人修羅×まどマギ まどマギにメガテン足して世界再構築   作:チャーシュー麺愉悦部

228 / 398
227話 復讐を果たす日

ここは神浜市大東区に存在している神浜監獄。

 

明治五大監獄に匹敵する程の規模で建造された広大な収容施設だが老朽化が酷いようだ。

 

現在は全貌を残す建物だけが残り、地域住民もあまり寄り付かない場所となっている。

 

夜の零時が近づいた頃。

 

誰もいない神浜監獄の敷地内ではストライプ柄の白スーツを着た女性が独り立っている。

 

左手には三節棍が握られており、彼女にとっては最後の戦いを共にしようとしているようだ。

 

立っている人物とは罪人と成り果てたレイ・レイホゥであり、断罪者の到着を待ち続けている。

 

今宵は満月であり雲の隙間からは月の光が監獄の敷地内にも届いていく。

 

雲の隙間から地上を照らす月明かりに照らされた彼女は静かに目を瞑り続ける。

 

思い出すのはこれまでの人生であり、自分が犯した罪の数々を数えていく。

 

両手足では数えきれない程の罪を犯し続け、それでも大儀のためだと自分を殺し続けてきた。

 

だがそれも終わる時がくる。

 

血塗られた定めの道を今日この日こそ終わらせる覚悟をしてきたのだ。

 

「……来たわね」

 

監獄の入り口に視線を向ければ歩いてくるのは望んでいた存在。

 

「……決着をつけにきたわ」

 

今にも爆発しそうな憎悪の感情を押し殺しながら歩いて来る者こそ復讐者であり断罪者。

 

香港時代を共に生き、そして彼女の家族を殺して裏切ってしまったナオミであった。

 

彼女から離れた位置で立ち止まったナオミに向けて鋭い目つきを送ってくる。

 

その目には自分の罪からはもう逃げないという覚悟が宿っていたようだ。

 

「…あんたと手合わせしてどれぐらいあたしが勝てたかしら?もう昔の事だから思い出せないわ」

 

「…本気の勝負を挑み合った回数は6回程ね。勝敗は五分五分…三勝三敗だったわ」

 

「そうだったわね…どんな理由で本気の喧嘩をしちゃったのか…上手く思い出せないわ」

 

「思い出す価値もないと言いたいのかしら?私と美雨を裏切り…そして私の家族を殺した事を?」

 

「そう捉えてもらって結構よ。あたしは多くの罪を繰り返したけど大儀があたしを支えてくれた」

 

挑発ともとれる言葉を放ってくる者に向けて呪い殺す程の怒りをナオミは放ってくる。

 

今にも首を跳ね落とそうとする者の気迫こそがレイの望みであり、そのための挑発なのだ。

 

「あんたの老師に取り入ってきたのは娘の親友だと情を沸かせるため。お陰で楽が出来たわ」

 

「そのために私に近づいてきたのね……老師を殺し…家の家宝を奪う為に私を利用した!!」

 

「潜入工作の基本は敵からの信頼を得ること。長い時間がかかるけどそれだけの価値はあったわ」

 

噴き上がる怒りによって顔が歪み切ったナオミであるが、それでも彼女は確認がしたい。

 

それはレイを見つけた時に見せた態度も油断を誘うためのものだったのかを聞きたいのだ。

 

「私はね…悪女の貴女を期待したわ。だけど…見つけた時の貴女は…香港時代と変わらなかった」

 

「…何を期待しているのかしら?」

 

「貴女はただヤタガラスに従わされていただけの者であり…私の家族を殺害する気はなかったよ」

 

「もしそうだと言えば…あんたはあたしへの復讐を捨てるというの?何の為に強くなったのよ?」

 

「そ…それは……」

 

「あんたに迷いを生んじゃったのはあたしの不手際ね。だったら望み通りの言葉を送ってあげる」

 

無理やり邪悪な笑みを浮かべてきた者が残酷な言葉を吐き捨ててくる。

 

その言葉こそが復讐者として生き続けたナオミが聞きたかった憎むべき悪女の言葉であった。

 

「あたしがあんたの老師を殺した時に語った言葉はね…ヤタガラスの大儀のために無様に死ねよ」

 

