が竜真館道場から出てきて家路についていく。
多忙な身でありながらも教育熱心な常盤ななかであるが心配そうな顔を浮かべているようだ。
「今日も美雨さんは来られませんでした…。観鳥さんは捜索に出向いてますから分かりますが…」
「…そうだね。ボクが南凪路に聞きに行くと美雨も人探しの毎日だって蒼海幇の人が言ってたよ」
「あきらさん、美雨さんが探している人物は誰なんでしょうか?」
「美雨から聞いた事があるんだ…香港時代で慕っていた人物が神浜に現れてくれたってさ」
「じゃあ、その人を探しに行ってるんですか?」
「いや、その人は南凪路によく来る人物だから違うかな。名前はたしかナオミさんだったと思う」
「では、美雨さんはナオミさん以外を探しているのでしょうか…?」
「そうだと思う…。美雨を見かけた時はいつも辛そうな表情をしてたから…心配だね」
「私達にも声をかけてくれたらいいんですが…多忙な私達に気を使ってくれてるのでしょうね」
「私…凄く心配です。早く元気な顔を見せに来てくれたらいいのに…」
心配するななか達ではあるが、これは神浜の者が関わるべきではない問題だと美雨は考えている。
香港時代を生きた美雨だからこそ香港時代を共に過ごせた大切な人々を自分の手で救いたい。
独り背負い込む美雨はナオミよりも先にレイを見つけようと今日も街を捜索し続けていたようだ。
「手がかり一つ見つからないネ…。レイ姉さんが立ち寄りそうな場所は全部探したはずなのに…」
十七夜の故郷である大東区にまで捜査範囲を広げる美雨は今日も成果が得られず途方に暮れる。
彼女が歩いているエリアは地元ではまやかし町と呼ばれる地区であり忌み嫌われる場所。
戦国時代では盗賊集団の根城として使われた地域でもあり、この地区出身の者は嫌われたようだ。
顔を俯けながら歩いていた時だった。
(何ネ…あの男達は……?)
美雨は物陰に隠れながら不審な男達の姿を確認する。
ベージュのトレンチコートを纏ったサングラス男達の耳には無線機に繋がったイヤホンが見える。
彼らも誰かを探している探偵なのかと考えていたが突然男達の視線が美雨に向けられてしまう。
慌てて物陰に隠れる彼女の姿を見た男達が顔を向け合って何かを話していく。
「魔力を感じたが…あれは魔法少女の魔力だな」
「この街を縄張りにしている魔法少女だろう。我々が探しているのは魔法少女ではない」
美雨を無視した男達が歩き去っていく。
物陰から再び顔を出した美雨は彼らを不審に思っているのか後をつけていく動きを見せる。
(私の魔力に気付いたカ?そんな事が出来る男はデビルサマナー以外に存在しないヨ)
尾行に気が付かれないよう美雨は事実偽装の結界を張り巡らせる。
彼女の固有魔法に囚われたサマナー達は尾行されている事に意識が向けられなくなってしまう。
しかし彼らは事実偽装のような混乱魔法に耐性をもつ悪魔も所有している。
隠した召喚管から念話を受け取ったサマナー達が魔法に囚われていると気が付いたため姿を隠す。
(気が付かれた!?私の魔法に気がつける奴らならもう疑う余地はないネ!!)