――娘の名を語りながら死ぬ老師を見ながら、あたしは計画完遂の喜びに打ち震えていたわ。

 

一陣の夜風が吹き抜ける。

 

閃光が頭を突き抜ける程の衝撃を受けたナオミの両目が見開いていく。

 

そして次の瞬間、修羅の形相と化す。

 

「……我が迷いは晴れた」

 

素早く召喚管を抜いたナオミが召喚管を構えながら罪人に天誅を下すに相応しい女神を召喚する。

 

「来たれ…月の女神であり、魔女達の女王!」

 

召喚管が振り抜かれMAGの光がナオミの周囲を包み込む。

 

彼女の背後に顕現した三つ首の巨人こそ、魔術を司る月の女神ヘカーテの御姿だ。

 

「いよいよ汝の旅も終わる時がきたな。この罪人に相応しき天罰…我が一撃をもって与えよう!」

 

獅子・犬・馬の頭部を同時に持つ女神が怒りの咆哮を上げながら両手の鞭を構えてくる。

 

巨体からは膨大な魔力が噴き上がり、それに呼応するかのように夜空の満月が強い光を放つ。

 

邪悪な悪女を演じるレイもまた金色の瞳となり、三節棍を水平に構える。

 

<同時にあたしの逃亡の旅も終わる事になる…。悪いわね、アマテラス…最後まで付き合ってね>

 

<罪には罰が必要だ…だからこそ汝は討たれなければならん。秩序の神としてそれを否定はせん>

 

<その通りよ…だからこそこの命、邪悪な敵として…最後まで燃え上らせる覚悟を示すわ!!>

 

念話を終えたレイの周囲に業火が噴き上がり、背後には光明神アマテラスの幻影が浮かんでくる。

 

強大な神々を使役する女サマナー同士の最後の戦いが始まろうとしているのだ。

 

「行くわよ…憎き仇!!その白スーツを貴様の死に装束にしてみせる!!」

 

「やってみなさいよ…ナオミ!!復讐者として生きてきた苦しみ全てをあたしに叩きつけろ!!」

 

周囲が異界化していき彼女達の戦いの邪魔をする者達を遠ざけていく。

 

この戦いはどちらかが命を落とすか、両者とも死ぬまで終わる事はない。

 

罪を犯した者には罰が与えられるべきだと望む気持ちこそ、かつての八雲みたまの気持ち。

 

レイもまた彼女と同じく自分の罪から逃げない潔さを示してくれるだろう。

 

罪人として死ぬ覚悟を示すレイと、断罪者として親友を裁くナオミの戦いが始まっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ナオミを戦場に送ってしまったのは静海このはである。

 

今日の彼女は魔獣狩りを行う気分にもなれずに独り夜道を歩き続ける。

 

彼女が辿り着いたのは未だに瓦礫塗れのつつじの家の前であった。

 

今でも直視出来ない凄惨な現場を見ていると、大切な家を焼き払った東住人達の姿を思い出す。

 

怒りの感情によって拳が握り込まれる彼女が思い出すのは魔法少女裁判の時の記憶だった。

 

「あの時…私は罪人共を死刑にしろと叫んだわ。あの時の感情こそが…ナオミさんの気持ちよ」

 

その時の気持ちを南凪路で見つけたナオミにも語ってしまった記憶が浮かんでいく。

 

このは達姉妹の苦しみに触れたナオミはこのはを強く抱きしめてくれる。

 

同じ無念と苦しみを共有出来る同士として、このはの辛さを誰よりも理解してくれたようだ。

 

「止められない…止められるはずがない。罪には罰が必要よ…だから私は…嘘をついてしまった」

 

美雨が目を覚ました時、このはに向けてレイは何処に行ったのかと問い詰めてきた。

 

必死の形相をしながらレイの身を心配する美雨に向けて、彼女は嘘の情報を流してしまう。

 

葛葉ライドウに見つかったレイは身を潜めるために新西区に向かって行ったと語ったのだ。

 

大きく遠ざかる地区にまで美雨を向かわせたのはレイの意思とナオミの意思を尊重するため。

 

それでも心の中には後ろめたさが纏わりつき、今でも彼女の心に暗い影を生んでいた。

 

「復讐なんて…ようは感情の問題よ。憎い敵は殺したい…それが人間の正義ってものじゃない…」

 

<<そうさ、それが大衆の望みであり娯楽であり…我が身可愛さから出てくる正義なんだよ>>

 

男の声が聞こえたため、このはが左に顔を向ける。

 

声を掛けてきたのは黒のトレンチコート姿のウラベであり、隣には擬態姿のリャナンシーもいた。

 

「貴方はたしか…神浜港で尚紀さんやナオミさんと一緒にいたデビルサマナーさん…?」

 

「そうだ。南凪路でナオミと話している姿を見かけたんだがな……いよいよ今夜なのか?」

 

それを問われた彼女の顔が俯いてしまったためウラベは今夜が決着の日だと察してくれる。

 

彼女の横に立ち、崩れ去ったつつじの家に視線を向けてくれたようだ。

 

「焼け焦げた門につつじの家と書かれているが…児童養護施設か?なんでこの場所にいる?」

 

それを問われた彼女は顔を俯けていたが、聞いて欲しいのか彼女は何があったのかを語り出す。

 

彼女の事情を知ったウラベはこのは達姉妹もまた大切な人達を理不尽に奪われた者達だと知る。

 

「私は魔法少女裁判の時に叫んだわ…犯罪者を死刑にしろと。それが被害者の心を救うとね…」

 

「お前たち姉妹の無念なら俺も理解出来る。俺もまた妻子を無残に殺された者だからな…」

 

「復讐こそが被害者の正義だと私たち姉妹は望んだ…。だけど、復讐という正義の弊害も見た…」

 

「……尚紀の末路だろ?俺も見た…復讐に生きる俺もまた…ああなっちまうんだろうな」

 

重苦しい沈黙が場を支配していく。

 

このはの心を苦しめる後ろめたさが耐えられないのか、誰かに判断して欲しいのか、語り出す。

 

犯罪者として裁かれる者と裁く者の覚悟を尊重するべきか?

 

それを止めたい者の心を尊重するべきか?

 

悩みに悩む彼女の苦しみを聞かされたウラベは美雨から語られた言葉を彼女にも伝えてくれる。

 

「善は悪を許し…正義は悪を許さない。南凪路で俺に絡んできた魔法少女が語った言葉だ」

 

「南凪路で活動している魔法少女は美雨さんよ…彼女がそんな言葉を語ったの?」

 

「美雨は復讐心に囚われた俺に向けてこう言った…正義に囚われて自分を見ていないとな…」

 

「正義に囚われて…自分を見ていない…?」

 

「恨む気持ちが善悪を生む…悔しい感情が物事を観えなくする…復讐者もミイラに成り果てる」

 

それを言われた時、魔法少女裁判の時に死刑を叫んだ自分の姿をようやく客観的に考えられる。

 

もし極刑を果たせていたら犯罪者遺族側の八雲みかげや天音月夜はどんな気持ちになったのか?

 

大切な人を奪われた者として、このは達姉妹と同じく復讐心を燃え上らせて報復を叫ぶのか?

 

「正義の中身はな…卑劣極まったダブルスタンダード構造なんだ。自分は良くて…お前はダメ」

 

「正義を掲げた暴力は良くて…犯罪者や犯罪者の遺族がもたらす暴力はダメ…?」

 

「何処までも正義側の都合の良さしか求めない。これが美雨が語った客観性の欠如さ…」

 

()()()()()()()()()()()()()()…だけど()()()()()()()()()()()()()()……最低な理屈ね」

 

守れなかった苦しみが切実な情念を生む。

 

長年の屈辱が重なれば許さない人に成り果てて正義執行を叫び出す。

 

それこそが断罪者となった者達の心理であり、復讐という正義を執行しろと叫ぶ者達の心理だ。

 

「あの後、俺は浄土宗開祖の法然の言葉を思い出した。法然は父親に復讐を止められた者なんだ」

 

法然は武士の子として生まれた者だが、父親は賊共に襲われ多勢に無勢の戦いで殺されている。

 