慌てた彼女が路地裏まで駆け寄るのだが既に男達の姿は消え去っている。
「まだ遠くには行てないはずヨ!!」
路地の奥にまで走って行くのだが、少しして路地裏隣の塀を飛び越えた男達が姿を現す。
「何の目的があって我々の後をつけ回すのかは知らないが、構っていられん」
「そうだな、我々の目的は裏切り者のレイ・レイホゥの捜索と排除なのだ」
耳にはめ込んだ無線機から連絡が届く。
どうやらレイが潜んでいる場所を見つけたようだ。
男達も合流するためにその場を後にしていく。
彼らが向かった先とはまやかし町にある廃墟化した商店街だった。
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怪しい男達を見失った美雨であったが、それでも彼女は魔法少女。
サマナーや悪魔達の魔力を探し続けていると廃墟の商店街で彼らが戦っている事に気が付く。
「異界が広がてるネ…あのサマナー達が戦てるのは……まさか!!」
彼女は魔法少女姿となり、ソウルジェムを掲げて異界に穴を開ける。
中に侵入した彼女は廃墟となった商店街を超えていく。
奥に向かって走る彼女の鼻を突くのは血の匂い。
「あの男達の魔力が消えた…?それにこの魔力は忘れないネ…!レイ姉さん…もうやめるヨ!!」
召喚悪魔が構築した異界が消失していく中でも彼女は走りながら現場を目指す。
現場に駆け付けた彼女が見た光景は凄惨極まりなかった。
召喚された悪魔達は焼き尽くされ、サマナー達は光剣の如く輝く三節棍で体を溶断されている。
残された現場に立っていた者こそ、ストライプ柄の白スーツを身に纏うレイだったようだ。
「……見つかっちゃったわね」
光剣の如く輝く三節棍の光が収まり、折り畳んだ武器を腰に回し込んで隠す。
厳しい目を向ける相手とは美雨であり、拒絶の意思を彼女に向けて放ってくる。
「レイ姉さん…どうしてまた殺すネ?殺戮の上に殺戮を重ねても…終わりなんてないヨ!!」
「でしょうね…。終わりがあるとすれば…あたしの命が終わる時よ。それまでは抗い続けるわ」
彼女が指を鳴らせば転がっていた死体も発火する。
業火で焼き尽くされたバラバラの死体が燃え上り、証拠隠滅が図られていく。
「この人達にだって…帰りを待ている人達がいるネ!!憎しみばかりが撒き散らされるヨ!!」
「所詮は呪われた定めをあたしは行く者よ。憎まれ続ける者として…生きていくしかないわ」
「そこまでして何を守りたいネ?殺めるのはあくまでそうしてまで生かしたい者があるからヨ!」
それを問われたレイは押し黙ってしまう。
顔を俯けたまま体は震えていき、葛藤に苛まれているようだ。
ついに堪えきれなくなったのか美雨に向けて懺悔にも似た後悔の言葉が語られていく。
「……あたしね、人を殺めてまで守りたい存在なんて……もうないのよ」
「えっ…?どういう事ネ…レイ姉さん?」
「物心ついた時から秘密結社に育てられて…結社のために人殺しになって…最後には捨てられた」
「レイ姉さん……」
「御国を守るため…その大儀があたしを支えてくれたから耐えられた。だけど…もうそれもない」
ヤタガラスに忠義を尽くした女に待っていたのは裏切りであった。
ヤタガラスが説いてきた護国守護こそがレイを支えてくれていたのに失ってしまった。
今となっては人を殺めてまで守りたいものなど存在しない。
目の前の男達とて自分の命という最後のこだわりを守る為に殺めたが、大儀など得られない。
守るべき正義を失った殺戮者に待っていたのは孤独の辛さと報復を恐れる恐怖心のみ。
「あたしは何のために人殺しをしてきたの…?どうしてナオミの家族を殺してまで戦ったの…?」
抑えきれない後悔の感情が彼女の目に涙を浮かべていく。
握り締められた彼女の手には未だに殺戮者の証である返り血が滴っている。
「正義を失ったのにどうして人殺しを続けるの…?分からない…もうあたし…何も分からない…」
両膝が崩れかけた時、走ってきた美雨がレイの体を両手で受け止めてくれる。
涙が零れていく彼女に顔を向ける美雨の表情は慈悲の心に満ちてくれていた。
「もういいネ…レイ姉さんは人殺しなんてもうしなくてもいいヨ」
「美雨……?」
「人間は繋がりを求めるヨ…誰かに依存しなければ生きられない程にまでか弱い生き物ネ…」
「…あたしは小さな頃から孤独だった…だから居場所を与えてくれた結社に尽くしてきたわ…」
「レイ姉さんが人を殺めてきたのは…必要とされたかただけネ。自分の価値が欲しかただけヨ…」
「あたし…誰かに褒められたかった…だから必要としてくれた人達のためにこそ尽くしたのに…」
「献身には見返りが必要ネ…夫婦と同じヨ。それを与えてくれないなら尽くす必要なんて無いネ」
「あたしは…もう尽くさなくていいの?尽くしてまで誰かを殺める必要は無いの…?」
「もう誰も殺す必要なんてない…これからのレイ姉さんを必要としてくれる人達の為に生きるネ」
殺戮者だってやり直しながら生きてもいいと言ってくれる。
その言葉がどれだけレイ・レイホゥの心を救ったのだろうか。
涙が止まらない彼女は美雨を力強く抱き締めながら涙を零し続けてしまう。
「ごめんなさい…ごめんなさい……ナオミ…美雨……ごめんなさいぃぃぃぃ……ッッ!!!」
慟哭の叫びを上げてしまうレイを力強く抱き締めてくれる。
美雨の心の中でレイに裏切られた時の辛さも消えていく。
彼女達はようやく許し合える時がきた。
悪人や罪人であっても許す事が出来る気持ちこそが愛であり、感情を克服する自己犠牲精神。
罪を犯さず生きていける者などこの世には存在しない。
だからこそ許し合う気持ちこそが世界から善悪概念を消してくれる唯一の抵抗力であり陰陽調和。
善にも悪にも偏らない中庸の精神、NEUTRALなのだ。
しかし陰陽調和であるNEUTRALを破壊する概念がこの世には存在している。
それこそがこの世を善悪に分断して永遠に殺し合わせる呪わしき概念…
<<見つけたぞ、裏切り者め>>
周囲が再び異界に包まれてしまう。
暗い商店街を超えてくるのは漆黒のハイカラマントを纏う者。
彼はヤタガラス所属の退魔師であり、正義のために戦う悪魔召喚師。
「葛葉ライドウ……お前までレイ姉さんを追てきたのカ……」
現れたのは二体の悪魔を従えたデビルサマナーであり、ヤタガラスが放った断罪者。
護国守護を裏切った女サマナーに向けてライドウの力強い目が向けられる。
そして足元のゴウトは彼女が犯した罪を問うのだ。
「ヤタガラス情報部を裏切り逃亡した者よ。うぬは多くの仲間達を裏切り大勢を殺してきた」
黒猫のゴウトが話す言葉は魔法少女には分からないだろうが、女サマナーのレイには分かる。
「うぬの犯した罪は重く、そしてうぬはデビルサマナーでもある。ゆえに我らがここに来た」
ライドウの右側に立つヨシツネが腰に差してある鞘に左手を置き、刀の鍔を弾く。
「うぬがどんな思惑を抱えて情報部から機密情報を盗んだかは知らぬが…重い裏切り行為なのだ」
ライドウの左側に立つオルトロスは唸り声を上げ、今にも罪人に飛びかかりそうだ。
「我らは忠義の刃を振るう者。護国守護の名の元に、貴様を討ち取らせてもらう」
ライドウもマントを両手で払い除け、刀の鞘から陰陽葛葉を抜刀する。
正義の使者との戦いは避けられないのだが、それでも美雨が立ち塞がりながら叫ぶ。
「レイ姉さん!ここは食い止めるヨ!ナオミ姉さんに見つからないよう蒼海幇に逃げ込むネ!」
「……自分の邪魔をするならば、この街の魔法少女であっても許すわけにはいかない」
「葛葉ライドウ…やはりお前は危険な奴ネ!ナオキもレイ姉さんもやらせはしないヨ!!」