幼少時代の法然は父親の前で泣きながら復讐を誓うのだが、それを止めたのが父親だった。

 

――志しは嬉しいが、それは父の望みではない。

 

――無念の死は我が前世の業縁によるものだ。

 

――もし敵討ちが成就しても敵の子はまた、そなたを敵と恨むだろう。

 

――そうなれば幾世代にも渡って()()()()()()()()

 

――愚かな事だ。

 

死に際の父親が託してくれた真理を理解出来た法然は武士になる道を捨て、僧侶となる道を選ぶ。

 

日本一の僧侶となり父親の菩提を弔って欲しいという父親の最後の願いを果たそうとしたのだ。

 

法然という歴史人物を語られた事により、このはの顔に浮かんでいた迷いが消えていく。

 

「私……間違っていた。復讐なんかじゃ救われない……許す気持ちこそが大切だった!!」

 

美雨を探すために新西区に向かって走って行く。

 

このはを見送ってくれたウラベの口元には微笑みが浮かんでくれているようだ。

 

「切り返しが早い柔軟性こそが若者の特権だな。俺みたいなオッサンは…真似出来そうにねぇな」

 

「ウラベ様は法然さんの父君と同じく……業縁による滅びを望まれますか?」

 

「…それがミイラ取りがミイラになった者に相応しい末路さ。俺は自分の直感を選ばせてもらう」

 

「正しさは周りが決めるものですが…ウラベ様の正しさをお進み下さい。私も付き従います」

 

「ありがとう…リャナンシー。自由の道を進む代償を支払う日がきたら……共に逝きたいよな?」

 

去っていくウラベ達であるが、心の中では同じ復讐者であるナオミへの気持ちが湧いていく。

 

(ナオミ…お前だってまだ若いんだ。きっとやり直せる……俺みたいになるんじゃねーぞ)

 

復讐に生きる者達の中にも復讐に生きる事への疑問を感じてくれている者もいるだろう。

 

しかし人間とは感情と狭い経験だけで意思決定を下してしまう視野橋梁の偏見生物。

 

自分への客観性を失った時、人間は自分の都合の良さしか求めない愚かな生き物と化す。

 

そんな思考停止の愚者共が求める都合の良さこそが正義と道徳なのだ。

 

正義と道徳さえ振りかざせば悪者をいくらでもやっつけられるし、暴力を楽しく正当化出来る。

 

大衆娯楽と化した正義を楽しみつつ、自分自身がスカッとすれば()()()()()()()()()()()

 

これこそが正義(LAW)に盲従する者達の在り方であり、他責の安心感に浸りたい思考停止だ。

 

批判の無い社会は例外なく腐り果てるように、批判の無い正義は()()()()にしかなりえなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

異界の神浜監獄では夜空に浮かんだ満月から次々と天罰の光が降り注ぐ。

 

巨大な鞭が振るわれるたびに万能属性魔法の収束した光が地上に向けて放たれる。

 

満月の女王の力は凄まじく、広々とした監獄の敷地内がレーザー放射の大穴だらけとなるのだ。

 

「まるで衛星兵器に攻撃されているような気分だわ…!!」

 

レイは大きく跳躍しながら天罰の一撃を避け続ける。

 

狙うのはヘカーテの極大攻撃を支えるために膨大なMAGを練り上げるサマナーのようだ。

 

「大技を繰り出し続けるMAGを仲魔に与えないとならない召喚者の苦労も大変よね!」

 

側方宙返りから着地したレイは体勢を回転させながら三節棍を投げ放つ。

 

両端の棍には光剣のようなエネルギーが纏われており、避けなければ体が溶断される。

 

「チッ!!」

 

ヘカーテへのMAG供給状態をやめたナオミが横っ飛びで三節棍の一撃を避ける。

 

MAG供給を止められたヘカーテが不満を表すようにしてナオミに苛立ちをぶつけてくる。

 

「何をしておるか!!汝の仇を討ちたいのだろう!?もっとMAGを寄越すのだ!!」

 

「分かってるわよ!!少しぐらい供給を止められたからって文句のつけ過ぎよ!!」

 