「その女は我らの仇。邪魔をするな」
「たとえ仇であても…やり直そうとしている!お願いヨ…どうか見逃してあげて欲しいネ!!」
「それは出来ない。自分はその女が殺してきた同胞の家族達からも仇を討ってくれと頼まれた」
「それは…その……」
「彼女を追った者達も人の親だった…父親の死を子供は嘆き、妻は泣き崩れながら自分に縋った」
怒りの炎を宿したライドウが断罪の刃をレイに向けてくる。
「貴様がどんな思いを背負っていようとも…自分は許すつもりなどない。貴様も武器を抜け」
戦いは避けられないと判断した美雨の両腕から魔法武器である鉤爪が生み出される。
武器を構えるのだが美雨の肩を掴んだのはレイだったようだ。
「もういい…貴女は手を出さないで。これはあたしが背負うべき罪なのよ」
「レイ姉さん…ダメね!せっかくやり直そうとしてるのに…」
「所詮は血塗られた定めよ。彼の言う事も正しい…罪には罰が必要よ。それが司法概念でもある」
「だから裁かれるのカ!?そんなの嫌ネ…死ぬ事が罪の償いだなんて私は認めないヨ!!」
「あたしは多くを殺した者…日本の死刑基準を大きく上回る程にね。だから…逃げないわ」
腰から三節棍を抜いたレイが武器を構える。
金色の瞳と化した彼女は正義の刃に倒される覚悟を示すためにこそ戦うのだ。
正義、それは弱者達を救う為にこそある概念。
だからこそ弱者達は正義を望むのだろう。
「伝説のサマナー…葛葉ライドウ。きっと貴方がキョウジをあそこまで追い詰めたんでしょうね」
「キョウジの仲間のようだな…葛葉一族の面汚しの仲間であるなら容赦はしない」
「それでいい…あたしも一族に連なる者として葛葉の掟には従うわ…この身を裁くがいい」
「いい覚悟だ。道を踏み外した者よ…護国守護の名の元に、忠義の刃をもって貴様を裁こう!!」
正義を振りかざすライドウの刃がレイを襲う。
美雨は再び正義を振りかざす者の戦いを傍観させられるしかない。
人々を善悪に分断し、永遠に殺し合わせる正義と呼ばれる邪悪な概念。
弱者達を守るために在る正義とは一体何なのだろうか?
それは
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かつてユダとクドラクはこんな言葉のやり取りをしている。
適当な悪役を作らなければ、正義のヒーローに出番はない。
倒すべき敵がいなければ正義の味方は自分の暴力を言い訳出来ない。
だからこそ正義の味方は恐ろしいイデオロギーに憑りつかれてしまう。
道徳的に劣った、非人道的で理解不能で対話不能な悪者を次々と欲しがる。
漫画の変身ヒーローにでもなった気分で悦に浸り、敵を滅ぼしたがると言葉を残してくれた。
「ハァッッ!!」
ライドウの斬撃を三節棍で弾くレイが続く斬撃を三節棍を振り回す事で遠ざける。
棍が鎖で繋がり合った武器の両端の棍を握る彼女が後ろ足を引き、腰を落とし両手の棍を構える。
ライドウの斬撃を払い、後ろから斬りかかるヨシツネの斬撃を払い、両者の斬撃を払っていく。
「ソノ首!!トッタゾ!!」
背後から飛びかかってくるオルトロスに対して大きくバク宙をしながら突進を避ける。
だがオルトロスの左右から飛びかかってくるライドウとヨシツネの連続攻撃が放たれ続けていく。
左右に持つ棍を用いて両者の剣を打ち払い、舞うような動きで後ろに移動を行う者に追撃を放つ。
「チッ!!」
ヨシツネの飛びかかり斬りを寄せ付けない三節棍を振り回す彼女の姿はまるで竜巻のようだ。
腰に二つ目の棍を回し込んだまま両手の棍を用いてライドウの斬撃を立て続けに弾く。
後ろから斬りかかるヨシツネの唐竹割りを両手の棍で持ち上げた二つ目の棍で受け止める。
「グフッ!!?」
すかさず後ろに向けた蹴りを放ち、厚底ヒールで顎を蹴り上げられてしまう。
しかし苦し紛れに放ったヨシツネの斬撃が厚底部分を半分に切り裂いてしまう。
足を下ろした時、体のバランスが崩れてしまう事にレイは舌打ちを行う。
「厚底ブーツなんて履いて来るんじゃなかったわね…」
再び攻め込んでくる彼らの斬撃を打ち払い、同時に放つ斬撃攻撃を左右の棍で打ち上げる。
「「ガハッ!!」」
踏み込んだレイが彼らの腹部に向けて一つ目と三つ目の棍を用いた殴打を打ち込む。
そのまま潜り抜けたレイは一つ目の棍を右手を用いて回転させながら後ろに振り向き構え直す。
「やるじゃねーか…あの女サマナー」
「クンフーは素晴らしいが…あの女の力はそれだけではない。この現場の光景で分かるはずだ」
「炎魔法か…神降ろしで何を降ろしてるのかは知らねーが油断するんじゃねーぞ、ライドウ」
召喚管を抜いたライドウがヨシツネを管に戻し、代わりの管で悪魔を召喚。
ライドウの背後に現れた巨人こそ、レイが宿すアマテラスとは因縁深い神だった。
「チッ!嫌な野郎を神降ろししてやがるぜ…。ライドウ、あの女に宿ってるのはオレの兄貴だ!」
「アマテラスか…それ程までの神を使役するとはな。協力してもらうぞ、スサノオ」
「しゃーねーな…コイツは高天原以来の大喧嘩になるぜ!」
オルトロスと戦うレイは右頭部の下顎に目掛けて側踢腿(そくてきたい)の真上蹴りを放つ。
蹴り上げられて倒れ込んだオルトロスから視線変えれば、忌々しい神と共に立つライドウがいる。
宿ったアマテラスの感情が流れ込んだ彼女の顔にも怒りが浮かんでいく。
「スサノオ…また私の邪魔をするか?貴様の無礼は許し難い…今度こそケリをつけてくれる!」
アマテラスの怒りを吐き出す巫女に向けて不敵な笑みを浮かべたスサノオが剣を構える。
天叢雲剣が帯電していき、荒神としての力を兄神に向けて叩きつけようと迸っていく。
「へっ!久しぶりだな…兄貴?今度もオレに恐れをなして天岩戸に引き籠ってもいいんだぜ?」
「ぬかせ…下郎!!貴様と兄弟神であることそのものが呪わしい!私の前から消えろーっ!!」
業火で燃え上った三節棍を頭上で回転させたレイが一気に振り抜く。
放たれたのは全体攻撃を放つ炎魔法の中でも最上位の一つである『マハラギダイン』の一撃。
迎え撃つスサノオは左手を掲げてライドウと自分を覆う結界を生み出す。
「忘れたか!!オレは結界魔法のスペシャリストなんだぜ!!」
スサノオが放った結界魔法とは『蛮力の結界』であり、結界バリアが炎を押し留めてくれる。
しかし放たれた豪熱が廃墟の商店街を瞬く間に焼き尽くし、異界の街が地獄へと変わってしまう。
桁外れの力を感じ取った美雨が死に物狂いで逃げ続けるが背後から業火が迫ってくる。
「なんて力ネ…!!あんな力を操れるレイ姉さんとナオミ姉さんが戦えば…どちらも死ぬヨ!!」
業火が渦巻く世界ではオルトロスとスサノオが果敢にもアマテラスを宿したレイに戦いを挑む。
オルトロスは炎無効耐性をもち、スサノオは炎吸収耐性をもつため炎では倒せないようだ。
魔法では分が悪いと判断したレイが三節棍を振り回して攻撃を捌き続ける。
しかし彼らが狙っているのは自分達に意識を向けさせること。
「はっ!!?」
業火の中から飛び出てきた伏兵とは陰陽葛葉を用いて的殺突きを仕掛けてくる葛葉ライドウ。
咄嗟に三節棍を横向きに構えて刺突の先端を受け止めようとしたが寸前で止まる。
刺突はフェイントであり、真上に斬り上げた一撃によって三節棍が宙を舞いながら飛ばされる。
武器を奪われたレイに向けて袈裟斬りを仕掛けるのだが、この間合いこそ武術家の領域。
ライドウの左側に踏み込んだレイが刃を潜り抜けると同時に手首を掴む。
「グフッ!?」
左の肘打ちがライドウのみぞおちに決まっており、怯んだ彼を肩車しながら投げ落とす。
倒れ込んだ彼に目掛けて踏み蹴りを放とうとするが刀の刃が彼女の足に目掛けて振るわれる。