ヘカーテとは仲が良いというわけではないのか、ナオミとヘカーテが仲違いを始めてしまう。

 

この隙を逃すレイではなかった。

 

高天原爾 神留坐須 皇賀親 神漏岐……(たかまのはらにかむづまります)

 

古神道の印を両手で結びながら最要祓(さいようはらい)を詠唱するレイの体が光り始める。

 

祝詞乃  太祝詞事乎  宣礼……(のりとのふとのりとごとをのれ)

 

ナオミとヘカーテが気が付いた時にはもう遅い。

 

光明神の如く光り輝くレイが放つ一撃こそ、アマテラスの必殺の一撃。

 

布留部!!由良由良止!!布留部!!(ふるべ ゆらゆらと ふるべ)

 

アマテラスへの祈祷をもって放つ一撃とは『神光破』と呼ばれる極大魔法。

 

月の光と対を成す太陽の光が収束した一撃がヘカーテに迫りくる。

 

「この光は太陽の光!?まさか貴様が宿す神とは……ウァァァァーーーーーッッ!!?」

 

極大の光がレーザー放射の如くヘカーテの上半身を飲み込んでいく。

 

月の女神の体は焼き尽くされ、残された下半身だけが倒れ込みMAGの光となって弾け飛ぶ。

 

極大の一撃を放ったレイも息が上がっているが、それはナオミも同じのようだ。

 

「魔法なんかで終わらせるのは勿体ないわ。どうせなら…お互いのクンフーで戦いましょうか?」

 

「……望むところよ」

 

回転しながら戻ってきた三節棍を受け止めたレイがついて来るように促す。

 

ヘカーテが暴れ狂った監獄敷地内は大穴だらけであり足場が悪くなっていたからだろう。

 

レイの背中を追っていくナオミは腰に吊るした召喚管を手に取りながら次の悪魔を召喚。

 

現れたのは魔王シュウであり、走りながら悪魔と憑依していく。

 

悪魔を表す真紅の瞳と化した彼女が入り込んだのは神浜監獄の内部であった。

 

「……随分と入り組んだ監獄施設ね?まるで迷宮みたいだわ」

 

神浜監獄は一人の罪人を隔離する為に作られたと言われている地下牢があり迷宮構造をしている。

 

魔力を探しながら地下牢が並んだ空間を歩いていた時だった。

 

「くっ!?」

 

突然横の壁が爆ぜ、中から飛び出してきたレイが勝負を仕掛けてくる。

 

気殺を用いてここまで気配を気が付かせなかったが、ナオミの聴勁までは誤魔化せない。

 

肌感覚で反応したナオミがレイの右突きを右腕で逸らすと同時にくっつける。

 

ナオミがレイに仕掛けようとしているのは拳法家同士の決闘状ともいえる推手の形であった。

 

「…あんたと本気の喧嘩をやってた頃を思い出すわ。いつも推手を用いてやってたわね」

 

「私は負けないわ…レイ。貴女と戦うのはこれで最後…そして私が勝利を勝ち取って終わる!!」

 

「その意気よ。さぁ…悪魔頼りの実力ではないってところを、あたしに示しなさい!!」

 

重ね合わせた互いの構えから放たれる殺気が空気を圧迫する程の緊張感を周囲に与えていく。

 

腰を落とし合って構える2人が睨み合い、一気に動く。

 

「「ハァァーーーッッ!!!」」

 

突き・肘・手刀打ち・裏拳、互いの腕が密着するワンインチ距離の苛烈な攻防が放たれ続ける。

 

相手の打撃を互いに掌・手首・肘を使い受け流し、密着状態から離れず打撃の応酬が続く。

 

「ぐふっ!!」

 

レイの直突きをみぞおちに受けてしまったナオミが咳き込む。

 

後ずさった彼女に目掛けて右ストレートの追い打ちを仕掛けるが前蹴りを顎に受けてしまう。

 

後退したレイに目掛けて上段回し蹴りを狙うが腰を落として避けられ、続く旋風脚が宙を舞う。

 

レイは蹴り足を両腕で受け止めると同時に掴み、体勢を捻り込み左肘を後ろのナオミに放つ。

 