間一髪で足首を切断されなかったが、もう片方の厚底まで平らに切り落とされていたようだ。
「これでバランスが良くなったわ。さぁ、立ち上がって来なさいよ…我らが葛葉四天王さん」
立ち上がったライドウの元に仲魔達が集まるが、彼は刀を横に向けながら止めてくる。
「加勢はいらない。この女の技に敬意を示す」
刀を地面に突き立てたライドウが両拳を開いて右足を引き、腰を落としながら構えてくる。
それを見たレイは微笑みを浮かべながら強き者を讃える言葉を送ってくれるのだ。
「懐かしい構えね…。葛葉流格闘術の腕前はどれ程のものなのか…あたしが試してあげるわ」
武を構え合った者達がすり寄っていく。
互いの腕が接触した瞬間、苛烈な拳打の応酬が始まっていく光景はまるで格闘映画だ。
互いの突き、肘打ちを捌き合い、ライドウが放つ突きを受け止めたレイが踏み込む。
「くっ!?」
体当たりを仕掛ける貼山靠を受けたライドウの体が弾かれるが、着地した彼が再び攻める。
二連続蹴りを両手で払い、続く後ろ回し蹴りを避けると同時に同じ技を返す。
ライドウも顎を引いて避けるが、攻め込んでくる彼女の突きと肘打ちが放たれ続ける。
肘を肘で受け止め、鉤突きを腰を落として避け、互いにチャンスを狙い合う。
2人が狙った一撃とは奇しくも同じものだった。
「「がはっ!!」」
同時に放たれたアッパーカットの一撃が互いの顎を打ち上げ、2人の体が地面に倒れ込む。
互いの脳が激しく揺さぶられ足に力が入らなくなるが、それでも2人は立ち上がってくる。
「流石ね…貴方の力を認めるわ。それでこそ葛葉四天王最強といわれた14代目葛葉ライドウよ」
「それ程までの力を持ちながら…なぜヤタガラスを裏切った?実に惜しいぞ…レイ・レイホゥ」
「…それはこちらのセリフよ。護国守護は大事だけど…貴方は
「何だと…?」
「貴方が守りたいのは日の本の民なの?それとも…天皇家を支えるヤタガラス一族なの?」
「どういう意味だ?」
「あたしが語った言葉を胸に刻みなさい。そして考えるのよ…今の自分は本当に正しいのかをね」
ネビロスと同じ言葉を送られたライドウの目に僅かな迷いが浮かんでしまう。
迷いによって体が動かなかった時、周囲の異変にようやく気が付く。
「これは…濃霧だと?」
周囲が突然の濃霧に襲われるのだが、天候を司る天空神を従えたライドウの脅威にはなり得ない。
スサノオが手をかざせば霧の魔法は霧散するかのようにして消えていく。
視界に見えた景色とはライドウ達以外は誰もいなくなった瓦礫の異界だけであった。
「アマテラスが使った魔法じゃねーな。あいつは霧を操る力なんて無かったはずだぜ」
「グゥゥゥゥ…逃ガシタカ。微カニダガ、カワイコチャンノ匂イヲ二人分感ジタゾ!」
「魔法少女が助太刀に来たのか?ヤレヤレ…せっかく兄貴とケリをつけられると思ったのによぉ」
地面に突き立てた刀を鞘に仕舞ったライドウがスサノオとオルトロスを召喚管に戻す。
異界の景色が通常空間に戻ったようだがライドウは学帽を深く被り直す。
足元に近寄ってきたゴウトが心配してくれたのだが、彼は何も言わずに現場から去っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、ライドウから逃れる事が出来たレイの目の前には2人の魔法少女が立っている。
美雨の横に立っていたのは静海このはであった。
「この人が美雨さんの大切な人なの…?」
「そうネ…名前はレイ・レイホゥ。香港時代の私と共に生きてくれた大切な人ネ」
「そう…間に合って良かったわ。ななかさんに頼まれた私たち姉妹は貴女を捜索していたのよ」
「助太刀に感謝するヨ、このは……って!?レイ姉さん…何処に行くカ!!」
2人に礼も言わずにレイは路地裏から出て行こうとする。