左腕で左肘を受け止めるが片足状態のナオミの足を刈り取り彼女を倒し込む。

 

「ぐっ!!」

 

マウント攻撃を仕掛けてくるレイのパンチを首を曲げて避け続け、両足を彼女の腹に向ける。

 

「チッ!!」

 

両足で腹部を蹴り上げられた彼女の体が一回転して持ち上げられマウントを返されたようだ。

 

立ち上がる両者の手には武器が握られている。

 

ナオミはシュウの武器の一つである中華式の直剣を持ち、レイは腰に隠した三節棍を抜く。

 

武器を構え合う両雄。

 

先に動いたのはナオミであった。

 

「ハァァーーーッッ!!」

 

リーチが長い相手の懐で戦うために果敢にも踏み込んでいく。

 

唐竹、右薙ぎ、左薙ぎと次々と斬撃が放たれていくがレイは巧みに三節棍を操り受け流す。

 

舞うように反撃を放ってくる棍の一撃一撃を避け続けるが後退っていく。

 

大きく後方に跳躍したナオミが武器にMAGを送り込む。

 

MAGが刃の形となり、噴き上がるMAGを纏った刃を構えながら一気に踏み込む。

 

「私は負けない!!老師よ…私を導いて下さい!!」

 

互いが踏み込み打撃と斬撃の応酬が放たれていく。

 

ナオミの斬撃や刺突を捌き、舞うように放ってくる棍の一撃を弾き続ける。

 

「どうしたのナオミ!!あんたの怒りをあたしの命に届かせてみせなさいよ!!」

 

三節棍を回転させた勢いのまま放つ唐竹割りを弾き、続く回転薙ぎ払いを前転して潜りぬける。

 

立ち上がるナオミに向けて回転蹴りの勢いのまま振り抜く棍の薙ぎ払いが放たれてしまう。

 

だがナオミはこれを待っていた。

 

刃を下に向けながら一撃を受け止め、もう片方の手で回り込んできた棍を掴み取る。

 

受け止めた刃を引き抜き、相手に向けて突きを放つが手首を掴まれ投げ飛ばされてしまう。

 

「がはっ!!」

 

壁を突き破りながら地面に転がったナオミがいるのは廃線路となった地下鉄エリア。

 

ここは地下鉄工事を行った際に調査がずさんだったため監獄にぶち当たったことがあるエリア。

 

そのため繋がってしまった廃路が壁の向こう側に残っていたようだ。

 

「くっ……強いわね。流石は私のライバルだった女よ……」

 

咳き込みながら立ち上がるナオミが投げ飛ばす時に手放したレイの武器を投げ捨てる。

 

壁の向こう側から迫ってくるのは武器がなくても踏み込むのが躊躇われる程の相手なのだ。

 

「まだよ…まだ足りないわ。もっと怒りなさい…そうでなければ、あたしには届かない!!」

 

右掌を掲げれば業火が噴き上がっていく。

 

放たれたのは大火球を放つアギダインであり、ナオミを焼き尽くさんと迫りくる。

 

直撃して業火が周囲に溢れる光景を見つめるレイであるが口元には不敵な笑みが浮かぶ。

 

「さぁ……あんたの怒りをあたしに示せ!!」

 

燃え上る世界から飛び出してきたのはシュウが所有する中華式の大盾を構えたナオミの姿。

 

右手には中華式の片手斧が持たれた状態のまま突っ込んでくる。

 

「レイィィィィーーーッッ!!!」

 

豪快な一撃を避けるが、続けて斧を振り回す相手から距離を放すために跳躍。

 

着地した足元に転がっていた三節棍を蹴り上げて拾ったレイが攻勢に打って出る。

 

次々と繰り出す左右の棍の一撃に対してナオミは盾でパリィを狙う。

 

棍を大きく弾かれたレイに目掛けて踏み込み、胴体を両断する一撃を放つ。

 

「チッ!!」

 

バク転して横薙ぎの一撃を避けたレイであるが襟元の赤いネクタイが切れ落ちていく。

 

レイは首のネクタイを外しながら投げ捨て、黒シャツの首のボタンを外したようだ。

 

首には三途の川の渡し守であるカロンに支払う6文銭がアクセサリーとして身に付けられている。

 

「カロンに支払う硬貨を身に付けているのね…私も今日の日のために銀貨一枚持ってきたわ」

 

「三途の川だろうがアケローン川だろうが逝く覚悟は常にしてきた。あたしは罪人ですもの」

 

「どちらがカロンの世話になるのかは…直に答えが出るでしょうね」

 

召喚管を抜いたナオミが宿したシュウを管に戻し、別の悪魔を召喚する。

 

背後に現れたのはナオミの切り札ともいえる不動明王だった。

 

「この倶利伽羅剣をもって貴様との因縁を断ち切る。貴様の煩悩がもたらした罪を数えろ!」

 

「不動明王を使役する者だったとはね…いいでしょう。大日如来に裁かれるなら悔いは無い!」

 

倶利伽羅剣を構えるナオミではあるが、背後で佇む不動明王は動く気配を見せない。

 

不動明王の剣を振るいながら戦うナオミも違和感を感じているはずだ。

 

(倶利伽羅剣から力を感じられない…?なぜ退魔の炎が生み出されないの!?)

 

迷いを感じながらも目の前から迫るレイを迎え撃つ戦いを止めることなど出来ない。

 

不動の如く動かない不動明王の顔つきには愚か者達を見つめるような憐みが浮かんでいた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「レイ姉さん……ナオミ姉さん……お願いだから早まらないで欲しいヨ!!」

 

美雨は栄区の建物屋上を跳躍しながら東に向けて移動を繰り返す。

 

このはから得た情報を頼りに神浜監獄を目指すのだが距離が離れ過ぎている。

 

間に合うか分からない不安と恐怖を感じながらも無我夢中で駆けつけようとしていたようだ。

 

そんな彼女の姿に視線を向けていたのは地上の道路脇に車を停車させている者。

 

車の中で窓から顔を出していたのは葛葉キョウジであったようだ。

 

「あの魔法少女が向かう方角は大東区か?ならばレイのケジメを邪魔立てしに行くやもしれんな」

 

左手に持つスマホ画面に映っているのはレイに仕掛けておいたGPSの発信サイン。

 

彼女に気が付かれないよう助けてもらった時に仕掛けておいたようだ。

 

美雨の魔力を追って車を発進させていくキョウジの顔には迷いが浮かんでいる。

 

自分でもどうしてレイの為に露払いのような真似をしているのか分からない顔を浮かべてしまう。

 

それでも彼が望むのはレイの覚悟を尊重すること。

 

罪人として復讐者に葬り去られる末路を遂げる事こそがナオミの屈辱を晴らす唯一の手段。

 

葛葉の面汚しとして長年の屈辱に苛まれた者だからこそ、ナオミの苦しみの理解者でもあるのだ。

 

「…俺は復讐者の邪魔をしに行く者を許さない。俺もまた屈辱を晴らすために生きる者だからな」

 

キョウジが望むのは長年連れ添った自分の部下の死であり、そのために動く者。

 

冷酷のようにも思えるが、キョウジは屈辱に苛まれるナオミの苦しみを誰よりも知る者。

 

そして長年連れ添った者だからこそレイ・レイホゥの望みを誰よりも知る者でもあった。

 

美雨の動きを察知したのはキョウジだけではない。

 

長い長髪を模した翼を羽ばたかせながら夜空を飛んでいるモー・ショボーも気が付いたようだ。

 

「あの子はたしかライドウの邪魔をした子だよね?もしかして…向かう先にレイがいるのかな?」

 

腕を組んで考え込んでいたが、夜空の向こう側から飛んでくる悪魔の姿が近づいて来る。

 

現れたのは同じように偵察任務中だったヒトコトヌシだった。

 

「その顔ォォォ!!何か見つけたのかァァァァーーッッ!?うぉれにも教えろォォォーッッ!!」

 

「うん!怪しい子を見つけたからライドウに報告しに行って!私はあの子を尾行するから!」

 

「合点承知の助ェェェェーーッッ!!光の速度でライドウに報告してやるゥゥゥーーッッ!!」

 