慌てて駆け寄ってきた美雨が手を掴むのだが払い除けられてしまう。
「この街の魔法少女は関わらない方がいい…あんた達にまで迷惑が掛かる事になってしまうわ」
「神浜の魔法少女に頼らなくても…せめて私には頼て欲しいヨ!匿う場所なら用意するネ!」
「逃げ隠れし続けるのはもう不可能よ…14代目葛葉ライドウが相手なら直に追い詰められる…」
覚悟を決めたレイが美雨に振り返り、決意を語ってくる。
その表情は断頭台の階段を昇り始めた死刑囚のような諦めと後悔の感情で支配されていた。
「この命…葛葉ライドウにくれてやるわけにはいかない。あたしの命は…ナオミのものよ」
「レイ姉さん……まさか……そんな……」
今にも泣きそうな美雨に向けて香港時代の笑顔を向けてくれる。
「ありがとう…美雨。最後にあんたと再会出来て…あたし……幸せだったわ」
彼女を抱きしめてくれたレイが頬に優しいキスを送ってくれる。
涙が零れ落ち続ける美雨から一歩下がったレイが別れの一撃を放つのだ。
「ガッ……アッ……ッッ!!」
縦拳突きがみぞおちにクリーンヒットした美雨が息が出来なくなり意識が朦朧としていく。
倒れそうな美雨を抱きしめたレイは彼女が眠りにつくまで優しく頭を撫で続けてくれたようだ。
「このはさん…だったかしら?悪いんだけど…面倒ついでを頼まれて欲しいのよ」
彼女の元にまできたレイが美雨をこのはに預けてくれる。
白いスーツのポケットから取り出したのは香港時代の思い出の写真。
「この黒髪ロングの女性を探して欲しいの。美雨の近くにいると思うから南凪路を探してみて」
「レイさん…何を企んでいるの?大切な美雨さんを傷つけてまで…何をしようとしているの!?」
「あたしはね…多くの人を殺戮した罪人よ。だからその罪を清算するために…復讐されてくる」
「そんな……バカな真似はやめて!こんなにも貴女を愛している美雨さんが残っているのよ!」
「それは奪い続けた命を背負った人々だって持っていたわ…あたしはそれを理不尽に奪ったのよ」
「レイさん……」
「ナオミを見つけたら伝えておいて。明日の深夜零時に神浜監獄で待っているとね」
それだけを言い残したレイが去っていく。
独り残された静海このはであるが、彼女はレイを止める事など出来ないと感じている。
罪には罰が必要だと叫ぶ気持ちならつつじの家が焼かれた時に経験しているからだろう。
このはの魔力を追って合流してきた葉月とあやめに美雨を託したこのはも去っていく。
「ちょっと、このは!?美雨さんをほったらかして何処に行くのさ!」
「ごめんなさい…葉月、あやめ。私は用事を思い出したから行くわね」
「このは!?待ってよーーっ!!」
駆けだしていった長女の姿を不審に思うが美雨を放置は出来ないので回復魔法をかけていく。
建物を跳躍しながら南凪路を目指す静海このはの心の中には葛藤が渦巻いている。
「罪には罰が必要よ…だけどそれを認めたら…私はナオミさんを尚紀さんと同じにしてしまう…」
正義を振りかざす者達に待っている末路ならば魔法少女の虐殺者として生きた尚紀が証明済み。
それでも正義を信じる者達は自らがその経験を積まない限り、過ちを認める事などないだろう。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶとドイツ初代宰相ビスマルクは言葉を残している。
正義の歴史を見届けた者達はどんな答えを出すのだろうか?
罪には罰を下せと叫んで罪人をギロチンにかける事しか出来ないのだろうか?
この世を善悪でしか認識出来ない者達こそが正義を振りかざして悪をやっつけろと叫び続ける。
その末路とは何なのか?
答えは簡単だろう。
そろそろナオミさんのキャラドラマ回収せんといかんので三話に纏められるよう描いていきますね。