それぞれが神浜監獄に向かおうとする中、ついに罪人と断罪者の決着の時が訪れようとしている。

 

「どういうつもりなの…不動明王!?どうして私に力を貸さないのよ!?」

 

後ろの不動明王に向けて叫ぶナオミであるが、彼はこんな言葉を召喚者に向けて送ってくる。

 

「…ノウマクサンマンダ バザラダンカン。我が与える真言、その意味を知り…煩悩を断て」

 

不動明王が語った不動明王真言にはこのような意味がある。

 

出自を怨み己の不運を他人の責任にして社会を呪いし者。

 

地獄よりの使者に魅入られ怨霊となるだろう。

 

誰と出会うかで人生は良きようにも悪しきようにもなりうる。

 

選択権は他の誰でもない、()()()()()()()という意味だった。

 

「私が煩悩に支配されていると言いたいの!?復讐こそが正義よ!!正義を軽んじるつもり!?」

 

「それではな、かつての人修羅と同じ末路にしかなりえん。汝もアーリマンとなりたいか?」

 

「アーリマンは目の前の女の方よ!!私から家族を奪った仇こそ…この世全ての悪だわ!!」

 

「怒りと憎しみを正当化する者こそ地獄の怨霊と化す。ミイラ取りがミイラとなるのだ」

 

「うるさい!!この怨み…私の不幸…全て目の前の女のせいよ……あの女を呪ってやる!!」

 

ナオミが背負い続けてきた怒りと無念の感情をぶつけきるために剣を構える。

 

その顔は怒りと悲しみに支配された鬼の顔となり、亡き老師のために殺される覚悟で敵を殺す。

 

不動明王が語った戒めすら届かない程にまで堕ちてしまったナオミを見つめるレイ。

 

彼女の表情にはもう悪女を演じる気配もなく、ただひたすら自責の念に支配された顔を見せる。

 

大切だった親友が堕ちるとこまで堕ちる前にしてやれることがあるだろう。

 

「ナオミ…そこまで追い込んじゃったのはあたしのせいよね?だから…一緒に終わらせましょう」

 

三節棍に最後の力を流し込み、左右の棍を光剣二刀流のようにして構える。

 

これを最後の死合とするかの如く彼女達が一気に踏み込む。

 

「死になさい!!!私の仇ィィィィーーーッッ!!!」

 

「ナオミィィィィーーーッッ!!!」

 

互いの斬撃同士がぶつかり合い、激しい剣戟が繰り広げられていく。

 

回し蹴りが互いの頭部を打ち合い、互いに体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さないだろう。

 

鈍化した世界。

 

互いの刃から放たれる刺突の一撃。

 

「「ガハッ……ッッ!!!」」

 

互いに狙った必殺の一撃が両者の心臓を貫いてしまう。

 

同時に吐血する2人の顔はあまりにも近くなっている。

 

死を賭してでも仇を討とうと鬼の形相を向け続ける者に向けて片手が持ち上げられていく。

 

「ほんと……どうして……」

 

ナオミの頬に左手を添わせてくれたレイが最後の力を振り絞って笑顔を向けてくれる。

 

「こんな事に……なっちゃったの……か……な……?」

 

涙が伝うレイの笑顔を見た時、ナオミの中に怒りと悲しみ以外の感情が迸ってしまう。

 

「レイ……」

 

彼女の目からも涙が零れ落ち、親友を刺し貫いた倶利伽羅剣を手放してしまう。

 

彼女の心の中に最後に湧き出てしまった感情こそ、後悔だった。

 

「ほんと……どうして……」

 

互いに後ろに向けて倒れていく。

 

「私達……殺し合わないと……ならなかったの……か……な……?」

 

地面に倒れ込んだ親友達の命が終わろうとしていく。

 

ついに復讐者として生きた者の望みは果たされ、罪人として生きた者の望みが果たされる。

 

しかし、彼女達が得たものなど何もないだろう。

 

ただただ悲しかった。

 

それだけが復讐の旅路の果てに得た、ナオミの末路であった。

 




エッチなお姉さん達は百合心中の末路しかないのか?
次回を待て!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。